説明

車両の制御装置

【課題】走行抵抗が急低下したとき、加速度の急変を抑えつつ、ドライバの意図に合致した駆動力制御を行うことができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】電気自動車1は、アクセル開度センサ7と、走行抵抗演算部12と、走行抵抗急低下判断部14aと、単調増加変数演算部13cと、電子コントロールユニット5と、を備えた。走行抵抗演算部12は、車両走行中、外乱による走行抵抗推定値FDを検出する。走行抵抗急低下判断部14aは、車両走行中、走行抵抗の急低下を検出する。単調増加変数演算部13cは、走行抵抗の急低下を検出したとき、アクセル開度に基づいて車両駆動力の単調増加変数を設定する。電子コントロールユニット5は、単調増加変数と走行抵抗推定値FDに基づいて目標車両駆動力を設定し、タイヤへ加える駆動力抑制により、実車両駆動力を前記目標車両駆動力に収束させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差乗り上げ後や急な下り坂を走行するとき等のように、走行抵抗が急低下したとき、制駆動力を制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が段差を下り降りる際の車速の上昇を適切に抑制することを目的とし、車両が段差を乗り上げたと判定された際に、車両に付与される駆動トルクを抑制する制御を行う車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−77871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両の制御装置にあっては、段差乗り上げ後の走行抵抗の急低下に対し車速急上昇を抑えるように、単に駆動力を抑制する(制動力を大きくする)構成となっていたため、車両加速度が急変し、ドライバの意図に合致した駆動力制御とはならない、という問題があった。
【0005】
すなわち、段差乗り上げ判定時、走行抵抗の急低下による車速急上昇を抑えるべく駆動力抑制量を大きく与えると、踏み込まれているアクセル操作量に似合う車両走行とならず、ドライバに対し減速感を与える。そして、この減速感に対してアクセルが踏まれてドライバが加速要求をする。しかし、ドライバが加速要求しているのにもかかわらず、制御で与えられる駆動力抑制量により減速感が抑えられないため、さらにアクセルが踏まれてしまう。このように、段差乗り上げ後、走行抵抗が急低下しても車速急上昇を抑えるような駆動力抑制量を与える制御を行うと、ドライバに減速感を与えるし、アクセル踏み増しによる加速要求操作を行わせることになる。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、走行抵抗が急低下したとき、加速度の急変を抑えつつ、ドライバの意図に合致した駆動力制御を行うことができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両の制御装置は、アクセル開度検出手段と、走行抵抗相当値検出手段と、走行抵抗急低下検出手段と、単調増加変数設定手段と、車両駆動力制御手段と、を備えた手段とした。
前記アクセル開度検出手段は、ドライバのアクセル操作に基づくアクセル開度を検出する。
前記走行抵抗相当値検出手段は、車両走行中、外乱による走行抵抗相当値を検出する。
前記走行抵抗急低下検出手段は、車両走行中、走行抵抗の急低下を検出する。
前記単調増加変数設定手段は、前記走行抵抗急低下検出手段により走行抵抗の急低下を検出したとき、前記アクセル開度に基づいて車両駆動力の単調増加変数を設定する。
前記車両駆動力制御手段は、前記単調増加変数と前記走行抵抗相当値に基づいて目標車両駆動力を設定し、タイヤへ加える駆動力抑制と制動力増加の少なくとも一方により、実車両駆動力を前記目標車両駆動力に収束させる制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
よって、走行抵抗の急低下を検出したとき、車両駆動力制御手段において、単調増加変数と走行抵抗相当値に基づいて目標車両駆動力が設定される。そして、タイヤへ加える駆動力抑制と制動力増加の少なくとも一方により、実車両駆動力を目標車両駆動力に収束させる制御が行われる。
このように、走行抵抗急低下時の目標車両駆動力の設定に、アクセル開度に基づいて設定される単調増加変数(フィーリングパラメータ)を用いると共に、走行路面等から受ける外乱による走行抵抗相当値を用いる。そして、アクセル開度は、ドライバによるアクセル操作により決まるものであり、アクセル開度情報は、ドライバが意図する要求駆動力をあらわす情報である。
このため、ドライバが意図する要求駆動力と、走行中に車両が受ける外乱の変化とが、車両駆動力の制御に反映されたものになる。この結果、走行抵抗が急低下したとき、加速度の急変を抑えつつ、ドライバの意図に合致した駆動力制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の制御装置が搭載された電気自動車(車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の制御装置の制御ロジック全体を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の制御装置の制御ロジックにおける目標駆動力生成部の詳しい構成を示すブロック図である。
【図4】実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される制御開始処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行されるTCSやABS等の優先制御指令が入った場合を含む制御終了処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される制御開始直後処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される制駆動力制御実施中のフローチャートである。
【図8】実施例1の制駆動力制御における単調増加変数(フィーリングパラメータ)の設定範囲を示す余裕駆動力特性図である。
【図9】実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される漸近補正処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】段差乗り上げ終了後において実施例1の駆動力抑制制御アリの場合と駆動力抑制制御ナシの場合での車両駆動力・車速・加速Gの特性差を示すタイムチャートである。
【図11】段差乗り上げ時において実施例1の駆動力抑制制御アリ+漸近補正アリの場合と駆動力抑制制御ナシ+漸近補正ナシの場合の車両駆動力,走行抵抗・車両加速度・車両加加速度・車両速度の各比較特性を示すタイムチャートである。
【図12】段差乗り上げ後にアクセルが絞られた際の実施例1の駆動力抑制制御アリ+漸近補正アリの場合と駆動力抑制制御ナシ+漸近補正ナシの場合の車両駆動力,走行抵抗・車両加速度・車両加加速度・車両速度の各比較特性を示すタイムチャートである。
【図13】段差乗り上げ後にアクセルが踏み増された際の実施例1の駆動力抑制制御アリ+漸近補正アリの場合と駆動力抑制制御ナシ+漸近補正ナシの場合の車両駆動力,走行抵抗・車両加速度・車両加加速度・車両速度の各比較特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が搭載された電気自動車(車両の一例)を示す全体システム図である。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1の電気自動車1は、図1に示すように、制駆動系として、駆動モータ2と、制動装置3と、左前輪タイヤ4FL(タイヤ)と、右前輪タイヤ4FR(タイヤ)と、左後輪タイヤ4RL(タイヤ)と、右後輪タイヤ4RR(タイヤ)と、を備えている。
【0013】
前記電気自動車1は、前輪駆動車であり、車両の駆動力を発生する駆動源である駆動モータ2からの駆動力を、左右前輪4FL,4FRを介して走行路面に伝達する。また、車両の制動力を発生する制動装置3からの制動力を、左右前輪4FL,4FRと左右後輪4RL,4RRを介して走行路面に伝達する。
【0014】
実施例1の電気自動車1は、図1に示すように、電子制御系として、電子コントロールユニット5(車両駆動力制御手段)と、TCS/ABSコントローラ6(制駆動力制御システム)と、アクセル開度センサ7(アクセル開度検出手段)と、ブレーキ操作量センサ8と、センサ部9と、車速センサ10と、を備えている。
【0015】
前記電子コントロールユニット(略称:ECU)5は、駆動モータ2と制動装置3に制駆動力指令を与える。この電子コントロールユニット5は、TCS/ABSコントローラ6、アクセル開度センサ7、ブレーキ操作量センサ8、センサ部9からの情報を入力する。
【0016】
前記TCS/ABSコントローラ6は、走行中に駆動輪(左右前輪4FL,4FR)への駆動力過剰により加速スリップ状態(加速スリップ予測状態を含む)になったとき、加速スリップを抑制するように、駆動モータ2からの駆動力を低減させる駆動力制御(TCS制御)を行う。また、制動中に制動力過剰により4輪(左右前輪4FL,4FRと左右後輪4RL,4RR)のうち少なくとも1つの車輪が制動ロック状態(制動ロック予測状態を含む)になったとき、制動ロックを抑制するように、制動装置3からの制動力を制御(減少・保持・増加)する制動力制御(ABS制御)を行う。
【0017】
前記アクセル開度センサ7は、ドライバのアクセル操作に基づくアクセル開度を検出する。前記ブレーキ操作量センサ8は、ドライバのブレーキ操作に基づくブレーキ操作量を検出する。
【0018】
前記センサ部9は、車速センサ10により検出された車速情報(=車両速度情報)を入力し、車両状態量として、車両加速度・車両速度・移動距離、等を算出し、電子コントロールユニット5へ出力する。
【0019】
図2は、実施例1の制御装置の制御ロジック全体を示す制御ブロック図である。以下、図2に基づき、制御ロジック全体構成を説明する。
【0020】
前記電子コントロールユニット5には、図2に示すように、制御ブロックとして、ドライバ要求駆動力要求制動力演算部11と、走行抵抗演算部12と、目標駆動力生成部13と、制御開始・終了判断部14と、目標駆動力切替部15と、を備えている。
【0021】
前記ドライバ要求駆動力要求制動力演算部11は、ドライバ操作によるアクセル開度とブレーキ操作量からドライバ要求制・駆動力FAを演算し、出力する。
【0022】
前記走行抵抗演算部12は、電気自動車1に与える制・駆動目標値とセンサ部9が取り込んだ車両状態量から走行抵抗推定値FDを演算する。
この走行抵抗推定値FDは、
走行抵抗推定値FD=実駆動力−(車両重量×車両加速度)
の式において、実駆動力は、駆動モータ2への駆動電流から推定する。あるいは、実駆動力が制・駆動目標値に一致しているという推定に基づき、実駆動力の値に制・駆動目標値を代入することで求める。
【0023】
前記目標駆動力生成部13は、センサ部9とドライバ要求駆動力要求制動力演算部11と走行抵抗演算部12の出力から電気自動車1への本制御で生成される制・駆動力目標値FCを演算する。この目標駆動力生成部13には、目標駆動力演算部13aと、漸近特性演算部13bと、を有する。
【0024】
前記制御開始・終了判断部14は、センサ部9とドライバ要求駆動力要求制動力演算部11と走行抵抗演算部12と目標駆動力生成部13の出力から、実施例1における駆動力制御開始と駆動力制御終了を判断し、FlagのON/OFFを切替える。この制御開始・終了判断部14には、走行抵抗急低下判断部14aと、制御開始判断部14bと、制御終了判断部14cと、を有する。
【0025】
前記目標駆動力切替部15は、制御開始・終了判断部14からのFlagに基づき電気自動車1に与える制・駆動力目標値を、ドライバ要求駆動力要求制動力演算部11と目標駆動力生成部13のどちらかの出力に切替える。
【0026】
図3は、実施例1の制御装置の制御ロジックにおける目標駆動力生成部の詳しい構成を示すブロック図である。以下、図3に基づき、目標駆動力生成部13の構成を説明する。
【0027】
前記目標駆動力生成部13は、図3に示すように、目標駆動力演算部13aと漸近特性演算部13bから構成されている。
【0028】
前記目標駆動力演算部13aは、車両状態量と走行抵抗推定値FDとドライバ要求駆動力要求制動力演算部11の出力から、車両の加速度を制御する単調増加変数の演算を行なう単調増加変数演算部13cを有する。単調増加変数の演算は、その増加割合を、前記アクセル開度が大きいほど大きな値に設定する。そして、走行抵抗推定値FDと単調増加変数の和に基づき目標駆動力演算部出力FC0を求める。本構成により実車両である電気自動車1にかかる走行抵抗を相殺しつつ、車両の加速度を単調増加変数の与え方で制御するためドライバに不要な減速感を与えない。
【0029】
前記漸近特性演算部13bは、制御終了時、目標駆動力演算部13aの出力からドライバ要求駆動力要求制動力演算部11の出力に目標駆動力を切替える際、車両加加速度の変化率が規定値以上にならないように漸近特性の演算を行ない、制・駆動力目標値FCを生成する。本構成により制御終了時も大きな車両加加速度変化が発生しないため、ドライバに違和感を与えない。
以下、本制御の具体的な内容を、フローチャートを用いて説明する。
【0030】
図4は、実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される制御開始処理の流れを示すフローチャートである。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0031】
ステップS101では、制御開始・終了判断部14の走行抵抗急低下判断部14aで走行抵抗が急低下しているか否かを判断し、YES(走行抵抗の急低下アリ)の場合はステップS102へ進み、NO(走行抵抗の急低下ナシ)の場合はエンドへ進む。
ここで、「走行抵抗急低下の判断」は、例えば、走行抵抗の変化率が所定値より大きくなった場合、車両加速度の積分要素が所定値より大きくなった場合、車両加速度が所定値より大きくなった場合、車輪角加速度の移動平均が所定値より大きくなった場合、等により走行抵抗の急低下と判断する。
【0032】
ステップS102では、ステップS101での走行抵抗の急低下アリとの判断に続き、Flagの状態がFlag=OFFであるか否かを判断し、YES(Flag=OFF)の場合はステップS103へ進み、NO(Flag=ON)の場合はエンドへ進む。
【0033】
ステップS103では、ステップS102でのFlag=OFFであるとの判断に続き、ドライバ要求駆動力要求制動力演算部11の出力であるドライバ要求制・駆動力FAや走行抵抗推定値FDの大きさから本制御を開始するか否かを判断し、YES(制御開始する)の場合はステップS104へ進み、NO(制御開始しない)の場合はエンドへ進む。
【0034】
ステップS104では、ステップS103での制御開始との判断に続き、FlagをFlag=OFFからFlag=ONに更新し、処理を終了する。
【0035】
図5は、実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行されるTCSやABS等の優先制御指令が入った場合を含む制御終了処理の流れを示すフローチャートである。以下、図5の各ステップについて説明する。
【0036】
ステップS201では、TCS/ABSコントローラ6から得た情報に基づき、TCS制御やABS制御が動作していないか否かを判断し、YES(TCS/ABS制御が動作していない)の場合はステップS202へ進み、NO(TCS/ABS制御が動作している)の場合はステップS206へ進む。
これによりTCS制御やABS制御等の緊急性が高い指令値が発生した場合は、それを優先させることができる。
【0037】
ステップS202では、ステップS201でのTCS/ABS制御が動作していないとの判断に続き、制御開始・終了判断部14の出力であるFlagがFlag=ONか否かを判断し、YES(Flag=ON)の場合はステップS203へ進み、NO(Flag=OFF)の場合はエンドへ進む。
【0038】
ステップS203では、ステップS202でのFlag=ONであるとの判断に続き、ドライバ要求駆動力要求制動力演算部11の出力であるドライバ要求制・駆動力FAを取得し、ステップS204へ進む。
【0039】
ステップS204では、ステップS203でのドライバ要求制・駆動力FAの取得に続き、目標駆動力生成部13で生成された制・駆動力目標値FCを取得し、ステップS205へ進む。
【0040】
ステップS205では、ステップS204での制・駆動力目標値FCの取得に続き、ドライバ要求制・駆動力FAが制・駆動力目標値FC以下であるか否かを判断し、YES(FA≦FC)の場合はステップS206へ進み、NO(FA>FC)の場合はエンドへ進む。
【0041】
ステップS206では、ステップS205でのFA≦FCであるとの判断、あるいは、ステップS201でのTCS/ABS制御が動作しているとの判断に続き、FlagをFlag=OFFに更新し、エンドへ進んでフローを終了する。なお、FA>FCの場合は、Flag=ONのままで本制御を続行する。この構成により車両駆動力を目標駆動力生成部13の出力からドライバ要求駆動力要求制動力演算部11の出力に切替える際に駆動力が急変しない。
【0042】
図6は、実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される制御開始直後処理(単調増加変数の初期化)の流れを示すフローチャートである。以下、図6の各ステップについて説明する。
【0043】
ステップS301では、FlagがFlag=OFFからFlag=ONに変化したか否かのエッジ検出を行い、YES(エッジ検出)の場合はステップS302へ進み、NO(エッジ非検出)の場合はエンドへ進む。
【0044】
ステップS302では、ステップS301でのエッジ検出に続き、センサ部9で取得された車両状態量(例えば、車両加速度)に基づき車両加加速度(車両加速度の微分値であり、「躍度」あるいは「ジャーク」ともいう。)を推定し、ステップS303へ進む。
【0045】
ステップS303では、ステップS302での車両加加速度の推定に続き、車両加加速度に基づき単調増加変数の増加割合の初期値を決定し、ステップS304へ進む。この処理により制・駆動力目標値をドライバ要求駆動力要求制動力演算部11が出力する値から目標駆動力生成部13で生成される値に切替える際に車両加加速度の変化を小さくできるため、ドライバに不要な減速感を与えない。
【0046】
ステップS304では、ステップS303での単調増加変数の増加割合の初期値決定に続き、車両駆動力から走行抵抗推定値FDを差し引いて余裕駆動力を推定し、ステップS305へ進む。なお、車両駆動力=走行抵抗+余裕駆動力の関係にあり、この式から余裕駆動力を推定できる。
【0047】
ステップS305では、ステップS304での余裕駆動力の推定に続き、推定した余裕駆動力から単調増加変数の初期値を決定し、エンドへ進む。
【0048】
図7は、実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される制駆動力制御実施中のフローチャートである。図8は、実施例1の制駆動力制御における単調増加変数(フィーリングパラメータ)の設定範囲を示す余裕駆動力特性図である。
【0049】
ステップS401では、Flag=ONであるか否かを判断し、YES(Flag=ON)の場合はステップS402へ進み、NO(Flag=OFF)の場合はエンドへ進む。
【0050】
ステップS402では、ステップS401でのFlag=ONであるとの判断に続き、ドライバ要求駆動力要求制動力演算部11の出力からドライバ要求制・駆動力FAの変化率(増加か減少)を検出し、ステップS403へ進む。
【0051】
ステップS403では、ステップS402でのドライバ要求制・駆動力FAの変化率検出に続き、ドライバ要求制・駆動力FAが増加しているか否かを判断し、YES(増加)の場合はステップS411へ進み、NO(増加でない)の場合はステップS404へ進む。
【0052】
ステップS404では、ステップS403での増加でないとの判断に続き、ドライバ要求制・駆動力FAが減少しているか否かを判断し、YES(減少)の場合はステップS421へ進み、NO(維持)の場合はステップS431へ進む。
【0053】
ステップS411では、ステップS403での増加との判断に続き、単調増加変数の増加割合を大きくし、エンドへ進む。
【0054】
ステップS421では、ステップS404での減少との判断に続き、単調増加変数の増加割合を小さくし、エンドへ進む。
【0055】
ステップS431では、ステップS404での維持(増加も減少もしていない)との判断に続き、単調増加変数の増加割合を維持し、エンドへ進む。
ここで、単調増加変数(フィーリングパラメータ)は、図8に示すA領域、つまり、余裕駆動力の範囲内で任意に設定可能である。本構成により本制御実施中もドライバのアクセル操作に合わせて車両の加速度を制御することにより、ドライバの要求に合わせた車両挙動を実現する。
【0056】
図9は、実施例1の制御装置の電子コントロールユニット5で実行される漸近補正処理の流れを示すフローチャートである。以下、図9の各ステップについて説明する。
ここで、「漸近補正」とは、本制御により演算される目標駆動力からドライバのアクセルの基づく目標駆動力に切替える際、車両加加速度が急変してドライバに違和感を与えないため、車両加加速度の変化率が規定値以下になるように補正を与えることをいう。但し、ドライバのアクセル操作により車両加加速度が変化している際は、上記規定値を大きくすることでドライバ要求に対する応答性を高くする。
【0057】
ステップS510では、Flagの値がFlag=ONであるか否かを判断し、YES(Flag=ON)の場合はステップS502へ進み、NO(Flag=OFF)の場合はエンドへ進む。
【0058】
ステップS502では、ステップS510でのFlag=ONであるとの判断に続きドライバ要求制・駆動力FAと、目標駆動力演算部13aで生成した目標駆動力演算部出力FC0(走行抵抗推定値FDと単調増加変数の和に基づく出力)と、の差が漸近開始規定値以下であるか否かを判断し、YES(FA−FC0≦漸近開始規定値)の場合はステップS503へ進み、NO(FA−FC0>漸近開始規定値)の場合はエンドへ進む。
【0059】
ステップS503では、ステップS502でのFA−FC0≦漸近開始規定値であるとの判断に続き、ドライバ要求制・駆動力FAの増加・減少を確認する変化率を検出し、ステップS504へ進む。
【0060】
ステップS504では、ステップS503でのドライバ要求制・駆動力FAの変化率検出に続き、ドライバ要求制・駆動力FAが増加もしくは減少しているか否かを判断し、YES(FAが増加もしくは減少)の場合はステップS505へ進み、NO(FAが維持)の場合はステップS506へ進む。
【0061】
ステップS505では、ステップS504でのドライバ要求制・駆動力FAが増加もしくは減少であるとの判断に続き、ドライバはアクセル操作を行なっていると判断できることから応答性を高くするため、漸近補正時車両加加速度変化率を規定値1に変更し、ステップS507へ進む。
【0062】
ステップS506では、ステップS504でのドライバ要求制・駆動力FAが維持であるとの判断に続き、ドライバはアクセル操作を行なっていないと判断できることからドライバに違和感を与えないように、漸近補正時車両加加速度変化率を規定値1より小さい規定値2に変更し、ステップS507へ進む。
【0063】
ステップS507では、ステップS505での規定値1の設定、あるいは、ステップS506での規定値2の設定に続き、車両加加速度の変化率が、設定された漸近補正時車両加加速度変化率以下となるように、目標駆動力を、目標駆動力演算部13aで生成した目標駆動力演算部出力FC0からドライバ要求制・駆動力FAに漸近させるように補正し、エンドへ進む。
【0064】
次に、作用を説明する。
まず、「車両の走行性能」について説明する。そして、実施例1の電気自動車1の制御装置における作用を、「実施例1における駆動力抑制制御の特徴」、「走行抵抗急低下時の駆動力抑制制御作用」、「漸近補正による駆動力抑制制御作用」、「段差乗り上げ後にアクセルが絞られた際の駆動力抑制制御作用」、「段差乗り上げ後にアクセルが踏み増された際の駆動力抑制制御作用」に分けて説明する。
【0065】
但し、説明の簡略化のため、本制御を用いて駆動力の抑制により車両急加速を抑制する動作を例に説明する。制動力を用いて本制御を実現する場合は、制動力をマイナスの駆動力として考えることで同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
[車両の走行性能]
車両は走行中、転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、外乱抵抗など、走行を妨げる力の作用を受ける。これらを総称して、「走行抵抗」と言う。これに対して、駆動源(エンジンやモータなど)からのトルクは車両駆動力となり、「走行抵抗」に打ち勝って車両を進行させる。
【0067】
「走行抵抗」のうち、転がり抵抗及び空気抵抗は、車速が上がれば増えていくというように、主として、車速によって決まる。しかし、勾配配抵抗と外乱抵抗は、車速に関係なく、坂の勾配や外乱の大きさによって決まる。
【0068】
そして、「走行抵抗」と「車両駆動力」は、
車両駆動力=走行抵抗+余裕駆動力
という関係にある。
つまり、「走行抵抗」が大きければ、走るのに大きな「車両駆動力」が必要になり、「走行抵抗」が小さければ、小さな「車両駆動力」で走ることができる。そして、「車両駆動力」と「走行抵抗」のバランスがとれている状態になると、加速できなくなり、車両速度が一定になる。
ところが、例えば、アクセル踏み込み操作により、そのバランスがくずれて「車両駆動力」が大きくなったとする。このときに、「車両駆動力」が増えて余った力のことを、「余裕駆動力(excess driving force)」と言う。そして、この「余裕駆動力」が、車両の速度を上げることに使われて、次第に車両が加速されて行くことになる。
【0069】
車両の運転では、アクセルの踏み方の加減によって、緩加速をしたり、または、急加速をしたりしている。つまり、アクセルを踏み込んでできた「余裕駆動力」と見合った(バランスのとれた)加速のしかたをしていると言えるので、「余裕駆動力」と等しい「加速抵抗」があると言える。このように、車両は、走り方によっていろいろな抵抗を受けている。
【0070】
そこで、例えば、段差乗り上げ後、走行抵抗が急低下するときを考えると、「車両駆動力」と「走行抵抗」のバランスが崩れ、例え「車両駆動力」が変化しなくても「走行抵抗」の急低下による「余裕駆動力」が、車両の速度を上げて急加速することに使われ、運転性や安全性の低下を招く。
【0071】
このような走行抵抗の急低下に対し、単に車両駆動力を抑制するようにした場合、駆動力抑制量が小さ過ぎると、急加速を抑制できない。一方、駆動力抑制量が大き過ぎると、急加速を抑制するとはできるものの、アクセルを踏み込んでいるにもかかわらず、駆動力の過剰な抑制により加速されず、ドライバに違和感(減速感)を与える。
【0072】
[実施例1における駆動力抑制制御の特徴]
上記のように、段差乗り上げ走行時等であって、走行抵抗が急低下するとき、急加速を抑制しつつ、ドライバに違和感を与えない駆動力抑制を行うことが重要であり、実施例1における駆動力抑制制御は、下記に列挙する点を特徴とする。
・外乱による走行抵抗の急低下を検出した際、駆動力抑制(制動力増加)をする。
・走行抵抗と単調増加変数(フィーリングパラメータ)との和から求めた駆動力指令に合わせて車両駆動力抑制(制動力増加)をする。
・走行抵抗(外乱)は、駆動力と車両加速抵抗の差から求める。
・制御中のアクセルの増減に合わせて単調増加変数の増加割合を増減させる。
・アクセルに対する駆動力要求が本制御による駆動力要求以下になったとき駆動力抑制制御終了する。
・駆動力抑制制御の終了時は、車両加加速度が規定値以下となるように漸近させる。
・アクセル・ブレーキ操作が入った場合は、車両加加速度の規定値を大きくする。
・TCS制御もしくはABS制御に基づく駆動力目標値を優先する。
【0073】
[走行抵抗急低下時の駆動力抑制制御作用]
図10は、段差の直前で電気自動車1が停止した状態からアクセルを踏み込み、段差乗越えを開始し、段差乗越え後もアクセルを一定に維持した際のタイムチャートである。以下、図10を用いて走行抵抗急低下時の駆動力抑制制御作用を説明する。
【0074】
時間t0は、走行抵抗が高い段差外乱に対して、アクセルの踏み込みを開始した時点である。そして、時間t0でのアクセル踏み込み操作により車両駆動力が増大し、時間t0'で段差外乱による走行抵抗を上回ると、電気自動車1が動き始め、段差の乗越えを開始する。
【0075】
そして、段差を乗越えたことにより段差外乱が急低下して時間tsになると、図4のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS104へと進む。つまり、走行抵抗急低下条件(ステップS101)の成立と、制御開始条件(ステップS103)の成立に基づき、ステップS104ではflagをOFFからONに書き換え、駆動力抑制制御を開始する。
【0076】
そして、駆動力抑制制御の開始時間tsからは、図6のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS302→ステップS303→ステップS304→ステップS305へと進む。つまり、車両加加速度から単調増加変数の増加割合初期値を決定し(ステップS303)、余裕駆動力から単調増加変数の初期値を決定する(ステップS305)。さらに、段差乗越え後もアクセルを一定に維持しているため、図7のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS404→ステップS431へと進む。つまり、単調増加変数の増加割合が増加割合初期値に維持される。
【0077】
そして、段差を乗越えた後、制・駆動力目標値FCがドライバ要求制・駆動力FAに一致する時間teになると、図5のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202→ステップS203→ステップS204→ステップS205→ステップS206へと進む。つまり、TCS/ABSの停止条件(ステップS201)の成立と、Flag=ON条件(ステップS202)の成立と、制・駆動力条件(ステップS205)の成立に基づき、ステップS206ではflagをONからOFFに書き換え、駆動力抑制制御を終了する。
【0078】
実施例1の駆動力抑制制御ナシの場合、図10の余裕駆動力の制御ナシ特性に示すように、時間tsから段差外乱による走行抵抗が無くなる時間t1までは、走行抵抗の急低下に対応して余裕駆動力の急上昇を示す。これに伴って、図10の加速Gの制御ナシ特性に示すように、時間tsから時間t1までの短い時間で加速Gが急上昇し、図10の車速の制御ナシ特性に示すように、車速もドライバの意図を超えて急上昇する。
【0079】
これに対し、実施例1では、駆動力抑制制御の開始時間tsから終了時間teまでは、走行抵抗推定値FDと単調増加変数の和から求めた制・駆動力目標値FCを目標車両駆動力とする車両駆動力抑制制御を行う構成を採用した。
したがって、駆動力抑制制御の開始時間tsから終了時間teまでの余裕駆動力は、図10に示すように、単調増加変数に一定勾配にて上昇する。これに伴って、時間tsから時間teまでの間での加速Gは、図10に示すように、ドライバの意図に合致して滑らかに変化しながら緩上昇する。車速は、時間teまでは変化する加速Gが加わるが、時間teを超えてからは一定の加速Gにより滑らかに緩上昇する。
このとき、実際の走行抵抗(外乱)は、推定した走行抵抗に打ち消されるため、車両加速度は単調増加変数によって決まる。このため、段差乗越え中も車両急加速を抑制しつつ、ドライバの要求に応じた車両挙動を実現することができる。
【0080】
実施例1では、車両駆動力の単調増加変数の増加割合を、アクセル開度が大きいほど大きな値に設定する演算を行う単調増加変数演算部13cを採用した。
すなわち、車両加速度は、上記のように単調増加変数によって決まるため、アクセル開度が大きいほど単調増加変数の増加割合を大きくすることが、ドライバの駆動力要求に合ったものとなる。
このため、ドライバがアクセルを踏み込んでいるにもかかわらず、駆動力が落ち込んでドライバに意図しない減速感を与えることを防止できる。
【0081】
実施例1では、車両加速度の変化をあらわす車両加加速度を推定し、単調増加変数の増加割合初期値を、車両加加速度に基づいて決定する構成を採用した(図6のステップS302→ステップS303)。
すなわち、走行中、車両加加速度が変化するとドライバに違和感を与えることが知られている。
このため、駆動力目標値が、アクセル開度に基づくドライバの要求駆動力から、走行抵抗急低下時に演算される目標値に切り替わる際に、車両の加加速度の変化を小さくでき、ドライバに不要な減速感を与えることを防止できる。
【0082】
実施例1では、車両駆動力から走行抵抗推定値FDを差し引いた余裕駆動力を推定し、単調増加変数の初期値を、余裕駆動力に基づいて決定する構成を採用した(図6のステップS304→ステップS305)。
すなわち、車両の加速性能は、余裕駆動力により決まるため、例えば、駆動力抑制制御を開始する時点の余裕駆動力を単調増加変数の初期値とすると、駆動力抑制制御の開始前後での駆動力の段差が抑えられる。
このため、余裕駆動力に基づいて単調増加変数の初期値を決定することで、駆動力抑制制御の開始前後での駆動力の切り替えを滑らかにすることができる。
【0083】
実施例1では、アクセル開度に基づくドライバ要求制・駆動力FAが、単調増加変数と走行抵抗推定値FDに基づいて設定された制・駆動力目標値FC以下になったとき、車両駆動力抑制制御を終了する構成を採用した(図5のステップS205→ステップS206)。
例えば、時間管理により制御を終了すると、「アクセルに基づくドライバの要求駆動力」と「実際に車両が出力している実車両駆動力」との差異がなくならない。このため、ドライバの再加速要求に追従できない。
これに対し、制御中の目標車両駆動力からドライバの要求駆動力に切り替えるとき、駆動力の急変が抑えられ、切り替えを滑らかにすることができる。
【0084】
実施例1では、駆動力抑制制御中にTCS制御あるいはABS制御が動作するというように同時制御となる場合、TCS制御あるいはABS制御を優先する構成を採用した(図5のステップS201→ステップS206)。
すなわち、走行抵抗急低下時の駆動力抑制制御とTCS制御/ABS制御は、共に車両挙動の安定化を目指す制御であるが、両制御を比べるとTCS制御/ABS制御の方が、より緊急性が高い。
このため、TCS制御あるいはABS制御が動作するような緊急性の高い制御指令が発生した場合、それを優先させることで、車両挙動の安定性を確保することができる。
【0085】
[漸近補正による駆動力抑制制御作用]
図11は、段差の直前で電気自動車1が停止した状態からアクセルを踏み込み、段差乗越えを開始し、段差乗越え後もアクセルを一定に維持した際のタイムチャートである。以下、図11を用いて漸近補正による駆動力抑制制御作用を説明する。
【0086】
制御開始時間tsから所定時間が経過し、制御による目標駆動力がドライバの要求駆動力に近くなる時間t2になると、ドライバ要求制・駆動力FAと目標駆動力演算部出力FCOの差が漸近開始規定値以下となるため漸近補正が開始される。つまり、段差乗越え後もアクセルを一定に維持しているため、図9のフローチャートにおいて、ステップS501→ステップS502→ステップS503→ステップS504→ステップS506→ステップS57へと進む。このステップS506において、漸近補正時車両加加速度変化率が規定値2にされ、目標駆動力演算部出力FCOをドライバ要求制・駆動力FAに漸近させる補正が行われる。
【0087】
この漸近補正は、アクセル操作量を維持した状態での漸近補正であるため、漸近補正時車両加加速度変化率を規定値2(<規定値1)とすることで、ドライバへの違和感を抑えるようにする。そして、ドライバ要求制・駆動力FAが制・駆動力目標値FC以下となる時間teにて制御を終了する。
このように、実施例1では、車両駆動力の制御を終了するとき、車両加加速度の変化をあらわす車両加加速度変化率が変化率設定値以下となるように、目標車両駆動力を要求駆動力に漸近させる制御を行う構成を採用した(図9)。
例えば、この漸近補正を実施しない場合は、図11の漸近補正ナシの特性に示すように、ドライバはアクセルを一定開度で維持しているだけなのに、漸近補正ナシの制御終了時間t3で車両加加速度がステップ的に急変するため違和感を与えてしまう。
これに対し、実施例1では、図11の矢印Bの実線特性に示すように、漸近補正により時間t2から制御終了時間teにかけて車両加加速度が滑らかに変化するため、車両加加速度の急変によるドライバに違和感を与えない。
【0088】
[段差乗り上げ後にアクセルが絞られた際の駆動力抑制制御作用]
図12は、段差の直前で車両が停止した状態からアクセルを踏み込み段差乗越えをはじめ、乗越え後にアクセルを放した際のタイムチャートである。以下、図12を用いて段差乗り上げ後にアクセルが絞られた際の駆動力抑制制御作用を説明する。
【0089】
時間taにてアクセルが放されるとドライバ要求制・駆動力FAが減少するため、時間t2になると、ドライバ要求制・駆動力FAと目標駆動力演算部出力FCOの差が漸近開始規定値以下となるため漸近補正が開始される。つまり、段差乗越え後にアクセル放しをしているため、図9のフローチャートにおいて、ステップS501→ステップS502→ステップS503→ステップS504→ステップS505→ステップS507へと進む。このステップS505において、漸近補正時車両加加速度変化率が規定値1にされ、目標駆動力演算部出力FCOをドライバ要求制・駆動力FAに漸近させる補正が行われる。
【0090】
この漸近補正は、アクセル操作を伴う漸近補正であるため、漸近補正時車両加加速度変化率を規定値1(>規定値2)とすることで、ドライバ要求への応答性を高くする。そして、ドライバ要求制・駆動力FAが制・駆動力目標値FC以下となる時間teにて制御を終了し、時間te以降は、ドライバのアクセル要求に基づき車両加速度を低減し、時間t3以降は一定速走行を行なう。
【0091】
上記のように、実施例1では、アクセル放し操作中、漸近補正時車両加加速度変化率の規定値1を、アクセル操作していないときの漸近補正時車両加加速度変化率の規定値2に比べて大きな値に設定する構成を採用した(図9)。
すなわち、図12の矢印Cに示すように、アクセル放しに合わせて応答良く駆動力・車両加速度を低減する。そして、図12の矢印Dに示すように、アクセル操作中は、車両加加速度の急変を許容するが、アクセル操作を伴う車両加加速度の急変であるのでドライバに違和感を与えない。
このため、段差乗越え後にアクセルを放した際、ドライバに違和感を与えることなく、駆動力・車両加速度を低減したいというドライバ要求に対する応答性を高くすることができる。
【0092】
[段差乗り上げ後にアクセルが踏み増された際の駆動力抑制制御作用]
図13は、段差の直前で車両が停止した状態からアクセルを踏み込み段差乗越えをはじめ、乗越え後に更にアクセルを踏み増した際のタイムチャートである。以下、図13を用いて段差乗り上げ後にアクセルが踏み増された際の駆動力抑制制御作用を説明する。
【0093】
時間taから時間ta'の間、アクセルが踏み増しされると、ドライバ要求制・駆動力FAが増加する。但し、時間ta'以降では再びアクセルが一定に保持されているため、単調増加変数の増加割合を減らす。そして、時間t2になると、ドライバ要求制・駆動力FAと目標駆動力演算部出力FCOの差が漸近開始規定値以下となるため漸近補正が開始される。つまり、段差乗越え後にアクセル踏み増しをしているため、図9のフローチャートにおいて、ステップS501→ステップS502→ステップS503→ステップS504→ステップS505→ステップS507へと進む。このステップS505において、漸近補正時車両加加速度変化率が規定値1にされ、目標駆動力演算部出力FCOをドライバ要求制・駆動力FAに漸近させる補正が行われる。
【0094】
この漸近補正は、アクセル操作を伴う漸近補正であるため、漸近補正時車両加加速度変化率を規定値1(>規定値2)とすることで、ドライバ要求への応答性を高くする。そして、ドライバ要求制・駆動力FAが制・駆動力目標値FC以下となる時間teにて制御を終了する。
【0095】
上記のように、実施例1では、アクセル踏み増し操作中、漸近補正時車両加加速度変化率の規定値1を、アクセル操作していないときの漸近補正時車両加加速度変化率の規定値2に比べて大きな値に設定する構成を採用した(図9)。
すなわち、図13の矢印Eに示すように、アクセル踏み増しに合わせて応答良く駆動力・車両加速度を上昇する。そして、図13の矢印Fに示すように、アクセル操作中は、車両加加速度の急変を許容するが、アクセル操作を伴う車両加加速度の急変であるのでドライバに違和感を与えない。
このため、段差乗越え後にアクセルを踏み増した際、ドライバに違和感を与えることなく、駆動力・車両加速度を上昇したいというドライバ要求に対する応答性を高くすることができる。
【0096】
次に、効果を説明する。
実施例1の電気自動車1の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0097】
(1) ドライバのアクセル操作に基づくアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段(アクセル開度センサ7)と、
車両走行中、外乱による走行抵抗相当値(走行抵抗推定値FD)を検出する走行抵抗相当値検出手段(走行抵抗演算部12)と、
車両走行中、走行抵抗の急低下を検出する走行抵抗急低下検出手段(走行抵抗急低下判断部14a)と、
前記走行抵抗急低下検出手段(走行抵抗急低下判断部14a)により走行抵抗の急低下を検出したとき、前記アクセル開度に基づいて車両駆動力の単調増加変数を設定する単調増加変数設定手段(単調増加変数演算部13c)と、
前記単調増加変数と前記走行抵抗相当値(走行抵抗推定値FD)に基づいて目標車両駆動力を設定し、タイヤへ加える駆動力抑制と制動力増加の少なくとも一方により、実車両駆動力を前記目標車両駆動力に収束させる制御を行う車両駆動力制御手段(電子コントロールユニット5)と、
を備えた。
このため、走行抵抗が急低下したとき、加速度の急変を抑えつつ、ドライバの意図に合致した駆動力制御を行うことができる。
【0098】
(2) 前記単調増加変数設定手段(単調増加変数演算部13c)は、車両駆動力の単調増加変数の増加割合を、前記アクセル開度が大きいほど大きな値に設定した。
このため、(1)の効果に加え、ドライバがアクセルを踏み込んでいるにもかかわらず、駆動力が落ち込んでドライバに意図しない減速感を与えることを防止できる。
【0099】
(3) 車両加速度の変化をあらわす車両加加速度を推定する車両加加速度推定手段(ステップS302)を備え、
前記単調増加変数設定手段(単調増加変数演算部13c)は、前記単調増加変数の増加割合初期値を、前記車両加加速度に基づいて決定した(ステップS303)。
このため、(2)の効果に加え、駆動力目標値が、アクセル開度に基づくドライバの要求駆動力から、走行抵抗急低下時に演算される目標値に切り替わる際に、車両の加加速度の変化を小さくでき、ドライバに不要な減速感を与えることを防止できる。
【0100】
(4) 車両駆動力から前記走行抵抗相当値(走行抵抗推定値FD)を差し引いた余裕駆動力を推定する余裕駆動力推定手段(ステップS304)を備え、
前記単調増加変数設定手段(単調増加変数演算部13c)は、前記単調増加変数の初期値を、前記余裕駆動力に基づいて決定した(ステップS305)。
このため、(3)の効果に加え、余裕駆動力に基づいて単調増加変数の初期値を決定することで、駆動力抑制制御の開始前後での駆動力の切り替えを滑らかにすることができる。
【0101】
(5) 前記車両駆動力制御手段(電子コントロールユニット5)は、前記アクセル開度に基づくドライバの要求駆動力(ドライバ要求制・駆動力FA)が、前記単調増加変数と前記走行抵抗相当値(走行抵抗推定値FD)に基づいて設定された目標車両駆動力(制・駆動力目標値FC)以下になったとき、車両駆動力の制御を終了する(制御終了判断部14c)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、制御中の目標車両駆動力からドライバの要求駆動力に切り替えるとき、駆動力の急変が抑えられ、切り替えを滑らかにすることができる。
【0102】
(6) 前記車両駆動力制御手段(電子コントロールユニット5)は、車両駆動力の制御を終了するとき、車両加加速度の変化をあらわす車両加加速度変化率が変化率設定値(規定値1,2)以下となるように、前記目標車両駆動力(制・駆動力目標値FC)を前記要求駆動力(ドライバ要求制・駆動力FA)に漸近させる制御を行う(漸近特性演算部13b)。
このため、(5)の効果に加え、制御終了域において、車両加加速度が滑らかに変化し、車両加加速度の急変により与えるドライバへの違和感を防止できる。
【0103】
(7) 前記車両駆動力制御手段(電子コントロールユニット5)は、アクセルとブレーキの何れか一方の操作中、漸近補正時車両加加速度変化率の規定値(規定値1)を、アクセルとブレーキの何れも操作していないときの漸近補正時車両加加速度変化率の規定値(規定値2)に比べて大きな値に設定した(図9)。
このため、(6)の効果に加え、段差乗越え後にアクセルとブレーキの何れか一方を操作した際、ドライバに違和感を与えることなく、駆動力・車両加速度を低下あるいは上昇したいというドライバ要求に対する応答性を高くすることができる。
【0104】
(8) 走行中、駆動力または制動力が過剰であることを検出したとき、制駆動力の過剰分を抑える制御を行う制駆動力制御システム(TCS/ABSコントローラ6)を備え、
前記車両駆動力制御手段(電子コントロールユニット5)は、走行抵抗の急低下検出に基づく車両駆動力制御と、前記制駆動力制御システム(TCS/ABSコントローラ6)による車両駆動力制御と、が同時制御となる場合、前記制駆動力制御システム(TCS/ABSコントローラ6)による車両駆動力制御を優先する(ステップS201→ステップS206)。
このため、(1)〜(7)の効果に加え、制駆動力制御システム(TCS/ABSコントローラ6)が動作するような緊急性の高い制御指令が発生した場合、それを優先させることで、車両挙動の安定性を確保することができる。
【0105】
以上、本発明の車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0106】
実施例1では、段差乗り上げ後の走行抵抗急低下時の制御例を示した。しかし、本発明の制御は、例えば、急な下り坂を走行するときの走行抵抗の急低下、突風を車両後方から受けたときの走行抵抗の急低下等、走行抵抗急低下が生じるような様々な例であっても含まれる。
【0107】
実施例1では、タイヤへ加える駆動力抑制により、実車両駆動力を目標車両駆動力に収束させる制御を行う例を示した。しかし、タイヤへ加える制動力増加により、実車両駆動力を目標車両駆動力に収束させる制御を行うようにしても良い。また、タイヤへ加える駆動力抑制と制動力増加の併用により、実車両駆動力を目標車両駆動力に収束させる制御を行うようにしても良い。
【0108】
実施例1では、走行抵抗相当値検出手段として、走行抵抗推定値FDを演算する走行抵抗演算部12を用いる例を示した。しかし、走行抵抗相当値としては、例えば、駆動力が一定であると考えれば、走行抵抗を車両加速度に置き換えても差し支えないので、関連情報であるが、「車両加速度」も含む。
【0109】
実施例1では、電気自動車(EV)への適用例を示したが、ハイブリット車両(HEV)、燃料電池車(FCV)、内燃機関車両(ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車、等)に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 電気自動車(車両の一例)
2 駆動モータ
3 制動装置
4FL 左前輪タイヤ(タイヤ)
4FR 右前輪タイヤ(タイヤ)
4RL 左後輪タイヤ(タイヤ)
4RR 右後輪タイヤ(タイヤ)
5 電子コントロールユニット(車両駆動力制御手段)
6 TCS/ABSコントローラ(制駆動力制御システム)
7 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
8 ブレーキ操作量センサ
9 センサ部
10 車速センサ
11 ドライバ要求駆動力要求制動力演算部
12 走行抵抗演算部
13 目標駆動力生成部
14 制御開始・終了判断部
15 目標駆動力切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバのアクセル操作に基づくアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
車両走行中、外乱による走行抵抗相当値を検出する走行抵抗相当値検出手段と、
車両走行中、走行抵抗の急低下を検出する走行抵抗急低下検出手段と、
前記走行抵抗急低下検出手段により走行抵抗の急低下を検出したとき、前記アクセル開度に基づいて車両駆動力の単調増加変数を設定する単調増加変数設定手段と、
前記単調増加変数と前記走行抵抗相当値に基づいて目標車両駆動力を設定し、タイヤへ加える駆動力抑制と制動力増加の少なくとも一方により、実車両駆動力を前記目標車両駆動力に収束させる制御を行う車両駆動力制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の制御装置において、
前記単調増加変数設定手段は、車両駆動力の単調増加変数の増加割合を、前記アクセル開度が大きいほど大きな値に設定したことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両の制御装置において、
車両加速度の変化をあらわす車両加加速度を推定する車両加加速度推定手段を備え、
前記単調増加変数設定手段は、前記単調増加変数の増加割合初期値を、前記車両加加速度に基づいて決定したことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両の制御装置において、
車両駆動力から前記走行抵抗相当値を差し引いた余裕駆動力を推定する余裕駆動力推定手段を備え、
前記単調増加変数設定手段は、前記単調増加変数の初期値を、前記余裕駆動力に基づいて決定したことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載された車両の制御装置において、
前記車両駆動力制御手段は、前記アクセル開度に基づくドライバの要求駆動力が、前記単調増加変数と前記走行抵抗相当値に基づいて設定された目標車両駆動力以下になったとき、車両駆動力の制御を終了することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された車両の制御装置において、
前記車両駆動力制御手段は、車両駆動力の制御を終了するとき、車両加加速度の変化をあらわす車両加加速度変化率が変化率設定値以下となるように、前記目標車両駆動力を前記要求駆動力に漸近させる制御を行うことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載された車両の制御装置において、
前記車両駆動力制御手段は、アクセルとブレーキの何れか一方の操作中、漸近補正時車両加加速度変化率の規定値を、アクセルとブレーキの何れも操作していないときの漸近補正時車両加加速度変化率の規定値に比べて大きな値に設定したことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか1項に記載された車両の制御装置において、
走行中、駆動力または制動力が過剰であることを検出したとき、制駆動力の過剰分を抑える制御を行う制駆動力制御システムを備え、
前記車両駆動力制御手段は、走行抵抗の急低下検出に基づく車両駆動力制御と、前記制駆動力制御システムによる車両駆動力制御と、が同時制御となる場合、前記制駆動力制御システムによる車両駆動力制御を優先することを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−255792(P2011−255792A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132122(P2010−132122)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】