説明

車両駆動装置

【課題】車両の足離しアップシフト時のフュエルリカバリによるショックを解消する。
【解決手段】車両が走行中にアクセルペダルが踏み込みから解放された場合に、自動変速機をアップシフトする。エンジン回転速度と自動変速機のアップシフト前後の変速比から、自動変速機のアップシフト直後のエンジン回転速度を予測し、アップシフト直後にフュエルリカバリが行われると予測される場合には、自動変速機のイナーシャフェーズでフュエルリカバリを行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有段式自動変速機を備えた車両の駆動力制御に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンの出力をロックアップクラッチを備えたトルクコンバータと、自動変速機とを介して駆動輪に伝達する車両においては、燃料消費を抑制するために、アクセルペダルが踏まれていないコースト走行中にロックアップクラッチを解放し、内燃エンジンへの燃料供給を停止することが知られている。
【0003】
燃料供給停止の結果、内燃エンジンの回転速度が低下すると、内燃エンジンへの燃料供給が再開される。内燃エンジンへの燃料供給停止はフュエルカット、内燃エンジンへの燃料供給の再開はフュエルリカバリあるいは単にリカバリと呼ばれる。
【0004】
特許文献1は、ロックアップクラッチ解放状態でのフュエルリカバリがトルクショックを発生させないよう、フュエルリカバリ時に回生ブレーキを作動させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006ー15819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロックアップクラッチが締結した状態で車両が走行中にドライバがアクセルペダルを離すと、ロックアップクラッチが解放され、自動変速機が高速側のギアに切り替わる、いわゆる足離しアップシフトが行われる場合がある。この場合も、アクセル開度がゼロになることで、内燃エンジンへの燃料供給を停止するフュエルカットが行われる。
【0007】
足離しアップシフトにおいて、フュエルカットによりエンジン回転速度が低下し、ロックアップクラッチが解放された状態でフュエルリカバリが行われると、内燃エンジンの吹け上がりが生じる。その結果、トルクコンバータを介して駆動輪に伝達される駆動トルクが急増して、車両に前後方向のショックをもたらす。車両に加わる前後方向のショックはドライバや同乗者に違和感を与える可能性がある。
【0008】
この発明の目的は、したがって、足離しアップシフト中のフュエルリカバリに伴うショックの発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、この発明はアクセルペダルの踏み込み量に応動する内燃エンジンの回転を、トルクコンバータと自動変速機とを介して駆動輪に伝達する車両駆動装置に適用される。
【0010】
この発明による車両駆動装置は、アクセルペダルの解放を検出するアクセルペダル解放検出手段と、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、車両が走行中に前記アクセルペダルが解放された場合に、自動変速機をアップシフトするアップシフト手段と、アクセルペダルが解放された状態でエンジン回転速度が所定のリカバリ回転速度以上の場合に前記内燃エンジンへの燃料供給を停止するフュエルカット実行手段と、内燃エンジンへの燃料供給停止中にエンジン回転速度がリカバリ回転速度を下回ると内燃エンジンへの燃料供給を再開するフュエルリカバリ実行手段と、を備えている。
【0011】
車両駆動装置はさらに、フュエルカット実行手段による燃料供給停止とアップシフト手段によるアップシフトとが並行して行われた場合に、フュエルリカバリ実行手段による内燃エンジンへの燃料供給の再開が行われるかどうかを予測するフュエルリカバリ予測手段と、自動変速機がイナーシャフェーズにあるかどうかを判定するイナーシャフェーズ判定手段と、フュエルリカバリ予測手段が、フュエルリカバリ実行手段による内燃エンジンへの燃料供給の再開を予測した場合に、フュエルリカバリ実行手段による内燃エンジンへの燃料供給の再開を早めて自動変速機のイナーシャフェーズで行わせるフュエルリカバリ前倒し手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
燃料供給停止とアップシフトが並行して行われた場合に、フュエルリカバリ実行手段による内燃エンジンへの燃料供給が再開されると予測され、かつ自動変速機がイナーシャフェーズにある場合には、内燃エンジンへの燃料供給再開が早められ、イナーシャフェーズで内燃エンジンへの燃料供給が再開される。自動変速機の出力軸トルクが変動しないイナーシャフェーズでフュエルリカバリが行われる結果、足離しアップシフト時のフュエルリカバリに伴うショックの発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態による車両駆動装置の概略構成図である。
【図2】この発明の実施形態によるエンジンコントローラが実行する駆動力制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図3】駆動力制御ルーチンを実行しない場合の駆動力制御結果の一例を説明するタイミングチャートである。
【図4】駆動力制御ルーチンの実行による駆動力制御結果を説明するタイミングチャートである。
【図5】駆動力制御ルーチンの実行による別の駆動力制御結果を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照すると、この発明の実施形態による車両駆動装置は内燃エンジン1と、内燃エンジン1の回転出力を変速してプロペラシャフト3に出力する変速ユニット2とを備える。
【0015】
内燃エンジン1は吸気スロットル1Aと燃料インジェクタ1Bを備える。
【0016】
変速ユニット2はトルクコンバータ2Bと、トルクコンバータ2Bの出力回転を変速する自動変速機2Aと、油圧式のロックアップクラッチ2Cと、を備える。
【0017】
トルクコンバータ2Bは内燃エンジン1の回転軸に結合するポンプインペラと、自動変速機2Aの入力軸に結合するタービンランナを備え、ポンプインペラとタービンランナとの間に介在する作動油を介してトルクを伝達する。自動変速機2Aはハイクラッチとローブレーキとを備えた公知のプラネタリギアセットで構成される。
【0018】
ロックアップクラッチ2Cは締結時にはポンプインペラとタービンランナを直接的に結合する。解放時にはポンプインペラとタービンランナの相対回転を許容する。
【0019】
ロックアップクラッチ2Cの締結と解放、及び自動変速機2Aのハイクラッチ及びローブレーキの各々の締結と解放は、内燃エンジン1の補機として設けられる油圧ポンプの吐出圧を用いて、自動変速機コントローラ(ATCU)5により行われる。
【0020】
内燃エンジン1の吸入空気量を調整する吸気スロットル1Aの開度制御、及び内燃エンジン1の燃料インジェクタ1Bの燃料噴射制御は、エンジンコントローラ(ECU)4により行われる。
【0021】
ECU4とATCU5は、それぞれ中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。ECU4とATCU5の一方または双方を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。あるいは、ECU4とATCU5を単一のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0022】
ECU4には、車両が備えるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセルペダル踏み込み量センサ6、車両の走行速度を検出する車速センサ7、及び内燃エンジン1の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ8から検出データがそれぞれ信号回路を介して入力される。
【0023】
ATCU5には、車両が備えるシフトレバーの操作位置を検出するシフトセンサ9から検出データが信号回路を介して入力される。
【0024】
ATCU5は、以上の構成のもとで、ロックアップクラッチ2Cの締結状態で走行中にアクセルペダルが解放されると、車両の走行速度などの運転条件に応じて、ロックアップクラッチ2Cの解放を指示する信号と、自動変速機2Aのシフトアップを指示する信号とを出力する。同時にロックアップクラッチ2Cの解放が完了したかどうかを判定するL/U OFF完了判定カウントダウンタイマを所定の初期値に設定する。L/U OFFカウントダウンタイマは初期値から一定速度でカウントダウンを行うタイマである。
【0025】
次に、図2のフローチャートを参照して、ECU4が実行する駆動力制御ルーチンを説明する。このルーチンは、車両走行中にECU4が例えば10ミリ秒といった一定時間間隔で繰り返し実行する。
【0026】
ステップS1で、ECU4はアクセルペダル踏み込み量センサ6からの入力信号に基づきアクセル開度がゼロかどうかを判定する。アクセル開度がゼロでない場合には、ステップS2で通常のアクセル開度に応じた燃料噴射制御を行った後にルーチンを終了する。
【0027】
ステップS1の判定において、アクセル開度がゼロの場合には、ECU4はステップS3でL/U ON/OFF判定フラグがOFFであるかどうかを判定する。L/U ON/OFF判定フラグはロックアップクラッチ2Cに解放動作が指示されたかどうかを示すフラグである。ATCU5は前述のようにアクセル開度がゼロになると同時にロックアップクラッチ2Cへ解放を指示するように、あらかじめプログラムされている。
【0028】
ステップS3でL/U ON/OFF判定フラグがOFFでない場合には、ロックアップクラッチが締結されていることを意味する。この場合には、ECU4はステップS8でリカバリ回転速度にL/U ON用リカバリ回転速度を設定した後、ステップS9以降の処理を行なう。ステップS3でL/U ON/OFF判定フラグがOFFである場合には、ECU4はステップS4の処理を行なう。
【0029】
リカバリ回転速度は、フュエルカットと、フュエルカットによる燃料供給停止状態からの燃料の再供給を意味するフュエルリカバリの基準となるエンジン回転速度である。ECU4は、アクセル開度がゼロでエンジン回転速度がリカバリ回転速度を上回る場合にフュエルカットを実行する。また、フュエルカット中にエンジン回転速度がリカバリ回転速度を下回るとフュエルリカバリを実行する。リカバリ回転速度はロックアップクラッチ2Cの締結状態に応じて異なる値に設定される。具体的には、ロックアップクラッチ2Cが解放されている場合には、リカバリ回転速度にL/U OFF用リカバリ回転速度が適用される。それ以外の場合、すなわち、ロックアップクラッチ2Cの締結状態、あるいは解放途上においては、リカバリ回転速度にL/U ON用リカバリ回転速度が適用される。L/U ON用リカバリ回転速度は例えば約800回転/分(rpm)とし、L/U OFF用リカバリ回転速度は例えば約1600回転/分(rpm)とする。
【0030】
ステップS4でECU4はL/U OFF完了判定カウントダウンタイマがゼロ以外の値かどうかを判定する。
【0031】
締結状態のロックアップクラッチ2Cに解放が指示されてから、ロックアップクラッチ2Cの解放が完了するまでには一定時間を要する。カウントダウンタイマはL/U ON/OFF判定フラグがOFFに転じてから一定時間が経過したことをカウントダウンによって検出する。ECU4はL/U OFF完了判定カウントダウンタイマの値がゼロになれば、ロックアップクラッチ2Cの解放が完了したと見なす。L/U OFF完了判定カウントダウンタイマの値がゼロでない場合には、ロックアップクラッチ2Cの解放動作が継続中であると見なす。
【0032】
ステップS4でL/U OFF完了判定カウントダウンタイマがゼロ以外の値である場合には、ECU4はステップS5以降の処理を行う。L/U OFF完了判定カウントダウンタイマがゼロの場合には、ECU4はステップS8以降の処理を行う。
【0033】
ステップS5で、ECU4はフュエルリカバリ条件が成立するかどうかを判定する。フュエルリカバリ条件は、次の条件がすべて成立する場合にのみ成立する。すなわち、
【0034】
a)アップシフト中かどうか?
b)自動変速機2Aはイナーシャフェーズか?
c)アップシフト後の内燃エンジン1の回転速度がL/U OFF用リカバリ回転速度を下回るか?
【0035】
a)については、ATCU5からアップシフト指令が出力されているかどうかを判定する。b)の判定は次の意味を持つ。
【0036】
自動変速機2Aの変速動作においては内部のクラッチとブレーキの締結あるいは解放が行われる。この操作が開始されてから完了するまでの期間においては、実変速比はN速相当の変速比とN+1速相当の変速比の間にある。イナーシャフェーズではフュエルリカバリを行っても、エンジン回転速度が変動するのみで自動変速機2Aの出力軸トルクへの影響は少なく、したがって、ドライバや同乗者にショックを感じさせずに済む。
【0037】
したがって、フュエルカットが実行されている場合には、イナーシャフェーズ中にフュエルリカバリを行うことで、ショックの発生を防止することができる。自動変速機2Aがイナーシャフェーズにあるかどうかの判定は様々な方法で行うことができる。
【0038】
例えば、変速前のN速における自動変速機2Aの入力回転速度Aと、同じ出力回転速度のもとでの変速後のN+1速に対応する自動変速機2Aの入力回転速度Bと、自動変速機2Aの実入力回転速度Cと、を検出あるいは計算する。自動変速機2Aの入力回転速度Aは車速センサ7が検出した車速と、変速前のギア段の変速比から計算できる。自動変速機2Aの入力回転速度Bは、車速センサ7が検出した車速と、変速後のギア段の変速比から計算できる。自動変速機2Aの実入力回転速度Cはタービンランナ回転速度センサ10が検出するタービンランナの回転速度に等しい。実入力回転速度Cが入力回転速度Bより大きく入力回転速度Aより小さい場合に、自動変速機2Aはイナーシャフェーズにあると判定できる。
【0039】
また、自動変速機2Aの実入力回転速度と実出力回転速度とから計算される実ギア比が、変速前のギア比と変速後のギア比の間にある場合に、自動変速機2Aはイナーシャフェーズにあると判定できる。ここで、自動変速機2Aの入力回転速度はタービンランナの回転速度に等しく、自動変速機2Aの出力回転速度は車速センサ7が検出した車速から計算可能である。
【0040】
以上のように、自動変速機2Aの入出力回転速度またはギア比をしきい値として、イナーシャフェーズの判定を容易に行うことができる。イナーシャフェーズは他の方法によっても判定可能である。
【0041】
c)について、アップシフト後の内燃エンジン1の回転速度Ne(N+1)は、アップシフト前後の変速段(N+1速)の変速比と現在の走行速度との乗算値として計算される(エンジン回転速度予測手段に相当)。そして、アップシフト後の内燃エンジン1の回転速度Ne(N+1)<L/U OFF用リカバリ回転速度であるかどうかを判定する。
【0042】
ステップS5の判定は次の意味をもつ。
【0043】
すなわち、足離しアップシフトにおいて、アクセル開度がゼロになることでフュエルカットとアップシフトが行われる。アップシフト後に内燃エンジン1の回転速度がリカバリ回転速度を下回ると、フュエルリカバリが実行される。アップシフト直後のフュエルリカバリの実行は、駆動輪に伝達されるトルクの急増をもたらし、車両の前後方向の加速度変化という形で、ドライバや同乗者にショックを感じさせる可能性がある。
【0044】
しかしながら、自動変速機2AがN速からN+1速への移行途上のイナーシャフェーズにある場合には、フュエルリカバリが行われてもプロペラシャフト3に出力される自動変速機2Aの出力トルクの変動は小さい。結果として、車両の前後方向の加速度変化も小さく、ドライバや同乗者にショックを感じさせることはない。
【0045】
そこで、足離しアップシフトにおいて、フュエルカットが行われていない場合はフュエルカットを抑制し、フュエルカットが既に行われている場合には、イナーシャフェーズ中にフュエルリカバリを行っておくことが、ショックの防止に好ましい。ステップS5ではこのための条件を判定している。
【0046】
ステップS5でフュエルリカバリ条件が成立する場合には、ECU4はステップS6でL/U OFF完了判定カウントダウンタイマをゼロにリセットする。そして、次のステップS7で、リカバリ回転速度にL/U ON用リカバリ回転速度より値の大きいL/U OFF用リカバリ回転速度を設定する。リカバリ回転速度をL/U OFF用リカバリ回転速度へと割り増すことで、以後のフュエルカットは大幅に制限される。また、既にフュエルカットが行われている場合のフュエルリカバリが促進される。
【0047】
ステップS5で、フュエルリカバリ条件が成立しない場合には、ECU4はステップS8リカバリ回転速度にL/U ON用リカバリ回転速度を設定した後、ステップS9以降の処理を行なう。
【0048】
ステップS9−S11は通常のフュエルカット実行アルゴリズムである。
【0049】
すなわち、ステップS9でECU4は、エンジン回転速度がリカバリ回転速度以上かどうかを判定する。そして、判定が肯定的な場合にはステップS10でフュエルカットを実行する。判定が否定的な場合にはステップS11でフュエルカットを禁止することで、アクセル開度ゼロに応じた燃料噴射を実行する。ステップS10の処理は、フュエルカット中であればフュエルリカバリを意味し、フュエルカット中でなければフュエルカットの禁止を意味する。ステップS10またはS11の処理の後、ECU4はルーチンを終了する。
【0050】
ここで、ステップS9の判定に用いられるリカバリ回転速度は、プロセスがステップS7の処理を経由している場合にはL/U OFF用リカバリ回転速度であり、プロセスがステップS8の処理を経由している場合はL/U ON用リカバリ回転速度である。プロセスがステップS7を経由するのは、ステップS5でフュエルリカバリ条件が成立する場合に限られる。
【0051】
リカバリ回転速度をL/U OFF用リカバリ回転速度の約1600rpmに設定すると、エンジン回転速度が約1600rpm以上でないかぎりフュエルカットは行われない。つまり、フュエルリカバリ条件が成立する場合にはフュエルカットの実行が大幅に制限される。また、既にフュエルカットが行われている状態でフュエルリカバリ条件が成立すると、エンジン回転速度が約1600rpm未満であれば、必ずフュエルリカバリが行われる。
【0052】
このように、足離しアップシフトにおいてフュエルリカバリ条件が成立すると、リカバリ回転速度がL/U OFF用リカバリ回転速度へと割り増しされる。これにより、燃料インジェクタ1Bへの出力信号を直接操作することなく、フュエルカットの抑制と、イナーシャフェーズ中のフュエルリカバリの実施とを容易に実現することができる。
【0053】
なお、ステップS7でリカバリ回転速度がL/U OFF用リカバリ回転速度に設定されるのに先立ち、ステップS6でL/U OFF完了判定カウントダウンタイマの値がゼロにリセットされる。そのため、次回以降のルーチン実行においては、ステップS4の判定が否定的に転じる。リカバリ回転速度はアクセルペダルが踏まれ、その後にアクセルペダルが解放され、ステップS1とS3の判定がともに否定的となってステップS8でリカバリ回転速度がL/U ON用リハガリ回転速度に設定されるまで、L/U OFF用リカバリ回転速度に維持される。
【0054】
足離しアップシフト中にフュエルカットが行われ、アップシフト後にフュエルリカバリが行われると、内燃エンジン1の吹け上がりによりプロペラシャフト3に出力される駆動輪の駆動トルクが大きく変動し、車両にショックを発生させて、ドライバや同乗者に違和感を与える可能性がある。この駆動力制御装置によれば、アップシフト後のエンジン回転速度がリカバリ回転速度を下回ると予測される場合、すなわちアップシフトに伴うフュエルリカバリが予測される場合には、イナーシャフェーズ中にフュエルリカバリ回転速度をL/U OFF用リカバリ回転速度へと割り増すことで、フュエルカットを抑制している。また、既にフュエルカットが開始されている場合には、イナーシャフェーズ中にフュエルリカバリを行わせる。したがって、足離しアップシフトに伴うフュエルリカバリがもたらすショックの防止に好ましい効果が得られる。
【0055】
なお、フュエルリカバリ条件が成立するのは、車両の走行中にアクセルペダルが解放され、自動変速機2Aのアップシフトが行われる、いわゆる足離しアップシフトにおいて、自動変速機2Aがイナーシャフェーズにあって、アップシフト後の内燃エンジン1の回転速度がリカバリ回転速度を下回ると予測される場合に限られる。フュエルカットの抑制とフュエルリカバリをこうした限定的条件でのみ実施することで、シフトアップ直後のフュエルリカバリによるショックの発生を防止できる一方で、不必要な燃料噴射による燃料消費の増大も防止できる。
【0056】
図3ー図5を参照して、図2の駆動力制御ルーチンを実行する場合と実行しない場合とで、エンジントルクの変化とショックの発生を比較する。
【0057】
図3は、図2の駆動力制御ルーチンを実行しない場合の足離しアップシフトの結果を示す。図2の駆動力制御ルーチンを実行しない場合でも、リカバリ回転速度はL/U OFF完了判定カウントダウンタイマに応じてL/U ON用リカバリ回転速度とL/U OFF用リカバリ回転速度の間で切り換えられる。言い換えれば、図2の駆動力制御ルーチンからステップS5とS6を省略し、ステップS4の判定が肯定的な場合の行き先をステップS8にしたルーチンを実行する場合に相当する。その結果、図3(h)に示すように、ロックアップクラッチ2Cの解放が完了している場合にはリカバリ回転速度にL/U OFF用リカバリ回転速度を適用し、それ以外の場合にはリカバリ回転速度にL/U ON用リカバリ回転速度を適用して、フュエルカットとフュエルリカバリが行われる。しかし、ここではフュエルリカバリ条件に応じたカウントダウンタイマのリセット操作は行われない。カウントダウンタイマは図3(g)に示すように、カウントダウンによってのみリセットされる。
【0058】
図3(a)に示すように時刻t1にアクセル開度がゼロになると、図3(b)に示すようにL/U ON/OFF判定フラグがOFFになる。これにより、ロックアップクラッチ2Cに解放指令が、自動変速機2Aにアップシフト指令がそれぞれ発せられる。同時に、図3(g)に示すようにL/U OFF完了判定カウントダウンタイマが始動する。一方、アクセル開度がゼロであるため、図3(d)に示すようにエンジン回転速度がL/U ON用リカバリ回転速度の約800rpmを上回っていると、自動的にフュエルカットが実行される。その結果、図3(e)に示すようにエンジントルクが低下する。
【0059】
図3(d)に示すようエンジン回転速度がリカバリ速度を下回ると、フュエルリカバリが実行され、エンジントルクは図3(e)に示すように一時的な急減状態から急増する。この変動は、車両の前後方向の加速度に図3(f)の円で囲った部分に示されるような上下動をもたらし、これが車両にショックを与える要因となる。なお、このケースにおいても、図3(g)に示すように、時刻t4にカウントダウンタイマがゼロになり、ロックアップOFF完了判定フラグがロックアップOFF完了に切り換わった後は、図3(i)に示すようにリカバリ回転速度がL/U OFF用リカバリ回転速度に切り換えられる。
【0060】
図4は、図2の駆動力制御ルーチンを実行した場合の足離しアップシフトの結果を示す。この図は、自動変速機2Aの変速開始に先立ってフュエルカットが実行される例を示す。
【0061】
ここでは、図4(a)ー(c)に示すように、アクセルアクセルペダルが解放され、時刻t1にアクセル開度がゼロになると、ロックアップクラッチ2Cの解放と自動変速機2Aのアップシフトが指示される。この時点では、自動変速機2Aはイナーシャフェーズにないので、ステップS5の判定は否定的となる。そこで、ステップS8でL/U ON用リカバリ回転速度である約800rpmをリカバリ回転速度に設定して、ステップS9でフュエルカットを行なうかどうかの判定が行われる。ここでは、図4(d)に示すように、エンジン回転速度がリカバリ回転速度を上回っているので、ステップS5でフュエルカットが行われる。その結果、エンジントルクが図4(e)に示すように低下する。
【0062】
時刻t2に図4(g)に示すように、ステップS5で行われる自動変速機2Aのイナーシャフェーズ判定が肯定的に転じる。この時、前述の方法で計算したアップシフト後のエンジン回転速度がL/U OFF用リカバリ回転速度の1600rpmを下回っていれば、ステップS5のフュエルリカバリ条件が成立する。フュエルリカバリ条件が成立すると、EUC4はステップS6でL/U OFF完了判定カウントダウンタイマをゼロにリセットし、ステップS7で図4(j)に示すようにリカバリ回転速度をL/U OFF用リカバリ回転速度の約1600rpmに等しく設定する。
【0063】
その結果、次のステップS9の判定が否定的に転じ、ステップS11で直ちにフュエルリカバリが実施される。イナーシャフェーズの開始とともにフュエルリカバリが行われることで図4(e)に示すようにエンジントルクは増大するが、自動変速機2Aの出力トルクには影響しない。したがって、図4(f)に示すように、車両の前後方向の加速度変化をもたらさず、ドライバや同乗者にショックを与えることはない。
【0064】
このように、自動変速機2Aの足離しアップシフトが行われる場合であっても、アップシフト直後にフュエルリカバリが予測される場合には、図4(i)に示すようにリカバリ回転速度をL/U ON用リカバリ回転速度より大きなL/U OFF用リカバリ回転速度に切り換えることでフュエルリカバリの実施タイミングを前倒しして、自動変速機2Aのイナーシャフェーズ中にフュエルリカバリを行う。またフュエルカットが行われていない場合には、フュエルカットを大幅に制限する。そのため、図3のケースで生じたアップシフト直後のフュエルリカバリによる車両のショックは図4(f)に示すように発生せず、ドライバや同乗者が違和感を感じることもない。
【0065】
図5も、図2の駆動力制御ルーチンを実行した場合の足離しアップシフトの結果を示す。図5は図4のケースよりもエンジン回転速度が高い状態で足離しアップシフトが行われ、フュエルカットに先立って自動変速機2Aのアップシフトが開始されるケースである。
【0066】
図5(a)ー(c)に示すように、アクセルアクセルペダルが解放され、時刻t1にアクセル開度がゼロになると、ロックアップクラッチ2Cの解放と自動変速機2Aのアップシフトが指示される。
【0067】
時刻t2にイナーシャフェーズと判定され、ステップS6でL/U OFF完了判定カウントダウンタイマがゼロにリセットされ、ステップS7でリカバリ回転速度がL/U OFF用リカバリ回転速度の約1600rpmへと割り増しされる。ただし、この時点では図5(d)に示すように、エンジン回転速度がリカバリ回転速度をなお上回っているので、この時点でのステップS9の判定は肯定的となり、ステップS10でフュエルカットが続行される。
【0068】
次回以降のルーチン実行においては、ステップS3の判定が肯定的かつステップS4の判定は否定的となるので、リカバリ回転速度はロックアップOFF用のリカバリ回転速度の約1600rpmに維持される。
【0069】
時刻t3になると、図5(d)に示すようにエンジン回転速度がリカバリ回転速度を下回る。これにより、ステップS9の判定が否定的に転じ、ステップS11でフュエルリカバリが行われる。この段階では、自動変速機2Aはイナーシャフェーズを続行しているので、フュエルリカバリが行われることでエンジントルクは増大するが、自動変速機2Aの出力トルクには影響がない。したがって、フュエルリカバリは図5(f)に示すように、車両の前後方向の加速度変化をもたらさず、ドライバや同乗者にショックを与えることはない。
【0070】
時刻t3以後はアクセルペダルが踏み込まれない限り、リカバリ回転速度がロックアップOFF用リカバリ回転速度の約1600rpmに維持されるので、フュエルカットの実行は実質的に阻止される。
【0071】
以上説明した実施形態において、アクセルペダル踏み込み量センサ6がアクセルペダル解放検出手段を構成し、エンジン回転速度センサ8がエンジン回転速度検出手段を構成する。また、ATCU5がアップシフト手段を構成し、ECU4がフュエルカット実行手段、フュエルリカバリ実行手段、フュエルリカバリ予測手段、イナーシャフェーズ判定手段、及びフュエルリカバリ前倒し手段を構成する。
【0072】
なお、図2のステップS11でフュエルリカバリを実行した場合に、フュエルリカバリによりエンジントルクが実際に増大するまでにタイムラグが生じる可能性がある。ステップS5のイナーシャフェーズの判定に用いる変速後のギア段、すなわちN+1速に対応する自動変速機入力回転速度にタイムラグ解消のための所定量の割り増しを加えることで、こうしたタイムラグを補償して、フュエルリカバリによるエンジントルクの増大タイミングを正確に制御することができる。
【0073】
以上説明した実施形態では、足離しアップシフトでフュエルリカバリ条件が成立する場合に、リカバリ回転速度をロックアップOFF用のリカバリ回転速度へと割り増ししている。これにより、フュエルリカバリをロックアップクラッチ2Cの締結/解放と関連付けて制御することができる。しかしながら、ステップS6ではリカバリ回転速度を必ずしもロックアップOFF回転速度に等しく設定する必要はない。要は足離しアップシフトでフュエルリカバリ条件が成立する場合に、フュエルリカバリを前倒しして行われるように、リカバリ回転速度を増大補正すれば良い。
【0074】
また、この実施形態では、フュエルリカバリをリカバリ回転速度の増大補正により前倒している。これにより、燃料インジェクタ1Bのフュエルカットとフュエルリカバリを行うステップS9−S11の基本アルゴリズムに手を加えずに、フュエルカット中の内燃エンジン1にイナーシャフェーズでのフュエルリカバリを行わせることができる。ただし、足離しアップシフトでフュエルリカバリ条件が成立する場合に、フュエルリカバリを指示する信号燃料を燃料インジェクタ1Bに直接出力することももちろん可能である。
【0075】
以上のように、この発明を特定の実施形態を通じて説明して来たが、この発明は上記の実施形態に限定されるものではない。当業者にとっては、その知識範囲の中で上記の実施形態にさまざまな修正や変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 内燃エンジン
1A 吸気スロットル
1B 燃料インジェクタ
2 変速ユニット
2A 自動変速機
2B トルクコンバータ
2C ロックアップクラッチ
3 プロペラシャフト
4 エンジンコントローラ(ECU)
5 自動変速機コントローラ(ATCU)
6 アクセルペダル踏み込み量センサ
7 車速センサ
8 エンジン回転速度センサ
9 シフトセンサ
10 タービンランナ回転速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルの踏み込み量に応動する内燃エンジンの回転を、トルクコンバータと自動変速機とを介して駆動輪に伝達する車両駆動装置において、
前記アクセルペダルの解放を検出するアクセルペダル解放検出手段と、
エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、
車両が走行中に前記アクセルペダルが解放された場合に、前記自動変速機をアップシフトするアップシフト手段と、
前記アクセルペダルが解放された状態で前記エンジン回転速度が所定のリカバリ回転速度以上の場合に前記内燃エンジンへの燃料供給を停止するフュエルカット実行手段と、
前記内燃エンジンへの燃料供給停止中に前記エンジン回転速度が前記リカバリ回転速度を下回ると前記内燃エンジンへの燃料供給を再開するフュエルリカバリ実行手段と、
前記フュエルカット実行手段による燃料供給停止と前記アップシフト手段によるアップシフトとが並行して行われた場合に、前記フュエルリカバリ実行手段による前記内燃エンジンへの燃料供給の再開が行われるかどうかを予測するフュエルリカバリ予測手段と、
自動変速機がイナーシャフェーズにあるかどうかを判定するイナーシャフェーズ判定手段と、
前記フュエルリカバリ予測手段が、前記フュエルリカバリ実行手段による前記内燃エンジンへの燃料供給の再開を予測した場合に、前記フュエルリカバリ実行手段による前記内燃エンジンへの燃料供給の再開を早めて前記自動変速機のイナーシャフェーズで行わせるフュエルリカバリ前倒し手段と、を備えたことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項2】
アップシフト後の変速段の変速比と走行速度とに基づきアップシフト後のエンジン回転速度を予測するエンジン回転速度予測手段をさらに備え、前記予測手段は、前記アップシフト後のエンジン回転速度が前記リカバリ回転速度を下回る場合に、前記フュエルリカバり実行手段による前記内燃エンジンへの燃料供給の再開が行なわれると予測するよう構成される、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記フュエルリカバリ前倒し手段は、前記リカバリ回転速度を割り増しすることで、前記フュエルリカバリ実行手段による前記内燃エンジンへの燃料供給の再開を早めるよう構成される、請求項1または2に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記トルクコンバータのロックアップとロックアップの解放とを行なうロックアップクラッチをさらに備え、前記リカバリ回転速度として、前記ロックアップクラッチの解放状態で適用されるロックアップOFF用リカバリ回転速度と、前記ロックアップクラッチの非解放状態で適用される、ロックアップOFF用リカバリ回転速度より低速のロックアップON用リカバリ回転速度とが選択的に適用されるとともに、前記リカバリ回転速度の割り増しは、前記ロックアップON用リカバリ回転速度からロックアップOFF用リカバリ回転速度への切り替えによって行われるよう構成された、請求項3に記載の車両駆動装置。
【請求項5】
前記イナーシャフェーズ判定手段は、前記自動変速機の出力回転速度を継続する場合の変速前のギア段に対応する前記自動変速機の入力回転速度と、同じ出力回転速度に対する変速後のギア段に対応する前記自動変速機の入力回転速度と、の間に前記自動変速機の実入力回転速度が存在する場合に、イナーシャフェーズにあると判定するよう構成される、請求項1から4のいずれかに記載の車両駆動装置。
【請求項6】
前記イナーシャフェーズ判定手段は、前記自動変速機の実入力回転速度と実出力回転速度とから計算されるギア比が、変速前のギア比と変速後のギア比の間にある場合に、前記自動変速機がイナーシャフェーズにあると判定するよう構成される、請求項1から4のいずれかに記載の車両駆動装置。
【請求項7】
前記変速後のギア段に対応する前記自動変速機の前記入力回転速度にタイムラグ解消のための所定量の割り増しを加えるよう構成される、請求項5に記載の車両駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60048(P2013−60048A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198435(P2011−198435)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】