説明

電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法と電子部品

【課題】揮発分の少ない均一な乾燥状態の厚い電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を短時間で作製することが可能な電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法とそれにより得られる電子部品を提供する。
【解決手段】溶剤に希釈したエポキシ樹脂組成物をキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を少なくとも2枚用意する工程と、これらのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち2枚をシート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせ、必要に応じてこの重ね合わせを複数回行うことにより、最終的にシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚のキャリア材の内側に全て重ね合わせてシート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させる工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材を含有しない電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法とそれを用いた電子部品である多層回路基板、部品内蔵回路基板、IC封止パッケージ、および放熱用インシュレーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化の要求に伴い、多層回路基板においては配線距離の短縮化、小型化を目的として、ビルドアップ工法等による製造が盛んに行われている。
【0003】
さらに、近年では能動部品間や受動部品間の配線距離を短くすることで小型化やノイズ低減を図るとともに部品間の配置の設計の自由度を増すことを目的として部品内蔵回路基板の開発が注目されてきている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これらの多層回路基板や部品内蔵回路基板の基板用の成形材料は、実装信頼性の面においては高いガラス転移温度(Tg)および低い線膨張係数を有することが望ましい。また、IC等の電子部品との応力緩和性を考慮すると、さらに弾性率が低く、かつ異方性のない等方性の物性であることが望ましい。
【0005】
従来、多層回路基板や部品内蔵回路基板においては、ガラス基材にエポキシ樹脂を含浸させた材料であるプリプレグを基板用の成形材料として用いている。このプリプレグは、成形後は薄くても割れない十分な機械的な強度を有し、かつXY方向の線膨張係数を下げてICや電子部品の実装信頼性を確保することができる。
【0006】
しかしながら、このようなプリプレグを部品内蔵回路基板の基板用の成形材料として用いる場合、次のような問題点があった。すなわち、プリプレグを部品内蔵回路基板の基板用の成形材料として用いるためには予め内蔵部品の箇所を打ち抜いておく必要があるが、ガラス基材と樹脂という硬い部分と柔らかい部分を同時に打ち抜く必要性があることから作業が困難になる。また、内蔵された部品周辺にはガラス基材の割合が少ないことから基板全体としての線膨張率等の物性にムラが生じ、高い信頼性を有する基板を得ることが難しい。
【0007】
この問題点に対処する技術として、ガラス基材を用いずに線膨張係数の低い無機充填剤(無機フィラー)を用いて複合化した電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料をプリプレグの代わりに基板用の成形材料として用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、低い線膨張係数の材料が得られるとともに、シートを
打ち抜きせずに部品を封止して容易に部品内蔵回路基板を得ることが可能となる。
【0008】
また、仮に打ち抜きをするとしても従来のプリプレグのような材料とは異なり、打ち抜き易い材料となることから、部品内蔵回路基板には理想的な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3375555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料は、次のような点
が要求される。まず、部品の内蔵を行うために少なくとも半硬化後のシート状エポキシ樹脂組成物材料の厚みが150〜500μm、さらには300〜500μmであることが望ましい。
【0011】
また、電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の成形時において、ボイドを発生させずに短時間のタクトで真空成形(クイック成形)するためにシート内の揮発分(加熱減量成分)が少ないことが望ましい。
【0012】
また、シート表面と深部(キャリア材側)との乾燥の度合いの差が小さく残存する揮発分(加熱減量)も差が小さいことが望ましい。
【0013】
また、上述の厚みを確保しながら短時間で生産効率よくシートを生産できることが望ましい。
【0014】
ところが、従来の技術においては上述の性質を全て満足することは技術的に容易ではなかった。
【0015】
さらに、電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を部品内蔵回路基板の基板用の成形材料に用いる場合、無機充填剤としてシリカでは体積として55vol%以上(質量として70質量%以上)が必要である。しかしながら、従来の積層板用の樹脂にこのレベルまで無機充填剤を配合して半硬化状態(Bステージ状態)にまで乾燥させた場合において、均一な乾燥状態で厚いシートを得ることは容易ではなかった。
【0016】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、揮発分の少ない均一な乾燥状態の厚い電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を短時間で作製することが可能な電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法とそれにより得られる電子部品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および無機充填剤を必須成分とし固形分濃度5〜95質量%で溶剤に希釈したエポキシ樹脂組成物をキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を少なくとも2枚用意する工程と、これらのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち2枚をシート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせ、必要に応じてこの重ね合わせを複数回行うことにより、最終的にシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚のキャリア材の内側に全て重ね合わせてシート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させる工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
この電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法において、エポキシ樹脂組成物を乾燥後の厚みが75〜250μmとなるようにキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚用意し、これらのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料をシート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせてシート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させることが好ましい。
【0019】
この電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法において、2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料として、シート状エポキシ樹脂組成物材料の成形温度での流動性が互いに異なるものを用いることが好ましい。
【0020】
この電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法において、2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち一方のもののシート状エポキシ樹脂組成物材料に、重量平均分子量20000〜1000000のニトリルブタジエンゴムまたはブタジエンゴムを0.1〜2質量%配合することが好ましい。
【0021】
この電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法において、シート状エポキシ樹脂組成物材料の各々は、無機充填剤として、シリカ、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、およびフェライトから選ばれる少なくとも1種をエポキシ樹脂組成物の全量に対して50〜95質量%配合することが好ましい。
【0022】
本発明の多層回路基板は、前記の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする。
【0023】
本発明の部品内蔵回路基板は、前記の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする。
【0024】
本発明のIC封止パッケージは、前記の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする。
【0025】
本発明の放熱用インシュレーターは、前記の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、揮発分の少ない均一な乾燥状態の厚い電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を短時間で作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明においてエポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
中でも、液状エポキシ樹脂、特に、軟化温度が好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下のエポキシ樹脂を好適に用いることができる。このようなエポキシ樹脂は、無機充填剤の高充填化に適している。
【0031】
また、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を用いると、優れた信頼性を得ることができるとともに、耐落下衝撃性を高めることができる。
【0032】
本発明においてエポキシ樹脂組成物に配合される硬化剤としては、例えば、フェノール
系硬化剤、ジシアンジアミド、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、チオール系硬化剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
フェノール系硬化剤としては、例えば、ノボラック型、アラルキル型、テルペン型等のフェノール系硬化剤等を用いることができる。
【0034】
中でも、無機充填剤の高充填化等を考慮すると、フェノール系硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることが好ましく、その軟化温度が80℃以下のものがより好ましい。
【0035】
また、フェノール系硬化剤として、アラルキル型フェノール樹脂、特に、フェノールフェニルアラルキル樹脂またはフェノールビフェニルアラルキル樹脂を用いる場合には、耐衝撃性を著しく向上させることができる。また、低吸湿率を併せ持ち、信頼性の高い成形品(硬化物)を得ることができる。
【0036】
本発明においてエポキシ樹脂組成物に配合される硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、有機りん系硬化促進剤、オニウム塩系硬化促進剤、金属キレート系硬化促進剤、マイクロカプセル化した硬化促進剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
中でも、イミダゾール系硬化促進剤は高いガラス転移温度と潜在性を付与する際に有効である。イミダゾール系硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールが好ましい。
【0038】
本発明においてエポキシ樹脂組成物に配合される無機充填剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ(SiO2)、酸化アルミ
ニウム(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニ
ウム(AlN)、酸化亜.鉛(ZnO)等を用いることができる。これらは1種単独で用
いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、チタン酸バリウムや酸化チタン等の高誘電率フィラー、フェライト(ソフトフェライトやハードフェライト)等の磁性フィラー、あるいは水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤、その他、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母粉等を無機充填剤として用いることもできる。これらの無機充填剤は、熱伝導性、比誘電率、難燃性、粒度分布、または色調の自由度が高く、所望の機能を選択的に発揮させる場合に適宜に配合および粒度設計を行って高充填化も容易に行うことができる。
【0040】
また、無機充填剤としては、最大粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下のものを用いると、レーザー加工やドリル加工により貫通孔を精度良く正確に形成することができるとともに、ドリルの磨耗を防止することができる。
【0041】
本発明において、無機充填剤としては、シリカ、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、およびフェライトから選ばれる少なくとも1種を用いるのが好ましい。シリカを用いる場合には、低線膨張化、低吸湿化、低誘電率化、低誘電正接化、高強度・高弾性率化を図ることができるとともに、耐熱性、表面平滑性を高く得ることができる。また、酸化アルミニウムを用いる場合には、シリカと同様の効果を得ることができる他、放熱性を高く得ることができる。また、チタン酸バリウムを用いる場合には、高誘電率化を図ることができ、コンデンサを内蔵した基板を製造することができる。すなわちコンデンサ層を基板内に付与することができる。フェライトを用いる場合には、高い電磁シールド特性を確保す
ることができる。
【0042】
無機充填剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物の全量(溶剤を除く)に対して、好ましくは50〜95質量%以上、より好ましくは70〜95質量%である。無機充填剤の配合量をこの範囲内にすることで、電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の線膨張係数が小さくなり、導通信頼性や実装信頼性が向上する。例えば、このように無機充填剤を高配合することで、シリカでは高い絶縁信頼性や耐熱信頼性を確保することができる。また、酸化アルミニウムでは高い放熱性を確保することができ、チタン酸バリウムでは高い誘電特性を確保することができ、フェライトでは高い電磁シールド特性を確保することができる。
【0043】
本発明において、エポキシ樹脂組成物には、無機充填剤の分散性を向上させるために、分散剤を配合することが好ましい。分散剤としては、例えば、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系等のカップリング剤や、アルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、アルキルポリエーテルアミン系、高分子系等の分散剤等を用いることができる。
【0044】
そして、上述したエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤、および必要に応じて無機充填剤の表面処理剤、レベリング剤、分散剤等を配合してエポキシ樹脂組成物を調製することができる。
【0045】
そしてこのエポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトン(MEK)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶剤に溶解・分散させて希釈することによりスラリー状ワニスを調製することができる。このとき、本発明では固形分濃度(エポキシ樹脂組成物の濃度)が5〜95質量%となるように溶剤で希釈してスラリー状ワニスを調製する。
【0046】
次に、この溶剤でエポキシ樹脂組成物を希釈して得られたスラリー状ワニスを、離型処理を施したキャリア材の片面に塗布した後、これを熱風吹き付け等により加熱することにより、半硬化状態になるまで乾燥させる。これによりキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を得ることができる。
【0047】
ここで、キャリア材(ベースフィルム)としては、例えば、片面または両面に離型処理を施した高分子フィルムや金属フィルム等を用いることができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、アセチルセルロース、テトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等のフィルムを用いることができる。また、金属フィルムとしては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔等の金属箔等を用いることができる。
【0048】
キャリア材としては、価格、耐熱性の面で、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いるのが好ましい。
【0049】
キャリア材の厚みは、通常は10〜200μmである。
【0050】
また、離型処理は、例えば、オルガノポリシロキサン、変性オルガノポリシロキサン、フッ素系ポリマー等をキャリア材の表面にコートすることにより施すことができる。
【0051】
キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のシート状エポキシ樹脂組成物材料は、離型処理を施したキャリア材の表面上において半硬化状態である。半硬化状態とは、い
わゆるBステージ状態のことであり、エポキシ樹脂組成物を加熱することにより、エポキシ樹脂組成物の反応を一部行わせた状態である。従って、シート状エポキシ樹脂組成物材料は、従来のプリプレグと同様に、積層成形の加熱加圧により一旦溶融した後に硬化する性質を備えている。
【0052】
また、シート状エポキシ樹脂組成物材料全量に対して、乾燥後に残存する溶剤の量を0.5質量%未満とするのが好ましい。溶剤の量が多くなると成形時にボイドが発生し易くなる。
【0053】
以上のようにして、溶剤に希釈したエポキシ樹脂組成物をキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を少なくとも2枚用意する。
【0054】
次の工程として、これらのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち2枚をシート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせ、必要に応じてこの重ね合わせを複数回行う。そして最終的にシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚のキャリア材の内側に全て重ね合わせてシート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させる。これにより、揮発分の少ない均一な乾燥状態の厚い電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を短時間で作製することが可能となる。
【0055】
キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料の厚みは、エポキシ樹脂組成物の乾燥後の厚みで75〜250μmとすることが好ましい。この厚みが小さ過ぎると、最終的な厚みの150〜500μmにするために重ね合わせ枚数が大量に必要になることから工程的に複雑となり、また補材の消耗も多くなる場合がある。一方、この厚みが大き過ぎると、均一に乾燥させることが困難となり、生産性の面で不十分となる場合がある。
【0056】
好ましい態様では、エポキシ樹脂組成物を乾燥後の厚みが75〜250μmとなるようにキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚用意する。そしてこれらのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料をシート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせてシート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させる。これにより、揮発分の少ない均一な乾燥状態の厚い電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料をより効率よく作製することが可能となる。
【0057】
この場合、2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料として、シート状エポキシ樹脂組成物材料の成形温度での流動性が互いに異なるものを用いると、絶縁性の確保と電子部品を内蔵する層の確保とを適切に両立させることができる。例えば、2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち一方のもののシート状エポキシ樹脂組成物材料に、重量平均分子量20000〜1000000のニトリルブタジエンゴムまたはブタジエンゴムを0.1〜2質量%配合することが好ましい。このようにすることで、2枚のシート状エポキシ樹脂組成物材料の組成をほとんど変えずに流動性の高い層と低い層とを重ね合わせることが可能となる。
【0058】
本発明において、キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料同士の重ね合わせは、ロールラミネーターを用いて行うことができる。ロールラミネーターの圧力条件は、特に限定されるものではないが、例えば、常圧で行うことができる。
【0059】
また、ロールラミネーターによる重ね合わせの他に、切断したキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料同士を重ね合わせてもよい。
【0060】
キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のロールラミネーターによる重ね合わせは、例えば、一方のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のエポキシ樹脂組成物の塗布、乾燥直後のインラインで、予め用意した他方のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を供給して連続的に行うことができる。
【0061】
あるいは、エポキシ樹脂組成物の塗布、乾燥後に一旦、それぞれのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を別途のロールに別工程として巻回しておき、その後、これら2本のロールから巻き出してさらに別工程として重ね合わせてもよい。
【0062】
予めロールに巻回したキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料には、キャリア材とは反対の面にカバーフィルムを被せておくことが好ましい。そして重ね合わせの直前でカバーフィルムを剥離することにより、異物の混入を防ぐことができる。カバーフィルムは、予め離型処理が施されているフィルムやポリオレフィン系の易剥離性のフィルムを好ましく用いることができる。これらを用いることで、シート状エポキシ樹脂組成物材料を加熱することなくキャリア材から容易に剥離することができる。その結果、重ねる枚数を調整することにより、厚みを調整することが容易となる。
【0063】
また、3枚以上のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料同士を重ね合わせる際には、その重ね合わせ順は任意であり、予め重ね合わせたもの同士をさらに重ね合わせてもよい。
【0064】
図1は、本発明の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法の一例を示した図である。この例では、一方のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1aは、シート状エポキシ樹脂組成物材料10a、キャリア材11a、およびカバーフィルム12aから構成され、予め不図示のロールに別工程として巻回しておいたものを用いている。
【0065】
他方のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1bは、キャリア材11b、およびエポキシ樹脂組成物を塗布、乾燥した直後のシート状エポキシ樹脂組成物材料10bから構成されている。
【0066】
そしてロール23、24を備えたロールラミネーター30により次のようにしてキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1aとキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1bとをラミネートする。エポキシ樹脂組成物の塗布、乾燥直後のインラインで連続的に、キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1bをロール22を経由してロールラミネーター30に供給する。一方、ロール20の下流にあるロール21でキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1aからカバーフィルム12aを剥離した後、キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1bをロールラミネーター30に供給する。そしてこれらのキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1aとキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料1bとをシート状エポキシ樹脂組成物材料10aおよびシート状エポキシ樹脂組成物材料10b同士が接するように重ね合わせてロールラミネーター30のロール23、24によりラミネートする。
【0067】
本発明では、以上のようにして最終的にシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚のキャリア材の内側に全て重ね合わせてシート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させる。この厚みが150μmよりも小さいとICや受動部品を埋め込んだ絶縁層を確保することが困難となる場合がある。一方、この厚みが500μmを超えると成形後の絶縁層が厚くなり価格面でのコスト高や重量面での重さの問題が生じる他、品質面では絶縁層を貫通するビア形成によるペーストの埋め込みが困難となる場合がある。
【0068】
このように本発明では複数枚のシート状エポキシ樹脂組成物材料を重ね合わせて厚膜化を容易に行うことができるので、高さのある受動部品やICの封止に特に有効である。また、最終的に得られる電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料内の揮発分が少なく、例えば加熱減量が160℃、15分間で0.5%以下のものを得ることができる。さらに、揮発分が厚みに対して均一な低揮発分の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を得ることができる。
【0069】
このようにして製造された電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を基板の成形材料として用い、例えば既に知られている方法を適用して、多層回路基板、部品内蔵基板、IC封止パッケージ、放熱用インシュレーター等を製造することができる。電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いた成形品は、電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を含む材料のプレス成形、あるいはロールラミネーター、真空ラミネーター等による成形を行った後、必要に応じて後硬化を行うことで硬化物として得ることができる。このような成形は、例えば、圧力0.1〜10MPa、温度150〜200℃、時間10〜240分の条件で行うことができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製、「850S」)を用いた。
【0071】
硬化剤として、フェノールノボラック樹脂(明和化成工業(株)製、「DL92」)を用いた。
【0072】
硬化促進剤として、イミダゾール(四国化成工業(株)製、「2E4MZ」)を用いた。
【0073】
無機充填剤として、シリカ((株)アドマテックス製、「SO25R」)を用いた。
【0074】
エポキシ樹脂を33質量部、硬化剤を33質量部、硬化促進剤を1質量部、無機充填剤を400質量部、その他の成分としてカップリング剤を4質量部配合し、これらをプラネタリーミキサーにて混練しエポキシ樹脂組成物を得た。
【0075】
これに溶剤のメチルエチルケトンを70質量部配合して希釈することによりスラリー状ワニスを得た。
【0076】
次に、このスラリー状ワニスを厚み75μmの東レフィルム加工(株)製フィルムからなるキャリア材に塗布した。なお、キャリア材の表面には予めシリコーンで離型処理が施されているものを用いた。
【0077】
その後、スラリー状ワニスを塗布したキャリア材を150℃で10分間加熱乾燥することにより、キャリア材の片面に半硬化状態の厚み150μmのシート状エポキシ樹脂組成物材料を有するキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を得た。キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料は2枚作製し、キャリア材とは反対の面にはカバーフィルムを被せた。
【0078】
これら2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を、カバーフィルムを剥
離した後、シート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するようにロールラミネーターで常圧で重ね合わせ、シート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが300μmとなるように厚膜化させた。このようにして電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を得た。<比較例1>
実施例1において、スラリー状ワニスを塗布したキャリア材を加熱乾燥することにより、キャリア材の片面に半硬化状態の厚み300μmの電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を得た。なお、乾燥温度は実施例1と同一で乾燥時間をそれぞれ15分、20分、25分として行った。
[評価]
実施例1および比較例1の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料について、加熱減量と可とう性の評価を行った。なお、加熱減量は、電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を165℃/15分で乾燥させその前後での重量を測定することにより測定した。
【0079】
評価の結果、加熱減量は、実施例1の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料では0.15%であった。これに対して比較例1の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料では乾燥時間15分、20分、25分のそれぞれについて0.35%、0.20%、0.13%であった。
【0080】
また、可とう性は、実施例1の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料では、ロールでの巻き取りも可能である上にカッターでの切断も粉落ちがなく容易であった。これに対して比較例1の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料では、乾燥時間15分のものは柔軟性があったが乾燥時間20分のものは加熱減量分が多い(0.2%)割には柔軟性に乏しく、ロールでの巻き取りは可能であったが、カッターでの切断の際の粉落ちが激しいものであった。また、乾燥時間25分のものはロールで巻き取りする際にヒビ割れするほど可とう性に問題が生じた。
【0081】
このように、キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料をシート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせて合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させた実施例1の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料は、加熱減量が非常に小さく可とう性(柔軟性)も有するものであった。そして、このような揮発分の少ない均一な乾燥状態の厚いシートを短時間で作製することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および無機充填剤を必須成分とし固形分濃度5〜95質量%で溶剤に希釈したエポキシ樹脂組成物をキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を少なくとも2枚用意する工程と、これらの前記キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち2枚を前記シート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせ、必要に応じてこの重ね合わせを複数回行うことにより、最終的に前記シート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚の前記キャリア材の内側に全て重ね合わせて前記シート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させる工程とを含むことを特徴とする電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物を乾燥後の厚みが75〜250μmとなるようにキャリア材に塗布、乾燥して得た半硬化状態のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を2枚用意し、これらの前記キャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料を前記シート状エポキシ樹脂組成物材料同士が接するように重ね合わせて前記シート状エポキシ樹脂組成物材料の合計厚みが150〜500μmとなるように厚膜化させることを特徴とする請求項1に記載の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法。
【請求項3】
前記2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料として、前記シート状エポキシ樹脂組成物材料の成形温度での流動性が互いに異なるものを用いることを特徴とする請求項2に記載の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法。
【請求項4】
前記2枚のキャリア材付きシート状エポキシ樹脂組成物材料のうち一方のものの前記シート状エポキシ樹脂組成物材料に、重量平均分子量20000〜1000000のニトリルブタジエンゴムまたはブタジエンゴムを0.1〜2質量%配合することを特徴とする請求項3に記載の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法。
【請求項5】
前記シート状エポキシ樹脂組成物材料の各々は、無機充填剤として、シリカ、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、およびフェライトから選ばれる少なくとも1種を前記エポキシ樹脂組成物の全量に対して50〜95質量%配合することを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項に記載の電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一項に記載の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする多層回路基板。
【請求項7】
請求項1ないし5いずれか一項に記載の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする部品内蔵回路基板。
【請求項8】
請求項1ないし5いずれか一項に記載の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とするIC封止パッケージ。
【請求項9】
請求項1ないし5いずれか一項に記載の方法により得られた電子部品封止用シート状エポキシ樹脂組成物材料を用いて成形されたものであることを特徴とする放熱用インシュレーター。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25907(P2012−25907A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168498(P2010−168498)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】