説明

車両のパワートレーン

【課題】エンジンの停止中に油圧を発生するオイルポンプの駆動源のコストの増大量を低減する。
【解決手段】ハイブリッドシステム300は、プラネタリギヤ320のサンギヤ322に連結された第1MG311と、リングギヤ328に連結された第2MG312と、キャリア326に連結されたエンジン100と、係合状態において第1MG311とサンギヤ322とを連結し、解放状態において第1MG311とサンギヤ322とを遮断するC0クラッチ330と、ワンウェイクラッチを介して第1MG311に連結された第1オイルポンプ910と、第2MG312およびリングギヤ328に連結された第2オイルポンプ920とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワートレーンに関し、特に、パワートレーンの作動に必要な油圧をエンジンの停止時において発生するオイルポンプが設けられたパワートレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンに加えてモータが駆動源として搭載されたハイブリッド車が知られている。ハイブリッド車では、燃料の消費量を低減するために、たとえば停車時にエンジンが停止される。また、モータから出力された駆動力のみを用いて走行するEV走行中においても、触媒を暖機するなどの特別な要求がない限り、エンジンが停止される。
【0003】
ところで、トランスミッションのクラッチおよびブレーキなどの作動に必要な油圧は、たとえばエンジンにより駆動されるオイルポンプで発生される。したがって、エンジンが停止すると、オイルポンプを用いて油圧を発生できなくなる。そこで、特開平11−287316号公報(特許文献1)に記載されているように、エンジンにより駆動されるオイルポンプに加えて、モータにより駆動されるオイルポンプが車両に搭載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−287316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンジンの停止時において使用されるオイルポンプを駆動する専用のモータを新たに搭載した場合、モータならびにモータを制御する制御装置の分だけ車両のコストが増大し得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、油圧を発生する機器に対して必要なコストの増大量を低減することができる車両のパワートレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る車両のパワートレーンは、第1の回転要素、車輪に連結される第2の回転要素および第3の回転要素を含む差動装置が搭載された車両のパワートレーンである。このパワートレーンは、第1の回転電機と、係合状態において第1の回転電機と第1の回転要素とを連結し、解放状態において第1の回転電機と第1の回転要素とを遮断する係合要素と、第2の回転要素に連結された第2の回転電機と、第3の回転要素に連結されたエンジンと、第1の回転電機に連結されたワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチを介して第1の回転電機に連結された第1のオイルポンプと、第2の回転電機および第2の回転要素に連結された第2のオイルポンプとを備える。
【0008】
この構成によると、第2の回転要素に連結された第2の回転電機から出力された駆動力によりエンジンをアシストして走行したり、第2の回転電機から出力された駆動力のみを用いて走行したりすることができる。車両の走行中には、第2の回転電機および第2の回転要素に連結された第2のオイルポンプを用いて油圧を発生することができる。係合要素が係合状態であれば、第1の回転電機をモータとして作動させることによって、エンジンの始動のためにエンジンをクランキングすることができる。また、エンジンの運転中に係合要素が係合状態であれば、エンジンから出力された駆動力を用いて第1の回転電機を発電機として作動させることができる。エンジンの停止中に係合要素が解放状態であれば、第1の回転電機をモータとして作動させることによって、第1のオイルポンプにより油圧を発生することができる。ただし、第1の回転電機が逆回転した場合、第1のオイルポンプによりオイルが逆流し得る。そこで、第1のオイルポンプは、ワンウェイクラッチを介して第1の回転電機に連結される。これにより、第1の回転電機が逆回転した場合に、第1のオイルポンプが駆動しないようできる。そのため、オイルの逆流を防ぐことができる。したがって、第1の回転電機を第1のオイルポンプの駆動源として用いた場合の悪影響を小さくすることができる。そのため、エンジンの停止中に油圧を発生させる第1のオイルポンプの駆動源を新たに設けずとも、発電およびエンジンの始動に用いられる第1の回転電機を第1のオイルポンプの駆動源として用いることができる。したがって、油圧を発生する機器に対して必要なコストの増大量を低減することができる車両のパワートレーンを提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る車両のパワートレーンは、第1の回転要素、車輪に連結される第2の回転要素および第3の回転要素を含む差動装置が搭載された車両のパワートレーンである。このパワートレーンは、第1の回転電機と、係合状態において第1の回転電機と第1の回転要素とを連結し、解放状態において第1の回転電機と第1の回転要素とを遮断する係合要素と、第2の回転要素に連結された第2の回転電機と、第3の回転要素に連結されたエンジンと、第1の回転電機に連結され、第1の回転電機の出力軸が第1の方向に回転する場合に吸入口から吸入したオイルを吐出口から吐出し、第1の回転電機の出力軸が第1の方向とは逆の第2の方向に回転する場合に吐出口から吸入したオイルを吸入口から吐出する第1のオイルポンプと、吸入口に接続される油路と吐出口に接続される油路とを入れ替える切替機構と、第2の回転電機および第2の回転要素に連結された第2のオイルポンプとを備える。
【0010】
この構成によると、第2の回転要素に連結された第2の回転電機から出力された駆動力によりエンジンをアシストして走行したり、第2の回転電機から出力された駆動力のみを用いて走行したりすることができる。車両の走行中には、第2の回転電機および第2の回転要素に連結された第2のオイルポンプを用いて油圧を発生することができる。係合要素が係合状態であれば、第1の回転電機をモータとして作動させることによって、エンジンの始動のためにエンジンをクランキングすることができる。また、エンジンの運転中に係合要素が係合状態であれば、エンジンから出力された駆動力を用いて第1の回転電機を発電機として作動させることができる。エンジンの停止中に係合要素が解放状態であれば、第1の回転電機をモータとして作動させることによって、第1のオイルポンプにより油圧を発生することができる。ただし、第1の回転電機が逆転した場合、第1のオイルポンプによりオイルが逆流し得る。そこで、第1の回転電機の出力軸が第1の方向に回転する場合と、第1の回転電機の出力軸が第1の方向とは逆の第2の方向に回転する場合とで、オイルの吸入口に接続される油路と吐出口に接続される油路とが切替機構により入れ替えられる。これにより、第1の回転電機が逆回転した場合において、第1のオイルポンプによるオイルの逆流を防ぐことができる。したがって、第1の回転電機を第1のオイルポンプの駆動源として用いた場合の悪影響を小さくすることができる。そのため、エンジンの停止中に油圧を発生させる第1のオイルポンプの駆動源を新たに設けずとも、発電およびエンジンの始動に用いられる第1の回転電機を第1のオイルポンプの駆動源として用いることができる。したがって、油圧を発生する機器に対して必要なコストの増大量を低減することができる車両のパワートレーンを提供することができる。
【0011】
第3の発明に係る車両のパワートレーンは、第2の発明の構成に加え、オイルを貯蔵する貯蔵部に接続される第1の油路と、オイルが供給される機器に接続される第2の油路とをさらに備える。切替機構は、第1の回転電機の出力軸が第1の方向に回転する場合に、吸入口に第1の油路を接続するとともに吐出口に第2の油路を接続し、第1の回転電機の出力軸が第2の方向に回転する場合に、吸入口に第2の油路を接続するとともに吐出口に第1の油路を接続する。
【0012】
この構成によれば、第1の回転電機の出力軸が逆回転した場合においても、第1のオイルポンプから機器へ油圧を供給することができる。
【0013】
第4の発明に係る車両のパワートレーンにおいては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加え、第1の回転電機は、係合要素が解放された状態において第1のオイルポンプを駆動するように作動する。
【0014】
この構成によると、たとえばエンジンの停止中に係合要素を解放状態にすれば、第1の回転電機をモータとして作動させることによって、第1のオイルポンプにより油圧を発生することができる。
【0015】
第5の発明に係る車両のパワートレーンにおいては、第4の発明の構成に加え、係合要素は、エンジンが停止した状態において解放状態になるように作動する。
【0016】
この構成によると、エンジンの停止中に係合要素が解放状態にされる。そのため、エンジンの停止中に第1の回転電機をモータとして作動させることによって、第1のオイルポンプにより油圧を発生することができる。
【0017】
第6の発明に係る車両のパワートレーンにおいては、第5の発明の構成に加え、係合要素は、エンジンが停止し、かつ車両が停止した状態において解放状態になるように作動する。
【0018】
この構成によると、第2のオイルポンプで油圧を発生させることができない場合でも、エンジンの停止中に第1の回転電機をモータとして作動させることによって、第1のオイルポンプにより油圧を発生することができる。
【0019】
第7の発明に係る車両のパワートレーンにおいては、第5の発明の構成に加え、係合要素は、エンジンが停止し、かつ車両が第2の回転電機から出力された駆動力を用いて走行中である状態において解放状態になるように作動する。
【0020】
この構成によると、第2のオイルポンプに加えて、第1のオイルポンプにより油圧を発生することができる。
【0021】
第8の発明に係る車両のパワートレーンにおいては、第1〜7のいずれかの発明の構成に加え、差動装置は遊星歯車である。第1の回転要素はサンギヤである。第2の回転要素はリングギヤである。第3の回転要素はキャリアである。
【0022】
この構成によると、遊星歯車が差動装置として搭載された車両において、エンジンの停止中に油圧を発生させる第1のオイルポンプの駆動源を新たに設けずとも、発電およびエンジンの始動に用いられる第1の回転電機を第1のオイルポンプの駆動源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ハイブリッド車のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】第1の実施の形態のハイブリッドシステムを示す図である。
【図3】動力分割機構の共線図を示す図である。
【図4】トランスミッションを示す図である。
【図5】作動表を示す図である。
【図6】変速線図を示す図である。
【図7】第1の実施の形態の油圧回路を示す図である。
【図8】エンジンが運転中である状態の共線図を示す図(その1)である。
【図9】エンジンが運転中である状態の共線図を示す図(その2)である。
【図10】第1の実施の形態のハイブリッドシステムの第1MGの出力軸が逆回転した状態の共線図を示す図である。
【図11】エンジンならびに車両が停止した状態の共線図を示す図である。
【図12】車両が停止した状態でエンジンを始動する際の共線図を示す図である。
【図13】エンジンが停止したEV走行中の共線図を示す図である。
【図14】EV走行中にエンジンを始動する際の共線図を示す図である。
【図15】第2の実施の形態におけるハイブリッドシステムを示す図である。
【図16】第2の実施の形態の油圧回路を示す図(その1)である。
【図17】第2の実施の形態の油圧回路を示す図(その2)である。
【図18】第2の実施の形態のハイブリッドシステムの第1MGの出力軸が逆回転した状態の共線図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0025】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、ハイブリッド車について説明する。このハイブリッド車は、FR(Front engine Rear drive)車両である。なお、FR以外の車両であってもよい。
【0026】
ハイブリッド車のパワートレーンは、エンジン100と、ハイブリッドシステム300と、トランスミッション400と、プロペラシャフト500と、デファレンシャルギヤ600と、後輪700とを含む。パワートレーンは、ECU(Electronic Control Unit)800により制御される。なお、ECU800を複数のECUに分割するようにしてもよい。また、トランスミッション400を設けないようにしてもよい。
【0027】
エンジン100は、インジェクタ102から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。
【0028】
ハイブリッドシステム300は、エンジン100に連結される。トランスミッション400は、ハイブリッドシステム300に連結される。トランスミッション400から出力された駆動力は、プロペラシャフト500およびデファレンシャルギヤ600を介して、左右の後輪700に伝達される。
【0029】
ECU800には、シフトレバー804のポジションスイッチ806と、アクセルペダル808のアクセル開度センサ810と、ブレーキペダル812の踏力センサ814と、電子スロットルバルブ816のスロットル開度センサ818と、エンジン回転数センサ820と、入力軸回転数センサ822と、出力軸回転数センサ824と、油温センサ826と、水温センサ828とがハーネスなどを介して接続されている。
【0030】
シフトレバー804の位置(ポジション)は、ポジションスイッチ806により検出され、検出結果を表す信号がECU800に送信される。シフトレバー804の位置に対応して、トランスミッション400における変速が自動で行なわれる。
【0031】
アクセル開度センサ810は、アクセルペダル808の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。踏力センサ814は、ブレーキペダル812の踏力(運転者がブレーキペダル812を踏む力)を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。
【0032】
スロットル開度センサ818は、アクチュエータにより開度が調整される電子スロットルバルブ816の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。電子スロットルバルブ816により、エンジン100に吸入される空気量(エンジン100の出力)が調整される。
【0033】
なお、電子スロットルバルブ816の代わりにもしくは加えて、吸気バルブ(図示せず)や排気バルブ(図示せず)のリフト量や開閉する位相を変更することにより、エンジン100に吸入される空気量を調整するようにしてもよい。
【0034】
エンジン回転数センサ820は、エンジン100の出力軸(クランクシャフト)の回転数を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。入力軸回転数センサ822は、トランスミッション400の入力軸回転数NIを検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。出力軸回転数センサ824は、トランスミッション400の出力軸回転数NOを検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。
【0035】
油温センサ826は、ハイブリッドシステム300およびトランスミッション400の作動や潤滑に用いられるオイル(ATF:Automatic Transmission Fluid)の温度(油温)を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。
【0036】
水温センサ828は、エンジン100の冷却水の温度(水温)を検出し、検出結果を表わす信号をECU800に送信する。
【0037】
ECU800は、ポジションスイッチ806、アクセル開度センサ810、踏力センサ814、スロットル開度センサ818、エンジン回転数センサ820、入力軸回転数センサ822、出力軸回転数センサ824、油温センサ826、水温センサ828などから送られてきた信号、ROM802に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。
【0038】
図2を参照して、ハイブリッドシステム300についてさらに説明する。ハイブリッドシステム300は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース202内において共通の軸心上に配設され、トーショナルダンパー204を介してエンジン100に連結された入力軸206と、入力軸206に連結された動力分割機構310と、動力分割機構310とトランスミッション400とを連結する伝達部材208とを含む。ハイブリッドシステム300から出力された駆動力は、トランスミッション400の出力軸210を介して後輪700に伝達される。
【0039】
なお、ハイブリッドシステム300およびトランスミッション400はその軸心に対して対称的に構成されているため、図2のハイブリッドシステム300およびトランスミッション400を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の説明においても同じである。
【0040】
動力分割機構310は、プラネタリギヤ320から構成される。プラネタリギヤ320は、サンギヤ322、ピニオンギヤ324、ピニオンギヤ324を自転および公転可能に支持するキャリア326、ピニオンギヤ324を介してサンギヤ322と噛み合うリングギヤ328を含む。
【0041】
キャリア326は入力軸206すなわちエンジン100に連結される。サンギヤ322は第1MG(Motor Generator)311のロータに連結される。リングギヤ328は第2
MG312のロータならびに伝達部材208に連結される。なお、第2MG312は伝達部材208から駆動輪である後輪700までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。
【0042】
動力分割機構310は、サンギヤ322、キャリア326、リングギヤ328が相対的に回転することにより差動装置として機能する。サンギヤ322の回転数、キャリア326の回転数およびリングギヤ328の回転数は、図3に示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる。動力分割機構310の差動機能により、エンジン100から出力された駆動力がサンギヤ322とリングギヤ328とに分配される。
【0043】
図2に戻って、サンギヤ322に分配された駆動力により、第1MG311が発電機として駆動される。第1MG311が発電した電力は第2MG312に供給されたり、バッテリ(図示せず)に充電されたりする。
【0044】
分配された駆動力を用いて第1MG311が発電したり、第1MG311が発電した電力を用いて第2MG312が回転駆動したりすることにより、動力分割機構310は、無段変速機として機能する。
【0045】
第1MG311および第2MG312は、三相交流回転電機である。第1MG311および第2MG312は、たとえばアクセル開度および車速などから算出されるトランスミッション400の目標出力トルクを満足し、かつエンジン100において最適な燃費を実現するように制御される。
【0046】
第1MG311とサンギヤ322との間には、C0クラッチ330が設けられる。C0クラッチ330は、係合状態において第1MG311とサンギヤ322とを連結し、解放状態において第1MG311とサンギヤ322とを遮断する。
【0047】
第1MG311とC0クラッチ330との間には、ワンウェイクラッチ900と、第1オイルポンプ910とが設けられる。ワンウェイクラッチ900は、第1MG311に連結される。第1オイルポンプ910は、ワンウェイクラッチ900を介して第1MG311に連結される。
【0048】
第1オイルポンプ910は、第1MG311により駆動される。第1MG311のロータが回転すると、第1オイルポンプ910は油圧を発生する。C0クラッチ330が係合状態にある場合においてサンギヤ322が回転しても、第1オイルポンプ910は油圧を発生し得る。
【0049】
ただし、ワンウェイクラッチ900は、第1オイルポンプ910の出力軸が正転する方向にトルクを第1オイルポンプ910に伝達する一方、第1オイルポンプ910の出力軸が逆転する方向にはトルクを第1オイルポンプ910に伝達しない。
【0050】
第2MG312とトランスミッション400との間には、第2オイルポンプ920が設けられる。第2オイルポンプ920は、第2MG312、リングギヤ328および伝達部材208に連結される。第2MG312のロータが回転すると、すなわち、リングギヤ328が回転すると、第2オイルポンプ920は油圧を発生する。
【0051】
図4を参照して、トランスミッション400について説明する。なお、トランスミッション400は、以下に説明するものに限らず、その他、種々の形式のトランスミッション400が用いられ得る。トランスミッション400の代わりに無段変速機等を用いるようにしてもよい。
【0052】
トランスミッション400は、シングルピニオン型の3つのプラネタリギヤ411〜413と、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433の5つの摩擦係合要素を含む。
【0053】
トランスミッション400の摩擦係合要素を図5に示す作動表に示す組み合わせで係合することにより、トランスミッション400において、1速ギヤ段〜5速ギヤ段の5つの前進ギヤ段が形成される。
【0054】
4速ギヤ段を形成する際に係合される摩擦係合要素と5速ギヤ段を形成する際に係合される摩擦係合要素とは同じである。すなわち、4速ギヤ段および5速ギヤ段では、トランスミッション400における変速比は同じである。しかしながら、動力分割機構310の変速比が異なる。
【0055】
4速ギヤ段を形成する際には、動力分割機構310において第1MG311の回転が許容されて、エンジン回転数と伝達部材208の回転数が同じにされ、変速比が「1」になる。一方、5速ギヤ段を形成する際には、第1MG311の回転数を「0」にすることにより、伝達部材208の回転数がエンジン回転数よりも高くされて、変速比が「1」よりも小さくされる。
【0056】
トランスミッション400における変速は、たとえば図6に示す変速線図に基づいて制御される。本実施の形態における変速線図は、アクセル開度および車速などから算出される目標出力トルクと、車速とをパラメータとして定められる。なお、変速線図のパラメータはこれらに限らない。
【0057】
図6における実線がアップシフト線であって、破線がダウンシフト線である。図6において一点鎖線で囲まれる領域は、エンジン100の駆動力を用いずに、第2MG312の
駆動力のみを用いてEV走行する領域を示す。EV走行中は、触媒(図示せず)の暖機などの要求がない限り、エンジン100が停止される。
【0058】
図6において一点鎖線で囲まれる領域外では、エンジン100が運転することによってエンジン100から出力された駆動力のみ、もしくはエンジン100から出力された駆動力に加えて第2MG312から出力された駆動力を用いたHV走行が行なわれる。
【0059】
トランスミッション400のC1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433は、油圧により作動する。ハイブリッドシステム300のC0クラッチ330も、油圧により作動する。
【0060】
図7に示すように、ハイブリッド車には、第1オイルポンプ910および第2オイルポンプ920で発生した油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として調圧した油圧をC0クラッチ330、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433に対して給排し、かつ適宜の箇所に潤滑のためのオイルを供給する油圧回路930が設けられる。
【0061】
C0クラッチ330、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433の作動状態は、油圧回路930を用いてECU800により制御される。
【0062】
図7に示すように、第1オイルポンプ910には、吸入口912と吐出口914とが設けられる。第1オイルポンプ910が正回転する場合、吸入口912から吸入されたオイルが吐出口914から吐出される。第1オイルポンプ910が逆回転する場合には、吐出口914から吸入されたオイルが吸入口912から吐出され得る。
【0063】
第2オイルポンプ920には、吸入口922と吐出口924とが設けられる。第2オイルポンプ920が正回転する場合、吸入口922から吸入されたオイルが吐出口924から吐出される。第2オイルポンプ920が逆回転する場合には、吐出口924から吸入されたオイルが吸入口922から吐出され得る。
【0064】
各オイルポンプ910,920の吐出口914,924には、それぞれのオイルポンプ910,920の吐出圧で開き、これとは反対方向には閉じる逆止弁912,922が設けられ、かつ油圧回路930に対してこれらのオイルポンプ910,920は互いに並列に接続されている。
【0065】
各オイルポンプ910,920は、オイルパン940に貯蔵されたオイルを吸入し、油圧を出力する。
【0066】
以下、C0クラッチ330、第1オイルポンプ910および第2オイルポンプ920の作動状態について説明する。
【0067】
車両の走行中にエンジン100が運転している状態では、C0クラッチ330が係合状態になるように制御される。なお、この状態では、エンジン100が運転することによってエンジン100から出力された駆動力のみ、もしくはエンジン100から出力された駆動力に加えて第2MG312から出力された駆動力を用いたHV走行が行なわれる。
【0068】
C0クラッチ330が係合しているため、エンジン100から出力された駆動力は第1MG311に伝達される。したがって、第1MG311を発電機として作動させることにより、第1MG311を用いて発電することができる。また、第1MG311のロータが回転することにより、第1オイルポンプ910が駆動する。そのため、第1オイルポンプ910で油圧が発生する。さらに、第2MG312のロータが回転することにより、第2オイルポンプ920が駆動する。そのため、第2オイルポンプ920で油圧が発生する。
【0069】
図8に示すように、第2MG312の出力回転数が低い状態では、第1MG311の出力回転数が相対的に高くなる。したがって、第2MG312の出力回転数が低い状態では、主に第1オイルポンプ910で油圧が発生する。
【0070】
図9に示すように、第2MG312の出力回転数が高い状態では、第1MG311の出力回転数が相対的に低くなる。したがって、第2MG312の出力回転数が高い状態では、主に第2オイルポンプ920で油圧が発生する。
【0071】
ただし、図10に示すように、車速が極めて高い状態、すなわち第2MG312の出力回転数が極めて高い状態では、第1MG311の出力軸が逆回転し得る。しかしながら、第1MG311の出力軸が逆回転した場合には、ワンウェイクラッチ900により第1オイルポンプ910の逆回転が防止される。これにより、第1MG311が逆回転した場合に、第1オイルポンプ910が駆動しないようにできる。そのため、オイルの逆流を防ぐことができる。したがって、第1MG311を第1オイルポンプ910の駆動源として用いた場合の悪影響を小さくすることができる。
【0072】
図11に示すように、エンジン100ならびに車両が停止した状態では、C0クラッチ330が解放状態になるように制御される。この状態では、第1MG311が第1オイルポンプ910を駆動するように制御される。第1MG311を用いて第1オイルポンプ910を駆動することにより、第1オイルポンプ910で油圧が発生する。そのため、エンジン100の停止中においても、C0クラッチ330、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433の作動に必要な油圧を確保することができる。
【0073】
図12示すように、車両が停止した状態でエンジン100を始動する際には、C0クラッチ330が係合状態にされる。この状態では、第1MG311がモータとして作動することによって、第1MG311を用いてエンジン100のクランキングを行なうことができる。
【0074】
図13に示すように、エンジン100を停止して、第2MG312から出力された駆動力のみを用いるEV走行中は、C0クラッチ330が解放状態になるように制御される。この状態では、第1MG311が第1オイルポンプ910を駆動するように制御される。第1MG311を用いて第1オイルポンプ910を駆動することにより、第1オイルポンプ910で油圧が発生する。また、第2MG312のロータが回転することにより、第2オイルポンプ920が駆動する。そのため、第2オイルポンプ920で油圧が発生する。したがって、エンジン100の停止中においても、C0クラッチ330、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433の作動に必要な油圧を確保することができる。
【0075】
図14示すように、EV走行中にエンジン100を始動する際には、C0クラッチ330が係合状態にされる。この状態では、第1MG311がモータとして作動することによって、第1MG311を用いてエンジン100のクランキングを行なうことができる。
【0076】
以上のように、本実施の形態のパワートレーンによれば、C0クラッチが解放状態であれば、エンジンのクランキングと発電を行なう第1MGを用いて第1オイルポンプを駆動することによって、エンジンの停止中でも第1オイルポンプで油圧を発生させることができる。第1MGの出力軸が逆回転した場合は、ワンウェイクラッチにより第1オイルポンプが駆動しないようにされる。そのため、オイルの逆流を防ぐことができる。したがって、第1MGを第1オイルポンプの駆動源として用いた場合の悪影響を小さくすることができる。よって、エンジンの停止中に油圧を発生させる第1オイルポンプの駆動源を新たに設けずとも、発電およびエンジンの始動に用いられる第1MGを第1オイルポンプの駆動源として用いることができる。その結果、油圧を発生する機器に対して必要なコストの増大量を低減することができる。
【0077】
<第2の実施の形態>
以下、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1オイルポンプ910が直接第1MG311に連結される。さらに、第1オイルポンプ910の吸入口912に接続される油路と、吐出口914に接続される油路とを入れ替える切替機構として切替バルブ950が設けられる。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰返さない。
【0078】
図15を参照して、第1MG311とC0クラッチ330との間には、第1オイルポンプ910が設けられる。第1オイルポンプ910は、ワンウェイクラッチを介さずに、第1MG311に直接連結される。
【0079】
図16を参照して、ハイブリッド車には、第1オイルポンプ910の吸入口912に接続される油路と、吐出口914に接続される油路とを入れ替える切替機構として切替バルブ950が設けられる。切替バルブ950は、たとえばECU800により制御されるソレノイドバルブである。なお、ソレノイドバルブ以外のバルブを用いるようにしてもよい。例えば、切替バルブ950は、他のバルブを用いて調圧された油圧により作動してもよい。
【0080】
ハイブリッド車には、さらに、オイルパン940に接続される第1油路951と、油圧回路930に接続される第2油路952とが設けられる。
【0081】
第1MG311の出力軸が正回転する(第1の方向に回転する)場合、図16に示すように、第1オイルポンプ910の吸入口912から吸入されたオイルが吐出口914から吐出される。この場合、切替バルブ950は、吸入口912に第1油路951を接続するとともに、吐出口914に第2油路952を接続するように制御される。
【0082】
一方、第1MG311の出力軸が逆回転する(第1の方向とは逆の第2の方向に回転する)場合、図17に示すように、第1オイルポンプ910の吐出口914から吸入されたオイルが吸入口912から吐出される。したがって、オイルが逆流し得る。この場合、切替バルブ950は、吸入口912に第2油路952を接続するとともに、吐出口914に第1油路951を接続するように制御される。
【0083】
このようにすれば、図18に示すようにCOクラッチ330が係合した状態で第1MG311の出力軸が逆回転した場合であっても、オイルパン940から吸入したオイルを油圧回路930に供給することができる。そのため、オイルの逆流を防ぐことができる。したがって、第1MG311を第1オイルポンプ910の駆動源として用いた場合の悪影響を小さくすることができる。
【0084】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
100 エンジン、202 ケース、204 トーショナルダンパー、206 入力軸、208 伝達部材、210 出力軸、300 ハイブリッドシステム、310 動力分割機構、311 第1MG、312 第2MG、320 プラネタリギヤ、322 サンギヤ、324 ピニオンギヤ、326 キャリア、328 リングギヤ、330 C0クラッチ、400 トランスミッション、411,412,413 プラネタリギヤ、421 C1クラッチ、422 C2クラッチ、431 B1ブレーキ、432 B2ブレーキ、433 B3ブレーキ、500 プロペラシャフト、600 デファレンシャルギヤ、700 後輪、800 ECU、900 ワンウェイクラッチ、910 第1オイルポンプ、912 吸入口、914 吐出口、920 第2オイルポンプ、922 吸入口、924 吐出口、930 油圧回路、940 オイルパン、950 切替バルブ、951 第1油路、952 第2油路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転要素、車輪に連結される第2の回転要素および第3の回転要素を含む差動装置が搭載された車両のパワートレーンであって、
第1の回転電機と、
係合状態において前記第1の回転電機と前記第1の回転要素とを連結し、解放状態において前記第1の回転電機と前記第1の回転要素とを遮断する係合要素と、
前記第2の回転要素に連結された第2の回転電機と、
前記第3の回転要素に連結されたエンジンと、
前記第1の回転電機に連結されたワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチを介して前記第1の回転電機に連結された第1のオイルポンプと、
前記第2の回転電機および前記第2の回転要素に連結された第2のオイルポンプとを備える、車両のパワートレーン。
【請求項2】
第1の回転要素、車輪に連結される第2の回転要素および第3の回転要素を含む差動装置が搭載された車両のパワートレーンであって、
第1の回転電機と、
係合状態において前記第1の回転電機と前記第1の回転要素とを連結し、解放状態において前記第1の回転電機と前記第1の回転要素とを遮断する係合要素と、
前記第2の回転要素に連結された第2の回転電機と、
前記第3の回転要素に連結されたエンジンと、
前記第1の回転電機に連結され、前記第1の回転電機の出力軸が第1の方向に回転する場合に吸入口から吸入したオイルを吐出口から吐出し、前記第1の回転電機の出力軸が前記第1の方向とは逆の第2の方向に回転する場合に前記吐出口から吸入したオイルを前記吸入口から吐出する第1のオイルポンプと、
前記吸入口に接続される油路と前記吐出口に接続される油路とを入れ替える切替機構と、
前記第2の回転電機および前記第2の回転要素に連結された第2のオイルポンプとを備える、車両のパワートレーン。
【請求項3】
オイルを貯蔵する貯蔵部に接続される第1の油路と、
オイルが供給される機器に接続される第2の油路とをさらに備え、
前記切替機構は、前記第1の回転電機の出力軸が前記第1の方向に回転する場合に、前記吸入口に前記第1の油路を接続するとともに前記吐出口に前記第2の油路を接続し、前記第1の回転電機の出力軸が前記第2の方向に回転する場合に、前記吸入口に前記第2の油路を接続するとともに前記吐出口に前記第1の油路を接続する、請求項2に記載の車両のパワートレーン。
【請求項4】
前記第1の回転電機は、前記係合要素が解放された状態において前記第1のオイルポンプを駆動するように作動する、請求項1〜3のいずれかに記載の車両のパワートレーン。
【請求項5】
前記係合要素は、前記エンジンが停止した状態において解放状態になるように作動する、請求項4に記載の車両のパワートレーン。
【請求項6】
前記係合要素は、前記エンジンが停止し、かつ前記車両が停止した状態において解放状態になるように作動する、請求項5に記載の車両のパワートレーン。
【請求項7】
前記係合要素は、前記エンジンが停止し、かつ前記車両が前記第2の回転電機から出力された駆動力を用いて走行中である状態において解放状態になるように作動する、請求項5に記載の車両のパワートレーン。
【請求項8】
前記差動装置は遊星歯車であり、
前記第1の回転要素はサンギヤであり、
前記第2の回転要素はリングギヤであり、
前記第3の回転要素はキャリアである、請求項1〜7のいずれかに記載の車両のパワートレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−37329(P2011−37329A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184588(P2009−184588)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】