説明

酸化亜鉛系薄膜、酸化亜鉛系基板、及び酸化亜鉛系基板の処理方法

【課題】Zn極性面(+c面)を有する酸化亜鉛系基板中の不純物含有量を十分に低減できる酸化亜鉛系基板の処理方法、不純物含有量が十分に低減された酸化亜鉛結晶を含有する酸化亜鉛系薄膜、及び該薄膜の形成に好適な、不純物含有量が十分に低減された酸化亜鉛系基板の提供。
【解決手段】一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有する酸化亜鉛系基板の処理方法であって、前記基板の表面のうち、Zn極性面(+c面)をドライエッチングすることにより、化学的に安定な第一の不純物含有層を除去する工程と、前記ドライエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、前記第一の不純物含有層よりも深い位置にある第二の不純物含有層を除去する工程と、を有することを特徴とする酸化亜鉛系基板の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛単結晶を含有する酸化亜鉛系薄膜、酸化亜鉛単結晶を含有し、前記薄膜の形成に好適な酸化亜鉛系基板、及び該基板を得るための酸化亜鉛系基板の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、酸化亜鉛系半導体結晶の結晶成長には、サファイア(Al)基板が使用されてきた。しかし、サファイア基板は、酸化亜鉛系半導体とは格子定数が大きく異なるため、該基板上で酸化亜鉛結晶を成長させると、多くの結晶欠陥が生じ、得られた結晶は素子へ使用することが困難であった。
一方、近年は、酸化亜鉛の単結晶を含有する酸化亜鉛系基板が実現され、酸化亜鉛系半導体の結晶成長への応用が期待されている。このような酸化亜鉛系基板を使用して酸化亜鉛結晶を成長させることで、サファイア基板を使用した時の問題点である結晶欠陥の発生を低減できる。
【0003】
さらに、酸化亜鉛系基板を使用する時の利点としては、基板表面の結晶の極性面にあわせて酸化亜鉛結晶の構造を制御できることが挙げられる。図9は、酸化亜鉛の結晶構造を示す図である。図9(a)に示すように、酸化亜鉛の結晶は六方晶構造を有し、結晶のc軸方向において、(b)に示すような+c面(以下、Zn極性面とも呼ばれる)と、(c)に示すような−c面(以下、O極性面とも呼ばれる)との二つの異なる極性面を有する。酸化亜鉛系基板を使用すると、この極性面にしたがって、Zn極性面(+c面)又はO極性面(−c面)を有する酸化亜鉛結晶を成長させることができるので、サファイア基板等を使用した場合よりも容易に、このような極性面を有する酸化亜鉛結晶の薄膜を形成させることができる。
【0004】
酸化亜鉛結晶をホモエピタキシャル成長させて形成した酸化亜鉛系薄膜を、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の発光デバイスへ適用するためには、ガリウム(Ga)等をドーピングしたn型酸化亜鉛系半導体結晶の薄膜と、窒素(N)等をドーピングしたp型酸化亜鉛系半導体結晶の薄膜とを作製し、これらを接合したpnホモ接合構造を実現する必要がある。しかし、p型酸化亜鉛系半導体結晶として実用に供し得るものは、これまでに実現されていないのが実情である。
【0005】
その理由としては、酸化亜鉛系基板中に含まれる不純物元素が、成長中の酸化亜鉛結晶に拡散して混入し易いことが挙げられる。得られた薄膜中にn型の不純物に相当する元素が存在すると、p型元素のドーピングによって生成した正孔が、不純物である前記n型元素によって打ち消されてしまい、キャリア濃度が大幅に低下してしまう。その結果、半導体結晶として実用的と言われる1×1017〜1×1018個/cm程度のキャリア濃度を実現できなくなってしまうのである。
一方で、酸化亜鉛系基板のZn極性面(+c面)上で形成された酸化亜鉛結晶は、窒素(N)等のp型元素を容易に取り込むことが知られており、良質なp型酸化亜鉛系半導体結晶を得るためには、Zn極性面(+c面)を有する酸化亜鉛系基板中における不純物の量を低減することが重要である。
【0006】
酸化亜鉛系基板中の不純物含有量を低減する方法としては、これまでに、高温の加熱炉中で酸化亜鉛系基板を加熱処理(アニール)し、次いで、酸性のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム塩と、アルカリ性のエチレンジアミン(EDA)とを含む溶液で基板表面をウェットエッチングして、リチウム(Li)元素の濃度を低減する方法(特許文献1参照)、基板表面を機械化学研磨(CMP)することで付着したシリカをアルカリ性水溶液で洗浄し、生じた亜鉛の水酸化物を、pH3以下の酸を使用したウェットエッチングに供する方法(特許文献2参照)、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−001787号公報
【特許文献2】特開2009−029688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び2の手法を、酸化亜鉛系基板のZn極性面(+c面)に適用すると、かかる極性面は、酸性やアルカリ性の水溶液に対して非常に安定なため、容易にエッチングできない。したがって、基板中の表面近傍に不純物が含有されていても、特許文献1及び2の手法では、不純物を十分に除去できないという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Zn極性面(+c面)を有する酸化亜鉛系基板中の不純物含有量を十分に低減できる酸化亜鉛系基板の処理方法、不純物含有量が十分に低減された酸化亜鉛結晶を含有する酸化亜鉛系薄膜、及び該薄膜の形成に好適な、不純物含有量が十分に低減された酸化亜鉛系基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
本発明は、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有する酸化亜鉛系基板の処理方法であって、前記基板の表面のうち、Zn極性面(+c面)をドライエッチングすることにより、化学的に安定な第一の不純物含有層を除去する工程と、前記ドライエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、前記第一の不純物含有層よりも深い位置にある第二の不純物含有層を除去する工程と、を有することを特徴とする酸化亜鉛系基板の処理方法を提供する。
本発明では、ドライエッチング後、そのエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、基板中の不純物元素の大半が含まれる不純物含有層が除去される。このため、処理後のZnO系基板は、不純物含有量が大幅に低減される。
前記一般式は、MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)と同義である。
【0011】
本発明の酸化亜鉛系基板の処理方法においては、pH4以下の水溶液を使用して、ウェットエッチングすることが好ましい。
本発明の酸化亜鉛系基板の処理方法においては、塩酸、リン酸、硝酸、酢酸及び硫酸からなる群から選択される一種以上の酸を使用して、ウェットエッチングすることが好ましい。
本発明の酸化亜鉛系基板の処理方法においては、常温下でウェットエッチングすることが好ましい。
本発明の酸化亜鉛系基板の処理方法においては、不活性ガスの元素をイオン化して基板表面に衝突させることにより、ドライエッチングすることが好ましい。
本発明の酸化亜鉛系基板の処理方法においては、前記基板の表面のO極性面(−c面)を耐酸性の金属膜で被覆した後、ウェットエッチングすることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の処理方法で処理された酸化亜鉛系基板の処理表面上で、ホモエピタキシャル成長により形成され、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有することを特徴とする酸化亜鉛系薄膜を提供する。
本発明のZnO系薄膜は、上記処理によって不純物含有量が大幅に低減された酸化亜鉛系基板の処理表面上に形成されるため、n型の不純物の含有量が極めて低くなる。
前記一般式は、MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)と同義である。
【0013】
本発明の酸化亜鉛系薄膜においては、リチウム元素、アルミニウム元素及びケイ素元素について、下記(1)〜(3)のいずれか一つ以上を充足することが好ましい。
(1)リチウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(2)アルミニウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(3)ケイ素元素の濃度が3×1017個/cm以下である。
【0014】
本発明の酸化亜鉛系薄膜においては、窒素元素の濃度が2×1019個/cm以上であることが好ましい。窒素(N)濃度をこの範囲とすることによって、キャリア(正孔)の濃度を十分に高めることができる。
【0015】
また、本発明は、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有し、リチウム元素、アルミニウム元素及びケイ素元素について、下記(I)〜(III)のいずれか一つ以上を充足することを特徴とする酸化亜鉛系基板を提供する。
(I)リチウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(II)アルミニウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(III)ケイ素元素の濃度が3×1017個/cm以下である。
前記一般式は、MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)と同義である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Zn極性面(+c面)を有する酸化亜鉛基板中の不純物含有量を十分に低減できるので、不純物含有量が十分に低減された酸化亜鉛結晶を含有する酸化亜鉛薄膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1、比較例1〜2の処理後のZnO基板と、試験例1の未処理のZnO系基板中のLiの濃度の測定データを示す図である。
【図2】実施例1、比較例1〜2の処理後のZnO基板と、試験例1の未処理のZnO系基板中のAlの濃度の測定データを示す図である。
【図3】実施例1、比較例1〜2の処理後のZnO基板と、試験例1の未処理のZnO系基板中のSiの濃度の測定データを示す図である。
【図4】実施例2の処理後のZnO基板と、実施例3のZnO薄膜中のLi、Al、Na及びKの濃度の測定データを示す図である。
【図5】比較例3で使用した未処理のZnO系基板中のAl及びSiの濃度の測定データを示す図である。
【図6】比較例3のZnO薄膜中のAl及びSiの濃度の測定データを示す図である。
【図7】実施例4の処理後のZnO基板と、ZnO薄膜中のN、Na、K、Li、及びAlの濃度の測定データを示す図である。
【図8】比較例4で使用した未処理のZnO基板と、ZnO薄膜中のN、Na、K、Li、及びAlの濃度の測定データを示す図である。
【図9】酸化亜鉛の結晶構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<酸化亜鉛系基板の処理方法>
本発明の酸化亜鉛(以下、ZnOと略記することがある)系基板の処理方法は、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有するZnO系基板の処理方法であって、前記基板の表面のうち、Zn極性面(+c面)をドライエッチングすることにより、化学的に安定な第一の不純物含有層を除去する工程と、前記ドライエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、前記第一の不純物含有層よりも深い位置にある第二の不純物含有層を除去する工程と、を有することを特徴とする。
前記一般式は、MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)と同義である。
前記ZnO系基板は、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」または「MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)」で表される組成を有する。
本発明の処理方法は、ドライエッチング及びウェットエッチングを組み合わせて行うことにより、ZnO系基板中の不純物を含有する層(第一の不純物含有層、第二の不純物含有層)を除去して、ZnO系基板中の不純物含有量を大幅に低減する初めての方法を提供するものである。
【0019】
未処理のZnO系基板では、不純物元素の大半は、基板表面から約0.4μm程度の深さまでに存在することが、本発明者らの検討により、明らかになっている。そこで、本発明においては、このような表面近傍の領域を除去することで、ZnO系基板の不純物含有量を低減する。
【0020】
本発明において、含有量低減の対象となる不純物元素は、p型酸化亜鉛系半導体結晶において、n型の不純物に相当する元素であり、具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)等が例示できる。本発明によれば、このようなn型の不純物元素の一種以上を低減できる。そして、これらの中でも、通常、ZnO系基板中の含有量が比較的高いLi、Al、Siを低減することが重要となる。
また、本発明によれば、処理に供するZnO系基板によっては、その他の不純物元素も低減でき、このようなその他の不純物元素の種類は、特に限定されるものではない。
【0021】
処理に供する前記ZnO系基板は、Zn極性面(+c面)を有し、表面側から第一の不純物含有層及び第二の不純物含有層をこの順に有する。
前記第一の不純物含有層は、基板の最も表面側に位置し、不純物を含有すると共に化学的に安定な層であり、その表面には不純物が付着又は結合していることもある。そして、第一の不純物含有層の最下部は、通常、基板表面から好ましくは0.05〜0.4μm、より好ましくは0.1〜0.3μm程度の距離に位置する。
前記第二の不純物含有層は、第一の不純物含有層よりも深い位置にあり、不純物を含有すると共に第一の不純物含有層よりも反応性が高い層である。そして、第二の不純物含有層の最下部は、通常、第一の不純物含有層の最下部から好ましくは0.3〜0.9μm、より好ましくは0.5〜0.7μm程度の距離に位置する。
【0022】
Zn極性面は、上記の説明のように、ZnO結晶のc軸方向において、Zn(亜鉛原子)のみが配置される+c面のことである。Zn極性面ではZn(亜鉛原子)が最上面に配置される。
これに対して、O極性面は、c軸方向において、O(酸素原子)のみが最上面に配置される−c面のことである。O極性面ではO(酸素原子)が最上面に配置される。
【0023】
本発明においては、未処理のZnO系基板表面のZn極性面(+c面)をドライエッチングすることにより、第一の不純物含有層を除去する。この時、第一の不純物含有層と共に、第二の不純物含有層の一部を除去しても良い。その結果、基板中の不純物含有量を低減できると共に、第二の不純物含有層を露出させることができる。ドライエッチングを適用することで、第一の不純物含有層は極めて容易に除去される。
一方、Zn極性面(+c面)は、酸やアルカリに対して安定であるため、ウェットエッチングでは、第一の不純物層を十分に除去できず、その結果、基板中の不純物含有量を十分に低減できない。
【0024】
ドライエッチングは公知の方法で行えば良く、特に限定されないが、イオンスパッタリング法の手法を適用し、不活性ガスの元素をイオン化して基板表面に衝突させる手法を適用するのが好ましい。不活性ガスの元素としては、アルゴン(Ar)等の希ガス元素が例示できる。かかる手法におけるエッチング条件は、適宜調節すれば良いが、例えば、RFスパッタリングの技術を適用して、RF出力50〜200W、希ガス圧力0.2〜5Paの条件下、60〜180分間エッチングすることが好ましい。エッチングの深さは、エッチング時間等で適宜調節できる。
【0025】
ドライエッチング後は、そのエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、第二の不純物含有層を除去する。これにより、基板中の不純物含有量をさらに低減できる。
そして、基板中の不純物元素の大半が含有されていた、第一及び第二の不純物含有層が除去されるので、処理後のZnO系基板は、不純物含有量が大幅に低減されたものとなる。
また、ドライエッチング後のエッチング面は、通常、凹凸が多かったり、結晶構造中に欠陥を含む等のダメージを受けたりしており、荒れている。しかし、このような荒れたエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、最終的にエッチング面はダメージが無く、滑らかで凹凸の少ないものとなる。処理後の基板表面は、ZnO系薄膜の結晶成長に使用されるので、高品質なZnO系薄膜を形成させるためには、処理後の基板表面をダメージと凹凸の少ないものとすることは重要であり、本発明の処理方法で得られた基板は、このような目的に極めて適したものである。
【0026】
ウェットエッチングは公知の方法で行えば良く、特に限定されない。
例えば、エッチング液に基板を浸漬するディップ式でも良いし、エッチング液を基板に吹きつけるスプレー式でも良く、回転している基板にエッチング液を滴下するスピン式でも良い。
【0027】
エッチング液としては水溶液が好ましく、かかる水溶液は、酸と水を混合することで調製できる。
ウェットエッチングにおけるその他の条件は、エッチング液の種類等に応じて適宜調節すれば良い。
【0028】
エッチング液に使用する酸は特に限定されないが、入手の容易さや取り扱い易さ等の観点から、塩酸、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸等の無機酸が好ましいものとして例示できる。
酸は一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0029】
エッチング液のpHは、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。下限値は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、実用性を考慮すると0.5〜1.0程度である。pHを上限値以下とすることで、一層速やかにエッチングできる。
【0030】
本発明においては、塩酸、リン酸、硝酸、酢酸及び硫酸からなる群から選択される一種以上の酸を使用して、ウェットエッチングすることが好ましい。
【0031】
エッチング時の温度は、常温であることが好ましく、15〜30℃程度であることが好ましい。ウェットエッチングは、第一の不純物含有層が除去されて露出された、反応性が高い第二の不純物含有層に対して行うので、エッチング液の加熱等を行わなくても、常温で速やかにエッチングできる。したがって、エッチング液の加熱装置や、温度制御装置等を使用することなく、簡便且つ迅速に第二の不純物含有層を除去できる。
【0032】
エッチング時間は、エッチング液のpH等に応じて調節することが好ましく、pHが上記範囲内である場合には、5〜30分であることが好ましく、10〜20分であることがより好ましい。下限値以上とすることで、第二の不純物含有層を十分に除去でき、上限値以下とすることで、必要以上にエッチングすることを抑制できる。
【0033】
本発明においては、ZnO系基板の表面のO極性面(−c面)を耐酸性の金属膜で被覆した後、ウェットエッチングすることが好ましい。このようにすることで、O極性面(−c面)の荒れを効果的に抑制できる。
O極性面(−c面)はZn極性面(+c面)とは異なり、酸やアルカリに対して不安定であるため、ウェットエッチング時に、第二の不純物含有層と共にエッチングされてしまうことがある。この時、エッチング速度が極めて速く、基板表面に多数のエッチピットを形成したりして、表面が荒れてしまう。しかし、O極性面(−c面)を耐酸性の金属膜で被覆すれば、このような荒れが抑制される。
【0034】
前記金属膜を構成する金属としては、耐酸性を有するものであれば良く、好ましいものとして、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、金(Au)等が例示できる。
前記金属膜の厚さは、使用するエッチング液の種類等を考慮し、ウェットエッチング中にO極性面(−c面)を安定して被覆できるように、適宜設定すれば良い。
前記金属膜は、スパッタリング法等、公知の方法で形成すれば良く、金属の種類等に応じて適宜選択すれば良い。
前記金属膜は、ウェットエッチング前に形成すれば良く、例えば、ドライエッチング前後のいずれで形成しても良い。
【0035】
本発明のZnO系基板の処理方法によれば、未処理の基板の表面近傍に存在する不純物元素を除去することで、不純物含有量が大幅に低減されたZnO系基板が得られる。不純物元素としては、n型の不純物に相当するLi、Na、K、Al、Si等が例示でき、特に、基板の表面近傍における含有量が比較的高いLi、Al、Siの低減に、本発明の処理方法は極めて有用である。
【0036】
<酸化亜鉛系基板>
本発明の酸化亜鉛(ZnO)系基板は、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有し、リチウム元素(Li)、アルミニウム元素(Al)及びケイ素元素(Si)について、下記(I)〜(III)のいずれか一つ以上を充足することを特徴とする。
(I)Liの濃度が1×1016個/cm以下である。
(II)Alの濃度が1×1016個/cm以下である。
(III)Siの濃度が3×1017個/cm以下である。
前記一般式は、MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)と同義である。
本発明のZnO系基板は、ZnO単結晶を含有し、例えば、上記本発明の処理方法でZnO系基板を処理することで得られる。
【0037】
Li、Al及びSiの濃度は、例えば、二次イオン質量分析(以下、SIMSと略記する)によって測定できる。具体的な測定条件は、測定対象の元素の種類等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0038】
(I)〜(III)の数値の根拠は、以下の通りである。
未処理のZnO系基板中には、通常、n型の不純物が1×1018個/cm程度の濃度で含有されていることが多く、特に基板表面の近傍には大半の不純物が存在し、局部的な濃度が1×1020個/cm程度にまで達することがある。
一方、薄膜にドーパントを添加して、キャリアを生じさせた場合の活性化率は、前記ドーパント及びキャリアの濃度によって、以下の式で表される。
[活性化率]=[キャリアの濃度]/[ドーパントの濃度]
ここで、「キャリア」は、ドーパントがp型の場合は正孔となり、n型の場合には電子となる。すなわち、活性化率が大きいほど、同じドーパントの濃度で比較した場合、多くのキャリアが発生する。ZnO系薄膜において活性化率は、ドーパントがn型の場合にはほぼ1であるのに対し、ドーパントがp型の場合には0.01程度であると考えられる。
そして、ZnO系薄膜を半導体素子の製造に利用する場合、キャリアの濃度は1×1017個/cm以上必要になると言われている。したがって、必要とされるドーパントの濃度は、p型の場合には1×1019個/cm以上、n型の場合には1×1017個/cm以上となる。
例えばZnO系薄膜中にp型のドーパントを1×1019個/cm以上添加することによってキャリア(正孔)の濃度を1×1017個/cm以上とした場合でも、n型の不純物が存在すると、それに相当する濃度のキャリア(正孔)は打ち消されてしまう。例えばn型不純物が1×1017個/cm程度存在すると、前記キャリア(正孔)はすべて打ち消される。
【0039】
しかしながら、p型の薄膜中におけるn型不純物の濃度を0にする事は実質的に困難である。
ここで例えば、p型のドーパントを2×1019個/cmの濃度となるように添加すれば、p型のドーパントによるキャリア(正孔)の濃度は2×1017個/cmとなる。この時、薄膜中に含有される主要なn型の不純物であるLi、Si、Alの濃度が、それぞれ1×1016個/cmである場合には、生じた電子によって打ち消される分を差し引いて、薄膜中の正孔の濃度は1.7×1017個/cmとなり、このような薄膜は、p型半導体素子として十分有用なものとなる。
一方、n型不純物の濃度が上記の値よりも大きい場合には、その分だけp型ドーパントの添加量を増やす必要がある。これは、技術的に、より難しいことが予想され、さらに、ドーパントの添加量が増えることによって、薄膜の結晶性等が悪影響を受けることも懸念される。
そこで、本発明においては、Li、Al及びSiについて、濃度の上限値を(1)〜(3)のように設定している。上限値がこの程度であれば、ZnO系薄膜中への拡散量を考慮しても、ZnO系薄膜は半導体素子として有用なものになる。Siの濃度が1×1016個/cm以下ではなく、3×1017個/cm以下である理由は、SIMSによる検出限界が、3×1017個/cm程度であるからである。
【0040】
p型のドーパントとしては、窒素(N)(窒素元素)が好ましい。ZnO系薄膜の窒素(N)の濃度は1×1019個/cm以上が好ましい。窒素(N)濃度をこの範囲とすることによって、キャリア(正孔)の濃度を十分に高めることができる。
ZnO系薄膜の窒素(N)の濃度は、例えばドープ量1atom%のときは4×1020個/cm以下とすることができる。
【0041】
本発明のZnO系基板は、不純物元素の含有量が極めて低いので、不純物含有量が極めて低いZnO系薄膜を形成できる。そして、かかる薄膜は、後述するようにp型ZnO系半導体の作製に極めて有用である。
【0042】
<酸化亜鉛系薄膜>
本発明の酸化亜鉛(ZnO)系薄膜は、上記本発明の処理方法で処理されたZnO系基板の処理表面上で、ホモエピタキシャル成長により形成され、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有することを特徴とする。
前記一般式は、MgZn1−yO(式中、yは、0≦y<1を満たす数である。)と同義である。
本発明のZnO系薄膜は、ZnO単結晶を含有し、公知の方法で形成できる。好ましい方法として具体的には、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)法(以下、MBE法と略記する)が例示できる。
【0043】
MBE法においては、例えば、処理後のZnO系基板を、1×10−6Pa以下の圧力まで減圧した成膜室内に配置して、Zn蒸気とOラジカルを発生させ、これらを加熱したZnO系基板のZn極性面(+c面)上に蒸着させれば良い。この時の基板の加熱温度は、800〜900℃程度であることが好ましい。
【0044】
前記ZnO系薄膜の厚さは、公知の薄膜と同様とすることができ、目的に応じて適宜調節すれば良く、例えば、350nm以下とすることができる。ZnO系薄膜の厚さは、膜形成の時間等により調節すれば良い。
【0045】
前記ZnO系薄膜の好ましいものとしては、Li、Al及びSiについて、下記(1)〜(3)のいずれか一つ以上を充足するものが例示できる。
(1)Liの濃度が1×1016個/cm以下である。
(2)Alの濃度が1×1016個/cm以下である。
(3)Siの濃度が3×1017個/cm以下である。
これは、ZnO系薄膜の形成に使用するZnO系基板が、前記(I)〜(III)のいずれか一つ以上を充足することによる。ZnO系基板中の全ての不純物元素が、ZnO系薄膜中に拡散及び混入する訳ではないので、必然的にZnO系薄膜は、前記(1)〜(3)のいずれか一つ以上を充足することになる。
【0046】
本発明のZnO系薄膜は、n型の不純物に相当するLi、Na、K、Al、Si等、特にLi、Al、Siの含有量(元素濃度)が極めて低いので、p型ドーパントの添加によるp型ZnO系半導体の作製に極めて有用である。
【実施例】
【0047】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0048】
<ZnO系基板の処理>
[実施例1]
Arガスを使用し、RF出力100W、ガス圧1.0Paの条件で、室温(常温)下において120分間RFスパッタリングすることにより、ZnO系基板のZn極性面(+c面)に対して、ドライエッチングを行った。これにより、Zn極性面(+c面)の表面から約0.2μmの深さまでエッチングし、基板表面の第一の不純物含有層を除去した。
次いで、37%塩酸を純水で33倍に希釈して、エッチング液としてpH約1.5の塩酸水溶液を調製し、この塩酸水溶液中に、上記で得られたZnO系基板を室温下で15分間浸漬することにより、ウェットエッチングを行った。これにより、ドライエッチングされた面を、さらにこの面から約0.6μmの深さまでエッチングし、第二の不純物含有層を除去した。
【0049】
このように、ドライエッチング及びウェットエッチングをこの順で行って得られた処理後のZnO系基板について、SIMSにより、基板中に含まれる不純物元素の濃度を測定した。Li、Al及びSiの測定データを図1〜3に示す。図1はLiの濃度の測定データを示す図であり、図2はAlの濃度の測定データを示す図であり、図3はSiの濃度の測定データを示す図である。なお、図1〜3では、未処理のZnO系基板についての測定データもあわせて示した(試験例1)。また、それぞれの元素の平均濃度を算出したので、その結果を表1に示す。
【0050】
なお、試験例1の未処理のZnO系基板は、SIMSを行う際に、外界から基板内部への影響を防ぐため、表面に保護膜を形成しており、これをそのままの状態でSIMSに供した。そこで、図1〜3においては、横軸の「0(原点)」を保護膜の表面に設定した。
そして、試験例1では第一の不純物含有層の表面(基板の真の表面)の位置を、実施例1ではウェットエッチングで第二の不純物含有層が除去されて露出された表面の位置を、それぞれ図中の点線Xに位置合わせした。したがって、実施例1では、この位置よりも浅い深さ方向(点線Xよりも左側)のデータは、ノイズとみなせる。また保護膜の厚さが0.5μm強であることが判る。
【0051】
[比較例1]
ウェットエッチングを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にZnO系基板を処理し、処理後の基板中に含まれる不純物元素の濃度を測定した。基板中に含まれるLi、Al及びSiの濃度の測定データを図1〜3に示す。また、それぞれの元素の平均濃度の算出結果を表1に示す。
なお、図1〜3において、比較例1では、ドライエッチング後の露出された表面(第二の不純物含有層の表面)の位置を、図中の点線Xに位置合わせした。したがって、この位置よりも浅い深さ方向(点線Xよりも左側)のデータは、ノイズとみなせる。
【0052】
[比較例2]
ドライエッチングを行わず、未処理のZnO系基板をウェットエッチングに供したこと以外は、実施例1と同様にZnO系基板を処理し、処理後の基板中に含まれる不純物元素の濃度を測定した。基板中に含まれるLi、Al及びSiの濃度の測定データを図1〜3に示す。また、それぞれの元素の平均濃度の算出結果を表1に示す。
なお、図1〜3において、比較例2では、ウェットエッチング後の露出された表面の位置を、図中の点線Xに位置合わせした。したがって、この位置よりも浅い深さ方向(点線Xよりも左側)のデータは、ノイズとみなせる。
【0053】
図1〜3及び表1から明らかなように、本発明の処理方法で得られたZnO系基板(実施例1)は、未処理のZnO系基板(試験例1)並びに比較例1及び2のZnO系基板よりも、n型の不純物に相当するLi、Al、Siの濃度が顕著に低減されていた。
【0054】
【表1】

【0055】
[実施例2]
Arガスを使用し、RF出力100W、ガス圧1.0Paの条件で、室温(常温)下において120分間RFスパッタリングすることにより、ZnO系基板のZn極性面(+c面)に対して、ドライエッチングを行った。これにより、Zn極性面(+c面)の表面から約0.2μmの深さまでエッチングし、基板表面の保護膜と第一の不純物含有層とを除去した。
次いで、基板表面のうち、O極性面(−c面)に対して、スパッタリングによりMoを蒸着した。
次いで、37%塩酸を純水で33倍に希釈して、エッチング液としてpH約1.5の塩酸水溶液を調製し、この塩酸水溶液中に、上記で得られたMo蒸着済みのZnO系基板を室温下で15分間浸漬することにより、ウェットエッチングを行った。これにより、ドライエッチングされた面を、さらにこの面から約0.6μmの深さまでエッチングし、第二の不純物含有層を除去した。この時、基板のO極性面(−c面)は、酸に対するMoの保護作用により、実施例1の場合よりも顕著に荒れを抑制できた。
【0056】
上記処理後のZnO系基板について、実施例1の場合と同様に、基板中に含まれる不純物元素の濃度を測定した。Li、Al、Na及びKの測定データを図4に示す。
【0057】
なお、図4においては、点線Xで示すように、横軸の「0(原点)」をZnO系基板のエッチングされた表面(Zn極性面(+c面))に設定し、該表面からZnO系基板の反対側の表面に向かう方向を、正の深さ方向に設定した。そこで、後述する実施例3のZnO系薄膜の表面は、負の深さ方向(「−0.25μm」の位置)にある。
【0058】
図4から明らかなように、ZnO系基板中のAlの濃度は、SIMSにおけるバックグラウンド程度の値にまで低減できた。また、Li、Na及びKの濃度は、SIMSにおける検出限界程度の値にまで低減できた。
【0059】
<ZnO薄膜の製造>
[実施例3]
実施例2で得られたZnO系基板を使用して、処理後のZn極性面(+c面)上に、MBE法によって、ノンドープ(アンドープ)ZnO系薄膜をホモエピタキシャル成長により形成させた。具体的には、以下の通りである。
処理後のZnO系基板を、1.33×10−7Pa(1×10−9Torr)以下の圧力まで減圧した超高真空成長室内に配置した。Znは純度が99.9999%(6N)のものをるつぼに入れて超高真空中で加熱し、蒸発させた。この時の亜鉛(Zn)の蒸気圧は、4.13×10−5Pa(3.1×10−7Torr)であった。また、チャンバ内の酸素分圧を1.33×10−3Pa(1×10−5Torr)に設定し、13.56MHz、200Wの高周波によって励起させたRFプラズマにより、酸素(O)ラジカルを発生させた。そして、発生したZn蒸気とOラジカルを、850℃に加熱したZnO系基板のZn極性面(+c面)上に蒸着させることにより、ZnO系薄膜をホモエピタキシャル成長させた。得られたZnO系薄膜の厚さは約250nmであった。
得られたZnO系薄膜について、実施例2の場合と同様に、薄膜中に含まれる不純物元素の濃度を測定した。Li、Al、Na及びKの測定データを図4に示す。
【0060】
図4から明らかなように、ZnO系薄膜中のAlの濃度は、SIMSにおけるバックグラウンド程度の値であった。また、Li、Na及びKの濃度は、SIMSにおける検出限界程度の値であった。このように、ZnO系薄膜中のLi、Al、Na及びKの濃度は、実施例2のZnO系基板中における濃度と同等であり、ZnO系基板からZnO系薄膜への、不純物元素の拡散及び混入も抑制できたことが確認できた。そして、得られたZnO系薄膜は、p型元素のドーピングによって生成した正孔が、n型の不純物によって打ち消されてしまうことがない、十分なキャリア濃度有するp型酸化亜鉛半導体結晶の薄膜の作製に好適なものであった。
【0061】
[比較例3]
試験例1の場合と同様に、外界から基板内部への影響を防ぐために、未処理のZnO系基板の表面に保護膜を形成して、これをSIMSに供した。この時の未処理のZnO系基板中のAl及びSiの測定データを図5に示す。
次いで、保護膜を形成していない上記の未処理のZnO系基板を使用したこと以外は、実施例3と同様に、ZnO系薄膜を作製し、薄膜中に含まれる不純物元素の濃度を測定した。この時のZnO系薄膜中のAl及びSiの測定データを図6に示す。
【0062】
なお、図5においては、図1〜3と同様に、横軸の「0(原点)」を保護膜の表面に設定した。そして、第一の不純物含有層の表面(基板の真の表面)の位置を、図中の点線Xに位置合わせした。
また、図6においては、横軸の「0(原点)」をZnO系薄膜の表面に設定した。そして、図中の点線Xは、第一の不純物含有層の表面(基板の真の表面)の位置を示す。
【0063】
図5から明らかなように、ZnO系基板の表面近傍(表面に近い浅い位置)には、第一の不純物含有層が存在するので、Al及びSiが、1×1020個/cm程度含まれていた。そして、これら元素は、図6から明らかなように、基板中から基板上に形成された薄膜中に拡散し、混入していることが確認できた。
【0064】
<不純物含有層を除去したZnO系基板上に窒素ドープZnO系薄膜を形成>
[実施例4]
ZnO系基板に、次のような基板処理を行った。
Arガスを使用し、RF出力100W、ガス圧1.0Paの条件で、室温(常温)下において120分間RFスパッタリングすることにより、ZnO系基板のZn極性面(+c面)に対してドライエッチングを行った。
次いで、基板表面のうち、O極性面(−c面)に対して、スパッタリングによりMoを蒸着した。
次いで、37%塩酸を純水で33倍に希釈して、エッチング液として塩酸水溶液を調製し、この塩酸水溶液中に、上記Mo蒸着済みのZnO系基板を室温下で15分間浸漬することにより、ウェットエッチングを行った。これにより、ドライエッチングされた面をさらにエッチングした。この際、基板のO極性面(−c面)は、酸に対するMoの保護作用により荒れを抑制できた。
【0065】
上記基板処理(ドライエッチング、Mo蒸着及びウェットエッチング)を行って得られた処理後のZnO系基板のZn極性面(+c面)上に、MBE法を用いて、p型ドーパントである窒素(N)をドープしたZnO系薄膜をホモエピタキシャル成長により形成した。具体的には以下のとおりである。
処理後のZnO系基板を、1.33×10−7Pa(1×10−9Torr)以下の圧力まで減圧した超高真空成長室内に配置した。Znは純度が99.9999%(6N)のものをるつぼに入れて超高真空中で加熱し、蒸発させた。この時の亜鉛(Zn)の蒸気圧は、4.13×10−5Pa(3.1×10−7Torr)であった。
また、酸素(O)をチャンバ内に導入し(酸素流量1.2sccm)、チャンバ内の酸素分圧を1.33×10−3Pa(1×10−5Torr)に設定し、13.56MHz、300Wの高周波によって励起させたRFプラズマにより、酸素(O)ラジカルを発生させた。
また、窒素(N)のドープを行うため、窒素(N)をチャンバに導入し(窒素流量0.55sccm)、13.56MHz、280Wの高周波によって励起させたRFプラズマにより窒素(N)ラジカルを発生させた。
これら亜鉛(Zn)蒸気、酸素(O)ラジカルおよび窒素(N)ラジカルを、750℃に加熱したZnO系基板のZn極性面(+c面)上に蒸着させることにより、窒素(N)ドープZnO系薄膜をホモエピタキシャル成長させた。得られたZnO系薄膜の厚さは約350nmであった。
得られたZnO系薄膜およびZnO系基板に含まれる不純物元素の濃度をSIMSにより測定した。測定データを図7に示す。
【0066】
図7から明らかなように、Alについては基板と薄膜の界面領域で3.0×1016個/cm程度検出されたものの、それ以外の領域では、Al濃度はSIMSにおけるバックグラウンド程度の値であった。また、Li、Na及びKの濃度は、SIMSにおける検出限界程度の値にまで低減できた。このことから、この基板上に高温でZnO系薄膜を成長させても、不純物元素が基板から薄膜に拡散することはなかったことがわかる。
窒素については、薄膜の領域では全域にわたって約1.0×1020個/cm程度と、ほぼ均一な濃度でドープされていることがわかる。
これは、ZnO系薄膜中に窒素が均一な濃度で取り込まれたことを示している。また、取り込まれた窒素が薄膜内の一部領域に集中したり基板に拡散することはないこともわかる。このように不純物が低減されたZnO系基板上に、高濃度の窒素ドープZnO系薄膜を形成することができた。これによって、p型ドーパントである窒素によって発生した正孔がn型の不純物元素によって打ち消されず、高いキャリア濃度を持つp型ZnO系薄膜を形成することができた。
【0067】
<不純物含有層を除去していないZnO系基板上に窒素ドープZnO系薄膜を形成>
[比較例4]
実施例4に示す基板処理(ドライエッチング、Mo蒸着及びウェットエッチング)を行っていない未処理のZnO系基板上に、窒素ドープZnO系薄膜をホモエピタキシャル成長により形成した。
窒素ドープZnO系薄膜は、窒素(N)ラジカルの生成のためのRFプラズマの出力が260Wであること、およびZnO系基板の加熱温度が850℃であること以外は実施例4に準じて形成した。得られたZnO系薄膜の厚さは約350nmであった。
得られたZnO系薄膜およびZnO系基板に含まれる不純物元素の濃度をSIMSにより測定した。測定データを図8に示す。
窒素については、薄膜の領域では全域にわたって1.0×1020個/cm程度と、ほぼ均一な濃度でドープされていることがわかる。
しかしながら、ZnO系薄膜中には、基板と薄膜の界面領域を中心として、n型不純物(Li、Na、K)の濃度が高くなっている。特にAlについては、基板と薄膜の界面領域に5.0×1019個/cm程度と高い濃度で存在していることがわかった。
n型不純物がこのような高濃度で存在する場合には、窒素などのp型ドーパントを添加しても発生したキャリア(正孔)がn型不純物によって打ち消されてしまうため、p型ZnO系薄膜の形成が難しくなる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、各種半導体素子の製造に利用可能であり、特に、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の発光デバイスの製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有する酸化亜鉛系基板の処理方法であって、
前記基板の表面のうち、Zn極性面(+c面)をドライエッチングすることにより、化学的に安定な第一の不純物含有層を除去する工程と、前記ドライエッチング面をさらにウェットエッチングすることにより、前記第一の不純物含有層よりも深い位置にある第二の不純物含有層を除去する工程と、
を有することを特徴とする酸化亜鉛系基板の処理方法。
【請求項2】
pH4以下の水溶液を使用して、ウェットエッチングすることを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛系基板の処理方法。
【請求項3】
塩酸、リン酸、硝酸、酢酸及び硫酸からなる群から選択される一種以上の酸を使用して、ウェットエッチングすることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化亜鉛系基板の処理方法。
【請求項4】
常温下でウェットエッチングすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系基板の処理方法。
【請求項5】
不活性ガスの元素をイオン化して基板表面に衝突させることにより、ドライエッチングすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系基板の処理方法。
【請求項6】
前記基板の表面のO極性面(−c面)を耐酸性の金属膜で被覆した後、ウェットエッチングすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系基板の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の処理方法で処理された酸化亜鉛系基板の処理表面上で、ホモエピタキシャル成長により形成され、一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有することを特徴とする酸化亜鉛系薄膜。
【請求項8】
リチウム元素、アルミニウム元素及びケイ素元素について、下記(1)〜(3)のいずれか一つ以上を充足することを特徴とする請求項7に記載の酸化亜鉛系薄膜。
(1)リチウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(2)アルミニウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(3)ケイ素元素の濃度が3×1017個/cm以下である。
【請求項9】
窒素元素の濃度が、2×1019個/cm以上であることを特徴とする請求項7または8に記載の酸化亜鉛系薄膜。
【請求項10】
一般式「ZnMg1−xO(式中、xは、0<x≦1を満たす数である。)」で表される組成を有し、リチウム元素、アルミニウム元素及びケイ素元素について、下記(I)〜(III)のいずれか一つ以上を充足することを特徴とする酸化亜鉛系基板。
(I)リチウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(II)アルミニウム元素の濃度が1×1016個/cm以下である。
(III)ケイ素元素の濃度が3×1017個/cm以下である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−230996(P2011−230996A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269684(P2010−269684)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】