電子線システムと電子線システム用基準試料
【課題】 試料の傾斜角や高さに依存することなく、精度のよい試料の画像計測が行なえる電子線装置と電子線装置用基準試料を提供する。
【解決手段】 上記目的を達成する本発明の電子線システムは、例えば図1に示すように、電子線を射出する電子線源1と、電子線源1から射出された電子線7を収束し、試料9に照射する電子光学系2と、電子線7が照射された試料9からの電子7dを受け取る検出部4と、試料9を支持する試料支持部3と、試料支持部3で支持された試料9に照射される電子線7と試料3とを相対的に傾斜させる試料傾斜部5(5a,5b)と、前記相対的な傾斜が自在であるように試料支持部3で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料9aから電子を受け取った検出部4からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記傾斜した2面の画像と基準試料9aの基準寸法とから、基準試料9aの傾斜角度を求めるデータ処理部20等とを備える。
【解決手段】 上記目的を達成する本発明の電子線システムは、例えば図1に示すように、電子線を射出する電子線源1と、電子線源1から射出された電子線7を収束し、試料9に照射する電子光学系2と、電子線7が照射された試料9からの電子7dを受け取る検出部4と、試料9を支持する試料支持部3と、試料支持部3で支持された試料9に照射される電子線7と試料3とを相対的に傾斜させる試料傾斜部5(5a,5b)と、前記相対的な傾斜が自在であるように試料支持部3で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料9aから電子を受け取った検出部4からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記傾斜した2面の画像と基準試料9aの基準寸法とから、基準試料9aの傾斜角度を求めるデータ処理部20等とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子顕微鏡で撮像された試料画像を用いて、試料の三次元計測を精度よく行なう電子線システムと電子線システム用基準試料に関し、特に3D計測する際の走査型荷電粒子ビーム装置のビームや試料傾斜時の角度と倍率の補正や電子光学系における補正を画像計測に適するように調整することのできる電子線システムと電子線システム用基準試料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型電子顕微鏡(SEM)のような走査型荷電粒子ビーム装置では、走査型電子顕微鏡像等の分解能を高めるために、電子レンズの軸外収差を補正することが行なわれている。電子レンズの軸外収差は、例えば球面収差、コマ収差、像面収差、非点収差、像面歪曲収差を補償することにより行なわれている。また、球面収差に関しては、ツェルツァーの定理が知られており、電子顕微鏡等に用いられている軸対称な電子レンズでは、静電型や磁界型に拘らず、球面収差をゼロにできないことが知られている。そこで、球面収差を補償するために、非球面メッシュや非球面フォルムが静電電極形状や磁極形状として用いられている。
【0003】
他方、透過型電子顕微鏡(TEM)の場合には試料を傾斜させ、異なる傾斜角度の透過画像を得て、これを左右画像として試料のステレオ観察が行われている。また、例えば非特許文献1で示すように、走査型電子顕微鏡(SEM)の場合には試料を傾斜させたり、電子線を傾斜させたりして、異なる傾斜角度の反射画像を得て、これを左右画像としてステレオ観察が行われている。そして、例えば特許文献1、2で示すように、半導体製造装置の分野において、電子顕微鏡から得られたステレオの検出データを適切に処理して、試料像を正確に精度よく立体観察可能とし、かつこれに基づき三次元形状計測を行うことができる電子線装置や電子線装置用データ処理装置が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−270126号公報 [0005]、図3、図15
【特許文献2】特開2002−270127号公報 [0005]、図3、図15
【非特許文献1】「医学・生物学電子顕微鏡観察法」 第278頁〜第299頁、1982年刊行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特に半導体チップやシリコンウエハのような試料を3D計測しようとした場合、計測撮影時のビームや試料の傾斜角度や倍率を正確に求める必要がある。また試料の傾斜方向や高さ方向に依存する電子線歪みや倍率歪みが存在している。傾斜角度や倍率が正確でなかったり試料画像の計測方向に電子線歪みや倍率歪みが含まれていると、画像計測によって試料を測定する際の値が正しく求まらず、さらに精度が変動するという課題があった。近年の半導体微細加工において、例えばチップに形成するパターン幅がサブミクロンオーダーに微細化しており、従来に比較して三次元形状計測に許容される寸法誤差は一段と厳しくなっている。そこで、従来のような概略の傾斜角度値や倍率、そして球面収差のような電子レンズの軸外収差の補償方式では、ステレオ画像計測で必要とされる精度が得られないという課題があった。
【0006】
本発明は上述した課題を解決したもので、試料の傾斜角や高さに依存することなく、精度のよい試料の画像計測が行なえる電子線装置と電子線装置用基準試料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の電子線システムは、例えば図1に示すように、電子線を射出する電子線源1と;電子線源1から射出された電子線7を収束し、試料9に照射する電子光学系2と;電子線7が照射された試料9からの電子7dを受け取る検出部4と;試料9を支持する試料支持部3と;試料支持部3で支持された試料9に照射される電子線7と試料3とを相対的に傾斜させる試料傾斜部5(5a,5b)と;前記相対的な傾斜が自在であるように試料支持部3で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料9aから電子を受け取った検出部4からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記傾斜した2面の画像と基準試料9aの基準寸法とから、基準試料9aの傾斜角度を求めるデータ処理部20等とを備える。
【0008】
前記データ処理部は、前記電子線システムにおいて、さらに試料画像の倍率を求めるように構成されていてもよい。
【0009】
また、前記データ処理部は、得られた傾斜角度に基づき試料傾斜量の補正係数を求め、試料傾斜量の補正係数に基づき傾斜角度の補正を行うように構成されていてもよい。ここでいう試料は典型的には被計測試料である。
【0010】
前記データ処理部は、得られた複数の傾斜角度に基づき、測定された傾斜角度間の傾斜に関しても試料傾斜量の補正係数を求め、測定された傾斜角度以外の傾斜角度に関しても試料傾斜量の補正を行うように構成されていてもよい。
【0011】
上記目的を達成する本発明の電子線システムは、例えば図1に示すように、電子線を射出する電子線源1と;電子線源1から射出された電子線7を収束し、試料に照射する電子光学系2と;電子線7が照射された試料9からの電子を受け取る検出部4と;試料9を支持する試料支持部3と;試料支持部3で支持された試料9に照射される電子線7と試料9とを相対的に傾斜させる試料傾斜部5(5a,5b)と;前記相対的な傾斜が自在であるように試料支持部3で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料9aから電子を受け取った検出部4からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、試料9の画像のうち、試料9の傾斜によっても電子線光学系における変位が少ない位置の画像に基づき、その画像中の傾斜した2面の画像と、基準試料9aの基準寸法とから、基準試料9aの傾斜角度を求める処理と、周辺画像におけるその傾斜角度における倍率と、検出信号による画像の倍率の差に基づき補正係数を求める処理と、を行うデータ処理部とを備える。
本電子線システムは、典型的には、角度測定、電子レンズ歪、スキャン歪等の画像補正をするものであり、典型的には平行投影を行うものである。
【0012】
前記電子線システムでは、試料傾斜部5は、試料9を電子線7に対して傾斜させる試料ホルダー3の傾斜制御5b(たとえば図1)、または、電子線7を試料9に対して異なる角度で照射するようにする電子線7の偏向制御5a(例えば図17)のいずれかをするように構成されているとよい。
【0013】
前記データ処理部は、補正係数を用いて、電子線検出部4からの信号に基づき、電子レンズ歪、スキャン歪などを補正した試料画像を形成する画像形成部24を有するとよい。ここでいう試料は典型的には被計測試料である。電子線検出部4で検出する電子は、二次電子や反射電子が該当する。
【0014】
前記電子線システムでは、前記データ処理部は、測定が行われた傾斜に関する補正係数に加えて、測定が行われていない傾斜における補正係数も補間により求めるように構成されているとよい。
【0015】
上記目的を達成する本発明の基準試料9aは、所定のテーパ角により底部と、頂部とこれをつなぐ側面部とからなるパターンであって、各部の寸法、側面部の角度、高さが既知である、前記電子線システムに用いる基準試料である。
【0016】
前記基準試料9aでは、前記パターンはラインアンドスペースパターンから構成されているとよい。
【0017】
前記基準試料9aでは、前記ラインアンドスペースパターンは、試料の傾斜方向と直交する方向に形成されているとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子線装置と電子線装置用基準試料によれば、たとえば、傾斜角、倍率、電子光学系に付随するひずみを算出し、補正することにより撮影画像を修正し、精度のよい試料の計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[高さ計測]
本発明の説明に先立ち、基本となる高さ計測の原理について説明する。
図2、図3は、傾斜画像取得の際のホルダの傾斜と、試料ホルダ3(図1参照)の座標系を説明する座標図と斜視図である。試料ホルダ3の座標系において、Y軸が回転軸で、角度θは時計回り方向を+方向としている。
【0020】
図4は電子線を被計測対象物9に照射した時の、画像と試料の関係を示す正面図である。幾何学的関係より、
左画像 Lx=(X×cosθ+Z×sinθ)×s ……(1)
Ly=Y
右画像 Rx=(X×cosθ−Z×sinθ)×s ……(2)
Ry=Y
s:分解能(1pixel)
となり、画像と試料の回転角度を考慮してオリエンテーション行列により三次元の座標を求めると、以下のようになる。
X=Lx+Rx ……(3)
Z=Lx−Rx
Y=Ly=Ry
式(3)は図5に示すように、ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸を挟んだ角度を持つ場合のみに有効である。次に角度に依存することなく使える式を導く。図6は、ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸に対して夫々θ1、θ2傾斜している場合を示している。
【0021】
左画像の角度はθ1、右画像の角度はθ2であるが、Z軸をθ’傾けたZ’軸を想定する。ここで、図5のステレオ画像の左右撮影方向は、Z’軸を中心として左右対称であるとする。すると、擬似的な座標(X’,Y’,Z’)を適用することにより、画像の角度はθ’±θとなり、式(2)を使い、さらに座標XYZに直すように、後でθ’回転させる。
Z’=((Lx−Rx)/(2×sinθ))×s ……(4)
X’=((Lx+Rx)/(2×cosθ))×s
Y’=Ly=Ry
よって、次式が成立している。
X=X’×cosθ’−Z’×sinθ’ ……(5)
Z=X’×sinθ’+Z’×cosθ’
Y=Y
[原理]
本発明における基本原理は、基準試料としての基準テンプレートの既知の形状データと、電子線測定装置を傾斜させて得られる基準テンプレートのデータから基準テンプレートを撮影したときの傾斜角度θ、倍率、電子光学系に起因するひずみを求め、それら値を記憶させておき、補正した傾斜角度にて試料を計測する際には、あらかじめ基準テンプレートにて算出された傾斜角度、倍率、電子光学系のひずみを利用して画像修正し3D計測を行うものである。
基準テンプレートとしては、形状が既知なものを利用するか、既知でないものを利用する場合は計測して基準テンプレートとする。基準テンプレートとしては、凹凸のあるもの、たとえば図7に示すようなライン&スペースのようなものでよいが、基準テンプレートとして必要な既知データは、図8、図9に示されているような、凹凸の形状、すなわち凹凸間の間隔L(ライン&スペースパターンの場合はピッチ間隔L)や凹凸の高さh、テーパ角φなどである。
そして、本発明の電子線システムの撮影により得られたこの基準テンプレートの画像から、ピッチ間隔L’と側面の間隔d‘(x‘)を求める。
これらを求めると以下の式から、撮影したときの電子線測定装置の傾斜角θ、倍率sを算出することができる。
☆ 計算式:傾斜角、倍率算出
ピッチ間隔L[nm]、テーパ角φ[度]、高さh[nm]がわかっているL/S試料を、倍率S[倍]、傾斜角度θ[度]で撮影した時のsとθを求める。
θ傾斜した場合のピッチ間隔L’[pixel]は、1pixelの大きさをs[nm]として、
L’=L × cosθ / s ……E1
θ傾斜した時の側面の幅d’[pixel]は
d’=l × cos(φ−θ) / s
= (h / sinφ) × cos(φ−θ) /s ……E2
式E1と式E2をsについて解くと、
L× cosθ /L’= (h / sinφ)× cos(φ−θ)/ d’
= (h / sinφ) ×(cosφcosθ + sinφsinθ) / d’
∴θ = tan‐1( Ld’/h L’− (1 / tanφ) ) ……E3
☆ひずみ補正
さらに、電子光学系のひずみ補正パラメータ算出について説明する。
電子光学系のひずみについては、レンズ系の歪曲収差や電子線のスキャン歪、その他電子光学系全体でもつ歪について一括して補正係数を持たせることで補正が可能となる。
たとえば、基準テンプレートを図7のようなライン&スペースとした場合、この基準テンプレートの側面と上面、側面と底面の境界は直線となるので、この部分を直線として近似することにより補正が可能となる。
すなわち、直線は以下の式で近似できる(図19参照)。
xsinα+ycosα=q
電子光学系の歪を考慮した場合上式は、
(x+Δx)sinα+(y+Δy)cosα=q
ここでΔx、Δyはひずみ量である。
上式は、基準テンプレートの側面と底面、側面と上面の境界上のいくつかの点(ひずみのため曲がっている)が「直線上の点である」という条件を示している。
これらの点を補正したときに直線になるように、ひずむモデルを調整する。
【0022】
[レンズ歪補正]
電子光学系2を構成する電子レンズの歪曲収差を求める場合は、式(6)によって補正することが可能となる。即ち、式(11)、(12)でレンズ歪を補正したx、y座標をx’、y’とすれば、次式が成立する。
x’=x+Δx ………(6)
y’=y+Δy
ここで、k1、k2を放射方向レンズ歪み係数とすると、次式により行われる。
【数1】
【0023】
電子レンズの歪曲収差の計算は、画像座標と対象座標を計測することにより、上式にあてはめ逐次近似解法によって算出される。電子レンズの歪曲収差の計算では、レンズ歪係数が未知変量として増えるので、直線上の多数の点を基準点として画像座標と対象座標を計測して、あてはめ逐次近似解法によって算出するとよい。また、レンズ歪係数は、式(7)では放射方向レンズ歪みとしているが、さらにタンジェンシャルレンズ歪みやスパイラルレンズ歪み、その他電子レンズの歪曲収差の修正に必要な要素を式(7)に加えてレンズ歪係数を求めれば、それらの較正(キャリブレーション)が可能となる。
例えば、求められたレンズ歪係数を利用して、レンズ歪みを補正するようにビームをスキャンすれば、結果として補正した画像を取得することが可能となる。あるいは、レンズ歪をメモリに記憶させ、レンズ歪を補正するようにビームスキャンさせれば、画像におけるレンズ歪補正が可能となる。
以上のように基準テンプレートを傾斜させたい方向に傾斜させ、そのときの実際の傾斜角、倍率、電子光学系の歪を計算によりあらかじめ求めておき記憶させておけば、試料を計測する際の試料もしくはビームを傾斜させたときにそれら値を利用することで正確な三次元形状を求めることができる。測定の際の傾斜角を求め、その傾斜角に応じた各補正係数を演算により求め、補正を施すように構成してもかまわない。
【0024】
以下、図11のフローチャートに従って手順を説明する。
図7は、基準テンプレート9aとして、たとえばライン&スペースのパターンを示しており、図8はライン&スペースパターンのピッチ間隔とその傾斜について、また図9は側面の部分を説明している図である。
たとえば、基準テンプレート9aをたとえば図7のようなライン&スペースのパターンとする。
この基準テンプレートは、基準テンプレートとして販売されている市販のピッチスタンダードのようなものでもよいし、なければ、図7のようなライン&スペースパターンをCD−AFMなどの計測装置で計測してもよい。
この基準テンプレートから、試料のピッチ間隔L、テーパ角φ、高さhの値を市販品であれば利用し、そうでなければこれらデータをあらかじめ計測しておく。
S1000:電子線測定装置の試料もしくはビームの傾斜角を設定し、傾斜させる。
この傾斜角は、あらかじめ計測したい傾斜角についてすべて、あるいは代表的なものについて行う。
S1010:基準テンプレートを電子線測定装置により撮影する
S1020:撮影された基準テンプレートのピッチ間隔L‘と側面の幅d’(x’)を画像処理により算出する。
【0025】
[ラインのエッジ検出処理]
画像上のピッチ間隔を精度良く算出し倍率・角度の補正を行うために、ライン&スペースのエッジをサブピクセル精度で求める。方法は、取得した基準テンプレート(原器)の画像に対して直線検出オペレータを施し、エッジ点を検出する。
直線検出オペレータは画像処理でよく利用されている3×3のフィルタ型のものなどなんでもよい。
求まった全エッジ点を基に、エッジの連結性を利用して、閾値より連結したエッジ郡を基準テンプレートのライン(直線)として認識する。図21は実際にエッジ検出した例である。
S1030:撮影時の傾斜角と倍率、電子光学系に起因するひずみを算出する
これは先に原理で説明した式を用いて計算する
S1040:これら算出された傾斜角度、倍率、ひずみのパラメータを補正係数記憶部に記憶する
S1050:設定した傾斜角度につきすべて行っていれば終了、そうでなければS1000へ戻り繰り返し傾斜角度を変えて各パラメータを算出させる。
【0026】
このように構成された装置において、電子線測定装置は、各傾斜角度において、基準テンプレート画像上の形状を取得しておき、それとあらかじめ計測されていた基準テンプレートから三次元計測の際に必要な傾斜角、倍率、そして電子光学系に起因する画像歪を取り除く為の補正係数を取得する。次に、基準テンプレートに代わる試料9を試料ホルダ3に置いて、任意の傾斜角度で試料9を被写体として、試料9の画像を電子線測定装置によって取得する。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は本発明の実施例1を説明する構成ブロック図で、対象物を保持するホルダの回転角を調整して対象物の傾斜角を調整することで、ステレオ画像を得る場合を示している。図において、電子線システムにおける像形成光学系としての電子線装置10(走査型顕微鏡)は、電子線7を放射する電子線源1、電子線(ビーム)7を対象物9に照射する電子光学系2、対象物9を傾斜可能に保持する試料ホルダ3、電子光学系2の倍率を変える倍率変更部6、倍率変更部6に電力を供給する走査電源6a、電子線7が照射された対象物からの二次電子又は反射電子を検出する検出器4、試料ホルダ3を傾斜制御する傾斜制御部5としてのホルダ傾斜制御部5b、対象物9から出射される二次電子のエネルギを減衰させて検出器4に反射させる2次電子変換ターゲット8を備えている。なお、電子線7を傾斜制御する傾斜制御部5としてのビーム傾斜制御部5aは、実施例1で用いないが、後で説明する実施例3で用いる。
【0028】
電子光学系2は、電子線源1から放射された電子線7の電子流密度、開き角、照射面積等を変えるコンデンサレンズ2a、電子線7の試料面上の入射角度を制御する偏向レンズ2b、細かく絞られた電子線7を偏向して試料面上を二次元的に走査させる走査レンズ2c、最終段縮小レンズの働きと共に試料面上での入射プローブの焦点合わせを行う対物レンズ2dを備えている。倍率変更部6の倍率変更命令に従って、走査レンズ2cにより電子線7を走査する試料面上の領域が定まる。ビーム傾斜制御部5bは試料ホルダ3に傾斜制御信号を送り、試料ホルダ3と照射電子線7とが第1の相対的傾斜角度をなす第1の姿勢の試料ホルダ3Lと、第2の相対的傾斜角度をなす第2の姿勢の試料ホルダ3Rとで切替えている。
【0029】
第1の姿勢の試料ホルダ3Lに載置される対象物9の三次元座標系CLは、電子線装置10側を固定座標系として表すと、(XL,YL,ZL)となる。また、第2の姿勢の試料ホルダ3Rに載置される対象物9の三次元座標系CRは、電子線装置10側を固定座標系として表すと、(XR,YR,ZR)となる。なお、ホルダ傾斜制御部5bによる試料ホルダ3と照射電子線7の相対的傾斜角度は、ここでは右側上がりRと左側上がりLの二通りに切替えて設定する場合を図示しているが、2段に限らず多段に設定してよいが、ステレオの検出データを得る為には最小2段必要である。対象物9の三次元座標系として、例えばヨー軸、ピッチ軸、ロール軸を設定した場合に、ヨー軸がZ軸、ピッチ軸がX軸、ロール軸がY軸に対応する。
【0030】
対象物9は、例えばシリコン半導体やガリウム・ヒ素半導体のような半導体のチップであるが、電力用トランジスタ、ダイオード、サイリスタのような電子部品でもよく、また液晶パネルや有機ELパネルのようなガラスを用いた表示装置用部品でもよい。典型的な走査型顕微鏡の観察条件では、電子線源1は−3kV、対象物9は−2.4kVに印加されている。対象物9から放出された二次電子は、2次電子変換ターゲット8に衝突して、エネルギが弱められて検出器4で検出される。
【0031】
図1において、電子線システムは、第1の測定部としての測定部20、校正データ作成部30、既知基準データ記憶部32、校正部40、電子レンズ収差補償部42、形態・座標測定部50、画像修正部60、補正係数算出部62、補正係数記憶部64を備えている。
【0032】
測定部20は、試料ホルダ3に保持された基準テンプレート9aと照射電子線7とを試料傾斜部5により相対的に傾斜させて、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの撮影画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態または座標値(ピッチ間隔L、テーパ角φ、高さhその他)を求めるものである。測定部20は、入射角度調整部22、画像形成部24、基準テンプレート測定部26並びに表示装置28を有している。
【0033】
入射角度調整部22は、対象物9(基準テンプレート9aを含む)の姿勢を調整して、電子線装置10により対象物9に投影される電子線7と対象物9との相対的な入射角度を、対象物9についてステレオ画像を形成可能に調整する。即ち、入射角度調整部22は、ホルダ傾斜制御部5bに制御信号を送って、対象物9の姿勢を調整している。更に、入射角度調整部22は、ホルダ傾斜制御部5bに制御信号を送って、電子線源1から放射される電子線7の走査する基準面を調整して、ステレオ画像を形成するのに必要とされる左右画像を形成可能としている。画像形成部24は、走査レンズ2cにより電子線7が試料面上の領域を走査する際に、検出器4で検出される二次電子線を用いて、試料面上の画像を作成する。基準テンプレート測定部26は、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態または座標値を求める。表示装置28は、電子線検出部4で撮影された対象物9(基準テンプレート9aを含む)のステレオ画像の各左右画像を表示するもので、例えばCRTや液晶ディスプレイが用いられる。
【0034】
校正データ作成部30は、測定部20での基準テンプレートの測定結果と、基準テンプレート9aに関する既知基準データを利用して、電子線システムにより撮影されるステレオ画像の補正係数や校正データを作成する。基準テンプレート既知基準データ記憶部32は、基準テンプレート9aの形態(ピッチ間隔、テーパ角、高さ、他)が記憶されている。校正データ作成部30によって作成される電子線システムの校正データには、以下のものがある。
(1)試料傾斜部5の傾斜量の校正データ。
(2)電子光学系2の照射電子線7に対する照射方向の校正データ。
(3)電子光学系2の倍率に関する校正データ。
(4)電子光学系2の歪み補正に関する校正データ。
【0035】
校正部40は、校正データに基づき、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように校正を行う。校正部40は、上述の校正データ作成部30によって作成される電子線システムの校正データに応じて、以下の態様がある。
(1)試料傾斜部5の傾斜量が校正されるように校正部40を構成する。
(2)電子光学系2の照射電子線7の照射方向が校正されるように校正部40を構成する。
(3)電子光学系2の走査範囲が校正されるように校正部40を構成する。
(4)電子光学系2の走査コイルの走査方向が校正されるように校正部40を構成する。
【0036】
電子レンズ収差補償部42は、校正部40から出力される校正信号に従って、電子光学系2を構成する電子レンズの磁界ポテンシャルや静電ポテンシャルの分布状態を補償して、試料像の収差を減少させて、画像計測に適する電子光学系2に調整する。電子線装置10が、試料9から放射される二次電子を電子線源1から放射される電子線7と分離して電子線検出部4に送るExBと呼ばれる電磁プリズムを有する場合には、校正部40による校正対象となる電子光学系2に、このExBと呼ばれる電磁プリズムを含むものとする。
【0037】
形態・座標測定部50は、校正部40による校正が行なわれた試料ホルダ3に載置された試料9であって、試料傾斜部5によって形成される傾斜状態で電子線検出部4により撮影された試料9のステレオ画像に基づいて、試料9の形態または座標値を求める。形態・座標測定部50は、測定部20の入射角度調整部22、画像形成部24並びに表示装置28を、基準テンプレート測定部26と共通に用いている。
【0038】
次に、図12を参照して、このように構成された装置によるステレオ画像計測に必要な電子線装置の校正手続きに関して説明する。図12は本発明の実施例1における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。図12では、基準テンプレート9aを用いて電子線装置の校正処理を行ない、次に試料の画像計測を行う処理フローを示している(S100)。まず、試料ホルダ3に基準テンプレート9aを載せて、試料ホルダ3もしくは電子線7を傾斜状態に移行させる(S102)。例えば、ビーム傾斜制御部5bによって試料ホルダ3に傾斜制御信号を送り、入射角度調整部22により電子線7と対象物9との相対的な入射角度が調整される。この傾斜角度は、計測する基準テンプレート9aの傾斜角度に対して設定されるもので、例えば図2(A)に示す傾斜状態や図2(B)に示す傾斜状態に設定する。傾斜角度が複数存在する場合は、予め計測可能性のある角度にすべて傾斜角を設定して、画像を取得しておくとよい。
【0039】
測定部20は、電子線検出部4から得られる基準テンプレート9aの傾斜画像を取得する(S104)。そして、測定部20は、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態を求める(S106)。S106の処理に関しては、原理で説明したエッジ抽出処理を用いるとよい。
【0040】
校正データ作成部30は、S106での基準テンプレート9aの測定結果と、基準テンプレート9aに関する既知基準データを利用して補正係数を算出し(原理の項で説明)、電子線装置10により撮影されるステレオ画像の校正データを作成する(S108)。校正部40は、校正データに基づき、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように、電子線装置10の校正を行う(S110)。
【0041】
次に、試料ホルダ3に試料(計測対象物)9を載せる(S112)。そして、電子線7もしくは試料ホルダ3を所望の傾斜状態にして、電子線検出部4により試料9を撮影する(S114)。所望の傾斜状態は、例えば試料9の三次元画像計測を行う場合に、死角の少ない角度や、特に測定したいターゲットが良好に撮影される角度を選定する。そして、所望の傾斜状態における試料9のステレオ画像に基づいて、試料9の形態または座標値を求める(S116)。この処理は、2枚のステレオ画像からのステレオマッチング処理により求めることができる。
【0042】
[ステレオマッチング処理]
次に図13を参照して、ステレオマッチング処理の一例として、エリアベースの正規化相関係数によるマッチング法について説明する。図13は、正規化相関係数によるマッチング法の説明図で、図中の右画像を基準画像、左画像を捜索画像とする。ここでは、N個のデータからなる基準画像中の基準データブロックをM、座標(U,V)を起点とする捜索画像中の捜索データブロックをIとする。
【0043】
正規化相関係数によるマッチング法は、捜索データブロックI中で基準データブロックMのラスタ走査を行いながら、各位置での基準データブロックMと捜索データブロックIとの類似度を相関係数により求める方法である。ここで、ラスタ走査とは、基準データブロックMを捜索データブロックIの中を左から右に動かし、捜索データブロックIの右端まで行くと下がって左端に戻り、また捜索データブロックIを左から右に動かす走査状態をいう。相関係数値Rの最大の位置を探せば、捜索データブロックI中の基準データブロックMと同じ場所を探す事ができる。
【0044】
M=M(Xi,Yi) 1≦i≦N ……(8)
I=I(U+Xi,V+Yi) ……(9)
とすると、正規化相関係数R(U,V)は、
R(U,V)=(NΣIiMi−ΣIiΣMi)
/SQRT[{NΣIi2−(ΣIi)2}x{NΣMi2−(ΣMi)2}] ……(10)
となる。相関係数値Rは常に−1から+1までの値をとる。相関係数値Rが+1の場合には、テンプレートと探索画像が完全に一致した事になる。
【0045】
そして、補正係数算出部62(図1参照)は、選定された基準画像を用いて、ステレオペアとなっている傾斜画像の非基準画像に対して、ステレオペア画像の対応関係を用いて、非基準画像を基準画像の画像歪み状態とする第1の補正係数を求める。求めた第1の補正係数は、例えば測定部20、形態・座標測定部50や画像修正部60による利用可能な状態で、例えば補正係数記憶部64に記憶される。第1の補正係数は、平行投影のキャリブレーション法により検出された点を使ってモデル化したり、最小二乗法により曲線近似する方法、アフィン変換等を使って近似し、その近似に用いた係数を求める方法等、各種の演算処理によって画像歪みを修正しつつ画像変換処理を行なう係数を求めるものである。
試料の観察を行なう為に、電子線検出部4により検出された電子線に基づき、表示装置28に試料9のステレオ画像を表示する(S118)。試料9の形態または座標値が取得できれば、リターンとなる(S120)。
【0046】
なお、今まで説明してきた校正データ作成部30、校正部40、電子レンズ収差補償部42を用いて校正せずとも、補正係数算出部62により算出された補正係数にて画像修正部60にて画像修正し、形態・座標測定部50にて三次元測定値を得ることにより正確な補正が可能な場合は、それらはなくてもよい。
その場合は、図12のフローチャートの、S108における校正データ作成およびS110の校正データに基づき電子線システムの校正を行う必要がない。
【0047】
[平行投影]
ここで、電子線装置の校正手続きの前提となる平行投影について説明する。電子顕微鏡では倍率が低倍率〜高倍率(ex.2〜数百万倍)までレンジが幅広いため、電子光学系2が低倍率では中心投影、高倍率では平行投影とみなせる。平行投影と見なせる倍率は、偏位修正パラメータの算出精度を基準にして定めるのがよく、例えば1000倍や10000倍を基準倍率とする。偏位修正パラメータは、ステレオ画像で立体視できるように、試料の左右画像を偏位修正する為のパラメータである。
【0048】
図14は平行投影の説明図である。平行投影の場合は、対象座標系74として回転を考慮した座標系(XR,YR,ZR)を用い、縮尺係数としてK1、K2を選定すると次式が成立する。
【数2】
すると、対象座標系74で選択した原点(Xo,Yo,Zo)とオリエンテーション行列Aを用いて、次のように表せる。
【数3】
ここで、オリエンテーション行列Aの要素ai,jに関しては、回転行列の要素ai,jが画像座標系72の対象座標系74を構成する3軸X,Y,Zに対する傾きω、φ、κを用いて、次のように表せる。
【数4】
【0049】
偏位修正パラメータの算出においては、式(11)、(12)に含まれる6つの外部標定要素ω、φ、κ、Xo、Yo、Zoを求める。即ち、これらの式を、最低3点以上の基準マークにより観測方程式をたて、逐次近似解法によってこれら6つの外部標定要素を算出する。具体的には、未知変量の近似値を与え、近似値のまわりにテーラー展開して線形化し、最小二乗法により補正量を求めて近似値を補正し、同様の操作を繰り返し収束解を求める逐次近似解法によってこれら6つの外部標定要素を求めることができる。また、式(11)、(12)に代えて、単写真標定や相互標定、その他空中三角測量で外部標定として用いられている各種の演算式のうちから適宜採択して演算を行うとよい。
【実施例2】
【0050】
図15は本発明の実施例2を説明する構成ブロック図である。図において、電子線システムは、前述の測定部20、校正データ作成部30、既知基準データ記憶部32、校正部40、電子レンズ収差補償部42、形態・座標測定部50、画像修正部60、補正係数算出部62、補正係数記憶部64、補正係数推論部54を備えている。ここで、校正データ作成部30、既知基準データ記憶部32、校正部40、補正係数算出部62、補正係数記憶部64、補正係数推論部54などがデータ処理部を構成する。
【0051】
補正係数記憶部64は、各傾斜角度による傾斜角度、倍率、電子光学系などの補正係数を記憶しているが、補正係数推論部54は、これらの記憶していない傾斜角度においても、記憶している補正係数から推論(補間)してそれら補正係数を求めるものである。
推論(補間)は各係数においてカーブフィッティングやその他の手法によって補正関数を作成することにより行うことができる。この機能を追加することにより、あらゆる傾斜角度にて画像を撮影し補正した正確な三次元計測が可能となる。
【0052】
次に図16を参照して、このように構成された装置によるステレオ画像計測に必要な電子線装置の校正手続きに関して説明する。図16は本発明の実施例3における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。図16では、基準テンプレート9aを用いて電子線装置の校正処理を行ない、次に試料の画像計測を行う処理フローを示している(S200)。まず、S202〜S210に関しては、前述のS102〜S110の説明と同様である。即ち、試料ホルダ3に基準テンプレート9aを載せて、試料ホルダ3もしくは電子線7を傾斜状態に移行させる(S202)。測定部20は、電子線検出部4から得られる基準テンプレート9aの傾斜画像を取得する(S204)。そして、測定部20は、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態または座標値を求める(S206)。校正データ作成部30は、S206での基準テンプレート9aの測定結果と、基準テンプレート9aに関する既知基準データとを利用して補正係数を算出して、電子線装置10により撮影される画像の校正データを作成する(S208)。校正部40は、校正データに基づき、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように、電子線装置10の校正を行う(S210)。補正係数算出部62は、試料傾斜部5によって形成される複数の傾斜状態について、電子線検出部4により撮影される画像に対する補正係数を算出して、補正係数記憶部64に記憶し、補正係数推論部54によって各種補正係数の傾斜角度による補正関数を作成する(S212)。
【0053】
次に、試料ホルダ3に試料(計測対象物)9を載せる(S214)。そして、電子線7もしくは試料ホルダ3を所望の傾斜状態にして、電子線検出部4により試料9を撮影する(S216)。所望の傾斜状態は、例えば試料9の三次元画像計測を行う場合に、死角の少ない角度や、特に測定したいターゲットが良好に撮影される角度を選定する。そして、概略測定部52により、所望の傾斜状態における試料9のステレオ画像に基づいて、試料9の形態または座標値を求める(S218)。
【0054】
試料9の形態または座標値が精密に取得できれば、リターンとなる(S226)。好ましくは、試料の観察を行なう為に、画像修正部60によって修正されたステレオ画像を、表示装置28に表示するとよい。
なお、複数傾斜させた場合、ステレオマッチングだけでなく、マルチマッチング(2枚以上からの画像で対応点を求め座標を計測する)を行ってもよい。当然この場合もこれら補正係数を利用する。
さらに傾斜方向は1軸方向だけでなく図20のようにさらに直角方向、斜め方向へ傾斜させ、それら補正係数について算出、あらゆる方向の傾斜に対応させるようにしてもよい。
さらにそれら複数方向への対応として、基準テンプレートを図10のように複数方向に混載させたもので補正してもよい。これら処理は方向が複数に増えるだけで同様となるので説明は省略する。
【実施例3】
【0055】
図17は、本発明の実施例3を説明する全体構成ブロック図である。実施例1、2では、ステレオ画像を得る場合に、ホルダを傾斜させていたが、実施例3は走査型顕微鏡の電子線を偏向させてステレオ画像を得る場合を示している。ここでは、図17において、図1と共通する構成要素について同一符号を付して説明を省略する。ここでは、電子線7を傾斜制御する傾斜制御部5としてのビーム傾斜制御部5aが設けられている。ビーム傾斜制御部5aは偏向レンズ2bに傾斜制御信号を送り、試料ホルダ3と照射電子線7とが第1の相対的傾斜角度をなす電子線7Rと、第2の相対的傾斜角度をなす電子線7Lとで切替えている。なお、ビーム傾斜制御部5aによる試料ホルダ3と照射電子線7の相対的傾斜角度は、2個に限らず多段に設定してよいが、ステレオの検出データを得る為には最小2個必要である。
【実施例4】
【0056】
図18は、本発明の実施例4を説明する全体構成ブロック図である。電子線システムは、実施例1で説明された測定部20に加えて、第3の測定部としての形態・座標測定部50、画像修正部60、補正係数算出部62、補正係数記憶部64、を備えている。そして、さらに補正係数推論部54が加わっている。その他は、試料傾斜がビーム傾斜に変わった以外は、図18において、図15と同じであり共通する構成要素について同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
このように構成された実施例4の装置の動作は、試料を傾斜させるかわりにビームを傾斜させる以外は図16のフローチャートと同一なため省略する。
【0058】
なお、上記の実施の形態においては、校正データ作成部によって作成される電子線システムの校正データとして、試料傾斜部5の傾斜量の校正データ、電子光学系2の照射電子線7に対する照射方向の校正データ、電子光学系2の倍率に関する校正データ、電子光学系2の歪み補正に関する校正データを示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、要するに校正データ作成部によって作成される校正データは、校正部によって、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように校正ができるものであれば良い。
なお、これら実施例においても校正データ作成部30、校正部40、電子レンズ収差補償部42を用いて校正せずとも、補正係数算出部62により算出された補正係数にて画像修正部60にて画像修正し、形態・座標測定部50にて三次元測定値を得ることにより正確な補正が可能な場合は、それらはなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1を説明する全体構成ブロック図である。
【図2】電子線システムの試料ホルダにおける傾斜状態の説明図である。
【図3】試料ホルダ3の座標系を説明する斜視図である。
【図4】電子線を被計測対象物9に照射した時の、画像と試料の関係を示す正面図である。
【図5】ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸を挟んだ角度を持つ場合を示している。
【図6】ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸に対して夫々θ1、θ2傾斜している場合を示している。
【図7】ライン&スペースで構成さらた基準テンプレートの平面図である。
【図8】図7の基準テンプレートのピッチ間隔と傾斜を説明する図である。凹凸の形状、すなわち凹凸間の間隔L(ライン&スペースパターンの場合はピッチ間隔L)や凹凸の高さh、テーパ角φなどである。
【図9】図7の基準テンプレートの側面を抽出して示す図である。
【図10】図7に示すような基準テンプレートを複数方向に混載させた基準テンプレートの例を示す図である。
【図11】正確な三次元形状を求める手順の例を説明する前処理フローチャートである。
【図12】本発明の実施例1における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。
【図13】正規化相関係数によるマッチング法の説明図である。
【図14】平行投影の説明図である。
【図15】本発明の実施例2を説明する構成ブロック図である。
【図16】本発明の実施例2における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。
【図17】本発明の実施例3を説明する全体構成ブロック図である。
【図18】本発明の実施例4を説明する全体構成ブロック図である。
【図19】図7のような基準テンプレートの側面と上面、側面と底面の境界部分を直線近似する式を説明する図である。
【図20】傾斜方向は1軸方向だけでなく直角方向、斜め方向へ傾斜させてよいことを示す図である。
【図21】実際にエッジ検出した例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0060】
9 試料(被計測対象物)
9a 基準テンプレート
10 電子線装置
20 測定部
30 校正データ作成部
40 校正部
50 形態・座標測定部
52 概略測定部
54 精密測定部
60 画像修正部
64 補正係数記憶部
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子顕微鏡で撮像された試料画像を用いて、試料の三次元計測を精度よく行なう電子線システムと電子線システム用基準試料に関し、特に3D計測する際の走査型荷電粒子ビーム装置のビームや試料傾斜時の角度と倍率の補正や電子光学系における補正を画像計測に適するように調整することのできる電子線システムと電子線システム用基準試料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型電子顕微鏡(SEM)のような走査型荷電粒子ビーム装置では、走査型電子顕微鏡像等の分解能を高めるために、電子レンズの軸外収差を補正することが行なわれている。電子レンズの軸外収差は、例えば球面収差、コマ収差、像面収差、非点収差、像面歪曲収差を補償することにより行なわれている。また、球面収差に関しては、ツェルツァーの定理が知られており、電子顕微鏡等に用いられている軸対称な電子レンズでは、静電型や磁界型に拘らず、球面収差をゼロにできないことが知られている。そこで、球面収差を補償するために、非球面メッシュや非球面フォルムが静電電極形状や磁極形状として用いられている。
【0003】
他方、透過型電子顕微鏡(TEM)の場合には試料を傾斜させ、異なる傾斜角度の透過画像を得て、これを左右画像として試料のステレオ観察が行われている。また、例えば非特許文献1で示すように、走査型電子顕微鏡(SEM)の場合には試料を傾斜させたり、電子線を傾斜させたりして、異なる傾斜角度の反射画像を得て、これを左右画像としてステレオ観察が行われている。そして、例えば特許文献1、2で示すように、半導体製造装置の分野において、電子顕微鏡から得られたステレオの検出データを適切に処理して、試料像を正確に精度よく立体観察可能とし、かつこれに基づき三次元形状計測を行うことができる電子線装置や電子線装置用データ処理装置が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−270126号公報 [0005]、図3、図15
【特許文献2】特開2002−270127号公報 [0005]、図3、図15
【非特許文献1】「医学・生物学電子顕微鏡観察法」 第278頁〜第299頁、1982年刊行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特に半導体チップやシリコンウエハのような試料を3D計測しようとした場合、計測撮影時のビームや試料の傾斜角度や倍率を正確に求める必要がある。また試料の傾斜方向や高さ方向に依存する電子線歪みや倍率歪みが存在している。傾斜角度や倍率が正確でなかったり試料画像の計測方向に電子線歪みや倍率歪みが含まれていると、画像計測によって試料を測定する際の値が正しく求まらず、さらに精度が変動するという課題があった。近年の半導体微細加工において、例えばチップに形成するパターン幅がサブミクロンオーダーに微細化しており、従来に比較して三次元形状計測に許容される寸法誤差は一段と厳しくなっている。そこで、従来のような概略の傾斜角度値や倍率、そして球面収差のような電子レンズの軸外収差の補償方式では、ステレオ画像計測で必要とされる精度が得られないという課題があった。
【0006】
本発明は上述した課題を解決したもので、試料の傾斜角や高さに依存することなく、精度のよい試料の画像計測が行なえる電子線装置と電子線装置用基準試料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の電子線システムは、例えば図1に示すように、電子線を射出する電子線源1と;電子線源1から射出された電子線7を収束し、試料9に照射する電子光学系2と;電子線7が照射された試料9からの電子7dを受け取る検出部4と;試料9を支持する試料支持部3と;試料支持部3で支持された試料9に照射される電子線7と試料3とを相対的に傾斜させる試料傾斜部5(5a,5b)と;前記相対的な傾斜が自在であるように試料支持部3で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料9aから電子を受け取った検出部4からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記傾斜した2面の画像と基準試料9aの基準寸法とから、基準試料9aの傾斜角度を求めるデータ処理部20等とを備える。
【0008】
前記データ処理部は、前記電子線システムにおいて、さらに試料画像の倍率を求めるように構成されていてもよい。
【0009】
また、前記データ処理部は、得られた傾斜角度に基づき試料傾斜量の補正係数を求め、試料傾斜量の補正係数に基づき傾斜角度の補正を行うように構成されていてもよい。ここでいう試料は典型的には被計測試料である。
【0010】
前記データ処理部は、得られた複数の傾斜角度に基づき、測定された傾斜角度間の傾斜に関しても試料傾斜量の補正係数を求め、測定された傾斜角度以外の傾斜角度に関しても試料傾斜量の補正を行うように構成されていてもよい。
【0011】
上記目的を達成する本発明の電子線システムは、例えば図1に示すように、電子線を射出する電子線源1と;電子線源1から射出された電子線7を収束し、試料に照射する電子光学系2と;電子線7が照射された試料9からの電子を受け取る検出部4と;試料9を支持する試料支持部3と;試料支持部3で支持された試料9に照射される電子線7と試料9とを相対的に傾斜させる試料傾斜部5(5a,5b)と;前記相対的な傾斜が自在であるように試料支持部3で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料9aから電子を受け取った検出部4からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、試料9の画像のうち、試料9の傾斜によっても電子線光学系における変位が少ない位置の画像に基づき、その画像中の傾斜した2面の画像と、基準試料9aの基準寸法とから、基準試料9aの傾斜角度を求める処理と、周辺画像におけるその傾斜角度における倍率と、検出信号による画像の倍率の差に基づき補正係数を求める処理と、を行うデータ処理部とを備える。
本電子線システムは、典型的には、角度測定、電子レンズ歪、スキャン歪等の画像補正をするものであり、典型的には平行投影を行うものである。
【0012】
前記電子線システムでは、試料傾斜部5は、試料9を電子線7に対して傾斜させる試料ホルダー3の傾斜制御5b(たとえば図1)、または、電子線7を試料9に対して異なる角度で照射するようにする電子線7の偏向制御5a(例えば図17)のいずれかをするように構成されているとよい。
【0013】
前記データ処理部は、補正係数を用いて、電子線検出部4からの信号に基づき、電子レンズ歪、スキャン歪などを補正した試料画像を形成する画像形成部24を有するとよい。ここでいう試料は典型的には被計測試料である。電子線検出部4で検出する電子は、二次電子や反射電子が該当する。
【0014】
前記電子線システムでは、前記データ処理部は、測定が行われた傾斜に関する補正係数に加えて、測定が行われていない傾斜における補正係数も補間により求めるように構成されているとよい。
【0015】
上記目的を達成する本発明の基準試料9aは、所定のテーパ角により底部と、頂部とこれをつなぐ側面部とからなるパターンであって、各部の寸法、側面部の角度、高さが既知である、前記電子線システムに用いる基準試料である。
【0016】
前記基準試料9aでは、前記パターンはラインアンドスペースパターンから構成されているとよい。
【0017】
前記基準試料9aでは、前記ラインアンドスペースパターンは、試料の傾斜方向と直交する方向に形成されているとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子線装置と電子線装置用基準試料によれば、たとえば、傾斜角、倍率、電子光学系に付随するひずみを算出し、補正することにより撮影画像を修正し、精度のよい試料の計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[高さ計測]
本発明の説明に先立ち、基本となる高さ計測の原理について説明する。
図2、図3は、傾斜画像取得の際のホルダの傾斜と、試料ホルダ3(図1参照)の座標系を説明する座標図と斜視図である。試料ホルダ3の座標系において、Y軸が回転軸で、角度θは時計回り方向を+方向としている。
【0020】
図4は電子線を被計測対象物9に照射した時の、画像と試料の関係を示す正面図である。幾何学的関係より、
左画像 Lx=(X×cosθ+Z×sinθ)×s ……(1)
Ly=Y
右画像 Rx=(X×cosθ−Z×sinθ)×s ……(2)
Ry=Y
s:分解能(1pixel)
となり、画像と試料の回転角度を考慮してオリエンテーション行列により三次元の座標を求めると、以下のようになる。
X=Lx+Rx ……(3)
Z=Lx−Rx
Y=Ly=Ry
式(3)は図5に示すように、ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸を挟んだ角度を持つ場合のみに有効である。次に角度に依存することなく使える式を導く。図6は、ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸に対して夫々θ1、θ2傾斜している場合を示している。
【0021】
左画像の角度はθ1、右画像の角度はθ2であるが、Z軸をθ’傾けたZ’軸を想定する。ここで、図5のステレオ画像の左右撮影方向は、Z’軸を中心として左右対称であるとする。すると、擬似的な座標(X’,Y’,Z’)を適用することにより、画像の角度はθ’±θとなり、式(2)を使い、さらに座標XYZに直すように、後でθ’回転させる。
Z’=((Lx−Rx)/(2×sinθ))×s ……(4)
X’=((Lx+Rx)/(2×cosθ))×s
Y’=Ly=Ry
よって、次式が成立している。
X=X’×cosθ’−Z’×sinθ’ ……(5)
Z=X’×sinθ’+Z’×cosθ’
Y=Y
[原理]
本発明における基本原理は、基準試料としての基準テンプレートの既知の形状データと、電子線測定装置を傾斜させて得られる基準テンプレートのデータから基準テンプレートを撮影したときの傾斜角度θ、倍率、電子光学系に起因するひずみを求め、それら値を記憶させておき、補正した傾斜角度にて試料を計測する際には、あらかじめ基準テンプレートにて算出された傾斜角度、倍率、電子光学系のひずみを利用して画像修正し3D計測を行うものである。
基準テンプレートとしては、形状が既知なものを利用するか、既知でないものを利用する場合は計測して基準テンプレートとする。基準テンプレートとしては、凹凸のあるもの、たとえば図7に示すようなライン&スペースのようなものでよいが、基準テンプレートとして必要な既知データは、図8、図9に示されているような、凹凸の形状、すなわち凹凸間の間隔L(ライン&スペースパターンの場合はピッチ間隔L)や凹凸の高さh、テーパ角φなどである。
そして、本発明の電子線システムの撮影により得られたこの基準テンプレートの画像から、ピッチ間隔L’と側面の間隔d‘(x‘)を求める。
これらを求めると以下の式から、撮影したときの電子線測定装置の傾斜角θ、倍率sを算出することができる。
☆ 計算式:傾斜角、倍率算出
ピッチ間隔L[nm]、テーパ角φ[度]、高さh[nm]がわかっているL/S試料を、倍率S[倍]、傾斜角度θ[度]で撮影した時のsとθを求める。
θ傾斜した場合のピッチ間隔L’[pixel]は、1pixelの大きさをs[nm]として、
L’=L × cosθ / s ……E1
θ傾斜した時の側面の幅d’[pixel]は
d’=l × cos(φ−θ) / s
= (h / sinφ) × cos(φ−θ) /s ……E2
式E1と式E2をsについて解くと、
L× cosθ /L’= (h / sinφ)× cos(φ−θ)/ d’
= (h / sinφ) ×(cosφcosθ + sinφsinθ) / d’
∴θ = tan‐1( Ld’/h L’− (1 / tanφ) ) ……E3
☆ひずみ補正
さらに、電子光学系のひずみ補正パラメータ算出について説明する。
電子光学系のひずみについては、レンズ系の歪曲収差や電子線のスキャン歪、その他電子光学系全体でもつ歪について一括して補正係数を持たせることで補正が可能となる。
たとえば、基準テンプレートを図7のようなライン&スペースとした場合、この基準テンプレートの側面と上面、側面と底面の境界は直線となるので、この部分を直線として近似することにより補正が可能となる。
すなわち、直線は以下の式で近似できる(図19参照)。
xsinα+ycosα=q
電子光学系の歪を考慮した場合上式は、
(x+Δx)sinα+(y+Δy)cosα=q
ここでΔx、Δyはひずみ量である。
上式は、基準テンプレートの側面と底面、側面と上面の境界上のいくつかの点(ひずみのため曲がっている)が「直線上の点である」という条件を示している。
これらの点を補正したときに直線になるように、ひずむモデルを調整する。
【0022】
[レンズ歪補正]
電子光学系2を構成する電子レンズの歪曲収差を求める場合は、式(6)によって補正することが可能となる。即ち、式(11)、(12)でレンズ歪を補正したx、y座標をx’、y’とすれば、次式が成立する。
x’=x+Δx ………(6)
y’=y+Δy
ここで、k1、k2を放射方向レンズ歪み係数とすると、次式により行われる。
【数1】
【0023】
電子レンズの歪曲収差の計算は、画像座標と対象座標を計測することにより、上式にあてはめ逐次近似解法によって算出される。電子レンズの歪曲収差の計算では、レンズ歪係数が未知変量として増えるので、直線上の多数の点を基準点として画像座標と対象座標を計測して、あてはめ逐次近似解法によって算出するとよい。また、レンズ歪係数は、式(7)では放射方向レンズ歪みとしているが、さらにタンジェンシャルレンズ歪みやスパイラルレンズ歪み、その他電子レンズの歪曲収差の修正に必要な要素を式(7)に加えてレンズ歪係数を求めれば、それらの較正(キャリブレーション)が可能となる。
例えば、求められたレンズ歪係数を利用して、レンズ歪みを補正するようにビームをスキャンすれば、結果として補正した画像を取得することが可能となる。あるいは、レンズ歪をメモリに記憶させ、レンズ歪を補正するようにビームスキャンさせれば、画像におけるレンズ歪補正が可能となる。
以上のように基準テンプレートを傾斜させたい方向に傾斜させ、そのときの実際の傾斜角、倍率、電子光学系の歪を計算によりあらかじめ求めておき記憶させておけば、試料を計測する際の試料もしくはビームを傾斜させたときにそれら値を利用することで正確な三次元形状を求めることができる。測定の際の傾斜角を求め、その傾斜角に応じた各補正係数を演算により求め、補正を施すように構成してもかまわない。
【0024】
以下、図11のフローチャートに従って手順を説明する。
図7は、基準テンプレート9aとして、たとえばライン&スペースのパターンを示しており、図8はライン&スペースパターンのピッチ間隔とその傾斜について、また図9は側面の部分を説明している図である。
たとえば、基準テンプレート9aをたとえば図7のようなライン&スペースのパターンとする。
この基準テンプレートは、基準テンプレートとして販売されている市販のピッチスタンダードのようなものでもよいし、なければ、図7のようなライン&スペースパターンをCD−AFMなどの計測装置で計測してもよい。
この基準テンプレートから、試料のピッチ間隔L、テーパ角φ、高さhの値を市販品であれば利用し、そうでなければこれらデータをあらかじめ計測しておく。
S1000:電子線測定装置の試料もしくはビームの傾斜角を設定し、傾斜させる。
この傾斜角は、あらかじめ計測したい傾斜角についてすべて、あるいは代表的なものについて行う。
S1010:基準テンプレートを電子線測定装置により撮影する
S1020:撮影された基準テンプレートのピッチ間隔L‘と側面の幅d’(x’)を画像処理により算出する。
【0025】
[ラインのエッジ検出処理]
画像上のピッチ間隔を精度良く算出し倍率・角度の補正を行うために、ライン&スペースのエッジをサブピクセル精度で求める。方法は、取得した基準テンプレート(原器)の画像に対して直線検出オペレータを施し、エッジ点を検出する。
直線検出オペレータは画像処理でよく利用されている3×3のフィルタ型のものなどなんでもよい。
求まった全エッジ点を基に、エッジの連結性を利用して、閾値より連結したエッジ郡を基準テンプレートのライン(直線)として認識する。図21は実際にエッジ検出した例である。
S1030:撮影時の傾斜角と倍率、電子光学系に起因するひずみを算出する
これは先に原理で説明した式を用いて計算する
S1040:これら算出された傾斜角度、倍率、ひずみのパラメータを補正係数記憶部に記憶する
S1050:設定した傾斜角度につきすべて行っていれば終了、そうでなければS1000へ戻り繰り返し傾斜角度を変えて各パラメータを算出させる。
【0026】
このように構成された装置において、電子線測定装置は、各傾斜角度において、基準テンプレート画像上の形状を取得しておき、それとあらかじめ計測されていた基準テンプレートから三次元計測の際に必要な傾斜角、倍率、そして電子光学系に起因する画像歪を取り除く為の補正係数を取得する。次に、基準テンプレートに代わる試料9を試料ホルダ3に置いて、任意の傾斜角度で試料9を被写体として、試料9の画像を電子線測定装置によって取得する。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は本発明の実施例1を説明する構成ブロック図で、対象物を保持するホルダの回転角を調整して対象物の傾斜角を調整することで、ステレオ画像を得る場合を示している。図において、電子線システムにおける像形成光学系としての電子線装置10(走査型顕微鏡)は、電子線7を放射する電子線源1、電子線(ビーム)7を対象物9に照射する電子光学系2、対象物9を傾斜可能に保持する試料ホルダ3、電子光学系2の倍率を変える倍率変更部6、倍率変更部6に電力を供給する走査電源6a、電子線7が照射された対象物からの二次電子又は反射電子を検出する検出器4、試料ホルダ3を傾斜制御する傾斜制御部5としてのホルダ傾斜制御部5b、対象物9から出射される二次電子のエネルギを減衰させて検出器4に反射させる2次電子変換ターゲット8を備えている。なお、電子線7を傾斜制御する傾斜制御部5としてのビーム傾斜制御部5aは、実施例1で用いないが、後で説明する実施例3で用いる。
【0028】
電子光学系2は、電子線源1から放射された電子線7の電子流密度、開き角、照射面積等を変えるコンデンサレンズ2a、電子線7の試料面上の入射角度を制御する偏向レンズ2b、細かく絞られた電子線7を偏向して試料面上を二次元的に走査させる走査レンズ2c、最終段縮小レンズの働きと共に試料面上での入射プローブの焦点合わせを行う対物レンズ2dを備えている。倍率変更部6の倍率変更命令に従って、走査レンズ2cにより電子線7を走査する試料面上の領域が定まる。ビーム傾斜制御部5bは試料ホルダ3に傾斜制御信号を送り、試料ホルダ3と照射電子線7とが第1の相対的傾斜角度をなす第1の姿勢の試料ホルダ3Lと、第2の相対的傾斜角度をなす第2の姿勢の試料ホルダ3Rとで切替えている。
【0029】
第1の姿勢の試料ホルダ3Lに載置される対象物9の三次元座標系CLは、電子線装置10側を固定座標系として表すと、(XL,YL,ZL)となる。また、第2の姿勢の試料ホルダ3Rに載置される対象物9の三次元座標系CRは、電子線装置10側を固定座標系として表すと、(XR,YR,ZR)となる。なお、ホルダ傾斜制御部5bによる試料ホルダ3と照射電子線7の相対的傾斜角度は、ここでは右側上がりRと左側上がりLの二通りに切替えて設定する場合を図示しているが、2段に限らず多段に設定してよいが、ステレオの検出データを得る為には最小2段必要である。対象物9の三次元座標系として、例えばヨー軸、ピッチ軸、ロール軸を設定した場合に、ヨー軸がZ軸、ピッチ軸がX軸、ロール軸がY軸に対応する。
【0030】
対象物9は、例えばシリコン半導体やガリウム・ヒ素半導体のような半導体のチップであるが、電力用トランジスタ、ダイオード、サイリスタのような電子部品でもよく、また液晶パネルや有機ELパネルのようなガラスを用いた表示装置用部品でもよい。典型的な走査型顕微鏡の観察条件では、電子線源1は−3kV、対象物9は−2.4kVに印加されている。対象物9から放出された二次電子は、2次電子変換ターゲット8に衝突して、エネルギが弱められて検出器4で検出される。
【0031】
図1において、電子線システムは、第1の測定部としての測定部20、校正データ作成部30、既知基準データ記憶部32、校正部40、電子レンズ収差補償部42、形態・座標測定部50、画像修正部60、補正係数算出部62、補正係数記憶部64を備えている。
【0032】
測定部20は、試料ホルダ3に保持された基準テンプレート9aと照射電子線7とを試料傾斜部5により相対的に傾斜させて、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの撮影画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態または座標値(ピッチ間隔L、テーパ角φ、高さhその他)を求めるものである。測定部20は、入射角度調整部22、画像形成部24、基準テンプレート測定部26並びに表示装置28を有している。
【0033】
入射角度調整部22は、対象物9(基準テンプレート9aを含む)の姿勢を調整して、電子線装置10により対象物9に投影される電子線7と対象物9との相対的な入射角度を、対象物9についてステレオ画像を形成可能に調整する。即ち、入射角度調整部22は、ホルダ傾斜制御部5bに制御信号を送って、対象物9の姿勢を調整している。更に、入射角度調整部22は、ホルダ傾斜制御部5bに制御信号を送って、電子線源1から放射される電子線7の走査する基準面を調整して、ステレオ画像を形成するのに必要とされる左右画像を形成可能としている。画像形成部24は、走査レンズ2cにより電子線7が試料面上の領域を走査する際に、検出器4で検出される二次電子線を用いて、試料面上の画像を作成する。基準テンプレート測定部26は、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態または座標値を求める。表示装置28は、電子線検出部4で撮影された対象物9(基準テンプレート9aを含む)のステレオ画像の各左右画像を表示するもので、例えばCRTや液晶ディスプレイが用いられる。
【0034】
校正データ作成部30は、測定部20での基準テンプレートの測定結果と、基準テンプレート9aに関する既知基準データを利用して、電子線システムにより撮影されるステレオ画像の補正係数や校正データを作成する。基準テンプレート既知基準データ記憶部32は、基準テンプレート9aの形態(ピッチ間隔、テーパ角、高さ、他)が記憶されている。校正データ作成部30によって作成される電子線システムの校正データには、以下のものがある。
(1)試料傾斜部5の傾斜量の校正データ。
(2)電子光学系2の照射電子線7に対する照射方向の校正データ。
(3)電子光学系2の倍率に関する校正データ。
(4)電子光学系2の歪み補正に関する校正データ。
【0035】
校正部40は、校正データに基づき、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように校正を行う。校正部40は、上述の校正データ作成部30によって作成される電子線システムの校正データに応じて、以下の態様がある。
(1)試料傾斜部5の傾斜量が校正されるように校正部40を構成する。
(2)電子光学系2の照射電子線7の照射方向が校正されるように校正部40を構成する。
(3)電子光学系2の走査範囲が校正されるように校正部40を構成する。
(4)電子光学系2の走査コイルの走査方向が校正されるように校正部40を構成する。
【0036】
電子レンズ収差補償部42は、校正部40から出力される校正信号に従って、電子光学系2を構成する電子レンズの磁界ポテンシャルや静電ポテンシャルの分布状態を補償して、試料像の収差を減少させて、画像計測に適する電子光学系2に調整する。電子線装置10が、試料9から放射される二次電子を電子線源1から放射される電子線7と分離して電子線検出部4に送るExBと呼ばれる電磁プリズムを有する場合には、校正部40による校正対象となる電子光学系2に、このExBと呼ばれる電磁プリズムを含むものとする。
【0037】
形態・座標測定部50は、校正部40による校正が行なわれた試料ホルダ3に載置された試料9であって、試料傾斜部5によって形成される傾斜状態で電子線検出部4により撮影された試料9のステレオ画像に基づいて、試料9の形態または座標値を求める。形態・座標測定部50は、測定部20の入射角度調整部22、画像形成部24並びに表示装置28を、基準テンプレート測定部26と共通に用いている。
【0038】
次に、図12を参照して、このように構成された装置によるステレオ画像計測に必要な電子線装置の校正手続きに関して説明する。図12は本発明の実施例1における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。図12では、基準テンプレート9aを用いて電子線装置の校正処理を行ない、次に試料の画像計測を行う処理フローを示している(S100)。まず、試料ホルダ3に基準テンプレート9aを載せて、試料ホルダ3もしくは電子線7を傾斜状態に移行させる(S102)。例えば、ビーム傾斜制御部5bによって試料ホルダ3に傾斜制御信号を送り、入射角度調整部22により電子線7と対象物9との相対的な入射角度が調整される。この傾斜角度は、計測する基準テンプレート9aの傾斜角度に対して設定されるもので、例えば図2(A)に示す傾斜状態や図2(B)に示す傾斜状態に設定する。傾斜角度が複数存在する場合は、予め計測可能性のある角度にすべて傾斜角を設定して、画像を取得しておくとよい。
【0039】
測定部20は、電子線検出部4から得られる基準テンプレート9aの傾斜画像を取得する(S104)。そして、測定部20は、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態を求める(S106)。S106の処理に関しては、原理で説明したエッジ抽出処理を用いるとよい。
【0040】
校正データ作成部30は、S106での基準テンプレート9aの測定結果と、基準テンプレート9aに関する既知基準データを利用して補正係数を算出し(原理の項で説明)、電子線装置10により撮影されるステレオ画像の校正データを作成する(S108)。校正部40は、校正データに基づき、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように、電子線装置10の校正を行う(S110)。
【0041】
次に、試料ホルダ3に試料(計測対象物)9を載せる(S112)。そして、電子線7もしくは試料ホルダ3を所望の傾斜状態にして、電子線検出部4により試料9を撮影する(S114)。所望の傾斜状態は、例えば試料9の三次元画像計測を行う場合に、死角の少ない角度や、特に測定したいターゲットが良好に撮影される角度を選定する。そして、所望の傾斜状態における試料9のステレオ画像に基づいて、試料9の形態または座標値を求める(S116)。この処理は、2枚のステレオ画像からのステレオマッチング処理により求めることができる。
【0042】
[ステレオマッチング処理]
次に図13を参照して、ステレオマッチング処理の一例として、エリアベースの正規化相関係数によるマッチング法について説明する。図13は、正規化相関係数によるマッチング法の説明図で、図中の右画像を基準画像、左画像を捜索画像とする。ここでは、N個のデータからなる基準画像中の基準データブロックをM、座標(U,V)を起点とする捜索画像中の捜索データブロックをIとする。
【0043】
正規化相関係数によるマッチング法は、捜索データブロックI中で基準データブロックMのラスタ走査を行いながら、各位置での基準データブロックMと捜索データブロックIとの類似度を相関係数により求める方法である。ここで、ラスタ走査とは、基準データブロックMを捜索データブロックIの中を左から右に動かし、捜索データブロックIの右端まで行くと下がって左端に戻り、また捜索データブロックIを左から右に動かす走査状態をいう。相関係数値Rの最大の位置を探せば、捜索データブロックI中の基準データブロックMと同じ場所を探す事ができる。
【0044】
M=M(Xi,Yi) 1≦i≦N ……(8)
I=I(U+Xi,V+Yi) ……(9)
とすると、正規化相関係数R(U,V)は、
R(U,V)=(NΣIiMi−ΣIiΣMi)
/SQRT[{NΣIi2−(ΣIi)2}x{NΣMi2−(ΣMi)2}] ……(10)
となる。相関係数値Rは常に−1から+1までの値をとる。相関係数値Rが+1の場合には、テンプレートと探索画像が完全に一致した事になる。
【0045】
そして、補正係数算出部62(図1参照)は、選定された基準画像を用いて、ステレオペアとなっている傾斜画像の非基準画像に対して、ステレオペア画像の対応関係を用いて、非基準画像を基準画像の画像歪み状態とする第1の補正係数を求める。求めた第1の補正係数は、例えば測定部20、形態・座標測定部50や画像修正部60による利用可能な状態で、例えば補正係数記憶部64に記憶される。第1の補正係数は、平行投影のキャリブレーション法により検出された点を使ってモデル化したり、最小二乗法により曲線近似する方法、アフィン変換等を使って近似し、その近似に用いた係数を求める方法等、各種の演算処理によって画像歪みを修正しつつ画像変換処理を行なう係数を求めるものである。
試料の観察を行なう為に、電子線検出部4により検出された電子線に基づき、表示装置28に試料9のステレオ画像を表示する(S118)。試料9の形態または座標値が取得できれば、リターンとなる(S120)。
【0046】
なお、今まで説明してきた校正データ作成部30、校正部40、電子レンズ収差補償部42を用いて校正せずとも、補正係数算出部62により算出された補正係数にて画像修正部60にて画像修正し、形態・座標測定部50にて三次元測定値を得ることにより正確な補正が可能な場合は、それらはなくてもよい。
その場合は、図12のフローチャートの、S108における校正データ作成およびS110の校正データに基づき電子線システムの校正を行う必要がない。
【0047】
[平行投影]
ここで、電子線装置の校正手続きの前提となる平行投影について説明する。電子顕微鏡では倍率が低倍率〜高倍率(ex.2〜数百万倍)までレンジが幅広いため、電子光学系2が低倍率では中心投影、高倍率では平行投影とみなせる。平行投影と見なせる倍率は、偏位修正パラメータの算出精度を基準にして定めるのがよく、例えば1000倍や10000倍を基準倍率とする。偏位修正パラメータは、ステレオ画像で立体視できるように、試料の左右画像を偏位修正する為のパラメータである。
【0048】
図14は平行投影の説明図である。平行投影の場合は、対象座標系74として回転を考慮した座標系(XR,YR,ZR)を用い、縮尺係数としてK1、K2を選定すると次式が成立する。
【数2】
すると、対象座標系74で選択した原点(Xo,Yo,Zo)とオリエンテーション行列Aを用いて、次のように表せる。
【数3】
ここで、オリエンテーション行列Aの要素ai,jに関しては、回転行列の要素ai,jが画像座標系72の対象座標系74を構成する3軸X,Y,Zに対する傾きω、φ、κを用いて、次のように表せる。
【数4】
【0049】
偏位修正パラメータの算出においては、式(11)、(12)に含まれる6つの外部標定要素ω、φ、κ、Xo、Yo、Zoを求める。即ち、これらの式を、最低3点以上の基準マークにより観測方程式をたて、逐次近似解法によってこれら6つの外部標定要素を算出する。具体的には、未知変量の近似値を与え、近似値のまわりにテーラー展開して線形化し、最小二乗法により補正量を求めて近似値を補正し、同様の操作を繰り返し収束解を求める逐次近似解法によってこれら6つの外部標定要素を求めることができる。また、式(11)、(12)に代えて、単写真標定や相互標定、その他空中三角測量で外部標定として用いられている各種の演算式のうちから適宜採択して演算を行うとよい。
【実施例2】
【0050】
図15は本発明の実施例2を説明する構成ブロック図である。図において、電子線システムは、前述の測定部20、校正データ作成部30、既知基準データ記憶部32、校正部40、電子レンズ収差補償部42、形態・座標測定部50、画像修正部60、補正係数算出部62、補正係数記憶部64、補正係数推論部54を備えている。ここで、校正データ作成部30、既知基準データ記憶部32、校正部40、補正係数算出部62、補正係数記憶部64、補正係数推論部54などがデータ処理部を構成する。
【0051】
補正係数記憶部64は、各傾斜角度による傾斜角度、倍率、電子光学系などの補正係数を記憶しているが、補正係数推論部54は、これらの記憶していない傾斜角度においても、記憶している補正係数から推論(補間)してそれら補正係数を求めるものである。
推論(補間)は各係数においてカーブフィッティングやその他の手法によって補正関数を作成することにより行うことができる。この機能を追加することにより、あらゆる傾斜角度にて画像を撮影し補正した正確な三次元計測が可能となる。
【0052】
次に図16を参照して、このように構成された装置によるステレオ画像計測に必要な電子線装置の校正手続きに関して説明する。図16は本発明の実施例3における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。図16では、基準テンプレート9aを用いて電子線装置の校正処理を行ない、次に試料の画像計測を行う処理フローを示している(S200)。まず、S202〜S210に関しては、前述のS102〜S110の説明と同様である。即ち、試料ホルダ3に基準テンプレート9aを載せて、試料ホルダ3もしくは電子線7を傾斜状態に移行させる(S202)。測定部20は、電子線検出部4から得られる基準テンプレート9aの傾斜画像を取得する(S204)。そして、測定部20は、電子線検出部4で撮影された基準テンプレート9aの画像に基づいて、基準テンプレート9aの形態または座標値を求める(S206)。校正データ作成部30は、S206での基準テンプレート9aの測定結果と、基準テンプレート9aに関する既知基準データとを利用して補正係数を算出して、電子線装置10により撮影される画像の校正データを作成する(S208)。校正部40は、校正データに基づき、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように、電子線装置10の校正を行う(S210)。補正係数算出部62は、試料傾斜部5によって形成される複数の傾斜状態について、電子線検出部4により撮影される画像に対する補正係数を算出して、補正係数記憶部64に記憶し、補正係数推論部54によって各種補正係数の傾斜角度による補正関数を作成する(S212)。
【0053】
次に、試料ホルダ3に試料(計測対象物)9を載せる(S214)。そして、電子線7もしくは試料ホルダ3を所望の傾斜状態にして、電子線検出部4により試料9を撮影する(S216)。所望の傾斜状態は、例えば試料9の三次元画像計測を行う場合に、死角の少ない角度や、特に測定したいターゲットが良好に撮影される角度を選定する。そして、概略測定部52により、所望の傾斜状態における試料9のステレオ画像に基づいて、試料9の形態または座標値を求める(S218)。
【0054】
試料9の形態または座標値が精密に取得できれば、リターンとなる(S226)。好ましくは、試料の観察を行なう為に、画像修正部60によって修正されたステレオ画像を、表示装置28に表示するとよい。
なお、複数傾斜させた場合、ステレオマッチングだけでなく、マルチマッチング(2枚以上からの画像で対応点を求め座標を計測する)を行ってもよい。当然この場合もこれら補正係数を利用する。
さらに傾斜方向は1軸方向だけでなく図20のようにさらに直角方向、斜め方向へ傾斜させ、それら補正係数について算出、あらゆる方向の傾斜に対応させるようにしてもよい。
さらにそれら複数方向への対応として、基準テンプレートを図10のように複数方向に混載させたもので補正してもよい。これら処理は方向が複数に増えるだけで同様となるので説明は省略する。
【実施例3】
【0055】
図17は、本発明の実施例3を説明する全体構成ブロック図である。実施例1、2では、ステレオ画像を得る場合に、ホルダを傾斜させていたが、実施例3は走査型顕微鏡の電子線を偏向させてステレオ画像を得る場合を示している。ここでは、図17において、図1と共通する構成要素について同一符号を付して説明を省略する。ここでは、電子線7を傾斜制御する傾斜制御部5としてのビーム傾斜制御部5aが設けられている。ビーム傾斜制御部5aは偏向レンズ2bに傾斜制御信号を送り、試料ホルダ3と照射電子線7とが第1の相対的傾斜角度をなす電子線7Rと、第2の相対的傾斜角度をなす電子線7Lとで切替えている。なお、ビーム傾斜制御部5aによる試料ホルダ3と照射電子線7の相対的傾斜角度は、2個に限らず多段に設定してよいが、ステレオの検出データを得る為には最小2個必要である。
【実施例4】
【0056】
図18は、本発明の実施例4を説明する全体構成ブロック図である。電子線システムは、実施例1で説明された測定部20に加えて、第3の測定部としての形態・座標測定部50、画像修正部60、補正係数算出部62、補正係数記憶部64、を備えている。そして、さらに補正係数推論部54が加わっている。その他は、試料傾斜がビーム傾斜に変わった以外は、図18において、図15と同じであり共通する構成要素について同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
このように構成された実施例4の装置の動作は、試料を傾斜させるかわりにビームを傾斜させる以外は図16のフローチャートと同一なため省略する。
【0058】
なお、上記の実施の形態においては、校正データ作成部によって作成される電子線システムの校正データとして、試料傾斜部5の傾斜量の校正データ、電子光学系2の照射電子線7に対する照射方向の校正データ、電子光学系2の倍率に関する校正データ、電子光学系2の歪み補正に関する校正データを示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、要するに校正データ作成部によって作成される校正データは、校正部によって、電子線検出部4で検出される試料像の収差を減少させるように校正ができるものであれば良い。
なお、これら実施例においても校正データ作成部30、校正部40、電子レンズ収差補償部42を用いて校正せずとも、補正係数算出部62により算出された補正係数にて画像修正部60にて画像修正し、形態・座標測定部50にて三次元測定値を得ることにより正確な補正が可能な場合は、それらはなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1を説明する全体構成ブロック図である。
【図2】電子線システムの試料ホルダにおける傾斜状態の説明図である。
【図3】試料ホルダ3の座標系を説明する斜視図である。
【図4】電子線を被計測対象物9に照射した時の、画像と試料の関係を示す正面図である。
【図5】ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸を挟んだ角度を持つ場合を示している。
【図6】ステレオ画像の撮影方向として、左右画像がZ軸に対して夫々θ1、θ2傾斜している場合を示している。
【図7】ライン&スペースで構成さらた基準テンプレートの平面図である。
【図8】図7の基準テンプレートのピッチ間隔と傾斜を説明する図である。凹凸の形状、すなわち凹凸間の間隔L(ライン&スペースパターンの場合はピッチ間隔L)や凹凸の高さh、テーパ角φなどである。
【図9】図7の基準テンプレートの側面を抽出して示す図である。
【図10】図7に示すような基準テンプレートを複数方向に混載させた基準テンプレートの例を示す図である。
【図11】正確な三次元形状を求める手順の例を説明する前処理フローチャートである。
【図12】本発明の実施例1における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。
【図13】正規化相関係数によるマッチング法の説明図である。
【図14】平行投影の説明図である。
【図15】本発明の実施例2を説明する構成ブロック図である。
【図16】本発明の実施例2における電子線装置の校正手続きを含む電子線測定のフローチャートである。
【図17】本発明の実施例3を説明する全体構成ブロック図である。
【図18】本発明の実施例4を説明する全体構成ブロック図である。
【図19】図7のような基準テンプレートの側面と上面、側面と底面の境界部分を直線近似する式を説明する図である。
【図20】傾斜方向は1軸方向だけでなく直角方向、斜め方向へ傾斜させてよいことを示す図である。
【図21】実際にエッジ検出した例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0060】
9 試料(被計測対象物)
9a 基準テンプレート
10 電子線装置
20 測定部
30 校正データ作成部
40 校正部
50 形態・座標測定部
52 概略測定部
54 精密測定部
60 画像修正部
64 補正係数記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を射出する電子線源と;
前記電子線源から射出された電子線を収束し、試料に照射する電子光学系と;
前記電子線が照射された試料からの電子を受け取る検出部と;
前記試料を支持する試料支持部と;
前記試料支持部で支持された試料に照射される電子線と前記試料とを相対的に傾斜させる試料傾斜部と;
前記相対的な傾斜が自在であるように前記試料支持部で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料から電子を受け取った前記検出部からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記傾斜した2面の画像と前記基準試料の基準寸法とから、前記基準試料の傾斜角度を求めるデータ処理部とを備える;
電子線システム。
【請求項2】
前記データ処理部は、さらに試料画像の倍率を求めるように構成されている、請求項1記載の電子線システム。
【請求項3】
前記データ処理部は、得られた傾斜角度に基づき試料傾斜量の補正係数を求め、試料傾斜量の補正係数に基づき傾斜角度の補正を行うように構成されている、請求項1又は請求項2に記載の電子線システム。
【請求項4】
前記データ処理部は、得られた複数の傾斜角度に基づき、測定された傾斜角度間の傾斜に関しても試料傾斜量の補正係数を求め、測定された傾斜角度以外の傾斜角度に関しても試料傾斜量の補正を行うように構成されている、請求項3記載の電子線システム。
【請求項5】
電子線を射出する電子線源と;
前記電子線源から射出された電子線を収束し、試料に照射する電子光学系と;
前記電子線が照射された試料からの電子を受け取る検出部と;
前記試料を支持する試料支持部と;
前記試料支持部で支持された試料に照射される電子線と前記試料とを相対的に傾斜させる試料傾斜部と;
前記相対的な傾斜が自在であるように前記試料支持部で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料から電子を受け取った前記検出部からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記試料の画像のうち、前記試料の傾斜によっても電子線光学系における変位が少ない位置の画像に基づき、その画像中の傾斜した2面の画像と、前記基準試料の基準寸法とから、前記基準試料の傾斜角度を求める処理と、周辺画像におけるその傾斜角度における倍率と、検出信号による画像の倍率の差に基づき補正係数を求める処理と、を行うデータ処理部とを備える;
電子線システム。
【請求項6】
前記試料傾斜部は、試料を電子線に対して傾斜させる試料ホルダーの傾斜制御、または、前記電子線を試料に対して異なる角度で照射するようにする前記電子線の偏向制御のいずれかをするように構成されている、請求項1または5記載の電子線システム。
【請求項7】
前記データ処理部は、補正係数を用いて、前記電子線検出部からの信号に基づき、電子レンズ歪、スキャン歪などを補正した試料画像を形成する画像形成部を有する、請求項5記載の電子線システム。
【請求項8】
前記データ処理部は、測定が行われた傾斜に関する補正係数に加えて、測定が行われていない傾斜における補正係数も補間により求めるように構成されている、請求項5記載の電子線システム。
【請求項9】
前記基準試料は、所定のテーパ角により底部と、頂部とこれをつなぐ側面部とからなるパターンであって、各部の寸法、側面部の角度、高さが既知である、請求項1または5記載の電子線システムに用いる基準試料。
【請求項10】
前記基準試料は、前記パターンがラインアンドスペースパターンから構成されている、請求項9記載の電子線システムに用いる基準試料。
【請求項11】
前記基準試料は、前記ラインアンドスペースパターンは、試料の傾斜方向と直交する方向に形成されている、請求項9記載の電子線システムに用いる基準試料。
【請求項1】
電子線を射出する電子線源と;
前記電子線源から射出された電子線を収束し、試料に照射する電子光学系と;
前記電子線が照射された試料からの電子を受け取る検出部と;
前記試料を支持する試料支持部と;
前記試料支持部で支持された試料に照射される電子線と前記試料とを相対的に傾斜させる試料傾斜部と;
前記相対的な傾斜が自在であるように前記試料支持部で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料から電子を受け取った前記検出部からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記傾斜した2面の画像と前記基準試料の基準寸法とから、前記基準試料の傾斜角度を求めるデータ処理部とを備える;
電子線システム。
【請求項2】
前記データ処理部は、さらに試料画像の倍率を求めるように構成されている、請求項1記載の電子線システム。
【請求項3】
前記データ処理部は、得られた傾斜角度に基づき試料傾斜量の補正係数を求め、試料傾斜量の補正係数に基づき傾斜角度の補正を行うように構成されている、請求項1又は請求項2に記載の電子線システム。
【請求項4】
前記データ処理部は、得られた複数の傾斜角度に基づき、測定された傾斜角度間の傾斜に関しても試料傾斜量の補正係数を求め、測定された傾斜角度以外の傾斜角度に関しても試料傾斜量の補正を行うように構成されている、請求項3記載の電子線システム。
【請求項5】
電子線を射出する電子線源と;
前記電子線源から射出された電子線を収束し、試料に照射する電子光学系と;
前記電子線が照射された試料からの電子を受け取る検出部と;
前記試料を支持する試料支持部と;
前記試料支持部で支持された試料に照射される電子線と前記試料とを相対的に傾斜させる試料傾斜部と;
前記相対的な傾斜が自在であるように前記試料支持部で支持された少なくとも傾斜した2面を有する基準試料から電子を受け取った前記検出部からの検出信号を、傾斜毎に受け取り、前記試料の画像のうち、前記試料の傾斜によっても電子線光学系における変位が少ない位置の画像に基づき、その画像中の傾斜した2面の画像と、前記基準試料の基準寸法とから、前記基準試料の傾斜角度を求める処理と、周辺画像におけるその傾斜角度における倍率と、検出信号による画像の倍率の差に基づき補正係数を求める処理と、を行うデータ処理部とを備える;
電子線システム。
【請求項6】
前記試料傾斜部は、試料を電子線に対して傾斜させる試料ホルダーの傾斜制御、または、前記電子線を試料に対して異なる角度で照射するようにする前記電子線の偏向制御のいずれかをするように構成されている、請求項1または5記載の電子線システム。
【請求項7】
前記データ処理部は、補正係数を用いて、前記電子線検出部からの信号に基づき、電子レンズ歪、スキャン歪などを補正した試料画像を形成する画像形成部を有する、請求項5記載の電子線システム。
【請求項8】
前記データ処理部は、測定が行われた傾斜に関する補正係数に加えて、測定が行われていない傾斜における補正係数も補間により求めるように構成されている、請求項5記載の電子線システム。
【請求項9】
前記基準試料は、所定のテーパ角により底部と、頂部とこれをつなぐ側面部とからなるパターンであって、各部の寸法、側面部の角度、高さが既知である、請求項1または5記載の電子線システムに用いる基準試料。
【請求項10】
前記基準試料は、前記パターンがラインアンドスペースパターンから構成されている、請求項9記載の電子線システムに用いる基準試料。
【請求項11】
前記基準試料は、前記ラインアンドスペースパターンは、試料の傾斜方向と直交する方向に形成されている、請求項9記載の電子線システムに用いる基準試料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−3235(P2006−3235A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180341(P2004−180341)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】
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