説明

車両空調用ヒータシステム

【課題】消費電力を削減した暖房が行える車両空調用ヒータシステムを提供する。
【解決手段】本発明の車両空調用ヒータシステムは、発熱源11の排熱を蓄熱する発熱源蓄熱ケース5と、発熱源蓄熱ケース5内の熱を外部へ放熱しない状態と車室1r内へ放熱する状態との切り換えを制御するバルブ制御手段12aと、車両1への充電状態を検知する充電状態検知手段4cと、発熱源11の温度を検知する発熱源温度検知手段s1と、車両1の空調装置における車室1r内の設定温度を取得する温度取得手段14と、充電開始が検知された場合に、検知された発熱源11の温度が、温度取得手段14により取得された設定温度よりも高いとき、バルブ制御手段12aを外部へ放熱しない状態とし、その後、発熱源蓄熱ケース5内の熱で車室1r内の加温を開始する時間に至ったとき、バルブ制御手段12aを車室1r内へ放熱する状態に切り換えるバルブ切り換え手段14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の構成要素の排熱を利用する車両空調用ヒータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両内の暖房に関する先行技術文献として、特許文献1、2がある。
特許文献1においては、所望の設定温度になる設定時間に到達する前にエアコンを駆動して室内を、設定時間において設定温度になるように加温している。すなわち、エアコンを空調の熱源に用いている。
特許文献2では、ハイブリッド車において車両起動中にモータ、インバータの廃熱を、冷却水を通して熱交換機に送り、熱交換してその熱を空調に用いることで、車室内を加温している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−147420号公報(段落0014〜0016、図1等)
【特許文献2】特開2006−103476号公報(段落0023〜0028、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、エアコンを用いるので消費電力が大きくなる。加えて、それを制御する制御装置を起動させなければならないので、さらに消費電力が大きくなる。そのため、電気代が増え、更に充電した電力がエアコンの運転で減少するので、充電時間が長くなる。
特許文献2では、冷却水の温度が高く、空調に利用できたとしても流動させるためにポンプを駆動させなければならないので、消費電力が大きくなる。また、水冷装置と熱交換機を搭載しなければならないので、コストが上昇する。
【0005】
また、車両の停止後は外気温との関係で冷却水の熱が放熱していくので、充電時間が長くなった場合、空調に利用する熱が残らないという問題がある。
本発明は上記実状に鑑み、消費電力を削減した暖房が行える車両空調用ヒータシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明に関わる請求項1の車両空調用ヒータシステムは、車両の構成要素である発熱源が発生した熱を車室内に導入する空気に伝達する熱伝達手段を備える車両空調用ヒータシステムであって、前記発熱源の排熱を蓄熱する発熱源蓄熱ケースと、該発熱源蓄熱ケース内の熱を外部へ放熱しない状態と車室内へ放熱する状態との切り換えを制御するバルブ制御手段と、前記車両への充電状態を検知する充電状態検知手段と、前記発熱源の温度を検知する発熱源温度検知手段と、前記車両の空調装置における前記車室内の設定温度を取得する温度取得手段と、前記充電状態検知手段により充電開始が検知された場合に、前記発熱源温度検知手段により検知された前記発熱源の温度が、前記温度取得手段により取得された設定温度よりも高いときには、前記バルブ制御手段を前記外部へ放熱しない状態とし、その後、前記発熱源蓄熱ケース内の熱で前記車室内の加温を開始する時間に至ったときに、前記バルブ制御手段を前記車室内へ放熱する状態に切り換えるバルブ切り換え手段とを備ている。
請求項1の車両空調用ヒータシステムによれば、発熱源の排熱を車室内へ放熱するので、熱エネルギの有効活用が可能となり、消費電力を削減できる。
【0007】
本発明に関わる請求項2の車両空調用ヒータシステムは、請求項1記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、前記発熱源蓄熱ケースは、断熱材で覆われるか、または、断熱性材料で構成されている。
請求項2の車両空調用ヒータシステムによれば、発熱源蓄熱ケースは、断熱材で覆われるか、または、断熱性材料で構成されるので、発熱源の排熱の断熱が行える。
【0008】
本発明に関わる請求項3の車両空調用ヒータシステムは、請求項1または2記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、前記車室内への放熱を促すファン機構と、前記バルブ制御手段が前記車室内へ放熱する状態に切り換えられたときに、前記ファン機構を作動させるファン作動手段と、を備えている。
請求項3の車両空調用ヒータシステムによれば、車室内への放熱を促すファン機構と、バルブ制御手段が車室内へ放熱する状態に切り換えられたときに、ファン機構を作動させるファン作動手段とを備えるので、発熱源の排熱を車室内へ効果的に送ることができる。
【0009】
本発明に関わる請求項4の車両空調用ヒータシステムは、請求項1から3何れか記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、前記発熱源蓄熱ケース内の熱で前記車室内の加温する時間は、前記車両の充電終了前の時間としている。
請求項4の車両空調用ヒータシステムによれば、発熱源蓄熱ケース内の熱で車室内の加温する時間を車両の充電終了前の時間としているので、発熱源蓄熱ケース内の熱を、熱損失少なく空調に用いることができる。
【0010】
本発明に関わる請求項5の車両空調用ヒータシステムは、請求項1から4何れかに記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、前記車両は、電気自動車であり、前記発熱源は、DC−DCコンバータおよび/または充電器である。
請求項5の車両空調用ヒータシステムによれば、電気自動車の発熱源のDC−DCコンバータおよび/または充電器の排熱を車室内の空調に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、消費電力を削減した暖房が行える車両空調用ヒータシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる実施形態の電気自動車の要部の概略構成を示す概念的上面図である。
【図2】実施形態のEVのDC−DCコンバータとこれに係る空調設備との構成を示す図1のA方向矢視概念的構成図である。
【図3】実施形態のEVの充電器とこれに係る空調設備との構成を示す図1のA方向矢視概念的構成図である。
【図4】実施形態のEVで行われるプリエアコンディショニングの空調制御の一例を示すタイムチャートである。
【図5】実施形態の断熱バルブである温風供給バルブの開閉制御の流れを示すフロー図である。
【図6】実施形態のDC−DCコンバータのファン制御の流れを示すフロー図である。
【図7】実施形態の充電器のファン制御の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
<実施形態の電気自動車1の概要>
図1は、本発明に係わる実施形態の電気自動車1の要部の概略構成を示す概念的上面図である。
図2は、図1の電気自動車1のDC−DCコンバータ11とこれに係る空調設備との構成を示す図1のA方向矢視概念的構成図であり、図3は、図1の電気自動車1の充電器13とこれに係る空調設備との構成を示す図1のA方向矢視概念的構成図である。
実施形態の電気自動車1は、図2に示すように、走行時に発熱するDC−DCコンバータ11を冷却するための冷却風路のダクト5を塞いで蓄熱し、バッテリ4(図1参照)の充電終了前にダクト5を開き、冷却ファン16を用いて車室1rの内部にダクト5からの温風を送り込むことで車室1rの内部を加温する制御(プリエアコンディショニングの空調制御)を行っている。
【0014】
また、電気自動車1は、バッテリ4の充電中に発熱する充電器13(図1参照)の排熱を、図3に示すように、冷却風路のダクト6から冷却ファン6fを用いて車室1rの内部に温風を送り込むことで車室1rの内部を加温する制御(プリエアコンディショニングの空調制御)を行っている。具体的には、充電器13の冷却風路のダクト6には、ダクト6からの風路を車室1rの内部と電気自動車1の外部とに切り換える切り換えバルブ6vが装備されており、車室1rの内部を加温するプリエアコンディショニングの空調制御に際して、切り換えバルブ6vを車室1rの内部側に切り換える。
このように、ダクト5、6は、それぞれプリエアコンディショニングの空調制御に際して、DC−DCコンバータ11、充電器13の放出した熱を車室1rの内部に送るための風路を形成している。
【0015】
以下、実施形態の電気自動車1について詳述する。
<実施形態の電気自動車1の構成>
図1に示す実施形態の電気自動車1(以下、EV1と称す)は、その前両側部に、操舵輪の右前輪2r、左前輪2lが備わり、後両側部に右後輪3r、左後輪3lが備わっている。右前輪2r、左前輪2lは、運転者がステアリングホイール(ハンドル)を操作することで、ステアリングシャフト等を介して、操舵される。
【0016】
EV1は、右前輪2r、左前輪2lで駆動するFF車(Front Engine Front Drive:前輪駆動車)であり、右前輪2r、左前輪2lを駆動する駆動源のモータ9と、モータ9の駆動力が伝達され減速する減速ギアGと、減速ギアGから減速後の駆動力が入力され左・右前輪2l、2rの速度差を調整する差動装置Dとが設けられている。なお、本実施形態では、モータ9として交流モータを使用しているが、その他のモータを使用してもよい。
EV1は、モータ9の駆動に係る構成要素として、モータ9のエネルギ源であるバッテリ4と、バッテリ4のセルバランス制御、充放電の制御等を行うバッテリコントローラ4cと、制御用電子回路、インバータ等を有し、モータ9を制御するモータコントローラ9cとを備えている。
【0017】
また、EV1は、その電源に係る構成要素として、エネルギ源のバッテリ4と、バッテリ4に外部の充電スタンドから急速充電が行われる際に使用される急速充電コネクタ4kと、住宅用交流電源からの充電に際して使用されるプラグインコネクタ4pと、プラグインコネクタ4pからバッテリ4への充電が行われる高周波方式のAC−DCコンバータの充電器13と、バッテリ4に接続され高電圧を低電圧に変換して各サブシステム等にそれぞれ必要な電源を供給するDC−DCコンバータ11とを備えている。
DC−DCコンバータ11は、本実施形態のプリエアコンディショニング等の空調制御を行う空調ECU(Electronic Control Unit)14や、バッテリ4への充電時間等の充電を制御する充電ECU17、その他のサブシステム等に接続され、それぞれの電源を供給する。ちなみに、バッテリ4は、高電圧で大容量の電力を蓄えることができる高圧バッテリであり、Liイオン電池を組み合わせた組電池として構成されている。
【0018】
<DC−DCコンバータ11の周りの構成>
図2に示すDC−DCコンバータ11は、EV1の走行中、電力変換を行う回路に搭載される半導体デバイス等の電力消費による発熱等により、温度が上昇する。
そのため、EV1は、DC−DCコンバータ11に隣接してDC−DCコンバータ11で発生した熱を放熱するための放熱フィン11fと、放熱フィン11fの放熱のための冷却風路を形成するダクト5(発熱源蓄熱ケース)と、ダクト5の内部の放熱フィン11fから放出された熱で暖められた空気を車室1rの内部に送り込むファン16と、ダクト5の内部の放熱フィン11fから放出された熱で暖められた空気をEV1の外部に放出する放出口の通風口5oとを備えている。
【0019】
ダクト5には、ダクト5の内部の放熱フィン11fからファン16への風路を開閉する温風供給バルブ12aと、ダクト5の内部の放熱フィン11fから外気に続く通風口5oへの風路を開閉する温風放出バルブ12bとが具わっている。
そして、ダクト5は、ダクト5の内部の放熱フィン11fから温風供給バルブ12a、温風放出バルブ12bのそれぞれに続く箇所が、放熱フィン11fからの放熱を断熱するための断熱材15で覆われている。なお、ダクト5は、断熱材15で覆う代わりに、例えば多孔質材等の断熱材と同様な低い熱伝導率をもつ断熱性材料で構成し、断熱を図ってもよい。
熱源のDC−DCコンバータ11には、その温度(熱源温度Td)を測定する温度センサs1が設けられている。なお、温度センサs1はDC−DCコンバータ11の近傍に設けてもよいし、DC−DCコンバータ11の放熱フィン11fまたはその近傍に設けてもよい。
【0020】
<充電器13の周りの構成>
図3に示す充電器13は、EV1の停止時、プラグインコネクタ4pを介しての充電により、回路を流れる大きな電流による抵抗発熱(ジュール熱)のため、温度が上昇する。そのため、EV1は、充電器13に隣接して充電器13で発生した熱を放熱するための放熱フィン13fと、放熱フィン13fの熱の冷却風路を形成するダクト(発熱源蓄熱ケース)6と、ダクト6の内部の放熱フィン13fから放出された熱で暖められた空気を車室1rの内部またはEV1の外部に送るファン6fと、ダクト6の内部の放熱フィン13fから放出された熱で暖められた空気をEV1の外部に放出する放出口である通風口6oとを備えている。
【0021】
ダクト6には、ダクト6の内部の放熱フィン13fからの風路を、外部と遮断する場合と車室1rの内部へと切り換える切り換えバルブ6vが具わっている。なお、切り換えバルブ6vは、例えば三方弁が使用され、放熱フィン13fからの風路を、外部と遮断する場合と、車室1rの内部への風路を形成するダクト6aへ続ける場合と、外気への放出口の通風口6oへの風路を形成するダクト6bへ続ける場合との3つの風路状態に切り換えている。
なお、充電器13を傷めない範囲で、充電器13の放熱フィン13f近くのダクト6を断熱材6d(図3中、二点鎖線で示す)で覆い、充電器13の放熱フィン13fから放出される熱を断熱するように構成することが望ましい。或いは、発熱源蓄熱ケースとなるダクト6を断熱材6dで覆う代わりに、例えば多孔質材等の断熱材と同様な低い熱伝導率をもつ断熱性材料で構成して断熱を図ってもよい。
【0022】
充電器13には、熱源の充電器13の温度(熱源温度Tch)を測定する温度センサs2が設けられている。なお、温度センサs2は充電器13の近傍に設けてもよいし、充電器13の放熱フィン13fまたはその近傍に設けてもよい。
空調ECU14は、コンピュータ、該コンピュータに対するインターフェース回路、温度センサs1、s2のためのセンサ回路、ファン16、6fを作動させるためのモータ駆動回路(ファン作動手段)、温風供給バルブ12a、温風放出バルブ12b、切り換えバルブ6v等を制御するソレノイド駆動回路(バルブ切り換え手段)等を有している。
【0023】
<EV1のプリエアコンディショニングの空調制御の例>
図4は、EV1で行われるプリエアコンディショニングの空調制御の一例を示すタイムチャートである。図4の横軸は、時刻をとっており、図4の縦軸は、DC−DCコンバータ11の断熱用バルブの温風供給バルブ12a(図2参照)の開閉と、外気温Ta、EV1の車室1r(図2参照)の温度の車室温Tr、および熱源のDC−DCコンバータ11(図2参照)の温度の熱源温度Tdをとっている。
なお、図4において、破線で示す車室温Tr、熱源温度Tdは、図2のファン16をオンした場合の車室温Tr、熱源温度Tdの変化を示している。
【0024】
図4に示すプリエアコンディショニングの空調制御は、前記したように、空調ECU14(図1参照)の制御により行われる。
プリエアコンディショニングの空調制御が実施されるシーンとしては、環境温度が低い冬季など暖房を駆動させる時季や、出先から走行して帰宅し、DC−DCコンバータ11が熱を帯びたまま自宅に停車させ、翌朝の走行のために、自宅の交流電源のコンセントに充電プラグjp(図1参照)をプラグインして、プラグインコネクタ4pを介してEV1の充電器13に接続し、翌朝までに充電する場合が挙げられる。
【0025】
以下、図4を参照して、EV1のプリエアコンディショニングの空調制御の一例について説明する。
図4に示す17時に外気温Taが5℃、車室1rの車室温Trが20℃、DC−DCコンバータ11の温度である熱源温度Tdが40℃とする。
17時30分、ユーザが帰宅し、イグニッション−オフ(IG−OFF)する(図4のta点)。ここで、ユーザにより、明朝の7時に車室温Trが20℃になるように、エアコン(空調装置)の設定温度であるエアコン設定温度Tsが設定されているものとする。
【0026】
そして、18時に充電プラグjpを住宅のコンセントに挿入する(図4のtb点)。充電プラグjpがコンセントに挿入された時点で、断熱用バルブの温風供給バルブ12a(図2参照)が閉制御され、図2に示すDC−DCコンバータ11の放熱フィン11fから放出された熱がダクト5の断熱材15で外部と断熱される。なお、温風放出バルブ12b(図2参照)は閉じられているものとする。何故なら、温風放出バルブ12bが開いている場合、通風口5o(図2参照)からDC−DCコンバータ11からの熱が逃げ、DC−DCコンバータ11の排熱の蓄熱ができないからである。
【0027】
23時になると、23時から7時までの電力料金の安い深夜電力時間帯に入るので、充電ECU17、バッテリコントローラ4c等の制御により、EV1の充電が開始される(図4のtc点)。なお、充電開始時間は、バッテリ4の残容量(SOCのバッテリ4の充電率)により目標の充電容量(目標SOC)から導かれる充電時間から決定される。従って、充電開始時間が、深夜電力時間の開始時間と一致しない場合もあるのは言うまでもない。
前記したように、明朝の7時にEV1の車室温Trが20℃に設定されている(図4の7時の車室温Tr参照)場合、空調ECU14によって、充電終了時間(図4のte点)、DC−DCコンバータ11のデバイス温度である熱源温度Td、エアコン設定温度Ts、外気温Ta、車室温Tr等を基に、図2の温風供給バルブ12aの開閉制御、ファン16の作動制御が行われる。
【0028】
具体的には、EV1の車室温Trと外気温Taとの関係に基づき、断熱用バルブの温風供給バルブ12a(図2参照)が開制御されDC−DCコンバータ11から放出される熱が時間経過に伴い充電終了時間(図4のte点)までにEV1の車室1rの内部に供給できる熱量と、車室温Trと外気温Taとの関係から時間経過に伴いEV1の車室1rの内部から外気に放出される熱量とを演算し、図2の温風供給バルブ12aを開制御するとともにファン16をオンする時刻の加温開始時刻(図4の点td)が求められる。
【0029】
なお、温風供給バルブ12aを開制御し、かつ、ファン16をオンする時刻(加温開始時刻)は、演算以外に、予め求めた、充電容量、EV1の車室温Tr、外気温Ta、DC−DCコンバータ11から供給できる熱量、およびEV1の車室1rの内部から外気に放出される熱量と、温風供給バルブ12aの開制御とファン16をオンする時刻の加温開始時刻との関係を表すマップ、テーブル等のデータを基に決定してもよい。
【0030】
こうして求めた加温開始時刻に、図4では5時(図4のtd点)に、温風供給バルブ12a(図2参照)が開制御されるとともにファン16がオンされる。
明朝の7時になると、深夜電力時間帯が終了すると同時に、充電が終了制御され、同時に、ファン16(図2参照)がオフされる(図4のte点)。なお、本実施形態では、ファン16のオンは充電終了後のEV1の電力消費をなくすため、充電状態の場合のみ実施している。なお、本実施形態と異なり、ファン16のオンを、充電終了後に行うように構成してもよいのは勿論である。
【0031】
7時(図4のte点)に、EV1の車室温Trは、ユーザの設定通り、20℃になる(図4の車室温Trの破線参照)。
8時(図4のtf点)になると、ユーザがEV1に乗車し、イグニッション−オン(IG−ON)する。
なお、図4において、EV1の充電が行われている時間を充電時間TMchgとし、温風供給バルブ12aを開制御されファン16(図2参照)がオンされDC−DCコンバータ11から放出された熱で加温されている時間である加温時間をTMwmとしている。
【0032】
<EV1のプリエアコンディショニングの空調制御の流れ>
次に、EV1のプリエアコンディショニングの空調制御の流れについて説明する。
<断熱バルブの温風供給バルブ12aの開閉制御>
まず、図2に示すDC−DCコンバータ11の断熱バルブの温風供給バルブ12aの開閉制御について、温風供給バルブ12aの開閉制御の流れを示す図5に従って説明する。
【0033】
前提として、断熱バルブの温風供給バルブ12aが開制御されている。
図5のS101で、EV1の充電プラグjp(図1参照)が住宅のコンセントに挿入済みか否か判断される。
充電プラグjp(図1参照)が住宅のコンセントに挿入済みでない場合(S101でNo)、終了する。
一方、図5のS101で、充電プラグjp(図1参照)が住宅のコンセントに挿入済みと判断された場合(S101でYes)、DC−DCコンバータ11の熱源温度Tdとユーザに設定されたエアコン設定温度TsとEV1の外の外気温Taとを読み込み、DC−DCコンバータ11の熱源温度Tdがエアコン設定温度Tsよりも高く、かつ、エアコン設定温度Tsが外気温Taよりも高いか否か判断される、すなわち熱源温度Td>エアコン設定温度Ts>外気温Taか否か判断される(S102)。
【0034】
熱源温度Td>エアコン設定温度Ts>外気温Taでない場合(図5のS102でNo)、終了する。
一方、図5のS102で、熱源温度Td>エアコン設定温度Ts>外気温Taであると判断された場合(S102でYes)、DC−DCコンバータ11が放出した熱を保持するため、断熱バルブの温風供給バルブ12a(図2参照)が閉制御され(S103)、終了する。なお、S103において、温風放出バルブ12b(図2参照)が閉制御されていない場合は、DC−DCコンバータ11が放出した熱を保持するため、閉制御される。何故なら、温風放出バルブ12bが開いていた場合、冷えた外気がダクト5の内部に侵入し、DC−DCコンバータ11が放出した熱の断熱が困難になるからである。
【0035】
詳述すれば、S103で、温風供給バルブ12a(、温風放出バルブ12b)が閉制御されるのは、ダクト5(図2参照)の内部にDC−DCコンバータ11の排熱を溜め、後にファン16をオンし、ダクト5の内部に溜めた排熱でEV1の車室1rの内部に温風を送るプリエアコンディショニングの空調を行うためである。
なお、図5に示す断熱バルブの開閉制御で温風供給バルブ12aが閉制御されない場合、温風供給バルブ12aは開制御のままとなる。
以上が、図5に示す断熱バルブの温風供給バルブ12a(図2参照)の開閉制御である。
【0036】
<DC−DCコンバータ11のファン16の制御>
次に、図2に示すファン16の制御、温風供給バルブ12aの開制御であるDC−DCコンバータ11のファン制御について、その制御の流れを示す図6に従って説明する。
DC−DCコンバータ11のファン制御は、図5の断熱バルブの開閉制御で温風供給バルブ12aを閉制御して、温風供給バルブ12a、温風放出バルブ12bでダクト5の内部に溜めたDC−DCコンバータ11の排熱を、温風供給バルブ12aを開制御してファン16で車室1rの内部に送り、EV1の車室1rの内部を加温するための制御(プリエアコンディショニングの空調制御)である。
【0037】
図6のS201で、EV1の充電の停止要求があるか否か判断される。例えば、ユーザがEV1の充電プラグjp(図1参照)を住宅のコンセントから抜いたり、充電ECU17で設定された充電停止の予約時間に至ったなどの場合である。
充電の停止要求がある場合(S201でYes)、DC−DCコンバータ11のファン16(図2参照)がオフされ(S202)車室1rの内部への送風が停止され、断熱バルブの温風供給バルブ12aが開制御される(S203)。
【0038】
一方、図6のS201で、EV1の充電の停止要求がないと判断された場合(S201でNo)、バッテリ4の現在のSOC(充電率)と目標SOCとから、充電時間TMchgを算出する(S204)。そして、車室温Tr、エアコン設定温度Ts、DC−DCコンバータ11の熱源温度Td、外気温Ta等から、加温時間TMwm(図4参照)を算出する(S205)。
続いて、加温モードになったか否か判断される(S206)。加温モードとは、図2に示す断熱バルブの温風供給バルブ12aが開制御されるとともにファン16がオンされ、ダクト5の内部に蓄熱したDC−DCコンバータ11の排熱を車室1rの内部に送るモードをいう。
加温モードである場合(S206でYes)、S211に移行する。
【0039】
一方、S206で、加温モードでないと判断された場合(S206でNo)、残充電時間TMchg(残)が加温時間TMwmより大きいか否か判断される(S207)。すなわち、S207で、加温開始時刻(図4のtd点)になったか否か判断される。
残充電時間TMchg(残)>加温時間TMwmの場合(S207でYes)、加温開始時刻(図4のtd点)になっていないので、S201に移行する。
【0040】
一方、残充電時間TMchg(残)>加温時間TMwmでないと判断された場合(S207でYes)、加温開始時刻(図4のtd点)になっているので加温モードフラグをオンする(S208)。そして、断熱バルブの温風供給バルブ12aが開制御され(S209)、ファン16(図2参照)をオンし(S210)、車室1r(図2参照)の内部に温風によりDC−DCコンバータ11の排熱を送る。
続いて、EV1の充電の停止要求があるか否か判断される(S211)。図6のS211で、EV1の充電の停止要求があるか否か判断するのは、EV1の充電の停止要求があった場合に制御を終了するためである。
【0041】
EV1の充電の停止要求があると判断された場合(S211でYes)、S213に移行する。
一方、S211で、EV1の充電の停止要求がないと判断された場合(S211でNo)、車室温Trがエアコン設定温度Ts以上か、または、熱源温度Tdがエアコン設定温度Ts以下か判断される(S212)。
車室温Trがエアコン設定温度Ts以上、または、熱源温度Tdがエアコン設定温度Ts以下でない場合(S212でNo)、プリエアコンディショニングの空調制御を行える状態にあるので、S206に移行する。
【0042】
一方、S212において、車室温trがエアコン設定温度Ts以上か、または、熱源温度Tdがエアコン設定温度Ts以下であると判断された場合(S212でYes)、プリエアコンディショニングの空調制御を行える条件にないので、加温フラグをオフし(S213)、ファン16(図2参照)をオフし(S214)、終了する。
以上が、図2のファン16の制御、温風供給バルブ12aの開制御を行う図6のDC−DCコンバータ11のファン制御である。
【0043】
<充電器13のファン6f、切り換えバルブ6vの制御>
次に、図3に示すファン6f、切り換えバルブ6vの制御である充電器13の放熱制御について、その放熱制御の流れを示す図7に従って説明する。
充電器13の放熱制御は、切り換えバルブ6vを車室1rの内部側に切り換えるとともにファン6fをオンしてダクト6に溜めた充電器13の排熱で、EV1の車室1rの内部を加温するための制御(プリエアコンディショニングの空調制御)である。
【0044】
図7のS301で、EV1の充電の停止要求があるか否か判断される。例えば、ユーザがEV1の充電プラグjp(図1参照)を住宅のコンセントから抜いた場合、充電ECU17で設定された充電停止の予約時間に至った場合などである。
EV1の充電の停止要求がある場合(S301でYes)、充電器13のファン6fがオフされ(S302)車室1rの内部への送風が停止され、切り換えバルブ6vが車室1r外のダクト6b側へ切り換えられ(S303)、終了する。これにより、図3に示す切り換えバルブ6vを車室1rの内部側に風路を切り換え、ファン6fをオンし、ダクト6bの内部に蓄熱した充電器13の排熱を車室1rの内部に送るプリエアコンディショニングの空調制御は行われない。
一方、S301で、EV1の充電の停止要求がないと判断された場合(S301でNo)、熱源の充電器13の充電器温度Tchが暖房に使用できる既定の所定温度以上か否か判断される(S304)。
【0045】
充電器温度Tchが暖房に使用できる既定の所定温度以上でない場合(S304でNo)、S302に移行する。
一方、S304で、充電器温度Tchが暖房に使用できる既定の所定温度以上であると判断された場合(S304でYes)、車室温Trがエアコン設定温度Ts以上か否か判断される(S305)。
車室温Trがエアコン設定温度Ts以上の場合(S305でYes)、S302に移行する。
【0046】
一方、S305で、車室温Trがエアコン設定温度Ts以上でないと判断された場合(S305でNo)、充電器温度Tchがエアコン設定温度Ts以上か否か判断される(S306)。
充電器温度Tchがエアコン設定温度Ts以上でない場合(S306でNo)、S302に移行する。
【0047】
一方、S306で、充電器温度Tchがエアコン設定温度Ts以上であると判断された場合(S306でYes)、切り換えバルブ6vが車室1rの内部側へ切り換えられており、かつ、充電器13のファン6fがオンされているか否か判断される(S307)。
切り換えバルブ6vが車室1rの内部へ切り換えられており、かつ、充電器13のファン6fをオンされている場合(S307でYes)、S301に移行する。
【0048】
S307で、切り換えバルブ6vが車室1rの内部へ切り換えられており、かつ、充電器13のファン6fをオンされていないと判断された場合(S307でNo)、図3の切り換えバルブ6vを車室1rの内部に切り換え(S308)、充電器13のファン6fをオンした(S309)後、S301に移行する。
以上が、図3のファン6f、切り換えバルブ6vを制御する図7の充電器13の放熱制御(プリエアコンディショニングの空調制御)である。
【0049】
<作用効果>
上記構成によれば、図2に示すDC−DCコンバータ11の放熱フィン11fから、断熱バルブの温風供給バルブ12a、温風放出バルブ12bよりDC−DCコンバータ11側のそれぞれの風路のダクト5を断熱材15で覆うことにより、EV1の走行時にDC−DCコンバータ11で発生した熱を蓄熱することが可能になる。
そして、熱源のDC−DCコンバータ11の排熱と充電器13の排熱とをそれぞれ車室1rの内部の空調に用いることで、エアコンを運転する場合と比較して消費電力を削減できる。
【0050】
充電器13による充電中は、消費電力の大きなエアコンを用いず、図3に示す切り換えバルブ6vのダクト6a側への切り換えが定常状態とした場合、ファン6fを駆動するだけでよく消費電力が少なく済み、充電に用いる電力が大きくでき、充電時間が短縮できる。
また、水冷装置を使用しないので、コストが削減でき、容積減が可能である。
さらに、充電器13の排熱をDC−DCコンバータ11の排熱と同時に用いることで、更に空調に要する時間を短縮できる。
【0051】
このように、DC−DCコンバータ11やEV1に搭載される充電器13などの発熱源の熱を畜熱し、充電完了の所定時間前にその熱をEV1のエアコンのプレヒータとして用いることで、熱エネルギの有効活用が可能となり、従来のエアコンを駆動する場合と比較して消費電力を削減できる。
なお、前記実施形態では、発熱源のDC−DCコンバータ11の排熱や充電器13の排熱などで加温する時間を、充電時間の終了前の時間とする場合を例示したが、EV1への充電時間中の他の時間帯としてもよい。しかし、EV1の走行は、充電時間後に行われるので、充電終了前の時間帯で、加温するのが望ましい。
【0052】
また、前記実施形態では、EV1への充電時間中に、発熱源のDC−DCコンバータ11、充電器13の排熱をそれぞれ車室1rの内部に送る場合を例示したが、その他、外気温Taが低い場合、空調ECU14(図1参照)の制御により、単に、発熱源のDC−DCコンバータ11、充電器13の温度が、それぞれエアコン設定温度Tsよりも高いときに、バルブ制御手段の温風供給バルブ12a、切り換えバルブ6vをそれぞれ車室1rの内部へ放熱する状態に切り換え、ファン16、6fで温風をそれぞれ車室1rの内部に送り、加温する構成としてもよい。
【0053】
また、前記実施形態では、EV1のDC−DCコンバータ11、充電器13の両者を発熱源とする場合を例示したが、DC−DCコンバータ11、充電器13の何れかを発熱源としてもよい。
なお、前記実施形態では、図4に示す空調制御のタイムチャートは、DC−DCコンバータ11を熱源とするプリエアコンディショニングの空調制御として説明したが、充電器13を熱源とするプリエアコンディショニングの空調制御に適用してもよい。
また、前記実施形態では、EV1のDC−DCコンバータ11、充電器13を発熱源として例示したが、EV等の車両で発熱する構成要素であれば、DC−DCコンバータ11、充電器13以外の構成要素を発熱源として、車室1rのプリエアコンディショニングの空調制御に適用してもよい。
なお、前記実施形態では、車両として、電気自動車を例示して説明したが、DC−DCコンバータ、充電器、その他の発熱源を有する車両であれば、プラグインハイブリッド車、インバータを有する燃料電池車等の電気自動車以外の車両にも幅広く有効に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 電気自動車(車両)
1r 車室
4c バッテリコントローラ(充電状態検知手段)
5 ダクト(発熱源蓄熱ケース)
6 ダクト(発熱源蓄熱ケース)
6f ファン(ファン機構)
6v 切り換えバルブ(バルブ制御手段)
11 DC−DCコンバータ(発熱源)
11f 放熱フィン(熱伝達手段)
12a 温風供給バルブ(バルブ制御手段)
13 充電器(発熱源)
13f 放熱フィン(熱伝達手段)
14 空調ECU(温度取得手段、バルブ切り換え手段、ファン作動手段)
16 ファン(ファン機構)
s1 温度センサ(発熱源温度検知手段)
s2 温度センサ(発熱源温度検知手段)
Tch 充電器温度(発熱源の温度)
Td 熱源温度(発熱源の温度)
Ts エアコン設定温度(車室の内部の設定温度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の構成要素である発熱源が発生した熱を車室内に導入する空気に伝達する熱伝達手段を備える車両空調用ヒータシステムであって、
前記発熱源の排熱を蓄熱する発熱源蓄熱ケースと、
該発熱源蓄熱ケース内の熱を外部へ放熱しない状態と車室内へ放熱する状態との切り換えを制御するバルブ制御手段と、
前記車両への充電状態を検知する充電状態検知手段と、
前記発熱源の温度を検知する発熱源温度検知手段と、
前記車両の空調装置における前記車室内の設定温度を取得する温度取得手段と、
前記充電状態検知手段により充電開始が検知された場合に、前記発熱源温度検知手段により検知された前記発熱源の温度が、前記温度取得手段により取得された設定温度よりも高いときには、前記バルブ制御手段を前記外部へ放熱しない状態とし、その後、前記発熱源蓄熱ケース内の熱で前記車室内の加温を開始する時間に至ったときに、前記バルブ制御手段を前記車室内へ放熱する状態に切り換えるバルブ切り換え手段と、
を備えることを特徴とする車両空調用ヒータシステム。
【請求項2】
請求項1記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、
前記発熱源蓄熱ケースは、断熱材で覆われるか、または、断熱性材料で構成される
ことを特徴とする車両空調用ヒータシステム。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、
前記車室内への放熱を促すファン機構と、
前記バルブ制御手段が前記車室内へ放熱する状態に切り換えられたときに、前記ファン機構を作動させるファン作動手段と、
を備えることを特徴とする車両空調用ヒータシステム。
【請求項4】
請求項1から3何れかに記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、
前記発熱源蓄熱ケース内の熱で前記車室内の加温する時間は、前記車両の充電終了前の時間である
ことを特徴とする車両空調用ヒータシステム。
【請求項5】
請求項1から4何れかに記載の車両空調用ヒータシステムにおいて、
前記車両は、電気自動車であり、
前記発熱源は、DC−DCコンバータおよび/または充電器である
ことを特徴とする車両空調用ヒータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−156982(P2011−156982A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20679(P2010−20679)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】