説明

金属含有フィルムのための第四族金属前駆体

【課題】比較的低い低分子量、比較的低い融点および高い蒸気圧を有する第四族金属前駆体の提供。
【解決手段】次式で表される第四族金属前駆体の一群。M(OR(RC(O)C(R)C(O)OR(ここで、Mは、Ti、Zr及びHfからなる群より選択される第四族金属であり;Rは、直鎖又は分岐鎖のC1〜10アルキル、及びC6〜12のアリールからなる群より選択され、好ましくはメチル、エチル又はn−プロピルから選択され;Rは、分岐鎖のC3〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され、好ましくはイソ−プロピル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル、又はtert−アミルから選択され;Rは、水素、C1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され、好ましくは水素である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
金属酸化物半導体(MOS)集積回路(IC)の各世代で、デバイスの寸法は、連続的に縮小されて、高集積度、及び高性能(例えば高速性及び低電力消費の要求)を与えてきた。残念なことに、電界効果半導体デバイスは、チャンネルの幅に比例する出力シグナルを生成するので、スケールの縮小は、これらの出力を低下させる。この効果は、一般的には、ゲート誘電体の厚さを減らすこと、したがってゲートをチャンネルの近くにさらに接近させて、そして電界効果を増大させ、それにより駆動電流を増加させることによって補われてきた。したがって、デバイス性能を改良するために極めて薄く、信頼性が高く、且つ低欠陥のゲート誘電体を与えることが、ますます重要になっている。
【背景技術】
【0002】
この数十年間、熱酸化ケイ素、SiOが主なゲート誘電体であったが、これは、SiOが下地のケイ素基材と適合し、且つその製造プロセスが比較的単純であるからである。しかし、酸化ケイ素のゲート誘電体が、比較的低い誘電率(k)3.9を有するので、特に薄い酸化ケイ素のゲート誘電体を通るゲート−チャンネルのリーク電流に起因して、10Å未満への酸化ケイ素のゲート誘電体の厚みのさらなる縮小は、ますます困難になっている。
【0003】
これは、酸化ケイ素よりも厚い層に形成されるが、同等以上のデバイス性能も提供できる代替の誘電材料への考慮をもたらす。この性能は、「等価酸化膜厚(EOT:equivalent oxide thickness)」として表現される場合がある。代替の誘電材料層は、比較の酸化ケイ素層よりも厚くしてもよいが、これは、ずっと薄い層の酸化ケイ素層と同等の効果を有する。
【0004】
この目的を達成するために、高誘電率(high−k)金属酸化物材料が、ゲート誘電体又はキャパシタ誘電体の代替誘電材料として提案されている。第四族含有前駆体を、それら単独で用いて、又は他の金属含有前駆体と組み合わせることによって用いて、高誘電率及び/又は強誘電体酸化物薄膜、例えばPb(Zr,Ti)O又は(Ba,Si)(Zr,Ti)Oを作製することもできる。金属酸化物材料の誘電率は、酸化ケイ素の誘電率よりも高くすることができるので、同等のEOTを持つ比較的厚い金属酸化物層を、堆積させることができる。結果として、半導体産業は、金属含有フィルム、例えば、限定されるものではないが、酸化物、窒化物、ケイ酸塩又はこれらの組み合わせを、基材、例えば金属窒化物又はケイ素上に堆積させることができるようにするために、第4族前駆体、例えばチタン含有前駆体、ジルコニウム含有前駆体、及びハフニウム含有前駆体並びにそれらの組み合わせを必要としている。
【0005】
残念なことに、従来の基材材料、例えばケイ素を使用する場合に、高誘電率の金属酸化物材料の使用は、幾つかの問題を提示する。ケイ素は、高誘電率の金属酸化物の堆積中に、又は次の熱プロセス中に、高誘電率の金属酸化物と反応する場合があり、又は酸化される場合があり、それにより酸化ケイ素の界面層を形成する。これは、等価酸化膜厚を増加させ、それによりデバイス性能を低下させる。さらに、高誘電率の金属酸化物層とケイ素基材との間の界面トラップ密度が増加する。これにより、キャリヤのチャンネル移動度が低下する。これは、MOSトランジスタのON/OFF電流比を低下させ、そのスイッチング特性を悪化させる。また、高誘電率の金属酸化物層、例えば酸化ハフニウム(HfO)層又は酸化ジルコニウム(ZrO)層は、比較的低い結晶化温度を有し、且つ熱的に不安定である。したがって、この金属酸化物層は、ソース/ドレイン領域中に注入されたドーパントを活性化させるための次の熱アニールプロセス中に、容易に結晶化される場合がある。これは、電流が通過する粒子境界を、金属酸化物層に形成する場合がある。この金属酸化物層の表面粗さが増加するに従い、リーク電流特性が悪化する場合がある。さらに、粗い表面を有するアラインメントキー(alignment key)での光の乱反射に起因して、高誘電率の金属酸化物層の結晶化は、次のアライメントプロセス(alignment process)に悪影響を及ぼす。
【0006】
第四族金属含有フィルムを、化学気相成長(CVD)プロセス、又は原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積することができる。従来のCVDプロセスでは、一以上の揮発性前駆体の蒸気を、半加工基材が装填された化学気相成長反応器に導入する。この半加工基材は、少なくとも一つの前駆体の熱分解温度より高い温度に事前に加熱されている。フィルム成長の速度は、その表面上の反応物質間の反応速度により決定され、フィルム成長は、反応物質蒸気が気相に存在する限り続く。他方で、原子層堆積(ALD)プロセスでは、反応物質を、反応物質間のあらゆる気相反応を回避するようにして、ALD反応器に連続して導入する。金属酸化物フィルムを堆積するためのALDプロセスの典型的なサイクルは、次のステップを有する:(1)金属含有前駆体の十分な蒸気を、ALDチャンバーに導入して、その前駆体を、全表面領域が覆われるまで、表面に化学的に吸着させるステップ;(2)ALDチャンバーを、不活性ガスでパージして、あらゆる副生成物を、未反応の前駆体と共に除去するステップ;(3)酸化剤を導入して、表面に吸着された前駆体と反応させるステップ;(4)あらゆる未反応酸化剤及びあらゆる反応副生成物をパージするステップ。このサイクルは、所望の厚みが達成されるまで繰り返される。理想的なALDプロセスは、自己制限的である。すなわち、基材表面が、反応物質の導入の間に反応物質で飽和されて、そして、気相中に過剰の前駆体が存在しているにもかかわらず、フィルム成長が停止する。それゆえ、ALDは、複雑な表面、例えば深いトレンチ及び他の段差構造への高度にコンフォーマルなフィルム(conformal film)の堆積に関して、CVDよりも複数の利点を与える。
【0007】
ALD前駆体の良好な熱安定性と、基材表面で化学吸着するALD前駆体の性能とのバランスは、高誘電率の誘電体金属酸化物の薄い、コンフォーマルなフィルムを製造するために非常に重要である。前駆体がプロセス中に蒸着チャンバーに達する前に、前駆体の尚早な分解を避けるために、前駆体が、蒸気供給の間に熱的に安定であることが望ましい。前駆体の尚早な分解は、堆積装置の液体流れ導管を詰まらせる場合がある副生成物の望ましくない蓄積を結果として生ずるだけでなく、堆積した金属酸化物薄膜の誘電率及び/又は強誘電特性と共に、組成に望ましくない変動を引き起こす場合がある。
【0008】
多くの様々な供給システムが、CVD反応器又はALD反応器への前駆体の供給のために開発されてきた。例えば、直接液体注入(DLI:direct liquid injection)法では、液体前駆体又は溶媒中の前駆体の溶液を、加熱された気化システムに供給し、それによりその液体組成物を、液相から気相にする。前駆体から気化器への高度な液体計量は、前駆体供給速度の正確で安定した制御を与える。しかし、気化プロセスの間に、前駆体構造が維持され、且つ分解が除かれることが重大である。金属有機前駆体の供給に関してすでに半導体産業で幅広く用いられている他の一つの方法は、通常のバブリング技術に基づいており、これは不活性ガスを、高い温度でそのままの液体の前駆体又は溶融前駆体にバブリングして通す。典型的には、前駆体は、低い蒸気圧を有し、100〜200℃に加熱して、十分な前駆体蒸気を堆積反応器にバブリング法によって供給する必要がある。溶融した相から供給された固体の前駆体は、複数の冷却/加熱サイクルの間にラインを詰まらせる場合がある。前駆体が液体であるか、又はバブリング器の温度より顕著に低い融点を有する固体であることが望ましい。熱分解の生成物も、供給ラインを詰まらせ、そして前駆体の供給速度に影響を与える場合がある。バブリング器の温度での長い時間が、前駆体の熱分解を引き起こす場合もある。前駆体は、複数の堆積サイクルの間にバブリング器に導入された微量の水分及び酸素と反応する場合もある。前駆体が、その化学的同一性を、保存及び供給の間の時間にわたって保持することが非常に望ましい。一定の供給及びフィルム成長を達成するための蒸着プロセスの性能を損なう場合があるので、第四族前駆体の化学組成におけるあらゆる変化が有害である。
【0009】
本発明の分野における従来技術としては次のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,603,033号
【特許文献2】特開2007−197804号
【特許文献3】特開平10−114781号
【特許文献4】国際公開WO1984003042号
【特許文献5】日本国特許第2822946号
【特許文献6】米国特許第6562990号
【特許文献7】国際公開WO9640690号
【特許文献8】米国特許出願公開第2010/0018439号
【特許文献9】本件出願人による同時継続出願である、米国特許出願公開第2007/0248754号
【特許文献10】2007年11月27日に出願された米国特許出願第11/945678号
【特許文献11】本件出願人による同時継続出願である、2008年11月11日に出願された米国特許出願第12/266,806号
【特許文献12】本件出願人による同時継続出願である米国特許出願公開第2010/0143607号
【特許文献13】2009年12月2日に出願された米国特許出願第12/629,416号
【特許文献14】本件出願人の米国特許第7,691,984号
【特許文献15】本件出願人の米国特許第7,723,493号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chem.Vap.Deposition,9,295(2003)
【非特許文献2】J.of LessCommon Metals,3,253(1961)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.79,p4344−4348 (1957)
【非特許文献4】Journal of the Chemical Society A:Inorganic,Physical,and Theoretical Chemistry:904−907(1970)
【非特許文献5】Chemical Communications 10(14):1610−1611(2004)
【非特許文献6】Journal of Materials Chemistry 14,3231−3238(2004)
【非特許文献7】Chemical Vapor Deposition 12,172−180(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来技術における第四族前駆体は、多くは固体であり、且つ比較的低い蒸気圧を有する(例えば、供給温度で0.5torr以下)。従来技術で液体形態である第四族前駆体のいくつかについては、これらの前駆体は、150℃超の温度で熱的に安定ではなく、それゆえ半導体製造中に供給又はプロセスの問題を引き起こす。それは例えば、ALDのプロセスウィンドウ(process window)の低下、原料容器と反応器との供給ラインの目詰まり、及びウェハーへの粒子堆積が挙げられる。
【0013】
したがって、次の特性の少なくとも一つを示す第四族前駆体、好ましくは液体の第四族前駆体を開発する必要性が存在している:比較的低い低分子量(例えば、500m.u.以下)、比較的低い融点(例えば、60℃以下)、高い蒸気圧(例えば、0.5torr以上)。高いALDサーマルウィンドウ(ALD thermal window)(例えば、300℃以上)と共に高いALD成長率(例えば、約0.3Å/サイクル超)を有する第四族前駆体も必要とされる。熱的に安定で、且つその化学的組成を保存中及び供給中に維持することができる第四族前駆体も開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、M(OR)(RC(O)C(R)C(O)ORの式で表され、次のようにも概略的に示される、第四族金属前駆体の一群である:
【化1】

(ここで、Mは、Ti、Zr及びHfからなる群より選択される第四族金属であり;Rは、1〜10の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基、及び6〜12の炭素原子を有するアリールからなる群より選択され、MがTiの場合には、好ましくはメチル、エチル及びn−プロピルからなる群より選択され;Rは、分岐鎖のC3〜10アルキル(好ましくはイソ−プロピル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル、tert−アミル)及びC6〜12アリールからなる群より選択することができ;Rは、水素、C1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され、好ましくは水素及びメチルからなる群より選択される)。
【0015】
本発明の好ましい実施態様において、前駆体は、液体又は60℃未満の融点を持つ固体である。
【0016】
これら前駆体の利点は、これらが液相で、少なくとも200℃まで熱的に安定であること、及びこれらが、300℃超の原子層堆積又はサイクリック化学気相成長(cyclic chemical vapor deposition)によって高度にコンフォーマルな金属酸化物フィルムの堆積を可能とすることである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】共通のアルコキシ基を有するビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(長い破線)、異なるアルコキシ基を有する粗原料のビス(n−プロポキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンから蒸留された液体物質(短い破線)、及び共通であるが比較的大きいアルコキシ基を有するビス(n−プロポキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(実線)に関する、熱重量分析(TGA)のグラフである。これら全ての前駆体が、揮発性であり、低い残渣を有することを示している。この図は、これら3つの前駆体が、アルコキシ配位子と、ケトエステラート配位子との異なる組み合わせに起因して、異なる揮発性を有していることも示している。
【図2】ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの結晶構造の概略図である。
【図3】ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(d−トルエン中の溶液)の加熱前(上部)と200℃で1時間の加熱後(下部)のH NMR(核磁気共鳴)スペクトルを示す。これは、熱処理後でその組成に変化がないことを示唆しており、この錯体の良好な熱安定性を示している。
【図4】共通のアルコキシ基を有するビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(実線)、共通のアルコキシ基を有するビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン(実線)の、10℃/分での加熱速度での高圧封止カプセルにおける示差走査熱量測定(DSC)の比較である。DSCのデータは、R(参照.式A)が分岐鎖アルキルである、ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(放熱の発生は310℃)が、Rが(参照.式A)が直鎖アルキルである、ビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン(放熱の発生は278℃)よりも良好な熱安定性を有することを示す。
【図5】ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(上部)、ビス(n−プロポキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(中央)、及びビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンとビス(n−プロポキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンとのおおよそ1:1の混合物(下部)の、d−トルエン溶液のH NMRスペクトルを示す。混合物(下部)のH NMRスペクトル中の二つのメトキシドのシグナルの存在は、二つの錯体間で、メトキシ配位子と、n−プロポキシ配位子との分子間の配位子交換をして、少なくとも二つの新規の錯体(メトキシ配位子、n−プロポキシ配位子と共にn−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子を有する錯体、及びメトキシ配位子、n−プロポキシ配位子と共にメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子を有する錯体)を結果として生じることを示唆している。
【図6】アルコキシを混合した、ビス(メトキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(上部)のd−トルエン溶液、及び200℃で1時間そのままで加熱したビス(メトキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(上部)のd−トルエン溶液のH NMRスペクトルを示す。OCH基(メトキシ配位子及びメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子に帰属する)の少なくとも二組、及び(OCHCHCH)基(n−プロポキシ配位子及びn−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子に帰属する)の少なくとも二組の存在は、結果として前駆体の混合物を形成をもたらす、ケトエステラート配位子とアルコキシ配位子との間の、メトキシ基及びn−プロポキシ基の配位子交換を示唆している。
【図7】ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(1)、及びビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(2)の熱表面反応の温度依存性であり、これは、350℃までの温度で加熱された基材表面上で、熱分解がないことを示している。
【図8】オゾン及びビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの100回のALDサイクルを用いた、酸化チタンフィルムの熱ALDの温度依存性であり、これは、この前駆体に関するALDサーマルウィンドウが、少なくとも約375℃までであることを示している。
【図9】ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを液体のチタン前駆体として用いて、パターン化された基材上に堆積させたTiOフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。これは、パターン化された基材の上部から下部までのすぐれた段差被覆率(90%超)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で開示するものは、例えば、化学気相成長プロセス、サイクリック化学気相成長(CCVD)プロセス又は原子層堆積プロセスにおける前駆体として適切な液体、又は低融点の第四族金属前駆体である。その錯体及び組成物は、基材、例えばケイ素、金属窒化物、金属酸化物、金属酸窒化物、金属ケイ酸塩、及び他の金属含有層上に、化学気相成長(CVDプロセス)、サイクリック化学気相成長(CCVD)プロセス又は原子層堆積(ALD)プロセスによって、金属含有フィルムを作製するためにも有用である。堆積した金属含有フィルムは、コンピュータの素子、光学デバイス、磁気情報記憶装置から、支持材料でコーティングされた金属含有触媒までの範囲となる用途を有する。
【0019】
また、本明細書で開示するものは、これらの前駆体を調製する方法と共に、その蒸着プロセス、特にサイクリックCVD堆積プロセス又はALD堆積プロセスにおける使用である。
【0020】
アルコキシ配位子、ジケトナート配位子、ケトエステラート配位子、シクロペンタジエニル配位子を含有する第四族の混合配位子金属前駆体の多くが、金属酸化物フィルムの堆積のために提案されてきた。異なる配位子を有する錯体を使用することは、前駆体の物理的特性及び化学反応性を変化すること可能とする。しかし、異なる配位子を有する前駆体の一つの潜在的な問題としては、保存中又は供給中の配位子交換が、結果として異なる揮発性及び反応性を有する化合物の混合物を形成する場合があることである。前駆体の化学構造の注意深い設計が、CVD堆積、CCVD堆積又はALD堆積における前駆体の性能を最適化するために、且つ供給を比較的高い温度で行う場合の分子間及び分子内の配位子交換反応を避けるために、必要とされる。
【0021】
本発明は、M(OR(RC(O)C(R)C(O)ORの式で表され、2次元で次のようにも描かれる、第四族金属前駆体の一群に関する:
【化2】

(ここで、Mは、Ti、Zr及びHfからなる群より選択される第四族金属であり;Rは、直鎖又は分岐鎖のC1〜10アルキル基、及びC6〜12のアリールからなる群より選択され、好ましくはメチル、エチル又はn−プロピルから選択され;Rは、分岐鎖のC3〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され、好ましくはイソ−プロピル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル、又はtert−アミルから選択され;Rは、水素、C1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され、好ましくは水素である)。
【0022】
従来技術におけるアルコキシ配位子及びケトエステラート配位子の両方を有する他の潜在的な前駆体を上回る、これら前駆体の一つのユニークな特徴は、本発明の前駆体が、共通のアルコキシ基のみを有することであり、これは、比較的高い温度での隣接した結合部位の間のアルコキシ基の交換による他の金属前駆体錯体の形成を妨げ、そうして良好な熱安定性及び組成安定性を与える。前駆体の良好な熱安定性及び組成安定性は、蒸着チャンバーへの着実な前駆体供給、及び着実な蒸着パラメーターを確保するために重要である。例えば、図3は、ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの200℃で1時間の加熱前後のH NMRスペクトルを示し、これは熱処理後でその組成に変化がないことを示しており、それゆえこの前駆体の非常に良好な熱安定性を示している。200℃で1時間の加熱の後で、H NMRスペクトルに変化がないことは、R基が同じである他の前駆体、例えばビス(n−プロポキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの熱試験の間にも観測された。
【0023】
対照的に、複数の配位子交換プロセスが、異なるアルコキシ基を有する第四族金属前駆体に関して起こりうる。容器中のそのような錯体を加熱することは、異なる組成及び揮発性を有する錯体の混合物を結果として生じる。例えば、図6は、二種類のアルコキシ基、すなわちメトキシ及びn−プロポキシが存在する、200℃で1時間の加熱前後のビス(メトキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンのd−トルエン溶液のH NMRスペクトルを示す。少なくとも二組のOCH基(メトキシ配位子、及びメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子に帰属する)、及び少なくとも二組の(OCHCHCH)基(n−プロポキシ配位子及びn−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子に帰属する)の存在は、下記に示すように、ケトエステラート配位子とアルコキシ配位子との間のメトキシ及びn−プロポキシ基の配位子交換、及び二つの異なるケトエステラート配位子を有する前駆体の混合物の形成を示唆している。このタイプの交換は、同じ分子量であるが、異なるケトエステラート配位子並びに異なる揮発性及び化学反応性を有する金属前駆体錯体を結果として生じる。
【化3】

【0024】
上記、式Bの金属前駆体錯体でのアルコキシ配位子の分子間交換は、アルコキシ配位子及びケトエステラート配位子の様々な組み合わせを有し、それゆえ異なる分子量を有する錯体のさらに複雑な混合物を結果として生じるであろう。例えば、図5は、(a)ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(グラフ上部)、(b)ビス(n−プロポキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(グラフ中央)、及びそれらの(c)混合物(グラフ下部)の、d−トルエン溶液のH NMRスペクトルを示す。個々の化合物(a)と(b)には存在しない、混合物(グラフ下部)のH NMRスペクトル中の二つのメトキシのシグナルの存在は、二つの錯体、(a)と(b)との間のメトキシ配位子の分子間の配位子交換を示唆し、そしてメトキシ配位子と、n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子との両方を有する混合錯体の存在を示唆する。
【化4】

【0025】
図1は、アルコキシ配位子とケトエステラート配位子との異なる組合せを有する第四族金属錯体が、異なる揮発性(沸点)を有することを示す。
【0026】
本発明の金属前駆体の他の一つの利点は、ケトエステラート配位子を有する他の潜在的な前駆体とは対照的に、本発明のRが、分岐鎖のC3〜10アルキル及びアリールからなる群より選択され、好ましくはイソ−プロピル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル、又はtert−アミルから選択されることである。あらゆる特定の理論に拘束されないが、分岐鎖アルキル基、Rの立体障害が、本発明の前駆体に良好な熱安定性を与えると考えられる。例えば、図4は、ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(Rがtert−ブチルである本発明の前駆体)、及びビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン(Rがメチル)の10℃/分の加熱速度での、高圧封止カプセルでの示差走査熱量測定(DSC)の比較を示す。DSCのデータは、本発明の前駆体のずっと良好な熱安定性を示している。ここでは、Rが分岐鎖である本発明の前駆体(放熱の開始が310℃)と、Rが直鎖アルキルであるビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン(放熱の開始が278℃)とを比較している。
【0027】
本発明の一実施態様では、第四族金属前駆体の一群は、M(ORBuC(O)CHC(O)ORの式で表され、2次元で次のようにも描かれる:
【化5】

(ここで、Mは、Ti、Zr及びHfからなる群より選択される第四族金属であり;Rは、直鎖又は分岐鎖のC1〜10アルキル、及びC6〜12のアリールからなる群より選択され、好ましくはメチル、エチル及びn−プロピルからなる群より選択される)。
【0028】
本発明のさらに他の一つの実施態様は、第四族金属前駆体は、Ti(ORBuC(O)CHC(O)ORの式で表され、2次元で次のようにも描かれる:
【化6】

(ここで、Rは、メチル、エチル及びプロピルからなる群より選択される)
【0029】
一つの特定の実施態様では、第四族金属前駆体は、次の特性の少なくとも一つを示す:低分子量(例えば、500m.u.以下)、低粘度(600cP以下)、低融点(例えば、60℃以下)及び高蒸気圧(例えば、0.5torr以上)。
【0030】
また、本明細書で述べられているものは、第四族金属含有フィルム、例えば、金属含有酸化物フィルム、金属含有窒化物フィルム、金属含有酸窒化物フィルム、金属含有ケイ酸塩フィルム、多成分金属酸化物フィルム、及びこれらの任意の組み合わせ又は積層の製造方法であり、これは例えば、半導体デバイスの製造で用いることができる。
【0031】
一実施態様では、本明細書で開示された方法は、第四族金属酸化物フィルム又は多成分金属酸化物フィルムを与え、これは通常の熱酸化ケイ素、窒化ケイ素、又はジルコニウム/ハフニウム酸化物誘電体のいずれの誘電率よりも実質的に高い誘電率を有する。
【0032】
本明細書で開示された方法は、原子層堆積又は化学気相成長(CVD)プロセスを用いて第四族金属含有フィルムを堆積する。本明細書で開示された方法に関して適切な堆積方法の例としては、限定されないが、サイクリックCVD(CCVD)、MOCVD(金属有機CVD)、熱化学気相成長、プラズマ化学気相成長(PECVD)、高密度PECVD、光子支援CVD(photon assisted CVD)、プラズマ−光子支援CVD(plasma−photon assisted CVD)(PPECVD)、低温化学気相成長(cryogenic chemical vapor deposition)、化学支援蒸着(chemical assisted vapor deposition)、ホットフィラメント化学気相成長(hot−filament chemical vapor deposition)、液体ポリマー前駆体のCVD、超臨界流体からの堆積、及び低エネルギーCVD(LECVD)が挙げられる。ある種の実施態様では、金属含有フィルムを、プラズマALD(plasma enhanced ALD)(PEALD)又はプラズマサイクリックCVD(plasma enhanced cyclic CVD)(PECCVD)プロセスを通じて堆積する。これらの実施態様では、堆積温度は、比較的低くすることができ、又は200℃〜400℃の範囲とすることができ、そして比較的広いプロセスウィンドウを可能として、最終用途で要求されるフィルム特性の規格を制御することができる。PEALD堆積又はPECCVD堆積に関して典型的な堆積温度としては、次の端点の任意の一つを有する範囲が挙げられる:200、225、250、275、300、325、350、375及び400℃。
【0033】
本明細書で開示された方法の一実施態様では、第四族金属ケイ酸塩フィルム又は金属酸窒化ケイ素フィルムを、式Aの第四族金属前駆体、ケイ素含有前駆体、酸素源、及び任意的に窒素源を用いて、基材の少なくとも一つの表面に形成する。金属含有前駆体及びケイ素含有前駆体は、典型的には液体の形態又は気相のどちらかで反応し、それによってフィルム形成を妨げるが、本明細書で開示された方法は、反応器への導入前及び/又は導入中に前駆体を分離するALD法又はCCVD法を用いることによって、金属含有前駆体又はケイ素含有前駆体の事前の反応を回避する。これに関連して、堆積技術、例えばALDプロセス又はCCVDプロセスを用いて、金属含有フィルムを堆積する。例えば、ある種の実施態様では、ALDプロセスを用いて、金属含有フィルムを堆積する。典型的なALDプロセスでは、フィルムは、基材表面を、金属前駆体又はケイ素含有前駆体に交互にさらすことによって堆積される。フィルム成長は、表面反応の自己制限的な制御、各前駆体のパルスの長さ、及び堆積温度によって進展する。しかし、基材の表面が一度飽和すると、フィルム成長は停止する。さらに他の一つの実施態様では、金属含有フィルムを、CCVDプロセスを用いて堆積することができる。この実施態様では、CCVDプロセスを、ALDのウィンドウより高い温度範囲、又は350℃〜600℃で実行することができる。CCVD堆積に関する典型的な堆積温度としては、次の端点の任意の一つを有する範囲を挙げることができる(摂氏温度で与える):200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575及び600℃。
【0034】
あらゆる理論に拘束されるものではないが、本発明の前駆体は、金属含有フィルムのALDに関して特に有用となることができると考えられる。本発明の前駆体は、350℃より高いALD操作サーマルウィンドウ(ALD operating thermal window)、及び0.3Å/サイクル、好ましくは0.5Å/サイクル超の高い成長率を有する
【0035】
ある種の実施態様では、本明細書で開示された方法は、第四族金属前駆体及び酸素源を用いて金属酸化物フィルムを形成する。酸素源を、酸素、酸素プラズマ、酸化窒素、オゾン、水、水プラズマ及びこれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0036】
上述したように、本明細書で開示された方法は、少なくとも一つの金属前駆体(例えば、本明細書に記載された第四族金属含有前駆体)、任意的に少なくとも一つのケイ素含有前駆体、任意的に酸素源、任意的に追加の金属含有前駆体又は他の金属含有前駆体、任意的に還元剤、及び任意的に窒素源を用いて金属含有フィルムを形成する。本明細書で用いられる前駆体及び物質源は、「ガス状」と述べられる場合があるが、前駆体は、液体又は固体のどちらかとなることができ、これは不活性ガスを用いて又は用いないで、反応器に直接気化、バブリング又は昇華によって輸送されると理解される。いくつかの場合には、気化した前駆体は、プラズマ発生器を通過することができる。
【0037】
ある種の実施態様では、他の金属含有前駆体を、本明細書に記載された第四族金属前駆体に追加して用いることができる。金属アミドに関する金属成分として用いることができる、半導体製造で通常用いられる金属としては、チタン、タンタル、タングステン、ハフニウム、ジルコニウム、セリウム、亜鉛、トリウム、ビスマス、ランタン、ストロンチウム、バリウム、鉛及びこれらの混合物が挙げられる。本明細書で開示された方法で用いることができる他の金属含有前駆体の例としては、限定されないが、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム(TDMAZ)、テトラキス(ジエチルアミノ)ジルコニウム(TDEAZ)、テトラキス(エチルメチルアミノ)ジルコニウム(TEMAZ)、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム(TDMAH)、テトラキス(ジエチルアミノ)ハフニウム(TDEAH)、及びテトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウム(TEMAH)、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(TDMAT)、テトラキス(ジエチルアミノ)チタン(TDEAT)、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(TEMAT)、tert−ブチルイミノトリ(ジエチルアミノ)タンタル(TBTDET)、tert−ブチルイミノトリ(ジメチルアミノ)タンタル(TBTDMT)、tert−ブチルイミノトリ(エチルメチルアミノ)タンタル(TBTEMT)、エチルイミノトリ(ジエチルアミノ)タンタル(EITDET)、エチルイミノトリ(ジメチルアミノ)タンタル(EITDMT)、エチルイミノトリ(エチルメチルアミノ)タンタル(EITEMT)、tert−アミルイミノトリ(ジメチルアミノ)タンタル(TAIMAT)、tert−アミルイミノトリ(ジエチルアミノ)タンタル、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、tert−アミルイミノトリ(エチルメチルアミノ)タンタル、ビス(tert−ブチルイミノ)ビス(ジメチルアミノ)タングステン(BTBMW)、ビス(tert−ブチルイミノ)ビス(ジエチルアミノ)タングステン、ビス(tert−ブチルイミノ)ビス(エチルメチルアミノ)タングステン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ストロンチウム、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)バリウム、M(R5-n(ここで、n=1〜5、且つRは、直鎖又は分岐鎖のC1〜6アルキルから選択される)、M(RNH4−n(ここで、n=2〜4、且つRは、直鎖又は分岐鎖のC1〜6アルキルから選択される)、及びM(R3−n(ここで、n=2〜3、且つRは、直鎖又は分岐鎖のC1〜6アルキルから選択される)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0038】
一実施態様では、本明細書に記載された第四族金属前駆体に追加して用いて、金属含有フィルムを与えることができる金属含有前駆体は、多座のβ−ケトイミナートであり、これは例えば、出願人による同時継続出願US2007/0248754、2007年11月27日に出願された米国特許出願11/945678、2008年11月11日に出願された出願人による同時継続米国特許出願12/266,806、出願による米国特許7,691,984号、米国特許7,723,493号に記載されており、これらは全て参照として本明細書に完全に取り込まれる。
【0039】
ある種の実施態様では、多座のβ−ケトイミナートは、アルコキシ基を、イミノ基に取り込むことができる。多座のβ−ケトイミナートは、次の式F及び式Gで表される群より選択される:
【化7】

(ここで、Mは第二族金属、例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムである。好ましくはMは、ストロンチウム又はバリウムである。式Fの錯体で用いられるオルガノ基(すなわちR1〜5基)としては、様々なオルガノ基を挙げることができ、且つ直鎖又は分岐鎖となることができる。好ましい実施態様において、Rは、C1〜10アルキル、C1〜10アルコキシアルキル、C1〜10アルコキシ、C1〜10フルオロアルキル、C1〜10脂環族及びC6〜10アリールからなる群より選択される。本明細書で用いられる場合、基「アルコキシアルキル」は、C−O−C部を含むエーテル状部分と言及する。例としては、−CHCH−O−CHCH−O−CH及び−CHCH−O−CH−O−CHが挙げられる。好ましくは、Rは、4〜6の炭素原子を含む嵩高いアルキル基であり、例えば、tert−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ペンチル基である。最も好ましいR基は、tert−ブチル基又はtert−ペンチル基である。好ましくは、Rは、水素、C1〜10アルキル、C1〜10アルコキシアルキル、C1〜10アルコキシ、C3〜10脂環族及びC6〜10アリールからなる群より選択される。さらに好ましくは、Rは、水素又はC1〜2アルキルである。好ましくは、Rは、C1〜10アルキル、C1〜10アルコキシアルキル、C1〜10アルコキシ、C3〜10脂環族及びC6〜10アリールからなる群より選択される。さらに好ましくは、Rは、C1〜2アルキルである。好ましくは、Rは、C1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレンであり、そしてさらに好ましくは、Rは、C3〜4を有する分岐鎖のアルキレンブリッジを含み、且つ少なくとも一つのキラル中心炭素原子を有する。特定の理論に拘束されることを意図していないが、配位子のキラル中心は、融点を低下させると共に錯体の熱安定性を向上させる役割を果たす。好ましくは、Rは、C1〜10アルキル、C1〜10フルオロアルキル、C3〜10脂環族及びC6〜10アリールからなる群より選択される。さらに好ましくは、Rは、C1〜2アルキルである)。
【0040】
これらの金属含有錯体の具体的な例は、次の式Gにより表される:
【化8】

(ここで、Mは、2〜5の価数を有する金属群であり、Rは、C1〜10の炭素原子を有するアルキル、アルコキシアルキル、フルオロアルキル、脂環族、及びアリールからなる群より選択される;Rは、水素、C1〜10アルキル、C1〜10アルコキシ、C4〜10脂環族及びC6〜12アリールからなる群より選択される;Rは、C1〜10アルキル、C1〜10アルコキシアルキル、C1〜10フルオロアルキル、C4〜10脂環族及びC6〜12アリールからなる群より選択される;Rは、C3〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキレンであり、そしてさらに好ましくは、Rは、C3〜4を有する分岐鎖のアルキルブリッジであり、好ましくは少なくとも一つのキラル中心炭素原子を有する。R5〜6は、個々に、C1〜10アルキル、C1〜10フルオロアルキル、C4〜10脂環族、C6〜12アリール、及び酸素原子又は窒素原子のどちらかを含むヘテロ環族からなる群より選択され;且つnは、金属Mの価数と等しい整数である)。
【0041】
一実施態様では、本発明の金属前駆体を、少なくとも一つの金属−配位子錯体に追加して用いることができる。その金属−配位子錯体の一以上の配位子は、β−ジケトナート, β−ジケトエステラート、β−ケトイミナート、β−ジイミナート、アルキル、カルボニル、アルキルカルボニル、シクロペンタジエニル、ピロリル、イミダゾリル、アミジナート、アルコキシ及びこれらの混合物からなる群より選択され、その配位子は、一座、二座、及び多座となることができ、金属―配位子錯体の金属は、元素周期律表の第二〜第十六族から選択される。これらの錯体の例としては、次のものを含む:ビス(2,2−ジメチル−5−(ジメチルアミノエチルイミノ)−3−ヘキサノナート−N,O,N’)ストロンチウム、ビス(2,2−ジメチル−5−(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナート−N,O,N’)ストロンチウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)セリウム(IV)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ランタン、Sr[(Bu)Cp]、Sr[(Pr)Cp]、Sr[(PrMeCp]、Ba[(Bu)Cp]、LaCp、La(MeCp)、La(EtCp)、La(PrCp)、ジルコニウムtert−ブトキシド、ストロンチウムビス(2−tert−ブチル−4,5−ジ−tert−アミルイミダゾレート)、バリウムビス(2−tert−ブチル−4,5−ジ−tert−アミルイミダゾレート)、バリウムビス(2,5−ジ−tert−ブチル−ピロリル)(ここで、「Bu」はブチル、「Cp」はシクロペンタジエニル、「Me」はメチル、「Et」はエチル、「Pr」はプロピルである)。
【0042】
一実施態様において、本発明の金属前駆体を、酸化チタン、ドープ酸化チタン、ドープ酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム(STO)及びチタン酸バリウムストロンチウム(BST)の堆積に用いることができる。
【0043】
堆積される金属フィルムが金属ケイ酸塩である一実施態様において、その堆積プロセスは、少なくとも一つのケイ素含有前駆体の導入をさらに伴う。適切なケイ素含有前駆体の例としては、モノアルキルアミノシラン前駆体、ヒドラジノシラン前駆体又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
ある種の実施態様において、ケイ素含有前駆体は、少なくとも一つのN−H部及び少なくとも一つのSi−H部を有するモノアルキルアミノシラン前駆体を含む。N−H部及びSi−H部の両方を有する適切なモノアルキルアミノシラン前駆体の例としては、例えば、ビス(tert−ブチルアミノ)シラン(BTBAS)、トリス(tert−ブチルアミノ)シラン、ビス(イソ−プロピルアミノ)シラン、トリス(イソ−プロピルアミノ)シラン及びこれらの混合物が挙げられる。一実施態様において、モノアルキルアミノシラン前駆体は、式(RNH)SiR4〜(n+m)を持つ(ここで、R及びRは、同じであるか又は異なっており、また個々に、C1〜10アルキル、ビニル、アリル、フェニル、C4〜10環状アルキル、C1〜10フルオロアルキル及びC1〜10シリルアルキルからなる群より選択され、且つnは1〜3の数、mは0〜2の数、且つ「n+m」の合計は3以下の数である)。他の一つの実施態様において、ケイ素含有前駆体は、式(RN−NH)SiR104〜(x+y)を持つヒドラジノシランを含む(ここで、R及びR10は、同じであるか又は異なっており、また個々に、C1〜10アルキル、ビニル、アリル、フェニル、C4〜10環状アルキル、C1〜10フルオロアルキル及びC1〜10シリルアルキルからなる群より選択され、且つxは1〜2の数、yは0〜2の数、且つ「x+y」の合計は3以下の数である)。適切なヒドラジノシラン前駆体の例としては、限定されないが、ビス(1,1−ジメチルヒドラジノ)−シラン、トリス(1,1−ジメチルヒドラジノ)シラン、ビス(1,1−ジメチルヒドラジノ)エチルシラン、ビス(1,1−ジメチルヒドラジノ)イソプロピルシラン、ビス(1,1−ジメチルヒドラジノ)ビニルシラン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
堆積方法に応じて、ある種の実施態様では、ケイ素含有前駆体を、反応器に所定のモル体積で、又は約0.1〜約1000マイクロモルで導入することができる。この又は他の実施態様では、ケイ素含有前駆体を、反応器に所定の時間で、又は約0.001〜約500秒の間で、導入することができる。ケイ素含有前駆体は、金属アミドと酸素源との反応によって形成された金属水酸基と反応し、そして基材の表面に化学的に吸着する。これは、金属−酸素−ケイ素及び金属−酸素−窒素−ケイ素の結合を通じて、結果として酸化ケイ素、又は酸窒化ケイ素の形成をもたらし、そうして金属ケイ酸塩フィルム又は金属酸窒化ケイ素フィルムを与える。
【0046】
前述したように、本明細書に記載した方法を用いて堆積したいくつかのフィルム(例えば、金属ケイ酸塩フィルム又は金属酸窒化ケイ素フィルム)を、酸素の存在下で形成することができる。酸素源は、反応器に少なくとも一つの酸素源の形態で導入することができ、且つ/又は堆積プロセスで用いられる他の前駆体に付随して存在することができる。適切な酸素源ガスとしては、例えば、水(HO)(例えば、脱イオン水、精製水、及び/又は蒸留水)、酸素(O)、酸素プラズマ、オゾン(O)、NO、NO、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)及びこれらの混合物が挙げられる。ある種の実施態様において、酸素源は、反応器に約1〜約2000sccm又は約1〜約1000sccmの範囲の流量で導入される酸素源ガスを含む。酸素源を、約0.1〜約100秒の範囲の時間で導入することができる。ある特定の実施態様において、酸素源は10℃以上の温度を有する水を含む。フィルムをALDプロセスによって堆積するこの又は他の実施態様において、前駆体のパルスは、0.01秒超のパルス時間を有することができ、また酸化剤のパルス時間は、0.01秒超のパルス時間を有することができ、さらに水のパルス時間は、0.01秒超のパルス時間を有することができる。本明細書で開示された堆積方法は、一以上のパージガスを用いることができる。未反応の反応物及び/又は反応副生成物をパージするために用いるパージガスは、前駆体と反応しない不活性ガスであり、好ましくはAr、N、He、H及びこれらの混合物からなる群より選択することができる。ある種の実施態様において、パージガス、例えばArは、約0.1秒〜1000秒の間に約10〜2000sccmの範囲を有する流量で反応器に供給され、それによって反応器中に残留している未反応材料及びあらゆる副生成物をパージする。
【0047】
ある種の実施態様、例えば、酸窒化金属ケイ素フィルムを堆積する実施態様では、追加のガス、例えば窒素源ガスを反応器に導入することができる。窒素源ガスの例としては、NO、NO、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0048】
本明細書に記載した方法の一つの実施態様において、反応器、すなわち堆積チャンバー内の基材の温度は、約600℃以下、若しくは約500℃以下、又は250℃〜400℃である。この又は他の実施態様において、圧力は、約0.1Torr〜約100Torr、又は約0.1Torr〜約5Torrの範囲とすることができる。
【0049】
前駆体、酸素源及び/又は他の前駆体若しくは物質源ガスを供給するそれぞれのステップを、それらを供給する時間を変えることで実行し、生成する金属ケイ酸塩フィルム、金属酸窒化ケイ素フィルム、又は他の金属含有フィルムの化学量論的組成を変えることができる。
【0050】
エネルギーを前駆体、酸素源ガス、還元剤、又はこれらの混合物の少なくとも一つに適用して、反応を誘起し、そして金属含有フィルムを基材に形成する。そのようなエネルギーを、限定されないが、熱、プラズマ、パルスプラズマ、へリコンプラズマ、高密度プラズマ、誘導結合プラズマ、X線、電子線、光子及びリモートプラズマの方法によって与えることができる。ある種の実施態様では、二次高周波(RF:radio frequency)源を用いて、基材表面でプラズマ特性を変えることができる。堆積がプラズマを伴う実施態様において、プラズマ生成プロセスは、プラズマを反応器で直接的に生成する直接プラズマ生成プロセス、又はプラズマを反応器の外部で生成し、そして反応器に供給するリモートプラズマ生成プロセスを含むことができる。
【0051】
本明細書で開示された方法のさらに他の一つの実施態様において、第四族金属含有フィルムを、次のステップを含む蒸着法を用いて形成することができる:(a)第四族金属前駆体を気相状態で反応チャンバーに導入し、加熱された基材上に第四族金属前駆体を化学吸着させるステップ;(b)未反応の第四族金属前駆体をパージするステップ;(c)酸素源を加熱された基材に導入して、吸着した第四族金属前駆体と反応させるステップ;及び(d)未反応の酸素源をパージするステップ。上記のステップを、本明細書に記載した方法に関する1サイクルと定義し、このサイクルを金属含有フィルムの所望の厚みが得られるまで繰り返すことができる。この又は他の実施態様において、本明細書に記載した方法のステップを、様々な順番で実行することができ、連続して、又は同時に(例えば、少なくとも他の一つのステップの一部の間に)、そしてこれらの任意の組み合わせで実行することができると理解される。前駆体及び酸素源ガスを供給するそれぞれのステップを、それらを供給する時間を変化させることにより実行して、生成する金属酸化物フィルムの化学量論的組成を変えることができる。多成分金属酸化物フィルムに関して、ストロンチウム含有前駆体、バリウム含有前駆体、又は両方の前駆体を、反応チャンバーに1ステップで導入することができる。
【0052】
第四族金属前駆体、及び/又は他の金属含有前駆体を、様々な方法で、反応チャンバー、例えばCVD反応器又はALD反応器に供給することができる。一つの実施態様において、液体供給システムを利用することができる。別の実施態様では、液体供給とフラッシュ気化プロセスユニットの組合せ、例えばターボ気化器(MSP Corporation製、ショアビュー、ミネソタ州、米国)が使用されて、低揮発度物質を、容量分析的に供給させることが可能になる。これは、前駆体の熱分解がない状態で再現可能な輸送及び堆積をもたらす。熱分解がない状態での再現可能な輸送と堆積との両方のこれらの考慮は、商業的に受け入れることができる銅CVD又はALDプロセスを与えるために不可欠である。
【0053】
本明細書に記載した方法の一実施態様では、第四族金属前駆体又はその溶液、及び酸素源(例えば、オゾン、酸素プラズマ又は水プラズマ)を用いる、サイクリック堆積プロセス、例えばCCVD、ALD又はPEALDを使用することができる。前駆体容器から反応チャンバーに繋がるガスラインを、プロセスの必要性に応じて、約150℃〜約200℃の範囲となる一以上の温度に加熱し、且つ第四族金属前駆体を、バブリングのために約100℃〜約190℃の範囲となる一以上の温度で維持する。ここでは、第四族金属前駆体を含有する溶液を、直接液体注入のために、約150℃〜約180℃の範囲となる一以上の温度で維持された気化器に注入する。アルゴンガスの100sccmの流れを、キャリアガスとして用いて、前駆体パルスの間の反応チャンバーへの第四族金属前駆体の蒸気の供給を支援することができる。反応チャンバーのプロセス圧力は、約1Torrである。典型的なALDプロセス又はCCVDプロセスでは、初めに、基材、例えば酸化ケイ素又は金属窒化物を、第四族金属含有前駆体をさらす反応チャンバー内のヒーター台で加熱して、基材の表面上に錯体を化学的に吸着させる。不活性ガス、例えば、アルゴンガスは、未吸着の余分な錯体をプロセスチャンバーからパージする。十分なArパージの後で、酸素源を、反応チャンバーに導入して、吸着した表面と反応させる。続いて他の一つの不活性ガスのパージをして、反応副生成物をチャンバーから除去する。そのプロセスサイクルを繰り返して、所望のフィルム厚みを得ることができる。
【0054】
液体供給配合物では、本明細書に記載の前駆体を、そのままの液体形態で供給することができ、あるいは、溶媒配合物又は前駆体を含有する組成物で用いることができる。それゆえ、ある種の実施態様において、前駆体配合物は、所定の最終用途で望ましく且つ有利となるような適切な特性の溶媒成分(又は複数の溶媒成分)を含有して、基材にフィルムを形成することができる。堆積プロセスでの使用のために前駆体を可溶化するのに用いられる溶媒は、任意の相溶性の溶媒、又はそれらの混合物を含むことができ、例えば、脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、エチルトルエン及び他のアルキル置換芳香族溶媒)、エーテル、エステル、ニトリル、アルコール、アミン(例えば、トリエチルアミン、tert−ブチルアミン)、イミン及びカルボジイミド(例えば、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド)、ケトン、アルデヒド、アミジン、グアニジン、イソ尿素等が挙げられる。適切な溶媒のさらなる例は、1〜20のエトキシ−(CO)−繰り返し単位を有するグリム溶媒(例えば、ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、及びジグリム);プロピレングリコール群からなる群より選択される有機エーテル(例えば、ジプロピレングリコールジメチルエーテル);C〜C12アルカノール;C〜Cアルキル部を有するジアルキルエーテル、C〜C環状エーテル(例えば、テトラヒドロフラン及びジオキサン)からなる群より選択される有機エーテル;C12〜C60クラウンO〜O20エーテル(ここで、接頭のCの範囲は、エーテル化合物中の炭素原子の数iであり、且つ接尾のOの範囲は、エーテル化合物中の酸素原子の数iである);C〜C12脂肪族炭化水素;C〜C18芳香族炭化水素;有機エステル;有機アミン、ポリアミン、アミノエーテル、及び有機アミドからなる群より選択される。利点を与える溶媒の他の一つの分類は、RCONR’R”(R及びR’は、1〜10の炭素原子を有するアルキルであり、且つそれらを結合して環状基(CH(nが4〜6、好ましくは5)を形成することができ、またR”は、1〜4の炭素原子を有するアルキル及び環状アルキルから選択される)の形態の有機アミド類である。N−メチル−若しくはN−エチル−又はN−シクロヘキシル−2−ピロリジノン、N,N−ジエチルアセトアミド及びN,N−ジエチルホルムアミドが例である。
【0055】
特定の前駆体に関する特有の溶媒組成物の有用性を、容易に実験的に決定することができる。そして、使用される特有の銅前駆体の液体供給気化及び輸送に関して適当な単一成分又は多成分の溶媒媒体を、選択することができる。
【0056】
他の一実施態様において、第四族金属前駆体を適切な溶媒又は溶媒混合物に溶解して、使用する溶媒又は混合溶媒に応じた0.01〜2Mのモル濃度を有する溶液を調製することによって、直接液体供給法を用いることができる。ここで使用される溶媒は、任意の相溶性の溶媒、又はそれらの混合物を含み、例えば、限定されないが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、直鎖又は環状エーテル、エステル、ニトリル、アルコール、アミン、ポリアミン、アミノエーテル及び有機アミドが挙げられ、好ましくは高沸点を有する溶媒、例えば、オクタン、エチルシクロヘキサン、デカン、ドデカン、キシレン、メシチレン及びジプロピレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0057】
また、本明細書に記載された方法は、三元金属酸化物フィルムの形成のためのサイクリック堆積プロセスを含むことができ、ここでは複数の前駆体を、その三元金属酸化物フィルムを形成するための条件の下で、連続的に堆積チャンバーに導入させ、気化させ、そして基材上に堆積させる。
【0058】
一つの特定の実施態様では、生成した金属酸化物フィルムを、堆積後処理、例えばプラズマ処理にさらして、フィルムの密度を高めることができる。
【0059】
前述したように、本明細書に記載した方法を用いて、金属含有フィルムを基材の少なくとも一部に堆積させることができる。適切な基材の例としては、限定されないが、半導体材料、例えばチタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタンドープ酸化イットリウム、チタンドープ酸化ランタン及びチタンをドープした他のランタニド酸化物が挙げられる。
【0060】
次の実施例は、本明細書で記載した第四族金属前駆体を調製するための方法を例証するが、決してそれを限定することを意図していない。
【実施例】
【0061】
比較例1
ビス(イソ−プロポキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0062】
2.00g(7.04mmol)のTi(IV)イソプロポキシドに、2.25g(14.24mmol)のメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート(MDOP)を、25℃でゆっくりと添加した。生成する黄色の粘性溶液は、発熱反応によって43℃に熱せられ、その後25℃で2時間攪拌した。全ての揮発物の除去は、白いガラス状固体を生じさせた。その固体を、4mlのヘキサン中に再溶解し、その混合物を攪拌し、そしてヘキサンを減圧下で除去して白い結晶性固体2.65gを得た(78%の収率)。生成物の融点は、68℃であった。2.12gの固体を、減圧下(0.2torr)で85℃で昇華精製した。昇華した生成物の2.03gを収集した(96%の昇華の収率)。
H−NMRは、配位したメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートを裏づけ、且つTiに配位したPrOのMDOPに対する所望の比が、2つのMDOP配位子に対して2つのPrOであることを示している。
H−NMR(500MHz,THF)δ(ppm):5.12(CH,MDOP),4.69(CH,O−iPr),3.55及び3.80(OCH,MDOP),1.40[(CH],1.05及び1.20[C(CH及びC(CH]。
【0063】
この材料のそのままのサンプルを、窒素雰囲気下で、密封したNMRチューブ中で、200℃で1時間加熱した。その材料は、暗い橙色に素早く変わり、ある程度の分解を示唆した。アセトンに溶解した加熱したサンプルのGC−MSは、次の両方のケトエステルの存在を示した:メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート(57.4%)及びイソ−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート(42.6%、エステル交換反応の生成物)。アセトンに溶解した加熱していないサンプルのGC−MSは、メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートだけの存在を示した。また、d−トルエンに溶解した加熱した材料のH NMRスペクトルは、熱処理前には材料中に存在しない、ケトエステラート配位子及びメトキシ配位子(δ(ppm)4.25及び4.30)の両方を有する様々な錯体の存在を裏付けた。
【0064】
比較例2
ビス(エトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0065】
6ミリリットル(mL)のヘキサン中の2.00g(8.78mmol)のTi(IV)エトキシドの溶液に、2.75g(17.4mmol)のMDOPを添加した。生成する黄色の溶液を、室温(RT)で16時間攪拌し、そして全ての揮発物を減圧下で除去した。3.0gの橙色の液体(88%の粗収率)を、減圧下(0.2torr)で180℃で蒸留精製して、2.71gのライトイエローの粘性液を得た(79.9%の精製収率)。蒸留した生成物のH−NMRは、エトキシド配位子、及びエステル交換反応により形成したと考えられるエチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート(EDOP)配位子からのシグナルに起因して、異なるエトキシ基の存在を示唆した。蒸留した生成物のアセトン溶液のガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)は、約2/1の割合で存在しているメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート及びエチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートの混合物の存在を裏付けた。
H−NMR(500 MHz,C)δ(ppm):5.40(CH,EDOP),4.70(OCH,エトキシ),4.40(OCH,エトキシ),4.0(OCH,EDOP),3.40及び3.65(OCH,MDOP),1.35(CH,エトキシ),1.15及び1.26(C(CH,MDOP)。
【0066】
比較例3
ビス(n−プロポキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0067】
30gの無水ヘキサン中の15.1g(53.1mmol)のTi(IV)n−プロポキシドの溶液に、18.0g(113.9mmol)のMDOPを添加した。生成する溶液を、室温(RT)で16時間攪拌し、その後、2時間還流した。全ての揮発物を減圧下で除去し、そして橙色の粘性液を得た(24.74g、96.6%の粗収率)。減圧下で、190℃で、その材料を蒸留して、19.2gのライトイエローの粘性液を得た(75%の精製収率)。蒸留した生成物のH−NMRは、n−プロポキシド配位子、及びエステル交換反応により形成したと考えられるプロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子からのシグナルに起因して、異なるn−プロポキシ基の存在を示唆した。蒸留した生成物のアセトン溶液のGC−MSは、約1/1の割合で存在しているメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート及びプロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートの混合物の存在を裏付けた。
【0068】
90%超のビス(n−プロポキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを含有する粗材料のH−NMR(500MHz,d−トルエンδ(ppm):5.20(CH,MDOP),4.47(OCH,n−プロポキシ),3.35及び3.55(OCH,MDOP),1.57(OCH,n−プロポキシ),1.05及び1.29(C(CH,MDOP),0.92(CH,n−プロポキシ))。
【0069】
蒸留した材料のH−NMRは、それがメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子及びプロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子の両方を有する錯体の混合物であることを示し、蒸留中に起こるエステル交換反応を確かに裏付ける(500MHz,d−トルエン δ(ppm):5.25(CH,ケトエステラート),4.50(OCH,n−プロポキシド),4.3(OCH,メトキシ),390(OCH,ケトエステラート),3.35及び3.55(OCH3,MDOP),1.60及び1.45(OCH,n−プロポキシ),1.05及び120(C(CH, MDOP),0.75及び0.95(CH,n−プロポキシ))。
【0070】
比較例4
ビス(メトキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0071】
5mlのヘキサン中の0.43g(2.50mmol)のTi(IV)メトキシドのスラリーに、0.93g(5.00mmol)のn−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートを添加した。その反応混合物を、16時間、室温で攪拌し、そして全てのTi(IV)メトキシドが溶解した。全ての揮発物を、減圧下で蒸留して、1.0gのライトイエローの液体を、約83%の粗収率で得た。その材料を、高温減圧蒸留による精製をしないで、メトキシド配位子とエステル基の交換を回避した。
H−NMR(500MHz,d−toluene δ(ppm):5.27(CH,ケトエステラート),4.54(OCH,メトキシ),4.3(OCH,メトキシ),3.90(OCH,ケトエステラート),1.49(OCH,ケトエステラート),1.05及び1.20(C(CH,ケトエステラート),0.75(CH,ケトエステラート)。
【0072】
この材料のそのままのサンプルを、窒素雰囲気下で密封したNMRチューブ中で、200℃で1時間加熱し、図6に示すようにそのH−NMRスペクトルに顕著な変化を観測した。メトキシド配位子、n−プロポキシド配位子、さらにn−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子及びメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子を有する錯体の混合物が、熱処理後に存在した。
【0073】
比較例5
ビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタンの合成
【0074】
50mLのテトラヒドロフラン(THF)中の5.76g(25.24mmol)Ti(IV)エトキシドの溶液に、25mLのTHF中の6.57g(50.47mmol)のエチルアセトアセテートを添加した。その反応混合物を、16時間還流し、その後、揮発物の除去は、9.9gの重さのワックス状の赤色〜橙色の固体を生成した。3.41gの粗材料を、減圧下(125mTorr)で130℃で蒸留精製して、2.90gの白い固体を得た(85%の精製収率)。融点を示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)で測定したところ、52℃であった。H−NMR(500MHz,C)δ(ppm):5.18(CH),4.73 (OCHCH),3.95及び3.92(OCHCH,ケトエステル),1.82(CH,ケトエステル)1.34(OCHCH),1.03及び0.93(OCHCH,ケトエステラート)。
【0075】
ビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタンの無色のプレート状の結晶を、X線単結晶解析によって構造的に特性化した。その構造が、歪んだ8面体環境内で、単量体、すなわちチタン原子に、2つのエトキシ配位子及び2つのエチルアセトアセテート配位子が配位することが裏付けられた。ここでは、2つのエトキシ基が互いにシスとなり、2つのメチル基が互いにトランスとなり、且つ2つのエステラート基が互いにシスとなる。
【0076】
比較例6
ビス(メトキシ)ビス(メチルアセトアセテート)チタンの合成
【0077】
50mLのTHF中の5.06g(29.40mmol)Ti(IV)メトキシドの溶液に、25mLのTHF中の6.83g(58.80mmol)のメチルアセトアセテートを添加した。その反応混合物を、16時間還流し、その後、揮発物の除去は、9.9gの重さの薄黄色の固体を生成した。その粗材料を、200mLのヘキサンで抽出し、ろ過した。ろ液からのヘキサンの除去は、4.77gの重さの黄色い固体を与えた(48%の収率)。H−NMR(500MHz,C)δ(ppm):5.14(CH),4.40(OCH),3.27(OCH,ケトエステラート),1.80(CH,ケトエステラート)。
【0078】
ビス(メトキシ)ビス(メチルアセトアセテート)チタンの薄黄色のブロック状結晶を、X線単結晶解析によって構造的に特性化した。その構造が、歪んだ8面体環境内で、単量体、すなわちチタン原子に、2つのメトキシ配位子及び2つのメチルアセトアセテート配位子が配位することが裏付けられた。ここでは、2つのメトキシ基が互いにシスとなり、2つのメチル基が互いにトランスとなり、且つ2つのエステラート基が互いにシスとなる。
【0079】
実施例1
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0080】
175mLのTHF中の30.41g(176.76mmol)Ti(IV)メトキシドのサスペンションに、55.92g(353.52mmol)のメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートを添加した。生成した反応混合物を加熱して、16時間還流し、その後、揮発物を除去した。ベージュ色のミルク状のオイルを単離し、且つ150mlのヘキサンで抽出した。それをその後、セリットを通してろ過した。全ての揮発物の除去は、76.05gの重さの粘性の琥珀色のオイルを生成させた。そのオイルを、100mlのヘキサンに溶解して、そして65.70gの薄黄色の固体を−78℃で沈殿させた(88%の収率)。
【0081】
融点を、10℃/分の加熱速度で示差走査熱量計(DSC)によって測定したところ、51℃であった。加圧した容器皿での10℃/分でのDSCは、少なくとも約270℃まで分解に起因する熱の影響を示さない。TGA解析は、0.2wt%未満の残渣を示し、これは、それが蒸着プロセスで適切な前駆体として用いることができることを示差している。
H−NMR(500MHz,C)δ(ppm):5.36(CH),4.39(OCH,メトキシ),3.29(OCH,ケトエステラート),1.19[C(CH]。
【0082】
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの無色のプレート状の結晶を、X線単結晶解析によって構造的に特性化した。その構造は、歪んだ8面体環境内で、チタン原子に、2つのメトキシ配位子及び2つのメチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート配位子が配位することを示す。ここでは、2つのメトキシ基が互いにシスの配置となり、2つのtert−ブチル(Bu)基が互いにトランスとなり、且つ2つのエステラート基が互いにシスとなる。
【0083】
実施例2
ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0084】
300mLのTHF中の186.53g(817.58mmol)のTi(IV)エトキシドの溶液に、300mLのTHF中の281.61g(1635.15mmol)のエチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートを室温でカニューレを通じて添加した。生成する赤橙色の溶液を、16時間還流した。揮発物の除去は、粘性の橙色の液体を生成させ、これは減圧下(0.10torr)で150℃で蒸留精製して、370.47gの黄色の粘性液体を得た。収率は93%である。
【0085】
加圧した容器皿での10℃/分でのDSCは、少なくとも約270℃まで分解に起因する熱の影響を示さない。TGA解析は、ほぼ残渣を残さないことを示し、これは、それが蒸着プロセスで適切な前駆体として用いることができることを示差している。
H−NMR(500MHz,C)δ(ppm):5.37(CH),4.70 (OCHCH),3.97及び3.92(OCHCH,ケトエステラート),1.34(OCHCH),1.23及び1.10[C(CH],1.03及び0.96(OCHCH,ケトエステラート)。
【0086】
実施例3
ビス(n−プロポキシ)ビス(n−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの合成
【0087】
1gのヘキサン中の0.76g(2.67mmol)のTi(IV)n−プロポキシドの溶液に、1.00g(5.38mmol)のn−プロピル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアートを添加した。その反応混合物を、室温で一時間攪拌し、その後60℃で30分間攪拌した。全ての揮発物を、減圧下で除去して、1.1gの無色の液体を得た(約69%の単離収率)。その材料を、180℃(ポット温度:pot temperature)で減圧蒸留(0.2torr)によって精製し、透明な無色の液体を得た。高温の減圧蒸留前後で、その材料のH NMRスペクトルについて変化が観測されなかったが、これは、この錯体の良好な熱安定性及び組成安定性を示唆している。
H−NMR(500MHz,d−トルエンδ(ppm):5.17(CH,ケトエステラート),4.45(OCH,n−プロポキシド),3.86及び3.74(OCH,ケトエステラート),1.55(CH,n−プロポキシド),1.38(CH,ケトエステラート),0.95及び1.12(C(CH,ケトエステラート),0.90(CH,n−プロポキシド),0.70(CH,ケトエステラート)。
【0088】
実施例4
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの熱安定性
【0089】
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンのサンプルを、密封したNMRチューブ中で、200℃で1時間加熱した。その加熱した材料のTGAは、約0.2wt%の残渣を示したが、これは熱処理前の材料のTGA残渣と同様であった。d−トルエンに溶解した加熱した材料のH NMRスペクトルは、顕著な変化を示さないが(図3)、これは200℃で1時間加熱した後のこの前駆体の組成上の完全性を裏付ける。
【0090】
実施例5
ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンと、ビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタンとの熱安定性の比較
【0091】
ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン、及びビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタンのサンプルを、Perkin Elmer高圧DSCカプセルの内部に窒素雰囲気下で密封し、400℃まで10℃/分で加熱した。DSCデータは、R基(式A)が分岐鎖アルキルであるビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(放熱開始が310℃)が、R基(式A)が直鎖アルキルであるビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン(放熱開始が278℃)と比較して、さらに良好な熱安定性を有することを示した。
【0092】
実施例6
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンと、ビス(メトキシ)ビス(メチルアセトアセテート)チタンとの熱安定性の比較
【0093】
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン及びビス(メトキシ)ビス(メチルアセトアセテート)チタンのサンプルを、Perkin Elmer高圧DSCカプセルの内部に窒素雰囲気下で密封し、400℃まで10℃/分で加熱した。DSCデータは、R基(式A)が分岐鎖アルキルであるビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン(放熱開始が298℃)が、R基(式A)が直鎖アルキルであるビス(エトキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン(放熱開始が253℃)と比較して、より良好な熱安定性を有することを示した。
【0094】
実施例7
ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの粘度
【0095】
AR−G2レオメーター(TA Instruments、ニューキャッスル、デラウェア州、米国)を用いて粘度を測定した。ペルティエ加熱素子を用いて、温度を所望の温度で制御した。60mm径の平行板構造を用いた。サンプルを装填した後、剪断速度のスイープ測定の前に熱平衡のために600秒置いた。粘度を、1〜100s−1の範囲の剪断速度で測定した。ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンは、ニュートン性の挙動を示し、25℃で107.9センチポアズ、80℃で10.1センチポアズの粘度を有していた。ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンは、低い粘度を有する添加物、例えばオクタンを用いることで、25℃で10センチポアズ未満に低下させることができる。
【0096】
実施例8
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの表面熱反応
【0097】
この実施例では、ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを用いた表面熱反応の調査について述べる。堆積温度の範囲は、200〜400℃である。堆積チャンバーの圧力は、おおよそ1.5Torrの範囲となる。ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン用の容器を、120℃で保持した。表面反応の1サイクルは、2ステップからなる。
1.Arをキャリアガスとして用いたバブリングによってチタン前駆体を導入する;
2.Arパージして、あらゆる残留チタン前駆体をArで除去する。
典型的な条件は、Ti前駆体パルス時間が5秒で、且つTi前駆体パルス後のArパージ時間が10秒である。そのサイクルを100回繰り返し、そしてチタン密度を、図7(#1)に示すように蛍光X線(XRF)で測定した。これは、ビス(メトキシ)ビス(メチル 4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンが、少なくとも350℃までの温度で熱分解しないことを示唆している。
【0098】
実施例9
ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンの表面熱反応
【0099】
この実施例では、ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを用いた表面熱反応の調査について述べる。堆積温度の範囲は、200〜400℃である。堆積チャンバーの圧力は、おおよそ1.5Torrの範囲となる。ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン用の容器を、150℃で保持した。表面反応の1サイクルは、2ステップからなる。
1.Arをキャリアガスとして用いたバブリングによりチタン前駆体を導入する;
2.Arパージして、あらゆる残留チタン前駆体をArで除去する。
典型的な条件は、Ti前駆体パルス時間が5秒で、且つTi前駆体パルス後のArパージ時間が10秒である。そのサイクルを100回繰り返し、そして基材表面上のチタン密度を、図7(#2)に示すようにXRFで測定した。これは、ビス(エトキシ)ビス(エチル 4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンが、少なくとも350℃までの温度で熱分解しないことを示唆している。
【0100】
実施例10
ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを用いたTiOのALD
【0101】
この実施例では、ビス(メトキシ)ビス(メチル 4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン及びオゾンを用いた、TiOのALD堆積又はCCVD堆積について述べる。堆積温度の範囲は、200〜400℃である。堆積チャンバーの圧力は、おおよそ1.5Torrの範囲となる。ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン用の容器を、120℃で保持した。TiOのALD又はCCVDの1サイクルは、4ステップからなる。
1.Arをキャリアガスとして用いたバブリングによりチタン前駆体を導入する;
2.Arパージして、あらゆる残留チタン前駆体をArで除去する;
3.オゾンを堆積チャンバーに導入する;及び
4.Arパージして、あらゆる未反応のオゾンを除去する。
典型的なALD条件は、Ti前駆体パルス時間が4又は8秒であり、Ti前駆体パルス後のArパージ時間が10秒であり、オゾンパルス時間が5秒であり、且つオゾンパルス後のArパージ時間が10秒であった。そのサイクルを100回繰り返し、そしてTiOフィルムを得た。酸化チタンの厚みの堆積温度の依存性は、ALDのサーマルプロセスウィンドウが、約370℃までとすることができ、ALDの率は、0.6Å/サイクルまでにもすることができることを示唆している。
【0102】
実施例11
ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを用いたTiOのALD
【0103】
この実施例では、ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン及びオゾンを用いた、TiOのALD堆積又はCCVD堆積について述べる。堆積温度の範囲は、200〜400℃である。堆積チャンバーの圧力は、おおよそ1.5Torrの範囲となる。ビス(メトキシ)ビス(メチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン用の容器を、120℃で保持した。TiOのALD又はCCVDの1サイクルは、4ステップからなる。
1.Arをキャリアガスとして用いたバブリングによりチタン前駆体を導入する;
2.Arパージして、あらゆる残留チタン前駆体をArで除去する;
3.オゾンを堆積チャンバーに導入する;及び
4.Arパージして、あらゆる未反応のオゾンを除去する。
典型的なALD条件は、Ti前駆体パルス時間が4又は8秒であり、Ti前駆体パルス後のArパージ時間が10秒であり、オゾンパルス時間が5秒であり、且つオゾンパルス後のArパージ時間が10秒であった。そのサイクルを100回繰り返し、そしてTiOフィルムを得た。酸化チタンの厚みの堆積温度への依存性を、図8に示す。その結果は、ALDのサーマルプロセスウィンドウが、約375℃までで、ALDの率が約0.5Å/サイクルにできることを示唆している。
【0104】
実施例18
パターン化された基材へのビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタンを用いたTiOのALD
【0105】
この実施例は、約550Åの間隔、20対1のアスペクト比、及び表面に窒化ケイ素を有するトレンチパターンのウェハーへの、ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン及びオゾンを用いたTiOのALD堆積について述べる。堆積温度は、375℃であった。堆積チャンバーの圧力は、約1.0Torrであった。ビス(エトキシ)ビス(エチル4,4−ジメチル−3−オキソペンタノアート)チタン用の容器を、150℃で保持した。ALD条件は、Ti前駆体パルス時間が15秒であり、Ti前駆体パルス後のArパージ時間が20秒であり、オゾンパルス時間が5秒であり、且つオゾンパルス後のArパージ時間が10秒であった。そのサイクルを200回繰り返した。図9は、トレンチの上部で8.9±0.5nm、トレンチの角で8.8±0.5nm、トレンチの中央部で8.7±0.5nm、且つトレンチの下部で8.2±0.5nmの厚みを有する堆積したTiOフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)を示しており、パターン化された基材の上部から下部への優れた段差被覆率(90%超)を実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式で表される、第四族金属前駆体:
【化1】

(ここで、Mは、Ti、Zr及びHfからなる群より選択される第四族金属であり;Rは、直鎖又は分岐鎖のC1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され;Rは、分岐鎖のC3〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され;Rは、水素、C1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択される)。
【請求項2】
が、メチル、エチル、n−プロピルからなる群より選択される、請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
がtert−ブチルである、請求項1に記載の前駆体。
【請求項4】
が水素である、請求項3に記載の前駆体。
【請求項5】
Mがジルコニウムであり、且つRが、分岐鎖のC3〜10のアルキル基からなる群より選択される、請求項1に記載の前駆体。
【請求項6】
Mがチタンである、請求項1に記載の前駆体。
【請求項7】
が、直鎖のC1〜10アルキルからなる群より選択される、請求項6に記載の前駆体。
【請求項8】
次の式で表されるチタン前駆体:
【化2】

(ここで、Rは、メチル、エチル、n−プロピルからなる群より選択される)。
【請求項9】
がメチルである、請求項8に記載の前駆体。
【請求項10】
がエチルである、請求項8に記載の前駆体。
【請求項11】
がn−プロピルである、請求項8に記載の前駆体。
【請求項12】
請求項1に記載の前駆体と溶媒との溶液。
【請求項13】
前記溶媒が、オクタン、エチルシクロヘキサン、ドデカン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項12に記載の溶液。
【請求項14】
次の式で表される第四族金属前駆体を用いることを含む、第四族金属含有フィルムを堆積させる方法:
【化3】

(ここで、Mは、Ti、Zr及びHfからなる群より選択される第四族金属であり;Rは、直鎖又は分岐鎖のC1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され;Rは、分岐鎖のC3〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択され;Rは、水素、C1〜10アルキル及びC6〜12アリールからなる群より選択される)。
【請求項15】
が、メチル、エチル、n−プロピルからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
が、イソ−プロピル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル及びtert−アミルからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
第四族金属前駆体と、少なくとも一つの追加の金属前駆体とを反応させることを含む、請求項14に記載の方法であって、前記少なくとも一つの追加の金属前駆体の金属は、第二族〜第十六族から選択され、前記少なくとも一つの追加の金属前駆体の一以上の配位子は、β−ジケトナート、β−ジケトエステラート、β−ケトイミナート、β−ジイミナート、アルキル、カルボニル、アルキルカルボニル、シクロペンタジエニル、ピロリル、イミダゾリル、アミジナート、アルコキシ、及びこれらの混合体からなる群より選択され、且つ一座、二座、又は多座の一つとなる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一つの追加の金属前駆体が、ビス(2,2−ジメチル−5−(ジメチルアミノエチルイミノ)−3−ヘキサノナート−N,O,N’)ストロンチウム、ビス(2,2−ジメチル−5−(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナート−N,O,N’)ストロンチウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)セリウム(IV)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ランタン、Sr[(Bu)Cp]、Sr[(Pr)Cp]、Sr[(PrMeCp]、Ba[(Bu)Cp]、LaCp、La(MeCp)、La(EtCp)、La(PrCp)、ジルコニウムtert−ブトキシド、ストロンチウムビス(2−tert−ブチル−4,5−ジ−tert−アミルイミダゾレート)、バリウムビス(2−tert−ブチル−4,5−ジ−tert−アミルイミダゾレート)、バリウムビス(2,5−ジ−tert−ブチル−ピロリル)からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第四族金属前駆体が、そのままの形態、及び溶媒に溶解した形態からなる群より選択される形態である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−121936(P2011−121936A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−237829(P2010−237829)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】