説明

車両用制御装置

【課題】車両の走行安定性を高める車両用制御装置においても、運転者の意図するドリフト走行などの車両を滑らせる挙動を実現できる車両用制御装置を提供する。
【解決手段】マイコン10に含まれる目標ヨーレート設定部12は、舵角センサ2からの舵角θと車速センサ4からの車速Vと各種定数とに基づき車両の走行安定性を高めるための目標ヨーレートYtを決定し、ヨーレートセンサ8により検出される車両の実ヨーレートYsがこの目標ヨーレートYtに一致するようFB制御演算部16は指令値D’を算出し、ゲイン乗算部18はアキシャル力センサ3からのハンドル垂直方向に加わるアキシャル力Faに応じて適宜変更されるゲインGを指令値D’に乗算した指令値Dを配分装置駆動回路20に与える。このことにより、運転者の意図に応じて走行安定性を抑制しドリフト走行などを実現可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の車輪への駆動力配分または制動力を調節することにより、走行中の車両のヨーレートを制御するための車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行安定性を高めるために、その車両重心を通る鉛直線まわりの車両回転角(ヨー角)の変化率(ヨー角速度)であるヨーレイトを予め算出された目標ヨーレイトに一致させるよう、各車輪への駆動力配分または各車輪の制動力を調節する車両用制御装置が知られている。たとえば、路面の摩擦係数μを推定し、その路面μの増加につれて増加するように制御ゲインKを決定し、目標ヨーレイトγ* と実ヨーレイトγとの差に対して制御ゲインKの乗算した値を算出する車両用制御装置がある(特許文献1を参照)。以下、この装置を第1の従来例装置と呼ぶ。この第1の従来例装置では、路面μが大きいほど算出された乗算値が大きくなるため、この値を使用することにより高μ路上で車体の挙動を素早く修正することができる。
【0003】
また、従来より後輪の操舵方向をハンドルの軸方向へ印加される力に応じて変更する車両用制御装置がある(特許文献2を参照)。以下、この装置を第2の従来例装置と呼ぶ。このような第2の従来例装置によれば、運転者の意志に基づいた補助操舵を行うことができる。
【特許文献1】特開平6−115417号公報
【特許文献2】特開平7−117700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、第1の従来例装置のような車両の走行安定性を高める車両用制御装置では、車両が滑るような挙動は不安定な走行状態として迅速に修正されることになる。したがって、車輪と路面とのグリップを失わせて車体の向きと進行方向とにずれを生じさせるドリフト走行など運転者が車両を意図的に滑らせようとする場合であっても、その意図に関わらず車両の走行安定性を高めるための制御が働くので、意図するようなドリフト走行などを行うことはできない。
【0005】
また、この第1の従来例装置のような車両用制御装置に対して、第2の従来例装置を組み合わせることにより後輪の操舵方向がハンドルの軸方向へ印加される力に応じて変更される構成としても不安定な走行状態は迅速に修正されるので、やはり運転者の意図するようなドリフト走行などを行うことはできない。
【0006】
そこで本発明は、車両の走行安定性を高める車両用制御装置においても、運転者の意図するようなドリフト走行などの車両を滑らせる挙動を実現することができる車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、車両のヨーレートを目標ヨーレートに一致させるよう、当該車両の車輪に対する制動力および駆動力のうち少なくとも一方の配分を制御する車両用制御装置であって、
前記車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、
前記ヨーレート検出手段により検出される前記車両のヨーレートを前記目標ヨーレートに一致させるよう、前記配分を制御するための操作量を演算する演算手段と、
操舵のための操作手段の軸方向へ加わる力または軸方向の位置に関連する量であるアキシャル量を検出するアキシャル検出手段と、
前記アキシャル量に応じて変更される変更用ゲインを前記操作量に乗算した値を新たな操作量とするゲイン乗算手段と
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、
ゲイン乗算手段は、前記アキシャル量が変化する所定区間において前記変更用ゲインが変化しないヒステリシス特性または不感帯を有し、前記アキシャル量に応じて前記変更用ゲインを決定することを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、
前記車両の前後方向および左右方向のうち少なくとも一方の加速度を検出する加速度検出手段をさらに備え、
前記ゲイン乗算手段は、前記車両の前後方向の加速度が所定の値を超えるか、または前記車両の左右方向の加速度が所定の値を超えるかの少なくとも一方の条件を満たす場合、前記アキシャル量に関わらず前記変更用ゲインを前記車両の走行安定性を維持するための初期値から変更しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記第1の発明によれば、ゲイン乗算手段によりアキシャル量に応じて変更される変更用ゲインを操作量に乗算するので、車両の走行安定性を高める車両用制御装置においても、変更ゲインを適宜に設定することにより走行安定性を抑制し運転者の意図するようなドリフト走行などの車両を滑らせる挙動を実現することができる。
【0011】
上記第2の発明によれば、ゲイン乗算手段によりヒステリシス特性または不感帯を有し、アキシャル量に応じて変更用ゲインを決定するので、運転者の誤操作を防ぐことができる。
【0012】
上記第3の発明によれば、ゲイン乗算手段は車両の前後または左右のいずれかの加速度が所定値を超えると、アキシャル量に関わらず変更用ゲインを車両の走行安定性を維持するための初期値から変更しないので、遠心力や加速度により運転者がアキシャル量を操作手段に与えた場合は運転者の意志と判断せずに走行安定性のための制御を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
<1. 全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置の構成を、それに関連する車両構成と共に示す概略図である。この車両用制御装置は、操舵のためのハンドル(ステアリングホイール)100の回転位置を示す舵角を検出する舵角センサ2と、ハンドル100に一端が固着されるステアリングシャフト102に沿った方向(以下「垂直方向」という)に印加される力であるアキシャル力を検出するアキシャル力センサ3と、車速を検出する車速センサ4と、車両の前後方向および左右方向の加速度を検出する加速度センサ6と、車両のヨーレート(ヨー加速度)を検出するヨーレートセンサ8と、車両を駆動するエンジン110から入力される駆動力を左右後輪108rL,108rRに配分する左右駆動力配分機構112の駆動力配分比を上記各種センサからのセンサ信号に基づき制御する電子制御ユニット(ECU)5とを備えている。なお、アキシャル力センサ3には荷重センサ、圧力センサ、変位センサ等が使用されてもよい。
【0014】
左右駆動力配分機構112は、例えば差動機構部(デファレンシャル装置)と、所定のギヤ比を有する複数の歯車列を含む歯車機構部と、所定の歯車を離接させる複数の油圧多板クラッチを含むクラッチ機構部と、油圧駆動機構とを備えており、右後輪108rRに繋がる右後輪軸111Rに伝達される駆動力と、左後輪108rLに繋がる左後輪軸111Lに伝達される駆動力とを車両の走行安定性が高められるようECU5により定められた配分比で伝達する構成であるが、その構成は周知であるので詳しい説明を省略する。
【0015】
また、運転者がハンドル100を回転させるとラックピニオン機構104によりラック軸の往復運動に変換される。このラック軸の両端は連結部材106を介して左右前輪108fL,108fRに連結されており、ラック軸の往復運動に応じて連結部材106を介して左右前輪108fL,108fRの向きが変わる。なお、このような操舵機構に運転者の操舵を補助するための電動パワーステアリング装置が備えられていてもよい。
【0016】
<2. 制御装置の構成>
図2は、上記車両用制御装置であるECU5の機能的構成を示すブロック図である。このECU5は、左右駆動力の配分比を算出するマイクロコンピュータ(以下「マイコン」と略記する)10と、そのマイコン10から出力される指令値Dに応じた配分比で左右駆動力配分機構112を駆動するための制御信号Scを出力する配分装置駆動回路20とを備えている。なお、マイコン10は、一般的なコンピュータシステムに備えられるCPUやプログラム格納用および作業用のメモリなどの他、各種センサからのセンサ信号を受け付ける図示されないインタフェース回路を備えている。
【0017】
マイコン10は、その内部のメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、目標ヨーレート設定部12と、減算器14と、フィードバック制御演算部(以下「FB制御演算部」と略記する)16と、ゲイン乗算部18とからなる制御部として機能する。この制御部において、目標ヨーレート設定部12は、例えば車両線形2輪モデルを用いて、舵角センサ2から出力される舵角の検出値(以下単に「舵角」という)θと、車速センサ4から出力される車速の検出値(以下単に「車速」という)Vと、当該車両に固有の定数であるホイールベース、ステアリングギヤ比、および車速の関数であるスタビリティファクタとに基づき、目標ヨーレートYtを決定する。また、目標ヨーレート設定部12は、加速度センサ6から出力される車両の前後方向および左右方向の加速度の検出値(以下単に「前後方向および左右方向の加速度」という)Ax,Ayをさらに使用して目標ヨーレートYtを決定してもよい。このような目標ヨーレートの算出方法(算出式)については多くの例が周知であるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0018】
減算器14は、この目標ヨーレートYtとヨーレートセンサ8から出力される車両のヨーレートの検出値(以下「実ヨーレート」という)Ysとの偏差(Yt−Ys)を算出する。FB制御演算部16は、この偏差(Yt−Ys)に基づく比例積分制御演算によって、配分装置駆動回路20に与えるべきフィードバック制御のための(指令値Dに対して後述するゲインが乗算されていない)指令値D’を生成する。
【0019】
ゲイン乗算部18は、加速度センサ6から受け取った前後方向および左右方向の加速度Ax,Ayがともに所定値以下の場合、FB制御演算部16から受け取った指令値D’に対して、アキシャル力センサ3から受け取ったアキシャル力Faに応じて定められるゲインGを乗算し、乗算結果を指令値Dとして配分装置駆動回路20に与える。なお、これらの加速度Ax,Ayの少なくとも一方が所定値を超える場合にはゲインGは1に、つまりアキシャル力の影響を受けないように設定される。このようなゲイン乗算部18の詳しい動作については後述する。
【0020】
配分装置駆動回路20は、指令値Dに応じた配分比で左右駆動力配分機構112を駆動するための制御信号Scを出力する。典型的には、左右駆動力配分機構112の油圧駆動機構において油圧を生成する図示されないモータに対して、指令値Dに応じたデューティ比のパルス信号すなわち指令値Dに応じてパルス幅の変化するPWM信号である制御信号Scを与える。左右駆動力配分機構112は、この制御信号Scを受け取り、指令値Dに応じた配分比で左右後輪108rL,108rRを駆動する。次に、ゲイン乗算部18の詳しい動作について説明する。
【0021】
<3. ゲイン乗算部の構成および動作>
ゲイン乗算部18は、加速度センサ6から受け取った前後方向および左右方向の加速度Ax,Ayの少なくとも一方が所定値を超える場合、ゲインGは後述するようにアキシャル力Faに応じて設定されることなく、常に1に設定される。なお、ここでのゲインGは運転者の操作に応じて変更される変更用ゲインであって、制御系一般に設定されるパラメータとしての一般的なゲイン(PIゲイン等)とは区別され、この一般的なゲインに対して乗算されるものとする。
【0022】
ここでこの所定値は運転者が意図せずにアキシャル力を加えてしまうと想定される最低限の加速度に基づいて予め定められる。すなわちこの所定値を超える加速度で車両が走行すれば運転者の意図にかかわらずアキシャル力が加わることになる。そこで、加速度Ax,Ayの少なくとも一方がこの所定値を超える場合、ゲインが1に設定される。このことにより、FB制御演算部16により算出された車両の走行安定性を保つために最適な指令値D’をそのまま配分装置駆動回路20に与えることができる。
【0023】
なお、この所定値は加速度Ax,Ayについて同一の値が定められていてもよいし、異なる値が定められていてもよい。また、この所定値として設定される値によっては運転者が制御可能な場合にもゲインGが常に1に設定されるので、運転者の意志を常に尊重したい場合には上記条件判断を省略し、常に後述するようにアキシャル力Faに応じてゲインGを設定する構成であってもよい。
【0024】
また、前述したように、このゲインGには一般的なゲインが含まれないが、含まれていてもよい。その場合には、上記ゲインは常に1に設定されるのではなく、最も車両の走行安定性を維持するのに好適な基準値に設定されることになる。
【0025】
以上のように加速度Ax,Ayの少なくとも一方が所定値を超える場合ではない場合、すなわちこれらの加速度Ax,Ayがともに所定値以下である場合、ゲイン乗算部18は、予め定められた対応関係に従い、アキシャル力Faに応じてゲインGを設定する。この対応関係の例について、図3および図4を参照して説明する。
【0026】
図3は、ゲイン乗算部において乗算されるゲインGとアキシャル力Faとの対応関係を示す一例であり、図4はその他の例である。より詳しくは、図3(a)は、ヒステリシス特性を有するゲインGの一例であり、図3(b)はその別例であり、図4(a)は、アキシャル力Faの絶対値が所定値以上の時に飽和するゲインGの例であり、図4(b)はその別例であり、図4(c)は、アキシャル力Faが0付近に不感帯を有するゲインGの例であり、図4(d)は、その別例であってアキシャル力Faが0のときを中心に正と負とで同様に変化するゲインGの例である。
【0027】
なお、このアキシャル力Faは、運転者がハンドル100を垂直方向に押し込むときにプラスとなり、引き出すときにマイナスとなり、垂直方向に力が加えられていないときに0となるものとする。
【0028】
また、このアキシャル力Faは、運転者がハンドル100を意図的に垂直方向に動かす場合の力のみを含むものとする。そのため運転者がハンドル100を垂直方向に動かそうとすることなく回転させる場合、この回転に伴って(運転者の意図にかかわらずに)加わる垂直方向の力成分は、事前に測定した結果が所定のメモリに記憶されており、この結果に従ってアキシャル力Faから除去されるものとする。
【0029】
まず、図3(a)に示されるようなヒステリシス特性を有するゲインGをゲイン乗算部18で乗算する場合、運転者がハンドル100を垂直方向に所定以上の力で押し込むと、ゲインGは0から1に切り替わり、その後運転者がハンドル100を垂直方向に所定以上の力で引き出すと、ゲインGは1から0に切り替わる。このようにゲインGの変化がアキシャル力Faの変化に対してヒステリシス特性を有するように設定される場合には、運転者が所定以上の力でハンドル100を押し込んだり引き出したりしないとゲインGが切り替わらないので、誤操作を防ぐことができる。
【0030】
また、このことは図3(a)に示される対応関係をアキシャル力Faが0のときを中心にその正負を逆転させた対応関係である図3(b)の場合であっても同様である。さらに、ゲインGは0と1とに限られるわけではなく、例えば0.5と1などであってもよいし、3つ以上の値が順に切り替わるようにヒステリシス特性が設定されていてもよい。
【0031】
なお、このゲインGが0のときには車両の走行安定性を高めるための上記制御が働かなくなり、ゲインGが1のときには上記制御が完全な状態で働き、ゲインGが0より大きく1より小さいときには上記制御が(完全な状態までに至ることなく)過小に働き、ゲインGが1より大きいときには上記制御が(走行安定性を高める車両挙動の方向へ)過大に働き、ゲインGが0より小さいときには上記制御が(走行安定性を高める車両挙動の方向とは)逆方向に働く。
【0032】
次に、図4(a)に示されるような対応関係を有するゲインGをゲイン乗算部18で乗算する場合、運転者がハンドル100を垂直方向に所定以上の力で押し込むと、ゲインGは最大値の1となって変化せず、また所定以上の力で引き出すと、ゲインGは最小値の0となって変化しない。このようにアキシャル力Faの絶対値が所定値以上のときに飽和する特性を設けることにより、運転者は垂直方向への力の入れ加減を微妙に調整することなく容易にゲインGを最大値または最小値に設定することができるので誤操作を防ぐことができ、また飽和領域以外の部分では運転者は力の入れ加減を調整することによりゲインGを最大値から最小値までの任意の値に設定することができる。
【0033】
また、このことは図4(a)に示される対応関係と同様であるがゲインGの値が異なる対応関係である図4(b)の場合であっても同様である。さらに、これらの対応関係をアキシャル力Faが0のときを中心にその正負を逆転させた場合であっても同様である。
【0034】
図4(c)に示されるような対応関係を有するゲインGをゲイン乗算部18で乗算する場合、運転者がハンドル100を垂直方向に所定以上の力で押し込みまたは引き出さない限りゲインGは0から変化せず、また所定以上の力で引き出すと、ゲインGは0から減少し、所定以上の力で押し込むと、ゲインGは0から増加する。このようにアキシャル力Faが0付近に不感帯を設けることにより、運転者は垂直方向へ誤って多少の力を加えたとしてもゲインGが変化しないため誤操作を防ぐことができるとともに、不感帯以外の部分では運転者は力の入れ加減を調整することによりゲインGを0から最大値または0から最小値までの任意の値に設定することができる。
【0035】
また、このことは図4(c)に示される対応関係とアキシャル力Faがプラスの範囲では類似する対応関係である図4(d)の場合であっても同様である。特にこの図4(d)の場合、アキシャル力Faが0のときを中心に正と負とで同様にゲインGが変化する。したがって、運転者がハンドル100を押し込む場合と引き出す場合とで同じくゲインGが変化するため誤操作を防ぐことができる。
【0036】
<4. 効果>
上記実施形態によれば、運転者がハンドル100を押し込みまたは引き出す操作を行うことで変化するアキシャル力Faに対応して、車両の走行安定性を高めるフィードバック制御を行うFB制御演算部16からの指令値D’に乗算されるゲインGを変更する。このことにより、車両の走行安定性を高める車両用制御装置においても、運転者の意図するように車両の走行安定性を高める制御を停止したり抑制したりすることができるので、ドリフト走行などの車両を滑らせる挙動を容易に実現することができる。
【0037】
<5. 変形例>
上記実施形態では、左右の駆動力配分について説明したが、左右の制動力配分についても同様に適用可能である。すなわち、上記実施形態では車両の実ヨーレートを目標ヨーレートに一致させるために左右後輪108rL,108rRの駆動力配分を左右駆動力配分機構112により適宜の配分比で設定した。しかし、このような駆動力配分に代えて、例えば左右後輪108rL,108rRに対する制動力配分をディスクブレーキなどを含む周知の制動力配分機構によって適宜に配分することにより、駆動力を配分する場合と同様に車両の実ヨーレートを目標ヨーレートに一致させるよう制御することができる。
【0038】
上記実施形態において、アキシャル力センサ3はアキシャル力Faを検出するが、これに代えてアキシャル方向の位置変化量や位置変化速度(または加速度)などの量であるアキシャル量を検出するアキシャル検出手段として機能してもよい。このアキシャル量に応じてゲインGを設定することによっても同様に、運転者のハンドル100に対する垂直方向の操作に応じて運転者の意図に応じた車両挙動を実現するゲインGを設定することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、後輪のみで駆動する車両を例に説明したが四輪全てで駆動する車両であっても同様に駆動力を配分することにより、さらに前後輪間の制駆動力配分を併せて適宜に設定することにより、実ヨーレートが目標ヨーレートに一致するよう制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用制御装置の構成を、それに関連する車両構成と共に示す概略図である。
【図2】上記実施形態に係る車両用制御装置であるECUの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】上記実施形態におけるゲイン乗算部において乗算されるゲインとアキシャル力との対応関係を示す一例である。
【図4】上記実施形態におけるゲイン乗算部において乗算されるゲインとアキシャル力との対応関係を示す他例である。
【符号の説明】
【0041】
3…アキシャル力センサ(アキシャル検出手段)、5…電子制御ユニット(ECU)、14…減算器、16…フィードバック制御演算部(FB制御演算部)、Yt…目標ヨーレート、Ys…実ヨーレート、V…車速、θ…舵角、Ax,Ay…加速度、Fa…アキシャル力、G…ゲイン(変更用ゲイン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のヨーレートを目標ヨーレートに一致させるよう、当該車両の車輪に対する制動力および駆動力のうち少なくとも一方の配分を制御する車両用制御装置であって、
前記車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、
前記ヨーレート検出手段により検出される前記車両のヨーレートを前記目標ヨーレートに一致させるよう、前記配分を制御するための操作量を演算する演算手段と、
操舵のための操作手段の軸方向へ加わる力または軸方向の位置に関連する量であるアキシャル量を検出するアキシャル検出手段と、
前記アキシャル量に応じて変更される変更用ゲインを前記操作量に乗算した値を新たな操作量とするゲイン乗算手段と
を備えることを特徴とする、車両用制御装置。
【請求項2】
ゲイン乗算手段は、前記アキシャル量が変化する所定区間において前記変更用ゲインが変化しないヒステリシス特性または不感帯を有し、前記アキシャル量に応じて前記変更用ゲインを決定することを特徴とする、請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両の前後方向および左右方向のうち少なくとも一方の加速度を検出する加速度検出手段をさらに備え、
前記ゲイン乗算手段は、前記車両の前後方向の加速度が所定の値を超えるか、または前記車両の左右方向の加速度が所定の値を超えるかの少なくとも一方の条件を満たす場合、前記アキシャル量に関わらず前記変更用ゲインを前記車両の走行安定性を維持するための初期値から変更しないことを特徴とする、請求項1に記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−90843(P2009−90843A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264142(P2007−264142)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】