説明

転写体および電極形成方法

【課題】簡便な製造プロセスにより、被転写体である水晶基板の特性に影響を与えることなく、電極となる導電性膜を水晶基板へ形成することが可能な転写体を提供する。
【解決手段】転写体10は、基材11と、基材11の表面に形成され所定の形状にパターニング加工されて電極4となるべき導電性膜である金属膜14と、少なくとも金属膜14となる導電性膜の部分を覆うように形成されエネルギーを付与されると接着性を発現することが可能な接合膜3と、を備えている。このような構成の転写体10は、導電性膜14および接合膜3の形成された側が被転写体へ押し付けられると、接合膜3の膜面が被転写体へ接合する。そして、基材11を被転写体から離反する方向へ引き離すと、接合膜3が被転写体と強固に接合しているため、導電性膜14は、基材11から剥離し、接合膜3を介して被転写体へ転写される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板へ導電性膜を転写によって形成するための転写体およびこの転写体を用いて電極を形成するための電極形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板へ導電性膜を所定の形状に形成するために、スパッタリング等による成膜やフォトリソグラフィーによる膜のパターニングが行われている。膜のパターニングでは、フォトリソグラフィーにおけるエッチング液がレジスト膜を透過して、エッチング不要部分までもがエッチングされてしまう、という場合があった。特許文献1には、このフォトリソグラフィーにおいて、フッ酸系エッチング液等に対し化学的耐久性のある特殊なレジスト膜を用いる製造方法が開示されている。この方法によれば、エッチング液がレジスト膜を透過することを確実に防止でき、基板へ導電性膜を所定の形状に、正確に、形成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−82930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、基板の薄型化が望まれており、これに対応して薄型化された基板は、導電性膜を成膜するためのスパッタリング等のエネルギーにより、変質等の影響を受ける可能性が高くなっている。例えば、水晶基板においては、スパッタリング等のエネルギーにより、水晶の再結晶または結晶粒成長等に起因するいわゆる双晶が生じ、水晶の特性が変化してしまう、という課題があり、従来の技術では解決が難しかった。さらに、基板へ導電性膜を所定の形状に形成するプロセスでは、基板が、フォトリソグラフィーに基づくレジストの塗布、露光および現像等の複雑な工程を、経なければならない、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係る転写体は、基材と、前記基材の表面に形成され、所定の形状にパターニング加工された導電性膜と、少なくとも前記導電性膜を覆うように形成された接合膜と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
この転写体によれば、基材には、その表面に導電性膜が形成され、さらに導電性膜の部分を覆って接合膜が形成されている。接合膜は、導電性膜を覆って導電性膜と接合した状態で形成されていて、導電性膜と反対側に位置する膜面も接合可能な特性を有している。即ち、転写体は、該膜面が被転写体である他体へ接合することが可能に構成されている。この場合、被転写体は、従来において、導電性膜が形成される基板に該当するものである。このような構成の転写体は、導電性膜および接合膜の形成された側が被転写体へ押し付けられると、接合膜の該膜面が被転写体へ接合する。そして、基材を被転写体から離反する方向へ引き離すと、接合膜が被転写体と強固に接合しているため、導電性膜は、基材から剥離し、接合膜を介して被転写体へ転写される。このように、転写体を用いて、被転写体へ導電性膜を転写して形成すれば、導電性膜が形成される被転写体の経る工程は、非常に簡便であり、特殊な技能や装置が不要である。また、被転写体は、導電性膜を形成するための例えばスパッタリングやフォトリソグラフィー等による影響を受けることがなくなり、耐熱性や耐酸性等の具備要因が緩和され、被転写体材種の選択肢を大きく広げることが可能である。なお、接合膜は、導電性膜だけを覆う構成のほかに、導電性膜に加え基板を含めてより広く覆う構成等も考えられる。いずれの場合も、転写体が被転写体へ押し付けられると、基材から突起した導電性膜に形成されている接合膜が被転写体と接合して、導電性膜が被転写体へ転写される。
【0008】
[適用例2]上記適用例に係る転写体において、前記基材は、フィルムであることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、基材としてフィルムを用いることにより、基材は、薄い膜状をなし、且つ、可撓性を有している。そのため、この基材は、種々の形状に変形することが可能となり、平板状の被転写体への導電性膜の転写だけでなく、曲面や球面等をなす被転写体への導電性膜の転写も容易に行える。
【0010】
[適用例3]上記適用例に係る転写体において、前記接合膜は、プラズマ重合膜であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、接合膜は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)やプラズマ重合法等により形成されたプラズマ重合膜であり、いわゆるシロキサン(Si−O−Si)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含んでいる。このような接合膜は、接合膜自体が強固な結合状態を有しているが、接合膜に大気圧下で酸素プラズマに曝す、または減圧雰囲気下で紫外線照射することなどで、エネルギーを付与することにより活性化し、脱離基が原子から脱離することにより生ずる活性手によって、原子の再結合が生じやすくなる。そのため、接合膜の表面に、接着性を発現させることが可能である。即ち、この接合膜を有する転写体は、被転写体へ導電性膜を転写する時点で、接合膜に接着性を発現することが可能であり、転写前には接着性を有せず、保管、輸送等が容易である、という利点を有している。
【0012】
[適用例4]本適用例に係る電極形成方法は、基材に導電性膜を形成する第1成膜ステップと、前記導電性膜を所定の形状にパターニング加工する成形ステップと、少なくとも前記導電性膜を覆うように接合膜を形成する第2成膜ステップと、を有する転写体形成ステップと、前記転写体の前記接合膜を活性化する第1活性化ステップと、被転写体の表面を活性化する第2活性化ステップと、前記被転写体へ前記転写体の前記接合膜を貼り合わせる貼付ステップと、前記基材を前記被転写体から剥離し、前記接合膜を介して前記導電性膜を前記被転写体へ転写する転写ステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
この電極形成方法によれば、まず、転写体形成ステップにおいて、基材、導電性膜および接合膜を有する転写体が形成される。接合膜は、導電性膜を覆って導電性膜と接合した状態で形成されていて、導電性膜と反対側に位置する膜面も接合性を発現可能な特性を有している。即ち、転写体は、該膜面が被転写体へ接合することが可能に構成されている。この場合、被転写体は、従来において、導電性膜が形成される基板に該当するものである。次に、第1活性化ステップにおいて、転写体の接合膜を活性化し、該膜面が被転写体へ接合可能となるように接着性を発現させる。そして、第1活性化ステップに対応して、第2活性化ステップにおいて、被転写体の表面を活性化させ、転写体の接合膜がより強固に接合するための処理を行う。次いで、貼付ステップにおいて、共に活性化の処理が施された転写体の接合膜および被転写体を対向させて貼り付ける。その後、転写ステップにおいて、基材を被転写体から離反する方向へ引き離すと、接合膜が被転写体と強固に接合しているため、導電性膜は、基材から剥離し、接合膜を介して被転写体の側へ残る。こうして、導電性膜は、被転写体へ転写され、電極として機能することが可能になる。以上説明したように、転写体を用いて、被転写体へ導電性膜を転写して形成すれば、導電性膜が形成される被転写体が関わる工程は、第2活性化ステップ、貼付ステップおよび転写ステップだけで非常に簡便であり、第2活性化ステップも特殊な技能や装置が不要である。そのため、被転写体は、導電性膜を形成するための例えばスパッタリングやフォトリソグラフィー等による影響を受けることがなくなり、耐熱性や耐酸性等の具備要因が緩和され、被転写体材種の選択肢を大きく広げることが可能である。なお、第2成膜ステップにおいて、接合膜は、導電性膜だけを覆う構成や、導電性膜に加え基板を含めてより広く覆う構成等が考えられる。導電性膜および基板を覆って接合膜を形成すれば、形成箇所を選択せずに一律に接合膜を形成すれば良いため、導電性膜にのみ部分的に接合膜を形成する場合に比べて、容易に行える利点がある。この場合、転写体が被転写体へ押し付けられると、基材から突起した導電性膜に形成されている接合膜のみが被転写体と接合し、他の接合膜の部分は被転写体へ転写されない。
【0014】
[適用例5]上記適用例に係る電極形成方法において、前記被転写体は、水晶、シリコン、ガラスのいずれかであることが好ましい。
【0015】
この方法によれば、被転写体として水晶を選択すれば、水晶を発振させるための電極としての導電性膜が容易に転写して形成することが可能である。また、スパッタリングやフォトリソグラフィー等で、直接、水晶に導電性膜を形成すると、それらの影響を受けて、特性が安定しにくくなる超小型の水晶振動子やジャイロ素子等に対しても、それらの影響を排除して、確実に導電性膜の形成が可能である。同様に、シリコンへ半導体等を形成する場合や、液晶表示装置におけるガラス基板へ導電性膜の配線を形成する場合等にも有効な方法である。
【0016】
[適用例6]上記適用例に係る電極形成方法において、前記基材は、フィルムであることが好ましい。
【0017】
この方法によれば、基材としてフィルムを用いることにより、基材は、薄い膜状をなし、且つ、可撓性を有している。そのため、この基材は、種々の形状に変形することが可能となり、平板状の被転写体への導電性膜の転写だけでなく、曲面や球面等をなす被転写体への導電性膜の転写も容易に行える。つまり、曲面や球面等をなす被転写体へ導電性膜を転写する場合であっても、平板状態のフィルムに導電性膜を形成すれば良い。そのため、曲面や球面等に導電性膜を形成する場合のような煩雑な工程が不用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】水晶振動片の構成を示す斜視図。
【図2】転写体の製造工程を示すフローチャート。
【図3】(a)基材の洗浄を示す断面図、(b)金属膜の形成を示す断面図、(c)金属膜のパターニングを示す断面図、(d)重合膜の形成を示す断面図。
【図4】エネルギー付与前の重合膜を部分拡大して示す断面図。
【図5】水晶基板へ電極を形成する製造工程を示すフローチャート。
【図6】(a)転写体の重合膜の活性化を示す断面図、(b)被転写体の活性化を示す断面図、(c)被転写体への転写体の貼付を示す断面図、(d)転写体の剥離を示す断面図。
【図7】エネルギー付与後の重合膜を部分拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の転写体および転写体を用いた電極形成方法について説明する。以下の実施形態では、転写体を用いて被転写体の水晶基板へ電極を形成した、水晶振動片を一例にして説明する。なお、図面における各部は、細部が分かりやすいように、部分的に実物とは異なった縮尺で描かれている場合がある。
(実施形態)
【0020】
図1は、水晶振動片の構成を示す斜視図である。図1に示すように、水晶振動片1は、水晶を略直方体の薄板状に形成した水晶基板(被転写体)2と、水晶基板2の一方の面に形成された接合膜3と、接合膜に重ねて形成された導電性膜である電極4と、を有している。電極4は、水晶基板2の一方の面側における略中央部に形成された長方形の励振電極4aと、励振電極4aの長方形角部から長手方向に沿って水晶基板2の一端部まで延在するリード電極4bと、リード電極4bに連なってL字状に曲って延在する端子電極4cと、を有している。そして、この場合、電極4は、水晶基板2の側に形成されたクロム(Cr)とクロム(Cr)に重ねて形成された金(Au)の2層からなる金属膜であり、水晶基板2とは、接合膜3によって貼り合わされている。同様に、水晶基板2の一方の面と反対側の他方の面側にも、接合膜3を介して電極4が形成されていて、水晶基板2の長手方向を中心にして回転させれると、例えば上面を向いた側においては、励振電極4a、リード電極4bおよび端子電極4cが、それぞれ同配置となっているようにそれぞれ配置されている。
【0021】
ここで、水晶振動片1を構成する水晶について簡単に説明する。水晶基板2は、圧電単結晶材である水晶柱から切り出される。この水晶柱は、六角柱であって、柱の長手方向に光軸であるZ軸と、Z軸に垂直な六角形面のX−Y平面において、六角形の辺に平行な電気軸であるX軸と、X軸に垂直な機械軸であるY軸とを有している。そして、水晶は、X軸(電気軸)方向に電圧を加えると、加えた電圧の方向に対応してY軸(機械軸)方向に伸びあるいは縮みの現象が生じ、逆に、Y軸(機械軸)方向に引っ張りあるいは圧縮を与えると、X軸(電気軸)方向に電圧が生じる性質を有している。つまり、水晶は、電気的エネルギーと機械的エネルギーとの変換が可能である。
【0022】
水晶のこの性質を有効に利用するため、水晶振動片1は、水晶柱のX−Z平面において、X軸回りに約35度傾いたX−Z’平面に沿って切り出された、水晶ウエハ(不図示)からさらに切り出された水晶基板2を用いている。このようにして水晶柱から切り出された水晶基板2を有する水晶振動片1は、X−Z’平面に沿う薄板状で、一方の面と他方の面との方向であるY’方向に厚さを有していて、ATカットと呼ばれる振動片である。この水晶振動片1は、水晶基板2の両面に形成されているそれぞれの励振電極4aの間に電圧が加えられると、いわゆる厚みすべり振動が生じて、規則正しい振動の周波数を持続する。また、ATカットされた水晶振動片1は、その厚みによって、周波数が決まり、広範な温度域において安定した周波数を保持することができる。
【0023】
次に、水晶振動片1の製造方法について説明する。この場合、水晶振動片1は、転写体に形成した電極4を、被転写体である水晶基板2へ転写して形成する方法により、製造される。最初に、被転写体である水晶基板2へ転写する電極4を有する転写体の製造方法について述べる。図2は、転写体の製造工程を示すフローチャートである。また、図3は、このフローチャートに基づいて、転写体を製造するための各ステップを順に示す断面図である。
【0024】
転写体10の製造は、図2に示すように、まず、ステップS1において、基材の洗浄を行う。図3(a)は、基材の洗浄を示す断面図であり、転写体10を構成する基材11は、ポリイミド樹脂製の可撓性フィルムを用いている。洗浄は、基材11の電極4が形成される側の表面に対して行い、具体的には、紫外線照射、または希ガスであるヘリウム(He)を用いて大気圧プラズマを発生させて、基材11の表面を洗浄する。基材11の洗浄後、ステップS2へ進む。
【0025】
ステップS2において、金属膜の形成を行う。図3(b)は、金属膜の形成を示す断面図である。金属膜14は、後にパターニングされて電極4となる膜であって、基材11の洗浄された表面の全面に形成されている。金属膜14は、水晶基板2にクロム(Cr)と金(Au)の2層からなる電極4が転写されるように、基材11の側から、金(Au)とクロム(Cr)とが、順に重ねて形成されている。これらクロム(Cr)と金(Au)とは、既知技術のスパッタリングにより、それぞれ形成されている。従って、被転写体である水晶基板2には、スパッタリングによる熱エネルギー等の影響が作用せず、双晶等の特性変化が回避できる。また、基材11の表面は、撥水性を有しているため、基材11の表面に形成された金(Au)は、撥水性のない基材11の表面に形成される場合に比べて、密着性が低い傾向になっている。このステップS2は、第1成膜ステップに該当する。金属膜14の形成後、ステップS3へ進む。
【0026】
ステップS3において、金属膜のパターニングを行う。図3(c)は、金属膜のパターニングを示す断面図である。パターニングは、基材11の表面の全面に形成されている金属膜14を、既知技術のフォトリソグラフィーにより、部分的に除去する加工である。これにより、金属膜14は、図1に示す水晶基板2の電極4の形状に転写することが可能な形状となる。つまり、パターニングがなされて残った金属膜14の部分が電極4である。このステップS3は、成形ステップに該当する。金属膜14のパターニング後、ステップS4へ進む。
【0027】
ステップS4において、重合膜の形成を行う。図3(d)は、重合膜の形成を示す断面図である。重合膜(プラズマ重合膜)13は、図6を参照して後述するように、エネルギーが付与され活性化されると接着性を発現し、水晶基板2へ貼り合わされると、電極4と水晶基板2とを接合するための接合膜3として機能する。重合膜13の形成は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマPVD(Physical Vapor Deposition)、またはプラズマ重合法などにより、行うことができ、ここでは、プラズマ重合法を用いた。
【0028】
プラズマ重合法によれば、電極4が形成された基材11は、重合装置内へ気密状態で収納された後、減圧雰囲気下に置かれる。そして、重合装置内へ、原料ガスとキャリアガスの混合ガスが供給される。
【0029】
原料ガスは、たとえば、オクタメチルトリシロキサン、メチルシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサン等のポリオルガノシロキサンが一例として挙げられる。
【0030】
キャリアガスは、電界の作用により放電し、且つ、この放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、たとえば希ガスであるアルゴン(Ar)ガスまたはヘリウム(He)ガスなどが挙げられ、ここでは、アルゴン(Ar)ガスを用いた。
【0031】
そして、高周波の電圧を印加することにより、キャリアガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、重合物が生成される。この重合物が基材11の表面および電極4へ付着し、堆積したものが重合膜13である。先に述べた原料ガスから生成される重合膜13、即ち接合膜3は、これらの原料ガスが重合したシロキサン(Si−O−Si)結合を含む重合物で構成されることになる。
【0032】
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスおよびキャリアガスの種類や目的とする成膜速度などによって適宜決定することができ、重合膜13を形成する条件の最適化を図ることができる。そして、減圧雰囲気状態の圧力、供給するガスの流量、処理時間等も、適宜決定することができ、生成される重合膜13の厚さは、主に処理時間に比例するため、この処理時間を調整することで、重合膜13の厚さを容易に調整することができる。このようにして、基材11と、基材11の表面に形成された電極4と、基材11の表面および電極4を覆う重合膜13と、を有する転写体10が完成し、フローが終了する。なお、この状態の転写体10は、重合膜13が活性化されていないため、接着性を発現しておらず、保管等の管理が容易な状態である。
【0033】
次に、この状態の重合膜13の化学的構成について、説明する。図4は、エネルギー付与前の重合膜を部分拡大して示す断面図である。接合膜3となる重合膜13は、シロキサン(Si−O−Si)結合を含む重合物であるポリオルガノシロキサンであって、特に、ポリオルガノシロキサンの中でも、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分としており、活性化されると優れた接着性を発現するため、より好ましい。また、重合膜13は、図4に示すように、シロキサン結合31を含むランダムな原子構造を有するSi骨格30と、このSi骨格30に結合する脱離基32とを含んでいて、このSi骨格30により変形し難い強固な膜となっている。
【0034】
そして、重合膜13において、重合膜13中のシリコン(Si)原子と酸素(O)原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。シリコン(Si)原子と酸素(O)原子の存在比を、この範囲内になるよう設定することにより、重合膜13の安定性を高くすることができる。さらに、重合膜13中のSi骨格30の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であることがより好ましい。これにより、Si骨格30は、十分にランダムな原子構造を含むものとなり、化学的な安定性、耐熱性などの特性が向上する。
【0035】
また、脱離基32としては、水素(H)原子、ホウ素(B)原子、炭素(C)原子、窒素(N)原子、酸素(O)原子、リン(P)原子、硫黄(S)原子およびハロゲン系原子を含み、これらの原子がSi骨格30に結合するよう配置された原子団の少なくとも1種で構成されたものを用いることが好ましい。これらの各原子がシリコン(Si)骨格30に結合するよう配置された原子団(基)の一例としては、メチル基やエチル基のようなアルキル基、ビニル基やアリル基のようなアルケニル基、そのほか、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基などが挙げられる。これらの各基の中でも、脱離基32は、特にアルキル基であるのが好ましく、重合膜13ではメチル基となっている。アルキル基は、化学的な安定性が高いため、重合膜13の耐候性および耐薬品性等を優れたものにする。
【0036】
このように、ポリオルガノシロキサンで構成された重合膜13は、それ自体が優れた機械的および化学的特性を有しており、図4に示す状態では、撥水性(非接着性)を有している。そして、図6を参照して後述するが、エネルギーが付与され活性化されると、容易に脱離基32を脱離させることができ、親水性に変化して、接着性を発現するため、多くの材料に対して優れた接着性を呈する。従って、重合膜13を有する転写体10は、非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有している。このステップS4は、第2成膜ステップに該当する。以上で、ステップS1,S2,S3,S4による転写体形成ステップが終了する。即ち、転写体10は、基材11と、基材11に形成された電極4と、電極4および基材11を覆う重合膜13とを有する。
【0037】
次に、転写体に形成した電極4を被転写体である水晶基板2へ転写して、水晶振動片1を製造する方法について説明する。図5は、水晶基板へ電極を形成する製造工程を示すフローチャートである。このフローチャートは、水晶基板2の一方の面側に電極4を形成する場合を示している。
【0038】
まず、ステップS10において、転写体の接合膜の活性化を行う。図6(a)は、転写体の重合膜の活性化を示す断面図である。重合膜13の活性化は、その表面を、大気圧下で酸素プラズマに曝すことや減圧雰囲気下で紫外線を照射すること、により実現でき、ここでは、酸素プラズマに曝して行った。なお、重合膜13を「活性化させる」とは、重合膜13の表面および内部の脱離基32(図4)が脱離して、Si骨格30において終端化されていない未結合手が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを指す。
【0039】
そして、図7は、エネルギー付与後の重合膜を部分拡大して示す断面図である。図7に示すように、重合膜13にエネルギーが付与されると、この場合メチル基である脱離基32(図4)がSi骨格30から脱離して、活性手33が生じる。この活性手33とは、未結合手、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを指し、このような活性手33が生じることにより、重合膜13の表面に接着性を発現させることが可能となる。但し、活性化された重合膜13は、その活性状態が経時的に緩和してしまう、という特性を有している。このステップS10は、第1活性化ステップに該当する。重合膜13の活性化後、ステップS11へ進む。
【0040】
ステップS11において、被転写体の活性化を行う。図6(b)は、被転写体の活性化を示す断面図である。被転写体である水晶基板2を活性化する処理としては、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられ、ここでは、酸素プラズマによるプラズマ処理を行った。プラズマ処理により、水晶基板2の一方の表面を清浄化するとともに、該表面を活性化させることができる。水晶基板2の活性化により、水晶基板2の表面には水酸基が存する状態になっている。このステップS11は、第2活性化ステップに該当する。水晶基板2の活性化後、ステップS12へ進む。
【0041】
ステップS12において、被転写体へ転写体を貼付する。図6(c)は、被転写体への転写体の貼付を示す断面図である。図6(c)に示すように、活性化された水晶基板2に、転写体10の接着性を発現させた重合膜13の側を貼付するように合わせ、水晶基板2と転写体10とをプレス機で押し付ける。重合膜13は、電極4を覆っている部分が水晶基板2と当接して押し付けられる。プレス機による加圧は、0.2〜10MPa程度であり、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度である。これら圧力および時間は、被転写体および重合膜13によって、適宜設定することが望ましい。これにより、水晶基板2の表面の水酸基と重合膜13の活性手33との結合、また、水晶基板2および重合膜13の水酸基同士の間に生じる水素結合により、水晶基板2と重合膜13との間を短時間で強固に接合することができる。
【0042】
ここで、活性化された重合膜13の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまうため、ステップS11の終了後、できるだけ早く本ステップS12を行うようにする必要がある。具体的には、ステップS11の終了後、60分以内に本ステップS12を行うことが好ましく、5分以内に行うのが最良である。かかる時間内であれば、重合膜13の表面が十分な活性状態を維持しているので、転写体10と水晶基板2とを貼り合わせたとき、重合膜13と水晶基板2との間に、十分な接合強度を確保することができる。このステップS12は、貼付ステップに該当する。水晶基板2へ転写体10を貼付後、ステップS13へ進む。
【0043】
ステップS13において、転写体の剥離を行う。図6(d)は、転写体の剥離を示す断面図である。転写体10の剥離は、図6(d)に示すように、基材11を水晶基板2から引き剥がすことである。その際、水晶基板2と接合している重合膜13は、水晶基板2との接合強度が、撥水性を持つ基材11の表面と電極4との接合強度より強いため、電極4と共に水晶基板2の側に残る。水晶基板2の側に残った重合膜13の部分は、電極4と水晶基板2とを接合するための接合膜3となる。なお、電極4の厚さ方向に沿って形成された重合膜13の立上部13aは、電極4との接合面が極小のため、基材11に接合したまま剥離される重合膜13と共に電極4から引き剥がされる。
【0044】
そして、剥離後において、接合膜3と水晶基板2との接合強度は、5MPa(50kgf/cm2)以上であれば良く、10MPa(100kgf/cm2)以上であればより好ましい。この接合強度であれば、接合膜3と水晶基板2との接合界面の剥離が十分に防止でき、信頼性の高い水晶振動片1(図1)が得られる。このステップS13は、転写ステップに該当する。以上で、水晶基板2の一方の側面に電極4が形成され、フローが終了する。同様にして、水晶基板2の他方の面に電極4を形成すれば、図1に示す水晶振動片1が完成する。
【0045】
以下、実施形態における転写体10および電極形成方法の主要な効果をまとめて記載する。
【0046】
(1)接合膜3となる重合膜13を有する転写体10は、重合膜13自体が強固な結合状態を有しているが、エネルギーを付与されると重合膜13が活性化し接着性を発現する。これにより、この転写体10は、水晶基板2への転写時点で、重合膜13に接着性を発現することが可能であり、転写前には接着性を有せず、保管、輸送等が容易である。
【0047】
(2)転写体10は、基材11が薄い膜状で可撓性を有しているため、種々の形状に変形することが可能であり、平板状の水晶基板2への電極4の転写だけでなく、曲面や球面等をなす被転写体への導電性膜の転写も容易に行える。
【0048】
(3)電極形成方法において、転写体10を用いて、水晶基板2へ電極4を転写して形成すれば、水晶基板2に関わる工程は、非常に簡略化となり、特殊な技能や装置も不要となる。つまり、水晶基板2は、電極4を形成するための例えばスパッタリングやフォトリソグラフィー等による影響を受けることがなくなる。これにより、水晶が薄型化されても、スパッタリング等のエネルギーによる水晶の再結晶、または結晶粒成長等で双晶が生じて、水晶の特性が変化してしまう、というようなことを回避できる。そして、被転写体は、耐熱性や耐酸性等の具備要因が緩和され、被転写体材種の選択肢を大きく広げることが可能である。
【0049】
また、転写体および電極形成方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、次に挙げる変形例のような形態であっても、実施形態と同様な効果が得られる。
【0050】
(変形例1)転写体10の重合膜13は、基材11および電極4を覆って形成されているが、この構成に限定されるものではなく、重合膜13が電極4のみを覆って形成されている構成等であっても良い。
【0051】
(変形例2)転写体10の基材11は、表面に撥水性を備えた材質を選定しているが、表面に適切な撥水処理を施すか、少なくとも電極4との間に、剥離層を設ける構成であっても良い。この構成でも、転写時において、電極4が、基材11の側に残る剥離層からスムーズに剥離する。
【0052】
(変形例3)転写体10は、水晶基板2の一方の面側に転写する電極4のみを有している構成であるが、水晶基板2の他方の面側に転写する電極4も有し、基材11の可撓性を利用して、水晶基板2の両面へ同時に電極4を転写しても良い。
【0053】
(変形例4)転写体10の基材11は、ポリイミド樹脂以外のエポキシ樹脂等の可撓性フィルムでも良く、また、ガラス等の硬質材でも良い。
【0054】
(変形例5)被転写体は、水晶基板2に限定されるものではなく、シリコンやガラスであっても良い。
【0055】
(変形例6)被転写体の構成材料は、活性化の処理を施さなくても、接合膜3との接合強度が十分に高くなる、シリコン系材料、金属系材料、ガラス系材料等であっても良い。このような構成材料は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合しているものであり、活性化処理を施さなくても、接合膜3と強固に密着することができる。さらに、被転写体は、全体がこれら構成材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3と接合する領域の表面がこれら構成材料であれば良い。
【0056】
(変形例7)水晶振動片1において、電極4の構成は、クロム(Cr)と金(Au)の2層であるが、これ以外の、例えばチタン(Ti)と金(Au)等や、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銀(Ag)等の単層あるいはこれらの複層でも良い。
【0057】
(変形例8)水晶振動片1は、水晶基板2の電極4の部分が凸状になっている形態や、励振電極4aの部分のみが凸状になっている、いわゆるメサ構造であっても良い。
【0058】
(変形例9)転写体10の導電性膜は、水晶振動片1の電極4だけでなく、SAW(Surface Acoustic Wave、弾性表面波)パターンや配線等であっても良く、被転写体へSAWパターンや配線等を転写すれば、SAW共振片や配線基板等への応用が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…水晶振動片、2…被転写体としての水晶基板、3…プラズマ重合膜としての接合膜、4…導電性膜としての電極、10…転写体、11…基材、13…(接合膜となる)重合膜、30…Si骨格、31…シロキサン結合、32…脱離基、33…活性手。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成され、所定の形状にパターニング加工された導電性膜と、
少なくとも前記導電性膜を覆うように形成された接合膜と、を備えていることを特徴とする転写体。
【請求項2】
請求項1に記載の転写体において、
前記基材は、フィルムであることを特徴とする転写体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転写体において、
前記接合膜は、プラズマ重合膜であることを特徴とする転写体。
【請求項4】
基材に導電性膜を形成する第1成膜ステップと、
前記導電性膜を所定の形状にパターニング加工する成形ステップと、
少なくとも前記導電性膜を覆うように接合膜を形成する第2成膜ステップと、を有する転写体形成ステップと、
前記転写体の前記接合膜を活性化する第1活性化ステップと、
被転写体の表面を活性化する第2活性化ステップと、
前記被転写体へ前記転写体の前記接合膜を貼り合わせる貼付ステップと、
前記基材を前記被転写体から剥離し、前記接合膜を介して前記導電性膜を前記被転写体へ転写する転写ステップと、を有することを特徴とする電極形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電極形成方法において、
前記被転写体は、水晶、シリコン、ガラスのいずれかであることを特徴とする電極形成方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電極形成方法において、
前記基材は、フィルムであることを特徴とする電極形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−129666(P2011−129666A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286050(P2009−286050)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】