電動車両駆動制御装置及びその制御方法
【課題】エンジン始動制御及びダウンシフト制御を行うに当たり、走行フィーリングが低下するのを防止することができるようにする。
【解決手段】第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジン11に連結された差動装置と、伝動軸15を介して連結され、伝達された回転を変速する変速機18と、エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、第1の電動機を駆動し、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有する。第1の電動機の回転速度の大きな変動が連続することがない。
【解決手段】第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジン11に連結された差動装置と、伝動軸15を介して連結され、伝達された回転を変速する変速機18と、エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、第1の電動機を駆動し、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有する。第1の電動機の回転速度の大きな変動が連続することがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両駆動制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両、例えば、ハイブリッド型車両に搭載され、エンジンのトルク、すなわち、エンジントルクの一部を発電機に、残りを駆動輪に伝達するようにした車両駆動装置においては、サンギヤ、リングギヤ及びキャリヤを備えたプラネタリギヤユニットを有し、前記キャリヤとエンジンとを連結し、リングギヤ及びモータと駆動輪とを変速機を介して連結し、サンギヤと発電機とを連結し、前記リングギヤ及びモータから出力された回転を駆動輪に伝達して駆動力を発生させるようにしている。
【0003】
ところで、モータを駆動し、モータのトルク、すなわち、モータトルクを前記変速機を介して駆動輪に伝達してハイブリッド型車両を走行させているときに、変速機においてダウンシフトの変速を行い、かつ、エンジンの始動を行う必要が生じると、エンジン始動制御及びダウンシフト制御が行われる。この場合、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御を先に開始し、一方の制御が終了した後に、他方の制御を開始するようにしている。
【0004】
また、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が実行されているときに、他の制御を行う必要が生じた場合にも、一方の制御が終了した後に、他方の制御を開始するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両駆動装置においては、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちのいずれの制御を先に行っても、ダウンシフトの変速が行われるのに伴って、発電機の回転速度、すなわち、発電機回転速度が急に高くなった後に急に低くなるか、又は急に低くなった後に急に高くなるかして、発電機回転速度の大きな変動が連続してしまう。
【0006】
その結果、発電機回転速度の変動に伴って発生するイナーシャトルクが駆動輪に伝達されて変速ショックが発生し、走行フィーリングを低下させてしまう。
【0007】
また、一方の制御が終了した後に、他方の制御が開始されるので、制御の全体が終了するまでの時間が長くなるので、運転者のアクセル操作に対してハイブリッド型車両の反応が遅くなってしまう。その結果、もたつき感が発生し、走行フィーリングが低下してしまう。
【0008】
本発明は、前記従来の車両駆動装置の問題点を解決して、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を行うに当たり、走行フィーリングが低下するのを防止することができる電動車両駆動制御装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明の電動車両駆動制御装置においては、エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置と、駆動輪に連結された出力軸と、前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機と、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する同時制御条件判定処理手段と、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にするエンジン始動制御、及び前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動車両駆動制御装置においては、エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置と、駆動輪に連結された出力軸と、前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機と、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する同時制御条件判定処理手段と、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にするエンジン始動制御、及び前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有する。
【0011】
この場合、エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に他方の制御が開始されるので、第1の電動機の回転速度の大きな変動が連続することがない。
【0012】
したがって、変速ショックが緩和されるので、走行フィーリングが低下するのを防止することができる。
【0013】
また、一方の制御が行われている間、他方の制御が開始されるので、制御の全体が終了するまでの時間を短くすることができる。したがって、運転者のアクセル操作に対して電動車両の反応を早くすることができるので、もたつき感を発生させることがなく、走行フィーリングを低下するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、ハイブリッド型車両を駆動するための電動車両駆動制御装置及びその制御方法について説明する。
【0015】
図2は本発明の実施の形態におけるエンジン及び車両駆動装置の概念図である。
【0016】
図において、10は車両駆動装置、11はエンジン(E/G)、12は該エンジン11を駆動することによって発生させられた回転及びエンジントルクTEを出力する出力軸であり、該出力軸12は車両駆動装置10の入力軸を兼ねる。また、13は、前記出力軸12を介して入力されたエンジントルクTEを分配する差動装置としてのプラネタリギヤユニット、14、15は該プラネタリギヤユニット13において発生させられた回転を受け、かつ、プラネタリギヤユニット13において分配されたエンジントルクTEを受ける伝動軸、16は伝動軸14を介して前記プラネタリギヤユニット13と連結された第1の電動機としての、かつ、第1の電動機械としての発電機(G)、25は伝動軸15を介して前記プラネタリギヤユニット13と連結された第2の電動機としての、かつ、第2の電動機械としてのモータ(M)である。
【0017】
18は前記伝動軸15を介してプラネタリギヤユニット13及びモータ25と連結された変速機であり、該変速機18は、伝動軸15を介して入力された回転を変速し、変速された回転を出力軸19に出力する。
【0018】
そして、該出力軸19に図示されないディファレンシャル装置が接続され、該ディファレンシャル装置は、出力軸19を介して伝達された回転を分配し、図示されない駆動輪に伝達する。このように、エンジン11、発電機16、モータ25及び駆動輪は、互いに機械的に連結される。
【0019】
前記プラネタリギヤユニット13は、シングルプラネタリギヤから成り、第1のサンギヤS1、該第1のサンギヤS1と噛(し)合する第1のピニオンP1、該第1のピニオンP1と噛合する第1のリングギヤR1、及び前記第1のピニオンP1を回転自在に支持する第1のキャリヤCR1を備え、前記第1のサンギヤS1は前記伝達軸14を介して発電機16と、第1のリングギヤR1は、伝動軸15を介してモータ25及び変速機18と、前記第1のキャリヤCR1は出力軸12を介してエンジン11と連結される。前記第1のサンギヤS1、第1のリングギヤR1及び第1のキャリヤCR1によって第1の差動要素が構成され、第1のサンギヤS1によって第1の回転要素が、第1のリングギヤR1によって第2の回転要素が、第1のキャリヤCR1によって第3の回転要素が構成される。
【0020】
そして、前記発電機16は、前記伝達軸14に固定され、回転自在に配設されたロータ21、該ロータ21の周囲に配設されたステータ22、及び該ステータ22に巻装されたコイル23から成る。前記発電機16は、伝達軸14を介して伝達される回転によって交流の電流であるU相、V相及びW相の電流を発生させる。また、必要に応じて、U相、V相及びW相の電流を受けてトルク、すなわち、発電機トルクTGを発生させ、伝達軸14に出力する。
【0021】
そして、前記ロータ21と前記車両駆動装置10のケースCsとの間に図示されない発電機ブレーキが配設され、該発電機ブレーキを係合させることによってロータ21を固定し、発電機16の回転を機械的に停止させることができる。
【0022】
また、前記モータ25は、前記伝達軸15に固定され、回転自在に配設されたロータ26、該ロータ26の周囲に配設されたステータ27、及び該ステータ27に巻装されたコイル28から成る。前記モータ25は、バッテリから供給されたU相、V相及びW相の電流によってモータトルクTMを発生させ、伝達軸15に出力する。
【0023】
そして、前記変速機18は、シングルプラネタリギヤから成る第1、第2のギヤユニット31、32を備えるとともに、摩擦係合要素としてのクラッチC0、C1、C2、ブレーキB1、B2及びワンウェイクラッチF1を備える。
【0024】
前記第1のギヤユニット31は、第2のサンギヤS2、該第2のサンギヤS2と噛合する第2のピニオンP2、該第2のピニオンP2と噛合する第2のリングギヤR2、及び前記第2のピニオンP2を回転自在に支持する第2のキャリヤCR2を備え、第2のギヤユニット32は、第3のサンギヤS3、該第3のサンギヤS3と噛合する第3のピニオンP3、該第3のピニオンP3と噛合する第3のリングギヤR3、及び前記第3のピニオンP3を回転自在に支持する第3のキャリヤCR3を備える。
【0025】
前記第2のサンギヤS2、第2のリングギヤR2及び第2のキャリヤCR2によって第2の差動要素が、前記第3のサンギヤS3、第3のリングギヤR3及び第3のキャリヤCR3によって第3の差動要素が構成される。
【0026】
そして、前記第2のサンギヤS2は、クラッチC2を介して伝達軸15と連結されるとともに、ブレーキB1を介してケースCsと連結され、第2のリングギヤR2は第3のキャリヤCR3と連結され、第2のキャリヤCR2は、第3のリングギヤR3と連結されるとともに、クラッチC0を介して伝達軸15と連結され、ワンウェイクラッチF1を介してケースCsと連結される。
【0027】
また、第3のサンギヤS3は、クラッチC1を介して伝達軸15と連結され、第3のリングギヤR3は、第2のキャリヤCR2と連結されるとともに、ワンウェイクラッチF1を介してケースCsと連結され、ブレーキB2を介してケースCsと連結され、第3のキャリヤCR3は、第2のリングギヤR2と連結されるとともに、出力軸19と連結される。
【0028】
次に、前記変速機18の動作について説明する。
【0029】
図3は本発明の実施の形態における変速機の作動表を示す図、図4は本発明の実施の形態における変速機の速度線図である。
【0030】
図において、C0、C1、C2はクラッチ、B1、B2はブレーキ、F1はワンウェイクラッチ、1ST、2ND、3RD、4THは前進走行における1速〜4速を、REVは後進走行を表す。また、○はクラッチC0、C1、C2及びブレーキB1、B2が係合させられ、ワンウェイクラッチF1がロックの状態に置かれることを、(○)はエンジンブレーキ時にブレーキB2が係合させられることを、その他は、クラッチC0、C1、C2及びブレーキB1、B2が解放され、ワンウェイクラッチF1がフリーの状態に置かれることを表す。
【0031】
また、S2は第2のサンギヤ、R2は第2のリングギヤ、CR2は第2のキャリヤ、S3は第3のサンギヤ、R3は第3のリングギヤ、CR3は第3のキャリヤである。
【0032】
そして、λ1は第2のリングギヤR2の歯数に対する第2のサンギヤS2の歯数の比、λ2は第3のリングギヤR3の歯数に対する第3のサンギヤS3の歯数の比である。なお、図4における−1、0、1、2、3は回転が入力される各軸、すなわち、回転軸の回転速度を1としたときの、相対的な回転速度を表す。
【0033】
前記構成の変速機18(図2)において、前進走行の1速において、クラッチC1が係合させられ、ワンウェイクラッチF1がロックの状態に置かれる。このとき、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。一方、ワンウェイクラッチF1がロックの状態になるのに伴って、第3のリングギヤR3の回転速度が零(0)になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、減速された1速の回転が出力される。
【0034】
また、前進走行の2速において、クラッチC1及びブレーキB1が係合させられる。このとき、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB2が係合させられるのに伴って、第2のサンギヤS2の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、減速され、1速より高い2速の回転が出力される。
【0035】
次に、前進走行の3速において、クラッチC0、C1が係合させられる。このとき、クラッチC0が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第2のキャリヤCR2に入力され、第2のキャリヤCR2が回転速度1で回転させられる。一方、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。その結果、変速機18は直結状態になり、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、伝達軸15の回転速度と同じ3速の回転が出力される。
【0036】
続いて、前進走行の4速において、クラッチC0及びブレーキB1が係合させられる。このとき、クラッチC0が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第2のキャリヤCR2に入力され、第2のキャリヤCR2が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB1が係合させられるのに伴って、第2のサンギヤS2の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、増速され、伝達軸15の回転速度より高い4速の回転が出力される。
【0037】
また、後進走行においては、クラッチC2及びブレーキB2が係合させられる。このとき、クラッチC2が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第2のサンギヤS2に入力され、第2のサンギヤS2が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB2が係合させられるのに伴って、第3のリングギヤR3の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、伝達軸15の回転と逆方向の回転が出力される。
【0038】
次に、本発明の電動車両駆動制御装置について説明する。
【0039】
図1は本発明の実施の形態における電動車両駆動制御装置のブロック図である。
【0040】
図において、10は車両駆動装置、11はエンジン、12は出力軸であり、前記車両駆動装置10は、プラネタリギヤユニット13、伝動軸14、15、発電機16、モータ25、変速機18、出力軸19、前記変速機18のクラッチC0(図2)、C1、C2及びブレーキB1、B2を係脱させるための油圧サーボに対して油を給排する油圧制御装置35、エンジン11の回転を受けて作動させられ、所定の油圧を機械的に発生させ、油圧制御装置35に供給するポンプ(メカO/P)36等を備える。
【0041】
前記出力軸19には、ディファレンシャル装置38が連結され、該ディファレンシャル装置38は、出力軸19を介して伝達された回転を分配し、駆動輪39に伝達する。
【0042】
また、41は、前記発電機16を駆動するためのインバータ、及びモータ25を駆動するためのインバータを備えたインバータ装置、43は前記発電機16を流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ、45はモータ25を流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ、46はバッテリ、47はバッテリ電圧検出部としてのバッテリ電圧検出センサ、48は発電機回転速度NGを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、49はモータ25の回転速度、すなわち、モータ回転速度NMを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、50はエンジン11の回転速度、すなわち、エンジン回転速度NEを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、53は油圧制御装置35における油圧を検出する油圧検出部としての油圧センサ、54は油圧制御装置35における油温を検出する油温検出部としての油温センサ、59は出力軸19の回転速度に基づいて車速Vを検出する車速検出部としての車速センサである。なお、発電機回転速度NG、モータ回転速度NM及びエンジン回転速度NEによって、それぞれエンジン11、発電機16及びモータ25の駆動状態を判定するための駆動状態判定指標が構成され、回転速度センサ48〜50によって駆動状態判定指標検出部が構成される。また、前記車速Vによってハイブリッド型車両の走行負荷が構成され、車速センサ59によって走行負荷検出部が構成される。
【0043】
そして、51は所定の油圧を電気的に発生させ、油圧制御装置35に供給するポンプ(電動O/P)、52は該ポンプ51を駆動するための電動O/P用インバータである。
【0044】
また、55はハイブリッド型車両の全体の制御を行う車両制御装置、56はエンジン11の制御を行うエンジン制御装置、57は発電機16及びモータ25の制御を行う発電機・モータ制御装置、58は変速機18の制御を行う変速機制御装置である。
【0045】
なお、前記車両制御装置55は、前記エンジン制御装置56にエンジン制御信号を送り、エンジン制御装置56によってエンジン11の始動・停止を設定させる。
【0046】
そして、車両制御装置55は、エンジン回転速度NEの目標値を表すエンジン目標回転速度NE* 、発電機トルクTGの目標値を表す発電機目標トルクTG* 、及びモータトルクTMの目標値を表すモータ目標トルクTM* を設定し、前記発電機・モータ制御装置57は、発電機回転速度NGの目標値を表す発電機目標回転速度NG* 、モータトルクTMの補正値を表すモータトルク補正値δTM等を設定する。
【0047】
次に、前記電動車両制御装置の動作について説明する。
【0048】
まず、前記変速機制御装置58の図示されない変速段設定処理手段は、変速段設定処理を行い、図示されないアクセルペダルの踏込量に基づいて検出されたエンジン負荷を表すアクセル開度Ac、前記車速V等を読み込み、変速機制御装置58に内蔵された記録装置の変速マップを参照し、変速段を設定する。そして、変速機制御装置58の図示されない変速要求処理手段は、変速要求処理を行い、設定された変速段に基づいて、アップシフトの変速が必要か、ダウンシフトの変速が必要か、又は変速が不要かどうかを判断し、アップシフトの変速が必要な場合、アップシフト要求を発生させ、ダウンシフトの変速が必要な場合、ダウンシフト要求を発生させる。そして、変速機制御装置58の図示されない変速処理手段は、変速処理を行い、アップシフト要求又はダウンシフト要求に基づいてアップシフト制御又はダウンシフト制御を行い、変速信号を発生させる。
【0049】
そして、車両制御装置55の図示されない車両要求トルク算出処理手段は、車両要求トルク算出処理を行い、前記車速V、アクセル開度Ac等を読み込み、ハイブリッド型車両を走行させるのに必要な車両要求トルクTO* を算出する。
【0050】
次に、前記車両制御装置55の図示されない車両要求出力算出処理手段は、車両要求出力算出処理を行い、前記車両要求トルクTO* と車速Vとを乗算することによって、運転者要求出力PDを算出し、図示されないバッテリ残量検出センサによって検出されたバッテリ残量SOCに基づいてバッテリ充放電要求出力PBを算出し、前記運転者要求出力PDとバッテリ充放電要求出力PBとを加算することによって、車両要求出力POを算出する。
【0051】
続いて、前記車両制御装置55の図示されないエンジン目標運転状態設定処理手段は、エンジン目標運転状態設定処理を行い、前記車両要求出力PO、アクセル開度Ac等に基づいてエンジン11の運転ポイントを決定し、該運転ポイントにおけるエンジントルクTEをエンジン目標トルクTE* として決定し、前記運転ポイントにおけるエンジン回転速度NEをエンジン目標回転速度NE* として決定し、該エンジン目標回転速度NE* をエンジン制御装置56に送る。
【0052】
そして、該エンジン制御装置56の図示されない始動要求処理手段は、始動要求処理を行い、エンジン11が駆動領域に置かれているかどうかを判断し、駆動領域AR1に置かれているにもかかわらず、エンジン11が駆動されていない場合、エンジン制御装置56の図示されない始動処理手段は、始動処理を行い、エンジン11を始動するためのエンジン始動要求を発生させる。次に、前記エンジン制御装置56のエンジン始動処理手段は、エンジン始動処理を行い、エンジン始動要求が発生させられると、エンジン始動信号を発生させる。
【0053】
ところで、前記車両駆動装置10において、モータ25を駆動し、モータトルクTMを前記変速機18を介して駆動輪39に伝達してハイブリッド型車両を走行させているときに、変速機18においてダウンシフトの変速を行い、かつ、エンジン11の始動を行う必要が生じたり、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が実行されているときに、他の制御を行う必要が生じたりする場合に、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちのいずれの制御を先に行っても、ダウンシフトの変速が行われるのに伴って、発電機回転速度NGが急に高くなった後に急に低くなるか、又は急に低くなった後に急に高くなるかして、発電機回転速度NGの大きな変動が連続してしまう。
【0054】
図5は本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第1の図、図6は本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第2の図である。
【0055】
図において、NGは発電機回転速度、NEはエンジン回転速度、NMはモータ回転速度である。図5において、線L1で示されるように、エンジン11(図1)が停止させられ、エンジン回転速度NEが零であり、モータ25が一定のモータ回転速度NMで駆動され、発電機回転速度NGが値Naであるときに、ダウンシフト制御が行われると、線L2で示されるように、モータ回転速度NMが高くなり、それに伴って、発電機回転速度NGが低く(負の方向に高く)なり、値Nbになる。続いて、エンジン始動制御が行われると、発電機16を駆動し、線L3で示されるように、発電機回転速度NGが値Ncにされ、エンジン回転速度NEを始動するのに必要な点火回転速度にされる。
【0056】
このように、プラネタリギヤユニット13の速度線図が、線L1、L2、L3のように変化し、発電機回転速度NGが急に低くなった後に急に高くなり、発電機回転速度NGの大きな変動が連続してしまう。
【0057】
また、図6において、線L1で示されるように、エンジン11が停止させられ、エンジン回転速度NEが零であり、モータ25が一定のモータ回転速度NMで駆動され、発電機回転速度NGが値Naであるときに、エンジン始動制御が行われると、発電機16を駆動し、線L4で示されるように、発電機回転速度NGが値Ndにされ、エンジン回転速度NEを始動するのに必要な点火回転速度にされる。続いて、ダウンシフト制御が行われると、線L5で示されるように、モータ回転速度NMが高くなり、それに伴って、発電機回転速度NGが低くなり、値Neになる。
【0058】
この場合も、プラネタリギヤユニット13の速度線図が、線L1、L4、L5のように変化し、発電機回転速度NGが急に高くなった後に急に低くなり、発電機回転速度NGの大きな変動が連続してしまう。
【0059】
そこで、本実施の形態においては、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を、同時に開始することによって並列して同時に行うか、又はエンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの、少なくとも一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始、並列して同時に行うようにしている。そのために、前記車両制御装置55の図示されない車両駆動処理手段は、車両駆動処理を行い、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を並列して同時に行う。
【0060】
そして、前記車両駆動処理手段の同時制御判定処理手段は、同時制御判定処理を行い、発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGに基づいて同時制御の内容を決定する。
【0061】
図7は本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第1のフローチャート、図8は本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第2のフローチャートである。
【0062】
この場合、同時制御判定処理手段の走行状態判定処理手段は、走行状態判定処理を行い、電流センサ45(図1)によって検出された電流、回転速度センサ49によって検出されたモータ回転速度NM等を読み込み、回生走行又はモータ走行がされているかどうかを判断する。
【0063】
続いて、前記同時制御判定処理手段の同時制御条件判定処理手段は、同時制御条件判定処理を行い、エンジン始動要求が発生させられかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられず、ダウンシフト要求が発生させられた場合、前記変速処理手段は、ダウンシフト制御を開始する。
【0064】
そして、前記同時制御判定処理手段の同時制御選択処理手段は、同時制御選択処理を行い、発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGに基づいて同時制御の内容を変更する。すなわち、前記同時制御選択処理手段は、前記発電機回転速度NGが値Naであるかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Naであり、エンジン始動要求が発生させられると、同時制御Aを選択し、同時制御指令を出力する。
【0065】
また、発電機回転速度NGが値Naではない場合、同時制御選択処理手段は、発電機回転速度NGが値Nbより高いかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Nbより高く、エンジン始動要求が発生させられると、同時制御Bを選択し、同時制御指令を出力する。そして、発電機回転速度NGが値Nbより低い場合、前記変速処理手段は、エンジン始動制御を行わず、ダウンシフト制御のトルク相の処理を実施する。
【0066】
一方、エンジン始動要求が発生させられた場合、前記エンジン始動処理手段は、エンジン始動制御を開始する。
【0067】
そして、前記同時制御選択処理手段は、発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGが値Neであるかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Neであり、ダウンシフト要求が発生させられると、同時制御Dを選択し、同時制御指令を出力する。
【0068】
また、発電機回転速度NGが値Neでない場合、同時制御選択処理手段は、発電機回転速度NGが値Ndより低いかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Ndより低く、ダウンシフト要求が発生させられると、同時制御Cを選択し、同時制御指令を出力する。また、発電機回転速度NGが値Ndより高い場合、前記エンジン始動処理手段は、エンジン11を点火する。
【0069】
次に、図7及び8のフローチャートについて説明する。
ステップS1 回生走行又はモータ走行がされているかどうかを判断する。回生走行又はモータ走行がされている場合はステップS2に進み、回生走行又はモータ走行がされていない場合は処理を終了する。
ステップS2 エンジン始動要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられた場合はステップS12に、発生させられていない場合はステップS3に進む。
ステップS3 ダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。ダウンシフト要求が発生させられた場合はステップS4に進み、発生させられていない場合は処理を終了する。
ステップS4 ダウンシフト制御を開始する。
ステップS5 発電機回転速度NGが値Naであるかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Naである場合はステップS6に、発電機回転速度NGが値Naでない場合はステップS8に進む。
ステップS6 エンジン始動要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられた場合はステップS7に進み、発生させられていない場合はステップS5に戻る。
ステップS7 同時制御Aを選択し、処理を終了する。
ステップS8 発電機回転速度NGが値Nbより高いかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Nbより高い場合はステップS9に、発電機回転速度NGが値Nbより低い場合はステップS11に進む。
ステップS9 エンジン始動要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられた場合はステップS10に進み、発生させられていない場合はステップS8に戻る。
ステップS10 同時制御Bを選択し、処理を終了する。
ステップS11 ダウンシフト制御のトルク相の処理を実施し、処理を終了する。
ステップS12 エンジン始動制御を開始する。
ステップS13 発電機回転速度NGが値Neであるかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Neである場合はステップS14に、発電機回転速度NGが値Neでない場合はステップS16に進む。
ステップS14 ダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。ダウンシフト要求が発生させられた場合はステップS15に進み、発生させられていない場合はステップS13に戻る。
ステップS15 同時制御Dを選択し、処理を終了する。
ステップS16 発電機回転速度NGが値Ndより低いかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Ndより低い場合はステップS17に、発電機回転速度NGが値Ndより高い場合はステップS19に進む。
ステップS17 ダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。ダウンシフト要求が発生させられた場合はステップS18に進み、発生させられていない場合はステップS16に戻る。
ステップS18 同時制御Cを選択し、処理を終了する。
ステップS19 エンジン11を点火し、処理を終了する。
【0070】
次に、前記車両駆動処理手段の同時制御実施処理手段は、同時制御実施処理を行い、選択された同時制御A〜Dを実施し、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に他方の制御を開始する。
【0071】
図9は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示すフローチャート、図10は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第1のタイムチャート、図11は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第2のタイムチャート、図12は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第3のタイムチャート、図13は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第4のタイムチャートである。
【0072】
まず、同時制御実施処理手段の発電機目標回転速度算出処理手段は、発電機目標回転速度算出処理を行い、同時制御指令が出力されたかどうかを判断し、同時制御指令が出力されると、車速Vを読み込み、同時制御時の変速後のモータ目標回転速度NM* 及び発電機目標回転速度NG* を算出する。なお、この場合、変速後のモータ目標回転速度NM* 、エンジン11(図1)を始動したときのエンジン目標回転速度NE* 、及び変速機18のギヤ比に基づいて発電機目標回転速度NG* を算出する。また、車速Vに代えて、回転速度センサ49によって検出されたモータ回転速度NMに基づいて、モータ目標回転速度NM* を算出することができる。そのために、前記同時制御実施処理手段のモータ目標回転速度算出処理手段は、モータ目標回転速度算出処理を行い、車速V及び変速前後の変速比に基づいて変速後のモータ目標回転速度NM* を算出し、同時制御実施処理手段のエンジン目標回転速度算出処理手段は、エンジン目標回転速度算出処理を行い、アクセル開度によって決定されるエンジン始動時のエンジン目標回転速度NE* を算出する。なお、前記発電機目標回転速度算出処理手段によって第1電動機回転速度算出処理手段としての第1電動機械回転速度算出処理手段が、モータ目標回転速度算出処理手段によって第2電動機回転速度算出処理手段としての第2電動機械回転速度算出処理手段が構成される。
【0073】
続いて、前記同時制御実施処理手段のクランキング処理手段は、クランキング処理を行い、発電機回転速度NGが発電機目標回転速度NG* になるように高くし、エンジン11のクランキングを行う。なお、前記エンジン始動処理手段がエンジン始動制御を既に開始している場合、エンジン始動制御の開始に伴ってクランキングが行われ、続いて、同時制御C、Dが選択された後には、クランキングのエンジン回転速度NEが変更される。
【0074】
このとき、ハイブリッド型車両の慣性によって、モータ回転速度NMは同じ値を採ろうとするが、エンジン11のクランキングを行うのに伴って、モータ回転速度NMを低くしようとする反力、すなわち、エンジン反力トルクが発生する。そこで、前記同時制御実施処理手段の反力対抗トルク発生処理手段は、反力対抗トルク発生処理を行い、前記エンジン反力トルクを算出し、該エンジン反力トルクを打ち消すモータトルクTMを発生させる。
【0075】
次に、前記同時制御実施処理手段のエンジン回転速度判定処理手段は、エンジン回転速度判定処理を行い、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMを読み込み、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMに基づいて算出されたエンジン回転速度NEがエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達しているかどうかを判断し、エンジン回転速度NEがエンジン目標回転速度NE* に到達している場合、前記同時制御実施処理手段の変速終了判断処理手段は、変速終了判断処理を行い、変速が終了したかどうかを判断し、変速が終了すると、前記同時制御実施処理手段のエンジン点火処理手段は、エンジン点火処理を行い、エンジン11を点火する。
【0076】
そして、前記同時制御実施処理において、同時制御Aは図10に示されるように行われ、同時制御Bは図11に示されるように行われ、同時制御Cは図12に示されるように行われ、同時制御Dは図13に示されるように行われる。
【0077】
図10〜14において、τ1は変速が開始されてから終了されるまでの区間、τ2は変速が開始されてからクラッチC0(図2)、C1、C2及びブレーキB1、B2の係脱が完了されるまでの区間であるイナーシャ相、τ3はクラッチC0、C1、C2及びブレーキB1、B2の係脱が完了されてから変速が終了されるまでの区間であるトルク相である。
【0078】
そして、変速に伴って、出力軸19に出力される出力トルクTOUT、エンジントルクTE、発電機トルクTG及びモータトルクTMから成る各トルク、変速に伴って係合させられる摩擦係合要素の係合側トルクTm、及び変速に伴って解放される摩擦係合要素の解放側トルクTrから成る係合要素トルク、エンジン回転速度NE、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMから成る回転速度、並びに発電機16の消費電力PG、モータ25の消費電力PM、及び消費電力PG、PMを加算した総消費電力PTが示される。
【0079】
そして、図10の同時制御Aにおいて、タイミングt1でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始されるとともに、エンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。また、タイミングt2でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt3でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0080】
次に、図11の同時制御Bにおいて、タイミングt11でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、タイミングt12でエンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。また、タイミングt13でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt14でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0081】
続いて、図12の同時制御Cにおいて、タイミングt21でエンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。そして、タイミングt22でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、タイミングt23でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt24でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0082】
また、図13の同時制御Dにおいて、タイミングt31でエンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。そして、タイミングt32でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、タイミングt33でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt34でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0083】
このように、同時制御A〜Dにおいては、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を、同時に開始することによって並列して同時に行うか、又はエンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの、少なくとも一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始し、並列して同時に行うようにしているので、発電機回転速度NGが急に低くなった後に急に高くなったり、発電機回転速度NGが急に高くなった後に急に低くなったりすることがなくなる。したがって、発電機回転速度NGの大きな変動が連続することがない。
【0084】
その結果、変速ショックが緩和されるので、走行フィーリングが低下するのを防止することができる。
【0085】
また、一方の制御が行われている間、他方の制御が開始されるので、制御の全体が終了するまでの時間を短くすることができる。したがって、運転者のアクセル操作に対してハイブリッド型車両の反応を早くすることができるので、もたつき感を発生させることがなく、走行フィーリングを向上させることができる。
【0086】
次に、図9のフローチャートについて説明する。
ステップS21 同時制御指令が出力されたかどうかを判断する。同時制御指令が出力された場合はステップS22に進み、出力されない場合は処理を終了する。
ステップS22 車速Vから、同時制御時のモータ目標回転速度NM* 及び発電機目標回転速度NG* を算出する。
ステップS23 エンジン11のクランキングを行う。
ステップS24 エンジン反力を算出する。
ステップS25 エンジン反力トルクを打ち消すモータトルクTMを発生させる。
ステップS26 エンジン回転速度NEがエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* 以上であるかどうかを判断する。エンジン回転速度NEがエンジン目標回転速度NE* 以上である場合はステップS27に進み、エンジン回転速度NEがエンジン目標回転速度NE* より低い場合はステップS22に戻る。
ステップS27 変速終了の判断がされたかどうかを判断する。変速終了の判断がされた場合はステップS28に進み、判断がされない場合はステップS26に戻る。
ステップS28 エンジン11を点火する。
ステップS29 同時制御を終了し、処理を終了する。
【0087】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態における電動車両駆動制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるエンジン及び車両駆動装置の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における変速機の作動表を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における変速機の速度線図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第1の図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第2の図である。
【図7】本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第1のフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第2のフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第1のタイムチャートである。
【図11】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第2のタイムチャートである。
【図12】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第3のタイムチャートである。
【図13】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第4のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0089】
11 エンジン
13 プラネタリギヤユニット
15 伝動軸
16 発電機
18 変速機
25 モータ
55 車両制御装置
CR1 キャリヤ
R1 リングギヤ
S1 サンギヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両駆動制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両、例えば、ハイブリッド型車両に搭載され、エンジンのトルク、すなわち、エンジントルクの一部を発電機に、残りを駆動輪に伝達するようにした車両駆動装置においては、サンギヤ、リングギヤ及びキャリヤを備えたプラネタリギヤユニットを有し、前記キャリヤとエンジンとを連結し、リングギヤ及びモータと駆動輪とを変速機を介して連結し、サンギヤと発電機とを連結し、前記リングギヤ及びモータから出力された回転を駆動輪に伝達して駆動力を発生させるようにしている。
【0003】
ところで、モータを駆動し、モータのトルク、すなわち、モータトルクを前記変速機を介して駆動輪に伝達してハイブリッド型車両を走行させているときに、変速機においてダウンシフトの変速を行い、かつ、エンジンの始動を行う必要が生じると、エンジン始動制御及びダウンシフト制御が行われる。この場合、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御を先に開始し、一方の制御が終了した後に、他方の制御を開始するようにしている。
【0004】
また、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が実行されているときに、他の制御を行う必要が生じた場合にも、一方の制御が終了した後に、他方の制御を開始するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両駆動装置においては、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちのいずれの制御を先に行っても、ダウンシフトの変速が行われるのに伴って、発電機の回転速度、すなわち、発電機回転速度が急に高くなった後に急に低くなるか、又は急に低くなった後に急に高くなるかして、発電機回転速度の大きな変動が連続してしまう。
【0006】
その結果、発電機回転速度の変動に伴って発生するイナーシャトルクが駆動輪に伝達されて変速ショックが発生し、走行フィーリングを低下させてしまう。
【0007】
また、一方の制御が終了した後に、他方の制御が開始されるので、制御の全体が終了するまでの時間が長くなるので、運転者のアクセル操作に対してハイブリッド型車両の反応が遅くなってしまう。その結果、もたつき感が発生し、走行フィーリングが低下してしまう。
【0008】
本発明は、前記従来の車両駆動装置の問題点を解決して、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を行うに当たり、走行フィーリングが低下するのを防止することができる電動車両駆動制御装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明の電動車両駆動制御装置においては、エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置と、駆動輪に連結された出力軸と、前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機と、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する同時制御条件判定処理手段と、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にするエンジン始動制御、及び前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動車両駆動制御装置においては、エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置と、駆動輪に連結された出力軸と、前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機と、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する同時制御条件判定処理手段と、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にするエンジン始動制御、及び前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有する。
【0011】
この場合、エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に他方の制御が開始されるので、第1の電動機の回転速度の大きな変動が連続することがない。
【0012】
したがって、変速ショックが緩和されるので、走行フィーリングが低下するのを防止することができる。
【0013】
また、一方の制御が行われている間、他方の制御が開始されるので、制御の全体が終了するまでの時間を短くすることができる。したがって、運転者のアクセル操作に対して電動車両の反応を早くすることができるので、もたつき感を発生させることがなく、走行フィーリングを低下するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、ハイブリッド型車両を駆動するための電動車両駆動制御装置及びその制御方法について説明する。
【0015】
図2は本発明の実施の形態におけるエンジン及び車両駆動装置の概念図である。
【0016】
図において、10は車両駆動装置、11はエンジン(E/G)、12は該エンジン11を駆動することによって発生させられた回転及びエンジントルクTEを出力する出力軸であり、該出力軸12は車両駆動装置10の入力軸を兼ねる。また、13は、前記出力軸12を介して入力されたエンジントルクTEを分配する差動装置としてのプラネタリギヤユニット、14、15は該プラネタリギヤユニット13において発生させられた回転を受け、かつ、プラネタリギヤユニット13において分配されたエンジントルクTEを受ける伝動軸、16は伝動軸14を介して前記プラネタリギヤユニット13と連結された第1の電動機としての、かつ、第1の電動機械としての発電機(G)、25は伝動軸15を介して前記プラネタリギヤユニット13と連結された第2の電動機としての、かつ、第2の電動機械としてのモータ(M)である。
【0017】
18は前記伝動軸15を介してプラネタリギヤユニット13及びモータ25と連結された変速機であり、該変速機18は、伝動軸15を介して入力された回転を変速し、変速された回転を出力軸19に出力する。
【0018】
そして、該出力軸19に図示されないディファレンシャル装置が接続され、該ディファレンシャル装置は、出力軸19を介して伝達された回転を分配し、図示されない駆動輪に伝達する。このように、エンジン11、発電機16、モータ25及び駆動輪は、互いに機械的に連結される。
【0019】
前記プラネタリギヤユニット13は、シングルプラネタリギヤから成り、第1のサンギヤS1、該第1のサンギヤS1と噛(し)合する第1のピニオンP1、該第1のピニオンP1と噛合する第1のリングギヤR1、及び前記第1のピニオンP1を回転自在に支持する第1のキャリヤCR1を備え、前記第1のサンギヤS1は前記伝達軸14を介して発電機16と、第1のリングギヤR1は、伝動軸15を介してモータ25及び変速機18と、前記第1のキャリヤCR1は出力軸12を介してエンジン11と連結される。前記第1のサンギヤS1、第1のリングギヤR1及び第1のキャリヤCR1によって第1の差動要素が構成され、第1のサンギヤS1によって第1の回転要素が、第1のリングギヤR1によって第2の回転要素が、第1のキャリヤCR1によって第3の回転要素が構成される。
【0020】
そして、前記発電機16は、前記伝達軸14に固定され、回転自在に配設されたロータ21、該ロータ21の周囲に配設されたステータ22、及び該ステータ22に巻装されたコイル23から成る。前記発電機16は、伝達軸14を介して伝達される回転によって交流の電流であるU相、V相及びW相の電流を発生させる。また、必要に応じて、U相、V相及びW相の電流を受けてトルク、すなわち、発電機トルクTGを発生させ、伝達軸14に出力する。
【0021】
そして、前記ロータ21と前記車両駆動装置10のケースCsとの間に図示されない発電機ブレーキが配設され、該発電機ブレーキを係合させることによってロータ21を固定し、発電機16の回転を機械的に停止させることができる。
【0022】
また、前記モータ25は、前記伝達軸15に固定され、回転自在に配設されたロータ26、該ロータ26の周囲に配設されたステータ27、及び該ステータ27に巻装されたコイル28から成る。前記モータ25は、バッテリから供給されたU相、V相及びW相の電流によってモータトルクTMを発生させ、伝達軸15に出力する。
【0023】
そして、前記変速機18は、シングルプラネタリギヤから成る第1、第2のギヤユニット31、32を備えるとともに、摩擦係合要素としてのクラッチC0、C1、C2、ブレーキB1、B2及びワンウェイクラッチF1を備える。
【0024】
前記第1のギヤユニット31は、第2のサンギヤS2、該第2のサンギヤS2と噛合する第2のピニオンP2、該第2のピニオンP2と噛合する第2のリングギヤR2、及び前記第2のピニオンP2を回転自在に支持する第2のキャリヤCR2を備え、第2のギヤユニット32は、第3のサンギヤS3、該第3のサンギヤS3と噛合する第3のピニオンP3、該第3のピニオンP3と噛合する第3のリングギヤR3、及び前記第3のピニオンP3を回転自在に支持する第3のキャリヤCR3を備える。
【0025】
前記第2のサンギヤS2、第2のリングギヤR2及び第2のキャリヤCR2によって第2の差動要素が、前記第3のサンギヤS3、第3のリングギヤR3及び第3のキャリヤCR3によって第3の差動要素が構成される。
【0026】
そして、前記第2のサンギヤS2は、クラッチC2を介して伝達軸15と連結されるとともに、ブレーキB1を介してケースCsと連結され、第2のリングギヤR2は第3のキャリヤCR3と連結され、第2のキャリヤCR2は、第3のリングギヤR3と連結されるとともに、クラッチC0を介して伝達軸15と連結され、ワンウェイクラッチF1を介してケースCsと連結される。
【0027】
また、第3のサンギヤS3は、クラッチC1を介して伝達軸15と連結され、第3のリングギヤR3は、第2のキャリヤCR2と連結されるとともに、ワンウェイクラッチF1を介してケースCsと連結され、ブレーキB2を介してケースCsと連結され、第3のキャリヤCR3は、第2のリングギヤR2と連結されるとともに、出力軸19と連結される。
【0028】
次に、前記変速機18の動作について説明する。
【0029】
図3は本発明の実施の形態における変速機の作動表を示す図、図4は本発明の実施の形態における変速機の速度線図である。
【0030】
図において、C0、C1、C2はクラッチ、B1、B2はブレーキ、F1はワンウェイクラッチ、1ST、2ND、3RD、4THは前進走行における1速〜4速を、REVは後進走行を表す。また、○はクラッチC0、C1、C2及びブレーキB1、B2が係合させられ、ワンウェイクラッチF1がロックの状態に置かれることを、(○)はエンジンブレーキ時にブレーキB2が係合させられることを、その他は、クラッチC0、C1、C2及びブレーキB1、B2が解放され、ワンウェイクラッチF1がフリーの状態に置かれることを表す。
【0031】
また、S2は第2のサンギヤ、R2は第2のリングギヤ、CR2は第2のキャリヤ、S3は第3のサンギヤ、R3は第3のリングギヤ、CR3は第3のキャリヤである。
【0032】
そして、λ1は第2のリングギヤR2の歯数に対する第2のサンギヤS2の歯数の比、λ2は第3のリングギヤR3の歯数に対する第3のサンギヤS3の歯数の比である。なお、図4における−1、0、1、2、3は回転が入力される各軸、すなわち、回転軸の回転速度を1としたときの、相対的な回転速度を表す。
【0033】
前記構成の変速機18(図2)において、前進走行の1速において、クラッチC1が係合させられ、ワンウェイクラッチF1がロックの状態に置かれる。このとき、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。一方、ワンウェイクラッチF1がロックの状態になるのに伴って、第3のリングギヤR3の回転速度が零(0)になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、減速された1速の回転が出力される。
【0034】
また、前進走行の2速において、クラッチC1及びブレーキB1が係合させられる。このとき、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB2が係合させられるのに伴って、第2のサンギヤS2の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、減速され、1速より高い2速の回転が出力される。
【0035】
次に、前進走行の3速において、クラッチC0、C1が係合させられる。このとき、クラッチC0が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第2のキャリヤCR2に入力され、第2のキャリヤCR2が回転速度1で回転させられる。一方、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。その結果、変速機18は直結状態になり、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、伝達軸15の回転速度と同じ3速の回転が出力される。
【0036】
続いて、前進走行の4速において、クラッチC0及びブレーキB1が係合させられる。このとき、クラッチC0が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第2のキャリヤCR2に入力され、第2のキャリヤCR2が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB1が係合させられるのに伴って、第2のサンギヤS2の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、増速され、伝達軸15の回転速度より高い4速の回転が出力される。
【0037】
また、後進走行においては、クラッチC2及びブレーキB2が係合させられる。このとき、クラッチC2が係合させられるのに伴って伝達軸15の回転が第2のサンギヤS2に入力され、第2のサンギヤS2が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB2が係合させられるのに伴って、第3のリングギヤR3の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、伝達軸15の回転と逆方向の回転が出力される。
【0038】
次に、本発明の電動車両駆動制御装置について説明する。
【0039】
図1は本発明の実施の形態における電動車両駆動制御装置のブロック図である。
【0040】
図において、10は車両駆動装置、11はエンジン、12は出力軸であり、前記車両駆動装置10は、プラネタリギヤユニット13、伝動軸14、15、発電機16、モータ25、変速機18、出力軸19、前記変速機18のクラッチC0(図2)、C1、C2及びブレーキB1、B2を係脱させるための油圧サーボに対して油を給排する油圧制御装置35、エンジン11の回転を受けて作動させられ、所定の油圧を機械的に発生させ、油圧制御装置35に供給するポンプ(メカO/P)36等を備える。
【0041】
前記出力軸19には、ディファレンシャル装置38が連結され、該ディファレンシャル装置38は、出力軸19を介して伝達された回転を分配し、駆動輪39に伝達する。
【0042】
また、41は、前記発電機16を駆動するためのインバータ、及びモータ25を駆動するためのインバータを備えたインバータ装置、43は前記発電機16を流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ、45はモータ25を流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ、46はバッテリ、47はバッテリ電圧検出部としてのバッテリ電圧検出センサ、48は発電機回転速度NGを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、49はモータ25の回転速度、すなわち、モータ回転速度NMを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、50はエンジン11の回転速度、すなわち、エンジン回転速度NEを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、53は油圧制御装置35における油圧を検出する油圧検出部としての油圧センサ、54は油圧制御装置35における油温を検出する油温検出部としての油温センサ、59は出力軸19の回転速度に基づいて車速Vを検出する車速検出部としての車速センサである。なお、発電機回転速度NG、モータ回転速度NM及びエンジン回転速度NEによって、それぞれエンジン11、発電機16及びモータ25の駆動状態を判定するための駆動状態判定指標が構成され、回転速度センサ48〜50によって駆動状態判定指標検出部が構成される。また、前記車速Vによってハイブリッド型車両の走行負荷が構成され、車速センサ59によって走行負荷検出部が構成される。
【0043】
そして、51は所定の油圧を電気的に発生させ、油圧制御装置35に供給するポンプ(電動O/P)、52は該ポンプ51を駆動するための電動O/P用インバータである。
【0044】
また、55はハイブリッド型車両の全体の制御を行う車両制御装置、56はエンジン11の制御を行うエンジン制御装置、57は発電機16及びモータ25の制御を行う発電機・モータ制御装置、58は変速機18の制御を行う変速機制御装置である。
【0045】
なお、前記車両制御装置55は、前記エンジン制御装置56にエンジン制御信号を送り、エンジン制御装置56によってエンジン11の始動・停止を設定させる。
【0046】
そして、車両制御装置55は、エンジン回転速度NEの目標値を表すエンジン目標回転速度NE* 、発電機トルクTGの目標値を表す発電機目標トルクTG* 、及びモータトルクTMの目標値を表すモータ目標トルクTM* を設定し、前記発電機・モータ制御装置57は、発電機回転速度NGの目標値を表す発電機目標回転速度NG* 、モータトルクTMの補正値を表すモータトルク補正値δTM等を設定する。
【0047】
次に、前記電動車両制御装置の動作について説明する。
【0048】
まず、前記変速機制御装置58の図示されない変速段設定処理手段は、変速段設定処理を行い、図示されないアクセルペダルの踏込量に基づいて検出されたエンジン負荷を表すアクセル開度Ac、前記車速V等を読み込み、変速機制御装置58に内蔵された記録装置の変速マップを参照し、変速段を設定する。そして、変速機制御装置58の図示されない変速要求処理手段は、変速要求処理を行い、設定された変速段に基づいて、アップシフトの変速が必要か、ダウンシフトの変速が必要か、又は変速が不要かどうかを判断し、アップシフトの変速が必要な場合、アップシフト要求を発生させ、ダウンシフトの変速が必要な場合、ダウンシフト要求を発生させる。そして、変速機制御装置58の図示されない変速処理手段は、変速処理を行い、アップシフト要求又はダウンシフト要求に基づいてアップシフト制御又はダウンシフト制御を行い、変速信号を発生させる。
【0049】
そして、車両制御装置55の図示されない車両要求トルク算出処理手段は、車両要求トルク算出処理を行い、前記車速V、アクセル開度Ac等を読み込み、ハイブリッド型車両を走行させるのに必要な車両要求トルクTO* を算出する。
【0050】
次に、前記車両制御装置55の図示されない車両要求出力算出処理手段は、車両要求出力算出処理を行い、前記車両要求トルクTO* と車速Vとを乗算することによって、運転者要求出力PDを算出し、図示されないバッテリ残量検出センサによって検出されたバッテリ残量SOCに基づいてバッテリ充放電要求出力PBを算出し、前記運転者要求出力PDとバッテリ充放電要求出力PBとを加算することによって、車両要求出力POを算出する。
【0051】
続いて、前記車両制御装置55の図示されないエンジン目標運転状態設定処理手段は、エンジン目標運転状態設定処理を行い、前記車両要求出力PO、アクセル開度Ac等に基づいてエンジン11の運転ポイントを決定し、該運転ポイントにおけるエンジントルクTEをエンジン目標トルクTE* として決定し、前記運転ポイントにおけるエンジン回転速度NEをエンジン目標回転速度NE* として決定し、該エンジン目標回転速度NE* をエンジン制御装置56に送る。
【0052】
そして、該エンジン制御装置56の図示されない始動要求処理手段は、始動要求処理を行い、エンジン11が駆動領域に置かれているかどうかを判断し、駆動領域AR1に置かれているにもかかわらず、エンジン11が駆動されていない場合、エンジン制御装置56の図示されない始動処理手段は、始動処理を行い、エンジン11を始動するためのエンジン始動要求を発生させる。次に、前記エンジン制御装置56のエンジン始動処理手段は、エンジン始動処理を行い、エンジン始動要求が発生させられると、エンジン始動信号を発生させる。
【0053】
ところで、前記車両駆動装置10において、モータ25を駆動し、モータトルクTMを前記変速機18を介して駆動輪39に伝達してハイブリッド型車両を走行させているときに、変速機18においてダウンシフトの変速を行い、かつ、エンジン11の始動を行う必要が生じたり、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が実行されているときに、他の制御を行う必要が生じたりする場合に、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちのいずれの制御を先に行っても、ダウンシフトの変速が行われるのに伴って、発電機回転速度NGが急に高くなった後に急に低くなるか、又は急に低くなった後に急に高くなるかして、発電機回転速度NGの大きな変動が連続してしまう。
【0054】
図5は本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第1の図、図6は本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第2の図である。
【0055】
図において、NGは発電機回転速度、NEはエンジン回転速度、NMはモータ回転速度である。図5において、線L1で示されるように、エンジン11(図1)が停止させられ、エンジン回転速度NEが零であり、モータ25が一定のモータ回転速度NMで駆動され、発電機回転速度NGが値Naであるときに、ダウンシフト制御が行われると、線L2で示されるように、モータ回転速度NMが高くなり、それに伴って、発電機回転速度NGが低く(負の方向に高く)なり、値Nbになる。続いて、エンジン始動制御が行われると、発電機16を駆動し、線L3で示されるように、発電機回転速度NGが値Ncにされ、エンジン回転速度NEを始動するのに必要な点火回転速度にされる。
【0056】
このように、プラネタリギヤユニット13の速度線図が、線L1、L2、L3のように変化し、発電機回転速度NGが急に低くなった後に急に高くなり、発電機回転速度NGの大きな変動が連続してしまう。
【0057】
また、図6において、線L1で示されるように、エンジン11が停止させられ、エンジン回転速度NEが零であり、モータ25が一定のモータ回転速度NMで駆動され、発電機回転速度NGが値Naであるときに、エンジン始動制御が行われると、発電機16を駆動し、線L4で示されるように、発電機回転速度NGが値Ndにされ、エンジン回転速度NEを始動するのに必要な点火回転速度にされる。続いて、ダウンシフト制御が行われると、線L5で示されるように、モータ回転速度NMが高くなり、それに伴って、発電機回転速度NGが低くなり、値Neになる。
【0058】
この場合も、プラネタリギヤユニット13の速度線図が、線L1、L4、L5のように変化し、発電機回転速度NGが急に高くなった後に急に低くなり、発電機回転速度NGの大きな変動が連続してしまう。
【0059】
そこで、本実施の形態においては、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を、同時に開始することによって並列して同時に行うか、又はエンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの、少なくとも一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始、並列して同時に行うようにしている。そのために、前記車両制御装置55の図示されない車両駆動処理手段は、車両駆動処理を行い、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を並列して同時に行う。
【0060】
そして、前記車両駆動処理手段の同時制御判定処理手段は、同時制御判定処理を行い、発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGに基づいて同時制御の内容を決定する。
【0061】
図7は本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第1のフローチャート、図8は本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第2のフローチャートである。
【0062】
この場合、同時制御判定処理手段の走行状態判定処理手段は、走行状態判定処理を行い、電流センサ45(図1)によって検出された電流、回転速度センサ49によって検出されたモータ回転速度NM等を読み込み、回生走行又はモータ走行がされているかどうかを判断する。
【0063】
続いて、前記同時制御判定処理手段の同時制御条件判定処理手段は、同時制御条件判定処理を行い、エンジン始動要求が発生させられかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられず、ダウンシフト要求が発生させられた場合、前記変速処理手段は、ダウンシフト制御を開始する。
【0064】
そして、前記同時制御判定処理手段の同時制御選択処理手段は、同時制御選択処理を行い、発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGに基づいて同時制御の内容を変更する。すなわち、前記同時制御選択処理手段は、前記発電機回転速度NGが値Naであるかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Naであり、エンジン始動要求が発生させられると、同時制御Aを選択し、同時制御指令を出力する。
【0065】
また、発電機回転速度NGが値Naではない場合、同時制御選択処理手段は、発電機回転速度NGが値Nbより高いかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Nbより高く、エンジン始動要求が発生させられると、同時制御Bを選択し、同時制御指令を出力する。そして、発電機回転速度NGが値Nbより低い場合、前記変速処理手段は、エンジン始動制御を行わず、ダウンシフト制御のトルク相の処理を実施する。
【0066】
一方、エンジン始動要求が発生させられた場合、前記エンジン始動処理手段は、エンジン始動制御を開始する。
【0067】
そして、前記同時制御選択処理手段は、発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGが値Neであるかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Neであり、ダウンシフト要求が発生させられると、同時制御Dを選択し、同時制御指令を出力する。
【0068】
また、発電機回転速度NGが値Neでない場合、同時制御選択処理手段は、発電機回転速度NGが値Ndより低いかどうかを判断し、発電機回転速度NGが値Ndより低く、ダウンシフト要求が発生させられると、同時制御Cを選択し、同時制御指令を出力する。また、発電機回転速度NGが値Ndより高い場合、前記エンジン始動処理手段は、エンジン11を点火する。
【0069】
次に、図7及び8のフローチャートについて説明する。
ステップS1 回生走行又はモータ走行がされているかどうかを判断する。回生走行又はモータ走行がされている場合はステップS2に進み、回生走行又はモータ走行がされていない場合は処理を終了する。
ステップS2 エンジン始動要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられた場合はステップS12に、発生させられていない場合はステップS3に進む。
ステップS3 ダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。ダウンシフト要求が発生させられた場合はステップS4に進み、発生させられていない場合は処理を終了する。
ステップS4 ダウンシフト制御を開始する。
ステップS5 発電機回転速度NGが値Naであるかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Naである場合はステップS6に、発電機回転速度NGが値Naでない場合はステップS8に進む。
ステップS6 エンジン始動要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられた場合はステップS7に進み、発生させられていない場合はステップS5に戻る。
ステップS7 同時制御Aを選択し、処理を終了する。
ステップS8 発電機回転速度NGが値Nbより高いかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Nbより高い場合はステップS9に、発電機回転速度NGが値Nbより低い場合はステップS11に進む。
ステップS9 エンジン始動要求が発生させられたかどうかを判断する。エンジン始動要求が発生させられた場合はステップS10に進み、発生させられていない場合はステップS8に戻る。
ステップS10 同時制御Bを選択し、処理を終了する。
ステップS11 ダウンシフト制御のトルク相の処理を実施し、処理を終了する。
ステップS12 エンジン始動制御を開始する。
ステップS13 発電機回転速度NGが値Neであるかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Neである場合はステップS14に、発電機回転速度NGが値Neでない場合はステップS16に進む。
ステップS14 ダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。ダウンシフト要求が発生させられた場合はステップS15に進み、発生させられていない場合はステップS13に戻る。
ステップS15 同時制御Dを選択し、処理を終了する。
ステップS16 発電機回転速度NGが値Ndより低いかどうかを判断する。発電機回転速度NGが値Ndより低い場合はステップS17に、発電機回転速度NGが値Ndより高い場合はステップS19に進む。
ステップS17 ダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する。ダウンシフト要求が発生させられた場合はステップS18に進み、発生させられていない場合はステップS16に戻る。
ステップS18 同時制御Cを選択し、処理を終了する。
ステップS19 エンジン11を点火し、処理を終了する。
【0070】
次に、前記車両駆動処理手段の同時制御実施処理手段は、同時制御実施処理を行い、選択された同時制御A〜Dを実施し、エンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に他方の制御を開始する。
【0071】
図9は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示すフローチャート、図10は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第1のタイムチャート、図11は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第2のタイムチャート、図12は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第3のタイムチャート、図13は本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第4のタイムチャートである。
【0072】
まず、同時制御実施処理手段の発電機目標回転速度算出処理手段は、発電機目標回転速度算出処理を行い、同時制御指令が出力されたかどうかを判断し、同時制御指令が出力されると、車速Vを読み込み、同時制御時の変速後のモータ目標回転速度NM* 及び発電機目標回転速度NG* を算出する。なお、この場合、変速後のモータ目標回転速度NM* 、エンジン11(図1)を始動したときのエンジン目標回転速度NE* 、及び変速機18のギヤ比に基づいて発電機目標回転速度NG* を算出する。また、車速Vに代えて、回転速度センサ49によって検出されたモータ回転速度NMに基づいて、モータ目標回転速度NM* を算出することができる。そのために、前記同時制御実施処理手段のモータ目標回転速度算出処理手段は、モータ目標回転速度算出処理を行い、車速V及び変速前後の変速比に基づいて変速後のモータ目標回転速度NM* を算出し、同時制御実施処理手段のエンジン目標回転速度算出処理手段は、エンジン目標回転速度算出処理を行い、アクセル開度によって決定されるエンジン始動時のエンジン目標回転速度NE* を算出する。なお、前記発電機目標回転速度算出処理手段によって第1電動機回転速度算出処理手段としての第1電動機械回転速度算出処理手段が、モータ目標回転速度算出処理手段によって第2電動機回転速度算出処理手段としての第2電動機械回転速度算出処理手段が構成される。
【0073】
続いて、前記同時制御実施処理手段のクランキング処理手段は、クランキング処理を行い、発電機回転速度NGが発電機目標回転速度NG* になるように高くし、エンジン11のクランキングを行う。なお、前記エンジン始動処理手段がエンジン始動制御を既に開始している場合、エンジン始動制御の開始に伴ってクランキングが行われ、続いて、同時制御C、Dが選択された後には、クランキングのエンジン回転速度NEが変更される。
【0074】
このとき、ハイブリッド型車両の慣性によって、モータ回転速度NMは同じ値を採ろうとするが、エンジン11のクランキングを行うのに伴って、モータ回転速度NMを低くしようとする反力、すなわち、エンジン反力トルクが発生する。そこで、前記同時制御実施処理手段の反力対抗トルク発生処理手段は、反力対抗トルク発生処理を行い、前記エンジン反力トルクを算出し、該エンジン反力トルクを打ち消すモータトルクTMを発生させる。
【0075】
次に、前記同時制御実施処理手段のエンジン回転速度判定処理手段は、エンジン回転速度判定処理を行い、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMを読み込み、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMに基づいて算出されたエンジン回転速度NEがエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達しているかどうかを判断し、エンジン回転速度NEがエンジン目標回転速度NE* に到達している場合、前記同時制御実施処理手段の変速終了判断処理手段は、変速終了判断処理を行い、変速が終了したかどうかを判断し、変速が終了すると、前記同時制御実施処理手段のエンジン点火処理手段は、エンジン点火処理を行い、エンジン11を点火する。
【0076】
そして、前記同時制御実施処理において、同時制御Aは図10に示されるように行われ、同時制御Bは図11に示されるように行われ、同時制御Cは図12に示されるように行われ、同時制御Dは図13に示されるように行われる。
【0077】
図10〜14において、τ1は変速が開始されてから終了されるまでの区間、τ2は変速が開始されてからクラッチC0(図2)、C1、C2及びブレーキB1、B2の係脱が完了されるまでの区間であるイナーシャ相、τ3はクラッチC0、C1、C2及びブレーキB1、B2の係脱が完了されてから変速が終了されるまでの区間であるトルク相である。
【0078】
そして、変速に伴って、出力軸19に出力される出力トルクTOUT、エンジントルクTE、発電機トルクTG及びモータトルクTMから成る各トルク、変速に伴って係合させられる摩擦係合要素の係合側トルクTm、及び変速に伴って解放される摩擦係合要素の解放側トルクTrから成る係合要素トルク、エンジン回転速度NE、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMから成る回転速度、並びに発電機16の消費電力PG、モータ25の消費電力PM、及び消費電力PG、PMを加算した総消費電力PTが示される。
【0079】
そして、図10の同時制御Aにおいて、タイミングt1でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始されるとともに、エンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。また、タイミングt2でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt3でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0080】
次に、図11の同時制御Bにおいて、タイミングt11でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、タイミングt12でエンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。また、タイミングt13でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt14でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0081】
続いて、図12の同時制御Cにおいて、タイミングt21でエンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。そして、タイミングt22でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、タイミングt23でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt24でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0082】
また、図13の同時制御Dにおいて、タイミングt31でエンジン始動制御が開始され、エンジン始動信号が発生させられ、発電機回転速度NGが高くされる。そして、タイミングt32でダウンシフト制御が開始され、ダウンシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、タイミングt33でイナーシャ相τ2が終了し、トルク相τ3が開始され、このとき、エンジン回転速度NEはエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* に到達する。そして、タイミングt34でトルク相τ3が終了するとともに、エンジン11が点火される。
【0083】
このように、同時制御A〜Dにおいては、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を、同時に開始することによって並列して同時に行うか、又はエンジン始動制御及びダウンシフト制御のうちの、少なくとも一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始し、並列して同時に行うようにしているので、発電機回転速度NGが急に低くなった後に急に高くなったり、発電機回転速度NGが急に高くなった後に急に低くなったりすることがなくなる。したがって、発電機回転速度NGの大きな変動が連続することがない。
【0084】
その結果、変速ショックが緩和されるので、走行フィーリングが低下するのを防止することができる。
【0085】
また、一方の制御が行われている間、他方の制御が開始されるので、制御の全体が終了するまでの時間を短くすることができる。したがって、運転者のアクセル操作に対してハイブリッド型車両の反応を早くすることができるので、もたつき感を発生させることがなく、走行フィーリングを向上させることができる。
【0086】
次に、図9のフローチャートについて説明する。
ステップS21 同時制御指令が出力されたかどうかを判断する。同時制御指令が出力された場合はステップS22に進み、出力されない場合は処理を終了する。
ステップS22 車速Vから、同時制御時のモータ目標回転速度NM* 及び発電機目標回転速度NG* を算出する。
ステップS23 エンジン11のクランキングを行う。
ステップS24 エンジン反力を算出する。
ステップS25 エンジン反力トルクを打ち消すモータトルクTMを発生させる。
ステップS26 エンジン回転速度NEがエンジン始動回転速度NEthであるエンジン目標回転速度NE* 以上であるかどうかを判断する。エンジン回転速度NEがエンジン目標回転速度NE* 以上である場合はステップS27に進み、エンジン回転速度NEがエンジン目標回転速度NE* より低い場合はステップS22に戻る。
ステップS27 変速終了の判断がされたかどうかを判断する。変速終了の判断がされた場合はステップS28に進み、判断がされない場合はステップS26に戻る。
ステップS28 エンジン11を点火する。
ステップS29 同時制御を終了し、処理を終了する。
【0087】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態における電動車両駆動制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるエンジン及び車両駆動装置の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における変速機の作動表を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における変速機の速度線図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第1の図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるエンジン始動制御及びダウンシフト制御を行ったときのプラネタリギヤユニットの速度線図の変化の例を示す第2の図である。
【図7】本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第1のフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における同時制御判定処理手段の動作を示す第2のフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第1のタイムチャートである。
【図11】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第2のタイムチャートである。
【図12】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第3のタイムチャートである。
【図13】本発明の実施の形態における同時制御実施処理手段の動作を示す第4のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0089】
11 エンジン
13 プラネタリギヤユニット
15 伝動軸
16 発電機
18 変速機
25 モータ
55 車両制御装置
CR1 キャリヤ
R1 リングギヤ
S1 サンギヤ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置と、駆動輪に連結された出力軸と、前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機と、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する同時制御条件判定処理手段と、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にするエンジン始動制御、及び前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有することを特徴とする電動車両駆動制御装置。
【請求項2】
前記同時制御実施処理手段は、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を同じタイミングで開始する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項3】
前記同時制御実施処理手段は、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を異なるタイミングで開始する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項4】
前記第1の電動機の回転速度に基づいて同時変速の内容を選択する同時制御選択処理手段を有する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項5】
前記同時制御実施処理手段は、変速比に基づいて第2の電動機の目標回転速度を算出する第2電動機回転速度算出処理手段、並びに前記第2電動機の目標回転速度、エンジンの目標回転速度及びギヤ比に基づいて第1電動機の目標回転速度を算出する第1電動機回転速度算出処理手段を備える請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項6】
前記同時制御実施処理手段は、エンジン回転速度が、エンジンを始動するのに必要なエンジン始動回転速度であるエンジン目標回転速度に到達しているかどうかを判断するエンジン回転速度判定処理手段、前記エンジン回転速度がエンジン目標回転速度に到達している場合、前記ダウンシフトの変速が終了したかどうかを判断する変速終了判断処理手段、及び前記ダウンシフトの変速が終了した場合、エンジンを点火するエンジン点火処理手段を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項7】
エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置、駆動輪に連結された出力軸、及び前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機を有する電動車両駆動制御装置の制御方法において、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断し、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にし、前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始することを特徴とする電動車両駆動制御装置の制御方法。
【請求項1】
エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置と、駆動輪に連結された出力軸と、前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機と、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断する同時制御条件判定処理手段と、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にするエンジン始動制御、及び前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始する同時制御実施処理手段とを有することを特徴とする電動車両駆動制御装置。
【請求項2】
前記同時制御実施処理手段は、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を同じタイミングで開始する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項3】
前記同時制御実施処理手段は、エンジン始動制御及びダウンシフト制御を異なるタイミングで開始する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項4】
前記第1の電動機の回転速度に基づいて同時変速の内容を選択する同時制御選択処理手段を有する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項5】
前記同時制御実施処理手段は、変速比に基づいて第2の電動機の目標回転速度を算出する第2電動機回転速度算出処理手段、並びに前記第2電動機の目標回転速度、エンジンの目標回転速度及びギヤ比に基づいて第1電動機の目標回転速度を算出する第1電動機回転速度算出処理手段を備える請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項6】
前記同時制御実施処理手段は、エンジン回転速度が、エンジンを始動するのに必要なエンジン始動回転速度であるエンジン目標回転速度に到達しているかどうかを判断するエンジン回転速度判定処理手段、前記エンジン回転速度がエンジン目標回転速度に到達している場合、前記ダウンシフトの変速が終了したかどうかを判断する変速終了判断処理手段、及び前記ダウンシフトの変速が終了した場合、エンジンを点火するエンジン点火処理手段を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項7】
エンジンと機械的に連結された第1、第2の電動機、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンにそれぞれ連結された差動装置、駆動輪に連結された出力軸、及び前記第2の電動機と伝動軸を介して連結され、伝動軸に伝達された回転を変速し、変速された回転を前記出力軸に出力する変速機を有する電動車両駆動制御装置の制御方法において、前記エンジンを始動するエンジン始動要求が発生させられたかどうか、及びダウンシフト要求が発生させられたかどうかを判断し、前記エンジン始動要求及びダウンシフト要求が発生させられた場合、前記第1の電動機を駆動し、前記エンジンの回転速度を始動に必要な回転速度にし、前記変速機においてダウンシフトの変速を行うダウンシフト制御のうちの一方の制御が行われている間に、他方の制御を開始することを特徴とする電動車両駆動制御装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−308167(P2008−308167A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176821(P2008−176821)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【分割の表示】特願2005−311609(P2005−311609)の分割
【原出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【分割の表示】特願2005−311609(P2005−311609)の分割
【原出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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