説明

透明導電膜の製造方法、及びその製造方法で製造された透明導電膜を含む透明導電基板

【課題】 製膜後の透明導電膜について、煩雑な工程を経ることなく、表面改質を行うことが可能であり、かつ、表面改質処理後の廃液を簡便な方法で処理し得る透明導電膜の製造方法を提供する。また、透明導電膜と異方導電性フィルム接着剤との間で、高い接着強度及び低い接触抵抗を長期間維持することが可能であり、かつ耐久性に優れた透明導電膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】 透明基材上に設けられ、酸化亜鉛を含む透明導電膜について、酸性水溶液を用いて、その表層部を除去することを特徴とする透明導電膜の製造方法、及びその製造方法で製造された透明導電膜を含む透明導電基板である。酸性水溶液を用いて、透明導電膜の表面改質処理を行うことにより、全体として均一な化学組成を有し、かつ、その表面が粗面化された透明導電膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示パネル等の表示用機器や光学機器に用いる透明導電膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、以下のような特徴を有する透明導電膜の製造方法に関する。
【0002】
・透明導電膜全体の化学組成の均一性が良好である。
・耐久性に優れている。
【0003】
さらに、煩雑な処理を必要とせず、より簡便な工程からなる製造方法に関する。また、本発明は、上記方法により製造された透明導電膜を含む透明導電基板に関する。
【背景技術】
【0004】
液晶表示パネルや、エレクトロルミネッセンス物質を用いた発光パネル等の表示用機器、光学機器においては、その表示部や光線透過部に透明導電膜が用いられている。
【0005】
例えば、液晶表示パネルは概ね以下のような構成を採用している。
【0006】
・液晶表示パネルの表面及び裏面をなす透明基材。この透明基材の間の間隙には次に述べる液晶が封入される。また、各透明基材には、液晶に対向するように透明導電膜が設けられている。
・上記表面の透明基材及び裏面の透明基材の間の間隙に封入される液晶(材料)。
・上記液晶の周縁に配置され、液晶を密閉するシール材。
【0007】
このような構成に基づき、液晶駆動回路からの電気信号を上記透明導電膜を介して液晶に印加することによって、液晶表示を行うことができるようにしてある。そして、液晶駆動回路からの電気配線の端子を透明導電膜と接続するに際しては、カーボン粒子や銀等の金属粒子を含む導電性接着剤(以下、異方導電性フィルム接着剤と記載することもある)を用いて行う。したがって、これら透明導電膜と導電性接着剤との間の接着強度を充分に高めることが、この液晶表示を精度良く行う上で重要である。また、この液晶表示パネルの周縁部に用いるシール材と、透明導電膜との間の接着強度を高めることも、液晶表示の精度の向上を図るうえで重要である。
【0008】
このような高い接着強度という要請に応えるため、透明導電膜の表面を粗面化し、接着強度の向上を図るアイデアが従来から種々提案されている。
【0009】
例えば下記特許文献1には、透明基材上に製膜され、酸化インジウムと酸化錫を主成分とする透明導電膜の表面を、アルカリ溶液により表面処理した後、酸を含有する処理液でさらに処理して、良好なオーミック接触が得られる透明導電膜を得る方法が提案されている。しかしながら、この方法を採用する場合、強酸や強アルカリ溶液による処理工程のほか、水洗工程や乾燥工程等煩雑な工程を経て製造されることから、製品の歩留りの低下を招くおそれがある。また、これら表面処理に用いた強アルカリ溶液及び強酸溶液の廃液処理や洗浄排水処理のため、多大の設備費や用役費を要するという問題があり、ひいては製造コストの上昇を招く場合も想定される。
【0010】
また、下記特許文献2では、酸化インジウム及び酸化錫を含む透明導電膜を、強酸性の腐食液に浸漬する方法を提案している。しかしながら、この文献の方法で用いている腐食液は、その取扱いに危険性を伴うだけでなく、その廃液処理や洗浄排水の処理のために多大の設備費や用役費を要するいう問題がある。
【0011】
さらに、これら強酸や強アルカリ溶液による表面処理の場合、透明導電膜の構成成分の強酸や強アルカリ溶液への溶解速度の違いに基づき、表面処理後の透明導電膜の表層部の化学組成が、透明導電膜内部の化学組成と異なってしまう。またさらに、その表面の形態が粗面化されすぎたものとなるおそれがある。
【0012】
このような表層部の化学組成の変化や、表面の過度の粗面化は、透明導電膜の劣化の要因となる。そして、この劣化の進展にともなって、導電性接着剤やシール材との接着強度の低下や、透明導電膜の内部と表層部との境界領域における電気抵抗の増大を招くという問題があった。
一方、上記いずれの特許文献にも、酸化インジウムと酸化錫を主成分とする透明導電膜の処理方法についてのみ言及されており、酸化亜鉛を含有する透明導電膜については言及されていない。酸化亜鉛を含有する透明導電膜は、酸化インジウム及び酸化錫を含有する透明導電膜(以下、ITOと記載する場合もある)と同様に、比抵抗が低く、透明性に優れるため、表示用機器等に広く利用されている。
【0013】
これに対して、下記特許文献3には、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜の表面改質処理の方法が開示されている。この方法では、上述した酸やアルカリの排水処理の問題が生じない。この特許文献3によれば、透明基材上にスパッタリング法によって、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を製膜し、この透明導電膜に逆スパッタリングを施して、透明導電膜の表層部を除去する方法が提案されている。このような構成によって、透明導電膜の表面を粗面化するのである。
【0014】
【特許文献1】特開昭58−223625号公報
【特許文献2】特開昭62−153830号公報
【特許文献3】特開平11−200033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、この特許文献3の方法では、大型の真空装置や、逆スパッタ用の電源設備等が必要となるため、工業的には、採用しくいものであった。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、製膜後の透明導電膜について、煩雑な工程を経ることなく、表面改質を行うことが可能であり、かつ、表面改質処理後の廃液を簡便な方法で処理し得る透明導電膜の製造方法を提供することを目的とする。ここで、表面改質処理とは、透明導電膜について、その表面を粗面化し、かつその表層部と内部との化学組成を実質的に同一にすることを意味する。
【0016】
また、本発明の他の目的は、透明導電膜と異方導電性フィルム接着剤との間で、高い接着強度及び低い接触抵抗を長期間維持することが可能であり、かつ耐久性に優れた透明導電膜を製造する方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、上記製造方法で製造された透明導電膜を含む透明導電基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化亜鉛を含む透明導電膜に、希釈した酸性水溶液を作用させて、透明導電膜の表層部を除去すれば、煩雑な工程を経ることなく、表面改質処理を行うことができ、もって、上記透明導電膜と導電性接着剤との接着強度が向上できることを見出した。また、この製造方法によれば、表面改質処理後の廃液を簡便に処理し得ることも見出した。このようにして得られる透明導電膜は、その表層部と内部との化学組成が実質的に同一であることから、劣化の要因が少なく耐久性に優れたものである。本発明者等は、これら知見に基づいて本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明に係る透明導電膜の製造方法及び透明導電基板の特徴的な構成は、下記の通りである。なお、本特許において、表面改質処理とは、透明導電膜について、その表面を粗面化し、かつその表層部と内部との化学組成を実質的に同一にすることを意味する。
【0018】
(1)本発明は、透明基材上に設けられ、酸化亜鉛を含む透明導電膜について、酸性水溶液を用いて、その表層部を除去することを特徴とする透明導電膜の製造方法である。
【0019】
製膜後の透明導電膜は、その表層部と内部とでは、化学組成が異なる場合がある。酸性水溶液を用いれば、内部とは化学組成の異なる表層部を容易に除去し、新たな表層部を設けることができる。この新たな表層部と、内部とでは化学組成が実質的に同一となるため、全体として均一な化学組成を有する透明導電膜を得ることができるのである。また、この除去処理の際に、透明導電膜の表面は、粗面化される。
また、透明導電膜の表面改質処理工程においては、例えば、透明導電膜を酸性溶液中に浸漬等するだけで、特に、煩雑な工程を経ることなく、透明導電膜の表面改質を行うことができる。
【0020】
(2)また、本発明は、前記酸性水溶液が、フッ化水素酸水溶液、又は酸性イオン水であることを特徴とする上記(1)に記載の透明導電膜の製造方法である。
【0021】
酸性水溶液は、フッ化水素水溶液又は酸性イオン水であることが好ましい。フッ化水素水溶液及び酸性イオン水を用いて、透明導電膜の表面改質処理を行う場合には、表面改質処理後の廃液を簡便に処理することができる。
【0022】
(3)また、本発明は、前記酸性水溶液のpHが1.0〜5.0であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の透明導電膜の製造方法である。
【0023】
上記範囲内のpHを有する酸性水溶液を用いれば、透明導電膜について、その表層部と内部との化学組成を実質的に均一にできるとともに、その表面に適当な高低差を有する凹凸を設けることができる。
【0024】
(4)また、本発明は、透明基材と、前記透明基材上に設けられ、上記(1)〜(3)に記載の製造方法によって製造された透明導電膜と、を備えた透明導電基板において、前記透明導電膜の表面には、前記酸性水溶液を用いて、高低差が10Å〜100Åである凹凸が設けられていることを特徴とする透明導電基板である。
【0025】
透明導電膜の表面に設ける凹凸の高低差が、上記範囲内であれば、透明導電膜と、異方導電性フィルム接着剤やシール剤との接着強度が高くなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の製造方法によれば、従来法のように、煩雑な処理工程を経ることなく、透明導電膜の表面改質処理を行うことが可能であり、かつ、表面改質処理後の廃液を簡便な方法で処理できる。
【0027】
また、この製造方法によれば、上記表面改質処理において、透明導電膜の表面を粗面化するため、透明導電膜と、異方導電性フィルム接着剤との間の接着強度が高い透明導電膜を得ることができる。また、透明導電膜の表層部と内部との化学組成が、実質的に同一であることから劣化の要因が少ない。このため、本発明の製造方法では、低抵抗を長期間維持し、耐久性に優れた透明導電膜を得ることができる。
【0028】
また、本発明の透明導電基板は、上記透明導電膜を含有するため、耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の透明導電膜の製造方法において、透明基材としては、従来から用いられているガラス基板や、高い透明性を有する合成樹脂製のフィルムやシート等が好ましい。このような合成樹脂の一例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂等が、好適に用いられる。
【0030】
次に、この透明基材上の酸化亜鉛を含む透明導電膜としては、例えば、特開平6−187832号公報や特開平6−234565号公報に記載されている透明導電膜を用いることが好ましい。また、特開平8−171824号公報や特開平3−50148号公報に記載されているように、酸化亜鉛に3価以上の金属酸化物を添加した透明導電膜を用いることも好ましい。
【0031】
なお、後述する図1(実施例)において、透明導電膜12(22)、透明基材10(20)、透明電極14(24)の製造工程が示されている。
【0032】
なお、上述した透明導電膜の中で、透明基材上に、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を製膜する場合には、酸化亜鉛に、さらに必要に応じてドープ金属化合物を加え、これらを混合して仮焼し、その仮焼物を成形し、焼成して、スパッタリングターゲットを得る。スパッタリング法によって、得られたスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングすることにより、上記透明基材上に、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする透明導電膜を形成する方法を採用することが好ましい。
【0033】
一方、上述した透明導電膜の中で、透明基材上に、酸化インジウム化合物と酸化亜鉛化合物とを主成分とする透明導電膜を製膜する場合には、インジウム化合物と酸化亜鉛化合物に、さらに必要に応じてドープ金属化合物を加え、これらを混合して仮焼し、その仮焼物を成形し、焼成して、スパッタリングターゲットを得る。スパッタリング法によって、得られたスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングすることにより、上記透明基材上に、酸化インジウム(In)と酸化亜鉛(ZnO)を含む透明導電膜を形成する方法を採用することが好ましい。
【0034】
この酸化インジウムと酸化亜鉛とを含む透明導電膜は、InとZnOのみからなることも好ましいが、これら2成分の合計に対して、原子比で0.2以下の配合割合で、ドープ金属を含有することも好ましい。このようなドープ金属としては、例えば、スズ、アルミニウム、アンチモン、ガリウム、セレン等が好適に用いられる。
【0035】
このドープ金属を含有する透明導電膜は、ドープ金属を含有した酸化インジウム及び酸化亜鉛を主成分とするターゲットを用いて製膜することにより、得ることができる。なお、上記透明導電膜は、用いるターゲットとほぼ同一組成で製膜される。このターゲットは、原料調合工程において、ドープ金属を、インジウム化合物及び酸化亜鉛化合物に配合することにより、得られるものである。
【0036】
透明導電膜の組成は、InとZnの原子比である[In]/([In]+[Zn])が0.2〜0.9であることが好ましく、0.45〜0.85であることがより好ましい。ここで、[In]は、透明導電膜中のインジウム原子の数を表し、[Zn]は、透明導電膜中の亜鉛原子の数を表す。
【0037】
透明導電膜の膜厚は、200〜6000オングストロームであることが好ましく、600〜2000オングストロームであることがより好ましい。スパッタリング法により、透明基材上に、この透明導電膜を製膜するにあたっては、マグネトロンスパッタリング装置を用いることが好適である。この装置を用いたスパッタリング時の条件としては、通常、プラズマ出力を、ターゲットの表面積1cmあたり0.3〜4Wの範囲とし、製膜時間を5〜120分間とすることが好ましい。このような条件下で製膜を行うことにより、上記範囲の膜厚を有する透明導電膜が得られるのである。なお、上記プラズマ出力は、ターゲットの表面積や、透明導電膜の膜厚により変動する場合がある。
【0038】
このようにして製膜した透明導電膜は、その表層部と内部とでは、化学組成を異にしており、殊にその表層部では、内部の化学組成に較べて、ZnOの含有割合が低くなっている。ここで、表層部とは、透明導電膜の表面から50オングストローム以内の領域であり、実質的には表面から10〜30オングストロームの以内の領域である。なお、この表層部の領域は、透明導電膜の膜厚により若干異なる場合もある。このように表層部の化学組成が、内部の化学組成と異なる場合には、透明導電膜としての機能の低下をもたらす要因となることがある。このため、表層部を除去し、全体として均一な化学組成を有する透明導電膜を得ることが望ましい。
【0039】
そこで、本発明の製造方法においては、透明導電膜の表層部を希釈した酸性水溶液により除去し、除去後の透明導電膜において、新たな表層部と、その内部との化学組成に実質的な差異がなく、均一な化学組成とする。これによって、透明導電膜としての機能低下の要因を除くのである。
【0040】
また、本発明の製造方法においては、上述したように、酸性水溶液を用いて、透明導電膜の表層部を処理する際に、同時に、透明導電膜の表面の粗面化も行う。この表面の粗面化により、処理された透明導電膜と、異方導電性フィルム接着剤やシール材等との接着強度が高められる。このため、異方導電性フィルム接着剤やシール材との高い接着強度や、低い接触抵抗を長期間に渡って安定的に維持すことのできる透明導電膜が得られるのである。
【0041】
この希釈した酸性水溶液を用いて、透明導電膜の表面改質処理を行う際の好ましい条件は、以下の通りである。酸性水溶液のpHは、1.0〜5.0に維持することが好ましく、この水溶液の液温は20〜50℃に制御することが好ましく、透明導電膜の浸漬時間は0.5〜5分の範囲とすることが好ましい。なお、具体的な条件は、表面改質処理によって除去する透明導電膜の表層部の深さを考慮して、適宜選定すれば良い。
【0042】
表面改質処理を上記条件下で行う理由としては、酸性水溶液のpHを5.0以上としたり、酸性水溶液の温度を20℃未満にしたり、浸漬時間を0.5分間未満とする場合には、表面改質処理の効果が充分に得られないことがある。一方、酸性水溶液のpHが1.0未満としたり、酸性水溶液の温度が50℃を超えたり、浸漬時間が5分間を超える条件下で表面改質処理を行う場合には、透明導電膜の表面荒れを招くことがあるからである。この場合、処理後の透明導電膜の表面に設けられる凹凸は、高低差が10〜100Åであることが好ましい。
【0043】
上述した透明導電膜の表面改質処理は、既存の装置を利用して簡便に行うことが可能である。例えば、透明導電膜のエッチング工程で使用する洗浄装置において、通常使用されるリンス液を酸性水溶液へ交換すれば、透明導電膜のリンス時と同様の操作を行うことにより、上記表面改質処理を実行することができる。このため、表面改質処理のために、特別な設備費をかける必要がなくなるうえに、一連の生産工程に、上記表面処理工程を組み込むことが容易にできる。このように、本実施の形態の製造方法によれば、透明導電膜の生産とその表面改質処理とを簡便な操作で、かつ効率よく実施することができるのである。
【0044】
本発明の製造方法によれば、従来法のように、透明導電膜の表面改質処理時に、強酸や強アルカリ溶液による弊害は生じない。換言すれば、本実施の形態の製造方法では、透明導電膜の構成成分の強酸や強アルカリ溶液への溶解速度の違いに基づき、表面処理後の透明導電膜の表層部の化学組成が、透明導電膜内部の化学組成と異なることはない。このため、本発明の製造方法による透明導電膜は、この弊害に起因する透明導電膜の導電性低下や、導電性接着剤及びシール材との接着強度の低下を招くことがなく、かつ耐久性に優れたものである。
【0045】
したがって、本発明の製造方法によって得られる表面改質された透明導電膜は、液晶表示パネルや、エレクトロルミネッセンス物質を用いた発光パネル等の表示機器、及び各種光学機器類における透明電極に適用することにより、これらの機器類の性能向上、及び長期の安定的な使用に寄与することができる。
【0046】
以下、本発明の透明導電膜の製造方法について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0047】
透明導電膜の製膜
図1には、本実施例1の透明導電基板100の製造方法を示す部分断面工程図が示されている。図1(1)に示すように、透明基材10として、厚さ100ミクロンのポリカーボネートフィルムを用いた。さらに図1(2)に示すように、マグネトロンスパッタリング装置内で、In−ZnOターゲットを用いて、上記透明基材10の表面に透明導電膜12を製膜した。なお、このIn−ZnOターゲットの組成は、ZnとInの原子比である[Zn]/([In]+[Zn])が0.15となるように調製した。ここで、[In]は、ターゲット中のインジウム原子の数を表し、[Zn]は、ターゲット中の亜鉛原子の数を表す。上記スパッタリング時の条件は、プラズマ出力を、ターゲット表面積に対して1W/cmとし、製膜時間を40分間とした。
【0048】
得られた透明導電膜12は、その厚さが1000オングストロームであり、非晶性で透明性に優れていた。また、その表面抵抗は、35Ω/□であった。なお、図1(2)に示すように、透明基材10上に製膜された透明導電膜12は、その内部12bの表面が、表層部12aで覆われる構成を有している。この透明導電膜12の化学組成をオージェ電子分光法により分析した結果、表層部12aにおけるZnとInの原子比である[Zn]/([In]+[Zn])は、0.05であることが判明した。これに対し、内部12bにおけるZnとInの原子比である[Zn]/([In]+[Zn])は、0.15であることが判明した。これらの結果に基づき、表層部12aにおいては、内部12bよりもZnの含有割合が低いことが確認された。
【0049】
透明導電膜の表面改質処理
この透明導電膜12の表面に、フォトプロセスによりパターニングを施した。パターンの形状は、ライン間隔0.05mm、ライン幅0.45mmの直線状とし、これらの直線状のパターンを120本平行に設けた。
【0050】
次に、エッチング液として、濃度が3重量%である蓚酸水溶液を用いて、上記透明導電膜12にエッチング処理を施し、図1(3)に示すように、透明基材10上に透明電極14を形成した。さらに、得られた透明電極を希釈フッ化酸性水溶液に浸漬し、表面改質処理を行った。この時の条件としては、希釈フッ化水素酸水溶液のpHを3とし、水溶液の温度を25℃とし、浸漬時間を1分とした。
【0051】
なお、透明電極14は、その機能に注目して呼ぶものであり、実質的には、透明導電膜12と同様である。したがって、本実施例1において得られた透明電極14も、上記In−ZnOの透明導電膜12と同様に、特許請求の範囲に記載の透明導電膜の一例に相当するものである。また、以下、透明電極14が形成されたポリカーボネートフィルムを全体で透明導電基板100と呼ぶ。
【0052】
表面改質後の透明電極14についても、表面改質処理前の透明導電膜12と同様に、その化学組成を測定した。この結果、新たな表層部12cにおけるZnとInの原子比と、内部12bにおけるZnとInの原子比である[Zn]/([In]+[Zn])]は、いずれも0.15であった。これらの結果に基づき、透明電極14の新たな表層部12cと内部12bとでは、実質的に同一の化学組成であることが確認された。
【0053】
次いで、この透明導電基板100における透明電極14表面の周縁部にシール材を接着することにより、透明電極14上に液晶注入部を設けた。この液晶注入部に、下記の化学構造を繰り返し単位構造として有する高分子強誘電性液晶を塗布した。さらに、この高分子強誘電性液晶の塗布面と、その透明電極とが接するように、別の透明導電基板100を重ね合わせて接合することにより、液晶セルを作成した。この時、上側の透明電極14の直線状のパターンと、下側の透明電極14の直線状のパターンと、が直交するように、上側の透明電極基板100を接合した。そして、この作成した液晶セルの端部の透明電極14の端子に、液晶駆動回路からの配線の接合端子を導電性接着剤(ヒートシールコネクタ)により接合し、評価サンプルを作成した。
【0054】
【化1】

【0055】
このようにして作成した評価サンプルを温度65℃、湿度90%の雰囲気中に放置し、接触抵抗の時間変化を観察した。その結果を表1及び図2に示した。図2に示すグラフにおいては、縦軸が接触抵抗の値(Ω)を表し、横軸が経過時間(時間)を表す。
【0056】
【表1】

【0057】
『比較例1』
上記実施例1における希釈フッ化酸性水溶液の浸漬を行わない点を除き、上記実施例1と同様の方法により、評価サンプルを作成した。すなわち、実施例1と同様に、ポリカーボネートフィルム上にIn−ZnOからなる透明導電膜12を製膜し、この透明導電膜12についてパターニングを施して透明電極14を形成した後、この透明電極14を含む透明導電基板を用いて、液晶セルの評価サンプルを作成した。
次いで、この評価サンプルを実施例1と同様の高温高湿状態に放置して、耐久テストを行った後、接触抵抗の時間変化を観察した。その結果を表1、図2に示した。
【実施例2】
【0058】
上記実施例1で用いたポリカーボネ−トフィルムの代わりに、透明基材20としてガラスを使用し、希釈フッ化酸性水溶液の代わりに、酸性イオン水(pH=2.2)を用いた。これらの点を除いては、上記実施例1と同様の方法により、ガラス上にIn−ZnOからなる透明導電膜12を製膜し、この透明導電膜12についてパターニングを施して透明電極14を形成した後、この透明電極14を含む透明導電基板200を製造した。さらに、上記実施例1と同様の方法により、この透明導電基板200を用いて、液晶セルの評価サンプルを作成した。なお、本実施例2においては、得られた透明導電基板200、すなわち、In−ZnOからなる透明電極14が形成されたガラスを全体で、透明導電基板200と呼ぶ。
【0059】
次いで、この評価サンプルを実施例1と同様の高温高湿状態に放置して、耐久テストを行った後、接触抵抗の時間変化を観察した。その結果を表1、図2に示した。
【0060】
『比較例2』
上記実施例2における酸性イオン水の浸漬を行わない点を除き、上記実施例2と同様の方法により、評価サンプルを作成した。すなわち、実施例2と同様に、ガラス上にIn−ZnOからなる透明導電膜12を製膜し、この透明導電膜12についてパターニングを施して透明電極14を形成した後、この透明電極14を含む透明導電基板200を用いて、液晶セルの評価サンプルを作成した。
次いで、この評価サンプルを実施例1と同様の高温高湿状態に放置して、耐久テストを行った後、接触抵抗の時間変化を観察した。その結果を表1、図2に示した。
【実施例3】
【0061】
透明導電膜の製膜
図1(1)に示すように、透明基材10として、厚さ100ミクロンのポリカーボネートフィルムを用いた。さらに、図1(2)に示すように、マグネトロンスパッタリング装置内で、A1−ZnOターゲットを用いて、上記透明基材10の表面に、透明導電膜22を製膜した。なお、このA1−ZnOターゲットの組成は、ZnとA1の原子比である[Al]/([Al]+[Zn])が0.03となるように調製した。ここで、[Al]は、ターゲット中のアルミニウム原子の数を表し、[Zn]は、ターゲット中の亜鉛原子の数を表す。このスパッタリング時の条件は、プラズマ出力を、ターゲット表面積に対して1W/cmとし、製膜時間を40分間とした。
【0062】
得られた透明導電膜22は、その厚さが1000オングストロームであり、結晶性で透明性が高かった。また、その表面抵抗は、85Ω/□であった。図1(2)に示すように、透明基材10上に製膜された透明導電膜22は、その内部22bの表面が、表層部22aで覆われる構成を有していた。
【0063】
この透明導電膜22の化学組成をオージェ電子分光法により分析した結果、表層部22aにおけるZnとAlの原子比である[Al]/([Al]+[Zn])は、0.05であることが判明した。これに対し、内部22bにおけるZnとAlの原子比である[Al]/([Al]+[Zn])は、0.3であることが判明した。これらの結果に基づき、表層部22aにおいては、内部22bよりもZnの含有割合が低いことが確認された。
【0064】
透明導電膜の表面改質処理
この透明導電膜22の表面に、フォトプロセスによりパターニングを施した。パターンの形状は、ライン間隔0.05mm、ライン幅0.45mmの直線状とし、これらの直線状のパターンを120本平行に設けた。
【0065】
次に、エッチング液として、濃度が3重量%である蓚酸水溶液を用いて、上記透明導電膜22にエッチング処理を施し、図1(3)に示すように、透明基材10上に透明電極24を形成した。さらに、得られた透明電極24を希釈フッ化酸性水溶液に浸漬し、表面改質処理を行った。この表面改質処理によって、図1(4)に示すように、透明導電膜22の表層部22aを除去し、新たな表層部22cを形成した。この時の条件としては、希釈フッ化水素酸水溶液のpHを3とし、水溶液の温度を25℃とし、浸漬時間を1分とした。
【0066】
なお、透明電極24は、その機能に注目して呼ぶものであり、実質的には、透明導電膜22と同様である。したがって、本実施例3において得られた透明電極24も、上記In−ZnOの透明導電膜と同様に、特許請求の範囲に記載の透明導電膜の一例に相当するものである。また、以下、透明電極が形成されたポリカーボネートフィルムを全体で透明導電基板300と呼ぶ。
【0067】
表面改質後の透明電極24についても、表面改質処理前の透明導電膜22と同様に、その化学組成を測定した。この結果、新たな表層部22cにおけるZnとInの原子比と、内部22bにおけるZnとInの原子比である[Al]/([Al]+[Zn])]は、いずれも0.03であった。これらの結果に基づき、透明電極24の新たな表層部22cと内部bとでは、実質的に同一の化学組成であることが確認された。
【0068】
次いで、上記実施例1と同様の方法により、上記透明導電基板300を用いて、液晶セルの評価サンプルを作成した。この評価サンプルを実施例1と同様の高温高湿状態に放置して、耐久テストを行った後、接触抵抗の時間変化を観察した。その結果を表1、図2に示した。
【実施例4】
【0069】
本実施例1〜3において、作成した評価サンプルにおける透明導電膜12、22と、異方導電膜との接触抵抗を測定し、得られた接触抵抗の値に基づき、透明導電膜12、22の性能を確認した。さらに、上記実施例1〜3の評価サンプルを、温度60℃、湿度90%の雰囲気中に、240時間放置した。その後、再び各評価サンプルの接触抵抗を測定したところ、上記雰囲気中に放置する前の測定値と、ほぼ同様の値であった。この結果より、本実施例1〜3の透明導電膜12、22は耐久性に優れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施例による透明導電基板の製造方法を示す部分断面工程図である。
【図2】接触抵抗の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
10、20 透明基材
12、22 透明導電膜
12a、12c、22a、22c 表層部
12b、22b 内部
14、24 透明電極
100、200、300 透明導電基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に設けられ、酸化亜鉛を含む透明導電膜について、酸性水溶液を用いて、その表層部を除去することを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸性水溶液が、フッ化水素酸水溶液、又は酸性イオン水であることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸性水溶液のpHが1.0〜5.0であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
透明基材と、
前記透明基材上に設けられ、請求項1〜3に記載の製造方法によって製造された透明導電膜と、
を備えた透明導電基板において、
前記透明導電膜の表面には、前記酸性水溶液を用いて、高低差が10Å〜100Åである凹凸が設けられていることを特徴とする透明導電基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−49043(P2006−49043A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227148(P2004−227148)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】