説明

車両用駆動システム

【課題】モータ走行時における燃費を向上できる車両用駆動システムを提供すること。
【解決手段】この車両用駆動システム1は、エンジン2と、モータ6と、入力軸41および出力軸42の間の変速比を変更できる変速機4と、エンジン2および変速機4の入力軸41の間に配置されるクラッチ3と、モータ6の接続先を変速機4の入力軸41および出力軸42の間で切り替える接続切替装置7と、接続切替装置7を駆動制御する制御装置9とを備える。また、車両用駆動システム1は、エンジン2を動力源とするエンジン走行と、モータ6を動力源とするモータ走行とを切り替え得る。そして、制御装置9は、モータ走行中におけるアクセル開度θが所定の条件を満たすときに、接続切替装置7を駆動制御してモータ6の接続先を変速機4の入力軸41および出力軸42の間で切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用駆動システムに関し、さらに詳しくは、モータ走行時における燃費を向上できる車両用駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両に適用される従来の車両用駆動システムでは、車両発進時に必要となる大きな駆動力を確保するために、モータ走行による発進が行われている。このとき、モータが変速機の入力軸に接続され、変速機の変速段が最下段(1速)に設定されて、モータが駆動されている。かかる構成を採用する従来の車両用駆動システムとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−233667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータを変速機の入力軸に接続してモータ走行する場合と、モータを変速機の出力軸に接続してモータ走行する場合とを比較すると、燃費の点で、後者の方が有利である。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、モータ走行時における燃費を向上できる車両用駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる車両用駆動システムは、エンジンと、モータと、入力軸および出力軸の間の変速比を変更できる変速機と、前記エンジンおよび前記変速機の入力軸の間に配置されるクラッチと、前記モータの接続先を前記変速機の入力軸および出力軸の間で切り替える接続切替装置と、前記接続切替装置を駆動制御する制御装置とを備え、且つ、前記エンジンを動力源とするエンジン走行と前記モータを動力源とするモータ走行とを切り替え得る車両用駆動システムであって、前記制御装置は、モータ走行中におけるアクセル開度が所定の条件を満たすときに、前記接続切替装置を駆動制御して前記モータの接続先を前記変速機の入力軸および出力軸の間で切り替えることを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記接続切替装置が、前記変速機の出力軸に対する接続部に、前記変速機の最下段の変速比よりも小さい変速比を有する変速段を備えることが好ましい。
【0008】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記制御装置は、前記モータと前記変速機の入力軸とを接続したモータ走行中にて、アクセル開度が前記条件を満たすときに、前記接続切替装置を駆動制御して前記モータの接続先を前記変速機の入力軸から出力軸に切り替えることが好ましい。
【0009】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記制御装置は、モータ走行での発進時にて、路面の下り勾配の絶対値が所定の閾値以上であるときに、前記接続切替装置を駆動して前記モータの接続先を前記変速機の出力軸に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明にかかる車両用駆動システムでは、モータ走行中におけるアクセル開度に基づいてモータの接続先を変速機の入力軸および出力軸の間で切り替えるので、ドライバの要求駆動力(アクセル開度)に応じたモータの接続先の切り替えが可能となる。これにより、効率的なモータ走行を行い得るので、燃費が向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す構成図である。
【図2】図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0013】
[車両用駆動システム]
図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す構成図である。
【0014】
この車両用駆動システム1は、エンジン2と、クラッチ3と、変速機4と、減速差動装置5と、モータ6と、接続切替装置7と、センサユニット8と、制御装置9とを備える(図1参照)。この車両用駆動システム1は、エンジン2を動力源とするエンジン走行と、モータ6を動力源とするモータ走行とを切り替え得るハイブリッド車両に適用される。
【0015】
エンジン2は、第一の動力源であり、駆動トルクを発生して出力軸21から出力する。このエンジン2は、内燃機関あるいは外燃機関である。例えば、この実施の形態では、ガソリンを燃料とするレシプロ式エンジンが採用されている。
【0016】
クラッチ3は、駆動トルクの伝達の許可および遮断を切り替える機械要素である。また、クラッチ3は、入力側回転部31および出力側回転部32を有し、入力側回転部31にてエンジン2の出力軸21に連結されて、エンジン2の後段に配置される。また、クラッチ3は、入力側回転部31および出力側回転部32の係合状態にてトルク伝達を許可し、これらの開放状態にてトルク伝達を遮断する。かかるクラッチ3として、例えば、摩擦式クラッチが採用され得る。
【0017】
変速機4は、変速段(あるいは変速比)を自動的に変更できる有段自動変速機である。また、変速機4は、入力軸41および出力軸42を有し、入力軸41にてクラッチ3の出力側回転部32に連結されて、クラッチ3の後段に配置される。また、変速機4は、その変速段を切り替えることにより、その変速比=(出力軸42の回転数)/(入力軸41の回転数)を変更できる。例えば、この実施の形態では、変速機4として、ニュートラル(Nレンジ)と、4つの前進段43〜46(Dレンジ)と、1つの後進段47(Rレンジ)とを切り替え可能に有する歯車式の有段自動変速機が採用されている。
【0018】
減速差動装置5は、駆動トルクを減速して車両の左右輪11R、11Lに配分する機械要素である。この減速差動装置5は、入力軸51と、駆動トルクを減速する減速機構52と、車両の左右輪への駆動トルクの配分を調整する差動機構53とを有する。また、減速差動装置5は、入力軸51にて変速機4の出力軸42に連結され、差動機構53にて車輪11R、11Lの車軸12に連結される。
【0019】
モータ6は、第二の動力源であり、駆動トルクを発生して出力軸61から出力する。このモータ6は、出力軸61にて接続切替装置7を介して変速機4の入力軸41または出力軸42にトルク伝達可能に連結される。例えば、この実施の形態では、モータ6として、モータ機能およびジェネレータ機能を有する交流同期型のモータジェネレータが採用されている。
【0020】
接続切替装置7は、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41との接続、モータ6の出力軸61と変速機4の出力軸42との接続、ならびに、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41および出力軸42の双方に対する接続解除を選択的に切り替え得る装置である。かかる接続切替装置7として、公知のものが採用され得る。例えば、この実施の形態では、接続切替装置7が、入力側接続部71と、出力側接続部72と、油圧機構73とを有している。入力側接続部71は、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41との接続および接続解除を切り替える機械要素であり、例えば、摩擦式クラッチから構成される。出力側接続部72は、モータ6の出力軸61と変速機4の出力軸42との接続および接続解除を切り替える機械要素であり、所定の変速比を有する歯車機構から構成される。例えば、この実施の形態では、出力側接続部72の歯車機構が、変速機4の最下段(変速比が最も大きい前進段43)よりも小さい変速比を有している。具体的には、出力側接続部72の歯車機構が、1速の前進段43と2速の前進段44との間の変速比を有している。油圧機構73は、入力側接続部71および出力側接続部72を駆動する機構である。この接続切替装置7では、油圧機構73が入力側接続部71および出力側接続部72を駆動することにより、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41との接続、モータ6の出力軸61と変速機4の出力軸42との接続、ならびに、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41および出力軸42の双方に対する接続解除を選択的に切り替え得る。
【0021】
センサユニット8は、例えば、車両状態量や走行路に関する情報を取得するためのセンサ群である。このセンサユニット8は、アクセルペダル(図示省略)の踏み込みの有無を検出するアクセルペダルセンサ81と、アクセル開度θを検出するアクセル開度センサ82と、ブレーキペダル(図示省略)の踏み込みの有無を検出するブレーキペダルセンサ83と、クラッチ3の係合および開放にかかる位置を検出するクラッチセンサ84と、車速Vを検出する車速センサ85と、エンジン2の出力軸21の回転数(エンジン回転数)Neを検出するエンジン回転数センサ86と、モータ6の出力軸61の回転数(モータ回転数)Nmを検出するモータ回転数センサ87と、走行路の勾配Gを検出する勾配センサ88とを有する。
【0022】
制御装置9は、車両用駆動システム1の動作を制御する装置であり、例えば、ECU(Electrical Control Unit)から構成される。制御装置9は、センサユニット8の出力信号に基づいて所定の出力信号を出力する。この制御装置9は、後述するモータ6と変速機4の入力軸41および出力軸42との接続を切り替えるモータ接続切替制御部91と、エンジン2を駆動制御するエンジン制御部92と、クラッチ3を駆動制御するクラッチ制御部93と、変速機4を駆動制御する変速機制御部94と、モータ6を駆動制御するモータ制御部95と、接続切替装置7を駆動制御する接続切替装置制御部96と、所定の情報(例えば、各種の制御プログラム、制御マップや閾値などの制御データ)を記憶する記憶部97とを有する。この制御装置9は、センサユニット8の出力信号に基づいて、エンジン2、クラッチ3、変速機4、モータ6および接続切替装置7を駆動制御する。これにより、各種の制御が実現される。
【0023】
この車両用駆動システム1では、車両のエンジン走行時には、制御装置9がクラッチ3を係合状態として、エンジン2を駆動する。すると、エンジン2が駆動トルクを発生し、この駆動トルクがクラッチ3を介して変速機4に伝達される。そして、この駆動トルクが変速機4にて変速され、減速差動装置5にて減速されて車両の左右輪11R、11Lに配分される。これにより、車両がエンジン2を動力源として走行する。
【0024】
一方、車両のモータ走行時には、制御装置9が、クラッチ3を開放状態としてエンジン2を車軸側の駆動系から分離し、また、接続切替装置7を駆動制御して、モータ6と変速機4の入力軸41および出力軸42のいずれか一方とを接続する。そして、制御装置9がモータ6を駆動制御してモータ6が駆動トルクを発生すると、この駆動トルクが変速機4および減速差動装置5を介して車両の左右輪11R、11Lに配分される。これにより、車両がモータ6を動力源として走行する。
【0025】
また、車両用駆動システム1は、エンジン走行とモータ走行とを併用したハイブリッド走行を実現できる。例えば、車両の発進時や低速走行時には、制御装置9がエンジン2を停止してモータ6を駆動することによりモータ走行が行われ、中高速走行時には、制御装置9がモータ6を停止してエンジン2を駆動することよりエンジン走行が行われる。また、車速やバッテリ(図示省略)の充電状態に応じて、エンジン走行とモータ走行との切り替えが行われる。これにより、効率的な走行が実現されて、燃費が向上する。
【0026】
また、車両用駆動システム1は、車両停止中に、エンジン2を一時的に停止させるアイドリングストップ制御を実現できる。例えば、車両停止中に、制御装置9がクラッチ3を開放状態としてエンジン2を停止させ、また、モータ6を停止させる。これにより、燃費が向上する。
【0027】
[モータ接続切替制御]
図2および図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャート(図2)および説明図(図3)である。これらの図において、図2は、モータ接続切替制御のフローチャートを示している。また、図3は、車速V、アクセル開度θおよび変速機の変速段と、エンジン走行領域およびモータ走行領域との関係を示している。
【0028】
一般的な車両用駆動システムでは、モータ走行での発進時にて、モータが変速機の入力軸に接続され、変速機の変速段が最下段(1速)に設定されている。これにより、発進時に必要な大きな駆動トルクを確保している。
【0029】
しかしながら、モータを変速機の入力軸に接続してモータ走行する場合と、モータを変速機の出力軸に接続してモータ走行する場合とを比較すると、燃費の点で、後者の方が有利である。一方で、モータを変速機の出力軸に接続すると、例えば、車両発進時に必要な駆動トルクが得られないおそれがある。
【0030】
また、車両発進時にモータを変速機の入力軸に接続して、モータ走行中にモータの接続先を変速機の入力軸から出力軸に切り替えるとすると、駆動トルク抜けによる違和感をドライバに与えることとなり、ドライバビリティが悪化する。
【0031】
そこで、この車両用駆動システム1では、モータ走行時における燃費およびドライバビリティを向上するために、以下のようなモータ接続切替制御が行われる(図2参照)。
【0032】
ステップST01では、車両停止中であるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、ブレーキペダルセンサ83がブレーキペダル(図示省略)の踏み込みを検出し、また、車速センサ85が車速Vを検出している。そして、ブレーキペダルが踏み込まれ、且つ、車速VがV=0[rpm]であるときに、制御装置9が肯定判定を行っている。なお、車両停止中にて、制御装置9がエンジン2およびモータ6を停止することにより、燃費低減が実現される。このステップST01にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST02に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST18に進む。
【0033】
ステップST02では、走行路の下り勾配Gの絶対値|G|が所定の閾値k1以上であるか否かが判定される。すなわち、走行路が下り側に急斜面であるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、勾配センサ88が走行路の下り勾配Gを検出し、下り勾配Gが|G|≧k1以上であるときに、制御装置9が肯定判定を行っている。このステップST02にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST03に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST09に進む。
【0034】
ステップST03では、モータ6が変速機4の出力軸42側に接続される。具体的には、制御装置9が接続切替装置7を駆動制御して、接続切替装置7の出力側接続部72がモータ6の出力軸61と変速機4の出力軸42とをトルク伝達可能に接続する。このとき、接続切替装置7の入力側接続部71が、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41との接続を遮断する。このステップST03の後に、ステップST04に進む。
【0035】
ステップST04では、変速機4の変速段がニュートラルに設定される。具体的には、制御装置9が、変速機4を駆動して変速段をニュートラルに設定し、変速機4の入力軸41側の要素(エンジン2およびクラッチ3)を出力軸42から分離する。これにより、車両がモータ走行での発進待機状態となる。このステップST04の後に、ステップST05に進む。
【0036】
ステップST05では、車両の発進要求があったか否かが判定される。車両の発進要求とは、ドライバによるアクセルペダル(図示省略)の踏み込み操作をいう。例えば、この実施の形態では、アクセルペダルセンサ81がアクセルペダルの踏み込みを検出し、また、ブレーキペダルセンサ83がブレーキペダル(図示省略)の踏み込みを検出している。そして、ブレーキペダルの踏み込みが解除され、且つ、アクセルペダルが踏み込まれたときに、制御装置9が肯定判定を行っている。このステップST05にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST06に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST05が繰り返される。
【0037】
ステップST06では、モータ6を変速機4の出力軸42に接続した状態(ステップST03)でのモータ走行が行われる。具体的には、制御装置9がモータ6の駆動制御を開始することにより、モータ6を動力源としたモータ走行が開始される。このとき、走行路の下り勾配Gの絶対値|G|が所定の閾値k1以上であるので(ステップST02の肯定判定)、車両発進時に必要となる駆動トルクが平地よりも小さい。したがって、モータ6を変速機4の出力軸42に接続した状態でも、車両発進時に必要な駆動トルクが適正に確保される。このステップST06の後に、ステップST07に進む。
【0038】
ステップST07では、エンジン始動条件が成立したか否かの判定が行われる。エンジン始動条件は、モータ走行からエンジン走行に切り替えるための条件であり、車両の仕様に応じて適宜設定され得る。例えば、この実施の形態では、車速V、ドライバ要求トルクおよび現在の変速段との関係に基づいてエンジンの始動条件が設定されている。具体的には、車両走行時にて、車速センサ85が車速Vを検出し、アクセル開度センサ82がアクセル開度θを検出している。そして、制御装置9が、車速V、アクセル開度θおよび変速機4の変速段と、記憶部97から読み込んだ所定のマップ(図3参照)とに基づいて、車両走行状態がモータ走行領域にあるか、エンジン走行領域にあるかを判定している。そして、車両走行状態がエンジン走行領域にあるときに、肯定判定を行っている。このステップST07にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST08に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST07が繰り返される。
【0039】
ステップST08では、エンジン2が始動されて、モータ走行からエンジン走行への切り替えが行われる。具体的には、制御装置9が、エンジン2を始動し、接続切替装置7を駆動してモータ6と変速機4の入力軸41および出力軸42との接続を解除し、変速機4の変速段をニュートラルから走行速度あるいはアクセル開度に応じた所定の前進段(図3参照)に切り替え、その後に、クラッチ3を係合状態とする。これにより、エンジン2を動力源としたエンジン走行が開始される。このステップST08の後に、処理が終了される。
【0040】
ステップST09では、モータ6が変速機4の入力軸41側に接続される。具体的には、制御装置9が接続切替装置7を駆動制御して、接続切替装置7の入力側接続部71がモータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41とをトルク伝達可能に接続する。このとき、接続切替装置7の出力側接続部72が、モータ6の出力軸61と変速機4の出力軸42との接続を遮断する。このステップST09の後に、ステップST10に進む。
【0041】
ステップST10では、変速機4の変速段が最下段に設定される。具体的には、制御装置9が、クラッチ3を開放してエンジン2を変速機4の入力軸41から分離し、また、変速機4を駆動して変速段を1速の前進段43(最下段)に設定する。これにより、車両がモータ走行での発進待機状態となる。このステップST10の後に、ステップST11に進む。
【0042】
ステップST11では、車両の発進要求があったか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、アクセルペダルセンサ81がアクセルペダルの踏み込みを検出し、また、ブレーキペダルセンサ83がブレーキペダル(図示省略)の踏み込みを検出している。そして、ブレーキペダルの踏み込みが解除され、且つ、アクセルペダルが踏み込まれたときに、制御装置9が肯定判定を行っている。このステップST11にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST12に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST11が繰り返される。
【0043】
ステップST12では、モータ6を変速機4の入力軸41側に接続した状態(ステップST09)で、モータ走行が行われる。このとき、変速機4の変速段が最下段に設定されているので(ステップST10)、車両発進時に必要となる大きな駆動トルクが適正に確保される。このステップST12の後に、ステップST13に進む。
【0044】
ステップST13では、アクセル開度θの減少率Δθ/Δtの絶対値|Δθ/Δt|が所定の閾値k2以上であるか否かが判定される。すなわち、アクセルペダルが急速に戻されたか否かが判定される。具体的には、車両走行中にて、アクセル開度センサ82がアクセル開度θを検出しており、制御装置9がこのアクセル開度θを所定のサンプリング時間Δt毎に取得して記憶部97に記憶している。そして、アクセル開度θの減少率Δθ/Δtの絶対値|Δθ/Δt|が|Δθ/Δt|≧k2であるときに、制御装置9が肯定判定を行っている。このステップST13にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST16に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST14に進む。
【0045】
ステップST14では、アクセル開度θが所定時間T継続して所定の閾値k3以下であるか否かが判定される。すなわち、アクセル開度θが小さい状態が所定時間T継続したか否かが判定される。具体的には、制御装置9がアクセル開度センサ82の出力信号に基づいて、この判定を行う。このステップST14にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST16に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST15に進む。
【0046】
ステップST15では、エンジン始動条件が成立したか否かの判定が行われる。エンジン始動条件は、ステップST07の条件と同じである。このステップST15にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST08に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST13に戻る。
【0047】
ステップST16では、モータ6の接続が変速機4の入力軸41側から出力軸42側に切り替えられる。具体的には、まず、制御装置9が接続切替装置7を駆動制御して、モータ6の出力軸61と変速機4の入力軸41とを分離し、その後に、モータ6の出力軸61と変速機4の出力軸42とをトルク伝達可能に接続する。このとき、アクセル開度θが大きく減少した状態(ステップST13の肯定判定)あるいはアクセル開度θが小さい状態(ステップST14の肯定判定)にあるので、制御装置9がモータ6の接続を変速機4の入力軸41側から出力軸42側に切り替えたとしても、ドライバに違和感を与え難い。これにより、ドライバビリティが向上する。また、このような状態では、ドライバの要求トルクが小さい。そこで、出力側接続部72の変速比を変速機4の最下段よりも小さく設定することにより、モータ6の負荷を低減できる。これにより、燃費が向上する。このステップST16の後に、ステップST17に進む。
【0048】
ステップST17では、エンジン始動条件が成立したか否かの判定が行われる。エンジン始動条件は、ステップST07の条件と同じである。このステップST17にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST08に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST17が繰り返される。
【0049】
ステップST18では、モータ走行中であるか否かの判定が行われる。モータ走行時には、モータ6が通電して駆動トルクを発生する。また、モータ6が接続切替装置7を介して変速機4の入力軸41または出力軸42に接続される。また、クラッチ3が開放状態に設定されて、エンジン2から車軸12への駆動トルクの伝達が遮断される。なお、この実施の形態では、車両走行時にて、モータ回転数センサ87がモータ回転数Nmを検出し、また、クラッチセンサ83がクラッチ位置あるいはクラッチトルクを検出している。そして、そして、クラッチ3が開放状態にあり、モータ回転数NmがNm>0[rpm]であるときに、制御装置9が肯定判定を行っている。このステップST18にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST19に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0050】
ステップST19では、モータ6が変速機4の入力軸41側に接続されているか否かが判定される。このステップST19にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST20に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0051】
ステップST20では、変速機4の変速段が最下段に設定されているか否かが判定される。このステップST20にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST13に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0052】
[効果]
以上説明したように、この車両用駆動システム1は、エンジン2と、モータ6と、入力軸41および出力軸42の間の変速比を変更できる変速機4と、エンジン2および変速機4の入力軸41の間に配置されるクラッチ3と、モータ6の接続先を変速機4の入力軸41および出力軸42の間で切り替える接続切替装置7と、接続切替装置7を駆動制御する制御装置9とを備える(図1参照)。また、車両用駆動システム1は、エンジン2を動力源とするエンジン走行と、モータ6を動力源とするモータ走行とを切り替え得る。そして、制御装置9は、モータ走行中におけるアクセル開度θが所定の条件を満たすときに(ステップST13およびステップST14の少なくとも一方の肯定判定)、接続切替装置7を駆動制御してモータ6の接続先を変速機4の入力軸41および出力軸42の間で切り替える(ステップST16)(図2参照)。
【0053】
かかる構成では、モータ走行中におけるアクセル開度θに基づいてモータ6の接続先を変速機4の入力軸41および出力軸42の間で切り替えるので、(1)ドライバの要求駆動力(アクセル開度θ)に応じたモータ6の接続先の切り替えが可能となる。これにより、効率的なモータ走行を行い得るので、燃費が向上する利点がある。また、(2)モータ6の接続先の切り替え時に発生するトルク抜けに起因したドライバへの違和感が、緩和される。これにより、ドライバビリティが向上する利点がある。
【0054】
なお、モータ6と変速機4の入力軸41とを接続する場合と、モータ6と変速機4の出力軸42とを接続する場合とでは、例えば、変速比や機械抵抗の相異により、モータ走行時の燃費やドライバビリティが相異する。
【0055】
また、この車両用駆動システム1では、接続切替装置7が、変速機4の出力軸42に対する接続部(出力側接続部72)に、変速機4の最下段(変速比が最も大きい前進段43)の変速比よりも小さい変速比を有する変速段を備える(図1参照)。かかる構成では、例えば、ドライバの要求トルクが小さいときに(ステップST13およびステップST14の少なくとも一方の肯定判定)、モータ6の接続先を小さい変速比の方(出力軸42側)に切り替えて走行できる。これにより、効率的なモータ走行を行い得るので、燃費が向上する利点がある。
【0056】
例えば、この実施の形態では、制御装置9は、モータ6と変速機4の入力軸41とを接続したモータ走行中にて(ステップST09、ステップST10およびステップST12、または、ステップST18〜ステップST20の肯定判定)、アクセル開度θが上記の条件を満たすときに、接続切替装置7を駆動制御してモータ6の接続先を変速機4の入力軸41から出力軸42に切り替えている(ステップST16)(図2参照)。
【0057】
また、この車両用駆動システム1では、制御装置9は、モータ走行での発進時にて(ステップST01の肯定判定)、路面の下り勾配Gの絶対値|G|が所定の閾値k1以上であるときに(ステップST02の肯定判定)、接続切替装置7を駆動してモータ6の接続先を変速機4の出力軸42に設定する(図2参照)。路面の下り勾配Gが急な場合には、車両発進時に必要となる駆動トルクが平地よりも小さい。したがって、モータ6を変速機4の出力軸42に接続した状態でも、車両発進時に必要な駆動トルクを適正に確保できる。そして、モータ6を小さい変速比の方(出力軸42側)に接続して走行することにより、効率的なモータ走行を行い得る利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、この発明にかかる車両用駆動システムは、モータ走行時における燃費を向上できる点で有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用駆動システム、2 エンジン、21 出力軸、3 クラッチ、31 入力側回転部、32 出力側回転部、4 変速機、41 入力軸、42 出力軸、43〜46 前進段、47 後進段、5 減速差動装置、51 入力軸、52 減速機構、53 差動機構、6 モータ、61 出力軸、7 接続切替装置、71 入力側接続部、72 出力側接続部、73 油圧機構、8 センサユニット、81 アクセルペダルセンサ、82 アクセル開度センサ、83 ブレーキペダルセンサ、84 クラッチセンサ、85 車速センサ、86 エンジン回転数センサ、87 モータ回転数センサ、88 勾配センサ、9 制御装置、91 モータ接続切替制御部、92 エンジン制御部、93 クラッチ制御部、94 変速機制御部、95 モータ制御部、96 接続切替装置制御部、97 記憶部、11R、11L 車輪、12 車軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、入力軸および出力軸の間の変速比を変更できる変速機と、前記エンジンおよび前記変速機の入力軸の間に配置されるクラッチと、前記モータの接続先を前記変速機の入力軸および出力軸の間で切り替える接続切替装置と、前記接続切替装置を駆動制御する制御装置とを備え、且つ、前記エンジンを動力源とするエンジン走行と前記モータを動力源とするモータ走行とを切り替え得る車両用駆動システムであって、
前記制御装置は、モータ走行中におけるアクセル開度が所定の条件を満たすときに、前記接続切替装置を駆動制御して前記モータの接続先を前記変速機の入力軸および出力軸の間で切り替えることを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項2】
前記接続切替装置が、前記変速機の出力軸に対する接続部に、前記変速機の最下段の変速比よりも小さい変速比を有する変速段を備える請求項1に記載の車両用駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記モータと前記変速機の入力軸とを接続したモータ走行中にて、アクセル開度が前記条件を満たすときに、前記接続切替装置を駆動制御して前記モータの接続先を前記変速機の入力軸から出力軸に切り替える請求項2に記載の車両用駆動システム。
【請求項4】
前記制御装置は、モータ走行での発進時にて、路面の下り勾配の絶対値が所定の閾値以上であるときに、前記接続切替装置を駆動して前記モータの接続先を前記変速機の出力軸に設定する請求項2または3に記載の車両用駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121496(P2012−121496A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274988(P2010−274988)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】