説明

車両の制御装置

【課題】リチウムイオン二次電池を搭載した電動車両において、リチウムイオン二次電池をリチウム金属析出から保護する制御を実行した上で、液圧制動と回生制動との間のブレーキ協調制御を両立する。
【解決手段】HV−ECU302は、リチウムイオン二次電池により構成されるバッテリ18におけるリチウム金属の析出を抑制するために、バッテリ18の充放電履歴に基づいてバッテリの充電電力上限値を調整する。さらに、HV−ECU302は、調整された充電電力上限値の範囲内でブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、制動装置10による液圧制動力と、第2MG60による回生制動力との分担を決定するブレーキ協調制御を実行する。リチウム金属の析出を抑制するために充電電力上限値を制限する際における充電電力上限値の制限度合は、車両速度およびバッテリ18の状態に応じて可変に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御装置に関し、より特定的には、回生制動力および液圧制動力によるブレーキ協調制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両駆動用電動機を搭載したハイブリッド車や電気自動車等の電動車両では、制動時には車両駆動用電動機による回生制動力と、液圧制動装置による制動力とを協調させて、車両全体での要求制動力を確保する制動力制御が実用化されている(たとえば、特許文献1〜3)。以下では、このような制動力制御を「ブレーキ協調制御」とも称する。回生制動による発電電力を車載蓄電装置の充電電力として回収することによって、エネルギ効率すなわち燃費が改善される。
【0003】
特開2004−196064号公報(特許文献1)には、回生制動および摩擦制動のブレーキ協調制御において、回生制動トルクの分担率を低下させて、その分摩擦制動の分担率を高める分担率変更時に、回生制動トルクの低下割合を摩擦制動トルクの応答遅れに応じて抑制することが記載されている。
【0004】
特開2007−276534号公報(特許文献2)には、回生制動力を所定範囲内の勾配で減少させるとともに、それに対応して液圧制動力を増大させる制動力変更制御を含むブレーキ協調制御が記載されている。特許文献2では、制動力制御を開始させる変更開始車速を、目標回生制動力および車両減速度に基づいて可変に設定することによって、ドライバの違和感を緩和したブレーキフィーリングが提供される。
【0005】
特開2008−182855号公報(特許文献3)には、車速が閾値よりも低くなった以降に、電動機による回生制動力と、液圧ブレーキによる制動力とを置き換える際に生じる異音の発生を抑制するためのブレーキ協調制御が記載されている。具体的には、途中でレート値を変更して回生制動力から液圧ブレーキによる制動力への置き換えが行われるように、モータトルクと、液圧ブレーキによるブレーキトルクとを設定することが記載されている。
【0006】
一方、車載蓄電装置として、リチウムイオン二次電池の適用が進められている。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、出力電圧が高いことから、大きな電池容量および高電圧を必要とする車載蓄電装置として好適である。
【0007】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、使用態様によっては、負極表面にリチウム金属が析出することによって、電池の発熱あるいは性能低下を招く虞があることが知られている。そのため、国際公開第2010/005079号(特許文献4)には、リチウムイオン二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制するために、充放電時の履歴に基づき、バッテリへの入力許可電力を調整する制御が記載されている。具体的には、バッテリ電流のに基づいて、リチウム金属が析出しない最大電流値を逐次算出するとともに、バッテリ電流が当該最大電流値を超えないように、バッテリへの入力許可電力を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−196064号公報
【特許文献2】特開2007−276534号公報
【特許文献3】特開2008−182855号公報
【特許文献4】国際公開第2010/005079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3に記載されるような電動車両では、減速時に回生制動力の比率を高める程、燃費を向上できる。したがって、リチウムイオン二次電池を車載蓄電装置とする車両では、リチウム金属析出を抑制した上で、可能な限り回生制動の分担を高めることが好ましい。
【0010】
しかしながら、特許文献4に示されるように、リチウム金属の析出が懸念されるような充電状態となった場合には、二次電池への充電電力が高いレート(時間変化率)で制限されるため、これに応じて回生制動力も制限されることになる。ところが、特許文献1〜3で開示されるブレーキ協調制御においては、このようなリチウム金属の析出を抑制する制御と、ブレーキ協調制御とを組合わせることについての記載も示唆もない。
【0011】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、リチウム金属の析出を抑制するように充電電流を制限する制御を実行した上で、液圧制動と回生制動との間のブレーキ協調制御を両立することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面では、車両の制御装置であって、車両は、リチウムイオン二次電池からなるバッテリと、液圧に応じた制動力を車輪に作用させるように構成された制動装置と、車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータと、モータジェネレータの出力トルクを制御するようにバッテリとモータジェネレータとの間で双方向の電力変換を実行するための電力制御器とを搭載する。制御装置は、バッテリの充放電履歴に基づいて、バッテリの負極電位がリチウム基準電位まで低下することを防止するようにバッテリの充電電力上限値を調整するための充電制御手段と、調整された充電電力上限値の範囲内でモータジェネレータが回生制動力を発生するように、ブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、制動装置による液圧制動力と回生制動力との分担を決定するための制動制御手段とを備える。充電制御手段は、負極電位の低下を防止するために充電電力上限値を制限することによってバッテリの充電電流を制限する際における充電電力上限値の制限度合を、車両の速度およびバッテリの状態に応じて可変に設定するための設定手段を含む。
【0013】
好ましくは、充電制御手段は、充放電履歴に基づいてバッテリの負極にリチウム金属が析出しない最大電流として入力許容電流値を逐次設定するとともに、当該入力許容電流値に対してマージンを有するように入力電流制限目標値を決定するための手段と、バッテリの充電電流が入力電流制限目標値を超えたときに、充電電力上限値を第1の時間変化率に従って減少させるための手段とをさらに含む。設定手段は、車両の速度およびバッテリの状態に応じて第1の時間変化率を変化させるとともに、第1の時間変化率が高いほどマージンが小さくなるようにマージンを変化させる。
【0014】
さらに好ましくは、設定手段は、バッテリの温度が所定の温度領域よりも高温または低温である場合には、第1の時間変化率を所定の温度領域における値よりも高く設定する。
【0015】
あるいは、さらに好ましくは、設定手段は、バッテリのSOCが高くなるほど第1の時間変化率を高く設定する。
【0016】
また、さらに好ましくは、設定手段は、車両の速度が高くなるほど第1の時間変化率を高く設定する。
【0017】
好ましくは、充電電力上限値の制限を開始する条件は、制限度合が高いほど緩和される。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、リチウム金属の析出を抑制するように充電を制限する制御を実行した上で、液圧制動と回生制動との間のブレーキ協調制御を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
【図2】回生制動力および液圧制動力によるブレーキ協調制御の例を説明する概念図である。
【図3】図1に示したハイブリッド車5におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態によるハイブリッド車5で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
【図5】Li析出抑制制御による回生制限を説明する波形図である。
【図6】本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御によるWinの設定処理を説明するフローチャートである。
【図7】車速に対する回生制限レートおよびマージン電流の設定を説明する概念図である。
【図8】SOCに対する回生制限レートおよびマージン電流の設定を説明する概念図である。
【図9】バッテリ温度に対する回生制限レートおよびマージン電流の設定を説明する概念図である。
【図10】本発明の実施の形態によるLi析出抑制制御を反映したブレーキ協調制御の動作例を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
【0022】
図1を参照して、ハイブリッド車5は、制動装置10と、駆動輪12と、リダクションギヤ14と、エンジン20と、発電およびエンジン始動用の第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)40と、車両駆動用の第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)60と、ブレーキ液圧回路80と、動力分割機構100と、変速機200とを含む。
【0023】
ハイブリッド車5は、電力制御ユニット16と、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18と、ブレーキペダル22と、ブレーキECU(Electronic Control Unit)300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とをさらに含む。代表的には、各ECUは、図示しない、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポートおよび通信ポートを含むマイクロコンピュータによって構成される。各ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0024】
ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、通信バス310を用いて相互に通信可能に接続される。
【0025】
電源ECU306には、IGスイッチ36が接続される。電源ECU306は、運転者がIGスイッチ36に対してハイブリッド車5のシステムを起動する操作をした場合に、ブレーキペダル22が踏み込まれていることを条件として、図示しないIGリレー(あるいは、IGリレーおよびACCリレー)をオンする。これに応じて、ハイブリッド車5を構成する電気機器群に電源が供給されることによって、ハイブリッド車5が走行可能な状態となる。
【0026】
なお、本実施の形態においては、ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、別個のECUとして説明したが、これら複数のECUのうちの一部または全部の機能を統合したECUを設けてもより。
【0027】
エンジン20は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。エンジン20には、エンジン回転数センサ34が設けられる。エンジン回転数センサ34は、エンジン20の回転数を検出して、検出されたエンジン20の回転数を示す信号をエンジンECU304に送信する。
【0028】
エンジンECU304は、エンジン回転数センサ34を始めとする各種センサからの信号に基づいて、エンジン20がHV−ECU302によって定められた目標回転数および目標トルクで動作するように、エンジン20の燃料噴射量、点火時期および吸入空気量等を制御する。
【0029】
バッテリ18は、リチウムイオン二次電池によって構成される。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、他の二次電池に比べ初期回路電圧および平均動作電圧が高いので、大きな電池容量、高い電圧を必要とする車両の車載蓄電装置に好適である。また、リチウムイオン二次電池は、クーロン効率が100%に近いことから充放電効率が高く、したがって、他の二次電池に比べエネルギの有効利用が可能であるという利点も有する。
【0030】
しかしながら、特許文献4にも示されるように、リチウムイオン二次電池は、充電条件によっては、負極表面にリチウム金属が析出する虞がある。このため、本実施の形態では、特許文献4と同様に、リチウムイオン二次電池でのリチウム金属析出を抑制するためにバッテリ18への充電を制限する制御(以下、「Li析出抑制制御」とも称する)を実行するものとする。
【0031】
バッテリ18には、バッテリ18の状態値を検出するためのバッテリセンサ19が設けられる。たとえば、バッテリセンサ19は、状態値として、バッテリ電流Ib、バッテリ電圧Vbおよびバッテリ温度Tbを検出するように構成される。バッテリセンサ19によって検出された状態値は、HV−ECU302へ送信される。
【0032】
以下では、バッテリ電流Ibについて、バッテリ18の放電時には正値(Ib>0)とする一方で、充電時には負値(Ib<0)で示すものとする。HV−ECU302は、逐次送信されるバッテリ電流Ibに基づいて、バッテリ18の充放電履歴を把握することができる。
【0033】
第1MG40および第2MG60の各々は、たとえば、三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを有する。
第1MG40および第2MG60には、図示しないロータの回転位置(角度)を検出するための回転位置センサ41および42が、それぞれ設けられる。
【0034】
第1MG40および第2MG60は、電力制御ユニット(PCU)16を介して、バッテリ18と接続される。PCU16は、図示しない複数の電力用半導体スイッチング素子を含んで構成されたインバータおよび/またはコンバータを有する。PCU16は、HV−ECU302からの制御指示に従って、第1MG40および第2MG60と、バッテリ18との間の双方向の電力変換を実行する。HV−ECU302は、第1MG40の出力トルクおよび第2MG60の出力トルクを、それぞれのトルク指令値に合致させるように、PCU16における電力変換を制御する。
【0035】
動力分割機構100は、エンジン20と第1MG40との間に設けられるプラネタリギヤである。動力分割機構100は、エンジン20から入力された動力を、第1MG40への動力とドライブシャフト164を介在させて駆動輪12に連結されるリダクションギヤ14への動力とに分割する。ドライブシャフト164には、車速センサ161が設けられる。車速センサ161によって検出されたドライブシャフト164の回転数に基づいて、ハイブリッド車5の車速Vが検出される。
【0036】
動力分割機構100は、第1リングギヤ102と、第1ピニオンギヤ104と、第1キャリア106と、第1サンギヤ108とを含む。第1サンギヤ108は、第1MG40の出力軸に連結された外歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1サンギヤ108に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1リングギヤ102とともに回転するリングギヤ軸102aを介して、リダクションギヤ14に連結される。第1ピニオンギヤ104は、第1リングギヤ102および第1サンギヤ108のそれぞれに噛合う。第1キャリア106は、第1ピニオンギヤ104を自転かつ公転自在に保持し、エンジン20の出力軸に連結される。
【0037】
すなわち、第1キャリア106が入力要素であって、第1サンギヤ108が反力要素であって、第1リングギヤ102が出力要素である。そして、リングギヤ軸102aに出力された駆動力(トルク)が、リダクションギヤ14およびドライブシャフト164を経由して、駆動輪12へ伝達される。
【0038】
エンジン20の作動中においては、第1キャリア106に入力されるエンジン20の出力トルクに対して、第1MG40による反力トルクを第1サンギヤ108に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素である第1リングギヤ102に現れる。その場合、第1MG40のロータがそのトルクによって回転されるので、第1MG40は発電機として機能する。また、第1リングギヤ102の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1MG40の回転数を変化させることにより、エンジン20の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1MG40を制御することによって行なうことができる。その制御は、HV−ECU302によって行われる。
【0039】
ハイブリッド車5の走行中にエンジン20を停止させている場合には、第2MG60が正回転する一方で第1MG40が逆回転している。その状態から第1MG40を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、第1キャリア106に連結されているエンジン20に正回転方向のトルクを作用させることができる。したがって、第1MG40によってエンジン20を始動(モータリングあるいはクランキング)することができる。その場合、リダクションギヤ14にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって、車両を走行させるための駆動力は、第2MG60の出力トルクを制御することにより維持できるとともに、同時にエンジン20の始動を円滑に行なうことができる。図1に示されるハイブリッド車5のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0040】
ハイブリッド車5の回生制動時には、リダクションギヤ14および変速機200を経由して、駆動輪12により第2MG60が駆動されるので、第2MG60は発電機として作動する。これにより第2MG60は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作用する。第2MG60により発電された電力は、PCU16を経由してバッテリ18に蓄えられる。第2MG60の発電電力は、第2MG60のトルクおよび回転数の積によって決まるので、第2MG60のトルクによって、回生制動による発電電力を調整することができる。
【0041】
変速機200は、リダクションギヤ14と第2MG60との間に設けられるプラネタリギヤである。変速機200は、第2MG60の回転数を変速してリダクションギヤ14に伝達する。なお、変速機200を省略し、第2MG60の出力軸をリダクションギヤ14に直結する構成としてもよい。
【0042】
変速機200は、第2リングギヤ202と、第2ピニオンギヤ204と、第2キャリア206と、第2サンギヤ208とを含む。第2サンギヤ208は、第2MG60の出力軸に連結された外歯歯車である。第2リングギヤ202は、第2サンギヤ208に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第2リングギヤ202は、リダクションギヤ14に連結される。第2ピニオンギヤ204は、第2リングギヤ202および第2サンギヤ208のそれぞれに噛合う。第2キャリア206は、第2ピニオンギヤ204を自転かつ公転自在に保持する。第2キャリア206は、回転しないように、図示しないケース等に固定される。
【0043】
変速機200は、摩擦係合要素を用いてHV−ECU302からの制御信号に基づいてプラネタリギヤの各要素の回転を制限したり、回転を同期させたりすることによって、第2MG60の回転速度を1段階あるいは複数の段階で変速してリダクションギヤ14に伝達するものであってもよい。
【0044】
HV−ECU302は、車両状態に適した走行を行なうための走行制御を実行する。たとえば、車両発進時および低速走行時には、エンジン20を停止した状態で、第2MG60の出力によってハイブリッド車5は走行する。定常走行時には、エンジン20を始動して、エンジン20および第2MG60の出力によってハイブリッド車5は走行する。特に、エンジン20を高効率の動作点で動作させることによって、ハイブリッド車5の燃費が向上する。具体的には、HV−ECU302は、図示しないアクセルペダルの操作量を反映して、車両全体の要求駆動力を設定するとともに、上記走行制御が実現されるように、エンジン20、第1MG40および第2MG60の動作指令値(代表的には、回転数指令値および/またはトルク指令値)を設定する。
【0045】
また、HV−ECU302は、バッテリセンサ19によって検出された状態値(バッテリ電流Ib,バッテリ電圧Vb,バッテリ温度Tb)に基づいて、バッテリ18のSOC(State of Charge)を推定する。SOCは、満充電量に対する現在の充電量を百分率で示した値で示される。SOCの推定手法については、公知の任意の手法を適用できるため、詳細な説明は繰返さない。
【0046】
さらに、HV−ECU302は、少なくともSOCに基づいて、バッテリ18へ充電する電力の制限値を示す入力許可電力値(以下、Winとも称する)、およびバッテリ18から放電する電力の制限値を示す出力許可電力値(以下、Woutとも称する)を設定する。バッテリ18への入出力電力(以下、単にバッテリ電力とも称する)についても、バッテリ18の放電時には正値とする一方で、充電時には負値で示す。このため、Woutは零または正値であり(Wout≧0)、Winは零または負値である(Win≦0)。HV−ECU302は、バッテリ電力がWin〜Woutの電力範囲に収まるように制限して、第1MG40および第2MG60の動作指令値を設定する。
【0047】
次に、ハイブリッド車5のブレーキシステムについて説明する。
制動装置10は、ブレーキキャリパ160と、円板形状のブレーキディスク162とを含む。ブレーキディスク162は、ドライブシャフト164に回転軸が一致するように固定される。ブレーキキャリパ160は、図示しないホイールシリンダとブレーキパッドとを含む。ブレーキ液圧回路80からブレーキキャリパ160に液圧が供給されることによって、ホイールシリンダが作動する。作動したホイールシリンダがブレーキパッドをブレーキディスク162に押し付けることによって、ブレーキディスク162の回転が制限される。これにより、制動装置10は、ブレーキ液圧回路80からの供給液圧Pwcに応じた液圧制動力を発生する。すなわち、制動装置10は「制動装置」に対応する。
【0048】
ブレーキ液圧回路80は、制動装置10への供給液圧Pwcを検出するための液圧センサ82とブレーキペダル22の操作量を検出するブレーキペダル操作量検出部84とを含む。さらに、ブレーキ液圧回路80には、ブレーキECU300からの動作指令に応じて制御される、図示しない液圧制御アクチュエータ(代表的には制御弁)が含まれる。これらの制御弁の開/閉制御あるいは開度制御によって、制動装置10への供給液圧Pwcが、ブレーキECU300によって制御される。
【0049】
ブレーキペダル操作量検出部84は、たとえば、図示しないマスタシリンダが出力するマスタシリンダ圧を検出する圧力センサによって構成される。マスタシリンダは、ブレーキペダル22に連結されて、ドライバのブレーキペダル22の操作量に応じた液圧を発生させる。あるいは、ブレーキペダル操作量検出部84は、ブレーキペダル22の操作量を直接検出するストロークセンサによって構成されてもよい。ブレーキECU300は、ブレーキペダル操作量検出部84からの信号に基づいて、ドライバによるブレーキペダル22の操作量を検知することができる。
【0050】
ハイブリッド車5では、ドライバによるブレーキペダル22の操作に対応した車両全体での要求制動力(トータル制動力)を、第2MG60による回生制動力と、制動装置10による液圧制動力とで分担して出力するブレーキ協調制御が実行される。図2には、液圧制動および回生制動によるブレーキ協調制御の一例が示される。
【0051】
図2を参照して、W10はドライバのブレーキペダル操作に基づくトータル制動力を示している。一方で、W20は第2MG60によって発生される回生制動力を示している。回生制動力および液圧制動力の和によって、トータル制動力が確保されることが理解される。なお、図示しないが、エンジンを搭載するハイブリッド車においては、上記の液圧制動力と回生制動力に加えて、いわゆるエンジンブレーキによる機関制動力も発生される。したがって、厳密には、必要に応じて機関制動力も考慮に入れた上で、回生制動力および液圧制動力が決められる。ただし、以下では、記載を簡単にするために、機関制動力=0として説明を進める。
【0052】
ここで、回生制動力すなわち、第2MG60が出力する制動トルクは、バッテリ18への入力電力がWinを超えない範囲内(すなわち、Pb>Winとなる範囲内)に制限される。したがって、Winが制限されると、図2に示される本来の回生制動力が確保できなくなる可能性がある。特に、特許文献4にも示されるLi析出抑制制御を適用した場合には、回生制動力の発生中に、Winが正方向に変化する可能性がある。この場合には、バッテリ18の保護のために、回生制動力を速やかに減少させる必要が生じる。
【0053】
この際には、回生制動力の減少分に対応させて、液圧制動力を増加させる必要がある。しかしながら、特許文献1等にも記載されるように、回生制動力が急激に減少してしまうような場合には、液圧制動力の増加(液圧の上昇)が追従できず、制動時のフィーリングを悪化させる虞がある。
【0054】
したがって、本実施の形態による車両では、Li析出抑制制御との両立を考慮したブレーキ協調制御における回生電力の制限を、以下のように設定する。
【0055】
図3は、図1に示したハイブリッド車5におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
【0056】
図3に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図3に示した各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
【0057】
図3を参照して、HV−ECU302は、ステップS100により、ハイブリッド車5の車両状態を入力する。車両状態は、ブレーキペダル22の操作量であるブレーキペダル操作量BPと、車速Vと、第1MG40の回転数Nm1と、第2MG60の回転数Nm2とを含む。
【0058】
ブレーキペダル操作量BPは、ブレーキペダル操作量検出部84の出力に基づいて検知される。車速Vは、車速センサ161の出力に基づいて検知される。回転数Nm1,Nm2は、第1MG40および第2MG60に取付けられた回転位置センサ41,42の出力に基づいて演算される。
【0059】
HV−ECU302は、ステップS110により、ハイブリッド車5の車両状態に基づいて、車両全体での要求制動トルクTr*を設定する。要求制動トルクTr*は、図2に示したトータル制動力に対応する。
【0060】
代表的には、要求制動トルクTr*は、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて、リングギヤ軸102aに出力すべき制動トルクとして算出される。たとえば、ブレーキペダル操作量BPおよび車速Vと要求制動トルクTr*との関係を予め定めたマップを予め作成して、HV−ECU302内の図示しないメモリに記憶しておくことができる。そして、ステップS110では、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて当該マップを参照することによって、要求制動トルクTr*を設定することができる。
【0061】
続いて、HV−ECU302は、ステップS120により、バッテリ18のWinを読込む。Winを設定するための制御処理については、後ほど詳細に説明する。|Win|(Win≦0)は、現在(当該制御周期)における、バッテリ18の充電電力の大きさの最大値、すなわち「充電電力上限値」を示す。また、充電時(Ib<0)におけるバッテリ電流Ibの大きさ(|Ib|)について、以下では「充電電流」とも表記する。
【0062】
HV−ECU302は、ステップS130では、図2に示したブレーキ協調制御に従って、要求制動トルクTr*のうちの回生制動トルクの分担量を決定する。この分担量に基づいて、回生制動力を発生する第2MG60のトルク指令値(第2MGトルクTm2*)が設定される。
【0063】
回生制動の際に、第2MG60は、トルクおよび回転数の積に従った電力を発電する。したがって、バッテリ電力(Pb=Vb・Ib)が、ステップS120で読込まれたWinを超えないようにする必要がある。すなわち、|Pb|<|Win|とする必要がある。したがって、ステップS130では、|Pb|<|Win|となる範囲内に限定した上で、ブレーキ協調制御のための第2MGトルクTm2*が設定される。
【0064】
さらに、HV−ECU302は、ステップS140では、下記(1)式に従って液圧ブレーキトルクTb*を設定する。なお、(1)式中のGrは、変速機200の減速比である。
【0065】
Tb*=Tr*−Tm2*・Gr …(1)
このようにして、要求制動トルクTr*を、回生制動トルク(Tm2*)および液圧ブレーキトルク(Tb*)によって分担するブレーキ協調制御が実現される。
【0066】
さらにHV−ECU302は、ステップS150により、ステップS140で設定された液圧ブレーキトルクTb*をブレーキECU300(図1)に出力する。
【0067】
ブレーキECU300は、液圧ブレーキトルクTb*に基づいて、制動装置10に供給する目標液圧を算出する。そして、液圧センサ82によって検出された供給液圧Pwcがこの目標液圧に一致するように、ブレーキ液圧回路80中を制御する。
【0068】
次に、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18に対するLi析出抑制制御について説明する。
【0069】
図4および図5は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車5で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
【0070】
図4を参照して、時刻t0からバッテリ電流Ibが負方向に変化して、バッテリ18の充電が開始される。
【0071】
バッテリ18の充放電履歴に応じて、バッテリ18の許容入力電流値Ilimが設定される。特許文献4に記載されるように、許容入力電流値Ilimは、単位時間内に、バッテリ負極電位がリチウム基準電位まで低下することによってリチウム金属が析出しない最大電流値として求められる。許容入力電流値Ilimは、特許文献4と同様に設定することができる。すなわち、充放電履歴がない状態における許容入力電流値の初期値Ilim[0]から、充電継続による減少量、放電継続による回復量、または放置による回復量を制御周期毎に加減算することによって、時刻tにおけるIlim[t]が逐次求められる。
【0072】
さらに、許容入力電流値Ilimに対するマージン電流ΔImrを設定して、リチウム金属の析出を防止するための入力電流制限目標値Itagが設定される。特許文献4に記載されるように、許容入力電流値Ilimを正方向にオフセットさせることによって、入力電流制限目標値Itagを設定することができる。この場合には、オフセットさせた電流値が、マージン電流ΔImrとなる。
【0073】
図4に示されるように、継続的な充電によって、許容入力電流値Ilimおよび入力電流制限目標値Itagは、正方向に徐々に変化する。これによって、許容される充電電流(|Ib|)は減少することが理解される。そして、時刻t1において、IbがItagよりも低くなると(Ib<Itag)と、リチウム金属の析出を抑制するために充電電流を制限することが必要となる。
【0074】
このため、図5に示されるように、時刻t1からバッテリ18のWinを正方向に変化させることによって、充電電力(すなわち、回生電力)が制限される。たとえば、Winは、一定レート(時間変化率)によって正方向に変化される。これにより、|Win|、すなわち、「充電電力上限値」は減少する。この際のWinの変化レートを、以下では「回生制限レート」とも称する。回生制限レートは、Li析出抑制制御による充電電力制限(以下、「回生制限」とも称する)における制限度合の一例に相当する。
【0075】
再び図4を参照して、時刻t1からのWinの制限によって充電電流が減少して(すなわち、Ibが正方向に変化)、時刻t2では、再び、Ib>Itagとなる。これにより、図5に示されるように、時刻t2からは、回生制限が解除される。これにより、バッテリ18のWinは、通常値まで徐々に復帰することになる。
【0076】
このように、大きな充電電流が発生する回生制動時においては、リチウム金属の析出抑制のために、充電電流が入力電流制限目標値Itagに達すると、Winを一定の回生制限レートで変化させる回生制限が開始される。図4および図5から理解されるように、マージン電流ΔImrが大きくなるほど、回生制限の開始条件が厳しくなる。一方で、マージン電流ΔImrを小さくすると、回生制限の開始条件を緩和することによって、回生発電によって回収されるエネルギを増やすことができる。
【0077】
回生制動中に、回生制限によってWinが変化すると、図3のステップS120,S130の処理によって、回生制動トルクの分担(MG2トルクの絶対値)が減少するとともに、その減少分に対応して、液圧ブレーキトルクTb*の分担が増加する。これに応じて、ブレーキECU300は、制動装置10への供給液圧Pwcを上昇させるようにブレーキ液圧回路80を制御する。上述のように、この際には、指令値の上昇に対する供給液圧Pwcの上昇に一定の遅れが発生する。これにより、液圧ブレーキトルクが瞬間的に減少するため、制動時のフィーリングを悪化させる虞がある。
【0078】
このようなフィーリングの悪化を完全に解消するために、回生制限レートを液圧の制御応答性に合わせて一律に低く設定する対応が考えられる。しかしながら、一律に回生制限レートを低くすると、Ib<Itagから開始される充電電流の制限が緩やかなものとなる。このため、リチウム金属の析出を防ぐために、IbがIlimに達することを確実に回避する観点から、図4に示したマージン電流ΔImrを大きくする必要が生じる。すなわち、回生制限のための充電電力の制限度合を低くすると、回生制限を開始する条件を厳しくする必要がある。この結果、Winが過度に制限されることによって、回生発電による回収エネルギが減少する。
【0079】
したがって、本発明の実施の形態では、以下に説明するように、車速およびバッテリ状態に基づいて、Li析出抑制制御における回生制限レートを可変に設定する。
【0080】
図6は、本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御によるWinの設定処理を説明するフローチャートである。
【0081】
図6に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図6に示した各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする
図6を参照して、HV−ECU302は、ステップS200により、ハイブリッド車5の車速Vを入力する。車速Vは、図1に示した車速センサ161の出力に基づいて検出することができる。
【0082】
さらに、HV−ECU302は、ステップS210により、バッテリセンサ19の出力に基づいて、バッテリ18の状態値を入力する。上述のように、ステップS210で入力される状態値は、たとえば、バッテリ18の電圧Vb、電流Ibおよび温度Tbを含む。
【0083】
HV−ECU302は、ステップS220では、バッテリ18のSOCを算出する。さらに、HV−ECU302は、ステップS230により、バッテリ18のWin0を設定する。Win0は、回生制限レート処理を実行する前のWinであり、Li析出抑制制御を考慮することなく、現在のバッテリ状態(SOC、状態値等)に基づいて設定される。すなわち、このWin0が、公知の手法に基づいて通常設定されるバッテリ18のWinに相当する。たとえば、Win0は、SOCおよびバッテリ温度Tbに基づいて設定される。
【0084】
HV−ECU302は、ステップS240により、車速およびバッテリ状態に基づいて、Li析出抑制制御による回生制限レートおよびマージン電流を設定する。回生制限レートは、図5に示された、Winの正方向への変化レート(時間変化率)に相当する。
【0085】
図7〜図9には、車速およびバッテリ状態に対する回生制限レートおよびマージン電流の設定の概念図が示される。
【0086】
図7を参照して、回生制限レートrは、所定速度V0までは一定値r0に設定される一方で、V>V0の範囲では、車速が高くなるほど高い値となるように設定される。
【0087】
一般的に、制動時のフィーリングの悪化は、車速が低い状態の方がユーザに感知されやすい。したがって、低車速領域(V<V0)では、液圧の制御遅れが問題とならないように緩やかなレートにて液圧ブレーキトルクを変化させる必要がある。すなわち、図7のr0は、ブレーキ液圧回路80による液圧制御応答性を考慮して、液圧ブレーキトルクの変化が追従可能な変化レートに予め定められる。
【0088】
一方で、車速Vが高くなると、相対的に制動時のフィーリングの悪化はユーザに感知され難い。このため、回生制限レートrを低車速領域よりも高く設定することができる。好ましくは、図7に示すように、車速が高くなるのに応じて回生制限レートrを高くする。
【0089】
上述のように、充電電力の制限度合を高めるために回生制限レートを高くすると、Ib<Itagとなったときに、充電電流を速やかに減少させることができる。このため、回生制限を開始する条件を緩和できる、すなわち、マージン電流ΔImrを小さくすることができる。この結果、回生制動によって回収されるエネルギ量を増加することができる。
【0090】
このように、Li析出抑制制御におけるマージン電流ΔImrは、回生制限レートと反対の特性で変化させる必要がある。すなわち、回生制限時における充電電力の制限度合が高いほど、回生制限を開始する条件を緩和するために、回生制限レートrが高くなるほどマージン電流ΔImrを小さく設定する。反対に、回生制限時における充電電力の制限度合が低いほど、回生制限を開始する条件を厳しくするために、回生制限レートrが低くなるほどマージン電流ΔImrを大きく設定する。これにより、リチウム金属の析出抑制と、回生制動による回収エネルギ量の確保とを両立することができる。
【0091】
図8および図9には、バッテリ18の状態と回生制限レートおよびマージン電流との関係、具体的には、SOCおよびバッテリ温度に対する回生制限レートおよびマージン電流の関係が示される。
【0092】
バッテリ18へ充電可能な電力が大きい状態では、発生される回生制動トルクも大きくなる。回生制動トルクが大きい状態では、回生制限による制動力の変化量も相対的に大きくなる。したがって、このような状態では、回生制限レートを高くした場合に、ユーザに違和感を与える可能性が高くなる。反対に、バッテリ18へ充電可能な電力が小さい状態では、回生制限レートを高くしても、ユーザに違和感を与えにくい。
【0093】
したがって、充電可能な電力が大きいバッテリ状態では、回生制限レートを低くする一方で、充電可能な電力が小さいバッテリ状態では、回生制限レートを高くすることが好ましい。
【0094】
このため、図8に示すように、SOCに対しては、SOCが低くなるほど回生制限レートを低くする一方で、SOCが高くなるほど回生制限レートを高く設定することが好ましい。
【0095】
また、図9に示すように、バッテリ温度に対しては、低温領域(Tb<T1)および高温領域(Tb>T2)において、常温領域(T1<Tb<T2)よりも、回生制限レートを高く設定することが好ましい。低温領域および高温領域では、バッテリ18の内部抵抗が上昇することによって、充電可能な電力(|Win|に相当)が小さくなるからである。
【0096】
図8および図9においても、マージン電流ΔImrは、回生制限レートと反対の特性で変化するように設定される。
【0097】
図7〜9に示す関係を総合して、車速およびバッテリ状態(SOCおよび/またはTb)に対する回生制限レートrの関係を予め定めたマップを予め作成することができる。そして、回生制限レートrが高くなるほどマージン電流ΔImrは小さく設定され、回生制限レートrが低くなるほどマージン電流ΔImrは大きく設定されるように、車速およびバッテリ状態に対するマージン電流ΔImrの関係を予め定めたマップを予め作成することができる。これらのマップは、HV−ECU302内の図示しないメモリに予め記憶される。そして、ステップS240では、ステップS200〜S220により取得された車速およびバッテリ状態に基づいてこれらのマップを参照することによって、回生制限レートrおよびマージン電流ΔImrを設定することができる。
【0098】
再び図6を参照して、HV−ECU302は、ステップS250により、Li析出抑制制御のための電流制御演算を実行する。すなわち、図4に説明したように、特許文献4に示す手法に基づいて、バッテリ18の充放電履歴に基づいて、今回の制御周期における許容入力電流値Ilim[t]が演算される。そして、許容入力電流値Ilimに対して、ステップS240により設定されたマージン電流ΔImrを設けることによって、入力電流制限目標値Itagが算出される。
【0099】
さらに、HV−ECU302は、ステップS260により、ステップS210に入力されたバッテリ電流Ibと、ステップS250で算出された入力電流制限目標値Itagとを比較する。
【0100】
そして、HV−ECU302は、Ib>Itagのとき(S260のNO判定時)には、充電電流がItagに達していないため、ステップS270によって、回生制限をオフする。この場合には、ステップS275により、ステップS230で設定されたWin0が、そのままバッテリ18のWinとなる(Win=Win0)。
【0101】
一方で、HV−ECU302は、Ib<Itagのとき(S260のYES判定時)には、充電電流がItagに達しているため、ステップS280により、回生制限をオンする。充電電流を現状よりも減少させなければ、Ibが許容入力電流値Ilimに達する虞があるからである。
【0102】
回生制限がオンされると、HV−ECU302は、ステップS285により、ステップS240で設定された回生制限レートに従ってWinを設定する。具体的には、前回の制御周期におけるWinから、当該回生制限レートに従って正方向に変化させるように、Winが設定される。回生制限レートに従ってバッテリ18の充電電力上限値(|Win|)が減少することによって、バッテリ18の充電電流が減少する。この結果、負極電位の低下が抑制されて、リチウム金属の析出が防止される。
【0103】
図10には、本発明の実施の形態によるLi析出抑制制御を反映したブレーキ協調制御の動作例が示される。
【0104】
図10を参照して、時刻ta,tbにおいて、バッテリ電流Ibが、入力電流制限目標値Itagに達することにより、回生制限がオンされる。これにより、Winが回生制限レートに従って変化する。
【0105】
回生制限レートは、車速Vに応じて、逐次可変に設定される。すなわち、車速が高いほど回生制限レートは高く設定されている。図示しないが、マージン電流ΔImrについても、回生制限レートとは逆の特性で、可変に設定される。
【0106】
この結果、低車速の時刻taでは、低い回生制限レートに基づいてWinが正方向に変化する。一方で、高車速の時刻tbでは、比較的高い回生制限レートによって、Winが正方向に変化される。
【0107】
この結果、バッテリ電力は、回生制限時には、放電方向に変化する。これにより、バッテリ18におけるリチウム金属の析出が抑制される。また、車速に応じて回生制限レートを設定しているので、回生制動力から液圧制動力への置き換えに伴うフィーリングの悪化が、ユーザに感知されにくくなっていることが理解される。
【0108】
このように本実施の形態によれば、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、回生発電中にLi析出抑制制御のために充電を制限する際に、フィーリングの悪化がユーザに感知され難い状態では、速やかに回生制動力(すなわち、回生電力)を減少させる一方で、フィーリングの悪化がユーザに感知され易い状態では緩やかに回生制動力を減少させるようにブレーキ協調制御を行なうことができる。
【0109】
これにより、Li析出抑制制御を実行した上で、液圧制動と回生制動との間のブレーキ協調制御を両立することができる。また、速やかに回生制動力を減少できる状態では、充電電力制限を開始する条件を緩和(すなわち、マージン電流ΔImrを減少)することによって、回生エネルギを確保できる。これにより、車両のエネルギ効率(すなわち、燃費)を向上することができる。
【0110】
なお、本発明の実施の形態によるブレーキ協調制御が適用される車両は、図1に例示したハイブリッド車5に限定されるものではない。本発明は、電動機による回生制動力と、液圧の供給に応じた液圧制動力との組合せによって制動力を確保する構成を有するものであれば、搭載される電動機(モータジェネレータ)の個数や駆動系の構成に関らず、ハイブリッド車の他に、エンジンを搭載しない電気自動車および燃料電池自動車等を含む電動車両全般に共通に適用できる。特に、ハイブリッド車の構成についても、図1の例示に限定されることはなく、パラレル式のハイブリッド車を始めとして、任意の構成のものに、本願発明を適用可能である点について、確認的に記載する。また、走行用電動機を搭載していない車両であっても、回生制動力を発生する電動機を搭載していれば、本願発明を適用可能である。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
この発明は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両における、回生制動力と液圧制動力とを協調させた電子制御式ブレーキシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
5 ハイブリッド車、10 制動装置、12 駆動輪、14 リダクションギヤ、16 電力制御ユニット、18 バッテリ、19 バッテリセンサ、20 エンジン、22 ブレーキペダル、34 エンジン回転数センサ、36 IGスイッチ、40 第1MG、41,42 回転位置センサ、60 第2MG、80 ブレーキ液圧回路、82 液圧センサ、84 ブレーキペダル操作量検出部、100 動力分割機構、102 第1リングギヤ、102a リングギヤ軸、104 第1ピニオンギヤ、106 第1キャリア、108 第1サンギヤ、160 ブレーキキャリパ、161 車速センサ、162 ブレーキディスク、164 ドライブシャフト、200 変速機、202 第2リングギヤ、204 第2ピニオンギヤ、206 第2キャリア、208 第2サンギヤ、300 ブレーキECU、302 HV−ECU、304 エンジンECU、306 電源ECU、310 通信バス、BP ブレーキペダル操作量、Ib バッテリ電流、ΔImr マージン電流、Ilim 許容入力電流値、Ilim[0] 初期値(許容入力電流値)、Itag 入力電流制限目標値、Nm1,Nm2 回転数、Pwc 供給液圧、Tb バッテリ温度、Tb* 液圧ブレーキトルク、Tm2* 第2MGトルク、Tr* 要求制動トルク、V 車速、Vb バッテリ電圧、r 回生制限レート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池からなるバッテリと、液圧に応じた制動力を車輪に作用させるように構成された制動装置と、前記車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータと、前記モータジェネレータの出力トルクを制御するように前記バッテリと前記モータジェネレータとの間で双方向の電力変換を実行するための電力制御器とを搭載した車両の制御装置であって、
前記バッテリの充放電履歴に基づいて、前記バッテリの負極電位がリチウム基準電位まで低下することを防止するように前記バッテリの充電電力上限値を調整するための充電制御手段と、
調整された前記充電電力上限値の範囲内で前記モータジェネレータが回生制動力を発生するように、ブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、前記制動装置による液圧制動力と前記回生制動力との分担を決定するための制動制御手段とを備え、
前記充電制御手段は、
前記負極電位の低下を防止するために前記充電電力上限値を制限することによって前記バッテリの充電電流を制限する際における前記充電電力上限値の制限度合を、前記車両の速度および前記バッテリの状態に応じて可変に設定するための設定手段を含む、車両の制御装置。
【請求項2】
前記充電制御手段は、
前記充放電履歴に基づいて前記バッテリの負極にリチウム金属が析出しない最大電流として入力許容電流値を逐次設定するとともに、当該入力許容電流値に対してマージンを有するように入力電流制限目標値を決定するための手段と、
前記バッテリの充電電流が前記入力電流制限目標値を超えたときに、前記充電電力上限値を第1の時間変化率に従って減少させるための手段とをさらに含み、
前記設定手段は、前記車両の速度および前記バッテリの状態に応じて前記第1の時間変化率を変化させるとともに、前記第1の時間変化率が高いほど前記マージンが小さくなるように前記マージンを変化させる、請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記バッテリの温度が所定の温度領域よりも高温または低温である場合には、前記第1の時間変化率を前記所定の温度領域における値よりも高く設定する、請求項2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記設定手段は、前記バッテリのSOCが高くなるほど前記第1の時間変化率を高く設定する、請求項2または3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記車両の速度が高くなるほど前記第1の時間変化率を高く設定する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記充電電力上限値の制限を開始する条件は、前記制限度合が高いほど緩和される、請求項1記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−223044(P2012−223044A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89032(P2011−89032)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】