説明

金属酸化物膜の製造方法及び製造装置

【課題】強誘電体等からなる金属酸化物膜を所望の位置に低温で低コストで形成する。
【解決手段】金属酸化物膜を形成するための前駆体溶液に、金属酸化物膜が成膜される基板を浸す工程と、前記基板と前記前駆体溶液との界面に光を集光した状態で、前記光を走査しながら照射する工程と、を有し、前記前駆体溶液は前記光を透過するものであって、前記基板上に前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物においてペロブスカイト型構造を有するPb(Zr、Ti)O(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛)は、強誘電体材料であり、強誘電体としての圧電特性を用いてアクチュエータや圧力センサ等の分野において多く用いられている。また、PZTを薄膜にしたものは、不揮発性メモリ、圧電デバイスや光学デバイスといった様々な用途に用いることができ汎用性が高い。
【0003】
強誘電体材料としては、上述したPbを含有するペロブスカイト型強誘電体であるPZTや、Biを含有する層状構造強誘電体であるSrBiTa(SBT)等の複合金属酸化物が知られている。このような強誘電体材料からなる膜は、通常はMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)やスパッタリングにより成膜されることが一般的である(例えば、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、MOCVDやスパッタリングでは、排気系を含む大型な装置が必要となる。また、強誘電体膜を所望の形状に形成しようとした場合に、強誘電体膜を成膜した後、強誘電体膜上にレジストパターンを形成し、この後、RIE(Reactive Ion Etching)等によるドライエッチングを行なう必要がある。従って、工程数も多くなり、製造コストが高くなる傾向にある。
【0005】
このため、近年では、製造コストの低下が見込まれるゾルゲル法等の液相法により、低コストで簡便に金属酸化物膜を製造する方法が検討されている。ゾルゲル法では、最初に、有機材料等からなる溶媒中に金属酸化物膜の原料となる有機金属化合物を溶解し、加水分解と縮合反応によって金属元素と酸素とのネットワーク構造を形成することにより前駆体溶液を作製する。この後、基板上にゾル状態の前駆体溶液をスピンコートやディップコートにより塗布等することにより金属酸化物膜を形成する方法である(例えば、特許文献1、非特許文献2)。
【0006】
ところで、ゾルゲル法により基板上に金属酸化物膜を形成する場合には、塗布等された前駆体溶液が硬化し金属酸化物膜となる過程において、加水分解と縮合反応による有機基の脱離及び溶媒の揮発による収縮が生じ金属酸化物膜にクラッキング等が発生しやすい。このため、所望の膜厚の金属酸化物膜を形成するためには、1回当たりに塗布等される前駆体溶液からなる膜の厚さを100nm以下として、前駆体溶液の塗布等の工程と、乾燥及び仮焼成の工程を複数回繰り返し行ない、この後、最後に本焼成を行なうことが必要となる。また、金属酸化物膜を有するデバイス等を作製する際には、通常、1μm以上の金属酸化物膜を所望の形状に形成することが必要となる。しかしながら、金属酸化物膜はドライエッチング耐性が高いため、即ち、金属酸化物膜のエッチングレートが比較的遅いため、金属酸化物膜を所望の形状に形成する際に時間を要し、高コスト化を招いてしまう(例えば、特許文献1)。
【0007】
また、ゾルゲル法により金属酸化物からなる強誘電体膜を形成するためには、金属酸化物膜を結晶化させる必要があり、このため、高温の熱処理が行なわれている。例えば、PZT膜を形成する際には700℃前後、SBT膜を形成する際には800℃前後の熱処理が行なわれる。このような金属酸化物膜を結晶化させるための熱処理は、通常、石英加熱炉等により基板全体を加熱することにより行なわれている(例えば、特許文献1、非特許文献2)。
【0008】
しかしながら、ガラス基板では500℃以上の温度、また、プラスチック基板では200℃以上の温度では、基板が変形等してしまうため、金属酸化物膜を結晶化させるために基板全体を加熱することは基板を構成する材料によっては好ましくない。よって、ガラス基板上においては500℃未満の温度で、プラスチック基板においては200℃未満の温度で、金属酸化物膜を結晶化させることが求められていた。
【0009】
このため低温で結晶化させた金属酸化物膜を形成する方法としては、成膜された金属酸化物膜にレーザを照射し結晶化させるレーザアニールがあるが、この場合においても、レーザ光照射による収縮による金属酸化物膜が収縮することによりクラッキング等が発生しやすい。また、所望の形状に金属酸化物膜を形成するためには、レジストパターンの形成とRIE等によるエッチング等を行なう必要があり、工程数を削減することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、低温で結晶化された金属酸化物膜を所望の形状で形成することを目的とするものであり、更には、結晶化された金属酸化物膜を低コストで形成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属酸化物膜を形成するための前駆体溶液に、金属酸化物膜が成膜される基板を浸す工程と、前記基板と前記前駆体溶液との界面に光を集光した状態で、前記光を走査しながら照射する工程と、を有し、前記前駆体溶液は前記光を透過するものであって、前記基板上に前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、金属酸化物膜を形成するための前駆体溶液を金属酸化物膜が成膜される基板の表面に塗布し前駆体膜を形成する工程と、前記基板と前記前駆体膜との界面に光を集光した状態で、前記光を走査しながら照射する工程と、を有し、前記前駆体溶液は常温以上の温度の融点を有する溶媒が含まれており、前記前駆体溶液は前記光を透過するものであって、前記基板上に前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記金属酸化物膜は、強誘電体膜であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記基板は前記光を透過する基板であって、前記光が照射される側の面とは反対側の面に集光されるものであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記光を走査しながら照射する工程の後、前記前駆体溶液または前記前駆体膜を除去するための洗浄を行なう工程を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記基板はガラス基板または樹脂基板であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記光はレーザ光であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記前駆体溶液の透過率は、前記光の波長において、90%以上であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、溶液ホルダーに入れられた前駆体溶液と、前記前駆体溶液に浸された基板と、前記前駆体溶液を透過する波長の光を出射する光源と、前記溶液ホルダーの位置を移動させるステージと、を有し、前記光は前記前駆体溶液と前記基板との界面に集光されるものであって、前記光が集光された状態で、前記ステージにより前記界面において集光される光の位置を相対的に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低温で結晶化された金属酸化物膜を所望の形状で形成することができ、更には、結晶化された金属酸化物膜を低コストで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造装置の構造図
【図2】第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法のフローチャート
【図3】第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法の説明図
【図4】第2の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法のフローチャート
【図5】第2の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法の説明図
【図6】第2の実施の形態における金属酸化物膜の製造装置の構造図
【図7】前駆体溶液の透過率の特性図
【図8】前駆体溶液の透過率の特性の要部拡大図
【図9】実施例2において形成された金属酸化物膜の写真及び3Dイメージ
【図10】実施例2において形成された金属酸化物膜の顕微ラマンスペクトル
【図11】実施例3において形成された金属酸化物膜の写真及び3Dイメージ
【図12】実施例3において形成された金属酸化物膜の顕微ラマンスペクトル
【図13】実施例4において形成された金属酸化物膜の写真及び3Dイメージ
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0023】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法及び製造装置について説明する。
【0024】
(金属酸化物膜の製造装置)
最初に、本実施の形態における金属酸化物膜の製造装置について説明する。本実施の形態における金属酸化物膜の製造装置は、光源10、光学系11、対物レンズ12、溶液ホルダー13、スペーサ14、ガラス基板15、XYZステージ16、CCD(Charge Coupled Device)カメラ17、電磁シャッタ18、電磁シャッタコントローラ21、XYZステージコントローラ22、コンピュータ23を有している。
【0025】
金属酸化物膜を形成するための前駆体溶液30は溶液ホルダー13の内部に入れられており、金属酸化物膜が成膜される基板40は、溶液ホルダー13の内部において、前駆体溶液30に全体が浸かるように設置されている。
【0026】
光源10は、レーザ光を出射するレーザ光源が用いられており、形成される金属酸化物膜や基板40や前駆体溶液30の種類により適宜選択して用いられる。具体的には、光源10としては、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS;Diode-Pumped Solid-State)レーザであって発振波長が457、473、488、532、561、660または1064nmのもの、パルス発振レーザであって発振波長が266、355、532または1064nmのもの、325及び442nmの発振波長を有するHe−Cdレーザ、488及び514.5nmの発振波長を有するArイオンレーザ、800nmの発振波長を有するチタンサファイアレーザ、405、408、442、473、638、658、780または830nmの発振波長を有する半導体レーザ、193、248、308または353nmに発振波長を有するエキシマレーザ、紫外域から赤外域に発振波長を有するファイバーレーザ等が挙げられる。尚、光源10に用いられるレーザ等は上記に限定されるものではない。本実施の形態では、連続発振ダイオード励起固体レーザが用いられており、例えば、Laser Quantum社、Ventus532(532nm、500mW)、CNI社、MGL−H−532−1W(532nm、1.18W、TEM00モード)及び金門光波(バイオレッットDPSSレーザ、405nm、100mW)が搭載されている。
【0027】
光学系11は、光学顕微鏡が用いられており、本実施の形態では、BX51(オリンパス製)が用いられている。光源10からの光を集光等するためのものである。
【0028】
対物レンズ12は、光学系11と接続されており、本実施の形態では、SLMPlan20X(N.A.0.35)、SLMPlan50X(N.A.0.45)、SLMPlan100X(N.A.0.8)が用いられている。
【0029】
溶液ホルダー13は前駆体溶液30を溜めることができるような構造により形成されており、光を入射するための開口部13aが設けられている。
【0030】
スペーサ14は、溶液ホルダー13において後述するガラス基板15を所定の位置に設置するためのものである。
【0031】
ガラス基板15は、光源10の波長の光を透過する材料により形成されており、前駆体溶液30の上面と接し、溶液ホルダー13の開口部13aを塞ぐように設置されている。
【0032】
XYZステージ16は、溶液ホルダーをX、Y、Z軸方向に移動させることができるものであり、これにより溶液ホルダー13の内部に設置されている基板40の所定の位置に、光源10からの光を照射させることができる。本実施の形態では、TSDM60−20、SPSD60−10ZF(シグマ光機社)が用いられている。
【0033】
CCDカメラ17は、基板40の表面に形成された金属酸化物膜を観察するためのものであり、本実施の形態では、Watec社、WAT231S2が用いられている。
【0034】
電磁シャッタ18は、光源10と光学系11との間に設けられており、光源10からの光を光学系11に入射させるか否かの開閉動作を行なうものである。本実施の形態では、シグマ光機社、SSH−Rが用いられている。
【0035】
電磁シャッタコントローラ21は、電磁シャッタ18の開閉を制御するためのものであり、後述するコンピュータ23に接続されている。本実施の形態では、シグマ光機社、SSH−CB4が用いられている。
【0036】
XYZステージコントローラ22は、XYZステージ16の駆動動作の制御を行なうためのものであり、後述するコンピュータ23に接続されている。本実施の形態では、シグマ光機社、SHOT−204MSが用いられている。
【0037】
前駆体溶液30は、金属酸化物膜を形成する材料となる有機金属化合物を溶媒に溶解させたものであり、加水分解と縮合反応により金属元素と酸素とのネットワーク構造が形成された均一な溶液である。
【0038】
基板40は、金属酸化物膜を形成するための基板であり、ガラス基板やシリコン基板を用いることができる。本実施の形態では、シリコン基板が用いられている。
【0039】
(金属酸化物膜の製造方法)
次に、本実施の形態における金属酸化物膜の製造装置を用いた本実施の形態における金属酸化物膜の製造方法について図2に基づき説明する。
【0040】
最初に、ステップ102(S102)において、前駆体溶液30に基板40を浸漬させる。具体的には、本実施の形態における金属酸化物膜の製造装置において、図3(a)に示すように、前駆体溶液30が入れられている溶液ホルダー13内の所望の位置に基板40を浸漬させ設置する。
【0041】
次に、ステップ104(S104)において、光源10からのレーザ光を基板40が前駆体溶液30と接している面に集光させる。具体的には、光源10からのレーザ光を光学系11に入射させ、対物レンズ12により、基板40が前駆体溶液30と接している面に集光させ、この状態において、コンピュータ23による制御によりXYZステージコントローラ22を介しXYZステージ16を駆動する。具体的には、図3(b)に示すように、基板40の表面の所望の領域にレーザ光10aを集光させた状態で、基板40を移動させることにより金属酸化物膜41を形成する。即ち、本実施の形態における金属酸化物膜の形成方法では、基板40の表面のレーザ光10aが集光されている領域にのみ加熱等により前駆体溶液を硬化させて金属酸化物膜41を形成することができ、同時に形成された金属酸化物膜41を結晶化させることができる。また、形成された金属酸化物膜41の界面は、前駆体溶液30と接しているため、結晶化等によりクラッキングか発生することはない。また、基板40の表面においてレーザ光の照射された領域のみ金属酸化物膜41を形成することができるため、フォトレジストの形成及びRIE等によるエッチングを行なうことなく、低コストで結晶化している金属酸化物膜41を所望の形状で形成することができる。
【0042】
次に、ステップ106(S106)において、金属酸化物膜41の形成されている基板40を溶液ホルダー13より取り出し、前駆体溶液を除去するための洗浄を行なう。これにより、図3(c)に示すように、基板40の表面にはPZT等の結晶化した金属酸化物膜41を形成することができる。
【0043】
本実施の形態では、金属酸化物膜41として結晶化させたPZTやSBTを形成する場合について説明したが、他の強誘電体材料や他の金属酸化物膜を作製する場合についても同様に適用することができる。
【0044】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。図4に基づき本実施の形態における金属酸化物膜の製造方法について説明する。
【0045】
最初に、ステップ202(S202)において、基板40の表面に前駆体溶液からなる膜(前駆体膜)141を形成する。具体的には、基板表面に前駆体溶液をスピンコート等により塗布し、ポストベーク等することにより、図5(a)に示す基板40の表面に前駆体膜141を形成する。尚、本実施の形態において用いられる前駆体溶液は、常温以上の温度において、融点を有する溶媒が含まれているものである。
【0046】
次に、ステップ204(S204)において、前駆体膜141の形成された基板40を本実施の形態における金属酸化物膜の製造装置の所定の位置に設置し、レーザ光を照射することにより所望の領域に金属酸化物膜を形成する。具体的には、本実施の形態において用いられる金属酸化物膜の製造装置は、図6に示すように、第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造装置において、溶液ホルダー13、スペーサ14、ガラス基板15を有していない構造のものである。即ち、本実施の形態における金属酸化物膜の製造装置は、光源10、光学系11、対物レンズ12、XYZステージ16、CCDカメラ17、電磁シャッタ18、電磁シャッタコントローラ21、XYZステージコントローラ22、コンピュータ23を有している。この金属酸化物膜の製造装置を用いて、基板40の前駆体膜141が形成されている面の所望の領域にレーザ光を集光させる。具体的には、光源10からのレーザ光を光学系11に入射させ、対物レンズ12により、前駆体膜141が形成されている基板40の表面に集光させる。この状態において、コンピュータ23による制御によりXYZステージコントローラ22を介しXYZステージ16を駆動する。これにより、図5(b)に示すように、基板40の表面の所望の領域にレーザ光10aを集光させた状態で、基板40を移動させることにより、前駆体膜141より結晶化した金属酸化物膜41を形成することができる。
【0047】
次に、ステップ206(S206)において、金属酸化物膜41の形成されている基板40より付着している前駆体膜141を除去するための洗浄を行なう。これにより、図5(c)に示すように、基板40の表面にはPZT等の結晶化した金属酸化物膜41を形成することができる。
【0048】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【実施例】
【0049】
次に、実施例について説明する。尚、実施例において用いた共焦点レーザ顕微鏡は、3次元(3D)共焦点レーザ顕微鏡であり、キーエンス社、カラー3Dレーザ顕微鏡VK−9700である。また、顕微ラマン分光装置は、レーザ光源が連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザ(Laser Quantum社、Ventus532(532nm、500mW))、分光器がORIEL社、77385、冷却型CCDカメラ:Apogee社、AP260EPである。
【0050】
(実施例1)
実施例1について説明する。実施例1は前駆体溶液及び前駆体溶液の製造方法である。具体的には、酢酸鉛三水和物、チタンイソプロポキシド、ジルコニウムノルマルプロポキシドを出発材料とし、メトキシエタノール(2−メトキシエタノール(エチレングリコールモノメチルエーテル))を共通溶媒として、PZTの前駆体溶液をゾルゲル法によって調整した。酢酸鉛三水和物をメトキシエタノールに溶解し脱水後、所定量のTi、Zr出発材料を加え、アルコール交換反応、エステル化反応を経てゾルゲル液(濃度:0.5mol/l)を得た。このゾルゲル液は、PZTからなる金属酸化物膜を製造するための前駆体溶液となるものである。
【0051】
このようにして得られた前駆体溶液の光透過率を図7及び図8に示す。尚、図8は、図7の一部を拡大した図である。第1及び第2の実施の形態では、実施例2から4において後述するように、光源10から出射される波長、即ち、金属酸化物膜を形成する際に用いられる波長(532nm、405nm)において、90%以上の高い透過率を有している。このように、前駆体溶液が高い透過率を有しているため、前駆体溶液に光が吸収されることがなく、膜厚方向にムラ等のない金属酸化物膜を形成することができる。
【0052】
(実施例2)
実施例2は、実施例1における前駆体溶液を用いた金属酸化物膜の製造方法であり、第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法である。具体的には、実施例1における前駆体溶液を用いて、図1に示す金属酸化物膜の製造装置により金属酸化物膜を形成した。基板40は、シリコン基板の表面に、SiO層、酸化ニッケルランタン(LaNiO)層が、この順で積層形成されたものである。光源10は、波長が532nmのレーザ光源を用い、前駆体溶液30と接する基板40の表面にレーザ光が集光するように設置した。光源10の照射条件は、20X(20倍、N.A.0.32)の対物レンズ12を用い、入射レーザ光パワーが100mW、レーザ光の走査条件は、走査線間隔が10μm、走査速度が100μm/sであった。尚、この際の温度は22℃である。レーザ光を照射した後、メタノール溶媒を用いて基板40の洗浄を行なうことにより不浄な前駆体溶液30を除去した。
【0053】
図9に、本実施例において形成された金属酸化物膜41を示す。図9(a)及び(b)は、共焦点レーザ顕微鏡による写真及び表面における3次元イメージである。図9に示されるように、厚さが約150nm、線幅が約5μmの金属酸化物膜41からなるパターンを形成することができた。
【0054】
図10に、本実施例において形成された金属酸化物膜41の顕微ラマンスペクトルを示す。本実施例において形成された金属酸化物膜41にみられる600cm−1のシャープなバンドは、c軸が選択配向したPZT結晶膜に特徴的なものである。これは、シリコン基板上に形成した、LaNiO層が、擬立方晶のペロブスカイト構造を有しているため、ペロブスカイト型の強誘電体薄膜と相性が良いことから、c軸選択配向を誘起したためと考えられる。
【0055】
(実施例3)
実施例3は、実施例1における前駆体溶液を用いた金属酸化物膜の製造方法であり、第1の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法である。具体的には、実施例1における前駆体溶液を用いて、図1に示す金属酸化物膜の製造装置により金属酸化物膜を形成した。金属酸化物膜41の形成される基板40はガラス基板であり、光源10は、波長が405nmのレーザ光源を用いている。基板40となるガラス基板はガラス基板の裏面、即ち、ガラス基板を透過した光が、ガラス基板と前駆体溶液30と接する面に集光するように設置した。具体的には、溶液ホルダー13内部に基板40を設置した場合、溶液ホルダー13と基板40との間に僅かな隙間ができ、この隙間に入り込んだ前駆体溶液に光を照射することにより金属酸化物膜41を形成する。基板40はガラス基板等の光を透過する基板であればよく、前駆体溶液30中に浸されていれば、同様に光が照射される側とは反対側の裏面に金属酸化物膜41を形成することができる。このように、基板40として光を透過するガラス基板を用いることにより、光が照射される側とは反対側の面に金属酸化物膜を形成することが可能である。光源10の照射条件は、50X(50倍、N.A.0.45)の対物レンズ12を用い、入射レーザ光パワーが100mW、レーザ光の走査条件は、走査線間隔が1μm、走査速度が500μm/sであった。尚、この際の温度は22℃である。レーザ光を照射した後、メタノール溶媒を用いて基板40の洗浄を行なうことにより不要な前駆体溶液30を除去した。
【0056】
図11に、本実施例において形成された金属酸化物膜を示す。図11(a)及び(b)は、共焦点レーザ顕微鏡による写真及び表面における3次元イメージである。図11に示されるように、厚さが約10μmの金属酸化物膜41からなるパターンを形成することができた。
【0057】
図12に、本実施例において形成された金属酸化物膜41の顕微ラマンスペクトルを示す。本実施例において形成された金属酸化物膜においては、550cm−1付近にブロードなラマンバンドが観測され、ぺロブスカイト型の結晶構造を有するPZT膜であることが示された。実施例2における図10に示すラマンスペクトルと異なっているのは、基板に形成されたLaNiO層の有無によるものと考えられる。
【0058】
(実施例4)
実施例4は、第2の実施の形態における金属酸化物膜の製造方法である。本実施例において用いた前駆体溶液は、実施例1における前駆体溶液に、融点が43〜47℃のポリエチレングリコール(PEG1540、和光純薬、沸点は、250℃以上)を10wt%添加することにより、レーザ光照射前は固体膜となり、レーザ光照射により液化する膜となるように前駆体溶液を調整した。
【0059】
この前駆体溶液をスピンコートにより、基板10となるシリコン基板上に塗布し、150℃、20秒間のポストベークを行なうことにより前駆体膜141を形成した。尚、スピンコートにおける回転数は1000rpmである。また、溶媒として用いた2−メトキシエタノールの沸点は124℃である。よって、このポストベークでは、2−メトキシエタノールが気化するため、ポストベーク後はポリエチレングリコールが凝固するため前駆体膜141は固体状態となる。
【0060】
この後、図6に示す金属酸化物膜の製造装置により、光源10よりレーザ光を照射した。本実施例において用いた光源10は、波長が405nmのレーザ光源であり、前駆体溶液30と接するガラス基板の表面に集光するように設置した。光源10の照射条件は、100X(100倍、N.A.0.80)の対物レンズ12を用い、入射レーザ光パワーが100mW、レーザ光の走査条件は、走査線間隔が1μm、走査速度が500μm/sであった。尚、この際の温度は22℃である。レーザ光を照射した後、メタノール溶媒を用いて基板40の洗浄を行なうことにより不要な前駆体溶液30を除去した。
【0061】
図13に、本実施例において形成された金属酸化物膜を示す。図13(a)及び(b)は、共焦点レーザ顕微鏡による写真及び表面における3次元イメージである。図13に示されるように、厚さが約1μmの金属酸化物膜41からなるパターンを形成することができた。
【0062】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0063】
10 光源
11 光学系
12 対物レンズ
13 溶液ホルダー
13a 開口部
14 スペーサ
15 ガラス基板
16 XYZステージ
17 CCDカメラ
18 電磁シャッタ
21 電磁シャッタコントローラ
22 XYZステージコントローラ
23 コンピュータ
30 前駆体溶液
40 基板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【特許文献1】特開平5−85704号公報
【非特許文献】
【0065】
【非特許文献1】亀原伸男、塚田峰春、Jeffrey S.CROSS、「強誘電体薄膜のメモリー応用」、表面科学、2005年、Vol.26、No.4、 p.194−199
【非特許文献2】谷俊彦、「溶液から合成する強誘電体薄膜」、豊田中央研究所R&Dレビュー、1994年、Vol.29、No.4、p.1−11

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物膜を形成するための前駆体溶液に、金属酸化物膜が成膜される基板を浸す工程と、
前記基板と前記前駆体溶液との界面に光を集光した状態で、前記光を走査しながら照射する工程と、
を有し、前記前駆体溶液は前記光を透過するものであって、前記基板上に前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
金属酸化物膜を形成するための前駆体溶液を金属酸化物膜が成膜される基板の表面に塗布し前駆体膜を形成する工程と、
前記基板と前記前駆体膜との界面に光を集光した状態で、前記光を走査しながら照射する工程と、
を有し、前記前駆体溶液は常温以上の温度の融点を有する溶媒が含まれており、前記前駆体溶液は前記光を透過するものであって、前記基板上に前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物膜は、強誘電体膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記基板は前記光を透過する基板であって、前記光が照射される側の面とは反対側の面に集光されるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
前記光を走査しながら照射する工程の後、前記前駆体溶液または前記前駆体膜を除去するための洗浄を行なう工程を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
前記基板はガラス基板または樹脂基板であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
前記光はレーザ光であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体溶液の透過率は、前記光の波長において、90%以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項9】
溶液ホルダーに入れられた前駆体溶液と、
前記前駆体溶液に浸された基板と、
前記前駆体溶液を透過する波長の光を出射する光源と、
前記溶液ホルダーの位置を移動させるステージと、
を有し、前記光は前記前駆体溶液と前記基板との界面に集光されるものであって、
前記光が集光された状態で、前記ステージにより前記界面において集光される光の位置を相対的に移動させることを特徴とする金属酸化物膜の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−234927(P2012−234927A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101527(P2011−101527)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】