説明

車両用内燃機関のシリンダヘッド構造

【課題】デコンプカム等可変カムを備えたシリンダヘッド構造において、部品点数、加工工数を減じ、さらに、給排気カム等の潤滑を良好にする車両用内燃機関のシリンダヘッド構造を提供すること。
【解決手段】カム軸64を支持する一対のカムシャフトホルダ部80L、80R、カム軸に相対回転可能に支持された可変カム91、可変カムに係合して可変カムの回転を規制する係止部材100を備える車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、シリンダヘッド22に固定され、カムシャフトホルダ部同志を連結する補強部材89を備え、カムシャフトホルダ部は貫通孔102を備え、貫通孔に収容されその一端から突出して可変カムと係合するように付勢された係止部材が、貫通孔の他端を補強部材が塞ぐことで貫通孔内に保持されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の車両用単気筒4ストロークサイクル内燃機関のシリンダヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の車両用単気筒4ストロークサイクル内燃機関のシリンダヘッドにデコンプレッション装置(以下、「デコンプ装置」という)を備えたものにおいて、デコンプレッションカム(以下、「デコンプカム」という)のストッパ機構となる係止部材を、シリンダヘッドのカムシャフトホルダ部に埋め込み、ボルトで抜け止めした構造が、例えば、特許文献1に示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示されるようなシリンダヘッド構造の場合、係止部材の抜け止めのためのボルト等、専用部品が必要となり、また、カムシャフトホルダ部に雌ねじ加工が必要となって、加工工数が増大する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4260841号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、デコンプカム等可変カムを備えたシリンダヘッド構造において、部品点数、加工工数を減じ、さらに、給排気カム等の潤滑を良好にする車両用内燃機関のシリンダヘッド構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、カム軸を支持する一対のカムシャフトホルダ部、前記カム軸に相対回転可能に支持された可変カム、同可変カムに係合して可変カムの回転を規制する係止部材を備える車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、シリンダヘッドに固定され、前記カムシャフトホルダ部同志を連結する補強部材を備え、前記カムシャフトホルダ部は貫通孔を備え、同貫通孔に収容されその一端から突出して前記可変カムと係合するように付勢された前記係止部材が、前記貫通孔の他端を前記補強部材が塞ぐことで同貫通孔内に保持されたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において前記カムシャフトホルダ部は、前記カム軸の外周においてカム軸方向に延出して、前記可変カムとその半径方向で対峙する延出部を備え、前記貫通孔は、同延出部において前記カム軸方向に垂直に形成されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、前記シリンダヘッドは、前記車両用内燃機関が車両に搭載されたとき、シリンダ軸線が略水平に、前記カム軸が車幅方向に配向し、同カム軸の下方に吸気バルブまたは排気バルブとロッカーアームとの当接部が位置するように配置され、前記補強部材は、付着した潤滑油が前記当接部に滴下供給されるように、下辺が湾曲されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、前記可変カムは、排気カムに隣接して配置されたデコンプカムであり、前記排気カムとデコンプカムとの間にオイル溜りを形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、前記オイル溜りは、前記カム軸に形成された、前記排気カムの外径と前記デコンプカムの外径よりも小径な部分であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、前記補強部材は、環状のプレート部材であり、前記シリンダヘッドとシリンダブロックとを締結し、同シリンダヘッドに前記補強部材を固定する締結ボルトは、複数本からなり、前記補強部材と前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックとを共締めすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造によれば、補強部材が係止部材の抜け止めを兼ねるため、抜け止めボルトとその螺合のための雌ねじ加工が不要となり、部品点数と加工工数が低減する。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、係止部材収容部となる貫通孔を、カムシャフトホルダ部にカム軸方向に延出する延出部を備えたうえで一体に設けるので、カムシャフトホルダ部の強度を高くすることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、簡易な構造で吸気バルブまたは排気バルブとロッカーアームとの当接部の潤滑を良好に行える。
【0015】
請求項4の発明によれば、デコンプカム装置の構造において請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果を奏するとともに、デコンプカムの潤滑も簡易な構成で良好に行える。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項4の発明の効果に加えて、カム軸の軽量化を図りつつ、簡易な構成でオイル溜りを形成できる。
【0017】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明の効果に加えて、環状の補強部材を、複数本の締結ボルトに対応するワッシャとして用いることで、部品点数をさらに低減し、締結ボルトの組付け性を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用内燃機関のシリンダヘッド構造を備えたパワーユニットを搭載した自動二輪車の左側面図である。
【図2】本実施形態に係るパワーユニットの左側面断面図である。
【図3】図2のIII−III断面展開図である。
【図4】図3のシリンダヘッド近傍の拡大図である。
【図5】(a)は、図4中の、カム軸とデコンプカムおよびカム軸受の軸線に沿う断面図であり、(b)は、(a)中V−V矢視によるデコンプカムの正面図である。
【図6】図4中、VI−VI矢視による、シリンダヘッド近傍頂面断面図である。
【図7】(a)は、図4中VII−VII矢視によるシリンダヘッド近傍右側面断面図であり、(b)は、(a)中、係止部材近傍の拡大図である。
【図8】本実施形態に係るデコンプ装置の模式的な作用説明図である。
【図9】本実施形態に係るデコンプ装置の模式的な作用説明図である。
【図10】本実施形態に係るデコンプ装置の模式的な作用説明図である。
【図11】本実施形態に係るデコンプ装置の模式的な作用説明図である。
【図12】本実施形態に係るデコンプ装置の模式的な作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から図12に基づき、本発明の一実施形態に係る車両用内燃機関のシリンダヘッド構造につき説明する。なお、以下の説明における前後左右上下等の向きは、本実施形態の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造を備えたパワーユニットを、自動二輪車等車両に搭載した状態での車両の向きに従うものとする。また、特に別記ない場合は、図中矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、DNは車両下方を、それぞれ示す。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る自動二輪車1の左側面を示す。この自動二輪車1の車体フレーム2は、車体前部のヘッドパイプ3から後方へ斜め下向きに傾斜して1本のメインフレーム4が延出し、同メインフレーム4の後部に左右一対のピボットブラケット5、5が下方に延出して固着されている。メインフレーム4の後部でピボットブラケット5、5の固着位置付近から左右一対のシートレール6、6が後方へ斜め上向きに延出し途中で屈曲して後端に至っている。このシートレール6、6の中央部とピボットブラケット5、5との間にミドルフレーム7、7が介装されている。
【0021】
上記の車体フレーム2の左右一対のシートレール6、6間に収納ボックス8や図示しない燃料タンク等が架設され、収納ボックス8等の上方をシート9が開閉自在に覆っている。車体前部下方にヘッドパイプ3に軸支されたフロントフォーク10が延び、その下端に前輪11が軸支され、フロントフォーク10の上方には、操向ハンドル12が設けられている。車体中央のピボットブラケット5、5に設けられたピボット軸13により、リヤフォーク14が前端を軸支されて後方に延び、その後端部に後輪15が軸支されている。ピボット軸13を中心に上下に揺動するリヤフォーク14の後部とシートレール6、6との間にリヤクッション16、16が介装されている。
【0022】
メインフレーム4の下方でかつピボットブラケット5、5の前方にパワーユニット17が搭載されている。パワーユニット17はメインフレーム4に設けられた支持ブラケット29に支軸30を介して吊設されると共に、ピボットブラケット5、5の上部と下部で支軸31によって支持されている。車体フレーム2は、各部に分割された合成樹脂製のカバー部材32によって覆われている。150は、サイドスタンドである。
【0023】
パワーユニット17は前部の内燃機関18と後部の動力伝達装置19から構成されている。内燃機関18は、単気筒の4ストロークサイクル内燃機関で、自動二輪車1に搭載された状態で、クランク軸35(図2、3参照)は車幅方向に配向し、パワーユニットケース(クランクケースを兼ねる)20の前面から、シリンダ部210を構成するシリンダブロック21、シリンダヘッド22およびシリンダヘッドカバー23が重ねられて、略水平に近い状態にまで大きく前傾した姿勢で突出して取り付けられている。シリンダヘッド22の上方に延出した吸気管24にスロットルボディ25とエアクリーナ26が接続されている。また、シリンダヘッド22の下方に延出し後方へ屈曲した排気管27は、後方へ延びて後輪15の右側のマフラー28に接続されている。
【0024】
図2にパワーユニット17の左側面断面を示すように、パワーユニット17のシリンダ部210は、その軸線X(シリンダ軸線)を地面に対して略水平(詳細にはやや前上がり)にしてパワーユニットケース20前端部から前方(車両進行方向)に突出している。シリンダヘッド22、シリンダブロック21は、これらを車両前方から貫通する複数の締結ボルト60によりパワーユニットケース20に一体的に結合され(図6、7参照)、シリンダヘッドカバー23は、車両前方から挿通されるボルト61(図7参照)によりシリンダヘッド22に固定される。
【0025】
以下、シリンダ部210における前記軸線Xと平行な前後方向をシリンダ前、後方向、前記軸線Xと直交する上、下方向をシリンダ上、下方向ということがある。
【0026】
動力伝達装置19の殻体については図3に関して後述するが、パワーユニットケース20は左右割りの、左パワーユニットケース20Lと右パワーユニットケース20Rとを備えており、図3に示すように、左パワーユニットケース20Lと右パワーユニットケース20Rとを合わせ面Yで一体化結合することで、パワーユニット17が構成される。図2に図示されている動力伝達装置19の外殻は、右パワーユニットケース20Rの左側面である。動力伝達装置19はVベルト式無段変速機33と減速歯車機構34から構成されている。
【0027】
パワーユニット17には、モータ始動機構47とキック始動機構51が具備されている。モータ始動機構47は、スタータモータ48の駆動ピニオン48a、モータ始動機構中間軸49、同中間軸49に設けられた大小のギヤ、及びクランク軸35の左側部分35L(図3も参照)に設けられたモータ始動機構従動ギヤ50によって構成されている。モータ始動機構47は減速機構である。なお、スタータモータ48は、図示のようにクランク軸35の中心を通る鉛直線Cより前方に配置されている。
【0028】
キック始動機構51は、キック軸52、キックアーム52a、キックペダル52b(図1)、第1中間軸53a、第2中間軸53b、これらの軸に設けられた歯車群、及びクランク軸35の右部に設けられたキック始動機構従動ギヤ54、などから構成される。キック始動機構51は増速機構である。なお、キック軸52は、クランク軸35と出力軸43との間であって、これら2軸より下方に配置されている。
【0029】
図3に示すように、シリンダブロック21は、その内部に前記シリンダ軸線Xに沿うシリンダボア55が形成され、該シリンダボア55内にピストン56が往復動可能に嵌装される。ピストン56には、左右方向に沿うピストンピン57を介してコンロッド59の小端部が揺動自在に連結され、コンロッド59の大端部は左右方向に沿うクランクピン58を介してクランク軸35に回転自在に連結される。クランク軸35は、パワーユニット17の正常運転時において、ピストン56の往復動に伴い左側面を示す図2において反時計回りに回転する(右側面視では時計回りに回転する。)。
【0030】
クランク軸35の右端部にはVベルト式無段変速機33の駆動プーリ軸36が同軸配置され、Vベルト式無段変速機33の従動プーリ軸37はパワーユニットケース20の後部に設けられている。上記駆動プーリ軸36に設けられた駆動プーリ38と、従動プーリ軸37に設けられた従動プーリ39に、Vベルト40が掛け回され、Vベルト式無段変速機33が構成されている。33aは変速機ケース、33bは変速機カバーである。クランク軸35の左方延長部35Lには、交流発電機68が設けられる。68aは発電機カバーである。69は点火プラグである。
【0031】
上記Vベルト式無段変速機33の従動プーリ軸37の左側部分37Lに従動プーリ39と同軸配置で、ほぼ同径の湿式遠心クラッチ41が設けられており、さらにこの従動プーリ軸37の左側部分37Lは減速歯車機構34の入力軸となっている。減速歯車機構34の回転軸は、従動プーリ軸37の左側部分37L、減速歯車機構中間軸42、及び出力軸43を備え、これらの軸に設けられた歯車群によって減速歯車機構34が構成されている。出力軸43は左パワーユニットケース20Lの後部から左方に突出している。パワーユニット17の回転駆動力は上記出力軸43を介して出力される。図1に示されるように、上記出力軸43に嵌着された後輪駆動スプロケット44と後輪15に一体に設けられた後輪従動スプロケット45との間に動力伝達チェーン46が架渡され、パワーユニット17の回転駆動力が後輪15に伝達される。44aは、パワーユニットケース20の左側面を、発電機カバー68aより後方、後輪駆動スプロケット44まで覆う後部カバーである。
【0032】
図2に示されるように、シリンダヘッド22は、シリンダボア55の前端開口を閉塞してピストン56と共に所謂ペントルーフ型の燃焼室66を形成する。本実施形態における内燃機関18はOHC2バルブであり、燃焼室66のルーフ形成部における二つの傾斜上面67にはそれぞれ吸気ポート70及び排気ポート71の燃焼室側開口が一つずつ形成され、各燃焼室側開口がそれぞれ吸気バルブ72及び排気バルブ73により開閉される。
【0033】
各ポート70、71は、燃焼室66とシリンダヘッド22上部の吸気管取り付け部62、シリンダヘッド22下部の排気管取り付け部63とを連通する流通路であり、燃焼室66側開口から前記傾斜上面67と略直交するようにシリンダ前方向に斜めに延びた後、シリンダ上方向、下方向に湾曲して吸気管取り付け部62、排気管取り付け部63に至る。吸気管取り付け部62、排気管取り付け部63は、シリンダ上下方向と略直交する平面を形成し、同各平面に吸気管24、排気管27が締結される(図1参照)。
【0034】
各バルブ72、73のステム74、75は、傾斜上面66、67と略直交するように側面視V字状をなして斜めシリンダ前方向に延び、これらが吸排気ポート70、71の内壁を貫通した後に、その先端部にそれぞれリテーナ76(図8に排気バルブ73側のみ示す。図8は、図7と同方向の右側面断面において、デコンプ装置を模式的に示す。)が嵌合装着され、該各リテーナ76を介して対応するバルブスプリング77(図8に排気バルブ73側のみ示す)のバネ力が各バルブ72、73に入力されることで、これらが各ポート70、71の燃焼室側開口を閉塞する側に付勢される。
【0035】
各バルブ72、73のステム74、75間には、クランク軸35と平行をなし、車幅方向に配向した単一のカム軸64が配置される。図3、4に示すように、カム軸64は、その長手方向中間部に吸気カム64a及び排気カム64bを一体に備え、かつ両端部が左側の吸気カム側ベアリング65L、右側の排気カム側ベアリング65Rを介して、シリンダヘッド22の左右一対の左側カムシャフトホルダ部80L、右側カムシャフトホルダ部80Rに回転自在に支持される。カム軸64の左端部にはカムチェーン従動スプロケット81が同軸固定され、カムチェーン従動スプロケット81とクランク軸35の左端部に同軸固定されたカムチェーン駆動スプロケット82とに無端状のカムチェーン83が巻き掛けられる。これにより、カム軸64がクランク軸35と連係してその1/2の回転数で同一方向に回転する。
【0036】
カム軸64と各バルブ72、73のステム74、75の先端部との間には、カム軸64と平行をなす吸気側、排気側ロッカーシャフト84、85がそれぞれ配置される(図2、図7、図8参照)。各ロッカーシャフト84、85は、それぞれ両カムシャフトホルダ部80L、80Rに支持される。各ロッカーシャフト84、85には、それぞれ吸気側、排気側ロッカーアーム86、87の中間部が揺動自在に支持される。各ロッカーアーム86、87のカム軸64側の端部にはそれぞれ、吸気カム64a、排気カム64bの外周面に当接するカムローラ87a(図8に排気バルブ73側のみ示す)が回転自在に支持される。一方、各ロッカーアーム86、87の他端部にはそれぞれ、タペットボルト87b(図8に排気バルブ73側のみ示す)が螺着されてロックナットにより一体的に固定される。
【0037】
各ロッカーアーム86、87は、それぞれタペットボルト87bを介して各バルブ72、73のステム74、75先端部に当接し、カム軸64が回転した際には、各カム64a、64bの外周パターンに応じて揺動する。これにより、各ロッカーアーム86、87と各バルブ72、73のステム74、75先端部との当接部74a、75aが揺動して、対応するバルブ72、73がそのステム74、75に従って往復動して各ポート70、71の燃焼室側開口を開閉させる。各バルブ72、73のステム74、75、各ロッカーアーム86、87、及びカム軸64等はシリンダヘッド22の前部内側に支持されており、これらがシリンダヘッド22前部及びこれを閉塞するカップ状のシリンダヘッドカバー23で形成された動弁室88内に収容される。
【0038】
左右一対の左側カムシャフトホルダ部80Lと右側カムシャフトホルダ部80Rは、シリンダヘッド22bに一体に形成されているが、カム軸64、各ロッカーシャフト84、85から受ける負荷、撓みに抗するために、図4、6、7に示されるように、両カムシャフトホルダ部80L、80Rの前端面(頂面)を連結する補強部材89が取り付けられている。
【0039】
補強部材89は、シリンダヘッド22とシリンダブロック21とをパワーユニットケース20に締結する締結ボルトに60より、同シリンダヘッド22の両カムシャフトホルダ部80L、80Rに固定される環状のプレート部材であり、締結ボルト60は、複数本からなり、補強部材89とシリンダヘッド2とシリンダブロック21とを共締めする。
したがって、環状で一体の補強部材89は、締結ボルト60のためのワッシャとしても機能し、複数本の締結ボルト60の対するワッシャの部品点数が低減し、締結ボルト60の組付け性が良好になる。
【0040】
また、本実施形態のシリンダ部210は、図2に基づき説明したように、その軸線Xを地面に対して略水平にしてパワーユニットケース20前端部から前方(車両進行方向)に突出しており、シリンダヘッド22、シリンダブロック21、補強部材89は、これらを車両前方から貫通する複数の締結ボルト60により共締めされ、パワーユニットケース20に一体的に結合さている。したがって、補強部材89は、略シリンダ上下方向に配向して取り付けられる。そして、カム軸64は、クランク軸35と平行で、車体幅方向に水平に配向し、そのシリンダ上方向に吸気バルブ72のステム74と吸気側ロッカーアーム86との当接部74a、そのシリンダ下方向に排気バルブ73のステム75と排気側ロッカーアーム87との当接部75aが位置する。
【0041】
そのようなシリンダヘッド構造において、図2に示すように、吸気バルブ72と吸気側ロッカーアーム86との当接部74aのシリンダ上方向には、シリンダヘッドカバー23に、図示しない潤滑油供給機構に連通し、動弁室88に潤滑油aを供給する潤滑油供給孔78が設けられている。潤滑油供給孔78から供給された潤滑油aは、シリンダ下方向の、吸気バルブ72と吸気側ロッカーアーム86との当接部74a上に滴下し、同当接部74aを潤滑するとともに、同当接部74aの運動に伴い、一部はそのシリンダ下方向のカム軸64に滴下供給され、カム軸64および吸気カム64a、排気カム64bを潤滑する。また、ある一部は補強部材89を伝いシリンダ下方向に流下し、そのシリンダ下方向の排気バルブ73と排気側ロッカーアーム87との当接部75aに滴下供給され、同当接部75aを潤滑する。
【0042】
そのために、環状の補強部材89は、図6に示されるように、シリンダ下方向となる排気バルブ73と排気側ロッカーアーム87との当接部75a側の下辺89aがシリンダ下方向(図示、上方向)に湾曲して形成されている。同湾曲部に従い潤滑油aの滴下が的確になされるため、簡易な構造で排気バルブ73と排気側ロッカーアーム87との当接部75aの潤滑が良好に行える。
なお、本実施形態と、吸気側、排気側の配置がシリンダ上下方向で逆の場合は、同様に、吸気バルブ72と吸気側ロッカーアーム86との当接部74aの潤滑が良好に行える。
【0043】
図5に示すように、カム軸64の右端部には、ワンウェイクラッチ(一方向クラッチ)90備えたデコンプカム91が相対回転可能に支持される。図5(a)中V−V矢視によるデコンプカム91の正面図を示す図5(b)において、カム軸64が時計回りに回転(正転、矢印N方向の回転。N方向は、内燃機関18の正常運転状態におけるカム軸64の回転方向)した場合には、ワンウェイクラッチ90の作用によりカム軸64の正転トルクがデコンプカム91に殆ど伝達されず、カム軸64が図5(b)において反時計回りに回転(逆転、矢印R方向の回転)した場合には、カム軸64の逆転トルクが伝達される。図4に示すように、デコンプカム91は、排気側ロッカーアーム87のカムローラ87a支持部の外側(右側)に隣接配置される。排気側ロッカーアーム87のカムローラ87a支持部の外側には、デコンプカム91の外周面に当接し得るカム当接部87cが形成されている。
【0044】
デコンプカム91における正面視(図5(b))で略円形状をなす外周部91aには、その一部を平坦状に切り欠いてなる切り欠き部92が形成されると共に、同切り欠き部92の正転方向リーディング側に隣接してカム山部93が形成され、かつ切り欠き部92の正転方向トレイリング側の略中央に隣接して係止突部94が形成される。カム山部93は、デコンプカム91の外周部に所定範囲に渡り略一定高さに形成されるもので、排気側ロッカーアーム87のカム当接部87cに当接した状態において排気側ロッカーアーム87を所定量揺動させる(図9参照)。また、係止突部94は、切り欠き部92が排気側ロッカーアーム87のカム当接部87cに接した状態(図8参照)において後述の係止部材100に係合し得るものである。切り欠き部92の正転方向トレイリング側に離間してカム山部93に至らない範囲で部材軽量化のために第2の切り欠き部95を設けてもよい。
【0045】
また、図5に示すように、排気カム87に隣接してデコンプカム91が配置されているが、排気カム64bとデコンプカム91との間のカム軸64に、排気カム64bの外径およびデコンプカム91の外径よりも小径な小径部分64cが形成されている。このため、図2に関して上述したように、動弁室88に供給され、カム軸64に付着した潤滑油aは、排気カム64bとデコンプカム91に挟まれた小径部分64cに滞留して、小径部分64cはオイル溜り79を形成する。
したがって、排気カム64bとデコンプカム91との間にオイル溜り79が形成されたので、デコンプカム91の潤滑が良好に行え、また、小径部分64cを形成することによってオイル溜り79を形成するので、カム軸64の軽量化を図りつつ、簡易な構造でオイル溜り79を形成できる。
【0046】
図4、図7に示すように、右側カムシャフトホルダ部80Rは、カム軸64の外周においてカム軸方向Zに延出し、デコンプカム91の前方(図示、上方)に位置し、デコンプカム91とその半径方向で対峙するするオーバハング部(本発明における「延出部」)101(図4)を備えている。オーバハング部101には、シリンダ軸線X方向に沿って、カム軸方向Zに垂直に交差して貫通する貫通孔102が形成される。貫通孔102には、その一端(後端、図示下方端)からデコンプカム91側に向けて図示下方へ突出する係止部材100が、往復動可能に挿入されて収容される。なお、係止部材100は、貫通孔102内の段部102aにより、突出範囲を係止突部94およびその傾斜面94a以外デコンプカム91に当接しない範囲に規制される。
【0047】
図7に示すように、貫通孔102内には、係止部材の前方側(図示、上方側)に当接するようにコイルスプリング103が遊嵌されると共に、貫通孔102の他端(前端、図示上方端)は、右側カムシャフトホルダ部80Rの前端面(頂面。図示上端面)に螺着された補強部材89で塞がれている。そのため、コイルスプリング103は貫通孔102内に保持されてバネ力を発生させ、バネ力により係止部材100がデコンプカム91側に向けて付勢された状態で係止突部94に係合するべく図示下方に突出する。すなわち、貫通孔102は、コイルスプリング103、補強部材89とともに係止部材取り付け部を構成する。
【0048】
係止部材100が突出した状態でデコンプカム91が正転Nした場合(図8における時計回り)には、係止部材100に係止突部94が係合し、デコンプカム91の正転Nを停止させる。また、係止突部94の正転N方向トレイリング側には傾斜面94aが形成されており、デコンプカム91が逆転Rした場合(図8における反時計回り)には、係止突部94の傾斜面94aに係止部材100が乗り上げてコイルスプリング103のバネ力に抗して貫通孔102内に押し込まれ、係止突部94が係止部材100を乗り越えてデコンプカム91の逆転を可能とする。
【0049】
次に、以上説明したパワーユニット17の内燃機関18におけるデコンプ装置の作用について説明する。
まず、内燃機関18の正常運転状態からその運転が停止した場合には、クランク軸35の回転が燃焼室66内の圧力上昇により圧縮行程の上死点手前で停止する。この時のカム軸64の吸気カム64a及び排気カム64b並びにデコンプカム91の位置を図8に示す。
【0050】
図8に示すように、クランク軸35(図2、3)が停止した後には、燃焼室66内の圧力によりピストン56(図2〜4)が押し下げられ、これに伴いクランク軸35が僅かに逆転する。このとき、図9に示すように、カム軸64も同方向に逆転Rし、デコンプカム91もワンウェイクラッチ90の作用により同じく逆転Rして、いずれもクランク軸35の回転角の2分の1の角度だけ逆転Rする。その結果、デコンプカム91のカム山部93に排気側ロッカーアーム87のカム当接部87cが乗り上がり、排気側ロッカーアーム87が揺動して排気バルブ73を作動させ、圧縮行程でありながら排気ポート71の燃焼室66側開口が開放する。このため、燃焼室66内の圧力は下がり、カム軸64は、クランク軸35と共に逆転Rを停止し、運転停止状態となる。
【0051】
図9に示す運転停止状態から、前述したモータ始動機構47又はキック始動機構51により回転するクランク軸35に連動してカム軸64が正転Nすると、図10に示すように、排気カム64bが排気側ロッカーアーム87のカムローラ87aに接近するが、その間、排気側ロッカーアーム87のカム当接部87cがデコンプカム91のカム山部93に当接することで、デコンプカム91にはその回転を停止する力が作用しているため、カム軸64の正転Nとは無関係にデコンプカム91は静止したままとなる。
【0052】
図10に示す状態からさらにカム軸64が正転Nし、図11に示す如く排気カム64bに排気側ロッカーアーム87のカムローラ87aが乗り上げると、カム当接部87cがカム山部93から離間してデコンプカム91は全くの非拘束状態となり、ワンウェイクラッチ90の僅かな正転トルクによって正転N方向へカム軸64と共に連れ回るが、係止突部94が係止部材100に係合することでデコンプカム91の回転がその位置で停止する。
【0053】
図11に示す状態からさらにカム軸64が正転し、図12に示す如く排気カム64bが排気側ロッカーアーム87のカムローラ87aを通過した後には、カム当接部97cがデコンプカム91の切り欠き部92に当接した状態、すなわち図8と同様の状態となり、デコンプカム91によるデコンプレッション機能が自動的に解除され、内燃機関18の正常運転状態にスムーズに移行する。
【0054】
上述の如くカム軸64が1回転する間にクランク軸35は2回転し、これに伴いピストン56がシリンダボア55内を2往復して四つの行程を行う。このとき、図8に示す圧縮行程の上死点近傍となる状態から膨張行程及び排気行程を経由して吸入行程を終了する迄の間は、燃焼室66が大気と連通して燃焼室66内の圧力上昇による内燃機関18の正転抑制力が排除されるので、クランク軸35の正転が円滑にかつ充分に加速され、内燃機関18を確実に始動させることが可能となる。
【0055】
以上説明したように、上記実施形態の内燃機関18のシリンダヘッド構造は、シリンダ部210がその軸線Xを略水平にして配置され、シリンダ部210における吸気ポート70及び排気ポート71を有するシリンダヘッド22に、吸排気バルブ72、73を開閉させるカム軸64が支持される内燃機関18に適用されるものであって、カム軸64の逆転時にのみトルクを伝達し得るワンウェイクラッチ90を内蔵するデコンプカム91が、カム軸64の一側に取り付けられると共に、カム軸64の正転N時にはデコンプカム61と係合し、デコンプカム91の作動を規制、停止させる係止部材100が、シリンダヘッド22に設けられたカムシャフトホルダ部80Rの貫通孔102に取り付けられるものである。
【0056】
そして、シリンダヘッド22とシリンダブロック21とを締結する締結ボルト60によりシリンダヘッド22に固定され、一対のカムシャフトホルダ部80L、80Rを連結する補強部材89を備え、係止部材100が貫通孔102にその一端からデコンプカム91と係合するように突出して収容され、補強部材89が貫通孔102の他端を塞ぐことで係止部材100が貫通孔102内に保持されている。また、右側カムシャフトホルダ部80Rは、カム軸64の外周においてカム軸方向Zに延出するオーバハング部101を備え、貫通孔102は、オーバハング部101にカム軸方向Zに対して垂直に形成されている。
【0057】
本実施形態の内燃機関18のシリンダヘッド構造によれば、補強部材89が係止部材100の抜け止めを兼ねるため、抜け止めボルトとその螺合のための雌ねじ加工が不要となり、部品点数と加工工数が低減する。
また、係止部材100収容部となる貫通孔102を、右側カムシャフトホルダ部80Rにカム軸方向Zに延出するオーバハング部101を備えたうえで一体に設けるので、右側カムシャフトホルダ部80Rの強度を高くすることができる。
【0058】
なお、本発明は上記の実施形態の構成に限られるものではなく、例えば、上記実施形態はカム軸64に設けられたデコンプカム91の場合を述べたが、デコンプカムは正転用、逆転用を限定するものではなく、また、デコンプカムに限らず、可変カムとして一般的に多様な可変カムの場合においても、本発明の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造は有効に採用、実施できる。実施形態ではカムシャフトホルダ部80L、80Rがシリンダヘッド22と一体に形成されたものを示したが、カムシャフトホルダ部80L、80Rが部分的にシリンダヘッド22と別体に形成されて、一体に組み付けられるものにおいても適用できる。また、吸排気バルブの少なくとも一方を複数有するエンジンや複数気筒エンジン、あるいは水冷エンジンに適用してもよい。
上記実施形態は本発明の一例であり、自動二輪車に限らず、同様のパワーユニットを搭載する車両、例えば3輪、4輪のバギー車等の様々な車両の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造として適用することが可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0059】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、11…前輪、15…後輪、17…パワーユニット、18…内燃機関、19…動力伝達装置、20…パワーユニットケース、20L…左パワーユニットケース、20R…右パワーユニットケース、21…シリンダブロック、22…シリンダヘッド、35…クランク軸、44…後輪駆動スプロケット、47…モータ始動機構、51…キック始動機構、56…ピストン、60…締結ボルト、64…カム軸、64a…吸気カム、64b…排気カム、64c…小径部分、66…燃焼室、72…吸気バルブ、73…排気バルブ、74a…当接部、75a…当接部、78…潤滑油供給孔、79…オイル溜り、80L…左側カムシャフトホルダ部、80R…右側カムシャフトホルダ部、86…吸気側ロッカーアーム、87…排気側ロッカーアーム、87a…カムローラ、87c…カム当接部、89…補強部材、89a…下辺、90…ワンウェイクラッチ、91…デコンプカム、92…切り欠き部、93…カム山部、94…係止突部、100…係止部材、101…オーバハング部(延出部)、102…貫通孔、103…コイルスプリング、210…シリンダ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム軸を支持する一対のカムシャフトホルダ部、前記カム軸に相対回転可能に支持された可変カム、同可変カムに係合して可変カムの回転を規制する係止部材を備える車両用内燃機関のシリンダヘッド構造において、
シリンダヘッドに固定され、前記カムシャフトホルダ部同志を連結する補強部材を備え、
前記カムシャフトホルダ部は貫通孔を備え、同貫通孔に収容されその一端から突出して前記可変カムと係合するように付勢された前記係止部材が、前記貫通孔の他端を前記補強部材が塞ぐことで同貫通孔内に保持されたことを特徴とする車両用内燃機関のシリンダヘッド構造。
【請求項2】
前記カムシャフトホルダ部は、前記カム軸の外周においてカム軸方向に延出して、前記可変カムとその半径方向で対峙する延出部を備え、
前記貫通孔は、同延出部において前記カム軸方向に垂直に形成されたことを特徴とする請求項1記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造。
【請求項3】
前記シリンダヘッドは、前記車両用内燃機関が車両に搭載されたとき、シリンダ軸線が略水平に、前記カム軸が車幅方向に配向し、同カム軸の下方に吸気バルブまたは排気バルブとロッカーアームとの当接部が位置するように配置され、
前記補強部材は、付着した潤滑油が前記当接部に滴下供給されるように、下辺が湾曲されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造。
【請求項4】
前記可変カムは、排気カムに隣接して配置されたデコンプカムであり、前記排気カムとデコンプカムとの間にオイル溜りを形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造。
【請求項5】
前記オイル溜りは、前記カム軸に形成された、前記排気カムの外径と前記デコンプカムの外径よりも小径な部分であることを特徴とする請求項4記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造。
【請求項6】
前記補強部材は、環状のプレート部材であり、
前記シリンダヘッドとシリンダブロックとを締結し、同シリンダヘッドに前記補強部材を固定する締結ボルトは、複数本からなり、前記補強部材と前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックとを共締めすることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか記載の車両用内燃機関のシリンダヘッド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−43132(P2011−43132A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192789(P2009−192789)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】