説明

防汚性FRP成形品およびその製造方法

【課題】光触媒層表面を金属化合物薄膜で覆うことなく、親水化を向上させることができ、光触媒粒子を担持する樹脂材料の分解による破壊、減肉が製品の耐久性に悪影響を与えないFRP成形品を安価に提供することにある。
【解決手段】少なくとも表面の一部がゲルコート樹脂層で覆われたFRP成形品であって、前記ゲルコート樹脂層の厚みが100μm〜1,000μmであるとともに、少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子が練混された前記ゲルコート樹脂層の表面を研磨処理することにより前記光触媒粒子が露出されてなることを特徴とする防汚性FRP成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性を向上したFRP成形品に関し、特に屋外で使用するFRP成形品、例えば鉄道用の高欄や道路などに設けられるFRP製防音壁の防汚性向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚性を向上させる技術として、基材表面に酸化チタン等の光触媒粒子を分散させた光触媒層を設けた製品が近年多数商品化されている。光触媒には2つの機能があり、有機物を分解する酸化還元機能と、超親水化の2つの機能があることはよく知られている。前者の機能を利用した抗菌機能を持った製品、前者と後者の両方の機能を利用した防汚機能を持った製品等が代表的である。
【0003】
近年の超親水化技術の課題として触媒活性、効果の持続性、触媒粒子の基材に対する接着強度の向上があり、超親水性に限らず光触媒に伴う課題として可視光活性、暗所微弱光活性の増加、基材劣化防止があり、これらに対する技術開発が行われている。
【0004】
例えば、防汚性を微弱な紫外線で長期間維持するために、超親水効果の持続性、光触媒微弱光活性を向上させる技術が特許文献1、特許文献2に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の技術は基材表面に光触媒層を有する光触媒構造体において、光触媒層表面の少なくとも一部を、極めて薄く(0.2〜100nm)他の金属化合物で覆うことにより、光触媒作用による親水性を向上させる技術である。ここで金属化合物の薄膜としては、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、ニオビウム、タンタラム及びゲルマニウムからなる群から選ばれる一種若しくは二種以上の金属の酸化物、水酸化物又はそれらの混合物からなる薄膜である。また、光触媒層の膜厚は親水性、コスト、透明性から0.01〜10μmと非常に薄い。
【0006】
このような親水性向上の原理としては以下のメカニズムが考えられている。すなわち、光触媒作用によって生成した正孔と電子は通常は大部分が再結合して消失してしまうが、その中の一部は表面に拡散して近傍の酸素や水分などと反応し活性酸素を生成する。その活性酸素が金属化合物に結合している有機残基や吸着されている水やガス成分などと反応して金属化合物表面に多くの水酸基(OH基)を生成させる。これらの水酸基が大気中の水分を捕捉し、多数の水分子を表面に物理吸着させて吸着水層を形成し、超親水性を発現する。
【0007】
特許文献1の基材表面の光触媒層、金属化合物薄膜は、親水性を得るための薄膜層であり、FRP成形品の表面に設けられる数百μmの厚みを持つゲルコート樹脂層のように基材自体の紫外線劣化を何十年間といった長期的に防止する保護層としての機能はない。
【0008】
特許文献2に記載の技術は光触媒性酸化物とアモルファス酸化物(水ガラス、無定形酸化チタン、水酸化チタン、無定形アルミナ、水酸化アルミニウムなど)を含有する表面層を基材表面に設ける技術である。特許文献2に記載の表面層は防曇、防汚のみを目的とした層であり、表面層の膜厚は光の干渉による表面層の発色防止、部材の透明度確保、耐摩耗性向上のために、0.2μm以下が好ましいとしており、本技術においてもFRP成形品のゲルコート樹脂層のように基材自体の紫外線劣化防止機能はない。
【0009】
一方、光触媒を表面に担持する樹脂材料を製造するために、樹脂中に光触媒粒子を単体で分散すると、光触媒粒子に接触している樹脂を酸化分解するため、これを防止する技術が特許文献3に記載がある。
【0010】
特許文献3に記載の技術は、樹脂ベース成分と、フッ素アパタイトを主成分とする無機多孔質体中に光触媒を含浸させてなる微粒子とを含み、該微粒子が樹脂ベース成分の表面に析出するように担持させる技術である。
【0011】
特許文献3に記載の方法は、光触媒による酸化分解反応による担持樹脂の酸化分解による減肉が問題となる場合は有効であるが、FRP成形品表面のゲルコート樹脂層のように製品の耐久期間を考慮しても光触媒を担持する樹脂の酸化分解速度に対して十分な樹脂膜厚を有する場合は、メリットがない。
【特許文献1】特開平10−57817号公報
【特許文献2】特許第3613085号公報
【特許文献3】特開2004−26967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、光触媒層表面を金属化合物薄膜で覆うことなく、親水化を向上させることができ、光触媒粒子を担持する樹脂材料の分解による破壊、減肉が製品の耐久性に悪影響を与えないFRP成形品を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)少なくとも表面の一部がゲルコート樹脂層で覆われたFRP成形品であって、前記ゲルコート樹脂層の厚みが100μm〜1,000μmであるとともに、少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子が練混された前記ゲルコート樹脂層の表面を研磨処理することにより前記光触媒粒子が露出されてなることを特徴とする防汚性FRP成形品。
(2)前記ゲルコート樹脂層の前記ルチル型酸化チタン含有量が0.1〜20重量%であることであることを特徴とする(1)に記載の防汚性FRP成形品。
(3)前記ゲルコート樹脂層の膜厚方向内側よりも表面側の方が、前記ルチル型酸化チタンの濃度が高いことを特徴とする(1)または(2)に記載の防汚性FRP成形品。
(4)前記ゲルコート樹脂層が金属化合物として水酸化アルミニウムおよび/または二酸化珪素(SiO)を含み、前記水酸化アルミニウムおよび/または二酸化珪素の一部が前記ゲルコート樹脂層表面に露出していることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の防汚性FRP成形品。
(5)前記ゲルコート樹脂層の前記水酸化アルミ含有量が10〜40重量%であることを特徴とする(4)に記載の防汚性FRP成形品。
(6)前記ゲルコート樹脂層の前記二酸化珪素(SiO)含有量が0.1〜10重量%であることを特徴とする(4)に記載の防汚性FRP成形品。
(7)前記ゲルコート樹脂層表面の算術平均表面粗さが0.1μm〜10μmであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の防汚性FRP成形品。
(8)前記防汚性FRP成形品が防音壁であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の防汚性FRP成形品。
(9)少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子を練混させた未硬化ゲルコート樹脂を成形型に吹き付け、その上から補強繊維基材を積層し、未硬化マトリクス樹脂を含浸させ、ゲルコート樹脂およびマトリクス樹脂を硬化させた後、成形型から脱型する工程と、脱型した成形品表面に一体化されたゲルコート樹脂層表面を機械研磨することにより、前記光触媒粒子の一部をゲルコート樹脂層表面に露出させる工程を含むことを特徴とする防汚性FRP成形品の製造方法。
(10)少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子と、金属化合物として水酸化アルミニウムおよび/または二酸化珪素(SiO)を含む未硬化ゲルコート樹脂を成形型に吹き付け、その上から補強繊維基材を積層し、未硬化マトリクス樹脂を含浸させ、前記未硬化ゲルコート樹脂および前記未硬化マトリクス樹脂の硬化後、成形型から脱型する工程と、脱型した成形品表面に一体化されたゲルコート樹脂層表面を機械研磨することにより、前記光触媒粒子の一部、前記水酸化アルミニウムの一部および/または前記二酸化珪素(SiO)の一部をゲルコート樹脂層表面に露出させる工程を含むことを特徴とする防汚性FRP成形品の製造方法。
(11)算術平均表面粗さが0.1μm〜10μmとなるように機械研磨することを特徴とする(9)または(10)に記載のFRP成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面の親水性を長期間維持することができ、長期間の防汚性、耐久性に優れるFRP成形品を安価に得ることができる。特に、光触媒層表面を金属化合物薄膜で覆うことなく、親水化を向上させることができ、光触媒粒子を担持する樹脂材料の分解による破壊、減肉が製品の耐久性に悪影響を与えないFRP成形品を安価に提供するができる。
【0015】
具体的には、本発明のFRP成形品はFRPスキン材と、該FRPスキン材の少なくとも表面の一部に一体化されたゲルコート樹脂で構成されており、該ゲルコート樹脂が光触媒活性の低いルチル型結晶を含有するルチル型酸化チタンを含み、前記ルチル型酸化チタンの一部をゲルコート樹脂層表面に露出させた構造とすることにより、ゲルコート樹脂の分解がほとんどない長期耐久性、長期親水性に優れた防汚性FRP成形品を得ることができる。また、前記ルチル型酸化チタンを含む光触媒層であるゲルコート樹脂層に金属化合物として水酸化アルミニウムを分散させることにより、親水性を更に向上させた防汚性FRP成形品を安価に得ることができる。光触媒層表面を金属化合物薄膜で覆う構造に対し、安価に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明が、図面に記載された態様に限定される訳ではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施態様に係わるFRP成形品の断面図の一部を示す。
【0018】
図1に示すように、FRP成形品1は、FRPスキン材2の少なくとも表面の一部がゲルコート樹脂層3で覆われており、ゲルコート樹脂層3が光触媒としてルチル型酸化チタン5を含んでおり、ルチル型酸化チタン5の一部がゲルコート樹脂層3の表面に露出している。
光触媒としてルチル型酸化チタン5がゲルコート樹脂層3の表面に露出することにより、光励起による親水性を発現することができ、セルフクリーニング効果による防汚機能を得ることができる。
【0019】
図2は、本発明の別の実施態様に係わるFRP成形品の断面図の一部を示す。
【0020】
図2に示すように、FRP成形品1はFRPスキン材2の少なくとも表面の一部がゲルコート樹脂層3で覆われており、ゲルコート樹脂層3が光触媒としてルチル型酸化チタン5および金属化合物として水酸化アルミニウム6を含んでおり、ルチル型酸化チタン5の一部および水酸化アルミニウム6の一部がゲルコート樹脂層3の表面に露出している。
【0021】
図3は、本発明のさらに別の実施態様に係わるFRP成形品の断面図の一部を示す。
【0022】
図3に示すように、FRP成形品1はFRPスキン材2の少なくとも表面の一部がゲルコート樹脂層3で覆われており、ゲルコート樹脂層3が光触媒としてルチル型酸化チタン5、金属化合物として水酸化アルミニウム6、および二酸化珪素7を含んでおり、ルチル型酸化チタン5の一部、水酸化アルミニウム6の一部、および二酸化珪素7の一部がゲルコート樹脂層3表面に露出している。
【0023】
FRPスキン材2のマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が好適である。鉄道用の高欄や道路などに設けられるFRP製防音壁として使用する場合は、これらの樹脂中に層状化合物(例えば、マイカ、二硫化モリブデン、窒化硼素など)や針状化合物(例えば、ゾノトライト、チタン酸カリ、炭素繊維など)、粒状および板状化合物(例えば、フェライト、タルク、クレーなど)などの制振剤を添加することができる。制振剤を添加することによって、無機物結晶同士あるいは無機物とマトリクス樹脂との相互運動による摩擦熱への変換がなされ、上記フィラーを充填することによって弾性率と密度が増大し、振動物体の運動エネルギーを消散させて、パネルの振動を軽減することができる。かかる制振剤は、その添加量に比例し制振効果が大きくなるが、添加量がマトリクス樹脂の全体積の5体積%より小さいとその制振効果が小さくなることがあり、70体積%を越えるとマトリクス樹脂の補強繊維への含浸性が悪化することが問題があるため、添加量はマトリクス樹脂の全体積の5〜70体積%含まれていることが好ましく、より好ましくは10〜50体積%である。
【0024】
また、上記のマトリクス樹脂中に難燃剤を添加して、難燃性を向上させることができる。フェノール樹脂はそれ自体で難燃性に優れており、かつ安価であるため好ましく使用される。かかる難燃剤は、使用するマトリクス樹脂によって適宜選定することができ、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン等の臭素系難燃剤の他、トリフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩類、赤リン系等のリン系難燃剤や三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤を使用することができる。塩素系難燃剤も使用可能であるが、燃焼時の有害物質発生の問題から環境面を考慮した上での使用が望ましい。難燃剤の種類によりその難燃効果は異なるが、添加量がマトリクス樹脂の全重量の0.1重量%未満では難燃効果がほとんどなく、50重量%以上では耐熱性、耐光性の低下や機械物性の低下を引き起こすことがあるため、添加量は0.1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜40重量%である。
【0025】
なお、上記これらの添加物は、取り付ける箇所つまり、火災による延焼を防ぐところ、振動伝播が著しいところなどの状況に合わせて、両方またはいずれか一方を適宜選択すればよい。
【0026】
前記FRPスキン材2の補強繊維基材としては、用途、使用条件に応じて適宜、ガラス繊維や炭素繊維などからなる無機繊維や、アラミド繊維、ナイロン繊維あるいはポリエステル繊維などの有機繊維などを用いることができる。また、用いられる繊維の形態としては、例えば、繊維長が1〜3mmである短繊維やマット、連続繊維からなるクロス、ストランドなどを好適に用いることができる。
【0027】
ここで、軽量で高強度のFRPを得るためには、炭素繊維が最も好ましいが、コストとのバランスを取るため、ガラス繊維/炭素繊維のハイブリッド、あるいはガラス繊維のものも好ましい。
【0028】
炭素繊維を入れることにより、振動減衰性が向上するため、特に鉄道高架橋での使用に適している。さらに用いる炭素繊維の種類は、炭素繊維の高い強度および弾性率を考えると、どんなものでも良いが、より低コスト化のためには、いわゆるラージ・トウの炭素繊維を用いるのが最も好ましい。例えば、炭素繊維糸1本のフィラメント数が通常の10,000本未満のものではなく、10,000〜300,000本の範囲、より好ましくは50,000〜150,000本の範囲にあるトウ状の炭素繊維フィラメント糸を使用するほうが樹脂の含浸性、補強繊維基材としての取り扱い性、さらには補強繊維基材の経済性おいて、より優れるため、好ましい。また、必要に応じて、あるいは要求される機械特性などに応じて、補強繊維の層を複数層に積層して補強繊維基材を形成し、その補強繊維基材に樹脂を含浸する。積層する補強繊維層には、一方向に引き揃えた繊維層や織物層を適宜積層でき、その繊維配向方向も、要求される強度の方向に応じて適宜選択できる。
【0029】
ゲルコート樹脂層3は不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が好適に使用できる。
【0030】
ゲルコート樹脂層3の膜厚は100μm〜1,000μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは300μm〜700μmである。不飽和ポリエステル未硬化ゲルコート樹脂に対し、光触媒としてルチル型酸化チタン5を5〜10重量%混入して硬化させたゲルコート樹脂層3に、東京地方の30年間に相当する紫外線量を照射した後のゲルコート樹脂層3の酸化分解による減肉量は20μmであった。ゲルコート樹脂の材質、紫外線量の地域差および一般的なFRP製品の耐久期間を考慮すると、ゲルコート樹脂層3の膜厚は100μm以上であることが好ましい。1,000μmを越えるとゲルコート樹脂のコストが高くなり過ぎたり、樹脂収縮によるひび割れを発生させたりすることがある。
【0031】
ゲルコート樹脂層3は様々な色に着色することが可能で、種々の無機顔料、有機顔料を未硬化ゲルコート樹脂に添加することができる。光触媒としてのルチル型酸化チタン5は白色無機顔料を兼ねるため、他の顔料との組み合わせにより、ゲルコート樹脂層3の着色を自由に調整することができる。
【0032】
光触媒としては、酸化チタンTiO、チタン酸ストロンチウムSrTiO、酸化タングステンWO、酸化亜鉛ZnO、硫化亜鉛ZnS、硫化カドミウムCdS、タンタル酸ナトリウムNaTaO等が知られているが、励起電子と正孔の電荷分離が安定し、化学的な毒性が無く、安価に入手可能な酸化チタンが好ましい。光触媒特性を有する酸化チタンには、結晶構造によりアナターゼ型、ルチル型、ブルカイト型があるが、光触媒特性をもつのはアナターゼ型、ルチル型である。アナターゼ型は光触媒活性が最も高く、強い酸化分解反応、超親水性反応を呈する反面、担持材料が本発明の樹脂材料のような有機物の場合は、樹脂材料を酸化分解してしまうため好ましくない。ルチル型は白色顔料として利用されており、光触媒としてはアナターゼ型より光触媒活性が低く、酸化分解力は弱いが、親水性機能を持たせるには十分である。したがい、ゲルコート樹脂層3に混入する光触媒としてはルチル型酸化チタン5が最も好ましい。
【0033】
ルチル型酸化チタン5のゲルコート樹脂層3に対する含有量は0.1〜20重量%であることが好ましい。0.1重量%以下ではルチル型酸化チタン5の光触媒機能を十分発揮することができない他、上述の着色調整範囲が小さくなり、色が限定される問題がある。20重量%を越えると、未硬化ゲルコート樹脂が増粘し、作業性が低下したり、硬化後のゲルコート樹脂層の伸びが低下して、ひび割れが発生したりする等の問題がある。
【0034】
ゲルコート樹脂層3にルチル型酸化チタン5および水酸化アルミニウム6を添加することにより、前述した原理によりゲルコート樹脂層3表面の親水性を向上させることができる。さらに、水酸化アルミニウム6は難燃剤としても機能するため、添加により難燃性能を付与することができる。
【0035】
水酸化アルミニウム6のゲルコート樹脂層3に対する含有量は10〜40重量%であることが好ましい。10重量%未満では上述の親水性の向上機能を十分発揮できず、40重量%を越えると、未硬化ゲルコート樹脂が増粘し、作業性が低下したり、硬化後のゲルコート樹脂層3の伸びが低下し、ひび割れが発生したりする等の問題がある。
【0036】
ゲルコート樹脂層3にルチル型酸化チタン5、水酸化アルミニウム6、および二酸化珪素7を添加することにより、同様の原理によりゲルコート樹脂層3表面の親水性を向上させることができる。さらに、二酸化珪素7は揺変剤としても機能するため、添加により揺変性を付与することができ、未硬化ゲルコート樹脂を成形型に吹き付ける際の液垂れを防止することができる。
【0037】
二酸化珪素7のゲルコート樹脂層3に対する含有量は0.1〜10重量%であることが好ましい。より好ましくは0.1〜5重量%である。0.1重量%未満では揺変性が小さく、未硬化ゲルコート樹脂を成形型に吹き付けた際、成形型鉛直面の垂れが発生し、均一な膜厚のゲルコート樹脂層3が得られないという問題がある。10重量%を越えると、作業性が低下したり、硬化後のゲルコート樹脂層3の伸びが低下し、ひび割れが発生したりする等の問題がある。
【0038】
上記においては、水酸化アルミニウム6の存在下において、さらに二酸化珪素7を付加する態様についてのみ説明したが、金属化合物として二酸化珪素等の揺変剤のみを添加することも好ましい。その他にも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オギザニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、Ni系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等に代表される光安定剤や、上記FRPスキン材2と同様の制振剤、難燃剤を添加することも好ましく、本発明の変形実施態様とすることができる。
【0039】
以下に本発明のFRP成形品1の製造方法の概略工程を説明する。
【0040】
図4は、本発明の製造に係わる成形型の断面図を示す。
【0041】
まず、成形型8に離型剤を塗布した後、未硬化ゲルコート樹脂を成形型8に刷毛塗りもしくはスプレー塗布する。未硬化ゲルコート樹脂の硬化反応が進み、ゲル化した状態で、補強繊維基材を積層し、未硬化マトリクス樹脂を含浸させる。未硬化ゲルコート樹脂および未硬化マトリクス樹脂が完全硬化に近い状態まで硬化した後、成形型8から脱型し、FRPスキン材2とゲルコート樹脂層3が一体化された成形品を得る。
【0042】
最後に、脱型したFRP成形品1の表面に一体化されたゲルコート樹脂層3の表面を機械研磨して目粗しすることにより、ゲルコート樹脂層3に含まれるルチル型酸化チタン5の一部、水酸化アルミニウム6の一部および/または二酸化珪素(SiO)7の一部をゲルコート樹脂層3の表面に露出させる。
【0043】
本発明に用いる成形型8は、脱型後FRP成形品1の表面を研磨処理することから、成形型1の表面加工精度は特に限定されるものではない。前述したように、未硬化ゲルコート樹脂に前もって塗布する離型剤が残存しないように、平滑であることが望ましい。
【0044】
本発明に係わるFRP成形品1の成形方法としては、成形型8に未硬化ゲルコート樹脂を塗布した後、FRPスキン材2を構成する補強繊維基材、マトリクス樹脂と一体化する成形法であれば、特に限定するものではない。
【0045】
成形型8に未硬化ゲルコート樹脂を塗布した後、補強繊維基材を積層し、未硬化マトリクス樹脂を補強繊維基材に含浸し、硬化させる成形法(ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、レジントランスファーモールディング法、レジンインジェクションモールディング法、SCRIMP法、VARI法、RIV法等)、成形型8に未硬化ゲルコート樹脂を塗布した後、半硬化状態のマトリクス樹脂を含浸させた補強繊維基材を積層し、硬化させる成形法(オートクレーブ法、SMC法、BMC法等)が好ましい。
【0046】
なお、引き抜き成形等の連続成形しようとした場合には、ゲルコート表面が未硬化となるため、ゲルコート樹脂にパラフィンを添加し、表面に偏析させることによって空気遮断し、表面まで硬化させるトップコート処理が必要となる。このようなトップコートでは、後述するようにゲルコート樹脂層3の内部でルチル型酸化チタン5等を表面近傍に高濃度に分布させることが困難となる。このため、ゲルコート樹脂層3が下面に塗布できるような、バッチ処理による成形型を用いることが好ましい。
【0047】
また、ルチル型酸化チタン5の比重は未硬化ゲルコート樹脂の比重の約3倍であるため、上述の成形法で成形型8に未硬化ゲルコート樹脂を吹き付けた後、硬化するまでの時間内にルチル型酸化チタン5はゲルコート樹脂層3内の成形型表面側の濃度が高くなるように分布する。このような分布が形成されることで、成形型8から脱型して得られたFRP成形品1の表面に存在するゲルコート樹脂層3の表面側においてルチル型酸化チタン5の濃度が高くなるため、光触媒機能を発揮するのに好都合となる。
【0048】
上述のFRP成形法では、成形型8から脱型したままではルチル型酸化チタン5がゲルコート樹脂層3の表面には露出しないため、ルチル型酸化チタン5は無機顔料として機能するのみであり、光触媒機能を得ることができない。本発明のFRP成形品1は、成形型8から脱型した後、ゲルコート樹脂層3の表面を機械研磨することにより、ルチル型酸化チタン5を表面に露出させ、光触媒機能を得ることができる。
【0049】
本発明ではゲルコート樹脂層3の表面にルチル型酸化チタン5を露出させるためにゲルコート樹脂層3を研磨処理する。研磨処理としては機械研磨が好ましく、具体的な機械研磨方法としては、サンドブラスト、サンドペーパー、砥石等、特に限定するものではない。
【0050】
機械研磨後のゲルコート樹脂層3の算術平均表面粗さ(JIS B 0651(2001))は0.1μm〜10μmであることが好ましい。算術平均表面粗さが0.1μmより小さいとゲルコート樹脂層3表面と水滴との接触角が大きくなり、親水性が低下して汚れが付着しやすくなる。10μmを越えると、親水性の低下はみられないが、機械研磨作業に手間がかかることがある。
【実施例】
【0051】
以上の本発明の防音壁の実施例について説明する。
【0052】
図4に本発明のFRP成形品1の製造工程の一例を示す。
【0053】
まず、ゲルコート樹脂層3としてルチル型酸化チタン5を7重量%、水酸化アルミニウム6を20重量%、二酸化珪素7を3重量%含有するように配合された未硬化ゲルコート樹脂を離型処理された成形型8に吹き付けた。
【0054】
次に、ゲルコート樹脂がゲル化した状態で、FRPスキン材2を構成する補強繊維基材としてガラスチョップドストランドマット基材、ガラス0°/90°/ガラスチョップドストランドマット基材、炭素繊維基材を積層し、不飽和ポリエステル樹脂を含浸させた。その後、成形型8を硬化炉で60℃で2時間硬化させた後、成形型8から脱型し、FRPスキン材2の表面がゲルコート樹脂層3で覆われたFRP成形品を得た。
【0055】
得られたFRP成形品のゲルコート樹脂層3の表面を住友3M株式会社製スコッチブライト(登録商標)8448にて機械研磨により目粗しを行い、ルチル型酸化チタン5の一部、水酸化アルミニウム6の一部および二酸化珪素7の一部がゲルコート樹脂層3の表面に露出したFRP成形品Aを得た。
【0056】
防汚性の比較テストのために、同様の方法で成形を行い、成形型から脱型したまま、ゲルコート樹脂層表面の機械研磨をおこなっていない成形品Bを得た。
【0057】
このようにして得られたFRP成形品A、FRP成形品Bをゲルコート樹脂層が鉛直方向となるように屋外に12ヶ月間放置し、ゲルコート樹脂層表面の汚染度合いを目視評価した。
【0058】
図5に示すように、ゲルコート樹脂層表面を研磨していないFRP成形品Bは雨水の道筋に沿った黒色の汚染物質の付着が見られるのに対し、本発明のFRP成形品Aは汚染物質の付着が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、防汚性が必要なFRP成形品に適用できる。鉄道用の防音壁や高欄、道路などに設けられる防音壁、建材、冷却塔筐体、遊具、ボートなどの屋外で使用されるFRP成形品の他、屋内で使用されるFRP成形品にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の一実施態様に係わるFRP成形品におけるゲルコート樹脂層を含んだ断面図の概略図である。
【図2】図2は、本発明の別の実施態様に係わるFRP成形品におけるゲルコート樹脂層を含んだ断面図の概略図である。
【図3】図3は、本発明のさらに別の実施態様に係わるFRP成形品におけるゲルコート樹脂層を含んだ断面図の概略図である。
【図4】図4は、本発明のFRP成形品の製造工程の一例を示すフロー図である。
【図5】図5は、本発明における実施例および比較例のFRP成形品表面の防汚状態を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1:FRP成形品
2:FRPスキン材
3:ゲルコート樹脂層
4:ゲルコートベース樹脂
5:ルチル型酸化チタン
6:水酸化アルミニウム
7:二酸化珪素
8:成形型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面の一部がゲルコート樹脂層で覆われたFRP成形品であって、前記ゲルコート樹脂層の厚みが100μm〜1,000μmであるとともに、少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子が練混された前記ゲルコート樹脂層の表面を研磨処理することにより前記光触媒粒子が露出されてなることを特徴とする防汚性FRP成形品。
【請求項2】
前記ゲルコート樹脂層の前記ルチル型酸化チタン含有量が0.1〜20重量%であることであることを特徴とする請求項1に記載の防汚性FRP成形品。
【請求項3】
前記ゲルコート樹脂層の膜厚方向内側よりも表面側の方が、前記ルチル型酸化チタンの濃度が高いことを特徴とする請求項1または2に記載の防汚性FRP成形品。
【請求項4】
前記ゲルコート樹脂層が金属化合物として水酸化アルミニウムおよび/または二酸化珪素(SiO)を含み、前記水酸化アルミニウムおよび/または二酸化珪素の一部が前記ゲルコート樹脂層表面に露出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防汚性FRP成形品。
【請求項5】
前記ゲルコート樹脂層の前記水酸化アルミ含有量が10〜40重量%であることを特徴とする請求項4に記載の防汚性FRP成形品。
【請求項6】
前記ゲルコート樹脂層の前記二酸化珪素(SiO)含有量が0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項4に記載の防汚性FRP成形品。
【請求項7】
前記ゲルコート樹脂層表面の算術平均表面粗さが0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の防汚性FRP成形品。
【請求項8】
前記防汚性FRP成形品が防音壁であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の防汚性FRP成形品。
【請求項9】
少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子を練混させた未硬化ゲルコート樹脂を成形型に塗布し、その上から補強繊維基材を積層し、未硬化マトリクス樹脂を含浸させ、ゲルコート樹脂およびマトリクス樹脂を硬化させた後、成形型から脱型する工程と、脱型した成形品表面に一体化されたゲルコート樹脂層表面を機械研磨することにより、前記光触媒粒子の一部をゲルコート樹脂層表面に露出させる工程を含むことを特徴とする防汚性FRP成形品の製造方法。
【請求項10】
少なくともルチル型酸化チタンを含む光触媒粒子と、金属化合物として水酸化アルミニウムおよび/または二酸化珪素(SiO)を含む未硬化ゲルコート樹脂を成形型に塗布し、その上から補強繊維基材を積層し、未硬化マトリクス樹脂を含浸させ、前記未硬化ゲルコート樹脂および前記未硬化マトリクス樹脂の硬化後、成形型から脱型する工程と、脱型した成形品表面に一体化されたゲルコート樹脂層表面を機械研磨することにより、前記光触媒粒子の一部、前記水酸化アルミニウムの一部および/または前記二酸化珪素(SiO)の一部をゲルコート樹脂層表面に露出させる工程を含むことを特徴とする防汚性FRP成形品の製造方法。
【請求項11】
算術平均表面粗さが0.1μm〜10μmとなるように機械研磨することを特徴とする請求項9または10に記載のFRP成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−76277(P2010−76277A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247567(P2008−247567)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】