説明

車輌用エンジン

【課題】クラッチ操作とチェンジ操作を連続して行う車輌用エンジンにおいて、チェンジ機構及びエンジンのコンパクト化、特に前後方向の寸法のコンパクト化を図ることを目的としている。
【解決手段】クランク軸(9)の軸芯(O1)と変速出力軸(16)の軸芯(O2)とを結ぶ基準線(M)で仕切られる一方の区画、たとえば上方に変速入力軸(15)を配置し、下方に、チェンジドラム(20)と、チェンジ軸(18)と、該チェンジ軸(18)に装着されてチェンジドラム(20)を駆動するチェンジアーム組立体(3)と、チェンジ軸(18)に装着されて変速入力軸(15)上のクラッチをレリーズ操作するクラッチアーム(44)とを配置する。また、クランク軸(9)の軸芯(O1)と変速出力軸(16)の軸芯(O2)との前後方向間に、変速入力軸(15)、チェンジドラム(20)、チェンジ軸(18)、チェンジアーム組立体(3)及びクラッチアーム(44)を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輌用エンジンに関し、特にエンジン内の各種軸の配置に関する。
【背景技術】
【0002】
図22は従来の車輌用エンジンを示しており、チェンジ軸208の回動によりクラッチ操作とチェンジ操作とを順次行う車輌用エンジンである。この図22において、クランクケース201の前面には前方に突出するシリンダ202が締結され、クランクケース201の後部には変速機ケース203がクランクケース201と一体に形成されている。クランクケース201内にはクランク軸204が配置され、変速機ケース203内には、変速入力軸205、変速出力軸206、チェンジドラム207、前記チェンジ軸208、チェンジアーム組立体(チェンジアーム)210及びクラッチアーム211等が配置されている。
【0003】
変速出力軸206は、変速機ケース203の後部に配置されると共にその軸芯O2がクランク軸204の軸芯O1と概ね同じ高さに位置しており、クランク軸204の軸芯O1と変速出力軸206の軸芯O2との前後方向間X内に、変速入力軸205と、チェンジドラム207と、チェンジ軸208とが配置されている。また、クランク軸204の軸芯O1と変速出力軸206の軸芯O2とを結ぶ線Mを仮に軸配置の基準線(面)とした場合、変速入力軸205はその軸芯O3がほぼ基準線Mと同じ高さに配置され、チェンジドラム207は基準線Mより上側に配置され、チェンジ軸208は基準線Mより下側に配置されている。チェンジアーム組立体210は、チェンジ軸208に固着されたアーム本体215と、該アーム本体215の先端部にピン216を介して回動可能に連結されたチェンジポール217とを備え、チェンジ軸208から基準線Mを通過して上方のチェンジドラム207に向かって「L」字形状に延びている。チェンジドラム207には軸長方向の端面に駆動プレート220が固着され、該駆動プレート220には周方向に等間隔をおいて駆動ピン221が設けられている。
【0004】
チェンジポール217は、ポール長さ方向に所定間隔を置いて一対の係合爪223、224を有しており、該係合爪223、224は、チェンジポール217のポール長さ方向の移動により駆動ピン221に係合し、チェンジドラム207を所定の回動角度だけ回動するようになっている。
【0005】
各係合爪223、224は、チェンジ操作初期の遊び用及びクラッチレリーズ用のストロークを確保するために、それぞれ対向する駆動ピン221、221に対して、ポール長さ方向にそれぞれ所定の隙間Su、Sdを隔てて対向している。隙間Suはシフトアップ操作用、隙間Sdはシフトダウン操作用である。
【0006】
クラッチアーム211は先端部に凹部211aを有しており、一方、変速入力軸205の端部にはクラッチ(図示せず)が装着され、該クラッチのレリーズ用カムプレート225に設けられたピン226に、前記クラッチアーム211の先端凹部211aが係合している。
【0007】
なお、チェンジ軸208の他端部には、図示しないがチェンジレバー(チェンジペダル)等の変速操作部が設けられている。
【0008】
図22の変速機構の作動を簡単に説明すると、チェンジレバーの踏み込み操作等によりチェンジ軸208をたとえば矢印U方向に回動すると、チェンジアーム210及びクラッチアーム211がチェンジ軸208と同方向に回動し、まず、クラッチアーム211でカムプレート225を回動することによりクラッチを切断する。クラッチ切断作動中、チェンジポール217はアーム本体215の回動によりポール長さ方向に移動するが、一方の係合爪223と該係合爪223に対向する駆動ピン221との隙間Suを移動するので、チェンジドラム207は回動せず、変速動作は開始しない。
【0009】
クラッチ切断後、さらにチェンジ軸208が回動すると、一方の係合爪223が対向する駆動ピン221に係合し、該駆動ピン221を介してチェンジドラム207を所定角度だけ回動する。これにより、周知のように、図示しない変速機構のシフトフォークを移動し、変速する。
【0010】
図22のような軸配置の車輌用エンジンの他に、クランク軸の軸芯と変速出力軸の軸芯とを結ぶ基準線とほぼ同じ高さに、チェンジドラムの軸芯を配置した構造の車輌用エンジンも公知である(特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開平9−236175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図22の従来例のように、クランク軸204と変速入力軸205と変速出力軸206とを、ほぼ同一の基準線M上に並べて配置し、かつ、チェンジドラム207とチェンジ軸208とを、それぞれ変速機ケース203の上端近傍位置と下端近傍位置に離して配置し、また、チェンジアーム組立体210を変速機ケース203の下端近傍のチェンジ軸208から変速機ケース203の上端近傍のチェンジドラム207までL字形に配置していると、チェンジアーム組立体210が大形化すると共に、エンジンの前後方向の寸法も増大する。特に、チェンジ操作時の遊び用のストローク及びクラッチレリーズ用のストロークを確保するために、チェンジポール217自体が長くなると、エンジンの前後方向の寸法が一層増大する。
【0012】
本発明の目的は、車輌用エンジンのチェンジアーム等のチェンジ機構の小形コンパクト化並びに車輌用エンジンの前後方向の寸法のコンパクト化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本願請求項1記載の発明は、変速機構を備え、変速操作部の操作によってチェンジ軸を回動することにより、クラッチ操作とチェンジ操作とを順次行う車輌用エンジンにおいて、クランク軸の軸芯と変速出力軸の軸芯とを結ぶ基準線で仕切られる一方の区画に変速入力軸を配置し、他方の区画に、チェンジドラムとチェンジ軸とを配置している。
【0014】
上記構成によると、チェンジ軸と、該チェンジ軸にチェンジアーム等を介して連動連結されるチェンジドラムとが、前記基準線に対し同じ側の区画に配置されているので、チェンジ機構をコンパクトにできる。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車輌用エンジンにおいて、前記基準線により上下に仕切られる上方又は下方の区画のうち、一方の区画に前記変速入力軸を配置し、他方の区画に、前記チェンジドラムと、前記チェンジ軸と、該チェンジ軸に装着されて前記チェンジドラムを駆動するチェンジアームと、前記チェンジ軸に装着されて前記変速入力軸上のクラッチをレリーズ操作するクラッチアームとを配置している。
【0016】
上記構成によると、クランク軸と変速機ケースの後部に配置される変速出力軸との前後方向の間隔(距離)を短くし、かつ、チェンジアームを小形化することができ、エンジンの前後方向の寸法がコンパクト化になる。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の車輌用エンジンにおいて、クランク軸の端部に遠心式自動クラッチを装着し、変速入力軸の端部に遠心式自動クラッチから動力伝達されるマニュアル式クラッチを装着し、該マニュアル式クラッチのレリーズ作動部に、クラッチアームを連結している。
【0018】
上記構成によると、エンジン排気量の増加によりクラッチ及びギヤ等を大形化した場合でも、エンジン自体のコンパクト性を維持することができる。
【0019】
請求項4載の発明は、請求項2又は3記載の車輌用エンジンにおいて、チェンジ軸は、クランクケースの後部に配置された変速出力軸のほぼ下方位置に配置し、チェンジアームはチェンジ軸から前上方へ向けて突出させている。
【0020】
上記構成によると、チェンジアーム等のチェンジ機構をさらにコンパクトに配置できる。
【発明の効果】
【0021】
要するに本発明によると、クランク軸の軸芯と変速出力軸の軸芯とを結ぶ基準線で仕切られる一方の区画にチェンジドラムとチェンジ軸とを配置し、他方の区画に、変速入力軸を配置したので、チェンジ機構の小形コンパクト化が達成でき、また、前記基準線によりクランクケース内を上下に仕切る場合には、エンジンの前後方向の寸法のコンパクト化を達成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[本発明の実施の形態]
図1〜図21は本発明による車輌用エンジンを自動二輪車に搭載した例であり、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は自動二輪車の左側面図(ライダーから見て左側の側面図)であり、前後の車輪5、8間のフレーム14にエンジンEを搭載しており、該エンジンEは、クランクケース1と、該クランクケース1の前面に順次締結されてほぼ水平状に前方に突出するシリンダ6及びシリンダヘッド6aと、クランクケース1の後部に一体に形成された変速機ケース7を備えている。クランクケース1内には車体の水平左右方向に延びるクランク軸9を備え、変速機ケース7内の後部には、クランク軸9と平行な変速出力軸16を備え、該変速出力軸16と後車軸の間を、スプロケット及びチェーン等よりなるチェーン伝動装置10を介して連動連結している。変速機ケース7内の下端部にはチェンジ軸18が配置され、該チェンジ軸18の左端部にはチェンジレバー(チェンジペダル)59が固着されている。チェンジレバー59の前端にはロッド状の前端踏み部59aが設けられ、チェンジレバー59の後端には板状の後端踏み部59bが設けられている。
【0023】
[各軸等のレイアウト]
図2は、クランクケース1の右側クランクケースカバー2(図4参照)を取り外すと共に、クランクケースカバー2内の内臓物を省いて示す右側面図であり、この図2において、変速機ケース7内には、前記変速出力軸16及びチェンジ軸18と共に、変速入力軸15、シフトフォーク支持軸17、チェンジドラム20、キック用スタータ軸21及びオイルポンプ軸13等がクランク軸9と平行に配置されており、変速出力軸16の軸芯O2はクランク軸9の軸芯O1とほぼ同じ高さに位置している。
【0024】
変速入力軸15、チェンジ軸18及びチェンジドラム20は、クランク軸9の軸芯O1と変速出力軸16の軸芯O2との前後方向間X内に配置されており、また、クランク軸9の軸芯O1と変速出力軸16の軸芯O2とを結ぶ線(面)Mを軸高さの基準線(基準面)とした場合、変速入力軸15は基準線Mより上方に配置され、チェンジドラム20とチェンジ軸18は、基準線Mよりも下方に配置されている。さらに具体的には、チェンジ軸18はチェンジドラム20よりも後下方位置であって、前述のようにクランクケース1の下端近傍に配置されている。
【0025】
図3は、図2と同様に右側クランクケースカバー2を取り外した右側面図であり、後述するチェンジアーム組立体3及びクラッチレリーズ機構4を実線で示している。この図3において、クランク軸9の右端部には遠心式自動クラッチ11が装着され、変速入力軸15の右端部には多板式摩擦クラッチ12が装着され、遠心式自動クラッチ11の出力側の小径のギヤ42が、多板式摩擦クラッチ12の大径の入力ギヤ41に噛み合っており、該ギヤ42と前記入力ギヤ41とを介して遠心式自動クラッチ11から多板式摩擦クラッチ12に動力を伝達するようになっている。チェンジ軸18には、チェンジドラム20に向かって前上方に延びるチェンジアーム組立体(チェンジアーム)3と、多板式摩擦クラッチ12のカム式のクラッチレリーズ機構4に向かって延びるクラッチアーム(レリーズアーム)44が固着されている。
【0026】
[多板式摩擦クラッチの構造]
図4は図2のIV-IV断面展開図であり、この図4において、多板式摩擦クラッチ12は、複数の摩擦板31を軸長方向移動可能に支持すると共に変速入力軸15に固着されたインナーハブ32と、前記摩擦板31に対して軸長方向に交互に配置された複数のクラッチ板33を軸長方向移動可能に支持すると共にクランク軸9に相対回転可能に支持されたクラッチアウター35と、前記摩擦板31及びクラッチ板33を軸長方向に押圧するプレッシャ部材36と、該プレッシャ部材36をクラッチ接続方向(矢印C2方向)に付勢するクラッチばね38と、プレッシャ部材36に固着されると共にクラッチばね38を圧縮状態に保持するばね受け兼プッシュ部材39と、該プッシュ部材39をクラッチばね38の弾性力に抗してクラッチ切断方向(矢印C1方向)に押し動かす前記クラッチレリーズ機構4を備えており、プレッシャ部材36とインナーハブ32のフランジ部32aとの間で前記摩擦板31とクラッチ板33とを挟圧し、クラッチ接続状態としている。
【0027】
図5は、多板式摩擦クラッチ12のクラッチレリーズ機構4の拡大断面図であり、該クラッチレリーズ機構4は、前記プッシュ部材39の内周面に嵌着されたレリーズ軸受45と、該レリーズ軸受45の内輪の内周面に嵌着されたプッシュ軸46と、クランクケースカバー2に固着されると共に前記プッシュ軸46を軸長方向移動可能かつ回動可能に嵌合支持する支持軸47と、該支持軸47に螺合したスリーブ48と、前記プッシュ軸46に固着された可動側カムプレート50と、前記スリーブ48に固着された固定側カムプレート51と、両カムプレート50、51間に挟持された複数のカム用の鋼球52を備えている。
【0028】
可動側カムプレート50は、プッシュ軸46と一体的に回動可能、かつ、軸長方向移動可能であり、径方向の外向に突出する操作用のアーム部50aを一体に有し、該アーム部50aの先端に固着されたピン49に、前記クラッチアーム44の先端凹部44aが係合している。固定側カムプレート51には、径方向の外方に突出する回り止め用のアーム部51aが形成され、該アーム部51aに固着された回り止めピン53がクランクケースカバー2のピン孔54に挿入され、これにより固定側カムプレート51の回動を阻止している。
【0029】
図6は、図5のVI-VI断面拡大展開図であり、両カムプレート50、51には軸長方向に対向するV形のカム面50b、51bがそれぞれ形成され、非レリーズ操作時に鋼球52は両カム面50b、51b間に挟持されており、可動側カムプレート50が固定側カムプレート51に対していずれの回動方向B1、B2に回動した場合でも、鋼球52は可動側カムプレート50と同方向に転動し、両カム面50b、51bの底部から平面部側へ移動することにより、可動側カムプレート50をクラッチ切断方向(矢印C1方向)に押し動かすようになっている。
【0030】
[ギヤ式の変速機構及チェンジアーム組立体]
図4において、変速入力軸15は、複数の駆動側の変速ギヤ23を備えると共にシフトスリーブ27が軸長方向移動可能に嵌合し、変速出力軸16も複数の被動側の変速ギヤ24を備えると共にシフトスリーブ28が軸長方向移動可能に嵌合しており、シフトフォーク支持軸17には、変速入力軸15のシフトスリーブ27の外周溝に係合するシフトフォーク25と、変速出力軸16のシフトスリーブ28の外周溝に係合するシフトフォーク26がそれぞれ軸長方向移動可能に嵌合し、各シフトフォーク25、26の駆動ピン25a、26aが、チェンジドラム20の外周面に形成されたカム溝60にそれぞれ係合している。変速出力軸16の左端部には、前記後輪駆動用チェーン伝動装置10の出力スプロケット29が固着されている。
【0031】
チェンジドラム20は、クランクケース1に軸受61を介して回動可能に支持されており、チェンジドラム20の回動により、外周カム溝60を介してシフトフォーク25、26を軸長方向に移動し、ギヤ式の変速機構を変速するようになっている。チェンジドラム20の右端面には、クラッチ室62内に位置する駆動プレート63が固着されている。
【0032】
図10は、非チェンジ操作時のチェンジドラム20の右側面図であり、チェンジドラム20に固着された花弁形の前記駆動プレート63には、複数本、たとえば5本の駆動ピン65が周方向に等間隔を置いて固着されており、駆動プレート63の外周端縁には、前記駆動ピン65と同数の位置決め凹部63aが周方向に等間隔をおいて形成されている。駆動プレート63の下方には位置決めレバー66が配置されており、該位置決めレバー66は、下端のレバー軸67がクランクケース1等に回動可能に支持されると共に先端部にローラ部66aを有し、付勢ばね68によりローラ部66aが駆動プレート63の外周縁に当接している。すなわち、各変速段位のチェンジドラム20の回動位置において先端ローラ部66aが対応する凹部63aに係合し、チェンジドラム20を所定位置に位置決めするようになっている。
【0033】
図7はチェンジ軸18及びチェンジアーム組立体3の分解斜視図であり、前述のように、チェンジ軸18の左端部にはチェンジレバー59が固着され、右端部にはクラッチレリーズ用のクラッチアーム44が固着され、該クラッチアーム44から軸長方向に一定の間隔を置いた左方にチェンジアーム組立体3が設けられている。チェンジレバー59は、前端踏み部59aを下方へ踏み込むことにより、チェンジ軸18をシフトアップ方向(矢印U方向)に回動し、前端踏み部59aを押し上げるか、または後端踏み部59b踏み込むことにより、チェンジ軸18をシフトダウン方向(矢印D方向)に回動するようになっている。θuはチェンジレバー59のシフトアップ操作時の最大操作ストロークであり、たとえばほぼ14°である。θdはチェンジレバー59のシフトダウンプ操作時の最大操作ストロークであり、たとえばほぼ18.5°である。
【0034】
チェンジアーム組立体3は、チェンジ軸18に固着された金属板製のアーム本体71と、該アーム本体71に遊動可能に連結支持される金属板製の遊動部材72と、該遊動部材72をアーム本体71に対して遊動前の待機位置に維持する一対のコイルばね73、74と、アーム本体71を非チェンジ操作時の原位置に戻すリターンコイルばね75と、該リターンコイルばね75と前記遊動部材72との間に配置された係合防止板78とを備えており、アーム本体71及び遊動部材72には、アーム本体71に対して遊動部材72を遊動可能に連結支持するための第1の遊動支持部81と第2の遊動支持部82とが設けられている。
【0035】
第1の遊動支持部81は、アーム本体71の径方向の外周端部近傍に形成された第1の遊動用孔84と、遊動部材72に固着されて第1の遊動用孔84に周方向の隙間(遊び)を有するように挿入される第1の遊動ピン85とを備えている。第2の遊動支持部82は、アーム本体71の第1の遊動用孔84よりも径方向内方側に固着された第2の遊動ピン86と、遊動部材72に形成されると共に前記第2の遊動ピン86が周方向に隙間(遊び)を有するように挿入される第2の遊動用孔87を備えている。第1の遊動ピン85の先端部には、抜け止め用として径の大きなフランジ85aが一体に形成され、また、第2の遊動ピン86の先端にも抜け止め用の部分円弧状のフランジ部86aが形成されている。
【0036】
アーム本体71の径方向の外周端の周方向両端部には、それぞればね係合孔88を有する突起89が形成され、一方、遊動部材72の径方向外周端の周方向両端部にもばね係合孔90が形成され、アーム本体71の各ばね係合孔88と遊動部材72の各ばね係合孔90に亘って、前記一対のコイルばね73、74がそれぞれ張設されている。
【0037】
アーム本体71の第2の遊動ピン86より径方向の内方側には、アーム本体71の最大回動量を規制するための円弧形の長孔91が形成され、遊動部材72には、前記長孔91に対応する位置に、第2の遊動用孔87から径方向の内方に延びるピン挿通孔92が形成され、また、係合防止板78にも円弧形のピン挿通孔93が形成されている。前記リターンコイルばね75は、チェンジ軸18に巻装されると共に、両端部75a、75bが互いに平行な状態で径方向の外方へ直線状に延びている。クランクケース1には、遊動部材72の回動支点機能を有すると共にアーム本体71の最大回動量を規制する支点兼回動量規制ピン94が固着されており、該支点兼回動量規制ピン94は軸長方向の右方へ延び、前記リターンコイルばね75の直線状両端部75a、75b間、係合防止板78のピン挿通孔93及び遊動部材72のピン挿通孔92を通過して、アーム本体71の長孔91内に至っている。前記遊動部材72のピン挿通孔92の周方向の幅は概ね支点兼回動量規制ピン94の外径に対応する寸法となっている。
【0038】
遊動部材72の径方向の外周端部には、径方向の内方に折れ曲がる折り曲げ部95が一体に形成されており、該折り曲げ部95には、一対のチェンジドラム駆動用の係合爪(又は係合凹部)96、97が周方向に所定間隔を置いて対向するように形成されている。矢印D方向側(上側)の係合爪96はシフトアップ用であり、矢印U方向側(下側)の係合爪97はシフトダウン用である。
【0039】
遊動部材72の径方向の外方近傍位置には、図3のようにチェンジ操作時のチェンジドラム20の飛び越し(オーバー回動)防止用に単一のストッパー56が配置され、クランクケース1に固着されている。前記ストッパー56は、非チェンジ操作時のチェンジアーム組立体3の周方向のほぼ中央位置に配置されている。
【0040】
図8は、非チェンジ操作時、すなわちチェンジ軸18の回動角度が0°の時のチェンジアーム組立体3及びクラッチレリーズ機構4の状態を示している。ただし、第1の遊動ピン85のフランジ85aは省略してある。この図8の状態において、アーム本体71は、リターンコイルばね75により第2の遊動ピン86を介して回動前の原位置に維持されており、遊動部材72は、両コイルばね73、74によりアーム本体71に対して遊動前の待機位置に維持されている。クラッチアーム44は、先端凹部44aが、クラッチ接続状態時の可動側カムプレート50の突起50aのピン49に係合している。
【0041】
図8に示す非チェンジ操作時の第1の遊動支持部81の状態は、第1の遊動用孔84の周方向の各端縁84a、84bが、第1の遊動ピン85に対してそれぞれ周方向に一定の隙間(遊び)Su1、Sd1を隔てて対向している。矢印D方向側(上側)の端縁84aと第1の遊動ピン85との隙間Su1は、シフトアップ操作時に、遊動部材72とアーム本体71が相対的に遊動するための遊びを確保するものであり、以下、第1の遊動用孔84の矢印D方向側の端縁84aを「第1のシフトアップ用端縁」という。一方、矢印U方向側(下側)の端縁84bと第1の遊動ピン85との隙間Sd1は、シフトダウン操作時に、遊動部材72とアーム本体71が相対的に遊動するための遊びを確保するものであり、以下、第1の遊動用孔84の矢印U方向側の端縁84bを「第1のシフトダウン用端縁」という。
【0042】
図9は、非チェンジ操作時の遊動部材72の右側面図であり、第2の遊動支持部82の状態は、第2の遊動用孔87の周方向の各端縁87a、87bが、第2の遊動ピン86に対して周方向にそれぞれ隙間Su2、Sd2を隔てて対向している。矢印U方向側(下側)の端縁87aと第2の遊動ピン86との隙間Su2は、シフトアップ操作時に、操作開始後、図8の第1の遊動用孔84の第1のシフトアップ用端縁84aと第1の遊動ピン85とが当接して後、さらに図9の遊動部材72とアーム本体71(図8)が相対的に遊動するための遊びを確保するものであり、以下、第2の遊動用孔87の矢印U方向側の端縁87aを「第2のシフトアップ用端縁」という。なお、矢印D方向側の端縁87bと第2の遊動ピン86との隙間Sd2は、シフトダウン操作時に、操作開始から変速作動終了時まで、全操作ストロークの間、前記端縁87bと第2の遊動ピン86が当接しない大きさに設定されている。以下、第2の遊動用孔87の矢印D方向側の端縁87bを「非作用端縁」という。
【0043】
図10は、非チェンジ操作時のチェンジドラム20の駆動ピン65と遊動部材72の係合爪96、97の関係を示しており、この図10において、周方向に隣合う一対の駆動ピン65に対し、遊動部材72の各係合爪96、97は、それぞれ周方向の隙間(遊び)Su0、Sd0を隔てて対向している。隙間Su0と隙間Sd0はほぼ等しい大きさとなっている。矢印D方向側(上側)の係合爪96とこれに対向する駆動ピン65との隙間Su0は、シフトアップ操作開始初期の遊びを確保するものである。矢印U方向側(下側)の係合爪97とこれに対向する駆動ピン65との隙間Sd0は、シフトダウン操作開始初期の遊びを確保するものである。
【0044】
作用及び作動を説明する。
[シフトアップ操作及び作動]
シフトアップ操作は、図7のチェンジレバー59の前端踏み部59aを踏み込むことにより、チェンジ軸18をシフトアップ方向(矢印U方向)に回動し、これによりクラッチアーム44及びアーム本体71を矢印U方向に回動する。このシフトアップ操作により、第1段階の作動として、クラッチアーム44により多板式摩擦クラッチ12(図3及び図4参照)の接続を切断し、一方、チェンジアーム組立体3は、第1段階の前半では、アーム本体71と遊動部材72とが、図10のチェンジドラム20の駆動ピン65とシフトアップ用係合爪96との隙間Su0に相当する回動角だけ回動(遊動)し、第1段階の後半では、図8の第1のシフトアップ用端縁84aと第1の遊動ピン85との隙間Su1に相当する回動角だけ、遊動部材72に対してアーム本体71が回動(遊動)する。したがって、第1段階全体では、チェンジドラム20は回動しない。第2段階の作動として、第1のシフトアップ用端縁84aが第1の遊動ピン85を押すことにより、遊動部材72を矢印U方向に回動し、これにより、シフトアップ用係合爪96及び駆動ピン65を介してチェンジドラム20を矢印Au方向に回動する。そして、第3段階の作動として、第2の遊動ピン86が第2のシフトアップ用端縁87aを押すことにより、遊動部材72をさらに矢印U方向に回動し、チェンジドラム20を最終回動位置まで矢印Au方向に回動し、変速作動を終了する。以下、作動段階毎に詳しく説明する。
【0045】
(1)第1段階の作動
図8〜図10の非チェンジ操作時の状態(チェンジ軸18の回動角度0°)から図11〜図13の状態(チェンジ軸18の回動角度6.8°)までの作動である。
【0046】
まず、第1段階の前半の作動を説明する。図8の状態からチェンジ軸18が矢印U方向に回動し始めると、クラッチアーム44の同方向の回動により、クラッチアーム44の先端凹部44a及びピン49を介して可動側カムプレート50が矢印B1方向に回動し、両カムプレート50、51及び鋼球52によるカム作用により、可動側カムプレート50が図4のクラッチ切断方向(矢印C1方向)に移動し、これにより、プッシュ軸46、レリーズ軸受45及びプッシュ部材39を介してプレッシャ部材36がクラッチ切断方向(矢印C1方向)に移動し、多板式摩擦クラッチ12を切断する。
【0047】
図8のアーム本体71もチェンジ軸18の軸芯O4回りに矢印U方向に回動し、第2の遊動ピン86により、リターンコイルばね75の矢印U方向側の直線状端部75aを矢印U方向に押し広げる。なお、リターンコイルばね75の他方の直線状端部75bは支持兼回動量規制ピン94により係止されている。
【0048】
遊動部材72には、まず、アーム本体71から両コイルばね73、74を介して回動力が伝達され、図9に示す支持兼回動量規制ピン94とピン挿通孔92との当接部P1を回動支点として、遊動部材72は矢印U方向に回動する。
【0049】
上記遊動部材72の矢印U方向の回動により、図10に示すシフトアップ用係合爪96は対向する駆動ピン65に接近し、シフトアップ用の隙間Su0に相当する距離を移動すると、駆動ピン65に係合し、該駆動ピン65により遊動部材72の移動が一旦停止される。これにより、第1段階の前半の作動は終了する。この前半の作動の間、図8の両コイルばね73、74は殆ど伸縮せず、チェンジドラム20は、位置決めアーム66の係止作用により停止状態が維持される。また、アーム本体71の第1のシフトアップ用端縁84aは第1の遊動ピン85に近付くが、当接はしない。
【0050】
次に第1段階の後半の作動を説明する。図8のシフトアップ用係合爪96が対向する駆動ピン65に係合後、さらにチェンジ軸18が矢印U方向に回動すると、遊動部材72は、ピン挿入孔92が支持兼回動量規制ピン94に当接していることと、シフトアップ用係合爪96が駆動ピン65に係合していることにより、ほぼ停止状態に維持される。これに対し、アーム本体71は、矢印U方向側のコイルばね74を伸長させると同時に反対側のコイルばね73を圧縮しながら、遊動部材72に対して相対的に矢印U方向に移動する。すなわち相対的に遊動する。この間、第1の遊動ピン85に第1のシフトアップ用端縁84aが近付き、隙間Su1を移動すると、第1の遊動ピン85に第1のシフトアップ用端縁84aが当接する(図11の状態)。これにより、第1段階の後半の作動が終了する。多板式摩擦クラッチ12は、少なくともこの第1段階の作動終了時点までに、クラッチ切断が完了している。
【0051】
第1段階の作動中、図9の第2の遊動ピン86は遊動部材72の第2のシフトアップ用端縁87aに近付くが、第1段階の作動終了時点では、図12のように当接には至らない。また、図11のようにリターンコイルばね75の端部75aが開く時、該端部75aの先端が、たとえ遊動部材72の第2の遊動用孔87又はピン挿通孔92に対応する位置を移動しても、図7のように、遊動部材72とリターンコイルばね75の間に係合防止板78を配置してあるので、リターンコイルばね75の端部75aが前記第2の遊動用孔87又はピン挿通孔92に落ち込むことはない。
【0052】
(2)第2段階の作動
第1段階の作動終了後、図14及び図15に示す状態(チェンジ軸18の回動角度10°)までの作動である。
【0053】
図11のように、第1の遊動用孔84の第1のシフトアップ用端縁84aが第1の遊動ピン85に当接した後、さらにチェンジ軸18が矢印U方向に回動すると、前記第1のシフトアップ用端縁84aにより第1の遊動ピン85が矢印U方向に押され、これにより、遊動部材72は、支持兼回動量規制ピン94とピン挿入孔92との当接部P1を回動支点として矢印U方向に回動し、図13のように、シフトアップ用係合爪96が駆動ピン65を矢印U方向に押すことにより、チェンジドラム20を矢印Au方向に回動する。すなわち、実質的な変速作動が開始される。また、図12の第2の遊動ピン86は、さらに遊動部材72の第2の遊動用孔87の第2のシフトアップ用端縁87aに接近し、図14及び図15に示す第2段階の作動終了時点で、第2の遊動用孔87の第2のシフトアップ用端縁87aに第2の遊動ピン86が当接する。
【0054】
上記第2段階の作動において、図11のアーム本体71の回動力は、第1のシフトアップ用端縁84a及び第1の遊動ピン85を介して遊動部材72に伝達されるが、第1の遊動支持部81は、アーム本体71の回動支点となるチェンジ軸18の軸芯O4及び遊動部材72の回動支点となる支持兼回動量規制ピン94とピン挿通孔92との当接部P1のいずれの位置からも遠い位置に設けられているので、軽い操作によりチェンジドラム20を回動することができる。
【0055】
(3)第3段階の作動
図14及び図15に示す状態(チェンジ軸18の回動角度10°)から図16に示す変速作動終了時点の状態(チェンジ軸18の回動角度14.5°)までの作動である。
【0056】
図14のように、第2の遊動ピン86が第2の遊動用孔87の第2のシフトアップ用端縁87aに当接後、さらにアーム本体71が矢印U方向に回動すると、今度はアーム本体71の第2の遊動ピン86により、第2の遊動用孔87の第2のシフトアップ用端縁87aを矢印U方向に押し、遊動部材72を、支持兼回動量規制ピン94とピン挿入孔92との当接部P1を回動支点として矢印U方向に回動する。これにより、シフトアップ用の係合爪96が駆動ピン65をさらに矢印Au方向に押し動かし、チェンジドラム20を図16に示す最終回動位置まで回動する。なお、この第3段階の作動では、第2の遊動ピン86は第2の遊動用孔87の第2のシフトアップ用端縁87aに沿って相対的に径方向の外方に少しスライドし、これにより、第1の遊動ピン85と第1の遊動用孔84の第1のシフトアップ用端縁84aは離反してゆく。
【0057】
上記のような第3段階において、アーム本体71から遊動部材72に対して作用する第2の遊動支持部82は、前記第1の遊動支持部81と比較して、チェンジ軸18の軸芯(アーム本体71の回動支点)O4及び支持兼回動量規制ピン94とピン挿通孔92との当接部(遊動部材72の回動支点)P1のいずれからも近い位置に設けられているので、第1の遊動支持部81が作用する第2の段階と比較して、チェンジレバー59(図7)の一定の操作ストロークに対する係合爪96の移動量(作動ストローク)を増加させることができる。すなわち、図7のチェンジレバー59による少ない操作ストロークによって、大きな作動ストロークを稼ぐことができる。
【0058】
(4)オーバー回動防止
チェンジレバー59の踏み込み動作の勢いが強い場合、チェンジドラム20は、その慣性により、図16の最終回動位置からオーバー回転しようとすることがあるが、図17のように、矢印Ad方向の次位の駆動ピン65が遊動部材72の折り曲げ部95の径方向の内方端に当接すると共に、折り曲げ部95の径方向の外方端縁がストッパー56に当接することにより、チェンジドラム20のオーバー回転及びチェンジアーム組立体3のオーバー回動は阻止される。
【0059】
(5)リターン動作
シフトアップ作動終了後、図7のチェンジレバー59の前端踏み部59aから踏力を解除すると、図16の状態(又は図17の状態)から、リターンコイルばね75の復元力によりアーム本体71が矢印D方向に図8の原位置まで戻ると共に、遊動部材72は両コイル73、74の復元力により矢印D方向に図8の待機位置まで戻る。
【0060】
[シフトダウン操作及び作動]
シフトダウン操作は、図7のチェンジレバー59の前端踏み部59aを上方に押し上げるか、又は後端踏み部59bを踏み込むことにより、チェンジ軸18を矢印D方向に回動し、それによりクラッチアーム44及びアーム本体71を矢印D方向に回動する。このシフトダウン操作により、第1段階の作動として、クラッチアーム44により多板式摩擦クラッチ12(図3及び図4)を切断し、一方、チェンジアーム組立体3は、第1段階の前半では、アーム本体71と遊動部材72とが、図10のチェンジドラム20の駆動ピン65とのシフトダウン用係合爪97の隙間Sd0に相当する回動角だけ回動(遊動)し、第1段階の後半では、図8のアーム本体71の第1のシフトダウン用端縁84bと遊動部材72の第1の遊動ピン85との隙間Sd1に相当する回動角だけ、遊動部材72に対してアーム本体71が回動(遊動)する。したがって、第1段階全体では、チェンジドラム20は回動しない。第2段階の作動として、アーム本体71の第1のシフトダウン用端縁84bが遊動部材72の第1の遊動ピン85を押すことにより、遊動部材72を矢印D方向に回動し、チェンジドラム20を最終回動位置まで回動し、変速作動を終了する。以下、前記各段階の作動を詳しく説明する。
【0061】
(1)第1段階の作動
図8〜図10の非チェンジ操作時の状態(チェンジ軸18の回動角度0°)から図18及び図19の状態(チェンジ軸18の回動角度−9.5°)までの作動である。
【0062】
前記シフトアップ時の作動と比較して、チェンジ軸18、可動側カムプレート50、アーム本体71、遊動部材72及びチェンジドラム20の回動方向がそれぞれ逆向きになると共に、シフトダウン用係合爪97及び第1の遊動用孔84の第1のシフトダウン用端縁84bが利用されることを除けば、基本的な作動は同じであり、重複的な説明が多くなるが、念のため詳しく説明する。
【0063】
図8の状態からチェンジ軸18が矢印D方向に回動し始めると、クラッチアーム44の同方向の回動により、クラッチアーム44の先端凹部44a及びピン49を介して可動側カムプレート50が矢印B2方向に回動し、両カムプレート50、51及び鋼球52によるカム作用により、可動側カムプレート50が図4のクラッチ切断方向(矢印C1方向)に移動し、これにより、プッシュ軸46、レリーズ軸受45及びプッシュ部材39を介してプレッシャ部材36がクラッチ切断方向(矢印C1方向)に移動し、多板式摩擦クラッチ12を切断する。
【0064】
図8のアーム本体71もチェンジ軸18の軸芯O4回りに矢印D方向に回動し、第2の遊動ピン86により、リターンコイルばね75の矢印D方向側の直線状端部75bを矢印D方向に押し広げる。なお、リターンコイルばね75の矢印U方向側の直線状端部75aは支持兼回動量規制ピン94により係止されている。
【0065】
遊動部材72には、まず、アーム本体71から両コイルばね73、74を介して回動力が伝達され、図9に示す支持兼回動量規制ピン94とピン挿通孔92との当接部P2を回動支点として、遊動部材72は矢印D方向に回動する。なお、上記当接部P2は、前記シフトアップ時の当接部P1とは周方向の反対側に位置している。
【0066】
上記遊動部材72の矢印D方向の回動により、図10に示すシフトダウン用係合爪97は対向する駆動ピン65に接近し、シフトダウン用の隙間Sd0に相当する距離を移動すると、駆動ピン65に係合し、該駆動ピン65により遊動部材72の移動が一旦停止される。これにより、第1段階の前半の作動は終了する。この前半の作動の間、図8の両コイルばね73、74は殆ど伸縮せず、チェンジドラム20は、位置決めアーム66の係止作用により停止状態が維持される。また、アーム本体71の第1の遊動用孔84のシフトダウン用端縁84bは第1の遊動ピン85に近付くが、当接はしない。
【0067】
次に第1段階の後半の作動を説明する。図8のシフトダウン用係合爪97が対向する駆動ピン65に係合後、さらにチェンジ軸18が矢印D方向に回動すると、遊動部材72は、ピン挿入孔92が支持兼回動量規制ピン94に当接していることと、シフトダウン用係合爪97が駆動ピン65に係合していることにより、ほぼ停止状態に維持される。これに対し、アーム本体71は、矢印D方向側のコイルばね73を伸長させると同時に反対側のコイルばね74を圧縮しながら、遊動部材72に対して相対的に矢印D方向に移動する。すなわち相対的に遊動する。この間、第1の遊動ピン85に第1のシフトダウン用端縁84bが近付き、隙間Sd1を移動すると、第1の遊動ピン85に第1のシフトダウン用端縁84bが当接する(図18の状態)。これにより、第1段階の後半の作動が終了する。多板式摩擦クラッチ12は、少なくともこの第1段階の作動終了時点までに、クラッチ切断が完了している。
【0068】
第1段階の作動中、図18のアーム本体71の第2の遊動ピン86は遊動部材72の非作用端縁87bに近付くが、当接には至らない。
【0069】
(2)第2段階の作動
図18及び図19に示す状態(チェンジ軸18の回動角度−9.5°)から図20に示す変速作動終了時点の状態(チェンジ軸18の回動角度18.5°)までの作動である。
【0070】
図18のように、第1の遊動用孔84のシフトダウン用端縁84bが第1の遊動ピン85に当接した後、さらにチェンジ軸18が矢印D方向に回動すると、第1の遊動用孔84のシフトダウン用端縁84bが第1の遊動ピン85を矢印D方向に押し、これにより、遊動部材72は、支持兼回動量規制ピン94とピン挿入孔92との当接部P2を回動支点として矢印D方向に移動し、シフトダウン用係合爪97及び駆動ピン65を介して、チェンジドラム20を図20に示す最終回動位置まで矢印Ad方向に回動する。
【0071】
この第2段階の作動中、アーム本体71の第2の遊動ピン86は遊動部材72の第2の遊動用孔87の非作用端縁87bに接近するが、当接はしない。
【0072】
(4)オーバー回動防止
図7のチェンジレバー59の踏み込み動作の勢いが強い場合、チェンジドラム20は、その慣性により、図20の最終回動位置からオーバー回転しようとすることがあるが、図21のように、矢印Au方向の次位の駆動ピン65が遊動部材72の折り曲げ部95の径方向の内方端に当接すると共に、折り曲げ部95の径方向の外方端縁がストッパー56に当接し、これにより、チェンジドラム20のオーバー回転及びチェンジアーム組立体3のオーバー回動は阻止される。
【0073】
[発明の実施の形態の効果]
(1)クランク軸9の軸芯O1と変速出力軸16の軸芯O2とを結ぶ基準線(面)Mの上方に変速入力軸15を配置し、上記基準線Mの下方に、チェンジドラム20と、チェンジ軸18と、該チェンジ軸18に装着されてチェンジドラム20を駆動するチェンジアーム組立体(チェンジアーム)3と、チェンジ軸18に装着されて上記変速入力軸15上のクラッチをレリーズ操作するクラッチアーム44とを配置しているので、クランク軸9と変速機ケース7の後部に配置される変速出力軸16との前後方向の間隔(距離)Xを短くし、かつ、チェンジアーム組立体3を小形化することができ、エンジンの前後方向の寸法をコンパクトにすることができる。
【0074】
(2)クランク軸9の端部に遠心式自動クラッチ11を装着し、変速入力軸15の端部に前記遠心式自動クラッチ11から動力伝達される多板式摩擦クラッチ12を装着し、該多板式摩擦クラッチ12の可動側カムプレート50に、前記クラッチアーム44を連結しているので、エンジン排気量の増加によりクラッチ及びギヤ等を大形化した場合でも、エンジン自体のコンパクト性を維持することができる。
【0075】
(3)チェンジ軸18を、クランクケース1の後部に配置された変速出力軸16のほぼ下方位置に配置し、チェンジアーム組立体3をチェンジ軸18から前上方へ向けて突出するように配置しているので、チェンジアーム組立体3をさらにコンパクトに配置できる。
【0076】
(4)チェンジ軸18に固着されるアーム本体71に対して、チェンジドラム20の駆動ピン65に係合する係合爪96、97を有する遊動部材72を、遊動支持部81、82を介して遊動可能に連結支持しているので、チェンジレバー59の操作ストロークθu及びθdを大きくせず、かつ、チェンジアーム組立体3をコンパクトにしながらも、作動ストロークとして、チェンジドラム20の回動前の遊び用のストローク及びクラッチレリーズ用のストロークを含む作動ストロークを大きくすることができ、チェンジ操作の快適性を維持しつつ、変速機構をコンパクトにすることができる。また、変速機構をコンパクトにしながらも、同一のチェンジレバー59の操作により、クラッチレリーズ操作とチェンジ操作とを連続してそれぞれ円滑に行える。
【0077】
(5)第1の遊動支持部81と第2の遊動支持部82を設け、アーム本体71の回動支点となるチェンジ軸18の軸芯O4及び遊動部材72の回動支点となる支持兼回動量規制ピン94とピン挿通孔92との当接部P1のいずれの位置からも遠い位置に第1の遊動支持部81を配置し、近い位置に第2の遊動支持部82を配置し、シフトアップ操作時、操作前半では遠い位置の第1の遊動支持部81が作用し、操作後半では近い位置の第2の遊動支持部82が作用するようにしているので、軽い操作力が望まれるチェンジ操作前半では軽い操作力で操作が行え、長い作動ストロークが望まれる操作後半では、短い操作ストロークで大きい作動ストロークが得られ、シフトアップ操作全体において、操作の快適性を得ることができる。
【0078】
(6)遊動支持部81、82を、アーム本体71又は遊動部材72の一方に設けた遊動ピン85、86と、他方に設けた遊動用孔84、87により構成しているので、遊動支持部81、82の構造が簡素になると共に、軸長方向の寸法がコンパクトになる。
【0079】
(7)シフトアップ及びシフトダウンのいずれの操作時においても、前記遊動部材72に当接して遊動部材72の最大ストロークを規制する飛び越し防止用のストッパー56を備えているので、簡単な構造で、シフト及びシフトダウンのいずれの操作時のチェンジドラム20のオーバー回動も防止できる。
【0080】
(8)遊動部材72とリターンコイルばね75の間に係合防止板93を配置してあるので、シフトアップ又はシフトダウン操作中、リターンコイルばね75の端部75a、75bが第2の遊動用孔87又はピン挿通孔92に落ち込むことはなく、円滑な操作性を確保できる。
【0081】
[発明の他の実施の形態]
(1)チェンジ軸18を回動操作する変速操作部として、図7のような足踏み式のチェンジレバー(チェンジペダル)59の他に、手動式のチェンジレバー又は電動式あるいは油圧式のモータを備えることもできる。また、電動式又は油圧式モータを備える場合には、チェンジドラムに直結する構造とすることも可能であり、その場合は、モータの出力軸がチェンジ軸に相当することになる。
【0082】
(2)図2等に示す前記実施の形態では、クランク軸芯O1と変速出力軸芯O2とを結ぶ基準線Mに対し、上方に変速入力軸15を配置しているが、本発明では、前記基準線Mの下方に変速入力軸15を配置し、上方に、チェンジドラム20、チェンジ軸18、チェンジアーム3及びクラッチアーム44を配置することもできる。たとえば、チェンジ軸18を回動する変速操作部として、前述のように電動式又は油圧式モータを備える場合には、チェンジ軸18等を前記基準線Mの上方に配置し、変速入力軸15を基準線Mの下方に配置することができる。また、エンジンの搭載位置(高さ)を低くできる車輌では、変速操作部としてチェンジペダル等を備えていても、チェンジ軸18等を前記基準線Mの上方に配置し、変速入力軸15を前記基準線Mの下方に配置することができる。
【0083】
(3)クランク軸芯O1と変速出力軸芯O2とを結ぶ線準線Mは、エンジン内を上下に仕切る線には限定されず、エンジン内を前後に仕切る線、あるいはエンジン内を前上部と後下部等のように斜めに仕切る線等、各種態様の線が適用可能である。
【0084】
(4)本発明の変速機構は、チェンジ操作によりクラッチのレリーズを行わない車輌用エンジンにも適用可能である。また、自動二輪車以外にも、騎乗型四輪走行車用のエンジンにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明による車輌用エンジンを備えた自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1のエンジンであって、右側クランクケースカバー及び該クランクケースカバーの内蔵物を取り除いて示す右側面図である。
【図3】図1のエンジンであって、右側クランクケースカバーを取り除き、チェンジアーム組立体とクラッチレリーズ機構のみを示す右側面図である。
【図4】図2のIV-IV断面展開図である。
【図5】図4のクラッチレリーズ機構の拡大断面図である。
【図6】図5のVI-VI断面展開拡大部分図である。
【図7】変速機構及びクラッチレリーズ機構の分解斜視図である。
【図8】チェンジアーム組立体及びクラッチレリーズ機構の非チェンジ操作時の状態を示す右側面図である。
【図9】遊動部材の非チェンジ操作時の状態を示す右側面図である。
【図10】チェンジドラム及び遊動部材の非チェンジ操作時の状態を示す右側面図である。
【図11】チェンジアーム組立体及びクラッチレリーズ機構のシフトアップ操作の第1段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図12】遊動部材のシフトアップ操作の第1段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図13】チェンジドラム及び遊動部材の第1段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図14】チェンジアーム組立体及びクラッチレリーズ機構のシフトアップ操作の第2段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図15】遊動部材のシフトアップ操作の第2段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図16】チェンジアーム組立体及びクラッチレリーズ機構のシフトアップ操作の第3段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図17】チェンジドラム及び遊動部材のシフトアップ操作におけるオーバー回動防止時の状態を示す右側面図である。
【図18】チェンジアーム組立体及びクラッチレリーズ機構のシフトダウン操作の第1段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図19】チェンジドラム及び遊動部材のシフトダウン操作の第1段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図20】チェンジアーム組立体及びクラッチレリーズ機構のシフトダウン操作の第2段階終了時の状態を示す右側面図である。
【図21】チェンジドラム及び遊動部材のシフトダウン操作におけるオーバー回動防止時の状態を示す右側面図である。
【図22】従来の変速機構の右側面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 クランクケース
3 チェンジアーム組立体(チェンジアーム)
4 クラッチレリーズ機構
9 クランク軸
11 遠心式自動クラッチ
12 多板式摩擦クラッチ
15 変速入力軸
16 変速出力軸
17 シフトフォーク支持軸
18 チェンジ軸
20 チェンジドラム
44 クラッチアーム(クラッチレリーズ用の操作アーム)
50 可動側カムプレート
51 固定側カムプレート
52 カム用の鋼球
59 チェンジレバー(チェンジペダル、変速操作部の一例)
63 駆動プレート
65 駆動ピン
96 シフトアップ用の係合爪(係合部)
97 シフトダウン用の係合爪(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構を備え、変速操作部の操作によってチェンジ軸を回動することにより、クラッチ操作とチェンジ操作とを順次行う車輌用エンジンにおいて、
クランク軸の軸芯と変速出力軸の軸芯とを結ぶ基準線で仕切られる一方の区画に変速入力軸を配置し、
他方の区画に、チェンジドラムと前記チェンジ軸とを配置したことを特徴とする車輌用エンジン。
【請求項2】
請求項1記載の車輌用エンジンにおいて、
前記基準線により上下に仕切られる上方又は下方の区画のうち、一方の区画に前記変速入力軸を配置し、
他方の区画に、前記チェンジドラムと、前記チェンジ軸と、該チェンジ軸に装着されて前記チェンジドラムを駆動するチェンジアームと、前記チェンジ軸に装着されて前記変速入力軸上のクラッチをレリーズ操作するクラッチアームとを配置したことを特徴とする車輌用エンジン。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車輌用エンジンにおいて、
前記クランク軸の端部に遠心式自動クラッチを装着し、前記変速入力軸の端部に前記遠心式自動クラッチから動力伝達されるマニュアル式クラッチを装着し、該マニュアル式クラッチのレリーズ作動部に、前記クラッチアームを連結したことを特徴とする車輌用エンジン。
【請求項4】
請求項2又は3記載の車輌用エンジンにおいて、
前記チェンジ軸は、クランクケースの後部に配置された前記変速出力軸のほぼ下方位置に配置し、前記チェンジアームは前記チェンジ軸から前上方へ向けて突出させたことを特徴とする車輌用エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−315621(P2006−315621A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143006(P2005−143006)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】