説明

車両制御システム

【課題】 シフトレンジ検出装置のシフトレンジ検出信号の異常時にもエンジン始動を正常に制御する車両制御システムを提供する。
【解決手段】 SBW用ECU80は、自動変速機8のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出装置60のPレンジ信号の検出箇所が断線しているときに、自動変速機8のシフトレンジを切り替えるシフトレンジ切替弁を駆動装置20が駆動する駆動量がPレンジに相当する場合、E/G用ECU84にエンジン始動許可信号を送信する。またSBW用ECU80は、シフトレンジ検出装置60のNレンジ信号の検出箇所が断線しているときに、シフトレンジ切替弁を駆動装置20が駆動する駆動量がNレンジに相当する場合、E/G用ECU84にエンジン始動許可信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトバイワイヤシステムにおいて、車両搭乗者が選択した指示シフトレンジに応じてエンジン始動を許可または禁止する車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両搭乗者が選択した指示シフトレンジを検出し、自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトレンジ切替弁を、検出した指示シフトレンジに応じて電動モータ等の電動アクチュエータで駆動するシフトバイワイヤシステムが用いられるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。このようなシフトバイワイヤシステムにおいては、車両搭乗者が選択した指示シフトレンジをシフトレンジ検出装置で検出し、検出された指示シフトレンジがPレンジまたはNレンジであればエンジン始動を許可し、PレンジおよびNレンジ以外のシフトレンジであればエンジンの始動を禁止することが公知である。
しかしながら、指示シフトレンジを検出したシフトレンジ検出装置のシフトレンジ検出信号に基づいてエンジン始動を制御すると、シフトレンジ検出信号の異常時にエンジン始動を正常に制御できないとという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特許第29766885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、シフトレンジ検出装置のシフトレンジ検出信号の異常時にもエンジン始動を正常に制御する車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1から6記載の発明では、シフトレンジ検出装置のシフトレンジ検出信号の異常時に、シフトレンジ切替弁を駆動する電動アクチュエータの駆動量を検出した駆動量検出信号に基づいてエンジン始動の可否を判定する。電動アクチュエータは指示シフトレンジに応じて制御されるので、電動アクチュエータがシフトレンジ切替弁を駆動する駆動量は指示シフトレンジに応じて異なる。したがって、自動変速機のシフトレンジをシフトレンジ検出装置が正しく検出できない場合にも、駆動量検出信号に基づいてエンジン始動を正常に制御できる。
【0006】
請求項2記載の発明では、シフトレンジ検出装置がシフトレンジのうちエンジン始動許可レンジ、例えばP(パーキング)レンジまたはN(ニュートラル)レンジを検出しておらず、電動アクチュエータの駆動量を検出した駆動量検出信号がエンジン始動許可レンジに相当する場合、エンジン始動を許可する。したがって、シフトレンジ検出信号の異常時にも、駆動量検出装置の駆動量検出信号に基づいてエンジンを始動できる。
【0007】
請求項3記載の発明では、シフトレンジ検出装置がシフトレンジのうちエンジン始動許可レンジを検出している一方、駆動量検出信号がエンジン始動許可レンジに相当しない場合、エンジン始動を禁止する。したがってシフトレンジ検出装置がエンジン始動許可レンジを検出している場合でも、シフトレンジ検出信号の異常時には、駆動量検出装置の駆動量検出信号に基づいてエンジン始動を禁止できる。
【0008】
請求項4記載の発明では、駆動量検出装置が電動アクチュエータの駆動量を正常に検出し、駆動量検出信号が相当するシフトレンジと、シフトレンジ検出装置が検出するシフトレンジとが不一致の場合、シフトレンジ検出装置の異常を警告装置が知らせる。したがって、車両搭乗者は、警告装置の警告により適切な対処を行うことができる。
請求項5記載の発明では、駆動量検出装置が電動アクチュエータの駆動量を正常に検出し、駆動量検出信号が相当するシフトレンジと、シフトレンジ検出装置が検出するシフトレンジとが不一致の場合、レンジ表示装置は駆動量検出信号に基づいて指示シフトレンジを表示する。したがって、シフトレンジ検出信号の異常時にも指示シフトレンジを正確に表示できる。
【0009】
尚、本発明に備わる複数の装置の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の装置の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による車両制御システムについて説明する。尚、以下の説明では、電子制御装置をECUと略記する。
第1実施形態による車両制御システムを用いた車両システムを図1に示す。車両制御システムは、エンジン2の始動の可否を判定するシステムである。また、車両システムのシフトレンジは、シフトバイワイヤシステム10(図2参照)により決定される。シフトバイワイヤシステム10は、二輪駆動式または四輪駆動式の車両の走行を制御するシステムであり、駆動装置20およびシフトバイワイヤ(SBW)用のECU80等から構成されている。ECU80は、駆動装置20の電動モータ22(図3参照)の回転角度を制御する電動モータ制御装置および始動制御装置を兼ねている。電動モータ22は、特許請求の範囲に記載した電動アクチュエータを構成している。
【0011】
SBW用のECU80、エンジン(E/G)2用のECU84、自動変速機(A/T)6用のECU86、パネル表示用のECU88は、いずれもマイクロコンピュータを主体に構成された電気回路であり、CPU、RAM、ROM、EEPROM等から構成されている。ROM、EEPROMには、ECU80、84、86、88で実行される制御プログラムが記憶されている。ECU80、84、86、88は、車両の主電源であるバッテリ92から電力を供給されて作動する。また、ECU80、84、86、88は、車内LAN回線94を介して電気的または光学的に相互接続されており、互いに信号の送受信を行うことができる。
【0012】
SBW用のECU80は、車両搭乗者がシフトレンジ切替装置としてのシフトレバー82を操作して選択した指示シフトレンジを検出し、この指示シフトレンジに応じて駆動装置20を作動させてマニュアルバルブ58(図2参照)の往復移動位置を制御する。指示シフトレンジに応じてシフトレンジ切替弁としてのマニュアルバルブ58が往復移動することにより、自動変速機制御装置12内の油路に加わる油圧が切り替わり、自動変速機8のシフトレンジが切り替わる。車両搭乗者がシフトレンジを選択する装置は、シフトレバー82に代え、ボタン式のシフトスイッチでも、車両搭乗者が音声でシフトレンジを指示する音声認識装置のようなものであってもよい。また、シフトレバー82のシフトレンジ位置は、シフトレバー82と連動して接点位置が変化する接点スイッチ等により検出される。
【0013】
本実施形態では、E/G用のECU84はSBW用のECU80とともに始動制御装置を構成している。ECU84は、エンジン2の回転数センサ3等の検出信号を元にエンジン2の運転状態を検出し、図示しないインジェクタの噴射量、スロットル装置の開度等を制御する。また、ECU84は、ECU80からLAN回線94経由で受け取る駆動装置20の電動モータ22の回転角度と、シフトレンジ検出装置60が検出した自動変速機8のシフトレンジとに基づいてリレースイッチ4を制御し、スタータ6によるエンジン2の始動の可否を決定する。
【0014】
A/T用のECU86は、自動変速機制御装置12の電磁弁14等を制御することにより自動変速機8のクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合要素に加わる駆動油圧を増減し、摩擦係合要素の係合および解放を切り替える。自動変速機8の摩擦係合要素の係合および解放が切り替わることにより、自動変速機8の変速段は切り替わる。ECU86は、自動変速機制御装置12から自動変速機8の摩擦係合要素に加わる駆動油圧を検出する油圧センサ16、自動変速機8の出力軸の回転数等から車速を検出する車速センサ18、ならびにシフトレバー82で選択された指示シフトレンジの検出信号を元に各電磁弁14を制御し、自動変速機8の摩擦係合要素の係合、解放状態を切り替えることにより変速段の切り替えを実現している。指示シフトレンジの検出位置は、ECU80からECU86に通知されてもよいし、ECU86が直接検出してもよい。図1では油圧センサ16は自動変速機制御装置12に設置されているが、自動変速機8側に設置されてもよい。
【0015】
パネル表示用のECU88は、回転数センサ3、車速センサ18、シフトレバー82と連動して接点位置が変化する接点スイッチ等の検出信号を直接またはLAN回線94経由で取得し、フロントパネルのパネル表示装置90に各種情報を表示する。パネル表示装置90は、特許請求の範囲に記載した警告装置およびレンジ表示装置を構成している。
【0016】
(シフトバイワイヤシステム10)
図2にシフトバイワイヤシステム10を示す。ECU80は、車両搭乗者が選択したシフトレバー82の指示シフトレンジ位置を接点スイッチ等で検出し、検出した指示シフトレンジに応じた回転を駆動装置20の電動モータ22に指示し、指示シフトレンジに応じた回転角度量を回転するように電動モータ22を制御する。コントロールロッド50は、電動モータ22の出力軸38(図3参照)と結合しており、電動モータ22の駆動力を後述する減速機30を介して伝達される。コントロールロッド50には、ディテントプレート52が一体となって回転するように固定されている。ディテントプレート52が図2の矢印A、B方向に回転することによりマニュアルバルブ58の往復移動位置が決定される。
【0017】
次に、シフトバイワイヤシステム10の駆動装置20、ディテントプレート52およびシフトレンジ検出装置60(図4参照)について詳細に説明する。
(駆動装置20)
図3に示すように、駆動装置20は、電動モータ22、減速機30およびエンコーダ40等からなる。
本実施形態の電動モータ22は、永久磁石を用いないブラシレスのSR電動モータ(スイッチドリラクタンス電動モータ)である。電動モータ22は、中央部に設置されたロータコア24、ロータコア24の外周を囲むステータコア26、ステータコア26に巻回されたコイル28等からなる。ロータコア24には、外周側のステータコア26に向けて突出するロータティース25が回転方向に複数設けられている。ステータコア26には、内周側のロータコア24に向けて突出するステータコアティース27が回転方向に複数設けられている。コイル28は各ステータコアティース27に巻回されている。U相、V相、W相に対応するコイル28はスター結線されている。コイル28への通電は、ECU80が図示しないトランジスタをオン、オフすることにより制御される。ECU80がU相、V相、W相のコイル28への通電を順次スイッチングすることにより、ステータコアティース27のロータコア24側の各磁極の磁化状態が順次切り替わる。これにより、ステータコアティース27と向き合うロータティース25が一方の回転方向に向けてステータコアティース27に吸引され、ロータコア24が回転する。ロータコア24の回転方向は、U相、V相、W相のコイル28への通電順序によって決まり、U相、V相、W相の順に通電を切り替えた場合を正転とすると、W相、V相、U相の順に通電を切り替えた場合は反転となる。
【0018】
減速機30は内接式遊星歯車機構を利用した減速機である。減速機30のサンギヤ32の回転軸はロータコア24の回転軸に対して偏心している。サンギヤ32の外周にサンギヤ32が内接噛合するリングギヤ34が設置されている。円板36は、サンギヤ32対してロータコア24と反対側の端面側に取り付けられている。円板36に回転方向に複数形成された貫通孔37は、円板36側に突出しているサンギヤ32の突部33に緩く嵌合している。ロータコア24が回転すると、リングギヤ34に内接噛合しているサンギヤ32は自転しながら公転する。そして、サンギヤ32の突部33と円板36の貫通孔37との緩い嵌合により、自転しながら公転するサンギヤ32の自転成分だけが円板36から出力軸38に伝達される。出力軸38には、コントロールロッド50が結合されている。このような減速機30の構成により、ロータコア24に対して偏心しながら減速回転するサンギヤ32の回転が出力軸38からコントロールロッド50およびディテントプレート52に伝達される。
【0019】
駆動量検出装置および角度検出装置およびとしてのエンコーダ40は、ロータコア24の回転方向に複数取り付けられた磁石42と、駆動装置20のハウジング内に磁石42と向き合って回路基板上に設置されている磁気検出用のホールIC44等からなる。本実施形態では、エンコーダ40は、ロータコア24の回転角度量に応じたパルス数を加算、減算して出力するインクリメンタル型のデジタルエンコーダである。ロータコア24の回転角度量に応じたパルス数は、特許請求の範囲に記載した電動アクチュエータの駆動量に相当する。ECU80は、エンコーダ40が出力するロータコア24の回転角度量であるカウント数を参照しながら、目標のカウント数になるまで電動モータ22を回転制御することにより、指示シフトレンジに相当する回転位置にディテントプレート52を回転させる。ECU80は、目標カウント数を含む所定のカウント数の範囲内に電動モータ22が回転すると、指示シフトレンジに相当する回転位置にディテントプレート52が達したと判断し、電動モータ22の回転制御を終了する。
【0020】
図5に、駆動装置20のエンコーダ40の駆動量検出信号および角度検出信号であるカウント数と、後述するシフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号との関係を示す。エンコーダ40が出力するカウント数は、PレンジからD(ドライブ)レンジにシフトレンジが切り替わるにしたがって増加し、PレンジからDレンジにシフトレンジが切り替わるにしたがって減少する。
【0021】
(ディテントプレート52)
図2に示すように、ディテントプレート52はほぼ扇形をなす板状の部材であって、その円弧状の外周部に複数の凹部53が形成されている。ディテントスプリング56は板バネであり、自動変速機制御装置12に片持ち状に固定されている。ディテントスプリング56の先端部にはディテントプレート52の凹部53に係合するローラ57が取り付けられており、ローラ57はディテントスプリング56の弾性力によりディテントプレート52の凹部53のいずれかに係合する。ディテントプレート52にはマニュアルバルブ58に嵌合しているピン54が設けられている。ディテントプレート52がコントロールロッド50とともに回転すると、ピン54と嵌合しているマニュアルバルブ58がディテントプレート52の回転位置に応じて往復移動する。凹部53とローラ57とはマニュアルバルブ58における各シフトレンジの設定位置に対応させて配置されており、ローラ57がいずれかの凹部53に完全に係合することによりその凹部53に対応するシフトレンジ位置にマニュアルバルブ58が設定される。駆動装置20の電動モータ22が回転しシフトレバー84で選択された指示シフトレンジに対応するシフトレンジ位置にマニュアルバルブ58が移動することにより、自動変速機8の変速段は、マニュアルバルブ58の往復移動位置で特定されたシフトレンジに対応する変速段となるように自動変速機制御装置12により制御される。
【0022】
(シフトレンジ検出装置60)
図4にシフトレンジ検出装置60を示す。図4は、ディテントプレート52とシフトレンジ検出装置60との相対的な角度位置関係を示しているだけであり、シフトレンジ検出装置60がディテントプレート52上に設置されているわけではない。実際には、シフトレンジ検出装置60は、コントロールロッド50の駆動装置20側の端部、もしくはコントロールロッド50の駆動装置20とは反対側の端部に、ディテントプレート52の凹部53との検出角度位置関係が図4に示す関係になるように組み付けられている。
【0023】
シフトレンジ検出装置60の複数のシフトレンジ端子T1、T2、T3、T4、T5および2個のアース端子T6は、コントロールロッド50の回転方向に沿って設置されている。コントロールロッド50およびディテントプレート52とともに2個の接触端子62が回転し、これら端子T1、T2、T3、T4、T5、T6と順次接触する構成により、シフトレンジ検出装置60は構成されている。
【0024】
シフトレンジ端子T1、T2、T3、T4は、同一円弧上に互いに電気的に接続しないように形成され、かつ回転軸であるコントロールロッド50から見て、Pレンジ、R(後進)レンジ、Nレンジ、Dレンジに対応する凹部53p、53r、53n、53dと同一角度位置を検出できるように設置されている。2個のシフトレンジ端子T5は、それぞれシフトレンジ端子T1、T3と同一角度上に設置されている。2個のアース端子T6は、ディテントプレート52の凹部53pと凹部53dとの間の角度範囲に相当するシフトレンジ端子T1とシフトレンジ端子T4との間に円弧状に連続して形成されている。シフトレンジ端子T1、T2、T3、T4、T5、T6は図示しない固定部材に取り付けられている。
【0025】
2個の接触端子62は半径方向に延びており、支持部材64に取り付けられている。支持部材64はコントロールロッド50と固定されており、接触端子62はコントロールロッド50とともに回転する。接触端子62は、シフトレンジ端子T1、T2、T3、T4と一方のアース端子T6、ならびにシフトレンジ端子T5と他方のアース端子T6とをそれぞれ電気的に接続する。ディテントプレート52が電動モータ22の回転により図4の矢印A、Bの両方向に回転すると、ディテントプレート52の回転位置によって接触端子62がシフトレンジ端子T1、T2、T3、T4、T5とアース端子T6とを導通させる組み合わせが図5に示すように変化する。この導通状態から、ディテントプレート52の回転位置、すなわちマニュアルバルブ58の往復移動位置が分かるので、自動変速機8で選択されているシフトレンジを検出できる。
【0026】
なお、図4ではシフトレンジ端子T1、T2、T3、T4とディテントプレート52の凹部53との対比を分かりやすくするため、シフトレンジ端子T1、T2、T3、T4とディテントプレート52の凹部53p、凹部53r、凹部53n、凹部53dの回転方向の並び順が同じになるように記載してあるが、実際にはシフトレンジ端子T1、T2、T3、T4側が回転するのではなく、支持部材64に固定された接触端子62がコントロールロッド50およびディテントプレート52の回転に伴って回転する形態であるため、シフトレンジ端子T1、T2、T3、T4とディテントプレート52の凹部53p、凹部53r、凹部53n、凹部53dの回転方向の並び順が逆方向になるように構成されている。
【0027】
(パーキングロック機構)
図2に示すように、パーキングロック機構は、パーキングギヤ70の外周部に形成されている凹部にパーキングロックポール72の爪73を係合させて自動変速機8の出力軸の回転を止めるように構成されている。パークロッド74の一端はディテントプレート52に固定されており、他端にはテーパーコーン状のカム76が嵌合している。カム76はスプリング78により他端側に押圧された状態でパークロッド74に嵌合しており、パークロッド74に沿って往復移動自在である。ディテントプレート52の回転に伴いパークロッド74が往復移動することにより、カム76がパーキングロックポール72を上下動させ、パーキングロックポール72の爪73がパーキングギヤ70に係合、またはパーキングギヤ70から外れる。パーキングロックポール72の爪73がパーキングギヤ70に係合すると、自動変速機8の出力軸の回転が機械的に禁止される。
【0028】
次に、シフトレンジ検出装置60の異常判定に基づいたエンジン2の始動可否について説明する。
(エンコーダ40のカウント数の初期設定)
まず、エンジン始動時のエンコーダ40のカウント数の設定について図6に基づき説明する。図6に示すルーチンは、エンジンをキーを回すときに、1回だけ実行される。
ステップ200において、ECU80は、エンジン2を停止したときのエンコーダ40のカウント数を記憶しているかを判定する。記憶している場合には記憶しているカウント数をエンコーダカウンタにセットし(ステップ202)、本ルーチンを終了する。
【0029】
バッテリ92、またはECU80を取り替えた等でエンコーダ40のカウント数を記憶していない場合、ECU80は、エンコーダ40のカウント数を初期値にするために、ローラ57がPレンジの凹部53pの側壁に当たりエンコーダ40のカウント数が変化しなくなるまで電動モータ22を駆動する(ステップ204、206)。ECU80は、エンコーダの40のカウント数が変化しなくなると、エンコーダカウンタを0にリセットする(ステップ208)。
【0030】
(シフトレンジ検出信号の異常判定)
シフトレンジ検出信号の異常判定について図7に基づいて説明する。図7に示すルーチンはメインループで常時実行される。
ステップ210において、ECU80は、ECU80がU相、V相、W相のコイル28への通電を順次スイッチングすることによりエンコーダ40のカウント数が所定のカウント数に変化するかを判定する。エンコーダ40のカウント数が所定のカウント数に変化しない場合、ECU80は、電動モータ22またはエンコーダ40の異常であると判定し、ステップ212において、パネル表示用ECU88に電動モータ22またはエンコーダ40の異常を通知しパネルに表示させる。パネル表示に代えて音声により車両搭乗者に警告してもよい。
【0031】
ECU80は、電動モータ22およびエンコーダ40が正常に作動していれば、ステップ214において、図5に示すエンコーダ40のカウント数とシフトレンジとの対応を元に、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当するかを判定する。ECU80は、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当しない場合、図7に示すルーチンにおいて、Rレンジ、Dレンジ、NレンジとPレンジとを置き換えた他のルーチンを順次実行する。
【0032】
エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当する場合、ECU80は、ステップ216において、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号がPレンジを表しているかを判定する。ECU80は、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当するにも関わらずシフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号がPレンジを表していない場合、シフトレンジ検出装置60においてPレンジの検出箇所に断線が生じていると判定する(ステップ218)。ECU80は、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当し、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号がPレンジを表している場合、シフトレンジ検出装置60においてPレンジの検出信号は正常であると判定する(ステップ220)。
【0033】
ステップ222以降において、ECU80は、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当する場合に、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号がRレンジ、Nレンジ、Dレンジを表している場合は、シフトレンジ検出装置60においてRレンジ、Nレンジ、Dレンジの検出箇所がショートしていると判定する。
前述したように、図7に示すルーチンにおいて、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当しない場合、ECU80は、Rレンジ、Dレンジ、NレンジとPレンジとを置き換えた他のルーチンを順次実行することにより、Pレンジの検出箇所のショート、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジの検出箇所の断線を判定できる。
【0034】
(エンジン始動許可の判定)
次に、エンジン始動の許可、禁止を判定するルーチンを図8、図9に示す。図8、図9に示すルーチンはメインループで常時実行される。図8のステップ240、246において判定するシフトレンジ検出装置60のPレンジ信号の断線、Nレンジ信号の断線の判定、ならびに図9のステップ250、256において判定するシフトレンジ検出装置60のPレンジ信号のショート、Nレンジ信号のショートの判定は、図7のルーチン、ならびに図7においてRレンジ、Dレンジ、NレンジとPレンジとを置き換えた他のルーチンにおいて判定済みである。
【0035】
まず図8について説明する。ECU80は、ステップ240において、シフトレンジ検出装置60のPレンジの検出箇所が断線しているかを判定する。ECU80は、Pレンジの検出箇所に断線があり、エンコーダ40のカウント数がPレンジに相当する場合(ステップ242)、ステップ244において、E/G用ECU84にエンジン始動許可信号を送信する。
【0036】
ECU80は、シフトレンジ検出装置60のPレンジの検出箇所に断線がないか、断線していてもエンコーダ40のカウント数がPレンジに相当しない場合は、ステップ246において、シフトレンジ検出装置60のNレンジの検出箇所が断線しているかを判定する。ECU80は、Nレンジの検出箇所に断線があり、エンコーダ40のカウント数がNレンジに相当する場合(ステップ248)、ステップ244において、E/G用ECU84にエンジン始動許可信号を送信する。シフトレンジ検出装置60のNレンジの検出箇所に断線がないか、断線していてもエンコーダ40のカウント数がNレンジに相当しない場合は、本ルーチンを終了する。
このように、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号に異常があり、シフトレンジ検出信号がエンジン始動許可レンジであるPレンジまたはNレンジを表していない場合にも、エンコーダ40のカウント数が相当するシフトレンジに基づき、エンジン始動を許可することができる。
【0037】
(エンジン始動禁止の判定)
次に図9について説明する。ステップ250において、ECU80は、シフトレンジ検出装置60のPレンジの検出箇所がショートしているかを判定する。ECU80は、Pレンジの検出箇所がショートしており、エンコーダ40のカウント数がDレンジまたはRレンジに相当する場合(ステップ252)、ステップ254において、E/G用ECU84にエンジン始動禁止信号を送信する。
【0038】
ECU80は、シフトレンジ検出装置60のPレンジの検出箇所がショートしていない場合、ステップ256において、シフトレンジ検出装置60のNレンジの検出箇所がショートしているかを判定する。ECU80は、Nレンジの検出箇所がショートしており、エンコーダ40のカウント数がDレンジまたはRレンジに相当する場合(ステップ252)、ステップ254において、E/G用ECU84にエンジン始動禁止信号を送信する。
このように、シフトレンジ検出信号がエンジン始動許可レンジであるPレンジまたはNレンジを表している場合にも、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号に異常があれば、エンコーダ40のカウント数が相当するシフトレンジに基づき、エンジン始動を禁止することができる。
【0039】
(エンジン始動の可否判定)
エンジン始動の可否判定ルーチンを図10に示す。図10に示すルーチンはメインループで常時実行される。
E/G用ECU84は、エンジンキーがスタート位置まで回転していないと本ルーチンを終了する(ステップ260)。ECU84は、エンジンキーがスタート位置まで回転すると、エンジン始動許可信号がECU80から送信されているかを判定し(ステップ262)、送信されている場合はリレースイッチ4を制御しスタータ6によりエンジン2を始動する(ステップ270)。
【0040】
ECU84は、エンジン始動許可信号がECU80から送信されておらずオフのとき、エンジン始動禁止信号がECU80から送信されていれば(ステップ264)、本ルーチンを終了する。
ECU84は、エンジン始動許可信号およびエンジン始動禁止信号がECU80から送信されておらず、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号に異常があれば本ルーチンを終了する(ステップ266)。ECU84は、シフトレンジ検出信号に異常がなく、シフトレンジ検出信号がエンジン始動許可レンジであるPレンジまたはNレンジであれば、ステップ270においてエンジンを始動する。
【0041】
(警告表示)
図11に、シフトレンジ検出装置60の異常を警告するルーチンを示す。図11に示すルーチンは、メインループで常時実行される。
ECU80は、ステップ280において、シフトレンジ検出装置60のレンジ検出箇所が断線またはショートしており、シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号に異常があるかを判定する。異常がなければ本ルーチンを終了する。異常があれば、ステップ282において、ECU80は、エンコーダ40のカウント数が異常のあるシフトレンジに相当するかを判定する。エンコーダ40のカウント数が異常のあるシフトレンジに相当しない場合は本ルーチンを終了する。ECU80は、エンコーダ40のカウント数が異常のあるシフトレンジに相当する場合、ステップ284において、パネル表示用のECU88にシフトレンジ検出装置60に異常があることを通知し、パネル表示装置90に警告を表示させる。警告をパネル表示する代わりに、音声で警告してもよい。パネル表示また音声によりシフトレンジ検出装置60の異常が車両搭乗者に警告することにより、車両搭乗者は適切な対処を行うことができる。シフトレンジ検出装置60の異常は図7のルーチン、ならびに図7においてRレンジ、Dレンジ、NレンジとPレンジとを置き換えた他のルーチンにおいて検出されており、エンコーダ40が電動モータ22の回転角度を正常に検出している場合に警告される。
シフトレンジ検出装置60のシフトレンジ検出信号に異常がある場合、パネル表示用ECU88は、エンコーダ40のカウント数に基づいて、指示シフトレンジをパネル表示装置90に表示してもよい。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図12に示す。尚、第1実施形態と実質的に同一構成部分に同一符号を付す。図12は簡略化されたエンジン始動制御回路を示しており、エンジン始動を制御するために必要な条件で省略しているものもある。
第2実施形態では、E/G用ECU84を介さず、SBW用ECU80からのエンジンスタート許可信号と、シフトレンジ検出装置60からのPレンジ信号およびNレンジ信号と、エンジンキーがスタート位置まで回転したときのON信号とを、OR回路100およびAND回路102で論理演算してリレースイッチ4を制御する。エンジンキーがスタート位置まで回転したときに、SBW用ECU80からエンジン始動許可信号が出力されるか、シフトレンジ検出装置60からPレンジ信号またはNレンジ信号が出力されると、エンジン2が始動される。このように第2実施形態では、E/G用ECU84は始動制御装置を構成せず、SBW用ECU80、OR回路100およびAND回路102が始動制御装置を構成している。
【0043】
(他の実施形態)
上記複数の実施形態では、電動モータとしてSR電動モータを使用し、電動モータの回転角度を検出する角度検出装置としてエンコーダ40を使用したが、電動モータとしてDC電動モータを使用し、角度検出装置として磁気抵抗素子またはホール素子等を用い回転角度に応じて変化する出力レベルを元に回転角度を検出する回転角度センサを使用してもよい。
【0044】
また上記複数の実施形態では、電動アクチュエータとして電動モータ22を用いたが、マニュアルバルブ58を駆動してマニュアルバルブ58の往復移動位置を変更できるのであればどのような電動アクチュエータを用いてもよい。例えばマニュアルバルブ58を液圧駆動するための電磁弁等を電動アクチュエータとして用いてもよい。
【0045】
上記複数の実施形態では、シフトレンジ検出装置60によりディテントプレート52の回転位置を検出したが、マニュアルバルブ58の往復移動位置を検出するシフトレンジ検出装置を用いてもよい。
このように、本発明は、上記複数の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1実施形態による車両システムのブロック図。
【図2】第1実施形態によるシフトバイワイヤシステムの構成図。
【図3】第1実施形態の駆動装置の断面図。
【図4】第1実施形態によるディテントプレートおよびシフトレンジ検出装置の模式図。
【図5】第1実施形態のシフトレンジ検出装置によるシフトレンジ検出信号とエンコーダのカウント数との対応を示す説明図。
【図6】エンコーダのカウント数を初期設定するルーチン。
【図7】シフトレンジ検出装置の異常を判定するルーチン。
【図8】エンジンの始動許可を判定するルーチン。
【図9】エンジンの始動禁止を判定するルーチン。
【図10】エンジン始動の可否を判定するルーチン。
【図11】シフトレンジ検出装置の異常警告ルーチン。
【図12】第2実施形態によるエンジンの始動制御回路。
【符号の説明】
【0047】
2:エンジン、10:シフトバイワイヤシステム(車両制御システム)、12:自動変速機制御装置、20:駆動装置、22:電動モータ(電動アクチュエータ)、40:エンコーダ(駆動量検出装置、角度検出装置)、58:マニュアルバルブ(シフトレンジ切替弁)、60:シフトレンジ検出装置、80:SBW用ECU(始動制御装置)、84:E/G用ECU(始動制御装置)、86:A/T用ECU、88:パネル表示用ECU、90:パネル表示装置(警告装置、レンジ表示装置)、100:OR回路(始動制御装置)、102:AND回路(始動制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両搭乗者が選択したシフトレンジである指示シフトレンジに応じて制御される電動アクチュエータであって、自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトレンジ切替弁を駆動する電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータが前記シフトレンジ切替弁を駆動する駆動量を検出する駆動量検出装置と、
前記自動変速機のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出装置と、
前記シフトレンジ検出装置のシフトレンジ検出信号に基づいてエンジン始動の可否を判定し、前記シフトレンジ検出信号の異常時に、前記駆動量検出装置の駆動量検出信号に基づいてエンジン始動の可否を判定する始動制御装置と、
を備える車両制御システム。
【請求項2】
前記始動制御装置は、前記シフトレンジ検出装置がシフトレンジのうちエンジン始動許可レンジを検出している場合にエンジンの始動を許可し、前記シフトレンジ検出装置が前記エンジン始動許可レンジを検出していない場合に前記駆動量検出信号が前記エンジン始動許可レンジに相当すると、エンジン始動を許可する請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記始動制御装置は、前記シフトレンジ検出装置がシフトレンジのうちエンジン始動許可レンジを検出している場合に前記駆動量検出信号が前記エンジン始動許可レンジに相当しないと、エンジン始動を禁止する請求項1または2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記駆動量検出装置が前記電動アクチュエータの駆動量を正常に検出し、前記シフトレンジ検出装置が検出するシフトレンジと前記駆動量検出信号が相当するシフトレンジとが不一致の場合、前記シフトレンジ検出装置の異常を知らせる警告装置をさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記指示シフトレンジを表示するレンジ表示装置をさらに備え、前記駆動量検出装置が前記電動アクチュエータの駆動量を正常に検出し、前記シフトレンジ検出装置が検出するシフトレンジと前記駆動量検出信号が相当するシフトレンジとが不一致の場合、前記レンジ表示装置は、前記駆動量検出信号に基づいて前記指示シフトレンジを表示する請求項1から4のいずれか一項に記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記電動アクチュエータは前記指示シフトレンジに応じて回転制御される電動モータであり、
前記駆動量検出装置は前記電動モータの回転角度を検出する角度検出装置である請求項1から5のいずれか一項に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−40367(P2007−40367A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223955(P2005−223955)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】