説明

鍛造金型及び鍛造方法

【課題】
粉末冶金方で造られたビレット(40)を用いて発電用ガスタービンエンジンのタービンディスクなどの大型鍛造品の製造に適した鍛造金型(10)及び方法を提供する。
【解決手段】
鍛造金型(10)は、バックプレート(12)と、バックプレート(12)の表面の領域(16)の回りに放射状のパターンで配置されたセグメント(14)とを含む。各セグメント(14)は、バックプレート(12)に面した背面(20)と、バックプレート(12)と反対側に境界面(18)を有しており、境界面(18)は鍛造時にビレット(40)と係合する。セグメント(14)は、バックプレート(12)に対して半径方向に移動できるようにバックプレート(12)の表面と物理的に連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末からの大型鍛造品の製造に用いられるものを始めとする鍛造工具及び鍛造法に関する。具体的には、本発明は、粉末冶金ビレットの鍛造中に半径方向の成長を促進することによって鍛造中の亀裂発生を低減する放射状セグメントを備えた鍛造金型に関する。
【背景技術】
【0002】

発電タービン用のローター部品は、通例、溶融及び加工処理が比較的容易で化学的及びミクロ組織上の偏析の少ない低合金含量(つまり主要元素が3又は4種類)の鉄基及びニッケル基合金から形成される。最近、本願出願人のH及びFBクラスのガスタービンのような電力産業で用いられる最新式の発電用ガスタービンエンジンのホイール、スペーサーその他のローター部品は、718合金及び706合金を始めとするγ″析出強化型ニッケル基超合金のような高強度合金から造られている。通例、これらの部品の加工処理では、トリプルメルト法(真空誘導溶解(VIM)/エレクトロスラグ再溶解(ESR)/真空アーク再溶解(VAR))で非常に大きい直径(例えば、約90cm以下)のインゴットを造り、次にこれをビレット化して鍛造する。一方、航空機ガスタービンエンジン用のローター部品は粉末冶金(PM)法で造られることが多く、粉末冶金法は航空機ガスタービンエンジンの性能要件を満たすバランスのとれたクリープ、引張及び疲労亀裂成長特性を与えることが知られている。粉末金属部品は、通例、押出圧密化のように金属粉末をある形状に圧密化し、圧密化材料を所望の外形に等温又は熱間金型鍛造することによって製造される。
【0003】
発電用ガスタービンエンジンのローター部品に適した大型鍛造品の製造に粉末冶金法を用いると、さらにニアネットシェイプの鍛造品を製造でき、材料の損失を低減できる可能性がある。718合金以降の複雑な合金が好ましくなり、鍛造品の寸法の大型化に伴って、化学的及びミクロ組織偏析の問題、大結晶粒インゴットを最終鍛造品へと変換するのに付随する大きな材料損失、並びに大型の高強度鍛造品の加工処理のための限られた生産能力のために、原価の高いPM合金の方がコスト効率に優れる可能性がある。しかし、粉末冶金ビレットを鍛造する際の問題として、金型−ビレット境界面で発生してビレットの半径方向の自由な成長を妨げて鍛造品に亀裂を生じる大きな摩擦力がある。こうした亀裂は、接線方向応力によって促進されると考えられるが、アプセット時の鍛造品のポアソン比誘導ラッパ状部(Poisson-induced bugle)で規則的な間隔で半径方向に観察される。この問題に対して提案された、鍛造金型温度、アプセット量及び鍛造歪み速度の変更を始めとする解決策は、限られた成功しか収めていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、発電用ガスタービンエンジンのタービンディスクその他の大型回転部品を始めとする鍛造品の製造に適した鍛造金型及び鍛造方法を提供する。本発明は、粉末冶金法で造られたビレットからの大型鍛造品の製造に特に適している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、鍛造金型は、第1の表面を有するバックプレートと、該バックプレートの第1の表面の所定の領域の周囲に放射状のパターンで配置された複数のセグメントとを含む。セグメントの各々はバックプレートに面した背面を有しているとともに、バックプレートとは反対側に境界面を画成しており、境界面はビレットの鍛造時にビレットと係合するように構成される。セグメントは、バックプレートの上記領域に対してセグメントが半径方向に移動できるようにバックプレートの第1の表面と物理的に連結される。
【0006】
本発明の第2の態様では、鍛造方法は、バックプレートの第1の表面の所定の領域の周囲に複数のセグメントを放射状のパターンで配置し、バックプレートの上記領域に対してセグメントが半径方向に移動できるようにセグメントを第1の表面と物理的に連結することによって鍛造金型を集成する。セグメントはバックプレートに対して、各セグメントがバックプレートに面した背面を有しているとともに、バックプレートと反対側に境界面を画成するように、配置・連結され、境界面はビレットの鍛造時にビレットと係合するように構成される。次いで、ビレットをセグメントの境界面と係合させて加工することによって上記鍛造金型でビレットを鍛造する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鍛造金型及び鍛造方法の顕著な利点として、低減した亀裂発生率で粉末冶金ビレットを鍛造して大型ディスクその他の大型製品を製造できること、かかる製品で一段と均一な性質を達成できることが挙げられる。亀裂発生率の低減によってその分廃棄物を低減することができ、特性のバラツキの低減によって設計許容特性が高まり、製品設計が効率化される。本発明の鍛造金型及鍛造法では、従前鍛造には不適当であるか或いは鍛造が困難であるとされていた合金から大型製品を鍛造することができる。
【0008】
本発明のその他の目的及び利点は以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は鍛造で造られる部品の製造に関し、具体例は発電用ガスタービンエンジンのローター部品を製造するための大型ビレットの鍛造であるが、その他の用途も予想でき本発明の技術的範囲に属する。好ましい実施形態では、ビレットは合金粉末の圧密化(例えば、熱間等方圧加圧(HIP)又は押出圧密化)のような粉末冶金法で形成される。低合金鉄基及びニッケル基合金、並びに718合金及び706合金などのγ″析出強化型ニッケル基超合金のような高強度合金を始めとする各種合金をこの目的に使用できる。
【0010】
図1〜図4に、バックプレート12と、バックプレート12の中央領域16の回りに放射状パターンで配置されたセグメント14とを含む個々の部品のアセンブリからなる鍛造金型10を示す。セグメント14及び中央領域16のそれぞれの表面20及び22が共同して、金型10で鍛造すべき材料を変形させる境界面18を画成している。図3に示すように、中央領域16の表面22は周囲の各セグメント14の表面20と実質的に同一平面にある。ただし、表面20と表面22は同一平面になくてもよい。図1に示すセグメント14は、図1では大きさが本質的に同一で本質的に同一の楔形をしているが、異なる大きさ及び形状のものも本発明の技術的範囲に属する。図に示すように、各セグメント14の半径方向に最も内側の部分は中央領域16と当接しており、各セグメント14の半径方向に最も外側の部分はバックプレート12の半径方向に最も外側の端部と一致している。図2から明らかな通り、セグメント14の各隣接対の隣接する放射状縁部間には放射状間隙32が存在する。
【0011】
図2及び図3から明らかな通り、セグメント14はバックプレート12と連結しているが、バックプレート12及びセグメント14が相補的な案内構造を有する結果としてバックプレート12に対して半径方向に移動できるように構成されている。図に示す実施形態では、セグメント14に面したバックプレート12の表面24は、中央領域16とバックプレート12の外周の間に延在する半径方向に向いたレール又はスプライン26を有する。スプライン26は、バックプレート12の表面24に一体に形成された隆起表面構造であってもよいし、或いは別途製造してバックプレート12上に設置したものでもよい。図2から明らかな通り、スプライン26は、各セグメント14の背面30に画成された溝28に各々収容される大きさ及び形状とされる。スプライン26及び溝28は、セグメント14がバックプレート12からその表面24に垂直な方向に脱離しないようにするが、バックプレート12に対してセグメント14が半径方向に自由に移動できるようにする相補的形状のダブテール断面を有するものとして示してあり、スプライン26はセグメント14に対する半径方向ガイドとして機能する。スプライン26及び溝28についてダブテール断面のものを図示したが、その他のインターロック断面を使用することもでき、本発明の技術的範囲に属する。
【0012】
バックプレート12は、好ましくは、バックプレート12の中央領域16の周囲の同心バンド34の形態の個別部品から構成される。バンド34は、最も外側のバンド34内の穴から1以上の内側バンド34の整列穴を通してバックプレート12の中央領域16に挿入される放射状ピン36によって互いに固定される。各バンド34は環状又はリング形状を有するものとして図示したが、その他の形状も本発明の技術的範囲に属する。この構成では、各バンド34は好ましくは各スプライン26の一部を有するように製造或いはその他の方法で配設され、バンド34同士を円周方向に適切に整列させると、各バンド34のスプライン部分から各々構成される個々の整列スプライン26が得られる。
【0013】
上記の構成によって、セグメント14は、金型10を用いた鍛造プロセスで変形させる材料の半径方向の動きに一致して順応するように(領域16に対して)半径方向に自由に移動する。換言すれば、ビレット(40,図4)のような材料を金型10で変形させる鍛造サイクルに際して、変形材料の半径方向外側への流れをセグメント12の半径方向外側への同時移動によって自動的に補助し、その結果鍛造時のビレット材料の半径方向の成長を、摩擦で阻害せずに、促進することによって、鍛造品の亀裂発生率を低減することができる。鍛造作業は通例多段階(部分的アプセット/段階)で実施され、一連の各段階で材料をさらに変形させてその幅又は直径を増大せしめるので、鍛造品の大きさの増大に対応するため必要に応じてバックプレート12の同心バンド34を追加し、取り外してもよい。バンド34の数の変更によって達成されるバックプレート12の直径の変更に適合させるため、複数の組のセグメント14を用いることができる。
【0014】
以上から明らかな通り、鍛造金型10は特定のタイプの鍛造ラムでの据え付けに限定されるものではなく、広範な鍛造設備での据え付けに全般的に適している。使用に際しては、まず、鍛造すべき材料に適した数及び大きさのバックプレート12及びセグメント14に望ましい数のバンド34を含むように鍛造金型10を集成する。当業者には明らかであろうが、金型10とその部品に必要な寸法及び物理的・機械的性質も、鍛造すべき材料に依存する。一般に、バックプレート12及びセグメント14に適した材料としては、向上した耐久性の点で従来の工具鋼及びニッケル合金が挙げられるが、その他の材料も可能である。ニッケル基合金を鍛造してタービンディスク鍛造品を製造する場合、工具鋼及びニッケル合金はいずれもバックプレート12及びセグメント14用の材料として適している。
【0015】
タービンディスクの鍛造に適したビレットは様々な公知の方法で製造できる。ビレット40を粉末冶金法で製造する本発明の特定の実施形態では、粉末材料は、その化学組成が所望の合金と一致するメルトから製造できる。この工程は通例VIM法で実施されるが、ESR又はVAR法を利用して実施することもできる。合金を、溶融状態でかつ化学的仕様の範囲内で、アトマイゼーションその他の略球状粉体粒子の製造に適した方法によって、粉末に変換する。粉末を、圧密化後のビレットの寸法要件を満たす大きさの軟鋼缶のような缶に入れて密閉する。しかる後、缶とその内容物を、緻密な圧密化ビレット40の生成に充分な温度、時間及び圧力で圧密化する。圧密化は熱間等方圧加圧(HIP)、押出その他の適切な圧密化法で実施できる。
【0016】
鍛造前に、境界面18とビレット40との摺動を促進するため、金型10の境界面18を、好ましくは、当技術分野で公知のガラススラリー(例えば二硫化モリブデン(MoS)含有スラリー)のような高温潤滑剤で潤滑処理する。バックプレート12に対するセグメント14の移動を円滑にするため、同一又は異なる潤滑剤をスプライン26と溝28の間に塗布してもよい。ビレット40を次いで本発明の金型10を用いて公知の方法、例えば大型産業用タービンのディスク鍛造品の製造に現在利用されている方法で鍛造すればよい。ただし、各鍛造段階でのセグメント14の半径方向の移動を活用できるように修正し、またバックプレート12の同心バンド34で可能となる金型10の寸法に合わせて調節してもよい。一般に、鍛造作業は、好ましくは、最終的な鍛造金型キャビティーが完全に充填され、破断を起こさず、しかも材料に均一な望ましい結晶粒度を生成又は保持する温度及び荷重条件下で実施される。このため、鍛造は通例、高い幾何学的歪みの蓄積を通して鍛造金型キャビティーを充填できるようにするため超塑性成形条件下で実施される。
【0017】
以上、特定の加工処理パラメーター及び組成によって本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲はそれに限定されない。当業者であれば、金型10の構成を変更し、金型10を様々なプロセス及び様々な合金で造られたビレットの鍛造に使用し、他の加工処理工程で置換し、追加の加工処理工程の導入するなど、様々な修正を施すことができよう。従って、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって限定される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る鍛造金型の概略平面図。
【図2】図1の矢視2−2概略図。
【図3】図1の矢視3−3概略断面図。
【図4】図2に対応する概略図であって、ビレットでの鍛造作業を開始する前の図1〜3の鍛造金型を示す。
【符号の説明】
【0019】
10 金型
12 バックプレート
14 セグメント
16 領域
18 表面
20 表面
22 表面
24 表面
26 スプライン
28 溝
30 背面
32 間隙
34 バンド
36 ピン
40 ビレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造金型であって、
第1の表面を有するバックプレートと、
バックプレートの第1の表面の所定の領域の周囲に放射状のパターンで配置された複数のセグメントであって、該セグメントの各々がバックプレートに面した背面を有しているとともに、当該鍛造金型によるビレットの鍛造時にビレットと係合する境界面をバックプレートとは反対側に画成する複数のセグメントと、
バックプレートの上記領域に対してセグメントが半径方向に移動できるように上記セグメントをバックプレートの第1の表面と物理的に連結する手段と
を含んでなる、鍛造金型。
【請求項2】
前記連結手段が、各セグメントに対して、バックプレートの第1の表面に設けられた第1の放射状案内構造と、前記セグメントの背面に設けられた相補的な第2の放射状案内構造とを含む、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項3】
第1の放射状案内構造の各々がバックプレートの第1の表面の隆起表面構造であり、第2の放射状案内構造の各々がセグメントの背面の溝であり、セグメントがバックプレート上で半径方向に移動できてしかもセグメントがバックプレートからその第1の表面に垂直な方向に脱離しないように上記溝が上記隆起表面構造と係合する、請求項2記載の鍛造金型。
【請求項4】
前記セグメントがその周囲に配置された前記領域がバックプレートの中央に位置する、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項5】
前記複数のセグメントがすべて略等しい大きさ及び形状である、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項6】
前記セグメントが楔形であって、バックプレートの前記領域から半径方向に離れるほどその幅が増す、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項7】
前記セグメントの各々がその両側に放射状縁部を有しており、各セグメントの放射状縁部がすぐ隣のセグメントの放射状縁部に隣接するようにバックプレート上に配置されている、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項8】
すぐ隣のセグメントの隣接する放射状縁部との間に放射状間隙が存在する、請求項7記載の鍛造金型。
【請求項9】
前記バックプレートの前記領域が、セグメントの境界面の直接隣接する部分と略同一平面をなす表面を画成する、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項10】
前記バックプレートが、バックプレートの前記領域と該領域の周囲の複数の同心部材とを含むアセンブリであって、同心部材がバックプレートの第1の表面を画成する、請求項1記載の鍛造金型。
【請求項11】
前記複数の同心部材が互いに着脱自在に連結している、請求項10記載の鍛造金型。
【請求項12】
鍛造方法であって、
バックプレートの第1の表面の所定の領域の周囲に、各々バックプレートに面した背面を有しているとともに鍛造金型によるビレットの鍛造時にビレットと係合する境界面をバックプレートとは反対側に画成する複数のセグメントを放射状のパターンで配置し、バックプレートの上記領域に対してセグメントが半径方向に移動できるようにセグメントを第1の表面と物理的に連結することによって鍛造金型を集成する工程と、
ビレットをセグメントの境界面と係合させて加工することによって上記鍛造金型でビレットを鍛造する工程と
を含んでなる方法。
【請求項13】
前記セグメントがバックプレート上で半径方向に移動できてしかもセグメントがバックプレートからその第1の表面に垂直な方向に脱離しないように、前記セグメントがバックプレートと連結される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記集成工程がさらに前記領域の周囲に複数の部材を同心に配置することによってバックプレートを集成することを含んでおり、同心部材がバックプレートの第1の表面を画成する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記複数の同心部材を互いに着脱自在に連結することによってバックプレートを集成する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記鍛造工程が多段階を含んでいて、前記同心部材の少なくとも1つを多段階の一連の段階の間にバックプレートと連結又は脱離させる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記ビレットが粉末冶金法で形成されたものである、請求項12記載の方法。
【請求項18】
前記ビレットが合金粉末の圧密化によって形成されたものである、請求項12記載の方法。
【請求項19】
前記合金がニッケル基超合金である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記鍛造工程でガスタービンエンジンのタービンディスクを製造する、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−66661(P2009−66661A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234141(P2008−234141)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】