説明

車両用自動クラッチの制御装置

【課題】車両の減速走行中においてエンジンの暖気状態に拘わらず迅速に自動クラッチを解放状態とすることができる車両用自動クラッチの制御装置を提供する。
【解決手段】スタンバイ制御手段176(S2)によるスタンバイ制御が実行されるときに低温状態判定手段178(S3)によりエンジン12が低温状態であると判定された場合には、エンジン出力トルク増量手段180(S4)によりエンジン12の出力トルクT(負側の値)が零に向かって増量されるので、低温状態であるときのスタンバイ位置を待機位置Lから待機位置Lへ自動クラッチ解放側へずらすことができ、車両の減速走行中においてエンジン12の暖気状態に拘わらず迅速に自動クラッチ14を解放状態とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用自動クラッチの制御装置に係り、特に、クラッチアクチュエータのスタンバイ位置をエンジンの暖機状態に拘わらず可及的に解放側位置とすることにより急制動時等におけるエンジンストールを防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラッチペダル操作により係合或いは解放される手動式摩擦クラッチに替えて、クラッチアクチュエータによって係合或いは解放制御される自動クラッチを、エンジンと変速機との間に備えた車両が知られている。たとえば、特許文献1および特許文献2に示される車両がそれである。
【特許文献1】特開2002−31159号
【特許文献2】特開2005−42804号
【0003】
このような自動クラッチを備えた車両では、車両発進時において、予め記憶された関係からエンジン回転速度とアイドル回転速度との差回転に基づいて目標クラッチトルクを算出し、その目標クラッチトルクが得られるようにクラッチアクチュエータがフィードバック制御される(特許文献1)。また、アクセルオフ時において制動操作が行われたとき、エンジン回転速度がアイドル回転速度よりも低く設定された判定値を下まわると、クラッチアクチュエータによって速やかに自動クラッチが解放させられる(特許文献2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記自動クラッチを備えた車両において、車両の減速走行状態には自動クラッチを制御するクラッチアクチュエータの操作位置をその操作ストローク中の係合側に位置させるのではなく、その自動クラッチの滑りが発生しない範囲内のクラッチ解放側に設定されたスタンバイ位置に位置させるスタンバイ制御を実行するスタンバイ制御手段を有する制御装置を備えることが考えられる。このようにすれば、自動クラッチの解放が迅速に行われるので、車両の急制動時においてエンジンストールすなわちエンジンの回転停止が好適に解消される。
【0005】
上記スタンバイ制御におけるクラッチアクチュエータのスタンバイ位置は、減速走行時のエンジン出力トルク(負の値)で滑りが発生しないようにそのエンジン出力トルクの絶対値よりもを僅かに大きい伝達トルク(係合トルク)となるように設定されている。しかしながら、エンジンが低温状態であるときには、暖機状態である場合に比較してエンジンの出力トルクが負側に大きくなることから、それで滑りが発生しないようにするためには上記スタンバイ位置を自動クラッチの係合側へずらす必要があるので、この状態では自動クラッチの解放がエンジン暖機状態ほど迅速に行われず、急制動時においてエンジンストールが発生するおそれがあった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、車両の減速走行中においてエンジンの暖気状態に拘わらず迅速に自動クラッチを解放状態とすることができる車両用自動クラッチの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明の要旨とするところは、クラッチアクチュエータによって係合制御される自動クラッチをエンジンと変速機との間に備えた車両において、減速走行状態にはそのクラッチアクチュエータの操作位置をその操作ストローク中のその自動クラッチの滑りが発生しない範囲内のクラッチ解放側に設定されたスタンバイ位置に位置させるスタンバイ制御を実行するスタンバイ制御手段を備えた車両用自動クラッチの制御装置であって、(a) 前記エンジンが予め設定された低温状態であるか否かを判定する低温状態判定手段と、(b) 前記スタンバイ制御手段によるスタンバイ制御が実行されているときにその低温状態判定手段により前記エンジンが低温状態であると判定された場合は、そのエンジンの出力トルクを増量させるエンジン出力トルク増量手段とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、スタンバイ制御手段によるスタンバイ制御が実行されているときに低温状態判定手段により前記エンジンが低温状態であると判定された場合には、エンジン出力トルク増量手段によりエンジンの出力トルクが増量されるので、低温状態であるときのスタンバイ位置を自動クラッチ解放側へずらすことができ、車両の減速走行中においてエンジンの暖気状態に拘わらず迅速に自動クラッチを解放状態とすることができる。
【0009】
ここで、好適には、前記エンジン出力トルク増量手段は、暖機時において出力される暖機時出力トルクとなるように、低温状態のエンジン出力トルクを増量させるものである。このようにすれば、減速走行状態における前記クラッチアクチュエータの操作ストロークにおける操作位置を、前記エンジンの暖機状態に拘わらず同じ位置に位置させることができ、暖機状態と同様に、迅速に自動クラッチを解放状態とすることができる。
【0010】
また、好適には、前記スタンバイ制御手段は、減速走行状態における前記クラッチアクチュエータの操作ストロークにおける操作位置を、前記エンジンの暖機状態に拘わらず同じ位置に位置させるものである。このようにすれば、前記エンジンの暖機状態に拘わらず、迅速に自動クラッチを解放状態とすることができる。
【0011】
また、好適には、前記クラッチアクチュエータは、減速機を介して出力ロッドを駆動する電動機を備えるものであることから、油圧シリンダによりクラッチアクチュエータが構成される場合に比較して、制御弁、油圧回路、油圧ポンプなどの自動クラッチの制御に関連する油圧機器が不要となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の概略構成を説明する骨子図であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両用のものであり、走行用駆動源としてのエンジン12、自動クラッチ14、変速機16、差動歯車装置18を備え、エンジン12の出力がそれら自動クラッチ14、変速機16、差動歯車装置18を介して駆動輪84L、84Rに伝達されるようになっている。
【0014】
自動クラッチ14は、例えば図2に示す乾式単板式の摩擦クラッチであり、エンジン12のクランクシャフト20に取り付けられたフライホイール22、クラッチ出力軸24に配設されたクラッチディスク26、クラッチハウジング28に配設されたプレッシャプレート30、プレッシャプレート30をフライホイール22側へ付勢することによりクラッチディスク26を挟圧して動力伝達するダイヤフラムスプリング32、クラッチアクチュエータ34によりレリーズフォーク36を介して図の左方向へ移動させられることにより、ダイヤフラムスプリング32の内端部を図の左方向へ変位させてクラッチを遮断(開放)するレリーズスリーブ38を有して構成されている。
【0015】
上記クラッチアクチュエータ34は、クラッチモータ100と、そのクラッチモータ100の回転を減速して出力ロッド92へ伝達する減速機94とを備え、クラッチモータ90が後述の図3の自動クラッチ用電子制御装置116からの指令に従って作動させられることにより、上記ダイヤフラムスプリング32の内端部が変位させられて、自動クラッチ14が開閉制御されるようになっている。このクラッチアクチュエータ34には、上記出力ロッド92の操作ストロークを検出するための操作ストロークストロークセンサすなわちクラッチストロークセンサ150が設けられている。このクラッチストロークセンサ150は、たとえばロータリエンコーダから構成される。
【0016】
図1に戻って前記変速機16は、差動歯車装置18と共に共通のハウジング40内に配設されてトランスアクスルを構成しており、そのハウジング40内に所定量だけ充填された潤滑油に浸漬され、差動歯車装置18と共に潤滑されるようになっている。変速機16は、よく知られた手動変速機と同様に構成された常時噛合型平行軸式変速機であって、(a) 平行な一対の入力軸42、出力軸44間にギヤ比が異なる複数の変速ギヤ対46a〜46eが配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対46a〜46eに対応してシンクロメッシュタイプの複数の噛合クラッチ48a〜48eが設けられた2軸常時噛合式の変速機構と、(b) それ等の噛合クラッチ48a〜48eの3つのクラッチハブスリーブ50a、50b、50cにそれぞれ係合させられ、クラッチハブスリーブ50a、50b、50cを軸方向にそれぞれ移動させることにより何れかの変速段を成立させる3本のフォークシャフト52(図1では1本に見える)と、(c) シフトレバー160のセレクト操作に応答してセレクトモータ102により軸心まわりに回動させられることにより前記3本のフォークシャフト52の任意の一つに選択的に係合させられるとともに、シフトレバー160のシフト操作に応答してシフトモータ104によりセレクト方向と略直角なシフト方向、実施例では軸心方向に平行な方向に移動させられることによりフォークシャフト52のいずれかを軸方向へ移動させて所定の変速段を成立させる図示しないシフト・セレクトシャフトとを備えており、前進5段の変速段が成立させられるようになっている。入力軸42および出力軸44には更に後進ギヤ対54が配設され、図示しないカウンタシャフトに配設された後進用アイドル歯車と噛み合わされることにより後進変速段が成立させられるようになっている。なお、入力軸42は、スプライン嵌合55によって前記自動クラッチ14のクラッチ出力軸24に連結されているとともに、出力軸44には出力歯車56が配設されて差動歯車装置18のリングギヤ58と噛み合わされている。図1は、入力軸42、出力軸44、およびリングギヤ58の軸心を共通の平面内に示した展開図である。
【0017】
シフトレバー160は運転席の横に配設されているとともに、図4に示すシフトパターン166を備えており、シフトレバー(P)センサ140によりその操作位置、すなわちPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション、Mポジションが検出されるようになっている。Pポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジションはよく知られたものであり、Mポジションは手動変速モードを設定するために操作される。そのMポジションからは手動変速操作のための+ポジションおよび−ポジションへ操作されるようになっており、その手動変速操作が自動復帰型のスイッチであるアップシフトスイッチ142およびダウンシフトスイッチ143により検出されるようになっている。
【0018】
図1に戻って、前記差動歯車装置18は傘歯車式のもので、一対のサイドギヤ80R、80Lにはそれぞれドライブシャフト82R、82Lがスプライン嵌合などによって連結され、左右の前輪(駆動輪)84R、84Lを回転駆動する。
【0019】
図3は、本実施例の車両用駆動装置10の電気的制御系統を説明するブロック線図であり、エンジン用電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)114、自動クラッチ用電子制御装置116、ABS(Antilock Brake System)用電子制御装置118を備えているとともに、それ等の間で必要な情報をやり取りする。これ等の電子制御装置114、116、118は、何れもマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。エンジン用電子制御装置114には、イグニッションスイッチ120、エンジン回転速度(N)センサ122、車速(V)センサ124、スロットル弁開度(θTH)センサ126、吸入空気量(Q)センサ128、吸入空気温(T)センサ130、エンジン冷却水温(T)センサ132などが接続され、それぞれイグニッションスイッチ120の操作位置、エンジン回転速度N、車速V(出力軸44の回転数NOUTに対応)、スロットル弁開度θTH、吸入空気量Q、吸入空気温(外気温)T、エンジン冷却水温Tなどを表す信号が供給されるようになっており、それ等の信号に従ってスタータ(電動モータ)134を回転駆動してエンジン12を始動したり、燃料噴射弁136の燃料噴射量や噴射時期を制御したり、イグナイタ138により点火プラグの点火時期を制御したりする。イグニッションスイッチ120は、「ON」および「スタート」位置を備えており、「スタート」位置へ操作されることによりエンジン用電子制御装置114はスタータ134を作動させてエンジン12を始動する。
【0020】
自動クラッチ用電子制御装置116には、シフトレバー(P)センサ140、油温センサ133、ブレーキスイッチ144、入力回転数(NIN:入力軸42の回転数)センサ146、ギヤ(P)センサ148、クラッチストローク(SCL)センサ150、油圧(P)センサ110、アップシフトスイッチ142、ダウンシフトスイッチ143などが接続され、何れかの変速段が略成立しているか否かを表すON、OFF信号の他、シフトレバー160に対する操作の有無、ブレーキのON、OFF、入力回転数NIN、変速機16の変速段であるギヤ位置P、自動クラッチ14のストロークすなわちクラッチアクチュエータ34の出力ロッド92の操作ストローク(クラッチストローク)SCL、油圧Pなどを表す信号が供給されるようになっている。自動クラッチ用電子制御装置116は、それ等の信号や、前記エンジン制御用ECU114、ABS用ECU118から必要な信号を取り込むことにより、変速機16の自動変速時において自動クラッチ14の遮断、接続制御を行うとともに、減速走行時において速やかに自動クラッチ14を解放させるために、その自動クラッチ14の滑りが発生する直前の位置にクラッチアクチュエータ34の出力ロッド92の位置を待機させる解放スタンバイ制御等を実行する。
【0021】
ABS用ECU118には、4本の車輪にそれぞれ配設された車輪速(N)センサ152から車輪速Nを表す信号が供給され、それ等の車輪速Nを比較することによりスリップの有無を検出し、ブレーキ油圧制御弁154を制御して各車輪のブレーキ油圧を制御することによりスリップの発生を抑制する。
【0022】
図5は、前記自動クラッチ用電子制御装置116の制御機能の要部すなわち自動クラッチ14の減速走行時の解放制御機能を説明する機能ブロック線図である。図5において、変速制御手段170は、シフトレバー160がDポジションに位置させられている自動変速モードであるときは、予め記憶された変速線図から実際の車速およびスロットル弁開度に基づいて変速を判断し、一連の変速動作を実行させる。すなわち、先ず、上記変速の判断に応答してクラッチアクチュエータ34によって自動クラッチ14を解放させた後で、シフトモータ104およびセレクトモータ102を駆動して変速機16の変速前のギヤ段から変速後のギヤ段へ切り換え、次いでクラッチアクチュエータ34によって自動クラッチ14を係合させることにより自動変速を実行する。また、シフトレバー160がMポジションに位置させられている手動変速モードであるときは、アップシフトスイッチ142或いはダウンシフトスイッチ143によって検出されるシフトレバー160のアップ変速操作或いはダウン変速操作に応答して、クラッチアクチュエータ34によって自動クラッチ14を解放させた後で、シフトモータ104およびセレクトモータ102を駆動して変速機16の変速前のギヤ段から変速後のギヤ段へ切り換え、次いでクラッチアクチュエータ34によって自動クラッチ14を係合させることにより手動変速を実行する。
【0023】
クラッチ制御手段172は、上記変速制御手段170からの指令に従って、変速機16の変速期間はエンジン12と入力軸42との間の動力伝達を遮断するために、上記のように自動クラッチ14を開閉する。また、スタンバイ制御手段176からの指令に従って、減速走行において自動変速機14の解放応答性を高めてエンジンストールを防止するために、自動クラッチ14をそのすべりが発生する直前の状態に待機させる。
【0024】
減速走行判定手段174は、車両の減速走行であるか否かをたとえばスロットル開度θ(%)或いはアクセル開度A(%)が予め1乃至2(%)程度に小さく設定された判定値Hを下回ったか否かに基づいて判定される。この判定値Hは、アクセル開度Aが零付近となったことに基づいて運転者の減速意思を判定するためのものである。
【0025】
スタンバイ制御手段176は、減速走行判定手段174によって車両の減速走行が判定されると、自動クラッチ14の解放スタンバイ制御を行う。たとえばクラッチアクチュエータ34の出力ロッド92の操作ストローク(操作量)に対応する自動クラッチ14のクラッチストロークLCLを、その最大ストローク位置から予め設定された待機位置Lに位置させることにより自動クラッチ14をそのすべりが発生する直前の状態に待機させる。
【0026】
スロットル開度θ(%)或いは燃料噴射量が零付近である減速走行状態では、図6に示すように、エンジン回転速度N(rpm)が増加するほど、エンジン12の回転抵抗が増加してエンジン出力トルクT(Nm)が負側に大きくなる(減少する)性質がある。また、自動クラッチ14の伝達トルクTCLとクラッチストロークLCLとは、図7に示すように、クラッチストロークLCLが増加するほど伝達トルクTCLが大きくなる性質がある。自動クラッチ14は減速走行において発生する上記のように発生するエンジン出力トルクT(負側の値)でも滑らないように、前記待機位置Lは、そのエンジン出力トルクTよりも自動クラッチ14の伝達トルクが僅かに大きい値となるように設定されている。
【0027】
ところで、エンジン12が低温状態であると、上記図6の破線に示すように、エンジン出力トルクT(Nm)が負側に更に大きくなる(減少する)性質がある。このような場合に自動クラッチ14のクラッチストロークLCLが上記待機位置Lとされるとすべりが発生してしまうので、低温時のエンジン出力トルクTよりも自動クラッチ14の伝達トルクが僅かに大きい値となるように設定されたさらに大きい待機位置Lが用いられる。しかし、この場合には、待機位置Lから解放位置までのストロークが長くなって自動クラッチ14の応答性が低下してしまう問題があった。これに対し、本実施例では、以下の低温状態判定手段178およびエンジン出力トルク増量手段180が設けられている。
【0028】
低温状態判定手段178は、エンジン12が予め設定された低温状態であるか否かを、エンジン冷却水温センサ132により検出された冷却水温Tがたとえば10℃程度に予め設定された判定値TW1を下回るか否かに基づいて判定する。エンジン出力トルク増量手段180は、上記低温状態判定手段178によりエンジン12が予め設定された低温状態であると判定される場合は、たとえば燃料噴射弁136からエンジン12へ供給される燃料噴射量を減速走行中にアイドル回転させるための値よりも増量補正することにより、エンジン12の出力トルクを増加させる。好適には、図6の実線に示す暖機時のエンジン出力トルクTとなるように、上記燃料噴射量が増量補正される。この結果、スタンバイ制御手段176は、減速走行状態におけるクラッチアクチュエータ34の出力ロッド92の操作ストロークである操作位置を、エンジンの暖機状態に拘わらず同じ待機位置Lに位置させる。
【0029】
図8は、前記自動クラッチ用電子制御装置116の制御作動の要部すなわち自動クラッチ14の減速走行時の解放制御作動を説明するフローチャートである。図8において、前記減速走行判定手段174に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1では、車両の減速走行状態であるか否かが、アクセルペダルが非操作位置に位置していることすなわちスロットル弁開度センサ126により検出されたスロットル弁開度θTHが0%付近にあるか否かに基づいて判断される。このS1の判断が否定される場合は、S5における通常のクラッチ解放制御が実行されるが、肯定される場合は、前記スタンバイ制御手段176に対応するS2において、クラッチアクチュエータ34の出力ロッド92の操作ストロークである操作位置が、その最大ストローク位置から前記待機位置Lに位置させられる。
【0030】
次いで、前記低温状態判定手段178に対応するS3において、エンジン12が低温状態であるか否かが、エンジン冷却水温センサ132により検出された冷却水温Tが予め設定された判定値TW1を下回るか否かに基づいて判断される。このS3の判断が否定される場合はS5における通常のクラッチ解放制御が実行されるが、肯定される場合は、前記エンジン出力トルク増量手段180に対応するS4において、たとえば燃料噴射弁136からエンジン12へ供給される燃料噴射量を減速走行中にアイドル回転させるための値よりも増量補正することにより、たとえば図6の破線に示す値から実線に示す値までエンジン12の出力トルクが増加させられる。
【0031】
上述のように、本実施例によれば、スタンバイ制御手段176(S2)によるスタンバイ制御が実行されるときに低温状態判定手段178(S3)によりエンジン12が低温状態であると判定された場合には、エンジン出力トルク増量手段180(S4)によりエンジン12の出力トルクT(負側の値)が零に向かって増量されるので、低温状態であるときのスタンバイ位置を待機位置Lから待機位置Lへすなわち自動クラッチ解放側へずらすことができ、車両の減速走行中においてエンジン12の暖気状態に拘わらず迅速に自動クラッチ14を解放状態とすることができる。
【0032】
また、本実施例によれば、エンジン出力トルク増量手段180(S4)は、暖機時において出力される暖機時出力トルク(図6の実線)となるように、低温状態のエンジン12の出力トルクT(負側の値)を零に向かって増量させるものであることから、減速走行状態におけるクラッチアクチュエータ34の操作ストロークにおける操作位置を、エンジン12の暖機状態に拘わらず同じ待機位置Lに位置させることができ、暖機状態と同様に、迅速に自動クラッチ12を解放状態とすることができる。
【0033】
また、本実施例によれば、スタンバイ制御手段176(S2)は、減速走行状態におけるクラッチアクチュエータ34の操作ストロークにおける操作位置を、エンジン12の暖機状態に拘わらず同じ待機位置Lに位置させるものであることから、エンジン12の暖機状態に拘わらず、迅速に自動クラッチ14を解放状態とすることができる。
【0034】
また、本実施例によれば、クラッチアクチュエータ34は、減速機94を介してダイヤフラムスプリング32の内端部に作動的に連結された出力ロッド92を駆動するクラッチモータ(電動機)100を備えるものであることから、油圧シリンダからクラッチアクチュエータを構成する場合に比較して、制御弁、油圧回路、油圧ポンプなどの自動クラッチの制御に関連する油圧機器が不要となる利点がある。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0036】
たとえば、前述の実施例のクラッチアクチュエータ34は、クラッチモータ100を利用したものであったが、空圧シリンダや油圧シリンダであってもよい。
【0037】
また、前述の実施例のエンジン出力トルク増量手段180は、燃料噴射量を増量させることによりエンジン出力トルクTを増量していたが、スロットル弁の開度θTHや吸入空気量を増大させることにより、エンジン出力トルクTを増量してもよい。
【0038】
また、前述の実施例のエンジン出力トルク増量手段180は、暖機時においてエンジン12から出力される暖機時出力トルクとなるように、すなわち図6の破線に示す低温状態のエンジン出力トルクを図6の実線に示す値まで増量させるものであったが、必ずしも図6の実線に示す値まで増量させるものでなくてもよい。増量補正されればその範囲で待機位置Lから待機位置Lへずらすことができ、一応の効果が得られる。
【0039】
また、前述の実施例のスタンバイ制御手段176は、減速走行状態における前記クラッチアクチュエータ34の操作ストローク中における操作位置を、前記エンジン12の暖機状態に拘わらず同じ待機L位置に位置させるものであったが、エンジン12の低温状態と暖機状態とで必ずしも同じ待機位置でなくてもよい。
【0040】
また、前述の実施例の変速機14は、FF型車両に適用されるように構成されていたが、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両にも適用され得る。
【0041】
また、走行用駆動源として用いられる前述の実施例のエンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは勿論、電動モータ等の他の駆動源であっても良い。また、変速機16は、平行な2軸間に変速比が異なる複数の変速ギヤ対が配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対に対応して複数の噛合クラッチが設けられた2軸常時噛合式のものが好適に用いられるが、遊星歯車式自動変速機や無段変速機であってもよい。
【0042】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその精神を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づき種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例である自動クラッチの制御装置を備えている車両の駆動装置の概略構成を示す骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の自動クラッチの一例を説明する図である。
【図3】図1の車両用駆動装置の制御系統を説明するブロック線図である。
【図4】図1の車両に設けられたシフトレバーおよびその操作ポジションを説明する斜視図である。
【図5】図2の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】アクセルオフ状態におけるエンジンの出力トルクとエンジン回転速度との関係を説明する図である。
【図7】図2の自動クラッチの伝達トルクとクラッチストロークとの関係を説明する図である。
【図8】図2の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
12:エンジン
14:自動クラッチ
16:変速機
34:クラッチアクチュエータ
100:クラッチモータ(電動機)
116:自動クラッチ用電子制御装置(制御装置)
176:スタンバイ制御手段
178:低温状態判定手段
180:エンジン出力トルク増量手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチアクチュエータによって係合制御される自動クラッチをエンジンと変速機との間に備えた車両において、減速走行状態には該クラッチアクチュエータの操作位置をその操作ストローク中の該自動クラッチの滑りが発生しない範囲内のクラッチ解放側に設定されたスタンバイ位置に位置させるスタンバイ制御を実行するスタンバイ制御手段を備えた車両用自動クラッチの制御装置であって、
前記エンジンが予め設定された低温状態であるか否かを判定する低温状態判定手段と、
前記スタンバイ制御手段によるスタンバイ制御が実行されているときに該低温状態判定手段により前記エンジンが低温状態であると判定された場合は、該エンジンの出力トルクを増量させるエンジン出力トルク増量手段と
を、含むことを特徴とする車両用自動クラッチの制御装置。
【請求項2】
前記エンジン出力トルク増量手段は、暖機時において出力される暖機時出力トルクとなるように、低温状態のエンジン出力トルクを増量させるものである請求項1の車両用自動クラッチの制御装置。
【請求項3】
前記スタンバイ制御手段は、減速走行状態における前記クラッチアクチュエータの操作ストローク中における操作位置を、前記エンジンの暖機状態に拘わらず同じ位置に位置させるものである請求項2の車両用自動クラッチの制御装置。
【請求項4】
前記クラッチアクチュエータは、減速機を介して出力ロッドを駆動する電動機を備えるものである請求項1乃至3のいずれかの車両用自動クラッチの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−223479(P2007−223479A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47536(P2006−47536)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】