説明

電動車両の車体構造

【課題】バッテリユニットの取付位置に拘わらず操縦安定性の向上を図ることができる電動車両の車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】電動車両の前後方向に延設された一対のサイドメンバ21を含む車体フレームに、駆動用バッテリを備えるバッテリユニット30が固定されると共に、トレーリングアーム65の一端が揺動可能に連結され、電動車両10の前後方向におけるサイドメンバ21の所定位置には、サイドメンバ21の底面から下方に突出する突出部40が設けられ、この突出部40の内側面にバッテリユニット30が固定され、突出部40の底面側に連結部材45が固定され、この連結部材45にトレーリングアーム65の一端が連結されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の車体構造に関し、特に、リアサスペンションを構成するトレーリングアームの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車、ハイブリッド車両等の電動車両には、走行用モータに電力を供給する複数の駆動用バッテリを備えるバッテリユニットがフロア下に取り付けられているものがある。このバッテリユニットの重量は比較的重いため、このバッテリユニットの取付位置は電動車両の操縦安定性に影響を与える。例えば、電動車両の後方側にバッテリユニットが搭載されている場合、電動車両はオーバーステアになりやすい。
【0003】
ところで電動車両等の各種車両には、一対のトレーリングアームを有するトレーリングアーム式のサスペンションを備えるものがある。このトレーリングアームの先端側は、トレーリングアームブラケットを介してサイドメンバ等の車体フレームに連結されている。そして電動車両の操縦安定性を高めるためには、サイドメンバとトレーリングアームとの連結部分は、剛性が高いことが好ましい。そこで一般的には、トレーリングアームの先端側は、サイドメンバに溶接等によって固定されたトレーリングアームブラケット(ジョイントブラケット)に連結されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−137322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような構成では、トレーリングアームとサイドメンバとの連結部分の剛性を高めることができる。すなわちトレーリングアームブラケットに対するトレーリングアームの取付位置がサイドメンバに近接しているため、この部分の剛性は比較的高くなる。これにより、バッテリユニットの取付位置に応じて操縦安定性の向上を図ることはできるが十分とは言えず、操縦安定性のさらなる向上が望まれている。
【0006】
例えば、上述したようなバッテリユニット取付位置の操縦安定性への影響は、トレーリングアームの配置によってある程度抑制することができる。具体的には、トレーリングアームの配置を水平に近づけることで、電動車両の操縦安定性を向上することができる。
【0007】
ただし、このようにトレーリングアームの配置を変更した場合、トレーリングアームとサイドメンバとの連結部分の剛性が低下してしまい、操縦安定性が十分に向上しない虞がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、トレーリングアームを所望の配置として操縦安定性の向上を図ることができる電動車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、車両の前後方向に延設された一対のサイドメンバを含む車体フレームに、駆動用バッテリを備えるバッテリユニットが固定されると共に、トレーリングアームの一端が揺動可能に連結された電動車両の車体構造であって、前記サイドメンバは、当該サイドメンバの下面から下方に突出する突出部を有し、前記突出部の車幅方向内側を向く内側面に前記バッテリユニットが固定されると共に前記突出部の底面に前記トレーリングアームの一端が着脱可能に連結されることを特徴とする電動車両の車体構造にある。
【0010】
かかる第1の態様では、突出部が設けられていることで、トレーリングアームの先端側の取付位置が比較的低い位置となる。したがって、トレーリングアームを水平に近い状態に配置することができる。また突出部には、電動車両の左右方向(横方向)において比較的大きな荷重が入力されるが、突出部の側面(横方向の端面)にバッテリユニットが固定されており突出部の剛性は比較的高くなっているため、突出部が大きく変形することはない。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記突出部と前記トレーリングアームの一端とは連結部材で連結されることを特徴とする第1の態様の電動車両の車体構造にある。
【0012】
かかる第2の態様では、トレーリングアームの先端側の取付位置の微調整が可能となる。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記突出部は、前記サイドメンバとは別体で前記サイドメンバの下面に一体的に溶接固定された補強部材によって構成されることを特徴とする第1又は第2の態様の電動車両の車体構造にある。
【0014】
かかる第3の態様では、突出部がサイドメンバとは別体である補強部材で構成されていることで、サイドメンバの構造を大幅に変更することなく、トレーリングアームを水平に近い状態に配置することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明では、トレーリングアームを略水平な状態に配置することができ、且つ、バッテリユニットによって突出部の剛性が高められる。したがって、電動車両の操縦安定性、或いは乗り心地を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る電動車両の概略構成を示す図である。
【図2】一実施形態に係るバッテリユニットの取付状態を示す上面図である。
【図3】一実施形態に係るリアサスペンションの概略構成を示す図である。
【図4】一実施形態に係るトレーリングアームの取付状態を示す側面図である。
【図5】一実施形態に係るトレーリングアームと車体フレームとの連結部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、例えば、電気自動車である電動車両10は、車体11の下部の骨格をなす車体フレーム20と、この車体フレーム20に固定されたバッテリユニット30とをフロア(車室)下に備えている。
【0018】
車体フレーム20は、電動車両10の前後方向に延設される一対のサイドメンバ21と、電動車両10の左右方向(車幅方向)に延設される複数本(本実施形態では、3本)のクロスメンバ22とを備えている。各クロスメンバ22は、サイドメンバ21の所定位置に溶接によって固定されている。
【0019】
バッテリユニット30は、図1及び図2に示すように、このような構成の車体フレーム20に下方側から着脱可能に固定されている。なおバッテリユニット30の構造は、公知のものであるため、ここでは簡単に説明する。
【0020】
バッテリユニット30はバッテリケース31を備えている。このバッテリケース31には電動車両10に搭載されている走行用モータ(図示なし)に電力を供給するための複数の駆動用バッテリが収容されている。このバッテリケース31は、例えば、下側に位置するトレイ部材32と、上側に位置するカバー部材33とを備えている。
【0021】
カバー部材33は、例えば、繊維によって強化された合成樹脂の一体成形品からなる。一方トレイ部材32は、例えば、一体成形された合成樹脂の内部に、補強用の金属プレートをインサートしてなるモールド成形品であり、その下面側には、複数本(本実施形態では、4本)の桁部材34(34A,34B,34C,34D)が設けられている。またトレイ部材32の前端部には左右一対の前側支持部材35(35A,35B)が設けられている。またこれら複数の桁部材34及び前側支持部材35は、それぞれ独立して設けられていてもよいが、本実施形態では、トレイ部材32の下面側において連続している。これによりバッテリユニット30は、剛性が比較的高くなっている。
【0022】
そして、バッテリユニット30は、これら桁部材34及び前側支持部材35によって車体フレーム20に固定されている。すなわちバッテリユニット30の各桁部材34は、車体フレーム20のサイドメンバ21に固定され、前側支持部材35はクロスメンバ22に固定されている。
【0023】
ここで、桁部材34A〜34Dのうち、車両前方側の桁部材34A〜34Cは、サイドメンバ21の底面側に固定されているが、最後方に位置する桁部材34Dは、詳しくは後述するように、サイドメンバ21の底面側に突出して設けられた突出部40の内側面に固定されている。
【0024】
ところで電動車両10の前輪50(図1参照)は、図示しないフロントサスペンションによって車体11に支持されている。後輪51は、図3に示すようなトレーリング式のリアサスペンション60によって車体11に支持されている。このリアサスペンション60は、車体11とリアアクスル61との間に懸架ばね62、ショックアブソーバ63、ラテラルロッド64等が装備されている。ラテラルロッド64は、その一端側が車体側に連結され、その他端側がリアアクスル61に連結されている。
【0025】
また車両10の前後方向に延びる一対のトレーリングアーム65(65A,65B)も、その前端部(一端側)が車体側に連結され、その後端部(他端側)がリアアクスル61に連結されている。以下、このトレーリングアーム65と車体フレーム20との連結部分100(図2参照)の構造について説明する。図4及び図5に示すように、サイドメンバ21の連結部分100に相当する所定位置に、下方に向かって突出する突出部40が設けられている。トレーリングアーム65A,65Bは、この突出部40の底面側に、連結部材(艤装部材)45を介して上下方向に回動可能に連結されている。本実施形態では、突出部40は、補強部材であるバルクヘッド41を内部に溶接することによって構成されている。すなわちサイドメンバ21とは別体であるバルクヘッド41が溶接等によって一体的に固定されて形成されている。このバルクヘッド41の構造は特に限定されないが、例えば、突出部40の内壁側を構成する第1の部材42と、外壁側を構成する第2の部材43とを備えている。
【0026】
上述したようにバッテリユニットの桁部材34Dは、このような突出部40の内側面に固定されている。すなわち桁部材34Dは、バルクヘッド41を構成する第1の部材42に、バッテリブラケット70を介して固定されている。バッテリブラケット70の構造は特に限定されないが、本実施形態では、桁部材34Dに当接する当接部材71と、この当接部材71を覆うように設けられる被覆部材72とで構成されている。
【0027】
艤装部材45は、このような突出部40を構成するバルクヘッド41の底面側に、ボルト等の締結部材46によって着脱可能に固定されている。この艤装部材45は、下方側に向かって開口しており、各トレーリングアーム65が挿入される挿入溝47を画成する。そして、各トレーリングアーム65の先端側は、この艤装部材45の挿入溝47内にボルト等によって上下方向に回動可能に支持されている。
【0028】
このように各トレーリングアーム65の先端側は、トレーリングアームブラケットとして機能する艤装部材45及びバルクヘッド41を介して車体フレーム20を構成するサイドメンバ21に連結されている。これにより、トレーリングアーム65をサイドメンバ21自体に取り付ける場合に比べて、トレーリングアーム65の先端側の車体フレーム20への取付位置を低くすることができる。したがって、トレーリングアーム65を水平に近い状態に配置することができ、電動車両10の操縦安定性が向上する。例えば、バッテリユニット30が電動車両10の後方に配置されていると、電動車両10はオーバーステアの傾向になりやすいが、トレーリングアーム65A,65Bが略水平に配置されることで、電動車両10のオーバーステアの傾向は抑制され、操縦安定性が向上する。
【0029】
また電動車両10がカーブを走行する際などには、車体11に作用する遠心力によって、トレーリングアーム65が、電動車両10の略左右方向に振られることがある(図3中に矢印で示す)。その際、サイドメンバ21の底面から下方に突出する突出部40にも、横方向の大きな荷重が入力されることになる。このような場合でも、突出部40を構成するバルクヘッド41の側面には、バッテリユニット30の桁部材34Dが固定され、横方向における突出部40の剛性は大幅に上昇しているため、突出部40の変形は大幅に抑制される。したがって、車両10の操縦安定性や乗り心地を向上することができる。
【0030】
さらに本実施形態の構成では、艤装部材45がバルクヘッド41に着脱可能に取付られているため、トレーリングアーム65の配置を調整することができる。これにより車両10の状態に応じて、トレーリングアーム65の配置を調整することができ、車両10の乗り心地を常に良好に維持することができる。また、このようなトレーリングアーム65の取付構造を複数車種に採用して、車種に応じてトレーリングアーム65の配置を変更することもできる。したがって製造コストの削減を図ることもできる。
【0031】
なお上述の実施形態では、突出部40がサイドメンバ21とは別体であるバルクヘッド41で構成されていたが、勿論、この突出部40は、サイドメンバ21と一体的に形成されていてもよい。また上述の実施形態では、突出部40に、最後方の桁部材34Dが固定されていたが、勿論、それ以外の桁部材34A〜34Cが固定されていてもよい。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、勿論、このような実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0033】
10 電動車両
11 車体
20 車体フレーム
21 サイドメンバ
22 クロスメンバ
30 バッテリユニット
31 バッテリケース
32 トレイ部材
33 カバー部材
34 桁部材
35 前側支持部材
40 突出部
41 バルクヘッド
42 第1の部材
43 第2の部材
45 連結部材 (艤装部材)
46 締結部材
47 挿入溝
50 前輪
51 後輪
60 リアサスペンション
61 リアアスクル
62 懸架ばね
63 ラテラルロッド
64 ショックアブソーバ
65 トレーリングアーム
70 バッテリブラケット
71 当接部材
72 被覆部材
100 連結部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延設された一対のサイドメンバを含む車体フレームに、駆動用バッテリを備えるバッテリユニットが固定されると共に、トレーリングアームの一端が揺動可能に連結された電動車両の車体構造であって、
前記サイドメンバは、当該サイドメンバの下面から下方に突出する突出部を有し、
前記突出部の車幅方向内側を向く内側面に前記バッテリユニットが固定されると共に前記突出部の底面に前記トレーリングアームの一端が着脱可能に連結される
ことを特徴とする電動車両の車体構造。
【請求項2】
前記突出部と前記トレーリングアームの一端とは連結部材で連結される
ことを特徴とする請求項1に記載の電動車両の車体構造。
【請求項3】
前記突出部は、前記サイドメンバとは別体で前記サイドメンバの下面に一体的に溶接固定された補強部材によって構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動車両の車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−240586(P2012−240586A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114054(P2011−114054)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】