説明

車両用自動変速機の制御装置

【課題】高変速段用油圧係合要素の耐久性を低下させることなく中速段から低速段への移行を早く行うことができ、登坂路走行時等における十分な加速性能が得られてドライバビリティが向上する車両用自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】車両用自動変速機2の各変速段のうち高変速段を成立させる高変速段用油圧係合要素の作動油圧をモニタするモニタ手段46,47を設ける。変速特性のうち中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する特性変更手段5を設ける。特性変更手段5は、高変速段から中変速段への移行に伴って高変速段用油圧係合要素が開放され、且つ、モニタ手段46,47によりモニタされた作動油圧がゼロとなったとき、中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧で作動する複数の油圧係合要素を回転状態で係合又は開放させることにより、車両の走行状態に基づく複数の変速段を、予め定められた変速特性に従って自動的に切換えるようにした車両用自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置は、変速機に備える複数の油圧係合要素たる油圧クラッチへの作動油の給排を制御して電子制御回路に、例えばエンジンのスロットル開度(もしくはアクセルペダル開度)と車速とをパラメータとして設定される変速特性を記憶させておき、この変速特性に従った変速段が成立するように各油圧クラッチを係合又は開放させることにより自動変速を行っている。
【0003】
ところで、この種の油圧クラッチは、作動油が供給される油圧室と、この油圧室の油圧により複数の摩擦板を互いに圧接させるピストンとを備え、油圧室及びピストンは変速機の回転軸に設けられて回転軸と一体に回転する。油圧室への作動油の給排は回転軸に設けられた油路から行われ、油圧室に作動油を供給するとピストンが摩擦板を押圧して複数の摩擦板が摩擦係合する。また、油圧室から作動油を排出するとピストンの押圧が解除されて複数の摩擦板は開放状態となる。しかし、回転状態で係合状態から開放状態に移行させる際には、その遠心力により油圧室からの作動油の排出が円滑に行われない場合がある。この場合には、油圧室内の遠心油圧によってピストンの押圧が解除されず、摩擦板同士が半係合状態(所謂引きずり状態)となって摩擦板の発熱等により油圧クラッチの耐久性が低下するおそれがある。
【0004】
そこで従来、油圧クラッチに、油圧室と対向する遠心油圧キャンセラー室を設け、油圧室からの作動油の排出時に遠心油圧キャンセラー室に作動油を供給して油圧室内に発生する遠心油圧をキャンセルするようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、変速機に備える油圧クラッチの全てに遠心油圧キャンセラー室を設けた場合には、変速機の構造が複雑となるだけでなく変速機をコンパクトに構成することができない。このため、一般には高変速段用の油圧クラッチには遠心油圧キャンセラー室を設けず、低変速段用の油圧クラッチにのみ遠心油圧キャンセラー室を設けて変速機の大型化を防止している。更に、この構成のものでは、通常の変速特性を用いると中変速段から低変速段への移行時には車速が高い状態で低変速段に移行するので、高変速段用の油圧クラッチが高回転となって引きずり状態を発生させてしまう。そして、これを避けるためには、高変速段用の油圧クラッチが高回転とならないようにして油圧クラッチの油圧を抜く必要がある。即ち、中変速段から低変速段への変速特性を低車速側に設定し、中変速段で十分に車速が低下した状態で低変速段に移行させ、高変速段用の油圧クラッチの回転を抑え、油圧クラッチの油圧を抜くようにする。
【0006】
しかしながら、このように油圧クラッチの保護を優先させた変速特性の設定では、登坂路走行時に高変速段から中変速段へ移行した後、車速が十分に下がるまで比較的長時間にわたり中変速段が保持されることになり、ダウンシフトの遅延により十分な加速が得られない。また、高変速段へ一度も入らないようなワインディング路でのスポーツ走行を行う場合にも、変速特性がが低車速側に設定されていることからダウンシフトが遅延して十分な加速が得られず、ドライバビリティが悪化するという不都合があった。
【特許文献1】特開平8−28591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる不都合を解消して、本発明は、高変速段用油圧係合要素の耐久性を低下させることなく中速段から低速段への移行を早く行うことができ、登坂路走行時等における十分な加速性能が得られてドライバビリティが向上する車両用自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、第1発明は、複数の油圧係合要素を回転状態で係合又は開放させることにより、車両の走行状態に基づく複数の変速段を、予め定められた変速特性に従って自動的に切換えるようにした車両用自動変速機の制御装置において、各変速段のうち高変速段を成立させる高変速段用油圧係合要素の作動油圧をモニタするモニタ手段と、高変速段から中変速段への移行に伴って前記高変速段用油圧係合要素が開放され、且つ、前記モニタ手段によりモニタされた作動油圧がゼロとなったとき、前記変速特性のうち中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する特性変更手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、高変速段から中変速段へダウンシフトが行われたとき、モニタ手段によるモニタ結果に応じて中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する。これによって、車速が左程低下しないうちに中変速段から低変速段へのダウンシフトが行われ、登坂路走行時等における十分な加速性能が得られてドライバビリティが向上する。この変速特性の変更は、高変速段から中変速段への移行に伴い前記高変速段用油圧係合要素が開放され、その作動油圧がゼロとなったときに行われるので、高変速段用油圧係合要素が半係合状態で高回転となることが防止でき、高変速段用油圧係合要素の耐久性の低下を防止することができる。
【0010】
また、第2発明は、複数の油圧係合要素を回転状態で係合又は開放させることにより、車両の走行状態に基づく複数の変速段を、予め定められた変速特性に従って自動的に切換えるようにした車両用自動変速機の制御装置において、各変速段のうち高変速段を成立させる高変速段用油圧係合要素の作動油圧をモニタするモニタ手段と、高変速段から中変速段への移行に伴って前記高変速段用油圧係合要素が開放され、且つ、前記モニタ手段によりモニタされた作動油圧がゼロとなって所定時間が経過したとき、前記変速特性のうち中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する特性変更手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本第2発明は、作動油圧がゼロとなったことが前記モニタ手段によりモニタされた後に所定時間の経過を待って変速特性を高車速側に変更する点のみが前記第1発明と異なる。こうすることにより、高変速段用油圧係合要素内部の作動油圧の残留を確実に防止することができ、高変速段用油圧係合要素の耐久性の低下を確実に防止することができる。
【0012】
また、前記第1発明又は前記第2発明においては、前記モニタ手段として、前記高変速段用油圧係合要素の作動油圧を検出する油圧検出器を採用してもよく、或いは、前記高変速段用油圧係合要素の入力軸回転数と該高変速段用油圧係合要素の作動油温度とに基づいて作動油圧の推定値を求め、該推定値によってモニタするようにしてもよい。なお、上記油圧検出器としては、油圧スイッチや油圧センサ等を挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1において、1はエンジンであり、エンジン1の出力側には前進5段後進1段の変速を行う車両用自動変速機2が連結され、該変速機2の出力側にはディファレンシャル機構3を介して車両の駆動輪4が連結されている。5はマイクロコンピュータから成る電子制御回路であり、6は電磁弁を有する油圧制御回路である。該油圧制御回路6は、電子制御回路5により制御され、前記変速機2に備える後述する複数の油圧係合要素たる油圧クラッチへの給排油を制御して変速を行う。なお、電子制御回路5は後述するように本発明の特性変更手段としての機能も有している。
【0014】
先ず、前記変速機2の構成を図2乃至図4を参照して説明する。変速機2は、変速機ハウジング7内に、エンジン出力軸8(図1示)に繋がるトルクコンバータ9と、トルクコンバータ9の出力部材(タービン)に接続された平行軸式変速機構10とにより構成され、該平行軸式変速機構10の終減速駆動ギヤ11と噛合する終減速従動ギヤ12を有したディファレンシャル機構3から車両の駆動輪4(図1示)に駆動力が伝達される。平行軸式変速機構10は、互いに平行に延びた第1入力軸13、第2入力軸14、カウンタ軸15及びアイドル軸16を有して構成されている。なお、図4(a)及びは図4(b)は、夫々図2及び図3に対応する動力伝達構成を示している。
【0015】
第1入力軸13はトルクコンバータ9のタービンに連結されており、タービンからの駆動力を受けてこれと同一回転する。第1入力軸13には、トルクコンバータ9側から順、即ち図4(a)においては右側から順に、5速駆動ギヤ17、5速用油圧クラッチ18、4速用油圧クラッチ19、4速駆動ギヤ20、リバース駆動ギヤ21及び第1連結ギヤ22が配設されている。5速駆動ギヤ17は第1入力軸13に回転自在に配設されており、油圧力により作動される5速用油圧クラッチ18により第1入力軸13と係脱される。また、4速駆動ギヤ20とリバース駆動ギヤ21とは一体に連結された状態で第1入力軸13に回転自在に配設されており、油圧力により作動される4速用油圧クラッチ19により第1入力軸13と係脱される。また、第1連結ギヤ22は第1入力軸13に結合されている。
【0016】
第2入力軸14は第1入力軸13と平行に回転自在に設けられ、第2入力軸14には、図4(a)における右側から順に、2速用油圧クラッチ23、2速駆動ギヤ24、LOW駆動ギヤ25、LOW用油圧クラッチ26、3速用油圧クラッチ27、3速駆動ギヤ28及び第4連結ギヤ29が配設されている。2速駆動ギヤ24、LOW駆動ギヤ25及び3速駆動ギヤ28はそれぞれ第2入力軸14に回転自在に配設されており、油圧力により作動される2速用油圧クラッチ23、LOW用油圧クラッチ26及び3速用油圧クラッチ27により第2入力軸14と係脱される。また、第4連結ギヤ29は第2入力軸14と結合されている。なお、LOW用油圧クラッチ26、2速用油圧クラッチ23、3速用油圧クラッチ27、4速用油圧クラッチ19、及び5速用油圧クラッチ18は、本発明における油圧係合要素であり、4速用油圧クラッチ19と5速用油圧クラッチ18とは、本発明における高変速段用油圧係合要素を構成するものである。
【0017】
アイドル軸16は図2におけるカウンタ軸15に対して紙面裏側に位置してカウンタ軸15と平行に回転自在に設けられ、アイドル軸16と一体に第2連結ギヤ30及び第3連結ギヤ31が設けられている。第2連結ギヤ30は第1連結ギヤ22と噛合し、第3連結ギヤ31は第4連結ギヤ29と噛合している。これら第1〜第4連結ギヤ22,30,31,29により連結ギヤ列32が構成され、第1入力軸13の回転が連結ギヤ列32を介して第2入力軸14に常時伝達される。
【0018】
カウンタ軸15は回転自在に設けられ、この軸上には、図4(a)における右側から順に、終減速駆動ギヤ11、2速従動ギヤ33、LOW従動ギヤ34、5速従動ギヤ35、3速従動ギヤ36、4速従動ギヤ37、ドグ歯式クラッチ38及びリバース従動ギヤ39が配設されている。終減速駆動ギヤ11、2速従動ギヤ33、LOW従動ギヤ34、5速従動ギヤ35及び3速従動ギヤ36はカウンタ軸15に結合されてこれと一体回転する。4速従動ギヤ37はカウンタ軸15に回転自在に配設されている。また、リバース従動ギヤ39もカウンタ軸15に回転自在に配設されている。ドグ歯クラッチ38は軸方向に作動して、4速従動ギヤ37とカウンタ軸15とを係脱させたり、リバース従動ギヤ39とカウンタ軸15とを係脱させたりする。なお、図示のように、LOW駆動ギヤ25はLOW従動ギヤ34に、2速駆動ギヤ24は2速従動ギヤ33に、3速駆動ギヤ28は3速従動ギヤ36に、4速駆動ギヤ20は4速従動ギヤ37に、5速駆動ギヤ17は5速従動ギヤ35に夫々噛合している。更に、リバース駆動ギヤ21はリバースアイドラギヤ40(図3参照)を介してリバース従動ギヤ39に噛合している。
【0019】
図には示されていないが、終減速駆動ギヤ11は終減速従動ギヤ12(図2参照)と噛合しており、カウンタ軸15の回転は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0020】
以上のような構成の変速機において、各変速段の設定及びその動力伝達経路について説明する。なお、この変速機2においては、前進レンジにおいてはドグ歯クラッチ38が図において右動して4速従動ギヤ37とカウンタ軸15とを連結する。後進(リバース)レンジにおいては、ドグ歯クラッチ38が左動してリバース従動ギヤ39とカウンタ軸15とを連結する。
【0021】
前進レンジにおける5つの変速段(LOW速度段、2速段、3速段、4速段、及び5速段)について説明する。LOW速度段はLOW用油圧クラッチ26を係合させて設定される。トルクコンバータ9から第1入力軸13に伝達された回転駆動力は、連結ギヤ列32を介して第2入力軸14に伝達される。ここで、LOW用油圧クラッチ26が係合されると、LOW駆動ギヤ25が第2入力軸14と同一回転駆動され、これと噛合するLOW従動ギヤ34が回転駆動され、カウンタ軸15が駆動される。この駆動力は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0022】
2速段は2速用油圧クラッチ23を係合させて設定される。トルクコンバータ9から第1入力軸13に伝達された回転駆動力は、連結ギヤ列32を介して第2入力軸14に伝達される。ここで、2速用油圧クラッチ23が係合されると2速駆動ギヤ24が第2入力軸14と同一回転駆動され、これと噛合する2速従動ギヤ33が回転駆動され、カウンタ軸15が駆動される。この駆動力は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0023】
3速段は3速用油圧クラッチ27を係合させて設定される。トルクコンバータ9から第1入力軸13に伝達された回転駆動力は、連結ギヤ列32を介して第2入力軸14に伝達される。ここで、3速用油圧クラッチ27が係合されると3速駆動ギヤ28が第2入力軸14と同一回転駆動され、これと噛合する3速従動ギヤ36が回転駆動されてカウンタ軸15が駆動される。この駆動力は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0024】
4速段は4速用油圧クラッチ19を係合させて設定される。トルクコンバータ9から第1入力軸13に伝達された回転駆動力は、4速用油圧クラッチ19の係合により4速駆動ギヤ20を回転駆動させ、これと噛合する4速従動ギヤ37を回転駆動する。ここで、前進レンジにおいてはドグ歯クラッチ38により4速従動ギヤ37がカウンタ軸15と係合されているため、カウンタ軸15が駆動され、この駆動力は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0025】
5速段は5速用油圧クラッチ18を係合させて設定される。トルクコンバータ9から第1入力軸13に伝達された回転駆動力は、5速用油圧クラッチ18を介して5速駆動ギヤ17を回転駆動させ、これと噛合する5速従動ギヤ35を回転駆動する。5速従動ギヤ35はカウンタ軸15と結合されているためカウンタ軸15が駆動され、この駆動力は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0026】
後進レンジにおいては、4速用油圧クラッチ19がリバースクラッチの作用を兼用する。即ち、4速用油圧クラッチ19を係合させると共にドグ歯クラッチ38を左動させることで後進(リバース)段が設定される。トルクコンバータ9から第1入力軸13に伝達された回転駆動力は、4速用油圧クラッチ19を介してリバース駆動ギヤ21を回転駆動させ、リバースアイドラギヤ40を介してリバース駆動ギヤ21と噛合するリバース従動ギヤ39を回転駆動する。そして、ドグ歯クラッチ38によりリバース従動ギヤ39がカウンタ軸15と係合されているため、カウンタ軸15が駆動され、この駆動力は終減速駆動ギヤ11及び終減速従動ギヤ12を介してディファレンシャル機構3に伝達される。
【0027】
前述した各変速段用の油圧クラッチ26,23,27,19,18は、図1に示す前記油圧制御回路6を介して前記電子制御回路5により制御される。油圧制御回路6は、図示しないが、油圧源及び複数の電磁弁等を備え、各電磁弁を切換えることにより各油圧クラッチ26,23,27,19,18に選択的に作動油を供給する。図1に示すように、前記電子制御回路5は、エンジン1のスロットル開度(TH)もしくはアクセルペダル開度(AP)を検出するセンサ41、エンジン回転数を検出するセンサ42、変速機2の入力軸回転数(Nm)を検出するセンサ43、変速機2の出力軸回転数から車速(V)を検出するセンサ44、及び、クラッチ作動油温を検出するセンサ45等からの信号を入力し、電子制御回路5の内部に予め記憶されている、スロットル開度(TH)もしくはアクセルペダル開度(AP)と車速(V)とをパラメータとして設定される図5に示すような変速特性(実線−ダウンシフト特性線、1点鎖線−アップシフト特性線)に従って1速乃至5速の自動変速を行う。また、図1において、電子制御回路5は、後述するように、4速用油圧クラッチ19内の作動油圧(又は作動油残量)を検出する4速用油圧スイッチ46(油圧検出器)及び5速用油圧クラッチ18内の作動油圧(又は作動油残量)を検出する5速用油圧スイッチ47(油圧検出器)からの信号を入力し、3速段(本発明における中変速段にあたる)から2速段(本発明における低変速段にあたる)へのダウンシフトにおける変速特性の変更を所定の条件に基づいて行うようになっている。なお、4速用油圧スイッチ46及び5速用油圧スイッチ47は本発明のモニタ手段を構成するものである。なお、4速用油圧クラッチ19内及び5速用油圧クラッチ19内の作動油圧(又は作動油残量)を検出する油圧検出器としては、油圧スイッチに限るものではなく、例えば油圧センサであってもよい。
【0028】
ここで、図2に戻って、LOW用油圧クラッチ26、2速用油圧クラッチ23、及び3速用油圧クラッチ27は、何れも遠心油圧キャンセラー室26a,23a,27aを備えている。遠心油圧キャンセラー室26a,23a,27aは、各クラッチ26,23,27の係合を解除する際にそれらの内部の作動油に生じる遠心力をキャンセルして、作動油の排出を円滑に行えるようにするものである。一方、4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18には、遠心油圧キャンセラー室が設けられていない。こうすることで、4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18が大型化せず第1入力軸13周りの構成が簡単となり、コンパクトに構成することができる。その反面、3速段から2速段へのダウンシフトを行う際には、車速(V)が充分に低下して4速用油圧クラッチ19や5速用油圧クラッチ18の回転が低下しないと、遠心力の影響を排除することができないため、図5において実線で示すように、通常は、3速段から2速段へのダウンシフトに係る変速特性を比較的低車速側に設定している。
【0029】
即ち、中変速段から低変速段への変速特性を低車速側に設定し、中変速段で十分に車速が低下した状態で低変速段に移行させ、4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18の回転を抑えて4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18の油圧を抜くようにしている。しかし、このような4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18の保護を優先させるための変速特性を設定しただけでは、登坂路走行時に高変速段から中変速段へ移行した後、車速が十分に下がるまで比較的長時間にわたり中変速段が保持されることになり、ダウンシフトの遅延により十分な加速が得られない。また、高変速段へ一度も入らないようなワインディング路でのスポーツ走行を行う場合にも、変速特性がが低車速側に設定されていることからダウンシフトが遅延して十分な加速が得られず、ドライバビリティが悪い。
【0030】
そこで、本実施形態の前記電子制御回路5においては、図6に示すように、4速段から3速段へのダウンシフトが行われた後、5速用油圧スイッチ47及び4速用油圧スイッチ46から得られる情報から、5速用油圧クラッチ18内の作動油圧と4速用油圧クラッチ19内の作動油圧とが0となったこと(即ち作動油の排出が完了したこと)が確認され、更に、所定の待ち時間tが経過したときに、3速段から2速段へのダウンシフトが行えるようにする。そして、このとき、図7に示すように、3速段から2速段へのダウンシフト特性線を実線示の通常線から点線示のように高車速側に変更し、かかる変更後の変速特性に従ってダウンシフトを行う。これによれば車速(V)が左程低下しないうちに3速段から2速段へのダウンシフトが行われるので、充分な加速性能を得ることができ、高いドライバビリティが得られる。しかも、5速用油圧クラッチ18内の作動油圧と4速用油圧クラッチ19内の作動油圧とが0となったことが確認された後の3速段から2速段へのダウンシフトであるため、5速用油圧クラッチ18及び4速用油圧クラッチ19が完全に開放され、例えば半係合状態での発熱等を防止することができる。また、5速用油圧クラッチ18内の作動油圧と4速用油圧クラッチ19内の作動油圧とが0となって、更に、所定の待ち時間tが経過したときに変速特性の変更が行われるので、5速用油圧クラッチ18や4速用油圧クラッチ19に極僅かな作動油圧の残留があっても所定の待ち時間t内に解消させることができて有利である。なお、5速用油圧クラッチ18内の作動油圧及び4速用油圧クラッチ19内の作動油圧が極めて正確にモニタできるのであれば、5速用油圧クラッチ18内の作動油圧と4速用油圧クラッチ19内の作動油圧とが0となったときに、変速特性を変更して3速段から2速段へのダウンシフトが行えるようにしてもよい。これによれば、車速(V)の低下が極めて小さいうちに3速段から2速段へのダウンシフトを行うようにすることができる。
【0031】
電子制御回路5による変速特性の変更処理について、本実施形態においては次の手順を採用した。即ち、5速段から4速段へ移行し更に4速段から3速段へ移行した後、図8に示すように、3−2ダウンシフト処理に入り、通常の変速特性(図5参照)に基づいて3−2ダウンシフト用の指示車速を検索する(STEP1)。このとき、実車速(V)が通常の変速特性における指示車速より大であり(STEP2)、変速特性の変更が許可されており(STEP3)、更に、実車速(V)が変更後の変速特性(図7参照)における3−2ダウンシフト用の指示車速より小であれば(STEP4)、図7に示す変更後の変速特性に従って3速段から2速段への移行を行う(STEP5)。STEP3〜5の何れかの条件が満たされない場合には通常の変速特性に従って3速段から2速段への移行を行う(STEP6)。
【0032】
なお、本実施形態においては、4速用油圧スイッチ46及び5速用油圧スイッチ47を本発明のモニタ手段として採用し、4速用油圧スイッチ46及び5速用油圧スイッチ47の情報により4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18の作動油圧をモニタするものを示したが、それ以外には、電子制御回路5に、予め入力軸回転数(Nm)と作動油排出時間との関係を示すデータをクラッチ作動油温毎に記憶させておき、実際の入力軸回転数(Nm)とクラッチ作動油温とに対応する作動油排出時間から作動油圧低下(又は作動油残量低下)の推定値を求め、この推定値によって4速用油圧クラッチ19及び5速用油圧クラッチ18の作動油圧が0であることをモニタしてもよい。
【0033】
また、本実施形態においては、前進レンジに5つの変速段(LOW速度段、2速段、3速段、4速段、及び5速段)を備える変速機2について説明したが、それに限るものではなく、例えば、前進レンジが4つの変速段(LOW速度段、2速段、3速段、及び4速段)とされた変速機においても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態における車両用自動変速機の制御系を示すブロック図。
【図2】上記車両用自動変速機の要部の説明的断面図。
【図3】上記車両用自動変速機の他部の説明的断面図。
【図4】上記車両用変速機の動力伝達系を示すスケルトン図。
【図5】変速特性を示す線図。
【図6】本実施形態におけるダウンシフトと作動油圧との関係を示す線図。
【図7】変速特性の変更を示す線図。
【図8】変速特性の変更に係る制御の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0035】
2…車両用自動変速機、5…電子制御回路(特性変更手段)、18…5速用油圧クラッチ(高変速段用油圧係合要素)、19…4速用油圧クラッチ(高変速段用油圧係合要素)、26…LOW用油圧クラッチ(油圧係合要素)、23…2速用油圧クラッチ(油圧係合要素)、27…3速用油圧クラッチ(油圧係合要素)、46…4速用油圧スイッチ(モニタ手段)、47…5速用油圧スイッチ(モニタ手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の油圧係合要素を回転状態で係合又は開放させることにより、車両の走行状態に基づく複数の変速段を、予め定められた変速特性に従って自動的に切換えるようにした車両用自動変速機の制御装置において、
各変速段のうち高変速段を成立させる高変速段用油圧係合要素の作動油圧をモニタするモニタ手段と、
高変速段から中変速段への移行に伴って前記高変速段用油圧係合要素が開放され、且つ、前記モニタ手段によりモニタされた作動油圧がゼロとなったとき、前記変速特性のうち中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する特性変更手段とを備えることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
複数の油圧係合要素を回転状態で係合又は開放させることにより、車両の走行状態に基づく複数の変速段を、予め定められた変速特性に従って自動的に切換えるようにした車両用自動変速機の制御装置において、
各変速段のうち高変速段を成立させる高変速段用油圧係合要素の作動油圧をモニタするモニタ手段と、
高変速段から中変速段への移行に伴って前記高変速段用油圧係合要素が開放され、且つ、前記モニタ手段によりモニタされた作動油圧がゼロとなって所定時間が経過したとき、前記変速特性のうち中変速段から低変速段へ移行させるための変速特性を高車速側に変更する特性変更手段とを備えることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記モニタ手段は、前記高変速段用油圧係合要素の作動油圧を検出する油圧検出器であることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記モニタ手段は、前記高変速段用油圧係合要素への入力軸回転数と該高変速段用油圧係合要素の作動油温度とに基づいて作動油圧の推定値を求め、該推定値によってモニタすることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−185897(P2009−185897A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26209(P2008−26209)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】