説明

鉄道車両用軸受装置

【課題】 加工性に加えて、耐寒性にも優れるシール部材を備え、耐候性に優れた軸受装置を提供する。
【解決手段】 内輪の両端に当接する油切りと、該油切りの外周面と摺接するリップを有し、外輪の両端部に固定されるオイルシール手段とを備えた鉄道車両用軸受装置において、オイルシール手段のリップが、可塑剤として、25℃における粘度10mPa・s以上600mPa・s以下で、炭化水素鎖を有する化合物を含有するゴム組成物からなることを特徴とする鉄道車両用軸受装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸支持に用いられる軸受装置に関し、詳しくはリップと油切りとの腹当たりを防止するのに有効なオイルシール手段を備えた鉄道車両用転軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、オイルシール手段を備える従来の鉄道車両用軸受装置(以下、「軸受装置」という)100の一例を示す断面図である。図示される軸受装置100は、鉄道車両に用いられる軸受の一例である複列円錐ころ軸受(以下、「軸受」という)110と、軸受110に装着された車軸120とを有している。軸受110は、一体型の外輪111と各列に個別に分割された内輪112と内輪間座113とを備え、内輪112と外輪111との間には、軸受110の周方向に配置され、保持器114に保持された複数のころ115が配置されている。軸受110の軸方向両端面には、それぞれ主軸120と一体となって回転し、内輪112と当接する筒状の油切り121が配置されている。
【0003】
油切り121の軸受100寄りの外周側には、異なる内径の円筒部材を連結し、段を有する筒状のシールケース122が配置されている。シールケース122の軸受110側の一端部は外輪111に嵌合固定され、他端部は油切り121の外周面付近に配置されている。また、シールケース122の内周側には、環状のオイルシール130が取り付けられ、軸受装置100の内部に、ごみ、水分、異物等が外部から侵入するのを防ぐとともに、軸受装置100内のグリース等の潤滑剤が外部に漏出するのを防いでいる。
【0004】
オイルシール130は、図2に拡大断面図で示すように、環状で、複数の金属部材を組み合わせてなる、内周側に開口した略断面コ字状の外周部131と、外周部131の内周側端部に接着された樹脂からなるシール部材132とから構成されている。オイルシール130は、その外周部131の外周側がシールケース122の内周側に固着され、オイルシール130の内周側に位置するシール部材132が油切り121の外周面に摺接することで、軸受内部を外部から密閉している。ここで、シール部材132は、軸受110寄りの内側リップ133と、内側リップ133から間隔を隔てて配置されている外側リップ134とを有している。内側リップ133及び外側リップ134は、オイルシール130の全周にわたって配置されている。軸受装置100が作動している際には、これらのリップ133,134が、油切り121の外周面と摺動している。なお、内側リップ133には、内側リップ133を油切り121の外周面側へ付勢するためのガータスプリング135が取り付けられている。
【0005】
ところで、転がり軸受では、潤滑剤中に水分が混入すると大きく低下することが知られている。例えば、古村らは、潤滑剤(#180タービン油)に6%の水が混入すると、混入しない場合に比べて数分の1〜20分の1に転がり疲れ強さが低下することを報告している(古村 恭三郎、城田 伸一、平川 清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal, No.636, pp.1-10, 1977)。また、Schatzbergらは、潤滑油中にわずか100ppmの水分が混入するだけで、鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(P.Schatzberg, I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication, wear, 12, pp.331-342, 1985)。
【0006】
このような理由から、上記の軸受装置100でも図示されるような接触型のシール部材132を備えるオイルシール130が用いられている。そして、シール部材132は、良好な加工性を得るために可塑剤を配合したゴム組成物からなる成形体が一般的であり、ゴムとの相溶性やコスト等を考慮して、可塑剤の選定が行われている(例えば、特許文献1参照)。しかし、軸受装置100は種々の環境で使用され、特に低温下ではシール部材132の柔軟性が低下してリップ133,134の追従性が低下し、十分な密封性を発現しなくなる可能性がある。その結果、軸受装置100の内部への水や塵埃等の侵入を許し軸受寿命の低下を招くことになる。
【0007】
【特許文献1】特許第3351872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、軸受装置100のシール部材132には、加工性に加えて、低温時のシール性能(耐寒性)も要求されてきているが、従来のシール部材132では十分に対応できていない状況にある。そこで、本発明は、加工性に加えて、耐寒性にも優れるシール部材を備え、耐候性に優れた軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために、内輪の両端に当接する油切りと、該油切りの外周面と摺接するリップを有し、外輪の両端部に固定されるオイルシール手段とを備えた軸受装置において、オイルシール手段のリップが、可塑剤として、25℃における粘度10mPa・s以上600mPa・s以下で、炭化水素鎖を有する化合物を含有するゴム組成物からなることを特徴とする軸受装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、シール部材を形成するゴム組成物に特定の可塑剤を配合したため、該シール部材は、加工性は勿論のこと、耐寒性にも優れたものとなり、このシール部材を備える軸受装置は耐候性に優れ、長寿命となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0012】
本発明においては、接触型のリップを有するオイルシール手段を備える限り、軸受装置の構成自体には制限がなく、例えば図1に示した構成の軸受装置100を例示することができる。また、オイルシール手段も、下記に示すゴム組成物からなること以外は制限がなく、例えば図1及び図2に示した構成のシール部材132を備えるものを例示することができる。
【0013】
ゴム組成物は、合成ゴムをベース材料とする。中でも、耐熱性、耐油性、耐グリース性等を考慮すると、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム、NBR)、アクリルゴム、フッ素ゴムが好ましい。また、アクリロニトリルブタジエンゴムを水素化した水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンを共重合させたアクリロニトリルブタジエンイソプレンゴム、分子内にカルボキシル基を導入したカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴムを水素化したカルボキシル化水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等の各種変性アクリロニトリルブタジエンゴムも使用できる。これらのアクリロニトリルブタジエンゴムは、2種以上を混合して使用することもできる。
【0014】
また、上記アクリロニトリルブタジエンゴムにおけるアクリロニトリルの含有量は特に制限されるものではなく、含有量が少ない順に低ニトリル、中ニトリル、中高ニトリル、高ニトリル、極高ニトリルに分類されるが、耐熱性や耐油性、耐摩耗性、耐クリープ性、リップ追従性等を考慮すると、中ニトリル、中高ニトリル、高ニトリルが好ましく、その場合のアクリロニトリル含有量は20〜40質量%である。より好適には、アクリロニトリル含有量は25〜36質量%であり、この範囲であればバランスの良い特性を示す。アクリロニトリル量が20質量%未満であると、耐磨耗性が劣り、シールリップが磨耗しやすくなり、結果として軸受寿命を縮めることになる。また、アクリロニトリル量が40質量%を超えると、永久圧縮ひずみ特性が劣り、シールリップの追従性が悪くなり、結果として軸受寿命を縮めることになる。
【0015】
上記合成ゴムには、可塑剤として、25℃における粘度10mPa・s以上600mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以上500mPa・s以下で、炭化水素鎖を有する化合物を配合する。この粘度が10mPa・s未満ではシール部材の表面にブルーミングし易くなり、600mPa・s超過では化合物同士の相互作用が大きくなり十分な耐寒性が得られなくなる。また、化合物の分子量は200以上1500以下であることが好ましく、250以上1000以下がより好ましい。分子量が200未満ではシール部材の表面にブルーミングし易くなり、1500超過では化合物がゴム中を容易に移動することができず、十分な耐寒性が得られなくなる。また、化合物はエステル結合、エーテル結合、二重結合の少なくとも1つを持つことが好ましい。更には、十分な耐寒性を確保するために、化合物の凝固点は0℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましい。凝固点が0℃を越える化合物は、寒冷地で使用したときにシール部材のゴム弾性が急激に低下する。
【0016】
使用する可塑剤は、上記の粘度や分子量、分子構造、凝固点を有するものであれば、その種類(化合物名や商品名)は問わず、制限無く使用できる。具体的には、グリセリン誘導体体、ポリエステルエーテル類やアジピン酸系ポリエステル等のポリエステル系可塑剤の中で上記の要件を満たすものを好適に使用できる。また、これら可塑剤は、2種以上を併用することもできる。可塑剤の配合量は、合成ゴム100重量部に対し3重量部以上30重量部以下である。配合量が3重量部未満では十分な可塑性が発現せず、30重量部超過では滑りが生じて加工性が低下する。
【0017】
また、ゴム組成物には、適宜、補強剤、充填材、加硫系添加剤、老化防止剤、潤滑剤等の各種添加剤を添加することにより、シール部材の各種特性を高めることができる。
【0018】
補強剤として、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの種類は、制限されるものではないが、例えばSAF(Super Abrasion Furnace Black)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding Furnace black)、GPF(General Purpose Furnace black)、SRF(Simi-Reinforcing Furnace black)、FT(Fine Thermal Furnace black)、MT(Medium Thermal Furnace black)等を挙げることができる。中でも、補強性と成形加工性のバランスに優れたHAF、MAF、FEF、GPF及びSRFが好ましく、特にFEF、GPF及びSRFが好ましい。カーボンブラックの配合量は、合成ゴム100重量部対し20〜90重量部である。配合量が20重量部未満では十分な補強性が発現されず、90重量部超過であると弾性材料の硬度が高くなり過ぎて伸びが少なくなり、本来有するゴム弾性が低下してしまう。
【0019】
補強剤として、ケイ酸またはケイ酸塩も好ましい。好適なケイ酸としては、天然の石英粉末・珪石粉末(SiO)、合成無水ケイ酸(SiO)、合成含水ケイ酸(SiO・nHO)等が挙げられる。好適なケイ酸塩としては、ケイ酸アルミニウム類ではカオリンクレー(Al・2SiO・2HO)、焼成クレー(Al・2SiO)、ロウ石(Al・4SiO・HO)、セリサイト(KO・3Al・6SiO・2HO)、マイカ(KO・3Al・6SiO・2HO)、ネフェリンシナイト(NaO・KO・Al・2SiO)、含水ケイ酸アルミニウム(Al・mSiO・nHO)等を、ケイ酸マグネシウム類ではタルク(3MgO・4SiO・HO)等を、ケイ酸カルシウム類ではウォラストナイト(CaO・SiO)等をそれぞれ挙げることができる。中でも、耐磨耗性等を考慮すると、ケイ酸アルミニウム類が好ましい。これらのケイ酸、ケイ酸塩は単独でも、複数を混合して使用してもよく、合成ゴム100重量部に対し20〜150重量部配合される。配合量が20重量部未満では十分な補強性が発現されず、150重量部超過であると弾性材料の硬度が高くなり過ぎて伸びが少なくなり、本来有するゴム弾性が低下してしまう。
【0020】
尚、カーボンブラックと、ケイ酸またはケイ酸塩とを併用する場合、合成ゴム100重量部に対して、カーボンブラックを10〜90重量部、ケイ酸及びケイ酸塩の少なくとも1種を100〜110重量部の範囲で、かつ合計で20〜200重量部となるように配合することが好ましい。より好ましくは、合成ゴム100重量部に対して、カーボンブラックを20〜80重量部、ケイ酸及びケイ酸塩の少なくとも1種を20〜100重量部、合計で60〜120重量部となるように配合する。単独または合計での前記下限値を下回ると十分な補強効果が発現せず、前記上限値を上回ると硬度が高くなり過ぎて伸びが低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
【0021】
加硫剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、高分散性硫黄等の各種硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、N,N−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノン−2)、チウラムポリスルフィド等の硫黄を排出可能な硫黄化合物、ジクミルパーオキサイド、ジ(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチルヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。中でも、分散性や取り扱いの容易さ、耐熱性の点で、高分散性硫黄やモルホリンジスルフィドを使用することが好ましい。
【0022】
尚、硫黄系の加硫剤を用いる場合は、グアニジン系化合物、アルデヒド−アンモニア系化合物、チアゾール系化合物、チオウレア系化合物、スルフェンアミド系化合物、チウラム系化合物、ジチオカルバメート系化合物、キサンテート系化合物等を加硫助剤として併用する必要がある。硫黄系の加硫剤の中でも高分散性硫黄を用いる場合には、チウラム系のテトラメチルチウラムジスルフィド等またはスルフェンアミド系のN−シクロベンジル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド等と、チアゾール系の2−メルカプトベンゾチアゾール等とを併用することが好ましい。
【0023】
また、カルボキシル化アクリロニトルブタジエンゴムを用いる場合は、酸化亜鉛を用いると早期加硫を生じ易いため、過酸化亜鉛とステアリン酸とを併用することが好ましい。過酸化亜鉛は、ゴム組成物の混練り加工時の温度ではそのまま組成物中に存在し、加硫成形時に酸化亜鉛を生じるため、混練り加工時及び保管時に早期加硫を生じることがない。
【0024】
加硫促進助剤としては、酸化亜鉛等の金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、ステアリン酸等の有機酸とその誘導体、及びアミン類等が挙げられる。これら加硫助剤、活性剤は2種以上を混合使用してもよく、合成ゴム100重量部に対して0.1〜10重量配合される。
【0025】
老化防止剤としては、アミン・ケトン縮合生成物、芳香族第二級アミン類、モノフェノール誘導体、ビス又はポリフェノール誘導体、ヒドロキノン誘導体、硫黄系老化防止剤、リン系老化防止剤等が挙げられる。このうち、アミン・ケトン縮合生成物系の2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体・ジフェニルアミンとアセトンとの縮合反応物、芳香族第二級アミン系のN,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン等を好適に挙げることができる。
【0026】
また、熱分解を防止して耐熱性を向上するため、上記の老化防止剤とともに2次老化防止剤を併用することがより好ましい。2次老化防止剤としては、例えば、硫黄系の2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール及びこれらの亜鉛塩等を例示できる。更に、日光あるいはオゾンの作用による亀裂を抑制させる日光亀裂防止剤として、融点が55〜70℃程度のワックス類を合成ゴム100重量部に対して0.5〜2重量部程度添加してもよい。
【0027】
潤滑剤としては、融点が40〜140℃のワックス(低融点油脂)が挙げられる。具体的には、上記融点範囲にあるパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックスに代表される石油ワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナヴァワックス、エステル系ワックス、ステアロアミド、オキシステアロアミド、エルシンアミド、ラウリルアミド、パルミチルアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、エチレンビスオレイルアミド、ステアリルオレイルアミド等が挙げられる。中でも、パラフィンやポリエチレンワックスが好ましい。
【0028】
潤滑剤として、その他にも鉱油、エーテル系オイル、シリコーン系オイル、ポリα−オレフィンオイル、フッ素オイル等を挙げることができる。中でも、シリコーン系オイルが好ましい。シリコーン系オイルはポリジメチルシロキサンを主成分とする常温で液体の物質であるが、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴムを使用する場合、相溶性を高めるためにポリジメチルシロキサンのメチル基の一部または分子末端がアミノ基、アルキル基、エポキシ基、ポリエーテル基、高級脂肪酸エステル等で置換された変性タイプでもよい。このような官能基を有することにより、官能基がアクリロニトリルブタジエンゴムの主鎖に反応もしくは吸着して弾性部材の表面に一度にブルームすることを防止すると同時に、徐々に恒久的にブルームしてその効果を長期にわたり維持する。
【0029】
更に、添加剤として、何れも公知のカップリング剤や顔料、染料、離型剤等を添加することもできる。
【0030】
物性面に言及すると、ゴム組成物の硬度は、上記に挙げた各種充填剤の添加量等によって影響を受けるが、シール部材としての密封性及び追従性から、JISK6301に記載のスプリング硬さAスケールで、50〜90の範囲が好ましい。前記硬さが50未満の場合には、シール部材の摩擦抵抗が大きくなるとともに耐摩耗性が低下する。また、前記硬さが90を超えると、前述のようにゴム弾性が低下するので、シール部材のリップ部の密封性、追従性が低下し、塵埃が多い環境や泥水に曝される状況において使用すると、転がり軸受の寿命が低下するおそれがある。
【0031】
ゴム組成物を得るための方法は特に限定されないが、合成ゴムと、可塑剤及び各種添加剤とを、ゴム混練ロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等の従来から公知のゴム用混練り装置を用いて均一に混練りすることが可能である。混練り条件は特に限定されないが、通常は30〜80℃の温度で、5〜60分間混練りすることによって、各種添加剤の十分な分散を図ることができる。
【0032】
また、上記ゴム組成物をシール部材とするための方法も特に限定されないが、未加硫のゴム組成物を金型の中で加圧しながら加熱すれば良く、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の公知のゴム成形方法により製造することができる。例えば、圧縮成形の場合、金型の中に予め接着剤を塗布した芯金(図2においては、オイルシール130の外周部131)を挿入し、先に述べた方法で製造した未加硫のゴム組成物のシートを乗せ、通常120〜200℃で30秒〜30分程度加圧加硫することで製造することができる。また、必要に応じて、120〜200℃で10分〜10時間程度後架橋してもよい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0034】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
表1に示す合成ゴム、可塑剤及び各種添加剤を混練ロールに投入して、十分に混連してゴム組成物を調製した。そして、金型中に、予め接着剤を塗布したSPCC製の芯金を配置し、芯金の外側に調製したゴム組成物からなる未加硫のシートを載せ、120〜200℃で30秒〜30分程度加圧加硫することで試験軸受(日本精工(株)製単列深溝玉軸受「6203(呼び番号)」)用の接触型シールを作製した。
【0035】
【表1】

【0036】
尚、使用した可塑剤の物性は以下の通りである。
【0037】
【表2】

【0038】
作製した接触型シールを試験軸受に組み込み、日本精工(株)製の軸受回転試験機に装着して下記条件にて所定時間回転させた後、封入グリース中の水分量を測定してシール性能を評価した。結果を、実施例2を1とする相対値で表2に示す。
・回転数 :1000rpm
・回転時間 :1000時間
・封入グリース:エーテル系グリース
・雰囲気温度 :−5℃
・水1リットルに200gの塩化カルシウムを溶解した溶液を連続噴霧
【0039】
また、接触型シールを100℃の恒温槽に入れ、シール表面へのブルーミングの有無を目視で確認した。更に、上記6203用接触型シールを1000枚作製したときのシール完成品の最終的な不良品率から加工性を評価した。結果を表2に併記する。何れも、コストアップ要因となる不良率ではなかった。
【0040】
【表3】

【0041】
表2から、本発明に従う可塑剤を配合したゴム組成物からなるシールは加工性に優れることに加え、耐寒性にも優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】軸受装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した軸受装置のオイルシール付近を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 鉄道車両用軸受装置(軸受装置)
11 シール部材
12 開口
13 オイルシール
14 外側リップ
121 油切り
122 シールカバー
133 内側リップ
135 ガータスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪の両端に当接する油切りと、該油切りの外周面と摺接するリップを有し、外輪の両端部に固定されるオイルシール手段とを備えた鉄道車両用軸受装置において、
オイルシール手段のリップが、可塑剤として、25℃における粘度10mPa・s以上600mPa・s以下で、炭化水素鎖を有する化合物を含有するゴム組成物からなることを特徴とする鉄道車両用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−300131(P2006−300131A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119612(P2005−119612)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】