説明

遮熱コーティング用材料、遮熱コーティング、タービン部材及びガスタービン

【課題】YSZよりも高温安定性に優れ高靭性を有する遮熱コーティング用材料、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する耐久性に優れた遮熱コーティング、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材、ガスタービンを提供することを目的とする。
【解決手段】耐熱合金基材11上に、金属結合層12と、金属結合層12上に形成されたセラミックス層13とを備える遮熱コーティングにおいて、セラミックス層13が、安定化剤としてTa及びYを含有するZrOを主とし、Yの含有量が、10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする遮熱コーティング用材料とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れる遮熱コーティング用材料に係り、特に遮熱コーティングのトップコートとして用いられるセラミックス層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一つとして、火力発電の熱効率を高めることが検討されている。発電用ガスタービンの発電効率を向上させるためには、ガス入口温度を上昇させることが有効であり、その温度は1500℃程度とされる場合もある。そして、このように発電装置の高温化を実現するためには、ガスタービンを構成する静翼や動翼、あるいは燃焼器の壁材などを耐熱部材で構成する必要がある。しかし、タービン翼の材料は耐熱金属であるが、それでもこのような高温には耐えられないために、この耐熱金属の基材上に金属結合層を介して溶射等の成膜方法によって酸化物セラミックスからなるセラミックス層を積層した遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)を形成して、耐熱金属基材を高温から保護することが行われている。セラミックス層としてはZrO系の材料、特にYで部分安定化又は完全安定化したZrOであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)が、セラミックス材料の中では比較的低い熱伝導率と比較的高い熱膨張率を有しているためによく用いられている。
【0003】
ガスタービンの種類によっては、タービンの入口温度が1500℃を越える温度に上昇することが考えられている。また、近年環境対策の関係から、より熱効率の高いガスタービンの開発が進められており、タービンの入口温度が1700℃にも達すると考えられ、タービン翼の表面温度は1300℃もの高温になることが予想される。上記YSZからなるセラミックス層を備えた遮熱コーティング材によりガスタービンの動翼や静翼などを被覆した場合、1500℃を超える過酷な運転条件の下ではガスタービンの運転中に上記セラミックス層の一部が剥離し、耐熱性が損なわれるおそれがあった。また、YSZは1200℃を超える温度で脱安定化現象が生じ、耐久性が大幅に低減してしまう。
【0004】
高温環境下での結晶安定性に優れ、高い熱耐久性を有する遮熱コーティングとして、例えば、Yb添加ZrO(特許文献1)、Dy添加ZrO(特許文献2)、Er添加ZrO(特許文献3)、SmYbZrO(特許文献4)が開発されている。また、耐熱性を向上させるために、HfO添加ZrO(特許文献5)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−160852号公報(請求項1、段落[0006]、[0027]〜[0030])
【特許文献2】特開2001−348655号公報(請求項4及び5、段落[0010]〜[0011]、[0015])
【特許文献3】特開2003−129210号公報(請求項1、段落[0013]、[0015])
【特許文献4】特開2007−270245号公報(請求項2、段落[0028]〜[0029]
【特許文献5】特開2004−270032号公報(請求項2、段落[0017])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、YSZよりも高温安定性に優れ高靭性を有する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の遮熱コーティング用材料は、安定化剤としてTa及びYを含有するZrOを主とし、前記Yの含有量が、10質量%以上30質量%以下とされることを特徴とする。
上記発明において、前記Taの含有量が、20質量%以上30質量%以下とされることが好ましい。
【0008】
上記組成の遮熱コーティング用材料は、Taを所定量以上添加することにより、1400℃を超える高温でも、単斜晶が析出せず靭性が高い正方晶が安定となる。すなわち、高温での結晶安定性に優れる。このため、高い熱サイクル耐久性を有する遮熱コーティングを得ることができる。また、本発明の遮熱コーティング用材料は、従来のYSZ(Y:8質量%)よりもY添加量が多く、Taも添加されているために、熱伝導率が低下する。
【0009】
添加量が10質量%未満の場合、靭性が低い斜方晶である化合物相(YTaO)が析出する。そのため、遮熱コーティングの熱サイクル耐久性が大幅に低下する。また、Yが15質量%を超えると、正方晶の他に靭性の低い立方晶が安定となるため、遮熱コーティングの熱サイクル耐久性が低下する。Yが15質量%を超える組成で正方晶を得るためにはTa添加量を相対的に増加させる必要があるが、Taの過剰添加により正方晶以外の化合物相(YTaO)が生じるために、遮熱コーティングの熱サイクル耐久性が低下する。
Ta添加量が20質量%未満の場合、立方晶が析出して、遮熱コーティングの熱サイクル耐久性が低下する。また、Ta添加量が30質量%を超えると、化合物相が析出するために、遮熱コーティングの耐久性が低下する。
【0010】
上記発明において、HfOを0.1質量%以上3質量%以下の割合で更に含有することが好ましい。
HfはZrと同族元素であるため、HfOとZrOとは性質が類似するが、融点はHfOの方が高い。HfOを0.1質量%以上含有することにより、遮熱コーティング用材料の融点を上昇させることができる。これにより、遮熱コーティングを高温で長時間保持することに伴う焼結現象を抑制することができ、熱遮蔽性及び熱サイクル耐久性の低下を防止することができる。しかし、HfOは高価であるために、製造コストを考慮すると多量添加は不適切である。そのため、含有量の上限は3質量%とされる。
【0011】
本発明の遮熱コーティングは、耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に形成され、上記の遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層とを備えることを特徴とする。
【0012】
上記遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層は、高温結晶安定性に優れ高い靭性を有する。そのため、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとなる。
【0013】
また、本発明は、上記遮熱コーティングを備えるタービン部材、及び、該タービン部材を備えたガスタービンを提供する。係る構成のタービン部材は、優れた高温安定性及び耐久性を有する。
【発明の効果】
【0014】
上記組成の遮熱コーティング用材料は、高温での結晶安定性に優れ高い靭性を有するために、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとすることができる。また、HfOを含有することにより、遮熱コーティングを高温で長時間保持することによる焼結現象を抑制して、熱遮蔽性及び熱サイクル耐久性の低下を防止することができる。この結果、タービン部材の高温安定性及び耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の遮熱コーティング用材料を適用したタービン部材の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る遮熱コーティング用材料を適用したタービン部材の断面の模式図である。タービン動翼などの耐熱合金基材11上に、遮熱コーティングとして金属結合層12及びセラミックス層13が順に形成される。
【0017】
金属結合層12は、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)などとされる。
【0018】
本実施形態に係るセラミックス層を構成する遮熱コーティング用材料は、安定化剤としてTa及びYを含有するZrOを主として含む。Yの含有量は、10質量%以上30質量%以下とされる。Taの含有量は、好ましくは20質量%以上30質量%以下とされる。
本実施形態の遮熱コーティング用材料は、1500℃程度まで高靭性の正方晶が安定に存在する。そのため、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとすることができる。また、熱伝導率の低いセラミックス層とすることができる。
【0019】
本実施形態の遮熱コーティング用材料は、HfOを0.1質量%以上3質量%以下の割合で含有しても良い。HfOの融点はZrOの融点よりも高いため、HfOを0.1質量%以上含有すると、遮熱コーティング用材料の融点が上昇する。セラミックス層は、熱遮蔽性を高めるとともに、ヤング率を低下させて遮熱コーティングの熱サイクル耐久性を向上させることを目的として、通常10%程度の気孔が導入される。融点が低い遮熱コーティング用材料で形成したセラミックス層は、高温で長時間保持すると、焼結により気孔が減少するために、熱遮蔽性及び熱サイクル耐久性が低下する。セラミックス層を融点の高い遮熱コーティング用材料とすることにより、焼結による気孔率低下を抑制することができる。
【0020】
上記セラミックス層13は、大気圧プラズマ溶射、電子ビーム物理蒸着などによって製膜される。大気圧プラズマ溶射を適用する場合、本実施形態の遮熱コーティング用材料は、スプレードライ法などにより溶射粉末とされる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本実施形態の遮熱コーティング用材料及び遮熱コーティング材を詳細に説明する。
(実施例)
表1に示す各組成の焼結体を、常圧焼結法にて焼結温度1500℃、焼結時間4時間として作製した。原料粉末にはTa、Y、ZrO、HfOを用いた。
各組成の焼結体の破壊靭性値を、JIS R 1607に基づいて測定した。
【0022】
スプレードライ法を用いて、特許第3825231号と同様の工程にて、粒径10〜125μmの表1に示す各組成の溶射粉末を製造した。上記溶射粉末を用いて、以下の方法により遮熱コーティングを形成した試験片を作製した。
【0023】
厚さ5mmの合金金属基材(商標名:IN−738LC、化学組成:Ni−16Cr−8.5Co−1.75Mo−2.6W−1.75Ta−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al(質量%))上に、低圧プラズマ溶射法にて膜厚100μmの金属結合層を形成した。金属結合層の組成は、Ni:32質量%、Cr:21質量%、Al:8質量%、Y:0.5質量%、Co:残部、とした。
【0024】
大気圧プラズマ溶射により上記溶射粉末を金属結合層上に溶射製膜し、膜厚0.5mmの溶射皮膜(セラミックス層)を形成した。溶射には、スルザーメテコ社製溶射ガン(F4ガン)を使用した。溶射条件は、溶射電流:600(A)、溶射距離:150(mm)、粉末供給量:60(g/min)、Ar/H量:35/7.4(l/min)とした。溶射皮膜の気孔率は、10%であった。なお、気孔率は、精密に研磨された遮熱コーティング断面を、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて任意の5視野(観察長さ約3mm)を撮影した顕微鏡写真から、画像処理法を用いて皮膜中に占める気孔の割合として算出した。
【0025】
上記工程にて作製した試験片について、溶射皮膜の熱伝導率を、JIS R 1611で規定されるレーザフラッシュ法により測定した。
試験片の熱サイクル耐久性を、特許第4031631号公報に記載のレーザ熱サイクル試験により測定した。試験条件は、遮熱コーティングの最高表面加熱温度:1400℃、最高界面温度:950℃、加熱時間3分、冷却時間3分とし、セラミックス層剥離までの熱サイクル数を計測した。
1300℃、1000時間の加熱処理前後それぞれの溶射皮膜の構成相を、粉末X線回折により同定した。また、1300℃、1000時間の加熱処理後の溶射皮膜気孔率を、上述の方法により測定した。
【0026】
(比較例)
:8質量%を添加したZrOを用い、常圧焼結法にて焼結温度1500℃、焼結時間 4 時間の条件で焼結体を作製した。また、実施例と同様にして、比較例の組成の遮熱コーティング用材料を溶射製膜し、試験片を作製した。
実施例と同様にして、焼結体の破壊靭性値、溶射皮膜の熱伝導率、構成相、加熱処理後の気孔率、試験片の熱サイクル耐久性を測定した。
【0027】
表1に、実施例及び比較例の組成と、焼結体及び溶射皮膜の特性を示す。
【表1】

【0028】
比較例の組成では、溶射皮膜の構成相が準安定正方晶であり、焼結体は比較的高い破壊靭性値を示した。しかし、加熱処理後の溶射皮膜の構成相は、立方晶と単斜晶との混合相に変化した。このため、試験片の熱サイクル耐久性は低かった。また、加熱処理により、溶射皮膜の気孔率が10%から7%まで減少した。
【0029】
試料番号2〜4(Y:10〜15質量%)では、焼結体で高い破壊靭性が得られた。加熱処理前後での溶射皮膜の構成相は、いずれも正方晶であった。このため、試料番号2〜4の試験片では、比較例の試験片よりも高い熱サイクル耐久性が得られた。また、試料番号2〜4の溶射皮膜の熱伝導率は、比較例の溶射皮膜より低下した。
一方、Y量が少ない試料番号1では、正方晶と斜方晶(YTaO)とが混在した相となった。Y量が多い試料番号5では、正方晶と立方晶とが混在した相となった。このため、試料番号1及び5の試験片は、低い熱サイクル耐久性を示した。
【0030】
試料番号3,7,8(Ta:20〜30質量%)では、焼結体で高い破壊靭性が得られた。加熱処理前後での溶射皮膜の構成相は、いずれも正方晶であった。このため、試料番号3,7,8の試験片では、比較例の試験片よりも高い熱サイクル耐久性が得られた。また、試料番号3,7,8の溶射皮膜の熱伝導率は、比較例の溶射皮膜より低下した。
一方、Ta量が少ない(相対的にYが多い)試料番号6では正方晶と立方晶とが混在した相となり、Ta量が多い(相対的にYが少ない)試料番号9では正方晶と斜方晶(YTaO)とが混在した相となった。このため、試料番号6及び9の試験片は、低い熱サイクル耐久性となった。
【0031】
HfO含有量が少ない試料番号10では、加熱処理により、気孔率が10%から8%に低下した。HfO含有量が1質量%以上の試験片では、加熱処理後の気孔率が9.7〜9.8%であった。また、試料番号10の試験片は、HfO含有量が1質量%以上の試験片よりも、熱サイクル耐久性が低かった。この結果は、試料番号10の試験片ではHfO添加量が少ないために、遮熱コーティング用材料の融点が十分に上昇しなかったことを示している。
【0032】
表1に示すように、特にY:Ta=1:2となる試料番号3,11〜13では、熱サイクル数が1000回を超え、非常に高い熱サイクル耐久性が得られた。
【符号の説明】
【0033】
11 耐熱合金基材
12 金属結合層
13 セラミックス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤としてTa及びYを含有するZrOを主とし、
前記Yの含有量が、10質量%以上30質量%以下とされることを特徴とする遮熱コーティング用材料。
【請求項2】
前記Taの含有量が、20質量%以上30質量%以下とされることを特徴とする請求項1に記載の遮熱コーティング用材料。
【請求項3】
HfOを0.1質量%以上3質量%以下の割合で更に含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の遮熱コーティング用材料。
【請求項4】
耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に形成され、請求項1乃至請求項3に記載の遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層とを備えることを特徴とする遮熱コーティング。
【請求項5】
請求項4に記載の遮熱コーティングを備えるタービン部材。
【請求項6】
請求項5に記載のタービン部材を備えるガスタービン。

【図1】
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【公開番号】特開2010−229471(P2010−229471A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77204(P2009−77204)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】