説明

車両用パワーユニットおよびそれを備えた車両

【課題】クラッチアクチュエータを有する車両用パワーユニットの小型化を図る。
【解決手段】パワーユニットは、クラッチアクチュエータと、クラッチアクチュエータの駆動力をクラッチに伝達する作動力伝達機構15とを備えている。クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構15は、パワーユニットのケーシング内の右端部に配置されている。クラッチアクチュエータの駆動軸は、上下方向に延びている。作動力伝達機構15は、クラッチアクチュエータの駆動軸に設けられたウォーム軸16と、ウォーム軸16と噛み合うウォームホイール部19aを有する第1回転体19と、第1回転体19のギア部19cと噛み合う第2回転体24と、第2回転体24の回転力をクラッチのスライド軸の軸方向の力に変換するボールカム20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチアクチュエータを有する車両用パワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車、ATV(All Terrain Vehicle)等の車両において、いわゆるAMT(Automated
Manual Transmission)を備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。AMTは、クラッチの断続や変速装置の変速ギアの切換をモータ等のアクチュエータを用いて行うものである。
【0003】
特許文献1に記載されたAMTは、クラッチの断続を行うための駆動力を発生させるクラッチアクチュエータと、クラッチアクチュエータの駆動力をクラッチに伝達する作動力伝達機構とを備えている。これらクラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構は、パワーユニットのケーシングの外部に配置されている。詳しくは、クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構は、パワーユニットのシリンダの後方かつクランクケースの上側に配置されている。クラッチアクチュエータはブラケットを介してクランクケースに取り付けられ、クラッチアクチュエータの駆動軸は車幅方向に延びるように配設されている。作動力伝達機構は、パワーユニットの外部において、クラッチアクチュエータとクラッチ切断ロッド(プッシュロッド)とを連結している。
【特許文献1】特開2006−17221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された車両では、クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構がクランクケースの上側に配置されているので、それらクラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構の占めるスペースの分だけ、パワーユニットが上下方向に大型化してしまう。
【0005】
一方、クランクケースの上側のスペースを確保するために、クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構をクランクケースの側部の外側に配置することが考えられる。しかし、何らの工夫も施さずに、クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構を単にクランクケースの側部に配置したのでは、それらを含むパワーユニット全体の横幅(すなわち、車幅方向の長さ)が大きくなってしまう。そのため、パワーユニットの全体が左右方向に大型化してしまう。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クラッチアクチュエータを有する車両用パワーユニットの小型化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用パワーユニットは、左右方向に延びるスライド軸を有し、前記スライド軸が軸方向に移動することによって断続されるクラッチと、回転する駆動軸を有するクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータの駆動軸と前記スライド軸とを連結し、前記クラッチアクチュエータの作動力を前記スライド軸に伝達する作動力伝達機構と、前記クラッチ、前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構を収容するケーシングと、を備え、前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構は、前記ケーシングの内部の左端部または右端部に配置され、前記クラッチアクチュエータは、前記駆動軸が左右方向と直交する方向に延びるように配置され、前記作動力伝達機構は、前記駆動軸に設けられたウォーム軸と、前記ウォーム軸と噛み合うウォームホイール部を有し、前記ウォーム軸の回転に伴って、前記スライド軸の軸心と平行な軸心回りに回転する第1回転体と、前記第1回転体の回転に伴って、前記スライド軸の軸方向から見て前記スライド軸の軸心回りに回転する第2回転体と、前記第2回転体の回転力を前記スライド軸の軸方向の力に変換し、前記第2回転体の回転に伴って前記スライド軸を軸方向に移動させる力方向変換機構と、を備えているものである。
【0008】
上記車両用パワーユニットによれば、クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構がケーシング内の左端部または右端部に配置されているので、クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構がケーシングの外側に出っ張ることがない。また、作動力伝達機構は、互いに軸心がずれた第1回転体および第2回転体を備えており、それら複数の回転体を介して作動力が伝達される。そのため、一方向に長く出っ張ってしまうロッド等を設けなくても、クラッチアクチュエータからスライド軸に作動力を伝達することができる。したがって、作動力伝達機構をケーシング内においてコンパクトに配置することができる。また、クラッチアクチュエータは、その駆動軸が左右方向と直交する方向に延びるように配置されているので、クラッチアクチュエータが左右方向に出っ張ることが抑制される。したがって、クラッチアクチュエータをケーシング内においてコンパクトに配置することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クラッチアクチュエータを有する車両用パワーユニットの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
《自動二輪車》
図1は、本実施形態に係る自動二輪車1を示す側面図である。図1に示すように、実施形態に係る自動二輪車1は、車体フレーム2を備えている。車体フレーム2は、ヘッドパイプ3と、ヘッドパイプ3から後方に延びるメインフレーム4と、メインフレーム4の後部から下方に延びるリヤアームブラケット5とを有している。
【0012】
ヘッドパイプ3にはフロントフォーク9が支持されている。フロントフォーク9の上端には、操向ハンドル8が設けられ、下端には前輪41が設けられている。また、メインフレーム4の上部には燃料タンク44が配置され、燃料タンク44の後方にはシート45が配置されている。シート45は、シートレール6の上に載置されている。メインフレーム4およびリヤアームブラケット5には、パワーユニット35が懸架されている。リヤアームブラケット5には、リヤアーム7の前端部が上下揺動可能に支持されている。リヤアーム7の後端部には後輪40が支持されている。
【0013】
操向ハンドル8には、シート45に跨って乗車するライダー100によって操作される自動変速操作スイッチ136,137(図2参照)が設けられている。
【0014】
《パワーユニット》
図3はパワーユニット35の右側面図である。なお、符号65は、エアクリーナを示している。図4は、カバー38を取り外した状態におけるパワーユニット35の主要部の右側面図である。図5は、パワーユニット35の一部を切り欠いて示す平面図である。図6は、パワーユニット35の内部の構成を模式的に示す図である。図6に示すように、パワーユニット35は、エンジン30と、クラッチ11と、変速装置43とを備えている。また、パワーユニット35は、クラッチ11を断続させるクラッチアクチュエータ14(図4参照)と、変速装置43を作動させるシフトアクチュエータ70とを備えている。
【0015】
《エンジン》
エンジン30の種類は何ら限定されないが、本実施形態では、エンジン30は水冷式4サイクル並列4気筒型のエンジンである。ただし、エンジン30は、ガソリンエンジン等の内燃機関に限定されず、モータエンジン等の他の種類のエンジンであってもよい。また、エンジン30は、ガソリンエンジンとモータエンジンとを組み合わせたものであってもよい。エンジン30は、左右方向に延びるクランク軸31を有している。クランク軸31には、ギア310が形成されている。
【0016】
《クラッチ》
図6に示すように、本実施形態に係るクラッチ11は、多板摩擦クラッチである。ただし、クラッチ11の種類は、多板摩擦クラッチに限定されるわけではない。クラッチ11は、クラッチハウジング443と、このクラッチハウジング443に一体的に設けられた複数のフリクションプレート445と、クラッチボス447と、クラッチボス447に一体的に設けられた複数のクラッチプレート449と、フリクションプレート445とクラッチプレート449とを圧着させるプレッシャプレート451とを備えている。
【0017】
メイン軸10には、メイン軸10に対して回転自在なギア441が支持されている。このギア441は、クランク軸31のギア310と噛み合っている。クラッチハウジング443はギア441に固定されており、クラッチハウジング443はギア441と一体となって回転する。そのため、クラッチハウジング443には、ギア441を介してクランク軸31からトルクが伝達される。
【0018】
図5に示すように、筒状のクラッチボス447の内側には、このクラッチボス447と一体的に設けられ、メイン軸10の軸方向に延びる円筒状の複数のガイド部447Cが配置されている。ガイド部447Cには、皿ばねからなるばね450が取り付けられている。ばね450は、プレッシャプレート451を図5の左側に向かって付勢している。すなわち、ばね450は、クラッチ11が接続する方向にプレッシャプレート451を付勢している。
【0019】
詳細は後述するが、プレッシャプレート451は、クラッチアクチュエータ14によって駆動され、スライド軸455の軸方向に移動する。クラッチ11が接続される際には、スライド軸455が図5の左側に移動し、プレッシャプレート451も同様に左側に移動する。その結果、ばね450の付勢力を受けたプレッシャプレート451が、フリクションプレート445とクラッチプレート449とを圧着させる。これにより、フリクションプレート445とクラッチプレート449との間に摩擦力が発生し、クラッチハウジング443からクラッチボス447へ駆動力が伝達される状態となる。
【0020】
一方、クラッチ11が切断される際には、スライド軸455が図5の右側に移動し、プレッシャプレート451も、ばね450の付勢力に対抗して図5の右側に移動する。その結果、フリクションプレート445とクラッチプレート449との圧着状態が解除される。これにより、クラッチハウジング443からクラッチボス447へ駆動力が伝達されない状態となる。
【0021】
このように、クラッチアクチュエータ14の駆動力とばね450の付勢力との大小によって、プレッシャプレート451はメイン軸10の軸方向の一方側または他方側に移動し、この移動に応じてクラッチ11が接続状態または切断状態になる。
【0022】
《変速装置》
図6に示すように、変速装置43は、エンジン30のクランク軸31と平行に配設されたメイン軸10と、メイン軸10と平行に配設されたドライブ軸42と、を備えている。メイン軸10には、複数段の変速ギア49が設けられている。ドライブ軸42にも、複数段の変速ギア420が設けられている。メイン軸10上の変速ギア49は、ドライブ軸42上の変速ギア420と噛み合っている。なお、図6では、変速ギア49と変速ギア420とを分離して描いてある。これらの変速ギア49と変速ギア420とは、選択された一対の変速ギア以外は、いずれか一方または両方がメイン軸10またはドライブ軸42に対して遊転状態(つまり空回りの状態)で装着される。したがって、メイン軸10からドライブ軸42への回転力の伝達は、選択された一対の変速ギアのみを介して行われる。
【0023】
変速ギア49と変速ギア420とを選択して変速比を変えるギアチェンジ動作は、シフトカム421の回転によって行われる。シフトカム421は、複数のカム溝421aを有し、各カム溝421aにシフトフォーク422が装着される。各シフトフォーク422は、それぞれメイン軸10およびドライブ軸42の所定の変速ギア49および変速ギア420に係合している。シフトカム421の回転により、シフトフォーク422がカム溝421aに案内されて各軸方向に移動し、シフトカム421の回転角度に応じた位置の一対の変速ギア49および変速ギア420のみが、メイン軸10およびドライブ軸42に対しそれぞれスプラインによる固定状態となる。これにより、変速ギア位置が定まり、当該変速ギア49および変速ギア420を介して、メイン軸10とドライブ軸42との間で所定の変速比で回転力が伝達される。
【0024】
シフトカム421には、連結機構425を介してシフトアクチュエータ70が接続されている。シフトアクチュエータ70の種類は特に限定されず、例えば、電動モータ等を好適に用いることができる。シフトアクチュエータ70は、連結機構425を介してシフトカム421を回転させ、ギアチェンジ動作を行う。
【0025】
《クラッチアクチュエータおよび作動力伝達機構》
次に、クラッチ11の断続を行うための駆動力を発生させるクラッチアクチュエータ14と、クラッチアクチュエータ14の駆動力を伝達する作動力伝達機構15とについて説明する。
【0026】
図4および図5に示すように、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、パワーユニット35のケーシング39の内部に配置されている。詳しくは、図5に示すように、パワーユニット35のケーシング39は、クランク軸31およびクラッチ11を収容するクランクケース36と、クランクケース36の一部の右端部を覆うカバー38とを有している。クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、クランクケース36の外側かつカバー38の内側に配置されている。言い換えると、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、クランクケース36の外側において、カバー38によって覆われている。
【0027】
クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、ケーシング39内の左右方向の一端部に配置される。クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、ケーシング39内の左端部および右端部のいずれにも配置可能であるが、本実施形態では、右端部に配置されている。また、本実施形態では、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、左右方向に関して、クラッチ11が配置されている側に配置されている。ただし、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15を、左右方向に関して、クラッチ11が配置されている側と反対の側に配置することも可能である。
【0028】
図4に示すように、本実施形態に係るクラッチアクチュエータ14は、電動モータによって構成されている。クラッチアクチュエータ14は、略円筒状のモータ本体14Aと、モータ本体14Aから下方に突出する駆動軸14Bとを備えている。クラッチアクチュエータ14は、モータ本体14Aおよび駆動軸14Bが上下に延びるように配置されている。
【0029】
図7(a)に示すように、作動力伝達機構15は、クラッチアクチュエータ14の駆動軸14Bに連結されたウォーム軸16と、ウォーム軸16と噛み合う第1回転体19と、第1回転体19と噛み合う第2回転体24(図9参照)と、第2回転体24の回転力をスライド軸455の軸方向の力に変換するボールカム20とを備えている。なお、後述するように、本実施形態では、第2回転体24はボールカム20の一部を構成している。ただし、第2回転体24とボールカム20とは別体であってもよい。
【0030】
ウォーム軸16は上下方向に延びている。ウォーム軸16の外周面には、螺旋状の溝が形成されている。ウォーム軸16は、軸受71および72によって回転自在に支持されている。なお、本実施形態では、クラッチアクチュエータ14の駆動軸14Bとウォーム軸16とは別体であるが、駆動軸14Bとウォーム軸16とは一体化されていてもよい。
【0031】
図7(a)および図8に示すように、第1回転体19は、右側から左側(図7(a)では、紙面表側から裏側)に向かって順に、ウォームホイール部19aと、カム部19bと、ギア部19cとを備えている。図7(a)に示すように、ウォームホイール部19aの外周側の一部には、歯19a1が形成されている。ウォームホイール部19aは、ウォーム軸16と噛み合っている。そのため、ウォーム軸16の回転力はウォームホイール部19aに伝達され、第1回転体19はウォーム軸16にしたがって回転する。ウォーム軸16と第1回転体19のウォームホイール部19aとは、ウォームギア18を構成している。
【0032】
第1回転体19のカム部19bは、後述するアシストスプリングユニット25の当接部25dと接触する部分である。
【0033】
第1回転体19のギア部19cには、歯19c1が形成されている。ギア部19cの半径(厳密には、第1回転体19の回転中心C1から歯19c1までの距離)は、ウォームホイール部19aの半径(厳密には、第1回転体19の回転中心C1から歯19a1までの距離)よりも大きい。ただし、ギア部19cの半径とウォームホイール部19aの半径との大小関係は、逆であってもよい。また、ギア部19cの半径とウォームホイール部19aの半径とは、等しくてもよい。
【0034】
図7(a)および図10に示すように、ボールカム20は、右側から左側(図7(a)では紙面表側から裏側)に向かって順に、カムプレート22と、ボールプレート23と、第2回転体24とを備えている。
【0035】
カムプレート22は、スライド軸455に固定されており、スライド軸455と一体となってスライド軸455の軸方向に移動自在である。しかし、カムプレート22は、ストッパピン61によって、スライド軸455周りの回転が規制されている。
【0036】
ボールプレート23は、周方向に均等の間隔をもって配置された3つのボール21を転がり自在に支持するものである。なお、ボール21の個数は3つに限定されるわけではない。
【0037】
図10に示すように、第2回転体24は、軸受50によってスライド軸455周りに回転自在に支持されている。一方、第2回転体24は、スライド軸455の軸方向には移動しないようになっている。図9に示すように、第2回転体24には、歯24aが形成されている。この歯24aは、第1回転体19のギア部19cの歯19c1と噛み合っている(図7(a)参照)。したがって、第1回転体19と第2回転体24とは、歯19c1および歯24aを介してギア結合されており、第1回転体19の回転力が第2回転体24に伝達される。
【0038】
カムプレート22の左側(図7(a)では下側)の面および第2回転体24の右側(図7(a)および図9では上側)の面には、周方向に沿って傾斜したカム溝22b,24bがそれぞれ形成されている(図7(b)も参照)。このように、本実施形態では、第2回転体24はカムプレートとしても機能する。第2回転体24が回転すると、カムプレート22のカム溝22bと第2回転体24のカム溝24bとの相対的な位置がずれ、ボール21がカム溝22b,24bから乗り上げる。これにより、カムプレート22がボール21によって右側に押され、右側にスライドする。それに伴い、スライド軸455も右側にスライドし、プレッシャプレート451も右側に移動する。その結果、クラッチ11は接続状態から切断状態に切り替えられる。
【0039】
図7(a)に示すように、本実施形態では、作動力伝達機構15に、クラッチ11の切断を補助するアシスト力を発生させるアシストスプリングユニット25が設けられている。アシストスプリングユニット25は、略筒状の第1ケース25aと、第1ケース25aと組み合わされた略筒状の第2ケース25bと、第1ケース25aと第2ケース25bとの間に配置された圧縮コイルばね25cと、第2ケース25bの先端に設けられた当接部25dとを備えている。当接部25dは、前述した第1回転体19のカム部19bと当接している。第1ケース25aと第2ケース25bとは、圧縮コイルばね25cによって、互いに離れる方向に付勢されている。第2ケース25bが圧縮コイルばね25cによって当接部25d側に付勢されていることにより、当接部25dには、第1回転体19のカム部19bに押しつけられる力が付与されている。これにより、当接部25dとカム部19bとは、ボルト等の締結具を用いることなく連結されている。
【0040】
第1ケース25aの根元側は、クランクケース36に揺動自在に支持されている。そのため、アシストスプリングユニット25は、揺動中心C3を中心として揺動自在に構成されている。
【0041】
《シフトチェンジの動作》
自動二輪車1におけるシフトチェンジは、以下のようにして行われる。まず、ライダー100が自動変速操作スイッチ136または137を操作する。すると、自動二輪車1の制御装置(図示せず)がクラッチアクチュエータ14およびシフトアクチュエータ70を制御し、クラッチ11の切断、変速装置43の変速ギアの切り換え、クラッチ11の接続の一連の動作が実行される。
【0042】
《クラッチ11の断続動作》
次に、クラッチアクチュエータ14によってクラッチ11が切断および接続される動作について説明する。
【0043】
図7(a)、図11(a)、図12(a)は作動力伝達機構15の側面図であり、図7(a)はクラッチ11が接続されている状態、図11(a)はクラッチ11が切断され始める状態、図12(a)はクラッチ11が切断された状態をそれぞれ表している。
【0044】
図7(a)および図11(a)に示すように、クラッチアクチュエータ14が作動し、ウォーム軸16が回転すると、第1回転体19は時計回り方向に回転する。第1回転体19と第2回転体24とは噛み合っているので、第1回転体19が時計回り方向に回転すると、第2回転体24は反時計回り方向に回転する。なお、クラッチ11が接続されている位置(=図7(a)に示す位置)から切断され始める位置(=図11(a)に示す位置。以下、切断開始位置という)までは、いわゆる遊び領域であり、クラッチアクチュエータ14には大きな負荷は加わらない。切断開始位置では、アシストスプリングユニット25の揺動中心C3と、アシストスプリングユニット25の当接部25dと第1回転体19のカム部19bとの接触点と、第1回転体19の回転中心C1とは、一直線上に並ぶ。そのため、アシストスプリングユニット25の付勢力は、第1回転体19を回転させる力としては作用しない。すなわち、アシストスプリングユニット25のアシスト力は零となる。
【0045】
切断開始位置からウォーム軸16がさらに回転すると、第1回転体19は時計回り方向にさらに回転する。また、第1回転体19の回転にしたがって、第2回転体24は、反時計回り方向にさらに回転する。すると、図12(b)に示すように、ボールカム20のボールプレート23のボール21は、カムプレート22のカム溝22bおよび第2回転体24のカム溝24b内を若干乗り上げる。その結果、カムプレート22がボール21によって、クラッチ11を切断する方向に押し出される。具体的には、カムプレート22は、車両の右側に向かって押され、スライド軸455と共に右側に移動する(図13参照)。これにより、プレッシャプレート451が右側に移動し、クラッチ11は切断される。
【0046】
なお、図12(a)に示すように、第1回転体19が切断開始位置を超えて時計回り方向に回転すると、アシストスプリングユニット25の当接部25dと第1回転体19のカム部19bとの接触点は、アシストスプリングユニット25の揺動中心C3と第1回転体19の回転中心C1とを結ぶ線よりも、図12(a)の下側にずれる。そのため、アシストスプリングユニット25の付勢力は、第1回転体19を時計回り方向に回転させる力、すなわちクラッチ11を切断させる方向のアシスト力となって作用する。これにより、クラッチアクチュエータ14の負荷が軽減される。
【0047】
以上が、クラッチ11が切断される際の動作である。なお、切断状態にあるクラッチ11を接続する際には、上述の動作と逆の動作が行われる。
【0048】
《実施形態の効果》
以上のように、本実施形態に係るパワーユニット35によれば、図5に示すように、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、パワーユニット35のケーシング39の内部の右端部に配置されているので、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15がケーシング39の外側に出っ張ることがない。
【0049】
また、図7(a)に示すように、作動力伝達機構15は、互いに軸心がずれた複数の回転体(すなわち、第1回転体19および第2回転体24)を備えており、それら回転体19,24を介してクラッチアクチュエータ14からクラッチ11に作動力が伝達される。そのため、従来のように、一方向に長く出っ張ってしまうロッド等を設けなくても、クラッチアクチュエータ14からクラッチ11に作動力を伝達することができる。したがって、ケーシング39内において作動力伝達機構15をコンパクトに配置することができる。
【0050】
また、クラッチアクチュエータ14は、駆動軸14Bが左右方向と直交する方向に延びるように配置されているので、クラッチアクチュエータ14が左右方向に出っ張ることを防止することができる。したがって、ケーシング39内においてクラッチアクチュエータ14をコンパクトに配置することができる。
【0051】
本実施形態によれば、上述の効果が組み合わされることによって、クラッチアクチュエータ14を有するパワーユニット35の小型化を実現することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態のパワーユニット35は、クラッチ11の切断を補助するアシストスプリングユニット25を備え、そのアシストスプリングユニット25は、スライド軸455の軸方向と直交する平面内で揺動するように構成されている。
【0053】
このように、アシストスプリングユニット25がクラッチ11の切断を補助するので、クラッチアクチュエータ14の必要駆動力を比較的小さく抑えることができる。そのため、クラッチアクチュエータ14をより小型化することができ、ひいては、パワーユニット35の小型化を促進することができる。また、アシストスプリングユニット25は、スライド軸455の軸方向と直交する平面内で揺動するので、アシストスプリングユニット25が左右方向(すなわち車幅方向)に出っ張ることが抑制される。これにより、パワーユニットのさらなる小型化が図られる。
【0054】
また、図7(a)に示すように、パワーユニット35内の側面視において、第1回転体19の回転中心C1と第2回転体24の回転中心C2とアシストスプリングユニット25の揺動中心C3とは、一直線上に配置されていない。言い換えると、これら回転中心C1、回転中心C2、および揺動中心C3は、三角形の頂点をなすように配置されている。
【0055】
仮に回転中心C1と回転中心C2と揺動中心C3とが一直線上に配置されていると、第1回転体19、第2回転体24およびアシストスプリングユニット25が一直線上に長く配置されることになる。しかし、本実施形態では、回転中心C1と回転中心C2と揺動中心C3とは一直線上に配置されていないので、第1回転体19と第2回転体24とアシストスプリングユニット25とが一方向に長くなることがない。したがって、作動力伝達機構15およびアシストスプリングユニット25をコンパクトに配置することができ、また、作動力およびアシスト力の伝達距離を短くすることができる。その結果、パワーユニット35のより一層の小型化を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態のクラッチ11は多板式クラッチであり、図4に示すように、側面視において、作動力伝達機構15とアシストスプリングユニット25とは、前記多板式クラッチ11の外輪郭11aの内側に収められている。そのため、パワーユニット35のより一層の小型化を図ることができる。
【0057】
図5に示すように、本実施形態のパワーユニット35において、クラッチ11は、ケーシング39内における左右方向の中心よりも右側に配置され、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15も、ケーシング39内における左右方向の中心よりも右側に配置されている。すなわち、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15は、左右方向に関して、前記ケーシング39内におけるクラッチ11が配置されている側に配置されている。このため、クラッチアクチュエータ14とクラッチ11との距離が短くなり、作動力伝達機構15を小型化することができる。
【0058】
また、図5に示すように、本実施形態のパワーユニット35は、ケーシング39内で左右方向に延びるクランク軸31を有する4気筒エンジン30を備えており、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15の少なくとも一部は、左右方向に関して、クランク軸31の右端部31aよりも、左右方向の中心側に配置されている。
【0059】
このように、クラッチアクチュエータ14および作動力伝達機構15の少なくとも一部がクランク軸31よりも左右方向に出っ張っていないので、パワーユニット35の左右方向のコンパクト化、すなわちスリム化を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態のパワーユニット35のケーシング39は、互いに組み立てられたクランクケース36およびカバー38を備え、平面視において、クランクケース36とカバー38との合面39aは、後方に向かうほど左右方向の中心側に傾斜している。そして、クラッチアクチュエータ14は、スライド軸455よりも後方に配置されている。すなわち、本実施形態に係るパワーユニット35では、合面39aが傾斜していることにより、クランクケース36の右側に、後方にいくほど大きくなるようなスペースが形成されている。そして、本実施形態では、このスペースを有効活用するように、クラッチアクチュエータ14をスライド軸455よりも後方に配置することとした。したがって、クラッチアクチュエータ14をよりコンパクトに配置することができる。
【0061】
また、図4に示すとおり、本実施形態では、クラッチアクチュエータ14は、上下方向に延びる駆動軸14Bと、駆動軸14Bの上側に配置されたモータ本体14Aとを有する電動モータである。このような配置により、電動モータ14の前後方向および左右方向の長さが短くなり、パワーユニット35の前後方向および左右方向のコンパクト化が図られる。
【0062】
また、本実施形態の車両用パワーユニット35では、第2回転体24の回転力をスライド軸455の軸方向への力に変換する力方向変換機構は、ボールカム20である。このようにボールカム20を用いることとしたので、クラッチアクチュエータ14からスライド軸455に対する作動力の伝達効率が高くなると共に、力方向変換機構自体をコンパクトに形成することができる。また、一般に、ボールカムは大きな減速比を得ることができるので、作動力伝達機構15の他の部分における必要減速比を小さく抑えることができる。これにより、作動力伝達機構15の他の部分における構造を簡略化し、パワーユニット35のより一層の小型化を図ることができる。
【0063】
《変形例》
前記実施形態は、本発明を実施する一つの形態にすぎず、本発明は他に種々の形態で実施することができる。
【0064】
前記実施形態では、本発明に係る車両用パワーユニット35を搭載した車両は、自動二輪車1であった。しかし、本発明に係る車両は、自動二輪車1に限定されず、ATV等の他の鞍乗型車両であってもよい。また、本発明に係る車両は、鞍乗型車両以外の車両であってもよい。
【0065】
前記実施形態では、作動力伝達機構15の回転体は、第1回転体19および第2回転体24の2つであった。しかし、作動力伝達機構15の回転体は、2つ以上であってもよい。
【0066】
前記実施形態では、作動力伝達機構15の力方向変換機構は、ボールカム20であった。しかし、力方向変換機構は、ボールカム20以外のものであってもよい。力方向変換機構として、例えばウォームギア等を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明は、クラッチアクチュエータを有する車両用パワーユニット並びにそれを備えた車両について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】自動二輪車の側面図である。
【図2】自動変速操作スイッチの斜視図である。
【図3】パワーユニットの側面図である。
【図4】カバーを外した状態のパワーユニットの側面図である。
【図5】パワーユニットの一部を切り欠いて示す平面図である。
【図6】パワーユニットの主要構成要素を示す模式図である。
【図7】(a)はクラッチが接続されている状態の作動力伝達機構の側面図、(b)は同状態におけるボールカムのボールの位置を示す模式図である。
【図8】第1回転体の断面図である。
【図9】第2回転体の側面図である。
【図10】クラッチが接続されている状態のボールカムの断面図である。
【図11】(a)はクラッチが切断開始位置にあるときの作動力伝達機構の側面図、(b)はクラッチが切断開始位置にあるときのボールカムのボールの位置を示す模式図である。
【図12】(a)はクラッチが切断された状態の作動力伝達機構の側面図、(b)は同状態のボールカムのボールの位置を示す模式図である。
【図13】クラッチが切断された状態のボールカムの断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 自動二輪車(車両)
11 クラッチ
11a クラッチの外輪郭
14 クラッチアクチュエータ
14A モータ本体
14B 駆動軸
15 作動力伝達機構
16 ウォーム軸
19 第1回転体
19a ウォームホイール部
20 ボールカム(力方向変換機構)
24 第2回転体
25 アシストスプリングユニット(弾性体)
30 エンジン(多気筒エンジン)
31 クランク軸
31a クランク軸の右端部(軸端部)
36 クランクケース
38 カバー
39 ケーシング
39a クランクケースとカバーとの合面
455 スライド軸
C1 第1回転体の回転中心
C2 第2回転体の回転中心
C3 アシストスプリングユニットの揺動中心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に延びるスライド軸を有し、前記スライド軸が軸方向に移動することによって断続されるクラッチと、
回転する駆動軸を有するクラッチアクチュエータと、
前記クラッチアクチュエータの駆動軸と前記スライド軸とを連結し、前記クラッチアクチュエータの作動力を前記スライド軸に伝達する作動力伝達機構と、
前記クラッチ、前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構を収容するケーシングと、を備え、
前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構は、前記ケーシングの内部の左端部または右端部に配置され、
前記クラッチアクチュエータは、前記駆動軸が左右方向と直交する方向に延びるように配置され、
前記作動力伝達機構は、
前記駆動軸に設けられたウォーム軸と、
前記ウォーム軸と噛み合うウォームホイール部を有し、前記ウォーム軸の回転に伴って、前記スライド軸の軸心と平行な軸心回りに回転する第1回転体と、
前記第1回転体の回転に伴って、前記スライド軸の軸方向から見て前記スライド軸の軸心回りに回転する第2回転体と、
前記第2回転体の回転力を前記スライド軸の軸方向の力に変換し、前記第2回転体の回転に伴って前記スライド軸を軸方向に移動させる力方向変換機構と、を備えている、車両用パワーユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記ケーシングの内部に配置され、前記スライド軸の軸方向と直交する平面内で揺動するように一端側が揺動自在に支持され、他端側が前記第1回転体と連結され、少なくとも前記クラッチが切断され始めてからさらに切断方向に状態変化している間に、前記第1回転体を前記クラッチが切断する方向に付勢する弾性体を備えている、車両用パワーユニット。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用パワーユニットにおいて、
側面視において、前記第1回転体の回転中心と前記第2回転体の回転中心と前記弾性体の揺動中心とは、一直線上に配置されていない、車両用パワーユニット。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記クラッチは、多板式クラッチであり、
側面視において、前記作動力伝達機構と前記弾性体とは、前記多板式クラッチの外輪郭よりも内側に配置されている、車両用パワーユニット。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記クラッチは、前記ケーシング内における車両の左右方向の中心よりも左側または右側に配置され、
前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構は、左右方向に関して、前記ケーシング内における前記クラッチが配置されている側に配置されている、車両用パワーユニット。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記ケーシング内で左右方向に延びるクランク軸を有する多気筒エンジンを備え、
前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構の少なくとも一部は、左右方向に関して、前記クランク軸における前記クラッチアクチュエータおよび前記作動力伝達機構が設けられている側の軸端部よりも、車両の左右方向の中心側に配置されている、車両用パワーユニット。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記ケーシングは、少なくとも前記クラッチを覆うクランクケースと、平面視において後方に向かうほど車両の左右方向の中心側に傾斜する合面を境として前記クランクケースに取り付けられ、前記クラッチアクチュエータおよび前記スライド軸の少なくとも一部を覆うカバーと、を備え、
前記クラッチアクチュエータは、前記スライド軸よりも後方に配置されている、車両用パワーユニット。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記クラッチアクチュエータは、前記駆動軸として上下方向に延びる回転軸と、前記回転軸の上側に配置された筒状のモータ本体とを有する電動モータである、車両用パワーユニット。
【請求項9】
請求項1に記載の車両用パワーユニットにおいて、
前記力方向変換機構はボールカムである、車両用パワーユニット。
【請求項10】
請求項1に記載の車両用パワーユニットを備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−121594(P2009−121594A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296466(P2007−296466)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】