説明

鍛造用油性潤滑剤、鍛造方法及び塗布装置

【課題】本発明は、少量吹き付けを可能にする水を含まない油性鍛造用潤滑剤組成物を提供することを課題とする。加えて、鍛造製品の品質のバラツキを低減、生産効率の向上、金型寿命の延長、作業環境の改善を図るための鍛造方法及び塗布装置を提供することを課題とする。
【解決手段】引火点が70℃〜170℃の範囲であるとともに、40℃における動粘度が4〜40mm/sであり、かつ水や乳化剤を含有していないことを特徴とする油性鍛造用潤滑剤、この潤滑剤を用いた鍛造方法及び塗布装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛およびそれぞれの合金等の非鉄金属,あるいは鉄の鍛造時に塗布する油性型潤滑剤、この油性型潤滑剤を用いた鍛造方法及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、鍛造は、製品化する金属材料を圧縮で変形させる手法である。この手法は自由鍛造と型鍛造の2種類に大別できる。金型なしで、鉄材を叩いて作られる刀が自由鍛造の良い例である。一方、金型を使い、製品の均質化を図って行なうのが型鍛造である。エンジン部品のクランク軸が良い例と言える。また、変形に必要な圧縮力を低減するため被鍛材(以降、ワークと称す)を加熱し、軟化させることがある。ワークの材質に応じ、加熱する温度が異なる。加熱の程度によって、一般に、冷間、温間、熱間鍛造と分類されるが、数字による明確な区分はない。
【0003】
冷間鍛造は、ワークの再結晶温度以下(通常、室温)で実施され、寸法精度が極めて高く、後加工処理なしで、製品化が可能の場合が多い。冷間鍛造は小型製品に適している。
【0004】
熱間鍛造は再結晶温度以上で実施され、大型製品に適応されている。しかし、ワークの表面に酸化皮膜が生成し、結晶粗大化のため、製品の割れが起り易い。
【0005】
金属を変形させるので、ワークは高圧で圧縮される。ワークと金型間に潤滑剤がない状態では、ワークと金型間でカジリや凝着を起こす。従って、カジリや凝着防止のため、金型に潤滑剤が使われている。
【0006】
一般に、冷間では、物理吸着により潤滑膜は形成しやすい。一方、熱間鍛造の高温では、潤滑成分のライデンフロスト現象(突沸の一種)のためワークに付着しにくく、かつ、付着しても物理吸着力が弱く、潤滑膜の形成が難しくなる。水を媒体とした潤滑剤の場合は、100℃以下では水が乾燥せず潤滑できないが、中間温度で潤滑膜を形成しやすい。一般に、潤滑膜として、次の形態がある。
【0007】
1)黒鉛皮膜:水乳化型、油性分散型の2種類の潤滑剤。
2)白色粉体:雲母、窒化ホウ素、または、メラミンシアヌレートの水乳化型。
3)ガラス系:コロイド状珪酸と芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩混合系(特許文献1)で、水に希釈されて使われるタイプ。
4)水溶性高分子系:水を含有(特許文献2)。
【0008】
黒鉛は、低温から高温まで優れた潤滑性を示すが、作業環境は黒色粉体で汚れ、劣悪である。特に、油に黒鉛を混合したタイプの潤滑剤は著しい汚れの原因になる。白色粉体が主体の潤滑剤は作業環境を黒鉛ほどには悪化させないが、それでも粉体含有量が多いと作業現場を汚す。しかも、黒鉛に比べ潤滑性に劣り、かつ、粉体が硬いと金型表面を傷め、型寿命を短くするきらいがある。
【0009】
ガラス系及び高分子系は厚い皮膜を形成できるが、黒鉛に比べ潤滑性は劣る。従って型寿命が短い。装置周りにガラス膜や高分子膜を形成し、白色粉体ほどではないが、清掃工程が必要で作業効率が悪い。
【0010】
黒鉛及び白色粉体系は水または油に分散されているので、貯蔵時の分離問題やスプレー時の詰まり問題が常に付きまとう。水ガラス系は、塗布するノズル付近で乾燥が起きる。特に、作業中断が長いと乾燥が助長され、ノズルの詰りが起こる。その結果、作業を再開する時、塗布量が低下し、潤滑能力が不足するので、不良品が発生する。水乳化系は金型の冷却性が良いが、廃水処理が必要となる。
【0011】
また、金型面が200℃を超えると、水に包まれた潤滑剤ミストが金型面で沸騰し、潤滑剤の金型への付着効率が悪くなり、潤滑剤を多量に塗布しなければならなくなる。即ち、水溶性潤滑剤の潤滑膜形成は温度に大きく依存するので、シビアーな金型温度の制御が不可欠である。
【0012】
水は100℃以下では蒸発しないので、乳化型の潤滑剤は冷間鍛造には不向きである。一方、乳化型は温間・熱間鍛造に使える。しかし、水が金型を冷却し、ワークが金型を加熱する。この加熱・冷却サイクルを繰り返すと、金型にクラックが発生する。金型の修理が必要となり、修理回数が増えると、高価な金型の廃棄に至る。水が金型の寿命を縮めている。また、成形工程中でワーク温度の低下が著しい場合は、高圧での成形が必要となり、金型寿命を縮める要因となっている。
【0013】
塗布方法に関し、多量に塗布するとサイクルタイムが伸びるとの問題がある。水溶性の潤滑剤の場合、大量に塗布するので、生産効率の点で好ましくない。また、大量塗布による潤滑剤の飛散に起因して、作業環境の悪化及び潤滑剤補充頻度の増加などの問題も挙げられる。更に、ワークの加熱工程が生産性の低下を招く場合がある。従来の水溶性潤滑油を使った生産工程は、ワークの昇温後は多様であり、荒地成形と仕上成形の工程や予備成形を加える3工程と各種ある。その際、成形工程が進むと共にワークの温度が低下するので、変形抵抗が増加し成形が困難になる。特に、水溶性潤滑剤の場合は塗布量が多いので、型が冷却され、温度低下が加速される。その対策として、再昇温工程を加える場合がある。しかし、再昇温工程はサイクルタイム,スペース,ランニングコスト等、生産効率の低下を招いている。
【特許文献1】特開昭60−1293号公報
【特許文献2】特開平1−299895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、従来の潤滑剤には、以下に述べる問題点があった。
1)水ガラス系の潤滑剤の場合、ノズルの詰りにより塗布量が低下し、これに起因して鍛造製品の品質のバラツキを招く。
2)潤滑剤として黒鉛を用いた場合、作業環境が黒色粉体で汚れる。
3) 水溶性の潤滑剤を用いた場合、大量に塗布するので生産効率の低下を招くとともに、金型寿命の低下、作業環境の低下を招く。
4)成形工程中に再昇温工程を加えた場合、生産効率の低下を招く。
【0015】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、ノズルの詰りによる塗布量の低下に起因する鍛造製品の品質のバラツキを低減でき、しかも水を含まない油性鍛造用潤滑剤を提供することを目的としている。
【0016】
また、本発明は、従来と比べて少量吹き付けを可能にして、生産効率の向上、金型寿命の延長を図るとともに、作業環境の低下を抑制しえる鍛造方法及び塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1) 本発明の油性鍛造用潤滑剤は、引火点が70℃〜170℃の範囲であるとともに、40℃における動粘度が4〜40mm/sであり、かつ水や乳化剤を含有していないことを特徴とする。
(2) 本発明の油性鍛造用潤滑剤は、前記(1)において、(a)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜170℃の範囲の溶剤を60〜90質量部、(b)40℃における動粘度が50〜100mm/s未満の鉱油及び/又は合成油を1〜5質量部、(c)40℃における動粘度が200mm/s以上のエステル基油を1〜5質量部、(d)40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油を15質量部以下、(e)潤滑性能を有する添加剤を5.1〜10質量部を含むことを特徴とする。
【0018】
(3) 本発明の油性鍛造用潤滑剤は、前記(1)又は(2)において、濡れ性向上剤を更に0.1〜3質量部を含むことを特徴とする。
(4) 本発明の油性鍛造用潤滑剤は、前記(2)又は(3)において、酸化防止剤を更に含むことを特徴とする。
(5) 本発明の油性鍛造用潤滑剤は、前記(4)において、酸化防止剤が、アミン系、フェノール系、クレゾール系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を0.2〜2質量部含むことを特徴とする。
【0019】
(6) 本発明の油性鍛造用潤滑剤は、前記(2)乃至(5)のいずれかにおいて、親油性を付与した白色粉体を1〜5質量部含むことを特徴とする。
(7) 本発明の鍛造方法は、前記油性鍛造用潤滑剤を用いて鍛造を行うことを特徴とする。
(8) 本発明の塗布装置は、油性鍛造用潤滑剤を金型にスプレーするための吐出機構と、この吐出機構と電気的に接続され,吐出機構から吐出する油性鍛造用潤滑剤の量を制御する吐出条件制御機構と、金型の温度を制御する温度制御機構を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
A.上記(1),(2)記載の油性鍛造用潤滑剤によれば、次に述べる効果を有する。
A-1) 水が配合されていないため、下記a〜cの効果を有する。
a.ライデンフロスト現象を起こさず、付着効率が高い。その結果、少量塗布が可能となる。
b.急冷作用を起こさず、金型寿命を延長できる。
c.排水がなくなり、排水処理が不要である。
A-2) 少量塗布のため冷却が少なく、多数の成形工程がある場合のワーク温度低下を少なく出来る。その結果、再昇温工程を削除できる場合があり、生産効率を大幅に向上できる場合がある。
【0021】
A-3) 揮発性が高いので、金型面からの垂れ流れが殆どなく、付着効率が高い。高温に効果のある成分を多量に付着でき、高温潤滑性が確保できる。その結果、カジリや凝着を低減でき、生産効率の改善に貢献できる。
A-4) 黒鉛が配合されていないので、作業環境がよい。
【0022】
B.上記(3)の「濡れ向上剤」を配合することにより、更に付着効率が向上する。その結果、更なる少量塗布に貢献できる。
C.上記(4),(5)の「酸化防止剤」を加えることにより、高温での潤滑剤の劣化が遅れる。従って、より高温で潤滑剤を使用可能であり、高温耐久性が高まる。その結果、初期の金型温度を高められるので、次の効果がもたらされる。
C-1) 工程数が多い場合、後の工程での必要荷重を下げられるので、金型の寿命が延びる。
C-2) 工程の中間で、再昇温工程を削減でき、生産効率を改善できる。
【0023】
D.上記(6)の「親油性を付与した白色粉体」を配合することにより、更に高温耐久性を向上できる。その結果、上記のC項に述べる効果が更に高まる。
E.上記(7)の鍛造方法を適用することにより、上記のA〜D項の効果が得られる。
F.上記(8)の塗布装置により、よく制御された塗布が可能となる。その結果、更なる少量塗布がより確実になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について具体的に説明する。
(1).請求項1に、「引火点が70℃〜170℃の範囲であるとともに、40℃における動粘度が4〜40mm/sであり、かつ水や乳化剤を含有していないことを特徴とする油性鍛造用潤滑剤」と記載している。その理由を(1−1)〜(1−3)項に説明する。
【0025】
(1-1) 引火点を70℃〜170℃の範囲としたのは、次のような理由による。
金型面で厚い油膜を形成するには、速乾性のペンキに見られるように、一旦付着した成分が金型から垂流れないよう早急に溶剤を気化させるほうが良い。従って、蒸発速度の速い方が良い。しかし、あまり蒸発速度が速いと水溶性潤滑剤で発生しているライデンフロスト現象を起こす懸念があり、ガソリンのような蒸発の速すぎるものは好ましくない。また、蒸発が速いと、引火点が低くなるので、火災の危険が高くなる。従って、自動車用燃料の軽油の引火点(70℃)以上が実用的であるので、本組成物として70℃以上の引火点とした。
【0026】
(1-2) 「40℃における動粘度が4〜40mm/s」としたのは、4mm/s未満では潤滑剤の粘度が下がり過ぎ塗布用ポンプの磨耗耐久性に悪影響があるからであり、40mm/sを超えると潤滑剤の粘度が上がり、本組成物をスプレーで適正に塗布できないからである。
(1-3) 「水や乳化剤を含有していない」としたのは、水自体には潤滑性が無いので、潤滑性に水は不要であることが主な理由である。むしろ水は潤滑性への弊害が多い。即ち、水を排除することでライデンフロスト問題を避けられる。その結果、付着効率が高まり、最終的には少量塗布が可能となる。水のライデンフロスト温度は150〜200℃ほどであり、沸騰を起こし、付着効率を低下させる。一方、油性の潤滑剤のライデンフロスト温度は約150℃高く、高温まで付着効率が良い。そのため、少量塗布となり、金型寿命を延長できる。更に、排水が無く、環境負荷を激減できる。
【0027】
(2).請求項2に「(a)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜170℃の範囲の溶剤を60〜90質量部、(b)40℃における動粘度が50〜100mm/s未満の鉱油及び/又は合成油を1〜5質量部、(c)40℃における動粘度が200mm/s以上のエステル基油を1〜5質量部、(d)40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油を15質量部以下、(e)潤滑性能を有する添加剤を5.1〜10質量部)を含むことを特徴とする請求項1記載の油性鍛造用潤滑剤」と記載した。この理由を(2−1)〜(2−4)に述べる。
【0028】
(2-1) (a)成分は高揮発・低粘度成分であり、金型面で蒸発する部分である。なお、人体への影響を考慮し、アルコール、エステル、ケトン等の極性の強い溶剤は使うべきではなく、極性に弱い石油系でかつ殆どが飽和分の溶剤や低粘度鉱油が好ましい。この例としては、例えば硫黄分が1ppm以下の高度に精製された飽和系の溶剤や低粘度の合成油が挙げられる。
上記(a)で「40℃における動粘度が2〜10mm/s」とするのは、2mm/s未満では潤滑剤全体の粘度が下がり過ぎ塗布用ポンプの磨耗耐久性に悪影響があるからであり、10mm/sを超えると潤滑剤全体の粘度が上がり、本組成物をスプレーで適正に塗布できないからである。また、上記(a)成分で配合割合を60〜90質量部としたのは、揮発性を最適化するためである。一方、温度の高い金型の場合、潤滑剤の気化性を抑えるため引火点は高い方が良いが、粘度も高くなる。あまり粘度が高いと潤滑剤のスプレー状態が悪化するので、上に述べるような引火点と粘度の上限がある。
なお、上記の(a)成分では、前記溶剤に、低粘度の鉱油及び/又は低粘度の合成油を加えて計60〜90質量部としてもよい。また、(a)成分が溶剤のみの場合、溶剤は2種類以上用いてもよい。
【0029】
(2-2) 40℃における動粘度が50〜100mm/s未満の(b)成分である鉱油/又は合成油および(c)40℃における動粘度が200mm/s以上のエステル基油は、塗布後、金型面に付着し、その結果、室温〜300℃の領域での潤滑膜を厚くし、潤滑膜を保持する役割を担う。特に、エステル基油は酸化安定性が良く、高温まで油膜を保持する。実際の金型温度にて、潤滑剤が塗布されてから溶湯が流れ込むまでの数秒間は付着した油が垂流れない程度の粘度がこの成分には必要である。
金型全面の平均温度を150℃と想定し、(b)成分と(c)成分の混合物の40℃における動粘度が100mm/s以上になることを期待している。また、(b)成分および(c)成分の配合量が少ないと、金型面での潤滑膜が薄くなり、多すぎると潤滑剤粘度の上昇によるスプレー状態の不安定化や鍛造製品へのこびり付き(色残り)問題になることがある。これらの問題に対応するため、(b)成分の配合量を1〜5質量部とし、酸化安定性の良い(c)成分も1〜5質量部とする。上記(b)成分としては、例えば石油系鉱油、合成油、シリンダー油が挙げられ、(c)成分としては、ジエステル、トリエステル、トリメリテート・エステルやコンプレックス・エステル等が挙げられる。
【0030】
(2-3) 上記の(d)成分であるシリコーン油は高温時の潤滑性を確保するもので、「40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油を15質量部以下」としている。この部分も金型に付着し、約250℃〜400℃の高温で潤滑性を維持する部分であり、(b)や(c)成分より高温の領域で潤滑性を維持することが期待されるので、40℃における動粘度は150mm/s以上が好ましい。
なお、(d)成分のシリコーン油はジメチル・シリコーンを含めたどの市販のシリコーン油でも良い。しかし、塗装する場合は塗装が載りにくい場合があり、塗布量によってはジメチル・シリコーンが好ましくない場合がある。塗装する場合、シリコーン油としては、例えばアルキル・アラルキルまたはジメチルより長鎖のアルキル基を有するアルキル・シリコーン油が好ましい。(d)成分を「15質量部以下」としたのは、15質量部を超えると金型にシリコーン又はシリコーン分解物が堆積し、鋳造製品の形状に悪影響を及ぼすからである。なお、金型を低中温(250℃未満)で使用する場合、(e)成分として潤滑性能を有する添加剤を添加するのでシリコーン油は必ずしも必要ではなく、高温(250℃以上)で使用する場合は分解しにくいシリコーン油を用いる必要がある。
【0031】
(2-4) 上記の(e)成分である潤滑性能を有する添加剤は低中温度の潤滑性を確保するものである。この添加剤としては、例えばナタネ油、大豆油、ヤシ油、パーム油、牛油、豚脂等の動植物油脂、脂肪酸エステル、ヤシ油脂肪酸、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、牛脂脂肪酸等の高級脂肪酸の一価アルコールエステル又は多価アルコールエステルに加え、有機モリブデン、油溶性の石鹸、油性ワックスが挙げられる。有機モリブデンとしては、例えばMoDDCやMoDTCが好ましく、アルミニウムとリン分が反応する可能性のあるMoDDPやMoDTPはあまり好ましくない。油溶性の石鹸としては、例えばCaまたはMgのスルフォネート塩、フィネート塩、サリシレート塩が挙げられ、また溶解性に難点はあるが、有機酸金属塩が挙げられる。
【0032】
(3).請求項3に「濡れ性向上剤を更に0.1〜3質量部を含むことを特徴とする請求項2記載の油性鍛造用潤滑剤」と記載した。金型の濡れ性を向上することで、付着効率を向上できる。この濡れ性向上剤としては、例えばアクリル・コポリマー又は引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサンが挙げられる。濡れ性向上剤は0.1質量部未満では効果は出ず、3質量部を超えると向上度合いがあまり増えない。
【0033】
(4).請求項4に「酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項2及び請求項3記載の油性鍛造用潤滑剤」と記載している。酸化防止剤の効果は、数秒油膜の劣化を遅らせる程度である。しかし、その間に、鍛造が完了すれば、酸化防止効果のあることになる。高温に耐えられる組成と少量塗布の組合せで、予備成形時のワーク初期温度を高められる。その結果、本成形時のワークの温度を高く保てるので、再昇温工程の排除が可能となる。
この成分である酸化防止剤としては、請求項5に述べるように、アミン系、フェノール系、クレゾール系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含むことが出来る。
【0034】
また、前記アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン系、a−ナフチルアミン、フェニル−a−ナフチルアミン、ブチルフェニル−a−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−a−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−a−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−a−ナフチルアミン、オクチルフェニル−a−ナフチルアミン等が挙げられる。
【0035】
前記フェニル系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、高分子量単環フェノリック、多環ターシャリーブチル・フェノール、BHT(Butylated Hydroxy Toluene)、BHA(Butylated Hydroxy Anisole)が挙げられる。
【0036】
前記クレゾール系酸化防止剤としては、例えば、ジターシャリーブチルパラクレゾール、2−6−ジーターシャリーブチル・ジメチルアミノ−p−クレゾールが挙げられる。上述した酸化防止剤のうち、BHTとアルキルジフェニルアミン系の混合物が好ましい。
【0037】
(5).請求項6に「親油性を付与した白色粉体」と記載したのは、白色粉体を配合すると、油分や酸化防止剤が消耗した後でも、焼き付を防止することが望める。しかし、油性潤滑剤に粉体を混合すると沈降し易くなる。「粉体に親油性」を与えることで、沈降を防止できる。この粉体としては、有機粘土、脂肪酸で変性した炭酸カルシュームや軽石が挙げられる。この成分の量を「1〜5質量部」としたのは、少量だと焼付き防止性が低く、多量だと沈降を起こし兼ねないからである。また、多ければ多いほど、作業環境の汚染が増える為である。
【0038】
(6).本発明においては、防錆剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、及びその他の添加剤(例えば、極圧添加剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、着色剤、香料剤)を適宜配合して使用することができる。
【0039】
(7).請求項8に、「請求項2乃至6のいずれかに記載の油性鍛造用潤滑剤を金型にスプレーするための吐出機構と、この吐出機構と電気的に接続され,吐出機構から吐出する油性鍛造用潤滑剤の量を制御する吐出条件制御機構と、金型の温度を制御する温度制御機構を具備することを特徴とする塗布装置」と記載した。本開発品である少量塗布型の潤滑剤組成物を塗布する際は、従来の水溶性潤滑剤の10分の1から20分の1程度の塗布量となる。吐出機構には、霧化させるスプレー部を有し、かつ、少量塗布に適した小径のスプレーノズルを使うとよい。少量塗布を達成することで、サイクルタイムの短縮による生産性の向上、作業環境の悪化の防止や潤滑剤補充頻度の低減も可能となる。潤滑剤の配合で少量塗布を可能とするばかりでなく、塗布方法を改善することで、少量塗布をより確実なものにできる。更に少量塗布の精度を高めるため、金型部分への過剰な塗布を避け、均質な油膜を形成するための塗布方法を次のようにする。
【0040】
(7-1) 吐出機構には、ON,OFFのニードル弁を具備させる。その結果、金型の潤滑が必要な部位にのみ精度よく塗布可能となる。配合による少量塗布に加え、塗布方法の最適化により、空気中への飛散の低減を実現できる。また、塗布速度を速めることで、生産性も向上できる。
【0041】
(7-2) 吐出条件制御機構は、液圧とパイロットエアー圧で塗布状態を調整する機構である。また、塗布が完了次第、直ちにワークを投入できる機構にする。その結果、スプレー時間の短縮とワークを投入するタイミングの短縮により、サイクルタイムを短縮でき、生産効率を更に向上できる。例えば、吐出用ロボット・ティーチィング・プログラムの変更により動きを速めることもできる。
【0042】
(7-3) 金型温度制御機構は、金型温度を熱電対で計測し、金型に埋め込んだカートリッジ・ヒーターで金型温度を制御する機構である。特に予備成形時の型温度を200〜250℃と、従来よりも100℃ほど高めに設定することで、その後のワーク温度を高く保ち、成形荷重を削減でき、再昇温工程を省略できる場合がある。よって、生産効率を高めることが可能になる。
【0043】
(実施例)
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例について説明する。しかし、本発明はこの配合、この油性潤滑剤に限定されるものではなく、絞り加工の用途に使われる油性型潤滑剤にも広く活用できる。
【0044】
(A)製造方法
撹拌機を付帯する加熱可能なステンレス製釜に、高粘度鉱油、シリコーン油、菜種油、有機モリブデン、濡れ性向上剤、酸化防止剤を下記表4に示す質量%で混合した後、40℃に加温し、30分間攪拌した。次に、これらの混合物に溶剤を表4に示す質量%添加し、再度10分間攪拌して、油性潤滑剤を製造した。
【0045】
(B)引火点の測定
JIS−K−2265に沿って、ペンスキーマルテン法で測定した。
(C)粘度測定方法
JIK−2283に沿って40℃の粘度を測定した。
(D)付着量の測定方法
(D−1)準備
試験片としての鉄板(SPCC、100mm×100mm×1mm厚さ)を200℃,30分間オーブンで空焼きし、デシケーターで一晩放冷した後、鉄板の質量を0.1mg単位まで計測した。
【0046】
(D−2)油性潤滑剤の塗布
図1は、付着量を測定するための塗布装置を示す。図中の符番1は付着試験機の台を示す。この台1の一部上には、電源・温度調節器2が設けられている。電源・温度調節器2の近くの台1上には、ヒーター3を内蔵した鉄板架台4が設けられている。鉄板架台4の一端側には鉄板支持金具5が設けられ、この鉄板支持金具5の内側に試験片(鉄板)6が配置されている。前記ヒーター3、鉄板支持金具5には夫々熱伝対7a,7bが接続されている。試験片6には、塗布用スプレーノズル8から潤滑剤9がスプレーされるようになっている。
【0047】
図1の塗布装置の操作は次のとおりである。
まず、塗布装置((株)山口技研製)の電源・温度調節装置2を所定の温度に設定し、ヒーター3で鉄板支持金具5を加熱する。ここで、熱電対7aが設定温度に達したら、鉄板支持金具5に試験片としての鉄板6を置き、熱電対7bを鉄板6に密着させる。この後、鉄板6の温度が所定の温度に達したとき、スプレーノズル8から所定の量の潤滑剤9を鉄板6に塗布する。その後、鉄板6を取り出し、空気中で垂直に一定時間立てて放冷し、鉄板6から垂れ流れる油分を絞り捨てる。
【0048】
(D−3)付着量の測定方法
付着物の乗った鉄板6を所定の温度、所定の時間オーブンに置いた後、取り出して空冷し、デシケーターで一定時間放冷する。その後、付着物の付いた鉄板6の質量を0.1mg単位まで計測し、空試験と試験片の質量変化から付着物量を算出する。
【0049】
(D−4)試験条件
下記表1に示す。
【表1】

【0050】
(E)摩擦力の測定方法:
(E-1)摩擦試験方法
図2(A),(B)は、試験片の摩擦力を計測するための方法を工程順に示す図である。図2の摩擦試験の操作方法は次のとおり。メックインターナショナル製の自動引張試験機(商品名:LubテスターU)の摩擦測定用鉄板(SKD−61製、200mm×200mm×34mm)11は、図2(A)のように熱電対12を内蔵している。市販のヒーターで鉄板11を加熱する。この熱電対の指示が所定に達したなら、摩擦測定用鉄板11を垂直に立てる。前記付着性試験に示す条件で塗布ノズル13から潤滑剤14を塗布する。
【0051】
直ちに、摩擦測定用鉄板11を図2(B)のように試験機架台15上に水平に置く。また、メックインターナショナル製リング(S45C製、内径75mm、外径100mm、高さ50mm)16を中央に乗せる。続いて、そのリング16中に陶芸用溶解炉に溶かしてあるアルミ溶湯(ADC−12、温度670℃)17を90cc注ぐ。その後、40秒間放冷し、固化させる。更に、直ちに固化したアルミニウム(ADC−12)上に8.8kgの鉄製重し18を静かに乗せ、リング16を同装置のギヤーで矢印X方向に引っ張りながら、摩擦力を計測する。
【0052】
(E−2)摩擦力測定条件
塗布条件は表1と同じ。摩擦力測定条件は、下記表2の通り。
【表2】

【0053】
(F)高圧下での摩擦試験:リング圧縮試験
図3は、はリング圧縮試験の概略的な説明図である
(F-1) 試験方法
日本塑性加工学会冷間鍛造分科会・温間鍛造研究班の文献(塑性と加工 Vol-18, No.202 1977-11 )に述べられているリング圧縮試験に準拠した試験方法。
【0054】
(F−2)試験条件
試験条件は下記表3に示すとおりである。
【表3】

【0055】
(G)成分と試験測定結果:
下記表4は、実施例1〜4と比較例1〜3の組成と付着及び摩擦試験の測定結果を示す。
【表4】

【0056】
但し、表4において、
*1 :石油系溶剤:シェルゾールTM(シェル・ケミカルズ・ジャパン製)
*2 :鉱油:ジョモ500SN(ジャパン・エナジー製、パラフィン基油)
*3 :高粘度鉱油:ブライトストック(ジャパン・エナジー製、パラフィン基油)
*4 :エステル基油:Priolube 2046(ユニケマ製)
*5 :シリコーンTN:Release agent TN(旭化成ワッカー製)
*6 :シリコーン1H:Wacker AK-10000 (旭化成ワッカー製)
*7 :菜種油(名糖油脂工業)
*8 :有機モリブデン(MoDTC):アデカ 165(旭電化工業)
*9 :極圧剤:硫化エステル(大日本インキ製)
*10 :油溶性金属石鹸:Infinium M7101(Infinium 製)
*11 :フェノール系酸化防止剤:ラスミットBHT(第一工業製薬)
*12 :アミン系酸化防止剤:HiTEC 569 (アフトン・ケミカル)
*13: ガラマイト 1958: (Southem Cray Products製)
*14 :TMC-1001A 水ガラス系 (イーブンキール製)、20倍の水に希釈した液
*15 : WF:ホワイトルブ: 水ガラス系 (大平化学産業製)、7倍の水に希釈した液
*16 :WFR-3R:本出願人が製造している油性の鋳造用離型剤:(青木科学製)
*17 :濡れ性向上剤、EFKA−3778(ウィルバーエリス製)
(G−1)測定結果−1:付着と摩擦試験:同一塗布量比較
表4中の実施例1,2,3は油性の鍛造用潤滑油、比較例1、2は水溶性の鍛造潤滑剤、比較例3は油性の鋳造用離型剤である。比較例1及び比較例2と同一塗布量で比較した付着量で見ると、実施例1〜3は350℃で9〜15mgレベルに対し、比較例1,2は0レベルと顕著に差が有った。即ち、実施例では厚い油膜が形成されているが、比較例の場合は薄い油膜しか形成されていない。その結果、摩擦試験で示すように、実施例の場合は350℃まで焼付かないが、比較例1は300℃で、比較例2の場合は350℃で焼付が発生している。実施例の油性潤滑剤は付着が多く、厚い油膜が形成され、焼付にくく、水溶性潤滑剤より優れている。
【0057】
(G−2)測定結果−2:付着と摩擦試験:同量の有効成分比較
下記表5は、実施例3、比較例1,2の塗布量と摩擦の試験結果などを示す。
【表5】

【0058】
表5中の実施例3、比較例1、比較例2の組成は、表4と同じである。比較例の場合、鍛造の作業現場では、希釈して使っている。表4の付着量と摩擦力は、希釈された比較例と原液の実施例の比較である。作業現場的な「同一塗布量比較」ではなく、より妥当な比較とするための「同量の有効成分量比較」で潤滑剤の良否を検討した。比較例1の場合は7倍希釈なので「7倍の塗布量」とし、比較例2の場合は20倍希釈なので「20倍の塗布量」とし、実施例の「希釈なしの0.3cc塗布」と比較した。その結果を表5に示す。
【0059】
付着量で見ると、比較例1は3mgレベル、比較例2は4mgレベルであり、実施例3の9mgレベルより遥かに少ない。摩擦力で見ると、比較例1は「焼付発生」、比較例2は6kgfレベルであり、実施例3は4〜5レベルと低かった。同量有効成分比較の結果でも、やはり実施例3の方が付着量及び摩擦力で優れていた。
【0060】
(G−3)測定結果−3:リング圧縮試験−1:油性対水溶性の比較
下記表6は、比較例2,3,4のリング圧縮試験の測定結果を示す。
【表6】

【0061】
図4は、リング圧縮試験機の概略的な説明図を示す。図中の符番21,22は、夫々下ダイセット、上ダイセットを示す。下ダイセット21上にはダイ23が配置され、このダイ23の上に潤滑剤24を介してアルミ試験片25が配置される。上ダイセット22の下面にはパンチ(上側)26が配置され、このパンチ26の下面に潤滑剤24が塗布されている。
【0062】
こうした構成のリング圧縮試験機を使い、高圧下での摩擦を評価した。試験の概要は、上ダイセット22に固定されたパンチ26の下面に潤滑剤24を塗布する。下ダイセット21に固定されたダイ23に潤滑剤24を塗布し、試験片25を乗せる。その後、矢印Aの方向に圧力を掛け、試験片25を変形させる。変形した試験片25の内径縮小率から摩擦係数を読み取った。全て比較例ではあるが、比較例3は実施例の潤滑剤に近い組成の油性離型剤(表4参照)である。無潤滑の場合は、0.4と高い摩擦係数であるが、水溶性潤滑剤の比較例2の場合は0.167と低い。油性の比較例3の場合は0.095と更に低かった。実施例(油性)をこの条件では試験をしてはいないが、油性の比較例3から推定し、油性潤滑剤が有効と推測される。
【0063】
(G−4)測定結果―4:リング圧縮試験−2:実施例と比較例
下記表7は、実施例3、比較例1,2,4のリング圧縮試験の測定結果を示す。
【0064】
上記表3に示すように、(G−3)項の条件より過酷な条件(圧縮率を50から60%へ高め、リングの内径を10から30mmへ)で摩擦係数を検討した。水溶性の比較例(摩擦係数が0.11)と油性の実施例(摩擦係数が0.12)は、ほぼ同等のレベルであった。
【表7】

【0065】
(G−5)測定結果−5:実機評価―A
下記表8は、実施例3,4及び比較例2の測定結果を示す。
【表8】

【0066】
本出願者所有の実機―Aを使って、つぶし曲げ成形(予備成形)時の潤滑性を評価した。なお、表8において、評価条件は、金型温度:250〜280℃、荷重設定値:1600KN、ワーク温度:470〜490℃、素材:A6061合金である。
【0067】
評価に使った本発明に係る塗布装置の概要は、図3(A)〜(C)に示すとおりである。ここで、図3(A)は同塗布装置の概略的な全体図、図3(B)は図3(A)の一構成であるスプレーユニットの平面図、図3(C)は同塗布装置における潤滑剤の流れを説明するための図である。
【0068】
塗布装置は、互に対向する上ダイセット31,下ダイセット32と、これらのダイセット31,32の内側に夫々配置された上金型33及び下金型34を有している。上金型33、下金型34には夫々カートリッジヒーター35a,35bが埋め込まれている。上金型33及び下金型34の近くには、潤滑剤36を金型にスプレーするためのスプレーロボット(吐出機構)37が配置されている。前記カートリッジヒーター35a,35bは昇温ユニット38に電気的に接続され、温度が調整されている。前記上金型33,下金型34に埋め込まれた熱電対39a,39bの夫々は、温度制御ユニット40と電気的に接続されている。
【0069】
図3(B)に示すように、前記スプレーロボット37は、スプレー出口に油性潤滑剤を供給するための流路41とエアーを供給するための流路42が形成されたマニホールド43を備えている。また、マニホールド43には、エアー圧により図中の右方向に押されるニードル弁44を備えている。金型に埋め込まれた熱電対39a,39bに電気的に接続された昇温ユニット38により上金型33及び下金型34の温度が調整されている。そして、所定の温度に上金型33及び下金型34を加温後、スプレーロボット37から潤滑剤36が上金型33及び下金型34に塗布される。その後、ワークが下金型33にセットされ成形を開始する。
【0070】
図3(C)において、符番45は油性潤滑剤タンク、符番46は加圧ユニット、符番47はレギュレーター、符番48は流量計を示す。油性潤滑剤タンク45に収容された油性潤滑剤は、加圧ユニット46によりレギュレーター47、流量計48を経て流路41に送られる。
【0071】
なお、吐出機構は、マニホールド43と、油性潤滑剤やエアーをマニホールド43に形成された流路41,42に夫々供給するためのポンプ等の加圧ユニット46と、流量計48により構成されている。また、吐出条件制御機構は、スプレーユニット37のニードル弁44と、これを駆動する図示しない駆動源により構成されている。更に、温度制御機構は、カートリッジヒーター35a,35bと、熱電対39a,39bと、昇温ユニット38と、温度制御ユニット40により構成されている。
【0072】
このように、本発明に係る塗布装置は、油性鍛造用潤滑剤を上金型33及び下金型34にスプレーするための吐出機構37と、この吐出機構37と電気的に接続され,吐出機構37から吐出する油性鍛造用潤滑剤の量を制御する吐出条件制御機構と、金型の温度を制御する温度制御機構を具備している。
【0073】
つぶし曲げ成形の際の平均面圧は120MPa、最大すべり距離は50mmであった。評価結果を上記表8にまとめる。水溶性の比較例2と同じ荷重を掛けた場合、実施例3での平均ワーク厚さが44.1mmと比較例より1.5mm厚かった。同じ力で、大きく塑性変形するほうが潤滑性能は良い(ワーク厚みが少ない)。しかし、目標ワーク厚さは43〜45mmであり、実施例3の潤滑性は実用範囲内である。実施例3の塗布量は3.2ccと比較例2の約1/20の量であり、実施例3は少量塗布でも成形可能である。また、粉体含有の実施例4の場合でも、比較例2の約1/10の量の塗布量であった。ワーク厚さは44.7mmであったが、目標ワーク厚さは43〜45mmの範囲内であり成型可能である。
【0074】
また、塗布液中の蒸発分を除去した有効成分%から計算で求めた有効成分量は、実施例3で0.73g、比較例で1.21gであり、実施例3は40%ほど付着効率良いと言える。更に、実施例3の特徴として、次のことが観察された。比較例2の場合、1ショット目は2ショット目以降に比べ潤滑性が悪かったが、実施例3の場合は1ショット目から安定した潤滑性が得られた。これにより、生産開始時の1ショット目の不良品(いわゆる捨打ち)を防止できる。即ち、実施例3は生産効率の向上に貢献できる。また、実施例3は固形成分を含まないので、連続的な鍛造品の生産時に装置周りを汚すことがない。
【0075】
一方、比較例2の場合、連続成形すると、固形分がどんどん堆積する。時に生産を中断し、金型や装置周りの清掃が必要となる。加えて、比較例2を使うと、吐出待機中に塗布用スプレーのノズル部分に固形分が固着し、塗布量が不安定となる。その結果、製品の品質が悪化してくる。対策として、時折、生産を中断しノズルを清掃しているのが現状である。しかし、実施例3の場合、固形物を含まないので、製品の品質のバラツキがなく、かつ、生産を中断することもない。
【0076】
即ち、比較例2に比べ、油性の実施例3の潤滑性は同等または若干劣るが、許容できる範囲である。一方、油性の実施例3の顕著な特徴は、使用量の大幅な低減と比較例の固形分による問題点を解消できる点である。
【0077】
(G−6)測定結果−6:実機評価−B
下記表9は、実施例2,3及び比較例1,2の測定結果を示す。
【表9】

【0078】
評価条件は、金型温度:200℃、ワーク温度:400℃、素材:アルミ2000番系である。
【0079】
(G−5)項の実機―Aによる評価に加え、本開発品の効果を他の装置でも確認するため、本出願者所有の実機―Bによる評価も実施した。平均面圧350MPa、最大すべり距離:40mmの条件であった。表9に、厚み「20.2mm」の鍛造製品を生産するための塗布条件と評価結果を示す。実施例、比較例共にカジリや凝着がなく、成形が出来た。しかしながら、比較例と比べた実施例には、長短がある。長所としては、実施例は少量塗布のため冷却性が殆んど無いので成形前後のワーク温度低下度が少ない。その結果、予備成形から本成形へ移る際に再昇温工程を挟む必要が無く、1回の加温で連続成形が可能となる。
【0080】
即ち、実施例は、連続成形に適しており、大きな特徴である。短所としては、成形に必要な荷重が高いことである。比較例2、比較例1、実施例2、実施例3の順で成形荷重が大きくなり、比較例2が最も低く、良好である。実施例の場合、「20.2mm」の厚みとするため、ダイセット間の距離を縮めることで、対応した。表9に見られるように、塗布した有効成分量と必要な荷重に関係があり、実施例3のように有効成分量が少ないと(油膜が厚さ薄い)と、必要な荷重は高くなる模様である。逆に言えば、塗布した有効成分の最も多い比較例2が最も少ない荷重で20.2mmの製品を成形したと推定する。
【0081】
即ち、油性の実施例は成形能力が有りカジリや凝着を起こさず、連続成形に適しているが、高い荷重が必要である。しかしながら、油性の潤滑剤には、「再昇温工程の削減」による生産効率の向上、及び、G−5項に述べるような長所の「装置汚れなし」、「スプレーノズル詰りなし」等があり、生産効率の向上が期待できる。
【0082】
(G−7)測定結果−7:まとめ
(G-1)から(G-6)までに述べた試験結果のまとめとして、比較例を基準にした油性潤滑剤である実施例の長短を下に述べる。
1.付着効率が良い。水が配合されていないのでライデンフロストが起こりにくく、付着効率が高いと考える。
2.同じ摩擦・潤滑性を与えるのに必要な塗布量は1/10以下である。これは付着効率が高いだけでなく、金属の潤滑に優れた成分を含んでいるからである。
【0083】
3.実機の評価でも同等の潤滑性を与えるための塗布量は少なかった。その結果、液残り(潤滑剤が金型上から揮発せずに液体として存在すること)に起因する欠肉不具合の低減や、装置及びノズル周りの清掃頻度の低減が期待できる。
【0084】
4.塗布量が少ないので金型を冷却せず、予備成形中のワークの温度低下が少ない。そのため、適用している成形工程によっては、予備成形後の再昇温工程を省ける場合がある。即ち、連続成形に向いている。
【0085】
5.高圧下でのリング圧縮試験では、ほぼ同等の潤滑性を示している。一方、実機では、若干成形荷重が高かった。塗布量が少ないこともこの一因と推測する。
【0086】
6.装置・金型での堆積は起こりにくい。これは、固形分を含まないためである。従って、装置及び装置周りの清掃がないので、生産効率が良い。
【0087】
7.固形分を含まない潤滑剤であるので塗布量は均一であり、かつ、スプレーノズルを詰まらせない。その結果、次の効果をもたらすものと期待できる。水溶性潤滑剤ではノズル詰りによる塗布量低下に起因する潤滑膜切れ、凝着やワークの金型へのハリツキが起こっていた。また、水溶性潤滑剤では液遮断部での固形物の堆積のため液を遮断できない状態がしばしば発生していた。そのため、多量の潤滑油塗布による欠肉欠陥も発生していた。油性潤滑油は、固形物を含まないので、このような問題が起こらず、生産効率を向上できる。一方、少量の親油性を付与した白色粉体を混合した場合でも、成形性は確保できることが確認された。少量であれば作業環境の汚染は従来の潤滑剤より少ないと考えられる。また、親油性を付与した粉体であるので分散性が良く、液遮断部位に堆積することも少ないと推測される。
【0088】
8.少量塗布であるので、サイクルタイムの短縮が可能である。
【0089】
波及効果ではあるが、水を含まないので金型を冷却することがなく、金型での熱疲労が発生せず、金型寿命が大幅に伸びることが期待される。
【0090】
9.高温潤滑性があるので、金型温度を高められる。その結果、成形工程数の多い場合、次の工程での成形荷重を下げられるので、第2工程以降の金型の寿命が延びる。
【0091】
10.水を含まない潤滑剤であるので廃水処理が不要である。
【0092】
11. 塗布方法の改善により、均質な塗布、少量の塗布が効果を発揮し、上記の1−10項に述べる成果と相乗効果を発揮した。加えて、「実機―B評価」の場合は、本成形に入る前の再昇温工程を削除できた。
【0093】
12.本開発品の更なる長所として、潤滑剤補充頻度の低減も可能となり、また、固形物を含まないためタンクの攪拌も不要となった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の油性潤滑剤は、非鉄金属あるいは鉄を鍛造する際の塗布に適し、金型表面の潤滑にも適している。また、油性型潤滑剤を使っている絞り加工にも適している。
【0095】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更には、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は付着量を測定するための塗布装置を工程順に示す説明である。
【図2】図2は試験片の摩擦力を計測するための方法を工程順に示す説明である。
【図3】図3は本発明に係る塗布装置の概略的な説明図である
【図4】図4はリング圧縮試験の概略的な説明図である。
【符号の説明】
【0097】
31,32…ダイセット、33…上金型、34…下金型、35a,35b…カートリッジヒーター、39a,39b…熱電対、37…スプレーロボット、38…昇温ユニット、40…温度制御ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点が70℃〜170℃の範囲であるとともに、40℃における動粘度が4〜40mm/sであり、かつ水や乳化剤を含有していないことを特徴とする油性鍛造用潤滑剤。
【請求項2】
(a)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜170℃の範囲の溶剤を60〜90質量部、(b)40℃における動粘度が50〜100mm/s未満の鉱油及び/又は合成油を1〜5質量部、(c)40℃における動粘度が200mm/s以上のエステル基油を1〜5質量部、(d)40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油を15質量部以下、(e)潤滑性能を有する添加剤を5.1〜10質量部を含むことを特徴とする請求項1記載の油性鍛造用潤滑剤。
【請求項3】
濡れ性向上剤を更に0.1〜3質量部を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の油性鍛造用潤滑剤。
【請求項4】
酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の油性鍛造用潤滑剤。
【請求項5】
酸化防止剤として、アミン系、フェノール系、クレゾール系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を0.2〜2質量部含むことを特徴とする請求項4記載の油性鍛造用潤滑剤。
【請求項6】
親油性を付与した白色粉体を1〜5質量部含むことを特徴とする請求項2乃至5いずれか記載の油性鍛造用潤滑剤。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれかに記載の油性鍛造用潤滑剤を用いて鍛造を行うことを特徴とする鍛造方法。
【請求項8】
請求項2乃至7のいずれかに記載の油性鍛造用潤滑剤を金型にスプレーするための吐出機構と、この吐出機構と電気的に接続され,吐出機構から吐出する油性鍛造用潤滑剤の量を制御する吐出条件制御機構と、金型の温度を制御する温度制御機構を具備することを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248037(P2008−248037A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89741(P2007−89741)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(304028645)株式会社青木科学研究所 (10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】