説明

長尺ガラスフィルムの処理方法および処理装置

【課題】 樹脂フィルムに比べて伸び難く且つ割れやすい長尺ガラスフィルムに対して熱負荷の掛かる表面処理を連続的に施す方法を提供する。
【解決手段】 巻出ロール210から連続的に引き出された長尺ガラスフィルムGを搬送経路に沿って搬送しながら順に加熱処理、表面処理および冷却処理を施す長尺ガラスフィルムGの処理方法であって、前記表面処理では長尺ガラスフィルムGの一方の面を熱媒で加熱されたキャンロール233の外周面上に接触させながら他方の面にスパッタリング等の熱負荷の掛かる処理を施し、前記搬送経路における前記表面処理と前記加熱処理との間および/または前記冷却処理の後において例えばアキュムレータロールを用いて長尺ガラスフィルムGの伸縮を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺ガラスフィルムに対して連続的に成膜処理やアニール処理などの表面処理を施す方法および装置に関し、特に、ロール状に巻かれた長尺ガラスフィルムを連続的に引き出して減圧雰囲気下において成膜処理を施した後、再びロール状に巻き取るかあるいは薄板状に切断する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の電子機器では、指先やペン先で操作が可能なタッチパネルが採用されている。このタッチパネルには抵抗型と静電容量型があり、どちらも基板フィルム上にITO(酸化インジウム錫)等の透明導電膜からなるパターニングされた配線が設けられており、これにより位置情報を検出する仕組みになっている。
【0003】
このような透明導電膜の配線パターンの形成には、一般にロールトゥロールプロセスが用いられている。ロールトゥロールプロセスは、ロール状に巻かれたPETフィルムのような透明性の高い樹脂フィルムをロールから連続的に引き出して搬送しながら、該引き出された樹脂フィルムの片面にスパッタリング等の乾式めっき法で透明導電膜を成膜し、再びロールに巻き取るものであり、成膜した透明導電膜は別工程においてエッチングでパターニングすることにより配線が形成される。
【0004】
上記のようなロールトゥロールで搬送される樹脂フィルム上に、乾式めっき法によって成膜処理を施す技術は古くから知られている。例えば特許文献1には、クーリングローラーの外周面上にフィルムを走行させてスパッタリング成膜を行う方法が開示されている。そして、この方法により、フィルムの変質や変形を生ずることなく成膜できると記載されている。
【0005】
ところで、タッチパネル用の基板フィルム上に成膜される透明導電膜は、抵抗値が低ければ低いほど同じ導電性を得るための膜厚を薄くできるため、成膜時間を短縮化することができる上、高価な透明導電膜用の材料の使用量を削減することができる。さらに、膜厚を薄くすることにより可視波長域の透明性を高めることができる。一般的に、透明導電膜の抵抗値を低減させるためには、成膜温度を高めたり成膜後にアニール処理を施したりして透明導電膜を結晶化させることが知られている。
【0006】
しかしながら、PETフィルムのような透明性の高い樹脂フィルムでは、温度150℃の雰囲気下では30分ほどがアニール処理の限界であり、これより高い熱負荷を与えると樹脂フィルムが変形してしまう。このように、樹脂フィルムは耐熱性の面から適用範囲に制限があるため、樹脂フィルムに代わる温度150℃を超えた条件で成膜処理やアニール処理が可能な透明性の高いフィルムが求められていた。
【0007】
このような状況の下、近年、特許文献2に記載のような、オーバーフローダウンドロー法による厚み300μm以下のガラスフィルムが開発された。そして、厚さ200μm以下でロール状に巻かれており且つ樹脂フィルムのように自在に曲げることが可能なガラスフィルムが市場に紹介されている。このようなガラスフィルムであれば、数百℃の成膜処理やアニール処理が可能となる。
【0008】
また、ロール状に巻かれた長尺ガラスフィルムを引き出してスパッタリング成膜を行う技術が特許文献3、4に記載されている。具体的には、特許文献3には巻出ロールと巻取ロールの間でフローティング状態にあるガラスフィルムに成膜する技術が開示されており、特許文献4には巻出ロールと巻取ロールの間に位置する加熱ロールの外周面上に接触させたガラスフィルムにスパッタリング法で成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−247073号公報
【特許文献2】特開2010−215498号公報
【特許文献3】特開平1−500990号公報
【特許文献4】特開2007−119322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
薄いガラスフィルムは、樹脂フィルムと比較するとほとんど伸びることがなく容易に割れるため、樹脂フィルムと同じようにロールトゥロールで搬送しながら処理する場合は、搬送速度や温度管理等を厳密に調整する必要がある。しかしながら、このように厳密に調整を行っても依然として割れることが多く、割れの少ない長尺ガラスフィルムの処理方法や処理装置が望まれていた。
【0011】
本発明はこのような問題点に着目してなされたものであり、その課題とするところは、樹脂フィルムと比較して伸び難く割れやすい長尺ガラスフィルムに対し、ロール状に巻かれた状態から連続的に引き出して割ることなくその表面に熱負荷の掛かる処理を行うことである。ここで熱負荷の掛かる処理とは、長尺ガラスフィルムが数百℃に加熱された状態で行われる処理のことであり、例えば長尺ガラスフィルムに対して成膜装置(ウェブコーター)を用いて乾式めっき法によって成膜する処理やアニール処理がこれに該当する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者はロールトゥロールで搬送されるガラスフィルムをキャンロールの外周面に接触させながら当該キャンロールの周囲に設置した成膜手段により連続して成膜を行う方法に関して鋭意研究を続けた結果、キャンロールの少なくとも上流側あるいは下流側に温度変化に起因するガラスフィルムの伸縮を吸収するいわゆるアキュムレータ機構を設けることによりガラスフィルムの割れを著しく抑制できること見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の長尺ガラスフィルムの処理方法は、ロールから連続的に引き出された長尺ガラスフィルムを搬送経路に沿って搬送しながら順に加熱処理、表面処理および冷却処理を施す長尺ガラスフィルムの処理方法であって、前記表面処理では長尺ガラスフィルムの一方の面を熱媒で加熱されたキャンロールの外周面上に接触させながら他方の面に熱負荷の掛かる処理を施し、前記搬送経路における前記表面処理と前記加熱処理との間および/または前記冷却処理の後において長尺ガラスフィルムの伸縮を調整することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の長尺ガラスフィルムの処理装置は、長尺ガラスフィルムをロールから引き出して搬送経路に沿って搬送する搬送手段と、該引き出された長尺ガラスフィルムを加熱する加熱手段と、該加熱された長尺ガラスフィルムを接触させる、熱媒で加熱された外周面を備えたキャンロールと、該外周面に接触している長尺ガラスフィルムに表面処理を施すべく該外周面に対向して設けられた表面処理手段と、該表面処理された長尺ガラスフィルムを冷却する冷却手段と、長尺ガラスフィルムの伸縮を調整すべく該搬送経路における該加熱手段と該キャンロールとの間および/または該冷却手段の下流側に設けられたアキュムレータ手段とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂フィルムに比べて伸び難く且つ割れやすい長尺ガラスフィルムに対して、該長尺ガラスフィルムを割ることなく成膜処理やアニール処理などの熱負荷の掛かる表面処理を連続的に施すことが可能となる。特に、本発明に係る処理方法や処理装置を乾式めっき法による成膜処理に応用する場合は、ロール状に巻かれた長尺ガラスフィルムを連続的に引き出してキャンロールの外周面上でスパッタリング等の成膜手段により連続的に成膜することが可能となる。
【0016】
本発明の処理方法や処理装置による成膜処理は、裁断されたガラスフィルムに対して成膜処理を施す枚葉式よりもはるかに生産性が高く、且つ安定的に成膜することができる。さらに、本発明の処理方法や処理装置による成膜処理で成膜された長尺ガラスフィルム上のタッチパネル用透明導電膜は、樹脂フィルム上に成膜したものに比べて可視短波長域の透明度が高く、且つ低抵抗となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置の一具体例を示す平面図である。
【図2】本発明に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置の他の具体例を示す平面図である。
【図3】本発明に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置の更に他の具体例を示す平面図である。
【図4】タッチパネルの膜機構を示す断面図である。
【図5】比較例に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、連続的に搬送される長尺ガラスフィルムに対してキャンロールの外周面上に接触させながら成膜処理やアニール処理などの熱負荷の掛かる処理を施すに際して、当該熱負荷の掛かる処理を施す工程の少なくとも上流側あるいは下流側において、温度変化に起因するガラスフィルムの伸縮を調整することを特徴とするものである。これにより、長尺ガラスフィルムの割れを抑制することができる。
【0019】
本発明が対象とする長尺ガラスフィルムは、熱膨張係数が4×10−6(/K)程度であり、PETフィルムより一桁小さいため、PETフィルムに比べて熱による伸縮の程度が小さい。しかしながら、例えば長尺ガラスフィルムに成膜を行うプロセスでは、温度変化による長尺ガラスフィルムの長さ方向の伸縮を搬送系のモータ制御のみで吸収することは難しい。その理由は、ガラスフィルムは伸ばすことがほとんどできないため、搬送系のモータ制御において生じ得る搬送誤差の影響を受けて容易に割れるおそれがあるからである。
【0020】
これに対してPETフィルムであれば、搬送系のモータ制御での搬送誤差をPETフィルム自体の伸びで緩和することができる。さらに、PETフィルムの表面には表面の滑りをよくするフィラー粒子が存在しているため、これによる若干の滑りによっても搬送系のモータ制御での搬送誤差を緩和することができる。しかし、ガラスフィルムは、その表面が非常に平滑である上、フィラー粒子が存在していないため、搬送ロール等の外周面上で滑ることはほとんどない。
【0021】
このように、搬送系のモータ制御での搬送誤差により長尺ガラスフィルムに無理な引っ張りが発生すると、長尺ガラスフィルムは簡単に割れてしまうことがある。そこで、本発明においては、長尺ガラスフィルムの処理のうち特に温度変化が大きい表面処理の上流側や下流側に長尺ガラスフィルムの伸縮を吸収するいわゆるアキュムレータを配置している。これにより、温度変化に起因する長尺ガラスフィルムの伸縮や搬送系のモータ制御で生じ得る搬送誤差を吸収して、無理な引っ張りが長尺ガラスフィルムに掛からないようにすることができる。
【0022】
ガラスフィルムは無理な引っ張りやショックによって簡単に割れてしまう扱い難い基板であるが、本発明によって可視短波長領域で高い透明度を有し且つ高温処理(例えば、成膜処理やアニール処理)に耐えるというガラスフィルムの極めて優れた利点を引き出すことが可能となる。以下、具体的な長尺ガラスフィルムの成膜装置を採り上げて本発明に係る長尺ガラスフィルムの処理方法の実施態様について詳細に説明する。
【0023】
(1)長尺ガラスフィルムの成膜装置(基本型)
まず、本発明に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置の一具体例について図1を参照しながら説明する。図1に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置は、略直方体形状の減圧容器内に納められている。この減圧容器は、到達圧力10−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整を行うため、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置を有している。減圧容器は、したがってこれらの圧力に耐えることができる程度の強度を有していればよい。
【0024】
減圧容器内は、隔壁によって巻出ゾーン200、ヒーターゾーン201、上流側アキュムレータゾーン202、表面改質ゾーン203、成膜ゾーン204、冷却ゾーン205、下流側アキュムレータゾーン206、および巻取ゾーン207に仕切られている。成膜装置は搬送手段を有しており、これによりロール状に巻かれた長尺ガラスフィルムGを引き出して上記各ゾーンを経由する所定の搬送経路に沿って長尺ガラスフィルムGを搬送している。
【0025】
具体的には、この搬送手段は、巻出ロール210、フリーロール212、214、215、駆動ロール216、217、フリーロール218、226、227、前フィードロール232、キャンロール233、後フィードロール234、フリーロール244、駆動ロール247、フリーロール251、252、および巻取ロール256で構成されている。
【0026】
巻出ロール210は巻出ゾーン200内に設けられている。巻出ロール210には、長尺ガラスフィルムGが、合紙としての長尺PETフィルムPと共にロール状に巻かれてセットされている。長尺PETフィルムPは、長尺ガラスフィルムGを巻出ロール210から引き出す時に同時に排出されるため、フリーロール212の後段に位置するPETフィルム巻取ロール213で巻き取られるようになっている。なお、巻出ロール210に接するようにタッチロール211が設けられている。
【0027】
巻出ゾーン200に隣接するヒーターゾーン201内には、長尺ガラスフィルムGを加熱する加熱手段が設けられている。この加熱手段は、長尺ガラスフィルムGの搬送経路に沿って順に設けられたヒーター219、220、221、および222で構成されている。各ヒーターは、例えばシースヒータ、カーボンヒータ、赤外線ヒータ等からなる。なお、成膜ゾーン204の上流側にヒーターゾーン201を設ける理由は、スパッタリング成膜の前に長尺ガラスフィルムGを暖めておかないとスパッタリング成膜の熱負荷により長尺ガラスフィルムGが割れるおそれがあるからである。
【0028】
ヒーターゾーン201に隣接する上流側アキュムレータゾーン202内には、アキュムレータ手段が設けられている。このアキュムレータ手段は、長尺ガラスフィルムGに一定の張力を付与するアキュムレータロール(ダンサーロールとも称する)224と、その前後に設けられたフリーロール223、225とで構成される。
【0029】
上記一定の張力を付与するため、アキュムレータロール224の回転軸は付勢手段によって下方(図中の矢印A1の方向)に付勢されている。これにより、長尺ガラスフィルムGの伸縮に追従して自動的にアキュムレータロールを上下方向に変位させることが可能となる。付勢手段の具体的な機構は特に限定するものではなく、例えばアキュムレータロール224の回転軸を回転自在に支持する支持部につるまきバネや板バネなどの弾性体の一端部を取り付けると共に、その他端部をアキュムレータゾーンの床部や天井部に取り付ければよい。
【0030】
あるいは、アキュムレータロール224自体が非常に重くなる場合は、アキュムレータロール224自体の重力よりも低い張力で長尺ガラスロールの搬送が行われるので、回転軸を回転自在に支持する支持部に張力センサを取り付け、この張力センサの値が一定になるようにモータ等の駆動手段によって当該支持部を上下移動させる制御を行ってもよい。
【0031】
上流側アキュムレータゾーン202に隣接する表面改質ゾーン203内には、膜の密着力を向上させるため、イオンビーム処理やプラズマ処理を行なう2台の表面改質装置229、230がこの順に搬送経路に沿って設けられている。これら2台の表面改質装置に導入するガスは、2台とも同じガスを使用してもよいし、異なるガスを使用してもよい。
【0032】
例えば、最初に窒素イオンビームを照射した後、酸素イオンビームを照射してもよい。ガラスフィルムに施すこれらイオンビーム処理やプラズマ処理等の処理条件や、これら表面改質処理の要否は、必要とされる密着力に応じて適宜選択される。なお、図1の成膜装置では、表面改質ゾーン203においてイオンビーム遮蔽板228と表面改質装置229、230との間に長尺ガラスフィルムGを通過させてイオンビーム処理する方法が示されているが、スパッタリング成膜に匹敵する高い熱負荷が長尺ガラスフィルムGに掛かる場合は、加熱キャンロールに巻きつけて表面改質を行う必要がある。
【0033】
表面改質ゾーン203に隣接する成膜ゾーン204内にはキャンロール233が設けられている。キャンロール233の内部には、減圧容器の外部から供給される高沸点有機溶媒、熱媒油、または熱湯等の熱媒が循環しており、これにより外周面に接触した長尺ガラスフィルムGを保温もしくは加熱することが可能となる。このようにキャンロール233を熱媒で加温するのは、スパッタリング成膜の熱負荷でガラスフィルムに熱衝撃が加わり割れることを防ぐ為である。
【0034】
キャンロール233の外周面に対向する位置には、長尺ガラスフィルムGに熱負荷の掛かる表面処理を施すための表面処理手段が設けられている。図1に示す表面処理手段は、乾式めっき法の一種であるスパッタリング成膜を行うスパッタリングカソード236、237、238、239、240、241、242、および243がこの順に搬送経路に沿って並べられている。
【0035】
なお、金属膜のスパッタリング成膜の場合は、板状ターゲットを使用することが好ましいが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュール(異物の成長)の発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用してもよい。
【0036】
成膜ゾーン204に隣接する冷却ゾーン205内には冷却手段が設けられている。図1に示す冷却手段は、冷却ロール245、246がこの順に搬送経路に沿って設けられている。冷却ロール245、246の内部には、減圧容器の外部から供給される冷却水や有機溶媒等の冷媒が循環している。冷却ロール245の冷媒の温度は、冷却ロール246より高くすることで、成膜後のガラスフィルムを段階的に冷却することも可能である。
【0037】
これら冷却ロールの外周面に長尺ガラスフィルムGを片面ずつ接触させることにより該フィルムを冷却することができる。なお、成膜ゾーン204の下流側に冷却ゾーン205を設ける理由は、スパッタリング成膜の後に長尺ガラスフィルムGを冷やしておかないと、巻取ロール256に巻取った後に冷えて巻締まりが発生し、割れるおそれがあるからである。
【0038】
冷却ゾーン205に隣接する下流側アキュムレータゾーン206内には、前述した上流側アキュムレータゾーン202と同様のアキュムレータ手段が設けられている。すなわち、このアキュムレータ手段は、長尺ガラスフィルムGに一定の張力を付与するアキュムレータロール(ダンサーロールとも称する)249と、その前後に設けられたフリーロール248、250とで構成されている。
【0039】
このアキュムレータロール249の回転軸も、付勢手段によって下方(図中の矢印A2の方向)に付勢されており、これにより長尺ガラスフィルムGの伸縮に追従して自動的にアキュムレータロールが上下方向に変位するようになっている。なお、前述したアキュムレータロール224と同様に、アキュムレータロール249の回転軸を回転自在に支持する支持部に張力センサを取り付け、この張力センサの値が一定になるようにモータ等の駆動手段によって当該支持部を上下移動させる制御を行ってもよい。
【0040】
下流側アキュムレータゾーン206に隣接する巻取ゾーン207内には上記各ゾーンで処理された長尺ガラスフィルムGを再び巻き取る巻取ロール256が設けられている。巻取ゾーン207内には更に合紙としてのPETフィルム254がロール状に巻かれたPETフィルム巻出ロール257が設けられており、長尺ガラスフィルムGは、PETフィルム巻出ロール257から引き出されたPETフィルム254を挟み込みならが巻取ロール256に巻取られる。なお、巻取ロール256に接するようにニアロール255が設けられている。このように、成膜後のガラスフィルムを減圧容器内で巻き取ることにより、成膜された長尺ガラスフィルムGの後工程での取り扱いが容易になる。
【0041】
次に、上記構成の成膜装置の動作について説明する。巻出ロール210から引き出された長尺ガラスフィルムGは、先ずヒーターゾーン201へ搬送され、ここで前述したようにスパッタリング成膜の熱負荷による割れを防ぐべくヒーター219、220、221、および222によって所定の温度まで加熱される。
【0042】
ヒーターゾーン201で加熱された長尺ガラスフィルムGは、次にアキュムレータロール224が配されたアキュムレータゾーン202に送られる。ここで、ヒーターゾーン201の加熱処理に起因する長尺ガラスフィルムGの長さ方向の変化が吸収される。すなわち、加熱処理によって長尺ガラスフィルムGがその長さ方向に伸長した場合、アキュムレータロール224は前述したように下方に向けて付勢されているので、この付勢力と長尺ガラスフィルムGの張力がバランスするまでアキュムレータロール224は下方に向けて変位する。逆に、長尺ガラスフィルムGが冷えてその長さ方向に収縮した場合、長尺ガラスフィルムGの張力が付勢力に打ち勝ってアキュムレータロール224は上方に向けて変位する。
【0043】
このように、アキュムレータロール224が上下方向に位置を変えることにより、アキュムレータロール224とその前後に設けられたフリーロール223、225との間がバッファの役目を果たし、長尺ガラスフィルムGの長さ方向の変化が吸収される。樹脂フィルムの場合は、例えば加熱処理されたフィルムを駆動させる駆動ロールのモータ回転数を制御することによって樹脂フィルムに無理な応力がかからないようにすることが可能ではあるが、樹脂フィルムと比較して伸び難く割れやすいガラスフィルムを搬送制御するにはアキュムレータロールを採用することが必要となる。
【0044】
アキュムレータロール224には、例えばその回転軸の上下方向の位置を検出するアキュムレータロール位置検出手段(図示せず)を設け、これから出力される信号でアキュムレータロール224よりも下流側に位置する駆動ロール、例えばキャンロール233の周速度を制御してもよい。具体的には、アキュムレータロールの位置が下降傾向にあるときはその下流側の駆動ロールのモータを徐々に速くなるように制御し、逆に上昇傾向にあるときは下流側の駆動ロールのモータを徐々に遅くなるように制御すればよい。
【0045】
これにより、アキュムレータロールの回転軸の位置(高さ)が略一定の範囲内に収められ、長尺ガラスフィルムの搬送速度も略一定の範囲内に収めることができる。その結果、成膜時の膜厚変化を最小限に留めることが可能となる。ここで、アキュムレータロールの回転軸の位置を略一定の範囲内に収めるとは、回転軸の位置の変化を数十cmの範囲に収めることである。回転軸の位置の変化が1mもあると、その後の搬送速度に影響し、成膜時の膜厚変化が著しくなる。なお、このように制御する場合は、長尺ガラスフィルムGに衝撃を与えない範囲で周速度が変動するように駆動ロールの周速度を制御するのが好ましい。
【0046】
上記したように、キャンロール233の周速度でアキュムレータロール224を制御する場合は、これに伴ってキャンロール233に巻付けられている長尺ガラスフィルムGの搬送速度が変動する。その結果、長尺ガラスフィルムGの表面にスパッタリング成膜したときの膜厚にばらつきが生ずる。これが問題になる場合は、キャンロール233の周速度に応じて各スパッタリングカソードへの供給電力を変化させればよい。これにより、長尺ガラスフィルムGの搬送速度の変化に対応して各スパッタリングカソードによる成膜速度を変化させることができるので、ばらつきのない均一な膜厚が得られる。
【0047】
アキュムレータゾーン202で長さ方向の伸縮が調整された長尺ガラスフィルムGは次に表面改質ゾーン203に送られ、ここでイオンビーム処理やプラズマ処理による表面改質が行なわれて膜の密着力が向上する。続いて、長尺ガラスフィルムGは成膜ゾーン204に送られ、ここでキャンロール233に巻付けられながら、成膜手段であるスパッタリングカソード236、237、238、239、240、241、242、および243によって順に成膜が行われる。
【0048】
キャンロール233の上流側には長尺ガラスフィルムGの張力を検出する張力センサーロール231が設けられており、この張力センサーロール231で検出した張力の信号が前フィードロール232やキャンロール233の周速度にフィードバックされる。これにより、長尺ガラスフィルムGを所定の範囲の張力に保ちつつキャンロール233への密着を確保することができる。
【0049】
キャンロール233の下流側にも同様に張力センサーロール235が設けられており、これにより検出された長尺ガラスフィルムGの張力の信号がキャンロール233や後フィードロール234の周速度にフィードバックされる。これにより、長尺ガラスフィルムGを所定の範囲の張力に保ちつつキャンロール233への密着を確保することができる。
【0050】
成膜処理が施された長尺ガラスフィルムGは、次に冷却ゾーン205に送られ、ここで冷却ロール245、246によって冷却される。冷却された長尺ガラスフィルムGは、次にアキュムレータゾーン206に送られ、ここで、前述したアキュムレータロール224と同様に、アキュムレータロール249の上下方向の変位によって冷却に起因するガラスフィルムの長さ方向の変化が吸収される。
【0051】
このアキュムレータロール249にも、前述したアキュムレータロール224と同様にアキュムレータロール位置検出手段(図示せず)を設けて、ここから出力される信号でアキュムレータロール249よりも下流側に位置する駆動ロールの周速度を制御してもよい。これにより、アキュムレータロール249の変位を一定の範囲内に収めることができる。アキュムレータゾーン206で伸縮が調製された長尺ガラスフィルムGは、最後に巻取ゾーン207に送られ、ここで合紙としてのPETフィルム254と共に巻取ロール256に巻取られる。
【0052】
以上、熱負荷の掛かる表面処理としてスパッタリング成膜を例に挙げて本発明の長尺ガラスフィルムの処理方法の一具体例について説明したが、本発明が対象とする熱負荷の掛かる表面処理はスパッタリング成膜に限定されるものではなく、プラズマ処理やイオンビーム処理など、より高い熱負荷の掛かる表面処理であってもよい。この場合は、図1の成膜装置のスパッタリングカソードに代えて各種の表面処理手段が設けられる。
【0053】
また、上記説明では乾式めっきの例としてスパッタリングをとりあげて説明したが、これに限定されるものではなく、CVD(化学気相堆積;Chemical Vapor Deposition)、ALD(原子層堆積;Atomic Layer Dposition)、真空蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリングであってもよい。
【0054】
(2)長尺ガラスフィルムの成膜装置(レーザーダイシング型)
次に、本発明に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置の他の具体例について図2を参照しながら説明する。この図2に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置は、図1の巻取ゾーン207に代えてダイシングゾーン308が設けられていることを除いて図1に示す成膜装置とほぼ同等である。すなわち、この図2に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置では、成膜された長尺ガラスフィルムに対して例えばレーザーダイシングにより切断を行い、切断された薄板状のガラスフィルムSをスタックすることを特徴としている。
【0055】
具体的には、この図2に示す本発明の他の具体例の長尺ガラスフィルムの成膜装置は、巻出ゾーン300、ヒーターゾーン301、上流側アキュムレータゾーン302、表面改質ゾーン303、成膜ゾーン304、冷却ゾーン305、下流側アキュムレータゾーン306、およびダイシングゾーン308に仕切られた減圧容器内に納められている。
【0056】
これらのうち、巻出ゾーン300から下流側アキュムレータゾーン306までに収められている成膜装置の構成要素については、図1に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置のものとほぼ同等であるので、以降の説明においては、ダイシングゾーン308における構成要素について説明する。なお、図2において図1と同一の部材は、符号の下2桁が図1のものと同一になっている。
【0057】
ダイシングゾーン308内には、ニップロール358と引出駆動ロール359とで上下から挟み込んで引き出された長尺ガラスフィルムGを裁断する裁断手段が設けられている。この裁断手段は、例えばレーザー照射装置360(レーザー発振器とスキャナーとを組み合わせた装置)からなり、レーザー発振器から発せられる照射レーザー361の照射位置を、スキャナーで長尺ガラスフィルムGに対してその幅方向に移動させることによって、長尺ガラスフィルムGを連続的に裁断することができる。
【0058】
切断された薄板状のガラスフィルムSは、落下して下方に位置するスタックボックス362内にスタックされる。なお、長尺ガラスフィルムGは連続的に搬送されているため、搬送方向に対して垂直に切断するためには、照射レーザー361の照射位置は、該搬送方向に対して垂直方向ではなく若干斜め方向に移動するのが好ましい。
【0059】
このように、減圧容器内で成膜後のガラスフィルムを切断することにより、後工程がバッチ式や枚歯式の場合に好都合である。なお、裁断は前述したレーザーダイシングにより行うことが望ましい。その理由は、レーザーダイシングではカット面がレーザーの熱によって若干溶けるので、割れにくくすることができるからである。これに対して裁断にダイシングソーやダイヤモンドカッターを用いると、カット面に無数のマイクロクラックが発生するので、このクラックをきっかけに割れやすくなる。
【0060】
(3)長尺ガラスフィルムの成膜装置(大気中レーザーダイシング型)
次に、本発明に係る長尺ガラスフィルムの成膜装置の更に他の具体例について図3を参照しながら説明する。この図3に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置は、大気中でレーザーダイシングにより切断してスタックする点を除いて図2に示す成膜装置とほぼ同等である。この方法によれば、ガラスフィルムロール1本分の成膜工程が終了する前に成膜後のガラスフィルムを取り出すことができるため、生産性を高めることができる。
【0061】
具体的には、この図3に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置は、巻出ゾーン400、ヒーターゾーン401、上流側アキュムレータゾーン402、表面改質ゾーン403、成膜ゾーン404、冷却ゾーン405、下流側アキュムレータゾーン406、差圧ゾーン409、およびダイシングゾーン408に仕切られた減圧容器内に納められている。
【0062】
これらのうち、巻出ゾーン400から下流側アキュムレータゾーン406までに収められている成膜装置の構成要素については、図1および図2に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置のものとほぼ同等であり、ダイシングゾーン408に収められている成膜装置の構成要素については、図2に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置のものとほぼ同等である。従って、以降の説明においては、差圧ゾーン409について説明する。なお、図3において図1や図2と同一の部材は、符号の下2桁が図1や図2のものと同一になっている。
【0063】
前述したように、この図3に示す長尺ガラスフィルムの成膜装置は、下流側アキュムレータゾーン406とダイシングゾーン408の間に差圧ゾーン409が設けられている以外は図2に示す成膜装置とほぼ同等である。互いに隣接する下流側アキュムレータゾーン406と差圧ゾーン409とを仕切る隔壁、および互いに隣接するダイシングゾーン408と差圧ゾーン409とを仕切る隔壁には、それぞれ長尺ガラスフィルムGを両面から挟み込む2対のゴムロール452、453が設けられている。なお、これら2対のゴムロールは、大気圧であるダイシングゾーン408が下流側アキュムレータゾーン406の真空に影響を与えない程度に気密性が保たれている。
【0064】
これにより、巻出ゾーン400から下流側アキュムレータゾーン406までの減圧雰囲気を維持しつつ、長尺ガラスフィルムの裁断を大気雰囲気下で行うことが可能となる。よって、成膜処理の作業を中断することなく切断された薄板状ガラスフィルムSを取り出して、バッチ式や枚歯式の後工程の作業を行うことができる。
【0065】
次に、図4を参照しながらタッチパネルの膜構造について説明する。一般的に、タッチパネルに用いられる膜構造は、基板としての長尺ガラスフィルムGの片面に、ガラスフィルム1側から順に、第1層目の物理的膜厚10nmのSiO層1、第2層目の物理的膜厚6nmのNb層2、第3層目の物理的膜厚35nmのSiO層3、および第4層目の物理的膜厚22nmのITO層4が成膜された積層構造を基本としている。
【0066】
このように、透明導電性を得るためのITO層4以外にも複数の層が成膜されている理由は、ガラスフィルムをタッチパネルとして使用する場合、ITO層4には電極としての役割を担うパターン部が形成されるからである。すなわち、ITO層4のパターン部と非パターン部の見栄えを良くするため、換言すれば、これらパターン部と非パターン部とで反射率や透過率に大きな差が生じないようにするため、光学薄膜の理論計算に基づいてITO層4以外のこれら複数の層を設計し、成膜することが行われている。本発明の処理方法であれば、このような複数の層を成膜する場合であっても、キャンロールに対向させるスパッタリングカソードの数や種類を適宜変更することによって対応することができる。
【0067】
以上説明したように、本発明の長尺ガラスフィルムの処理方法では、連続的に搬送されるガラスフィルムに対して割れの問題を生ずることなく熱負荷の掛かる処理を施すことが可能となる。また、ガラスフィルムの表面に連続して成膜などの表面処理を行うことができるので、表面処理条件が安定する。その結果、品質の安定した薄膜トランジスタや太陽電池を作製することが可能となる。これに対して従来のガラスフィルムへの薄膜トランジスタや太陽電池などの成膜では、ガラスフィルム1枚ごとに処理する枚葉式でのみ表面処理や成膜が行われていた。このような枚葉式では連続的な処理ができないため、1枚ごとの品質のバラツキが生じていた。
【0068】
本発明の長尺ガラスフィルムの処理方法によって作製された薄膜トランジスタは、液晶パネルなどのディスプレイパネルに用いることができる。また、透明度の高いガラスフィルムの表面に乾式めっき法で成膜を施すことができるので、光学フィルターなどの光学部品への応用も可能である。さらに、ガラスのもつ耐薬品性から、ガラスフィルムの表面に導電膜を成膜し、二次電池の電極部材として用いることも可能である。このように、本発明の長尺ガラスフィルムの処理方法が適用できる用途は多岐にわたっている。
【実施例】
【0069】
[実施例1]
図1に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて長尺ガラスフィルムに成膜処理を施し、図4に示すようなタッチパネルに用いる4層の膜構造を作製した。基板となる長尺ガラスフィルムGには、幅300mm、長さ300m、厚さ50μmのガラスフィルムを使用した。キャンロール233には、直径400mm、幅500mmのアルミ製のものを使用した。このキャンロール233の本体表面には、ハードクロムめっきを施した。キャンロール233はジャケットロール構造になっており、ここに減圧容器の外部で温調された熱媒を循環した。
【0070】
図4に示す4層の膜構造にするため、スパッタリングカソード236、237には、第1層目に該当するSiO層1を成膜するためのAGCセラミックス製SiCターゲット(幅600mm×長さ150mm)を設置し、スパッタリングカソード238、239には、第2層目に該当するNb層2を成膜するためのAGCセラミックス製NbOターゲット(幅600mm×長さ150mm)を設置した。
【0071】
さらに、スパッタリングカソード240、241には、第3層目に該当するSiO層3を成膜するためのAGCセラミックス製SiCターゲット(幅600mm×長さ150mm)を設置し、スパッタリングカソード242、243には、第4層目に該当するITO層4を成膜するための住友金属鉱山製ITOターゲット(幅600mm×長さ150mm)を設置した。
【0072】
そして、マグネトロンスパッタリングには、40〜200kHzの中周波電源を用いたデュアルマグネトロンスパッタリング法を採用した。また、巻出ロール210と巻取ロール256の張力は共に50Nとした。キャンロール233の周速度と、その上流側のモータ駆動の前フィードロール232および下流側のモータ駆動の後フィードロール234の周速度は、フィルム搬送速度が2m/分となるように速度制御した。
【0073】
巻出ロール210にロール状に巻かれた長尺ガラスフィルムGをセットし、長尺ガラスフィルムGの間に合紙として挟み込まれているPETフィルムPをPETフィルム巻取ロール213に巻き取りながら長尺ガラスフィルムGを引き出した。この引き出した長尺ガラスフィルムGの先端部は、キャンロール233を経由して、巻取ロール256に巻きつけた。その際、PETフィルム巻出ロール257から引き出されるPETフィルムPは合紙として長尺ガラスフィルムGに挟み込まれるようにした。
【0074】
全てのゾーンを複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。ヒーターゾーン201内のヒーター219、220、221、222は、設定温度200℃となるように温度制御し、これらの放射熱で長尺ガラスフィルムGが加熱できるようにした。
【0075】
アキュムレータゾーン202では、アキュムレータロール224の変位が100mmの範囲内に収まるように、アキュムレータロール位置検出手段からの出力信号を用いて下流側の駆動ロールである前フィードロール232のモータ回転数を制御した。その際、ガラスフィルムに衝撃を与えないことも考慮にいれて制御パラメータを設定した。表面改質ゾーン203内では、膜の密着力を向上させるために2台のイオンビームを採用した。最初のイオンビームでは窒素イオンビームを照射し、次のイオンビームでは酸素イオンビームを照射した。それぞれのイオンビームには、窒素を50sccm、酸素を50sccm導入し、2.0kVの電圧を印可した。
【0076】
そして、長尺ガラスフィルムGの搬送速度を2m/分にした後、第1層目のSiO層1を成膜するためのスパッタリングカソード236、237には2.0kWのカソード電力、第2層目のNb層2を成膜するためのスパッタリングカソード238、239には1.2kWのカソード電力、第3層目のSiO層3を成膜するためのスパッタリングカソード240、241には7.0kWのカソード電力、第4層目のITO層4を成膜するためのスパッタリングカソード242、243には4.4kWのカソード電力を印加した。また、それぞれのカソード付近にはアルゴンガスを200sccm導入し、さらに酸素を導入した。
【0077】
冷却ゾーン205では、100℃に温度制御された冷却ロール245と、50℃に温度制御された冷却ロール246とをこの順で長尺ガラスフィルムGに接触させて長尺ガラスフィルムGの温度を下げた。アキュムレータゾーン206では、上記と同様に、このアキュムレータロール249が100mm範囲内になるように、アキュムレータロール位置検出手段からの出力信号を用いて下流側の駆動ロールである巻取ロール256のモータ回転数を制御した。その際、ガラスフィルムに衝撃を与えないことも考慮にいれて制御パラメータを設定した。
【0078】
このようにして長尺ガラスフィルムGに成膜処理を施した。そして、ロール状に巻かれた長さ300mの長尺ガラスフィルムGが全て引き出された時点で各マグネトロンスパッタカソードへの電力供給を停止し、それぞれのガス導入も停止した。最後に、長尺ガラスフィルムGの搬送を停止し、かつ、各ポンプを停止してからベント(大気開放)し、巻出ロール210の長尺ガラスフィルムG終端部を外し、全ての長尺ガラスフィルムGを巻取ロール256に巻き取ってから取り外した。成膜が完了した後、巻取ロール256に巻き取られた長尺ガラスフィルムGを大気中に取り出した。その結果、割れやすいガラスフィルムを割ることなく良好に成膜することができた。
【0079】
[実施例2]
図2に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、実施例1で行った巻取ロールでの巻取りに代えて長尺ガラスフィルムを裁断手段で切断した以外は実施例1と同様にしてタッチパネルに用いる4層の膜構造を作製した。具体的には、実施例1と同様にして成膜された長尺ガラスフィルムに対してダイシングゾーン308内に設けたレーザー照射装置357によって搬送方向の長さが40cmとなるように幅方向に切断し、切断されたガラスフィルムはスタックボックス355にスタックした。レーザーには、出力50Wの発振波長10.6μmの炭酸ガスレーザーを用いた。
【0080】
そして、実施例1と同様にロール状に巻かれた長さ300mの長尺ガラスフィルムGが全て引き出された時点で実施例1と同様の手順で成膜処理を終了してガラスフィルムを取り出した。その結果、割れやすいガラスフィルムを割ることなく良好に成膜することができた。
【0081】
[実施例3]
図3に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、大気圧下で長尺ガラスフィルムを切断した以外は実施例2と同様にしてタッチパネルに用いる4層の膜構造を作製した。具体的には、アキュムレータゾーン406とダイシングゾーン408の間に差圧ゾーン409を設け、巻出ゾーン400から下流側アキュムレータゾーン406までは減圧雰囲気に維持して実施例1や実施例2と同様にして長尺ガラスフィルムGに成膜しながら、ダイシングゾーン408は大気雰囲気にして実施例2と同様にしてレーザーダイシングを行った。
【0082】
そして、実施例1や実施例2と同様にロール状に巻かれた長さ300mの長尺ガラスフィルムGが全て引き出された時点で実施例1や実施例2と同様の手順で成膜処理を終了した。その結果、割れやすいガラスフィルムを割ることなく良好に成膜することができた。また、成膜中でも随時ダイシングゾーン408のスタックボックス462から裁断された薄板状のガラスフィルムSを取り出すことができた。
【0083】
[比較例]
比較のため、図5に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて実施例1と同様に成膜処理を施した。すなわち、アキュムレータ手段を用いなかった以外は実施例1と同様にしてガラスフィルムに成膜処理を施した。その結果、この図5の成膜装置では、搬送中の衝撃によって長尺ガラスフィルムGが割れてしまった。一カ所が割れると、張力が一瞬にして大きな変動を受けて、搬送経路を走行中のガラスフィルムは全て割れてしまったため、どこで割れたか特定できなかった。なお、図5において図1と同一の部材は、符号の下2桁が図1のものと同一になっている。
【符号の説明】
【0084】
G 長尺ガラスフィルム
S 薄板状ガラスフィルム
P 長尺PETフィルム
1 SiO
2 Nb
3 SiO
4 ITO層
100、200、300、400 巻出ゾーン
101、201、301、401 ヒーターゾーン
202、302、402 上流側アキュムレータゾーン
103、203、303、403 表面改質ゾーン
104、204、304、404 成膜ゾーン
105、205、305、405 冷却ゾーン
206、306、406 下流側アキュムレータゾーン
107、207 巻取ゾーン
308、408 ダイシングゾーン
409 差圧ゾーン
110、210、310、410 巻出ロール
111、211、311、411 タッチロール
112、212、312、412 フリーロール
113、213、313、413 PETフィルム巻取ロール
114、214、314、414 フリーロール
115、215、315、415 フリーロール
116、216、316、416 駆動ロール
117、217、317、417 駆動ロール
118、218、318、418 フリーロール
119、219、319、419 ヒーター
120、220、320、420 ヒーター
121、221、321、421 ヒーター
122、222、322、422 ヒーター
223、323、423 フリーロール
224、324、424 アキュムレータロール
225、325、425 フリーロール
126、226、326、426 フリーロール
127、227、327、427 フリーロール
128、228、328、428 イオンビーム遮蔽版
129、229、329、429 イオンビーム
130、230、330、430 イオンビーム
131、231、331、431 張力センサーロール
132、232、332、432 前フィードロール
133、233、333、433 キャンロール
134、234、334、434 後フィードロール
135、235、335、435 張力センサーロール
136、236、336、436 スパッタリングカソード
137、237、337、437 スパッタリングカソード
138、238、338、438 スパッタリングカソード
139、239、339、439 スパッタリングカソード
140、240、340、440 スパッタリングカソード
141、241、341、441 スパッタリングカソード
142、242、342、442 スパッタリングカソード
143、243、343、443 スパッタリングカソード
144、244、344、444 フリーロール
145、245、345、445 冷却ロール
146、246、346、446 冷却ロール
147、247、347、447 駆動ロール
248、348、448 フリーロール
249、349、449 アキュムレータロール
250、350、450 フリーロール
151、251 フリーロール
152、252 フリーロール
155、255 二アロール
156、256 巻取ロール
157、257 PETフィルム巻取ロール
358、458 ニップロール
359、459 引出駆動ロール
360、460 レーザー照射装置
361、461 照射レーザー
362、462 スタックボックス
463 ゴムロール対
464 ゴムロール対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールから連続的に引き出された長尺ガラスフィルムを搬送経路に沿って搬送しながら順に加熱処理、表面処理および冷却処理を施す長尺ガラスフィルムの処理方法であって、前記表面処理では長尺ガラスフィルムの一方の面を熱媒で加熱されたキャンロールの外周面上に接触させながら他方の面に熱負荷の掛かる処理を施し、前記搬送経路における前記表面処理と前記加熱処理との間および/または前記冷却処理の後において長尺ガラスフィルムの伸縮を調整することを特徴とする長尺ガラスフィルムの処理方法。
【請求項2】
前記伸縮の調整は、前記搬送経路に設けられた1つ以上のアキュムレータロールの変位によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の長尺ガラスフィルムの処理方法。
【請求項3】
前記伸縮の調整は、更に前記1つ以上のアキュムレータロールの変位に基づいて前記搬送経路に設けられた駆動力を備えたロールの周速度の変化によって行うことを特徴とする、請求項2に記載の長尺ガラスフィルムの処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理が、減圧雰囲気下で行われる乾式めっきであることを特徴とする長尺ガラスフィルムの成膜方法。
【請求項5】
前記冷却処理の後に長尺ガラスフィルムを略同じ寸法の複数の薄板に裁断することを特徴とする、請求項4に記載の長尺ガラスフィルムの成膜方法。
【請求項6】
前記裁断がレーザーダイシングによることを特徴とする、請求項5に記載の長尺ガラスフィルムの成膜方法。
【請求項7】
前記乾式めっきがスパッタリングであることを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の長尺ガラスフィルムの成膜方法。
【請求項8】
長尺ガラスフィルムをロールから引き出して搬送経路に沿って搬送する搬送手段と、該引き出された長尺ガラスフィルムを加熱する加熱手段と、該加熱された長尺ガラスフィルムを接触させる、熱媒で加熱された外周面を備えたキャンロールと、該外周面に接触している長尺ガラスフィルムに表面処理を施すべく該外周面に対向して設けられた表面処理手段と、該表面処理された長尺ガラスフィルムを冷却する冷却手段と、長尺ガラスフィルムの伸縮を調整すべく該搬送経路における該加熱手段と該キャンロールとの間および/または該冷却手段の下流側に設けられたアキュムレータ手段とを有することを特徴とする長尺ガラスフィルムの処理装置。
【請求項9】
前記アキュムレータ手段が、前記長尺ガラスフィルムの搬送経路に設けられた1つ以上の変位自在なアキュムレータロールからなることを特徴とする、請求項8に記載の長尺ガラスフィルムの処理装置。
【請求項10】
前記1つ以上のアキュムレータロールの位置を検出するアキュムレータロール位置検出手段を更に備え、該アキュムレータロール位置検出手段で検出された位置信号に基づいて前記搬送経路に設けられた駆動力を備えたロールの周速度を制御することを特徴とする、請求項9に記載の長尺ガラスフィルムの処理装置。
【請求項11】
請求項8または9に記載の前記表面処理手段が、減圧容器内で行う乾式めっき手段であることを特徴とする長尺ガラスフィルムの成膜装置。
【請求項12】
前記搬送経路の最下流に長尺ガラスフィルムを略同じ寸法の複数の薄板に裁断する裁断手段が設けられていることを特徴とする、請求項11に記載の長尺ガラスフィルムの成膜装置。
【請求項13】
前記裁断手段がレーザーダイシング装置であることを特徴とする、請求項12に記載の長尺ガラスフィルムの成膜装置。
【請求項14】
前記乾式めっき手段が、スパッタリングカソードであることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の長尺ガラスフィルムの成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49876(P2013−49876A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186817(P2011−186817)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】