説明

配線形成方法および配線形成装置

【課題】表面形状および/または伝熱特性が一様でない基板でも、基板上に形成された塗布層の任意の部位に均一なレーザ光の照射スポットを形成でき、かつ熱エネルギの制御を行える配線形成方法および配線形成装置を提供すること。
【解決手段】表面の形状および/または特性が一様でない基板1上に、導電性微粒子を含有する分散溶液を塗布して塗布層3を形成する工程と、基板1表面の各位置における形状および/または特性を示す基板属性情報に基づいて、レーザ光6を塗布層3の配線形成領域に連続的に供給して、導電性微細配線4を形成する工程と、塗布層3中の導電性微細配線4以外の領域の材料を除去する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元表面形状を有する基板上に、レーザ光などを用いて導電性微細配線を形成する配線形成方法および配線形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子デバイス製造における基板上に微細な導電性配線を形成する方法として、銀や銅などの導電膜をスパッタリング、真空蒸着、無電解めっき等により全面に成膜した後、フォトリソグラフィ法により所望の配線にエッチングする方法や、マスクを通して無電解めっきや真空蒸着により所望の導電性配線を形成する方法、はんだや導電ペーストを用いて基板上に直接描画する方法等が知られている。しかし、上述のプロセスでは、装置が大型化してしまったり、手間のかかる工程が必要であったり、解像度が不足していたりなどの諸問題があり、簡便な方法で、かつ高精細な導電性微細配線を形成できる方法が望まれている。
【0003】
一方、粒子直径サイズが1〜数百nmである極微粒子(以下、ナノ粒子という)は、量子サイズ効果などの特有な効果を発現する機能材として、近年その開発が脚光を浴びており、ナノ粒子を含有したインク材料を用いて導電性微細配線を形成する技術開発も行われている。ナノ粒子材料を利用して、例えば、インクジェット法やスクリーン印刷法などによる導電性微細配線形成方法なども各種提案されているが、配線の微細化や、位置精度などの問題によって、線幅が10μm程度の極微細配線領域になってくると配線形成が困難となってきていた。
【0004】
また、同じくナノ粒子材料を用いて、塗布工法とレーザ加熱方法を組み合わせた導電性微細配線を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、まずセラミックス、ガラス、ポリイミド等の絶縁性基板上に、導電性のナノ粒子を適当な溶媒中に分散させた導電性ナノ粒子分散溶液を塗布して塗布層を形成した後、レーザ光等の加熱源を用いて塗布層を局所的に加熱することでナノ粒子を溶融し、相互に結合させて、導電性微細配線を形成している。
【特許文献1】特開2006−59942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した(特許文献1)に記載の工法は、基本的に、平坦な表面形状である基板を対象にしたものであるが、同工法を拡張して、3次元表面形状を有する基板にも導電性微細配線が形成可能であるとしている。しかし、単純にレーザ光を照射するだけでは10μm以下の極微細配線領域における配線形成の熱エネルギの制御は難しく、均一な微細配線を形成するのは困難である。
【0006】
具体的には、配線の微細化を求めようとすると、塗布層でのレーザ光の照射面積を極小形状にしていく必要がある。このためには、レーザ光源自体のサイズ、形状や、コリメートレンズ、アパーチャ、プリズム、集光レンズなどの各種光学部品の収差などの影響を最小限にするような工夫が必要である。さらには、表面形状が3次元構造を有するような基板を用いる場合には、基板上の塗布層にレーザ光を集光させるための集光レンズの焦点位置を、基板表面位置に正確に合わせることが最重要となる。しかし、上記(特許文献1)には、これらの均一な微細配線を形成する際の重要な点については開示されておらず、実質的に、3次元表面形状を有する基板に均一な導電性微細配線を形成することは困難である。
【0007】
ところで、導電性微細配線の形成は、本質的にナノ粒子の熱化学反応、光化学反応に基づくものである。具体的には、塗布層にレーザ光を照射すると、吸収により主に熱エネルギに変換され、この熱エネルギによって、塗布層に含有されるナノ粒子が溶融し、相互に結合して金属状態を形成することで高い導電性を示す配線となる。しかしながら、塗布層で有効に作用する熱エネルギ量が不足してしまうと配線の抵抗率が高くなってしまったり、下地である基板との密着強度が不足したりすることになる。また、レーザ光照射によって塗布層に加えられた熱エネルギの一部は、上述のナノ粒子の溶融、結合に寄与することなく、基板への熱拡散によって逃げていってしまうという熱エネルギのロスに対する考慮も必要である。要するに、レーザ光照射部位の伝熱特性を考慮に入れた熱エネルギの制御が不可欠である。
【0008】
従って、均質な導電性微細配線を得るためには、基板表面上に常に均一なレーザ光の微小照射スポットを形成しつつ、塗布層において有効に作用する熱エネルギが均一になるような制御が必要不可欠である。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、3次元構造の表面形状を有したり、または伝熱特性が異なる部分を有したりする基板であっても、解像度の高い導電性微細配線を形成することができる配線形成方法および配線形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の配線形成方法は、3次元表面形状を有する基板上に、導電性微粒子を含有する分散溶液を塗布して塗布層を形成する工程と、前記基板表面の3次元位置情報に基づいて、熱エネルギを前記塗布層のある特定領域に連続的に供給していくことで、導電性微細配線を形成していく工程と、前記導電性微細配線以外の領域の材料を除去する工程を含むことで、簡便な方法で高精細な導電性微細配線を形成したものである。
【0011】
また、本発明の配線形成装置は、基板保持手段と、熱エネルギ供給手段と、基板保持手段および/または熱エネルギ供給手段を相対的に移動させる駆動手段と、配線形成領域上の基板の形状および/または特性を示す基板属性情報を用いて、配線形成領域上に均一な密度の熱エネルギを供給するための基板保持手段と熱エネルギ供給手段との間の位置関係、熱エネルギ供給手段の基板保持手段に対する移動速度、および熱エネルギ供給手段から供給される熱エネルギ量を演算する演算手段と、演算手段によって演算された位置関係と移動速度に基づいて駆動手段を制御し、基板保持手段および/または熱エネルギ供給手段の位置を変化させる駆動制御手段と、演算手段によって演算された熱エネルギ量に基づいて熱エネルギ供給手段からの熱エネルギの供給量を制御する熱エネルギ供給制御手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、3次元構造の表面形状を有したり、または伝熱特性が異なる部分を有したりするような基板上に形成された導電性微粒子を含有する塗布層に有効に作用する熱エネルギが常に均一になるように、供給しながらスキャンすることができ、解像度の高い導電性微細配線を形成することのできる画像形成方法および画像形成装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明の配線形成方法は、表面の形状および/または特性が一様でない基板上に、導電性微粒子を含有する分散溶液を塗布して塗布層を形成する第1の工程と、基板表面の各位置における形状および/または特性を示す基板属性情報に基づいて、熱エネルギを塗布層の配線形成領域に連続的に供給して、導電性微細配線を形成する第2の工程と、塗布層中の導電性微細配線以外の領域の材料を除去する第3の工程と、を含むものであり、熱エネルギを供給する位置の基板表面の形状および/または特性に応じて、熱エネルギの供給を制御することができるという作用を有する。
【0014】
第2の発明の配線形成方法は、上記の発明において、熱エネルギは、レーザ光源から出射されるレーザ光であり、レーザ光源と基板との間に、レーザ光を集光、照射する集光レンズを含む照射光学系が配置され、第2の工程では、レーザ光を照射光学系によって配線形成領域に照射しながらスキャンするものであり、配線形成領域に効果的に熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0015】
第3の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板属性情報は、基板の各位置における表面形状を示す3次元表面形状情報であり、第2の工程では、3次元表面形状情報に従って、集光レンズによるレーザ光の集光位置が塗布層となるように制御を行うものであり、3次元形状を有する基板表面に形成された塗布層であっても、塗布層に導電性微粒子が溶融可能な熱エネルギを与えることができるようにレーザ光を照射することができるという作用を有する。
【0016】
第4の発明の配線形成方法は、上記の発明において、集光レンズの位置によってレーザ光の集光位置の制御を行うものであり、基板表面の3次元形状にかかわらず、レーザ光の集光位置を塗布層に合わせることができるという作用を有する。
【0017】
第5の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板の位置によってレーザ光の集光位置の制御を行うものであり、基板表面の3次元形状にかかわらず、レーザ光の集光位置を塗布層に合わせることができるという作用を有する。
【0018】
第6の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板属性情報は、基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報であり、第2の工程では、伝熱特性情報に従って、レーザ光のスキャン速度の制御を行うものであり、基板表面の伝熱特性にかかわらず、塗布層に所定の熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0019】
第7の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板属性情報は、基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報であり、第2の工程では、伝熱特性情報に従って、レーザ光源の出力を制御するものであり、基板表面の伝熱特性にかかわらず、塗布層に所定の熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0020】
第8の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板属性情報は、基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報をさらに含み、第2の工程では、レーザ光の集光位置の制御に加えて、伝熱特性情報に従って、レーザ光のスキャン速度の制御を行うものであり、基板表面の3次元形状にかかわらず、レーザ光の集光位置を塗布層に合わせるとともに、基板表面の伝熱特性にかかわらず、塗布層に所定の熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0021】
第9の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板属性情報は、基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報をさらに含み、第2の工程では、レーザ光の集光位置の制御に加えて、伝熱特性情報に従って、レーザ光源の出力を制御するものであり、基板表面の3次元形状にかかわらず、レーザ光の集光位置を塗布層に合わせるとともに、基板表面の伝熱特性にかかわらず、塗布層に所定の熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0022】
第10の発明の配線形成方法は、上記の発明において、レーザ光源は、複数設けられるものであり、出力の低いレーザ光源でも複数組み合わせることができるという作用を有する。
【0023】
第11の発明の配線形成方法は、上記の発明において、照射光学系は、レーザ光源に対応して複数設けられるものであり、同時に異なる複数の配線形成領域にレーザ光を照射することができるという作用を有する。
【0024】
第12の発明の配線形成方法は、上記の発明において、照射光学系は、複数設けられ、第2の工程では、1つのレーザ光源から出射されるレーザ光を複数の集光レンズに分光し、分光される複数のレーザ光を塗布層上に同時に照射しながらスキャンするものであり、出力の大きなレーザ光源からのレーザ光を分光して、同時に異なる複数の配線形成領域にレーザ光を照射することができるという作用を有する。
【0025】
第13の発明の配線形成方法は、上記の発明において、第2の工程では、塗布層の配線形成領域に、レーザ光の照射スキャンを複数回行うものであり、出力の小さなレーザ光源を用いた場合でも、導電性微粒子が溶融するのに十分な熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0026】
第14の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板は、レーザ光の波長に対して高い透過率を有する基板であり、第2の工程では、塗布層の配線形成領域へのレーザ光の照射スキャンを基板の背面方向から行うものであり、塗布層と基板との間の密着性を高めることができるという作用を有する。
【0027】
第15の発明の配線形成方法は、上記の発明において、基板は、レーザ光の波長に対して高い透過率を有する基板であり、第2の工程では、塗布層の配線形成領域に塗布層側からレーザ光を照射スキャンした後、配線形成領域に、基板の背面方向からレーザ光の照射スキャンを行うものであり、配線形成領域の表面が金属化して、レーザ光の反射率が高まってしまった場合でも、効果的に熱エネルギを配線形成領域に供給することができるという作用を有する。
【0028】
第16の発明の配線形成装置は、形状および/または特性が一様でない基板上に形成された導電性微粒子を含有する塗布層に熱エネルギを供給して、導電性微細配線を形成する配線形成装置であって、基板を保持する基板保持手段と、基板に対して熱エネルギを供給する熱エネルギ供給手段と、基板保持手段および/または熱エネルギ供給手段を相対的に移動させる駆動手段と、配線形成領域上の基板の形状および/または特性を示す基板属性情報を用いて、配線形成領域上に均一な密度の熱エネルギを供給するための基板保持手段と熱エネルギ供給手段との間の位置関係、熱エネルギ供給手段の基板保持手段に対する移動速度、および熱エネルギ供給手段から供給される熱エネルギ量を演算する演算手段と、演算手段によって演算された位置関係と移動速度に基づいて駆動手段を制御する駆動制御手段と、演算手段によって演算された熱エネルギ量に基づいて熱エネルギ供給手段からの熱エネルギの供給量を制御する熱エネルギ供給制御手段と、を備えるものであり、熱エネルギを供給する位置の基板表面の形状および/または特性に応じて、熱エネルギの供給を制御することができるという作用を有する。
【0029】
第17の発明の配線形成装置は、上記の発明において、熱エネルギ供給手段は、レーザ光源と、レーザ光源から出射されるレーザ光を基板上に集光する集光レンズを含む照射光学系と、を備え、熱エネルギ供給制御手段は、集光レンズの位置を制御してレーザ光の集光状態を制御する集光レンズ位置制御機能を備えるものであり、集光レンズの位置を制御することによってレーザ光の集光位置を塗布層へと制御することができるという作用を有する。
【0030】
第18の発明の配線形成装置は、上記の発明において、熱エネルギ供給制御手段は、レーザ光源の出力を制御するレーザ光出力制御機能をさらに備えるものであり、レーザ光の出力を制御することによって、塗布層への熱エネルギの供給を効果的に行うことができるという作用を有する。
【0031】
第19の発明の配線形成装置は、上記の発明において、レーザ光源と照射光学系は、基板上の異なる複数の配線形成領域上に同時にレーザ光を照射することができるように複数備えられるものであり、同時に異なる複数の配線形成領域を形成することができるという作用を有する。
【0032】
第20の発明の配線形成装置は、上記の発明において、1つのレーザ光源に対して、基板上の異なる複数の配線形成領域上に同時にレーザ光を照射することができるように複数の照射光学系が設けられるものであり、出力の大きなレーザ光源からのレーザ光を分光して、同時に異なる複数の配線形成領域にレーザ光を照射することができるという作用を有する。
【0033】
第21の発明の配線形成装置は、上記の発明において、基板属性情報は、基板表面の各位置における表面形状を示す3次元表面形状情報であり、演算手段は、配線形成領域上の3次元表面形状情報に従って、位置関係と移動速度を演算するものであり、基板表面の3次元形状に応じて塗布層にレーザ光を集光することができるとともに、効果的に塗布層に熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0034】
第22の発明の配線形成装置は、上記の発明において、基板属性情報は、基板表面の各位置における伝熱特性を示す伝熱特性情報であり、演算手段は、配線形成領域上の伝熱特性情報に従って、移動速度と熱エネルギ量を演算するものであり、基板表面の伝熱特性に応じて、効果的に塗布層に熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0035】
第23の発明の配線形成装置は、上記の発明において、基板属性情報は、基板表面の各位置における表面形状を示す3次元表面形状情報と、伝熱特性を示す伝熱特性情報と、を含み、演算手段は、配線形成領域上の3次元表面形状情報と伝熱特性情報に従って、位置関係、移動速度および熱エネルギ量を演算するものであり、基板表面の3次元形状と伝熱特性に応じて塗布層にレーザ光を集光することができるとともに、効果的に塗布層に熱エネルギを供給することができるという作用を有する。
【0036】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0037】
(実施の形態)
本発明の配線、より具体的には導電性微細配線の形成方法は、導電性のナノ粒子(特許請求の範囲における導電性微粒子に対応する)を含有する導電性ナノ粒子分散溶液を用いることを特徴とする。一般的に、導電性を示す金属または複合金属の物性値は、バルク材料とナノ粒子とでは大きく異なることが知られている。例えば、銀ナノインク等と呼ばれる導電性ナノ粒子分散溶液中に含まれる銀(Ag)のナノ粒子の平均粒子径は5〜10nm程度と非常に小さい。このため粒子表面の格子歪みが通常の銀のバルク材料と比べて大きく、それゆえ各種特徴が現れてくる。例えば、融点(厳密には、溶融する状態と定義できないかもしれないが)で比較すると、銀のバルク材料の融点は約900℃であるのに対して、銀のナノ粒子では200℃以下で溶融状態となるものもある。一方、銀のナノ粒子が溶融した状態での比抵抗値は、バルク材料と比べて、同程度もしくは若干劣る程度の比抵抗値が得られる。そこで、バルク材料の融点である900℃の領域では、例えば樹脂材料等を基板として用いることはできないが、200℃程度であれば、耐熱温度の高い樹脂材料、例えばポリイミドなどの樹脂材料を基板として利用することが可能となる。
【0038】
さらに具体的には、上記導電性ナノ粒子は、20℃における比抵抗値が20μΩ・cm以下(好ましくは10μΩ・cm以下)である金属または複合金属材料であることが望ましい。このような条件を満足する金属としては、Au,Ag,Cu,Zn,Cd,Al,In,Tl,Sn,Co,Niなどが挙げられる。これらの中でもAu,Ag,Cu,Al,Zn,SnおよびInが比抵抗値および融点がより低いので好ましい。
【0039】
また、導電性ナノ粒子が複合金属からなる場合、Au,Ag,Cu,Al,Zn,SnおよびInの少なくとも1種を含有する複合金属を用いるのが好ましい。かかる複合金属としては、Cu−Zn,Cu−Sn,Al−Cu,Cu−Sn−Pd,Cu−Ni,Au−Ag−Cu,Au−Zn,Au−Ni,Ag−Cu−Zn,Ag−Cu−Zn−Sn,Sn−Pb,Ag−In,Cu−Ag−Ni,Ag−Pd,Ag−Cuなどが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。複合金属中の各金属の組成比については特に制限はなく、種々選択できる。
【0040】
さらに、金属および複合金属は不純物元素を含んでいてもよいが、その量は1%未満であることが好ましい。不純物元素としては、Fe,Cr,W,Sb,Bi,Pd,Rh,Ru,Ptなどの金属、また金属以外にも、P,B,C,N,Sなどの非金属、Na,Kなどのアルカリ金属、およびMg,Caなどのアルカリ土類金属が挙げられる。これらの不純物元素は、1種もしくは2種以上含有されていてもよい。
【0041】
本発明で用いる導電性ナノ粒子分散溶液は、上記の金属または複合金属のナノ粒子を製造した後、適当な溶媒に分散させることによって調製することができる。例えば、上記金属または複合金属のナノ粒子を得る方法としては、原料固体をルツボに入れ、高周波誘導加熱方式により加熱して金属蒸気を発生させ、He,Arなどのガス分子との衝突によって急冷させてナノ粒子化するガス中蒸発法などの乾式法や、金属塩の溶液にNaBH4等の無機還元剤、ヒドラジン系、アミン系もしくはジオール系化合物等の有機還元剤などを作用させ、または酸化還元電位がより卑な金属(例えばMgなど)または低原子価の金属塩を作用させることによって得られる溶液還元法などの湿式法などがある。この様にして得られた金属または複合金属のナノ粒子を適当な溶媒に分散させて導電性ナノ粒子分散溶液を調製することができる。分散液としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶媒が利用可能であるが、これに限定されるものではなく、ナノ粒子の分散性、安定性が確保でき、かつ後処理で扱いやすく、100℃程度の低温沸点を有するものであればよい。なお、この様にして調製した導電性ナノ粒子分散溶液をそのまま塗布液として用いてもよいし、例えば、粘度調整のために濃縮、脱塩、精製、希釈等の種々の処理を施した後に塗布液として用いてもよい。
【0042】
塗布層を形成する基板としては、石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスなどのガラス材料;サファイア(Al23)、MgO,BeO,ZrO2,Y23,ThO2,CaO,GGG(Gadolinium Gallium Garnet)等の無機材料;ポリカーボネート;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;ポリアリレート;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;ポリイミド;フッ素樹脂;フェノキシ樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ナイロン;スチレン系樹脂;ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂;金属等を挙げることができ、所望によりそれらを複合させたり、積層させたりしたものなど併用したものを用いてもよい。
【0043】
上述した導電性ナノ粒子分散溶液を用いて塗布層を基板上に形成する。形成される塗布層としては、ある程度の均一な膜厚であればよい。一般的には、スピンコート塗布法などの簡便な方法により比較的均一な薄膜層を形成できるものであり、本発明の対象の1つである伝熱特性の異なる領域を有する表面形状が平坦な基板の場合には有効であるが、本発明の対象の1つである3次元表面形状を有する基板の場合には、その表面に均一なナノ粒子層が形成されることが要求されるため、適当な方法ではない。従って、基板形状の影響をあまり受けず、比較的均一な薄膜を形成することができる簡便な塗布方法としてディッピング法が望ましい。しかし、上述したような用件を満たすような塗布法であればよく、特にディッピング法に限定するものではなく、例えばスプレイ塗布工法なども適当な工法である。
【0044】
なお、基板と塗布層との間に、基板表面の平面性の改善、後述するプロセスを経て形成される導電性微細配線と基板との密着力の向上などの目的で、下地層が設けられていてもよい。該下地層の材料としては、基板と塗布層との密着性に優れている材料が好ましく、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等の高分子物質;熱硬化性または光・電子線硬化樹脂;およびカップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤など)などの表面改質剤;コロイダルシリカ等が好ましい。この下地層の形成方法としては、塗布層の形成方法と同様にディッピング塗布法などが適当である。
【0045】
つぎに、このように基板上に形成した塗布層の配線形成領域にレーザ光を照射して配線パターンを形成する。図1〜図3は、基板上の塗布層にレーザ光を照射する様子を模式的に示す図であり、図1は、本実施の形態による基板表面に凸形状部を有する場合のレーザ光を照射する様子を模式的に示す図であり、図2は、本実施の形態による平坦な基板表面の一部に伝熱特性の異なる領域を有する場合のレーザ光を照射する様子を模式的に示す図であり、図3は、本実施の形態による基板の裏側からレーザ光を照射する様子を模式的に示す図である。また、図4は、本実施の形態による配線形成装置の制御ブロック図である。
【0046】
図1〜図3において、1は3次元表面形状を有する基板、2は基板1上の凸形状部、3は導電性ナノ粒子分散溶液の塗布層(以下、塗布層という)、4は塗布層3のうちレーザ光照射によって形成された導電性微細配線、5はレーザ光を微小スポットに絞り込むための集光レンズ、6はレーザ光、7は基板1と同様な平坦な形状であるが伝熱特性が異なる部分である。なお、図示していないが基板1は基板保持手段に保持されている。
【0047】
また、図4において、10はレーザ光源、11はレーザ光源10からの出射光を基板1(塗布層3)上に集光させるために集光レンズ位置を可変する集光レンズアクチュエータ、12はレーザ光源10と集光レンズ5と集光レンズアクチュエータ11を含む照射光源ユニットを2次元平面上で移動可能とするXYステージアクチュエータ、13はレーザ光源10の出力を可変するためのレーザ駆動電流制御部、14はXYステージアクチュエータ12を駆動するためのXYステージ位置制御部、15は集光レンズアクチュエータ11を駆動するための集光レンズ位置制御部、16は基板1の3次元表面形状データを格納する3次元表面形状データ格納部、17は基板1の伝熱特性データを格納する伝熱特性データ格納部、18は基板1の3次元表面形状データ格納部16と伝熱特性データ格納部17に基づいて、集光レンズ5の位置データ、XYステージの位置データや移動速度、レーザ光源1の駆動電流データを算出する演算部である。なお、ここで、基板1の表面(または基板保持部材の基板保持面)内の互いに直交する2つの方向をX軸およびY軸としている。
【0048】
ここで、レーザ光源10と集光レンズアクチュエータ11は、特許請求の範囲における熱エネルギ供給手段に対応し、XYステージアクチュエータ12は、同じく駆動手段に対応し、XYステージ位置制御部14は、同じく駆動制御手段に対応し、レーザ駆動電流制御部13と集光レンズ位置制御部15は、同じく熱エネルギ供給制御手段に対応し、演算部18は、同じく演算手段に対応している。また、3次元表面形状データ格納部16に格納されている3次元表面形状データは、同じく3次元表面形状情報に対応し、伝熱特性データ格納部17に格納されている伝熱特性データは、同じく伝熱特性情報に対応し、これらの3次元表面形状情報と伝熱特性情報を合わせたものが、同じく基板属性情報に対応している。
【0049】
図1〜図3に示されるように、上述の導電性ナノ粒子を含有する塗布層3の配線を形成する配線形成領域に対してレーザ光6を照射、スキャンしていくことで、微細な配線を形成していく。塗布層3に照射されたレーザ光6のうち、大部分は塗布層3または基板1により吸収され発熱する。その熱により、導電性ナノ粒子の表面を修飾している、吸着性化合物(分散剤)または界面活性剤等の有機化合物が分解し、その結果、ナノ粒子自体の分散性が低下するのと同時に、ナノ粒子特有の表面エネルギの効果が発現することで溶融し、相互に結合するような変化が得られる。従って、上述した塗布層3にレーザ光6を照射、スキャンしていくことで、導電性ナノ粒子を連続的に溶融し、相互に結合することができ、所望の導電性微細配線を形成することができる。
【0050】
なお、ここでは基板1、塗布層3に対して、XYステージアクチュエータ12によってレーザ光源10を移動制御する場合を説明したが、もちろん、両者が相対的に変位すればよいのであって、基板1(基板保持手段)を移動制御させてもよい。
【0051】
ここで、本発明に用いられるレーザ光6の波長は、塗布層3、基板1で吸収、発熱するものであれば、紫外光から赤外光まで任意のものを選択することができる。代表的なレーザとしては、AlGaAs,InGaAsP,GaN系などの半導体レーザ、Nd:YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、ArF,KrF,XeClなどのエキシマレーザ、色素レーザ、ルビーレーザなどの固体レーザ、He−Ne,He−Xe,He−Cd,CO2,Arなどの気体レーザ、自由電子レーザなどが挙げられる。また、これらのレーザの第二高調波、第三高調波などの高次高調波を利用してもよい。さらに、これらのレーザは、連続で照射しても、パルスで複数回照射してもよい。
【0052】
さらに、上述したように低温度でも微細配線が形成可能な導電性ナノ粒子で塗布層3を形成しているため、比較的低出力の半導体レーザも利用可能である。このような低出力の半導体レーザは、制御性の面からみても望ましいものである。また、低出力のレーザ光源10を複数用いて、各レーザ光源10から出射されるレーザ光6を光学系により1つのレーザ光6に重ね合わせてもよい。この場合、多少光学系が複雑になるものの、低出力のレーザ光源10を使える利点がある。
【0053】
レーザ光源10に必要な照射エネルギは、導電性ナノ粒子の種類、サイズ、塗布層3の厚みなどに依存しているため一概には言えないが、導電性ナノ粒子が実質的にアブレーションせずに、溶融するようなエネルギとしなければならない。また、複数のレーザ光源10と複数の光学系を用いると、それぞれの光学系の相対位置制御や、集光レンズ位置の独立制御などシステム構成が複雑になってくるが、上述したものと同様のプロセスを用いて、複数の導電性微細配線を同時に形成できるため、生産性が高くなるという効果を有する。なお、複数のレーザ光源10を用いるのではなく、1つのレーザ光源10から出力されるレーザ光6を分光して、複数の集光レンズ5を含む光学系を用いても、上述と同様に複数の導電性微細配線を同時に形成できる。しかし、この場合には、レーザ光源10が1つで済むという利点はあるものの、1つのレーザ光源10に頼ることになるので高出力タイプのレーザ光源10が必要となり、またレーザ光源10自身の出力制御によって、各光学系への光出力を個別に制御できないため、各光学系の中で減衰率を独立に制御できる可変フィルタのようなものを用いる必要がある。
【0054】
また、図1〜図3をみてもわかるように、導電性微細配線4の線幅は、塗布層3へのレーザ光6の照射スポットのサイズ、形状によって決まってくる。当然、より細い配線を形成する場合には、集光レンズ5によりレーザ光6を微小スポットに集光する必要がある。しかしながら、本質的に導電性微細配線4の形成は、レーザ光照射による熱エネルギ変化であるから、熱制御が重要である。配線形成に寄与する熱エネルギは、レーザ光照射によって投入される熱エネルギから、塗布層3以外へ伝導して逃げてしまう熱エネルギを差し引いたものである。さらには、導電性微細配線4を形成するために基板1に対してレーザ光6を照射、スキャンしていくので、このスキャン速度によって塗布層3のある部位に投入される熱エネルギは変わってくる。つまり、レーザ光照射によって配線を形成するために必要な熱エネルギを確保するためには、塗布層3以外へ逃げてしまう熱エネルギを考慮に入れつつ、レーザ光6の照射強度とスキャン速度を制御する必要がある。
【0055】
一方、巨視的に見れば、塗布層3のある微小箇所において、導電性ナノ粒子が熱エネルギによって溶融し、相互に結合するためには、レーザ光6の総エネルギ量よりも、微小箇所でのエネルギ密度が重要である。ここで、エネルギ密度を決めるものは、レーザ光6の照射強度と照射面積である。つまり、集光レンズ5によって照射面積を小さくすることができれば、レーザ光6の照射強度は低くても導電性微細配線4は形成可能であることを意味している。ただし、上述したように塗布層3以外への放熱による熱エネルギのロスは考慮しなければならない。
【0056】
ここで、レーザ光の照射制御について具体的に説明する。
【0057】
(1)3次元表面形状を有する基板の場合(図1)
本発明の対象の1つとしている図1に示されるような3次元表面形状を有する基板1の場合について説明する。なお、ここでは、図1の凸形状部2は、基板1と同一の材料によって構成されているものとする。基板1の表面形状に従って、その上の塗布層3も3次元形状を有することになる。その結果、図1の凸形状部2がある部分とない部分とを照射する場合のように、集光レンズ5と塗布層3の幾何光学的な距離が変わってくることになる。これは、塗布層3へのレーザ光6の照射面積が変わってくることを意味しており、その結果、照射されるエネルギ密度も変わってくる。もし、照射面積が2倍になったとすると、その微小箇所におけるエネルギ密度は半分になってしまうため、ナノ粒子が溶融し、相互に結合するのに必要な熱エネルギ閾値を下回ってしまう可能性がある。
【0058】
従って、本発明の目的である導電性微細配線4を、3次元表面形状を有する基板1上でも均一に形成するためには、塗布層3でのレーザ光6の照射面積が常に均一になるように、集光レンズ位置制御部15は、3次元表面形状データ格納部16に格納されている基板1の3次元表面形状データに基づいて集光レンズ5の位置制御を正確に行う必要がある。
【0059】
さらに具体的には、図1のような凸形状部2を有する基板1上にレーザ光6を照射、スキャンしていく時に、レーザ光6の集光位置が凸形状部2に合うように、基板1の基準位置からのXY平面上のデータを基にして、集光レンズ5の位置制御を、集光レンズ位置制御部15と集光レンズアクチュエータ11によって行わなければならない。ここで、3次元表面形状データ格納部16に格納されている基板1の3次元表面形状データは、事前に準備されているものであり、基板1自体の設計図面から持ってきた座標データ、または基板1自体を別の測定方法で計測したデータを基にしてもよく、基板1のある箇所に記されているマーカを基準として、基板1の表面形状を表す3次元データであればよい。なお、ここでは、集光レンズ5の位置制御を行って、レーザ光の集光制御を行うようにしているが、集光レンズ5の位置制御を行う代わりに、基板1の位置を制御するようにしてもよい。
【0060】
もし、このような補正制御を行わない場合には、図1の基板1の平坦な部分と凸形状部2の部分では、形成される導電性微細配線4の形状の幅や厚みなどが変わってくることになり、さらには配線自体の比抵抗値も均一ではなくなってくるため、電気配線として利用する場合には問題になってしまう。また同様に、塗布層3において受ける熱エネルギに差が生じることになるため、基板に対する密着強度なども問題になってくる。
【0061】
また、一度基板1に対して照射、スキャンを行った位置に、同様な照射、スキャンを複数回行ってもよい。一度照射、スキャンした部位の位置情報データを基に、再度同様にレーザ光6を照射することで、1度の照射、スキャンでは不十分だった熱エネルギを補うことができる。このような場合に、比較的低出力のレーザ光源10を利用できる利点がある。
【0062】
(2)伝熱特性の異なる3次元表面形状を有する基板の場合(図1)
つぎに、図1に示すような凸形状部2が、形状だけではなく伝熱特性も他の基板1部位と異なるような材料によって構成されている場合について説明する。このような場合には、(1)の場合のように集光レンズ5の位置制御だけでは均一な配線を形成することはできない。
【0063】
例えば、凸形状部2を構成する材料が、その他の平坦な基板1部位よりも高い伝熱特性を有している場合には、凸形状部2上の塗布層3に照射された熱エネルギが凸形状部2を介して基板1方向へ逃げていく割合が高くなってしまい、ナノ粒子を溶融状態とするための熱エネルギが不足してしまう可能性が考えられる。この熱エネルギ不足を補うために、レーザ光6の照射強度を強めたり、および/またはスキャン速度を低くしたりするなどの補正制御によって補う必要がある。
【0064】
このような場合には、(1)の場合のような3次元表面形状データ格納部16に格納されている基板1の表面形状を表す3次元表面形状データと合わせて、伝熱特性データ格納部17に格納されている基板1の各部位の伝熱特性データを基にして各制御を行えばよい。例えば、(1)の場合と同様に基板1の基準位置からのXY平面上のデータを基にレーザ光6を照射、スキャンする際に、レーザ駆動電流制御部13は、高い熱伝導率を有する凸形状部2には塗布層3が受ける熱エネルギが基板1上の他の平坦な各部位と同じになるようにレーザ光6の照射強度を強めるような補正制御を行えばよい。
【0065】
(3)伝熱特性の異なる基板表面が平面状の基板の場合(図2)
つぎに、図2に示すように、基板1の表面が平面状であるが、その一部に伝熱特性が異なる部分7を有する基板1の場合には、(1)の場合のような集光レンズ5の位置制御は不要である。しかし、基板1の伝熱特性データに基づいて、レーザ駆動電流制御部13とXYステージ位置制御部14によるレーザ光6の照射強度、スキャン速度制御などを行うことによって、上述した場合と同様に均質な導電性微細配線4を形成することが可能である。
【0066】
(4)レーザ光を基板の下方から照射する場合(図3)
以上の(1)〜(3)では、ターゲットである基板1上方からレーザ光6を照射するような配置で説明したが、図3に示すように基板1の下方からレーザ光6を照射してもよい。この場合には、照射するレーザ光6の波長に対して、基板1自体が十分な透過率を有することが条件になる。このような基板1下方からのレーザ光6の照射によって、基板1と塗布層3との界面から順に加熱処理を行うことができ、密着強度などが改善される。
【0067】
塗布層3が極薄膜の場合ではあまり問題にはならないが、膜厚が厚くなってくるとレーザ光6を照射する方向が、上方からと下方からとでは基板1への密着強度が異なってくる。照射されたレーザ光6は、塗布層3で吸収され、熱エネルギへの変換が行われるが、それによりナノ粒子が溶融し、相互に結合する状態を経て金属状態へ変化しはじめる。塗布層3の一部が金属状態になってしまうと、レーザ光6に対する反射率が上がってしまい、エネルギ利用効率が極端に低下するようになるため、熱変換効率が低下してしまうことになる。
【0068】
さらには、一度基板1に対して照射、スキャンを行った位置に、同様に照射、スキャンを複数回行うようなプロセスを上述したが、2回目以降のレーザ光6の照射、スキャンを基板1の背面方向(塗布層3が形成されていない側の面)から行うこともできる。これは、上述したのと同様に、複数回の照射、スキャンによって熱エネルギを稼ぐことができる利点があることの他に、別の利点も得られる。それは、先に説明済みであるが、レーザ光6の照射によって得られる導電性微細配線4は金属状態である。そのため、ナノ粒子が溶融し、相互に結合することにより多少でも金属化している部分があれば、そこに再度同じ方向からレーザ光6を照射した場合に、金属化している部分の表面の反射によってロスが生じてしまう。そこで、基板1の背面方向からレーザ光6を照射すれば、少なくても表面反射のロスを低減することができる。ただし、この方法の有効性は、ナノ粒子の金属化の状態に依存してしまうために留意する必要がある。さらに、基板1の両方向からレーザ光6を照射スキャンする必要があるため、装置構成が複雑になることは避けられない。
【0069】
以上のように、レーザ光6の照射、スキャンによって、塗布層3の所定の位置に導電性微細配線4を形成した後に、所望の導電性微細配線4以外の材料の除去を行う必要がある。適切に除去できれば特に方法に拘るものではないが、簡便な方法としては、適当な溶剤により除去することができる。ここで用いる溶剤としては、余剰材料を溶解できるものであればよい。例えば、元々の導電性ナノ粒子分散溶液自体の溶媒として用いているトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶媒が利用可能である。
【0070】
具体的には、レーザ光による導電性微細配線形成を行った基板を、上述の適当な溶剤の中に浸す。レーザ光によって形成された導電性微細配線部分以外の材料は、溶剤中に溶解拡散するため、基板上からは除去されることになる。一方、導電性微細配線は、レーザ光による加熱処理が適切に行われている場合には、ナノ粒子自身が金属化すると同時に、基板との密着性が向上しているので、溶剤による除去処理を行っても基板上に残る。このようにして、基板上にレーザ光が照射、スキャンされなかった部分の塗布層が除去され、導電性微細配線のみが残ることになる。
【0071】
ここで、余剰材料の溶解拡散を補助促進するために、超音波洗浄などの物理的な作用によるプロセスを併用しても構わない。いずれの場合においても、洗浄処理が不十分だと、余剰材料が基板上に残ってしまうし、反対に洗浄処理が過剰であれば、所望の導電性微細配線自体にダメージを与えてしまう可能性があるため、適当な洗浄処理条件というのが必要になってくる。
【0072】
以上によって、3次元表面形状を有する基板上への導電性微細配線の形成が終了する。なお、上述の余剰材料の除去処理を行った後であれば、導電性微細配線が形成済みの基板全体に対して、アニーリング等の後処理工程を行ってもよい。このようにすることで、もう少し高い温度でのアニーリング処理が必要なナノ粒子材料の種類では、基板との密着強度を向上させることができる。
【0073】
また、上述した説明では、レーザ光を塗布層に照射する場合を例に挙げたが、塗布層の配線形成領域に熱エネルギを供給することができるものであれば、本発明を適用することができる。
【0074】
以上のように本実施の形態では、基板の3次元表面形状や伝熱特性のデータに基づいて、レーザ光の集光位置制御を行うようにしたので、基板表面の任意の部位に均一なレーザ光の照射スポットを形成して、均一な熱エネルギをナノ粒子を含む塗布層に供給する制御が可能となり、簡便で、解像度の高い導電性微細配線を形成する方法を提供することができる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる、従って本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0076】
ここでは、導電性微粒子分散溶液としてアルバック社製の銀ナノメタルインク(Ag1T(製品名))を用いた場合について説明する。平均粒径は5nmとなっており、導電性のナノ粒子を含有した分散溶液としては平均的なものであり、溶媒はトルエンを主成分とした有機溶剤となっている。基板としては、加熱処理をすることを考慮して耐熱ガラスを用いる。このガラス基板に対して、ディッピング法で導電性微粒子分散溶液の塗布層を形成する。適当な量の上述した導電性微粒子分散溶液が入っている容器に、ガラス基板を縦方向にして静かに浸漬させた後、1mm/s程度のゆっくりした速度で引き上げる。その後、溶媒を乾燥除去するために、1時間程度、室温で放置する。ナノ粒子の金属化が進行しない温度(70℃以下)程度であれば、乾燥炉などを利用してもよい。
【0077】
その後、塗布層が形成できた基板に対してレーザ光を照射、スキャンを行う。用いるレーザ光源として、波長770nm、最高出力180mWのソニー製SLD302Vが利用できる。このレーザ光源の直後に配されるコリメートレンズ、光路を遮断できるシャッタ、基板上に集光するための集光レンズなどの光学系によって、レーザ光源からの出射光をターゲットである基板上の塗布層に集光することができ、所望する導電性微細配線のサイズ、形状に対して、レーザ光の集光形状を合わせこむように光学系を調整する必要がある。また、上述の集光レンズは、レーザ光の光軸に対して平行に微動できるように設置されてあり、集光レンズ位置制御部によって集光位置の微調整が可能となっている。
【0078】
レーザ光源の出力としては、形成する導電性微細配線の形状にもよるが、照射する基板面上で100mW程度が確保できることが望ましい。また、レーザ光のスキャン速度も、レーザ光源の出力と、形成する導電性微細配線の形状にもよるが、10μm程度の配線幅であれば、1mm/s程度のスキャン速度が適当である。
【0079】
また、本実施例では、基板にレーザ光を照射、スキャンする際に、レーザ光は固定位置とし、基板の方を移動させる。レーザ光の照射光軸に対して鉛直方向に配したXY2軸のステージ(基板保持手段に対応する)に基板を保持する。このXY2軸のステージも上述の集光レンズと同様に外部制御可能であり、コンピュータなどの自動制御によって基板の基準位置からの3次元表面形状データに基づいて、基板表面の任意の位置に対して、正確にレーザ光を照射可能である。このようにして、基板上に形成した塗布層の配線形成領域にレーザ光を照射、スキャンする。
【0080】
導電性微細配線を形成するためのレーザ光の照射、スキャンを完了した後、余剰材料の除去を行う。ここでは、元々のナノ粒子分散溶媒であるトルエン溶液を用いて、配線形成済みの基板を浸漬させる。さらに、余剰材料の溶解拡散を補助促進するために、超音波洗浄機の中に1分ほど入れることで、余剰材料をできるだけ除去する。
【0081】
以上のようなプロセスによって、比抵抗値:10μΩ・cm、ライン/スペース幅:10/10μm程度の導電性微細配線が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明にかかる配線形成装置は、3次元表面形状を有する基板や異なる電熱特性を有する基板上に導電性微細配線を形成する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本実施の形態による基板表面に凸形状部を有する場合のレーザ光を照射する様子を模式的に示す図
【図2】本実施の形態による平坦な基板表面の一部に伝熱特性の異なる領域を有する場合のレーザ光を照射する様子を模式的に示す図
【図3】本実施の形態による基板の裏側からレーザ光を照射する様子を模式的に示す図
【図4】本実施の形態による配線形成装置の制御ブロック図
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 凸形状部
3 塗布層
4 導電性微細配線
5 集光レンズ
6 レーザ光
7 伝熱特性が異なる部分
10 レーザ光源
11 集光レンズアクチュエータ
12 XYステージアクチュエータ
13 レーザ駆動電流制御部
14 XYステージ位置制御部
15 集光レンズ位置制御部
16 3次元表面形状データ格納部
17 伝熱特性データ格納部
18 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の形状および/または特性が一様でない基板上に、導電性微粒子を含有する分散溶液を塗布して塗布層を形成する第1の工程と、
前記基板表面の各位置における形状および/または特性を示す基板属性情報に基づいて、熱エネルギを前記塗布層の配線形成領域に連続的に供給して、導電性微細配線を形成する第2の工程と、
前記塗布層中の前記導電性微細配線以外の領域の材料を除去する第3の工程と、
を含むことを特徴とする配線形成方法。
【請求項2】
前記熱エネルギは、レーザ光源から出射されるレーザ光であり、
前記レーザ光源と前記基板との間に、前記レーザ光を集光、照射する集光レンズを含む照射光学系が配置され、
前記第2の工程では、前記レーザ光を前記照射光学系によって前記配線形成領域に照射しながらスキャンすることを特徴とする請求項1に記載の配線形成方法。
【請求項3】
前記基板属性情報は、前記基板の各位置における表面形状を示す3次元表面形状情報であり、
前記第2の工程では、前記3次元表面形状情報に従って、前記集光レンズによる前記レーザ光の集光位置が前記塗布層となるように制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の配線形成方法。
【請求項4】
前記集光レンズの位置によって前記レーザ光の集光位置の制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の配線形成方法。
【請求項5】
前記基板の位置によって前記レーザ光の集光位置の制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の配線形成方法。
【請求項6】
前記基板属性情報は、前記基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報であり、
前記第2の工程では、前記伝熱特性情報に従って、前記レーザ光のスキャン速度の制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の配線形成方法。
【請求項7】
前記基板属性情報は、前記基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報であり、
前記第2の工程では、前記伝熱特性情報に従って、前記レーザ光源の出力を制御することを特徴とする請求項2に記載の配線形成方法。
【請求項8】
前記基板属性情報は、前記基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報をさらに含み、
前記第2の工程では、前記レーザ光の集光位置の制御に加えて、前記伝熱特性情報に従って、前記レーザ光のスキャン速度の制御を行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項9】
前記基板属性情報は、前記基板の各位置における表面の伝熱特性を示す伝熱特性情報をさらに含み、
前記第2の工程では、前記レーザ光の集光位置の制御に加えて、前記伝熱特性情報に従って、前記レーザ光源の出力を制御することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項10】
前記レーザ光源は、複数設けられることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項11】
前記照射光学系は、前記レーザ光源に対応して複数設けられることを特徴とする請求項10に記載の配線形成方法。
【請求項12】
前記照射光学系は、複数設けられ、
前記第2の工程では、1つの前記レーザ光源から出射されるレーザ光を前記複数の集光レンズに分光し、分光される複数のレーザ光を前記塗布層上に同時に照射しながらスキャンすることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項13】
前記第2の工程では、前記塗布層の前記配線形成領域に、前記レーザ光の照射スキャンを複数回行うことを特徴とする請求項2〜12のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項14】
前記基板は、前記レーザ光の波長に対して高い透過率を有する基板であり、
前記第2の工程では、前記塗布層の前記配線形成領域へのレーザ光の照射スキャンを前記基板の背面方向から行うことを特徴とする請求項2〜13のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項15】
前記基板は、前記レーザ光の波長に対して高い透過率を有する基板であり、
前記第2の工程では、前記塗布層の前記配線形成領域に前記塗布層側から前記レーザ光を照射スキャンした後、前記配線形成領域に、前記基板の背面方向から前記レーザ光の照射スキャンを行うことを特徴とする請求項2〜12のいずれか1つに記載の配線形成方法。
【請求項16】
形状および/または特性が一様でない基板上に形成された導電性微粒子を含有する塗布層に熱エネルギを供給して、導電性微細配線を形成する配線形成装置であって、
前記基板を保持する基板保持手段と、
前記基板に対して熱エネルギを供給する熱エネルギ供給手段と、
前記基板保持手段および/または前記熱エネルギ供給手段を相対的に移動させる駆動手段と、
配線形成領域上の前記基板の形状および/または特性を示す基板属性情報を用いて、前記配線形成領域上に均一な密度の熱エネルギを供給するための前記基板保持手段と前記熱エネルギ供給手段との間の位置関係、前記熱エネルギ供給手段の前記基板保持手段に対する移動速度、および前記熱エネルギ供給手段から供給される熱エネルギ量を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算された前記位置関係と前記移動速度に基づいて前記駆動手段を制御する駆動制御手段と、
前記演算手段によって演算された前記熱エネルギ量に基づいて前記熱エネルギ供給手段からの熱エネルギの供給量を制御する熱エネルギ供給制御手段と、
を備えることを特徴とする配線形成装置。
【請求項17】
前記熱エネルギ供給手段は、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射されるレーザ光を前記基板上に集光する集光レンズを含む照射光学系と、を備え、
前記熱エネルギ供給制御手段は、前記集光レンズの位置を制御して前記レーザ光の集光状態を制御する集光レンズ位置制御機能を備えることを特徴とする請求項16に記載の配線形成装置。
【請求項18】
前記熱エネルギ供給制御手段は、前記レーザ光源の出力を制御するレーザ光出力制御機能をさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の配線形成装置。
【請求項19】
前記レーザ光源と前記照射光学系は、前記基板上の異なる複数の配線形成領域上に同時にレーザ光を照射することができるように複数備えられることを特徴とする請求項17または18に記載の配線形成装置。
【請求項20】
1つの前記レーザ光源に対して、前記基板上の異なる複数の配線形成領域上に同時にレーザ光を照射することができるように複数の照射光学系が設けられることを特徴とする請求項17または18に記載の配線形成装置。
【請求項21】
前記基板属性情報は、前記基板表面の各位置における表面形状を示す3次元表面形状情報であり、
前記演算手段は、前記配線形成領域上の前記3次元表面形状情報に従って、前記位置関係と前記移動速度を演算することを特徴とする請求項16〜20のいずれか1つに記載の配線形成装置。
【請求項22】
前記基板属性情報は、前記基板表面の各位置における伝熱特性を示す伝熱特性情報であり、
前記演算手段は、前記配線形成領域上の前記伝熱特性情報に従って、前記移動速度と前記熱エネルギ量を演算することを特徴とする請求項16〜20のいずれか1つに記載の配線形成装置。
【請求項23】
前記基板属性情報は、前記基板表面の各位置における表面形状を示す3次元表面形状情報と、伝熱特性を示す伝熱特性情報と、を含み、
前記演算手段は、前記配線形成領域上の3次元表面形状情報と伝熱特性情報に従って、前記位置関係、前記移動速度および前記熱エネルギ量を演算することを特徴とする請求項16〜20のいずれか1つに記載の配線形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−16724(P2009−16724A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179551(P2007−179551)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】