電動ブレーキ装置
【課題】ピストン及びその周辺部品の組付作業を容易にして組付性を向上させること。
【解決手段】前方に配置される第1スレーブピストン88bと、第1スレーブピストン88bの後方に配置される第2スレーブピストン88aと、前記第1スレーブピストン88bと前記第2スレーブピストン88aとの離間位置を規制する規制手段100と、前記第1スレーブピストン88bと前記第2スレーブピストン88aとを離間する方向に付勢する第2スプリング96aとを備え、連結ピン79を介して、第1スレーブピストン88b、規制手段100、第2スプリング96a、及び、第2スレーブピストン88aを一体的に組み付けて構成した。
【解決手段】前方に配置される第1スレーブピストン88bと、第1スレーブピストン88bの後方に配置される第2スレーブピストン88aと、前記第1スレーブピストン88bと前記第2スレーブピストン88aとの離間位置を規制する規制手段100と、前記第1スレーブピストン88bと前記第2スレーブピストン88aとを離間する方向に付勢する第2スプリング96aとを備え、連結ピン79を介して、第1スレーブピストン88b、規制手段100、第2スプリング96a、及び、第2スレーブピストン88aを一体的に組み付けて構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用ブレーキシステムに組み込まれる電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のブレーキ機構として、例えば、負圧式ブースタや油圧式ブースタを用いた倍力装置が知られている。この種の倍力装置として、近年、電動モータを倍力源として利用した電動倍力装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示された電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作によって進退動作する主ピストン(入力ピストン)と、前記主ピストンと相対変位可能に外嵌された筒状のブースタピストンと、前記ブースタピストンを進退動作させる電動モータとを備えた単一のまとまった機器として構成される。
【0004】
この場合、主ピストン及びブースタピストンをマスタシリンダのピストンとして、それぞれの前端部をマスタシリンダの各圧力室に臨ませ、ブレーキペダルから主ピストンに付与される入力推力と、電動モータからブースタピストンに付与されるブースタ推力とによって、マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させている。
【0005】
また、主ピストンとブースタピストンとの間には、両者を離間する方向に付勢するばね部材が介装されると共に、主ピストンとブースタピストンとを結合する結合ピンが設けられる。この結合ピンの軸方向に沿った一端部は、主ピストン側に設けられる係止部材で係止され、結合ピンの他端部からなる頭部は、ブースタピストン側に設けられる保持部材によって保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−23594号公報(図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された電動倍力装置では、主ピストン側に対して係止部材を組み付ける作業や、ブースタピストン側に対して保持部材を組み付ける作業等が必要となり、主ピストン及びブースタピストンを含む周辺部品の組付作業が煩雑となる。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ピストン及びその周辺部品の組付作業を容易にして組付性を向上させることが可能な電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、ホィールシリンダに接続される出力液圧室と、前進することにより前記出力液圧室に液圧を発生させるピストンと、前記ピストンを収容するシリンダと、前記ピストンに駆動力を伝達することによって前記ピストンを前進駆動させるモータとを有する電動ブレーキ装置であって、前記ピストンは、前記シリンダの前方の第1液圧室に臨んで配置される第1ピストンと、前記第1ピストンの後方の第2液圧室に臨んで配置される第2ピストンとから構成されると共に、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの離間位置を規制する規制手段と、前記第1ピストンと前記第2ピストンとを離間する方向に付勢する弾性部材とを備え、結合手段を介して、前記第1ピストン、前記規制手段、前記弾性部材、及び、前記第2ピストンを一体的に組み付けて構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、結合手段を介して、第1ピストン及び第2ピストンと、その周辺部品である規制手段、弾性部材とを一体的に組み付けて構成することができるため、組付性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、前記第1ピストンを含む第1ピストン機構と前記第2ピストンを含む第2ピストン機構とを軸方向に沿って重畳した重畳部位を貫通する固定部材からなることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1ピストンを含む第1ピストン機構と第2ピストンを含む第2ピストン機構とを軸方向に沿って重畳した状態で、その重畳部位に対して固定部材を容易に貫通させることができる。重畳部位に対する固定部材の貫通は、重畳部位に対する挿入に限らない。
【0013】
さらに、本発明は、前記重畳部位には、前記固定部材を保持する保持部材が設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、固定部材を保持する保持部材を設けることにより、固定部材を圧入することが不要となり、手作業によって組み付けることができる。また、重畳部位から固定部材を簡便に着脱することができ、固定部材が摩耗等によって劣化しないため、再利用を図ることができる。
【0015】
さらにまた、本発明は、前記結合手段は、前記第1ピストン及び前記第2ピストンが相対的に変位可能に保持されるように構成されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、第1ピストン及び第2ピストンは、その軸線を回転中心として回転方向に拘束された状態にないため、第1ピストンと第2ピストンとの捩れ作用が許容され、第1ピストン及び第2ピストンに装着されたカップシール等の摺動摩耗を抑制して耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピストン及びその周辺部品の組付作業を容易にして組付性を向上させることが可能な電動ブレーキ装置を得ることができる。
を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図2】図1に示す電動ブレーキ装置の斜視図である。
【図3】(a)は、シリンダ機構の分解斜視図、(b)は、シリンダ機構を構成する連結ピストンの拡大破断斜視図である。
【図4】(a)は、シリンダ機構の軸方向に沿った縦断面図、(b)は、連結ピストンの軸方向に沿った拡大縦断面図、(c)は、通常状態と拡径した状態の環状クリップの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【0020】
図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0021】
このため、図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、操作者によってブレーキペダル12が操作されたときにその操作を入力する入力装置14と、ブレーキ液圧を制御する電動ブレーキ装置16と、車両挙動の安定化を支援するビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを別体として備えて構成されている。
【0022】
これらの入力装置14、電動ブレーキ装置16、及び、VSA装置18は、例えば、ホースやチューブ等の管材で形成された液圧路によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14と電動ブレーキ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
【0023】
このうち、液圧路について説明すると、図1中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、電動ブレーキ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0024】
図1中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、電動ブレーキ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0025】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホィールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホィールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホィールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホィールシリンダ32FLと接続される。
【0026】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0027】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0028】
入力装置14は、運転者(操作者)によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結されて直動される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0029】
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のカップシール44a、44bがそれぞれ装着される。一対のカップシール44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部と間には、他のばね部材50bが配設される。なお、一対のカップシール44a、44bは、シリンダチューブ38の内壁側に環状溝を介して装着されるようにしてもよい。
【0030】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0031】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第1圧力室56b及び第2圧力室56aが設けられる。第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して接続ポート20bと連通するように設けられ、第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられる。
【0032】
マスタシリンダ34と接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側である下流側の液圧を検知するものである。
【0033】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側である上流側の液圧を検知するものである。
【0034】
この第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1中において、第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aは、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁閉状態をそれぞれ示している。
【0035】
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1中において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁開状態を示している。
【0036】
ストロークシミュレータ64は、バイ・ワイヤ制御時において、ブレーキのストロークと反力を発生させて、あたかも踏力で制動力を発生させているかのごとく操作者に思わせる装置であり、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が吸収可能に設けられる。
【0037】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
【0038】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホィールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bと、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホィールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aとから構成される。
【0039】
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の接続ポート20bと電動ブレーキ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、電動ブレーキ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0040】
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aと電動ブレーキ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、電動ブレーキ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0041】
この結果、液圧路が第1液圧系統70bと第2液圧系統70aとによって構成されることにより、各ホィールシリンダ32RR、32FLと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ独立して作動させ、相互に独立した制動力を発生させることができる。
【0042】
図2は、図1に示す電動ブレーキ装置の斜視図である。
この電動ブレーキ装置16は、図2に示すように、電動モータ72及び駆動力伝達部73を有するアクチュエータ機構74と、前記アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76とを備える。この場合、電動モータ72、駆動力伝達部73、及び、シリンダ機構76は、それぞれ分離可能に設けられる。
【0043】
また、前記アクチュエータ機構74の駆動力伝達部73は、電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78(図1参照)と、この回転駆動力を直線運動(直線方向の軸力)に変換してシリンダ機構74の後記する第1及び第2スレーブピストン88b、88a側に伝達するボールねじ構造体(変換機構)80(図1参照)とを有する。
【0044】
電動モータ72は、図示しない制御手段からの制御信号(電気信号)に基づいて駆動制御される、例えば、サーボモータからなり、アクチュエータ機構74の上方に配置されている。このように配置構成することにより、駆動力伝達部73内のグリス等の油成分が重力作用によって電動モータ72内に進入することを好適に回避することができる。なお、前記電動モータ72は、ねじ部材を介して後記するアクチュエータハウジング75に締結される。
【0045】
駆動力伝達部73は、アクチュエータハウジング75を有し、前記アクチュエータハウジング75内の空間部には、ギヤ機構(減速機構)78、ボールねじ構造体(変換機構)80等の駆動力伝達用の機械要素が収納される。前記アクチュエータハウジング75は、図2に示すように、シリンダ機構76側に配置される第1ボディ75aと、前記第1ボディ75aのシリンダ機構76と反対側の開口端を閉塞する第2ボディ75bとによって分割構成される。
【0046】
図2に示すように、第1ボディ75aのシリンダ機構76側の端部には、フランジ部79が設けられ、前記フランジ部79には、シリンダ機構76を取り付けるための一対のねじ穴(図示せず)が設けられる。この場合、後記するシリンダ本体82の他端部に設けられたフランジ部82aを貫通した一対のねじ部材81aが、前記ねじ穴に螺入されることにより、シリンダ機構76と駆動力伝達部73とが一体的に結合される。
【0047】
図1に示すように、ボールねじ構造体80は、軸方向に沿った一端部がシリンダ機構76の第2スレーブピストン88aに当接するボールねじ軸80aと、前記ボールねじ軸80aの外周面に形成された螺旋状のねじ溝に沿って転動する複数のボール80bと、前記ギヤ機構78のリングギヤに内嵌されて該リングギヤと一体的に回動し、前記ボール80bに螺合される略円筒状のナット部材80cと、前記ナット部材80cの軸方向に沿った一端側及び他端側をそれぞれ回転自在に軸支する一対のボールベアリング80dとを備える。なお、ナット部材80cは、ギヤ機構78のリングギヤの内径面に、例えば、圧入されて固定される。
【0048】
駆動力伝達部73は、このように構成されることにより、ギヤ機構78を介して伝達される電動モータ72の回転駆動力がナット部材80cに入力された後、ボールねじ構造体80によって直線方向の軸力(直線運動)に変換され、ボールねじ軸80aを軸方向に沿って進退動作させる。
【0049】
図3(a)は、シリンダ機構の分解斜視図、図3(b)は、シリンダ機構を構成する連結ピストンの拡大破断斜視図、図4(a)は、シリンダ機構の軸方向に沿った縦断面図、図4(b)は、連結ピストンの軸方向に沿った拡大縦断面図、図4(c)は、通常状態と拡径した状態の環状クリップの正面図である。
【0050】
電動ブレーキ装置16は、電動モータ72の駆動力を、駆動力伝達部73を介してシリンダ機構76の第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aに伝達し、前記第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aを前進駆動させることにより、ブレーキ液圧を発生させるものである。なお、以下の説明において、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aの矢印X1方向への変位を「前進」とし、矢印X2方向への変位を「後退」として説明する。また、矢印X1は、「前方」を示し、矢印X2は、「後方」を示す場合がある。
【0051】
シリンダ機構(シリンダ)76は、有底円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる(図1参照)。
【0052】
また、シリンダ機構76は、図3(a)に示すように、第1スレーブピストン88bを含む周辺部品が一体的に組み付けられて構成される第1ピストン機構77aと、第2スレーブピストン88aを含む周辺部品が一体的に組み付けられて構成される第2ピストン機構77bとを備える。第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとは、後記する連結ピン(結合手段、固定部材)79を介して一体的に組み付けられて構成される。
【0053】
第1ピストン機構77aは、シリンダ本体82の前方の第1液圧室98bに臨むように配設される第1スレーブピストン88bと、第1スレーブピストン88bの中間部位に形成された貫通孔91に係合して第1スレーブピストン88bの移動範囲を規制するストッパピン102と、第1スレーブピストン88bの環状段部に装着される一対のカップシール90a、90bと、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部(底壁)との間に配設され、第1スレーブピストン88bを後方(矢印X2方向)に向かって押圧する第1スプリング96bを有する。
【0054】
第1スレーブピストン88bの後方軸部には、後記する連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位(図4(a)参照)を構成すると共に、後記する連結ピン79が挿入される挿入孔93が形成される。
【0055】
第2ピストン機構77bは、第1スレーブピストン88bの後方(矢印X2方向)の第2液圧室98aに臨むように配設される第2スレーブピストン88aと、第2スレーブピストン88a後方のロッド部89aの外周面をシールすると共に、第2スレーブピストン88aを直線状に案内するガイドピストン103と、前記第2スレーブシリンダ88a前方の軸部に装着されるカップシール90cと、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの間に配置され、前記第1スレーブピストン88bと前記第2スレーブピストン88aとを離間する方向に付勢する第2スプリング(弾性部材)96aとを含む。
【0056】
さらに、第2ピストン機構77bは、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの離間位置を規制するボルト状の規制手段100と、連結ピン79によって第1スレーブシリンダ88bに連結される連結ピストン105と、円弧状に重畳する始端と終端との一部が拡径可能に設けられ(図4(c)参照)、その弾性力によって前記連結ピン79を保持する環状クリップ(保持部材)107とを備える。
【0057】
第2スレーブピストン88aの前方軸部には、規制手段100の一端部100bが装着される装着孔89cが形成され、前記第2スレーブピストン88a後方のロッド部89aの内部には、ボールねじ軸80aの一端部が当接する挿通穴89bとが形成される。
【0058】
連結ピストン105は、図3(b)に示すように、軸方向に沿った前方部位に設けられ、第1スレーブピストン88bの後方軸部を外嵌して重畳部位を構成する円筒部105aと、前記円筒部105aの軸方向と直交する方向に貫通し連結ピン79が挿入される挿通孔105bと、前記円筒部105aの外周面に形成されて環状クリップ107が装着される装着溝105cと、前記装着溝105cに環状クリップ107装着するときに前記環状クリップ107を仮止めしておく仮止め用溝105d(図4(b)参照)と、前記円筒部105aの内部と外部とを連通させる呼吸孔105eと、円筒部105aの軸方向に沿った後方に設けられ前記規制手段100の頭部100aが係合する係合部105fとを有する。
【0059】
なお、第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、挿通穴89bを介してボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1方向、又は、矢印X2方向に変位するように設けられる。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間した位置に配置される。
【0060】
この第1及び第2スレーブピストン88b、88bの外周面には、それぞれ、後記するリザーバポート92a、92bとそれぞれ連通する第1背室94a及び第2背室94bが形成される(図1参照)。
【0061】
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0062】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24bからホィールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98bと、出力ポート24aからホィールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98aとが設けられる。
【0063】
第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの間には、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの最大ストローク(最大離間位置)と最小ストローク(最小離間位置)とを規制するボルト形状の規制手段100が設けられ、さらに、第1スレーブピストン88bには、前記第1スレーブピストン88bの軸線と略直交する方向に貫通する貫通孔91に係合し、前記第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられる。これらによって、特に、マスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、1系統の失陥時に他系統の失陥が防止される。なお、前記ストッパピン102は、リザーバポート92bの開口部から挿入され、シリンダ本体82に形成された係止穴で係止される。
【0064】
さらに、図4(a)に示すように、シリンダ本体82の開口部には、サークリップを介してガイドピストン103が装着される。このガイドピストン103の内周面には、第2ピストン88aのロッド部89aの外周面を囲繞してシールするシール部材103aが設けられ、前記シール部材103aに沿って第2ピストン88aのロッド部89aを摺動させることにより、ボールねじ軸80aの一端部に当接する第2ピストン88aを直線状に案内することができる。また、第1ピストン88bには、連結ピストン105が接続され、前記連結ピストン105には、ボルト状に形成された規制手段100の頭部100aが係合する係合部105fが設けられる。
【0065】
本実施形態では、第1スレーブピストン88bの軸部に一対のカップシール90a、90bを装着して第1ピストン機構77aを組み付けた後、規制部材100及び第2スプリング96aによって第2スレーブピストン88aと連結ピストン105とを連結して第2ピストン機構77bを組み付けることができる。このようにして第1ピストン機構77a及び第2ピストン機構77bがそれぞれ組み付けられた後、第1スレーブピストン88bの後方軸部に対して連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位が形成された状態において、第1スレーブピストン88bの挿入孔93及び連結ピストン105の挿通孔105bに沿って連結ピン79を挿入することによって、第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとが一体的に組み付けて構成される。なお、第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとによってピストンアッシーが構築された後、ピストンアッシーに対してガイドピストン103が連結される。
【0066】
このように本実施形態では、結合手段として機能する連結ピン79を介して、第1スレーブピストン88b、規制手段100、第2スプリング96a、及び第2スレーブピストン88aを一体的に組み付けて構成することができるため、組付性を向上させることができる。
【0067】
図1に戻って、VSA装置18は、周知のものからなり、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホィールシリンダ32RR、ホィールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bと、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホィールシリンダ32FR、ホィールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aとを有する。
【0068】
なお、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0069】
この第1ブレーキ系110b及び第2ブレーキ系110aは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110bと第2ブレーキ系110aで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
【0070】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホィールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0071】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0072】
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、電動ブレーキ装置16の出力ポート24aから出力され、前記電動ブレーキ装置16の第2液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。また、前記VSA装置18では、VSA制御がなされる他、ABS制御も含まれる。
【0073】
本実施形態に係る電動ブレーキ装置16が組み込まれた車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0074】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aが通電により励磁されて弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が通電により励磁されて弁開状態となる。従って、第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aによって第1液圧系統70b及び第2液圧系統70aが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0075】
このとき、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がばね部材66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0076】
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、電動ブレーキ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96b及び第2リターンスプリング96aのばね力に抗して第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aを図1中の矢印X1方向に向かって変位(前進)させる。この第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aの変位によって第1液圧室98b及び第2液圧室98a内のブレーキ液圧がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0077】
この電動ブレーキ装置16における第1液圧室98b及び第2液圧室98aのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0078】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能する電動ブレーキ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aで遮断した状態で、電動ブレーキ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0079】
一方、電動ブレーキ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0080】
本実施形態では、第1スレーブピストン88bの軸部に一対のカップシール90a、90bを装着して第1ピストン機構77aを組み付けた後、規制部材100及び第2スプリング96aによって第2スレーブピストン88aと連結ピストン105とを連結して第2ピストン機構77bを組み付けることができる。このようにして第1ピストン機構77a及び第2ピストン機構77bがそれぞれ組み付けられた後、第1スレーブピストン88bの後方軸部に対して連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位が形成された状態において、第1スレーブピストン88bの挿入孔93及び連結ピストン105の挿通孔105bに沿って連結ピン79を挿入することによって、第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとが一体的に組み付けて構成される。
【0081】
この結果、本実施形態では、結合手段として機能する連結ピン79を介して、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aと、その周辺部品である規制手段100、第2スプリング96aとを一体的に組み付けて構成することができるため、組付性を向上させることができる。
【0082】
また、本実施形態では、第1スレーブピストン88bの後方軸部に対して連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位が形成された状態において、第1スレーブピストン88bの挿入孔93及び連結ピストン105の挿通孔105bに沿って連結ピン79を容易に挿通(貫通)させることができる。なお、本実施形態では、結合手段(固定部材)として連結ピン79をその一例として挙げているが、これに限定されるものではなく、例えば、連結ピン79に代替して、図示しないねじ部材や圧入ピン等であってもよい。
【0083】
さらに、本実施形態では、装着溝105cに装着される環状クリップ107によって連結ピン79を保持することにより、連結ピン79を挿入孔93及び挿通孔105bに圧入することが不要となり、手作業によって組み付けることができる。また、重畳部位にある挿入孔93及び挿通孔105bから連結ピン79を簡便に着脱することができ、連結ピン79が摩耗等によって劣化しないため、再利用を図ることができる。
【0084】
なお、図4(c)に示すように、環状クリップ107を拡径させることにより容易に装着することができる。この場合、図4(b)に示すように、連結ピストン105の外周面に、予め、仮止め用溝105dを設けておくことにより、挿入孔93及び挿通孔105bに対して連結ピン79を挿入した後、前記仮止め用溝105dから装着溝105cへ環状クリップ107を容易に移行させることができ、環状クリップ107の組み付けが簡便となる。
【0085】
さらにまた、本実施形態では、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとが、連結ピン79を介して、相対的変位可能に設けられている。この場合、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aは、その軸線を回転中心として回転方向に拘束された状態にないため、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの捩れ作用が許容され、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aに装着されたカップシール90a〜90cやガイドピストン103に設けられたシール部材103a等の摺動摩耗を抑制して耐久性を向上させることができる。
【0086】
なお、本実施形態では、簡素な構造で所望のブレーキ圧を発生させることができ、組付性を向上させることが可能な電動ブレーキ装置16を備えた車両用ブレーキシステム10が得られる。この車両には、例えば、四輪駆動自動車(4WD)、前輪駆動自動車(FF)や後輪駆動自動車(FR)等が含まれる。
【符号の説明】
【0087】
16 電動ブレーキ装置
32FR、32RL、32RR、32FL ホィールシリンダ
72 電動モータ(モータ)
76 シリンダ機構(シリンダ)
77a 第1ピストン機構
77b 第2ピストン機構
79 連結ピン(結合手段、固定部材)
88b 第1スレーブピストン(第1ピストン)
88a 第2スレーブピストン(第2ピストン)
96a 第2スプリング(弾性部材)
98b 第1液圧室(出力液圧室)
98a 第2液圧室(出力液圧室)
100 規制手段
107 環状クリップ(保持部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用ブレーキシステムに組み込まれる電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のブレーキ機構として、例えば、負圧式ブースタや油圧式ブースタを用いた倍力装置が知られている。この種の倍力装置として、近年、電動モータを倍力源として利用した電動倍力装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示された電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作によって進退動作する主ピストン(入力ピストン)と、前記主ピストンと相対変位可能に外嵌された筒状のブースタピストンと、前記ブースタピストンを進退動作させる電動モータとを備えた単一のまとまった機器として構成される。
【0004】
この場合、主ピストン及びブースタピストンをマスタシリンダのピストンとして、それぞれの前端部をマスタシリンダの各圧力室に臨ませ、ブレーキペダルから主ピストンに付与される入力推力と、電動モータからブースタピストンに付与されるブースタ推力とによって、マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させている。
【0005】
また、主ピストンとブースタピストンとの間には、両者を離間する方向に付勢するばね部材が介装されると共に、主ピストンとブースタピストンとを結合する結合ピンが設けられる。この結合ピンの軸方向に沿った一端部は、主ピストン側に設けられる係止部材で係止され、結合ピンの他端部からなる頭部は、ブースタピストン側に設けられる保持部材によって保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−23594号公報(図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された電動倍力装置では、主ピストン側に対して係止部材を組み付ける作業や、ブースタピストン側に対して保持部材を組み付ける作業等が必要となり、主ピストン及びブースタピストンを含む周辺部品の組付作業が煩雑となる。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ピストン及びその周辺部品の組付作業を容易にして組付性を向上させることが可能な電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、ホィールシリンダに接続される出力液圧室と、前進することにより前記出力液圧室に液圧を発生させるピストンと、前記ピストンを収容するシリンダと、前記ピストンに駆動力を伝達することによって前記ピストンを前進駆動させるモータとを有する電動ブレーキ装置であって、前記ピストンは、前記シリンダの前方の第1液圧室に臨んで配置される第1ピストンと、前記第1ピストンの後方の第2液圧室に臨んで配置される第2ピストンとから構成されると共に、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの離間位置を規制する規制手段と、前記第1ピストンと前記第2ピストンとを離間する方向に付勢する弾性部材とを備え、結合手段を介して、前記第1ピストン、前記規制手段、前記弾性部材、及び、前記第2ピストンを一体的に組み付けて構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、結合手段を介して、第1ピストン及び第2ピストンと、その周辺部品である規制手段、弾性部材とを一体的に組み付けて構成することができるため、組付性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、前記第1ピストンを含む第1ピストン機構と前記第2ピストンを含む第2ピストン機構とを軸方向に沿って重畳した重畳部位を貫通する固定部材からなることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1ピストンを含む第1ピストン機構と第2ピストンを含む第2ピストン機構とを軸方向に沿って重畳した状態で、その重畳部位に対して固定部材を容易に貫通させることができる。重畳部位に対する固定部材の貫通は、重畳部位に対する挿入に限らない。
【0013】
さらに、本発明は、前記重畳部位には、前記固定部材を保持する保持部材が設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、固定部材を保持する保持部材を設けることにより、固定部材を圧入することが不要となり、手作業によって組み付けることができる。また、重畳部位から固定部材を簡便に着脱することができ、固定部材が摩耗等によって劣化しないため、再利用を図ることができる。
【0015】
さらにまた、本発明は、前記結合手段は、前記第1ピストン及び前記第2ピストンが相対的に変位可能に保持されるように構成されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、第1ピストン及び第2ピストンは、その軸線を回転中心として回転方向に拘束された状態にないため、第1ピストンと第2ピストンとの捩れ作用が許容され、第1ピストン及び第2ピストンに装着されたカップシール等の摺動摩耗を抑制して耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピストン及びその周辺部品の組付作業を容易にして組付性を向上させることが可能な電動ブレーキ装置を得ることができる。
を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図2】図1に示す電動ブレーキ装置の斜視図である。
【図3】(a)は、シリンダ機構の分解斜視図、(b)は、シリンダ機構を構成する連結ピストンの拡大破断斜視図である。
【図4】(a)は、シリンダ機構の軸方向に沿った縦断面図、(b)は、連結ピストンの軸方向に沿った拡大縦断面図、(c)は、通常状態と拡径した状態の環状クリップの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【0020】
図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0021】
このため、図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、操作者によってブレーキペダル12が操作されたときにその操作を入力する入力装置14と、ブレーキ液圧を制御する電動ブレーキ装置16と、車両挙動の安定化を支援するビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを別体として備えて構成されている。
【0022】
これらの入力装置14、電動ブレーキ装置16、及び、VSA装置18は、例えば、ホースやチューブ等の管材で形成された液圧路によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14と電動ブレーキ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
【0023】
このうち、液圧路について説明すると、図1中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、電動ブレーキ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0024】
図1中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、電動ブレーキ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0025】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホィールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホィールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホィールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホィールシリンダ32FLと接続される。
【0026】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0027】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0028】
入力装置14は、運転者(操作者)によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結されて直動される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0029】
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のカップシール44a、44bがそれぞれ装着される。一対のカップシール44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部と間には、他のばね部材50bが配設される。なお、一対のカップシール44a、44bは、シリンダチューブ38の内壁側に環状溝を介して装着されるようにしてもよい。
【0030】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0031】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第1圧力室56b及び第2圧力室56aが設けられる。第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して接続ポート20bと連通するように設けられ、第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられる。
【0032】
マスタシリンダ34と接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側である下流側の液圧を検知するものである。
【0033】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側である上流側の液圧を検知するものである。
【0034】
この第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1中において、第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aは、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁閉状態をそれぞれ示している。
【0035】
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1中において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁開状態を示している。
【0036】
ストロークシミュレータ64は、バイ・ワイヤ制御時において、ブレーキのストロークと反力を発生させて、あたかも踏力で制動力を発生させているかのごとく操作者に思わせる装置であり、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が吸収可能に設けられる。
【0037】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
【0038】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホィールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bと、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホィールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aとから構成される。
【0039】
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の接続ポート20bと電動ブレーキ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、電動ブレーキ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0040】
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aと電動ブレーキ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、電動ブレーキ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0041】
この結果、液圧路が第1液圧系統70bと第2液圧系統70aとによって構成されることにより、各ホィールシリンダ32RR、32FLと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ独立して作動させ、相互に独立した制動力を発生させることができる。
【0042】
図2は、図1に示す電動ブレーキ装置の斜視図である。
この電動ブレーキ装置16は、図2に示すように、電動モータ72及び駆動力伝達部73を有するアクチュエータ機構74と、前記アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76とを備える。この場合、電動モータ72、駆動力伝達部73、及び、シリンダ機構76は、それぞれ分離可能に設けられる。
【0043】
また、前記アクチュエータ機構74の駆動力伝達部73は、電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78(図1参照)と、この回転駆動力を直線運動(直線方向の軸力)に変換してシリンダ機構74の後記する第1及び第2スレーブピストン88b、88a側に伝達するボールねじ構造体(変換機構)80(図1参照)とを有する。
【0044】
電動モータ72は、図示しない制御手段からの制御信号(電気信号)に基づいて駆動制御される、例えば、サーボモータからなり、アクチュエータ機構74の上方に配置されている。このように配置構成することにより、駆動力伝達部73内のグリス等の油成分が重力作用によって電動モータ72内に進入することを好適に回避することができる。なお、前記電動モータ72は、ねじ部材を介して後記するアクチュエータハウジング75に締結される。
【0045】
駆動力伝達部73は、アクチュエータハウジング75を有し、前記アクチュエータハウジング75内の空間部には、ギヤ機構(減速機構)78、ボールねじ構造体(変換機構)80等の駆動力伝達用の機械要素が収納される。前記アクチュエータハウジング75は、図2に示すように、シリンダ機構76側に配置される第1ボディ75aと、前記第1ボディ75aのシリンダ機構76と反対側の開口端を閉塞する第2ボディ75bとによって分割構成される。
【0046】
図2に示すように、第1ボディ75aのシリンダ機構76側の端部には、フランジ部79が設けられ、前記フランジ部79には、シリンダ機構76を取り付けるための一対のねじ穴(図示せず)が設けられる。この場合、後記するシリンダ本体82の他端部に設けられたフランジ部82aを貫通した一対のねじ部材81aが、前記ねじ穴に螺入されることにより、シリンダ機構76と駆動力伝達部73とが一体的に結合される。
【0047】
図1に示すように、ボールねじ構造体80は、軸方向に沿った一端部がシリンダ機構76の第2スレーブピストン88aに当接するボールねじ軸80aと、前記ボールねじ軸80aの外周面に形成された螺旋状のねじ溝に沿って転動する複数のボール80bと、前記ギヤ機構78のリングギヤに内嵌されて該リングギヤと一体的に回動し、前記ボール80bに螺合される略円筒状のナット部材80cと、前記ナット部材80cの軸方向に沿った一端側及び他端側をそれぞれ回転自在に軸支する一対のボールベアリング80dとを備える。なお、ナット部材80cは、ギヤ機構78のリングギヤの内径面に、例えば、圧入されて固定される。
【0048】
駆動力伝達部73は、このように構成されることにより、ギヤ機構78を介して伝達される電動モータ72の回転駆動力がナット部材80cに入力された後、ボールねじ構造体80によって直線方向の軸力(直線運動)に変換され、ボールねじ軸80aを軸方向に沿って進退動作させる。
【0049】
図3(a)は、シリンダ機構の分解斜視図、図3(b)は、シリンダ機構を構成する連結ピストンの拡大破断斜視図、図4(a)は、シリンダ機構の軸方向に沿った縦断面図、図4(b)は、連結ピストンの軸方向に沿った拡大縦断面図、図4(c)は、通常状態と拡径した状態の環状クリップの正面図である。
【0050】
電動ブレーキ装置16は、電動モータ72の駆動力を、駆動力伝達部73を介してシリンダ機構76の第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aに伝達し、前記第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aを前進駆動させることにより、ブレーキ液圧を発生させるものである。なお、以下の説明において、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aの矢印X1方向への変位を「前進」とし、矢印X2方向への変位を「後退」として説明する。また、矢印X1は、「前方」を示し、矢印X2は、「後方」を示す場合がある。
【0051】
シリンダ機構(シリンダ)76は、有底円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる(図1参照)。
【0052】
また、シリンダ機構76は、図3(a)に示すように、第1スレーブピストン88bを含む周辺部品が一体的に組み付けられて構成される第1ピストン機構77aと、第2スレーブピストン88aを含む周辺部品が一体的に組み付けられて構成される第2ピストン機構77bとを備える。第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとは、後記する連結ピン(結合手段、固定部材)79を介して一体的に組み付けられて構成される。
【0053】
第1ピストン機構77aは、シリンダ本体82の前方の第1液圧室98bに臨むように配設される第1スレーブピストン88bと、第1スレーブピストン88bの中間部位に形成された貫通孔91に係合して第1スレーブピストン88bの移動範囲を規制するストッパピン102と、第1スレーブピストン88bの環状段部に装着される一対のカップシール90a、90bと、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部(底壁)との間に配設され、第1スレーブピストン88bを後方(矢印X2方向)に向かって押圧する第1スプリング96bを有する。
【0054】
第1スレーブピストン88bの後方軸部には、後記する連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位(図4(a)参照)を構成すると共に、後記する連結ピン79が挿入される挿入孔93が形成される。
【0055】
第2ピストン機構77bは、第1スレーブピストン88bの後方(矢印X2方向)の第2液圧室98aに臨むように配設される第2スレーブピストン88aと、第2スレーブピストン88a後方のロッド部89aの外周面をシールすると共に、第2スレーブピストン88aを直線状に案内するガイドピストン103と、前記第2スレーブシリンダ88a前方の軸部に装着されるカップシール90cと、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの間に配置され、前記第1スレーブピストン88bと前記第2スレーブピストン88aとを離間する方向に付勢する第2スプリング(弾性部材)96aとを含む。
【0056】
さらに、第2ピストン機構77bは、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの離間位置を規制するボルト状の規制手段100と、連結ピン79によって第1スレーブシリンダ88bに連結される連結ピストン105と、円弧状に重畳する始端と終端との一部が拡径可能に設けられ(図4(c)参照)、その弾性力によって前記連結ピン79を保持する環状クリップ(保持部材)107とを備える。
【0057】
第2スレーブピストン88aの前方軸部には、規制手段100の一端部100bが装着される装着孔89cが形成され、前記第2スレーブピストン88a後方のロッド部89aの内部には、ボールねじ軸80aの一端部が当接する挿通穴89bとが形成される。
【0058】
連結ピストン105は、図3(b)に示すように、軸方向に沿った前方部位に設けられ、第1スレーブピストン88bの後方軸部を外嵌して重畳部位を構成する円筒部105aと、前記円筒部105aの軸方向と直交する方向に貫通し連結ピン79が挿入される挿通孔105bと、前記円筒部105aの外周面に形成されて環状クリップ107が装着される装着溝105cと、前記装着溝105cに環状クリップ107装着するときに前記環状クリップ107を仮止めしておく仮止め用溝105d(図4(b)参照)と、前記円筒部105aの内部と外部とを連通させる呼吸孔105eと、円筒部105aの軸方向に沿った後方に設けられ前記規制手段100の頭部100aが係合する係合部105fとを有する。
【0059】
なお、第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、挿通穴89bを介してボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1方向、又は、矢印X2方向に変位するように設けられる。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間した位置に配置される。
【0060】
この第1及び第2スレーブピストン88b、88bの外周面には、それぞれ、後記するリザーバポート92a、92bとそれぞれ連通する第1背室94a及び第2背室94bが形成される(図1参照)。
【0061】
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0062】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24bからホィールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98bと、出力ポート24aからホィールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98aとが設けられる。
【0063】
第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの間には、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの最大ストローク(最大離間位置)と最小ストローク(最小離間位置)とを規制するボルト形状の規制手段100が設けられ、さらに、第1スレーブピストン88bには、前記第1スレーブピストン88bの軸線と略直交する方向に貫通する貫通孔91に係合し、前記第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられる。これらによって、特に、マスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、1系統の失陥時に他系統の失陥が防止される。なお、前記ストッパピン102は、リザーバポート92bの開口部から挿入され、シリンダ本体82に形成された係止穴で係止される。
【0064】
さらに、図4(a)に示すように、シリンダ本体82の開口部には、サークリップを介してガイドピストン103が装着される。このガイドピストン103の内周面には、第2ピストン88aのロッド部89aの外周面を囲繞してシールするシール部材103aが設けられ、前記シール部材103aに沿って第2ピストン88aのロッド部89aを摺動させることにより、ボールねじ軸80aの一端部に当接する第2ピストン88aを直線状に案内することができる。また、第1ピストン88bには、連結ピストン105が接続され、前記連結ピストン105には、ボルト状に形成された規制手段100の頭部100aが係合する係合部105fが設けられる。
【0065】
本実施形態では、第1スレーブピストン88bの軸部に一対のカップシール90a、90bを装着して第1ピストン機構77aを組み付けた後、規制部材100及び第2スプリング96aによって第2スレーブピストン88aと連結ピストン105とを連結して第2ピストン機構77bを組み付けることができる。このようにして第1ピストン機構77a及び第2ピストン機構77bがそれぞれ組み付けられた後、第1スレーブピストン88bの後方軸部に対して連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位が形成された状態において、第1スレーブピストン88bの挿入孔93及び連結ピストン105の挿通孔105bに沿って連結ピン79を挿入することによって、第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとが一体的に組み付けて構成される。なお、第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとによってピストンアッシーが構築された後、ピストンアッシーに対してガイドピストン103が連結される。
【0066】
このように本実施形態では、結合手段として機能する連結ピン79を介して、第1スレーブピストン88b、規制手段100、第2スプリング96a、及び第2スレーブピストン88aを一体的に組み付けて構成することができるため、組付性を向上させることができる。
【0067】
図1に戻って、VSA装置18は、周知のものからなり、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホィールシリンダ32RR、ホィールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bと、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホィールシリンダ32FR、ホィールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aとを有する。
【0068】
なお、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0069】
この第1ブレーキ系110b及び第2ブレーキ系110aは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110bと第2ブレーキ系110aで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
【0070】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホィールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0071】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0072】
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、電動ブレーキ装置16の出力ポート24aから出力され、前記電動ブレーキ装置16の第2液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。また、前記VSA装置18では、VSA制御がなされる他、ABS制御も含まれる。
【0073】
本実施形態に係る電動ブレーキ装置16が組み込まれた車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0074】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aが通電により励磁されて弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が通電により励磁されて弁開状態となる。従って、第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aによって第1液圧系統70b及び第2液圧系統70aが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0075】
このとき、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がばね部材66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0076】
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、電動ブレーキ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96b及び第2リターンスプリング96aのばね力に抗して第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aを図1中の矢印X1方向に向かって変位(前進)させる。この第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aの変位によって第1液圧室98b及び第2液圧室98a内のブレーキ液圧がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0077】
この電動ブレーキ装置16における第1液圧室98b及び第2液圧室98aのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0078】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能する電動ブレーキ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aで遮断した状態で、電動ブレーキ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0079】
一方、電動ブレーキ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0080】
本実施形態では、第1スレーブピストン88bの軸部に一対のカップシール90a、90bを装着して第1ピストン機構77aを組み付けた後、規制部材100及び第2スプリング96aによって第2スレーブピストン88aと連結ピストン105とを連結して第2ピストン機構77bを組み付けることができる。このようにして第1ピストン機構77a及び第2ピストン機構77bがそれぞれ組み付けられた後、第1スレーブピストン88bの後方軸部に対して連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位が形成された状態において、第1スレーブピストン88bの挿入孔93及び連結ピストン105の挿通孔105bに沿って連結ピン79を挿入することによって、第1ピストン機構77aと第2ピストン機構77bとが一体的に組み付けて構成される。
【0081】
この結果、本実施形態では、結合手段として機能する連結ピン79を介して、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aと、その周辺部品である規制手段100、第2スプリング96aとを一体的に組み付けて構成することができるため、組付性を向上させることができる。
【0082】
また、本実施形態では、第1スレーブピストン88bの後方軸部に対して連結ピストン105の円筒部105aが外嵌されて重畳部位が形成された状態において、第1スレーブピストン88bの挿入孔93及び連結ピストン105の挿通孔105bに沿って連結ピン79を容易に挿通(貫通)させることができる。なお、本実施形態では、結合手段(固定部材)として連結ピン79をその一例として挙げているが、これに限定されるものではなく、例えば、連結ピン79に代替して、図示しないねじ部材や圧入ピン等であってもよい。
【0083】
さらに、本実施形態では、装着溝105cに装着される環状クリップ107によって連結ピン79を保持することにより、連結ピン79を挿入孔93及び挿通孔105bに圧入することが不要となり、手作業によって組み付けることができる。また、重畳部位にある挿入孔93及び挿通孔105bから連結ピン79を簡便に着脱することができ、連結ピン79が摩耗等によって劣化しないため、再利用を図ることができる。
【0084】
なお、図4(c)に示すように、環状クリップ107を拡径させることにより容易に装着することができる。この場合、図4(b)に示すように、連結ピストン105の外周面に、予め、仮止め用溝105dを設けておくことにより、挿入孔93及び挿通孔105bに対して連結ピン79を挿入した後、前記仮止め用溝105dから装着溝105cへ環状クリップ107を容易に移行させることができ、環状クリップ107の組み付けが簡便となる。
【0085】
さらにまた、本実施形態では、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとが、連結ピン79を介して、相対的変位可能に設けられている。この場合、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aは、その軸線を回転中心として回転方向に拘束された状態にないため、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの捩れ作用が許容され、第1スレーブピストン88b及び第2スレーブピストン88aに装着されたカップシール90a〜90cやガイドピストン103に設けられたシール部材103a等の摺動摩耗を抑制して耐久性を向上させることができる。
【0086】
なお、本実施形態では、簡素な構造で所望のブレーキ圧を発生させることができ、組付性を向上させることが可能な電動ブレーキ装置16を備えた車両用ブレーキシステム10が得られる。この車両には、例えば、四輪駆動自動車(4WD)、前輪駆動自動車(FF)や後輪駆動自動車(FR)等が含まれる。
【符号の説明】
【0087】
16 電動ブレーキ装置
32FR、32RL、32RR、32FL ホィールシリンダ
72 電動モータ(モータ)
76 シリンダ機構(シリンダ)
77a 第1ピストン機構
77b 第2ピストン機構
79 連結ピン(結合手段、固定部材)
88b 第1スレーブピストン(第1ピストン)
88a 第2スレーブピストン(第2ピストン)
96a 第2スプリング(弾性部材)
98b 第1液圧室(出力液圧室)
98a 第2液圧室(出力液圧室)
100 規制手段
107 環状クリップ(保持部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホィールシリンダに接続される出力液圧室と、前進することにより前記出力液圧室に液圧を発生させるピストンと、前記ピストンを収容するシリンダと、前記ピストンに駆動力を伝達することによって前記ピストンを前進駆動させるモータとを有する電動ブレーキ装置であって、
前記ピストンは、前記シリンダの前方の第1液圧室に臨んで配置される第1ピストンと、前記第1ピストンの後方の第2液圧室に臨んで配置される第2ピストンとから構成されると共に、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとの離間位置を規制する規制手段と、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとを離間する方向に付勢する弾性部材とを備え、
結合手段を介して、前記第1ピストン、前記規制手段、前記弾性部材、及び、前記第2ピストンを一体的に組み付けて構成したことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記結合手段は、前記第1ピストンを含む第1ピストン機構と、前記第2ピストンを含む第2ピストン機構とを軸方向に沿って重畳した重畳部位を貫通する固定部材からなることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記重畳部位には、前記固定部材を保持する保持部材が設けられることを特徴とする請求項2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記結合手段は、前記第1ピストン及び前記第2ピストンが相対的に変位可能に保持されるように構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項1】
ホィールシリンダに接続される出力液圧室と、前進することにより前記出力液圧室に液圧を発生させるピストンと、前記ピストンを収容するシリンダと、前記ピストンに駆動力を伝達することによって前記ピストンを前進駆動させるモータとを有する電動ブレーキ装置であって、
前記ピストンは、前記シリンダの前方の第1液圧室に臨んで配置される第1ピストンと、前記第1ピストンの後方の第2液圧室に臨んで配置される第2ピストンとから構成されると共に、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとの離間位置を規制する規制手段と、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとを離間する方向に付勢する弾性部材とを備え、
結合手段を介して、前記第1ピストン、前記規制手段、前記弾性部材、及び、前記第2ピストンを一体的に組み付けて構成したことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記結合手段は、前記第1ピストンを含む第1ピストン機構と、前記第2ピストンを含む第2ピストン機構とを軸方向に沿って重畳した重畳部位を貫通する固定部材からなることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記重畳部位には、前記固定部材を保持する保持部材が設けられることを特徴とする請求項2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記結合手段は、前記第1ピストン及び前記第2ピストンが相対的に変位可能に保持されるように構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−214118(P2012−214118A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80702(P2011−80702)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
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