説明

通気抵抗膜とその製造方法、および通気抵抗膜を用いた吸音性積層部材

【課題】軽量で薄く、扱いやすく、種々の吸音材等の表面にラミネートすることで、吸音材の通気抵抗を安定に調整し、その吸音性能を向上させることが可能な通気抵抗膜を提供する。
【解決手段】繊維径10μm以下であって、第1の融点を持つメルトブローン繊維と、このメルトブローン繊維中に分散され、少なくとも部分的にメルトブローン繊維に溶融接着され、表面の少なくとも一部が第1の融点より低い第2の融点を持つ樹脂で形成されているバインダー繊維とを有し、ソリィディティが10%以上、単位面積あたりの重量が50〜250g/m2である、通気抵抗膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して通気抵抗を有することができる膜状部材に関し、他の吸音部材等の表面に積層することで、その吸音特性を改善できる通気抵抗膜とその製造方法、およびこの通気抵抗膜を用いた吸音性積層部材に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音を抑制するため、種々の現場で遮音材や吸音材が使用されている。例えば、車両用の吸音遮音材としては、エンジンルームの騒音や車外から侵入する騒音を抑制するため、ダッシュインシュレータやフロアインシュレータが使用されている。従来、これらの吸音材としては、コストの安さからフェルト等の不織布やウレタンフォームからなる成形加工可能な多孔性樹脂が広く使用されてきた。また、これらの厚みを厚くすることで、騒音抑制効果、吸音性を高め、必要な吸音性能を得ていた。しかしながら、車両のように、形状やスペースが限られ、より軽量化が求められる用途では、従来のフェルト等のみを使用していたのでは十分な騒音抑制効果を得ることは困難であった。
そこで、より吸音性の高い、メルトブローン法で作製した超極細繊維を使用した吸音材や遮音材の検討がなされている。
【0003】
超極細繊維であるメルトブローン繊維を使用した吸音材は、面密度に対し相対的な繊維本数が増加し、侵入する音エネルギーを効率良く空気の摩擦エネルギーに変えることができるため、高い吸音特性が得られる。
【0004】
一方、最近では、メルトブローン繊維を用いた膜状の不織布層を他の繊維集合体である吸音材にラミネートした積層構造の吸音材も検討されている。例えば、第1特許文献(特表2002−505209号(WO99/44817))には、不織布またはプラスチックフォームからなる第1の繊維層上にメルトブローされたミクロ繊維からなる第2の繊維層をラミネートした構造が記載されている。
【0005】
第2特許文献(特開2003−49351号)には、ポリエステル系繊維不織布の片面に、メルトブローン極細繊維不織布が積層された自動車用吸音材が記載されている。
【特許文献1】特表2002−505209号(WO99/44817)請求項1、段落〔0016〕等の記載。
【特許文献2】特開2003−49351号 請求項1等。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述するように、他の吸音材の上に積層させて使用するメルトブローン繊維層は、それ自体でも吸音性を示す場合もあるが、むしろ吸音材の音源側表面に配置することで、吸音材全体の通気抵抗を高い値に保持する通気抵抗調整層としての役割を担うことができる。一方、通気抵抗層が最適な通気抵抗値を安定に維持し、通気抵抗のコントロールが容易な製造方法が望まれている。
【0007】
上述する第1および第2特許文献に記載された吸音材では、いずれもラミネート層がメルトブローン繊維層のみで構成されているため、繊維層の弾力により、一旦プレスされ、通気量が調整された後にも回復力をもち、繊維層の厚みを一定に維持することが一般には容易でない。それが、安定した通気特性をコントロールし、それを維持することを難しくさせている。また、通気抵抗値は、繊維径、繊維層の緻密性、繊維層の厚み等のファクターに左右され、従来の条件では、必ずしも最適な高い通気抵抗値を得る条件は得られていない。
【0008】
本発明の一態様では、上述する従来の課題に鑑み、軽量で薄く、扱いやすく、種々の吸音材等の表面にラミネートすることで、吸音材の通気抵抗を安定に調整し、その吸音性能を向上させることが可能な通気抵抗膜を提供する。
【0009】
また、本発明の他の態様では、上述する通気抵抗膜の製造方法を提供する。さらに本発明の別の態様では、上記通気抵抗膜を用いた吸音性積層部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、繊維径10μm以下であって、第1の融点を持つメルトブローン繊維と、メルトブローン繊維中に分散され、少なくとも部分的に前記メルトブローン繊維に溶融接着され、表面の少なくとも一部が前記第1の融点より低い第2の融点を持つ樹脂で形成されているバインダー繊維とを有し、ソリィディティが10%以上、単位面積あたりの重量が50〜250g/m2である、通気抵抗膜を提供する。
【0011】
本発明の第二の態様によれば、繊維径10μm以下であって、第1の融点を持つメルトブローン繊維を提供する工程と、表面の少なくとも一部が前記第1の融点より低い第2の融点を持つ樹脂で形成されているバインダー繊維を提供する工程と、このメルトブローン繊維とバインダー繊維とを混合し、単位面積あたりの重量が50〜250g/m2であるウェブを形成する工程と、第1の融点より低く第2の融点より高い温度で、ウェブを押圧し、ウェブのソリィディティを10%以上に調整する押圧工程と、を有する通気抵抗膜の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第三の態様によれば、吸音材と、この吸音材の音源側表面上もしくはその上部に積層された第一の態様による通気抵抗膜を有する吸音性積層部材が提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第一の態様による通気抵抗膜によれば、ソリィディティと、単位面積あたりの重量が所定の値に調整されているので、軽量で薄い膜で、高い通気抵抗を得ることができる。また、微細なメルトブローン繊維を使用しバインダー繊維を含み、部分的に溶融接着されているため、繊維構造が固定でき、取り扱いが容易で、安定した通気抵抗特性を提供できる。
【0014】
本発明の第二の態様による通気抵抗膜の製造方法によれば、繊維径10μm以下の微細なメルトブローン繊維とバインダー繊維とを混合後、バインダーの少なくとも表面の一部が溶融可能な温度で加圧し、加圧時の厚みをコントロールすることで、容易に通気抵抗を調整し、上記第一の態様の通気抵抗膜を提供できる。すなわち、一旦、加圧調整された膜厚と繊維構造は、バインダーの溶融により接着固定されるので、安定した通気抵抗特性をもつ通気抵抗膜を容易に製造できる。
【0015】
本発明の第三の態様による吸音性積層部材によれば、軽量で薄い本発明の第一の態様による通気抵抗膜が吸音材上に積層されることで、通気抵抗膜の高通気特性抵抗を容易にコントロールでき、重量や容積を過剰に増やすことなく、吸音特性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<通気抵抗膜>
本発明の通気抵抗膜は、メルトブローン繊維と、バインダー繊維を含むことができる。バインダー繊維は、メルトブローン繊維中に分散でき、少なくとも部分的にメルトブローン繊維により溶融接着されており、単位面積あたりの重量及び通気抵抗膜のソリィディティ(solidity)が調整できることを特徴とする。
【0017】
なお、本明細書において、バインダー繊維として、少なくともその一部が高融点メルトブローン繊維に溶融接着し、バインダーの機能を果たしうる繊維を使用できる。また、メルトブローン繊維として、バインダー繊維の上記溶融接着した部分より高い融点を有する樹脂で、メルトブローン法を用いて作製された繊維状材料を使用できる。なお、この「メルトブローン法」とは、樹脂原料を溶融し、ノズルから押し出された繊維状樹脂に高温の気流を吹き付けることで繊維径をより細く加工する方法をいう。
【0018】
「ソリィディティ」とは、ウェブの嵩密度を、ウェブを構成する材料の密度で割ることによって求められる値であり、百分率で示される。ウェブ内の充填性、機密性および通気性等の指標となる。なお、詳細な測定方法については後述する。
【0019】
本発明の通気抵抗膜は、吸音材等の表面に直接あるいは間接に積層して使用できるもので、吸音材の通気抵抗を調整し、その吸音特性を改善する、薄い膜状の音響部材である。この通気抵抗膜は、単独で使用することも可能であるが、通常それ自身での吸音効果はそれほど大きくない。しかし、他の吸音材の音源側に積層等の方法で結合することで、その吸音材の通気抵抗を実質的に通気抵抗膜とほぼ同じ高い通気抵抗にすることができる。結合させる(coupling)吸音材の種類によらず、通気抵抗値を一定にできる。例えば、フェルト層や、他の合成樹脂不織布層に直接または間接に貼り付け等の方法で連結させることもできる。なお、空気層を介して他の吸音材や、直接車両のボディに連結させた場合は、空気層も吸音材、または吸音材の一部としての機能を発揮させることができる。
【0020】
以下、より具体的に本発明の通気抵抗膜の実施の形態について説明する。
本実施の形態の通気抵抗膜は、繊維径10μm以下のメルトブローン繊維とメルトブローン繊維中に分散され、少なくとも部分的にメルトブローン繊維に溶融接着されたバインダー繊維とを有し、ソリィディティ(solidity)が10%以上、単位面積あたりの重量が約50〜約250g/m2である。
【0021】
また、この通気抵抗膜の通気抵抗(通気度)は、主に単位面積あたりの重量とソリィディティの値で調整される。単位面積あたりの重量が約50g/m2以上でソリィディティ(solidity)が約10%以上の場合、フェルト等の従来の吸音材に比較し、明らかに高い通気抵抗を得ることができる。例えば、通気抵抗として約600Pa・s/m以上の値を得ることができる。
【0022】
なお、単位面積あたりの重量が50g/m2未満の場合は、通気抵抗膜が薄くなりすぎる可能性があり、十分な強度が得られず、膜密度も不均一になりやすい。このため、実施態様では、単位面積あたりの重量を約50g/m2以上とすることで、ハンドリングを容易にし、膜密度が均一なものとしてもよい。さらに、単位面積あたりの重量を約100g/m2以上、約150g/m2以上にあげることも可能である。ある実施態様では、約250g/m2以下とし、薄く、軽量な通気抵抗を得ることができる。
【0023】
通気抵抗は、単位面積あたりの重量とソリィディティの値で調整できる。重量が同じ場合、ソリィディティを高くするほど、通気抵抗膜中の空隙率を下げ、より高い通気抵抗を得ることができる。ソリィディティは、約15%以上、さらに約18%以上に調整することも可能である。また、ソリィディティが一定の場合、単位面積あたりの重量を重くすることで、通気抵抗を上げることができる。しかし、通気抵抗が約2500Pa・s/mを超えると高周波音域、例えば約3000Hz以上の領域で、遮音性が生じる結果、通気抵抗膜で音の反射が生じ、吸音性の低下を引き起こす可能性がある。したがって、例えば単位面積あたりの重量が250g/m2とする場合、ソリィディティは15%以下とすることができ、一方、単位面積あたりの重量が150g/m2以下の場合は、例えばソリィディティを20%以上にすることができる。
【0024】
なお、通気抵抗膜としての機能を示すため、ある実施形態では通気抵抗を約600Pa・s/m以上、また、ある実施形態では約700Pa・s/m以上、さらにある実施形態では約1000Pa・s/m以上にしてもよい。一方、すでに述べたように3000Hz以上の高周波領域でも良好な吸音特性を得るためには、通気抵抗が約2500Pa・s/m以下、約2200Pa・s/m以下としてもよい。
【0025】
ソリィディティの調整は、種々の方法が可能であるが、代表的には、後述するように、製造時の通気抵抗膜の圧縮による厚みの調整によっても可能である。本開示の通気抵抗膜は、その厚みを約3mm以下、約2mm以下、さらには約1mm以下にできる。なお、ある実施形態では、通気抵抗膜の強度を得るために、厚みを約0.3mm以上、あるいは約0.5mm以上にできる。
【0026】
本開示の通気抵抗膜は、メルトブローン繊維中に、バインダー繊維が分散され、溶融接着されているため、メルトブローン繊維構造が固定され、安定した通気抵抗特性を示す。
【0027】
バインダー繊維の含有量は、通気抵抗膜の単位面積あたり約1g/m2以上にできる。あるいは別の実施形態では約5g/m2以上にできる。約1g/m2未満の場合、バインダーの量が不足する可能性があり、メルトブローン繊維構造を十分に溶融接着し安定に固定できず、使用中に厚みが回復しやすいため、通気抵抗を一定に維持できない可能性がある。一方、バインダー繊維が多すぎると、メルトブローン繊維による通気抵抗を高める効果が薄れる可能性がある。したがって、実施形態では、バインダーの含有量を約40g/m2以下、また別の実施形態では、約30g/m2以下とする。
【0028】
メルトブローン繊維としては、メルトブローン法により極細繊維に紡糸加工できるもので、バインダー繊維より融点が高いものであれば限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン1,4−シクロヘキサンジメタノール(PCT)、ポリ乳酸(PLA)及び/又はポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル、ポリアセテート、ポリアミド系樹脂等の熱可塑性高分子から選択することができる。このうちコスト面や加工のしやすさ等から、PETやPPが使用できる。さらに、軽量化の観点からは、より比重が軽いPPが使用できる。
【0029】
なお、後工程で、例えば本開示の通気抵抗膜を吸音材に積層する方法として、熱プレス等の高温工程を使用する場合は、比較的高い融点を有する繊維を使用することができる。高融点繊維としては、180℃以上の融点を持つものを使用できる。例えば、このようなポリエステル系樹脂繊維としてはポリブチレンテレフタレート(PBT)や、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66等のアミド系樹脂が挙げられる。なお、使用する高融点メルトブローン繊維原料は、単一材料のみならず、複数の樹脂材料を混合して使用してもよい。
【0030】
実施形態では、メルトブローン繊維の径は、約10μm以下、またある実施形態では約5μm以下、別の実施形態では約3μm以下にできる。例えばメルトブローン紡糸方法によれば、このような超極細繊維の作製が可能である。超極細繊維とすることで、同じ単位面積あたりの重量でより複雑で微細な孔径の繊維構造が形成されるため、高い通気抵抗が得られる。
【0031】
なお、ここで「繊維径」とは、繊維の長軸に垂直な断面における繊維径の平均を一般にいうものとする。正確には、SEM等の顕微鏡写真を撮影し、撮影像から求めた幾何学繊維径を測定できる。この幾何学的繊維径の測定方法は、例えば国際公開WO2004/046443に開示される測定方法を使用できる。また、繊維径の表示として、ウェブの圧力損失を測定し、その測定値から理論的に求められる有効繊維径(Effective Fiber Diameter)を使用することもできる。具体的な計算式は後述する。なお、この明細書で単に「繊維径」と呼ぶ場合は、幾何学繊維径をいうものとする。
【0032】
バインダー繊維としては、少なくとも表面の一部で、高融点メルトブローン繊維の融点より低い融点を有する繊維を使用できる。例えば、バインダーの低融点部分の融点がメルトブローン繊維の融点より約10℃以上も低いものを使用できる。また、ある実施形態では、約20℃以上低くできる。例えばバインダー繊維の低融点部分として、低融点ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等が使用できる。例えば、メルトブローン繊維として、融点が220℃近傍のポリブチレンテレフタレート(PBT)を使用する場合、バインダー繊維としては、表面の融点が110℃の低融点ポリエチレンテレフタレート(PET)等が使用できる。
【0033】
なお、車両用の吸音材として使用する場合は、耐環境試験に耐えうるため、バインダー繊維の溶融点は、約90℃以上、あるいは約100℃の以上、また別の実施形態では約120℃以上にしてもよい。
【0034】
バインダー繊維は、繊維状であればよく、その断面径や長さは特に限定されないが、分散性を上げるためには、短繊維が使用できる。例えば、紡糸された繊維を裁断することで製造される繊維長約10mm〜100mmのステープルファイバを使用できる。繊維状のバインダーは、メルトブローン繊維との接触密度が少なくとも一部で高いため、効率良く繊維間の溶融接着が可能であり、必要なバインダー繊維量を抑制できる。バインダー繊維は、全体が均一な融点を持つ材質である必要はなく、少なくとも表面に低融点層を備えるものであれば使用できる。例えば芯鞘構造の繊維で、鞘部分のみが低融点であるものも使用できる。このような芯鞘構造の繊維を使用すれば、メルトブローン繊維と混合された際、鞘部分の低融点バインダーのみが溶融し、芯部は、メルトブローン繊維とともに繊維として残存し、メルトブローン繊維の特性を阻害することなく通気抵抗を向上させる。
【0035】
いずれの場合も、部分的に溶融できるバインダー繊維は、溶融されることでメルトブローン繊維間を接着し、メルトブローン繊維の通気抵抗をより高める効果を有する。また、メルトブローン繊維構造を固定できるため、通気抵抗特性の安定性を高め、ハンドリングを容易にできる。
【0036】
<積層吸音部材>
本開示の通気抵抗膜は、吸音材等と結合させることで(coupling)、積層吸音部材として使用することができる。
図1は、本開示の一実施形態の積層吸音部材100を示す。積層吸音部材100は、吸音材120と、この吸音材120の表面に積層等の方法で結合させられた通気抵抗膜110とを有する。概して、通気抵抗膜110は、単独では吸音性をあまり示さないが、図1に示す通気抵抗膜110を吸音材120の表面に結合することで、吸音材120の吸音特性を改善できる。ここでいう表面とは、吸音したい音が流入する側、すなわち音源側の面を表面とする。吸音積層部材の通気抵抗は、表面に通気抵抗が高い通気抵抗膜110を備える場合、吸音積層部材全体の通気抵抗は、通気抵抗膜110により定まる。
【0037】
なお、ここで通気抵抗膜110を積層等により結合する吸音材120の種類は、限定されず、種々の吸音材を使用できる。例えば、フェルト材やウレタンフォーム材等の従来の吸音材が使用できる。さらに、これらと他の不織布繊維の複合体等も使用できる。少なくとも通気抵抗膜より通気抵抗が低い吸音材であれば、通気抵抗膜を積層させる効果が得られる。積層させる吸音材の厚みは、特に限定されず、例えば数mm〜数十mmの範囲で用途にあわせて変更できる。
【0038】
図2は、別の態様の積層吸音部材200を示す。この積層吸音部材200では、通気抵抗膜210が空気層220を介して車両ボディ等の部材230に結合されている。また、通気抵抗膜210と部材230間は支持部材240で維持されている。このように、車両ボディ等の部材230の吸音材を結合(couple)したい部分に、空気層220を介して通気抵抗膜210を装備してもよい。この場合は、空気層220が吸音材としての役割を果たす。なお、支持部材240として、たとえば、通気性の高いメッシュ材や、ハニカム構造体からなるスペーサを使用することもできる。
【0039】
図3は、スペーサ340を使用したさらに別の積層吸音部材300の構造を示す分解図の一例を示す。図3に示す一例では、通気抵抗膜310と車両ボディ等の部材330との間にスペーサ340を配置する。スペーサ340としては、金属箔、紙、樹脂フィルム等の材料で形成されたハニカム構造体を使用することができる。例えば通気流方向(通気抵抗膜310面に対しほぼ垂直方向)の厚みが2mm〜20mm、隔壁の厚みが0.5〜1mm、各セルのピッチが5〜20mmのハニカム構造体を使用できる。この場合、極めて軽量な吸音積層部材を得ることができる。
【0040】
こうして得られた積層吸音部材は、広い音域、例えば100Hz〜3000Hzで高い吸音特性を示すことができる。
【0041】
<通気抵抗膜の製造方法>
本開示の通気抵抗膜の製造方法は、まず、繊維径10μm以下のメルトブローン繊維と、バインダー繊維とを混合し、単位面積あたりの重量が50〜250g/m2であるウェブを形成する。この工程では、通常のメルトブローンプロセスが使用可能であり、吹き出されたメルトブローン繊維を含む気流に直接合流するようにバインダー繊維を吹きつけて、メルトブローン繊維の間に実質的に均一にバインダー繊維が分散されたウェブを形成する。なお、バインダー繊維は、例えばリッケンロール等の回転体で開繊され、高圧のエアーによって吹き付けられる。バインダー繊維の分散性を上げるには、比較的短い繊維が使用できる。また、単位面積あたりの重量は、高圧エアー気流に噴き込む各繊維量で調整できる。
【0042】
なお、混合ウェブの作製方法としては、上述する方法に限られず、例えば米国特許4813948号に開示されている以下の方法を使用することもできる。すなわち、まず、メルトブローンプロセスでメルトブローン繊維ウェブを形成し、これにバインダー繊維をブレンドするとともに、リッカーリン(likerin)等のロール状の開繊装置に供給し、さらに空気積層して、混合ウェブを形成することもできる。また、バインダーを加える前にメルトブローン繊維ウェブの界面活性剤等を噴霧することもできる。
【0043】
次に、得られた混合ウェブを、少なくともバインダー繊維が溶融する温度で加熱するとともに、混合ウェブを厚み方向上下から加圧し、圧縮する。加熱方法は限定されず、ランプを用いる方法やヒータを用いる方法等種々の方法が使用可能である。また、加圧方法もプレス機、あるいは加圧ローラー等のいずれの方法を使用することもできる。予め所定温度に加熱したウェブを加圧してもよいし、一般的なカレンダー工程を使用し、加熱と加圧を同時に行ってもよい。加熱温度は、バインダー繊維が溶融するが、メルトブローン繊維は溶融しない温度条件で行う。なお、バインダー繊維の溶融は、全体が溶融する必要はなく、繊維構造を接着固定できるものなら部分溶融でかまわない。芯鞘構造のバインダーを使用する場合は、鞘部のみが溶融する条件で使用してもよい。
【0044】
こうして、加熱及び加圧工程により、混合ウェブはソリィディティ(solidity)が10%以上となるよう調整される。これらのソリィディティの調整により、通気抵抗膜が得られる。
【0045】
なお、上記方法において、ソリィディティ及び通気抵抗の調整は、主に、加圧時のウェブの厚みで調整できる。すなわち、例えば加圧ローラーのギャップの調整により容易に通気抵抗の調整可能である。例えば、その結果、本実施の形態の通気抵抗膜の厚みは、3mm以下、1mm以下もしくは0.5mm以下の極めて薄いものに加工できる。
【0046】
また、溶融したバインダー繊維は、繊維構造を強固に固定するため、種々の変形や加工によっても、通気抵抗特性を安定に維持できる。
【0047】
こうして得られた通気抵抗膜を、吸音材に積層して、吸音積層部材として使用するためには、例えば、フェルトやウレタンフォームと通気抵抗膜を積層する際に、接着剤等で固定する、もしくはバインダー繊維量の調整により熱圧着で固定するなどの方法も可能であり、また所定のパターンにカットする際に、あるいはカットした後に、その端部を熱圧着で一体化するなどの方法も使用できる。
【0048】
<通気抵抗膜の用途>
本開示の通気抵抗膜を用いた積層吸音部材は、自動車用のダッシュインシュレータやフロアインシュレータのみならず、自動車の天井やドアあるいは、住宅用フロア-や壁といった吸音を必要とするあらゆる用途に広く使用することができる。特に、通気抵抗膜は、極めて薄くて軽量であるため、種々の吸音材と組み合わせて使用することができる。また、自動車の内装等に取り付ける際に、一定の空隙を持って、通気抵抗膜を積層すれば、空気層を吸音材とする積層吸音部材を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例は、例示であり限定されるものではない。また、本発明はこれらの実施例の記載に限定されることはない。まず、以下の実施例および比較例の評価に使用した種々の測定値の測定方法について説明する。
【0050】
<単位面積あたりの重量:単位[g/m2]>
通気抵抗膜の単位面積あたりの重量は、通気抵抗膜を10cm×10cmにカッティングしたものを5つ用意し、各サンプルの重量を測定し、その平均値から単位面積あたりの重量を求めた。吸音材(フェルト)の単位面積あたりの重量も同様な方法で測定した。
【0051】
<ソリィディティ:単位[%]>
「ソリィディティ」は、以下の式に示すように、通気抵抗膜の嵩密度ρ(ウェブ)を、通気抵抗膜を構成する材料の密度ρ(材料)で割ることによって求められる値であり、百分率で示される。通気抵抗膜の嵩密度ρ(ウェブ)は、上述する方法で求めた通気抵抗膜の単位面積あたりの重量を厚みで割ることにより求めた。なお、通気抵抗膜の厚みは、ASTM D 5729に準じ、後述する条件で測定した。また、材料密度ρ(材料)は、原料供給メーカより提供されたメルトブローン繊維及びバインダーの原材料密度から求めた。
【0052】
【数1】

【0053】
<通気抵抗(Pa・s/m)>
通気抵抗は、ASTM C 522 に基づいて測定した。通気抵抗は、ASTM C 522で予め定められた方法に基づき測定した。実施例、比較例の試料を5.25インチ(13.33mm)径の円形にカッティングし、試料台に固定した。この試料のシート面100cm2に対し垂直方向に圧縮空気を供給し、通気抵抗膜面垂直方向に生じる差圧を測定した。
【0054】
<吸音測定>
吸音特性は、ASTMのE 1050-98(“Impedance and Absorption Using A Tube, Two Microphones and A Digital Frequency Analysis System.”)に基づく2マイクロホン法で測定した。測定範囲は、500Hz〜4000Hzとした。2マイクロホン法は管内の音圧の入射と反射成分を2つのマイクロホンで測定し吸音率を求める方法である。
【0055】
また、得られた吸音率データを用いて、会話妨害度(SIL:Speech Interference Level)を求めた。会話妨害度(SIL)とは、普通の聴力を持った人どうしがイアホン、拡声器などを用いずに直接生の声で会話を行う場合において、周囲騒音がある中でどの程度明瞭に会話を理解できるか騒音環境を評価する指標であり、中心周波数500、1000、2000、4000Hz の4帯域の騒音音圧レベル(A特性)の算術平均値を SIL値とした。
【0056】
<繊維径>
メルトブローン繊維の繊維径は、以下の方法で幾何繊維径と有効繊維径の2種について測定した。
【0057】
<幾何繊維径:[μm]>
各実施例のウェブ試験片のSEM顕微鏡写真の画像解析によって繊維の「平均幾何直径」を測定した。(「幾何直径」は本明細書では、例えば、「有効繊維直径」を与えるもののような間接測定値とは対照的に、繊維の物理的寸法の直接観察によって得られた測定値を意味する)。ウェブ試験片から1cm×1cmの試験片を切り出し、直接、走査型電子顕微鏡の試料台に取り付けた。試験片を載せた試料台を走査顕微鏡中に挿入し、低真空モードで20kVの加速電圧、約15mmの作動距離、及び0°試料チルトを用いてが画像観察を行った。500倍及び1000倍倍率で撮られた反射電子画像を用いて繊維直径を測定した。各試料の電子顕微鏡写真において、明らかにメルトブローン繊維と思われる5〜10本の繊維を任意に選択し、その繊維直径を測定した。なお、メルトブローン繊維を使用していない試料片については、適宜、測定対象の繊維を選択し、その繊維径を同様な方法で測定した。
【0058】
<有効繊維径:[μm]>
有効繊維径(EFD)は、以下の式から求めた。
【0059】
【数2】

【0060】
<膜厚:[mm]>
通気抵抗膜の膜厚は、ASTM F778-88に準じた測定方法を用いて測定した。すなわち、通気抵抗膜を10cm×10cmにカッティングした試料を5つ用意した。上下の2牧プレートを備えた測定器を準備し、上方のプレートに16gの重りを載せ、持ち上げ、下のプレートの中央に試料を置いた。上下のプレート間距離を1.0cm+/-0.2cmの高さに調整し、この高さから上のプレートを離し、自重で下のプレートの上に落下させた。この状態で3秒待ち、上下のプレート間距離を備え付けのマイクロメータで測定した。これを、通気抵抗膜の膜厚とした。
【0061】
<実施例1>
メルトブローン繊維として、PBT樹脂(製品名DURANEX(登録商標) PBT 2002(ウィンテックポリマー社(Win Tech Polymer Ltd. Tokyo Japan)製)をメルトブローンプロセスで、繊維径5μmのメルトブローン繊維を単位面積あたりの重量120g/m2になるように紡糸するとともに、バインダー繊維として、帝人テトロン<TM>TJO4C2(製品番号)、帝人ファイバー社(Osaka Japan)製の芯鞘構造からなるバインダーファイバを使用した。芯部分が融点260℃のPET、鞘部分が溶融点110℃の低融点PETからなり、平均繊維径が2.2デニール、繊維長が38mmであった。このバインダーファイバ5g/m2を、上記メルトブローン繊維が吹き出された直後の繊維流に合流するように吹き付け、総単位面積あたりの重量125g/m2の混合ウェブ(Combined web)を作製した。この混合ウェブを110℃に加温したローラーを用いて潰し、厚み0.5mmの通気抵抗膜を得た。この通気抵抗膜のソリィディティは18%であった。
この通気抵抗膜を単位面積あたりの重量325g/m2、厚み7mmのPETフェルトの上に貼り付けて積層吸音部材を作製した。
【0062】
<実施例2>
バインダー繊維10g/m2をメルトブローン繊維に混合し、単位面積あたりの重量が130g/m2、厚みが0.9mmの混合ウェブを作製した。この通気抵抗膜のソリィディティは11.0%であった。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件を用いた。
【0063】
<実施例3>
バインダー繊維10g/m2をメルトブローン繊維に混合し、単位面積あたりの重量が127g/m2、厚みが0.5mmの混合ウェブを作製した。この通気抵抗膜のソリィディティは20.8%であった。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件を用いた。
【0064】
<実施例4>
バインダー繊維30g/m2をメルトブローン繊維に混合し、単位面積あたりの重量が142g/m2、厚みが1.0mmの混合ウェブを作製した。この通気抵抗膜のソリィディティは11.2%であった。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件を用いた。
【0065】
<実施例5>
バインダー繊維5g/m2をメルトブローン繊維に混合し、単位面積あたりの重量が250g/m2、厚みが1.7mmの混合ウェブを作製した。この通気抵抗膜のソリィディティは11.2%であった。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件を用いた。
【0066】
<比較例1>
通気抵抗膜は使用せず、目付量325g/m2、厚み7mmのPETフェルトからなる吸音部材を使用した。
【0067】
<比較例2>
バインダー繊維を混合せず、メルトブローン繊維のみから単位面積あたりの重量を118g/m2、厚みを1.8mmのウェブを作製した。このウェブのソリィディティは4.9%であった。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件を用いた。
【0068】
<比較例3>
バインダー繊維30g/m2をメルトブローン繊維に混合し、単位面積あたりの重量が138g/m2、厚みが2.9mmの混合ウェブを作製した。この通気抵抗膜のソリィディティは3.7%であった。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件を用いた。
【0069】
<比較例4>
バインダー繊維の高融点極細繊維を作製した。バインダー繊維15g/m2をメルトブローン繊維に混合し、総単位面積あたりの重量375g/m2、厚み2mmの混合ウェブを作製した。この通気抵抗膜のSolidity14.9%であった。それ以外は実施例1と同様の条件を用いた。
【0070】
<比較例5>
メルトブローン繊維を使用する代わりに、スパンボンド法で繊維径44μm、単位面積あたりの重量100g/m2、厚み0.6mmのPET不織布を作製した。このPET不織布に厚み7mmのフェルトを貼り付けた。
【0071】
<比較例6>
メルトブローン繊維を使用する代わりに、ニードルパンチ法で繊維径23μm、単位面積あたりの重量90g/m2、厚み0.6mmのPET不織布を作製した。このPET不織布に厚み7mmのフェルトを貼り付けた。
【0072】
<評価>
各実施例、比較例の条件、および吸音特性を表1および図4に示した。
【0073】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態にかかる積層吸音部材の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる他の積層吸音部材の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる他の積層吸音部材の構成例を示す分解図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例の積層吸音部材の吸音特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
100、200、300 積層吸音部材
110、210、310 吸音材
110、210、310 通気抵抗膜
120、220 吸音材
220 空気層
230、330 部材
240、340 支持部材
340 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径10μm以下であって、第1の融点を持つメルトブローン繊維と、
前記メルトブローン繊維中に分散され、少なくとも部分的に前記メルトブローン繊維に溶融接着され、表面の少なくとも一部が前記第1の融点より低い第2の融点を持つ樹脂で形成されているバインダー繊維とを有し、
ソリィディティが10%以上、単位面積あたりの重量が50〜250g/m2である、通気抵抗膜。
【請求項2】
厚みが、2mm以下である、前記請求項1に記載の通気抵抗膜。
【請求項3】
通気抵抗が、600〜2500Pa・s/mである請求項1もしくは2のいずれか1項に記載の通気抵抗膜。
【請求項4】
前記メルトブローン繊維は、180℃以上の融点を有するポリエステル系樹脂もしくはアミド樹脂より選択されたいずれか一つまたは複数の繊維を含み、
前記バインダー繊維は、少なくともその一部が、融点が90℃以上180℃未満であるステープルファイバである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の通気抵抗膜。
【請求項5】
前記バインダー繊維は、単位面積あたりの重量が1〜40g/m2である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の通気抵抗膜。
【請求項6】
前記バインダー繊維は、芯鞘構造を有し、鞘部分のみが溶融していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の通気抵抗膜。
【請求項7】
繊維径が10μm以下であって、第1の融点を持つメルトブローン繊維を提供する工程と、
表面の少なくとも一部が前記第1の融点より低い第2の融点を持つ樹脂で形成されているバインダー繊維を提供する工程と、
前記メルトブローン繊維と前記バインダー繊維とを混合し、単位面積あたりの重量が50〜250g/m2であるウェブを形成する工程と、
前記第1の融点より低く、前記第2の融点より高い温度で、前記ウェブを押圧し、前記ウェブのソリィディティ(solidity)を10%以上に調整する押圧工程とを有する通気抵抗膜の製造方法。
【請求項8】
前記押圧工程において、前記ウェブの厚みを2mm以下に調整することを特徴とする請求項7に記載の通気抵抗膜の製造方法。
【請求項9】
吸音材と、
前記吸音材の音源側表面上もしくはその上部に積層された請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記通気抵抗膜を有する、吸音性積層部材。
【請求項10】
前記吸音材が空気層である、請求項9に記載の吸音性積層部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−57663(P2009−57663A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226567(P2007−226567)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】