説明

金属選択性エッチング液

【課題】 貴金属と卑金属が共存する半導体材料上の貴金属をエッチングする際、卑金属が腐蝕する問題を抑制し、歩留まりを上げることにあり、さらに、シアン化物や鉛化合物を成分とした水溶液に比べて安全性に優れ、環境への影響が少ないエッチング液を提供する。
【解決手段】 貴金属と卑金属が共存する半導体材料から貴金属をエッチングするヨウ素系のエッチング液であって、該エッチング液の貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上である、前記エッチング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置や液晶表示装置、ICカ−ドなどの製造に用いられるエッチング液、とくに金または金合金配線の微細加工工程に用いるエッチング液およびエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の携帯電話、携帯情報端末、デジタルカメラ等の小型化、高機能化に対応するため、ICやLSIのパッケ−ジ技術も小型化、高密度化が進んでいる。各種部品の実装密度を向上させるため、多層配線上下の接合方法としてバンプと呼ばれる微小突起状電極を用いたフリップチップ方式が主流になっており、当該方式におけるバンプの形成工程でエッチング液が用いられている。
従来のヨウ素系のエッチング液として、エッチング液の組成や性能の変化を生じさせないように、有機溶剤や界面活性剤を含むエッチング液が知られている(たとえば特許文献1、2)。しかし、貴金属と卑金属が半導体材料に共存する場合において、当該エッチング液が貴金属を選択的にエッチングできるということは知られていない。
【0003】
他方、半導体ウェーハ等の基板表面に荒れを与えることなく、この上に形成された任意の厚さの金または金合金膜を選択的にエッチングする方法(たとえば特許文献3)、貴金属と卑金属が共存する金属材料から貴金属のみを選択的に溶解し、回収する方法(たとえば特許文献4)が知られている。しかし、いずれの場合も卑金属の腐蝕抑制効果および貴金属のエッチング効果は十分なものではなく、加えて、安全性や環境面に欠けるという問題点がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−21142号公報
【特許文献2】特開2003−109949号公報
【特許文献3】特開昭58−16074号公報
【特許文献4】特開平6−340932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、貴金属と卑金属が共存する半導体材料上の貴金属をエッチングする際、卑金属が腐蝕する問題を抑制し、歩留まりを上げることにあり、さらに、シアン化物や鉛化合物を成分とした水溶液に比べて安全性に優れ、環境への影響が少ないエッチング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記実情に鑑み鋭意研究を重ねる中で、貴金属と卑金属が共存する半導体材料をヨウ素系のエッチング液に浸漬させた場合、卑金属単体を浸漬させた場合と比較して、貴金属と卑金属の標準電極電位の電位差から電池反応により卑金属が腐蝕されることを確認した。さらに研究を進めた結果、貴金属と卑金属が共存する半導体材料に対するヨウ素系のエッチング液の貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が実基板での卑金属の腐蝕と関係することを究明し、かかる値を特定の値とすることで、上記問題点を一挙に解決し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、貴金属と卑金属が共存する半導体材料から貴金属をエッチングするヨウ素系のエッチング液であって、該エッチング液の貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上である、前記エッチング液に関する。
また、本発明は、窒素原子を有する有機化合物または無機酸(ただし、ハロゲン化水素酸は除く。)のアンモニウム塩から解離するイオンを1種または2種以上含有する、前記エッチング液に関する。
さらに、本発明は、窒素原子を有する有機化合物が、さらに炭素酸素二重結合を有する、前記エッチング液に関する。
【0008】
また、本発明は、炭素酸素二重結合および窒素原子を有する有機化合物が、アミド化合物、アミン化合物またはイミド化合物である、前記エッチング液に関する。
さらに、本発明は、アミド化合物が、N−メチル−2−ピロリジノン、2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンまたはN−メチルホルムアミドである、前記エッチング液に関する。
また、本発明は、無機酸が、硫酸、亜硫酸、過硫酸またはりん酸である、前記エッチング液に関する。
さらに、本発明は、貴金属が、金である、前記エッチング液に関する。
【0009】
また、本発明は、貴金属と卑金属が共存する半導体材料から貴金属をエッチングする方法であって、貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上であるヨウ素系エッチング液を用いることにより、貴金属を選択的にエッチングすることを特徴とする、前記方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
貴金属と卑金属が液中に共存する場合、電池反応により卑金属を溶かすことが本発明により確認されたが、本発明は、新たに貴金属と卑金属のエッチングレート比という基準値を導入し、かかる値が実基板での卑金属の腐蝕と相関することを究明し、これを0.03以上とすることで、卑金属の腐蝕を抑制し、貴金属のエッチング力を向上させることができたものである。
【0011】
本発明のエッチング液は、貴金属と卑金属が共存する半導体材料から貴金属をエッチングする際、該エッチング液の貴金属と卑金属のエッチングレート比が0.03以上であるエッチング液を用いることにより、金とアルミニウムのような腐蝕電位差が大きい金属が接触する場合においても、卑金属の接触腐蝕を抑制することができ、さらに貴金属のエッチング力をも向上させることができる。
また、窒素原子を有する有機化合物、特に炭素酸素二重結合および窒素原子を有する有機化合物または無機酸(ただし、ハロゲン化水素酸は除く。)のアンモニウム塩から解離するイオンを1種または2種以上添加することで、卑金属の腐蝕をより一層抑制することができ、貴金属のエッチングを向上させることができる。さらに、炭素酸素二重結合および窒素原子を有する有機化合物が、アミド化合物、アミン化合物またはイミド化合物であるものについては、卑金属の腐蝕をより一層抑制することができ、貴金属のエッチングを向上させることができる。
【0012】
特に、アミド化合物が、N−メチル−2−ピロリジノン、2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンまたはN−メチルホルムアミドであるものについては、より一層、卑金属の腐蝕を抑制し、貴金属のエッチング力を向上させることに加え、低毒性、低臭気かつ高引火点であるため、人体への影響が低く、多量に添加しても非危険物として取り扱うことができる。
【0013】
また、無機酸が、硫酸、亜硫酸、過硫酸またはりん酸であるものについては、より一層、卑金属の腐蝕を抑制し、貴金属のエッチング力を向上させることができる。加えて、有機物を使用しないため、環境面、安全面において有用である。
さらにまた、貴金属が、金であるものについては、金を選択的にエッチングすることができ、半導体基板などに好ましく用いられる。
そして、本発明のエッチング方法は、貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上であるヨウ素系エッチング液を用いることにより卑金属を腐蝕することなく、簡易に貴金属を選択的にエッチングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における貴金属としては、たとえば金、銀ならびに白金やパラジウムなどの白金族が挙げられる。一方、卑金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、銅、ニッケルまたはパラジウムなど、前記貴金属以外の金属が挙げられる。これらのうち、アルミニウムは、貴金属と共存する場合における腐蝕という問題が抑制され、歩留まりが向上するという点で好ましく用いられる。
【0015】
本発明における半導体材料としては、半導体基板、シリコンウェハ、透明導電性電極などが挙げられる。中でも、半導体基板が好ましく用いられる。
本発明のヨウ素系のエッチング液は、ヨウ素、ヨウ化物と水を含む公知のエッチング液であって、本発明の効果を奏する限り他にいずれの成分を含んでもよい。
【0016】
本発明に用いられるエッチング液は、エッチング液の貴金属と卑金属の共存する半導体材料に対する貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上のものである。より効果的に卑金属の腐食を抑制するには、0.05以上、特に0.08以上であることが好ましい。
ここで、貴金属と卑金属のエッチングレート比とは、同面積の貴金属および卑金属が共存する半導体材料をエッチング液に浸漬させてエッチングを行い、重量法からエッチングレートを算出し、貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレートを算出したものである。
【0017】
本発明に用いられるエッチング液は、具体的には、ヨウ素系のエッチング液に貴金属と卑金属のエッチングレート比を0.03以上となるような化合物をさらに添加するが、具体的に用いられる化合物としては、窒素原子を有する有機化合物、無機酸(ただし、ハロゲン化水素酸は除く。)のアンモニウム塩から解離するイオン、1,4−ブタンジオールなどの炭素数3以上のジオール化合物、酢酸、テトラヒドロフラン、炭酸エチレンなどの炭酸エステルなどが挙げられる。
かかる化合物をエッチング液に対して好ましくは、1〜85容量%、さらに好ましくは、10〜60容量%、特に好ましくは20〜50容量%用いる。
【0018】
特に、窒素原子を有する有機化合物または無機酸(ただし、ハロゲン化水素酸は除く。)のアンモニウム塩から解離するイオンが好ましく、さらに窒素原子を有する有機化合物では、炭素酸素二重結合を有するものが好ましい。
本発明に用いられる窒素原子を有する有機化合物は、具体的には、アミド化合物、アミン化合物またはイミド化合物などが挙げられる。
【0019】
本発明に用いられるアミド化合物としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アクリルアミド、アジポアミド、アセトアミド、2−アセトアミドアクリル酸、4−アセトアミド安息香酸、2−アセトアミド安息香酸メチル、アセトアミド酢酸エチル、4−アセトアミドフェノ−ル、2−アセトアミドフルオレイン、6−アセトアミドヘキサン酸、p−アセトアミドベンズアルデヒド、3−アセトアミドマロン酸ジエチル、4−アセトアミド酪酸、アミド硫酸、アミド硫酸アンモニウム、アミド−ル、3−アミノベンズアミド、p−アミノベンゼンスルホンアミド、アントラニルアミド、イソニコチンアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピル−1−ピペラジンアセトアミド、ウレアアミドリア−ゼ、2−エトキシベンズアミド、エルシルアミド、オレイン酸アミド、2−クロロアセトアミド、グリシンアミド塩酸塩、こはく酸アミド、こはく酸ジアミド、サリチルアミド、2−シアノアセトアミド、2−シアノチオアセトアミド、ジアセトアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジイソプロピルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N−ジエチルアセトアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジエチルドデカン酸アミド、N,N−ジエチルニコチンアミド、ジシアノジアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、N,N−ジブロピルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルベンズアミド、ステアリン酸アミド、スルファニルアミド、スルファベンズアミド、スルファミド酸、ダンシルアミド、チオアセトアミド、チオイソニコチンアミド、チオベンズアミド、2−ニトロベンズアミド、3−ニトロベンズアミド、2−ニトロベンズアミド、2−ニトロベンゼンスルホンアミド、3−ニトロベンゼンスルホンアミド、4−ニトロベンゼンスルホンアミド、ピロリンアミド、ピラジンアミド、2−フェニルブチルアミド、N−フェニルベンズアミド、フェノキシアセトアミド、フタルアミド、フタルジアミド、フマルアミド、N−ブチルアセトアミド、N−ブチルアミド、プロパンアミド、プロピオンアミド、ヘキサン酸アミド、ベンズアミド、ベンゼンスルホンアミド、ホルムアミド、マロンアミド、マロンジアミド、メタンスルホンアミド、N−メチルベンズアミド、N−メチルマレインアミド酸、ヨ−ドアセトアミドが、
【0020】
アミン化合物としては、尿素、グリシン、イミノ二酢酸、N−アセチルエタノ−ルアミン、N−アセチルジフェニルアミン、アリルアミン、アリルアミン塩酸塩、アリルシクロヘキシルアミン、イソアリルアミン、イソブチルアミン、イソプロパノ−ルアミン、イソプロピルアミン、エタノ−ルアミン、エタノ−ルアミン塩酸塩、エチルアミン塩酸塩、N−エチルエタノ−ルアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−エチルジイシプロピルアミン、N−エチルジエタノ−ルアミン、N−エチルジシクロヘキシルアミン、N−エチル−N−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−エチルメチルアミン、エチレンジアミン硫酸塩、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸三カリウム三水和物、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム二水和物、エチレンジアミン、エトキシアミン塩酸塩、ジアリルアミン、ジイソブチルアミン、ジイソプロパノ−ルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエタノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン塩酸塩、ジエチルアミン、ジエチルアミン塩酸塩、ジエチレントリアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジフェニルアミン、ジフェニルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルアリルアミン、スクシアミン酸、ステアリルアミン、ステアリルアミン塩酸塩、スルファミン酸、チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩、トリイソプロパノ−ルアミン、トリイソペンチルアミン、トリエチレンジアミン、トリファニルアミン、トリベンジルアミン、トリメチレンジアミン、モノエタノ−ルアミン、モノエタノ−ルアミン塩酸塩が、
【0021】
イミド化合物としては、コハク酸イミド、ヒドロキシスクシンイミド、N−ヨ−ドスクシンイミド、N−アクリロキシスクシンイミド、N−アセチルフタルイミド、3−アミノフタルイミド、4−アミノフタルイミド、N−アミノフタルイミド、イミド尿素、N−エチルフタルイミド、N−エチルマレイミド、N−カルベトキシフタルイミド、カルボジイミド、N−クロロこはく酸イミド、シクロキシイミド、2,6−ジクロロキノンクロロイミド、3,3−ジメチルグルタルイミド、1,8−ナフタルイミド、3−ニトロフタルイミド、4−ニトロフタルイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、フタルイミドカリウム、マレイン酸イミド、N−メチルこはく酸イミド、ヨ−ドスクシンイミドなどの鎖状、環状のものが挙げられる。これらのうち、炭素酸素二重結合を有する化合物が好ましい。さらに、卑金属の腐蝕を特に抑制でき、貴金属のエッチング力を向上させることができる、水に相溶するアミド化合物が好ましく、特に好ましくはNMP、2−ピロリジノン、N−メチルホルムアミドである。
【0022】
このような窒素原子を有する有機化合物の濃度は、エッチング液に対して1〜85容量%が好ましく、より好ましくは10〜60容量%、最も好ましくは20〜50容量%である。かかる範囲内であれば、卑金属の腐蝕を抑制し、貴金属を選択的にエッチングすることができる。また、引火の危険性も低く、経済的に大きなメリットがある。
なお、NMPは、添加量85重量%未満で、水が15重量%を超える場合、引火点が消滅することが知られているおり、また、ほとんど臭気も無く、毒性も少ないなど、安全性や環境面において利便性が高い。
【0023】
一方、本発明に用いられる無機酸のアンモニウム塩は、ハロゲン化水素酸を除く、硫酸、亜硫酸、りん酸、チオ硫酸、チオシアン酸、過硫酸、硝酸または次亜りん酸等の無機酸のアンモニウム塩である。具体的には、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、りん酸二水素アンモニウム、りん酸水素二アンモニウム、りん酸三アンモニウム、過硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、次亜りん酸アンモニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム・12水和物、硫酸アンモニウムクロム(III)・12水和物、硫酸アンモニウムコバルト(II)六水和物、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物、硫酸アンモニウム銅(II)六水和物、硫酸アンモニウムニッケル(II)六水和物、硫酸アンモニウムマグネシウム六水和物、硫酸アンモニウムマンガン(II)六水和物、硫酸クロム(III)アンモニウム・12水、硫酸コバルト(II)アンモニウム六水和物、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)四水和物、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、りん酸水素アンモニウムナトリウム、りん酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。これらの化合物のうち、卑金属の腐蝕を特に抑制することができ、貴金属のエッチング力を向上させることができる硫酸アンモニウム、りん酸二水素アンモニウム、りん酸水素二アンモニウムが好ましい。
【0024】
このような無機酸のアンモニウム塩の濃度は、エッチング液に対して1〜85重量%が好ましく、より好ましくは10〜60重量%、最も好ましくは30〜50重量%である。かかる範囲内であれば、貴金属を選択的にエッチングし、卑金属の腐蝕を抑制することができる。また、引火の危険性も低く、経済的に大きなメリットがある。
また、無機酸のアンモニウム塩から解離するイオンは、無機酸のアンモニウム塩を水溶液としたときに解離するイオンをいい、上記化合物の陰イオンおよび陽イオンが挙げられる。具体的には、アンモニウムイオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、りん酸二水素イオン、りん酸水素イオン、りん酸イオンなどである。
【0025】
本発明のエッチング液においては、窒素原子を有する有機化合物もしくは無機酸のアンモニウム塩から解離するイオンを用いる場合には、いずれか一方の1種または2種以上をエッチング液に含有させても、両方を組合せて2種以上をエッチング液に含有させてもよい。
当該化合物は、常温で液体と固体のいずれの形態も含まれるが、利便性の観点からは水に相溶する液体のものが好ましい。
【0026】
本発明のエッチング液は、公知のヨウ素系エッチング液にエッチング液の貴金属と卑金属のエッチングレート比を0.03以上とする化合物を添加するか、ヨウ素、ヨウ化物および該化合物を水に混合させて製造することができる。また、本発明のエッチング液をあらかじめ調製することなく、エッチング時にヨウ素系エッチング液と該化合物を使用することにより、貴金属をエッチングすることもできる。
【0027】
本発明のエッチング方法としては、本発明のエッチング液を用いれば公知のいずれの方法を用いることができる。一般的にはディップ方式とスプレ−方式があり、いずれの方式でも対応可能であるが、エッチング液の組成変化の観点からはディップ方式が好ましい。具体的な方法としては、エッチング液の槽に半導体基板を静止または揺動させることで貴金属のエッチングを行うことができる。エッチング時間は、1〜60分あれば十分であり、エッチング温度は、20〜50℃で行なうことができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0029】
〔参考例1〕
金とアルミニウムが未接触の状態でエッチング液に浸漬した際のエッチングレ−トを示す。
ヨウ化カリウム30g/l、ヨウ素6g/lの水溶液を調製し、金エッチング液とした。
次に2×2cmのNi試片に厚さ3μmの電解金めっきを施し、液温30℃の前記エッチング液に1分間浸漬させてエッチングした。アルミニウムも同じ大きさの試片を用いて、金と同様にエッチングし、重量法から金とアルミニウムのエッチングレ−トを算出した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

表1の結果より、金エッチング液にアルミニウム単体を浸漬させても、アルミニウムは全く腐蝕されないことが分かる。これに比べ、表2の比較例1のように、金とアルミニウムを接触させた状態で金エッチング液に浸漬すると、金のエッチングレ−トが1/60程度に減少し、アルミニウムが多量に腐蝕されることが分かる。このことから、金とアルミニウムが共存する半導体基板上において、アルミニウム腐蝕による歩留まりの低下は、金とアルミニウムの接触による、局部的な電池反応が原因であることを確認した。
【0031】
〔実施例1〕
金とアルミニウムが共存するウエハ上の金のエッチングを想定して試験を行った。
ヨウ化カリウム30g/l、ヨウ素6g/lの水溶液にN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を20、30、40、50容量%配合したエッチング液4種を各200ml調製した。
次に2×2cmのNi試片に厚さ3μmの電解金めっきを施し、同じ大きさのアルミニウム試片とマスキングテ−プで貼り合わせた。この試片を液温30℃の前記エッチング液に1分間浸漬させてエッチングし、重量法から金とアルミニウムのエッチングレ−トを算出した。また、エッチング液に各種化合物を用いた際の金へのエッチング選択性の高さを視覚的に表現するため、各化合物の添加量毎に金とアルミニウムのエッチングレ−ト比(金のエッチングレ−ト/アルミニウムのエッチングレ−ト)を算出した。無論、この場合、金のエッチングレ−トは変化せず、アルミニウムのエッチングレ−トだけが低下することが望ましい。結果を表2と図1に示す。
【0032】
表2および図1に示すとおり、NMP無添加では、金とアルミニウムのエッチングレ−ト比は0.01だが、50容量%添加では0.34まで増加している。このようにNMPを用いた場合、金の溶解能力を低下することなく、アルミニウムの腐蝕を大幅に抑制することが可能であり、金とアルミニウムのエッチング選択比を変える事が可能であることが判明した。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1のNMPの替わりに硫酸アンモニウムを用いて10、20、30、40重量%配合した水溶液4種を調製した以外は、実施例1と同じ方法で試験した。結果を表2と図2に示す。
表2および図2に示すとおり、硫酸アンモニウム添加時は、金とアルミニウムのエッチングレ−トが相反し、金は増加するが、アルミニウムは減少するため、エッチングレ−ト比は40重量%添加時において、NMPの50容量%添加時よりも高くすることが可能であることが分かった。よって、金の溶解力を低下させずにアルミニウムの腐蝕を大幅に抑制することができた。
【0034】
〔比較例1〕
参考例1の金エッチング液200ml調製し、実施例1と同じ方法で試験した。結果を表2に示す。
表2に示すとおり、アルミニウムが多くエッチングされることがわかる。
【0035】
〔比較例2〕
参考例1の金エッチング液に1−プロパノ−ルを20、30、40、50容量%配合した水溶液4種を調製し、実施例1と同じ方法で試験した。結果を表2と図3に示す。
表2および図3に示すとおり、金のエッチングレ−トの減少と共に、金とアルミニウムのエッチングレ−ト比も減少している。これは、添加剤に用いた1−プロパノ−ルが、金とアルミニウムの腐蝕電位差を緩和できないためである。
【0036】
【表2】

【0037】
〔実施例3〕
表2から、化合物の添加量により、金とアルミニウムの選択比が変化することが判明したが、かかるエッチングレ−ト比の実基板でのアルミニウムの腐蝕抑制との関係について試験した。
【0038】
(実基板の作成)
シリコンウエハ上のIC(コンデンサやレジスタを含む)1つあたりの大きさを3.2×8mmとし、IC中には100×100μmのアルミニウム露出部を10ヶ所作製し、レジスタやコンデンサを配置した。そして上記のアルミニウム露出部を除く、その他全ての部分にはパシベ−ションを塗布した。アルミニウムの配線またはパッド部は、レジスタまたはコンデンサと繋がっているため、エッチング液中ではレジスタやコンデンサの電位とアルミニウムの電位の差により電池反応を起こし、露出部のアルミニウムを腐蝕することとなる。
【0039】
(試験方法)
ヨウ化カリウム30g/l、ヨウ素6g/lの水溶液にNMPを10、20、30、40容量%配合した水溶液4種を調製した。
次に実基板1.5×1.5cmの試片を、液温30℃の前記エッチング液4種に30分間浸漬させてアルミニウム露出部の腐食箇所数を測定した。
結果を表3に示す。比較例3ではアルミニウム露出部10ヶ所中8ヶ所が腐蝕するが、NMP添加組成では30容量%以上添加することでアルミニウム腐蝕部をゼロにできることが判明した。このことから、アルミニウムの腐蝕を無くすためにはアルミニウムのエッチングレ−トだけではなく、金のエッチングレ−トも関与していると考えられる。そして、アルミニウムの腐蝕抑制効果が発揮されるのは、表3の結果より、金とアルミニウムのエッチングレ−ト比が0.03以上であり、0.08以上ではほとんど停止できることが判明した。
【0040】
〔比較例3〕
ヨウ化カリウム30g/l、ヨウ素6g/lの水溶液を金エッチングとし、実施例3と同様に測定を行った。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
〔実施例4〕
実施例3より、金とアルミニウムの選択比が0.03以上となる添加剤がアルミニウムの腐食を抑制できることが判明した。この値を基準値(アルミニウム腐食抑制効果の目安)として用い、アルミニウムの腐食抑制効果を持つ化合物の探索を行った。
実施例1のNMPと添加量を表4に示すように替えた以外は、実施例1と同じ方法で試験した。結果を表4に示す。表4の結果より、アルミニウムの腐食がほぼ停止可能なエッチングレ−ト比の0.08以上の添加剤は、炭素酸素二重結合および窒素原子を有する有機化合物もしくは無機酸のアンモニウム塩であることが判明した。これらの化合物を用いれば、金の溶解能力を向上させるとともに、アルミニウムの腐蝕を抑制することができる。
【0043】
(比較例4)
実施例1のNMPと添加量を表4に示すように替えた以外は、実施例1と同じ方法で試験した。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
〔実施例5〕
表4より、アンモニウム塩はエッチングレ−ト比が他と比べて高い値を示し、アルミニウム腐食抑制効果が高いことが分かった。次に各アンモニウム塩を用いて、官能基別に腐食抑制効果を確認した。
実施例4の400(g/l)硫酸アンモニウムを表5に示す2(mol/l)の化合物に替えた以外は実施例4と同じ方法で試験した。結果を表5に示す。表5より、アルミニウムの腐食をほぼ停止可能なアンモニウム塩は、ハロゲン類を除く硫酸類やりん酸類の無機酸のアンモニウム塩であり、カルボン酸類などの有機酸アンモニウム塩は腐食抑制効果が無いことが判明した。
【0046】
〔比較例5〕
実施例4の400(g/l)硫酸アンモニウムを表5に示すように替えた以外は実施例4と同じ方法で試験した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
〔実施例6〕
上記の試験では、金とアルミニウムの表面積が同じ時のそれぞれのエッチングレ−トを測定したが、実基板ではアルミニウム表面のほとんどがパシベ−ションにより保護されているため、金の表面積に比べ、アルミニウムの表面積は微小である。そこで本試験では、金の表面積を固定してアルミニウムの表面積だけを縮小させた際の各基板でのエッチングレ−トへの影響を測定した。
実施例1の50容量%NMP含有金エッチング液を用いて、実施例1のアルミニウム試片の大きさを替えて5分間エッチングした以外は実施例1と同じ方法で試験した。結果を表6に示す。
表6の結果、金の面積を固定したままアルミニウムの面積を縮小させても、金とアルミニウムのエッチングレ−ト比にほとんど変化は無かった。よって、無添加系に比べて、NMPは、金に対してアルミニウムの露出面積が小さい実基板においても、腐蝕抑制効果は有効である。
【0049】
〔実施例7〕
50容量%NMPを400g/l硫酸アンモニウムに替えた以外は、実施例6と同じ方法で試験した。結果を表6に示す。表6の結果、金の面積を固定したままアルミニウムの面積を縮小させても、金とアルミニウムのエッチングレ−ト比にほとんど変化は無かった。よって、無添加系に比べて、硫酸アンモニウムは、金に対してアルミニウムの露出面積が小さい実基板においても、腐蝕抑制効果は有効である。
【0050】
〔比較例6〕
実施例6において、NMPを含有しない金エッチング液を試験液とした以外は、実施例6と同じ方法で試験した。結果を表6に示す。
【0051】
【表6】

【0052】
〔実施例8〕
上記実施例より、ヨウ素系のエッチング液に炭素酸素二重結合および窒素原子を有する有機化合物または無機酸(ただし、ハロゲン化水素酸は除く。)のアンモニウム塩を1種添加することにより、アルミニウムの腐食抑制効果があることを確認した。
次に、これらのアルミニウムの腐食抑制効果を持つ化合物を2種以上添加した際の金とアルミニウムのエッチングレートとエッチングレート比を確認した。
ヨウ化カリウム30g/l、ヨウ素6g/lの水溶液に、アルミニウムの腐食抑制化合物として、N−メチル−2−ピロリジノン、2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミドの4種を使用し、この中から2種の化合物を組み合わせて各20容量%ずつ(合計40容量%)添加し、実施例1と同じ方法で試験した。結果を表7に示す。表7の結果より、どの組成もエッチングレート比はアルミニウムの腐食がほぼ停止可能な0.08以上となり、2種化合物混合系の組成においてもアルミニウムの腐食を抑制可能であることを確認した。
【0053】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】NMPを用いた場合の金−アルミニウム接触時のエッチングレ−トを示し、近似線が金とアルミニウムのエッチングレ−ト、棒軸が金とアルミニウムのエッチングレ−ト比である。
【図2】硫酸アンモニウムを用いた場合の金−アルミニウム接触時のエッチングレ−トを示し、近似線が金とアルミニウムのエッチングレ−ト、棒軸が金とアルミニウムのエッチングレ−ト比である。
【図3】1−プロパノ−ルを用いた場合の金−アルミニウム接触時のエッチングレ−トを示し、近似線が金とアルミニウムのエッチングレ−ト、棒軸が金とアルミニウムのエッチングレ−ト比である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属と卑金属が共存する半導体材料から貴金属をエッチングするヨウ素系のエッチング液であって、該エッチング液の貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上である、前記エッチング液。
【請求項2】
窒素原子を有する有機化合物または無機酸(ただし、ハロゲン化水素酸は除く。)のアンモニウム塩から解離するイオンを1種または2種以上含有する、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
窒素原子を有する有機化合物が、さらに炭素酸素二重結合を有する、請求項2に記載のエッチング液。
【請求項4】
炭素酸素二重結合および窒素原子を有する有機化合物が、アミド化合物、アミン化合物またはイミド化合物である、請求項3に記載のエッチング液。
【請求項5】
アミド化合物が、N−メチル−2−ピロリジノン、2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンまたはN−メチルホルムアミドである、請求項4に記載のエッチング液。
【請求項6】
無機酸が、硫酸、亜硫酸、過硫酸またはりん酸である、請求項2に記載のエッチング液。
【請求項7】
貴金属が、金である、請求項1から6のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項8】
貴金属と卑金属が共存する半導体材料から貴金属をエッチングする方法であって、貴金属と卑金属のエッチングレート比(貴金属のエッチングレート/卑金属のエッチングレート)が0.03以上であるヨウ素系エッチング液を用いることにより、貴金属を選択的にエッチングすることを特徴とする、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291341(P2006−291341A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117440(P2005−117440)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】