電力変換装置、電動機駆動システム
【課題】回転子の回転状態を検出するためのセンサを用いずに電動機を制御する電動機の制御方法において、電動機が高トルク運転時でも電動機の運転を持続しつつ、回転子の回転状態を精度よく検出すると共に騒音の発生を抑制する。
【解決手段】電力変換装置50aにおいて、電圧出力手段3は、ベクトル演算手段4からの基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に対して高周波の交番電圧を重畳し、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を電力変換手段11へ出力する。電流成分分離手段5は、三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcから交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出し、その高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムIhを求める。重畳電圧振幅調整手段9は、電流成分分離手段5からの高周波電流ノルムIhに基づいて、交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値Vh*を電圧出力手段3へ出力する。
【解決手段】電力変換装置50aにおいて、電圧出力手段3は、ベクトル演算手段4からの基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に対して高周波の交番電圧を重畳し、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を電力変換手段11へ出力する。電流成分分離手段5は、三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcから交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出し、その高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムIhを求める。重畳電圧振幅調整手段9は、電流成分分離手段5からの高周波電流ノルムIhに基づいて、交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値Vh*を電圧出力手段3へ出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置および電動機駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータや誘導モータ等の交流電動機(以下、単に「電動機」と称する。)の駆動システムでは、直流電力を交流電力に変換して電動機を駆動する電動機駆動装置として、電圧型インバータに代表される電力変換装置が多用される。こうした電動機駆動用電力変換装置を高性能化するためには、電動機の回転子の制御情報として、回転子の磁極位置や回転速度などを精度よく検出する必要がある。近年の電力変換装置は、位置センサや速度検出器などを電動機に取りつけて実際に回転子の回転状態を測定するのではなく、電動機に発生する逆起電圧情報から回転子の回転状態を推定することで高精度な制御量推定を行う制御方法を使用している。
【0003】
しかし、このように逆起電圧情報から回転子の回転状態を推定する電動機の制御方法は、電動機の回転速度が極低速付近では逆起電圧が絶対的に小さくなることから、適用が困難である。そこで、低速での制御量推定方法として、電動機の突極性または磁束飽和特性を利用する方法がある。
【0004】
特許文献1には、特に永久磁石同期電動機の突極性を利用して、回転子の回転状態を表す磁極位置の推定を行う磁極位置検出装置が記載されている。この磁極位置検出装置は、電動機の磁極軸(dc軸)に交番磁界を発生させ、このdc軸に対して直交する推定トルク軸(qc軸)成分の脈動電流(あるいは電圧)を検出し、これに基づいて電動機内部の磁極位置を推定演算する。この技術は、実際の磁極軸と推定磁極軸との間に誤差がある場合に、dc軸からqc軸に対してインダクタンスの干渉項が存在する特徴を利用している。これは、高周波の電圧または電流を電動機に重畳し、これによって発生する高周波の電流または電圧の変動分を検出することで、インダクタンスを逐次計測し、制御量として二次磁束の位相を推定するものである。
【0005】
特許文献2には、電動機の磁気飽和特性を利用して回転子の回転状態を表す磁極位置を推定演算する方法が記載されている。この演算方法では、電動機に対して、ある方向へ電圧を印加したことで発生する電流の大きさに基づいて、磁極位置を推定演算する。
【0006】
また、特許文献3には、高周波電流指令を重畳し、電流制御を行うことで発生する高周波電圧の変動分からインダクタンスを逐次計測する方式において、その電流指令値を低トルク時と高トルク時で変更することが記載されている。
【0007】
これらの方法により、回転子の回転状態を検出するためのセンサを用いることなく、電動機の運転情報を精度良く推定することができる。これにより、センサおよびセンサの検出信号を出力するケーブル等のコストや、これらの設置の手間を削減することができる。更には、センサの組み付け誤差や周囲環境に起因するノイズ、センサの故障などによる電動機駆動の不適切な挙動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3312472号
【特許文献2】特開2002−78392号公報
【特許文献3】特開2010−154597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2に記載の技術のように、電圧指令に高周波電圧を加算して高周波電流を発生させる電動機の制御方法は、重畳する高周波電圧の振幅が一定であるか、または発生する高周波電流が比較的小さい範囲において特に有効である。しかし、電動機は高トルク運転時、電流が増大すると磁束飽和現象によって高周波電圧に対するインダクタンスが減少するため、高周波電流の振幅が増大する傾向がある。そのため、高トルク運転時に電圧指令に高周波電圧を加算して高周波電流を発生させると、所定の電流限界値を高周波電流が超過してしまい、電動機の運転を持続できなくなるという問題が生じることがある。
【0010】
一方、特許文献3に記載の技術は、電流指令に高周波電流指令を加算して電流制御を行う方法であり、高周波電流振幅を指令値として与えているため、上記のような問題は発生しない。しかし、このように電流指令に高周波電流指令を加算する電動機の制御方法では、重畳する交番信号の周波数を電流制御系の応答速度以上に上げることができないため、磁極位置の検出応答速度が制限される。そのため、衝撃外乱などによる電動機の回転状態の変動に対して磁極位置を精度よく検出することが困難な場合がある。また、高周波重畳により発生する電磁音の周波数がヒトの可聴音域まで低くなることで騒音になりやすいなどの問題も発生することがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による電力変換装置は、直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する電力変換手段と、交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、交流電力の電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段により検出された電流から交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備える。
本発明による電動機制御システムは、交流電動機と、直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する電力変換手段と、交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、交流電力の電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段により検出された電流から交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転子の回転状態を検出するためのセンサを用いずに電動機を制御する電動機の制御方法において、電動機が高トルク運転時でも電動機の運転を持続しつつ、回転子の回転状態を精度よく検出すると共に騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態による電動機制御システム100aの構成図である。
【図2】本発明による電動機制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。
【図3】電圧出力手段3の内部構成図である。
【図4】電流成分分離手段5の内部構成図である。
【図5】電流成分分離手段5の動作を説明するための各信号の波形例を示す図である。
【図6】軸偏差基準量の特性説明図である。
【図7】位相調整手段10の内部構成図である。
【図8】高周波電流ノルム指令生成手段7の内部構成図である。
【図9】重畳電圧振幅調整手段9の内部構成図である。
【図10】電流とインダクタンスの特性説明図である。
【図11】本発明の効果の説明図である。
【図12】本発明の第2実施形態による電動機制御システム100bの構成図である。
【図13】電圧出力手段12の内部構成図である。
【図14】電流成分分離手段13の内部構成図である。
【図15】本発明の第3実施形態による電動機制御システム100cの構成図である。
【図16】位相調整手段15の内部構成図である。
【図17】本発明の第4実施形態による電動機制御システム100dの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1から第4の各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、各図で共通する構成要素には同一の符号をそれぞれ付しており、それらの重複する構成要素についての説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による電動機制御システム100aの構成図である。
【0016】
図1において、電動機制御システム100aは、電力変換装置50aと電動機1とを備える。電力変換装置50aは、電動機制御装置40aと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。
【0017】
電流検出手段2は、電力変換手段11から電動機1に流れる三相交流電流Iu、Iv、Iwを検出し、その検出結果に応じた三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcを電動機制御装置40aへ出力する。電流検出手段2は、たとえばホール素子を用いた電流センサにより実現される。
【0018】
電力変換手段11は、電動機制御装置40aで生成された三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に基づいて、直流電源(不図示)からの直流電力を三相交流電力に変換し、電動機1へ供給する。このとき、電力変換手段11から電動機1に対して、交流電力の電圧である三相交流電圧Vu、Vv、Vwと、交流電力の電流である三相交流電流Iu、Iv、Iwとが出力される。電力変換手段11は、たとえばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などをスイッチング素子として用いたインバータにより実現される。
【0019】
電動機1は、三相の同期電動機であり、電力変換手段11から供給される三相交流電力によって動作する。電動機1は、複数の永久磁石が組み込まれた回転子が固定子の内部を回転するように構成されている。なお、こうした電動機1の構成の詳細については図示を省略する。
【0020】
図2は、本発明による電動機制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。図2において、a軸とb軸により定義されるab軸座標系は、固定子の位置を表すための固定子座標系であり、a軸は一般的に電動機1のu相巻線位相を基準にとられる。一方、d軸とq軸により定義されるdq軸座標系は、回転子の磁極位置を表すための回転子座標系であり、電動機1の回転子と同期して回転する。電動機1が永久磁石同期電動機の場合、d軸は一般的に回転子に取り付けられた永久磁石の位相を基準にとられる。d軸は磁極軸とも呼ばれる。dc軸とqc軸は、磁極位置の推定位相、すなわち電動機制御装置40aが行う制御において想定しているd軸とq軸の方向をそれぞれ表している。これらの座標軸によりdc−qc軸座標系が定義される。dc軸は制御軸とも呼ばれている。p軸とz軸により定義されるpz軸座標系は、電圧指令の基本波に対して重畳される高周波電圧を表すための座標系である。なお、各座標系において組み合わされる座標軸同士はいずれも互いに直交している。
【0021】
上記の各座標系において、図2に示すように、a軸を基準としたd軸、dc軸、p軸の各軸の位相をθd、θdc、θpとそれぞれ表す。また、d軸に対するdc軸、p軸の偏差をΔθ、θpdとそれぞれ表す。さらに、高周波電圧を重畳することで生じる高周波電流のp軸に対する位相差をθivhと表す。
【0022】
図1において、電動機制御装置40aは、電圧出力手段3と、ベクトル演算手段4と、電流成分分離手段5と、電流指令生成手段6と、高周波電流ノルム指令生成手段7と、軸偏差基準量指令生成手段8と、重畳電圧振幅調整手段9と、位相調整手段10とを備える。なお、電動機制御装置40aは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、CPU(Central Processing Unit)、プログラムなどによって構成されている。すなわち、電動機制御装置40aが有する上記の各手段は、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現されるものである。
【0023】
続いて、電動機制御装置40aの動作について説明する。電動機制御装置40aの主な目的は、電力変換手段11が電動機1に供給する交流電力における励磁電流成分(d軸電流)Idおよびトルク電流成分(q軸電流)Iqを任意の電流指令値Idc*、Iqc*にそれぞれ一致させることにある。その実現のために、電動機制御装置40aでは電流制御系と位相制御系が動作する。位相制御系の目的は、電動機1の回転子の位置を表すd軸に制御軸であるdc軸を一致(同期)させることであり、図1では主に位相調整手段10がその役割を担う。一方、電流制御系の目的は、dc−qc軸座標系上のdc軸電流検出値Idcとqc軸電流検出値Iqcを任意の電流指令値Idc*、Iqc*にそれぞれ一致させることであり、主にベクトル演算手段4がその役割を担う。
【0024】
まず、位相制御系が位置センサ類を用いずに高周波電圧を重畳することでd軸とdc軸を同期させる動作について以下に説明する。
【0025】
図3は、電圧出力手段3の内部構成を示している。図3に示すように、電圧出力手段3は、交番電圧波形発生手段3aと、乗算器3bと、結合器3cと、座標変換手段3dおよび3eと、加算器3fと、2相3相変換手段3gとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40aが有する各手段と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。なお、この実施形態では、電動機制御装置40aからの三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*においてそれぞれ重畳される交番電圧の波形が矩形波であるものとする。
【0026】
交番電圧波形発生手段3aから出力された高周波の矩形波信号は、乗算器3bへ出力される。この矩形波信号の周波数は、電動機1が動作する運転周波数、すなわち電動機制御装置40aによる電動機1の制御周波数よりも高い。交番電圧波形発生手段3aからの矩形波信号は、さらに交番電圧波形waveとして電圧出力手段3の外へも出力される。この交番電圧波形waveは、図1に示すように電圧出力手段3から電流成分分離手段5へと出力される。
【0027】
乗算器3bは、交番電圧波形発生手段3aから入力された矩形波信号を、図1に示すように重畳電圧振幅調整手段9から入力される重畳電圧振幅指令値Vh*と掛け合わせることで、重畳電圧振幅指令値Vh*に応じた振幅の矩形波信号を生成する。こうして生成された矩形波信号は、結合器3cへと出力される。
【0028】
結合器3cは、乗算器3bから入力された矩形波信号をp軸上の交番電圧Vph*およびz軸上の交番電圧Vzh*に変換し、pz軸座標系のベクトル量を表す交番電圧ベクトルとして座標変換手段3dに出力する。
【0029】
座標変換手段3dは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるp軸の位相情報θpに基づいて、結合器3cから入力された交番電圧ベクトルをab軸座標系のベクトル量に変換する。そして、変換後の交番電圧ベクトルを加算器3fに出力する。
【0030】
座標変換手段3eは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるdc軸の位相情報θdcに基づいて、図1のベクトル演算手段4から入力される電圧指令の基本波ベクトルをdc−qc軸座標系のベクトル量からab軸座標系のベクトル量へと変換する。なお、ベクトル演算手段4から入力される電圧指令の基本波ベクトルは、dc軸上の基本電圧指令値Vdc*とqc軸上の基本電圧指令値Vqc*によって表される。そして、変換後の基本波ベクトルを加算器3fに出力する。
【0031】
加算器3fは、座標変換手段3dからの交番電圧ベクトルを座標変換手段3eからの基本波ベクトルに加算する。これにより、ベクトル演算手段4から入力された基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に対して、交番電圧ベクトルに応じた高周波の交番電圧が重畳される。加算器3fによる重畳結果を表す加算後のベクトルは、加算器3fから2相3相変換手段3gに出力される。
【0032】
2相3相変換手段3gは、加算器3fから入力された加算後のベクトルをu相、v相、w相の各相に対応する電圧値へと変換し、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*として出力する。これらの三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*は、前述のように電動機制御装置40aが生成したものとして電力変換手段11へ出力される。
【0033】
以上説明したようにして、電圧出力手段3により、電動機制御装置40aが生成する三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*において矩形波の高周波電圧が重畳される。なお、本実施形態では交番電圧ベクトルと基本波ベクトルをab軸座標系にそれぞれ変換してから加算器3fにより足し合わせているが、たとえばdc−qc軸座標系やuvw座標系など、その他の座標系で足し合わせてもよい。
【0034】
図4は、電流成分分離手段5の内部構成を示している。図4に示すように、電流成分分離手段5は、座標変換手段5aと、基本波成分抽出手段5bと、高周波成分抽出手段5cと、符号補償手段5dと、軸偏差基準量演算手段5eと、ノルム演算手段5fとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40aや電圧出力手段3の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0035】
図5は、電流成分分離手段5の動作を説明するための各信号の波形例を示す図である。図5において、図5(a)は、図3の電圧出力手段3において交番電圧波形発生手段3aが発生する矩形波信号の周期を決める三角波キャリアの波形例を示している。図5(b)は、電圧出力手段3において結合器3cから座標変換手段3dに出力される前述のp軸上の交番電圧Vph*の波形例を示している。図5(c)は、dc−qc軸座標系でのd軸電流検出値Idcの波形例とその平均値である基本波電流成分IdcAVGを示している。図5(d)は、d軸電流検出値Idcの1回当たりの差分値ΔIdcの波形例を示している。図5(e)は、電圧出力手段3において交番電圧波形発生手段3aから出力される前述の交番電圧波形waveの波形例を示している。図5(f)は、図5(d)の波形と図5(e)の波形とを掛け合わせた波形例を示している。
【0036】
電動機制御装置40aにおいて、電流検出手段2から出力された三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcは、図1に示すように電流成分分離手段5へと入力される。これらの信号は、ベクトル演算手段4からの基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に応じた基本波電流成分(電圧指令の基本波ベクトルに対応する電流成分)と、重畳電圧振幅調整手段9からの重畳電圧振幅指令値Vh*に応じた高周波電流成分(交番電圧ベクトルに対応する電流成分)とを含む。ここで、電動機制御装置40aが行う制御において、電流制御系では基本波電流成分が必要であり、位相制御系では高周波電流成分が必要となる。そのため、電流成分分離手段5では、次のようにして電流検出手段2からの三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcを基本波電流成分と高周波電流成分に分離する操作を行う。
【0037】
図4、5を参照して、電流成分分離手段5の動作を説明する。図4において、座標変換手段5aは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるdc軸の位相情報θdcに基づいて、電流検出手段2からの三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcをdc−qc軸座標系のベクトル量に変換する座標変換を行う。この座標変換により、前述のdc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcが求められる。これらの電流検出値Idc、Iqcは、座標変換手段5aから基本波成分抽出手段5bおよび高周波成分抽出手段5cへと出力される。なお、図5(c)ではdc軸電流検出値Idcの波形例のみを示している。
【0038】
基本波成分抽出手段5bは、座標変換手段5aから入力されたdc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcをそれぞれ所定のタイミングごとにサンプリングする。図5(c)ではdc軸電流検出値Idcをサンプリングする検出点を例示しているが、qc軸電流検出値Iqcについても同様である。そして、逐次平均処理を実施することにより、dc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcの各サンプリング値の平均値を逐次求め、これらに含まれる高周波成分をそれぞれキャンセルして、dc軸の基本波電流成分IdcAVGおよびqc軸の基本波電流成分IqcAVGを抽出する。こうして抽出された基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGは、図1に示すように電流成分分離手段5からベクトル演算手段4および高周波電流ノルム指令生成手段7へと出力される。
【0039】
高周波成分抽出手段5cは、座標変換手段5aから入力されたdc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcに対して、今回の検出値から前回の検出値をそれぞれ減算することにより、1回当たりの差分値ΔIdcおよびΔIqcをそれぞれ算出する。図5(d)ではdc軸電流検出値Idcに対して算出される差分値ΔIdcを示しているが、qc軸電流検出値Iqcに対して算出される差分値ΔIqcについても同様である。ここで、dc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcの基本波成分の周波数は交番電圧の周波数に対して十分低いため、上記の差分値ΔIdc、ΔIqcはほぼ交番電圧による電流変化量とみなすことが出来る。すなわち、特殊なフィルタ等を使用することなく、電流検出値Idc、Iqcから交番電圧に応じた高周波電流成分を表す差分値ΔIdc、ΔIqcの抽出が高速に実現できることになる。なお、図5(b)、(d)から分かるように、dc軸の差分値ΔIdcは、交番電圧Vph*の正負符号の交代に伴って半周期分だけ遅れて符号が反転する。qc軸の差分値ΔIqcと交番電圧Vzh*についても同様である。算出されたdc軸の差分値ΔIdcおよびqc軸の差分値ΔIqcは、高周波成分抽出手段5cから符号補償手段5dへと出力される。
【0040】
符号補償手段5dは、高周波成分抽出手段5cから入力されたdc軸の差分値ΔIdcとqc軸の差分値ΔIqcに対して、図1に示すように電圧出力手段3から入力される交番電圧波形waveに基づく符号補償を行う。前述のように差分値ΔIdc、ΔIqcは、交番電圧における正負符号の交代に伴ってそれぞれの符号が反転する。そのため、これらの差分値に対して交番電圧波形waveをそれぞれ掛け合わせることで、符号の反転を打ち消して符号補償を行うことができる。図5(f)では、図5(d)に示すdc軸の差分値ΔIdcに対して図5(e)に示す交番電圧波形waveを掛け合わせた例を示しているが、qc軸の差分値ΔIqcについても同様である。このとき、必要に応じて逐次平均を施してもよい。こうして符号補償が行われた後の差分値ΔIdcおよびΔIqcは、高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGとして、符号補償手段5dから軸偏差基準量演算手段5eおよびノルム演算手段5fへそれぞれ出力される。
【0041】
軸偏差基準量演算手段5eは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるdc軸の位相情報θdcおよびp軸の位相情報θpと、符号補償手段5dから入力された高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGとに基づいて、基本波に重畳される高調波電圧とそれによって生じる高周波電流との間の位相差を算出する。この位相差は、図2に示した高周波電流のp軸に対する位相差θivhで表すことができる。図2から分かるように、位相差θivhにはθpとθdの位相差情報が含まれるため、たとえば以下の式(1)のように位相差θivhを計算することができる。
【0042】
【数1】
・・・(1)
【0043】
位相差θivhを計算したら、軸偏差基準量演算手段5eはさらに位相差θivhに負のゲインを乗算し、その結果を軸偏差基準量xθpdとして出力する。軸偏差基準量演算手段5eから出力された軸偏差基準量xθpdは、図1に示すように電流成分分離手段5から位相調整手段10へと出力される。
【0044】
図6は、軸偏差基準量xθpdの特性を説明するための図である。図6に示すように、軸偏差基準量xθpdはd軸に対するp軸の偏差θpdに応じて変化することから、磁極位置すなわちd軸位相θdの情報を含むことが分かる。すなわち、軸偏差基準量演算手段5eにより、電動機1の磁極位置に応じた軸偏差基準量xθpdを求めることができる。したがって、位相制御系のために軸偏差基準量xθpdが必要となる。
【0045】
ノルム演算手段5fは、本発明の電動機制御を実現するために電流成分分離手段5において新たに追加されたものであり、符号補償手段5dから入力された高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGのノルム(以下、高周波電流ノルムIhと称する)を計算する。ここでいうノルムとは、高周波電流ベクトルの長さ成分のことである。たとえば以下の式(2)に示すようなH2ノルムの計算を適用することにより、高周波電流ノルムIhを計算することができる。ノルム演算手段5fで計算された高周波電流ノルムIhは、図1に示すように電流成分分離手段5から重畳電圧振幅調整手段9へと出力され、重畳電圧振幅調整手段9が行う後述のような制御において利用される。
【0046】
【数2】
・・・(2)
【0047】
以上説明したようにして、電流成分分離手段5により、電流検出手段2からの三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcが基本波電流成分と高周波電流成分に分離される。そして、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGがベクトル演算手段4および高周波電流ノルム指令生成手段7へ出力され、高周波電流成分に基づく軸偏差基準量xθpdと高周波電流ノルムIhが位相調整手段10と重畳電圧振幅調整手段9へそれぞれ出力される。
【0048】
軸偏差基準量指令生成手段8は、所定の軸偏差基準量指令xθpd*を生成して位相調整手段10へ出力する。電動機制御装置40aの位相制御系では、以下に説明するような位相調整手段10の動作により、軸偏差基準量指令生成手段8が生成する軸偏差基準量指令xθpd*と上記の軸偏差基準量xθpdとが一致するように、重畳位相および制御軸位相、すなわちp軸の位相θpおよびdc軸の位相θdcを調整する。軸偏差基準量指令xθpd*は、xθpd=xθpd*のときに重畳位相θpとd軸(磁極軸)の位相θdが一致するような値をとる。ここで、電動機1が突極性を有するものである場合、軸偏差基準量xθpdは図6のような特性となり、d軸に対するp軸の偏差θpdが0であるときにxθpd=0となる。このことから通常はxθpd*=0とすればよい。こうして常にxθpd=xθpd*となるようにp軸の位相θpを制御することで、θp=θdとみなすことができる。このような原理により、電動機制御装置40aにおいて、位置センサを使用することなく電動機1の磁極位置の位相θdを推定することができる。
【0049】
図7は、位相調整手段10の内部構成例を示している。図7に示すように、位相調整手段10は、第1の位相調整手段10aと、第2の位相調整手段10bと、選択スイッチ10cとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40a、電圧出力手段3、電流成分分離手段5の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0050】
第1の位相調整手段10aは、図1に示すように電流成分分離手段5から入力される軸偏差基準量xθpdと、軸偏差基準量指令生成手段8からの軸偏差基準量指令xθpd*とが一致するように、重畳位相θpを調整する。ここで、第1の位相調整手段10aの応答が十分速ければ、軸偏差基準量xθpdと軸偏差基準量指令xθpd*が一致するようθpを調整することで、前述のように重畳位相θpと磁極軸位相θdが一致しているとみなすことができる。この場合、重畳位相θpと制御軸位相θdcの差分が、現在の磁極軸位相θdと制御軸位相θdcとの間の軸偏差Δθということになる。第1の位相調整手段10aにおいて調整された重畳位相θpは、第2の位相調整手段10aおよび選択スイッチ10cへ出力される。さらに、p軸の位相情報として、図1に示すように位相調整手段10から電圧出力手段3および電流成分分離手段5にも出力される。
【0051】
第2の位相調整手段10bは、第1の位相調整手段10aからの重畳位相θpに基づいて前述の軸偏差Δθを算出し、その軸偏差Δθを0とするように制御軸位相θdcを調整する。こうして制御軸位相θdcを調整することにより、磁極軸すなわちd軸の位相θdと、制御軸すなわちdc軸の位相θdcとを同期させる。第2の位相調整手段10bにおいて調整された制御軸位相θdcは、選択スイッチ10cへ出力される。
【0052】
選択スイッチ10cは、A、B2つの接点を入力側に有しており、いずれか一方の接点を選択して出力側の接点との間を結線する。接点Aには第2の位相調整手段10bからの制御軸位相θdcが入力され、接点Bには第1の位相調整手段10aからの重畳位相θpが入力される。そのため、選択スイッチ10cにおいて接点Aを選択した場合、制御軸位相θdcをdc軸の位相情報として位相調整手段10から電圧出力手段3および電流成分分離手段5へ出力することができる。一方、選択スイッチ10cにおいて接点Bを選択した場合は、重畳位相θpがdc軸の位相情報θdcとして位相調整手段10から電圧出力手段3および電流成分分離手段5へ出力される。これにより、p軸の位相情報θpとdc軸の位相情報θdcとを一致させ、電圧出力手段3や電流成分分離手段5における演算負荷を軽くすることができる。なお、選択スイッチ10cの結線は上述のように必要に応じて変更することができるものであるが、結線をいずれか一方に固定してもよい。その場合、選択スイッチ10cにおけるスイッチ動作などの不要な処理を省略しても構わない。これは、以降で説明する図面内に描かれた他の選択スイッチに関しても同様である。
【0053】
上記のような各構成の動作により、位相調整手段10において重畳位相θpと制御軸位相θdcとを別々に制御することができる。そのため、電流制御系の応答設計とは無関係に第1の位相調整手段10aの制御応答設計が可能となる。
【0054】
以上説明したような位相制御系の動作により、位置センサ類を用いずにd軸とdc軸を同期させることができる。
【0055】
続いて、電流制御系の動作について説明する。電流制御系は、上記のような位相制御系の動作によってdc軸がd軸に一致しているものと仮定して、以下で説明するような動作を行う。
【0056】
電流指令生成手段6は、上位のシステムから電動機制御装置40aに入力されるトルク指令等の入力情報に基づいて、電動機1に供給される交流電力の励磁電流成分であるd軸電流Idに対するdc軸電流指令値Idc*と、トルク電流成分であるq軸電流Iqに対するqc軸電流指令値Iqc*とを生成する。電流指令生成手段6により生成された電流指令値Idc*、Iqc*は、図1に示すようにベクトル演算手段4および高周波電流ノルム指令生成手段7へ出力される。
【0057】
ベクトル演算手段4は、電流指令生成手段6からの電流指令値Idc*、Iqc*と、電流成分分離手段5からの基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGとに基づいて、電圧指令の基本波ベクトルである基本電圧指令値Vdc*、Vqc*を調整する。具体的には、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGが電流指令値Idc*、Iqc*とそれぞれ一致するように、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*を演算し、演算結果を電圧出力手段3へ出力する。ベクトル演算手段4は、この演算を電動機1の運転周波数に応じた所定の制御応答速度で行うことができる。なお、電流指令値Idc*は通常の状態ではゼロであるが、弱め界磁や起動時などの特定の制御状態のときにはゼロに設定しないことがある。たとえば起動時にd軸の電流検出値Idcを徐々に増加することにより、回転子を所定の回転位置に固定させてから通常のベクトル制御に移行することができる。
【0058】
以上説明したような電流制御系の動作により、dc−qc軸座標系の電流検出値Idc、Iqcを電流指令値Idc*、Iqc*にそれぞれ一致させることができる。
【0059】
上記の電流制御系および位相制御系による各動作が電動機制御の基本的な動作である。本発明では、これらの電流制御系と位相制御系に加えて、さらに高周波電流リプルのノルム値を制御するための高周波電流制御系が実装されている。本実施形態では、電流成分分離手段5において追加された前述のノルム演算手段5fと、高周波電流ノルム指令生成手段7と、重畳電圧振幅調整手段9とが主にその役割を担う。
【0060】
図8は、高周波電流ノルム指令生成手段7の内部構成例を示している。図8に示すように、高周波電流ノルム指令生成手段7は、選択スイッチ7aと、テーブル7bと、ゲイン7cと、合成器7dと、選択スイッチ7eとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40a、電圧出力手段3、電流成分分離手段5、位相調整手段10の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0061】
選択スイッチ7aは、A〜Fの合計6つの接点を入力側に有しており、これらの接点の中から任意の組合せを選択して、その接点と出力側の接点a、bのうちいずれか一方または両方との間を結線する。入力側の接点A、Bには電流指令生成手段6からの電流指令値Idc*、Iqc*がそれぞれ入力され、接点Cにはこれらの電流指令値が表す電流指令ベクトルのノルムが入力される。また、接点D、Eには電流成分分離手段5からの基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGがそれぞれ入力され、接点Fにはこれらの基本波電流成分が表す基本波電流ベクトルのノルムが入力される。一方、出力側の接点a、bはテーブル7b、ゲイン7cとそれぞれ接続されている。そのため、選択スイッチ7aにおいて入力側と出力側で任意の接点同士をそれぞれ結線することで、接点A〜Fに入力される各入力値のうち任意のものを接点a、bからテーブル7bとゲイン7cへそれぞれ選択的に出力することができる。なお、互いに異なる入力値の組合せを選択スイッチ7aからテーブル7bとゲイン7cへそれぞれ出力してもよいし、同一の組合せを出力してもよい。また、選択スイッチ7aからテーブル7bまたはゲイン7cのいずれか一方への出力のみを行い、他方への出力を遮断してもよい。
【0062】
テーブル7bは、予め設定された入力値と出力値の関係をテーブル情報として有しており、選択スイッチ7aからの入力値に基づいてテーブル情報を参照することで出力値を決定する。テーブル7bからの出力値は合成器7dに入力される。
【0063】
ゲイン7cは、選択スイッチ7aからの入力値に所定のゲインを掛けて出力値を決定する。ゲイン7cからの出力値は合成器7dに入力される。
【0064】
合成器7dは、テーブル7bからの出力値とゲイン7cからの出力値を所定の法則に従って合成し、選択スイッチ7eの接点Aに出力する。たとえば、テーブル7bからの出力値とゲイン7cからの出力値を単純に足し合わせてもよいし、これらを所定の比率で重み付けして足し合わせてもよい。なお、選択スイッチ7aにおいてテーブル7bまたはゲイン7cのいずれか一方のみが出力先として選択されている場合は、その出力先からの出力値をそのまま合成器7dから選択スイッチ7eの接点Aへ出力してもよいし、所定の演算を行った後に出力してもよい。
【0065】
選択スイッチ7eは、A、B2つの接点を入力側に有しており、いずれか一方の接点を選択して出力側の接点との間を結線する。接点Aには合成器7dからの出力が入力され、接点Bには予め設定された所定値Ih0*が入力される。そのため、選択スイッチ7eにおいて接点Aを選択した場合、合成器7dからの出力が高周波電流ノルム指令値Ih*として高周波電流ノルム指令生成手段7から重畳電圧振幅調整手段9へ出力される。これにより、電流指令値Idc*、Iqc*、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVG、またはこれらの各ノルムのうちいずれか少なくとも一つに基づいて、高周波電流ノルム指令生成手段7から高周波電流ノルム指令値Ih*が出力される。一方、選択スイッチ7eにおいて接点Bを選択した場合、固定値Ih0*が高周波電流ノルム指令値Ih*として高周波電流ノルム指令生成手段7から重畳電圧振幅調整手段9へ出力される。
【0066】
以上説明したようにして、高周波電流ノルム指令生成手段7により、高周波電流ノルム指令値Ih*が生成されて重畳電圧振幅調整手段9へ出力される。この高周波電流ノルム指令値Ih*は、電流検出手段2の検出精度および電動機1において期待される突極比特性から決まるものである。ここでいう突極比特性とは、図6に示したような軸偏差基準量xθpdの波形を決定するものであって電動機1に固有の特性である。
【0067】
最も単純な制御方法では、上記のように選択スイッチ7eにおいて接点Bを選択することでIh*=Ih0*として、高周波電流ノルム指令値Ih*を固定値としてもよい。しかし、突極比特性は電流動作点に対して不変ではないため、これに応じて上記のように選択スイッチ7eにおいて接点Aを選択してテーブル7cやゲイン7cからの出力値を用いることにより、高周波電流ノルム指令値Ih*を可変にすることが望ましい場合も考えられる。たとえば、電動機1の突極比特性が高トルク条件で悪化する場合、ゲイン7cにより高周波電流ノルム指令値Ih*を可変にしてもよい。また、たとえば特定電流条件での突極比特性が悪化するなど、電動機1の突極比特性が複雑な場合、テーブル7bにより高周波電流ノルム指令値Ih*を決定してもよい。このような場合、選択スイッチ7aからゲイン7cおよびテーブル7bへの入力としては、電流指令値Idc*またはIqc*、あるいはこれらの電流指令値が表す電流指令ベクトルのノルムを用いればよい。一方、より高速な応答が必要な場合は、基本波電流成分IdcAVGまたはIqcAVG、あるいはこれらの基本波電流成分が表す基本波電流ベクトルのノルムを用いればよい。
【0068】
図9は、重畳電圧振幅調整手段9の内部構成を示している。図9に示すように、重畳電圧振幅調整手段9は、重畳電圧振幅制御手段9aと、リミッタ9bとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40a、電圧出力手段3、電流成分分離手段5、位相調整手段10、高周波電流ノルム指令生成手段7の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0069】
重畳電圧振幅制御手段9aは、電流成分分離手段5からの高周波電流ノルムIhと、高周波電流ノルム指令生成手段7からの高周波電流ノルム指令値Ih*とが一致するように、重畳電圧振幅指令値Vh*を求める。これは図9において示すように、PI制御あるいはI制御の構成でよい。重畳電圧振幅制御手段9aによって求められた交番電圧振幅指令値Vh*は、リミッタ9bへ出力される。
【0070】
リミッタ9bは、重畳電圧振幅制御手段9aからの重畳電圧振幅指令値Vh*が負の値や異常に小さい値とならないように制限して出力する。リミッタ9bを通過した重畳電圧振幅指令値Vh*は、図1に示すように重畳電圧振幅調整手段9から電圧出力手段3へと出力され、前述のような矩形波信号の生成に用いられる。リミッタ9bはまた、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*が表す基本波ベクトルのノルムと重畳電圧振幅指令値Vh*との和を計算する。この計算結果に基づいて、電動機制御装置40aからの三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に応じて電力変換手段11が出力する電圧が出力可能電圧として定められた所定の上限値を超過しそうな状態であるか否かを判定する。その結果、出力可能電圧を超過しそうな状態であると判定された場合は、運転持続不可能と判断してイベントフラグを立てる。こうしたイベントフラグが立てられたことを検知すると、電動機制御装置40aは所定のイベントを行う。たとえば、交番電圧周波数の変更、エラー表示、出力遮断などを行う。
【0071】
以上説明したようにして、重畳電圧振幅調整手段9により、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に対して重畳する交番電圧の振幅を電圧出力手段3において調整するための重畳電圧振幅指令値Vh*が求められ、電圧出力手段3へと出力される。ここで、高周波電流ノルムIhと、軸偏差基準量xθpdと、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGとは、電流成分分離手段5によってそれぞれ分離されており、これらが別々の制御系でそれぞれ制御されている。そのため、上述したような高周波電流制御系が重畳電圧振幅指令値Vh*を調整することで高周波電流ノルムIhが変動しても、他の電流制御系および位相制御系には全く影響を与えることがない。したがって、各制御系について最適な制御応答設計とすることができる。
【0072】
次に、以上説明した実施の形態により得られる本発明の主な効果について述べる。
【0073】
図10は、電動機1における電流とインダクタンスの特性を説明するための特性説明図である。この図では、上述の基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGが表す基本波電流ベクトルのノルムをI1とし、これによって電動機1において発生する磁束を主磁束φとしたときの、基本波電流ノルムI1と主磁束φの関係をグラフにより模式的に表している。図10において、グラフの横軸は基本波電流ノルムI1の大きさを表し、縦軸は主磁束φの大きさを表している。
【0074】
基本波電流ノルムI1が比較的小さい範囲では、電動機1において発生するトルクが小さい。このとき図10に示すグラフの傾きはほぼ一定であり、基本波電流ノルムI1と主磁束φの関係はほぼ比例関係にあることが分かる。この傾きにより電動機1のインダクタンスLが定義される。しかし、トルクが大きく、基本波電流ノルムI1が表す電流量が比較的大きい条件下では、電動機1において回転子に鎖交する磁束が飽和するため、図10に示すようにグラフの傾き(インダクタンスL)が小さくなる。ここで、前述の重畳電圧振幅調整手段9からの重畳電圧振幅指令値Vh*に応じて三相交流電圧Vu、Vv、Vwにおいて重畳される交番電圧の振幅を重畳電圧振幅Vhと表すと、重畳電圧振幅Vhを一定とした場合の高周波電流ノルムIhは上述のインダクタンスLの大きさに反比例する。すなわち、重畳電圧振幅指令値Vh*を一定に設定すると、トルクが増えるに従って磁束飽和の影響により高周波電流ノルムIhが増加することになる。
【0075】
トルクが増大し、電動機制御システム100におけるハードウェア性能の限界付近まで電動機1に流れる基本波電流ノルムI1が増加した場合、高周波電流ノルムIhが磁束飽和によって増大することで、上述の電流限界を電流値が超過してしまうことがある。以下ではこのような現象をOC(OverCurrent)と称する。
【0076】
このような問題に対し、本発明では、前述のノルム演算手段5f、高周波電流ノルム指令生成手段7および重畳電圧振幅調整手段9により構成される制御系を用いて、高周波電流ノルムIhを所定の値に制御している。そのため、磁束飽和現象によってインダクタンスが変化しても、高周波電流ノルムIhは一定に保たれることになる。
【0077】
以下では図11の説明図を用いて本発明の効果を説明する。図11(a)は、重畳電圧振幅指令値Vh*を一定値としてトルクを徐々に増加させた場合のu相交流電流Iuの波形の一例を示している。図11(a)では、OCとなる電流限界をOCレベル60aで示している。また、トルクが比較的小さいときの交流電流Iuの波形を拡大したものを符号60b、トルクが比較的大きいときのOC付近における交流電流Iuの波形を拡大したものを符号60cにそれぞれ示している。この拡大波形60cにおいて、太線で示した符号60dの波形は、基本波電流ノルムI1に対応する電流基本波成分を表している。また、波形60dを中心に上下に変動する符号60eの波形は、基本波電流ノルムI1に高周波電流ノルムIhが重畳されることによって形成される交流電流Iuを表している。
【0078】
ここで、磁束飽和の傾向は電動機1の個体ごとに異なるため、高周波電流ノルムIhがどの程度増大するかが事前に分からず、予期せぬOCを発生させる原因となる。また、電力変換手段11から電動機1までのケーブル長が比較的長い場合や、ケーブル形状が途中で変化するような場合は、見かけ上のインダクタンスが増大して高周波電流ノルムIhが小さくなるため、十分な磁極位置推定精度が得られない。そのため、電動機1が脱調してしまい、運転が持続できなくなることがある。
【0079】
図11(b)は、本発明を適用した場合に得られるu相交流電流Iuの波形の一例を示している。この波形も図11(a)の波形と同様に、重畳電圧振幅指令値Vh*を一定としてトルクを徐々に増加させた場合の交流電流Iuの波形例であり、OCとなる電流限界をOCレベル61aで示している。また、トルクが比較的小さいときの交流電流Iuの波形を拡大したものを符号61b、トルクが比較的大きいときのOC付近における交流電流Iuの波形を拡大したものを符号61cにそれぞれ示している。
【0080】
図11(b)から分かるように、本発明を適用した場合、トルクが増大して電流が大きくなっても高周波電流ノルムIhが不必要に増大することがない。そのため、基本波電流ノルムI1が電流限界を示すOCレベル61a付近となるまで運転を持続することが可能になる。また、高周波電流ノルム指令値Ih*から電流指令値の上限値を事前に決めることができるため、OCを未然に防止することができる。さらに、前述のようなケーブル形状の変化による見かけ上のインダクタンス変動の影響をうけることなく、十分な磁極位置推定精度を確保できるため、電動機1の脱調を防いで運転を持続することができる。
【0081】
以上のように、電動機制御装置40aでは、電流成分分離手段5により、電流検出手段2で検出された電流から、交番電圧に応じた高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムIhと、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に応じた基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGと、電動機1の磁極位置に応じた軸偏差基準量xθpdとを抽出する。これらの各抽出値を用いて、高周波電流制御系、電流制御系および位相制御系の各制御をそれぞれ独立して行う。このような構成とすることで、磁束飽和やケーブル形状の変化などによるインダクタンス変化に対して十分な磁極位置推定精度を確保でき、更にOCを未然に防ぐことが可能となる。
【0082】
(第2実施形態)
図12は、本発明の第2実施形態による電動機制御システム100bの全体構成図である。電動機制御システム100bは、電力変換装置50bと電動機1とを備える。電力変換装置50bは、電動機制御装置40bと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。なお、電動機1、電力変換手段11および電流検出手段2は、図1に示す電動機制御システム100aと同じものである。以下、本実施形態の電動機制御装置40bと第1実施形態で説明した電動機制御装置40aとの違いについて、図を用いて説明する。
【0083】
図12において、電動機制御装置40bが図1に示した電動機制御装置40aと異なるのは、図1の電圧出力手段3と電流成分分離手段5に替えて、電圧出力手段12と電流成分分離手段13を備える点である。
【0084】
図13は、電圧出力手段12の内部構成図である。図3に示した電圧出力手段3では、交番電圧波形発生手段3aにより矩形波の交番電圧を発生していた。これに対して、図13に示す電圧出力手段12では、交番電圧波形発生手段12aにより正弦波の交番電圧を発生する。このように本実施形態では、第1の実施形態と比べて、電動機制御装置40bから出力される三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*において矩形波ではなく正弦波の高周波電圧が重畳される点が異なっている。なお、交番電圧波形発生手段12a以外の乗算器12b、結合器12c、座標変換手段12d、12e、加算器12fおよび2相3相変換手段12gの各構成は、図3で対応する各構成とそれぞれ同一の働きをする。
【0085】
図14は、電流成分分離手段13の内部構成を示している。図4に示した電流成分分離手段5では、基本波成分抽出手段5bにおいて、座標変換手段5aから出力された電流検出値Idc、Iqcをそれぞれ所定のタイミングごとにサンプリングして逐次平均処理を実施することにより、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGを抽出していた。これに対して、図14に示す電圧出力手段13では、基本波成分抽出手段13bにおいてLPF(ローパスフィルタ)を用いて電流検出値Idc、Iqcから高周波成分をそれぞれ除去することにより、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGを抽出する。
【0086】
また、図4に示した電流成分分離手段5では、高周波成分抽出手段5cにおいて電流検出値Idc、Iqcについて1回当たりの差分値ΔIdc、ΔIqcを算出し、さらに符号補償手段5dにおいて符号補償を行うことにより、高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGを抽出していた。これに対して、図14に示す電圧出力手段13では、高周波成分抽出手段13cにおいて交番電圧の正弦波信号の周波数相当を透過するBPF(バンドパスフィルタ)を用いることで、上記の差分値に相当する高周波成分ΔIdc、ΔIqcを抽出する。こうして抽出された高周波成分ΔIdc、ΔIqcに対して、これらの振幅値を振幅演算手段13dにおいてそれぞれ算出することにより、高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGを抽出する。
【0087】
以上説明したように本実施形態では、第1実施形態と比べて、LPFやBPFを用いて電流検出値Idc、Iqcから基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGと高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGを抽出する点が異なっている。なお、基本波成分抽出手段13b、高周波成分抽出手段13cおよび振幅演算手段13d以外の各構成(座標変換手段13a、軸偏差基準量演算手段13e、ノルム演算手段13f)は、図4で対応する各構成とそれぞれ同一の働きをする。
【0088】
以上のように、本実施形態では正弦波重畳とフィルタを用いた電流成分分離を実施する。これにより、デッドタイムなど不要な高調波成分の影響を抑制し、安定した運転を実現できる。
【0089】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態による電動機制御システム100cの全体構成図である。電動機制御システム100cは、電力変換装置50cと誘導電動機14とを備えている。電力変換装置50cは、電動機制御装置40cと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。なお、電力変換手段11および電流検出手段2は、図1に示す電動機制御システム100aと同じものである。以下、本実施形態の電動機制御装置40cと第1実施形態で説明した電動機制御装置40aとの違いについて、図を用いて説明する。
【0090】
図15に示す電動機制御システム100cが図1の電動機制御システム100aと異なるのは、制御対象が電動機1ではなく誘導電動機14となっている点と、電動機制御装置40cが図1の位相調整手段10に替えて位相調整手段15を備える点である。位相調整手段15には、位相調整手段10と同様に、軸偏差基準量指令生成手段8からの軸偏差基準量指令xθpd*および電流成分分離手段5からの軸偏差基準量xθpdが入力される。さらに、電流指令生成手段6からの電流指令値Idc*、Iqc*も入力される。
【0091】
図16は、位相調整手段15の内部構成図である。図7に示した位相調整手段10は、第1の位相調整手段10a、第2の位相調整手段10bおよび選択スイッチ10cを備えていた。一方、図16に示す位相調整手段15は、第1の位相調整手段15a、第2の位相調整手段15b、積分器15cおよびすべり補償量演算手段15dを備えている。
【0092】
第1の位相調整手段15aは、図7における第1の位相調整手段10aと同様に、軸偏差基準量xθpdを軸偏差基準量指令生成手段8からの軸偏差基準量指令xθpd*と一致させるように重畳位相θpを調整する。その結果、本実施形態では重畳位相θpは励磁磁束位相に一致する。説明の便宜上、ここでは励磁磁束位相をθdと称する。
【0093】
第2の位相調整手段15bは、制御軸位相θdcが上記の励磁磁束位相θdと一致するように制御軸位相θdcを調整し、速度推定値ωr^を出力する。一方、すべり補償量演算手段15dは、電流指令生成手段6から入力された電流指令値Idc*、Iqc*に基づいて、誘導電動機14の二次時定数T2を用いて、以下の式(3)によりすべり補償量ωs*を算出する。
【0094】
【数3】
・・・(3)
【0095】
上記の速度推定値ωr^とすべり補償量ωs*とが加算され、速度指令値ω1*として積分器15cへ出力される。これを積分することで、積分器15cは制御軸位相θdcを算出して出力する。積分器15cからの制御軸位相θdcは、第1の位相調整手段15aからの重畳位相θpと共に、電圧出力手段3および電流成分分離手段5へ出力される。
【0096】
以上説明したような構成とすることで、第2の位相調整手段15bの出力を速度推定値ωr^とみなすことができる。この速度推定値ωr^に基づいて、上位のシステムは電動機制御システム100cの状態を判断し、電流指令生成手段6において電流指令Idc*、Iqc*を生成するためのトルク指令を出力することができる。
【0097】
(第4実施形態)
図17は、本発明の第4実施形態による電動機制御システム100dの全体構成図である。本実施形態は、前述の第2実施形態と第3実施形態を組み合わせたものである。電動機制御システム100dは、電力変換装置50dと誘導電動機14を備えている。電力変換装置50dは、電動機制御装置40dと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。電動機制御装置40dは、第2実施形態で説明したのと共通の電圧出力手段12および電流成分分離手段13を備えると共に、第3実施形態で説明したのと共通の位相調整手段15を備えている。それ以外の点は、第1実施形態で説明した電動機制御装置40aと同じである。
【符号の説明】
【0098】
1 電動機
2 電流検出手段
3 電圧出力手段
4 ベクトル演算手段
5 電流成分分離手段
6 電流指令生成手段
7 高周波電流ノルム指令生成手段
8 軸偏差基準量指令生成手段
9 重畳電圧振幅調整手段
10 位相調整手段
11 電力変換手段
12 電圧出力手段
13 電流成分分離手段
14 誘導電動機
15 位相調整手段
40a,40b,40c,40d 電動機制御装置
50a,50b,50c,50d 電力変換装置
100a,100b,100c,100d 電動機制御システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置および電動機駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータや誘導モータ等の交流電動機(以下、単に「電動機」と称する。)の駆動システムでは、直流電力を交流電力に変換して電動機を駆動する電動機駆動装置として、電圧型インバータに代表される電力変換装置が多用される。こうした電動機駆動用電力変換装置を高性能化するためには、電動機の回転子の制御情報として、回転子の磁極位置や回転速度などを精度よく検出する必要がある。近年の電力変換装置は、位置センサや速度検出器などを電動機に取りつけて実際に回転子の回転状態を測定するのではなく、電動機に発生する逆起電圧情報から回転子の回転状態を推定することで高精度な制御量推定を行う制御方法を使用している。
【0003】
しかし、このように逆起電圧情報から回転子の回転状態を推定する電動機の制御方法は、電動機の回転速度が極低速付近では逆起電圧が絶対的に小さくなることから、適用が困難である。そこで、低速での制御量推定方法として、電動機の突極性または磁束飽和特性を利用する方法がある。
【0004】
特許文献1には、特に永久磁石同期電動機の突極性を利用して、回転子の回転状態を表す磁極位置の推定を行う磁極位置検出装置が記載されている。この磁極位置検出装置は、電動機の磁極軸(dc軸)に交番磁界を発生させ、このdc軸に対して直交する推定トルク軸(qc軸)成分の脈動電流(あるいは電圧)を検出し、これに基づいて電動機内部の磁極位置を推定演算する。この技術は、実際の磁極軸と推定磁極軸との間に誤差がある場合に、dc軸からqc軸に対してインダクタンスの干渉項が存在する特徴を利用している。これは、高周波の電圧または電流を電動機に重畳し、これによって発生する高周波の電流または電圧の変動分を検出することで、インダクタンスを逐次計測し、制御量として二次磁束の位相を推定するものである。
【0005】
特許文献2には、電動機の磁気飽和特性を利用して回転子の回転状態を表す磁極位置を推定演算する方法が記載されている。この演算方法では、電動機に対して、ある方向へ電圧を印加したことで発生する電流の大きさに基づいて、磁極位置を推定演算する。
【0006】
また、特許文献3には、高周波電流指令を重畳し、電流制御を行うことで発生する高周波電圧の変動分からインダクタンスを逐次計測する方式において、その電流指令値を低トルク時と高トルク時で変更することが記載されている。
【0007】
これらの方法により、回転子の回転状態を検出するためのセンサを用いることなく、電動機の運転情報を精度良く推定することができる。これにより、センサおよびセンサの検出信号を出力するケーブル等のコストや、これらの設置の手間を削減することができる。更には、センサの組み付け誤差や周囲環境に起因するノイズ、センサの故障などによる電動機駆動の不適切な挙動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3312472号
【特許文献2】特開2002−78392号公報
【特許文献3】特開2010−154597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2に記載の技術のように、電圧指令に高周波電圧を加算して高周波電流を発生させる電動機の制御方法は、重畳する高周波電圧の振幅が一定であるか、または発生する高周波電流が比較的小さい範囲において特に有効である。しかし、電動機は高トルク運転時、電流が増大すると磁束飽和現象によって高周波電圧に対するインダクタンスが減少するため、高周波電流の振幅が増大する傾向がある。そのため、高トルク運転時に電圧指令に高周波電圧を加算して高周波電流を発生させると、所定の電流限界値を高周波電流が超過してしまい、電動機の運転を持続できなくなるという問題が生じることがある。
【0010】
一方、特許文献3に記載の技術は、電流指令に高周波電流指令を加算して電流制御を行う方法であり、高周波電流振幅を指令値として与えているため、上記のような問題は発生しない。しかし、このように電流指令に高周波電流指令を加算する電動機の制御方法では、重畳する交番信号の周波数を電流制御系の応答速度以上に上げることができないため、磁極位置の検出応答速度が制限される。そのため、衝撃外乱などによる電動機の回転状態の変動に対して磁極位置を精度よく検出することが困難な場合がある。また、高周波重畳により発生する電磁音の周波数がヒトの可聴音域まで低くなることで騒音になりやすいなどの問題も発生することがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による電力変換装置は、直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する電力変換手段と、交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、交流電力の電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段により検出された電流から交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備える。
本発明による電動機制御システムは、交流電動機と、直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する電力変換手段と、交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、交流電力の電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段により検出された電流から交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転子の回転状態を検出するためのセンサを用いずに電動機を制御する電動機の制御方法において、電動機が高トルク運転時でも電動機の運転を持続しつつ、回転子の回転状態を精度よく検出すると共に騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態による電動機制御システム100aの構成図である。
【図2】本発明による電動機制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。
【図3】電圧出力手段3の内部構成図である。
【図4】電流成分分離手段5の内部構成図である。
【図5】電流成分分離手段5の動作を説明するための各信号の波形例を示す図である。
【図6】軸偏差基準量の特性説明図である。
【図7】位相調整手段10の内部構成図である。
【図8】高周波電流ノルム指令生成手段7の内部構成図である。
【図9】重畳電圧振幅調整手段9の内部構成図である。
【図10】電流とインダクタンスの特性説明図である。
【図11】本発明の効果の説明図である。
【図12】本発明の第2実施形態による電動機制御システム100bの構成図である。
【図13】電圧出力手段12の内部構成図である。
【図14】電流成分分離手段13の内部構成図である。
【図15】本発明の第3実施形態による電動機制御システム100cの構成図である。
【図16】位相調整手段15の内部構成図である。
【図17】本発明の第4実施形態による電動機制御システム100dの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1から第4の各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、各図で共通する構成要素には同一の符号をそれぞれ付しており、それらの重複する構成要素についての説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による電動機制御システム100aの構成図である。
【0016】
図1において、電動機制御システム100aは、電力変換装置50aと電動機1とを備える。電力変換装置50aは、電動機制御装置40aと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。
【0017】
電流検出手段2は、電力変換手段11から電動機1に流れる三相交流電流Iu、Iv、Iwを検出し、その検出結果に応じた三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcを電動機制御装置40aへ出力する。電流検出手段2は、たとえばホール素子を用いた電流センサにより実現される。
【0018】
電力変換手段11は、電動機制御装置40aで生成された三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に基づいて、直流電源(不図示)からの直流電力を三相交流電力に変換し、電動機1へ供給する。このとき、電力変換手段11から電動機1に対して、交流電力の電圧である三相交流電圧Vu、Vv、Vwと、交流電力の電流である三相交流電流Iu、Iv、Iwとが出力される。電力変換手段11は、たとえばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などをスイッチング素子として用いたインバータにより実現される。
【0019】
電動機1は、三相の同期電動機であり、電力変換手段11から供給される三相交流電力によって動作する。電動機1は、複数の永久磁石が組み込まれた回転子が固定子の内部を回転するように構成されている。なお、こうした電動機1の構成の詳細については図示を省略する。
【0020】
図2は、本発明による電動機制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。図2において、a軸とb軸により定義されるab軸座標系は、固定子の位置を表すための固定子座標系であり、a軸は一般的に電動機1のu相巻線位相を基準にとられる。一方、d軸とq軸により定義されるdq軸座標系は、回転子の磁極位置を表すための回転子座標系であり、電動機1の回転子と同期して回転する。電動機1が永久磁石同期電動機の場合、d軸は一般的に回転子に取り付けられた永久磁石の位相を基準にとられる。d軸は磁極軸とも呼ばれる。dc軸とqc軸は、磁極位置の推定位相、すなわち電動機制御装置40aが行う制御において想定しているd軸とq軸の方向をそれぞれ表している。これらの座標軸によりdc−qc軸座標系が定義される。dc軸は制御軸とも呼ばれている。p軸とz軸により定義されるpz軸座標系は、電圧指令の基本波に対して重畳される高周波電圧を表すための座標系である。なお、各座標系において組み合わされる座標軸同士はいずれも互いに直交している。
【0021】
上記の各座標系において、図2に示すように、a軸を基準としたd軸、dc軸、p軸の各軸の位相をθd、θdc、θpとそれぞれ表す。また、d軸に対するdc軸、p軸の偏差をΔθ、θpdとそれぞれ表す。さらに、高周波電圧を重畳することで生じる高周波電流のp軸に対する位相差をθivhと表す。
【0022】
図1において、電動機制御装置40aは、電圧出力手段3と、ベクトル演算手段4と、電流成分分離手段5と、電流指令生成手段6と、高周波電流ノルム指令生成手段7と、軸偏差基準量指令生成手段8と、重畳電圧振幅調整手段9と、位相調整手段10とを備える。なお、電動機制御装置40aは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、CPU(Central Processing Unit)、プログラムなどによって構成されている。すなわち、電動機制御装置40aが有する上記の各手段は、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現されるものである。
【0023】
続いて、電動機制御装置40aの動作について説明する。電動機制御装置40aの主な目的は、電力変換手段11が電動機1に供給する交流電力における励磁電流成分(d軸電流)Idおよびトルク電流成分(q軸電流)Iqを任意の電流指令値Idc*、Iqc*にそれぞれ一致させることにある。その実現のために、電動機制御装置40aでは電流制御系と位相制御系が動作する。位相制御系の目的は、電動機1の回転子の位置を表すd軸に制御軸であるdc軸を一致(同期)させることであり、図1では主に位相調整手段10がその役割を担う。一方、電流制御系の目的は、dc−qc軸座標系上のdc軸電流検出値Idcとqc軸電流検出値Iqcを任意の電流指令値Idc*、Iqc*にそれぞれ一致させることであり、主にベクトル演算手段4がその役割を担う。
【0024】
まず、位相制御系が位置センサ類を用いずに高周波電圧を重畳することでd軸とdc軸を同期させる動作について以下に説明する。
【0025】
図3は、電圧出力手段3の内部構成を示している。図3に示すように、電圧出力手段3は、交番電圧波形発生手段3aと、乗算器3bと、結合器3cと、座標変換手段3dおよび3eと、加算器3fと、2相3相変換手段3gとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40aが有する各手段と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。なお、この実施形態では、電動機制御装置40aからの三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*においてそれぞれ重畳される交番電圧の波形が矩形波であるものとする。
【0026】
交番電圧波形発生手段3aから出力された高周波の矩形波信号は、乗算器3bへ出力される。この矩形波信号の周波数は、電動機1が動作する運転周波数、すなわち電動機制御装置40aによる電動機1の制御周波数よりも高い。交番電圧波形発生手段3aからの矩形波信号は、さらに交番電圧波形waveとして電圧出力手段3の外へも出力される。この交番電圧波形waveは、図1に示すように電圧出力手段3から電流成分分離手段5へと出力される。
【0027】
乗算器3bは、交番電圧波形発生手段3aから入力された矩形波信号を、図1に示すように重畳電圧振幅調整手段9から入力される重畳電圧振幅指令値Vh*と掛け合わせることで、重畳電圧振幅指令値Vh*に応じた振幅の矩形波信号を生成する。こうして生成された矩形波信号は、結合器3cへと出力される。
【0028】
結合器3cは、乗算器3bから入力された矩形波信号をp軸上の交番電圧Vph*およびz軸上の交番電圧Vzh*に変換し、pz軸座標系のベクトル量を表す交番電圧ベクトルとして座標変換手段3dに出力する。
【0029】
座標変換手段3dは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるp軸の位相情報θpに基づいて、結合器3cから入力された交番電圧ベクトルをab軸座標系のベクトル量に変換する。そして、変換後の交番電圧ベクトルを加算器3fに出力する。
【0030】
座標変換手段3eは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるdc軸の位相情報θdcに基づいて、図1のベクトル演算手段4から入力される電圧指令の基本波ベクトルをdc−qc軸座標系のベクトル量からab軸座標系のベクトル量へと変換する。なお、ベクトル演算手段4から入力される電圧指令の基本波ベクトルは、dc軸上の基本電圧指令値Vdc*とqc軸上の基本電圧指令値Vqc*によって表される。そして、変換後の基本波ベクトルを加算器3fに出力する。
【0031】
加算器3fは、座標変換手段3dからの交番電圧ベクトルを座標変換手段3eからの基本波ベクトルに加算する。これにより、ベクトル演算手段4から入力された基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に対して、交番電圧ベクトルに応じた高周波の交番電圧が重畳される。加算器3fによる重畳結果を表す加算後のベクトルは、加算器3fから2相3相変換手段3gに出力される。
【0032】
2相3相変換手段3gは、加算器3fから入力された加算後のベクトルをu相、v相、w相の各相に対応する電圧値へと変換し、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*として出力する。これらの三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*は、前述のように電動機制御装置40aが生成したものとして電力変換手段11へ出力される。
【0033】
以上説明したようにして、電圧出力手段3により、電動機制御装置40aが生成する三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*において矩形波の高周波電圧が重畳される。なお、本実施形態では交番電圧ベクトルと基本波ベクトルをab軸座標系にそれぞれ変換してから加算器3fにより足し合わせているが、たとえばdc−qc軸座標系やuvw座標系など、その他の座標系で足し合わせてもよい。
【0034】
図4は、電流成分分離手段5の内部構成を示している。図4に示すように、電流成分分離手段5は、座標変換手段5aと、基本波成分抽出手段5bと、高周波成分抽出手段5cと、符号補償手段5dと、軸偏差基準量演算手段5eと、ノルム演算手段5fとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40aや電圧出力手段3の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0035】
図5は、電流成分分離手段5の動作を説明するための各信号の波形例を示す図である。図5において、図5(a)は、図3の電圧出力手段3において交番電圧波形発生手段3aが発生する矩形波信号の周期を決める三角波キャリアの波形例を示している。図5(b)は、電圧出力手段3において結合器3cから座標変換手段3dに出力される前述のp軸上の交番電圧Vph*の波形例を示している。図5(c)は、dc−qc軸座標系でのd軸電流検出値Idcの波形例とその平均値である基本波電流成分IdcAVGを示している。図5(d)は、d軸電流検出値Idcの1回当たりの差分値ΔIdcの波形例を示している。図5(e)は、電圧出力手段3において交番電圧波形発生手段3aから出力される前述の交番電圧波形waveの波形例を示している。図5(f)は、図5(d)の波形と図5(e)の波形とを掛け合わせた波形例を示している。
【0036】
電動機制御装置40aにおいて、電流検出手段2から出力された三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcは、図1に示すように電流成分分離手段5へと入力される。これらの信号は、ベクトル演算手段4からの基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に応じた基本波電流成分(電圧指令の基本波ベクトルに対応する電流成分)と、重畳電圧振幅調整手段9からの重畳電圧振幅指令値Vh*に応じた高周波電流成分(交番電圧ベクトルに対応する電流成分)とを含む。ここで、電動機制御装置40aが行う制御において、電流制御系では基本波電流成分が必要であり、位相制御系では高周波電流成分が必要となる。そのため、電流成分分離手段5では、次のようにして電流検出手段2からの三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcを基本波電流成分と高周波電流成分に分離する操作を行う。
【0037】
図4、5を参照して、電流成分分離手段5の動作を説明する。図4において、座標変換手段5aは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるdc軸の位相情報θdcに基づいて、電流検出手段2からの三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcをdc−qc軸座標系のベクトル量に変換する座標変換を行う。この座標変換により、前述のdc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcが求められる。これらの電流検出値Idc、Iqcは、座標変換手段5aから基本波成分抽出手段5bおよび高周波成分抽出手段5cへと出力される。なお、図5(c)ではdc軸電流検出値Idcの波形例のみを示している。
【0038】
基本波成分抽出手段5bは、座標変換手段5aから入力されたdc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcをそれぞれ所定のタイミングごとにサンプリングする。図5(c)ではdc軸電流検出値Idcをサンプリングする検出点を例示しているが、qc軸電流検出値Iqcについても同様である。そして、逐次平均処理を実施することにより、dc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcの各サンプリング値の平均値を逐次求め、これらに含まれる高周波成分をそれぞれキャンセルして、dc軸の基本波電流成分IdcAVGおよびqc軸の基本波電流成分IqcAVGを抽出する。こうして抽出された基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGは、図1に示すように電流成分分離手段5からベクトル演算手段4および高周波電流ノルム指令生成手段7へと出力される。
【0039】
高周波成分抽出手段5cは、座標変換手段5aから入力されたdc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcに対して、今回の検出値から前回の検出値をそれぞれ減算することにより、1回当たりの差分値ΔIdcおよびΔIqcをそれぞれ算出する。図5(d)ではdc軸電流検出値Idcに対して算出される差分値ΔIdcを示しているが、qc軸電流検出値Iqcに対して算出される差分値ΔIqcについても同様である。ここで、dc軸電流検出値Idcおよびqc軸電流検出値Iqcの基本波成分の周波数は交番電圧の周波数に対して十分低いため、上記の差分値ΔIdc、ΔIqcはほぼ交番電圧による電流変化量とみなすことが出来る。すなわち、特殊なフィルタ等を使用することなく、電流検出値Idc、Iqcから交番電圧に応じた高周波電流成分を表す差分値ΔIdc、ΔIqcの抽出が高速に実現できることになる。なお、図5(b)、(d)から分かるように、dc軸の差分値ΔIdcは、交番電圧Vph*の正負符号の交代に伴って半周期分だけ遅れて符号が反転する。qc軸の差分値ΔIqcと交番電圧Vzh*についても同様である。算出されたdc軸の差分値ΔIdcおよびqc軸の差分値ΔIqcは、高周波成分抽出手段5cから符号補償手段5dへと出力される。
【0040】
符号補償手段5dは、高周波成分抽出手段5cから入力されたdc軸の差分値ΔIdcとqc軸の差分値ΔIqcに対して、図1に示すように電圧出力手段3から入力される交番電圧波形waveに基づく符号補償を行う。前述のように差分値ΔIdc、ΔIqcは、交番電圧における正負符号の交代に伴ってそれぞれの符号が反転する。そのため、これらの差分値に対して交番電圧波形waveをそれぞれ掛け合わせることで、符号の反転を打ち消して符号補償を行うことができる。図5(f)では、図5(d)に示すdc軸の差分値ΔIdcに対して図5(e)に示す交番電圧波形waveを掛け合わせた例を示しているが、qc軸の差分値ΔIqcについても同様である。このとき、必要に応じて逐次平均を施してもよい。こうして符号補償が行われた後の差分値ΔIdcおよびΔIqcは、高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGとして、符号補償手段5dから軸偏差基準量演算手段5eおよびノルム演算手段5fへそれぞれ出力される。
【0041】
軸偏差基準量演算手段5eは、図1に示すように位相調整手段10から入力されるdc軸の位相情報θdcおよびp軸の位相情報θpと、符号補償手段5dから入力された高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGとに基づいて、基本波に重畳される高調波電圧とそれによって生じる高周波電流との間の位相差を算出する。この位相差は、図2に示した高周波電流のp軸に対する位相差θivhで表すことができる。図2から分かるように、位相差θivhにはθpとθdの位相差情報が含まれるため、たとえば以下の式(1)のように位相差θivhを計算することができる。
【0042】
【数1】
・・・(1)
【0043】
位相差θivhを計算したら、軸偏差基準量演算手段5eはさらに位相差θivhに負のゲインを乗算し、その結果を軸偏差基準量xθpdとして出力する。軸偏差基準量演算手段5eから出力された軸偏差基準量xθpdは、図1に示すように電流成分分離手段5から位相調整手段10へと出力される。
【0044】
図6は、軸偏差基準量xθpdの特性を説明するための図である。図6に示すように、軸偏差基準量xθpdはd軸に対するp軸の偏差θpdに応じて変化することから、磁極位置すなわちd軸位相θdの情報を含むことが分かる。すなわち、軸偏差基準量演算手段5eにより、電動機1の磁極位置に応じた軸偏差基準量xθpdを求めることができる。したがって、位相制御系のために軸偏差基準量xθpdが必要となる。
【0045】
ノルム演算手段5fは、本発明の電動機制御を実現するために電流成分分離手段5において新たに追加されたものであり、符号補償手段5dから入力された高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGのノルム(以下、高周波電流ノルムIhと称する)を計算する。ここでいうノルムとは、高周波電流ベクトルの長さ成分のことである。たとえば以下の式(2)に示すようなH2ノルムの計算を適用することにより、高周波電流ノルムIhを計算することができる。ノルム演算手段5fで計算された高周波電流ノルムIhは、図1に示すように電流成分分離手段5から重畳電圧振幅調整手段9へと出力され、重畳電圧振幅調整手段9が行う後述のような制御において利用される。
【0046】
【数2】
・・・(2)
【0047】
以上説明したようにして、電流成分分離手段5により、電流検出手段2からの三相電流信号Iuc、Ivc、Iwcが基本波電流成分と高周波電流成分に分離される。そして、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGがベクトル演算手段4および高周波電流ノルム指令生成手段7へ出力され、高周波電流成分に基づく軸偏差基準量xθpdと高周波電流ノルムIhが位相調整手段10と重畳電圧振幅調整手段9へそれぞれ出力される。
【0048】
軸偏差基準量指令生成手段8は、所定の軸偏差基準量指令xθpd*を生成して位相調整手段10へ出力する。電動機制御装置40aの位相制御系では、以下に説明するような位相調整手段10の動作により、軸偏差基準量指令生成手段8が生成する軸偏差基準量指令xθpd*と上記の軸偏差基準量xθpdとが一致するように、重畳位相および制御軸位相、すなわちp軸の位相θpおよびdc軸の位相θdcを調整する。軸偏差基準量指令xθpd*は、xθpd=xθpd*のときに重畳位相θpとd軸(磁極軸)の位相θdが一致するような値をとる。ここで、電動機1が突極性を有するものである場合、軸偏差基準量xθpdは図6のような特性となり、d軸に対するp軸の偏差θpdが0であるときにxθpd=0となる。このことから通常はxθpd*=0とすればよい。こうして常にxθpd=xθpd*となるようにp軸の位相θpを制御することで、θp=θdとみなすことができる。このような原理により、電動機制御装置40aにおいて、位置センサを使用することなく電動機1の磁極位置の位相θdを推定することができる。
【0049】
図7は、位相調整手段10の内部構成例を示している。図7に示すように、位相調整手段10は、第1の位相調整手段10aと、第2の位相調整手段10bと、選択スイッチ10cとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40a、電圧出力手段3、電流成分分離手段5の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0050】
第1の位相調整手段10aは、図1に示すように電流成分分離手段5から入力される軸偏差基準量xθpdと、軸偏差基準量指令生成手段8からの軸偏差基準量指令xθpd*とが一致するように、重畳位相θpを調整する。ここで、第1の位相調整手段10aの応答が十分速ければ、軸偏差基準量xθpdと軸偏差基準量指令xθpd*が一致するようθpを調整することで、前述のように重畳位相θpと磁極軸位相θdが一致しているとみなすことができる。この場合、重畳位相θpと制御軸位相θdcの差分が、現在の磁極軸位相θdと制御軸位相θdcとの間の軸偏差Δθということになる。第1の位相調整手段10aにおいて調整された重畳位相θpは、第2の位相調整手段10aおよび選択スイッチ10cへ出力される。さらに、p軸の位相情報として、図1に示すように位相調整手段10から電圧出力手段3および電流成分分離手段5にも出力される。
【0051】
第2の位相調整手段10bは、第1の位相調整手段10aからの重畳位相θpに基づいて前述の軸偏差Δθを算出し、その軸偏差Δθを0とするように制御軸位相θdcを調整する。こうして制御軸位相θdcを調整することにより、磁極軸すなわちd軸の位相θdと、制御軸すなわちdc軸の位相θdcとを同期させる。第2の位相調整手段10bにおいて調整された制御軸位相θdcは、選択スイッチ10cへ出力される。
【0052】
選択スイッチ10cは、A、B2つの接点を入力側に有しており、いずれか一方の接点を選択して出力側の接点との間を結線する。接点Aには第2の位相調整手段10bからの制御軸位相θdcが入力され、接点Bには第1の位相調整手段10aからの重畳位相θpが入力される。そのため、選択スイッチ10cにおいて接点Aを選択した場合、制御軸位相θdcをdc軸の位相情報として位相調整手段10から電圧出力手段3および電流成分分離手段5へ出力することができる。一方、選択スイッチ10cにおいて接点Bを選択した場合は、重畳位相θpがdc軸の位相情報θdcとして位相調整手段10から電圧出力手段3および電流成分分離手段5へ出力される。これにより、p軸の位相情報θpとdc軸の位相情報θdcとを一致させ、電圧出力手段3や電流成分分離手段5における演算負荷を軽くすることができる。なお、選択スイッチ10cの結線は上述のように必要に応じて変更することができるものであるが、結線をいずれか一方に固定してもよい。その場合、選択スイッチ10cにおけるスイッチ動作などの不要な処理を省略しても構わない。これは、以降で説明する図面内に描かれた他の選択スイッチに関しても同様である。
【0053】
上記のような各構成の動作により、位相調整手段10において重畳位相θpと制御軸位相θdcとを別々に制御することができる。そのため、電流制御系の応答設計とは無関係に第1の位相調整手段10aの制御応答設計が可能となる。
【0054】
以上説明したような位相制御系の動作により、位置センサ類を用いずにd軸とdc軸を同期させることができる。
【0055】
続いて、電流制御系の動作について説明する。電流制御系は、上記のような位相制御系の動作によってdc軸がd軸に一致しているものと仮定して、以下で説明するような動作を行う。
【0056】
電流指令生成手段6は、上位のシステムから電動機制御装置40aに入力されるトルク指令等の入力情報に基づいて、電動機1に供給される交流電力の励磁電流成分であるd軸電流Idに対するdc軸電流指令値Idc*と、トルク電流成分であるq軸電流Iqに対するqc軸電流指令値Iqc*とを生成する。電流指令生成手段6により生成された電流指令値Idc*、Iqc*は、図1に示すようにベクトル演算手段4および高周波電流ノルム指令生成手段7へ出力される。
【0057】
ベクトル演算手段4は、電流指令生成手段6からの電流指令値Idc*、Iqc*と、電流成分分離手段5からの基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGとに基づいて、電圧指令の基本波ベクトルである基本電圧指令値Vdc*、Vqc*を調整する。具体的には、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGが電流指令値Idc*、Iqc*とそれぞれ一致するように、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*を演算し、演算結果を電圧出力手段3へ出力する。ベクトル演算手段4は、この演算を電動機1の運転周波数に応じた所定の制御応答速度で行うことができる。なお、電流指令値Idc*は通常の状態ではゼロであるが、弱め界磁や起動時などの特定の制御状態のときにはゼロに設定しないことがある。たとえば起動時にd軸の電流検出値Idcを徐々に増加することにより、回転子を所定の回転位置に固定させてから通常のベクトル制御に移行することができる。
【0058】
以上説明したような電流制御系の動作により、dc−qc軸座標系の電流検出値Idc、Iqcを電流指令値Idc*、Iqc*にそれぞれ一致させることができる。
【0059】
上記の電流制御系および位相制御系による各動作が電動機制御の基本的な動作である。本発明では、これらの電流制御系と位相制御系に加えて、さらに高周波電流リプルのノルム値を制御するための高周波電流制御系が実装されている。本実施形態では、電流成分分離手段5において追加された前述のノルム演算手段5fと、高周波電流ノルム指令生成手段7と、重畳電圧振幅調整手段9とが主にその役割を担う。
【0060】
図8は、高周波電流ノルム指令生成手段7の内部構成例を示している。図8に示すように、高周波電流ノルム指令生成手段7は、選択スイッチ7aと、テーブル7bと、ゲイン7cと、合成器7dと、選択スイッチ7eとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40a、電圧出力手段3、電流成分分離手段5、位相調整手段10の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0061】
選択スイッチ7aは、A〜Fの合計6つの接点を入力側に有しており、これらの接点の中から任意の組合せを選択して、その接点と出力側の接点a、bのうちいずれか一方または両方との間を結線する。入力側の接点A、Bには電流指令生成手段6からの電流指令値Idc*、Iqc*がそれぞれ入力され、接点Cにはこれらの電流指令値が表す電流指令ベクトルのノルムが入力される。また、接点D、Eには電流成分分離手段5からの基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGがそれぞれ入力され、接点Fにはこれらの基本波電流成分が表す基本波電流ベクトルのノルムが入力される。一方、出力側の接点a、bはテーブル7b、ゲイン7cとそれぞれ接続されている。そのため、選択スイッチ7aにおいて入力側と出力側で任意の接点同士をそれぞれ結線することで、接点A〜Fに入力される各入力値のうち任意のものを接点a、bからテーブル7bとゲイン7cへそれぞれ選択的に出力することができる。なお、互いに異なる入力値の組合せを選択スイッチ7aからテーブル7bとゲイン7cへそれぞれ出力してもよいし、同一の組合せを出力してもよい。また、選択スイッチ7aからテーブル7bまたはゲイン7cのいずれか一方への出力のみを行い、他方への出力を遮断してもよい。
【0062】
テーブル7bは、予め設定された入力値と出力値の関係をテーブル情報として有しており、選択スイッチ7aからの入力値に基づいてテーブル情報を参照することで出力値を決定する。テーブル7bからの出力値は合成器7dに入力される。
【0063】
ゲイン7cは、選択スイッチ7aからの入力値に所定のゲインを掛けて出力値を決定する。ゲイン7cからの出力値は合成器7dに入力される。
【0064】
合成器7dは、テーブル7bからの出力値とゲイン7cからの出力値を所定の法則に従って合成し、選択スイッチ7eの接点Aに出力する。たとえば、テーブル7bからの出力値とゲイン7cからの出力値を単純に足し合わせてもよいし、これらを所定の比率で重み付けして足し合わせてもよい。なお、選択スイッチ7aにおいてテーブル7bまたはゲイン7cのいずれか一方のみが出力先として選択されている場合は、その出力先からの出力値をそのまま合成器7dから選択スイッチ7eの接点Aへ出力してもよいし、所定の演算を行った後に出力してもよい。
【0065】
選択スイッチ7eは、A、B2つの接点を入力側に有しており、いずれか一方の接点を選択して出力側の接点との間を結線する。接点Aには合成器7dからの出力が入力され、接点Bには予め設定された所定値Ih0*が入力される。そのため、選択スイッチ7eにおいて接点Aを選択した場合、合成器7dからの出力が高周波電流ノルム指令値Ih*として高周波電流ノルム指令生成手段7から重畳電圧振幅調整手段9へ出力される。これにより、電流指令値Idc*、Iqc*、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVG、またはこれらの各ノルムのうちいずれか少なくとも一つに基づいて、高周波電流ノルム指令生成手段7から高周波電流ノルム指令値Ih*が出力される。一方、選択スイッチ7eにおいて接点Bを選択した場合、固定値Ih0*が高周波電流ノルム指令値Ih*として高周波電流ノルム指令生成手段7から重畳電圧振幅調整手段9へ出力される。
【0066】
以上説明したようにして、高周波電流ノルム指令生成手段7により、高周波電流ノルム指令値Ih*が生成されて重畳電圧振幅調整手段9へ出力される。この高周波電流ノルム指令値Ih*は、電流検出手段2の検出精度および電動機1において期待される突極比特性から決まるものである。ここでいう突極比特性とは、図6に示したような軸偏差基準量xθpdの波形を決定するものであって電動機1に固有の特性である。
【0067】
最も単純な制御方法では、上記のように選択スイッチ7eにおいて接点Bを選択することでIh*=Ih0*として、高周波電流ノルム指令値Ih*を固定値としてもよい。しかし、突極比特性は電流動作点に対して不変ではないため、これに応じて上記のように選択スイッチ7eにおいて接点Aを選択してテーブル7cやゲイン7cからの出力値を用いることにより、高周波電流ノルム指令値Ih*を可変にすることが望ましい場合も考えられる。たとえば、電動機1の突極比特性が高トルク条件で悪化する場合、ゲイン7cにより高周波電流ノルム指令値Ih*を可変にしてもよい。また、たとえば特定電流条件での突極比特性が悪化するなど、電動機1の突極比特性が複雑な場合、テーブル7bにより高周波電流ノルム指令値Ih*を決定してもよい。このような場合、選択スイッチ7aからゲイン7cおよびテーブル7bへの入力としては、電流指令値Idc*またはIqc*、あるいはこれらの電流指令値が表す電流指令ベクトルのノルムを用いればよい。一方、より高速な応答が必要な場合は、基本波電流成分IdcAVGまたはIqcAVG、あるいはこれらの基本波電流成分が表す基本波電流ベクトルのノルムを用いればよい。
【0068】
図9は、重畳電圧振幅調整手段9の内部構成を示している。図9に示すように、重畳電圧振幅調整手段9は、重畳電圧振幅制御手段9aと、リミッタ9bとを備える。これらの各構成は、前述の電動機制御装置40a、電圧出力手段3、電流成分分離手段5、位相調整手段10、高周波電流ノルム指令生成手段7の各構成と同様に、CPUがプログラムに応じて実行する処理としてそれぞれ実現される。
【0069】
重畳電圧振幅制御手段9aは、電流成分分離手段5からの高周波電流ノルムIhと、高周波電流ノルム指令生成手段7からの高周波電流ノルム指令値Ih*とが一致するように、重畳電圧振幅指令値Vh*を求める。これは図9において示すように、PI制御あるいはI制御の構成でよい。重畳電圧振幅制御手段9aによって求められた交番電圧振幅指令値Vh*は、リミッタ9bへ出力される。
【0070】
リミッタ9bは、重畳電圧振幅制御手段9aからの重畳電圧振幅指令値Vh*が負の値や異常に小さい値とならないように制限して出力する。リミッタ9bを通過した重畳電圧振幅指令値Vh*は、図1に示すように重畳電圧振幅調整手段9から電圧出力手段3へと出力され、前述のような矩形波信号の生成に用いられる。リミッタ9bはまた、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*が表す基本波ベクトルのノルムと重畳電圧振幅指令値Vh*との和を計算する。この計算結果に基づいて、電動機制御装置40aからの三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に応じて電力変換手段11が出力する電圧が出力可能電圧として定められた所定の上限値を超過しそうな状態であるか否かを判定する。その結果、出力可能電圧を超過しそうな状態であると判定された場合は、運転持続不可能と判断してイベントフラグを立てる。こうしたイベントフラグが立てられたことを検知すると、電動機制御装置40aは所定のイベントを行う。たとえば、交番電圧周波数の変更、エラー表示、出力遮断などを行う。
【0071】
以上説明したようにして、重畳電圧振幅調整手段9により、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に対して重畳する交番電圧の振幅を電圧出力手段3において調整するための重畳電圧振幅指令値Vh*が求められ、電圧出力手段3へと出力される。ここで、高周波電流ノルムIhと、軸偏差基準量xθpdと、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGとは、電流成分分離手段5によってそれぞれ分離されており、これらが別々の制御系でそれぞれ制御されている。そのため、上述したような高周波電流制御系が重畳電圧振幅指令値Vh*を調整することで高周波電流ノルムIhが変動しても、他の電流制御系および位相制御系には全く影響を与えることがない。したがって、各制御系について最適な制御応答設計とすることができる。
【0072】
次に、以上説明した実施の形態により得られる本発明の主な効果について述べる。
【0073】
図10は、電動機1における電流とインダクタンスの特性を説明するための特性説明図である。この図では、上述の基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGが表す基本波電流ベクトルのノルムをI1とし、これによって電動機1において発生する磁束を主磁束φとしたときの、基本波電流ノルムI1と主磁束φの関係をグラフにより模式的に表している。図10において、グラフの横軸は基本波電流ノルムI1の大きさを表し、縦軸は主磁束φの大きさを表している。
【0074】
基本波電流ノルムI1が比較的小さい範囲では、電動機1において発生するトルクが小さい。このとき図10に示すグラフの傾きはほぼ一定であり、基本波電流ノルムI1と主磁束φの関係はほぼ比例関係にあることが分かる。この傾きにより電動機1のインダクタンスLが定義される。しかし、トルクが大きく、基本波電流ノルムI1が表す電流量が比較的大きい条件下では、電動機1において回転子に鎖交する磁束が飽和するため、図10に示すようにグラフの傾き(インダクタンスL)が小さくなる。ここで、前述の重畳電圧振幅調整手段9からの重畳電圧振幅指令値Vh*に応じて三相交流電圧Vu、Vv、Vwにおいて重畳される交番電圧の振幅を重畳電圧振幅Vhと表すと、重畳電圧振幅Vhを一定とした場合の高周波電流ノルムIhは上述のインダクタンスLの大きさに反比例する。すなわち、重畳電圧振幅指令値Vh*を一定に設定すると、トルクが増えるに従って磁束飽和の影響により高周波電流ノルムIhが増加することになる。
【0075】
トルクが増大し、電動機制御システム100におけるハードウェア性能の限界付近まで電動機1に流れる基本波電流ノルムI1が増加した場合、高周波電流ノルムIhが磁束飽和によって増大することで、上述の電流限界を電流値が超過してしまうことがある。以下ではこのような現象をOC(OverCurrent)と称する。
【0076】
このような問題に対し、本発明では、前述のノルム演算手段5f、高周波電流ノルム指令生成手段7および重畳電圧振幅調整手段9により構成される制御系を用いて、高周波電流ノルムIhを所定の値に制御している。そのため、磁束飽和現象によってインダクタンスが変化しても、高周波電流ノルムIhは一定に保たれることになる。
【0077】
以下では図11の説明図を用いて本発明の効果を説明する。図11(a)は、重畳電圧振幅指令値Vh*を一定値としてトルクを徐々に増加させた場合のu相交流電流Iuの波形の一例を示している。図11(a)では、OCとなる電流限界をOCレベル60aで示している。また、トルクが比較的小さいときの交流電流Iuの波形を拡大したものを符号60b、トルクが比較的大きいときのOC付近における交流電流Iuの波形を拡大したものを符号60cにそれぞれ示している。この拡大波形60cにおいて、太線で示した符号60dの波形は、基本波電流ノルムI1に対応する電流基本波成分を表している。また、波形60dを中心に上下に変動する符号60eの波形は、基本波電流ノルムI1に高周波電流ノルムIhが重畳されることによって形成される交流電流Iuを表している。
【0078】
ここで、磁束飽和の傾向は電動機1の個体ごとに異なるため、高周波電流ノルムIhがどの程度増大するかが事前に分からず、予期せぬOCを発生させる原因となる。また、電力変換手段11から電動機1までのケーブル長が比較的長い場合や、ケーブル形状が途中で変化するような場合は、見かけ上のインダクタンスが増大して高周波電流ノルムIhが小さくなるため、十分な磁極位置推定精度が得られない。そのため、電動機1が脱調してしまい、運転が持続できなくなることがある。
【0079】
図11(b)は、本発明を適用した場合に得られるu相交流電流Iuの波形の一例を示している。この波形も図11(a)の波形と同様に、重畳電圧振幅指令値Vh*を一定としてトルクを徐々に増加させた場合の交流電流Iuの波形例であり、OCとなる電流限界をOCレベル61aで示している。また、トルクが比較的小さいときの交流電流Iuの波形を拡大したものを符号61b、トルクが比較的大きいときのOC付近における交流電流Iuの波形を拡大したものを符号61cにそれぞれ示している。
【0080】
図11(b)から分かるように、本発明を適用した場合、トルクが増大して電流が大きくなっても高周波電流ノルムIhが不必要に増大することがない。そのため、基本波電流ノルムI1が電流限界を示すOCレベル61a付近となるまで運転を持続することが可能になる。また、高周波電流ノルム指令値Ih*から電流指令値の上限値を事前に決めることができるため、OCを未然に防止することができる。さらに、前述のようなケーブル形状の変化による見かけ上のインダクタンス変動の影響をうけることなく、十分な磁極位置推定精度を確保できるため、電動機1の脱調を防いで運転を持続することができる。
【0081】
以上のように、電動機制御装置40aでは、電流成分分離手段5により、電流検出手段2で検出された電流から、交番電圧に応じた高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムIhと、基本電圧指令値Vdc*、Vqc*に応じた基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGと、電動機1の磁極位置に応じた軸偏差基準量xθpdとを抽出する。これらの各抽出値を用いて、高周波電流制御系、電流制御系および位相制御系の各制御をそれぞれ独立して行う。このような構成とすることで、磁束飽和やケーブル形状の変化などによるインダクタンス変化に対して十分な磁極位置推定精度を確保でき、更にOCを未然に防ぐことが可能となる。
【0082】
(第2実施形態)
図12は、本発明の第2実施形態による電動機制御システム100bの全体構成図である。電動機制御システム100bは、電力変換装置50bと電動機1とを備える。電力変換装置50bは、電動機制御装置40bと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。なお、電動機1、電力変換手段11および電流検出手段2は、図1に示す電動機制御システム100aと同じものである。以下、本実施形態の電動機制御装置40bと第1実施形態で説明した電動機制御装置40aとの違いについて、図を用いて説明する。
【0083】
図12において、電動機制御装置40bが図1に示した電動機制御装置40aと異なるのは、図1の電圧出力手段3と電流成分分離手段5に替えて、電圧出力手段12と電流成分分離手段13を備える点である。
【0084】
図13は、電圧出力手段12の内部構成図である。図3に示した電圧出力手段3では、交番電圧波形発生手段3aにより矩形波の交番電圧を発生していた。これに対して、図13に示す電圧出力手段12では、交番電圧波形発生手段12aにより正弦波の交番電圧を発生する。このように本実施形態では、第1の実施形態と比べて、電動機制御装置40bから出力される三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*において矩形波ではなく正弦波の高周波電圧が重畳される点が異なっている。なお、交番電圧波形発生手段12a以外の乗算器12b、結合器12c、座標変換手段12d、12e、加算器12fおよび2相3相変換手段12gの各構成は、図3で対応する各構成とそれぞれ同一の働きをする。
【0085】
図14は、電流成分分離手段13の内部構成を示している。図4に示した電流成分分離手段5では、基本波成分抽出手段5bにおいて、座標変換手段5aから出力された電流検出値Idc、Iqcをそれぞれ所定のタイミングごとにサンプリングして逐次平均処理を実施することにより、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGを抽出していた。これに対して、図14に示す電圧出力手段13では、基本波成分抽出手段13bにおいてLPF(ローパスフィルタ)を用いて電流検出値Idc、Iqcから高周波成分をそれぞれ除去することにより、基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGを抽出する。
【0086】
また、図4に示した電流成分分離手段5では、高周波成分抽出手段5cにおいて電流検出値Idc、Iqcについて1回当たりの差分値ΔIdc、ΔIqcを算出し、さらに符号補償手段5dにおいて符号補償を行うことにより、高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGを抽出していた。これに対して、図14に示す電圧出力手段13では、高周波成分抽出手段13cにおいて交番電圧の正弦波信号の周波数相当を透過するBPF(バンドパスフィルタ)を用いることで、上記の差分値に相当する高周波成分ΔIdc、ΔIqcを抽出する。こうして抽出された高周波成分ΔIdc、ΔIqcに対して、これらの振幅値を振幅演算手段13dにおいてそれぞれ算出することにより、高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGを抽出する。
【0087】
以上説明したように本実施形態では、第1実施形態と比べて、LPFやBPFを用いて電流検出値Idc、Iqcから基本波電流成分IdcAVG、IqcAVGと高周波電流ベクトルΔIdcAVG、ΔIqcAVGを抽出する点が異なっている。なお、基本波成分抽出手段13b、高周波成分抽出手段13cおよび振幅演算手段13d以外の各構成(座標変換手段13a、軸偏差基準量演算手段13e、ノルム演算手段13f)は、図4で対応する各構成とそれぞれ同一の働きをする。
【0088】
以上のように、本実施形態では正弦波重畳とフィルタを用いた電流成分分離を実施する。これにより、デッドタイムなど不要な高調波成分の影響を抑制し、安定した運転を実現できる。
【0089】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態による電動機制御システム100cの全体構成図である。電動機制御システム100cは、電力変換装置50cと誘導電動機14とを備えている。電力変換装置50cは、電動機制御装置40cと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。なお、電力変換手段11および電流検出手段2は、図1に示す電動機制御システム100aと同じものである。以下、本実施形態の電動機制御装置40cと第1実施形態で説明した電動機制御装置40aとの違いについて、図を用いて説明する。
【0090】
図15に示す電動機制御システム100cが図1の電動機制御システム100aと異なるのは、制御対象が電動機1ではなく誘導電動機14となっている点と、電動機制御装置40cが図1の位相調整手段10に替えて位相調整手段15を備える点である。位相調整手段15には、位相調整手段10と同様に、軸偏差基準量指令生成手段8からの軸偏差基準量指令xθpd*および電流成分分離手段5からの軸偏差基準量xθpdが入力される。さらに、電流指令生成手段6からの電流指令値Idc*、Iqc*も入力される。
【0091】
図16は、位相調整手段15の内部構成図である。図7に示した位相調整手段10は、第1の位相調整手段10a、第2の位相調整手段10bおよび選択スイッチ10cを備えていた。一方、図16に示す位相調整手段15は、第1の位相調整手段15a、第2の位相調整手段15b、積分器15cおよびすべり補償量演算手段15dを備えている。
【0092】
第1の位相調整手段15aは、図7における第1の位相調整手段10aと同様に、軸偏差基準量xθpdを軸偏差基準量指令生成手段8からの軸偏差基準量指令xθpd*と一致させるように重畳位相θpを調整する。その結果、本実施形態では重畳位相θpは励磁磁束位相に一致する。説明の便宜上、ここでは励磁磁束位相をθdと称する。
【0093】
第2の位相調整手段15bは、制御軸位相θdcが上記の励磁磁束位相θdと一致するように制御軸位相θdcを調整し、速度推定値ωr^を出力する。一方、すべり補償量演算手段15dは、電流指令生成手段6から入力された電流指令値Idc*、Iqc*に基づいて、誘導電動機14の二次時定数T2を用いて、以下の式(3)によりすべり補償量ωs*を算出する。
【0094】
【数3】
・・・(3)
【0095】
上記の速度推定値ωr^とすべり補償量ωs*とが加算され、速度指令値ω1*として積分器15cへ出力される。これを積分することで、積分器15cは制御軸位相θdcを算出して出力する。積分器15cからの制御軸位相θdcは、第1の位相調整手段15aからの重畳位相θpと共に、電圧出力手段3および電流成分分離手段5へ出力される。
【0096】
以上説明したような構成とすることで、第2の位相調整手段15bの出力を速度推定値ωr^とみなすことができる。この速度推定値ωr^に基づいて、上位のシステムは電動機制御システム100cの状態を判断し、電流指令生成手段6において電流指令Idc*、Iqc*を生成するためのトルク指令を出力することができる。
【0097】
(第4実施形態)
図17は、本発明の第4実施形態による電動機制御システム100dの全体構成図である。本実施形態は、前述の第2実施形態と第3実施形態を組み合わせたものである。電動機制御システム100dは、電力変換装置50dと誘導電動機14を備えている。電力変換装置50dは、電動機制御装置40dと、電力変換手段11と、電流検出手段2とを備える。電動機制御装置40dは、第2実施形態で説明したのと共通の電圧出力手段12および電流成分分離手段13を備えると共に、第3実施形態で説明したのと共通の位相調整手段15を備えている。それ以外の点は、第1実施形態で説明した電動機制御装置40aと同じである。
【符号の説明】
【0098】
1 電動機
2 電流検出手段
3 電圧出力手段
4 ベクトル演算手段
5 電流成分分離手段
6 電流指令生成手段
7 高周波電流ノルム指令生成手段
8 軸偏差基準量指令生成手段
9 重畳電圧振幅調整手段
10 位相調整手段
11 電力変換手段
12 電圧出力手段
13 電流成分分離手段
14 誘導電動機
15 位相調整手段
40a,40b,40c,40d 電動機制御装置
50a,50b,50c,50d 電力変換装置
100a,100b,100c,100d 電動機制御システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する電力変換手段と、
前記交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、前記運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を前記交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として前記電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、
前記交流電力の電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流から前記交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、
前記ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、前記交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を前記電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分に基づいて、前記交流電動機の磁極位置に応じた軸偏差基準量を求める軸偏差基準量演算手段をさらに備え、
前記軸偏差基準量演算手段により求められた軸偏差基準量に基づいて前記交流電動機の磁極位置を推定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換装置において、
前記電流検出手段により検出された電流から前記基本電圧指令値に応じた基本波電流成分を抽出する基本波成分抽出手段と、
前記交流電力の励磁電流成分とトルク電流成分に対する電流指令値をそれぞれ生成する電流指令生成手段と、
前記基本波成分抽出手段により抽出された基本波電流成分と、前記電流指令生成手段により生成された電流指令値とに基づいて、前記運転周波数に応じた所定の制御応答速度で前記基本電圧指令値を演算して前記電圧出力手段へ出力するベクトル演算手段とをさらに備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記基本波電流成分の励磁電流成分、前記基本波電流成分のトルク電流成分、前記基本波電流成分のノルム、前記電流指令値の励磁電流成分、前記電流指令値のトルク電流成分および前記電流指令値のノルムのうちいずれか少なくとも一つに基づいて、前記重畳電圧振幅指令値を調整するための高周波電流ノルム指令値を出力する高周波電流ノルム指令生成手段をさらに備え、
前記重畳電圧振幅調整手段は、前記高周波電流ノルムが前記高周波電流ノルム指令値と一致するように、前記重畳電圧振幅指令値を前記電圧出力手段へ出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
交流電動機と、
直流電力を交流電力に変換して前記交流電動機に供給する電力変換手段と、
前記交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、前記運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を前記交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として前記電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、
前記交流電力の電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流から前記交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、
前記ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、前記交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を前記電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備えることを特徴とする電動機制御システム。
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する電力変換手段と、
前記交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、前記運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を前記交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として前記電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、
前記交流電力の電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流から前記交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、
前記ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、前記交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を前記電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分に基づいて、前記交流電動機の磁極位置に応じた軸偏差基準量を求める軸偏差基準量演算手段をさらに備え、
前記軸偏差基準量演算手段により求められた軸偏差基準量に基づいて前記交流電動機の磁極位置を推定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換装置において、
前記電流検出手段により検出された電流から前記基本電圧指令値に応じた基本波電流成分を抽出する基本波成分抽出手段と、
前記交流電力の励磁電流成分とトルク電流成分に対する電流指令値をそれぞれ生成する電流指令生成手段と、
前記基本波成分抽出手段により抽出された基本波電流成分と、前記電流指令生成手段により生成された電流指令値とに基づいて、前記運転周波数に応じた所定の制御応答速度で前記基本電圧指令値を演算して前記電圧出力手段へ出力するベクトル演算手段とをさらに備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記基本波電流成分の励磁電流成分、前記基本波電流成分のトルク電流成分、前記基本波電流成分のノルム、前記電流指令値の励磁電流成分、前記電流指令値のトルク電流成分および前記電流指令値のノルムのうちいずれか少なくとも一つに基づいて、前記重畳電圧振幅指令値を調整するための高周波電流ノルム指令値を出力する高周波電流ノルム指令生成手段をさらに備え、
前記重畳電圧振幅調整手段は、前記高周波電流ノルムが前記高周波電流ノルム指令値と一致するように、前記重畳電圧振幅指令値を前記電圧出力手段へ出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
交流電動機と、
直流電力を交流電力に変換して前記交流電動機に供給する電力変換手段と、
前記交流電動機を所定の運転周波数に応じて動作させるための基本電圧指令値に対して、前記運転周波数よりも高い所定の周波数で周期的に変化する高周波の交番電圧を重畳し、その重畳結果を前記交流電力の電圧を指令するための電圧指令値として前記電力変換手段へ出力する電圧出力手段と、
前記交流電力の電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流から前記交番電圧に応じた高周波電流成分を抽出する高周波成分抽出手段と、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波電流成分の大きさを表す高周波電流ノルムを求めるノルム演算手段と、
前記ノルム演算手段により求められた高周波電流ノルムに基づいて、前記交番電圧の振幅を調整するための重畳電圧振幅指令値を前記電圧出力手段へ出力する重畳電圧振幅調整手段とを備えることを特徴とする電動機制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−228058(P2012−228058A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93173(P2011−93173)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】
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