説明

長期成膜時の安定性に優れたIn−Ga−Zn−O系酸化物焼結体スパッタリングターゲット

【課題】長期に渡る成膜を行った際に、得られる薄膜の特性の安定性に優れたスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】In、Zn、及びGaを含み、表面と内部の化合物の結晶型が実質的に同一である酸化物焼結体からなり、下記(a)〜(e)の工程で製作されたスパッタリングターゲット。(a)原料化合物粉末を混合し、調製(b)混合物6.0mm以上に成形(c)3℃/分以下で昇温(d)1280〜1520℃で2〜96時間(e)表面を0.25mm以上研削

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体や透明導電膜等の酸化物薄膜作製用、特に薄膜トランジスタ作製用のスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム及び酸化亜鉛からなる、あるいは酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなる非晶質の酸化物膜は、可視光透過性を有しかつ導電体、半導体から絶縁体まで広い電気特性を有するため、透明導電膜や(薄膜トランジスタ等に用いる)半導体膜として着目されている。
【0003】
前記酸化物膜の成膜方法としては、スパッタリング、パルスレーザーデポジション(PLD)、蒸着等の物理的な成膜やゾルゲル法等の化学的な成膜があるが、比較的低温で大面積に均一に成膜できる方法としてスパッタリング法等の物理的成膜が中心に検討されている。
【0004】
スパッタリング等の物理的成膜で酸化物薄膜を成膜する際は、均一に、安定して、効率よく(高い成膜速度で)成膜するために、酸化物焼結体からなるターゲットを用いることが一般的である。
【0005】
代表的な酸化物膜(導電膜・半導体膜)としては、例えば酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなる酸化物膜が挙げられる。これらの酸化物膜(通常非晶質膜)を作製するためのターゲット(主にスパッタリングターゲット)としては、InGaZnO、InGaZnO等の公知の結晶型の組成あるいはそれと近い組成のものが中心に検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、InGaZnO(InGaO(ZnO))のホモロガス構造を含むターゲットが開示されている。また、特許文献2では、絶縁性の高いGa結晶相については、これを生成させない製造法の検討がなされている。また、特許文献3及び4には、ZnOを主成分とするスパッタリングターゲットが開示されているが、光記録媒体用、透明電極用の検討のみで、このようなターゲットを用い薄膜トランジスタを形成した際のトランジスタ特性への影響は検討されていなかった。また、特許文献5には、InGaZnOの六方晶層状化合物とZnGaのスピネル構造の混合物からなるターゲット等混合物の特性を活かしたターゲットの開発が検討されている。しかし、これらの検討ではターゲットの表面と内部の結晶型等の性状の検討や、これらの結晶型を一致させることは検討されていない。
【0007】
また、特許文献6には、金属組成比In:Ga:Zn=30:15:55のIn−Ga−Zn−O焼結体を用い非晶質酸化物半導体膜及び薄膜トランジスタを形成した例が開示されている。しかし、適切なスパッタリングターゲットの性状や製造方法の検討はなされておらず、このような焼結体をターゲットとして用いると、薄膜のGaの含有比率がターゲットのGaの含有比率の3分の2程度と極端に小さくなってしまうという問題があった。これは、ターゲット内において、組成を含む種々の性状には大きな分布があることを示唆しているが、ターゲット性状の均一性に関する検討はなされていない。
【0008】
スパッタリングターゲットを用いた薄膜トランジスタの作製が実用化に向かうにつれ、従来のガス供給によるプラズマ気相成長法(PECVD)を用いたシリコン系薄膜トランジスタの作製と異なり、一つのターゲットを使用してスパッタリングを長期に渡り続けることにより、得られる薄膜の特性の変化や成膜速度等の変動により、薄膜トランジスタ性能が変化したり、成膜条件の微調整が必要になる等の、長期に渡って成膜を行った際の不安定性の問題が顕在化してきた。また、透明導電膜を成膜する場合に比べ、薄膜トランジスタ(TFT)に代表される半導体素子は特にこの影響が顕著であることも明らかになってきた。上記のように酸化物薄膜を作製するためのターゲットについて種々の検討がなされているが、一つのターゲットを長期に渡って使用して成膜した時に、得られる薄膜の性状、ひいては薄膜トランジスタの性能の安定性については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−73312号公報
【特許文献2】特開2007−223849号公報
【特許文献3】WO2004/079038
【特許文献4】特許3644647号公報
【特許文献5】WO2008/072486
【特許文献6】特開2008−53356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、長期に渡る成膜を行った際に、得られる薄膜の特性の安定性に優れたスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、長期成膜した際の薄膜の特性の不安定性は、スパッタリングを長期に渡り続けることによりターゲットの性状(比抵抗等)が変化するためであることを見出した。さらに、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなるスパッタリングターゲットは、長期間成膜を行うと表面のスパッタリングを受ける面の結晶形態の変化(結晶型の変化)が起き、このことが前記の不安定性の原因となっていることを見出した。
【0012】
この問題は、従来、酸化インジウム及び酸化錫からなるスパッタリングターゲットや、酸化インジウム及び酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲットでは顕在化していなかった。これはガリウムと亜鉛がともに含まれることで層状化合物を含む、生成しうる結晶型に多様性が生じ、その生成温度の違いから、わずかな条件の違いや成分の蒸発等による組成比の変動で結晶型が変化することによるものと推定される。
【0013】
さらに、好適な組成比を得るのに適した製造方法や製造条件を選定すること、例えば、厚みが厚めの成形体を遅い速度で昇温し、焼結体を作製し、表面を十分に研削してターゲットとすることや、各組成に対して適正な結晶型が生成する条件を採用すること等で解決しうることを見出した。
【0014】
そして、このようにして作製した、表面部分と内部の結晶形態が同じ(結晶型が二種類以上の場合には、結晶型の組合せが同じ)であるスパッタリングターゲットを用いることで、長期間成膜を行っても成膜速度の変化が少なく、得られる薄膜を使用して作製されたTFTの特性の変化を抑えることに成功し、本発明を完成させた。
また、本発明を用いるとターゲットと薄膜の組成の差も小さくなり、薄膜のGaの含有比率がターゲットのGaの含有比率より極端に小さくなるという問題も改善することも見出した。
【0015】
本発明によれば、以下のスパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲットの製造方法が提供される。
1.In、Zn、及びGaを含み、
表面と内部の化合物の結晶型が実質的に同一である酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
2.前記酸化物焼結体の表面の比抵抗(R1)と表面からt/2mmの深部の比抵抗(R2)の比R1/R2が、0.4以上2.5以下である、上記1に記載のスパッタリングターゲット。
3.前記酸化物焼結体のIn、Zn、及びGaの組成比(原子比)が、下記領域1〜6のいずれかを満たす、上記1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
領域1
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.50
0.58≦In/(In+Zn)≦0.85
In/(In+Ga)≦0.58
領域2
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.50
0.20≦In/(In+Zn)<0.58
In/(In+Ga)≦0.58
領域3
0.20<Ga/(In+Ga+Zn)
0.51≦In/(In+Zn)≦0.85
0.58<In/(In+Ga)
領域4
0.00<Ga/(In+Ga+Zn)<0.15
0.20≦In/(In+Zn)<0.51
0.58<In/(In+Ga)
領域5
0.00<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.20
0.51≦In/(In+Zn)≦0.85
領域6
0.15≦Ga/(In+Ga+Zn)
In/(In+Zn)<0.51
0.58<In/(In+Ga)
4.前記実質同一の結晶型が、一種類の結晶型のみからなる、上記3に記載のスパッタリングターゲット。
5.前記一種類の結晶型が、InGaZnOで表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域1の組成比を満たす、上記4に記載のスパッタリングターゲット。
6.前記一種類の結晶型が、InGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域2又は領域3の組成比を満たす、上記4に記載のスパッタリングターゲット。
7.前記一種類の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造であり、かつ前記領域4の組成比を満たす、上記4に記載のスパッタリングターゲット。
8.前記実質同一の結晶型が、ZnGaで表されるスピネル結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域1又は領域3の組成比を満たす、上記3に記載のスパッタリングターゲット。
9.前記実質同一の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域5の組成比を満たす、上記3に記載のスパッタリングターゲット。
10.前記実質同一の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、InGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造とを含み、かつ上記領域6の組成比を満たす、上記3に記載のスパッタリングターゲット。
11.下記(a)〜(e)の工程を含む上記4、5、6及び8のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(b)前記混合物を成形して厚み6.0mm以上の成形体を調製する工程、
(c)雰囲気を昇温速度3℃/分以下で昇温する工程、
(d)前記昇温した成形体をさらに1280℃以上1520℃以下で2時間以上96時間以下焼結し、厚み5.5mm以上の焼結体を得る工程、
(e)前記焼結体の表面を0.25mm以上研削する工程
12.下記(a)〜(e)の工程を含む上記5に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(b)前記混合物を成形して厚み6.0mm以上の成形体を調製する工程、
(c)雰囲気を昇温速度3℃/分以下で昇温する工程、
(d)前記昇温した成形体をさらに1350℃超1540℃以下で2時間以上36時間以下焼結し、厚み5.5mm以上の焼結体を得る工程、
(e)前記焼結体の表面を0.25mm以上研削する工程
13.下記(f)〜(i)の工程を含む上記8のスパッタリングターゲットの製造方法。
(f)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(g)前記混合物を成形して成形体を調製する工程、
(h)雰囲気を昇温速度10℃/分以下で昇温する工程、
(i)前記昇温した成形体をさらに1100℃以上1350℃以下で4時間以上96時間以下焼結する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長期に渡る成膜を行った際に、得られる薄膜の特性の安定性に優れたスパッタリングターゲットを提供することができる。
本発明によれば、長期に渡る成膜を行った場合であっても、安定した薄膜トランジスタ特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るチャンネルストッパー型薄膜トランジスタ(逆スタガ型薄膜トランジスタ)の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のスパッタリングターゲット(以下、本発明のターゲットという)は、In、Zn、及びGaを含み、表面と内部の化合物の結晶型の種類が実質的に同一である酸化物焼結体からなることを特徴とする。
【0019】
ターゲットの表面と内部の化合物の結晶型の種類が実質的に同一であれば、一つのターゲットを使用して長期に渡って成膜を行った場合でも、得られる薄膜の特性に変動が生じない。
ここで、「実質的に」とは、表面と内部を切断した面をX線回折測定(XRD)で測定した際、同定された結晶型の種類が同一であればよいことを意味する。
【0020】
ターゲットの表面と内部の化合物の結晶型が実質的に同一であることは、例えば、平均の厚みがtmmの時、表面からt/2mmで切断し、表面の化合物の結晶型と表面からt/2mmの深部の化合物の結晶型をX線回折測定(XRD)で分析して判断する。
【0021】
スパッタリングターゲットの表面の結晶構造は、ターゲット表面を直接X線回折で測定し、得られたX線回折パターンから確認することができる。
【0022】
スパッタリングターゲットの深部の結晶構造は、ターゲットを面に水平に切断し、得られた切断面を直接X線回折で測定し、得られたX線回折パターンから確認することができる。
【0023】
ターゲットの切断方法は例えば以下の通りである。
装置:(株)マルトー Million−Cutter 2 MC−503N
条件:ダイヤモンドブレード φ200mm
手順:
1.吸収版(アルミナ板)を温め、上面にアドフィックス(マルトー社製接着剤)を塗る。
2.ターゲットを置いた後、水で急冷することでターゲットを固定する。
3.吸収版を装置にセットし、ターゲットを切断する。
4.後は任意の切削面になるように1〜3を繰り返す。
【0024】
X線回折の測定条件は例えば以下の通りである。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0025】
結晶型は、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードに登録のあるものについては、JCPDSカードと照合することで特定することができる。
【0026】
結晶構造X線回折パターンで構造が判断されれば、酸素が過剰であったり不足(酸素欠損)であったりしても構わない(化学量論比通りでもずれていてもよい)が、酸素欠損を持っていることが好ましい。酸素が過剰であるとターゲットとしたときに抵抗が高くなりすぎるおそれがある。
【0027】
本発明のターゲットは、結晶型が同一であることに加え、結晶型を2種以上含む場合は、ピーク強度比もほぼ同一であることが好ましい。ピーク強度比の比較は、各々の結晶型の最大ピークの高さの比で行う。最大ピークの高さの比を比較し、差異が±30%以下であればほぼ同一と判断する。差異が±15%以下であればより好ましく、±5%以下であれば特に好ましい。
最大ピークの高さの比の差異が小さいほど、長期に渡って使用した際に、得られる薄膜の特性の変動が少なくなることが期待できる。
【0028】
本発明のターゲットは、本発明の効果を損ねない範囲において、上述したIn、Ga、Zn以外の金属元素、例えば、Sn、Ge、Si、Ti、Zr及びHf等を含有していてもよい。
【0029】
本発明においては、ターゲットに含有される金属元素は、原料や製造工程等により不可避的に含まれる不純物等以外の元素を含まず、In,Ga及びZnのみであってもよい。
【0030】
表面の結晶粒径と表面からt/2mmの深部の結晶粒径がともに20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0031】
表面と深部の結晶粒径が大きく異なると放電条件に差異が生じるおそれがある。
【0032】
本発明のターゲットにおいては、酸化物焼結体の表面の比抵抗(R1)と表面からt/2mmの深部の比抵抗(R2)の比R1/R2が、0.4以上2.5以下であることが好ましい。
【0033】
R1/R2が、0.4以上2.5以下であることが好ましく、0.5以上2以下であることがより好ましく、0.67以上1.5以下であることが特に好ましい。
【0034】
R1/R2が、0.4未満あるいは2.5超であると、ターゲットの使用開始時と、長期に渡って使用し消耗した時とでターゲットの性状(比抵抗等)が変化し、成膜速度が変化する、あるいは作製したTFTの特性が変化する等の不安定性の原因となるおそれがある。
【0035】
本発明のターゲットにおいては、酸化物焼結体のIn、Zn、及びGaの組成比(原子比)が、下記領域1〜6のいずれかを満たしていることが好ましい。
【0036】
領域1
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.50
0.58≦In/(In+Zn)≦0.85
In/(In+Ga)≦0.58
領域2
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.50
0.20≦In/(In+Zn)<0.58
In/(In+Ga)≦0.58
領域3
0.20<Ga/(In+Ga+Zn)
0.51≦In/(In+Zn)≦0.85
0.58<In/(In+Ga)
領域4
0.00<Ga/(In+Ga+Zn)<0.15
0.20≦In/(In+Zn)<0.51
0.58<In/(In+Ga)
領域5
0.00<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.20
0.51≦In/(In+Zn)≦0.85
領域6
0.15≦Ga/(In+Ga+Zn)
In/(In+Zn)<0.51
0.58<In/(In+Ga)
【0037】
各領域のより好ましい範囲は、下記の通りである。
領域1
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.45
0.58≦In/(In+Zn)≦0.80
In/(In+Ga)≦0.56
領域2
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.40
0.35≦In/(In+Zn)<0.58
In/(In+Ga)≦0.58
領域3
0.20<Ga/(In+Ga+Zn)
0.60≦In/(In+Zn)≦0.85
0.60<In/(In+Ga)
領域4
0.09<Ga/(In+Ga+Zn)<0.15
0.35≦In/(In+Zn)<0.48
領域5
0.09<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.20
0.53≦In/(In+Zn)≦0.75
領域6
0.17≦Ga/(In+Ga+Zn)
0.35≦In/(In+Zn)<0.48
0.60<In/(In+Ga)
領域6のさらに好ましい範囲は、下記の通りである。
領域6
0.18<Ga/(In+Ga+Zn)
0.38<Zn/(In+Ga+Zn)≦0.50
【0038】
また、各領域の特徴は下記の通りである。
領域1:光電流が小さいTFTの作製が可能
耐混酸耐性が高いTFTの作製が可能
実質的に単一の結晶型(InGaZnO)からなるターゲッの作製が可能
領域1では、焼結温度等の作製条件を調整する、あるいはSn等の微量のドーパントを含有させることで、InGaZnOの結晶型を生成させることができる。また、XRDでInGaZnOの結晶型以外の結晶型が確認されない酸化物焼結体を生成させることができる。InGaZnOの結晶型を有することで、層状構造により導電性を高めることができる。
領域1では、焼結温度等の作製条件を調整することでIn及びZnGaの結晶型を含ませることができる。In及びZnGaの結晶型を有することにより、還元雰囲気での熱処理を行わなくともIn中に酸素欠損を生成させることが容易となり、比抵抗を下げることができる。また、この結晶型を含むと研削量が少ない、あるいは研削を行わなくとも表面と中心部の結晶型を一致させることが容易である。これは、この結晶型が比較的低温で安定であるためと思われる。
【0039】
領域2:光電流が小さいTFTの作製が可能
実質的に単一の結晶型(InGaZnO)からなるターゲットの作製が可能
【0040】
領域3:移動度がやや大きい、S値がやや小さいTFTの作製が可能
TFTを作製した際、光電流が小さい
領域3では、焼結温度等の作製条件を調整することでInの結晶型を含ませることができる。Inの結晶型を有することにより、還元雰囲気での熱処理を行わなくともIn中に酸素欠損を生成させることが容易となり、比抵抗を下げることができる。
領域3では、InとGaの比率が1:1でないにも係わらず、焼結温度等の作製条件を調整することで、InGaZnOあるいはInGaZnOで表されるホモロガス構造の結晶型を生成させることができる。ホモロガス構造の結晶型を有することで、層状構造により導電性を高めることができる。
【0041】
領域4:移動度が大きくS値が小さいTFTの作製が可能
実質的に単一の結晶型からなるターゲットの作製が可能
ターゲットの比抵抗が下げることが容易
領域4では、焼結温度等の作製条件を調整することで実質的に単一の結晶型からなるターゲットの作製が可能である。実質的に単一となることで、ターゲットの均一性が向上する。また、導電性が向上する。
【0042】
領域5:移動度が非常に大きくS値が小さいTFTの作製が可能
ターゲットの比抵抗が下げることが容易
領域5では、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造とInで表される結晶型を含むターゲットの作製が可能である。この結晶型の組合せにより、還元雰囲気での熱処理を行わなくともIn中に酸素欠損を生成させることが容易となり、比抵抗を下げることができる。
また、領域5の組成を持つスパッタリングターゲットは、半導体層を薄膜化した高い移動度の薄膜トランジスタを得るのに適している。
【0043】
領域6:移動度がやや大きくS値が小さいTFTの作製が可能
(領域4よりも、光電流・混酸耐性・耐湿性が良好)
領域6では、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造とInGaZnOで表される結晶型を含むターゲットの作製が可能である。ホモロガス構造により導電性が向上する。
【0044】
本発明のターゲットを用いてTFTを作製した際に、Ga/(In+Zn+Ga)が0より大で、大きいほど光電流の減少が期待できる。
また、Ga/(In+Zn+Ga)が0.50以下で、小さいほど移動度やS値の向上が期待できる。
【0045】
本発明のターゲットを用いてTFTを作製した際に、In/(In+Zn)が0.20以上で、大きいほど移動度の向上が期待できる。
また、In/(In+Zn)が0.80以下で、小さいほどノーマリーオフに調整しやすくなることが期待できる。
【0046】
Ga量の多い、領域1及び2はスパッタリングで成膜する際に、成膜速度やキャリア密度の変化が、酸素分圧に対して比較的敏感であるため、わずかな変動やムラが、得られる薄膜の特性の均一性を乱したり、再現性を低下させたりする場合がある。
成膜速度やキャリア密度の、酸素分圧の変化に対する感度の点では、領域3〜領域6が好ましく、領域4及び領域5が特に好ましい。
【0047】
本発明のターゲットにおいては、実質同一の結晶型が、一種類の結晶型のみからなっていてもよい。
【0048】
一種類の結晶型のみからなる場合には、ターゲット物性の均一性の向上や外観(色むらや白点・黒点の発生の抑制等)の向上が期待できる。また、ターゲットの強度(抗折強度や衝撃強度)の向上が期待できる場合もある。
【0049】
本発明のターゲットにおいては、上記一種類の結晶型がInGaZnOで表されるホモロガス結晶構造であり、かつ上記領域1の組成比を満たすことが好ましい。
【0050】
(YbFeOFeO型結晶構造を示すInGaZnO(又は(InGaOZnO)で表される結晶構造は「六方晶層状化合物」あるいは「ホモロガス相の結晶構造」と呼ばれ、異なる物質の結晶層を何層か重ね合わせた長周期を有する「自然超格子」構造から成る結晶である。結晶周期ないし各薄膜層の厚さが、ナノメーター程度の場合、これら各層の化学組成や層の厚さの組み合わせによって、単一の物質あるいは各層を均一に混ぜ合わせた混晶の性質とは異なる固有の特性が得られる。そして、ホモロガス相の結晶構造は、例えば、ターゲットの粉砕物や切削片又はターゲットそのものから直接測定したX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。
InGaZnOで表される結晶構造は、JCPDSカードNo.38−1097である。
【0051】
本結晶型は、領域1の組成において、Sn(錫)を下記組成比(原子比)で含むことで容易に得られるようになる。
0.005<Sn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.10
上記Sn含有量の範囲は、下記がより好ましい。
0.01<Sn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.05
【0052】
本結晶型(InGaZnOで表されるホモロガス結晶構造)を得るには、焼結温度は1350℃〜1540℃が好ましく、1380〜1500℃がより好ましい。
【0053】
本発明のターゲットにおいては、一種類の結晶型が、InGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域2あるいは領域3の組成比を満たすことが好ましい。
【0054】
InGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造も「六方晶層状化合物」あるいは「ホモロガス相の結晶構造」である。
InGaO(ZnO)で表される結晶構造は、JCPDSカードNo.38−1104である。
【0055】
InGaO(ZnO)は、InGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)のm=1の場合であり、InGaZnOと記述する場合もある。
【0056】
本発明のターゲットにおいては、一種類の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造であり、かつ前記領域4の組成比を満たすことが好ましい。
【0057】
この結晶型の酸化物結晶は、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードにはなく、今まで確認されていない新規な結晶である。
【0058】
この酸化物の結晶のX線回折チャートは、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)で示される結晶構造及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)で示される結晶構造に類似している。しかしながら、本発明の酸化物はInGaO(ZnO)特有のピーク(上記領域Aのピーク)、及びIn(ZnO)特有のピーク(上記領域D及びEのピーク)を有し、かつ、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)には観測されないピーク(上記領域B)を有する。従って、本発明の酸化物は、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)とは異なる。
【0059】
この新結晶型の特徴は下記条件1を満たすことである。
X線回折測定(Cukα線)により得られるチャートにおいて、下記のA〜Eの領域に回折ピークが観測される。
【0060】
条件1
A.入射角(2θ)=7.0°〜8.4°(好ましくは7.2°〜8.2°)
B.2θ=30.6°〜32.0°(好ましくは30.8°〜31.8°)
C.2θ=33.8°〜35.8°(好ましくは34.5°〜35.3°)
D.2θ=53.5°〜56.5°(好ましくは54.1°〜56.1°)
E.2θ=56.5°〜59.5°(好ましくは57.0°〜59.0°)
【0061】
さらに、下記条件2を満たすことが好ましい。
条件2
2θが30.6°〜32.0°(上記領域B)及び33.8°〜35.8°(上記領域C)の位置に観測される回折ピークの一方がメインピークであり、他方がサブピークである。尚、ここでメインピークとは結晶型のXRDパターンの最大ピークの高さが最も高いものを指し、サブピークとは二番目の高さのものを指す。
【0062】
また、本発明のターゲットにおいては、実質同一の結晶型が、二種類以上の結晶型からなっていてもよい。
【0063】
本発明のターゲットにおいては、実質同一の結晶型が、ZnGaで表されるスピネル結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ上記領域1又は領域3の組成比を満たすことが好ましい。
【0064】
ZnGaで表されるスピネル結晶構造を備えていることにより、絶縁体であるGaの生成を抑制することが期待できる。絶縁体であるGaが生成すると、異常放電の頻度が高くなる、ターゲットの抵抗が高くなる等のおそれがある。
Inで表されるビックスバイト結晶構造を含むことで、還元処理を行わなくとも比抵抗の低いターゲットを製造することが容易となる。
【0065】
Inの含有量が多い組織の酸素含有率が、周囲の他の部分の酸素含有率よりも低いことが好ましい。各組織の酸素含有率は電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による組成分布で確認できる。
【0066】
また、Inで表されるビックスバイト構造の格子定数aは、10.14以下が好ましく、10.10以下がより好ましく、10.08以下が特に好ましい。格子定数aは、XRDのフィティングで求める。格子定数が小さいと移動度の向上によって比抵抗を下げられることが期待できる。
【0067】
本結晶型(スピネル結晶構造及びビックスバイト結晶構造を含む)は、領域1あるいは領域3の組成で、1100℃〜1350℃で焼結すること等により得ることが期待できる。
【0068】
本結晶型を生成できると、酸化物焼結体の平均厚みが5.5mm未満の場合や焼結体の表面研削が0.3mm未満の場合であっても、表面と深部の結晶型の種類が実質的に同じであるスパッタリングターゲットを製造できる場合がある。
【0069】
本発明のターゲットにおいては、実質同一の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域5の組成比を満たすことが好ましい。
【0070】
Inで表されるビックスバイト結晶構造を含むことで、還元処理を行わなくとも比抵抗の低いターゲットを製造することが容易となる。
【0071】
Inの含有量が多い組織の酸素含有率が、周囲の他の部分の酸素含有率よりも低いことが好ましい。各組織の酸素含有率は電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による組成分布で確認できる。
【0072】
また、Inで表されるビックスバイト構造の格子定数aは、10.14以下が好ましく、10.10以下がより好ましく、10.08以下が特に好ましい。格子定数aは、XRDのフィティングで求める。格子定数が小さいと移動度の向上によって比抵抗を下げられることが期待できる。
【0073】
本発明のターゲットにおいては、実質同一の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、InGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造とを含み、かつ上記領域6の組成比を満たすことが好ましい。
【0074】
前記のホモロガス結晶構造と推定される新結晶型とInGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造をともに含むことで、ターゲットとして使用した際、成膜速度の変動が少ない、ホワイトスポットの生成が少なく外観が良好、抗折強度が高い、異常放電が少ない等の効果が期待できる。
【0075】
次に、第一の本発明のスパッタリングターゲットの製造方法(以下、本発明の第一の製造方法という)について説明する。
本発明の第一の製造方法は、下記(a)〜(e)の工程を含むことを特徴とする。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(b)前記混合物を成形して厚み6.0mm以上の成形体を調製する工程、
(c)雰囲気を昇温速度3℃/分以下で昇温する工程、
(d)前記昇温した成形体をさらに1280℃以上1520℃以下で2時間以上96時間以下焼結し、厚み5.5mm以上の焼結体を得る工程、
(e)前記焼結体の表面を0.25mm以上研削する工程
【0076】
上記本発明の第一の製造方法は、前記本発明のターゲットのうち、実質同一の結晶型が一種類の結晶型のみからなり、当該一種類の結晶型がInGaZnOで表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域1の組成比を満たすターゲット、一種類の結晶型がInGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域2の組成比を満たすターゲット、及び実質同一の結晶型がZnGaで表されるスピネル結晶構造とInで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域1又は領域3の組成比を満たすターゲット、及び実質同一の結晶型が2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域5の組成比を満たすターゲットを製造するのに有用である。
【0077】
成形体の平均厚みは、通常6.0mm以上であり、8mm以上が好ましい。6.0mm以上であると、面内の温度ムラが減少し、表面と深部の結晶型の種類に変動が生じにくくなることが期待できる。
【0078】
昇温速度は、通常3.0℃/分以下であり、2.5℃/分以下が好ましく、1.5℃/分以下が特に好ましい。尚、昇温速度の下限値は、0.3℃/分程度である。0.3℃/分より遅いと焼結時間が掛かりすぎコスト増となるおそれがある。
昇温速度が3℃/分超であると、表面と深部の結晶型の種類が変動するおそれがある。これは、昇温時にターゲットの厚み方向に温度むら等が生じるためと思われる。
【0079】
焼結温度は、通常1280℃以上1520℃以下であり、1300℃以上1500℃以下が好ましい。
焼結時間は、通常2時間以上96時間以下であり、4時間以上48時間以下が好ましく、6時間以上24時間以下がより好ましい。
【0080】
研削する深さは、通常0.25mm以上であり、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、2mm以上が特に好ましい。0.25mm未満であると表面付近の結晶構造の変動部分を十分に取り除けないおそれがある。
【0081】
本発明の第二の製造方法は、下記(a)〜(e)の工程を含むことを特徴とする。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(b)前記混合物を成形して厚み6.0mm以上の成形体を調製する工程、
(c)雰囲気を昇温速度3℃/分以下で昇温する工程、
(d)前記昇温した成形体をさらに1350℃超1540℃以下で2時間以上36時間以下焼結し、厚み5.5mm以上の焼結体を得る工程、
(e)前記焼結体の表面を0.25mm以上研削する工程
【0082】
本発明の第二の製造方法は、上記本発明のターゲットのうち、実質同一の結晶型が一種類の結晶型からなり、当該一種類の結晶型が、InGaZnOで表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域1の組成比を満たすターゲットの製造に有用である。
【0083】
焼結温度は、通常1350℃超1540℃以下であり、1380〜1510℃が好ましく、1400〜1490℃がより好ましい。焼結温度が1350℃以下であったり、1540℃を超えたりすると、上記結晶型(InGaZnOで表されるホモロガス結晶構造)以外の結晶型となるおそれがある。
【0084】
また、焼結時間は、通常2時間以上36時間以下であり、4〜24時間が好ましく、8〜12時間がより好ましい。焼結時間が36時間を超えると、上記結晶型(InGaZnOで表されるホモロガス結晶構造)以外の結晶型となるおそれがある。
【0085】
その他の条件については、本発明の第一の製造方法と同様であるため、ここでは省略する。
【0086】
本発明の第三の製造方法は、下記(f)〜(i)の工程を含むことを特徴とする。
(f)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(g)前記混合物を成形して成形体を調製する工程、
(h)雰囲気を昇温速度10℃/分以下で昇温する工程、
(i)前記昇温した成形体をさらに1100℃以上1350℃以下で4時間以上96時間以下焼結する工程
【0087】
本発明の第三の製造方法は、前記本発明のターゲットのうち、実質同一の結晶型が、ZnGaで表されるスピネル結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域1又は領域3の組成比を満たすスパッタリングターゲットを製造するのに有用である。
【0088】
昇温速度は、通常10℃/分以下であり、6℃/分以下が好ましく、3℃/分以下がより好ましい。昇温速度が10℃/分超であると、表面部分と内部の結晶型等の性状が変わる、あるいはターゲットにクラックが発生するおそれがある。尚、昇温速度の下限値は、0.3℃/分程度である。
【0089】
焼結温度は、通常1100℃以上1350℃以下であり、1200℃以上1300℃以下が好ましい。1100℃未満であると、相対密度が上がらないおそれや焼結に時間が掛かるおそれがある。1350℃超であると、高温で生成する他の結晶型が生成し、上記の結晶型(ZnGaで表されるスピネル結晶構造及びInで表されるビックスバイト結晶構造)が安定して得られないおそれがある。
【0090】
焼結時間は、通常4時間以上96時間以下であり、4時間以上48時間以下が好ましく、6時間以上24時間以下がより好ましい。4時間未満であると、相対密度が上がらないおそれがある。96時間以上であると、組成の一部が蒸発し組成比の変動が発生するおそれがあり、また製造に時間が掛かりすぎ工業化することが難しい。
【0091】
その他の条件については、本発明の第一又は第二の製造方法と同様であるため、ここでは省略する。
【0092】
<ターゲットの製造工程毎の説明>
(1)配合工程
配合工程は、スパッタリングターゲットの原料である金属酸化物を混合する工程である。
【0093】
原料としては、インジウム化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末等の粉末を用いる。ターゲットの原料となる各金属化合物の比表面積(BET比表面積)は、JIS Z 8830に記載の方法によって測定することができる。インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。ガリウム化合物としては、例えば、酸化ガリウム、水酸化ガリウム等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。また、原料の一部として金属亜鉛(亜鉛末)を用いることが好ましい。原料の一部に亜鉛末を用いるとホワイトスポットの生成を低減することができる。
【0094】
また、原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2Nより低いと、得られる薄膜の耐久性が低下したり、液晶ディスプレイに用いた際に液晶側に不純物が入り、焼き付けが起こるおそれがある。
【0095】
金属酸化物等のターゲットの製造に用いる原料を混合し、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。
【0096】
(2)仮焼工程
仮焼工程は、スパッタリングターゲットの原料である化合物の混合物を得た後、この混合物を仮焼する、必要に応じて設けられる工程である。
仮焼を行うと、密度を上げることが容易になり好ましいが、コストアップになるおそれがある。そのため、仮焼を行わずに密度を上げられることがより好ましい。
【0097】
仮焼工程においては、500〜1200℃で、1〜100時間の条件で金属酸化物の混合物を熱処理することが好ましい。500℃未満又は1時間未満の熱処理条件では、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が不十分となる場合があるためである。一方、熱処理条件が、1200℃を超えた場合又は100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合があるためである。
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
【0098】
尚、ここで得られた仮焼物は、下記の成形工程及び焼成工程の前に粉砕するのが好ましい。
【0099】
(3)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、成形処理により所望の形状に成形することができる。
【0100】
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、プレス成形(一軸プレス)、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
また、プレス成形(一軸プレス)後に、冷間静水圧(CIP)、熱間静水圧(HIP)等を行い2段階以上の成形工程を設けると再現性を高めるという点で好ましい。
【0101】
CIP(冷間静水圧、あるいは静水圧加圧装置)を用いる場合、面圧800〜4000kgf/cmで0.5〜60分保持することが好ましい。面圧2000〜3000kgf/cmで2〜30分保持することがより好ましい。また、面圧が800kgf/cm未満であると、焼結後の密度が上がらないあるいは抵抗が高くなるおそれがある。面圧4000kgf/cmを超えると装置が大きくなりすぎ不経済となるおそれがある。保持時間が0.5分未満であると焼結後の密度が上がらないあるいは抵抗が高くなるおそれがある。60分を超えると時間が掛かりすぎ不経済となるおそれがある。
【0102】
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0103】
(4)焼結工程
焼結工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼成する工程である。
【0104】
この場合の焼結条件としては、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下で行うことが好ましい。酸素ガスを含有しない雰囲気で焼結すると、得られるターゲットの密度を十分に向上させることができず、スパッタリング時の異常放電の発生を十分に抑制できなくなる場合がある。
【0105】
焼結時には、前記所定の雰囲気の昇温速度で昇温を行う。また、昇温の途中で一度昇温を止め保持温度で保持し、2段階以上で焼結を行ってもよい。
【0106】
また、焼成時の雰囲気の降温速度(冷却速度)は、通常4℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.8℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。4℃/分以下であると、所望の本発明の結晶型が得られやすい。また、降温時にクラックが発生しにくい。
【0107】
(5)還元工程
還元工程は、上記焼結工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として低減するために還元処理を行う、必要に応じて設けられる工程である。
【0108】
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
【0109】
本発明では、還元処理(アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気、水素雰囲気、あるいは真空や低圧での熱処理)は行わないことが好ましい。還元処理を行うと、表面部と深部の抵抗値の違いを発生あるいは増幅させるおそれがある。
【0110】
(6)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
【0111】
酸化物焼結体をスパッタリングターゲット素材とするには、該焼結体を例えば、平面研削盤で研削して表面粗さRaが5μm以下とすることが好ましい。ターゲット素材の表面粗さRaは0.5μm以下であり、方向性のない研削面を備えていることが好ましい。Raが0.5μmより大きかったり、研磨面に方向性があると、異常放電が起きたり、パーティクルが発生するおそれがある。
ここで、さらにスパッタリングターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaを1000オングストローム以下としてもよい。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、公知の研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。
【0112】
表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番より小さい、あるいは10,000番より大きいダイヤモンド砥石を使用するとターゲットが割れやすくなるおそれがある。
このような研磨方法には特に制限はない。得られたスパッタリングターゲット素材をバッキングプレートへボンディングする。
【0113】
ターゲット素材の厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。また、複数のターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。
【0114】
次に、清浄処理にはエアーブローあるいは流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。尚、以上のエアーブローや流水洗浄では限界があるので、さらに超音波洗浄等を行なうこともできる。この超音波洗浄は周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのが良い。
尚、作製したターゲットの組成比(原子比)は、誘導プラズマ発光分析装置(ICP−AES)による分析で求めることができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0116】
実施例1
(1)ターゲットの作製
下記条件で同時に同じ酸化物焼結体を2個以上作製し、1個を破壊試験用とした(切断し評価した)。
【0117】
(a)原料
In 純度4N、アジア物性材料(株)製
Ga 純度4N、アジア物性材料(株)製
ZnO 純度4N、高純度化学(株)製
(b)混合:ボールミルで24時間混合した。
(c)造粒:自然乾燥
(d)成形:
プレス成形、面圧400kgf/cm、1分保持
CIP(静水圧加圧装置)、面圧2200kgf/cm、5分保持
(e)焼結:電気炉
昇温速度 1℃/分
焼結温度 1300℃
焼結時間 20時間
焼結雰囲気 酸素雰囲気
冷却速度 0.3℃/分
(f)後処理:還元条件下での熱処理(還元処理)は行わなかった。
(g)加工:厚さ6mmの焼結体を厚さ5mmに研削・研磨した。
尚、上下面・側辺をダイヤモンドカッターで切断して、表面を平面研削盤で研削して表面粗さRaが5μm以下のターゲット素材とした。
(h)得られたターゲット用焼結体のうち1個を、深部測定用に厚み2.5mmの部位で切断した。
(i)得られたターゲット用焼結体の表面をエアーブローし、さらに3分間超音波洗浄を行なった後、インジウム半田にて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングしてターゲットとした。ターゲットの表面粗さRaは0.5μm以下であり、方向性のない研削面を備えていた。
【0118】
(2)ターゲット用焼結体の評価
得られたターゲット用焼結体の評価は下記の方法で行った。
【0119】
(a)比抵抗
抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用し四探針法(JIS R 1637)に基づき測定、10箇所の平均値を抵抗率値とした。得られたターゲット用焼結体表面の比抵抗(R1)及び内部の比抵抗(R2)から、比(R1/R2)を算出した。
【0120】
(b)X線回折測定(XRD)
ターゲット用焼結体及びその切断片を下記条件で直接測定し、結晶型を決定した。
・装置:(株)リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0121】
酸化物焼結体中に含まれる化合物の結晶型は、表3に示すJCPDSカードと照合することによって決定した。
【0122】
(c)粒径(μm)
酸化物結晶の粒径は、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)で測定し、表1に平均粒径で示す。
(d)組成比(原子比)
ターゲットから試料を採取し、誘導プラズマ発光分析装置(ICP−AES)で分析して原子比を求めた。
【0123】
結晶型の同一性は、XRDで同定された結晶型について、一方にしか含まれない結晶型が無い(同定された結晶型が全て一致する)場合を「同一」と判定し、一方にしか含まれない結晶型が有る場合を「同一でない」と判定した(前記を満たせばピーク強度に差があるもの(±50%程度)も同一と判断した)。
また、ターゲット用焼結体表面及び内部の元素組成比(原子比)の同一性は、各金属元素について±0.01以内を同一と判断した。
ターゲット用焼結体表面及び内部の粒径の同一性は、ともに5μm以内である場合を同一と判断した。
ターゲット用焼結体表面及び内部の比抵抗の同一性は、±50%以内を同一と判断した。
元素組成比の同一性は、表面及び内部(切断後の表面)から試料を採取し、ICP分析法で分析して組成比(原子比)を比較し判断した。
【0124】
(3)TFTの作製
完成したスパッタリングターゲットを用いて、図1のチャンネルストッパー型薄膜トランジスタ(逆スタガ型薄膜トランジスタ)を作製し、評価した。
【0125】
基板10は、ガラス基板(Corning 1737)を用いた。まず、基板10上に電子ビーム蒸着法により、厚さ10nmのMoと厚さ80nmのAlと厚さ10nmのMoをこの順で積層した。積層膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いて、ゲート電極20を形成した。
【0126】
ゲート電極20及び基板10上に、厚さ200nmのSiO膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁層30を形成した。尚、ゲート絶縁層の成膜はスパッタ法でもよいが、TEOS(テトラエトキシシラン)−CVD法やプラズマ化学気相成長法(PECVD)法等のCVD法で形成することが好ましい。スパッタ法ではオフ電流が高くなるおそれがある。
【0127】
続いて、RFスパッタ法により、上記(1)で作製したターゲットを使用して、厚さ50nmの半導体膜40(チャネル層)を形成した。その後、大気中300℃で60分間熱処理した。
【0128】
半導体膜40の上に、スパッタ法によりエッチングストッパー層60(保護膜)としてSiO膜を堆積した。尚、保護膜の成膜方法はCVD法でもよい。
【0129】
本実施例では、投入RFパワーは200Wとした。成膜時の雰囲気は、全圧0.4Paであり、その際のガス流量比はAr:O=95:5であった。また、基板温度は50℃であった。堆積させた酸化物半導体膜と保護膜は、フォトリソグラフィー法及びエッチング法により、適当な大きさに加工した。
【0130】
エッチングストッパー層60の形成後に、厚さ5nmのMoと厚さ50nmのAlと厚さ5nmのMoをこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とドライエッチングにより、ソース電極50及びドレイン電極52を形成した。
【0131】
その後、大気中300℃で60分間熱処理し、チャネル長が20μmで、チャネル幅が20μmのトランジスタを得た。
【0132】
(4)TFTの評価
薄膜トランジスタの評価は、以下のように実施した。
(a)移動度(電界効果移動度(μ))
半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200)を用い、室温、遮光環境下で測定した。
【0133】
(b)S値(V/decade)
半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200)を用い、室温、遮光環境下で測定した。
【0134】
(c)混酸耐性
(i)混酸耐性評価用簡易素子の作製
シャドーマスクを用い簡易素子を作製した。熱酸化膜(100nm)付シリコン基板に半導体層形成用のシャドーマスクを付け、上記(3)と同様の条件で半導体膜を成膜した。次にソース・ドレイン電極形成用のシャドーマスクを付け、金電極をスパッタリングで成膜しソース・ドレイン電極とし、チャンネル長(L)200μm、チャンネル幅(W)1000μmの混酸耐性評価用簡易素子(TFT)とした。
【0135】
(ii)混酸耐性の評価
駆動を確認できた混酸耐性評価用簡易素子(TFT)を混酸(リン酸系水溶液、30℃)に10秒間浸けた後、ドライエアー及び150℃15分で乾燥させた後TFT特性を測定した。ゲート電(Vg)15V、ドレイン電圧(Vd)15Vで10−6A以上のドレイン電流(Id)が確認できたものをA、できなかったものをBとして2段階で評価した。
【0136】
(d)光電流の評価
光照射下と遮光環境下の測定を比較し、閾値電圧(Vth)の変動が2V未満のものをA、2V以上のものをBとして2段階で評価した。
【0137】
(5)スパッタリングターゲットの長期使用時の安定性の評価
(a)成膜速度の安定性(変動)
1000時間連続放電(成膜)前後の成膜速度を比較した。
変動が5%未満のものをA、5%以上10%未満のものをB、10%以上のものをCと評価した。
【0138】
成膜速度(スパッタレート)は、触針式表面形状測定器 Dectak(アルバック(株)社製)で測定した膜厚を成膜時間で割ることで求めた。
【0139】
(b)TFT特性の安定性(変動)
1000時間連続放電(成膜)前後にTFTを作製し、TFT特性(オン電流)の変動を評価した。変動が10%未満のものをA、10%以上20%未満のものをB、20%以上のものをCと評価した。
【0140】
(6)その他
電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による組成分布の測定で、表面、深部ともにインジウムリッチ部分は周囲よりも酸素含有量が少ないことが確認できた。
同様に作製した薄膜を用いてターゲットとの組成比の違いを評価した。組成比はICP分析法で分析して求めた。ターゲットと薄膜の組成比はほぼ同一(薄膜の各元素の組成比がターゲットの各元素の組成比の±2%以内)であった。
【0141】
実施例2〜9及び比較例1〜8
表2−1及び表2−2に示す組成及び条件とした以外は実施例1と同様にして酸化物焼結体、スパッタリングターゲット及びTFTを作製し、評価した。結果を表2−1及び表2−2に示す。
尚、実施例3及び後述する参考例1〜3、5及び6で用いたSn化合物は下記の通りである。
SnO 純度4N、高純度化学(株)製
尚、実施例8において、XRDから求めたInのビックスバイト構造の格子定数は、格子定数a=10.074であった。
【0142】
実施例10及び11
半導体膜50nmで作製した場合には、ノーマリーオンとなったため、半導体膜を15nmとしてTFTを作製した。半導体膜の厚みを15nmとし、表2−1に示す組成及び条件とした以外は実施例1と同様にして酸化物焼結体、スパッタリングターゲット及びTFTを作製し、評価した。結果を表2−1に示す。
【0143】
尚、EPMAによる測定で、表面、深部ともに実施例10及び11のInの含有量が多い組織は周囲よりも酸素含有量が少ないことが確認できた。
また、EPMAによる測定で、表面、深部ともに実施例3のInの含有量が多い組織は周囲よりも錫(Sn)含有量が多いことが確認できた。
【0144】
参考例1〜6
表2−3に、Gaを含まない焼結体の参考例を示した。Gaを含まない焼結体は、ターゲットの厚み方向の結晶型の変動が起りにくいことがわかる。この結果から、本発明の長期に渡る安定性という課題は、Gaを含む焼結体の場合(酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛を原料として含むスパッタリングターゲットの場合)に顕著となる課題であることが確認できる。
【0145】
実施例1及び比較例1で作製したターゲット用焼結体の元素組成比(原子比)、粒径及び比抵抗を表1に示す。
実施例、比較例及び参考例で作製したターゲット用焼結体及びTFTの各種特性等を表2−1〜2−3に示す。尚、ターゲットの結晶型における「△」は、微量成分(不純物成分、メインピークの高さが主成分のメインピークの高さの50%以下)を意味する。
結晶型とJCPDSカードNo.の対比を表3に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
【表2−1】

【0148】
【表2−2】

【0149】
【表2−3】

【0150】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、長期に渡る成膜を行った際に、得られる薄膜の特性の安定性に優れたスパッタリングターゲットを提供することができる。
本発明によれば、安定したTFT特性を有する薄膜トランジスタを効率的に提供することができる。
【符号の説明】
【0152】
1 チャンネルストッパー型薄膜トランジスタ
10 基板
20 ゲート電極
30 ゲート絶縁層
40 半導体層(チャンネル層)
50 ソース電極
52 ドレイン電極
60 エッチングストッパー層(保護膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In、Zn、及びGaを含み、
表面と内部の化合物の結晶型が実質的に同一である酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記酸化物焼結体の表面の比抵抗(R1)と表面からt/2mmの深部の比抵抗(R2)の比R1/R2が、0.4以上2.5以下である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化物焼結体のIn、Zn、及びGaの組成比(原子比)が、下記領域1〜6のいずれかを満たす、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
領域1
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.50
0.58≦In/(In+Zn)≦0.85
In/(In+Ga)≦0.58
領域2
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.50
0.20≦In/(In+Zn)<0.58
In/(In+Ga)≦0.58
領域3
0.20<Ga/(In+Ga+Zn)
0.51≦In/(In+Zn)≦0.85
0.58<In/(In+Ga)
領域4
0.00<Ga/(In+Ga+Zn)<0.15
0.20≦In/(In+Zn)<0.51
0.58<In/(In+Ga)
領域5
0.00<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.20
0.51≦In/(In+Zn)≦0.85
領域6
0.15≦Ga/(In+Ga+Zn)
In/(In+Zn)<0.51
0.58<In/(In+Ga)
【請求項4】
前記実質同一の結晶型が、一種類の結晶型のみからなる、請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記一種類の結晶型が、InGaZnOで表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域1の組成比を満たす、請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記一種類の結晶型が、InGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造であり、かつ前記領域2又は領域3の組成比を満たす、請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記一種類の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造であり、かつ前記領域4の組成比を満たす、請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記実質同一の結晶型が、ZnGaで表されるスピネル結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域1又は領域3の組成比を満たす、請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記実質同一の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、Inで表されるビックスバイト結晶構造とを含み、かつ前記領域5の組成比を満たす、請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記実質同一の結晶型が、2θ=7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°にCukα線のX線回折ピークを有する結晶構造と、InGaO(ZnO)で表されるホモロガス結晶構造とを含み、かつ上記領域6の組成比を満たす、請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
下記(a)〜(e)の工程を含む請求項4、5、6及び8のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(b)前記混合物を成形して厚み6.0mm以上の成形体を調製する工程、
(c)雰囲気を昇温速度3℃/分以下で昇温する工程、
(d)前記昇温した成形体をさらに1280℃以上1520℃以下で2時間以上96時間以下焼結し、厚み5.5mm以上の焼結体を得る工程、
(e)前記焼結体の表面を0.25mm以上研削する工程
【請求項12】
下記(a)〜(e)の工程を含む請求項5に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(b)前記混合物を成形して厚み6.0mm以上の成形体を調製する工程、
(c)雰囲気を昇温速度3℃/分以下で昇温する工程、
(d)前記昇温した成形体をさらに1350℃超1540℃以下で2時間以上36時間以下焼結し、厚み5.5mm以上の焼結体を得る工程、
(e)前記焼結体の表面を0.25mm以上研削する工程
【請求項13】
下記(f)〜(i)の工程を含む請求項8のスパッタリングターゲットの製造方法。
(f)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程、
(g)前記混合物を成形して成形体を調製する工程、
(h)雰囲気を昇温速度10℃/分以下で昇温する工程、
(i)前記昇温した成形体をさらに1100℃以上1350℃以下で4時間以上96時間以下焼結する工程

【図1】
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【公開番号】特開2011−106003(P2011−106003A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264086(P2009−264086)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】