説明

車両用通信システム、制御装置、車載ナビゲーション装置

【課題】過去に起こった故障の原因をディーラーの故障診断担当者に容易に判断させることができ、正常な制御装置が誤って交換されるのを回避すること。
【解決手段】車両用通信システム1は、ナビゲーションシステムECU3、ディスプレイECU5、オーディオECU7、およびゲートウェイECU9が車両内の通信用の情報系ネットワーク11によって接続されるとともに、各ECUが情報系ネットワーク11を介して互いにデータを送受信するよう構成され、このうちのナビゲーションシステムECU3が、情報系ネットワーク11上を伝送されたデータのログ(通信履歴)を格納するHDD/ROM34、CPU29、を備える。そして、CPU29が、HDD/ROM34に記憶された過去の一定時間の通信履歴を参照し、その内容を視覚化・聴覚化してディスプレイECU5やスピーカ8に表示・発話させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された複数の制御装置をデータ通信用のネットワークを介して接続し、各制御装置が該ネットワークを介して互いにデータを送受信するよう構成された車両用通信システムに関し、故障中の制御装置が特定されずに正常な制御装置が誤って交換されるのを回避する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載された複数の制御装置が車両内の通信用のネットワークによって接続されるとともに、そのネットワークには車両外の故障診断装置が有線又は無線にて通信可能に接続される車両用通信システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この種の車両用通信システムにおいては、送信するメッセージのヘッダ領域に、送信先の制御装置を示すアドレスを含ませることで、その制御装置との通信が実現されるようになっている。
【0004】
そして、車両の故障診断を行う際には、作業者が、車両内のネットワークに故障診断装置(いわゆる故障診断ツール)を通信可能に接続するとともに、その故障診断装置に備えられた入力キー等を操作して、その故障診断装置に、故障診断をしたい目的の機能が実装された制御装置と、故障診断に関する処理内容(即ち、その制御装置に実施させたい故障診断処理の内容)とのそれぞれを示す情報を入力すると、故障診断装置から上記目的の機能が実装された制御装置へ、その制御装置を送信先とし且つ上記処理内容の実施を指令する要求メッセージが送信させるようになっていた。
【0005】
なお、故障診断用の要求メッセージとしては、例えば、制御装置内に記憶されている制御データを返送させるためのデータ要求メッセージや、アクチュエータを強制的に駆動させるための駆動要求メッセージなどがある。
【特許文献1】特開2002−091545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のような車両用通信システムにおける故障診断においては、次のような問題があった。すなわち、近年、用いられる情報系車内LANにおいては、その情報量の多さに起因して様々な要因の組み合わせで不具合が発生するケースが多く、例えばディーラーに車両を入庫する前にユーザが制御装置の故障を発見したとしても、入庫後のディーラーでの故障診断ではその故障を発見できないといったケースが数多くある。一方、情報系車内LANに接続されたナビゲーションシステムでは、その音声案内や映像出力のヒューマンマシンインターフェースを、情報系車内LANに接続された他の機器と通信でやり取りすることによって実現している。そのため、例えばナビゲーションシステムの案内音声が車のスピーカから聞こえないといった具合に車両用通信システムを構成する制御装置の何れかに故障が起こった場合には、例えばナビゲーションシステムやアンプ、ゲートウェイなどその機能に関わる制御装置が多数存在するため、車両をディーラーに持ち込んだ時にその故障事象が再現しない場合には故障している制御装置を特定するのが困難となる。このような場合、案内音声を発生させる源であるナビゲーションシステムが、故障していると診断されることが多く、その結果、故障していないにも拘わらずナビゲーションシステムが修理対象として交換されるという問題があった。
【0007】
特に、上述のネットワークが、例えばMOST(Media Oriented Systems Transportの略)などのリング・トポロジを基本としたネットワークとして構成されている場合には、受信だけでなく、ネットワークに接続される故障診断装置でさえも通信の複雑さを加える要員となり、実際にはディーラーに持ち込まれた時点では、正常な系の診断を行うことしかできない。さらに、MOSTなどのネットワークにおいては、音声や映像などのストリーミング・データも扱うことが可能であり、フレームデータには、ストリーム・チャネル(同期チャネル)、パケット・チャネル(非同期チャネル)、制御チャネルの3種類のデータ・チャネルが含まれ、制御チャネル情報だけではデータの内容が良いのか悪いのかを判断することができない。MOSTなどのネットワークに接続される制御装置すべては、ネットワークの中に一つだけ存在するタイミング・マスタ(いわゆるMOSTマスタ)に同期して各種データを転送するので、MOST以外の制御機器(ノード)が、音声や映像などのストリーミング・データを送信するためには、MOSTフレーム上のストリーム・チャネルに必要な帯域(バイト数)を予約する必要がある。このため、車両システムの起動時には、必要な全てのノードがリングに接続され、MOSTマスタによってアドレスが付与されている必要がある。さらに、ダイナミックな故障診断を行うためには、アプリケーションの動作が再現でき、且つネットワークの制御状態も監視できる機能がネットワーク上に存在する必要があり、ネットワーク上に故障診断装置を組み込むのは現実的ではない。
【0008】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、車両用通信システムを構成する制御装置のうち故障している制御装置を容易に特定するなど、過去に起こった故障の原因をディーラーの故障診断担当者に容易に判断させることができ、故障中の制御装置が特定されずに正常な制御装置が誤って交換されるのを回避する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る車両用通信システムは、「ネットワークに接続される制御装置間のやり取りを通信履歴として保存し、その保存した通信履歴を利用者に対して提示可能としたこと」を特徴とする。
【0010】
具体的には、上述の車両用通信システムは、車両に搭載された複数の制御装置が車両内の通信用のネットワークによって接続されるとともに、各制御装置が該ネットワークを介して互いにデータを送受信するよう構成される。上述の複数の制御装置のうちの少なくとも何れか一つは、記憶手段と、提示手段と、提示制御手段と、を備える。記憶手段は、ネットワークを介して送受信されたデータの通信履歴を記憶する。また、提示手段は、記憶手段が記憶する通信履歴を利用者に対して提示可能である。そして、提示制御手段が、記憶手段が記憶する通信履歴を利用者の要求に応じて読み出し、その読み出した通信履歴を前記提示手段に提示させる。
【0011】
このように構成された本発明の車両用通信システムによれば、車両用通信システムを構成する制御装置のうち故障している制御装置を容易に特定するなど、過去に起こった故障の原因をディーラーの故障診断担当者に容易に判断させることができ、正常なナビゲーションシステムが誤って交換されるのを回避することができる。
【0012】
また、本発明の車両用通信システムによれば、従来のような専用の故障診断装置が不要となる。勿論、ディーラーでの故障診断用には車両メーカから提供される故障診断装置が存在し、多重通信ラインなどのネットワークから取得した通信履歴を用いて、制御装置の故障診断を実施することが可能である。
【0013】
なお、上述の複数の制御装置のうちの少なくとも何れか一つについては、設定されたルートに基づく案内機能を有する車載用ナビゲーション装置であることが考えられる(請求項2)。この場合、情報系車内LAN(ネットワーク)に接続された車載用ナビゲーション装置と、同様に情報系車内LANに接続された他の機器とのやり取りを、通信履歴として過去の一定時間車載用ナビゲーション装置における書き換え可能な不揮発性の記憶領域(フラッシュメモリやハードディスクドライブなど)に記憶しておき、その内容をヒューマンマシンインターフェースによって再現させる。また、上述のように経路案内機能などを実現するために車載用ナビゲーション装置が備える各種構成を上述の記憶手段、提示手段および提示制御手段として機能させることができ、他の制御装置に比べて有利である。
【0014】
ところで、上述の提示制御手段については、記憶手段から読み出した通信履歴をリスト形式にて提示手段に提示させることが考えられる(請求項3)。このように構成すれば、各通信データに対する相手からの反応の有無を確認することができ、故障している制御装置をより特定しやくすることができる。
【0015】
また、上述の提示制御手段については、記憶手段から読み出した通信履歴を時系列のグラフ形式にて提示手段に提示させることが考えられる(請求項4)。このように構成すれば、例えば音声信号などの信号を制御装置が適切に出力しているか否かを確認することができ、故障している制御装置をより特定しやくすることができる。
【0016】
また、通信履歴を記憶しておくための記憶手段としては、EEPROM等の不揮発性メモリ、或いはRAM等の揮発性メモリなど、種々のメモリを使用することができるが、より好ましくは、例えば請求項5に記載したように、不揮発性メモリを用いるとよい。つまり、一旦記憶されれば、電力供給がなくなっても記憶された通信履歴が消失しないからである。もちろん、例えば車両においてイグニションスイッチをオフしても常時電力供給がなされるのであれば、RAMなどの揮発性メモリを用いることも可能ではあるが、通常の車両使用において想定される車載バッテリの交換等を考慮すれば、不揮発性メモリを用いるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態の車両用通信システム1を表す概略構成図である。また、図2は、第一実施形態の車両用通信システム1が備えるナビゲーションシステムECU3を表す概略構成図である。
【0018】
[車両用通信システム1の構成の説明]
車両用通信システム1は、設定されたルートに基づく案内機能を有するナビゲーションシステムECU3、各種映像データの表示機能を有するディスプレイECU5、CDなどの再生機能を有するオーディオECU7、およびゲートウェイECU9が車両内の通信用の情報系ネットワーク11によって接続されるとともに、各ECUが情報系ネットワーク11を介して互いにデータを送受信するよう構成される。なお、ナビゲーションシステムECU3とディスプレイECU5とは、映像信号を送受信するための通信回線4で接続されており、情報系ネットワーク11を介しての映像信号の送受信を行わず、この通信回線4を介して映像信号の送受信を行う。また、オーディオECU7にはスピーカ8が接続されている。このスピーカ8はオーディオECU7によって再生された音声を放音する機能を有する。なお、ナビゲーションシステムECU3は、車載用ナビゲーション装置に該当する。
【0019】
なお、本実施形態では、情報系ネットワーク11については、リング・トポロジを基本としたネットワーク(MOST(Media Oriented Systems Transportの略)など)として構成されている。また、本実施形態では、ナビゲーションシステムECU3、ディスプレイECU5、オーディオECU7およびゲートウェイECU9が情報系ネットワーク11に接続されているが、例えば、地上波テレビやラジオチューナ、衛星放送用チューナなど、その他の電子制御装置が情報系ネットワーク11に接続されるよう構成されてもよい。但し、ゲートウェイECU9またはその機能を有する制御機器については、情報系ネットワーク11上に1つしかその存在が許されていない。
【0020】
[ナビゲーションシステムECU3の構成の説明]
図2に示すように、ナビゲーションシステムECU3は、本ナビゲーションシステムECU3の全てのアプリケーションを動作させるCPU29、車両の現在位置を検出する位置検出器(図示省略)、地図データなどを記録するDVD/HDD35、使用者による各種入力操作を受け付ける操作スイッチ群(図示省略、後述)、運転者が設定した経路など各種の情報などを記憶する外部メモリ(図示省略)、使用者による各種入力操作をリモコンを介して受け付けるリモコンセンサ(図示省略)、アプリケーションプログラムを格納するROM33、アプリケーションプログラムを一時退避するRAM31、情報系ネットワーク11上を伝送されたデータのログ(通信履歴)を格納するHDD/ROM34、CPU29で描画した映像信号を外部に出力するためのディスプレイI/F37、情報系ネットワーク11上を伝送される制御信号や同期信号を送受信し、これらを制御信号と音声信号とに分離してCPU29と通信する電気的または光学的なインターフェイスであるMOSTI/F39、I/O、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。なお、ナビゲーションシステムECU3が備えるこれら位置検出器などの構成は公知技術に従っているので、詳細な説明は省略する。
【0021】
また、ディスプレイI/F37は通信回線4に接続されており、このことにより、CPU29は、ディスプレイI/F37および通信回線4を介して、映像信号をディスプレイECU5との間で送受信することができる。また、MOSTI/F39は情報系ネットワーク11に接続されており、このことにより、CPU29は、MOSTI/F39および情報系ネットワーク11を介して、制御信号や音声信号を他のECUとの間で送受信することができる。
【0022】
なお、本実施形態では、ROM33としてフラッシュメモリを用いているが、書き換え可能な不揮発性の記憶領域であれば他の構成を用いてもよい。また、本実施形態では、HDD/ROM34としてフラッシュメモリまたはハードディスクドライブを用いているが、書き換え可能な不揮発性の記憶領域であれば他の構成を用いてもよい。
【0023】
また、CPU29は、各部構成を制御して経路設定などの各種処理を実行するものである。具体的には、CPU29は、ROM33及びRAM31に記憶されたプログラムに基づいて、位置検出器からの各検出信号に基づき座標及び進行方向の組として車両の現在位置を算出し、地図データ入力器を介して読み込んだ現在位置付近の地図等を表示装置に表示する地図表示処理や、地図データ入力器に格納された地点データに基づき、操作スイッチ群やリモコン等の操作に従って目的地となる施設を選択し、現在位置から目的地までの最適な経路(目的地経路)を自動的に求める経路計算処理を行う。
【0024】
また、CPU29は、情報系ネットワーク11上を伝送されたデータのログ(通信履歴)をMOSTI/F39を介して取得してHDD/ROM34に格納させる機能を有する。
【0025】
[ゲートウェイECU9の構成の説明]
図1に示すように、ゲートウェイECU9は、MOSTネットワークI/F13、バッファ15、プロトコルチェンジ17、バッファ19、CANI/F21を、CPU23を備える。なお、MOSTネットワークI/F13、バッファ15、プロトコルチェンジ17、バッファ19、CANI/F21については、この順に通信回線に互いに接続されており、互いにデータを送受信するよう構成される。また、これらMOSTネットワークI/F13、バッファ15、プロトコルチェンジ17、バッファ19、CANI/F21は、CPU23とそれぞれ通信回線で接続されて、データを送受信するよう構成される。
【0026】
また、ゲートウェイECU9は、MOSTネットワークI/F13を介して情報系ネットワーク11に接続されている。
また、ゲートウェイECU9は、CANI/F21を介して制御系ネットワーク(CAN)25にも接続されている。また、制御系ネットワーク25には、ステアリングスイッチ27が接続されている。このステアリングスイッチ27は、ナビゲーションシステムECU3における操作スイッチ群としての機能を有し、使用者による各種入力操作を受け付けることができる。
【0027】
なお、ステアリングスイッチ27とゲートウェイECU9とは多重信号ラインである制御系ネットワーク25に接続されているが、情報系ネットワーク11に接続されるよう構成してもよい。
【0028】
次に、ゲートウェイECU9およびナビゲーションシステムECU3を中心とする各種信号の送受信について信号の種別ごとに説明する。
(1)キースイッチ情報
ステアリングスイッチ27からのキースイッチ情報は、ゲートウェイECU9によって指定されたナビゲーションシステムECU3のアドレスを要求することによって、ゲートウェイECU9に認識され、情報系ネットワーク11に接続されたすべてのECUに対して、ステアリングスイッチ27からナビゲーションシステムECU3への制御データであることが伝達される。なお、アドレスを指定されていない他のECUは自分が宛先になっていないので応答する必要はない。ナビゲーションシステムECU3に伝えられたキースイッチ情報が正しいパラメータで指定されていることがナビゲーションシステムECU3で判断されると、ナビゲーションシステムECU3からの応答がゲートウェイECU9に伝えられる。そして、正しい応答フォーマットであることが判断されると、ステアリングスイッチ27に伝えられる。情報系ネットワーク11上を伝達されるメッセージについては、情報系ネットワーク11に接続されたすべてのECUによって監視可能であり、全てのメッセージフォーマットとパラメータについては、予め取り決められたものを使用する必要がある。
(2)音声信号
ナビゲーションシステムECU3から送信される案内音声などの音声信号については、ゲートウェイECU9によって指定されたオーディオECU7のアドレスを要求することによって、ゲートウェイECU9に認識され、情報系ネットワーク11に接続されたすべてのECUに対して、ナビゲーションシステムECU3からオーディオECU7への制御データであることが伝達される。また、音声信号などのリアルタイムデータについては、情報系ネットワーク11では同期チャネルを使用するために、ナビゲーションシステムECU3は、ゲートウェイECU9に対して同期チャネル割り当てを行うために、音声権取得の手続きを行う。音声権取得がゲートウェイECU9によって許可された後、ナビゲーションシステムECU3は、情報系ネットワーク11上におけるアドレスをオーディオECU7に指定して音声データを送信する。一方、オーディオECU7は自分に指定された音声データを受信し、正しいパラメータでエンコードされたデータであればそれをデコードしてスピーカ8に出力する。
(3)映像信号
ナビゲーションシステムECU3から送信される映像信号については、ゲートウェイECU9によって指定されたディスプレイECU5のアドレスを要求することによって、ゲートウェイECU9に認識され、情報系ネットワーク11に接続されたすべてのECUに対して、ナビゲーションシステムECU3からディスプレイECU5への制御データであることが伝達される。なお、本実施形態では、ディスプレイECU5に表示させる映像を監視するために映像権取得の手続きを行う。情報系ネットワーク11では仕様上、映像信号も扱うことが可能であり、同期チャネルを割り当てて、映像信号をMOSTに送信することも可能であるが、ここでは独立した映像信号ラインである通信回線4で伝送する。映像権取得がゲートウェイECU9によって許可された後、ナビゲーションシステムECU3は、情報系ネットワーク11上にアドレスを指定して、映像信号をディスプレイECU5に伝送することを宣言する。そして、ナビゲーションシステムECU3は映像信号ラインを通じて映像信号をディスプレイECU5に出力する。
【0029】
[対応関係の説明]
なお、車両用通信システム1が備える各ECUは特許請求の範囲における制御装置に該当する。また、HDD/ROM34は特許請求の範囲における記憶手段に該当する。また、ディスプレイECU5は特許請求の範囲における提示手段に該当する。また、ナビゲーションシステムECU3のCPU29は特許請求の範囲における提示制御手段に該当する。
【0030】
[車両用通信システム1の動作の説明]
次に、車両用通信システム1の動作について図3〜図7を参照して説明する。
[ドライブレコーダの初期作動処理の説明]
まず、ナビゲーションシステムECU3のCPU29が実行するドライブレコーダの初期作動処理を、図3を参照して説明する。本処理は、図示しない車両のアクセサリ電源がオンとなり(ステップS102)、ナビゲーションシステムECU3に電源供給された場合に実行される。
【0031】
ドライブレコーダ機能は、ナビゲーションシステムECU3のアプリケーションの一つとして動作し、ナビゲーションシステムECU3が起動したことを確認した後(S104、S106:はい)、自動的に情報系ネットワーク11上を伝送される各種データを取得する。具体的には、まず、ナビゲーションシステムECU3は起動シーケンスを実施し、MOSTネットワークに参加し、その後、ナビゲーションアプリケーションを起動させ、ユーザ操作を待っている状態となっている(S108)。その後、MOSTログタスクの起動が確認されると、MOST通信が正常であることを確認し(S110:はい)、HDD/ROM34のログ格納領域を初期化し(S112、S114:はい)、HDD/ROM34のログ格納領域が正常であることを確認する(S116:はい)。そして、タイマを起動させ(S118)、MOSTログを取得してHDD/ROM34のログ格納領域に記憶する(S120)。なお、HDD/ROM34のログ格納領域は有限であるため、予め設定された領域が一杯になると、古いデータから順次削除し、新たにMOSTログを取得してHDD/ROM34のログ格納領域に記憶するようにしている(S120、S122)。そのため、HDD/ROM34のログ格納領域がMOSTログでオーバーフロー(S124:はい)する以外は(S124:いいえ)、タイマ設定値までMOSTログをHDD/ROM34のログ格納領域に書込み続け(S126:いいえ、S122)、タイマ設定値に到達すると(S126:はい)、HDD/ROM34のログ格納領域に格納されたMOSTログをリスト化し(S128)、リスト化が正常に行われると(S130:はい)、そのリストタイトルをROM33に通信履歴として書込みを行う(S132)。このようにリスト化することにより、その後のMOSTログ記録の確認が可能となる。なお、ROM33のリストタイトル格納領域も有限のため、カウンタを起動し(S134)、リストを書くためのコマンドシーケンスにタイムスタンプを付け(S136)、カウンタがオーバーフロー(予め設定された領域が一杯になる)すると(S138:はい)、カウンタとタイムスタンプをリセットし、格納領域のメモリ初期化を実施する(S140、S142)。
【0032】
[ドライブレコーダの故障診断機能作動処理の説明]
次に、ナビゲーションシステムECU3のCPU29が実行するドライブレコーダの故障診断機能作動処理を、図4を参照して説明する。この故障診断機能作動処理は、車両がディーラーに持ち込まれ、車両メーカが提供するオフボードの故障診断装置によって、MOSTに接続される電子制御機器の故障が特定できない場合に、故障しているECUを特定するために実行される。
【0033】
本処理は、図示しない車両のアクセサリ電源がオンとなり(ステップS202)、ナビゲーションシステムECU3に電源供給された場合に実行される。
ナビゲーションシステムECU3が起動したことを確認した後(S204、S206:はい)、ドライブレコーダタスクを起動させる(S208、図7(a)参照))。
【0034】
このドライブレコーダタスクは、まず、上述の「ドライブレコーダの初期作動処理」にて作成されたリストをチェックする(S210)。HDD/ROM34のログ格納領域とROM33のリストタイトル格納領域が正常であることを確認するためにメモリチェックを行い(S212)、もし異常があれば(S212:いいえ)、このドライブレコーダタスクを終了する(S214)。一方、メモリチェック結果が正常であれば(S212:はい)、MOSTログのタイムスタンプとリストタイトルのタイムスタンプを確認し、MOSTログが正常かどうかを確認する(S216)。もし、異常であれば(S216:いいえ)、上述のドライブレコーダ初期作動処理を実施させる(S218)。一方、MOSTログが正常であれば(S216:はい)、ドライブレコーダタスクは、ドライブレコーダ機能が準備完了であると判断して指定時刻設定画面に遷移し(S220、図7(b)参照)、故障診断を行う期間の指定を受け付ける(S222)。指定した期間のMOSTログが存在していなければ(S224:いいえ)、もう一度指定時刻設定を促す(S222)。一方、指定したMOSTログが存在すれば(S224:はい)、各診断項目を選択し、さらに2種類の表示方法(リスト又はグラフ)を選択する(S226)。履歴リスト表示が選択された場合には(S226:リスト)、履歴リストを表示する(図7(c)参照)。一方、時系列グラフ表示が選択された場合には(S226:グラフ)、時系列グラフを表示する(図7(d)参照)。
【0035】
ここで、作業者は、ディスプレイECU5の画面に表示された診断結果に基づいて、どのECUに故障要因があるのかを診断する。以下に、ドライブレコーダ故障診断でのアプリケーション動作手順を示す。
【0036】
(イ)ドライブレコーダ機能はディーラーでのみ起動できる機能であるため、指定コードを入力して、ドライブレコーダ診断モードに入る。
(ロ)MOSTログを呼び出す期間を設定する。(例:2006年1月1日22時5分00秒〜2006年2月1日22時5分00秒、30秒間隔)
(ハ)ナビゲーションシステムECU3が、情報系ネットワーク11に対して映像権取得・開放に関わる通信コマンドを送受信した処理記録から、タイムスタンプ、通信コマンド名称、通信解析結果がリスト表示する画面を表示し、MOST対応ナビ要因で故障が発生したか否かを確認する。
【0037】
(ニ)ナビゲーションシステムECU3がMOSTに対して音声権取得・開放に関わる通信コマンドを送受信した処理記録から、タイムスタンプ、通信コマンド名称、通信解析結果がリスト表示する画面と、案内音声を発話することにより、MOST対応ナビ要因で故障が発生したか否かを確認する。
【0038】
(ホ)ナビゲーションシステムECU3が情報系ネットワーク11に対してスイッチ選択(ステアリングスイッチコマンド、若しくはタッチディスプレイ指定座標位置)の取得・開放に関わる通信コマンドを送受信した処理記録から、タイムスタンプ、スイッチ選択受付期間、スイッチ選択非受付期間が時系列に表示される画面を表示し、ナビゲーションシステムECU3における要因で故障が発生したか否かを確認する。
【0039】
上述のドライブレコーダ故障診断でのアプリケーション動作が終了していない場合には(S232:いいえ)、指定時刻設定画面に再び遷移し(S220、一方、終了した場合には(S232)、本処理を終了する。
【0040】
[ドライブレコーダの故障可否判定の説明]
次に、故障可否判定を実現するための手順を、図5および図6を参照して説明する。なお、図5は音声出力MOSTシーケンスの説明図であり、図6は音声出力の故障診断処理を表すフローチャートである。
【0041】
ナビゲーションシステムECU3は、その設定経路上の分岐点に案内ポイントを設けており、これら案内ポイントを通過することをトリガーとしてナビゲーションシステムECU3の地図データ格納領域であるDVD/HDD35に格納された音声データを案内音声として発話する。案内音声は音声データとして情報系ネットワーク11を経由して、オーディオECU7からスピーカ8に出力される。なお、この一連の動作は情報系ネットワーク11に接続されるECU間で仕様化されており、ゲートウェイECU9が各ECUとの協調を行っている。従って、このシーケンスが仕様通りであることを観測することによって、故障診断を容易に行えるようになっている。以下に、情報系ネットワーク11上での音声信号に関わるユースケースを以下に示す。
【0042】
本処理は、図示しない車両のアクセサリ電源がオンとなり、ナビゲーションシステムECU3に電源供給された場合に実行される。
ナビゲーションシステムECU3が起動したことを確認した後、ドライブレコーダタスクを起動させる(S302)。そして、診断を要求された場合には(S304:はい)、音権を開放するよう要求されたか否かを診断する(S306)。
【0043】
ナビゲーションシステムECU3は、上述のように案内ポイントをトリガとしてゲートウェイECU9に対して音権を開放するよう要求を行う。なお、ナビゲーションシステムECU3が音権を開放するよう要求を行っていない場合には(S308:いいえ)、ナビゲーションシステムECU3に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S310)。また、ゲートウェイECU9が何らかの要因でこの要求を拒否する場合は、ナビゲーションシステムECU3に対してリトライ要求を行う。このことにより、この時点においてナビゲーションシステムECU3に起因する故障についての要因が除外される。一方、上述の音権開放要求がゲートウェイECU9で許可されると、ゲートウェイECU9はオーディオECU7に対して音権開放要求を通知する。なお、ゲートウェイECU9が音権を開放するよう要求を行っていない場合には(S312:いいえ)、ゲートウェイECU9に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S314)。また、オーディオECU7が優先順位の高い音権が起動中などの理由でその音権を開放できない場合には(S316:いいえ)、音権開放拒否をゲートウェイECU9に通知する。すると、ゲートウェイECU9はナビゲーションシステムECU3に対して音権開放拒否を通知する。このことにより、この時点においてもナビゲーションシステムECU3に起因する故障についての要因が除外される。
【0044】
なお、先にナビゲーションシステムECU3が音権を開放するよう要求を行ってから所定時間が経過した場合には(S332:はい)、オーディオECU7に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S334)。また、ゲートウェイECU9がオーディオECU7から音権を取得することを許諾した場合には(S336:いいえ)、ゲートウェイECU9に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S338)。一方、ゲートウェイECU9がオーディオECU7から音権を取得することを拒否した場合には(S336:はい)、ナビゲーションシステムECU3に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S340)。
【0045】
一方、オーディオECU7が音権開放を受け入れる場合には(S316:はい)、音権開放をゲートウェイECU9に通知し、ゲートウェイECU9は音権許可をナビゲーションシステムECU3に通知する。なお、ゲートウェイECU9は音権許可をナビゲーションシステムECU3に通知しなかった場合には(S318:いいえ)、ゲートウェイECU9に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S320)。この通知を受けてナビゲーションシステムECU3は音声信号を情報系ネットワーク11上に出力することとなるが、ここで情報系ネットワーク11上に音声信号(同期信号ストリーム)が出力されない場合には(S322:いいえ)、ナビゲーションシステムECU3に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S324)。
【0046】
また、音声信号(同期信号ストリーム)が情報系ネットワーク11上に伝送されており、オーディオECU7からスピーカ8を通じて音声が発話されていない場合には(S326:はい)、ナビゲーションシステムECU3に起因する故障についての要因が除外される。つまり、オーディオECU7またはスピーカ8に起因する故障についての要因が存在すると考えられる(S330)。
【0047】
なお、音声信号(同期信号ストリーム)が情報系ネットワーク11上に伝送されていても、音声信号が同期信号ストリームに格納されていない場合もある。したがって、実際に記録された音声信号を再生することで、その検証が可能となる。
【0048】
一方、音声信号(同期信号ストリーム)が情報系ネットワーク11上に伝送されており、オーディオECU7からスピーカ8を通じて音声が発話されている場合には(S326:いいえ)、故障についての要因が存在するECUを特定できないとする(S328)。
【0049】
以上のように、過去に故障が検出されたことをユーザが確認した場合において、車両がディーラーに持ち込まれた時点でその故障が再現できない場合であっても、ディーラーの担当者が情報系ネットワーク11上のシーケンスを確認することで、またシーケンスが正常であってもログの音声を再生することによって、故障の要因を特定することができる。
【0050】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の車両用通信システム1によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、車両用通信システム1は、設定されたルートに基づく案内機能を有するナビゲーションシステムECU3、各種映像データの表示機能を有するディスプレイECU5、CDなどの再生機能を有するオーディオECU7、およびゲートウェイECU9が車両内の通信用の情報系ネットワーク11によって接続されるとともに、各ECUが情報系ネットワーク11を介して互いにデータを送受信するよう構成され、このうちのナビゲーションシステムECU3が、情報系ネットワーク11上を伝送されたデータのログ(通信履歴)を格納するHDD/ROM34、本ナビゲーションシステムECU3の全てのアプリケーションを動作させるCPU29、を備えている。そして、ナビゲーションシステムECU3のCPU29が、HDD/ROM34に記憶された過去の一定時間の通信履歴を参照し、その内容を視覚化・聴覚化してディスプレイECU5やスピーカ8に表示・発話させる。このことにより、車両用通信システム1を構成する制御装置のうち故障しているECUを容易に特定するなど、過去に起こった故障の原因をディーラーの故障診断担当者に容易に判断させることができ、正常なナビゲーションシステムが誤って交換されるのを回避することができる。
【0051】
(2)また、第一実施形態の車両用通信システム1によれば、ドライブレコーダ機能をナビゲーションシステムECU3に搭載している。このことにより、ナビゲーションシステムECU3が備える各種構成を本発明の実現のために利用することができ、他のECUにドライブレコーダ機能を搭載する場合に比べて有利である。
【0052】
(3)また、第一実施形態の車両用通信システム1によれば、MOSTログを履歴リストとしてディスプレイECU5に表示可能である(図7(c)参照)。このことにより、各通信データに対する相手からの反応の有無を確認することができ、故障しているECUをより特定しやくすることができる。
【0053】
(4)また、第一実施形態の車両用通信システム1によれば、MOSTログを時系列グラフとしてディスプレイECU5に表示可能である(図7(d)参照)。このことにより、例えば音声信号などの信号を制御装置が適切に出力しているか否かを確認することができ、故障している制御装置をより特定しやくすることができる。
【0054】
(5)また、第一実施形態の車両用通信システム1によれば、情報系ネットワーク11上を伝送されたデータのログ(通信履歴)を格納するHDD/ROM34としてフラッシュメモリまたはハードディスクドライブを用いている。このことにより、記憶された通信履歴が、電力供給がなくなっても消失しない。
【0055】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な態様にて実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第一実施形態の車両用通信システムを表す概略構成図である。
【図2】第一実施形態の車両用通信システムが備えるナビゲーションシステムECUを表す概略構成図である。
【図3】ドライブレコーダの初期作動処理を表すフローチャートである。
【図4】ドライブレコーダの故障診断機能作動処理を表すフローチャートである。
【図5】音声出力MOSTシーケンスの説明図である。
【図6】音声出力の故障診断処理を表すフローチャートである。
【図7】ドライブレコーダによる故障診断機能の表示例であり、(a)は初期画面であり、(b)は指定時刻設定画面であり、(c)は履歴リスト画面であり、(d)は時系列グラフ画面である。
【符号の説明】
【0057】
1…車両用通信システム、3…ナビゲーションシステムECU、4…通信回線、
5…ディスプレイECU、7…オーディオECU、8…スピーカ、
9…ゲートウェイECU、11…情報系ネットワーク、
13…MOSTネットワークI/F、15,19…バッファ、
17…プロトコルチェンジ、21…CANI/F、23,29…CPU、
25…制御系ネットワーク、27…ステアリングスイッチ、31…RAM、
33…ROM、34…HDD/ROM、35…DVD/HDD、
37…ディスプレイI/F、39…MOSTI/F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された複数の制御装置が車両内の通信用のネットワークによって接続されるとともに、各制御装置が該ネットワークを介して互いにデータを送受信するよう構成された車両用通信システムであって、
前記複数の制御装置のうちの少なくとも何れか一つは、
前記ネットワークを介して送受信されたデータの通信履歴を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する通信履歴を利用者に対して提示可能な提示手段と、
前記記憶手段が記憶する通信履歴を利用者の要求に応じて読み出し、その読み出した通信履歴を前記提示手段に提示させる提示制御手段と、を備えること
を特徴とする車両用通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用通信システムにおいて、
前記複数の制御装置のうちの少なくとも何れか一つとは、設定されたルートに基づく案内機能を有する車載用ナビゲーション装置であることを特徴とする車両用通信システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用通信システムにおいて、
前記提示制御手段は、前記記憶手段から読み出した通信履歴をリスト形式にて前記提示手段に提示させることを特徴とする車両用通信システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の車両用通信システムにおいて、
前記提示制御手段は、前記記憶手段から読み出した通信履歴を時系列のグラフ形式にて前記提示手段に提示させることを特徴とする車両用通信システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の車両用通信システムにおいて、
前記記憶手段は不揮発性メモリであることを特徴とする車両用通信システム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の車両用通信システムにおいて前記複数の制御装置の少なくとも何れか一つとして使用される制御装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の車両用通信システムで複数の制御装置の少なくとも何れか一つとして使用される車載用ナビゲーション装置であって、設定されたルートに基づく案内機能を有することを特徴とする車載用ナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−290540(P2007−290540A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120602(P2006−120602)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】