説明

配線構造及び配線構造の製造方法

【課題】シリコンへのオーミック接合が得られると共に、シリコン中への元素の拡散を抑制できる配線構造及び配線構造の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る配線構造1aは、シリコン層10と、シリコン層10上に設けられ、ニッケル(Ni)が添加された銅合金からなる下地層20と、下地層20上に設けられる銅層30とを備え、シリコン層10と下地層20との界面を含む領域でNiが濃化することにより、電気導電性を有する拡散バリア層25が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線構造及び配線構造の製造方法に関する。特に、本発明は、銅(Cu)系の配線構造及び配線構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置には、多数の電子デバイスが用いられている。そして、電子デバイスを構成する半導体としては、シリコン(Si)が主として用いられている。ここで、Siに対する接合電極には、加熱プロセスを含む電子デバイスの製造工程において、接合電極を構成する電極材料のSi中への拡散を抑制する機能が要求される。
【0003】
従来、表示装置に用いる電極、配線層、又は端子電極の配線材料として、銅(Cu)の酸化物生成自由エネルギーより小さい酸化物生成自由エネルギーを有すると共に、Cuの自己拡散係数よりCu中における拡散係数が大きな元素(以下、「背景技術」の欄、及び「発明が解決しようとする課題」の欄において「添加元素」という)を添加した銅合金を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の配線材料によれば、SiO膜が表面に形成された基板と銅合金との界面に銅合金中の添加元素が移動して酸化することにより、添加元素の酸化物からなる酸化物層を形成するので、シリコンからなる基板中への銅の拡散を当該酸化物層(シリコンからなる基板中への銅の拡散を抑制するバリア層に相当)によって抑制することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−72428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の配線材料は、シリコン基板への元素の拡散を抑制するバリア層として、Cu及びCuに添加した添加元素の酸化物を用いており、絶縁性を有する酸化物からなるバリア層を介してシリコン基板と、バリア層のシリコン基板の反対側に設けられる配線との間の導通を確保することが要求される。この場合、シリコン基板とバリア層との間において電流の導通を確保するには、極めて薄い膜厚のバリア層を形成して、トンネル電流により導通を確保することを要する。また、バリア層がバリア層としての機能を発揮するには、バリア層はある程度の厚さを要する。
【0007】
したがって、特許文献1に記載の配線材料においては、バリア層としての機能と、シリコン基板と配線層との間の導通の確保との双方を両立させるべく、バリア層の精密な膜厚制御が要求される。更に、添加元素の酸化プロセスにおいては、添加元素内の粒界に酸化物相が形成されることがある。この場合において、電子デバイスの製造工程中にエッチング工程が含まれると、酸化物相が溶け出すことに起因するピンホールが発生する場合がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、シリコンへのオーミック接合が得られると共に、シリコン中への元素の拡散を抑制できる配線構造及び配線構造の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、シリコン層と、シリコン層上に設けられ、ニッケル(Ni)が添加された銅合金からなる下地層と、下地層上に設けられる銅層とを備え、シリコン層と下地層との界面を含む領域でNiが濃化することにより、電気導電性を有する拡散バリア層が形成される配線構造が提供される。
【0010】
また、上記配線構造は、拡散バリア層は、シリコン層と下地層とが加熱された時に、シリコン層を構成するシリコン(Si)と、下地層の銅(Cu)と、界面に移動するNiとから形成されてもよい。また、拡散バリア層は、シリコン層にオーミック接触してもよい。更に、下地層は、拡散バリア性を発揮する拡散バリア層が形成されるNi濃度を有してシリコン層上に設けられてもよい。そして、銅層は、3N以上の純度の無酸素銅から形成されてもよい。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、無酸素雰囲気下で、ニッケル(Ni)が添加された銅合金からなる下地層をシリコン層上に形成する下地層形成工程と、下地層上に銅層を形成する銅層形成工程と、シリコン層と下地層とに熱処理を施し、シリコン層と下地層との界面でNiを濃化させることにより、電気導電性を有する拡散バリア層を形成する拡散バリア形成工程とを備える配線構造の製造方法が提供される。
【0012】
また、上記配線構造の製造方法は、銅合金は、銅(Cu)と、Cuに5at%以上添加されるNiと、不可避的不純物とからなってもよい。また、拡散バリア形成工程は、真空中で200℃以上300℃以下の熱処理をシリコン層と下地層とに施してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る配線構造及び配線構造の製造方法によれば、シリコンへのオーミック接合が得られると共に、シリコン中への元素の拡散を抑制できる配線構造及び配線構造の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[実施の形態]
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る配線構造の縦断面を示す。
【0015】
具体的に、図1(a)は、実施の形態に係る配線構造の一例として、熱処理を施していない状態の配線構造1を示しており、図1(b)は、配線構造1に熱処理を施した後の配線構造1aを示す。
【0016】
まず、図1(a)を参照すると、配線構造体である配線構造1は、シリコン層10と、シリコン層10の一方の面に形成される下地層20と、下地層20のシリコン層10と接している面の反対側の面に形成される銅(Cu)層20とを備える。なお、本実施の形態において、シリコン層10は、シリコンからなる薄膜、及びシリコンからなる基板の双方を包含する。そして、シリコン層10は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、又はアモルファスシリコンのいずれかから形成される半導体層である。また、配線構造1は、電子部品を搭載する基板(例えば、ガラス基板等)上に設けることもできる。
【0017】
下地層20は、Cuとニッケル(Ni)と不可避的不純物とから形成される。すなわち、下地層20は、Niが添加された銅合金(Cu−Ni系合金)から形成される。Niは、シリコン中へのCuの拡散を抑制すると共に、電気導電性を有するバリア層をSi及びCuと反応することにより形成できる添加元素である。また、銅層30は、純度が3N以上の無酸素銅から形成される。銅層30は、電子デバイスの配線層に適用される。
【0018】
次に、図1(b)を参照する。配線構造1に酸素が排除された状態で所定の温度下における熱処理を加えると、シリコン層10と下地層20との界面を含む領域に拡散バリア層25が形成され、配線構造1aが製造される。拡散バリア層25は、下地層20に含まれるNiが当該界面に拡散して、当該界面を含む領域において濃化することにより、シリコン層10を構成するSiと、下地層20を構成するCuと、当該界面において濃化したNiとによって形成される。拡散バリア層25は酸化物ではなく、電気導電性を有する。また、拡散バリア層25は、シリコン層10及び下地層20にオーミック接触する。更に、拡散バリア層25は、銅層30を構成するCuのシリコン層10への拡散、及びシリコン層10を構成するSiの銅層30への拡散を抑制する。
【0019】
拡散バリア層25は、配線構造1を備える電子デバイスの製造工程の熱処理工程において、当該電子デバイスに加わる熱を利用することにより形成される。すなわち、例えば、基板上に設けられた電子部品間を電気的に接続する配線を配線構造1によって形成した後、配線構造1が形成された基板に対してなされる熱処理時における熱により、シリコン層10と下地層20との界面に拡散バリア層25が形成される。一例として、液晶ディスプレイ用のTFT配線を形成するTFT配線工程には、200℃から300℃の温度の熱処理工程が含まれる。このTFT配線工程に含まれる熱処理工程での熱を利用して、Cu−Ni系合金からなる下地層20と、シリコン層10との界面に、シリコン層10へのCuの拡散を抑制する拡散バリア層25が形成される。
【0020】
また、配線構造1に施す熱処理の温度が、例えば、200℃程度の場合、下地層20を形成するCu−Ni系合金中に、例えば、Ni濃度が5at%以上となる量のNiを添加する。これにより、シリコン層10へのCuの拡散、及び銅層30へのSiの拡散を抑制する拡散バリア性を有する拡散バリア層25が形成される。なお、Cu−Ni系合金中におけるNi濃度を5at%より高くすることにより拡散バリア層25は形成されやすくなり、拡散バリア性を高めることができる。また、Ni濃度を高めることにより、配線構造1に施される熱処理の温度が200℃より高くなった場合であっても、拡散バリア性を発揮する拡散バリア層25を形成できる。
【0021】
(配線構造1及び配線構造1aの製造方法)
図2は、本発明の実施の形態に係る配線構造の製造工程の流れの一例を示す。
【0022】
まず、ガラス基板等の基板上にシリコン層10を形成する(シリコン層準備工程:ステップ10。以下、ステップを「S」とする。)。次に、シリコン層10上にNi−Cu系合金からなる下地層20を形成する(下地層形成工程:S20)。続いて下地層20上に純銅からなる銅層30を形成する(銅層形成工程:S30)。これにより、本実施の形態に係る配線構造1が形成される。ここで、シリコン層10、下地層20、及び銅層30のそれぞれは、無酸素雰囲気下で形成される。シリコン層10、下地層20、及び銅層30のそれぞれは、例えば、スパッタリング法により形成される。
【0023】
また、下地層20は、チップオンターゲット、又はCu合金ターゲットを用いたスパッタリング法により形成することができる。なお、チップオンターゲットを用いたスパッタリング法とは、主材料であるCuターゲット材の表面に、添加する元素(本実施の形態においては、Ni)を含む金属チップを貼り付けた状態でスパッタを実施する方法である。すなわち、チップオンターゲットとは、所望の元素を含む金属チップを主材料からなるターゲット材(本実施の形態においては、Cuターゲット材)の表面の所定の位置に、所定量、貼り付けたスパッタリングターゲットである。主材料からなるターゲットに貼り付ける金属チップのチップサイズ、主材料からなるターゲットに対するチップの位置、及び貼り付けるチップの枚数を調整することにより、主材料と金属チップの元素との比(すなわち、成膜される材料の組成)を制御できる。
【0024】
次に、配線構造1の少なくともシリコン層10と下地層20とに熱処理を施すことにより、シリコン層10と下地層20との界面において形成される界面反応層である拡散バリア層25が形成される(拡散バリア形成工程:S40)。これにより、銅層30/下地層20/拡散バリア層25/シリコン層10からなる積層構造を備える配線構造1aが製造される。熱処理は、一例として、200℃以上400℃以下の範囲内で実施できる。なお、拡散バリア層25に含まれるNiの濃度は、配線構造1に施す熱処理の温度上昇に応じて増加させることができる。これは、熱処理により下地層20とシリコン層10との界面に下地層20に含まれるNiが拡散して、当該界面にCu、Ni、及びSiからなる拡散バリア層25が形成されるに際して、熱処理温度の上昇に応じて当該界面に拡散するNiの量が増加するからである。
【0025】
なお、熱処理は酸素を排除した雰囲気で実施する。例えば、熱処理は、酸素を排除した減圧状態下(例えば、1Pa程度の圧力の真空中)で実施する。この熱処理により、シリコン層10と下地層20との界面に下地層20に含まれるNiが拡散して当該界面を含む領域において濃化する。そして、当該界面を含む領域においてシリコン層10を構成するSiと、下地層20に含まれるCuと、濃化したNiとが反応して拡散バリア層25が形成される。
【0026】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る配線構造1によれば、配線構造1に熱が加わると、シリコン層10と下地層20との界面に拡散バリア層25が形成され、配線構造1aが製造される。これにより、本実施の形態に係る配線構造1は、Mo等の高融点金属材料からなる拡散バリア層を備えることを要さない。また、シリコン層10と下地層20との間に酸化物からなる絶縁性のバリア層を形成する従来法のように、トンネル電流による導通の確保と共に、拡散バリア性を発揮させる膜厚を有するバリア層を形成する精密なプロセスコントロールを要さないので、製造プロセスの簡易化、低コスト化に資することができる。
【0027】
また、本実施の形態においては、下地層20のCu及びNiと、シリコン層10のSiとが反応して電気導電性を有すると共に、シリコン層10及び下地層20にオーミック接触する拡散バリア層25が形成される際に、酸素が関与しない。よって、シリコン層10と下地層20との界面に酸化物が生成して、シリコン層10と下地層20との間に絶縁層が形成されることがない。これにより、本実施の形態においては、シリコン層10と下地層20とを拡散バリア層25に電流を直接伝搬させて導通させることができる。
【0028】
また、本実施の形態に係る配線構造1及び配線構造1aによれば、拡散バリア層25の上に下地層20を介して3N以上の純度の純銅からなる銅層30が形成できるので、例えば、大型の液晶パネルが備えるTFTアレイ基板等の電子部品、シリコン太陽電池等のシリコンを用いたシリコンデバイスに適用される配線の形成に本実施の形態に係る配線構造1及び配線構造1aを用いたとしても、低抵抗であって、信頼性の高い銅配線を形成できる。
【0029】
更に、本実施の形態に係る配線構造1aによれば、銅層30の厚さを拡散バリア層25の厚さに比べて厚く形成できるので、拡散バリア層25が形成されることによる配線構造1aの配線抵抗への影響を低減できる。また、配線構造1aは、銅層30/下地層20と略同種の金属の積層構造(すなわち、拡散バリア層25はSi、Cu、Niから形成されるので、銅層30のCuと下地層20のCu−Ni系合金と拡散バリア層25を構成する材料とは同種の金属材料からなり、銅層30と下地層20と拡散バリア層25とで積層構造を構成している)であるので、電極のエッチング加工は、Cu/Mo積層構造と比較して容易となる。これにより、製造コストを低減できる。
【実施例】
【0030】
実施例においては、まず、拡散バリア層25の拡散バリア性の評価用のサンプル(積層構造体2)を製造した。
【0031】
(拡散バリア性の評価サンプル)
図3は、実施例に係る拡散バリア性の評価用サンプルである積層構造体の縦断面の概要を示す。
【0032】
実施例においては、ガラス基板40と、ガラス基板40上に形成されるシリコン層12と、シリコン層12上に形成される銅合金層22とを備える積層構造体2を製造した。積層構造体2は、ガラス基板40上に3mm角の開口を有するメタルマスクを接触させ、シリコン層12及び銅合金層22をスパッタリング法により形成した。下地層である銅合金層22は、チップオンターゲットを用いて形成した。
【0033】
実施例に係る銅合金層22は、主材料であるCuターゲット材の表面に、Niチップを貼り付けてスパッタすることにより、シリコン層12上に形成した。スパッタ装置は、高周波(Radio Frequency:RF)マグネトロンスパッタリング装置を用いた。そして、スパッタリング条件は、シリコン層12及び銅合金層22の形成のいずれも、純アルゴン(Ar)ガスのプラズマ、1Paのチャンバー内圧力、300Wのパワーで実施した。なお、比較例として、下地層である銅合金層22を、Cu−Mg系合金に変えた積層構造体も作成した。表1に、実施例及び比較例に係る積層構造体の構造の詳細と、スパッタリング条件を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
スパッタリングプロセスでは、添加元素が略均一に固溶した銅合金層22が形成される。実施例においては、as depo.(成膜まま)膜について最上部の銅合金層22の組成をエネルギー分散型蛍光X線分析装置(energy dispersive X−ray spectrometer:EDX)により分析した。そして、EDX測定により測定されたピークのうち、Cuと添加元素M(Mは、Ni又はMg)との合計を100at%として、as depo.膜中の添加元素濃度(M/(Cu+M)at%)を算出した。その結果、実施例に係る評価サンプルのas depo.膜である銅合金層22の添加元素濃度は、5.2at%Ni(実施例1)、及び10.5at%Ni(実施例2)であった。一方、比較例に係る評価サンプルにおいては、3.3at%Ni(比較例1)、3.4at%Mg(比較例2)、5.4at%Mg(比較例3)、10.2at%Mg(比較例4)であった。
【0036】
(銅合金層22の抵抗率の測定)
図4は、実施例に係る抵抗率の評価用サンプルである積層構造体の測定システムを示す。
【0037】
図4に示すように、積層構造体2(抵抗率の評価用サンプル)の最上層である銅合金層22の表面の四隅にプローブ針52を接触させた。そして、2本のプローブ針52は、直流電流源50に接続すると共に、残り2本のプローブ針52は、電圧計55に接続することにより、測定システム3を構成した。
【0038】
この積層構造体2の銅合金層22は、as depo膜であり、上面視にて3mm角のサイズである。そして、van der Pauw法を用いて銅合金層22の抵抗率を測定した。抵抗率を測定した後、真空中、200℃、250℃、300℃のそれぞれの温度において、30分間の熱処理を積層構造体2に施した。そして、熱処理後における銅合金層22の抵抗率をvan der Pauw法を用いて再び測定した。
【0039】
更に、積層構造体2(抵抗率の評価用サンプル)と同一の工程で製造した他の積層構造体2を準備した。そして、準備した積層構造体2に、真空中において、200℃、250℃、300℃のそれぞれの温度において、30分間の熱処理を施した。続いて、銅合金層22/シリコン層12/ガラス基板40の深さ方向の元素分布分析を、X線光電子分光法(X−ray photoelectron spectroscopy:XPS)により実施した。
【0040】
(銅合金層22の抵抗率の評価)
図5は、抵抗率の評価用サンプルに施した熱処理温度の違いによる抵抗率の変化を示す。
【0041】
具体的に、図5は、抵抗率の評価用サンプルに施した熱処理温度に対して、銅合金層22の抵抗率(as depo.の銅合金層22の抵抗率で規格化した値)をプロットして示した。実施例1に係る評価用サンプルの銅合金層22は、Cu−5.2at%Niからなる。また、実施例2に係る評価用サンプルの銅合金層22は、Cu−10.5at%Niからなる。比較例1に係る評価用サンプルの銅合金層は、Cu−3.3at%Niからなる。また、比較例2に係る評価用サンプルの銅合金層は、Cu−3.4at%Mgからなる。また、比較例3に係る評価用サンプルの銅合金層は、Cu−5.4at%Mgからなる。更に、比較例4に係る評価用サンプルの銅合金層は、Cu−10.2at%Mgからなる。
【0042】
実施例に係る評価サンプル、すなわち、Niを5.2at%、10.5at%添加した実施例1及び実施例2に係る評価用サンプルでは、10.5at%の添加の場合(実施例2)、抵抗率は300℃までは若干、減少した。また、Niを5.2at%添加した場合(実施例1)、250℃までは略横ばいの抵抗率を示したが、300℃の抵抗率は、250℃における抵抗率より上昇した。一方、比較例に係る評価サンプル、すなわち、Niを3.3at%添加した評価サンプル(比較例1に係る評価用サンプル)、及びMgを添加した評価サンプル(比較例2ないし4に係る評価用サンプル)は、全てのサンプルにおいて200℃から抵抗率が上昇した。
【0043】
熱処理温度に対して抵抗率の変化が横ばいである領域は、銅合金層22とシリコン層12との積層構造に熱処理を施しても、銅合金層22中へのSiの拡散がわずかであることを示している。また、熱処理温度に対して抵抗率が上昇する領域は、銅合金層22中へのSiの拡散が進行していることを示していると考えられた。なお、実施例に係る評価用サンプルにおいて、200℃までの熱処理温度で抵抗率が若干、減少している。これは、as depo.の積層構造では欠陥の比較的多い結晶構造であるが、熱処理により欠陥が修復されて減少したことに起因すると推測された。以上、図5から、銅合金層22に添加するNiの量は、5at%以上が好ましいことが示された。
【0044】
図6は、実施例に係る抵抗率の評価用サンプルの熱処理後におけるXPS分析の結果を示す。
【0045】
具体的に、図6は、300℃の熱処理後において抵抗率の変化が横ばいであったCu−10.5at%Ni(実施例2に係る評価用サンプル)のXPS分析結果を示す。図6の横軸方向は測定対象の表面をスパッタした時間であり、膜厚方向に対応する。すなわち、図6中、左側から銅合金層22、シリコン層12、ガラス基板40に対応する。また、縦軸は元素濃度に対応する。実施例2に係るCu−10.5at%Niの評価用サンプルの元素分布プロファイルを参照すると、鋭く分離したSiのピークが観察され、シリコン層12への銅合金層22のCuの拡散による侵食が少ないと考えられた。また、シリコン層12と銅合金層22との界面にNiが濃化している状態が観察された。すなわち、このNiが濃化している領域において拡散バリア層が形成されていると考えられた。
【0046】
図7は、比較例に係る抵抗率の評価用サンプルの熱処理後におけるXPS分析の結果を示す。
【0047】
具体的に、図7は、200℃から抵抗率が上昇したCu−3.4at%Mg(比較例2に係る評価用サンプル)のXPS分析結果を示す。比較例2に係る評価用サンプルのXPS分析の元素プロファイルを参照すると、Siのピークは台形状となると共に、Cuのプロファイルよりも低くなり、Siの分布位置にCuが分布したことが観察され、SiとCuとの相互拡散が発生したことを示している。なお、実施例に係る他の評価用サンプルについても同様に、抵抗率が横ばいを示したものは鋭く分離したSiのピークが観察される一方で、抵抗率が上昇した比較例に係る他の評価用サンプルのSiのプロファイルは、台形状になだらかな形状であることが観察された。少なくとも、Niを含む合金層を有する評価用サンプルに対してMgを含む合金層を有する評価用サンプルには、バリア層が全く形成されていないことが明確に示された。
【0048】
なお、XPS分析は、評価用サンプル表面をプラズマでスパッタリングして削り、露出した表面の原子を定量分析する手法である。評価用サンプルの削った表面には凹凸が観察され、プロファイルの横軸の深さの位置での分析値はその位置の前後の状況を含んでいる。したがって、プロファイルには、実際の元素の分布よりも、見かけ上、元素が拡散しているように見える「裾引き」が観察される。
【0049】
(拡散バリア層25のオーミック接合性及び銅層30の抵抗率評価)
次に、拡散バリア層25のシリコン層12に対するオーミック接合性及び純銅層32の抵抗率の評価用サンプル(積層構造体2a)を作成した。積層構造体2aは、実施例1及び2、並びに比較例1ないし4に係る積層構造体2とは、銅合金層22上に無酸素銅(Oxygen Free Copper:OFC)からなる純銅層32を形成した点を除き同一の構成を備える。よって、構造の詳細な説明は省略する。
【0050】
図8は、評価用サンプルのオーミック接合性及び銅層の抵抗率の測定システムを示す。
【0051】
まず、ガラス基板40と、ガラス基板40上に形成されたシリコン層12と、シリコン層12上に離間して形成されると共に、上面視にて3mm角の複数の銅合金層22と、複数の銅合金層22のそれぞれの上に設けられる純銅層32とを備える積層構造体2aを作成した。実施例3に係る評価用サンプルは、実施例1に係る評価用サンプルと対応する。また、実施例4に係る評価用サンプルは、実施例2に係る評価用サンプルと対応する。同様にして、比較例5〜8に係る評価用サンプルはそれぞれ、比較例1〜4に係る評価用サンプルにそれぞれ対応する。なお、純銅層32は、3Nの無酸素銅からなる層である。
【0052】
実施例3及び4に係る銅合金層22は、主材料であるCuターゲット材の表面に、Niチップを貼り付けてスパッタすることにより、シリコン層12上に形成した。スパッタ装置は、高周波(RF)マグネトロンスパッタリング装置を用いた。そして、スパッタリング条件は、シリコン層12、銅合金層22、及び純銅層32の形成のいずれも、純アルゴン(Ar)ガスのプラズマ、1Paのチャンバー内圧力、300Wのパワーで実施した。なお、比較例5として実施例3及び4とはNi組成が異なる銅合金層を備える積層構造体と、比較例6〜8として、下地層である銅合金層を、Cu−Mg系合金に変えた積層構造体とを作成した。表2に、実施例及び比較例に係る積層構造体の構造の詳細と、スパッタリング条件を示す。
【0053】
【表2】

【0054】
そして、Cu−Ni合金からなる銅合金層22/シリコン層12間のオーミック接合性を評価することを目的として、図8に示すように2つの純銅層32の表面(以下、銅合金層22と純銅層32とからなる部分を、「電極パッド」という)にプローブ針52を接触させて測定した。プローブ針52はそれぞれ、デジタルマルチメーター57に接続した。
【0055】
図9は、実施例4に係る評価用サンプルのオーミック接合性の評価結果を示す。
【0056】
実施例4に係る評価用サンプル(銅合金層22:Cu−10.5at%Ni、300℃熱処理)においては、電流−電圧特性が、略直線であった。したがって、実施例4に係る評価用サンプルにおいて、拡散バリア層26とシリコン層12との間ではオーミック接合が得られることが示された。また、他の評価用サンプル(実施例3、及び比較例5〜8に係る評価用サンプル)のいずれも、熱処理温度が200℃、250℃、及び300℃のいずれの温度であっても、電流−電圧特性は略直線を示しオーミック接合性は得られていた。
【0057】
また、図4において説明した方法と同様にして、純銅層32/銅合金層22の抵抗率を1つの電極パッドに4本のプローブ針52を接触させて測定した。なお、抵抗率は純銅層32の膜厚に基づいて算出した。その結果を、拡散バリア性、オーミック接合性と共に表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
拡散バリア性の有無の評価は、熱処理による抵抗率の上昇が観測されず、XPS分析で鋭く分離したSiのピークが観測された場合に、拡散バリア性有り(○)とした。また、熱処理による抵抗率の上昇が観測されるか、あるいは、XPS分析で鋭く分離したSiのピークが観測されなかった場合のいずれか一方、又は双方に該当する場合に、拡散バリア性無し(×)とした。
【0060】
オーミック接合性の有無の評価は、電流−電圧特性が略直線で変曲点を示さなかった場合に、オーミック接合性有り(○)、変曲点を示した場合に、オーミック接合性無し(×)とした。
【0061】
その結果、比較例5〜8に係る調査用サンプルおいては拡散バリア性が得られなかった。拡散バリア性がないことに起因して、比較例5〜8に係る評価用サンプルにおいては、シリコン層12の半導体としての特性が劣化する。また、比較例6〜8に係る調査用サンプルにおいては、シリコン層12へのCuの拡散により、シリコン層12に無視できないリーク電流が生じた。したがって、比較例6〜8に係る調査用サンプルについての純銅層32の抵抗率については測定しなかった。
【0062】
一方、実施例3及び4においては、銅合金層22にNiを5.2at%以上添加することで、200℃の加熱処理に対して拡散バリア性を発揮すると共に、純銅層32の低抵抗率を維持できる積層構造が得られることが示された。すなわち、実施例3及び4においては、銅合金層22からシリコン層12へのCuの拡散を抑制することで、シリコン層12の半導体としての特性が劣化することを抑制できると共に、リーク電流を抑制できる。
【0063】
なお、銅合金層22は、シリコンが純銅層32に到達することを効果的に抑制することを目的として数十nm以上の厚さを有して形成される。銅合金層22は、一例として、40nm程度の厚さを有して形成され、好ましくは50nm以上の厚さを有して形成される。
【0064】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る配線構造の縦断面を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る配線構造の製造工程の流れを示す図である。
【図3】実施例に係る拡散バリア性の評価用サンプルである積層構造体の縦断面の概要を示す図である。
【図4】実施例に係る抵抗率の評価用サンプルである積層構造体の測定システムを示す図である。
【図5】抵抗率の評価用サンプルに施した熱処理温度の違いによる抵抗率の変化を示す図である。
【図6】実施例に係る抵抗率の評価用サンプルの熱処理後におけるXPS分析の結果を示す図である。
【図7】比較例に係る抵抗率の評価用サンプルの熱処理後におけるXPS分析の結果を示す図である。
【図8】評価用サンプルのオーミック接合性及び銅層の抵抗率の測定システムを示す図である。
【図9】実施例4に係る評価用サンプルのオーミック接合性の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1、1a 配線構造
2、2a 積層構造体
3、3a 測定システム
10、12 シリコン層
20 下地層
22 銅合金層
25、26 拡散バリア層
30 銅層
32 純銅層
40 ガラス基板
50 直流電流源
52 プローブ針
55 電圧計
57 デジタルマルチメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン層と、
前記シリコン層上に設けられ、ニッケル(Ni)が添加された銅合金からなる下地層と、
前記下地層上に設けられる銅層と
を備え、
前記シリコン層と前記下地層との界面を含む領域で前記Niが濃化することにより、電気導電性を有する拡散バリア層が形成される配線構造。
【請求項2】
前記拡散バリア層は、前記シリコン層と前記下地層とが加熱された時に、前記シリコン層を構成するシリコン(Si)と、前記下地層の銅(Cu)と、前記界面に移動する前記Niとから形成される請求項1に記載の配線構造。
【請求項3】
前記拡散バリア層は、前記シリコン層にオーミック接触する請求項2に記載の配線構造。
【請求項4】
前記下地層は、拡散バリア性を発揮する前記拡散バリア層が形成されるNi濃度を有して前記シリコン層上に設けられる請求項3に記載の配線構造。
【請求項5】
前記銅層は、3N以上の純度の無酸素銅からなる請求項4に記載の配線構造。
【請求項6】
無酸素雰囲気下で、ニッケル(Ni)が添加された銅合金からなる下地層をシリコン層上に形成する下地層形成工程と、
前記下地層上に銅層を形成する銅層形成工程と、
前記シリコン層と前記下地層とに熱処理を施し、前記シリコン層と前記下地層との界面で前記Niを濃化させることにより、電気導電性を有する拡散バリア層を形成する拡散バリア形成工程と
を備える配線構造の製造方法。
【請求項7】
前記銅合金は、銅(Cu)と、前記Cuに5at%以上添加されるNiと、不可避的不純物とからなる請求項6に記載の配線構造の製造方法。
【請求項8】
前記拡散バリア形成工程は、真空中で200℃以上300℃以下の前記熱処理を前記シリコン層と前記下地層とに施す請求項7に記載の配線構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−98196(P2010−98196A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269196(P2008−269196)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】