説明

電動機及び送風機

【課題】電食による異音の発生がなくかつ安価な電動機を提供する。
【解決手段】モールド固定子10と、回転子20と、モールド固定子10の軸方向一端部に取り付けられるブラケット30とを備える電動機100であって、モールド固定子10は、固定子鉄心41に絶縁部43を介してコイル42が巻回された固定子40をモールド樹脂で成形したものであり、回転子20は、モールド固定子10の内側に配置され、回転子20のマグネット及びシャフト23が樹脂部24により一体化されたものであり、ブラケット30に設けられてシャフト23を支持し、回転体と動圧軸受部を構成するハウジングとを有する第1のすべり軸受21bと、モールド固定子10の軸受け支持部に設けられてシャフト23との間に摺動部を形成する筒形状の第2のすべり軸受21aと、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インバータを用いる電動機及び送風を行う送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
送風機用モータでは構造的利便性などの観点からインバータを内蔵したものが多く存在する。モータをインバータで駆動する場合、インバータのスイッチングに伴いモータの軸端間ないし巻線・ステータコア間には電圧が誘起されることが知られている。軸受構造がボールベアリングである場合、前記の電圧はベアリング内外輪間に印加されて内部に放電が生じ、電食と呼ばれる不具合を引き起こす恐れがある。このため、インバータ駆動のモータでは、この電食を防止する構造的な対策が種々提案されている。
【0003】
従来、モータに装着される二つのボールベアリングの外輪を電気的に接続し、軸の巻線・ステータコア間に発生した電圧をボールベアリングに伝えないようにするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、モータに装着されるボールベアリングの外輪と軸の間に絶縁スリーブを介在させることで、ボールベアリング内外輪間の誘起電圧を低減し電食を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、モータに装着されるボールベアリングの玉(転動体)をセラミックで構成することで、電食の発生を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−158152号公報
【特許文献2】特許第3612879号公報
【特許文献3】特開2009−190959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ブラケットおよびフレームの構造を変更する必要があり、従来モータと製造設備の共用化が困難でコストが増大するという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、軸ないし軸受の外形寸法を変更する必要があり、従来モータと製造設備の共用化が困難であり、コストが増大するという課題があった。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の技術では、ボールベアリングの玉(転動体)の材料であるセラミックが極めて高価であり、モータのコストが増大するという課題があった。
【0010】
また、一般的な技術として、軸受をボールベアリングからすべり軸受に変更するなどの方法も考えられるが、軸受の形状やスラスト方向の与圧が無いなど構造が異なるので、モータ全体の構造を変更する必要があるという課題があった。
【0011】
この発明は、上記のよう課題を解決するためになされたもので、従来モータのブラケット・フレーム・軸の外形寸法を変更することなく、またセラミックなどの高価な材料を使用することなく安価に電食対策を可能とする電動機及びその電動機を用いる送風機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る電動機は、モールド固定子と、回転子と、モールド固定子の軸方向一端部に取り付けられるブラケットとを備える電動機であって、
モールド固定子は、固定子鉄心に絶縁部を介してコイルが巻回された固定子をモールド樹脂で成形したものであり、
回転子は、モールド固定子の内側に配置され、回転子のマグネット及びシャフトが樹脂部により一体化されたものであり、
ブラケットに設けられてシャフトを支持し、回転体と動圧軸受部を構成するハウジングとを有する第1のすべり軸受と、
モールド固定子の軸受け支持部に設けられてシャフトとの間に摺動部を形成する筒形状の第2のすべり軸受と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る電動機は、軸受部以外の構造に手を加えることなく電食に対する耐力の改善を図ることが可能であり、かつセラミックなどの高価な部品を使用しないため安価に製品を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1を示す図で、電動機100の断面図。
【図2】実施の形態1を示す図で、電動機100の分解断面図。
【図3】実施の形態1を示す図で、電動機100の組立手順(その1)を示す図。
【図4】実施の形態1を示す図で、電動機100の組立手順(その2)を示す図。
【図5】実施の形態1を示す図で、モールド固定子10の断面図。
【図6】実施の形態1を示す図で、固定子40の斜視図。
【図7】実施の形態1を示す図で、第2のすべり軸受21aの断面図。
【図8】実施の形態1を示す図で、第1のすべり軸受21bの断面図。
【図9】実施の形態1を示す図で、ブラケット30の断面図。
【図10】実施の形態1を示す図で、回転子20の断面図。
【図11】実施の形態1を示す図で、負荷側から見た回転子20の側面図。
【図12】実施の形態1を示す図で、回転子の樹脂マグネット22を示す図((a)は左側面図、(b)は(a)のC−C断面図、(c)は右側面図)。
【図13】実施の形態1を示す図で、位置検出用樹脂マグネット25を示す図((a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は(b)のD部拡大図)。
【図14】実施の形態1を示す図で、電動機100に内蔵された電動機内蔵駆動回路1の回路図。
【図15】実施の形態1を示す図で、回転子20の製造工程を示す図。
【図16】実施の形態1を示す図で、電動機100の製造工程を示す図。
【図17】実施の形態1を示す図で、クロスフローファン200の正面図。
【図18】実施の形態1を示す図で、クロスフローファン200を用いる空気調和機300の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について、図面を参照しながら説明する。図1は実施の形態1を示す図で、電動機100の断面図である。図1に示す電動機100は、モールド固定子10と、回転子20(電動機の回転子と定義する)と、モールド固定子10の軸方向一端部に取り付けられる金属製のブラケット30とを備える。電動機100は、例えば、回転子20に永久磁石を有し、インバータで駆動されるブラシレスDCモータである。尚、図1には、モールド固定子10、回転子20を構成する各要素に符号を付しているが、ここでは説明しない。それらの符号については、後述する。
【0016】
図2は実施の形態1を示す図で、電動機100の分解断面図である。図2に示すように、電動機100は、以下に示す要素で構成される。
(1)モールド固定子10;
(2)第2のすべり軸受21a;
(3)回転子20;
(4)第1のすべり軸受21b;
(5)ブラケット30。
本実施の形態は、軸受に、第2のすべり軸受21aと第1のすべり軸受21bとを用いる点に特徴がある。軸受に、転がり軸受に代えてすべり軸受を用いることにより、軸電流に起因する電食の発生を抑制するものである。
【0017】
電動機100を構成する各要素を説明する前に、詳細は後述するが、電動機100の組立手順を大まかに説明しておく。
【0018】
図3、図4は実施の形態1を示す図で、図3は電動機100の組立手順(その1)を示す図、図4は電動機100の組立手順(その2)を示す図である。
【0019】
図3に示すように、先ず、第2のすべり軸受21aがモールド固定子10の軸受け支持部11に圧入される。また、第1のすべり軸受21bが、ブラケット30の軸受け支持部30aに圧入される。
【0020】
次に、図4に示すように、回転子20が、ブラケット30の軸受け支持部30aに圧入された第1のすべり軸受21bに圧入される。
【0021】
さらに、回転子20のシャフト23をモールド固定子10の孔11aに挿入し、ブラケット30の圧入部30bをモールド固定子10の内周部10aに圧入して、電動機100が完成する。
【0022】
図5は実施の形態1を示す図で、モールド固定子10の断面図である。モールド固定子10は、軸方向一端部(図5の右側)が開口していて、ここに開口部10bが形成されている。回転子20がこの開口部10bから挿入される。モールド固定子10の軸方向他端部(図4の左側)には、回転子20のシャフト23の径より若干大きい孔11aが開けられている。
【0023】
図5に示すモールド固定子10は、固定子40と、モールド成形用のモールド樹脂50とからなる。モールド樹脂50には、例えば、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用する。固定子40は、後述する基板等が取り付けられ、強度的に弱い構造であるため低圧成形が望ましい。そのため、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。
【0024】
図6は実施の形態1を示す図で、固定子40の斜視図である。図6に示す固定子40は、以下に示す構成である。
(1)厚さが0.1〜0.7mm程度の電磁鋼板が帯状に打ち抜かれ、かしめ、溶接、接着等で積層された帯状の固定子鉄心41を製作する。帯状の固定子鉄心41は、複数個のティース(図示せず)を備える。後述する集中巻のコイル42が施されている内側がティースである。図6ではティースは見えていない。
(2)ティースには、絶縁部43が施される。絶縁部43は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂を用いて、固定子鉄心41と一体に又は別体で成形される。
(3)絶縁部43が施されたティースに集中巻のコイル42が巻回される。複数個の集中巻のコイル42を接続して、例えば、三相のシングルY結線の巻線を形成する。但し、分布巻でもよい。
(4)三相のシングルY結線(スター結線)であるので、絶縁部43の結線側には、各相(U相、V相、W相)のコイル42が接続される端子44(電源が供給される電源端子44a及び中性点端子44b)が組付けられる。電源端子44aは3個、中性点端子44bは3個である。
(5)基板45が結線側の絶縁部43(端子44が組付けられる側)に取り付けられる。リード線47を口出しするリード線口出し部品46が組付けられた基板45を絶縁部43に組付け、固定子40となる。固定子鉄心41に形成された絶縁部43の面取りされた角柱48(図5では見えていないが、本体部は角柱である)が、基板45が備える角柱挿入穴(図示せず)に挿入されることにより、回転方向の位置決めがなされ、且つ絶縁部43の基板設置面(図示せず)に基板45が設置されることにより軸方向の位置が決められる。また、基板45より突出する角柱48を熱溶着することで基板45と絶縁部43が固定され、且つ、固定子40が備える端子44の基板45より突出した部分を半田付けすることにより電気的にも接合される。基板45には、電動機100(例えば、ブラシレスDCモータ)を駆動するIC49a(駆動素子)、回転子20の位置を検出するホールIC49b(位置検出素子:図1、図5参照)等が実装されている。IC49aやホールIC49b等を電子部品と定義する。
【0025】
図7は実施の形態1を示す図で、第2のすべり軸受21aの断面図である。図7に示すように、第2のすべり軸受21aは、全体形状がドーナッツ状(筒形状)であり、外周部21a−1及び内周部21a−2を有する。第2のすべり軸受21aの外周部21a−1が、モールド固定子10の軸受け支持部11に固定される。第2のすべり軸受21aの内周部21a−2は、回転子20のシャフト23との間に所定の隙間が形成される構成になっている。第2のすべり軸受21aは、油を含浸した焼結金属等でなる。第2のすべり軸受21aは、モールド固定子10の軸受け支持部11に固定され、回転子20のシャフト23が回転する。第2のすべり軸受21aの内周部21a−2と、シャフト23の外周部とが摺動する。
【0026】
第2のすべり軸受21aの内外径は、ボールベアリングの呼び番号(例えば、6201など)で示される寸法となっており、ボールベアリングとの互換性を有した形状となっている。
【0027】
図8は実施の形態1を示す図で、第1のすべり軸受21bの断面図である。図8に示すように、第1のすべり軸受21bは、以下に示す要素で構成される。
(1)回転体21b−1;
(2)外側ハウジング21b−2;
(3)内側ハウジング21b−3;
(4)スラスト動圧軸受部21b−4(動圧軸受部);
(5)ラジアル動圧軸受部21b−5(動圧軸受部);
(6)内周部21b−6。
【0028】
第1のすべり軸受21bの内外径はボールベアリングの呼び番号(例えば、608など)で示される寸法となっており、ボールベアリングとの互換性を有した形状となっている。
【0029】
回転体21b−1は、略ドーナッツ状で、焼結金属等で構成される。回転体21b−1の内周部21b−6が、シャフト23に圧入され、回転体21b−1はシャフト23と一体化されて回転する。
【0030】
外側ハウジング21b−2は、ブラケット30の軸受け支持部30aに圧入される。外側ハウジング21b−2は、一方のスラスト動圧軸受部21b−4を構成する。
【0031】
内側ハウジング21b−3が、外側ハウジング21b−2の内側に設けられ、他方のスラスト動圧軸受部21b−4、ラジアル動圧軸受部21b−5を構成する。
【0032】
図9は実施の形態1を示す図で、ブラケット30の断面図である。ブラケット30は、軸受け支持部30aで第1のすべり軸受21bを支持する。ブラケット30のモールド固定子10への圧入は、ブラケット30の略リング状で、断面がコの字状の圧入部30bを、モールド固定子10の内周部10a(モールド樹脂部)の開口部10b側に圧入することでなされる。ブラケット30の圧入部30bの外径は、モールド固定子10の内周部10aの内径よりも、圧入代の分だけ大きくなっている。ブラケット30の材質は、金属製で、例えば、亜鉛メッキ鋼板である。但し、亜鉛メッキ鋼板に限定されない。
【0033】
図10、図11は実施の形態1を示す図で、図10は回転子20の断面図、図11は負荷側から見た回転子20の側面図である。
【0034】
図10に示すように、回転子20、は、ローレット23aが施されたシャフト23、リング状の回転子の樹脂マグネット22(回転子のマグネットの一例)、リング状の位置検出用樹脂マグネット25(位置検出用マグネットの一例)、そしてこれらを一体成形する樹脂部24で構成される。
【0035】
リング状の回転子の樹脂マグネット22と、シャフト23と、位置検出用樹脂マグネット25とを、縦型成形機により射出された樹脂部24で一体化する。このとき、樹脂部24は、シャフト23の外周に形成される、中央筒部24g(回転子の樹脂マグネット22の内側に形成される)と、回転子の樹脂マグネット22を中央筒部24gに連結する、シャフト23を中心として半径方向に放射状に形成された軸方向の複数のリブ24j(図11参照)を有する。リブ24j間には、軸方向に貫通した空洞24k(図11参照)が形成される。
【0036】
樹脂部24に使用される樹脂には、PBT (ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の熱可塑性樹脂が用いられる。これらの樹脂に、ガラス充填剤を配合したものも好適である。
【0037】
尚、図10に示すように、樹脂部24には、位置検出用樹脂マグネット25の内径を保持する金型の内径押さえ部24a、位置検出用樹脂マグネット25を金型(下型)にセットしやすくするためのテーパ部24b、樹脂成形時の樹脂注入部24cが樹脂成形後に形成される。
【0038】
図12は実施の形態1を示す図で、回転子の樹脂マグネット22を示す図((a)は左側面図、(b)は(a)のC−C断面図、(c)は右側面図)である。
【0039】
図12を参照しながら、リング状の回転子の樹脂マグネット22の構成を説明する。回転子の樹脂マグネット22は熱可塑性樹脂に磁性材が混合され成形されたものである。回転子の樹脂マグネット22には、その内径の軸方向一端部(図12(b)では右側)に、樹脂成形時の型締め時にシャフト23と回転子の樹脂マグネット22との同軸を確保するための切欠き22aが形成されている。図12の例では、切欠き22aは周方向に略等間隔で8箇所に形成されている(図12(c))。
【0040】
また、回転子の樹脂マグネット22には、軸方向他端部(図12(b)では左側)の端面に、位置検出用樹脂マグネット25を据える台座22bが、周方向に略等間隔で形成されている。
【0041】
台座22bは、回転子の樹脂マグネット22の内径付近から外径に向かって形成され、台座22bの先端から位置決め用突起22cが径方向に回転子の樹脂マグネット22の外周部に向かって、その近くまで延びている。位置決め用突起22cは、樹脂部24による回転子の樹脂マグネット22、位置検出用樹脂マグネット25及びシャフト23の一体成形時に、回転子の樹脂マグネット22の周方向(回転方向)の位置決めに利用される。
【0042】
図13は実施の形態1を示す図で、位置検出用樹脂マグネット25を示す図((a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は(b)のD部拡大図)である。図13を参照しながら、リング状の位置検出用樹脂マグネット25の構成を説明する。
【0043】
位置検出用樹脂マグネット25は、内径側の軸方向両端部に段差25bを備える。この段差25bは、回転子20の軸方向端部側となる段差25bに樹脂部24の一部が充填されて、位置検出用樹脂マグネット25の軸方向の抜け止めとなるために必要である。
【0044】
図13では、両端部に段差25bを備えるものを示したが、いずれか一方の端部に段差25bがあり、それが回転子20の軸方向端部側に位置すればよい。但し、両端部に段差25bを備えるものは、回転子20の樹脂部24による一体成形時に、金型(下型)に位置検出用樹脂マグネット25をセットする際に、裏表を気にせずにセットできるので作業性に優れる。
【0045】
また、位置検出用樹脂マグネット25は、段差25bに樹脂部24に埋設されると周方向の回り止めとなるリブ25a(断面が略三角)を周方向に略等間隔に8個備える。但し、リブ25aの数、形状、配置間隔は任意でよい。
【0046】
シャフト23と一体に成形される回転子の樹脂マグネット22の台座22bにより、位置検出用樹脂マグネット25を回転子の樹脂マグネット22の端面から離すことが可能となる。それにより、位置検出用樹脂マグネット25の肉厚を最小、且つ任意の位置に配置することが可能となり、回転子の樹脂マグネット22より安価な熱可塑性樹脂を充填することで、コストの低減が可能となる。
【0047】
位置検出用樹脂マグネット25は、図13に示す通り、厚み方向の両側に段差25bを持ち、且つ、樹脂で埋設されると回り止めとなるリブ25aを両側の段差25bに備えている。また、位置検出用樹脂マグネット25の内径と位置検出用樹脂マグネット25の外径との同軸度は精度良く作られている。
【0048】
尚、シャフト23と一体に成形される際には、位置検出用樹脂マグネット25の外周にはテーパ状に樹脂(樹脂部24)が充填され、位置検出用樹脂マグネット25の外径のばらつきにも対応し、充填される樹脂は位置検出用樹脂マグネット25の片側の軸方向端面(外側)と回転子の樹脂マグネット22の軸方向両端面でせき止めるため、回転子の樹脂マグネット22の外径にバリが発生するのを抑えることが可能となり、品質の向上が図られている。
【0049】
また、シャフト23との一体成形時のゲート口を回転子の樹脂マグネット22の内径よりもさらに内側に配置し、樹脂注入部24cを凸形状で配置することで、圧力の集中を緩和し、樹脂の充填が容易に、また、樹脂注入部24cの凸部を位置決めに利用することも可能となっている。
【0050】
また、図10に示す回転子20は、永久磁石に熱可塑性樹脂に磁性材を混合して成形された回転子の樹脂マグネット22、を使用したが、その他の永久磁石(希土類磁石(ネオジム、サマリウム鉄)、フェライト焼結等)を用いてもよい。
【0051】
また、位置検出用樹脂マグネット25も同様に、その他の永久磁石(希土類磁石(ネオジム、サマリウム鉄)、フェライト焼結等)を用いてもよい。
【0052】
既に述べたように、電動機がインバータを用いて運転される場合、パワー回路内のトランジスタのスイッチングに伴って発生する電動機の騒音の低減を図る目的から、インバータのキャリア周波数を高く設定するようにしている。キャリア周波数を高く設定するに伴って、電動機のシャフトに高周波誘導に基づいて発生する軸電圧が増大し、軸電流が流れ易くなる。この軸電流は、軸受けが内輪、外輪両軌道並びに転動体からなる転がり軸受けの場合は、転動体(内外輪の間を転がる玉やころ)の転動面に電食と呼ばれる腐食を発生させて、転がり軸受けの耐久性を悪化させる。しかし、本実施の形態では、転がり軸受けに代えて、すべり軸受け(第1のすべり軸受21b、第2のすべり軸受21a)を使用しているので、軸電流が流れても軸受けの電食は発生しない。
【0053】
電食の発生原因である軸電流は、インバータの電源電圧が高いほど、PWM(パルス幅変調、Pulse Width Modulation)周波数が高いほど、また軸電流が流れる経路のインピーダンスが低いほど顕著に現れる。ここで言う軸電流が流れる経路とは、固定子鉄心41、巻線(コイル42)、軸受(第1のすべり軸受21b、第2のすべり軸受21a)、シャフト23を介した経路である。さらにそれぞれの部材の間は通常直流的には絶縁されているものの、浮遊容量(コンデンサ)として表せることが知られており、高周波的には導通状態となっている。巻線(コイル42)と軸受(第1のすべり軸受21b、第2のすべり軸受21a)間は通常回転子20の径分だけ離隔しているため極めて浮遊容量が小さいが、特定の形態において浮遊容量が大きくなるケースがあるので以下に説明する。
【0054】
送風機用モータの一種として、DCブラシレスモータにインバータ回路を内蔵するものがある。本実施の形態の電動機100もそれらに含まれる。この場合、回転子20の磁束(位置検出用樹脂マグネット25の磁束)を検出して通電する方法がとられるため、基板45は回転子20の側面に設置されることが多い。このとき基板45は銅箔パターンを有するので、基板45が介在した部分の浮遊容量を増加させるよう作用する。このような構造の電動機は特に電食の耐力改善が劣化するため本実施の形態に示した構造による効果が高い。
【0055】
従って、本実施の形態の回転子20は、電動機100がインバータにより運転される場合の軸電流の低減に特に有効である。
【0056】
図14は実施の形態1を示す図で、電動機100の電動機内蔵駆動回路1の回路図である。図14を参照しながら、電動機内蔵駆動回路1について説明する。図14に示すように、電動機100の外部に設けられた商用交流電源2から交流の電力が電動機内蔵駆動回路1に供給される。商用交流電源2から供給される交流電圧は整流回路3で直流電圧に変換される。整流回路3で変換された直流電圧は、インバータ主回路4で可変周波数の交流電圧に変換されて電動機100に印加される。電動機100はインバータ主回路4から供給される可変周波数の交流電力により駆動される。尚、整流回路3には商用交流電源2から印加される電圧を昇圧するチョッパー回路や整流した直流電圧を平滑にする平滑コンデンサなどを有する。
【0057】
インバータ主回路4は3相ブリッジのインバータ回路であり、インバータ主回路4のスイッチング部はインバータ主素子となる6つのIGBT6a〜6f(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、単にトランジスタと定義する)と6つのフライホイルダイオード(FRD)としてシリコンカーバイド(SiC)を用いたSiC−SBD7a〜7f(ショットキーバリアダイオード、単にダイオードと定義する)を備えている。FRDであるSiC−SBD7a〜7fはIGBT6a〜6fが電流をONからOFFする時に生じる逆起電力を抑制する逆電流防止手段である。
【0058】
尚、本実施の形態1ではIGBT6a〜6fとSiC−SBD7a〜7fは同一リードフレーム上に各チップが実装されエポキシ樹脂でモールドされてパッケージされたICモジュールとする。IGBT6a〜6fはシリコンを用いたIGBT(Si−IGBT)に代えてSiC、GaNを用いたIGBTとしてもよく、またIGBTに代えてSiもしくはSiC、GaNを用いたMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)などの他のスイッチング素子を使用してもよい。
【0059】
整流回路3とインバータ主回路4の間には直列に接続された2つの分圧抵抗8a,8bが設けられており、この分圧抵抗8a,8bによる分圧回路にて高圧直流電圧を低圧化した電気信号をサンプリングし保持する直流電圧検出部8が設けられている。
【0060】
また、電動機100は、回転子20(図10)とモールド固定子10(図5)とを備えており、インバータ主回路4から供給される交流電力により回転子20が回転する。モールド固定子10の回転子20に近傍には、位置検出用樹脂マグネット25を検出するホールIC49bが設けられており、そのホールIC49bからの電気信号を処理して回転子20の位置情報に変換する回転子位置検出部110が設けられている。
【0061】
回転子位置検出部110が検出する回転子20の位置情報は出力電圧演算部120に出力される。この出力電圧演算部120は電動機内蔵駆動回路1の外部から与えられる目標回転数Nの指令若しくは装置の運転条件の情報と回転子20の位置情報に基づいて電動機100に加えられるべき最適なインバータ主回路4の出力電圧を演算する。出力電圧演算部120はその演算した出力電圧をPWM信号生成部130に出力する。PWMは、Pulse Width Modulationの略語である。
【0062】
PWM信号生成部130は出力電圧演算部120から与えられた出力電圧となるようなPWM信号をインバータ主回路4のそれぞれのIGBT6a〜6fを駆動する主素子駆動回路4aに出力し、インバータ主回路4のIGBT6a〜6fはそれぞれ主素子駆動回路4aによってスイッチングされる。
【0063】
尚、本実施の形態1ではインバータ主回路4を3相ブリッジとしているが単相など他のインバータ回路でもよい。
【0064】
ここでワイドバンドギャップ半導体について説明する。ワイドバンドギャップ半導体はSiよりもバンドギャップが大きい半導体の総称であって、SiC−SBD7a〜7fに使用しているSiCはワイドバンドギャップ半導体の一つであり、その他には窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどがある。さらにワイドバンドギャップ半導体、特にSiCはSiに比べて耐熱温度や絶縁破壊強度や熱伝導率が大きい。尚、本実施の形態1ではSiCをインバータ回路のFRDに用いる構成としているが、SiCに代えてその他のワイドバンドギャップ半導体を用いてもよい。
【0065】
図15は実施の形態1を示す図で、回転子20の製造工程を示す図である。図15により、回転子20の製造工程について説明する。
(1)位置検出用樹脂マグネット25及び回転子の樹脂マグネット22の成形、脱磁。シャフト23の加工を行う(ステップ1)。
(2)位置検出用樹脂マグネット25を段差25bを有する端部を下にして下型にセットし、下型に設けられた内径押え部に位置検出用樹脂マグネット25の内径を保持させる(ステップ2)。
(3)回転子の樹脂マグネット22の位置決め用突起22cを下型に設けられた位置決め用突起挿入部に嵌め合わせて下型にセットする(ステップ3)。
(4)挿入したシャフト23を下型にセットし、回転子の樹脂マグネット22の切欠き22aを、上型の切欠き押さえ部で押し当てるように型締めする(ステップ4)。
(5)樹脂(樹脂部24)成形する(ステップ5)。回転子の樹脂マグネット22、位置検出用樹脂マグネット25及びシャフト23を樹脂部24により一体に成形する。
(6)位置検出用樹脂マグネット25及び回転子の樹脂マグネット22の着磁を行う(ステップ6)。
【0066】
上述の製造工程によれば、回転子の樹脂マグネット22、シャフト23、及び位置検出用樹脂マグネット25を樹脂(樹脂部24)にて一体にする際、全ての部品を金型にセットして樹脂成形することから、作業工程の低減により回転子20のコストの低減が図られる。
【0067】
図16は実施の形態1を示す図で、電動機100の製造工程を示す図である。図16により、電動機100の製造工程について説明する。
(1)モールド固定子10を製造する。併せて、第1のすべり軸受21b、第2のすべり軸受21aを製造する。併せて、ブラケット30を製造する。併せて、回転子20を製造する(ステップ10)。
(2)第1のすべり軸受21bをモールド固定子10に圧入する。併せて、第2のすべり軸受21aをブラケット30に圧入する(ステップ11)。
(3)回転子20にブラケット30を圧入する(ステップ12)。
(4)モールド固定子10に回転子20を挿入し、ブラケット30を圧入する(ステップ12)。
【0068】
以上による電動機100の製造工程において、第1のすべり軸受21bは圧入による大きなスラスト荷重を受けないので製造における歩留まりを改善できるなどの効果がある。
【0069】
図17は実施の形態1を示す図で、クロスフローファン200の正面図である。図17に示すような軸が水平方向に設置され羽根負荷(貫流ファン201)が接続される形態のクロスフローファン200では、シャフト23の反負荷側にある軸受は負荷側軸受に対して荷重が小さい。このため、ハウジング(外側ハウジング21b−2、内側ハウジング21b−3)による軸受幅の寸法制約があり耐加重の比較的低い第1のすべり軸受21bを反負荷側、耐加重の比較的高い第2のすべり軸受21aを負荷側とすることにより、耐久性の高い軸受構造とすることが出来る。
【0070】
なお対象となる送風機の羽根形状としては、貫流ファン201以外にプロペラファンなどがあげられるが、第1のすべり軸受21bは、側面側(ドーナツ形状部分)にも摺動面(スラスト動圧軸受部21b−4)を持っており、スラスト加重が高い羽根はロストルクが増大し不向きである。したがって、シャフト23は水平方向で、送風機の羽根形状はクロスフローファン200か、あるいは流体の入り口面が軸方向であって向きが対向している2つ以上のシロッコファン(図示せず)など、送風動作に伴うスラスト荷重が小さい羽根形状であれば本願の構造を適用してもロストルクが小さく、幸便である。
【0071】
図18は実施の形態1を示す図で、クロスフローファン200を用いる空気調和機300の縦断面図である。クロスフローファン200を用いる機器の一例として、例えば、空気調和機300がある。空気調和機300は、室内機と室外機とを有するセパレート式のものが、一般に普及している。図18に示す空気調和機300は、室内機の縦断面図である。
【0072】
図18に示すように、空気調和機300(室内機)の上面に室内空気を吸い込む吸込口348が形成されている。吸込口348付近には、フィルタ自動清掃機構のフィルタ(図示せず)が配置され、室内空気の塵埃を除去する。
【0073】
吸込口348に対向するように、略逆V字形状の室内熱交換器305が配置される。
【0074】
略逆V字形状の室内熱交換器305の内側(吸込口348と反対側)に、室内送風機(クロスフローファン200)が配置される。
【0075】
空気調和機300(室内機)の下部には、室内に開口する吹出口349が形成され、吹出口349には、調和空気の風向を制御する風向制御部350が設けられる。図18に図示している風向制御部350は、上下方向の風向を制御する。図示はしないが、左右方向の風向を制御するものも用いられる。
【0076】
室内熱交換器305の下方に、ドレンパン343が設けられる。ドレンパン343は、室内熱交換器305で生じる除霜水を受け、ドレンパン343に一時的に貯留された除霜水は、ドレンパン343に接続されるドレンホースから室外に排出される。尚、背面にもドレンパンが設けられているが、説明は省略する。
【0077】
電動機100は、回転子20の軸方向位置を固定する第1のすべり軸受21bと、軸方向位置を自由にする第2のすべり軸受21aと用いることで、高周波電食による不具合は生じない。
【0078】
電動機100は、ボールベアリング呼び番号で規定されるサイズと略同形状であるため、軸受け以外のモータ部材の構造変更がほとんど無く、製造設備の必要の無い安価な電動機100を提供できる。
【0079】
電動機100は、シャフト23が水平方向に設置され羽根負荷が接続される形態の場合、第1のすべり軸受21bを反負荷側とすることにより、耐久性の高い軸受構造とすることが出来る。
【符号の説明】
【0080】
1 電動機内蔵駆動回路、2 商用交流電源、3 整流回路、4 インバータ主回路、4a 主素子駆動回路、6a〜6f IGBT、7a〜7f SiC−SBD、8 直流電圧検出部、8a 分圧抵抗、8b 分圧抵抗、10 モールド固定子、10a 内周部、10b 開口部、11 軸受け支持部、11a 孔、20 回転子、21a 第2のすべり軸受、21b 第1のすべり軸受、21b−1 回転体、21b−2 外側ハウジング、21b−3 内側ハウジング、21b−4 スラスト動圧軸受部、21b−5 ラジアル動圧軸受部、21b−6 内周部、22 回転子の樹脂マグネット、22a 切欠き、22b 台座、22c 位置決め用突起、23 シャフト、23a ローレット、24 樹脂部、24a 内径押さえ部、24b テーパ部、24c 樹脂注入部、24g 中央筒部、24h 反負荷側端面、24j リブ、24k 空洞、25 位置検出用樹脂マグネット、25a リブ、25b 段差、30 ブラケット、30a 軸受け支持部、30b 圧入部、40 固定子、41 固定子鉄心、42 コイル、43 絶縁部、44 端子、44a 電源端子、44b 中性点端子、45 基板、46 リード線口出し部品、47 リード線、48 角柱、49a IC、49b ホールIC、50 モールド樹脂、100 電動機、110 回転子位置検出部、120 出力電圧演算部、130 PWM信号生成部、200 クロスフローファン、201 貫流ファン、300 空気調和機、305 室内熱交換器、343 ドレンパン、348 吸込口、349 吹出口、350 風向制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールド固定子と、回転子と、前記モールド固定子の軸方向一端部に取り付けられるブラケットとを備える電動機であって、
前記モールド固定子は、固定子鉄心に絶縁部を介してコイルが巻回された固定子をモールド樹脂で成形したものであり、
前記回転子は、前記モールド固定子の内側に配置され、回転子のマグネット及びシャフトが樹脂部により一体化されたものであり、
前記ブラケットに設けられて前記シャフトを支持し、回転体と動圧軸受部を構成するハウジングとを有する第1のすべり軸受と、
前記モールド固定子の軸受け支持部に設けられて前記シャフトとの間に摺動部を形成する筒形状の第2のすべり軸受と、を備えたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記第1のすべり軸受及び前記第2のすべり軸受の内径及び外径寸法は、ボールベアリングの呼び番号にて規定される値と略一致することを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
当該電動機は設置方向が、シャフト水平方向の片軸型であり、前記第1のすべり軸受は反負荷側、前記第2のすべり軸受は負荷側に装着されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電動機。
【請求項4】
当該電動機は商用周波数よりも高いキャリア周波数でスイッチングするPWM(Pulse Width Modulation)インバータにて駆動されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電動機。
【請求項5】
前記PWMインバータは、当該電動機に内蔵されていることを特徴とする請求項4記載の電動機。
【請求項6】
前記PWMインバータは、前記シャフトと前記コイル間の浮遊容量を増加する位置に配置されることを特徴とする請求項5記載の電動機。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の電動機を備えた送風機であって、羽根は貫流ファンであることを特徴とする送風機。
【請求項8】
請求項1に記載の電動機を備えた送風機であって、前記シャフトは両軸型であり、羽根は流体の吸い込み面が軸方向であって向きが対向している2つ以上のシロッコファンで構成されていることを特徴とする送風機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2012−120248(P2012−120248A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264768(P2010−264768)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】