説明

長繊維強化樹脂ペレットの製造方法

【課題】本発明は、高いガラス含有率を確保しながら、生産速度の向上を図ることができる長繊維強化ペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、溶融状態の熱可塑性樹脂8が供給される樹脂含浸槽4内で、連続した複数のガラス繊維10を束ねてなるガラス繊維束30を複数のロッド3に掛け渡してジグザグに搬送することにより、ガラス繊維束30の断面形状を扁平に変形させてほぐしながら、ガラス繊維束30に溶融状態の熱可塑性樹脂8を含浸させ、その後、樹脂含浸槽4の引き出し孔5を通じてガラス繊維束30を引き出した後、ペレット状に切断する長繊維強化樹脂ペレット50の製造方法であって、引き出し孔5の断面形状は、その長手方向がロッド3の軸線方向に沿った扁平形状をなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品の成形材料として利用される長繊維強化樹脂ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長繊維強化ペレットの製造方法として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載された長繊維強化ペレットの製造方法では、溶融状態の熱可塑性樹脂が容れられた樹脂含浸槽内において、ガラス繊維束を複数のロッドに巻き掛けてジグザグに搬送することにより、溶融状態の熱可塑性樹脂を含浸させ、その後、樹脂含浸槽の引き出し孔において、前記ガラス繊維束を引き出した後、ペレット状に切断している。この製造方法では、ガラス繊維束を開繊しながら、熱可塑性樹脂を含浸させることで、ガラス繊維束に対する熱可塑性樹脂の含浸性を高め、ペレットの機械的強度の向上を図っている。
【特許文献1】特許第3234877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、このような長繊維強化ペレットの製造にあたっては、ガラス含有率の高い製品が望まれている。しかし、単純にペレットのガラス含有率を高くすると毛羽が発生しやすくなり、その結果、糸切れがおきてしまうという問題があった。ペレットの生産速度を向上させるためにガラス繊維束の搬送速度を上げた場合には、更に糸切れが発生しやすくなる。特に、前述したような従来の長繊維強化ペレットの製造方法においては、一般的に、円形の引き出し孔が採用されており、ガラス繊維束の搬送速度を上げると、扁平に変形したガラス繊維束を引き出す際にガラス繊維束に大きな負荷がかかる。その結果、ガラス繊維束から毛羽が生じたりガラス繊維束が切断されたりするため、生産速度を向上させることが更に難しいという問題があった。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高いガラス含有率を確保しながら、生産速度の向上を図ることができる長繊維強化ペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、溶融状態の熱可塑性樹脂が容れられた樹脂含浸槽内で、連続した複数のガラス繊維を束ねてなるガラス繊維束を複数のロッドに掛け渡してジグザグに搬送することにより、ガラス繊維束の断面形状を扁平に変形させて開繊しながら、ガラス繊維束に溶融状態の熱可塑性樹脂を含浸させ、その後、樹脂含浸槽の引き出し孔を通じてガラス繊維束を引き出した後、ペレット状に切断する長繊維強化樹脂ペレットの製造方法であって、引き出し孔の断面形状は、その長手方向がロッドの軸線方向に沿った扁平形状をなすことを特徴とする。
【0006】
この長繊維強化樹脂ペレットの製造方法によれば、引き出し孔の断面形状の長手方向がロッドの軸線方向に沿った扁平形状をなしているため、複数のロッドに掛け渡してジグザグに搬送されることによって断面形状が扁平に変形されたガラス繊維束を引き出し孔から引き出すにあたり、ガラス繊維束に加わる負荷を低減することができる。その結果、搬送速度を上げた際に引き出し孔においてガラス繊維束に毛羽が生じたり切断したりすることを抑制できるので、高いガラス含有率を確保しながら、ペレットの生産速度の向上を図ることができる。
【0007】
また、引き出し孔の断面形状の長手方向における最大幅と前記長手方向に直交する方向における最大幅との比率が2:1〜8:1であることが好ましい。この場合、好適に引き出し孔においてガラス繊維束に加わる負荷を低減することができるので、ペレットの生産速度の向上に有利である。
【0008】
また、引き出し孔の断面形状は、楕円形状又は長円形状であることが好ましい。複数のロッドにより扁平に変形されたガラス繊維束の断面形状は、楕円形状や長円形状に近い形状となる。従って、引き出し孔の断面形状を楕円形状又は長円形状とすることで、引き出し孔においてガラス繊維束に加わる負荷の低減が図られるため、ペレットの生産速度の向上に有利である。
【0009】
複数のロッドは、周方向に回転しない非回転ロッドであることが好ましい。このような構成は、複数のロッドがガラス繊維束の搬送に合わせて回転する場合と比べて、ガラス繊維束の断面形状をより効果的に変形させるため、ガラス繊維束に対する熱可塑性樹脂の含浸性を高めることができる。
【0010】
また、ロッドにおけるガラス繊維束の折れ角が120°〜60°であることが好ましい。折れ角が120°より大きいと、ガラス繊維束の断面形状が扁平に変形されにくくなってしまう。また、60°未満の場合には、樹脂含浸槽内のガラス繊維束にテンションが均一に掛からないため、毛羽が生じて、ガラス繊維束が切れる可能性が高くなる。
【0011】
また、ガラス繊維束の搬送方向における樹脂含浸槽の手前には、ガラス繊維束にテンションを加えるためのテンション付加手段が設けられ、ガラス繊維束には、テンション付加手段と樹脂含浸槽との間において、200gf〜1400gfのテンションが掛けられていることが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、ガラス繊維束が複数のロッド間をジグザグに搬送されるにあたり、ガラス繊維束はより強い力でロッドに押し付けられるので、ガラス繊維束の断面形状は短時間で扁平になり、樹脂との接触面積が増えるため含浸性が向上する。その結果、生産速度の向上が図られる。また、テンションを加えることにより、ガラス繊維束におけるガラス繊維の引き揃えが行われるため、引き出し孔においてガラス繊維のほつれ等の発生を抑制できる。その結果、ほつれたガラス繊維と引き出し孔との摩擦で生じる糸切れを低減できる。
【0013】
また、ガラス繊維束は、複数のガラス繊維を束ねたガラス繊維中間束を複数束ねてなることが好ましい。このような構成によれば、ガラス繊維束が複数のロッドによりジグザグに搬送されて、その断面形状が変形されるにあたり、ガラス繊維間に生じる隙間に加えてガラス繊維を束ねたガラス繊維中間束間に生じるより大きな隙間に溶融状態の熱可塑性樹脂が入り込むため、ガラス繊維を直接束ねた場合と比べて、ガラス繊維束に対する熱可塑性樹脂の含浸性を高めることができる。
【0014】
また、ガラス繊維は、断面形状が扁平であり、ガラス繊維の断面形状の長手方向における最大幅と前記長手方向に直交する方向における最大幅との比率が1.5:1〜6:1であることが好ましい。前記の形状を有するガラス繊維からなるガラス繊維束は、複数のロッドに掛け渡してジグザグに搬送される際に、各々のガラス繊維がその断面の長手方向に引き揃えられるので、扁平の度合いが大きい。従って、扁平の引き出し孔からガラス繊維を引き出す際に、ガラス繊維束に加わる負荷の低減が図られるため、ペレットの生産速度の向上に有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いガラス含有率を確保しながら、生産速度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る長繊維強化ペレットの製造方法を説明するための概略側面図であり、図2は、図1のガラス繊維束を示す断面図である。図3は、図1のロッドを示す側面図である。なお、同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る長繊維強化ペレットの製造方法に用いられるペレット製造装置1は、ガラス繊維束30にテンションを加えるためのテンションロッド(テンション付加手段)2と、ガラス繊維束30がジグザグに掛け渡される14本の搬送用ロッド3と、ガラス繊維束30に熱可塑性樹脂を含浸させるための樹脂含浸槽4と、を備えている。更に、ペレット製造装置1は、ガラス繊維束30をX軸方向に搬送するための一対の搬送ローラ6と、樹脂含浸槽4の引き出し孔5から引き出されたガラス繊維束30をペレット状に切断するための切断機7と、を備えている。なお、図1に示すように、ガラス繊維束30が搬送される方向をX軸方向、鉛直方向をZ軸方向とし、X軸及びZ軸に直交する方向をY軸方向とする。
【0019】
図2に示すように、ガラス繊維束30は、長円形状の断面を有するガラス繊維10を複数本束ねて形成されたガラス繊維中間束20を更に複数本束ねることで形成される。ガラス繊維束30を構成するガラス繊維10は、長円形状の断面を有する場合、長円形状の断面の長手方向における幅と長手方向に直交する方向における幅との比率が1.5:1〜6:1であることが好ましい。この比率が1.5:1より小さい場合には、通常の円形断面のものと比べて後述する搬送ローラ3における開繊効果がほぼ変わらず、6:1を超えると長繊維強化ペレット50の製造作業の効率が低下してしまう。このガラス繊維10の断面の長手方向における幅と長手方向に直交する方向における幅との比率としては、3:1〜5:1であることがより好ましい。なお、図には示していないがガラス繊維束30は、ガラス繊維10を複数本束ねた構成でもよい。また、ガラス繊維10の断面形状は円形状であってもよく、円形状の断面を有する場合には、その断面の直径は3μm〜23μmであることが好ましく、6μm〜18μmであることが更に好ましい。
【0020】
また、ガラス繊維10が長円形状の場合、断面の長手方向に直交する方向における最大幅は1μm〜18μmであることが好ましい。長手方向に直交する方向における最大幅が1μm未満のガラス繊維は製造することが難しい。一方、18μmを超えると、剛性が高くなりすぎ搬送時に切断等が生じる可能性が高くなる。また、断面の長手方向における最大幅は、4μm〜50μmであることが好ましい。長手方向における最大幅が4μm未満の場合は、ガラス繊維10の生産性が低下し製造コストが大きくなる。一方、50μmを超えると、剛性が高くなりすぎ搬送時に切断等が生じる可能性が高くなる。
【0021】
このようなガラス繊維10を集束剤により100〜4000本の複数本束ねることでガラス繊維中間束20、いわゆるガラス繊維ストランドが形成される。ガラス繊維中間束20としては、番手が30Tex〜2400Texで在ることが好ましく、200Tex〜800Texで在ることがより好ましく、更に300Tex〜500Texで在ることが特に好ましい。ガラス繊維中間束20は、円筒状の巻芯を中心として巻き取られ、巻体21を形成する。
【0022】
ガラス繊維束30は、複数個の巻体21から引き出されたガラス繊維中間束20を束ねることで形成される。ガラス繊維束30は、複数のガラス繊維ストランドから形成されるいわゆる合糸ロービングに相当する。このようなガラス繊維束30としては、ガラス繊維中間束20の本数が2本〜30本、ガラス繊維束30の番手が60Tex〜7700Texで在ることが好ましく、またガラス繊維中間束20の本数が3本〜16本、ガラス繊維束30の番手が600Tex〜6000Texで在ることがより好ましく、ガラス繊維中間束20の本数が4本〜12本、ガラス繊維束30の番手が1200Tex〜3000Texで在ることが特に好ましい。
【0023】
図1に示すように、第1のテンションロッド2は、Y軸方向に延在する中心軸線を有する円柱形状の部材であり、X軸方向に並んで2本設けられている。これらのテンションロッド2の外周面には、ガラス繊維束30が2つのテンションロッド2を囲う長円を描くように巻き掛けられている。これらのテンションロッド2は、ペレット製造装置1内で位置が固定されており、搬送されるガラス繊維束30とテンションロッド2との間に生じる摩擦力によってガラス繊維束30にテンションが掛けられる。テンションを掛ける方法は、テンションロッド2を囲う長円を描くように一回巻き掛けてもよく、複数回巻き掛けてもよい。また、テンションは、ガラス繊維束30がテンションロッド2の後に設けられた搬送用ロッド3に接触することによっても掛けられる。搬送用ロッド3はテンションの微調整に用いることができる。
【0024】
このようなテンションロッド2としては、本数が2本に限られず、2本〜20本であるものが好ましい。また、テンションロッド2とガラス繊維束30とが接している長さである接触距離は、25mm〜60mmであることが好ましく、30mm〜50mmであることがより好ましい。更に、テンションロッド2の直径は、3mm〜18mmであることが好ましく、6mm〜12mmであることがより好ましい。また、ガラス繊維束30がテンションロッド2に接触している角度(テンションロッド2の中心軸を中心とした周方向の角度)の合計である接触角は、300°〜1100°であることが好ましく、720°〜990°であることがより好まく、850°〜950°であることが更に好ましい。また、テンションロッド2の材質としては、鉄やステンレス合金、真鍮等が例示されるが、ガラス繊維束30の摩擦により傷が生じにくいものが選択される。
【0025】
また、ガラス繊維束30に掛かっているテンションは、テンションロッド2とガラス繊維束30がテンションロッド2から直接掛け渡された搬送用ロッド3との間において、200gf〜1400gfであることが好ましく、800gf〜1200gfであることがより好ましい。このテンションが200gf未満の場合には、ガラス繊維束30内でガラス繊維中間束20やガラス繊維10に緩みが生じてしまい、長繊維強化ペレット50の機械的強度等の品質が低下するおそれがある。また、テンションが1400gfを超える場合には、ガラス繊維中間束20やガラス繊維10が切れる可能性が高くなる。このテンションの測定は、2個の固定ローラと、2個の固定ローラの間に設けられると共に2個の固定ローラの中心軸を含む面に対して直交する方向に移動可能な可動ローラとを備える測定器により行うことができる。このような測定器において、2個の固定ローラの外周面の上端と可動ローラの外周面の下端との間にガラス繊維束30を挟みこみ、可動ローラに加わる反力をひずみゲージやバネにより検出することでガラス繊維束30に掛かっているテンションを測定できる。このような測定器としては、日本電産シンポ(株)製のDTM−2Kが例示される。
【0026】
搬送用ロッド3は、Y軸方向に延在する中心軸線を有する円柱形状の部材であり、ガラス繊維束30が掛け渡されてガラス繊維束30の搬送をガイドする。搬送用ロッド3は、ペレット製造装置1内で位置が固定され、周方向に回転不能な非回転ロッドである。搬送用ロッド3は、X軸方向に所定の間隔で7本ずつ並べられ、上下2列で合計14本設けられている。また、搬送用ロッド3は、Z軸方向において互いに重ならないように設けられている。これらの搬送用ロッド3は、樹脂含浸槽4の入口を跨いで配列されており、樹脂含浸槽4内外に渡ってガラス繊維束30の搬送をガイドする。
【0027】
このように構成された搬送用ロッド3には、テンションロッド2から搬送されるガラス繊維束30がジグザグに掛け渡されている。ガラス繊維束30は、搬送用ロッド3の各々において上方又は下方に押圧力を加えられ、その断面形状がZ軸方向につぶれ、かつY軸方向に拡がった形状、すなわち扁平な形状となるように変形される。その結果、ガラス繊維束30内においてガラス繊維中間束20及びガラス繊維10が開繊され、溶融状態の熱可塑性樹脂8がガラス繊維中間束20及びガラス繊維束10内に侵入しやすくなる。
【0028】
このような搬送用ロッド3としては、ロッドの本数が3本〜20本であることが好ましく、4本〜16本であることがより好ましい。ロッドの本数が3本未満である場合には、ガラス繊維束30が十分に開繊されず、また20本より多くしても、開繊効果はあまり向上しない。また、搬送用ロッド3の直径は、テンションロッド2と同じであっても異なっていても良く、3mm〜18mmであることが好ましく、6mm〜12mmであることがより好ましい。また、搬送用ロッド3の材質は、テンションロッド2と同じであっても異なっていても良く、鉄やステンレス合金、真鍮等からガラス繊維束30の摩擦により傷が生じにくいものが選択される。
【0029】
また、各々の搬送用ロッド3は、1本の搬送用ロッド3におけるガラス繊維束30の折れ角α、すなわちXZ平面内において搬送されるガラス繊維束30が搬送用ロッド3に接触する点Tの接線とガラス繊維束30が搬送用ロッド3から離れる点Rの接線とがなす角αが90°〜120°となるように配置されていることが好ましい(図3参照)。この折れ角αが120°より大きいと、ガラス繊維束30の断面形状が扁平に変形されにくくなってしまう。また、折れ角αが60°未満の場合には、樹脂含浸槽4内のガラス繊維束30にテンションが均一に掛からないため、毛羽が生じて、その結果、ガラス繊維束30が切れる可能性が高くなる。この折れ角αとしては、80°〜100°であることがより好ましく、90°であることが特に好ましい。
【0030】
樹脂含浸槽4には、図示しない樹脂層から溶融状態の熱可塑性樹脂8が供給されている。樹脂含浸槽4内では、搬送用ロッド3によってガイドされたガラス繊維束30が溶融状態の熱可塑性樹脂8中を搬送される。このとき、ガラス繊維束30の周囲及び内部に熱可塑性樹脂8の含浸が行われる。
【0031】
樹脂含浸槽4に供給される熱可塑性樹脂8は、加熱によって溶融状態となる熱可塑性樹脂であれば良く、具体的には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカーボネイト、ポリプロピレンに酸変性ポリプロピレンを配合したものなどが好適であり、ナイロン又はポリプロピレンであることが特に好ましい。
【0032】
図4(a)は、引き出し孔を示す正面図である。図1及び図4(a)に示すように、引き出し孔5は、樹脂含浸槽4からガラス繊維束30を引き出すための孔であり、その断面形状(XY平面を切断面とした断面形状)が搬送用ロッド3によって扁平に変形されたガラス繊維束30の断面形状に対応した長円形状をなしている。この長円の長手方向は、Y軸方向と略一致し、Z軸方向に略直交する。引き出し孔5の断面の長手方向における幅と長手方向に直交する方向における幅との比率は、2:1〜8:1であることが好ましく、3:1〜6:1であることがより好ましい。
【0033】
ガラス繊維束30を構成するガラス繊維10の断面積の合計と引き出し孔5の断面積との比率は、1:1.5〜1:4であることが好ましく、1:1.8〜1:2.4であることがより好ましい。ガラス繊維10の断面積の合計に対する引き出し孔5の断面積の比率が1.5未満の場合、引き出し孔5とガラス繊維束30との摩擦によりガラス繊維30が切れやすくなり生産性が低くなる。一方、引き出し孔5の断面積の比率が4より大きい場合にはペレットのガラス含有率が低くなる。
【0034】
搬送ローラ6は、樹脂含浸槽4の引き出し孔5の外側に設けられ、ガラス繊維束30を挟み込む上下一対のローラである。搬送ローラ6は、モータによって回転駆動され、これによってガラス繊維束30は引き出し孔5から引き出されると共に、切断機7に向かって搬送される。
【0035】
切断機7は、ガラス繊維束30を下方に向けてガイドするガイドローラ7Aと、ガイドローラ7Aの外周面上でガラス繊維束30を切断する回転カッタ部7Bと、を備えている。切断機7は、熱可塑性樹脂8が含浸されたガラス繊維束30を回転カッタ部7Bによってペレット状に切断することにより長繊維強化ペレット50を形成する。
【0036】
次に、前述したペレット製造装置1を用いた長繊維強化ペレットの製造方法について説明する。
【0037】
図1に示すように、本実施形態に係る長繊維強化ペレットの製造方法では、先ず巻体21から引き出されたガラス繊維中間束20を合糸してガラス繊維束30が形成される。このとき、ガラス繊維中間束20内におけるガラス繊維10の長円形状の断面の長手方向がY軸方向に沿った状態で合糸される。ガラス繊維束30は、テンションロッド2によって適切な強さのテンションが加えられた状態で、搬送用ロッド3に掛け渡され、ジグザグに搬送される。
【0038】
その後、ガラス繊維束30は、搬送用ロッド3におけるジグザグな搬送により開繊されながら、溶融状態の熱可塑性樹脂が収容された樹脂含浸槽4内に搬送される。そして、樹脂含浸槽4内において、ガラス繊維束30の周囲及び内部に溶融状態の熱可塑性樹脂8が付着して、ガラス繊維束30に熱可塑性樹脂8が含浸される。
【0039】
続いて、ガラス繊維束30は、樹脂含浸槽4の引き出し孔5から引き出されることで、ガラス繊維束30に付着した余分な熱可塑性樹脂8を削ぎながら、樹脂含浸槽4の外へと搬送される。樹脂含浸槽4の外へ搬送されたガラス繊維束30は、搬送ローラ6を経て切断機7のガイドローラ7Aにガイドされる。そして、ガイドローラ7Aにガイドされたガラス繊維束30が回転カッタ7Bによって所定の長さを有するペレット状に切断されることで、長繊維強化ペレット50が製造される。
【0040】
この長繊維強化樹脂ペレットの製造方法によれば、引き出し孔5の断面形状の長手方向が搬送用ロッド3の中心軸線方向に沿った長円形状をなしているため、複数の搬送用ロッド3において断面形状が扁平に変形されたガラス繊維束30を引き出し孔5から引き出すにあたり、ガラス繊維束30に加わる負荷を低減することができる。その結果、搬送速度を上げた際に引き出し孔5においてガラス繊維束30に毛羽が生じたり切断したりすることを抑制できるので、長繊維強化ペレット50の生産速度の向上を図ることができる。
【0041】
また、この長繊維強化樹脂ペレットの製造方法における引き出し孔5の断面形状は、長円形状をなしている。搬送用ロッド3により扁平に変形されたガラス繊維束30の断面形状は、長円形状や楕円形状に近い形状となる。従って、引き出し孔5の断面形状を長円形状とすることで、引き出し孔5においてガラス繊維束30に加わる負荷の低減が図られるため、長繊維強化ペレット50の生産速度の向上に有利である。
【0042】
また、搬送用ロッド3は、周方向に回転しない非回転ロッドである。このような構成は、搬送用ロッド3がガラス繊維束30の搬送に合わせて周方向に回転する場合と比べて、ガラス繊維束30の断面形状をより効果的に変形させるため、ガラス繊維束30に対する熱可塑性樹脂8の含浸性を高めることができる。
【0043】
また、ガラス繊維束30にテンションを加えるためのテンションロッド2がガラス繊維束30の搬送方向における樹脂含浸槽4の手前に設けられている。このような構成によれば、ガラス繊維束30が搬送用ロッド3によりジグザグに搬送されるにあたり、より強い力でガラス繊維束30の断面形状を変形させることができるので、ガラス繊維束30が十分に開繊され、ガラス繊維束30に対する熱可塑性樹脂8の含浸性を高めることができる。また、テンションを加えることにより、ガラス繊維束30内でガラス繊維中間束20の引き揃えが行われると共にガラス繊維10の引き揃えも行われる。このことは、搬送速度を上げた際に引き出し孔5においてガラス繊維中間束20やガラス繊維10のほつれ等が生じることを抑制するので、長繊維強化ペレット50の生産速度の向上に有利である。
【0044】
また、ガラス繊維束30は、複数のガラス繊維10を束ねたガラス繊維中間束20を複数束ねて形成されている。このような構成によれば、ガラス繊維束30が搬送用ロッド3によりジグザグに搬送されて、その断面形状が変形されるにあたり、ガラス繊維10間に生じる隙間に加えてガラス繊維中間束20間に生じるより大きな隙間に溶融状態の熱可塑性樹脂8が入り込むため、ガラス繊維10を直接束ねた場合と比べて、ガラス繊維束30に対する熱可塑性樹脂8の含浸性を高めることができる。
【0045】
また、ガラス繊維10は、断面形状が扁平な長円形状であり、ジグザグに搬送されるガラス繊維束30内において、各々のガラス繊維10がその断面の長手方向に引き揃えられることで、ガラス繊維10同士の間に存在する熱可塑性樹脂8が搾り出されるので、ガラス繊維束30のガラス含有率が高くなる。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0047】
例えば、引き出し孔5の断面形状は、搬送用ロッド3により変形されたガラス繊維束の断面形状に応じた扁平な形状であれば楕円形であっても良く、その他、ひし形や長方形であっても良い(図4(b)及び図4(c)参照)。特には、長円形状や楕円形状であることが好ましい。また、引き出し孔5は、樹脂含浸槽4の外側に向かうにつれて縮径される構成であっても良い。この場合、引き出し孔5の断面形状は、入口側と出口側とで異なっていても良く、どちらか一方でも扁平な形状であれば良いが全体にわたって扁平形状であることが好ましい。
【0048】
また、ガラス繊維束30を構成するガラス繊維10の断面形状は、長円形状に限られず、楕円形状やひし形の形状であっても良く、円形であっても良い。また、ガラス繊維10の断面形状が円形の場合には、その直径が3μm〜23μmであることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の好適な実施例を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
実施例1では、樹脂含浸槽4の引き出し孔5の断面積は1.39mmとした。また、その扁平比(すなわち引き出し孔5の長円形状の断面における長手方向の幅と長手方向に直交する方向の幅との比)を2:1とした。ガラス繊維10として断面形状が長円形状(断面の長手方向における最大幅が32μm、長手方向に直交する方向における最大幅が8μm、扁平比が4:1)のものを用いた。また、ガラス繊維束30は、ガラス繊維10を800本束ねて構成されたガラス繊維中間束20を4本束ねて、番手を1600Texとした。搬送用ロッド3は、非回転ロッドとし、各々の搬送用ロッド3におけるガラス繊維束30の折れ角αを90°とした。
【0051】
また、テンションロッド2におけるガラス繊維束30が接触している角度(テンションロッド2の中心軸を中心とした周方向の角度)の合計を接触角とし、接触角を925.6°とした。ガラス繊維束30がテンションロッド2に接触している長さを接触距離とし、その距離を48.5mmとした。そして、テンションロッド2とガラス繊維束30がテンションロッド2から直接掛け渡された搬送用ロッド3との間において、ガラス繊維束30に掛かるテンションを850gfとした。以上の条件で長繊維強化ペレット50の生産速度を変化させ、長繊維強化ペレット50の全質量におけるガラス繊維束30の質量の割合をガラス含有率とし、このガラス含有率が60%以上か否か、またガラス繊維束30に毛羽や切断が発生したか否かについて評価した。
【0052】
(実施例2)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を4:1とした。ガラス繊維束30に掛かるテンションを1150gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0053】
(実施例3)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を6:1とした。ガラス繊維束30に掛かるテンションを1150gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0054】
(実施例4)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を8:1とした。ガラス繊維束30に掛かるテンションを1050gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0055】
(実施例5)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を4:1とした。ガラス繊維束30に掛かるテンションを850gfとした。また、搬送用ロッド3をガラス繊維束30の搬送に合わせて周方向に回転可能とした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0056】
(実施例6)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を4:1とした。ガラス繊維束30に掛かるテンションを850gfとした。また、各々の搬送用ロッド3におけるガラス繊維束30の折れ角αを120°とした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0057】
(実施例7)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を4:1とした。テンションロッド2におけるガラス繊維束30の接触角を486.4°、その接触距離を25.5mmとした。また、ガラス繊維束30に掛かるテンションを250gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0058】
(実施例8)
引き出し孔5の断面積は1.39mmとし、扁平比を4:1とした。ガラス繊維束30は、構成するガラス繊維として断面形状が円形状(直径が17μm)を用い、ガラス繊維を1000本束ねて構成したガラス繊維中間束を3本束ねて、番手を1800Texとした。また、ガラス繊維束30に掛かるテンションを1100gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0059】
(比較例1)
引き出し孔5を円形状(断面積が1.39mm、扁平比が1:1)とし、ガラス繊維束30に掛かるテンションを650gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0060】
(比較例2)
引き出し孔5を円形状(断面積が1.39mm、扁平比が1:1)とし、ガラス繊維束30を構成するガラス繊維として断面形状が円形状(直径が17μm)を用い、ガラス繊維を1000本束ねて構成したガラス繊維中間束を3本束ねて、番手を1800Texとした。また、ガラス繊維束30に掛かるテンションを900gfとした。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0061】
これらの結果を表1に示す。なお、表1の生産速度の欄において、「○」は、生産した長繊維強化ペレット50のガラス含有率が60%以上であり、かつ、ガラス繊維束30に毛羽や切断が発生しなかった場合、「△」は、生産した長繊維強化ペレット50のガラス含有率が60%以上であり、かつ、ガラス繊維束30に毛羽が生じたが切断しなかった場合、「×」は、生産した長繊維強化ペレット50のガラス含有率が60%未満の場合、又はガラス繊維束30が切断された場合をそれぞれ示している。また、表1に示すガラス含有率は、評価が「○」の生産速度において生産された長繊維強化ペレット50のガラス含有率の平均値である。
【表1】

【0062】
表1に示すように、実施例1〜3を対比すると、引き出し孔5の扁平比が2:1の場合より4:1又は6:1の場合の方がペレットの最大生産速度(評価が「○」の生産速度のうち速度が最大のもの)が高くなった。また、実施例2〜4を対比すると、引き出し孔5の扁平比が4:1又は6:1の場合より8:1の場合の方が最大生産速度は低くなった。
【0063】
また、実施例2と実施例5とを対比すると、搬送用ロッド3が非回転の場合より、周方向に回転する場合の方が最大生産速度は低くなった。そして、実施例2と実施例6とを対比すると、テンションロッド2におけるガラス繊維束30の接触角が925.6°、その接触距離が48.5mmでテンションが1150gfの場合より、テンションロッド2におけるガラス繊維束30の接触角が486.4°、その接触距離が25.5mmでテンションが250gfの場合の方が最大生産速度は低くなった。
【0064】
また、実施例1と比較例1とを対比すると、引き出し孔5の扁平比が2:1でガラス繊維束30に掛かるテンションが850gfの場合より引き出し孔5の扁平比が1:1でテンションが650gfの場合の方が最大生産速度は低くなった。更に、実施例2と比較例1とを対比すると、最大生産速度の差はより顕著に現れた。
【0065】
また、実施例8と比較例2とを対比すると、引き出し孔5の扁平比が4:1でガラス繊維束30に掛かるテンションが1100gfの場合より引き出し孔5の扁平比が1:1でテンションが900gfの場合の方が最大生産速度は低くなった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る長繊維強化ペレットの製造方法を説明するための概略側面図である。
【図2】図1のガラス繊維束を示す断面図である。
【図3】図1の搬送用ロッドを示す側面図である。
【図4】(a)図1の引き出し孔を示す正面図である。(b)他の実施形態における引き出し孔を示す正面図である。(c)他の実施形態における引き出し孔を示す正面図である。
【符号の説明】
【0067】
1…ペレット製造装置、2…テンションロッド(テンション付加手段)、3…搬送ロッド(ロッド)、4…樹脂含浸槽、6…搬送ローラ、7…切断機、8…熱可塑性樹脂、10…ガラス繊維、20…ガラス繊維中間束、30…ガラス繊維束、50…長繊維強化ペレット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂が容れられた樹脂含浸槽内で、連続した複数のガラス繊維を束ねてなるガラス繊維束を複数のロッドに掛け渡してジグザグに搬送することにより、前記ガラス繊維束の断面形状を扁平に変形させて、前記ガラス繊維束に前記溶融状態の熱可塑性樹脂を含浸させ、その後、前記樹脂含浸槽の引き出し孔を通じて前記ガラス繊維束を引き出した後、ペレット状に切断する長繊維強化樹脂ペレットの製造方法であって、
前記引き出し孔の断面形状は、その長手方向が前記ロッドの軸線方向に沿った扁平形状をなすことを特徴とする長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記引き出し孔の断面形状の長手方向における最大幅と前記長手方向に直交する方向における最大幅との比率が2:1〜8:1であることを特徴とする請求項1記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記引き出し孔の断面形状は、楕円形状又は長円形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記複数のロッドは、周方向に回転しない非回転ロッドであることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項5】
前記ロッドにおける前記ガラス繊維束の折れ角が120°〜60°であることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項6】
前記ガラス繊維束の搬送方向における前記樹脂含浸槽の手前には、前記ガラス繊維束にテンションを加えるためのテンション付加手段が設けられ、前記ガラス繊維束には、前記テンション付加手段と前記樹脂含浸槽との間において、200gf〜1400gfのテンションが掛けられていることを特徴とする請求項1〜請求項5のうちいずれか一項記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス繊維束は、前記複数のガラス繊維を束ねたガラス繊維中間束を複数束ねてなることを特徴とする請求項1〜請求項6のうちいずれか一項記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項8】
前記ガラス繊維は、断面形状が扁平であり、前記ガラス繊維の断面形状の長手方向における最大幅と前記長手方向に直交する方向における最大幅との比率が1.5:1〜6:1であることを特徴とする請求項1〜請求項7のうちいずれか一項記載の長繊維強化樹脂ペレットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−94896(P2010−94896A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267651(P2008−267651)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】