説明

酸化膜形成方法、MOSデバイス製造方法、MOSトランジスタ製造方法、SiOx粉末、及びSiOx粉末製造方法

【課題】ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を窒化物半導体の上に作成する。
【解決手段】本発明による酸化膜形成方法は、SiOx粉末を原料として用いる真空蒸発により、窒化物半導体部材の上にSiOx膜を堆積する工程と、堆積された前記SiOx膜を、酸化雰囲気で紫外線を照射しながら加熱することによって酸化する工程と備えている。原料のSiOx粉末は、下記特性を有している:(1)フーリエ変換赤外分光分析(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)によって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れる。(2)ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れない。(3)X線光電子分光分析(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)によって得られたXPSスペクトルにおいて、SiOのSi−O結合に対応するピーク(約103eV)とSiの2p軌道のSi−Si結合のピーク(約99eV)とが現れ、且つ、Si−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化膜形成方法、MOS(metal oxide semiconductor)デバイス製造方法、SiOx粉末、及びSiOx粉末製造方法に関し、特に、GaNのような窒化物半導体を用いて良好な特性を有するMOS構造を形成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンと比較して高い絶縁破壊電界、高い飽和速度、高い電子移動度、及び良好な熱伝導性を有する窒化物半導体を用いた窒化物半導体電子デバイスは、シリコン電子デバイスよりも優れた性能を実現する電子デバイスとして期待されている。
【0003】
しかしながら、窒化物半導体電子デバイスの普及は、現段階では限られている。現在までに実用化された窒化物半導体電子デバイスとしては、GaNとAlGaNとのヘテロ接合を利用したHEMT(high electron mobility transistor)が挙げられる。しかし、HEMTは、アナログ回路に使用される電子デバイスである上、複雑な構造、大きなゲート電流、ノーマリオフのデバイスの作成の困難性等の様々な問題がある。
【0004】
窒化物半導体でMOS構造を作成することができれば、窒化物半導体電子デバイスが様々な用途に応用可能になる。例えば、PMOSトランジスタ及びNMOSトランジスタを窒化物半導体で実現することができれば、窒化物半導体によってCMOS集積回路を作成可能になり、これは、窒化物半導体電子デバイスの応用を大きく広げることになる。
【0005】
窒化物半導体で良好な特性を有するMOS構造を実現するための一つの障害は、ゲート絶縁膜の形成の困難性である。シリコン基板の上に高品位のシリコン酸化膜を形成することが容易である一方、窒化物半導体の上に高品位のシリコン酸化膜を形成することは、一般に、困難である。
【0006】
SiO粉末を原料として用いる真空蒸着は、低温のプロセスで高品位のシリコン酸化膜を形成するために有望な技術の一つであると考えられている。ここで、「SiOx粉末」とは、シリコンが完全に酸化されたSiO粉末ではない、酸化されていないシリコンを含んでいるような粉末を意味している。例えば、Sameshima et al., "Improvement of SiO2 Properties an Silicon Surface Passivation by Heat Treatment with High-Pressure H2O Vapor", Jpn. J. Appl. Phys. Vol.37 (1998) pp. L1452-L1454は、高圧の水蒸気で熱処理することにより、真空蒸着によって形成されたSiOx膜(x<2)の特性を向上させる技術を開示している。更に、本願の一出願人は、特開2004−331480号公報において、シリコン集積回路におけるゲート酸化膜に利用可能な、良好な絶縁破壊電圧を有する絶縁膜を真空蒸着で形成するために好適なSiOx粉末の製造方法を開示している。また、Nakamura et al., "Infrared absorption spectra and compositions of evaporated silicon oxides (SiOx)", Solid State Communications, Vol. 50, No. 12, pp. 1079-1081, 1984は、SiO粉末を原料として用いる真空蒸着によって得られたSiOx膜の赤外吸収スペクトルについて議論している。
【0007】
しかしながら、発明者の検討によれば、上述の技術では、ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を窒化物半導体の上に作成するためには充分でない。より具体的には、上記の技術で作成された酸化膜は、絶縁性が充分に高くなく、また、半導体/酸化膜界面の準位密度や、酸化膜中の電荷密度が充分に低くない。したがって、ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を低温プロセスで窒化物半導体の上に作成し、これにより、良好な特性を有するMOS構造を実現するための技術の提供が望まれている。
【非特許文献1】Sameshima et al., "Improvement of SiO2 Properties an Silicon Surface Passivation by Heat Treatment with High-Pressure H2O Vapor", Jpn. J. Appl. Phys. Vol.37 (1998) pp. L1452-L1454
【非特許文献2】Nakamura et al., "Infrared absorption spectra and compositions of evaporated silicon oxides (SiOx)", Solid State Communications, Vol. 50, No. 12, pp. 1079-1081, 1984
【特許文献1】特開2004−331480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を低温プロセスで窒化物半導体の上に作成するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明による酸化膜形成方法は、SiO粉末を原料として用いる真空蒸発により、窒化物半導体部材の上にSiOx膜を堆積する工程と、堆積された前記SiOx膜を、酸化雰囲気で紫外線を照射しながら加熱することによって酸化する工程とを備えている。
【0010】
発明者らの知見の一つは、SiO粉末の特性の最適化が重要であるということである。発明者は、下記の性質を有するSiO粉末を使用することが、高品位の酸化膜を窒化物半導体の上に作成することを可能にすることを発見した:
(1)フーリエ変換赤外分光分析(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)によって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れる。
(2)ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れない。
(3)X線光電子分光分析(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)によって得られたXPSスペクトルにおいて、SiOのSi−O結合に対応するピーク(約103eV)とSiの2p軌道のSi−Si結合のピーク(約99eV)とが現れ、且つ、Si−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上である。
【0011】
このような状態のSiOx粉末を原料として真空蒸着によって窒化物半導体基板の上にSiOx膜を堆積させると、堆積されたSiOx膜には、弱いSi−Si結合が多く含まれる。SiOx膜の酸化の際、SiOx膜に含まれる弱いSi−Si結合は紫外線の照射によって容易に分離され、低温の酸化雰囲気によってSiOx膜がより完全に酸化される。このため、本発明の酸化膜形成方法によれば、ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を低温プロセスで窒化物半導体の上に作成することができる。
【0012】
堆積されたSiOx膜の酸化に使用される酸化雰囲気は、水蒸気を含む雰囲気であることが望ましい。
【0013】
SiOx粉末は、モノシランガスと酸化性ガスとを反応容器の反応領域で反応させて生成されることが好適である。この場合、前記反応領域におけるガス流れに垂直な断面における、前記反応領域の断面積は50cm以上であり、前記反応領域における前記ガス流のレイノルズ数は、200〜2000であることが望ましい。
【0014】
本発明の酸化膜形成方法は、窒化物半導体のMOS構造のシリコン酸化膜、及び、MOSトランジスタのゲート絶縁膜の形成に適用されることが好適である。
【0015】
本発明のSiOx粉末製造方法は、モノシランガスと酸化性ガスとを反応容器の反応領域で反応させてSiOx粉末を生成する工程を備えている。前記反応領域におけるガス流に垂直な断面における、前記反応領域の断面積は50cm以上であり、前記反応領域における前記ガス流のレイノルズ数は、200〜2000である。このような製造方法によれば、上述の(1)〜(3)の性質を有するSiOx粉末を製造することができる。
【0016】
前記反応容器の前記反応領域は円筒形である場合には、前記反応領域の内径は、80mm以上であることが好ましい。また、反応の際の前記反応容器の圧力が10〜1000kPaであり、前記反応容器の内部の温度が500〜1000℃であることが好ましい。
【0017】
前記モノシランガスと酸化性ガスとは、前記反応容器に交互に導入されることが好ましい。その代わりに、前記酸化性ガスが前記反応容器に導入される導入口が、前記モノシランガスが前記反応容器に導入される導入口よりも、下流側に位置していてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を低温プロセスで窒化物半導体の上に作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態では、本発明の酸化膜形成方法が、MOSキャパシタの作成に適用される。図1は、本実施形態のMOSキャパシタ1の構造を示す断面図である。MOSキャパシタ1は、シリコン基板2と、シリコン基板2の上に形成されたn−GaN膜3と、n−GaN膜3の上に形成されたシリコン酸化膜4と、導電材料で形成された上部電極5とから構成されている。n−GaN膜3と、シリコン酸化膜4と、上部電極5とにより、MOS構造が形成されている。シリコン基板2の裏面には、導電材料で形成された下部電極6が形成されている。MOSキャパシタ1の特性は、上部電極5及び下部電極6を用いて測定可能である。上部電極5、下部電極6としては、最も典型的には、Al電極が使用される。なお、本実施形態では、n−GaN膜3が使用されているが、p−GaN膜が使用されることも可能である。
【0020】
良好な特性を有するMOS構造を実現するためには、シリコン酸化膜4の形成の最適化が重要である。本実施形態では、シリコン酸化膜4の形成は、下記の手順で行われる:まず、SiOx粉末を原料として用いる真空蒸着により、n−GaN膜3の上にSiOx膜が堆積される。SiOx粉末の酸素量を示すパラメータ値xは、1.0〜1.3であることが好ましい。パラメータxは、SiOx粉末のSiモル量をJIS−R;6124(単価けい素質研削材の化学分析)に準じた方法で測定し、酸素モル量を酸素窒素同時分析装置(例えばLECO社「TC−136」)を用いて測定し、Siモル量と酸素モル量の比から算出ことができる。
【0021】
原料として使用されるSiOx粉末は、高い純度を有していることが望ましい。具体的にはSiOx粉末に含まれるNa、Fe、Al、Clの合計量が10ppmであることが望ましく、5ppm以下であることが一層に好ましい。SiOx粉末の純度は、例えば、ICP発光分析によって分析が可能である。
【0022】
また、SiOx粉末の粒径は、SiOx粉末の比表面積が10m/g以上であるように、より好適には、50m/g以上である程度に微細化されることが好ましい。SiOx粉末の比表面積が10m/g未満であると、蒸着開始温度が高くなることがある。
【0023】
真空蒸着によって堆積されたSiOx膜は、as−depoでは、充分に酸化された状態ではない。そこで、堆積されたSiOx膜が、酸化雰囲気で紫外線を照射しながら加熱することによって酸化され、これによりシリコン酸化膜4が形成される。好適には、SiOx膜は、水蒸気を含む酸化雰囲気で、紫外線を照射しながらアニールすることによって酸化される。アニール温度は、好適には400℃である。SiOx膜の酸化は、水蒸気を含まない酸化雰囲気で行われてもよい。ただし、よりシリコン酸化膜4の特性を良くするためには、水蒸気を含む酸化雰囲気で、SiOx膜が酸化されることが好ましい。
【0024】
本実施形態では、真空蒸着の工程において原料として用いられるSiOx粉末の性質が、良好な特性のシリコン酸化膜4を形成するために重要である。本実施形態では、真空蒸着において、下記の特性を呈するSiO粉末が原料として使用される:
(1)フーリエ変換赤外分光分析(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)によって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れる。
(2)ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れない。
(3)X線光電子分光分析(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)によって得られたXPSスペクトルにおいて、SiOのSi−O結合に対応するピーク(103eV)とSiの2p軌道のSi−Si結合のピーク(約99eV)とが現れ、且つ、Si−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上である。ここで、ピークの高さは、ベースラインからの高さとして定義される。また、Si−Si結合のピークは、SiOx粉末の内部においては表面よりも低くなることがあるが、内部においてもSi−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上になることに留意されたい。
【0025】
以下では、上記の(1)〜(3)の特性を呈するSiOx粉末を、「良好なSiO粉末」と呼び、そうでないSiOx粉末を「良好でないSiO粉末」と呼ぶ。
【0026】
「良好なSiO粉末」は、定性的には、下記の状態にあると考えられる。第1に、「良好なSiO粉末」は、(ダイヤモンド構造を作るようなSi−Si結合を含む)3次元的なSi−Si結合の極めて小さなクラスタや、低次元的な(即ち、1次元的、又は、2次元的な)Si−Si結合を含むものの、3次元的なSi−Si結合(ダイヤモンド構造を作るようなSi−Si結合)を持つ大きなシリコン結晶は含まない。言い換えれば、当該SiOx粉末は、容易に分離されるようなSi−Si結合を含むものの、結晶を形成するような強いSi−Si結合を含まない。このことは、赤外吸収スペクトルとラマンスペクトルから裏付けられる。即ち、FTIRによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れるということは、極めて小さなクラスタや低次元的なSi−Si結合を含むことを意味している。一方、ラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れないことは、3次元的なSi−Si結合を持つ大きなシリコン結晶を含まないことを意味している。第2に、当該SiOx粉末は、Si−O結合のみならずSi−Si結合を多く含む。このことは、XPSスペクトルにおけるSi−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上であることから裏付けられる。
【0027】
XPSスペクトルにおけるSi−Si結合のピークの高さは、Si−O結合のピークの高さの0.7倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることは、一層に好ましい。SiOx粉のSi−Si結合のピーク高さが高くなると、それを原料として真空蒸着によって堆積させたSiOx膜が、より酸化されやすくなり、絶縁膜としての特性に優れる傾向がある。その理由は定かでないが、XPSスペクトルに見られるSiOx粉中のSi−Si結合が不安定で、その結合が切れて酸素と結合しやすいからであろうと推測される。
【0028】
上記の「良好なSiO粉末」を原料とする真空蒸着によってSiOx膜を堆積させ、そのSiOx膜を紫外線を照射しながら酸化することにより、熱酸化膜に近い特性のシリコン酸化膜4を形成することができる。(1)〜(3)の特性を呈する「良好なSiO粉末」を原料とする真空蒸着によってSiOx膜を堆積させると、堆積された状態のSiOx膜は、弱いSi−Si結合が多く含まれる。SiOx膜の酸化の際、SiOx膜に含まれる弱いSi−Si結合が紫外線の照射によって容易に分離されるから、低温の酸化雰囲気によってSiOx膜がより完全に酸化される。したがって、本実施形態の形成プロセスによれば、熱酸化膜に近い特性を有するシリコン酸化膜4、即ち、ゲート絶縁膜としての使用に耐え得るような高品位の酸化膜を低温プロセスでn−GaN膜3の上に作成することができる。
【0029】
上記の酸化膜形成プロセスが、MOSキャパシタ以外の他のMOSデバイスにも好適に適用可能であることは、当業者には自明的であろう。例えば、上記の酸化膜形成プロセスは、MOSトランジスタや、MOS−HEMTのゲート酸化膜の形成に適用することが可能である。例えば、MOSトランジスタの製造は、概略的には、下記のようにして行われる。まず、窒化物半導体基板、又は窒化物半導体膜の上に上記の酸化膜形成プロセスによってシリコン酸化膜が形成される。その後、シリコン酸化膜の上にゲート電極が形成される。更に、ゲート電極がパターニングされた後、ソース、ドレインが形成される。
【0030】
上記の「良好なSiO粉末」を作製する好適な方法は、モノシラン(SiH)ガスと酸化性ガスとを反応させることによってSiO粉末を作製する方法である。酸化性ガスとしては、酸素ガス、乾燥空気が使用可能であり、モノシランガスに対して酸化性を有する他のガス、例えば、NO、CO、HO等のガスを使用することもできる。モノシランガスと酸化性ガスとの反応は、モノシランの酸化に寄与しない希釈ガスの存在下で行われることが好ましい。希釈ガスを導入することにより、生成されたSiOx粉末の反応容器の内壁への付着の防止、反応熱の除去、及び粒成長の防止が図れる。
【0031】
図2Aは、モノシラン(SiH)ガスと酸化性ガスとを反応させてSiOx粉末を作製するために好適なSiOx粉末製造装置10の構成を示す概念図である。SiOx粉末製造装置10は、反応容器11と、加熱装置12と、酸化性ガス導入管13と、モノシランガス導入管14と、排出管15と、バグフィルター16とを備えている。
【0032】
反応容器11は、モノシランガスと酸素ガスを混合して反応させるための空間である。モノシランガスと酸素ガスの反応は、反応容器11の、酸化性ガス導入管13とモノシランガス導入管14の下流に位置する領域である反応領域11aで行われる。本実施形態では、反応容器11は、円筒形であり、且つ、その中心軸が水平方向であるように配置されている。ただし、反応容器11の中心軸の方向は、鉛直方向であることも可能であり、また、反応容器11の形状も、様々に変更可能である。
【0033】
加熱装置12は、反応容器11を所望の反応温度に加熱するために使用される。詳細には、反応容器11の内部に熱電対が設けられ、その熱電対によって反応容器11の中心部の温度が計測される。加熱装置12への電力の供給は、熱電対によって測定された温度に応答して行われる。加熱装置12による加熱方法としては、例えば、抵抗加熱、高周波加熱、及び赤外輻射加熱が使用可能である。
【0034】
酸化性ガス導入管13は、酸化性ガスを反応容器11に導入するために使用される。酸化性ガス導入管13の先端には導入口13aが設けられており、その導入口13aから酸化性ガスが反応容器11に導入される。本実施形態では、酸化性ガスとして酸素ガスが使用される。その酸素ガスは希釈ガスによって希釈されて反応容器11に導入される。酸素ガスを希釈する希釈ガスとしては、本実施形態では窒素ガスが使用される。詳細には、酸化性ガス導入管13は、電磁弁21及び質量流量計(MFC)22を介して酸素ガスを供給する酸素ガスライン23に接続され、更に、質量流量計24を介して窒素ガスライン25に接続されている。
【0035】
モノシランガス導入管14は、モノシランガスを反応容器11に導入するために使用される。モノシランガス導入管14の先端には導入口14aが設けられており、その導入口14aからモノシランガスが反応容器11に導入される。本実施形態では、モノシランガスは希釈ガスによって希釈されて反応容器11に導入される。モノシランガスを希釈する希釈ガスとしても窒素ガスが使用される。詳細には、モノシランガス導入管14は、電磁弁26及び質量流量計27を介してモノシランガスを供給するモノシランガスライン28に接続され、更に、質量流量計29を介して窒素ガスライン30に接続されている。
【0036】
排出管15は、生成されたSiOx粉末を、未反応のガス及び希釈ガスと共に反応容器11から排出する。排出管15はバグフィルター16に接続されており、生成されたSiOx粉末は、バグフィルター16によって回収される。未反応のガス及び希釈ガスは、排ガス処理装置17によって処理される。
【0037】
このように構成されたSiOx粉末製造装置10では、反応容器11の内部が所望の反応温度に調節された状態でモノシランガスと酸素ガスが希釈ガスと共に反応容器11に導入されると、モノシランガスと酸素ガスとが反応してSiOx粉末が生成される。
【0038】
発明者の知見によれば、上記の「良好なSiO粉末」は、下記(A)〜(C)の3点に留意することにより、作製可能である:
(A)反応容器11の内壁にSiOx粉末が付着することによるガス流の乱れをなるべく小さくすること。
(B)反応容器11の内壁における反応をなるべく抑制すること。
(C)反応容器11の内部のガスの流れを、なるべく層流に保つこと。
【0039】
上記の(A)〜(C)の要求を満足させるためには、(a)反応容器11のモノシランガスと酸化性ガスとが反応する反応領域11aのガス流に垂直な断面における断面積を広くすること、具体的には50cm以上にし、更に、(b)反応領域11aにおけるガス流のレイノルズ数が200〜2000になるように、モノシランガス、酸化性ガス、及び希釈ガスの流量を調節すればよい。反応領域11aのガス流に垂直な断面における断面積を広くすることにより、反応容器11の内壁へのSiOx粉末の付着によるガス流の乱れを小さくし、また、反応容器11の内壁における反応を抑制することができる。加えて、レイノルズ数が200〜2000であるようにガスの流れを制御することにより、反応容器11の内部のガスの流れを、なるべく層流に保つことができる。ガスの流れを層流に保つためには、反応容器11の反応領域11aが円筒形であることが好ましく、また、反応領域11aが円筒形である場合には、断面積を50cm以上にするためには、反応容器11の内径d(inner diameter)を80mm以上にすればよい。反応領域11aにおけるガス流のレイノルズ数は、各ガスの密度、平均流速、反応容器11の内径、ガスの粘度から算出可能である。
【0040】
モノシランガスと酸素ガスとの反応の際の反応容器11の圧力は、10〜1000kPaであることが好ましい。反応容器11の圧力が10kPa未満であると、生成されたSiOx粉末が反応容器11の壁面に付着し、ガス流が乱れやすくなり、また、排出管15の入口が閉塞されやすくなる。一方、圧力が1000kPaを超えると、反応容器11の耐圧を高めるために大掛かりな設備が必要になる上、不純物が増加する傾向が出る。好ましい圧力は、30〜150kPaである。
【0041】
反応温度(反応容器11の内部の温度)は、500〜1000℃であることが好ましい。反応温度が500℃未満であると、SiOが生成されやすくなるため好ましくない。一方、反応温度が1000℃を超えると、単体のSiが生成されやすくなると共に、反応容器11その他の部材からの不純物が多く混入する恐れが高くなるため好ましくない。反応温度は、550〜950℃であることが好ましく、650〜850℃であることが一層に好ましい。
【0042】
モノシランガスと酸素ガスは、同時にではなく、それぞれが別の時期に交互に反応容器11に導入されることが好ましい。理由は定かではないものの、これにより、(ダイヤモンド構造を作るようなSi−Si結合を含む)3次元的なSi−Si結合の極めて小さなクラスタ、又は、低次元(即ち、1次元的、又は2次元的な)Si−Si結合しか含まない、部分的に酸化された「良好なSiOx粉末」を得ることができる。この「良好なSiOx粉末」は、ダイヤモンド構造を持つシリコンの大きな塊、即ち、結晶質シリコンは含まない。モノシランガスと酸素ガスの反応容器11への交互の導入は、酸素ガスライン23に接続された電磁弁21及びモノシランガスライン28に接続された電磁弁26によって行われる。電磁弁21、26は、交互に開状態にされ、これにより、モノシランガスと酸素ガスとが交互に反応容器11に導入される。
【0043】
モノシランガスと酸化性ガスとを交互に供給する代わりに、図2Bに示されているように、酸化性ガス導入管13の先端に設けられた導入口13aを、モノシランガス導入管14の先端に設けられた導入口14aよりも下流側に位置させることも好適である。これにより、モノシランガスと酸素ガスを交互に反応容器に導入する場合と同様の効果が得られる。ただし、反応容器11へのモノシランガスの供給位置と、酸化性ガスの供給位置の関係は、十分に吟味する必要がある。
【0044】
以下では、SiOx粉末の作製、及び、作製されたSiOx粉末を用いて形成されたシリコン酸化膜を含むMOS構造の実施例を説明する。
【実施例】
【0045】
1.SiOx粉末の作製
図2Bに図示されたSiOx粉末製造装置10により、SiOx粉末が生成された。酸化性ガスとしては酸素ガスが使用され、モノシランガス及び酸素ガスを希釈する希釈ガスとしては窒素が用いられた。反応温度は、700〜850℃に設定され、反応容器11の圧力は、100kPaに設定された。反応容器11としては、円筒形の石英ガラス管が使用され、その内径は40〜200mmであった。反応容器11の反応領域11aにおけるガス流のレイノルズ数は、160〜2400に調節された。レイノルズ数は、モノシランガス、酸素ガス、窒素ガスの流量及び粘度、並びに反応容器11の内径から算出された。モノシランガスと酸素ガスは、電磁弁21、26の動作によって交互に反応容器11に導入された。
【0046】
図3は、各実施例及び各比較例のSiOx粉末の作製条件を示す表である。
実施例1〜6は、本発明によるSiOx粉末製造方法によって作成された「良好なSiOx粉末」である。詳細には、実施例1〜4は、内径が80mmの反応容器11を用いて作製されたSiOx粉末である。実施例5、6は、内径が200mmの反応容器11を用いて作製されたSiOx粉末である。内径が80mmであるとき、反応容器11の反応領域11aの断面積が50.2cmであり、内径が200mmであるとき、反応容器11の反応領域11aの断面積が314.1cmであることに留意されたい。実施例1〜6のいずれについても、レイノルズ数が200〜2000の範囲に調節されていることに留意されたい。
【0047】
比較例1〜4は、「良好でないSiOx粉末」である。比較例1は、レイノルズ数が過剰に小さくされて作製されたSiOx粉末であり、比較例1の作製では、反応領域11aにおけるガス流のレイノルズ数が160に調節された。比較例2、3は、内径が過剰に小さい反応容器11を用いて作製されたSiOx粉末である。具体的には、比較例2、3は、内径がそれぞれ40mm、60mmの反応容器11を用いて作製されている。一方、比較例4は、レイノルズ数が過剰に大きくされて試料であり、比較例4の作製では、反応領域11aにおけるガス流のレイノルズ数が2400に調節された。
【0048】
作製されたSiOx粉末に対して、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)、ラマン分光分析、及びX線光電子分光分析(XPS)が行われた。ラマン分光分析では、波長が532nm、パワーが5mWの励起レーザ光が使用された。
【0049】
図4は、実施例1〜6及び比較例1〜4のSiOx粉末の特性を示す表であり、図5A〜図5Cは、FT−IRによって得られた赤外吸収スペクトルのグラフであり、図6A〜図6Cは、ラマンスペクトルのグラフであり、図7A〜図7Cは、XPSスペクトルのグラフである。
【0050】
図5A、図5Bに示されているように、実施例1〜6の「良好なSiOx粉末」では、いずれも、FT−IRによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れていた。このことは、「良好なSiOx粉末」では、容易に分離されるようなSi−Si結合(即ち、極めて小さなクラスタの3次元的なSi−Si結合や、低次元的な(即ち、1次元的、又は、2次元的な)Si−Si結合)を含んでいることを意味している。一方、図5Cに示されているように、比較例1〜4の「良好でないSiOx粉末」では、880cm−1にピークが現れなかった。
【0051】
また、「良好なSiOx粉末」である実施例1〜6のSiOx粉末では、ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1の範囲にピークは見られなかった。図6Aに、実施例4のラマンスペクトルを「良好なSiOx粉末」の一例として示す。450〜550cm−1の範囲にピークがないという事実は、「良好なSiOx粉末」が強固な3次元的なSi−Si結合を含まないということを意味している。
【0052】
一方、「良好でないSiOx粉末」では、ラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1の範囲にピークが表れることがあった。図6Bは、「良好でないSiOx粉末」について測定されたラマンスペクトルを示すグラフである。図6Bの「良好でないSiOx粉末」では、約523cm−1にピークが現れた。このピークは、SiOx粉末に、粒径が約6nmのシリコンナノ結晶が含まれていることを示している。
【0053】
ただし、「ラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1の範囲にピークは見られない」ことは、「良好なSiOx粉末」の必要条件であり、十分条件ではないと理解されなくてはならない。「良好でないSiOx粉末」でも、ラマンスペクトルに450〜550cm−1の範囲にピークは見られない場合もある。例えば、図6Cに示されているように、比較例3の「良好でないSiOx粉末」では、450〜550cm−1の範囲にピークは見られない。
【0054】
しかしながら、「ラマンスペクトルに450〜550cm−1の範囲にピークは見られない」ことは、「良好なSiOx粉末」に必須である。450〜550cm−1の範囲にピークは見られないことは、SiOx粉末が3次元的なSi−Si結合を持つ大きなシリコン結晶を含まないことを意味しており、SiOx粉末の真空蒸着によって高品位のシリコン酸化膜を形成するのに必要な条件である。
【0055】
更に、図4に示されているように、実施例1〜6のSiOx粉末では、X線光電子分光分析によって得られたXPSスペクトルにおいて、SiOでのSi−O結合に対応するピーク(約103eV)とSiの2p軌道のSi−Si結合のピーク(約99eV)とが現れ、且つ、Si−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上であった。ピークの高さは、ベースラインからの高さとして定義されることに留意されたい。一方、比較例1〜4のSiOx粉末では、Si−O結合に対応するピーク(約103eV)にピークが現れるものの、Si−Si結合のピークは弱く、且つ、その位置もエネルギーが低い側にシフトしていた。実際に測定されたXPSスペクトルを図7A〜図7Cに示す。図7Aは、実施例1〜3のSiOx粉末について測定されたXPSスペクトルであり、図7Bは、実施例4〜6のSiOx粉末について測定されたXPSスペクトルであり、図7Cは、比較例1〜4のSiOx粉末について測定されたXPSスペクトルである。
【0056】
以上の実験結果は、(a)反応容器11のモノシランガスと酸化性ガスとが反応する反応領域11aのガス流に垂直な断面における断面積を広くすること、具体的には50cm以上にし、更に、(b)反応領域11aにおけるガス流のレイノルズ数が200〜2000になるように調節することにより、「良好なSiO粉末」、即ち、下記の特性:
(1)FTIRによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れる。
(2)ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れない。
(3)X線光電子分光分析によって得られたXPSスペクトルにおいて、Siの2p軌道のSi−O結合に対応するピーク(約103eV)とSi−Si結合のピーク(約99eV)とが現れ、且つ、Si−Si結合のピークの高さが、Si−O結合のピークの高さの0.6倍以上である
を呈するSiOx粉末を得ることができることを実証するものである。
【0057】
2.MOS構造の形成と特性評価
「良好なSiO粉末」と「良好でないSiO粉末」とを用いてMOS構造が形成された。詳細には、n−GaN膜の表面をRCA洗浄によって洗浄した後、SiOx粉末を原料として用いる真空蒸着によってSiOx膜が堆積された。堆積されたSiOx膜が水蒸気を含む酸化雰囲気で紫外線を照射しながらアニールされて酸化され、MOS構造を構成するシリコン酸化膜が形成された。アニール温度は、400度であった。そのシリコン酸化膜の上にAl膜が蒸着され、その後、水素ガス(H)及び窒素ガス(N)の混合ガスの雰囲気下において400℃でアニールされた。これにより、MOS構造が形成された。
【0058】
作製されたMOS構造について、J−E特性(電流密度−電界特性)が測定された。図8は、「良好なSiO粉末」と「良好でないSiO粉末」とを用いて作製されたMOS構造のJ−E特性(電流密度−電界特性)を示すグラフである。「良好なSiOx粉末」としては、実施例1のSiOx粉末が使用され、「良好でないSiO粉末」としては、比較例1のSiOx粉末が使用された。「良好でないSiO粉末」で作製したMOS構造のシリコン酸化膜の膜厚は12.0nmであり、「良好なSiO粉末」で作製したMOS構造のシリコン酸化膜の膜厚は11.5nmである。図8には、膜厚11nmの熱酸化膜のJ−E特性が比較データとして示されている。
【0059】
「良好でないSiO粉末」で作製したMOS構造のシリコン酸化膜は、比較的に低い印加電界で、大きな電流密度を示した。このような特性は、MOSトランジスタのゲート酸化膜としては好ましくない。
【0060】
一方、「良好なSiO粉末」で作製したMOS構造のシリコン酸化膜は、熱酸化膜に対比できるような低い電流密度と、高い絶縁破壊電界を示した。これは、「良好なSiO粉末」で作製したシリコン酸化膜のゲート酸化膜として適格性を意味するものである。
【0061】
更に、「良好なSiO粉末」と「良好でないSiO粉末」とを用いて作製されたMOS構造の高周波C−V特性(容量−電圧特性)が測定された。図9A〜図9Cは、測定されたC−V特性を示すグラフである。詳細には、図9Aは、実施例1〜3のSiOx粉末を用いて作製されたMOS構造の高周波C−V特性であり、図9Bは、実施例4〜6のSiOx粉末を用いて作製されたMOS構造の高周波C−V特性である。一方、図9Cは、比較例1、及び比較例4のSiOx粉末を用いて作製されたMOS構造の高周波C−V特性である。図9Cには、比較のために、実施例6のSiOx粉末を用いて作製されたMOS構造の高周波C−V特性もプロットされている。C−V特性の横軸は、バイアス電圧を示しており、縦軸は、シリコン酸化膜の容量Coxに対するMOS構造全体の容量Cの比C/Coxを示している。C−V特性の測定では、「良好でないSiO粉末」として比較例1のSiOx粉末が使用され、「良好なSiO粉末」として、実施例6のSiOx粉末が使用された。
【0062】
比較例1、4のSiOx粉末(即ち、「良好でないSiO粉末」)を用いて作製したMOS構造のC-V特性は、正電圧の範囲で容量の減少が見られ、C/Coxが変化する部分(即ち、空乏領域の幅が変化する電圧範囲)の傾きが比較的緩やかであり、また、C−Vカーブが負電圧の方向にシフトしていた。正電圧の範囲での容量の減少は、比較例1のSiOx粉末を用いて作製したMOS構造が、リーク電流が大きいためにMOSキャパシタとして充分に機能していないことを意味する。また、C/Coxが変化する部分の傾きが比較的緩やかであること、及びC−Vカーブのシフトは、界面準位密度、界面電荷密度、及びシリコン酸化膜中の電荷密度が非常に高いことを意味している。
【0063】
一方、実施例1〜6のSiOx粉末(即ち、「良好なSiO粉末」)では、C/Coxが変化する部分(即ち、空乏領域の幅が変化する電圧範囲)の傾きが急峻であり、また、C−Vカーブのシフトが見られず、より、良好なMOS特性を示した。この結果も、「良好なSiO粉末」で作製したシリコン酸化膜のゲート酸化膜として適格性を意味するものである。
【0064】
最後に、SiOx粉末の真空蒸着によって形成されたSiOx膜を紫外線を照射しながらアニールして酸化する工程を、水蒸気を含む酸化雰囲気で行うことの有効性を示す実験結果を、以下に示す。「良好なSiOx粉末」の真空蒸着によって形成されたSiOx膜について、FT−IRによって赤外吸収スペクトルが測定された。測定された試料は、下記の4種類である。
a.真空蒸着によって成膜された状態のSiOx膜(as−deposited)
b.紫外線を照射せず、水蒸気を含まない酸素雰囲気における400℃のアニールによって酸化されたシリコン酸化膜(400℃)
c.紫外線を照射しながら、水蒸気を含まない酸素雰囲気における400℃のアニールによって酸化されたシリコン酸化膜(UV+400℃)
d.紫外線を照射しながら、水蒸気を含む酸素雰囲気における400℃のアニールによって酸化されたシリコン酸化膜(wet+UV(400℃))
【0065】
図10は、上記の4つの試料の赤外吸収スペクトルに現れたSiOのSi−O結合の吸収ピークの位置と半値全幅とを示すグラフである。SiOのSi−O結合の吸収ピークは、1000〜1100cm−1に現れる。図10には、対比データとして、熱酸化膜の赤外吸収スペクトルの測定結果と、上述の非特許文献で挙げられた赤外吸収スペクトルの測定結果が付け加えられている。熱酸化膜は、ほぼ理想的なSiOであると考えてよいので、図10における各試料のプロットの位置が熱酸化膜のプロットの位置に近いほど、良好なSiO膜であると考えてよい。
【0066】
真空蒸着によって成膜された状態のSiOx膜では、SiOのSi−O結合の吸収ピークの位置が熱酸化膜から大きくずれている上、半値全幅も大きかった。酸素雰囲気における400℃のアニールによって、吸収ピークの位置及び半値全幅の値は、熱酸化膜の値に近づき(400℃)、また、紫外線照射により、吸収ピークの位置が熱酸化膜の値に更に近づく(UV+400℃)。そして、水蒸気を含む酸素雰囲気を使用すれば、吸収ピークの位置及び半値全幅の値が熱酸化膜の値に更に近づく。
【0067】
この結果は、iOx粉末の真空蒸着によって形成されたSiOx膜を紫外線を照射しながらアニールして酸化する工程を、水蒸気を含む酸化雰囲気で行うことの有効性を実証するものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明の酸化膜形成方法の一実施形態によって形成されるシリコン酸化膜を含むMOSキャパシタの構成を示す断面図である。
【図2A】図2Aは、SiOx粉末を作製するのに好適なSiOx製造装置の構成を示す概念図である。
【図2B】図2Bは、SiOx粉末を作製するのに好適なSiOx製造装置の他の構成を示す概念図である。
【図3】図3は、各実施例及び各比較例のSiOx粉末の作製条件を示す表である。
【図4】図4は、各実施例及び各比較例のSiOx粉末の特性を示す表である。
【図5A】図5Aは、実施例1〜3のSiOx粉末の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5B】図5Bは、実施例4〜6のSiOx粉末の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5C】図5Cは、比較例1〜4のSiOx粉末の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6A】図6Aは、実施例4のSiOx粉末のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図6B】図6Bは、「良好でないSiOx粉末」のラマンスペクトルの例を示すグラフである。
【図6C】図6Cは、比較例3のSiOx粉末のラマンスペクトルの例を示すグラフである。
【図7A】図7Aは、実施例1〜3のSiOx粉末のXPSスペクトルを示すグラフである。
【図7B】図7Bは、実施例4〜6のSiOx粉末のXPSスペクトルを示すグラフである。
【図7C】図7Cは、比較例1〜4のSiOx粉末のXPSスペクトルを示すグラフである。
【図8】図8は、「良好なSiO粉末」と「良好でないSiO粉末」とを用いて作製されたMOS構造のJ−E特性(電流密度−電界特性)の例を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、実施例1〜3のSiOx粉末を用いて作製したMOS構造の高周波C−V特性(容量−電圧特性)の例を示すグラフである。
【図9B】図9Bは、実施例4〜6のSiOx粉末を用いて作製したMOS構造の高周波C−V特性(容量−電圧特性)の例を示すグラフである。
【図9C】図9Cは、比較例1及び比較例4のSiOx粉末を用いて作製したMOS構造の高周波C−V特性(容量−電圧特性)の例を示すグラフである。
【図10】図10は、as−depositedのSiOx膜、及び、アニール処理されたシリコン酸化膜の赤外吸収スペクトルに現れたSiOのSi−O結合の吸収ピークの位置と半値全幅とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1:MOSキャパシタ
2:シリコン基板
3:n−GaN膜
4:シリコン酸化膜
5:上部電極
6:下部電極
10:SiOx粉末製造装置
11:反応容器
11a:反応領域
12:加熱装置
13:酸化性ガス導入管
14:モノシランガス導入管
15:排出管
16:バグフィルター
17:排ガス処理装置
21、26:電磁弁
22、24、27、29:質量流量計
23:酸素ガスライン
25:窒素ガスライン
28:モノシランガスライン
30:窒素ガスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOx粉末を原料として用いる真空蒸発によりSiOx膜を堆積する工程と、
堆積された前記SiOx膜を、酸化雰囲気で紫外線を照射しながら加熱することによって酸化する工程
とを具備し、前記SiOx粉末は、下記条件(1)〜(3):
(1)フーリエ変換赤外分光分析によって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れる。
(2)ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れない。
(3)X線光電子分光分析によって得られたXPSスペクトルにおいて、Siの2p軌道のSi−Si結合の第1ピークとSiOのSi−O結合に対応する第2ピークとが現れ、且つ、前記第1ピークの高さが前記第2ピークの高さの0.6倍以上である。
を満足する
酸化膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化膜形成方法であって、
前記酸化雰囲気は、水蒸気を含む雰囲気である
酸化膜形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化膜形成方法であって、
更に、
モノシランガスと酸化性ガスとを反応容器の反応領域で反応させて前記SiOx粉末を生成する工程
を具備し、
前記反応領域におけるガス流れに垂直な断面における、前記反応領域の断面積は50cm以上であり、
前記反応領域における前記ガス流のレイノルズ数が、200〜2000である
酸化膜形成方法。
【請求項4】
窒化物半導体部材の上に、請求項1乃至3のいずれかに記載の酸化膜形成方法によりシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記シリコン酸化膜の上に導電材料により電極を形成する工程
とを具備する
MOSデバイス製造方法。
【請求項5】
窒化物半導体部材の上に、請求項1乃至3のいずれかに記載の酸化膜形成方法によりシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記シリコン酸化膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記窒化物半導体に、ソース及びドレインを形成する工程
とを具備する
MOSトランジスタ製造方法。
【請求項6】
(1)フーリエ変換赤外分光分析によって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、880cm−1にピークが現れ、
(2)ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルにおいて、450〜550cm−1にピークが現れず、
(3)X線光電子分光分析によって得られたXPSスペクトルにおいて、Siの2p軌道のSi−Si結合の第1ピークとSiOのSi−O結合に対応する第2ピークとが現れ、且つ、前記第1ピークの高さが前記第2ピークの高さの0.6倍以上である
SiOx粉末。
【請求項7】
モノシランガスと酸化性ガスとを反応容器の反応領域で反応させてSiOx粉末を生成する工程
を備え、
前記反応領域におけるガス流に垂直な断面における、前記反応領域の断面積は50cm以上であり、
前記反応領域における前記ガス流のレイノルズ数は、200〜2000である
SiOx粉末製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のSiOx粉末製造方法であって、
前記反応容器の前記反応領域は円筒形であり、
前記反応領域の内径は、80mm以上である
SiOx粉末製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のSiOx粉末製造方法であって、
前記反応容器の圧力が10〜1000kPaであり、前記反応容器の内部の温度が500〜1000℃である
SiOx粉末製造方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載のSiOx粉末製造方法であって、
前記モノシランガスと酸化性ガスとが前記反応容器に交互に導入される
SiOx粉末製造方法。
【請求項11】
請求項7乃至9のいずれかに記載のSiOx粉末製造方法であって、
前記酸化性ガスが前記反応容器に導入される導入口が、前記モノシランガスが前記反応容器に導入される導入口よりも、下流側に位置している
SiOx粉末製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−41080(P2009−41080A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208641(P2007−208641)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:電気通信大学 卒業論文発表会 主催者名 :国立大学法人 電気通信大学 開催日 :平成19年2月9日
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】