説明

車体前部構造

【課題】自動車前部にラジエータを支持するシュラウド体を設けた車体前部構造において、フロントサイドフレームを用いることなく、低温の走行風をエンジンルーム内に導いて、確実にエンジンルーム内の冷却性能を向上することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】シュラウドパネル4の枠部41の車両後方側には、左右それぞれの上部位置に、上下方向に延びる導風ダクト部材50を設置している。この導風ダクト部材50は、下端部を閉封した四角筒状の樹脂製部材によって形成されて、シュラウドパネル4の枠部41と腕部42の形状に沿うように、上下方向に延びる上下ダクト51と、その上端において車外側斜め後方に延びる連通ダクトたる傾斜ダクト52とにより構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車前部のエンジンルーム前方でラジエータを支持するシュラウド体(シュラウドパネル)を設けた車体前部構造に関し、特に、エンジンルーム内に走行風を導くことで、冷却性能を向上する車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車前部のエンジンルーム内の冷却性能を如何にして高めるかが問題となっている。
例えば、下記特許文献1では、車両前後方向に延びるフロントサイドフレームを走行風を導入する導入ダクトとして利用し、エンジンルーム内の後方位置にあるバッテリーや排気系に走行風を導き、エンジンルーム内の冷却性能を向上する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許3362895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車におけるフロントサイドフレームは、エンジン等のパワーユニットの支持やフロントサスペンションメンバ等の支持を行い、さらに自動車の前面衝突の際には衝突エネルギーの吸収を行なう、重要な車体部材である。
【0005】
それにも関わらず、前述の特許文献1のフロントサイドフレームに、導入ダクトとしての機能を持たせると、フロントサイドフレームを全域で完全に空洞にする必要が生じ、パワーユニットやサスペンションメンバの支持部材を適切に取り付けることができなくなったり、衝撃吸収のための様々な加工を行なうことに制約が掛かることになり、フロントサイドフレームの本来の機能を果たし得なくなるおそれがある。
【0006】
また、フロントサイドフレームの前端部には、通常、フロントバンパーが取り付けられることから、特許文献1のようにフロントサイドフレーム内に走行風を導くためには、別途フロントサイドフレーム前端部に開口等を設ける必要があるが、こうした開口を設ける場合には、ラジエータの後方位置に開口を設けることになるため、やや高温のラジエータ通過風を導入しなければならないという問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明は、自動車前部にラジエータを支持するシュラウド体を設けた車体前部構造において、フロントサイドフレームを用いることなく、低温の走行風をエンジンルーム内に導いて、確実にエンジンルーム内の冷却性能を向上することができる車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の車体前部構造は、自動車前部のエンジンルームの前方に設けたラジエータと、該ラジエータを囲う枠部を有するシュラウド体とを備えた車体前部構造であって、前記シュラウド体の枠部に、上下方向に延びる閉断面形状の導風ダクトを設け、該枠部の前面に、前記導風ダクトに連通する開口部を形成し、前記導風ダクトの上部に、エンジンルーム後方に向けて開口する開放部を設けたものである。
【0009】
上記構成によれば、ラジエータを支持するシュラウド体の枠部に設けた導風ダクトによって、走行風等を直接自動車前方からエンジンルーム後方に向けて導入することになる。
このため、自動車前方の走行風等を、フロントサイドフレームを利用することなく、またラジエータ通過風を導入せずに、エンジンルーム内に導入することができる。
【0010】
なお、導風ダクトは、シュラウド体に一体的に形成しても良いし、また別体の筒状のダクト部材で構成しても良い。
また、シュラウド体も、エンジンルームの前方でラジエータを支持するものであれば、一般的な金属パネルで形成したものでも、樹脂製部材で形成したものであっても良い。
【0011】
この発明の一実施態様においては、前記開口部を、自動車前面に設けられたフロントグリルに正面視で重複するように設定したものである。
【0012】
上記構成によれば、自動車前面のフロントグリルを通過する走行風を、そのまま導風ダクトに導くことができる。
よって、低温の走行風を確実に導風ダクトに導入することができ、より効果的にエンジンルーム内の冷却性能を向上できる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記シュラウド体が、前記枠部の左右上端部にエプロンレインメンバの前端部に連結される腕部を有しており、該腕部に、前記導風ダクトと連通する閉断面形状の連通ダクトを設け、該連通ダクトの後端部を、エンジンルーム内の高温部に指向するように設定したものである。
【0014】
上記構成によれば、シュラウド体の腕部に設けた連通ダクトによって、導風ダクトからの走行風を、さらにエンジンルーム後方の高温部に導くことになる。
このため、エンジンルーム内の高温部に適切に低温の走行風を導くことができ、高温部を冷却することができる。
よって、エンジンルーム内の冷却性能を、より高めることができる。
【0015】
なお、ここで高温部とは、例えば、エンジンの排気系や、バッテリーや、エンジン制御等を行なうパワートレイン・コントロール・モジュール(PCM)等であり、エンジンルーム内で比較的高温の発熱部位をいう。
また、この連通ダクトも、導風ダクト同様に、シュラウド体に一体的に形成しても良いし、また別体の筒状ダクト部材で構成しても良い。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記シュラウド体の腕部に形成された連通ダクトの後端部と前記高温部の間に、両者を連通する閉断面形状の冷却ダクトを設けたものである。
【0017】
上記構成によれば、冷却ダクトで、導風ダクトと連通ダクトとによって導かれた走行風を、確実にエンジンルーム内の高温部に導くことになる。
【0018】
よって、高温部の冷却をより確実に行なうことができ、効果的に、エンジンルーム内の冷却性能を高めることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記導風ダクトの内部に、車両後方側においてラジエータ側室と車外側室とに仕切る仕切壁を設け、該ラジエータ側室を、ラジエータファンにより吸引されるように構成したものである。
【0020】
上記構成によれば、導風ダクト内部のラジエータ側室をラジエータファンによって吸引することで、導風ダクト内に陰圧が生じ、開口部から自動車前方の空気が吸い込まれることになる。これにより、車外側室にも空気が流れ込み、エンジンルーム内に冷却風を導入することができる。
【0021】
このため、自動車の停車時・低車速走行時であっても、エンジンルーム内に冷却風を導入することができ、冷却性能を高めることができる。
【0022】
よって、自動車の中、高速領域のみならず、低速領域も含めた全領域で、エンジンルーム内の冷却性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、ラジエータを支持するシュラウド体の枠部に設けた導風ダクトによって、自動車前方から走行風等をエンジンルーム後方に向けて導入することになる。
このため、自動車前方の走行風等を、フロントサイドフレームを利用することなく、またラジエータ通過風を導入することなく、エンジンルーム内に導入することができる。
よって、自動車前部にラジエータを支持するシュラウド体を設けた車体前部構造において、フロントサイドフレームを用いることなく、より低温の走行風をエンジンルーム内に導いて、確実にエンジンルーム内の冷却性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
(第一実施形態)
まず、図1〜図8により、第一実施形態について説明する。図1は本発明の車体前部構造が採用された自動車前部の概略正面図、図2は自動車前部のボンネットを除いた平面図、図3は図1のA−A線矢視断面図、図4は図2のB−B線矢視断面図、図5は図2のC−C線矢視断面図、図6はシュラウドパネルの前方斜視図、図7はシュラウドパネルの後方斜視図、図8は導風ダクト部材の単品斜視図である。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の自動車Vの前部には、内部にエンジン1を設置したエンジンルームEを設けている。そして、このエンジンルームEは、図4に示すように、車両前方側をフロントグリル2、フロントバンパー3、及びシュラウドパネル4によって仕切られている。また、車両後方側を上下方向に延びるダッシュパネル5及びカウルパネル6によって仕切られている。
【0026】
また、このエンジンルームEは、図4に示すように上方側を水平方向に延びるボンネット7によって、下方側を同様に水平方向に延びるアンダーカバー8によって、それぞれ仕切られている。なお、図1の9はヘッドライト、10は車幅方向に延びるパンパーレインである。
【0027】
エンジンルームE内に設置されるエンジン1は、クランク軸(図示せず)を車幅方向に向けて配置される、所謂横置きエンジンであり、一般的なI型4気筒エンジンである。また、エンジン1の一側方には、直列位置に変速機11が配置され(図3参照)、この変速機11とエンジン1によって、自動車Vのパワーユニットが構成されている。
【0028】
エンジン1の吸排気系は、図2に示すように、車両前方側に吸気マニホールド12やサージタンク13を備えた吸気系を配置して、図4に示すように車両後方側に排気マニホールド21やNOxを低減する触媒22等を備えた排気系を配置して、所謂前方吸気後方排気レイアウトを採用している。
このうち、排気マニホールド21の上方には、ダッシュパネル5側への熱害を防止するため、遮熱カバー21aを設けている。また、触媒22の下流側には、エンジン1の排ガスを車両後部の排気サイレンサー(図示せず)へ導く排気管24を連結している。
このように、エンジン1後方側に排気系を配置していることから、本実施形態では、エンジン1後方のエンジンルームE内の温度が極めて高くなる。
【0029】
図2に示すように、エンジン1側方の変速機11の上方には、箱型形状のバッテリー25を設置している。このバッテリー25は、重量物ではあるが、メンテナンス性等の問題から、エンジンルームEの上方位置に設置されている。また、このバッテリー25は、後述の冷却ダクトからの冷却風を一時蓄えてバッテリー25周りの雰囲気温度を下げるバッテリーボックス26内に収容されている。また、このバッテリーボックス26の車幅方向外方側には、エンジン制御と変速機制御等を行なうパワートレイン・コントロール・モジュール(PCM)27を設置している。
【0030】
前述のシュラウドパネル4は、樹脂製部材によって形成され、図6に示すように、ラジエータ31やコンデンサー32をその周囲で支持する長方形状の枠部41と、その上端部で車幅方向に延びて車両両端のエプロンレインメンバ33(図2参照)の前端部に連結される腕部42とを備えている。
【0031】
シュラウドパネル4の枠部41は、自動車前方側に膨出する膨出部41aと、腕部42と連結される基部41bとを有し、膨出部41aの内方位置でラジエータ31とコンデンサー32を強固に支持している。
【0032】
また、シュラウドパネル4の枠部41の後面位置には、図7に示すように、ラジエータファン43を略中央に設けた矩形形状の樹脂製のファンシュラウド44を装着している。このファンシュラウド44は、ラジエータファン43の吸い込み効果がラジエータ31の全面に生じるように、ラジエータ31後面の全域を覆うように設置している。
【0033】
シュラウドパネル4の腕部42は、断面略コ字状のメンバ部で構成され、中央の車幅方向に延びる連結部42aと両側端で車両斜め後方に延びる腕本体部42bとからなり、前述のように腕本体部42bの後端でエプロンレインメンバ33の前端部に締結固定されている。これによりシュラウドパネル4が車両前端部に強固に設置されている。
【0034】
シュラウドパネル4の枠部41の車両後方側には、左右それぞれの上部位置に、上下方向に延びる導風ダクト部材50を設置している。この導風ダクト部材50は、図8に示すように、下端部を閉封した四角筒状の樹脂製部材によって形成されて、シュラウドパネル4の枠部41と腕部42の形状に沿うように、上下方向に延びる上下ダクト51と、その上端において車外側斜め後方に延びる連通ダクトたる傾斜ダクト52とにより構成されている。なお、図8は一方の導風ダクト部材50のみを示している。
【0035】
この導風ダクト部材50の前面下部には、走行風等の冷却風を自動車前方から取り込む前端開口部50aが開設され、上端部後部には、取り込んだ冷却風をエンジンルームE後方に導く車両後方に開放した後端開口部50bが開設されている。
【0036】
そして、この前端開口部50aに対応するシュラウドパネル4の枠部41の表面には、図6に示すように上下方向に水平方向に延びる複数のスリット43…が形成され、シュラウドパネル4の前方側から走行風等を取り込むように構成している。
【0037】
また、このスリット43…と前端開口部50aは、図1に示すように、自動車の車幅方向中央に設置されるフロントグリル2と正面視で重複するように設定している。このため、車両前方側から走行風をより確実に導風ダクト部材50に取り入れることができる。
【0038】
なお、このように直接フロントグリル2から外気を取り入れることで、雨や泥水等も、同時に導風ダクト部材50内に取り込むことになるが、導風ダクト部材50に上下ダクト51を形成することで、一旦、走行風を上昇させて車両後方側に導くように構成しているため、エンジンルームE内に泥水等が取り込むのを最小限にしている。
【0039】
また、このようにシュラウドパネル4の枠部41にスリット43を設けて、シュラウドパネル4の前方側から走行風を取り込むように構成しているため、ラジエータ通過風を取り込むことなく、より低温の走行風をエンジンルームE内に取り込むことができる。
【0040】
左右の導風ダクト部材50の後端開口部50bには、図2に示すように、それぞれ車両前後方向に延びる略四角筒状の樹脂製の冷却ダクト53,54を連結している。
エンジン側(図2左側)の冷却ダクト53は、エンジン1側方をエンジンよりもさらに後方位置まで延びて、エンジン後方位置の排気系21,22,24を冷却するように、その後端部53aを排気系21,22,24に向けて開口している(図4参照)。
【0041】
一方、変速機側(図2右側)の冷却ダクト54は、そのまま車両後方側に延びて、バッテリーボックス26に連結され、バッテリー25を冷却するように、バッテリーボックス26内に冷却風を導入するように構成している(図5参照)。
【0042】
このように構成される本実施形態の車体前部構造における、走行風のエンジンルームE内への流れ込み経路について、図3〜図5を利用して説明する。
自動車の高速・中速走行時には、図3に示すように、自動車前端のフロントグリル2を通過した走行風を、シュラウドパネル4のスリット43を通過させて前端開口部50aからそのまま導風ダクト部材50に取り入れることになる。この走行風は、ラジエータ31を通過していないため、低温のまま取り入れることができる。
【0043】
こうして取り入れた走行風は、図4、図5に示すように、導風ダクト部材50の上下ダクト51内を上昇して、傾斜ダクト52内を流れ、車両後方側に導かれる。
このうち、エンジン側の冷却ダクト53では、図4に示すように、走行風をエンジン1の車両後方側まで導いて、排気系21,22,24周辺に放出する。これにより、エンジン1後方の排気系21,22,24を確実に冷却することができ、エンジンルームE内の冷却性能を向上することができる。
【0044】
一方、変速機側の冷却ダクト54では、図5に示すように、走行風をバッテリーボックス26内に導き、バッテリーボックス26内に充填させる。これにより、バッテリーボックス26内が低温の走行風で満たされ、バッテリー25周りの雰囲気温度が低下する。このため、バッテリー25が冷却され、バッテリー性能を向上することができる。
【0045】
なお、バッテリーボックス26の上部には、排出口26aが形成され、一時的に満たされた走行風を、バッテリーボックス26外部に排出するように構成している。
【0046】
また、バッテリーボックス26内を低温の走行風で満たすことで、バッテリーボックス26自体も低温になるため、バッテリーボックス26に設置したPCM27についても、加熱を防ぐことができ、PCM27の加熱による劣化等を防げ、PCM27の制御性能を向上することができる。
【0047】
以上のように、本実施形態の車体前部構造では、シュラウドパネル4の枠部41の車両後方側に、上下方向に延びる閉断面形状の導風ダクト部材50を設け、その枠部41の前面に、前記導風ダクト部材50に連通するスリット43を形成し、導風ダクト部材50の上部に、エンジンルームE後方側に導く後端開口部50bを設けたことで、シュラウドパネル4の枠部41に設置した導風ダクト部材50によって、走行風を自動車前方からエンジンルームE後方側に向けて導入することになる。
このため、自動車前方の走行風を、フロントサイドフレーム60(図3参照)を利用することなく、またラジエータ通過風を導入せずに、エンジンルームE内に導入することができる。
【0048】
よって、自動車前部にラジエータ31を支持するシュラウドパネル4を設けた車体前部構造において、フロントサイドフレーム60を用いることなく、より低温の走行風をエンジンルームE内に導いて、確実にエンジンルームE内の冷却性能を向上することができる。
【0049】
また、この実施形態では、導風ダクト部材50に走行風を導入するスリット43を、自動車前面に設けられたフロントグリル2に正面視で重複するように設定したことで、自動車前面のフロントグリル2を通過する走行風を、そのまま導風ダクト部材50に導くことができる。
【0050】
よって、低温の走行風を確実に導風ダクト部材50に導入することができ、より効果的にエンジンルームE内の冷却性能を向上できる。
【0051】
また、この実施形態では、シュラウドパネル4がエプロンレインメンバ33の前端部に連結される腕本体部42bを有しており、その腕本体部42bの下方に導風ダクト部材50の傾斜ダクト51を設置して、傾斜ダクト51の後端部をエンジンルームE内の高温部、例えばエンジン1の排気系21,22,24等を指向するように設定したことで、導風ダクト部材50の上下ダクト51からの走行風を、適切にエンジンルームEの後方側のエンジン1の排気系21,22,24等に導くことになる。
【0052】
よって、エンジンルームE内の高温部である、エンジン1の排気系21,22,24や、バッテリー25、エンジン1制御等を行なうPCM27等に、適切に走行風を導くことができるため、適切に高温部を冷却することができ、エンジンルームE内の冷却性能を、より高めることができる。
【0053】
また、この実施形態では、シュラウドパネル4の腕本体部42bの導風ダクト部材50の傾斜ダクト51の後端部と高温部の間に、両者を連通する閉断面形状の冷却ダクト53,54を設けたことで、導風ダクト部材50によって導かれた走行風を、冷却ダクト53,54で確実にエンジンルームE内の高温部に導くことになる。
【0054】
よって、高温部の冷却をより確実に行なうことができ、効果的に、エンジンルームE内の冷却性能を高めることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、冷却する高温部をエンジン1の排気系21,22,24、バッテリー25、さらには、エンジン制御等を行なうPCM27としたが、その他、ブレーキ制御の制御ユニットや油圧制御機器、さらには、ハイブリッド車における電動モータやクラッチ装置等などであってもよい。
【0056】
また、導風ダクト部材50も、別体のダクト部材ではなく、シュラウドパネル4に一体的に形成するものであっても良い。また、逆に導風ダクト部材50を上下ダクト部材と傾斜ダクト部材の二部品で構成してもよい。
【0057】
さらに、シュラウドパネル4も、エンジンルームEの前方でラジエータ31を支持するものであれば、一般的な金属パネルで形成したものであってもよい。
【0058】
(第二実施形態)
次に、図9〜11により、第二実施形態について説明する。図9は第二実施形態の図3に対応する断面図、図10は左側前端部の詳細断面図、図11は導風ダクト部材の単品斜視図である。なお、図示しない構造については、前述の第一実施形態と同様であり、また、図示した構造についても、第一実施形態と同様の構造については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
本実施形態は、図11に示すように、導風ダクト部材150の内部の車両後方側を、下部に設けた仕切壁160によって、車幅方向中央側のラジエータ側室161と車幅方向外方側の車外側室162とに仕切り、このうち、ラジエータ側室161をラジエータファン43(図9参照)によって吸引するように構成したものである。
【0060】
このように、ラジエータ側室161を吸引することで、走行風が発生しないような低速走行時や停車時においても、導風ダクト部材150内に空気の流れを生じさせることが可能となり、自動車前方の比較的低温の空気を、エンジンルームE内に冷却風として取り込むことができる。
【0061】
具体的には、前述のように、導風ダクト部材150の上下ダクト内部に、上下方向に延びる平板状の仕切壁160を立設し、その仕切壁160の上端部と側壁とを連結する水平壁163を設けることで、区画されたラジエータ側室161を形成し、そのラジエータ側室161の側壁に吸込み口164を開設している(図11参照)。
そして、図9に示すように、ファンシュラウド44の両側端部に、導風ダクト部材150の後方位置まで延びる延設部44aを設けることで、ラジエータファン43による吸込み効果(陰圧)がラジエータ側室161に生じるように構成している。
【0062】
このように構成したことで、図10に示すように、ラジエータファン43を作動させると、ファンシュラウド44内には陰圧が生じ、車両前方側のラジエータ31側から車両後方側のエンジンルームE側に空気の流れが生じる。
この際、ファンシュラウド44に延設部44aを設け、ラジエータ31側室に吸込み口164を開設していることから、ラジエータ側室161にも陰圧が生じる。この陰圧により、シュラウドパネル4前方の空気が導風ダクト部材150内に流れ込むことになり、ラジエータ側室161のみならず、車外側室162にも空気が流れ込む。このため、車外側室162から上下ダクト151、傾斜ダクト152を通じて、冷却ダクト53,54に空気の流れが生じて、車両前方側の空気が冷却風としてエンジン1の排気系21,22,24等に導かれることになる。
【0063】
よって、走行風の生じない停車時や低速走行時であっても、確実に空気の流れが生じ、エンジンルームE内の高温部に冷却風を導くことができるのである。
【0064】
このように、本実施形態によると、導風ダクト部材150の内部に、車両後方側においてラジエータ側室161と車外側室162とに仕切る仕切壁160を設け、ラジエータ側室161を、ラジエータファン43により吸引されるように構成したことにより、ラジエータ側室161をラジエータファン43によって吸引することで、導風ダクト部材150内に陰圧が生じ、スリット43から自動車前方の空気が吸い込まれることになる。
これにより、車外側室162にも車両前方側の空気が流れ込み、エンジンルームE内に冷却風を導入することができ、自動車の停車時・低車速走行時であっても、エンジンルームE内に冷却風を導入することができ、冷却性能を高めることができる。
【0065】
よって、ラジエータファン43作動による陰圧も利用して、自動車の中・高速領域のみならず、低速領域も含めた全領域で、エンジンルームE内の冷却性能を高めることができる。
【0066】
また、ラジエータファン43は、一般的にラジエータ水温を検知するサーモスタット(図示せず)等からの信号で作動するが、エンジンルームE内の温度とラジエータ水温は、ほぼ同様の関係で上下動するため、エンジンルームE内の温度が高まる適切な時期に、ラジエータファン43の陰圧による冷却風導入ができるといった効果も得ることができる。
【0067】
また、さらに適切な時期にラジエータファン43を作動させて、エンジンルームE内に冷却風を導入したい場合には、車速に応じてラジエータファン43を作動させるように構成してもよい。すなわち、停車時や低速走行時にラジエータファン43を作動させることで、エンジン水温とは関係なく、常にエンジンルームE内に冷却風を導入することができるのである。
その他の作用効果については、前述の第一実施形態と同様である。
【0068】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明のシュラウド体は、シュラウドパネル4に対応し、
以下、同様に、
導風ダクトは、導風ダクト部材の上下ダクト51,151に対応し、
連通ダクトは、傾斜ダクト52,152に対応し
開口部は、スリット43に対応し、
開放部は、後端開口部50bに対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる車体前部構造に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第一実施形態の自動車前部の概略正面図。
【図2】自動車前部のボンネットを除いた平面図。
【図3】図1のA−A線矢視断面図。
【図4】図2のB−B線矢視断面図。
【図5】図2のC−C線矢視断面図。
【図6】シュラウドパネルの前方斜視図。
【図7】シュラウドパネルの後方斜視図。
【図8】導風ダクト部材の単品斜視図。
【図9】第二実施形態の図3に対応する断面図。
【図10】第二実施形態の左側前端部の詳細断面図。
【図11】第二実施形態の導風ダクト部材の単品斜視図。
【符号の説明】
【0070】
E…エンジンルーム
4…シュラウドパネル(シュラウド体)
31…ラジエータ
41…枠部
42…腕部
43…スリット(開口部)
50,150…導風ダクト部材
51,151…上下ダクト(導風ダクト)
52,152…傾斜ダクト(連通ダクト)
53,54…冷却ダクト
160…仕切壁
161…ラジエータ側室
162…車外側室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車前部のエンジンルームの前方に設けたラジエータと、該ラジエータを囲う枠部を有するシュラウド体とを備えた車体前部構造であって、
前記シュラウド体の枠部に、上下方向に延びる閉断面形状の導風ダクトを設け、
該枠部の前面に、前記導風ダクトに連通する開口部を形成し、
前記導風ダクトの上部に、エンジンルーム後方に向けて開口する開放部を設けた
車体前部構造。
【請求項2】
前記開口部を、自動車前面に設けられたフロントグリルに正面視で重複するように設定した
請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記シュラウド体が、前記枠部の左右上端部に、エプロンレインメンバの前端部に連結される腕部を有しており、
該腕部に、前記導風ダクトと連通する閉断面形状の連通ダクトを設け、
該連通ダクトの後端部を、エンジンルーム内の高温部に指向するように設定した
請求項1又は2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記シュラウド体の腕部に形成された連通ダクトの後端部と前記高温部の間に、両者を連通する閉断面形状の冷却ダクトを設けた
請求項3記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記導風ダクトの内部に、車両後方側においてラジエータ側室と車外側室とに仕切る仕切壁を設け、
該ラジエータ側室を、ラジエータファンにより吸引されるように構成した
請求項1〜4記載の車体前部構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−55274(P2007−55274A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239299(P2005−239299)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】