説明

金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜、ナノグラニュラー複合薄膜、及び薄膜磁気センサ

【課題】新規な金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜、及び、これを含むナノグラニュラー複合薄膜、並びに、これらを用いた薄膜磁気センサを提供すること。
【解決手段】Co2Fe(Al1-xSix)(但し、0<x<1)で表される組成を有する強磁性粒子と、前記強磁性粒子の周囲に充填された絶縁材料からなる絶縁マトリックスとを備えた金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。MgO、NiO、SiO2又はAl23からなるバッファ層と、前記バッファ層の表面に形成された本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜とを備えたナノグラニュラー複合薄膜。本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜又はナノグラニュラー複合薄膜を備えた薄膜磁気センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜、ナノグラニュラー複合薄膜、及び薄膜磁気センサに関し、さらに詳しくは、自動車の車軸、ロータリーエンコーダ、産業用歯車等の回転情報の検出、油圧式シリンダ/空気式シリンダのストロークポジション、工作機械のスライド等の位置・速度情報の検出、工業用溶接ロボットのアーク電流等の電流情報の検出、地磁気方位コンパスなどに好適な薄膜磁気センサ、並びに、このような薄膜磁気センサに用いられる金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜及びナノグラニュラー複合薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサは、電磁気力(例えば、電流、電圧、電力、磁界、磁束など。)、力学量(例えば、位置、速度、加速度、変位、距離、張力、圧力、トルク、温度、湿度など。)、生化学量等の被検出量を、磁界を介して電圧に変換する電子デバイスである。磁気センサは、磁界の検出方法に応じて、ホールセンサ、異方的磁気抵抗(AMR: Anisotropic Magneto-Resistiity)センサ、巨大磁気抵抗(GMR: Gaiant MR)センサ等に分類される。
【0003】
これらの中でもGMRセンサは、
(1)AMRセンサに比べて電気比抵抗の変化率の最大値(すなわち、MR比=△ρ/ρ(△ρ=ρ−ρ:ρは、外部磁界Hにおける電気比抵抗、ρは、外部磁界ゼロにおける電気比抵抗))が極めて大きい、
(2)ホールセンサに比べて抵抗値の温度変化が小さい、
(3)巨大磁気抵抗効果を有する材料が薄膜材料であるために、マイクロ化に適している、
等の利点がある。そのため、GMRセンサは、コンピュータ、電力、自動車、家電、携帯機器等に用いられる高感度マイクロ磁気センサとしての応用が期待されている。
【0004】
GMR効果を示す材料としては、強磁性層(例えば、パーマロイ等)と非磁性層(例えば、Cu、Ag、Au等)の多層膜、あるいは、反強磁性層、強磁性層(固定層)、非磁性層及び強磁性層(自由層)の4層構造を備えた多層膜(いわゆる、「スピンバルブ」)からなる金属人工格子、強磁性金属(例えば、パーマロイ等)からなるnmサイズの微粒子と、非磁性金属(例えば、Cu、Ag、Au等)からなる粒界相とを備えた金属−金属系ナノグラニュラー材料、スピン依存トンネル効果によってMR(Magneto-Resistivity)効果が生ずるトンネル接合膜、nmサイズの強磁性金属合金微粒子と、非磁性・絶縁性材料からなる絶縁マトリックスとを備えた金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料等が知られている。
【0005】
これらの内、スピンバルブに代表される多層膜は、一般に、低磁界における感度が高いという特徴がある。しかしながら、多層膜は、種々の材料からなる薄膜を高精度で積層する必要があるために、安定性や歩留まりが悪く、製作コストを抑えるには限界がある。そのため、この種の多層膜は、専ら付加価値の大きなデバイス(例えば、ハードディスク用の磁気ヘッド)にのみ用いられ、単価の安いAMRセンサやホールセンサとの価格競争を強いられる磁気センサに応用するのは困難であると考えられている。また、多層膜間の拡散が生じやすく、GMR効果が消失しやすいため、耐熱性が悪いという大きな欠点がある。
【0006】
一方、ナノグラニュラー材料は、一般に、作製が容易で、再現性も良い。そのため、これを磁気センサに応用すれば、磁気センサを低コスト化することができる。特に、金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、
(1)その組成を最適化すれば、室温において10%を越える高いMR比を示す、
(2)電気比抵抗ρが桁違いに高いので、磁気センサの超小型化と低消費電力化が同時に実現可能である、
(3)耐熱性の悪い反強磁性膜を含むスピンバルブ膜と異なり、高温環境下でも使用可能である、
等の利点がある。しかしながら、金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、低磁界における磁界感度が非常に小さいという問題がある。そのため、巨大磁気抵抗薄膜の両端に軟磁性薄膜を配置し、巨大磁気抵抗薄膜の磁界感度を上げることも行われる。
【0007】
このような金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料及びこれを用いた薄膜磁気センサについては、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、絶縁物マトリックスにナノメータサイズの磁性グラニュールが分散した構造を有し、かつ、Fe26Co12Mg1844組成を有する高電気比抵抗磁気抵抗膜が開示されている。
同文献には、フッ化物からなる絶縁マトリックスにナノメータサイズの磁性グラニュールを分散させると、高い電気比抵抗が得られる点が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、絶縁体マトリックスにナノメータサイズの磁性グラニュールが分散した構造を有し、かつ、(Fe0.6Co0.4)41Mg2138組成を有する磁気抵抗膜が開示されている。
同文献には、このような組成を有する磁気抵抗膜のMR比は12.3%であり、MR比の温度係数は−260ppm/℃である点が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料ではないが、Co2Fe(Si1-xAlx)(但し、0<x<1)薄膜、及び、これを強磁性層として用いたトンネル磁気抵抗効果素子が開示されている。
【0010】
金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料の内、最大のMR比を示すものとして、FeCo−MgF系ナノグラニュラー材料が知られている。この材料のMR比は、最大で14〜15%程度と言われている。しかしながら、薄膜磁気センサの感度をさらに向上させ、薄膜磁気センサをさらに小型化するためには、金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料のMR比をさらに向上させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−094175号公報
【特許文献2】特開2003−258333号公報
【特許文献3】WO2007/1260671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、新規な金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料からなる薄膜、新規な金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料からなる薄膜を含むナノグラニュラー複合薄膜、及び、このような薄膜又は複合薄膜を用いた薄膜磁気センサを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、従来の材料に比べて高いMR比を示す金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜、及びナノグラニュラー複合薄膜、並びに、このような薄膜又は複合薄膜を用いた薄膜磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜は、
(1)式で表される組成を有する強磁性粒子と、
前記強磁性粒子の周囲に充填された絶縁材料からなる絶縁マトリックスと
を備えていることを要旨とする。
Co2Fe(Al1-xSix) ・・・(1)
但し、0<x<1。
【0014】
本発明に係るナノグラニュラー複合薄膜は、
MgO、NiO、SiO2又はAl23からなるバッファ層と、
前記バッファ層の表面に形成された本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜とを備えていることを要旨とする。
【0015】
本発明に係る薄膜磁気センサの1番目は、本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜を備えていることを要旨とする。
さらに、本発明に係る薄膜磁気センサの2番目は、本発明に係るナノグラニュラー複合薄膜を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
Co2Fe(Al1-xSix)を強磁性粒子とする金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、新規な材料であり、この材料からなる薄膜は、相対的に高いMR比を示す。特に、所定の組成を有するバッファ層の上にこの金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜を形成した複合薄膜は、従来知られている材料よりも高いMR比を示す。そのため、このような薄膜又は複合薄膜を薄膜磁気センサの磁性層として使用すると、薄膜磁気センサの感度向上、あるいは、小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ナノグラニュラー薄膜の断面模式図である。
【図2】Al23−CFAS系ナノグラニュラー複合薄膜のTEM写真である。
【図3】Al23−CFAS系ナノグラニュラー複合薄膜の電気比抵抗とMR比との関係を示す図である。
【図4】Al23−CFAS系ナノグラニュラー複合薄膜に含まれる強磁性粒子(CFAS)の含有量(vol%)とMR比との関係を示す図である。
【図5】Al23−CFAS系ナノグラニュラー複合薄膜の電気抵抗の外部磁界依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜]
本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜は、所定の組成を有する強磁性粒子と、強磁性粒子の周囲に充填された絶縁材料からなる絶縁マトリックスとを備えている。
【0019】
[1.1. 強磁性粒子]
本発明において、強磁性粒子は、次の(1)式で表される組成を有する。
Co2Fe(Al1-xSix) ・・・(1)
但し、0<x<1。
【0020】
Co2Fe(Al1-xSix)(以下、「CFAS」とも言う)は、一方の電子スピンが金属的なバンド構造を持ち、他方の電子スピンが絶縁体的なバンド構造を持つ、いわゆる「ハーフメタル強磁性体」である。
CFASの単位胞は、8つの体心立方格子を重ね合わせた構造を持つ。規則構造を持つCFASの単位胞において、Co(X原子)は、各体心立方格子の体心の位置を占有し、Fe又は(Si、Al)は、各体心立方格子の頂点の位置を占有している。
CFASの結晶構造には、
(イ)Co(X原子)、Fe(Y原子)及び(Si、Al)(Z原子)がそれぞれ各体心立方格子の位置を不規則に占有しているA2構造と、
(ロ)Co(X原子)が各体心立方格子の体心の位置を占有し、Fe(Y原子)及び(Si、Al)(Z原子)が、それぞれ各体心立方格子の頂点を不規則に占有しているB2構造(XY)と、
(ハ)Co(X原子)が各体心立方格子の体心の位置を占有し、Fe(Y原子)及び(Si、Al)(Z原子)が、岩塩構造を形成するように各体心立方格子の頂点を規則的に占有しているL21型構造(X2YZ、いわゆる「ホイスラー合金」又は「フルホイスラー合金」)と、
が知られている。
L21型構造を持つホイスラー合金は、一般にキュリー温度が室温以上であるため、ハーフメタル強磁性体として有望視されている。本発明において、CFASは、(イ)〜(ハ)のいずれの結晶構造を持つものでも良い。
【0021】
(1)式中、xは、強磁性粒子に含まれるSi及びAlの原子比を表す。文献:T.M.Nakatani et al., Journal of Applied Physics 102, 033916(2007)にあるように、x=0又は1である場合、相対的に大きなMR比は得られない。
一般に、xが大きくなるほど、高いMR比が得られる。これは、スピン分極率が大きくなるためである。従って、xは、0.3以上が好ましい。
一方、xが大きくなりすぎると、かえってMR比が低下する。これは、スピン分極率が小さくなるためである。従って、xは、0.7以下が好ましい。
これらの中でも、Co2Fe(Si0.5Al0.5)は、強磁性粒子として好適である。これは、x=0.5で最もスピン分極率が大きくなるためである。
【0022】
[1.2. 絶縁マトリックス]
絶縁マトリックスは、強磁性粒子の周囲に充填されている。本発明において、絶縁マトリックスは、絶縁材料であれば良い。
絶縁マトリックスを構成する絶縁材料としては、例えば、
(イ)Al23、MgO、SiO2、TiO2などの電気絶縁性の酸化物、
(ロ)BeF2、MgF2、AlF3、CaF2、SrF2、BaF2などの電気絶縁性のフッ化物、
(ハ)SiNなどの電気絶縁性の窒化物、
などがある。
これらの中でも、Al23とMgF2は、MR比が高く、絶縁マトリックスを構成する材料として好適である。
【0023】
[1.3. 強磁性粒子の含有量]
強磁性粒子の含有量は、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の特性に影響を与える。一般に、強磁性粒子の含有量が少なすぎると、電気比抵抗が著しく増大し、磁界の変化を電流の変化として検出するのが困難となる。従って、強磁性粒子の含有量は、40vol%以上が好ましい。強磁性粒子の含有量は、さらに好ましくは、45vol%以上である。
一方、強磁性粒子の含有量が過剰になると、強磁性粒子同士が接触し、トンネル磁気抵抗効果が得られない。従って、強磁性粒子の含有量は、90vol%以下が好ましい。強磁性粒子の含有量は、さらに好ましくは、80vol%以下である。
【0024】
[1.4. MR比]
後述するバッファ層を伴わない場合において、強磁性粒子の含有量、熱処理条件等を最適化すると、MR比は、5%以上となる。
ここで、「MR比」とは、(2)式で表される値(最大MR比)を言う。
MR比(%)=|ρ−ρ0|×100/ρ0 ・・・(2)
但し、
ρ0は、室温、外部磁界H=ゼロ[kOe]であるときの薄膜の電気比抵抗。
ρは、室温においてほぼ抵抗変化が飽和している外部磁界Hが9[kOe]であるときの薄膜の電気比抵抗。
【0025】
[1.5. 電気比抵抗]
一般に、薄膜中の強磁性粒子の含有量が多くなるほど、強磁性粒子同士が接触する確率が高くなり、薄膜の電気比抵抗が低下する。高いトンネル磁気抵抗効果を得るためには、薄膜の電気比抵抗は、1×106μΩ・cm以上が好ましい。薄膜の電気比抵抗は、さらに好ましくは、1×108μΩ・cm以上である。
一方、薄膜中の磁性粒子の含有量が少なくなりすぎると、電気比抵抗が著しく増大し、磁界の変化を電流の変化として検出するのが困難となる。従って、薄膜の電気比抵抗は、5×1011μΩ・cm以下が好ましい。薄膜の電気比抵抗は、さらに好ましくは、1×1011μΩ・cm以下である。
ここで「電気比抵抗」とは、室温、外部磁界H=ゼロ[kOe]における値をいう。
【0026】
[2. ナノグラニュラー複合薄膜]
本発明に係るナノグラニュラー複合薄膜は、所定の材料からなるバッファ層と、バッファ層の表面に形成された金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜とを備えている。
【0027】
[2.1. バッファ層]
[2.1.1. 組成]
本発明において、バッファ層は、MgO、NiO、SiO2又はAl23からなる。
「バッファ層」とは、基板と金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜との間に形成される薄膜をいう。バッファ層の上に金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料を形成すると、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜単独の場合に比べてMR比が向上する。
【0028】
特定の材料からなるバッファ層と特定の組成を有するナノグラニュラー薄膜とを複合化させることによって、このような効果が得られるのは、
(イ)CFASとの格子整合性のミスマッチが小さく、CFASの結晶性が向上しやすいため、あるいは、
(ロ)CFASグラニュールを核生成させるために必要な適当な表面粗さを作り出すため、
と考えられる。
【0029】
これらの中でも、MgOは、高いMR比が得られるので、バッファ層を構成する材料として特に好適である。これは、CFASとの格子定数のミスマッチが小さいことと、適当な表面粗さを作り出せるためである。
【0030】
[2.1.2. 膜厚]
バッファ層の膜厚は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な膜厚を選択することができる。
一般に、バッファ層の厚さが薄すぎると、十分なMR比向上効果が得られない。従って、バッファ層の厚さは、1nm以上が好ましい。
一方、バッファ層の厚さを必要以上に厚くしても、効果が飽和し、実益がない。従って、バッファ層の厚さは、1000nm以下が好ましい。
【0031】
[2.2. 金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜]
[2.2.1. 組成]
金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜は、バッファ層の表面に形成される。金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の組成については、上述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0032】
[2.2.2. 膜厚]
金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な膜厚を選択することができる。
一般に、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の厚さが薄すぎると、グラニュラー構造を実現できないという問題がある。従って、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の厚さは、3nm以上が好ましい。
一方、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の厚さが厚くなりすぎると、デバイスへの加工が困難になるという問題がある。従って、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の厚さは、1000nm以下が好ましい。
【0033】
[2.3. MR比]
バッファ層の上に金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料を形成すると、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜単独の場合に比べてMR比が向上する。
バッファ層を伴う場合において、強磁性粒子の含有量、熱処理条件、バッファ層の組成等を最適化すると、MR比は、8%以上となる。また、条件を最適化すると、MR比は、15%以上となる。
ここで、「MR比」とは、上述した(2)式で表される値を言う。
【0034】
[2.4. 電気比抵抗]
バッファ層の電気比抵抗は、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の電気比抵抗より大きい。そのため、複合薄膜の電気比抵抗は、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の電気比抵抗によってほぼ決まる。
上述したように、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜中の強磁性粒子の含有量が多くなるほど、強磁性粒子同士が接触する確率が高くなる。その結果、複合薄膜の電気比抵抗が低下する。高いトンネル磁気抵抗効果を得るためには、複合薄膜の電気比抵抗は、1×106μΩ・cm以上が好ましい。複合薄膜の電気比抵抗は、さらに好ましくは、1×108μΩ・cm以上である。
一方、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜中の磁性粒子の含有量が少なくなりすぎると、電気比抵抗が著しく増大し、磁界の変化を電流の変化として検出するのが困難となる。従って、複合薄膜の電気比抵抗は、5×1011μΩ・cm以下が好ましい。複合薄膜の電気比抵抗は、さらに好ましくは、1×1011μΩ・cm以下である。
なお、複合薄膜の「電気比抵抗」の定義は、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜と同様である。
【0035】
[3. 薄膜磁気センサ(1)]
本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気センサは、本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜を備えている。
薄膜磁気センサにおいて、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜は、磁気の変化を電流の変化として検出するための磁性層に用いられる。
金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜は、基板表面に形成される。また、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜の両端には、電流を検出するための電極が形成される。さらに、低磁界における磁界感度を向上させるために、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜と電極の間に、軟磁性材料からなる薄膜(薄膜ヨーク)が形成される場合もある。
【0036】
本発明において、薄膜磁気センサの構造及び各部の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
例えば、基板には、ガラス、熱酸化膜付きSiなどを用いることができる。
また、薄膜ヨークを形成する場合、薄膜ヨークには、40〜90%Ni−Fe合金、Fe74Si9Al17、Fe12Ni82Nb6、Co88Nb6Zr6アモルファス合金、(Co94Fe6)70Si1515アモルファス合金、Fe75.6Si13.28.5Nb1.9Cu0.8、Fe83Hf611、Fe85Zr105合金、Fe93Si34合金、Fe711118合金、Fe71.3Nd9.619.1ナノグラニュラー合金、Co70Al1020ナノグラニュラー合金、Co65Fe5Al1020合金などを用いることができる。
【0037】
[4. 薄膜磁気センサ(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る薄膜磁気センサは、本発明に係るナノグラニュラー複合薄膜を備えている。
第2の実施の形態に係る薄膜磁気センサは、磁性層として、金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜に代えてナノグラニュラー複合薄膜が用いられる。その他の点は、第一の実施の形態に係る薄膜磁気センサと同様であるので、説明を省略する。
【0038】
[5. 金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜及びナノグラニュラー複合薄膜の製造方法]
[5.1. 薄膜形成工程]
金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜は、
(イ)CFAS金属円板上に絶縁物のチップを載せた複合ターゲットを用いてスパッタする方法、
(ロ)CFAS金属ターゲットと絶縁物ターゲットを用い、基板に同時にスパッタする同時スパッタ法、
(ハ)CFAS金属ターゲットと絶縁物ターゲットを用い、基板や窓付きシャッター等を公転させて基板に交互にスパッタするタンデム法
などにより製造することができる。
金属と絶縁物の体積比や基板加熱温度等の成膜条件を最適化することにより、薄膜形成工程のみでも金属と絶縁物の生成エネルギーの違いによりナノグラニュラー構造を得ることができる。但し、金属と絶縁物の体積比や基板加熱温度等の成膜条件が適切でない場合には、ナノグラニュラー構造をとらずに連続膜となることもある。
【0039】
[5.2. 熱処理工程]
薄膜形成工程でも述べたように、成膜条件を最適化すると、成膜のみによってもナノグラニュラー構造を形成することができる。しかしながら、成膜後に熱処理を行うと、CFASの結晶性が向上し、MR比が向上するため、得られた薄膜の熱処理を行っても良い。また、薄膜形成工程においてナノグラニュラー構造を取らず、連続膜となった薄膜に対して熱処理を行うと、熱によりCFASが凝集しナノグラニュラー構造をとり、かつ、CFASの結晶性が向上し、MR比が向上するため、得られた薄膜の熱処理を行っても良い。熱処理条件は、CFAS及び絶縁材料の組成に応じて最適な条件を選択する。
一般に、熱処理温度が低すぎると、実用的な時間内にMR比を向上させることができない。
一方、熱処理温度が高すぎると、CFASと絶縁材料が相互拡散し、ナノグラニュラー構造が崩壊するという問題がある。
熱処理温度は、通常、150℃〜800℃である。
【0040】
熱処理時間は、熱処理温度に応じて最適な時間を選択する。一般に、熱処理温度が高くなるほど、短時間でMR比を向上させることができる。熱処理時間は、通常、0.5時間〜10時間である。
【0041】
図1に、ナノグラニュラー薄膜の断面模式図を示す。ナノグラニュラー薄膜10は、CFASからなる強磁性粒子12と、強磁性粒子12の周囲に充填された絶縁材料からなる絶縁マトリックス14とを備えている。ナノグラニュラー薄膜10は、図1に示すように、適当な基板16の表面にバッファ層18を介して形成されていても良く、あるいは、図示はしないが、基板16の表面に直接、形成されていても良い。
図2に、MgOをバッファ層に用いたAl23−CFAS系ナノグラニュラー複合薄膜のTEM写真を示す。図2より、薄膜内にナノグラニュラー構造が形成されていることがわかる。
【0042】
[6. 薄膜磁気センサの製造方法]
薄膜磁気センサは、
(イ)基板表面に所定の組成を有する薄膜を形成する工程と、
(ロ)エッチング法、リフトオフ法などを用いて、薄膜の不要部分を除去する工程と、
を繰り返すことにより製造することができる。
【0043】
金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜又はナノグラニュラー複合薄膜の両端に軟磁性材料からなるヨークが配置された薄膜磁気センサの場合、通常、ヨーク形成後、ヨークの磁気特性を向上させるために熱処理を行う。一般に、熱処理温度が高くなるほど、ヨークの特性が向上し、高いMR比が得られる。一方、熱処理温度が高すぎると、GMR膜の電気比抵抗が極端に増大し、かえってMR比が低下する。
最適な熱処理温度は、ヨークの組成や要求される特性等により異なる。通常、熱処理温度は、150〜300℃である。
熱処理時間は、熱処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、熱処理温度が高くなるほど、短時間で磁気特性を向上させることができる。通常、熱処理時間は、0.5〜2時間である。
【0044】
[7. 作用]
CFASを強磁性粒子とする金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、新規な材料であり、この材料からなる薄膜は、相対的に高いMR比を示す。特に、所定の組成を有するバッファ層の上にこの金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜を形成した複合薄膜は、従来知られている材料よりも高いMR比を示す。そのため、このような薄膜又は複合薄膜を薄膜磁気センサの磁性層として使用すると、薄膜磁気センサの感度向上、あるいは、小型化が可能となる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
成膜には、DC/RFマグネトロンスパッタ装置を用いた。基板には、ガラスを用いた。バッファ層には、MgOを用いた。CFASには、Co50Fe25Al12.5Si12.5(at%)を用い、絶縁マトリックスには、Al23を用いた。
【0046】
容器内に基板及びターゲットを設置し、到達圧力が2×10-8Torr(2.67×10-6Pa)未満になるまで容器内を排気した後、容器内に4.8×10-3Torr(6.40×10-1Pa)のArを導入した。次いで、窓付きシャッター及び基板を回転させながら、基板表面にMgO、CFAS、及び、Al23を成膜した。投入電力は、以下の通りである。
(1)CFAS:DC311V、0.22A
(2)MgO:RF160W
(3)Al23:RF200W
【0047】
成膜時の膜構成は、基板/MgO(3nm)/CFAS(x1nm)/Al23(x2nm)/CFAS(x3nm)/Al23(3nm)とし、x1〜x3を変化させることにより強磁性粒子の含有量が異なる種々の複合薄膜の成膜を行った。これらの複合薄膜について、真空度:5×10-5Torr(6.67×10-3Pa)以下の真空雰囲気中において、400℃×1時間熱処理した。
【0048】
[2. 試験方法]
[2.1. 電気比抵抗]
直流2端子法を用いて、熱処理前及び熱処理後の複合薄膜の電気比抵抗を測定した。測定条件は、室温、外部磁界H=ゼロ[kOe]とした。
[2.2. MR比]
直流2端子法を用いて、熱処理前及び熱処理後の複合薄膜のMR比を測定した。測定条件は、室温、外部磁界H=9[kOe]とした。
【0049】
[3. 結果]
図3に、熱処理前と熱処理後における複合薄膜の電気比抵抗とMR比との関係を示す。図4に、複合薄膜に含まれる強磁性粒子(CFAS)の含有量(vol%)とMR比との関係を示す。
図3及び図4より、
(1)複合薄膜のMR比は、最大で約16%を超える、
(2)適切な熱処理を施すと、複合薄膜の電気比抵抗が大きくなり、MR比が向上する、
(3)CFASの体積割合が適切でも連続膜になると、電気比抵抗が低くなり(ρ<1×106μΩ・cm)、MR比も低くなる、
(4)CFASの体積割合を50〜80vol%、かつ、電気比抵抗を、1×108〜5×1010μΩ・cmとすると、MR比は、7%以上になる、
(5)CFASの体積割合を60〜80vol%、かつ、電気比抵抗を、2×108〜5×1010μΩ・cmとすると、MR比は、10%以上になる、
(6)CFASの体積割合を60〜70vol%、かつ、電気比抵抗を、2×108〜1×109μΩ・cmとすると、MR比は、15%以上になる、
ことがわかる。
【0050】
図5に、ナノグラニュラー複合薄膜の電気抵抗の外部磁界依存性を示す。なお、図5に示すナノグラニュラー複合薄膜の成膜時の膜構成は、ガラス基板/MgO(3.0nm)/CFAS(2.5nm)/Al23(1.5nm)/CFAS(2.5nm)/Al23(3.0nm)である。また、同図に示すナノグラニュラー複合薄膜は、400℃での熱処理を行ったものである。
基板上に形成された薄膜に対して垂直に磁界を印加し、薄膜の膜面方向に流れる電流を検出した。
ナノグラニュラー複合薄膜のMR比(H=9[kOe])は16.5%、電気比抵抗は3.38×108μΩ・cmであった。
【0051】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
バッファ層としてAl23を用いた以外は、実施例1と同様にして、ナノグラニュラー複合薄膜の成膜及び熱処理を行った。なお、ナノグラニュラー複合薄膜の膜構成は、ガラス基板/Al23(3.0nm)/CFAS(2.5nm)/Al23(1.5nm)/CFAS(2.5nm)/Al23(3.0nm)とした。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、MR比を測定した。
[3. 結果]
バッファ層としてAl23を用いた熱処理後のナノグラニュラー複合薄膜のMR比(H=9[kOe])は、8.3%であった。
【0052】
(実施例3〜6)
[1. 試料の作製]
バッファ層の組成及び/又は絶縁マトリックスの組成を変えた以外は、実施例1と同様にして、種々のナノグラニュラー薄膜又は複合薄膜の成膜及び熱処理を行った。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、MR比を測定した。
[3. 結果]
表1に、熱処理後の各種ナノグラニュラー薄膜又は複合薄膜のMR比を示す。なお、表1には、バッファ層及び絶縁マトリックスの組成も併せて示した。
表1より、
(1)ナノグラニュラー薄膜と基板の間にバッファ層を形成すると、バッファ層を形成しない場合に比べて、MR比が向上する、
(2)バッファ層及び/又は絶縁マトリックスの組成が変わると、MR比が異なる、
ことがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜及びナノグラニュラー複合薄膜は、磁気センサ、磁気メモリ、磁気ヘッド等の材料として用いることができる。
本発明に係る薄膜磁気センサは、自動車の車軸、ロータリーエンコーダ、産業用歯車等の回転情報の検出、油圧式シリンダ/空気式シリンダのストロークポジション、工作機械のスライド等の位置・速度情報の検出、工業用溶接ロボットのアーク電流等の電流情報の検出、地磁気方位コンパスなどに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)式で表される組成を有する強磁性粒子と、
前記強磁性粒子の周囲に充填された絶縁材料からなる絶縁マトリックスと
を備えた金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。
Co2Fe(Al1-xSix) ・・・(1)
但し、0<x<1。
【請求項2】
前記強磁性粒子の含有量は、40vol%以上90vol%以下である請求項1に記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。
【請求項3】
前記強磁性粒子は、Co2Fe(Al1-xSix)(但し、0.3≦x≦0.7)である請求項1又は2に記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。
【請求項4】
前記絶縁材料は、Al23又はMgF2である請求項1から3までのいずれかに記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。
【請求項5】
MR比が5%以上である請求項1から4までのいずれかに記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。
【請求項6】
電気比抵抗が1×106μΩ・cm以上5×1011μΩ・cm以下である請求項1から5までのいずれかに記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜。
【請求項7】
MgO、NiO、SiO2又はAl23からなるバッファ層と、
前記バッファ層の表面に形成された請求項1から6までのいずれかに記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜と
を備えたナノグラニュラー複合薄膜。
【請求項8】
MR比が8%以上である請求項7に記載のナノグラニュラー複合薄膜。
【請求項9】
電気比抵抗が1×106μΩ・cm以上5×1011μΩ・cm以下である請求項7又は8に記載のナノグラニュラー複合薄膜。
【請求項10】
請求項1から6までのいずれかに記載の金属−絶縁体系ナノグラニュラー薄膜を備えた薄膜磁気センサ。
【請求項11】
請求項7から9までのいずれかに記載のナノグラニュラー複合薄膜を備えた薄膜磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15221(P2012−15221A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148433(P2010−148433)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(391002487)学校法人大同学園 (23)
【Fターム(参考)】