説明

車両用サスペンション

【課題】 揺動アームの連結ボス部に挿入したブッシュにおける捩れやフリクションロスを低減することにより、揺動アームのしなやかな動きを実現しつつ、耐久性も兼ね備えるようにした車両用サスペンションを提供する。
【解決手段】 車体1と車輪2の軸支部3との間を揺動アーム4で連結し、該揺動アームの連結ボス部6b,7bに介装したブッシュ11を前記車体及び/又は軸支部側のブラケット1f,1f;3f,3f間に挟持固定したサスペンションにおいて、前記ブッシュ11を転がり軸受12の内輪12iの内側面と外輪12oの外側面とにそれぞれ可撓性弾性層13,14を積層して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用サスペンションに関し、さらに詳しくは、揺動アームの連結ボス部に挿入したブッシュの改良により、しなやかな動きと高い耐久性の両立を実現した車両用サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
原動機付き車両の多くには、路面凹凸の吸収緩和(バネ下減衰)や、更に車両挙動の吸収緩和(バネ上減衰)を目的として、サスペンション、スタビライザー等反発弾性をもつ機能部品が装備されている。
【0003】
サスペンション形式には、幾つかの基本形と、その派生例が存在するが、いかなる車両姿勢、いかなるサスペンションストロークにおいても、比較的対地タイヤアングル(ホイールジオメトリー)の変化が少ない運動軌道をたどるようにしたダブルウィッシュボーン形式が、車両制御上の観点から最も望ましく、運動特性を追求する競技用車両にて適用され始めたこ技術も、今日では、多くの一般乗用車に適用されている。
【0004】
これらサスペンション機能部品(サスペンションアーム、ショックアブソーバー、スタビライザー)の取り付け部には、ゴム、ウレタン等可撓性を有する素材で造られたブッシュ(インシュレーター)を具備するのが一般的である。
【0005】
先に挙げたダブルウィッシュボーン等のサスペンション機構の複雑化により、ブッシュ使用の箇所も増えつつある。バネ、ダンパーからなるスプリング・ショックアブソーバー組立体には、その機構上、摺動・運動抵抗をもたらす部位が多数存在し、それらはフリクションロスとして認知されている。また、サスペンションアーム(揺動アーム)の取り付け部に設けたブッシュも、両側がブラッケトに挟まれ固定された構造になっていることから、サスペンションアームが揺動する際に捩じれることにより、多くのフリクションロスを生み出している。
【0006】
このフリクションロスの総和が生む運動阻害抵抗(反発力)に満たない上述のバネ上下運動では、当然、サスペンションアームのストロークも期待できず、サスペンション本来の機能が得られない。これら衝撃吸収の実態は、タイヤ、リンケージブッシュ、各構成部品のクリアランス等に一部依存し、吸収しきれない残分は、車両のピッチング等、乗り心地を悪化させる元凶となっている。
【0007】
サスペンションアームは、実運動において、円弧軌道である上下ストローク運動のほかに、垂直上下方向運動、車両前後方向運動、車両左右方向運動を伴う。現存するボールベアリングでも、捩じれなくサスペンションアームをストロークさせるという意味では、こと足りるが、上記のように多方向の運動ベクトルが混在する状況では、耐久性が著しく損なわれるため、適用は難しいとされてきた。
【0008】
特許文献1は、サスペンションアーム(揺動アーム)の連結ボス部に具備したゴムブッシュを車体側ブラケットに挟持固定するサスペンションにおいて、そのゴムブッシュがブラケットに接触するときの摩擦力を低減させるべく、ゴムブッシュが車体側ブラケットに接触する側面にベアリング(スラスウトローラーベアリング)を介装することを提案している。しかし、このサスペンションは、実車において、ブッシュが車体側ブラケットに両側を挟まれ固定される一方、ベアリングはその内片側面にしか装備されていないので、揺動アームが揺動する際のゴムブッシュと車体側ブラケットとの界面に生じる回転摩擦を低減する効果は、不十分と考えられる。
【特許文献1】特開平7−276944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、揺動アームの連結ボス部に挿入したブッシュにおける捩れやフリクションロスを低減することにより、揺動アームのしなやかな動きを実現しつつ、耐久性も兼ね備えるようにした車両用サスペンションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の車両用サスペンションは、車体と車輪の軸支部との間を揺動アームで連結し、該揺動アームの連結ボス部に介装したブッシュを前記車体及び/又は軸支部側のブラケット間に挟持固定したサスペンションにおいて、前記ブッシュを転がり軸受の内輪の内側面と外輪の外側面とにそれぞれ可撓性弾性層を積層して構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、揺動アームの連結ボス部に介在させたブッシュを、転がり軸受の内輪の内側面と外輪の外側面とにそれぞれ可撓性弾性層を積層した構成とし、実走行で生ずる揺動アームへの複雑な多方向入力によりもたらされるストレスを可撓性弾性層が逃がすようにするため、転がり軸受の持つ滑らかな運きと、高い耐久性を両立させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図に示す実施形態により具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明のサスペンションを装備した車両の一例を概略的に示す正面図である。
【0014】
1は車体、2は空気入りタイヤ/ホイール組立体からなる車輪である。車輪2は軸支部3に支持され、軸支部3はショックアブソーバ5を介して車体1を弾性支持すると共に、さらに上下一対のアッパーアーム4aとロアーアーム4bからなる揺動アーム4で車体1に連結されている。アッパーアーム4aとロアーアーム4bは、それぞれ一方の連結部6,6を車体1側に、他方の連結部7,7を軸支部3側に揺動可能に連結することで、ダブルウィッシュボーン式サスペンションを構成している。
【0015】
図2(A),(B)は、揺動アーム4(アッパーアーム4a、ロアーアーム4b)の詳細を示す正面図と側面図である。
【0016】
揺動アーム4の両端に設けられた連結部6,7は、それぞれ軸支部3側に設けた二股状のブラケット3f,3fと車体1側に設けた二股状のブラケット1f,1fとに軸ボルト9,10により連結されている。
【0017】
図示の例では、軸支部3側に対する連結部6は、従来のサスペンションと同様に、ゴムブッシュ8を圧入したボス部6bを二股状のブラケット3f,3fの間に挿入し、そのブラケット3f,3fとゴムブッシュ8に軸ボルト9を貫通させて締め付け固定し、ブラケット3f,3f間にゴムブッシュ8を挟みつけ固定している。
【0018】
車体1側に対する連結部7は、ボス部7bに圧入したブッシュ11が以下のような構成されている。
【0019】
ブッシュ11は、転がり軸受12と可撓性弾性層13,14とから構成され、転がり軸受12の内輪12iの内側面に可撓性弾性層13を接着積層し、また外輪12oの外側面に可撓性弾性層14を接着積層している。このブッシュ11が介挿された連結部7をブラケット1f,1fの間に挿入し、このブラケット1f,1fとブッシュ11とに軸ボルト10を貫通させて締め付け固定されている。
【0020】
上記のようにブッシュ11が転がり軸受12と可撓性弾性層13,14とから構成されているので、揺動アーム4が複雑な多方向の運動を行うことによって転がり軸受12に複雑なストレスをもたらしても、それらのストレスを可撓性弾性層13,14が逃がして吸収するため、転がり軸受12がもつ滑らかな動きを保障し、かつ高い耐久性を実現することができる。
【0021】
ブッシュ11に使用される可撓性弾性層13,14としては、ゴム又は弾性樹脂を使用することができる。弾性樹脂としては、ポリウレタンなどが好ましく使用される。また、転がり軸受12としては、ボールベアリングやニードルベアリングを使用することができる。
【0022】
図3(A),(B)は、転がり軸受12にボールベアリング12Aを使用したブッシュ11を例示する。
【0023】
ボールベアリング12Aは、内輪12iと外輪12oとの間の軸方向の2箇所に、それぞれ複数個の金属ボール12bを転動体として周方向に等間隔に保持している。このボールベアリング12Aに対し、その内輪12iの内面に可撓性弾性層13が一体に積層接着され、また外輪12oの外面に、同じく可撓性弾性層14が一体に積層接着されて、ブッシュ11を構成している。
【0024】
内輪12iは外輪12oよりも軸方向長さが長く、かつ外輪12oの軸方向の両外側に突出するように構成されている。このように内輪12iの両端部を外輪12oの両外側に突出させることにより、図2のように揺動アーム4の連結部7をブラケット1f,1fの間に挿入して軸ボルト10により固定したとき、外輪12oが連結ボス部7bと共に拘束されないため、揺動アーム4に揺動阻害抵抗が与えられず、より滑らかな低フリクションの運動を行わせることができる。
【0025】
図4(A),(B)は、転がり軸受12にニードルベアリング12Bを使用したブッシュ11を例示する。
【0026】
ニードルベアリング12Bは、内輪12iと外輪12oとの間に複数本の棒状のニードル12nを周方向に等間隔に配置して構成されている。このニードルベアリング12Bの内輪12iの内面に可撓性弾性層13が一体に積層接着され、また外輪12oの外面に、同じく可撓性弾性層14が一体に積層接着されて、ブッシュ11が構成されている。
【0027】
ボールベアリング12Aの場合と同様に、内輪12iは外輪12oよりも軸方向長さが長く、かつ外輪12oの軸方向の両外側に突出している。したがって、図2のように揺動アーム4の連結部7がブラケット1f,1fの間に挿入されで軸ボルト10により固定されても、外輪12oが連結ボス部7bと共に拘束されることがないため、揺動アーム4に揺動阻害抵抗が与えられることがなく、滑らかな低フリクション運動が保障される。
【0028】
図示の例では、車体1側の連結部7にだけブッシュ11を、装備したが、これを軸支部3側の連結部6にも装備するようにしてよい。
【実施例】
【0029】
図1の構造のダブルウィッシュボーン式サスペンションで車体を懸架した乗用車を試験車にするに当たり、揺動アーム(アッパーアームとロアーアーム)の車体側連結部と車輪の軸支部側連結部とに挿入するブッシュを、それぞれ下記のように異ならせたサスペンション(従来例、実施例)を製作した。
【0030】
(従来例)
車体側連結部のブッシュ: ゴムブッシュのみ
車輪軸支部側連結部のブッシュ: ゴムブッシュのみ
【0031】
(実施例)
車体側連結部のブッシュ: 図3のブッシュ(ボールベアリングの内輪内側面と外輪 外側面とにそれぞれゴム層を積層)
車輪軸支部側連結部のブッシュ: ゴムブッシュのみ
【0032】
上記2種類の異なるサスペンションを装着した試験車について、それぞれ下記の試験法により操縦安定性と乗心地性を測定する共に、下記試験法により2種類のサスペンションの揺動アームの単品引き上げ要力を測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
[操縦安定性と乗心地性]
1周2000mのテストコースにおいて,3人のテストドライバーにより試験車を3周運転するときの操縦安定性と乗心地性とを5点法によりフィーリング評価し、その平均値を算出した.
【0034】
算出結果は、従来例のサスペンションを装着した試験車の評価値を100とする指数で示した。指数値が大きいほど操縦安定性と乗心地性が優れていることを意味する。
【0035】
[揺動アームの単品引き上げ要力]
車輪、コイルスプリングとショックアブソーバー組立体を非装着にした状態で、揺動アーム単品の引き上げに要する力を測定した。
【0036】
測定結果は、従来例のサスペンションの揺動アームの測定値を100とする指数で示した。指数値が小さいほど、アーム運動のフリクションが小さく、しなやかなサスペンション運動が得られることを意味する。
【0037】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のサスペンションを装備した車両の一例を概略的に示す正面図である。
【図2】本発明のサスペンションを構成する揺動アームの部分を示し、(A)は(B)におけるX−X矢視で示す正面図、(B)は側面図である。
【図3】本発明のサスペンションに使用されるブッシュを例示し、(A)は(B)におけるY−Y矢視の断面図、(B)は正面図である。
【図4】本発明のサスペンションに使用されるブッシュの他の例を示し、(A)は(B)におけるZ−Z矢視の断面図、(B)は正面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 車体
1f ブラケット
2 車輪
3 軸支部
3f ブラケット
4 揺動アーム
5 ショックアブソーバ
6,7 連結部
6b,7b ボス部
9,10 軸ボルト
11 ブッシュ
12 転がり軸受
12A ボールベアリング
12B ニードルベアリング
12i 内輪
12o 外輪
12b ボール
12n ニードル
13,14 可撓性弾性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と車輪の軸支部との間を揺動アームで連結し、該揺動アームの連結ボス部に介装したブッシュを前記車体及び/又は軸支部側のブラケット間に挟持固定したサスペンションにおいて、前記ブッシュを転がり軸受の内輪の内側面と外輪の外側面とにそれぞれ可撓性弾性層を積層して構成した車両用サスペンション。
【請求項2】
前記転がり軸受がボールベアリング又はニードルベアリングである請求項1に記載の車両用サスペンション。
【請求項3】
前記可撓性弾性層がゴム又は弾性樹脂からなる請求項1又は2に記載の車両用サスペンション。
【請求項4】
前記転がり軸受の内輪の軸方向の長さを前記転がり軸受の外輪の軸方向の長さより長くすると共に、該外輪の両外側に突出するようにした請求項1〜3のいずれかに記載の車両用サスペンション。
【請求項5】
前記揺動アームはアッパーアームとロアーアームとを設けたダブルウィッシュボーン式サスペンションである請求項1〜4のいずれかに記載の車両用サスペンション。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−347496(P2006−347496A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179465(P2005−179465)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】