説明

配線基板、それを備える液体吐出装置及びヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法

【課題】 配線基板の電極に配設された導電性接続部材を溶融する際に、効率的に熱を伝達し、また、必要以上に前記配線基板や被接合部材に対して熱量が加わらないようにすることができる配線基板を提供する。
【解決手段】 配線基板8は、絶縁性を有する基板81の下面に基板側個別電極用配線92および基板側個別電極用端子92aが形成され、さらに、その下面には基板側個別電極用端子92aを露出する除去部82aを備えた被覆膜82が形成されている。基板側個別電極用端子92aには、バンプ72が設けられ、基板81の基板側個別電極用端子92aに対応する位置には、基板側個別電極用端子92aの上面を表出させる貫通孔81bが貫通形成され、この表出した基板側個別電極用端子92aの上面に対して、貫通孔81bを通じてレーザ光が直接照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に設けられた電極が導電性接続部材を介して被接合部材に電気的に接合された配線基板に関するものである。また本発明は、液滴を吐出する吐出ヘッドを備えるヘッドユニットと、ヘッドユニットと電気的に接合された配線基板とを有する液体吐出装置及びその接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体吐出ヘッドを有した液体吐出装置の一例として、インクジェット記録装置がある。インクを吐出するインクジェットヘッドは、インクを吐出するノズル及びそのノズルにインクを供給するための流路が形成された流路基板とPZT等の圧電素子とを備えており、前記流路基板上に圧電素子を積層接着することで構成される。インクジェットヘッドは、公知のように、前記圧電素子によって前記流路の途中にある圧力室に圧力変動を生じさせることでノズルからインクを吐出する。前記圧電素子は、圧力室に対応させて電極端子が形成されており、外部の駆動装置からこの電極に駆動電極を与えることによって圧力室に圧力変動を生じさせる。そのため前記駆動装置と電極端子とがフレキシブル配線部材等の配線部材によって電気的に接続される。前記電極端子と配線材とは、ハンダによって接合されている(例えば特許文献1や特許文献2)。
【0003】
ハンダによる接合は、接合時にハンダを溶融する必要があるためヒータ等で加熱する方法が一般的である。この方法により配線材と電極端子とをハンダで接合すると、ハンダを溶融する際に加えた熱により圧電素子を備えた基板等が変形又は割れるおそれがあり、これによってインクジェットヘッドからインクが正常に吐出されなくなるという問題があった。
特に特許文献1や特許文献2のような積層タイプのインクジェットヘッドにおいては、積層されたユニット(例えば、特許文献1では流路基板と圧電アクチュエータ。特許文献2では流路形成基板とノズルプレート)は異なる材料により構成されることがあり、これらの熱膨張係数差が大きい場合(たとえば、金属製とセラミックス製で積層される場合)、ハンダ接合時の加熱により、変形や割れ、ユニット間の剥離等がさらに助長されるという問題が生じる。このような問題を鑑みて、圧電素子や流路基板への熱的影響を小さくするためにレーザ光により接合部分だけを加熱する接合方法が提案されている。
【0004】
前記レーザ光を用いた接合方法は、例えば特許文献2のように、ポリイミドから成る被覆膜で覆われた外部配線ケーブルの前記被覆膜で覆われていない方の面を圧電素子のリード電極上に接続用金属(バンプ)を介在させた状態で配置し、被覆膜側からレーザ光を照射する。照射されたレーザ光は、被覆膜を透過して前記接続用金属に達し、前記接続用金属を加熱融溶させて、リード電極に外部配線ケーブルを電気的に接続している。レーザ光を用いた部分的な加熱であるので、接続用金属及びその近傍だけが加熱され、流路基板及び圧電素子への熱的影響は小さい。
【0005】
また特許文献3に開示される接合方法では、シリコン製の第1の記録素子基板上に配列された電極部に金バンプを配設し、さらに電気配線テープを接着剤により第1の記録素子基板上に接着する。このとき前記電気配線テープの端部にて表出している電極端子が金バンプに当接するように前記電気配線テープを配置する。第1の記録素子基板はプレート上に配置されており、このプレートには、前記第1の記録素子基板上に配列された電極部に対応する位置に貫通孔が形成されている。この貫通孔を通すようにして前記第1の記録素子基板にレーザ光を照射すると、前記第1の記録素子基板を介して電極部が集中的に加熱されて金バンプが溶融する。溶融後金バンプが硬化するまで放置することで、電極部と電極端子とが接合される。このような方法で行うと、短時間での接合することができる。また前記金バンプと電極部との間は、熱硬化型接着剤で接合してもよい。
【0006】
またその他、特許文献4の従来の技術に開示されたハンダ接合方法で用いるフィルムキャリアテープは、その表側面に電極が設けられ、その電極に対応する位置に前記フィルムキャリアテープを貫通する貫通孔を有する。そのためフィルムキャリアテープの裏側面から電極が表出している。このフィルムキャリアテープは、配線基板の一表面に形成されたハンダメッキ層上に載置され、さらにその上からガラス板によって配線基板に押さえつけられる。そしてガラス板を介して電極の裏側の部分からレーザ光を照射する。これによってハンダメッキ層全体がレーザ光の熱エネルギーにより溶融し、フィルムキャリアテープと配線基板とが接合される。
[先行技術文献]
【0007】
【特許文献1】特開2005-161760号公報
【特許文献2】特開2003−63006号公報
【特許文献3】特開2005−305960号公報
【特許文献4】特開平8−107272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献2では、被覆膜を通過したレーザ光を電極部に照射して前記電極部を加熱し、また特許文献3では、レーザ光によって第1の記録素子基板を加熱し、この加熱された第1の記録素子基板により電極部を加熱している。そのため電極部に対して直接レーザ光を照射して前記電極を加熱する場合に比べて、接続用金属およびバンプの温度が融点に達するまで時間がかかる。これによって圧電素子及び流路基板が高温に晒される時間が長くなり熱の影響を受けるおそれがある。
【0009】
また特許文献4においては、特許文献2および3と同様に透過率の良いガラス板によって配線基板を押さえ、前記ガラス基板を介して電極にレーザ光を照射しているが、やはり電極に直接レーザ光を照射する場合と比べると、特許文献2および3の場合と同様に熱効率が低くなり、圧電素子及び流路基板の熱の影響を受けるおそれがある。
【0010】
また、特許文献2及び3に開示される外部配線ケーブル及び電気配線テープ等のフレキシブルな配線部材(例えばCOF)は、実際には反りや撓みを有している。そのため前記配線部材を圧電素子に装着した場合、圧電素子及び配線部材の互いに対向する面の間隔は一定にならず、また接続用金属(金バンプ)の高さ及び接着剤の塗布量のバラツキのため、接合位置がズレたり、接続用金属(金バンプ)又は接着剤が十分に電極部と密着されずに、圧電素子と配線部材との間で接続不良を起こすおそれがある。
【0011】
特許文献4では、電極が当接する領域以外の領域にもハンダめっき層を設け、さらに接合時にガラス基板によりフィルムキャリアテープを配線基板に押圧することで、特許文献2及び3の構成において問題となった各種のバラツキを補正することができ、溶融している接続用金属又は接着剤を電極部に密着させることができる効果がある。しかしながらレーザ光を局所的に照射することで電極部に対応するハンダめっき層の一部分の領域だけを加熱しているのだが、前記領域に与えられた熱がそれ以外の領域へと伝わりハンダめっき層全体が溶融された状態になる。そのため配線基板の広範囲に熱が伝わってしまうという問題点がある。
【0012】
またレーザ光による接合方法に関らず、複数の電極を有した配線基板と被接合部材とを、ハンダなどの導電性接続部材を塗布して押圧して接続する場合、電極に塗布されたハンダ量が多い場合、そのハンダが配線基板と被接合部材との間を流れて電極間を導通するブリッジを形成し、接続不良を起こすおそれがあり、例えば、特許文献2から4に示すような直線上に配列された電極列が互いに並設されている場合、互いに離反する電極列同士間はブリッジが形成される可能性は少ないが、各列の列方向に隣り合った電極同士間でブリッジが形成され接続不良がおこるおそれがある。

特に特許文献1のような圧電素子平面上により多くの前記複数の表面電極が高密度で配列されている場合には、表面電極間に十分な距離をとることができず、前記表面電極間にブリッジが形成されてしまう可能性がさらに高い。そのため、高密度で配設された複数の表面電極と複数の電極端子とを電気的に接続する際には、導電性接続材料のブリッジ形成による接続不良がおきないような接続をさせることもかねてから必要とされていた。
【0013】
本発明の目的は、配線基板の電極に配設された導電性接続部材を溶融する際に、効率的に熱を伝達し、また、必要以上に前記配線基板や被接合部材に対して熱量が加わらないようにすることができる配線基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の配線基板は、絶縁性を有する基板と、前記基板の表側面に敷設されている配線と、前記配線に電気的に接続するように前記基板の表側面に配設された配線基板側電極と、絶縁性を有し、前記配線を覆うように前記基板の表側面に積層された被覆膜と、溶融可能であって、前記配線基板側電極に電気的に接続されている導電性接続部材とを備え、前記被覆膜は、前記配線基板側電極の一表面が表出するように前記配線基板側電極に対応する部分が除去して形成された除去部を有し、前記導電性接続部材は、前記除去部において、その一部が前記被覆膜から突出するように前記配線基板側電極の一表面に設けられており、前記基板は、前記配線基板側電極に対応する位置に前記基板を貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔によって前記配線基板側電極の裏側面が表出し、この表出した裏側面に貫通孔を通じてレーザ光を直接照射できるように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に従えば、貫通孔を通じてレーザ光を配線基板側電極に直接照射することができるので、レーザ光のエネルギー損失が従来の技術より少なく、短時間で導電性接続部材を溶融させることができる。これにより加熱された配線基板側電極が有する熱が基板に拡散して、基板が高温になることを抑制でき、熱応力による基板の破損を防止できる。
【0016】
また本発明では、溶融した導電性接続部材が流れて配線同士を電気的に接続することを被覆膜により防ぐことができる。また被覆膜に除去部を形成し、この除去部に導電性接続部材を配置することで、溶融した導電性接続部材が除去部から流れ出ることを防いでいる。これによって、例えば、複数の配線基板側電極が高密度で配置されていた場合でも、溶融した導電性接続部材が流れ出て他の配線基板側電極に達してブリッジを形成することを抑制できる。また前記除去部により溶融した導電性接続部材の流出を防ぐことができるので、前記導電性接続部材を被覆膜から突出させる程度の適当な量の導電性接続部材を配線基板側電極に盛ることが容易である。また導電性接続部材を突出させることで、前記配線基板側電極とその接合対象である電極との間の電気的な接合状態を良好なものとすることができる。
【0017】
上記発明において、前記基板は、可撓性を有するフレキシブル基板であり、前記導電性接続部材は、前記基板の表側面側に設けられており、前記基板の貫通孔は、前記基板の裏側面側で開口しており、前記基板の裏側面には、押え部材が取り付けられ、前記押え部材は、前記基板より剛性が高い材料から成り、前記基板の貫通孔に対応する位置に穿設孔を有することが好ましい。
【0018】
本発明に従えば、導電性接続部材が設けられている基板の表側面側と反対側の裏側面に押え部材を取り付けているので、配線基板を接合すべき対象の被接合部材に接合する際、配線基板を被接合部材に載置するだけで、前記押え部材の自重により基板が前記被接合部材に押し付けられる。これによって前記被接合部材に対する配線基板の位置ズレを抑制することができる。また押え部材を基板より剛性の高い材料で構成することで基板の反り及びうねりを抑制し、配線基板と被接合部材との間の間隙を略均一にすることができる。これによって接合状態にバラツキが生じることを抑制することができる。そして前記押え部材に穿設孔を形成することで、配線基盤の位置ズレ及び接合状態のバラツキを抑制しつつ、配線基板側電極にレーザ光を直接照射することができる。 上記発明において、前記導電性接続部材は、前記被覆膜の基板に対向する面と反対側の面より突出するように配線基板側電極に設けられたバンプであることが好ましい。本発明に従えば、導電性接続部材を実現し、配線基板として被接合部材とより確実に接続しやすくすることができる。
【0019】
上記発明において、前記押え部材は、少なくとも紫外線を透過する透光性樹脂から成り、
前記押え部材と基板との間には、紫外線を照射することで接着可能な紫外線硬化型接着剤が介在していることが好ましい。
【0020】
本発明に従えば、基板の裏側面上に押え部材を取り付けた後、前記裏側面側から紫外線を照射することによって、押え部材と基板とが接着され、押え部材と基板とが一体化された配線基板が構成することができる。特に照射するレーザ光に紫外線領域のレーザ光を用いる場合、押え部材の接着と導電性接続部材の溶融とを同時に行うことができる。押え部材と基板とを一体化することで、押え部材が基板に対し位置ズレすることを防ぐことができる。これによって貫通孔が押え部材によって覆われてしまうことを防ぐことができ、レーザ光を配線基板側電極に直接照射することが確実にできる。
【0021】
上記発明において、前記押え部材と基板との間には、熱を加えることで接着可能な熱硬化型接着剤が介在していることが好ましい。
【0022】
本発明に従えば、基板の裏側面上に押え部材を配置した後、レーザ光を押え部材に照射する等して押え部材を加熱することで押え部材と基板とが接着され、押え部材と基板とが一体化された配線基板が構成することができる。特に導電性接続材を溶融するときに、配線基板側電極にレーザ光を照射するとともに押え部材にもレーザ光を照射することで、接着の手間を省くことができる。また押え部材と基板とを一体化することで、押え部材が基板に対し位置ズレすることを防ぐことができる。これによって貫通孔が押え部材によって覆われてしまうことを防ぐことができ、レーザ光を配線基板側電極に直接照射することが確実にできる。
【0023】
上記発明において、前記配線基板及び前記押え部材は、互いの位置を合わせるための配線基板用位置合わせ手段を有することが好ましい。本発明に従えば、各位置合わせ手段を用いることによって、貫通孔の位置と穿設孔の位置とを互いの位置がズレることなく位置決めすることができ、配線基板側電極に対するレーザ光の直接照射を確実に行うことができる。
【0024】
上記発明の液体吐出装置は、液体を吐出可能な複数のノズル及び前記複数のノズルにそれぞれ連通している複数の圧力室を備える吐出ヘッドと、前記複数の圧力室毎に対応付けて配置された複数のアクチュエータ電極に、前記複数のアクチュエータ電極に対し選択的に駆動電圧を伝送する駆動装置が駆動電圧を選択的に印加すると、印加された前記アクチュエータ電極に対応付けられている前記圧力室に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を吐出させる活性部を備えるアクチュエータと、前述する配線基板とを備え、前記配線基板は、前記複数のアクチュエータ電極の各々に対応するように複数の配線基板側電極を有し、前記複数の配線基板側電極の各々に導電性接続部材が設けられており、前記配線基板の配線は、前記駆動装置に電気的に接続されており、前記導電性接続部材は、前記各アクチュエータ電極に対応付けられて電気的に接続されたバンプであり、前記アクチュエータ電極は、その外形寸法が前記配線基板側電極の外形寸法より大きく形成されていることを特徴とするものである。
【0025】
本発明に従えば、配線基板側電極をそれに対応するアクチュエータ電極にバンプを介して電気的にそれぞれ接合することによって、アクチュエータと配線基板が電気的に接続され、駆動装置が複数のアクチュエータ電極に対し選択的に駆動電圧を印加することができる。これによって複数のノズルから選択的に液体を吐出させることができる液体吐出装置を構成することができる。このようにして構成された液体吐出装置において、アクチュエータ電極の外形寸法が配線基板側電極のそれより大きく形成されているため、バンプを溶融して複数の配線基板側電極と複数のアクチュエータ電極とを接合する際、溶融したバンプが配線基板とアクチュエータとの間に僅かに流れ出ても被覆膜とアクチュエータ電極との間で保持することができ、これによっても溶融したバンプが隣接するアクチュエータ電極及び配線基板側電極まで流れていくことを防ぐことができる。また、レーザ光を用い、効率的に熱量を伝達し、また、必要以上に吐出ヘッドやアクチュエータに対して熱が加わることがないので、変形や割れ、それぞれの積層体間の剥離等を抑制することができ、信頼性の高い液体吐出装置を提供することができる。
【0026】
上記発明において、前記配線基板及び前記アクチュエータは、互いの相対位置を合わせるための液体吐出装置用位置合わせ手段を有することが好ましい。本発明に従えば、液体吐出装置用位置合わせ手段を用いることによって、配線基板側電極の位置とアクチュエータ電極の位置とを、互いの位置がズレすることなく位置決めすることができ、溶融したバンプをアクチュエータ電極上に確実に配置させることができ、配線基板側電極とアクチュエータ電極との電気的な接合状態を確実なものとすることができる。さらに、配線基板と押え部材とが位置決めがなされているため、貫通孔からのレーザ光が確実に配線基板側電極とアクチュエータ電極との間に介在するバンプに照射されるため、より電気的かつ機械的な接合状態を確実にすることができる。
【0027】
上記発明の接合方法は、駆動装置から伝送される駆動電圧が印加されると液体を吐出するヘッドユニットと、前記駆動電圧を駆動装置からヘッドユニットに伝送する配線基板とを接合する接合方法において、前記ヘッドユニットは、圧力室に圧力変動が生じるとノズルから液体を吐出する吐出ヘッドと、アクチュエータ電極に駆動電圧が印加されると前記圧力室に圧力変動を生じさせるアクチュエータとを備え、前記配線基板は、絶縁性を有する基板と、前記駆動装置に電気的に接続されて、前記基板の表側面に敷設されている複数の配線と、前記配線に電気的に接続するように前記基板の表側面に配設された配線基板側電極と、絶縁性を有し、前記配線を覆うように前記基板の表側面に積層された被覆膜と、溶融可能であって、前記配線基板側電極に電気的に接続されているバンプとを備え、前記被覆膜は、前記配線基板側電極の一表面が表出するように前記配線基板側電極に対応する部分が除去して形成された除去部を有し、前記被覆膜は、前記配線基板側電極に対応する部分が除去されて、前記配線基板側電極の一表面が表出するように前記基板の表側面に積層されており、前記バンプは、前記被覆膜から突出するように前記配線基板側電極の一表面に設けられており、前記基板は、配線基板側電極に対応する位置に基板を貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔によって前記配線基板側電極の裏側面が表出し、この表出した裏側面に貫通孔を通じてレーザ光を直接照射できるように構成されており、前記バンプが前記アクチュエータ電極に当接するように配線基板とヘッドユニットとを位置決めする位置決め工程と、前記貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって、前記レーザ光を前記配線基板側電極に直接照射して前記バンプを溶融し、このバンプを前記アクチュエータ側電極に溶着させる接合工程とを有することを特徴とするヘッドユニットと配線基板とを接合することを特徴とする方法である。
【0028】
本発明に従えば、貫通孔を通じてレーザ光を配線基板側電極に直接照射することによって、レーザ光のエネルギー損失が従来の技術より少なく、短時間で導電性接続部材を溶融させることができる。これにより加熱された配線基板側電極が有する熱が基板及びアクチュエータへと拡散して基板及びアクチュエータが高温になることを抑制でき、熱応力による基板及びアクチュエータの破損を防ぐことができる。その結果、基板及びアクチュエータが破損することに起因する不良品の発生が減少し、多くの良品を製造することができる。
【0029】
上記発明において、前記レーザ光は、その波長が550nm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明に従えば、金属が吸収しやすいレーザ光である波長が550nm以下のレーザ光を用いることで、配線基板側電極の加熱する際のレーザ光のエネルギー損失を抑え、短時間による配線基板側電極の加熱を実現している。これによって不良品の発生が更に減少し、さらに多くの良品を製造することができる。
【0031】
上記発明において、前記レーザ光は、その波長が360nm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明に従えば、金属の吸光率がさらに高い波長が360nm以下のレーザ光を用いることで、配線基板側電極の加熱する際のレーザ光のエネルギー損失をさらに抑え、さらに短時間による配線基板側電極の加熱を実現している。これによって不良品の発生が更に減少し、さらに多くの良品を製造することができる。
【0033】
上記発明において、前記アクチュエータ側電極は、その外形寸法が前記配線基板側電極の外形寸法より大きく形成されていることが好ましい。
【0034】
本発明に従えば、アクチュエータ電極の外形寸法が配線基板側電極のそれより大きく形成されているため、バンプを溶融して複数の配線基板側電極と複数のアクチュエータ電極とを接合する際、溶融したバンプが配線基板とアクチュエータとの間に僅かに流れ出ても被覆膜とアクチュエータ電極との間で保持することができ、これによっても溶融したバンプが隣接するアクチュエータ電極及び配線基板側電極まで流れていくことを防ぐことができる。これによって電気的な接続不良に起因する不良品の発生が低減され、更に多くの良品を製造することができる。
【0035】
上記発明において、前記配線基板において、前記基板は、可撓性を有するフレキシブル基板であり、前記バンプは、前記基板の表側面側に設けられており、前記基板の貫通孔は、前記基板の裏側面側で開口しており、前記基板の裏側面には、押え部材が取り付けられ、前記押え部材は、前記基板より剛性が高い材料から成り、前記基板の貫通孔に対応する位置に穿設孔を有しており、前記位置決め工程の後であって、前記接合工程の前に前記押え部材を前記配線基板に取り付ける取付工程をさらに有し、前記接合工程では、前記基板及び押え部材の貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって前記レーザ光を前記配線基板側電極に直接照射することが好ましい。
【0036】
本発明に従えば、接合工程の前に導電性接続部材が設けられている基板の表側面側と反対側の裏側面に押え部材を取り付けることによって、配線基板を接合すべき対象の被接合部材に接合する際、配線基板を被接合部材に載置するだけで、前記押え部材の自重により基板が前記被接合部材に押し付けられる。これによって前記被接合部材に対する配線基板の位置ズレを抑制することができる。また押え部材を基板より剛性の高い材料で構成することで基板の反り及びうねりを抑制し、配線基板と被接合部材との間の間隙を略均一にすることができる。これによって接合状態にバラツキが生じることを抑制することができる。そして前記押え部材に穿設孔を形成することで、配線基盤の位置ズレ及び接合状態のバラツキを抑制しつつ、配線基板側電極にレーザ光を直接照射することができる。これによって電気的な接続不良に起因する不良品の発生が低減され、更に多くの良品を製造することができる。
【0037】
上記発明において、前記押え部材は、少なくとも紫外線を透過する透光製樹脂から成り、前記押え部材と基板との間には、紫外線を照射することで接着可能な紫外線硬化型接着剤が介在しており、前記溶着工程で用いられるレーザ光は、紫外線であり、前記溶着工程では、前記基板及び押え部材の貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって前記配線基板側電極に前記レーザ光を直接照射すると共に、前記押え部材を介して前記レーザ光を前記紫外線硬化型接着剤にも照射し、前記押え部材と前記基板とを接着することが好ましい。
【0038】
本発明に従えば、基板の裏側面上に押え部材を取り付けた後、前記裏側面側から紫外線のレーザ光を押え部材及び配線基板側電極に照射することで、押え部材と基板との接着と導電性接続部材の溶融とを同時に行うことができる。よって工数を低減することができる。また押え部材と基板とを一体化することで、押え部材が基板に対し位置ズレすることを防ぐことができる。これによって貫通孔が押え部材によって覆われてしまうことを防ぐことができ、レーザ光を配線基板側電極に直接照射することが確実にできる。これによって電気的な接続不良に起因する不良品の発生が低減され、更に多くの良品を製造することができる。
【0039】
上記発明において、前記押え部材と前記基板との間には、熱を加えることで接着可能な熱硬化型接着剤が介在しており、前記溶着工程では、前記基板及び押え部材の貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって前記配線基板側電極に前記レーザ光を直接照射すると共に、前記レーザ光を押え部材にも照射して前記押え部材を加熱し、前記押え部材と前記基板とを接着することが好ましい。
【0040】
本発明に従えば、基板の裏側面上に押え部材を取り付けた後、前記裏側面側からレーザ光を押え部材及び配線基板側電極に照射することで、押え部材と基板との接着と導電性接続部材の溶融とを同時に行うことができる。よって工数を低減することができる。また押え部材と基板とを一体化することで、押え部材が基板に対し位置ズレすることを防ぐことができる。これによって貫通孔が押え部材によって覆われてしまうことを防ぐことができ、レーザ光を配線基板側電極に直接照射することが確実にできる。これによって電気的な接続不良に起因する不良品の発生が低減され、更に多くの良品を製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、電極に配設された導電性接続部材に効率よく熱が伝達され、前記導電性接続部材を溶融する際に前記配線基板に加わる熱量を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明の液滴吐出装置の実施形態を示す一例として、インクジェットヘッド装置について説明する。図1は、本発明に係る実施形態のインクジェットヘッド装置1の分解斜視図である。インクジェットヘッド装置1は、種々の色(本実施の形態では、シアン、イエロー、マゼンダ及びブラックの4色)のインクを吐出するノズル36を備えており、例えば記録紙等の被記録媒体にインクジェット方式で画像形成及び印字を行うインクジェットプリンタに設けられている。インクジェットプリンタは、所定の走査方向(例えばY方向)に往復移動可能なキャリッジを備え、前記インクジェットヘッド装置1は、このキャリッジに搭載されている。インクジェットプリンタは、配置された走査方向と直交する方向である副走査方向(例えばX方向)に記録媒体を搬送する図示しない搬送機構をインクジェットヘッド装置1の下方に備えている。この様な構成を有するインクジェットプリンタによれば、キャリッジ(図示せず)でインクジェットヘッド装置1を走査方向に往復移動し、また前記搬送機構で被記録媒体を副走査方向に搬送しながら、前記インクジェットヘッド装置1から被記録媒体に向けてインクを吐出することで、被記録媒体上に画像が形成される。
【0043】
インクジェットヘッド装置1は、図1に示すように略矩形状の複数のプレートが積層接着されて構成される流路ユニット2(吐出ヘッド)と、流路ユニット2の上面2aに接合された圧電アクチュエータ(アクチュエータ)4とからなるヘッドユニット6を主体としており、圧電アクチュエータ4の駆動に応じて流路ユニット2内を流動するインクをインク滴としてノズル36から吐出する。さらにヘッドユニット6の上面となる圧電アクチュエータ4の最上面4aには、駆動電圧を生成して圧電アクチュエータ4に出力する駆動回路10(駆動装置)を実装した可撓性の配線基板8の一端が重ねられるように接合されている。以下、図1に矢印で示す通り略矩形状の流路ユニット2の長辺方向をX方向、短辺方向をY方向として説明し、また流路ユニット2に対して圧電アクチュエータ4が積層されている側を上側として説明する。
【0044】
図2は、インクジェットヘッド装置1と共にキャリッジに搭載される部品の分解斜視図である。図2に示すように、インクジェットヘッド装置1の流路ユニット2は、平面視で圧電アクチュエータ4よりも外形寸法が大きく形成されている。そのためヘッドユニット6は、平面視で圧電アクチュエータ4外方に流路ユニット2の上面2aの周縁部が表出する構造となる。また流路ユニット2の上面2aには、さらに平面視矩形状の補強フレーム101が接着シート等で接着されている。また補強フレーム101の上面が、上面が開口する略箱状のヘッドホルダ102の下面に接合されている。ステンレス等の剛性の高い金属材から成形される補強フレーム101をインクジェットヘッド装置1に接着することにより、インクジェットヘッド装置1に高い剛性を与えている。補強フレーム101は装着孔101aを有する。この装着孔101aは、圧電アクチュエータ4の平面視外形よりもやや大きな矩形状に形成されており、インクジェットヘッド装置1を補強フレームに接着したときに、圧電アクチュエータ4が嵌り込んで上方に表出し配線基板8の他端側を上方に引き出せるように形成されている。ヘッドホルダ102の底壁部102aには、上下方向に開口するスリット102bが形成されている。このスリット102bは、ヘッドホルダ102の下面に補強フレーム101を接合したときに、このスリット102bからヘッドホルダ102の内方を通って上側へと配線基板8を引き出すために前記底壁部102aに設けられている。
【0045】
箱状のヘッドホルダ102内には、配線基板8の発熱を吸収して放散するためのヒートシンク105が上側から挿入されるようにして収容されている。ヒートシンク105は、平板状の板金を折り曲げて成形されており、ヘッドホルダ102の側壁に沿うようにして配置されている。スリット102bを通った配線基板8は、このヒートシンク105とヘッドホルダ102の側壁との間を通ってヘッドホルダ102内に引き出され、その他端部はさらにヘッドホルダ102の上側の開口から外部へと引き出されて電源基板等の電気部品に接続される。
【0046】
またヘッドホルダ102内には、図示しないインクカートリッジから供給されたインクを貯留し、この貯留しているインクをインクジェットヘッド装置1に供給するインク供給装置110が収容されている。インク供給装置110は、ポリプロピレン等の合成樹脂製であり、その内部に互いに色の異なる4種のインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)が互いに独立して流動しているインク流路(図示せず)が形成されている。さらにインク供給装置110の下面には、前記各色のインク流路の下流側が接続し、かつ下方に開口するインク流出口110aが形成されている。またヘッドホルダ102の底壁部102aには、収容されたインク供給装置110の4つのインク流出口110aを下方に表出させるべく開口102cが形成されている。さらに補強フレーム101には、前記4つのインク流出口110aに対応させて4つの開口101bが形成されており、流路ユニット2の上面2aには、前記4つの開口101bに対応させて後述する4つのインク供給孔30が形成されている。従ってヘッドホルダ102にインク供給装置110を収容しヘッドホルダ102の下面にインクジェットヘッド装置1が接着された補強フレーム101を接合することと、インク流出口110aが開口102c、101bを介してインク供給孔30に接続される。なお、ヘッドホルダ102は、キャリッジとしての機能を兼ねることができる。 図3は、図1のIII−III線に沿って切断してみたインクジェットヘッド装置1の部分断面図である。ただし図3は、インクジェットヘッド装置1の各構成を組み付けた状態を示している。図3に示すように、流路ユニット2は、それぞれ平面視で略同一寸法の矩形状(X方向が長辺、Y方向が短辺)に形成されたノズルプレート21、スペーサプレート22、ダンパプレート23、マニホールドプレート24(24A,24B)、サプライプレート25、ベースプレート26、及びキャビティープレート27を有し、これらのプレート21〜27が下方から上方に向って順に積層接着されて構成されている。ノズルプレート21は、ポリイミド等の合成樹脂材から成形され、他のプレート22〜27は、42%ニッケル合金鋼から成形される。各プレート21〜27は、平面視で略同一寸法の矩形状板厚が50〜150μm程度となっている。
【0047】
各プレート21〜27には、電解エッチング、レーザ加工、又はプラズマジェット加工等により開孔や溝が形成されている。これら前記開孔及び溝は、プレート21〜27を積層することで連通し、インク供給口30(図1及び図2参照)及びインク供給口30に供給されたインクを流通させて外方へと吐出させる5つのチャンネル31を構成する。
【0048】
インク供給口30は、流路ユニット2の上面2aであってアクチュエータ4が積層されていない領域、具体的にはX方向一端に形成されている。またインクジェットヘッド装置1がインク供給装置110から供給される4種のインクを互いに独立して吐出可能に構成されているため、インク供給口30は、各種のインクに対応させて4つのインク供給口30C,30M,30Y,30KがY方向に並ぶように配置されている。そのうち使用頻度の高い黒インクが流入するインク供給口30Kは、他より大型に形成されている。
【0049】
チャンネル31は、インク供給口30に連通する単一の共通インク室32と、上面2aにおいて上方に開口してX方向に配列されている複数の圧力室34と、共通インク室32と各圧力室34の一端とを連通する複数の接続流路33と、各圧力室34の他端から下方に延びる複数の連通流路35と、下面2bにおいて下方に開口してX方向に配列されかつ連通流路35を介して対応する圧力室34に連通する複数のノズル36とを有する。チャンネル31は、インク供給口30から流入したインクを共通インク室32、接続流路33、圧力室34、及び連通流路35を通ってノズル36へと導き、前記ノズル36から被記録媒体に向って吐出する。
【0050】
5つのチャンネル31は、互いに独立してインク供給口30に繋がっている。具体的には、インク供給口30Kに2つのチャンネル31が繋がり、他のインク供給口30C,30M,30Yには、残りの3つのチャンネル31が互いに独立して繋がっている。このように各インク供給口30に繋がった5つのチャンネル31がY方向に並設されている。
【0051】
図4は、圧電アクチュエータ4及び配線基板8の一部を分解した分解斜視図である。図5は、図4のV−V線に沿って切断したインクジェットヘッド装置1の部分断面図である。図6は、図4のVI−VI線に沿って切断したインクジェットヘッド装置1の部分断面図である。図7は、図4のVII−VII線に沿って切断したインクジェットヘッド装置1の部分断面図である。ただし、図5乃至図7は、インクジェットヘッド装置1の各構成を組み付けて配線基板8上に後述する押え部材130を取り付けた状態を示している。
【0052】
図3及び図4に示すように、圧電アクチュエータ4は、それぞれ平面視で略同一寸法の矩形状(X方向が長辺、Y方向が短辺)に形成された複数の圧電シート40を上下に積層接着して、その最上層の圧電シート40の上面にトップシート45を接着し、さらに複数の圧電シート40の間に共通電極51及び個別電極52を積層方向に交互に設けることによって構成される。圧電シート40は、それぞれチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から成り、板厚が30μm程度となっており、上下方向に矩形状の平坦な表面を有している。以下では、下から数えて奇数番目に配置されている圧電シート40を第1圧電シート41,41,…と言い、下から数えて偶数番目に配置される圧電シート40を第2圧電シート42,42,…と言う。トップシート45は、絶縁材から成る。
【0053】
平面視矩形の板状に形成された圧電アクチュエータ4は、流路ユニット2の外形寸法よりも小さく形成されている。図6に示されているように、圧電アクチュエータ4は、個別電極52の位置と圧力室34の位置とが対応し、かつインク供給口30が上方に表出するように流路ユニット2の上面2a上に接合される。このように圧電アクチュエータ4を流路ユニット2に接合することで、各圧力室34は、圧電アクチュエータ4によって覆われる。
【0054】
共通電極51は、第1圧電シート41の上面41aの略全域を覆うようにして設けられている。また個別電極52は、Y方向に長い平面視細長形状で、第2圧電シート42の上面42aにおいて平面視で圧力室34と重なるように設けられている。すなわち、第2圧電シート42のそれぞれの上面42aに、圧力室34と同数の個別電極52が、圧力室34と同様にしてXY方向に並んで配列されている。
【0055】
圧電アクチュエータ4の最上面4aには、つまりトップシート45の上面には、共通電極51を配線基板8に導通させるための共通電極用端子61と、個別電極52を配線基板8に導通させるための個別電極用端子62(アクチュエータ電極)とが形成されている。またトップシート45の上面の両方の短辺45yの近傍であって略Y方向中央部には、後述する位置決め用のアクチュエータ側マーカ123が平面視円形に形成されている。共通電極用端子61は、上面4aの両方の短辺45yの近傍において、前記アクチュエータ側マーカ123を挟んでY方向一方及び他方に該短辺45yに沿って帯状に延在している。共通電極用端子61は、このマーカ123の周辺において除去されており、共通電極用端子61とアクチュエータ側マーカ123とは、被導通状態となっている。個別電極用端子62は、平面視においてY方向に細長形状で圧力室34と重なるように設けられており、圧電アクチュエータ4の上面4aには、圧力室34と同数の個別電極用端子57が圧力室34と同様にXY方向に配列して設けられている。
【0056】
各個別電極用端子62上には、圧電アクチュエータ3上に配線基板8を載置した際、後述する配線基板8の基板側個別電極用端子92aに対応する位置に接続端子部62aが設けられている。これら接続部端子部62aは、X方向に並べられた複数の個別電極用端子62において、個別電極用端子62の長手方向の一端部及び他端部に交互に配置されている、すなわち千鳥状に配置されている。また、共通電極用端子61上にも、圧電アクチュエータ3上に配線基板8を載置した際、配線基板8の基板側共通電極用端子91aと対応した位置に接続端子部61aが設けられている。接続端子61aおよび62aは、ハンダ等の導電性ろう材をより接合させやすくするために設けられている。
【0057】
アクチュエータ側マーカ123は、後述するように流路ユニット2と圧電アクチュエータ3と押え部材130を位置決めするものであり、個別電極用端子61や共通電極用端子62をトップシート45に形成する工程にて、同時に印刷及び焼成して形成される。アクチュエータ側マーカ123は、個別電極用端子61及び共通電極用端子62に対し所定の位置関係で配置されているが、同時印刷する(同じマスクを用いる)ことで、高い精度で位置関係を確保することができる。なお、両電極51,52、および、両端子61、62、アクチュエータ側マーカ123は、銀―パラジウム系の導電部材を、接続端子部61a、62aは、ガラスフリットを含む銀でスクリーン印刷して設けられている。
【0058】
また、圧電アクチュエータ4には、図4及び図5に示すようにトップシート45から最下層の第2圧電シート42Aまでを上下に貫通する断面円形状の共通電極用スルーホール56aが形成されている。この共通電極用スルーホール56a内には、導電材を充填もしくは塗布してなる共通電極用中継配線56が設けられている。圧電アクチュエータ4の上面4aの共通電極用端子61が設けられている位置において共通電極用スルーホール56aが開口し、共通電極用中継配線56によって積層方向に並ぶ各共通電極51と共通電極用端子61とが導通される。なお共通電極用中継配線56が第2圧電シート42上で断線しないように、第2圧電シート42の上面42aにおける共通電極用スルーホール56a周辺の部分にも導電材部59が帯状に設けられている。
【0059】
さらに圧電アクチュエータ4には、トップシート45から複数の圧電シート40のうち下から3番目の圧電シート40である第1圧電シート41Bまでを上下に貫通する断面円形状の複数の個別電極用スルーホール57aが形成されている。この個別電極用スルーホール57a内には、導電材を充填もしくは塗布してなる個別電極用中継配線57が設けられている。個別電極用スルーホール57aは、圧電アクチュエータ4の上面4aの各個別電極用端子62の一端部において開口している。そのため個別電極用スルーホール57aは、個別電極用端子62及び圧力室34と同数形成されている。各個別電極用中継配線57を介し、平面視で重なっている個別電極用端子62と個別電極52とが導通される。なお図4に示すように、最下層の第1圧電シート41Aを除く第1圧電シート41の上面の個別電極用スルーホール57aの周辺には、共通電極51が設けられず、替わりに共通電極51と独立して島状に導電パターンが敷設されている。これによって個別電極用中継配線57が第1圧電シート41上で断線しないと共に、共通電極51と個別電極52とが互いに電気的に独立した状態(非導通の状態)に保たれる。
【0060】
図8は、配線基板8のアクチュエータと接合する下側面の平面図である。以下では、図4乃至図7も参照しつつ配線基板8を説明する。配線基板8は、フレキシブルな帯状の基板81を有し、基板81の下面に共通電極用配線91及び個別電極用配線92が敷設され、これら共通電極用配線91及び個別電極用配線92を覆うようにして前記基板81の下面の略全域を被覆膜82で被覆することによって構成される。基板81は、透明性を有する電気絶縁性及び可撓性を有した合成樹脂材(例えば、ポリイミド樹脂)などから成り、その下面に銅箔からなる共通電極用配線91及び個別電極用配線92がフォトレジスト等により形成されている。そして基板81の下面を覆う被覆膜82は、電気絶縁性及び可撓性を有した感光性ソルダレジストから成る。なお、図8は、基板81が透光性を有するポリイミド樹脂(厚み38μm)からなり、配線91、92および電極91a、92a(厚み8μm)等が透過して上方から視認可能な状態を示している。
【0061】
更に詳細に説明すると、前記基板81の下面には、その長手方向(Y方向)の一端側の領域に共通電極用端子61の接続端子部61aに接続すべく複数の基板側共通電極用端子91aと、個別電極用端子62の接続端子部62aに接続すべく複数の基板側個別電極用端子92aが形成されており、長手方向他端側の領域に基板81の短手方向に配列された複数の入力端子120が形成され、図示しない外部電源と接続されている。さらに基板81の上面の長手方向中間領域には、駆動回路10が実装されている。
【0062】
前記基板側共通電極用端子91aは、基板81の長手方向に伸延する両長辺81y近傍に、前記長手方向に間隔をあけて配列されている。このようにして配列された基板側共通電極用端子91aは、列毎に基板側共通電極用配線91によって互いに接続され、さらに前記基板側共通電極用配線91を介して入力端子120の短手方向の両側の端子にそれぞれ接続され、電気基板などを介して接地されている。また、アクチュエータと配線基板との位置合わせに使う位置合わせ用の基板側マーカー124が基板81の下面の短手方向の両側縁であって、圧電アクチュエータ4に配線基板8を載置したときに平面視で前記アクチュエータ側マーカ123と重なる位置に、平面視で円形状に形成されている。この基板側マーカ124は、アクチュエータ側マーカ123の円形状よりも一回り小さい円形状に形成しており、他の配線の形成と同時にスクリーン印刷されている。なお、配線91aは、基板側マーカ123を避けるようにして配置されている。
【0063】
基板側個別電極用端子92aは、前記基板81の短手方向両側に配列された複数の基板側共通電極用端子91aの間に配置され、圧電アクチュエータ4の個別電極用端子62に対応するようにXY方向に配列されている。基板側個別電極用端子92aは、個別電極用配線92を介して駆動回路10に電気的に接続されている。基板側個別電極用配線92は、対応する基板側個別電極用端子92aから他の基板側個別電極用端子92aの間を縫うようにして共通電極用配線91と略平行(Y方向)に延びて、前記対応する基板側個別電極用端子92aを駆動回路10に接続するように基板81の下面に敷設されている。基板側個別電極用端子92aは千鳥状に配列されていることで、その端子92a間の距離を広くすることができる。さらに駆動回路10は、複数の入力側配線10aを介して複数の入力端子120に電気的に接続されている。入力端子120は、図示しない電源基板等の電子部品に電気的に接続されている。共通電極用配線91、基板側共通電極用端子91a、個別電極用配線92、基板側個別電極用端子92a、駆動配線10a及び入力端子120、およびマーカ124は、基板81に銅箔をフォトリソグラフィ、エッチングでパターニングすることにより形成されている。マーカ124は、各配線91、92、10aおよび各端子91a、92aと所定の位置関係で配置されているが、同時にスクリーン印刷されることにより、高い精度で位置関係を確保することができる。
【0064】
被覆膜82は、感光性ソルダレジストが基板81の上面の略全域に塗布され被覆しているが、前記端子91a,92aに対応する部分だけが除去されており、この部分に被覆膜82を貫通する除去部82aが形成されている。この除去部82aは、前記被覆膜82を感光性ソルダレジストをフォトリソグラフィにより除去することによって形成される。基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aは、この除去部82aによって下方に表出している。
【0065】
基板81には、前記基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aに対応する位置にその基板81を厚み方向(上下方向)に貫通する貫通孔81bが公知のポリイミドエッチングで形成されている。この貫通孔81bは、基板81の上面側の開口が下面側の開口より大径であるテーパ形状に形成され、その下面側の開口の径が前記端子91a,92aより小径に形成されている。これによって前記貫通孔81bの周辺に前記端子91a,92aを配置しつつ、これらを上方に表出させることができる。なお、貫通孔81bは、レーザ光によって形成させてもよい。また、貫通孔81bの開口はテーパ形状に限らない。
【0066】
このような構成を有する基板81には、図5乃至6に示すように基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aの被覆膜82側の表面(つまり下面)にハンダなどの導電性材料のバンプ71,72(導電性接続部材)が設けられている。バンプ71,72は、その下部が被覆膜82の下面から突出するように基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92a上に設けられている。バンプ71、72は、例えばハンダの場合、ハンダペーストをバンプ位置にマスク印刷後、リフロー工程で冷却することにより形成することができる。基板81は、その下面が圧電アクチュエータ4の上面4aに対向するように圧電アクチュエータ4に載置される。このとき基板側共通電極用端子91aに設けられた共通電極用バンプ71は、共通電極用端子61の接続端子部61aに溶融接着され、基板側個別電極用端子92aに設けられた個別電極用バンプ72は、対応する個別電極用端子62の接続端子部62aに後述するレーザ光を用いた方法でハンダが溶融接着されている。これにより、配線基板8が圧電アクチュエータ4の上面4aに固定されると共に、共通電極用配線91と共通電極用端子61とが導通し、個別電極用配線92と個別電極用端子62とが導通する。
【0067】
このような配線基板8は、初めに下面に導線層が形成された基板81に対して、電極となる導電層がエッチングによりパターニングされ、感光性ソルダレジスト等の被覆膜82が形成され、除去部82aがエッチング等で形成される。その後、基板81の上面側に貫通孔81aを形成すべく、ポリイミドエッチングまたはレーザを用いることで貫通孔が形成され、バンプ71,72が形成される。上記構成のインクジェットヘッド装置1によると、駆動回路10から出力される駆動電圧を各個別電極用配線92、各個別電極用端子62及び各個別電極用中継配線57を介し、各個別電極52に選択的に印加することができる。一方、共通電極51は、後述する通りグランドに接続される。このため、第1及び第2圧電シート41,42においては、個別電極52と共通電極51とに挟まれた領域が、分極されて圧電効果を発揮する活性部53となる。個別電極52に駆動電圧が供給されて分極方向と平行(即ち、上下方向)に電圧が印加されると、第1及び第2圧電シート41,42の活性部53が分極方向に伸長変形する。これにより、駆動電圧が印加された個別電極52に対応する活性部53が変形し圧力室34に圧力変動を生じさせる。この圧力変動によりノズル36から流路ユニット2の外部下方に向ってインク滴が吐出される。
【0068】
なお、駆動電圧の値に応じてインクに付与される圧力を変化させ、ノズル36から吐出されるインク液滴の量を制御することができ、また、前述の通りシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクを互いに独立して吐出可能な構成となっている。したがって、ノズル36と上下に対向させて紙等の被記録媒体を設置すると、このインクジェットヘッド装置1を利用して被記録媒体に対するフルカラー印刷を行うことができる。
【0069】
以下では、ヘッドユニット6と配線基板8とを接合する方法について、図9乃至図10を参照しつつ説明する。図9は、ヘッドユニット6と配線基板8とを接合する際の手順を示すフローチャートである。図10は、ヘッドユニット6と配線基板8とを接合する際の手順を示すために図4のVII−VII線で切断して示した断面図である。図10では、ヘッドユニット6の流路ユニット2を省略し、また圧電アクチュエータ4の内部構成を省略している。なお、ヘッドユニット6は、圧電アクチュエータ3の下面(圧力室と対面する広幅面)全体に、接着剤としてのインク非浸透性の合成樹脂材からなる接着剤シートを貼着しておき、次いで、流路ユニット2の各圧力室上に圧電アクチュエータ3の個別電極の各々が対応して配置されるように接着固定される。これにより積層タイプのヘッドユニット6が形成される。ヘッドユニット6と配線基板8との接合では、まず図10(a)に示すように基板81に貫通孔81b、被覆膜82に除去部82aが上述の方法で予め所望の位置に形成され、さらに、各端子91a、92a上にバンプ71、72が形成された配線基板8と、流路ユニット2に圧電アクチュエータ4を接着したヘッドユニット6とを用意する。(ステップS1)。
【0070】
次に図10(b)に示すように(図5及び図6も参照)基板側共通電極用端子91aに設けられた共通電極用バンプ71が共通電極用端子61上に配置され、基板側個別電極用端子92aに設けられた個別電極用バンプ72は、対応する個別電極用端子62上に配置されるように、配線基板8と圧電アクチュエータ4とを位置決めする(ステップS2)。この位置決めでは、図11(a)及び(b)に示すような一対の位置決め手段122(図1及び図4も参照)が用いられる。図11(a)は、位置決め手段122近傍を拡大して示す断面図であり、図11(b)は、位置決め手段122近傍を拡大して示す平面図である。
【0071】
この一対の位置決め手段122は、圧電アクチュエータ4に形成される一対のアクチュエータ側マーカ123と配線基板8に形成される一対の基板側マーカ124を有する。一対の基板側マーカ124は、圧電アクチュエータ4上に配線基板8を載置したとき、平面視で前記アクチュエータ側マーカ123と重なるように配線基板8に配置されており、平面視でアクチュエータ側マーカ123にそれより小径円形状の基板側マーカ124を重なるようにして圧電アクチュエータ4上に配線基板8を載置することで、圧電アクチュエータ4と配線基板8とが位置決めされる。
【0072】
次に図10(c)に示すように基板81の上面に押え部材130を取り付ける(ステップS3)。ここで、押え部材130について説明する。押え部材130は、平面視で圧電アクチュエータ4の上面4aと外形寸法が略同じであり、前記基板81よりも剛性の高い材料、例えばアクリル樹脂やガラス、SUSやCu,Alなどの金属から成る厚み1〜2mm程度の板状の部材で、後述するレーザ照射工程において、可撓性の基材81が反って、圧電アクチュエータ3に対し位置ズレを起こすことを防止するためのものである。本実施形態では、前記押え部材130は、透光性のあるガラス部材とし、基板81に取り付けた際、基板81に形成された貫通孔81bに対応する位置に型成形やエッチング、プレス成形等により穿設孔130aが形成されている。前記穿設孔130aは、その下面側の開口が貫通孔81bの上面側の開口と略一致しており、上面側の開口が下面側の開口より大径に形成されている。
【0073】
また、押え部材130には、配線基板8とアクチュエータとの位置決めをするための押え部材側マーカ125が設けられる。この押え部材マーカ125は、押え部材130の下面側(配線基板8側)において、位置決めマーク122および123と対応する位置で、短手方向の両側縁の中央に平面視で円環状に形成されており、押え部材130の上面から視認可能に構成される。円環状の押え部材マーカ125は、アクチュエータ側マーカ123の直径よりも間隔をおいてさらに大きい直径を有し、黒色のマークを印刷等で下面側に形成している。押え部材130は、透光性を有したガラス板材であるため、下方に配置される前記アクチュエータ側マーカ123及び基板側マーカ124を目視可能に構成されている。
【0074】
押え部材側マーカ125を前記アクチュエータ側マーカ123及び基板側マーカ124に重なるように、押え部材130を配線基板8に載置することで、配線基板8と押え部材130の位置決め、並びに押え部材130と圧電アクチュエータ4との位置決めを行うことができる。なお位置決めするに当たって、各マーカ123,124,125の重なりの確認は、目視確認であってもよく、カメラなどで撮影して得られた画像に基づいて確認する方法であってもよい。
【0075】
接合方法の説明に戻ると、ステップS3では、このような構成を有する押え部材130を図8の1点鎖線で示すように基板81の長手方向一端側に少なくとも穿設孔130a部が開口されたシート状の接着シート131を介して着脱可能に取り付ける。このとき前述の通り各穿設孔130aが対応する貫通孔81bと連なるように、押え部材130が基板81に取り付けられている。そしてその位置決めは、位置決め手段122を用いて行われる。
【0076】
このようにして押え部材130を基板81に取り付けることで、押え部材130の自重により基板81が圧電アクチュエータ4に押さえつけられ、可撓性の配線基板8が圧電アクチュエータ4に対し位置ずれすることを抑制できる。また押さえつけることで、配線基板8の反り及びうねりの発生を抑制し、配線基板8と圧電アクチュエータ4との間の隙間を略均一にすることができる。
【0077】
このように圧電アクチュエータ4に対する配線基板8の位置ズレが抑制され、配線基板8と圧電アクチュエータ4との間の隙間が略均一になった状態で、図10(d)に示すように押え部材130の上方から基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aに向ってレーザ光を照射する(ステップS4)。これら基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aが貫通孔81b及び穿設孔130aによって上方に表出しているため、レーザ光はこれらの端子91a,92aに直接照射される。
【0078】
なお照射されるレーザ光は、その波長が550nm以下のものが好ましく、更に好ましくは波長が360nm以下のものである。その理由について図12を参照して説明する。図12は、金、銀及び銅の光の波長に対する吸光率の変化を示すグラフである。金、銀、銅は一般的に配線材によく用いられる金属材料であって、本実施形態の電極用端子91a、92aは、Cu電極であり、図12によるとCuは、波長が550nm以下のレーザ光の吸収率が高く、さらには波長360nm以下のレーザ光の吸収率が高くなるのが分かる。つまり、550nmの波長のレーザ光として、例えば、波長400nmあたりのGaNレーザ等を用いることで、銅電極である電極用端子91a、92aがより早く温度が上昇され、短時間でバンプ71,72を溶融することができる。また360nmの波長のレーザ光として、例えばYAGの第3次以上の高調波レーザ等を用いることで、同様により短時間でバンプ71,72を溶融することができるとともに、より短時間で共通電極用端子61及び個別電極用端子62を加熱することができる。
【0079】
このようにレーザ光を直接照射することで、銅箔の電極用端子91a、92aが、効率よく熱され、さらに短時間で共通電極用バンプ71が溶融して基板側共通電極用端子91aと共通電極用端子61とに溶着し、個別電極用バンプ72が溶融して基板側共通電極用端子92aと個別電極用端子62とに溶着する。また、押さえ部材130が自重により配線基板8を押さえ付けられた状態で、レーザ光によりその間に介在するバンプが溶融して溶着されるため、加熱して溶融させたバンプに対して押圧させて接続させる場合と比べて、接続時のバラツキやブリッジ形成による接合不良が少なくなる。
この状態でしばらく放置して溶融したバンプ71,72を冷却して硬化させることで、基板側共通電極用端子91aと共通電極用端子61とが電気的及び機械的に接合され、また基板側個別電極用端子92aと個別電極用端子62とが電気的及び機械的に接合される。そして最後に基板81上に取り付けられていた押え部材130を取り外すことによって接合が終了する(ステップS5)。
【0080】
このようにして配線基板8をアクチュエータ4に取り付けると、貫通孔81b及び穿設孔130aを通じてレーザ光を基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aに直接照射することができるので、レーザ光のエネルギー損失が従来のものより少なく、短時間でバンプ71,72を溶融させることができる。これにより加熱された基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aが有する熱が基板81、圧電アクチュエータ4及び流路ユニット2に拡散して、これらの構成が高温になることを抑制でき、熱応力による基板81、圧電アクチュエータ4及び流路ユニット2の破損や剥離等を防止できる。従ってインクジェットヘッド装置1の不良品の発生が更に減少し、信頼性のある良品を製造することができる。
【0081】
また配線基板8と圧電アクチュエータ4との間隔が均一であるので、配線基板8、圧電アクチュエータ4及び流路ユニット2が均一に加熱されることになり、局所的に熱応力が発生することを抑制できる。これによってもインクジェットヘッド装置1の不良品の発生が更に減少し、さらに多くの良品を製造することができる。また位置決め手段122を用いることで、貫通孔81bと穿設孔130aとの間の位置ズレを防ぐことができ、確実にレーザ光を基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aに照射することができる。
【0082】
また配線基板8によれば、被覆膜82により溶融したバンプ71,72が流れて共通電極用配線91と個別電極用配線92とが、又はこれらの各々同士が電気的に接続することを防ぐことができる。また被覆膜82に除去部82aを形成し、この除去部82aにバンプ71,72を配置することで、溶融したバンプ71,72が除去部82aから流れ出ることを防いでいる。これによって基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aが高密度で配置されても、溶融したバンプ71,72が流れ出て他の配線基板側電極に達してブリッジを形成することを抑制できる。また前記除去部82aにより溶融したバンプ71,72の流出を防ぐことができるので、前記バンプ71,72を被覆膜から突出させる程度の適当な量のバンプ71,72を基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aに盛ることが容易であり、またバンプ71,72を突出させることで、前記基板側共通電極用端子91aと共通電極用端子61の間の電気的な接合状態及び基板側個別電極用端子92aと個別電極用端子62との間の電気的な接合状態を良好なものとすることができる。
【0083】
また圧電アクチュエータ側の電極である個別電極用端子62の外形寸法が基板側個別電極用端子92aの外形寸法より大きく形成されている。そのためバンプ71,72を溶融して個別電極用端子62と基板側個別電極用端子92aとを接合する際、溶融したバンプが配線基板8と圧電アクチュエータ4との間に僅かに流れ出ても被覆膜82と個別電極用端子62との間で保持することができる。これによっても溶融したバンプ71,72が隣接する個別電極用端子62及び基板側個別電極用端子92aまで流れていくことを防ぐことができる。
【0084】
本実施形態では、シート状の接着シート131が配線基板8の上面に着脱に接着されているが、着脱自在でなくてもよい。つまり、押え部材130をそのまま取り付けておくことで、インクジェットヘッド装置の剛性を高めることができるための補強部材として兼ねることもできる。その場合、キャリッジに対する組立て時のハンドリングがし易くなるなどの効果がある。この場合、前述した圧電アクチュエータ3と配線基板8と押え部材130とを積層する工程において、配線基板8と押え部材130とを先に位置決めしたものに対して、さらに圧電アクチュエータ3と位置決めすることにより3者を位置合わせしながら積層させることが容易にできる。
上記の場合、前記シート状の接着シート131に代えて紫外線硬化型接着剤であってもよく、また熱硬化型接着剤であってもよい。紫外線硬化型接着剤を使用する場合、押え部材130をガラス材等の透光性を有するもので成形する必要があるが、照射するレーザ光を紫外線領域の波長のものにすると、レーザ光を照射する工程にて前記レーザ光を押し部材にも照射することで、押え部材130と配線基板8とを接着することができる。
【0085】
前記シート状の接着シート131では接着剤位置決めしながら接着するため貼り直しながら位置決めする可能性があるが、紫外線硬化方接着剤の場合、位置決め後に押え部材130と配線基板8とを接着するので、位置決めがしやすくまた接着時に押え部材130が動くことがない。したがって位置ズレすることを抑制できる。またレーザ光を照射するだけで接着できるので、工数を減らすことができる。
【0086】
熱硬化型接着剤の場合は、レーザ光を押え部材130に照射して押え部材130を加熱することで、押え部材130と配線基板8とを接着することができ、紫外線硬化方接着剤の場合と同様の効果を得ることができる。紫外線硬化方接着剤又は熱硬化型接着剤の場合、押え部材130は、基板81に接着されたままの状態となり、基板81と共に配線基板8を構成する。
【0087】
また、本実施形態では、押え部材130が透光性を有するガラス材料で成形されているが、透光性を有しない材料で成形されていてもよい。その場合、位置決め手段122は、押え部材130に押え部材側マーカ125を印刷形成する代わりに、図11(c)のように、基板側マーカ124、アクチュエータ側マーカ123よりやや大きい直径を有する位置決め開口部126を押え部材130に貫通形成させ、基板側マーカ124を透光性を有する基材81を介して露出させてやることで、3者が位置決めして積層させることができる。なお、透光性を有しない材料で形成されている場合は、押え部材130を補強部材として使用する場合には、その接着には紫外線硬化型接着剤ではなく、常温または熱硬化型の接着剤を使用する。
【0088】
また、上述してきた配線基板8と圧電アクチュエータ3との接合は、ハンダによるバンプ電極を形成した接合が行なわれてきたが、ハンダバンプの替わりに、Ag,Cu,Au,Ni等、導電性フィラーやその粒子を含んだ導電性接着剤を使用して接合することもできる。その場合、基板側共通電極用端子91aおよび基板側個別電極用端子92aに導電性接着剤ペーストをマスク印刷して、配線基板8と圧電アクチュエータ3と押え部材130を位置決め積層後、各電極91a、92aに対してレーザ光を上記した方法で直接照射し、導電性接着剤を加熱硬化し、各電極91aと61および、各電極92aと62を電気的機械的に接合するように構成してもよい。
【0089】
なお、以上に説明のインクジェットヘッド装置においては、配線基板8は、貫通孔81bを介してレーザ光を照射してアクチュエータ4と接合した後も、その貫通孔81bから基板側共通電極用端子91a及び基板側個別電極用端子92aが外側に露出された状態のままとなる。このようなインクジェットヘッド装置は、図2のように補強フレーム101にとりつけられ、キャリッジに塔載されるため、貫通孔81bが露出された状態でインク漏れ等が起こった場合、電極がショートを起こして吐出不能とさせる可能性がある。そのため、その貫通孔81bに、エポキシ系等の非導電性接着剤などを充填させることが好ましい。インクジェットヘッド装置が、穿設孔130aが形成された押え部材130が補強部材として配線基板8に接着されている場合においても、穿設孔130aおよび貫通孔81bを介して各電極91a、92aが露出されている状態にあるため、同様に非導電性接着剤などで充填させておくのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る実施形態のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図2】インクジェットヘッドと共にキャリッジに搭載される部品の分解斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿って切断してみたインクジェットヘッドの部分断面図である。
【図4】圧電アクチュエータ及び配線基板の一部を分解した分解斜視図である。
【図5】図4のV−V線に沿って切断したインクジェットヘッドの部分断面図である。
【図6】図3のVI−VI線に沿って切断したインクジェットヘッドの部分断面図である。
【図7】図3のVII−VII線に沿って切断したインクジェットヘッドの部分断面図である。
【図8】配線基板8の底面図である。
【図9】ヘッドユニットと配線基板とを接合する際の手順を示すフローチャートである。
【図10】ヘッドユニットと配線基板とを接合する際の手順を示すために図3のVII−VII線で切断して示した断面図である。
【図11】(a)は、位置決め手段近傍を拡大して示す断面図であり、(b)は、位置決め手段近傍を拡大して示す平面図であり、(c)は、別の形態の位置決め手段近傍を拡大して示す断面図であり、(d)はその平面図である。
【図12】金、銀及び銅の光の吸光率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 インクジェットヘッド装置
2 流路ユニット
4 圧電アクチュエータ
6 ヘッドユニット
8 配線基板
53 活性部
61 共通電極用端子
62 個別電極用端子
71 共通電極用バンプ
72 個別電極用バンプ
81 基板
81b貫通孔
82 被覆膜
82a 除去部
91 基板側共通電極用配線
91a 基板側共通電極用端子
92 基板側個別電極用配線
92a 基板側個別電極用端子
122 位置決め手段
123 アクチュエータ側マーカ
124 基板側マーカ
125 押え部材側マーカ
130 押え部材
130a 穿設孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する基板と、
前記基板の表側面に敷設されている配線と、
前記配線に電気的に接続するように前記基板の表側面に配設された配線基板側電極と、
絶縁性を有し、前記配線を覆うように前記基板の表側面に積層された被覆膜と、
溶融可能であって、前記配線基板側電極に電気的に接続されている導電性接続部材とを備え、
前記被覆膜は、前記配線基板側電極の一表面が表出するように前記配線基板側電極に対応する部分が除去して形成された除去部を有し、
前記導電性接続部材は、前記除去部において、その一部が前記被覆膜から突出するように前記配線基板側電極の一表面に設けられており、
前記基板は、前記配線基板側電極に対応する位置に前記基板を貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔によって前記配線基板側電極の裏側面が表出し、この表出した裏側面に貫通孔を通じてレーザ光を直接照射できるように構成されていることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記基板は、可撓性を有するフレキシブル基板であり、
前記導電性接続部材は、前記基板の表側面側に設けられており、
前記基板の貫通孔は、前記基板の裏側面側で開口しており、
前記基板の裏側面には、押え部材が取り付けられ、
前記押え部材は、前記基板より剛性が高い材料から成り、前記基板の貫通孔に対応する位置に穿設孔を有することを特徴とする請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記導電性接続部材は、前記被覆膜の基板に対向する面と反対側の面より突出するように配線基板側電極に設けられたバンプであることを特徴とする請求項1又は2に記載の配線基板。
【請求項4】
前記押え部材は、少なくとも紫外線を透過する透光性樹脂から成り、
前記押え部材と基板との間には、紫外線を照射することで接着可能な紫外線硬化型接着剤が介在していることを特徴とする請求項2又は3に記載の配線基板。
【請求項5】
前記押え部材と基板との間には、熱を加えることで接着可能な熱硬化型接着剤が介在していることを特徴とする請求項2又は3に記載の配線基板。
【請求項6】
前記基板及び前記押え部材は、互いの位置を合わせるための配線基板用位置合わせ手段を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1つに記載の配線基板。
【請求項7】
液体を吐出可能な複数のノズル及び前記複数のノズルにそれぞれ連通している複数の圧力室を備える吐出ヘッドと、
前記複数の圧力室毎に対応付けて配置された複数のアクチュエータ電極に、前記複数のアクチュエータ電極に対し選択的に駆動電圧を伝送する駆動装置が駆動電圧を選択的に印加すると、印加された前記アクチュエータ電極に対応付けられている前記圧力室に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を吐出させる活性部を備えるアクチュエータと、
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の配線基板とを備え、
前記配線基板は、前記複数のアクチュエータ電極の各々に対応するように複数の配線基板側電極を有し、前記複数の配線基板側電極の各々に導電性接続部材が設けられており、
前記配線基板の配線は、前記駆動装置に電気的に接続されており、
前記導電性接続部材は、前記各アクチュエータ電極に対応付けられて電気的に接続されたバンプであり、
前記アクチュエータ電極は、その外形寸法が前記配線基板側電極の外形寸法より大きく形成されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
前記配線基板及び前記アクチュエータは、互いの相対位置を合わせるための液体吐出装置用位置合わせ手段を有することを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
駆動装置から伝送される駆動電圧が印加されると液体を吐出するヘッドユニットと、前記駆動電圧を駆動装置からヘッドユニットに伝送する配線基板とを接合する接合方法において、
前記ヘッドユニットは、
圧力室に圧力変動が生じるとノズルから液体を吐出する吐出ヘッドと、
アクチュエータ電極に駆動電圧が印加されると前記圧力室に圧力変動を生じさせるアクチュエータとを備え、
前記配線基板は、
絶縁性を有する基板と、
前記駆動装置に電気的に接続されて、前記基板の表側面に敷設されている複数の配線と、
前記配線に電気的に接続するように前記基板の表側面に配設された配線基板側電極と、
絶縁性を有し、前記配線を覆うように前記基板の表側面に積層された被覆膜と、
溶融可能であって、前記配線基板側電極に電気的に接続されているバンプとを備え、
前記被覆膜は、前記配線基板側電極の一表面が表出するように前記配線基板側電極に対応する部分が除去して形成された除去部を有し、
前記被覆膜は、前記配線基板側電極に対応する部分が除去されて、前記配線基板側電極の一表面が表出するように前記基板の表側面に積層されており、
前記バンプは、前記被覆膜から突出するように前記配線基板側電極の一表面に設けられており、
前記基板は、配線基板側電極に対応する位置に基板を貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔によって前記配線基板側電極の裏側面が表出し、この表出した裏側面に貫通孔を通じてレーザ光を直接照射できるように構成されており、
前記バンプが前記アクチュエータ電極に当接するように配線基板とヘッドユニットとを位置決めする位置決め工程と、
前記貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって、前記レーザ光を前記配線基板側電極に直接照射して前記バンプを溶融し、このバンプを前記アクチュエータ側電極に溶着させる接合工程とを有することを特徴とするヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。
【請求項10】
前記レーザ光は、その波長が550nm以下であることを特徴とする請求項9に記載のヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。
【請求項11】
前記レーザ光は、その波長が360nm以下であることを特徴とする請求項9に記載のヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。
【請求項12】
前記アクチュエータ側電極は、その外形寸法が前記配線基板側電極の外形寸法より大きく形成されていることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1つに記載のヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。
【請求項13】
前記配線基板において、
前記基板は、可撓性を有するフレキシブル基板であり、
前記バンプは、前記基板の表側面側に設けられており、
前記基板の貫通孔は、前記基板の裏側面側で開口しており、
前記基板の裏側面には、押え部材が取り付けられ、
前記押え部材は、前記基板より剛性が高い材料から成り、前記基板の貫通孔に対応する位置に穿設孔を有しており、
前記位置決め工程の後であって、前記接合工程の前に前記押え部材を前記配線基板に取り付ける取付工程をさらに有し、
前記接合工程では、前記基板及び押え部材の貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって前記レーザ光を前記配線基板側電極に直接照射することを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1つに記載のヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。
【請求項14】
前記押え部材は、少なくとも紫外線を透過する透光製樹脂から成り、
前記押え部材と基板との間には、紫外線を照射することで接着可能な紫外線硬化型接着剤が介在しており、
前記溶着工程で用いられるレーザ光は、紫外線であり、
前記溶着工程では、前記基板及び押え部材の貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって前記配線基板側電極に前記レーザ光を直接照射すると共に、前記押え部材を介して前記レーザ光を前記紫外線硬化型接着剤にも照射し、前記押え部材と前記基板とを接着することを特徴とする請求項13に記載のヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。
【請求項15】
前記押え部材と前記基板との間には、熱を加えることで接着可能な熱硬化型接着剤が介在しており、
前記溶着工程では、前記基板及び押え部材の貫通孔に光源から発射されたレーザ光を通すことによって前記配線基板側電極に前記レーザ光を直接照射すると共に、前記レーザ光を押え部材にも照射して前記押え部材を加熱し、前記押え部材と前記基板とを接着することを特徴とする請求項13に記載のヘッドユニットと配線基板とを接合する接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−81152(P2009−81152A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246994(P2007−246994)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】