説明

運転操作支援装置、運転操作支援方法

【課題】停車状態を維持するための制動力を運転者のアクセル操作に応じて解除して車両を発進させる際に、車速コントロールの操作性を向上させる。
【解決手段】アクセル操作量Saが第一の閾値th1以下のときには、最終制動力指令値FBを保持制動力指令値FBPKBとし、アクセル操作量Saが第一の閾値th1を超えるときには、アクセル操作量Saが大きいほど、保持制動力指令値FBPKB未満の範囲で最終制動力指令値FBを小さくする(ステップS109)。一方、アクセル操作量Saが第二の閾値th2以下のときには、駆動力指令値FAはクリープトルクTcに設定し、アクセル操作量Saが第二の閾値th2を超えると、アクセル操作量Saが大きいほど、クリープトルクTcよりも大きな範囲で駆動力指令値FAを大きくする(S112)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転操作支援装置、運転操作支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の停車状態を保持するために停車保持制動力を発生させるものであって、アクセル開度が閾値Aref以上となったら、停車保持制動力を解除し、その後、アクセル開度が閾値Arefよりも大きな閾値A2以上となるときに、アクセル開度に応じた駆動力を発生させるものがあった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−265616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シフトポジションがDレンジやRレンジ等の走行レンジにある状態で、閾値Arefを上回るアクセル操作によって停車保持制動力を解除すると、その時点から少なくともクリープトルク分の駆動力で車両が動き始めることになる。したがって、クリープトルクよりも小さな駆動力で、ゆっくり発進させたいときには、アクセルペダルからブレーキペダルへと踏み換えなければならず、運転者に煩雑感を与える可能性があった。
【0005】
本発明の課題は、停車状態を維持するための制動力を運転者のアクセル操作に応じて解除して車両を発進させる際に、車速コントロールの操作性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る運転操作支援装置は、車両が停車しているときに停車状態を保持するための保持制動力指令値を設定し、保持制動力指令値と運転者のアクセル操作量とに応じて最終制動力指令値を設定し、最終制動力指令値に応じて車両の制動力を制御する。そして、アクセル操作量が予め定められた第一の閾値以下であるときには、最終制動力指令値を保持制動力指令値に設定し、アクセル操作量が第一の閾値を超えているときには、アクセル操作量が大きいほど、保持制動力指令値未満の範囲で最終制動力指令値を小さく設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る運転操作支援装置によれば、アクセル操作量に応じて最終制動力指令値を設定できるので、車両が停車している状態から運転者がアクセル操作量を増加させると、保持制動力指令値に設定された最終制動力指令値を減少させることができる。すなわち、停車状態を保持するための制動力を解除して車両を発進させる際に、アクセル操作だけで車両の制動力を制御できるので、車速コントロールの操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】運転操作支援装置の概略構成図である。
【図2】ブレーキアクチュエータの概略構成図である。
【図3】運転操作支援制御処理を示すフローチャートである。
【図4】アクセル操作量Saに応じた制駆動力を示すグラフである。
【図5】保持制動力が解除されるまでの制動力の推移を示すグラフである。
【図6】アクセル戻し操作が終了するまでの駆動力の推移を示すグラフである。
【図7】アクセル戻し操作が終了してからの駆動力の推移を示すグラフである。
【図8】第一実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【図9】駆動力解除アクセル操作量Sarを変更した場合のマップである。
【図10】アクセル操作量Saに応じた制駆動力を示すグラフである。
【図11】第二の実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【図12】アクセル操作量Saに応じた制駆動力を示すグラフである。
【図13】第三の実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【図14】運転操作支援制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、運転操作支援装置の概略構成図である。
各車輪の車輪速度VwFL〜VwRRを検出する電磁誘導式の車輪速センサ1と、アクセルペダルのアクセル操作量(アクセル開度)Saを検出するアクセルセンサ2と、ブレーキペダルのブレーキ操作量(ブレーキ開度)Sbを検出するブレーキセンサ3と、がコントローラ5に接続される。
【0010】
コントローラ5は、例えばマイクロコンピュータで構成されており、各センサからの検出信号に基づいて後述する運転操作支援制御処理を実行し、エンジン出力制御装置6とブレーキアクチュエータ8とを駆動制御する。
ここで、エンジン出力制御装置6は、エンジン7におけるスロットルバルブの開度、燃料噴射量、点火時期などを調整することによって、エンジン出力(回転数やエンジントルク)を制御するように構成されている。
【0011】
図2は、ブレーキアクチュエータの概略構成図である。
ブレーキアクチュエータ8は、マスターシリンダ10と各ホイールシリンダ11FL〜11RRとの間に介装されている。
【0012】
マスターシリンダ10は、運転者のペダル踏力に応じて2系統の液圧を作るタンデム式のもので、プライマリ側をフロント左・リア右のホイールシリンダ11FL・11RRに伝達し、セカンダリ側を右前輪・左後輪のホイールシリンダ11FR・11RLに伝達するダイアゴナルスプリット方式を採用している。
【0013】
各ホイールシリンダ11FL〜11RRは、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧して制動力を発生させるディスクブレーキや、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧して制動力を発生させるドラムブレーキに内蔵されている。
ブレーキアクチュエータ8は、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)、スタビリティ制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)等に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものであり、運転者のブレーキ操作に係らず各ホイールシリンダ11FL〜11RRの液圧を増圧・保持・減圧できるように構成されている。
【0014】
プライマリ側は、マスターシリンダ10及びホイールシリンダ11FL(11RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型の第1ゲートバルブ12Aと、第1ゲートバルブ12A及びホイールシリンダ11FL(11RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型のインレットバルブ13FL(13RR)と、ホイールシリンダ11FL(11RR)及びインレットバルブ13FL(13RR)間に連通したアキュムレータ14と、ホイールシリンダ11FL(11RR)及びアキュムレータ14間の流路を開放可能なノーマルクローズ型のアウトレットバルブ15FL(15RR)と、マスターシリンダ10及び第1ゲートバルブ12A間とアキュムレータ14及びアウトレットバルブ15FL(15RR)間とを連通した流路を開放可能なノーマルクローズ型の第2ゲートバルブ16Aと、アキュムレータ14及びアウトレットバルブ15FL(15RR)間に吸入側を連通し、且つ第1ゲートバルブ12A及びインレットバルブ13FL(13RR)間に吐出側を連通したポンプ17と、を備えている。また、ポンプ17の吐出側には、吐出されたブレーキ液の脈動を抑制し、ペダル振動を弱めるダンパー室18が配設されている。
【0015】
また、セカンダリ側も、プライマリ側と同様に、第1ゲートバルブ12Bと、インレットバルブ13FR(13RL)と、アキュムレータ14と、アウトレットバルブ15FR(15RL)と、第2ゲートバルブ16Bと、ポンプ17と、ダンパー室18と、を備えている。
【0016】
第1ゲートバルブ12A・12Bと、インレットバルブ13FL〜13RRと、アウトレットバルブ15FL〜15RRと、第2ゲートバルブ16A・16Bとは、夫々、2ポート2ポジション切換・シングルソレノイド・スプリングオフセット式の電磁操作弁であって、第1ゲートバルブ12A・12B及びインレットバルブ13FL〜13RRは、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A・16Bは、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成されている。
【0017】
また、アキュムレータ14は、シリンダのピストンに圧縮バネを対向させたバネ形のアキュムレータで構成されている。
また、ポンプ17は、負荷圧力に係りなく略一定の吐出量を確保できる歯車ポンプ、ピストンポンプ等、容積形のポンプで構成されている。
【0018】
上記の構成により、プライマリ側を例に説明すると、第1ゲートバルブ12A、インレットバルブ13FL(13RR)、アウトレットバルブ15FL(15RR)、及び第2ゲートバルブ16Aが全て非励磁のノーマル位置にあるときに、マスターシリンダ2からの液圧がそのままホイールシリンダ11FL(11RR)に伝達され、通常ブレーキとなる。
【0019】
また、ブレーキペダルが非操作状態であっても、インレットバルブ13FL(13RR)、及びアウトレットバルブ15FL(15RR)を非励磁のノーマル位置にしたまま、第1ゲートバルブ12Aを励磁して閉鎖すると共に、第2ゲートバルブ16Aを励磁して開放し、更にポンプ17を駆動することで、マスターシリンダ2の液圧を第2ゲートバルブ16Aを介して吸入し、吐出される液圧をインレットバルブ13FL(13RR)を介してホイールシリンダ11FL(11RR)に伝達し、増圧させることができる。
【0020】
また、第1ゲートバルブ12A、アウトレットバルブ15FL(15RR)、及び第2ゲートバルブ16Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ13FL(13RR)を励磁して閉鎖すると、ホイールシリンダ11FL(11RR)からマスターシリンダ2及びアキュムレータ14への夫々の流路が遮断され、ホイールシリンダ11FL(11RR)の液圧が保持される。
【0021】
さらに、第1ゲートバルブ12A及び第2ゲートバルブ16Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ13FL(13RR)を励磁して閉鎖すると共に、アウトレットバルブ15FL(15RR)を励磁して開放すると、ホイールシリンダ11FL(11RR)の液圧がアキュムレータ14に流入して減圧される。アキュムレータ14に流入した液圧は、ポンプ17によって吸入され、マスターシリンダ2に戻される。
【0022】
セカンダリ側に関しても、通常ブレーキ・増圧・保持・減圧の動作は、上記プライマリ側の動作と同様であるため、その詳細説明は省略する。
したがって、コントローラ5は、第1ゲートバルブ12A・12Bと、インレットバルブ13FL〜13RRと、アウトレットバルブ15FL〜15RRと、第2ゲートバルブ16A・16Bと、ポンプ17とを駆動制御することによって、各ホイールシリンダ11FL〜11RRの液圧を増圧・保持・減圧する。
【0023】
なお、本実施形態では、ブレーキ系統をフロント左・リア右とフロント右・リア左とで分割するダイアゴナルスプリット方式を採用しているが、これに限定されるものではなく、フロント左右とリア左右とで分割する前後スプリット方式を採用してもよい。
また、本実施形態では、バネ形のアキュムレータ14を採用しているが、これに限定されるものではなく、各ホイールシリンダ11FL〜11RRから抜いたブレーキ液を一時的に貯え、減圧を効率よく行うことができればよいので、重錘形、ガス圧縮直圧形、ピストン形、金属ベローズ形、ダイヤフラム形、ブラダ形、インライン形など、任意のタイプでよい。
【0024】
また、本実施形態では、第1ゲートバルブ12A・12B及びインレットバルブ13FL〜13RRが、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A・16Bが、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成しているが、これに限定されるものではない。要は、各バルブの開閉を行うことができればよいので、第1ゲートバルブ12A・12B及びインレットバルブ13FL〜13RRが、励磁したオフセット位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A・16Bが、励磁したオフセット位置で流路を閉鎖するようにしてもよい。
【0025】
次に、コントローラ5で所定時間(例えば10msec)毎に実行する運転操作支援制御処理について説明する。
図3は、運転操作支援制御処理を示すフローチャートである。
ステップS101では、発進操作支援フラグが『fs=1』にセットされているか否かを判定する。この判定結果が『fs=0』であれば、発進操作支援は不要であると判断してステップS102に移行する。一方、判定結果が『fs=1』であれば、発進操作支援が必要であると判断して後述するステップS108に移行する。なお、発進操作支援フラグは、初期設定では『fs=0』にリセットされているものとする。
【0026】
ステップS102では、車両が停車しているときに停車状態を保持するための保持制動力を発生させる保持操作支援(以下、PKB支援と称す)が必要であるか否かを判定する。例えば、自車両の進行方向に存在する障害物や他車両を検出し、離間距離に応じた自動ブレーキによって車両を停車させた場合に、PKB支援が必要であると判定する。また、勾配路で車両を停止させた場合に、ヒルスタートアシストとしてPKB支援が必要であると判定する。また、運転者のブレーキ操作によって車両が停車した場合でも、運転者が保持制動力を上回る制動力を発生させてから所定時間が経過したときや、又は運転者がPKBスイッチをONにしたときにも、PKB支援が必要であると判定する。ここで、PKB支援は不要であると判定したらステップS103に移行する。一方、PKB支援が必要であると判定したら後述するステップS106に移行する。
【0027】
ステップS103では、図中のマップを参照し、ブレーキ操作量Sbに応じて最終制動力指令値FBを設定する。このマップは、ブレーキ操作量Sbが大きいほど、最終制動力指令値FBが大きくなるように設定されている。
【0028】
続くステップS104では、図中のマップを参照し、アクセル操作量Saに応じて駆動力指令値FAを設定する。このマップは、アクセル操作量Saが予め定められた第三の閾値th3以下のときには、駆動力指令値FAをクリープトルクTcに設定し、アクセル操作量Saが閾値th3(例えば3deg程度)を超えるとときには、アクセル操作量Saが大きいほど、クリープトルクTcより大きな範囲で駆動力指令値FAが大きくなるように設定されている。クリープトルクTcとは、通常のAT車両において、アクセルペダルを踏むことなく、エンジンがアイドリングの状態で車両が動くときの駆動力に相当する。なお、上記のように通常のAT車両においてアクセルペダルを踏むことなく発生する駆動力を一般的にクリープトルクと言うが、例えば電動車においてはアクセルペダルの非操作時にAT車のクリープトルクを模したトルクをモータから出力するものが知られており、上記クリープトルクとは、このようなアクセルペダルの非操作時にAT車のクリープトルクを模して出力されるトルクも含む。
【0029】
続くステップS105では、最終制動力指令値FBを達成するためにブレーキアクチュエータ8を駆動制御すると共に、駆動力指令値FAを達成するためにエンジン出力制御装置6を駆動制御してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0030】
一方、ステップS106では、保持制動力を発生させるための保持制動力指令値FBPKBを設定する。保持制動力指令値FBPKBは、乗員数や積載荷重、また路面勾配等が変化しても自車両を停車状態に保持できる程度の予め定められた値でもよいし、例えば自車両を停車状態に保持できるように、乗員数や積載荷重、また路面勾配などに応じて可変としてもよい。
【0031】
続くステップS107では、発進操作支援フラグを『fs=1』にセットしてから前記ステップS105に移行する。
【0032】
一方、ステップS108では、保持制動力解除フラグが『fr=0』にリセットされているか否かを判定する。判定結果が『fr=0』であれば、保持制動力が解除されていないと判断してステップS109に移行する。一方、判定結果が『fr=1』であれば、保持制動力が解除されたと判断して後述するステップS113に移行する。なお、保持制動力解除フラグは、初期設定では『fr=0』にリセットされている。
【0033】
ステップS109では、図中のマップを参照し、保持制動力指令値FBPKB及びアクセル操作量Saに応じて最終制動力指令値FBを設定する。このマップは、アクセル操作量Saが予め定められた第一の閾値th1(例えば3deg程度)以下のときには、最終制動力指令値FBを保持制動力指令値FBPKBとし、アクセル操作量Saが第一の閾値th1を超えるときには、アクセル操作量Saが大きいほど、保持制動力指令値FBPKB未満の範囲で最終制動力指令値FBを小さくするように設定されている。ここで、アクセル操作量Saの増加によって最終制動力指令値FBが0となる時点のアクセル操作量Saを、制動力解除アクセル操作量Sbrとする。
【0034】
続くステップS110では、アクセル操作量Saが制動力解除アクセル操作量Sbr以上であるか否かを判定する。判定結果が『Sa≧Sbr』であれば、保持制動力が解除されたと判断してステップS111に移行する。一方、判定結果が『Sa<Sbr』であれば、保持制動力は解除されていないと判断してステップS112に移行する。
ステップS111では、保持制動力解除フラグを『fr=1』にセットする。
【0035】
続くステップS112では、図中のマップを参照し、アクセル操作量Saに応じて駆動力指令値FAを設定してから前記ステップS105に移行する。このマップは、アクセル操作量Saが第一の閾値th1よりも大きな予め定められた第二の閾値th2(例えば10deg程度)以下であるときには、駆動力指令値FAをクリープトルクTcとし、アクセル操作量Saが第二の閾値th2を超えるときには、アクセル操作量Saが大きいほど、クリープトルクTcより大きな範囲で駆動力指令値FAを大きくするように設定されている。ここでは、第二の閾値th2は、制動力解除アクセル操作量Sbrと同一とする。
【0036】
一方、ステップS113では、最終制動力指令値FBを0に設定する。
続くステップS114では、アクセル操作量Saが第二の閾値th2よりも小さな予め定められた第三の閾値th3以下であるか否かを判定する。判定結果が『Sa>th3』であれば、アクセル戻し操作は終了していないと判断して前記ステップS112に移行する。一方、判定結果が『Sa≦th3』であれば、アクセル戻し操作が終了したと判断してステップS115に移行する。
【0037】
ステップS115では、発進操作支援フラグを『fs=0』にリセットする。
続くステップS116では、保持制動力解除フラグを『fr=0』にリセットしてから前記ステップS105に移行する。
【0038】
《作用》
図4は、アクセル操作量Saに応じた制駆動力を示すグラフである。
図5は、保持制動力が解除されるまでの制動力の推移を示すグラフである。
図6は、アクセル戻し操作が終了するまでの駆動力の推移を示すグラフである。
図7は、アクセル戻し操作が終了してからの駆動力の推移を示すグラフである。
図8は、第一実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【0039】
先ず、例えば自動ブレーキによって車両を停車させたときに(S102の判定が“No”)、PKB支援を行う(S106)。すなわち、保持制動力を発生させるための保持制動力指令値FBPKBを設定し、これに応じてブレーキアクチュエータ8を駆動制御する(S105)。これにより、運転者はブレーキペダルを踏込まなくとも車両の停車状態を保持することができる。
【0040】
このPKB支援を行っている状態から、運転者がアクセルペダルを踏込むときに、保持制動力指令値FBPKBを解除し、車両を発進させることが望ましい。しかしながら、シフトポジションがDレンジやRレンジ等の走行レンジにある状態で、保持制動力指令値FBPKBを一気に解除すると、その時点から少なくともクリープトルクTc分の駆動力で車両が動き始めることになる。したがって、クリープトルクTcよりも小さな駆動力で、ゆっくり発進させたいときには、アクセルペダルからブレーキペダルへと直ぐに踏み換えなければならず、運転者に煩雑感を与える可能性がある。
【0041】
そこで、図4に示すように、アクセル操作量Saが第一の閾値th1以下のときには、最終制動力指令値FBを保持制動力指令値FBPKBとし、アクセル操作量Saが第一の閾値th1を超えるときには、アクセル操作量Saが大きいほど、保持制動力指令値FBPKB未満の範囲で最終制動力指令値FBを小さくする(ステップS109)。
【0042】
これにより、アクセル操作量Saに応じて最終制動力指令値FBを設定できるので、車両が停車している状態から運転者がアクセル操作量を増加させると、保持制動力指令値FBPKBに設定された最終制動力指令値FBを減少させることができる。したがって、アクセル操作に応じた制動力によってクリープトルクTcに抗することができ、クリープ車速以下の速度で発進させることができる。すなわち、アクセル操作だけで、クリープトルクTcよりも小さな駆動力で、ゆっくり発進させて車両の飛び出し感を抑制することができる。このように、停車状態を保持するための保持制動力指令値FBPKBを解除して車両を発進させる際に、アクセル操作だけで車両の制動力を制御できるので、車速コントロールの操作性を向上させることができる。
【0043】
アクセル操作量Saが制動力解除アクセル操作量Sbr以上になるまでは(S110の判定が“No”)、保持制動力解除フラグを『fr=0』の状態に維持するので、図5に示すように、アクセルペダルを戻せば再び制動力を増加させることができる。したがって、運転者の制動要求に応えることができる。また、アクセルペダルを第一の閾値th1以下まで戻せば、保持制動力によって停車状態を保持することもできる。したがって、運転者の停車保持要求にも応えることができる。
【0044】
一方、図4に示すように、アクセル操作量Saが第二の閾値th2以下のときには、駆動力指令値FAはクリープトルクTcに設定し、アクセル操作量Saが第二の閾値th2を超えると、アクセル操作量Saが大きいほど、クリープトルクTcよりも大きな範囲で駆動力指令値FAを大きくする(S112)。
【0045】
これにより、アクセルペダルが第二の閾値th2以下にある間は、クリープトルクTcを維持するが、アクセルペダルを第二の閾値th2を超えて踏込むと、クリープトルクTcを超えた駆動力で車両を速やかに発進させることができる。したがって、運転者の加速要求に応えることができる。
【0046】
そして、アクセル操作量Saが第二の閾値th2(=Sbr)以上になったら(S110の判定が“Yes”)、保持制動力解除フラグを『fr=1』にセットするので(S111)、その後は、アクセル操作量Saが制動力解除アクセル操作量Sbr未満となっても、最終制動力指令値FBを0に設定する(S113)。
【0047】
このように、一旦、保持制動力を解除したら、アクセル操作に応じた制動力の制御を中止するので、アクセルペダルを戻すときの減速感を通常の感覚に戻し、運転者の違和感を軽減することができる。
【0048】
また、第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrと同一に設定しているので、アクセル操作に応じた制動力制御からアクセル操作に応じた駆動力制御へと連続して移行することができる。すなわち、アクセルペダルを踏込み、保持制動力が減少して消失すると、連続的に駆動力が増加するので、車速コントロールの操作性を向上させることができる。
【0049】
また、アクセル操作量Saが第三の閾値th3以下になるまでは(S114の判定が“No”)、発進操作支援フラグを『fs=1』の状態に維持するので、図6に示すように、アクセルペダルを第二の閾値th2を超えて踏込めば、クリープトルクTcを超えた駆動力で車両を走行させることができ、アクセルペダルを第二の閾値th2以下まで戻せばクリープトルクTcで車両を走行させることができる。
【0050】
そして、アクセル操作量Saが第三の閾値th3以下になったら(S114の判定が“Yes”)、発進操作支援フラグを『fs=0』にリセットするので(S115)、その後は、図7に示すように、アクセル操作に応じた駆動力指令値FAを通常の状態に復帰させる。すなわち、アクセル操作量Saが第三の閾値th3以下のときには、駆動力指令値FAをクリープトルクTcに設定し、アクセル操作量Saが第三の閾値th3を超えるときには、アクセル操作量Saが大きいほど、クリープトルクTcより大きな範囲で駆動力指令値FAを大きくする(S104)。
【0051】
このように、一旦、アクセル戻し操作が終了したら、発進操作支援による駆動力の制御を中止するので、アクセルペダルを踏込んだときの加速感を通常の感覚に戻し、運転者の違和感を軽減することができる。
【0052】
《応用例》
先ず、第一の実施形態では、アクセル操作量Saが制動力解除アクセル操作量Sbr以上であるときに、保持制動力解除フラグを『fr=1』にセットしているが、アクセル操作量Saが第二の閾値th2以上であるときに、保持制動力解除フラグを『fr=1』にセットしてもよい。第一実施形態では、第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrと同一に設定しているので、作用は実質的に同一である。
【0053】
また、第一の実施形態では、アクセル操作量Saが第三の閾値th3以下となるまで、ステップS112で所定のマップを参照して、駆動力指令値FAを設定しているが、参照するマップを変更してもよい。例えば、アクセル操作量Saがth3〜th2の範囲にあると(th3<Sa≦th2)、駆動力指令値FAがクリープトルクTcを維持し、アクセル操作量Saの変化に対する不感帯となってしまう。
【0054】
そこで、アクセル操作量Saが第二の閾値th2を超えた状態からアクセル操作量Saが減少するときに、アクセル操作量Saの減少によって駆動力指令値FAをクリープトルクTcに設定する時点のアクセル操作量Saを、駆動力解除アクセル操作量Sarとし、駆動力解除アクセル操作量Sarが、第三の閾値th3以上、且つ第二の閾値th2未満の範囲となるように、アクセル操作量Saの減少率に対する駆動力指令値FAの減少率を設定してもよい。
【0055】
図9は、駆動力解除アクセル操作量Sarを変更した場合のマップである。
例えば、駆動力解除アクセル操作量Sarを第三の閾値th3に設定すれば、アクセル操作量Saの減少に対する駆動力指令値FAの減少勾配が緩やかになり、アクセル操作量Saに対する駆動力指令値FAの不感帯を0にすることができる。これにより、アクセル操作量Saが第二の閾値th2を超えてから再び第二の閾値th2以下となるときの、操作抜け感を抑制することができる。
【0056】
また、第一の実施形態では、エンジン車両について説明しているが、電気自動車(EV)に適用してもよい。この場合、駆動力指令値FAに応じてインバータ出力をコントロールしたり、三相短絡によって保持制動力指令値FBPKBを発生させてもよい。
【0057】
《効果》
以上より、ステップS106の処理が「保持制動力指令値設定手段」に対応し、アクセルセンサ2が「アクセル操作量検出手段」に対応し、ステップS109、S113の処理が「最終制動力指令値設定手段」に対応し、ステップS105の処理、及びブレーキアクチュエータ8が「ブレーキ制御手段」に対応する。また、ステップS112、S104の処理が「駆動力指令値設定手段」に対応し、ステップS105の処理、及びエンジン出力制御装置6が「アクセル制御手段」に対応する。
【0058】
(1)車両が停車しているときに停車状態を保持するための保持制動力指令値を設定する保持制動力指令値設定手段と、運転者のアクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、前記保持制動力指令値設定手段で設定した保持制動力指令値、及び前記アクセル操作量検出手段で検出したアクセル操作量に応じて、最終制動力指令値を設定する最終制動力指令値設定手段と、前記最終制動力指令値設定手段で設定した最終制動力指令値に応じて車両の制動力を制御するブレーキ制御手段と、を備え、前記最終制動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が予め定められた第一の閾値以下であるときには、前記最終制動力指令値を前記保持制動力指令値に設定し、前記アクセル操作量が前記第一の閾値を超えているときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記保持制動力指令値未満の範囲で前記最終制動力指令値を小さく設定する。
【0059】
これにより、アクセル操作量に応じて最終制動力指令値を設定できるので、車両が停車している状態から運転者がアクセル操作量を増加させると、保持制動力指令値に設定された最終制動力指令値を減少させることができる。すなわち、停車状態を保持するための制動力を解除して車両を発進させる際に、アクセル操作だけで車両の制動力を制御できるので、車速コントロールの操作性を向上させることができる。
【0060】
(2)前記アクセル操作量に応じて駆動力指令値を設定する駆動力指令値設定手段と、前記駆動力指令値設定手段で設定した駆動力指令値に応じて車両の駆動力を制御するアクセル制御手段と、を備え、前記駆動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第一の閾値よりも大きな予め定められた第二の閾値以下であるときには、前記駆動力指令値をクリープトルクに設定し、前記アクセル操作量が前記第二の閾値を超えているときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記クリープトルクより大きな範囲で前記駆動力指令値を大きく設定する。
【0061】
これにより、アクセル操作量が第二の閾値以下にある間は、クリープトルクを維持するが、アクセル操作量が第二の閾値を超えると、クリープトルクを超えた駆動力で車両を速やかに発進させることができる。
【0062】
(3)前記最終制動力指令値設定手段が前記アクセル操作量の増加によって前記最終制動力指令値を0に設定する時点の前記アクセル操作量を、制動力解除アクセル操作量とし、前記第二の閾値は、前記制動力解除アクセル操作量と同一に設定される。
【0063】
これにより、アクセル操作に応じた制動力制御からアクセル操作に応じた駆動力制御へと連続して移行することができる。すなわち、アクセル操作量を増加させ、保持制動力指令値が減少して消失すると、連続的に駆動力指令値が増加するので、車速コントロールの操作性を向上させることができる。
【0064】
(4)前記最終制動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第二の閾値以上になってから再び前記アクセル操作量が前記第二の閾値未満となるときには、前記最終制動力指令値を0に設定する。
【0065】
このように、アクセル操作量が第二の閾値以上となり、一旦、保持制動力指令値を解除したら、アクセル操作量に応じた制動力指令値の制御を中止するので、アクセル操作量を戻すときの減速感を通常の感覚に戻し、運転者の違和感を軽減することができる。
【0066】
(5)前記最終制動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記制動力解除アクセル操作量以上となってから再び前記アクセル操作量が前記制動力解除アクセル操作量未満となるときには、前記最終制動力指令値を0に設定する。
【0067】
このように、アクセル操作量が制動力解除アクセル操作量以上となり、一旦、保持制動力指令値を解除したら、アクセル操作量に応じた制動力指令値の制御を中止するので、アクセル操作量を戻すときの減速感を通常の感覚に戻し、運転者の違和感を軽減することができる。
【0068】
(6)前記駆動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第二の閾値を超えてから再び前記アクセル操作量が前記第二の閾値以下となり、且つ前記アクセル操作量が前記第二の閾値よりも小さい予め定められた第三の閾値以下となってから再び前記アクセル操作量が前記第三の閾値を超えるときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記クリープトルクより大きな範囲で前記駆動力指令値を大きく設定する。
【0069】
このように、アクセル操作量が第三の閾値以下となり、一旦、アクセル戻し操作が終了したら、発進操作を支援するための駆動力の制御を中止するので、アクセル操作量を増加させるときの加速感を通常の感覚に戻し、運転者の違和感を軽減することができる。
【0070】
(7)前記駆動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第二の閾値を超えた状態から前記アクセル操作量が減少するときに、前記アクセル操作量の減少によって前記駆動力指令値を前記クリープトルクに設定する時点の前記アクセル操作量を、駆動力解除アクセル操作量とし、前記駆動力解除アクセル操作量が、前記第三の閾値以上、且つ前記第二の閾値未満の範囲となるように、前記アクセル操作量の減少率に対する前記駆動力指令値の減少率を設定する。
【0071】
これにより、アクセル操作量が第三の閾値から第二の閾値の範囲にあるときの、アクセル操作量に対する駆動力指令値の不感帯を減少させることができる。また、アクセル操作量が第二の閾値を超えてから再び第二の閾値以下となるときの、操作抜け感を抑制することができる。
【0072】
(8)車両が停車しているときに停車状態を保持するための保持制動力指令値を設定し、前記保持制動力指令値と運転者のアクセル操作量とに応じて最終制動力指令値を設定し、前記最終制動力指令値に応じて車両の制動力を制御するものであって、前記アクセル操作量が予め定められた第一の閾値以下であるときには、前記最終制動力指令値を前記保持制動力指令値に設定し、前記アクセル操作量が前記第一の閾値を超えているときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記保持制動力指令値未満の範囲で前記最終制動力指令値を小さく設定する。
【0073】
これにより、アクセル操作量に応じて最終制動力指令値を設定できるので、車両が停車している状態から運転者がアクセル操作量を増加させると、保持制動力指令値に設定された最終制動力指令値を減少させることができる。すなわち、停車状態を保持するための制動力を解除して車両を発進させる際に、アクセル操作だけで車両の制動力を制御できるので、車速コントロールの操作性を向上させることができる。
【0074】
《第二実施形態》
《構成》
第二実施形態は、第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrより大きく設定したものである。
例えば、制動力解除アクセル操作量Sbrを7deg程度とし、第二の閾値th2を10deg程度に設定する。
【0075】
《作用》
図10は、アクセル操作量Saに応じた制駆動力を示すグラフである。
図11は、第二の実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【0076】
第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrより大きく設定しているので、アクセル操作に応じた制動力制御からアクセル操作に応じた駆動力制御へと移行するまでの間に、アクセル操作に応じて最終制動力指令値FBも駆動力指令値FAも変化しない領域が設けられる。この制動力解除アクセル操作量Sbrから第二の閾値th2の領域では、クリープトルクTcが維持されるので、クリープ車速で発進することになる。このように、アクセル操作に応じて最終制動力指令値FBも駆動力指令値FAも変化しない領域を積極的に設けることで、クリープ状態を維持しやすくなる。したがって、クリープ走行を望む運転者に好適である。
【0077】
《応用例》
第一の実施形態では、アクセル操作量Saが制動力解除アクセル操作量Sbr以上であるときに、保持制動力解除フラグを『fr=1』にセットしているが、アクセル操作量Saが第二の閾値th2以上であるときに、保持制動力解除フラグを『fr=1』にセットしてもよい。第二実施形態では、第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrよりも大きく設定しているので、保持制動力を解除した後であっても、アクセル操作量Saが第二の閾値th2以上となるまでの間にアクセルペダルを戻せば再び制動力を増加させることができる。また、アクセルペダルを第一の閾値th1以下まで戻せば、保持制動力によって停車状態を保持することもできる。したがって、運転者の停車保持要求にも応えることができる。
【0078】
《効果》
(1)前記最終制動力指令値設定手段が前記アクセル操作量の増加によって前記最終制動力指令値を0に設定する時点の前記アクセル操作量を、制動力解除アクセル操作量とし、前記第二の閾値は、前記制動力解除アクセル操作量より大きく設定される。
これにより、アクセル操作に応じた制動力制御からアクセル操作に応じた駆動力制御へと移行するまでの間に、アクセル操作に応じて最終制動力指令値も駆動力指令値も変化しない領域が設けられる。このように、アクセル操作に応じて最終制動力指令値も駆動力指令値も変化しない領域を積極的に設けることで、クリープ状態を維持しやすくなる。
【0079】
《第三実施形態》
《構成》
第三実施形態は、第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrより小さく設定したものである。
例えば、制動力解除アクセル操作量Sbrを10deg程度とし、第二の閾値th2を7deg程度に設定する。
【0080】
《作用》
図12は、アクセル操作量Saに応じた制駆動力を示すグラフである。
図13は、第三の実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【0081】
第二の閾値th2を制動力解除アクセル操作量Sbrよりも小さく設定しているので、アクセル操作に応じた制動力制御が終了する前からアクセル操作に応じた駆動力制御が開始される。すなわち、保持制動力指令値FBが0になる前から駆動力指令値FAを増加させる。一般に、エンジンの出力特性として駆動力を立ち上げる際の微調整は難しい。したがって、アクセル操作に応じた制動動力制御が終了する前からアクセル操作に応じた駆動力制御を開始することで、スムーズな移行を実現することができる。また、第二の閾値th2と制動力解除アクセル操作量Sbrとの設定次第で、制動力制御から駆動力制御へと移行する際の車両挙動を任意に設計することが可能となる。
【0082】
《効果》
(1)前記最終制動力指令値設定手段が前記アクセル操作量の増加によって前記最終制動力指令値を0に設定する時点の前記アクセル操作量を、制動力解除アクセル操作量とし、前記第二の閾値は、前記制動力解除アクセル操作量より小さく設定される。
一般に、エンジンの出力特性として駆動力を立ち上げる際の微調整は難しいが、アクセル操作に応じた制動動力制御が終了する前からアクセル操作に応じた駆動力制御を開始することで、スムーズな移行を実現することができる。また、第二の閾値と制動力解除アクセル操作量との設定次第で、制動力制御から駆動力制御へと移行する際の車両挙動を任意に設計することが可能となる。
【0083】
《第四実施形態》
《構成》
第四実施形態は、最終制動力指令値FBを保持制動力指令値FBPKBから減少させ始める第一の閾値th1、最終制動力指令値FBを減少させるときの減少勾配、及び駆動力指令値FAをクリープトルクTcから増加させ始める第二の閾値th2を、運転者のアクセル操作速度に応じて変化させるものである。
【0084】
図14は、運転操作支援制御処理を示すフローチャートである。
ここでは、新たなステップS121を追加すると共に、前記ステップS109、S112の処理に調整を加えたことを除いては、前述した第一実施形態と同様であるため、同一部分について詳細な説明を省略する。
前記ステップS101の判定結果が『fs=1』であるときに、発進操作支援が必要であると判断してステップS121に移行する。
【0085】
ステップS121では、アクセル操作量Sa[deg]に応じてアクセル操作量Ss[deg/sec]を算出してから前記ステップS108に移行する。なお、アクセルペダルの踏込み方向の速度を正値とし、戻し方向の速度を負値とする。
ステップS109では、アクセル操作速度Ssが速いほど、第一の閾値th1を小さくする。例えば、下記(1)式に示すように、第一の閾値th1を設定する。
【0086】
th1=max[1,{3−0.4×min(5,Ss−5)}]
…………(1)
但し、第一の閾値th1の最大値は、3[deg]とする。
【0087】
したがって、アクセル操作速度Ssが5[deg/sec]より小さいときに、第一の閾値th1が3[deg]となり、アクセル操作速度Ssが5[deg/sec]より大きいときに、第一の閾値th1が3[deg]より小さくなり、アクセル操作速度Ssが10[deg/sec]以上となると、第一の閾値th1が1[deg]となる。
【0088】
さらに、アクセル操作速度Ssが速いほど、アクセル操作量Saの増加率に対する最終制動力指令値FBの減少率を大きくする、つまり最終制動力指令値FB減少勾配を大きくする。例えば、下記(2)式に示すように、最終制動力指令値FBを設定する。
【0089】
FB={FBPKB/(Sbr−th1)}×(Sa−th1)
…………(2)
ここで、制動力解除アクセル操作量Sbrは下記(3)式で算出する。
【0090】
Sbr=max[4,{10−1.2×min(5,Ss−5)}]
…………(3)
【0091】
但し、最終制動力指令値FBが負値となった場合には、FB=0とする。また、最終制動力指令値FBの最大値は、保持制動力指令値FBPKBとする。
【0092】
したがって、アクセル操作量Saが第一の閾値th1以下のときには、最終制動力指令値FBが保持制動力指令値FBPKBとなり、アクセル操作量Saが第一の閾値th1より大きく、且つ制動力解除アクセル操作量Sbrより小さいときには、アクセル操作量Saが大きいほど最終制動力指令値FBが小さくなり、アクセル操作量Saが制動力解除アクセル操作量Sbr以上となるときには、最終制動力指令値FBが0となる。
【0093】
また、アクセル操作速度Ssが5[deg/sec]より小さいときに、制動力解除アクセル操作量Sbrが10[deg]となり、アクセル操作速度Ssが5[deg/sec]より大きいときに、制動力解除アクセル操作量Sbrが10[deg]より小さくなり、アクセル操作速度Ssが10[deg/sec]以上となると、制動力解除アクセル操作量Sbrが4[deg]となる。
【0094】
ステップS112では、アクセル操作速度Ssが速いほど、第二の閾値th2を小さくする。例えば、下記(4)式に示すように、第二の閾値th2を設定する。
【0095】
th2=max[Sbr+1,{12−1.2×min(5,Ss−5)}]
…………(4)
但し、第二の閾値th2の最大値は、12[deg]とする。
【0096】
したがって、アクセル操作速度Ssが5[deg/sec]より小さいときに、第二の閾値th2が12[deg]となり、アクセル操作速度Ssが5[deg/sec]より大きいときに、第二の閾値th2が12[deg]より小さくなり、アクセル操作速度Ssが10[deg/sec]以上となると、第二の閾値th2が6[deg]となる。
【0097】
《作用》
運転者が速い速度でアクセルペダルを踏込むときは、運転者が速やかな発進を望んでいることは明らかである。
【0098】
そこで、先ずアクセル操作速度Ssを算出し(S121)、アクセル操作速度Ssが速いほど、第一の閾値th1を小さくする。これにより、より早いタイミングで最終制動力指令値FBを保持制動力指令値FBPKBから減少させ始めることができる。したがって、速やかな発進を望んでいる運転者の要求に応えることができる。
【0099】
また、アクセル操作速度Ssが速いほど、最終制動力指令値FBを減少させるときの減少勾配を大きくする。これにより、速やかに保持制動力指令値FBPKBを解除することができる。したがって、速やかな発進を望んでいる運転者の要求に応えることができる。
【0100】
さらに、アクセル操作速度Ssが速いほど、第二の閾値th2を小さくする。これにより、より早いタイミングで駆動力指令値FAを増加させ始めることができる。したがって、速やかな発進を望んでいる運転者の要求に応えることができる。
【0101】
《効果》
(1)前記最終制動力指令値設定手段は、運転者のアクセル操作速度が速いほど、前記アクセル操作量の変化率に対する前記最終制動力指令値の変化率を大きくする。
これにより、速やかに保持制動力を解除することができ、速やかな発進を望んでいる運転者の要求に応えることができる。
【0102】
(2)前記第二の閾値は、運転者のアクセル操作速度が速いほど、小さく設定される。
これにより、より早いタイミングで駆動力指令値を増加させ始めることができ、速やかな発進を望んでいる運転者の要求に応えることができる。
【0103】
(3)前記第一の閾値は、運転者のアクセル操作速度が速いほど、小さく設定される。
これにより、より早いタイミングで最終制動力指令値を保持制動力指令値から減少させ始めることができ、速やかな発進を望んでいる運転者の要求に応えることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 車輪速センサ
2 アクセルセンサ
3 ブレーキセンサ
5 コントローラ
6 エンジン出力制御装置
7 エンジン
8 ブレーキアクチュエータ
10 マスターシリンダ
11FL〜11RR ホイールシリンダ
12A・12B ゲートバルブ
13FL〜13RR インレットバルブ
14 アキュムレータ
15FL〜15RR アウトレットバルブ
16A・16B ゲートバルブ
17 ポンプ
FA 駆動力指令値
FB 最終制動力指令値
FBPKB 保持制動力指令値
Sa アクセル操作量
Sar 駆動力解除アクセル操作量
Sb ブレーキ操作量
Sbr 制動力解除アクセル操作量
Ss アクセル操作速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が停車しているときに停車状態を保持するための保持制動力指令値を設定する保持制動力指令値設定手段と、
運転者のアクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、
前記保持制動力指令値設定手段で設定した保持制動力指令値、及び前記アクセル操作量検出手段で検出したアクセル操作量に応じて、最終制動力指令値を設定する最終制動力指令値設定手段と、
前記最終制動力指令値設定手段で設定した最終制動力指令値に応じて車両の制動力を制御するブレーキ制御手段と、を備え、
前記最終制動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が予め定められた第一の閾値以下であるときには、前記最終制動力指令値を前記保持制動力指令値に設定し、前記アクセル操作量が前記第一の閾値を超えているときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記保持制動力指令値未満の範囲で前記最終制動力指令値を小さく設定することを特徴とする運転操作支援装置。
【請求項2】
前記アクセル操作量に応じて駆動力指令値を設定する駆動力指令値設定手段と、
前記駆動力指令値設定手段で設定した駆動力指令値に応じて車両の駆動力を制御するアクセル制御手段と、を備え、
前記駆動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第一の閾値よりも大きな予め定められた第二の閾値以下であるときには、前記駆動力指令値をクリープトルクに設定し、前記アクセル操作量が前記第二の閾値を超えているときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記クリープトルクより大きな範囲で前記駆動力指令値を大きく設定することを特徴とする請求項1に記載の運転操作支援装置。
【請求項3】
前記最終制動力指令値設定手段が前記アクセル操作量の増加によって前記最終制動力指令値を0に設定する時点の前記アクセル操作量を、制動力解除アクセル操作量とし、
前記第二の閾値は、前記制動力解除アクセル操作量と同一に設定されることを特徴とする請求項2に記載の運転操作支援装置。
【請求項4】
前記最終制動力指令値設定手段が前記アクセル操作量の増加によって前記最終制動力指令値を0に設定する時点の前記アクセル操作量を、制動力解除アクセル操作量とし、
前記第二の閾値は、前記制動力解除アクセル操作量より大きく設定されることを特徴とする請求項2に記載の運転操作支援装置。
【請求項5】
前記最終制動力指令値設定手段が前記アクセル操作量の増加によって前記最終制動力指令値を0に設定する時点の前記アクセル操作量を、制動力解除アクセル操作量とし、
前記第二の閾値は、前記制動力解除アクセル操作量より小さく設定されることを特徴とする請求項2に記載の運転操作支援装置。
【請求項6】
前記最終制動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第二の閾値以上になってから再び前記アクセル操作量が前記第二の閾値未満となるときには、前記最終制動力指令値を0に設定することを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の運転操作支援装置。
【請求項7】
前記最終制動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記制動力解除アクセル操作量以上となってから再び前記アクセル操作量が前記制動力解除アクセル操作量未満となるときには、前記最終制動力指令値を0に設定することを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載の運転操作支援装置。
【請求項8】
前記最終制動力指令値設定手段は、運転者のアクセル操作速度が速いほど、前記アクセル操作量の変化率に対する前記最終制動力指令値の変化率を大きくすることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の運転操作支援装置。
【請求項9】
前記第二の閾値は、運転者のアクセル操作速度が速いほど、小さく設定されることを特徴とする請求項2〜8の何れか一項に記載の運転操作支援装置。
【請求項10】
前記第一の閾値は、運転者のアクセル操作速度が速いほど、小さく設定されることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の運転操作支援装置。
【請求項11】
前記駆動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第二の閾値を超えてから再び前記アクセル操作量が前記第二の閾値以下となり、且つ前記アクセル操作量が前記第二の閾値よりも小さい予め定められた第三の閾値以下となってから再び前記アクセル操作量が前記第三の閾値を超えるときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記クリープトルクより大きな範囲で前記駆動力指令値を大きく設定することを特徴とする請求項2〜8の何れか一項に記載の運転操作支援装置。
【請求項12】
前記駆動力指令値設定手段は、前記アクセル操作量が前記第二の閾値を超えた状態から前記アクセル操作量が減少するときに、前記アクセル操作量の減少によって前記駆動力指令値を前記クリープトルクに設定する時点の前記アクセル操作量を、駆動力解除アクセル操作量とし、前記駆動力解除アクセル操作量が、前記第三の閾値以上、且つ前記第二の閾値未満の範囲となるように、前記アクセル操作量の減少率に対する前記駆動力指令値の減少率を設定することを特徴とする請求項11に記載の運転操作支援装置。
【請求項13】
車両が停車しているときに停車状態を保持するための保持制動力指令値を設定し、前記保持制動力指令値と運転者のアクセル操作量とに応じて最終制動力指令値を設定し、前記最終制動力指令値に応じて車両の制動力を制御するものであって、
前記アクセル操作量が予め定められた第一の閾値以下であるときには、前記最終制動力指令値を前記保持制動力指令値に設定し、前記アクセル操作量が前記第一の閾値を超えているときには、前記アクセル操作量が大きいほど、前記保持制動力指令値未満の範囲で前記最終制動力指令値を小さく設定することを特徴とする運転操作支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−16987(P2012−16987A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154637(P2010−154637)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】