説明

車両速度制限装置

【課題】車両がより安全に曲線路を走行することができる車両速度制限装置を提供する。
【解決手段】車両速度制限装置20は速度管理ECU21を備えている。速度管理ECU21には、ステアリング操作角を検出するステアリングセンサ30と、車速センサ34からの信号が入力される。速度管理ECU21は、これらの信号に基いて、走行中の曲線路の曲率(道路曲率)を求める。さらにこの道路曲率に応じた目標制限速度を求めるとともに、目標制限速度に応じたエンジン目標トルクを求める。実トルクが目標トルクを越えている場合、エンジンを制御することによって実トルクを目標トルクに近付ける。さらに実速度が目標制限速度を越えている場合には、エンジンブレーキをかける、リターダ装置を作動させる、ブレーキ装置を作動させる、などの制動操作を実行することにより、この車両を目標制限速度まで減速させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトラックやバス、乗用車等の車両をより安全に走行させるための車両速度制限装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバスあるいは乗用車等の車両において、道路の状況等に応じて安全に走行できるように車両速度を制限することは重要である。例えば特許文献1に開示されているように、車両が一定速度で走行するようにエンジンやブレーキ等を制御するためのオートクルーズ装置が知られている。
【0003】
あるいは特許文献2に開示されているように、車両が走行している道路に設定されている法定速度を越えないようにエンジンを制御する速度制限装置も提案されている。また特許文献3に開示されているように、GPS(Global Positioning System)を用いた現在位置情報を元に、速度制限情報が蓄積されたデータベースを参照して速度制限を行う速度制限装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−285844号公報
【特許文献2】特開平10−159615号公報
【特許文献3】特開2005−289213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の速度制限装置を有する車両は、予め用意された既存の道路情報や外部の情報源から提供される道路情報に基いて速度制御を行っている。このため車両が実際に走行している道路の曲率等が既存の情報と異なる場合に、走行中の実際の道路に適合しない速度制御を行う可能性があり、信頼性に問題がある。また、曲率の大きい仮設道路や取付け道路、あるいは構内等の変則的な曲線路を走行する際に、既存の道路情報では速度制御に反映させることが難しいなど、信頼性に限界があった。
【0006】
一方で、車両が曲線路を走行する際に車体の幅方向に作用する加速度(いわゆる横G:lateral G)を検出し、この加速度の大きさが許容レベルを越えたときに、危険と判断して自動的にブレーキ装置を操作するといった速度制限装置も考えられる。しかし大きな横Gが発生した後にブレーキ装置を作動させたのではブレーキ装置の作動効果が間に合わず危険を防ぎきれない可能性がある。また実際の道路では、曲率の大きい急カーブやS字カーブなどの変則的な曲線路は横Gの変化が大きく、横Gの大きさだけで車両挙動が危険かどうかを判断するのが難しいため、制動操作を適切に行うことができない可能性がある。
【0007】
従って本発明の目的は、車両がより安全に曲線路を走行することができる車両速度制限装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両速度制限装置は、車両のステアリング操作角を検出するステアリングセンサと、前記車両の速度を検出する車速センサと、前記ステアリングセンサによって検出されたステアリング操作角と前記車速センサによって検出された車両速度に関する情報を入力する速度管理電子コントロールユニット(速度管理ECU)とを有している。そしてこの速度管理電子コントロールユニットは、前記ステアリング操作角と前記車両速度に基いて走行中の道路曲率を求める道路曲率推定手段と、前記道路曲率に基いて目標制限速度を求める制限速度獲得手段と、前記車両速度が前記目標制限速度を越えているか否かを判断する速度判断手段と、前記車両速度が前記目標制限速度を越えている場合に該車両を減速する制動手段とを具備している。
【0009】
この発明において、前記速度管理電子コントロールユニットは、前記目標制限速度に応じたエンジン目標トルクを求める目標トルク獲得手段と、該車両のエンジンの実トルクが前記目標トルクを越えているか否かを判断するトルク判断手段と、前記実トルクが前記目標トルクを越えている場合に該エンジンの実トルクが前記目標トルクに近付くようにエンジンを制御する出力制限手段とを具備していてもよい。
【0010】
前記制動手段は、例えば、前記エンジンを制御するエンジンECUと、リターダ装置を制御するリターダECUと、ブレーキ装置を制御するブレーキECUとを有している。そして前記車両の速度が前記目標制限速度を越えているときに、(1)前記エンジンECUによってエンジンブレーキをかける、(2)前記リターダECUによってリターダを作動させる、(3)前記ブレーキECUによってブレーキ装置を作動させる、のうち少なくとも1つを実行することにより、前記車両の速度を前記目標制限速度に近付けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両速度制限装置によれば、車両が実際の曲線路を走行する際にその曲線路の曲率に応じて車両の速度を適切に制御することができ、より安全に曲線路を走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の1つの実施形態に係る車両速度制限装置を備えた車両を模式的に示す平面図。
【図2】図1に示された車両速度制限装置の速度管理ECUの処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の1つの実施形態に係る車両速度制限装置を備えた車両について、図1と図2を参照して説明する。
図1は、トラック等の車両10を模式的に示している。この車両10は、車体11に収容された走行用のエンジン12と、クラッチ機構13およびトランスミッション14を含む動力伝達系15と、動力伝達系15によって駆動される後輪16と、ステアリング系17によって操舵される前輪18と、後輪16および前輪18を制動するブレーキ装置(例えばエアブレーキ)19と、車両速度制限装置20などを有している。
【0014】
車両速度制限装置20は車載コンピュータの一例である速度管理ECU21を含んでいる。ECUは、Electronic Control Unit(電子コントロールユニット)の略語である。この速度管理ECU21については後に詳しく説明する。
【0015】
動力伝達系15には、車両速度を抑制する際に使用するリターダ装置25が設けられている。リターダ装置25の一例は、ローターの間に流体を入れて推進軸の回転で流体を攪拌させることによって得られる抵抗力を利用する流体式リターダであるが、流体式以外のリターダが使用されてもよい。
【0016】
ステアリング系17には、ステアリングホイール17aの操作角度(ステアリング操作角)を検出するためのステアリングセンサ30が設けられている。エンジン12には、エンジン回転数を検出するためのエンジン回転数センサ31が設けられている。クラッチ機構13には、クラッチの断接を検出するためのクラッチセンサ32が設けられている。トランスミッション14には、動力伝達経路をなすギヤ段を検出するためのギヤ段センサ33が設けられている。またこの動力伝達系15には車両速度を検出するための車速センサ34が設けられている。
【0017】
車体11の前部に、車両10の前方視界を撮像するための車載カメラ40が設けられている。またこの車両10には、車両の3軸方向の加速度を検出するための加速度センサ41が設けられている。この加速度センサ41は、車体11の前後方向の加速度を検出するセンサと、幅方向の加速度を検出するためのセンサ(いわゆる横Gセンサ)などを含んでいる。
【0018】
各センサ30〜34と車載カメラ40および加速度センサ41が出力する電気信号が、速度管理ECU21に入力されるようになっている。車載カメラ40によって撮影された画像を画像処理することにより、自車の前方を走行する車両の挙動や前方視界の様子、あるいは自車の挙動等を解析することが可能である。
【0019】
速度管理ECU21に、エンジンECU50と、リターダECU51と、ブレーキECU52などが接続されている。エンジンECU50は、エンジン12の燃料噴射弁12aの作動タイミングや燃料噴射量等を制御する機能を有している。リターダECU51は、リターダ装置25の作動を制御する機能を有している。ブレーキECU52はブレーキ装置19の作動を制御する機能を有している。
【0020】
以下に、本実施形態の車両速度制限装置20の作用について説明する。
この車両速度制限装置20の速度管理ECU21には、車両10の走行中に、ステアリングセンサ30によって検出されるステアリング操作角と、エンジン回転数センサ31によって検出されるエンジン回転数と、クラッチセンサ32によって検出されるクラッチの断接情報と、ギヤ段センサ33によって検出されるギヤ段情報と、車速センサ34によって検出される車両速度(実車速)と、車載カメラ40によって撮影された画像情報と、加速度センサ41によって検出された車両加速度(車両前後方向の加速度と幅方向の加速度を含む)と、エンジン12が発生するトルクなどが常時入力されている。
【0021】
図2は、速度管理ECU21の処理の流れの一例を示している。この速度管理ECU21には、以下に説明する各ステップST1〜ST7を実行するためのコンピュータプログラムが組込まれている。
【0022】
図2に示すステップST1(道路曲率推定ステップ)では、速度管理ECU21に入力されたステアリング操作角、実車速、車両加速度に基き、車両運動方程式と補完マップ定数などを用いて、車両10が現在走行している道路の曲率が計算される。このステップST1は、道路曲率推定手段として機能する。
【0023】
ステップST2(制限速度獲得ステップ)では、前記ステップST1で求めた道路曲率に応じて、目標制限速度、すなわち曲線路を安全に走行できる速度が算出される。ステップST2は制限速度獲得手段として機能する。ここで言う目標制限速度は、車両の種類や積載量等に応じて計算式によって求めてもよいし、あるいは道路曲率と目標制限速度との関係を表わしたマップを用いて求めてもよい。このステップST2では、車載カメラ40によって得られた画像を解析することにより、例えば前方車両の挙動や偶発的な進路変更などの一過性の交通状況を判断材料に加えて、さらに安全に走行できる速度を求めてもよい。
【0024】
そしてステップST3(目標トルク獲得ステップ)において、前記目標制限速度に応じたエンジン目標トルク(エンジンに要求されるトルク)が算出される。このステップST3は目標トルク獲得手段として機能する。ここで言うエンジン目標トルクは、車両の種類やエンジンの種類等に応じて計算式によって求めてもよいし、あるいは車両速度とエンジントルクとの関係を表わしたマップを用いて求めてもよい。
【0025】
ステップST4(トルク判断ステップ)では、エンジンが現在発生している実トルクが前記目標トルクを越えているか否かが判断される。ステップST4はトルク判断手段として機能する。ステップST4において、実トルクが目標トルクを越えていると判断されたとき、ステップST5に進む。このステップST4において実トルクが目標トルクを越えていないと判断されたときには、ステップST6に移る。
【0026】
ステップST5(出力制限ステップ)では、エンジンECU50によって、例えば燃料噴射量を抑制するなどの指令をエンジン12に出すことにより、実トルクをエンジン目標トルクまで下げる。このステップST5は、エンジン出力を抑制するための出力制限手段として機能する。そののちステップST6に移行する。
【0027】
ステップST6(速度判断ステップ)では、車両速度(実速度)が目標制限速度を越えているか否かが判断される。このステップST6は速度判断手段として機能する。ステップST6において、実速度が目標制限速度を越えていると判断されたとき、ステップST7に進む。
【0028】
ステップST7(制動ステップ)では、車両の速度を落とすために制動操作が実行される。すなわちこのステップST7は制動手段として機能する。例えば第1の制動操作として(1)エンジンECU50によってエンジンブレーキを作動させ、第2の制動操作として(2)リターダECU51によってリターダ装置25を作動させ、第3の制動操作として(3)ブレーキECU52によってブレーキ装置19を作動させるといった制動操作の少なくとも1つが、車両10の走行状況に応じて選択される。この場合、エンジン回転数センサ31によって得られるエンジン回転数、クラッチセンサ32によって得られるクラッチ断接情報、ギヤ段センサ33によって得られるギヤ段情報、車載カメラ40によって得られる画像情報などを制動操作の判断材料に加えてもよい。
【0029】
例えば、前記第1の制動操作によってエンジンブレーキを優先的に作動させ、制動力が足りない場合は前記第2の制動操作によってリターダ装置25による減速を実施し、それでも制動力が足りない場合は前記第3の制動操作によってブレーキ装置19を作動させるといった優先順序で制動操作が行われてもよい。また、これら第1,第2,第3の制動操作を単独で実施してもよいし、あるいは組合わせて実施してもよい。
【0030】
以上説明した制動ステップST7により、曲線路での車両速度(実速度)を目標制限速度まで低下させることができる。なお、制動ステップST7が実行されるときに、同時に報知器60(図1に示す)を作動させてもよい。報知器60は、例えば運転席の計器盤に警告等を点灯させてもよいし、あるいは警報ブザーなどを鳴らすことにより、運転者に速度超過を知らせる装置であってもよい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の車両速度制限装置20によれば、車両10が曲線路を走行する際に、安全に走行できる速度を越えている場合には、まず、出力制限ステップST5によってエンジン12の出力を落とし、緩やかに目標速度まで減速することができる。このため急激な減速が回避され、ドライバーの運転感覚や乗り心地が損なわれることを抑制できる。
【0032】
出力制限ステップST5だけでは減速しきれない場合、制動ステップST7を実行することによって強制的に目標制限速度まで減速させることができる。このため、曲線路走行時に過剰な遠心力(横G)が車両に作用することを回避でき、種々の変則的な曲率の道路や構内、駐車場などの曲線路などにおいて車両10を安全な速度で走行させることができる。なお、ステップST3〜ST5を省略し、ステップST2(制限速度獲得ステップ)からステップST6(速度判断ステップ)に移るようにしてもよい。
【0033】
また本実施形態において、ステアリングセンサ30によって検出されるステアリング操作角の変化量を求め、ステアリング操作角が増加する傾向(曲率が次第に大きくなる曲線路)が検出された場合には、ステアリング操作角の増加率に応じて目標制限速度を下げるようにしてもよい。こうすることにより、例えば高速道路のインターチェンジ出口のように曲率の小さな緩和曲線の前方に曲率が大の円弧曲線が続くような曲線路を走行する際に、減速操作が遅れることを防止できる。
【0034】
またカーブ走行時に車速センサ34によって検出される車速の変化量を求め、車速が増加する傾向が検出された場合には、車速の増加率に応じて目標制限速度を下げるようにしてもよい。こうすることにより、例えば下り坂のカーブのように速度が増加しやすい要注意の曲線路を走行する場合に減速操作が遅れることを回避できる。
【0035】
なお本発明を実施するに当たって、車両速度制限装置を構成する速度管理ECUの処理の内容をはじめとして、ステアリングセンサや車速センサ、加速度センサ、各種ECU、報知器等の具体的な構成や配置等の態様を適宜に変更して実施できることは言うまでもない。また本発明はトラックやバス等の業務用車両に限らず、乗用車に適用することもできる。
【符号の説明】
【0036】
10…車両
12…エンジン
17…ステアリング系
20…車両速度制限装置
21…速度管理ECU(速度管理電子コントロールユニット)
30…ステアリングセンサ
34…車速センサ
50…エンジンECU
51…リターダECU
52…ブレーキECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリング操作角を検出するステアリングセンサと、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
前記ステアリングセンサによって検出されたステアリング操作角と前記車速センサによって検出された車両速度に関する情報を入力する速度管理電子コントロールユニットとを有し、
前記速度管理電子コントロールユニットは、
前記ステアリング操作角と前記車両速度に基いて走行中の道路曲率を求める道路曲率推定手段と、
前記道路曲率に基いて目標制限速度を求める制限速度獲得手段と、
前記車両速度が前記目標制限速度を越えているか否かを判断する速度判断手段と、
前記車両速度が前記目標制限速度を越えている場合に該車両を減速する制動手段と、
を具備したことを特徴とする車両速度制限装置。
【請求項2】
前記速度管理電子コントロールユニットは、
前記目標制限速度に応じたエンジン目標トルクを求める目標トルク獲得手段と、
該車両のエンジンの実トルクが前記目標トルクを越えているか否かを判断するトルク判断手段と、
前記実トルクが前記目標トルクを越えている場合に該エンジンの実トルクが前記目標トルクに近付くようにエンジンを制御する出力制限手段と、
を具備したことを特徴とする請求項1に記載の車両速度制限装置。
【請求項3】
前記制動手段は、前記エンジンを制御するエンジンECUと、リターダ装置を制御するリターダECUと、ブレーキ装置を制御するブレーキECUとを有し、
前記車両速度が前記目標制限速度を越えているときに前記エンジンECUによってエンジンブレーキをかける、前記リターダECUによってリターダを作動させる、前記ブレーキECUによってブレーキ装置を作動させる、のうち少なくとも1つを実行することにより、前記車両速度を前記目標制限速度に近付けることを特徴とする請求項1または2に記載の車両速度制限装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−131654(P2011−131654A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291423(P2009−291423)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】