説明

車両用操舵装置

【課題】車両が砂利道等を走行している場合に、転舵輪の振動が操舵部材に伝達されるのを抑制できる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】伝達比可変装置7は、第1シャフト11および第2シャフト12を差動回転可能に連結する差動機構13と、差動機構13を駆動する伝達比変更用モータ14とを有している。伝達比変更用モータ14は、実act角演算部76によって演算された実act角θactが目標act角演算部71によって演算された目標act角θactに等しくなるようにフィードバック制御される。外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されたときには、伝達比変更用モータ14のフィードバック制御に用いられる比例ゲインKが通常よりも低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵部材の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比を変更する伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置が知られている。伝達比可変装置は、操舵部材に連結される第1シャフトと舵取機構に連結される第2シャフトを差動可能に連結する差動機構と、差動機構を駆動する伝達比変更用モータとを含む。伝達比可変装置は、操舵部材の操作に基づく第1シャフトの回転角に、モータ駆動に基づく第2シャフトの回転角(act角)を上乗せすることにより、第1シャフトの回転角(操舵角に対応する)に対する第2シャフトの回転角(転舵角に対応する)の比を可変させる。
【0003】
伝達比変更用モータは、モータ制御装置によって制御される。モータ制御装置は、例えば、車速、操舵角等に応じて目標act角を演算し、伝達比変更用モータの実際の回転角から演算される実act角が目標act角に等しくなるように、伝達比変更用モータをフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-51491号公報
【特許文献2】特開2003-291840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の車両用操舵装置では、砂利道等の悪路においては、転舵輪の振動がステアリングホイール等の操舵部材に伝達されるため、運転者の操舵感が悪化する。また、このように転舵輪の振動が操舵部材に伝達されると、操舵角が変動することによって、目標act角が変動し、伝達比変更用モータが正逆方向に交互に駆動されるおそれがある。
この発明の目的は、車両が砂利道等を走行している場合に、転舵輪の振動が操舵部材に伝達されるのを抑制できる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、操舵部材(2)に連結される第1シャフト(11)と舵取機構(4)に連結される第2シャフト(12)とを、両シャフト間の回転の伝達比を変更可能に連結する差動機構(13)と、前記差動機構を駆動することによって、前記両シャフト間の回転の伝達比を変更する伝達比変更用モータ(14)と、前記伝達比変更用モータを制御するモータ制御手段(71〜76,81,82)と、前記舵取機構を介して前記第2シャフトに外乱が入力されているか否かを判定する外乱判定手段(77)と、前記外乱判定手段によって前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、前記第2シャフトに入力された外乱が前記第1シャフトに伝達されるのを抑制するように、前記モータ制御手段による制御態様を変更させる制御態様変更手段(78,71)とを含む、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0007】
この発明によれば、外乱判定手段によって第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、第2シャフトに入力された外乱が第1シャフトに伝達されるのを抑制するようにモータ制御手段の制御態様が変更される。これにより、車両が砂利道等の悪路を走行している場合に、転舵輪の振動が操舵部材に伝達されるのを抑制できる。
請求項2記載の発明は、前記伝達比変更用モータの回転角を検出する回転角検出手段(22)を含み、前記モータ制御手段は、前記回転角検出手段によって検出される回転角から得られるフィードバック値(θact)が前記伝達比変更用モータの回転角を制御するための目標値(θact)に等しくなるように、前記伝達比変更用モータをフィードバック制御するように構成されており、前記制御態様変更手段は、前記外乱検出手段によって前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、前記モータ制御手段におけるフィードバック制御の制御ゲインを低減させる手段(78)を含む、請求項1に記載の車両用操舵装置である。
【0008】
この構成では、第2シャフトに外乱が入力されているときに、モータ制御手段におけるフィードバック制御の制御ゲインが低減される。これにより、モータ制御手段におけるフィードバック制御の応答性が低下するので、第2シャフトの回転角の変化を妨げるためのトルクが伝達比変更用モータから発生するのを抑制することができる。この結果、第2シャフトの振動が差動機構によって吸収され、第2シャフトの振動が第1シャフトに伝達されにくくなる。これにより、車両が砂利道等を走行している場合に、転舵輪の振動が操舵部材に伝達されるのを抑制できる。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記伝達比変更用モータの回転角を検出する回転角検出手段(22)を含み、前記モータ制御手段は、前記回転角検出手段によって検出される回転角から得られるフィードバック値(θact)が前記伝達比変更用モータの回転角を制御するための目標値(θact)に等しくなるように、前記伝達比変更用モータをフィードバック制御するように構成されており、前記制御態様変更手段は、前記外乱検出手段によって前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、前記目標値の変化を抑制する手段を含む、請求項1に記載の車両用操舵装置である。
【0010】
この構成によれば、外乱入力時に目標値の変化が抑制されるから、外乱入力時に伝達比変更用モータが正逆方向に交互に駆動されるといったことを防止できる。
請求項4記載の発明は、操舵トルクを検出するトルク検出手段を含み、前記外乱検出手段は、前記トルク検出手段の出力信号に、所定の周波数より高い周波数成分が含まれているときに、前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変装置の構成例を示す縦断面図である。
【図3】伝達比可変装置用ECUの概略構成を示すブロック図である。
【図4】伝達比可変装置用ECUの他の例の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3L,3Rを転舵する舵取機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助装置5とを備えている。
【0013】
ステアリングホイール2と舵取機構4とは、ステアリングシャフト6、伝達比可変装置7、自在継手8、中間軸9および自在継手10を介して連結されている。
ステアリングシャフト6は、第1シャフト11と第1シャフト11と同軸上に配置された第2シャフト12を含んでいる。第1のシャフト11の一端にステアリングホイール2が同行回転可能に連結されている。第1のシャフト11の他端と第2のシャフト12の一端とは、伝達比可変装置7を介して差動回転可能に連結されている。第2のシャフト12の他端は、自在継手5を介して中間軸9に連結されている。
【0014】
第1シャフト11の周囲には、第1シャフト11の回転角である操舵角θhを検出するための舵角センサ21が配置されている。この実施形態では、舵角センサ21は、第1シャフト11の中立位置からの第1シャフト11の正逆両方向の回転量(回転角)を検出するものであり、中立位置から右方向への回転量を例えば正の値として出力し、中立位置から左方向への回転量を例えば負の値として出力する。
【0015】
伝達比可変装置7は、第1シャフト11の回転角(操舵角θhに対応する)に対する第2シャフト12の回転角(転舵角に対応する)の比を変更するためのものである。伝達比可変装置7は、第1シャフト11および第2シャフト12を差動回転可能に連結する差動機構13と、差動機構13を駆動する伝達比変更用モータ14とを有している。伝達比変更用モータ14は、三相ブラシレスモータからなる。伝達比変更用モータ14の近傍には、伝達比変更用モータ14のロータの回転角θdを検出するための、例えばレゾルバからなる回転角センサ22が配置されている。
【0016】
舵取機構4は、自在継手10に連なるピニオン軸15と、ピニオン軸15の先端のピニオン15aに噛み合うラック16aを有するラック軸16と、ラック軸16の一対の端部のそれぞれにタイロッド17L,17Rを介して連結されるナックルアーム18L,18Rとを有している。ラック軸16は、車両の左右方向に延びている。ピニオン軸15の周囲には、操舵トルクThを検出するためのトルクセンサ23が配置されている。
【0017】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転がステアリングシャフト6等を介して舵取り機構4に伝達される。舵取り機構4では、ピニオン15aの回転がラック軸16の軸方向の運動に変換され、各タイロッド17L,17Rを介して対応するナックルアーム18L,18Rがそれぞれ回動する。これにより、各ナックルアーム18L,18Rに連結された対応する転舵輪3L,3Rがそれぞれ操向する。
【0018】
操舵補助装置5は、ラック軸16と同軸に配置された操舵補助用モータ19と、操舵補助用モータ19の出力トルクをラック軸方向の運動に変換してラック軸16に伝達するボールねじ機構(図示略)とを含む。操舵補助用モータ19は、三相ブラシレスモータからなる。操舵補助用モータ19の近傍には、操舵補助用モータ19のロータの回転角θsを検出するための、例えばレゾルバからなる回転角センサ24が配置されている。操舵補助用モータ19が回転駆動されると、この回転がボールねじ機構によって、ラック軸16の軸方向の運動に変換される。これにより、転舵輪3L,3Rが転舵される。
【0019】
電動パワーステアリング装置1は、さらに、車速Vを検出するための車速センサ25と、操舵補助用モータ19を制御するための操舵補助装置用ECU(ECU:電子制御ユニット)31と、伝達比変更用モータ14を制御するための伝達比可変装置用ECU32とを備えている。
操舵補助装置用ECU31には、車速センサ25によって検出される車速V、トルクセンサ23によって検出される操舵トルクThおよび回転角センサ24によって検出される操舵補助用モータ19のロータの回転角θsが入力される。操舵補助装置用ECU31は、例えば、操舵トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、操舵補助用モータ19の発生するアシスト力が目標アシスト量に等しくなるように操舵補助用モータ19を制御する。
【0020】
伝達比可変装置用ECU32には、車速センサ25によって検出される車速V、舵角センサ21によって検出される操舵角θh、回転角センサ22によって検出される伝達比変更用モータ14のロータの回転角θdおよびトルクセンサ23の出力信号が入力される。伝達比可変装置用ECU32は、伝達比可変装置用ECU32に入力される車速V、操舵角θh、回転角θdおよびトルクセンサ23の出力信号に基づいて、伝達比変更用モータ14を制御する。
【0021】
図2は、伝達比可変装置7の構成例を示す縦断面図である。
差動機構13は、第1シャフト11に同行回転可能に連結された第1サンギヤ41と、第2シャフト12に同行回転可能に連結された第2サンギヤ42と、第1および第2サンギヤ41,42の双方に噛み合う遊星ギヤ43と、遊星ギヤ43を、その軸線回りに自転可能かつ第1および第2サンギヤ41,42の軸線回りに公転可能に保持するキャリア44とを含む。
【0022】
キャリア44は、上下の開放端が閉鎖された筒状である。キャリア44の上面壁の中央には貫通孔が形成されており、この貫通孔に、第1シャフト11の下端部が回転可能に貫通している。また、キャリア44の下面壁の中央には貫通孔が形成されており、この貫通孔に、第2シャフト12の上端部が回転可能に貫通している。
第1サンギヤ41は第1シャフト11の下端部に連結され、第2サンギヤ42は第2シャフト12の上端部に連結されている。遊星ギヤ43は、ステアリングシャフト6の周方向に等間隔をおいて複数(この実施形態では2つ)配置されている。各遊星ギヤ43は、第1および第2サンギヤ41,42の双方に噛み合っている。
【0023】
伝達比変更用モータ14は、キャリア43をステアリングシャフト6の軸線を中心として回転駆動させるためのものである。伝達比変更用モータ14は、ステアリングシャフト6と同軸に配置されている。伝達比変更用モータ14は、キャリア43に同行回転可能に連結されたロータ51と、このロータ51を取り囲み、ハウジング50に固定されたステータ52とを含んでいる。
【0024】
ステアリングホイール2の操作によって第1シャフト11が回転されると、第1サンギヤ41、遊星ギヤ43および第2サンギヤ42を経て、第2シャフト12が第1シャフト11と等速度で回転する。また、伝達比変更用モータ14が駆動されると、キャリア44が回転し、遊星ギヤ43および第2サンギヤ42を経て、第2シャフト12が増速回転する。
【0025】
つまり、伝達比変更用モータ14が回転駆動された場合には、ステアリングホイール2の操作に基づく第1シャフト11の回転角(この実施形態では操舵角θhと等しい)に、モータ駆動に基づく第2シャフト12の回転角(以下、「act角θact」という)を上乗せすることにより、第1シャフト11の回転角である操舵角θhに対する第2シャフト12の回転角θr(θr=θh+θact)の比θr/θhを可変させる。なお、「上乗せ」とは、加算する場合のみならず減算する場合も含まれる。一方、伝達比変更用モータ14が駆動されていない場合には、act角θactは0となるため、前記比θr/θhは1となる。
【0026】
図3は、伝達比可変装置用ECU32の概略構成を示すブロック図である。
伝達比可変装置用ECU32は、マイクロコンピュータ61と、マイクロコンピュータ61によって制御され、伝達比変更用モータ14に電力を供給する駆動回路(三相インバータ回路)62とを備えている。マイクロコンピュータ61は、CPUおよびメモリ(ROM,RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能する。
【0027】
この複数の機能処理部には、目標act角演算部71と、角度偏差演算部72と、比例制御部73と、指示電圧生成部74と、PWM制御部75と、実act角演算部76と、外乱判定部77と、比例ゲイン設定部78とを含んでいる。
目標act角演算部71は、操舵に影響を与える各種の車両走行状態の検出値に基づいて、目標act角θactを演算する。この実施形態では、目標act角演算部71は、舵角センサ21によって検出される操舵角θhと、車速センサ25によって検出される車速Vとに基づいて、目標act角θactを演算する。目標act角演算部71は、例えば、車速が低いほど目標act角θactが大きく、かつ操舵角の絶対値が小さいほど第1シャフト11の回転角θhに対する第2シャフト12の回転角θrの比θr/θhが大きくなるように、目標act角θactを演算する。なお、目標act角演算部71は、操舵角θhおよび車速Vに加えて、操舵角θhの時間微分値である操舵速度を考慮して、目標act角θactを演算するようにしてもよい。
【0028】
実act角演算部76は、回転角センサ22によって検出される伝達比変更用モータ20のロータの回転角θdに基づいて、実際のact角(実act角θact)を演算する。
角度偏差演算部72は、目標act角演算部71によって演算された目標act角θactと、実act角演算部76によって演算された実act角θactとの偏差(角度偏差Δθact(=θact−θact))を演算する。
【0029】
比例制御部73は、角度偏差Δθactに比例ゲインKを乗算することにより、指示電流値を演算する。指示電圧生成部74は、比例制御部73によって得られた指示電流値に基づいて、U相、V相およびW相の指示電圧(三相指示電圧)を生成する。PWM制御部75は、指示電圧生成部74によって演算されたU相、V相およびW相の指示電圧それぞれに対応するデューテイ比のU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路62に供給する。
【0030】
駆動回路62は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。この三相インバータ回路を構成するパワー素子が駆動回路を構成するパワー素子がPWM制御部75から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相指示電圧に相当する電圧が伝達比変更用モータ14の各相のステータ巻線に印加されることになる。
角度偏差演算部72および比例制御部73は、フィードバック制御手段を構成している。このフィードバック制御手段の働きによって、実act角θactが目標act角θactに等しくなるように制御される。
【0031】
外乱判定部77は、転舵輪3L,3R、舵取機構4および中間軸9を介して第2シャフト12に外乱が入力されているか否かを判定するものである。この実施形態では、外乱判定部77は、トルクセンサ23の出力信号に、所定の周波数より高い周波数成分が含まれているときに、第2シャフト12に外乱が入力されていると判定する。前記所定の周波数は、たとえば、10Hzに設定される。車両が例えば砂利道等の悪路を走行している場合には、前記所定の周波数より高い周波数成分がトルクセンサ23の出力信号に含まれるようになるため、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定される。
【0032】
比例ゲイン設定部78は、比例制御部73に比例ゲインKを設定するものである。比例ゲイン設定部78は、第1ゲイン設定部78Aと、第2ゲイン設定部78Bと、第1乗算部78Cと第2乗算部78Dを含む。第1ゲイン設定部78Aは、外乱判定部77の判定結果に基づいて、第1ゲインG1(0<G1≦1)を設定する。具体的には、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていないと判定されている場合には、第1ゲイン設定部78Aは、第1ゲインG1を1に設定する。一方、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されている場合には、第1ゲイン設定部78Aは、第1ゲインG1を1より小さい所定値、例えば0.5に設定する。
【0033】
第2ゲイン設定部78Bは、車速センサ25によって検出される車速Vに基づいて、第2ゲインG2(0<G2≦1)を設定する。具体的には、第2ゲイン設定部78Bは、車速Vが大きいほど、第2ゲインG2を大きな値に設定する。この理由は、操舵の正確性が要求される車速Vが高いときに比例ゲインKを大きくすることによって、フィードバック制御の応答性を高くさせるためである。
【0034】
第1乗算部78Cは、第1ゲインG1と第2ゲインG2とを乗算する。第2乗算部78Dは、予め設定された比例ゲインKの基本値である基本比例ゲインKPOに、第1乗算部78Cの演算結果を乗算する。第2乗算部78Dの演算結果(G1・G2・KPO)が、比例ゲインKとして、比例制御部73に設定される。
外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていないと判定されている場合には、第1ゲインG1が1に設定されるため、比例ゲインKは比較的大きな値に設定される。一方、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されている場合には、第1ゲインG1が1より小さな所定値に設定されるため、比例ゲインKは比較的小さな値に設定される。
【0035】
車両が砂利道等の悪路を走行している場合には、転舵輪3L,3Rが振動するので、この振動が第2シャフト12に伝達される。この場合において、比例ゲインKが大きな値に設定されているとすると、フィードバック制御の応答性が高いため、伝達比変更用モータ14は転舵輪3L,3Rの転舵角の変化(実act角θactの変化)を妨げる方向にトルクを発生する。この結果、第2シャフト12の振動が第2サンギヤ42を介して遊星ギヤ43に伝達されたとしてもキャリア44は回転しないから、第2シャフト12の振動が、第2サンギヤ42、遊星ギヤ43および第1サンギヤ41を介して第1シャフト11に伝達される。このため、第1シャフト11に連結されているステアリングホイール2が振動し、運転者の操舵感が悪化する。また、ステアリングホイール2が振動することによって、目標act角θactが変動し、伝達比変更用モータ14が正逆方向に交互に駆動されるおそれがある。
【0036】
この実施形態では、車両が砂利道等の悪路を走行している場合には、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定され、比例ゲイン設定部78によって比例ゲインKが通常の値より小さな値に設定される。これにより、フィードバック制御の応答性が低下するので、転舵輪3L,3Rの転舵角の変化(第2シャフト12の回転角の変化)を妨げるためのトルクが伝達比変更用モータ14から発生するのを抑制することができる。この結果、第2シャフト12の振動が第2サンギヤ42を介して遊星ギヤ43に伝達されると、キャリア44が回転する。これにより、第2シャフト12の振動が差動機構13によって吸収され、第2シャフト12の振動が第1シャフト11に伝達されにくくなる。このため、運転者の操舵感が悪化するのを抑制できるとともに、伝達比変更用モータ14が正逆方向に交互に駆動されるといったことを抑制できる。
【0037】
図4は、伝達比可変装置用ECUの他の例の概略構成を示すブロック図である。
図4において、図3に示された各部と同じものには、図3と同一参照符号を付して示す。
この伝達比可変装置用ECU32Aにおけるマイクロコンピュータ61Aは、微分制御部81と、減算部82と、微分ゲイン設定部79とをさらに含んでいる。微分制御部81および減算部82は、伝達比変更用モータ14の停止時のオーバーシュートを低減するために設けられている。微分ゲイン設定部79は、微分制御部81に微分ゲインKを設定するために設けられている。
【0038】
微分制御部81は、実act角演算部76によって演算された実act角θactに、s・Kを乗算することにより、電流補正値を演算する。sは微分演算子であり、Kは微分ゲインである。
減算部82は、比例制御部73によって演算された指示電流値から、微分制御部81によって演算された電流補正値を減算することにより、比例制御部73によって演算された指示電流値を補正する。指示電圧生成部74は、補正後の指示電流値に基づいて、指示電圧を生成する。
【0039】
微分ゲイン設定部79は、第3ゲイン設定部79Aと、第4ゲイン設定部79Bと、第3乗算部79Cと第4乗算部79Dを含む。第3ゲイン設定部79Aは、外乱判定部77の判定結果に基づいて、第3ゲインG3(1≦G3<2)を設定する。具体的には、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていないと判定されている場合には、第3ゲイン設定部79Aは、第3ゲインG3を1に設定する。一方、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されている場合には、第3ゲイン設定部79Aは、第3ゲインG3を1より大きな値、例えば1.5に設定する。
【0040】
第4ゲイン設定部79Bは、車速センサ25によって検出される車速Vに基づいて、第4ゲインG4(0<G4≦1)を設定する。具体的には、第4ゲイン設定部79Bは、車速Vが大きいほど、第4ゲインG4を大きな値に設定する。この理由は、操舵の正確性が要求される車速Vが高いときに、微分ゲインKを大きくすることによって、伝達比変更用モータ14の停止時のオーバーシュートの低減効果を高めるためである。
【0041】
第3乗算部79Cは、第3ゲインG3と第4ゲインG4とを乗算する。第4乗算部79Dは、予め設定された微分ゲインKの基本値(基本微分ゲインKDO)に、第3乗算部79Cの演算結果を乗算する。第4乗算部79Dの演算結果が、微分ゲインKとして、微分制御部81に設定される。
この変形例では、微分制御部81および減算部82を備えているので、伝達比変更用モータ14の停止時のオーバーシュートを低減することができる。また、微分制御部81の微分ゲインKは、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されている場合には、通常よりも大きな値に設定されるから、減算部82によって得られる補正後の指示電流値をより低くすることができる。このため、第2シャフト12に外乱が入力されているときに、フィードバック制御の応答性をより低下させることができる。これにより、第2シャフト12に外乱が入力されているときに、転舵輪3L,3Rの振動がステアリングホイール2に伝達されるのをより効果的に抑制することができるようになる。
【0042】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されている場合には、比例ゲインKを通常よりも低減させているが、これに代えてまたはこれに加えて、目標act角演算部71から出力される目標act角θactの変化を抑制するようにしてもよい。具体的には、図3および図4に破線で示すように、外乱判定部77の判定結果を目標act角演算部71に与えるようにする。目標act角演算部71は、外乱判定部77によって第2シャフト12に外乱が入力されていると判定されている場合には、現在設定されている目標act角θactを変化させずに保持する。このようにすると、外乱入力時に目標act角θactが変動するのを抑制できるから、外乱入力時に伝達比変更用モータが正逆方向に交互に駆動されるといったことを防止できる。
【0043】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
2…操舵部材、4…舵取機構、7…伝達比可変装置、11…第1シャフト、12…第2シャフト、13…差動機構、14…伝達比変更用モータ、32,32A…伝達比可変装置用ECU、71…目標act角演算部、72…角度偏差演算部、73…比例制御部、76…実act角演算部、77…外乱判定部、78…比例ゲイン設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に連結される第1シャフトと舵取機構に連結される第2シャフトとを、両シャフト間の回転の伝達比を変更可能に連結する差動機構と、
前記差動機構を駆動することによって、前記両シャフト間の回転の伝達比を変更する伝達比変更用モータと、
前記伝達比変更用モータを制御するモータ制御手段と、
前記舵取機構を介して前記第2シャフトに外乱が入力されているか否かを判定する外乱判定手段と、
前記外乱判定手段によって前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、前記第2シャフトに入力された外乱が前記第1シャフトに伝達されるのを抑制するように、前記モータ制御手段による制御態様を変更させる制御態様変更手段とを含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記伝達比変更用モータの回転角を検出する回転角検出手段を含み、
前記モータ制御手段は、前記回転角検出手段によって検出される回転角から得られるフィードバック値が前記伝達比変更用モータの回転角を制御するための目標値に等しくなるように、前記伝達比変更用モータをフィードバック制御するように構成されており、
前記制御態様変更手段は、前記外乱検出手段によって前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、前記モータ制御手段におけるフィードバック制御の制御ゲインを低減させる手段を含む、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記伝達比変更用モータの回転角を検出する回転角検出手段を含み、
前記モータ制御手段は、前記回転角検出手段によって検出される回転角から得られるフィードバック値が前記伝達比変更用モータの回転角を制御するための目標値に等しくなるように、前記伝達比変更用モータをフィードバック制御するように構成されており、
前記制御態様変更手段は、前記外乱検出手段によって前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定されたときに、前記目標値の変化を抑制する手段を含む、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
操舵トルクを検出するトルク検出手段を含み、
前記外乱検出手段は、前記トルク検出手段の出力信号に、所定の周波数より高い周波数成分が含まれているときに、前記第2シャフトに外乱が入力されていると判定するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10479(P2013−10479A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145991(P2011−145991)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】