説明

車両用オイル供給システム

【課題】車両の運転状態の変化に応じ、自動変速機で要求される所要の圧力値の作動油を迅速に供給でき、変速操作が円滑に行えるとともに、該作動油を自動変速機に供給するための動力の低減が図れる。
【解決手段】自動車のCVT46に設けられ、その実際の変速比を作動油を介して目標変速比になるように制御する変速油圧制御装置58と該変速油圧制御装置58に作動指令を送信するCVTコントローラ49とを具備した車両用オイル供給システム58sである。変速油圧制御装置58が、CVT46に作動油を供給するべく電動モータ3によって駆動される電動オイルポンプ10を備えており、電動モータ3が、CVTコントローラ49からの作動指令に基づき、CVT46に供給される作動油の圧力を高める正転方向と該圧力を下げる逆転方向とに回転駆動され、当該作動油の圧力が自動車の運転状態に応じた所要の圧力値とされるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられる車両用オイル供給システムに関し、詳しくは、当該車両の運転状態に応じて所要の流量の作動油を該車両の自動変速機に供給するための車両用オイル供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、前記自動変速機の変速比が目標変速比に一致するように当該自動変速機を作動油を介して制御する変速油圧制御装置と該変速油圧制御装置に作動指令を送信するコントローラとを具備し、当該車両の運転状態に応じ、自動変速機の変速のために必要な油圧・油量を確保するようにした車両用オイル供給システムが設けられている。
【0003】
以下、こうした車両用オイル供給システムが設けられる自動車の全体構成を図5(a)及び図5(b)を参照しながら説明する。
該自動車40は、その自動変速機として、軽自動車・小型車を中心に採用され、無段階に変速を行うベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)を備えたものである。そして、該自動車40は、図5(a)を参照して、エンジン41の回転軸(クランクシャフト)41aの回転により、該エンジン41からの動力がトランスアクスル42を介して車両前方の車輪軸40aに伝達するように構成されている。詳しくは、図5(b)を参照して、このトランスアクスル42は、トルクコンバータ43及び前後進切換装置44からなる動力切替機構45と、該動力切替機構45に入力側のプライマリプーリ46aが作動的に連結されたベルト式無段変速機(以下、CVTという。)46と、該CVT46の出力側のセカンダリプーリ46bに作動的に連結された減速歯車47とを備えている。該プライマリプーリ46a及びセカンダリプーリ46bには、Vベルト46vが巻き掛けられており、両プーリ46a,46bとVベルト46vとの間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。そして、該セカンダリプーリ46bが、減速歯車47を介して自動車前方の車輪軸40aに作動的に連結され、前記エンジン41からの動力が該車輪軸40aに伝達されるように構成されている。尚、図5(a)及び図5(b)に示す自動車40には、前記エンジン41を始動させるためのスタータ41sが設けられている。
【0004】
そして、図5(b)を参照して、この自動車40には、前記CVT46の実際の変速比γが目標変速比γ*に一致するように当該CVT46を作動油を介して制御する変速油圧制御装置48と、該変速油圧制御装置48に作動指令としての制御信号を送信するCVTコントローラ49とからなる車両用オイル供給システム48sが設けられている。
【0005】
前記変速油圧制御装置48は、所定の挟圧力制御条件に基づいて作動油を介して前記セカンダリプーリ46bのベルト挟圧力を制御する挟圧力制御装置46cとともに、油圧制御部48pに設けられている。該挟圧力制御装置46cは、リニアソレノイド46Lを介してCVTコントローラ49に接続されており、前記CVTコントローラ49から送信される制御信号に基づき作動するようにされている。
【0006】
前記CVTコントローラ49には、CVT46のプライマリプーリ46a及びセカンダリプーリ46bに各々配設された入力軸回転速度センサSa及び出力軸回転速度センサSbから各プーリ46a,46bの回転数Np,Nsを表すセンサ信号が入力され、該センサ信号に基づき、当該CVTコントローラ49にて実際の変速比γが演算される。更に該変速比γが当該CVTコントローラ49にて車速及びアクセル開度に基づき算出された目標変速比γ*と比較され、γ,γ*の偏差Δγ(=|γ*−γ|)が0になるために前記プライマリプーリ46aが必要とする油圧P[MPa]が演算される。そして、該CVTコントローラ49によって前記変速油圧制御装置48が制御され、前記プライマリプーリ46aに所要の圧力値としての前記油圧P[MPa]とされた作動油が供給され、これによりCVT46の変速操作が行われる。
【0007】
図6及び図7を参照して、前記変速油圧制御装置48についてさらに詳細に説明すると、該変速油圧制御装置48は、変速比γを小さくするアップシフト用の電磁開閉弁48a及び流量制御弁48bと、変速比γを大きくするダウンシフト用の電磁開閉弁48c及び流量制御弁48dとを備えている。この変速油圧制御装置48では、エンジン41の回転軸(クランクシャフト41a)(図5(a)参照)の回転力によって駆動された機械式油圧ポンプ60がエンジン回転速度に応じて常時高速回転することで、CVT46の変速操作のための油圧源となっている。
【0008】
そして、アップシフト用の電磁開閉弁48aがCVTコントローラ49によりデューティ制御されると、所定の制御圧が流量制御弁48bに出力され、その制御圧に対応して調圧されたライン圧が供給路46dからプライマリプーリ46aの油圧シリンダに供給されることにより、図7中のBに示すように、そのV溝46fの間隔が狭くなって変速比γが小さくなる。また、ダウンシフト用の電磁開閉弁48cがCVTコントローラ49によりデューティ制御されると、所定の制御圧が流量制御弁48dに出力され、その制御圧に対応してドレーンポート48eが開かれることにより、プライマリプーリ46a内の作動油が排出路46eから所定の流量でドレーンされて、図7のAに示すように、V溝46fの間隔が広くなり、変速比γが大きくなる。尚、変速比γが略一定でプライマリプーリ46aに対する作動油の供給が必要ない場合でも、油漏れによる変速比変化を防止するため、流量制御弁48bは所定の流通断面積でライン油路46gと供給路46dとを連通させ、所定の油圧を作用させるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
このように、従来の車両用オイル供給システム48sにおいては、前記一対の増速・減速用の流量制御弁48b,48d(変速油圧制御装置48)が前記CVTコントローラ49により車速・アクセル開度に応じて油圧制御(変速制御)され、CVT46の変速制御が行われている。
【特許文献1】特開2001−330135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の車両用オイル供給システム48sでは、例えば、ダウンシフト時において、前記ドレーンポート48eが開かれ、これによりプライマリプーリ46a内の作動油が排出路46eから所定の流量でドレーンされることによってプライマリプーリ46aの油圧シリンダの油圧が下がるように制御される。このため、該油圧がシフト操作に応じて迅速に下がらず、変速操作が円滑に進まないことがあり得る。さらに、該システム48sは、CVT46に適用されていることから、プライマリプーリ46aにおける油圧の低下が遅れることで、Vベルト46vに滑りが発生し、これによりエンジン41の動力の伝達ロスが起こる等の問題が生じる可能性もある。
【0011】
また、前記従来の車両用オイル供給システム48sでは、一対の増速・減速用の流量制御弁48b,48dを確実に動作させるため、機械式油圧ポンプ60によってエンジン回転速度に応じて常時高めの油圧を当該流量制御弁48b,48dに供給しておく必要がある。しかしこれは、特にエンジン41の高回転域において、必要以上に高い油圧を変速油圧制御装置48に与えていることを意味し、機械式油圧ポンプ60の動力損失につながるものでもある。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、車両の運転状態の変化に応じて車両の自動変速機で要求される所要の圧力値の作動油を迅速に供給でき、変速操作が円滑に行えるとともに、該作動油を自動変速機に供給するための動力の低減が図れる車両用オイル供給システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、自動車等の車両における自動変速機に設けられ、前記自動変速機の変速比を作動油を介して目標変速比になるように制御する変速油圧制御装置と該変速油圧制御装置に作動指令を送信するコントローラとを具備した車両用オイル供給システムにおいて、前記変速油圧制御装置が、前記自動変速機に作動油を供給するべく電動モータによって駆動される電動オイルポンプを備えており、前記電動モータが、前記コントローラからの作動指令に基づき、前記自動変速機に供給される作動油の圧力を高める正転方向と該圧力を下げる逆転方向とに回転駆動され、当該作動油の圧力が前記車両の運転状態に応じた所要の圧力値とされるようにしたこと、を要旨とする。
【0014】
同構成によれば、電動オイルポンプの駆動源である電動モータが、車両の運転状態に応じて自動変速機に供給される作動油の圧力を高める正転方向と該圧力を下げる逆転方向とに回転駆動されるため、自動変速機で要求される作動油の圧力が低い状態に対しては、電動モータの回転を逆回転させることで、自動変速機に供給される作動油の圧力を簡単且つ迅速に低下させることが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用オイル供給システムにおいて、前記車両の運転状態を当該車両のエンジンの回転軸の回転速度としたこと、を要旨とする。
同構成によれば、車両の運転状態をその車両のエンジンの回転軸の回転速度としたので、自動変速機に供給する作動油の油圧を、該回転速度に応じて変化し、自動変速機の変速操作のために必要とされる油圧(必要供給量)とすることができるようになる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用オイル供給システムにおいて、前記自動変速機の目標変速比と実際の変速比の大小関係を判定し、目標変速比<変速比の場合は、前記電動モータが正転方向に回転駆動され、目標変速比≠変速比の場合は、前記電動モータが逆転方向に駆動され、前記目標変速比と実際の変速比とが一致するようにしたこと、を要旨とする。
【0017】
同構成によれば、車両の自動変速機の目標変速比と実際の変速比の大小関係を判定し、目標変速比<変速比の場合は、電動モータが正転方向に回転駆動され、目標変速比≠変速比の場合は、電動モータが逆転方向に駆動され、目標変速比と実際の変速比とが一致するようにしたので、自動変速機に供給する作動油の油圧を自動変速機の変速操作のために必要とされる油圧とする操作が一層確実に行えるようになる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の車両用オイル供給システムにおいて、前記自動変速機が、ベルト式無段変速機であって、その入力側のプライマリプーリに供給される作動油の圧力が、前記電動モータの前記正転・逆転方向の回転により前記所要の圧力値とされること、を要旨とする。
【0019】
同構成によれば、ベルト式無段変速機のプライマリプーリに供給される作動油の圧力を電動モータの正転・逆転方向の回転により調整することで、当該ベルト式無段変速機に供給される作動油の圧力を迅速且つ確実に車両の運転状態に応じた所要の圧力値とすることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の車両用オイル供給システムにおいて、前記電動オイルポンプが、内接型ギヤポンプと、該ポンプを回転駆動する電動モータとからなること、を要旨とする。
【0021】
同構成によれば、電動オイルポンプが、内接型ギヤポンプと、該ポンプを回転駆動する電動モータとからなるので、定流量性に優れるとともに、脈動が少なく、その結果、運転時の騒音が小さい車両用オイル供給システムが実現されるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車両用オイル供給システムによれば、車両の運転状態の変化に応じ、車両の自動変速機で要求される所要の圧力値の作動油を迅速に供給でき、変速操作が円滑に行えるとともに、該作動油を自動変速機に供給するための動力の低減が図れる車両用オイル供給システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
本実施形態の車両用オイル供給システムは、以下に特に説明する場合を除いて、図5(a)及び図5(b)にそれぞれ示す自動車(車両)及び車両用駆動装置に設けられるものであり、それらの対応する部位や名称には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の車両用オイル供給システム58sは、CVT46(自動変速機)の変速比γを作動油を介して目標変速比γ*になるように制御する変速油圧制御装置58と該変速油圧制御装置58に作動指令を送信するCVTコントローラ49とを具備している。
【0025】
尚、このCVTコントローラ49は、メモリ49mを内蔵しており、該メモリには、CVT46の変速条件を設定するための、アクセル操作量などの運転者の出力要求量及び車速(セカンダリプーリ46bの回転速度に対応)等の運転状態をパラメータとするマップや演算式がデータ、プログラムの形で格納されている。
【0026】
前記変速油圧制御装置58は、電動オイルポンプ10からプライマリプーリ46aに作動油を供給するとともに該プライマリプーリ46aから電動オイルポンプ10を経てオイルパン52に作動油を還流する経路、作動油の流通を停止する経路、及び電動オイルポンプ10からオイルパン52に作動油を還流する経路に切換可能とされた3ポート電磁切換弁(切換弁)58vと、前記オイルパン52から作動油を吸入し、該作動油を前記電磁切換弁58vを経てプライマリプーリ46aに供給する電動オイルポンプ10とから構成されている。
【0027】
本実施形態における電動オイルポンプ10は、前記プライマリプーリ46a及びオイルパン52に向けて双方向に作動油を供給可能とした内接型ギヤポンプ(ポンプ部)2と、該内接型ギヤポンプ2を駆動する電動モータ3とからなる。
【0028】
詳しくは、図2(a)及び図2(b)を参照して、前記電動オイルポンプ10は、内部に収容空間を有するハウジング本体1を備えており、該ハウジング本体1は、前記内接型ギヤポンプ2を収容するポンプハウジング11と、該ポンプハウジング11に連通一体化され、前記電動モータ3を収容するモータハウジング12とからなる。
【0029】
前記内接型ギヤポンプ2は、パラコイド(登録商標)歯型の内接歯を有するアウターロータ21と、同歯型の外接歯を有し、前記アウターロータ21と外接噛合するインナーロータ22とを備えており、両ロータ21,22のポンプハウジング11内での回転によって油を吸引・吐出する。ここで、ポンプハウジング11においては、アウターロータ21とインナーロータ22とを収容する円柱状の空洞部が電動モータ3の軸方向に厚みを有するポンププレート13によって封止され、前記内接型ギヤポンプ2を収容するポンプ収容空間23が形成されている。
【0030】
前記電動モータ3は、インナーロータ22を先端部37tで軸支するモータロータ37と、該モータロータ37の外周を包囲し、コイル33に通電することで生じる電磁力によってモータロータ37を回転させるステータコア32とを有している。尚、モータロータ37は、第1転がり軸受5a及び第2転がり軸受5bを介してハウジング本体1に回転自在に支持されている。
【0031】
図2(b)に示すように、前記アウターロータ21及びインナーロータ22は、正転方向では、それぞれ矢印A1,A2方向に回転する。また、逆転方向では、それぞれ矢印B1,B2方向に回転する。また、両ロータ21,22の各歯溝21a,…、22a,…の間には、円弧状のポンプ室25が形成され、該ポンプ室25内には、両ロータ21,22の正転・逆転方向の回転に伴い、吸入側に低圧部、吐出側に高圧部が各々形成される。また、前記ポンププレート13には、前記ポンプ室25に連通するように、第1三日月状ポート13ra及び第2三日月状ポート13rbが形成され、さらに、各ポート13ra,13rbに連通し、外部の配管と接続される第1ポート13a及び第2ポート13bが形成されている。
【0032】
そして、両ロータ21,22の正転方向の回転では、前記第1ポート13aにおいてa1方向に作動油が吸入され、且つ、第2ポート13bにおいてa2方向に作動油が吐出される。一方、両ロータ21,22の逆転方向の回転では、第2ポート13bにおいてb1方向に作動油が吸入され、且つ、第1ポート13aにおいてb2方向に作動油が吐出される。
【0033】
尚、このような電動オイルポンプ10において、電動モータ3による前記ロータ21,22の正転方向・逆転方向の回転駆動は、CVTコントローラ49のメモリ49m(図1参照)に格納されたプログラム(データを含む)の実行により、CVTコントローラ49から変速油圧制御装置58に送信される作動指令に基づいて制御される。ここで、メモリ49mには、図3(a)に示すプライマリプーリの回転数Np(エンジン回転速度)[min−1]と電動オイルポンプの必要油量Qn[m/min]の関係を表すマップがデータとして記憶されている。
【0034】
具体的には、図5(a)及び図5(b)に示す自動車40の始動時など、目標変速比γ*が最大の場合は、該プライマリプーリ46aでは作動油に低い油圧が要求される。そして、CVTコントローラ49によって、図1の電磁切換弁58vが切換えられるとともに電動オイルポンプ10の電動モータ3が逆転方向に駆動され、該電磁切換弁58v及び電動オイルポンプ10を経て作動油がプライマリプーリ46aからオイルパン52に還流された状態となる。そして、図7に示すように、プライマリプーリ46aはストローク前の状態とされ、そのV溝46fの間隔が最大に広がった状態Aとなる。
【0035】
次に、自動車のアクセル操作に伴い、前記エンジン41の回転軸(クランクシャフト41a)の回転速度が上昇して低・中回転域となって、プライマリプーリ46aで作動油に少し高めの油圧が要求される状態となると、換言すれば、目標変速比γ*が少し小さくなると、CVTコントローラ49によって電動オイルポンプ10及び電磁切換弁58vが制御される。そして、電動オイルポンプ10が目標変速比γ*に実際の変速比γが一致するように正転方向に駆動され、少量(低圧)の作動油が図1の電磁切換弁58vを経てCVT46のプライマリプーリ46aに供給される。
【0036】
さらに、自動車のアクセル操作に伴い、前記エンジン41の回転軸の回転速度がさらに上昇して高回転域となり、プライマリプーリ46aで作動油に高い油圧が要求される状態となると、換言すれば、目標変速比γ*が更に小さくなると、CVTコントローラ49によって電動オイルポンプ10及び電磁切換弁58vが制御される。そして、電動オイルポンプ10が目標変速比γ*に実際の変速比γが一致するように正転方向に更に高い回転数で駆動され、低・中回転域よりも多量(高圧)の作動油が前記電磁切換弁58vを経てCVT46のプライマリプーリ46aに供給される。そして、図7に示すように、該プライマリプーリ46aが大きくストロークされ、そのV溝46fの間隔が狭まった状態Bとなる。
【0037】
そして、自動車のアクセル操作に伴い、前記エンジン41の回転軸の回転速度が下降して低・中回転域となって、プライマリプーリ46aで作動油に低めの油圧が要求される状態となると、換言すれば、目標変速比γ*が高回転域より少し大きくなると、CVTコントローラ49によって電動オイルポンプ10及び電磁切換弁58vが制御される。そして、電動オイルポンプ10(電動モータ3)が目標変速比γ*に実際の変速比γが一致するように逆転方向に駆動され、高回転域より低圧の作動油によるライン圧が図1の電磁切換弁58vを経てCVT46のプライマリプーリ46aに付与された状態となる。
【0038】
ここで、CVTコントローラ49では、前述のプログラムに従い、図4に示すフローチャートを所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行し、電動オイルポンプ10の吐出量の制御を行っている。
【0039】
この処理では、先ず、ステップS1において、プライマリプーリ46aの回転数Np、目標変速比γ*、実際の変速比γを読み込む。次に、ステップS2において目標変速比γ*と変速比γとが一致しているか否かを判定し、目標変速比γ*=変速比γ(定常走行)のときは、ステップS3に移行し、目標変速比γ*≠変速比γ(非定常走行)のときは、ステップS5に移行する。
【0040】
ステップS3では、自動車が定常状態で走行しており比較的少量の作動油を必要としていると判断し、図3(a)のマップを参照してエンジン41の回転軸の回転速度、即ち、プライマリプーリ46aの回転数Npに応じた電動オイルポンプ10の必要油量Qn[m/min]を算出する。
【0041】
一方、ステップS5では、自動車が非定常状態で走行していると判断し、目標変速比γ*と変速比γの大小関係を判定する。そして、目標変速比γ*<変速比γの場合、即ち、偏差Δγ<0の場合は、ステップS6にて、該偏差Δγが0になるように、偏差Δγに応じて、例えばPID制御により電動モータ3が正転方向に駆動制御される。
【0042】
逆に、目標変速比γ*>変速比γの場合、即ち、偏差Δγ>0の場合は、ステップS7にて、該偏差Δγが0になるように、目標変速比γ*に応じて、例えばPID制御により電動モータ3が逆転方向に駆動制御される。このようにCVT46で要求される作動油の圧力が低い自動車40の運転状態に対して、電動モータ3の回転を逆回転させることで、CVT46に供給される作動油の圧力を簡単且つ迅速に低下させることができる。
【0043】
そして、所定時間経過後、次のステップS8において目標変速比γ*と変速比γとが一致しているか否かを判定し、目標変速比γ*=変速比γ(定常走行)のときは、ステップS3に移行し、目標変速比γ*≠変速比γ(非定常走行)のときは、ステップS5に戻る。
【0044】
さらに、ステップS3の次のステップS4では、電動オイルポンプ10の必要油量Qnに応じた駆動制御信号DSを演算し、この駆動制御信号DSを前記変速油圧制御装置58に出力した後、タイマ割込処理を終了し、メインプログラムに復帰する。
【0045】
以上、本実施形態の車両用オイル供給システム58sによれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)電動オイルポンプ10の駆動源である電動モータ3が、自動車40の運転状態に応じてCVT46に供給される作動油の圧力を高める正転方向と該圧力を下げる逆転方向とに回転駆動される。このため、CVT46で要求される作動油の圧力が低い自動車40の運転状態に対しては、電動モータ3の回転を逆回転させることで、自動変速機に供給される作動油の圧力を簡単且つ迅速に低下させることが可能となる。そして、この結果、図3(b)に示すように、横軸をプライマリプーリの回転数Np[min−1](入力回転数N[min−1])、縦軸をポンプの吐出量特性としたグラフにおいて、エンジンの低回転域及び高回転域のいずれにても、定常走行よりも大きな油圧が必要とされる変速制御時においても従来の機械式油圧ポンプ60よりも吐出量を減らすことができる。そして、これにより、トータルの吐出量も従来よりも約16〜24%低減させることが可能となる。
【0046】
(2)自動車40の運転状態をそのエンジン41の回転軸の回転速度としたので、CVT46に供給する作動油の油圧を、該回転速度に応じて変化し、CVT46の変速操作のために必要とされる油圧(必要供給量)とすることができるようになる。
【0047】
(3)CVT46の目標変速比γ*と実際の変速比γの大小関係を判定し、目標変速比γ*<実際の変速比γの場合は、電動モータ3が正転方向に回転駆動され、目標変速比γ*≠実際の変速比γの場合は、電動モータ3が逆転方向に駆動され、目標変速比γ*と実際の変速比γとが一致するようにした。このため、CVT46に供給する作動油の油圧をその変速操作のために必要とされる油圧とする操作が一層確実に行えるようになる。
【0048】
(4)CVT46のプライマリプーリ46aに供給される作動油の圧力を電動モータ3の正転・逆転方向の回転により調整することで、当該CVT46に供給される作動油の圧力を迅速且つ確実に自動車40の運転状態に応じた所要の圧力値とすることができる。
【0049】
(5)電動オイルポンプ10が、内接型ギヤポンプ2と、該ポンプを回転駆動する電動モータ3とからなるので、定流量性に優れるとともに、脈動が少なく、その結果、運転時の騒音が小さい車両用オイル供給システム58sが実現されるようになる。
【0050】
尚、上記実施形態は以下のように変形してもよい。
・上記実施形態では、車両用オイル供給システム58sにより変速操作に必要とされる油圧の制御が行われる自動変速機をベルト式無段変速機とした。しかし、本発明の技術的思想はこれに限られず、電動オイルポンプ10(電動モータ3)の正転・逆転方向の回転により自動変速機に供給される作動油の圧力を迅速且つ確実に車両の運転状態に応じて所要の圧力値とする必要のあるその他の形式の自動変速機にも適用できることは勿論である。
【0051】
・上記実施形態では、自動車(車両)の運転状態を当該自動車のエンジン41の回転軸の回転速度とした。しかし、本発明の技術的思想はこれに限られず、その他にも、自動車(車両)の運転状態を、例えば、当該自動車の車速(車輪の回転速度)とすることもできる。
【0052】
・上記実施形態では、電動オイルポンプ10のポンプ部に内接型ギヤポンプ2を用いたが、その他の形式のポンプ、例えば、外接型ギヤポンプ等を用いることも可能である。
・上記実施形態では、電動オイルポンプ10の正転・逆転方向の回転により自動変速機に供給される作動油の圧力を迅速且つ確実に車両の運転状態に応じた所要の圧力値とした。しかし、正転方向のみ回転動作する電動オイルポンプとCVT46のプライマリプーリ46aとの接続を当該電動オイルポンプの吸入側と吐出側とで切り換える電磁切換弁を用いてその正転・逆転方向の回転と同様な機能をもたせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用オイル供給システムの全体図。
【図2】(a)は、本発明の実施形態に係る電動オイルポンプの軸方向断面図、(b)は、同電動オイルポンプのX−X断面図。
【図3】(a)は、本発明の実施形態に係る車両用オイル供給システムにおいてベルト式無段変速機の変速制御に用いられるプライマリプーリの回転数Np(エンジン回転速度)と電動オイルポンプの必要油量Qnの関係を示すマップ図、(b)は、横軸をプライマリプーリの回転数Np(入力回転数N)、縦軸をポンプの吐出量特性としたグラフ。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用オイル供給システムの作動を示すフローチャート。
【図5】(a)は、車両用駆動装置が適用される自動車の要部構造図、(b)は、同車両用駆動装置のブロック図。
【図6】従来例の車両用オイル供給システムの全体図。
【図7】車両用オイル供給システムの作動により、ベルト式無段変速機のプライマリプーリのV溝の幅が変更される状態を示す作用図。
【符号の説明】
【0054】
2…内接型オイルポンプ、3…電動モータ、10…電動オイルポンプ、46a…プライマリプーリ、49…CVTコントローラ、49m…メモリ、58…変速油圧制御装置、58s…車両用オイル供給システム、58v…電磁切換弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車等の車両における自動変速機に設けられ、前記自動変速機の変速比を作動油を介して目標変速比になるように制御する変速油圧制御装置と該変速油圧制御装置に作動指令を送信するコントローラとを具備した車両用オイル供給システムにおいて、
前記変速油圧制御装置が、前記自動変速機に作動油を供給するべく電動モータによって駆動される電動オイルポンプを備えており、
前記電動モータが、前記コントローラからの作動指令に基づき、前記自動変速機に供給される作動油の圧力を高める正転方向と該圧力を下げる逆転方向とに回転駆動され、当該作動油の圧力が前記車両の運転状態に応じた所要の圧力値とされるようにしたことを特徴とする車両用オイル供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用オイル供給システムにおいて、
前記車両の運転状態を当該車両のエンジンの回転軸の回転速度とした車両用オイル供給システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用オイル供給システムにおいて、
前記自動変速機の目標変速比と実際の変速比の大小関係を判定し、目標変速比<変速比の場合は、前記電動モータが正転方向に回転駆動され、目標変速比≠変速比の場合は、前記電動モータが逆転方向に駆動され、前記目標変速比と実際の変速比とが一致するようにした車両用オイル供給システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の車両用オイル供給システムにおいて、
前記自動変速機が、ベルト式無段変速機であって、その入力側のプライマリプーリに供給される作動油の圧力が、前記電動モータの前記正転・逆転方向の回転により前記所要の圧力値とされる車両用オイル供給システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の車両用オイル供給システムにおいて、
前記電動オイルポンプが、内接型ギヤポンプと、該ポンプを回転駆動する電動モータとからなる車両用オイル供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−291933(P2008−291933A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138921(P2007−138921)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】