説明

電気自動車用のインバータ

【課題】スイッチング回路に不具合が発生し、UVW3相のうちの2相でモータを駆動する際の駆動効率の低下を抑制する。
【解決手段】インバータ100は、スイッチング回路群4の入力側に直列に接続されているコンデンサCp、Cnと、リレー回路5と、コントローラ2と電力調整回路3を備える。リレー回路5は、UVW3相の各モータ線の夫々の接続先を、インバータ主回路4から中性点Npへ切り換える。コントローラ2は、スイッチング回路群のいずれかが故障した場合、故障したスイッチング回路に対応するモータ線を中性点Npへ切り換えるとともに、2相でモータを駆動する駆動信号を故障していないスイッチング回路に与える。電力調整回路3は、入力端がバッテリ9に接続されており、3個の出力端は正極線10a、負極線10b、及び、中性点Npに接続されている。電力調整回路3は、2個のコンデンサの両端電圧の電圧差を既定の許容範囲に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪駆動用の電動機(モータ)を備える電気自動車用のインバータに関する。本明細書における「電気自動車」には、燃料電池車、及び、車輪駆動用のモータとエンジンを共に備えるハイブリッド車も含まれる。
【背景技術】
【0002】
車輪駆動用のモータを備える電気自動車では、不具合が発生しても、可能な限りモータを駆動し、走行できることが好ましい。そうすれば、安全な場所まで車両を移動できるからである。特許文献1には、モータを駆動するインバータのスイッチング回路群の一つに不具合が生じ、交流3相出力のうち1相が制御不能となっても残り2相でモータを駆動することのできるインバータが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された技術によると、インバータは、直流入力側(3相の交流電流を発生する6個のスイッチング回路群の入力側)にて正極線と負極線の間で直列に接続される2個のコンデンサを備えている。2個のコンデンサの接続点は「中性点」と呼ばれる。そして、そのインバータは、3相のアームのいずれかに不具合が発生した場合、不具合が発生したアームを中性点に接続し、残りの正常な2相でモータを駆動する。
【0004】
特許文献1の技術を電気自動車に適用すると、インバータのUVW3相出力のうち1相が故障しても走行することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−120883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、故障した1相をインバータ入力側の中性点に接続する。中性点は、正極線と負極線の間に直列に接続された2個のコンデンサ間の接続点であるため、インバータの正常な残り2相の交流出力により、中性点の電圧(基準電位に対する中性点の電位)が変動してしまう。中性点の電圧が変動すると、正常な2相の交流出力(出力電流波形)が乱れ、モータの駆動効率が低下する。特許文献1では、中性点の電圧変動を考慮した補正をモータ駆動信号に加えることによって、中性点の電圧変動によるモータ駆動効率の低下を抑制している。
【0007】
本明細書は、直接に中性点の電圧変動を抑制することにより、特許文献1のようにモータ駆動信号に特別な補正を加えることなく、モータ駆動効率低下を抑制することのできる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示するインバータは、バッテリの直流電力を交流電力に変換して車輪駆動用モータに供給する装置である。そのインバータは、3相の交流電流を発生する6個のスイッチング回路群の入力側にて正極線と負極線の間に直列に接続されている第1及び第2コンデンサを備えている。スイッチング回路とは、例えば、IGBTなどのトランジスタである。スイッチング回路群は、3相交流電流を出力するインバータの主回路に相当する。なお、スイッチング回路にはトランジスタに加え、他の要素、例えば、トランジスタと逆並列に接続される還流ダイオードなどが付随していてもよい。また、第1及び第2コンデンサは、容量が等しいことが好ましい。インバータはさらに、モータから出ているUVW3相の各モータ線の接続先を切り換えるリレーを備える、そのリレーは、各モータ線の夫々の接続先を、個別に、インバータの対応する出力端(UVW各相の出力端)から第1及び第2コンデンサの間の接続点(中性点)へと切り換える。リレーは、通常はモータ線をインバータ出力端に接続している。
【0009】
本明細書が開示するインバータのコントローラは、スイッチング回路群のいずれかが故障した場合、モータのUVW3相の各モータ線のうち故障したスイッチング素子に接続されているモータ線の接続先を中性点へ切り換えるようにリレーを制御するとともに、2相でモータを駆動するための所定の駆動信号を故障していないスイッチング素子に与える。なお、モータがPWM駆動タイプの場合は、モータへの駆動信号はPWM信号となる。モータがPAM駆動タイプの場合は、駆動信号はPAM信号となる。2相でモータを駆動するための駆動信号の一例(PWMタイプの場合)は、特許文献1を参照されたい。
【0010】
そして、本明細書が開示するインバータはさらに、電力調整回路を備える。電力調整回路は、2個の入力端と3個の出力端を備える。その入力端はバッテリに接続されており、3個の出力端は、正極線、負極線、及び、中性点に接続されている。その電力調整回路は、第1コンデンサ両端電圧と第2コンデンサ両端電圧との電圧差が予め定められた電圧差許容範囲を超えた場合に、その電圧差を電圧差許容範囲に戻す。第1と第2コンデンサの容量が等しい場合には、電力調整回路は、両コンデンサの分圧が等しくなるように動作する。上記のインバータは、正常な残りの2相が交流電流を出力しても電力調整回路が中性点の電位(基準電位に対する電位)を維持するので、モータの効率が低下しない。
【0011】
電力調整回路の一例は次の通りである。電力調整回路は、バッテリの正極をインバータの正極線に接続するとともにバッテリの負極をインバータの負極線に接続する。そして、正極線と負極線の間に2個のスイッチング回路が直列に接続されている。2個のスイッチング回路の中間点がリアクトルを介して中性点に接続している。
【0012】
ところで、自動車の走行中にインバータ出力の1相に不具合が発生し、3相による制御から2相の制御に切り換える際、モータが回転中であるため、逆起電力が発生している。このとき、インバータの上アームのスイッチング回路が短絡故障(スイッチング回路がONしたまま動かなくなる状態)を起こしていると、バッテリからの電流も加わり、不具合を生じた相に大きな電流が流れる。従って、モータ線の接続先を切り換えるリレーには、大電流に耐えられるだけの容量が要求される。容量が小さいと、切換時にアークが発生しリレーが損傷する虞がある。モータ駆動用のバッテリは大出力であり、さらに、車輪駆動用のモータは大出力タイプであるため逆起電力も大きい。そのため、想定し得る最大電流に耐え得る容量のリレーを採用するとコストが嵩む。そこで、故障した相のリレー切換時に大電流が流れないように、コントローラは次の通りに動作することが好ましい。即ち、コントローラは、スイッチング回路の故障が開放故障の場合は直ちにリレー切換信号を出力する。なお、開放故障とは、典型的には、断線、あるいは、スイッチング素子がOFFのままの状態となることである。開放故障の場合は故障したアームには電流は流れないので直ちにリレーを切り換えてもよい。他方、短絡故障の場合、コントローラは、故障していないスイッチング回路の全てをON状態に保持した後、短絡故障したスイッチング素子に流れる電流を計測する。スイッチング素子に流れる電流は、逆起電力に起因する交流成分(誘導電流成分)を有している。コントローラは、交流成分の経時変化を計測し、そのゼロクロスタイミングを特定する。そしてコントローラは、実際にリレーが切り換わるタイミングが誘導電流のゼロクロスタイミングに一致するようにリレー切換信号を出力する。別言すれば、コントローラは、リレー切換信号を出力してから実際にリレーが駆動するまでの遅延時間を考慮し、誘導電流のゼロクロスタイミングよりも遅延時間だけ先行するタイミングでリレー切換信号を出力する。そのような処理を行うことで、リレーが切り換わった際に大電流がリレーに流れることが防止できる。逆にいえば、容量の小さいリレーを採用することができる。
【0013】
遅延時間を考慮するコントローラの好適な一例は次の通りである。インバータはリレーを駆動する電圧を計測する電圧センサを備え、コントローラは、電圧センサによって計測された電圧に基づいて、リレー切換信号出力から実際にリレーが切り換わるまでの遅延時間を特定する。そしてコントローラは、特定した遅延時間に基づいて、実際にリレーが切り換わるタイミングが誘導電流のゼロクロスタイミングに一致するようにリレー切換信号を出力する。
【0014】
本明細書が開示する技術の一つは、3相出力のうちの1相に不具合が生じて残り2相でモータを駆動する際、モータ駆動効率低下を抑制する。また、本明細書が開示する技術の他の一つは、故障したアームに相当するモータ線の接続先を中性点に切り換える際にリレーに大きな電流が流れることを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例のインバータの回路図である。
【図2】故障を検知したときにコントローラが実行する処理のフローチャート図である。
【図3】大電流が流れていないときにリレーを切り換える処理のフローチャート図である。
【図4】U相上アーム短絡故障時の各相に流れる電流波形のグラフである(他のスイッチング回路はOFF状態)
【図5】U相上アーム短絡故障時の各相に流れる電流波形のグラフである(全てのスイッチング回路がON状態)
【図6】電流波形とリレー切換信号と実際のリレー動作の関係を示すグラフである。
【図7】大電流が流れていないときにリレーを切り換える処理のフローチャート図である(変形例)。
【図8】リレーを駆動する励磁電圧と遅延時間の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、実施例に係るインバータ100の回路図を示す。インバータ100は、電気自動車に搭載され、バッテリ9の直流電力を使って車輪駆動用のモータ6に交流電力を供給する装置である。インバータ100は、電力調整回路3、インバータ主回路4、リレー回路5、2個のコンデンサ(第1コンデンサCp、第2コンデンサCn)、及び、コントローラ2を主たる構成要素として備える。その他、インバータ100は、電圧センサ12と電流センサ13を備える。
【0017】
インバータ100の回路構成を詳しく説明する。インバータ主回路4は、6個のスイッチング回路Sw1〜Sw6で構成される。即ち、ここでは、バッテリ9の直流電力から3相の交流電力を発生する6個のスイッチング回路群をインバータ主回路4と称している。各スイッチング回路Sw1〜Sw6は、IGBTとダイオード(還流ダイオード)が逆並列に接続された回路構成を有している。なお、電流許容値の小さいIGBTで大電流を許容するスイッチング回路を構成するために、複数のIGBTを並列につないで一つのスイッチング回路を構成することもある。
【0018】
インバータ主回路4では、2個のスイッチング回路が直列に接続された組が3組並列に接続されており、直列の2個のスイッチング回路の接続点からモータへインバータ出力線が伸びている。インバータ主回路4の出力は、UVWの3本であり、その3本の出力線は、リレー回路5を通じてモータのUVW各線(モータ線14)に接続されている。3本の出力線の夫々と、その出力線に対応するスイッチング回路の組は「アーム」と呼ばれる。
【0019】
リレー回路5は、モータから出ているUVW3相の各モータ線14の接続先を、インバータの対応する出力端から中性点Np(後述)へ切り換えるためのスイッチである。リレー回路5は、3個のリレー5a、5b、及び、5cで構成され、モータ線14の各線の接続先を個別に、インバータ出力から中性点へ切り換えることができる。どのリレーを切り換えるかは、コントローラ2が指令する。各リレーは電力が供給されていない状態ではモータ線14をインバータの出力線に接続しており、リレーのコイルに所定の電圧を加えるとモータ線の接続先を中性点Npに切り換える。
【0020】
リレー回路5には電圧センサ12が備えられている。この電圧センサ12は、リレー駆動時にリレーの電磁石コイルに供給される電圧(励磁電圧)を計測するために設けられている。なお、電圧センサ12は、本実施例の変形例を説明するために図1に描いてある。
【0021】
その他、センサとして、モータ線14各線に流れる電流を計測する電流センサ13と、モータの回転数を計測する回転数センサ15が備えられている。電圧センサ12、電流センサ13、及び、回転数センサ15のセンサデータはコントローラ2に送られる。また、図示を省略しているが、インバータ100には、第1コンデンサCpの両端電圧Vcpと第2コンデンサCnの両端電圧Vcnを計測する電圧センサも備えられている。
【0022】
インバータ主回路4の入力端は、電力調整回路3を通じてバッテリ9に接続されている。図1では、バッテリ9の上側の線が正極線10aであり、下側の線が負極線10bである。
【0023】
インバータ主回路4の入力側(スイッチング回路群の入力側)において正極線と負極線の間に2個のコンデンサCpとCnが直列に接続されている。2個のコンデンサCpとCnの容量は等しい。この2個のコンデンサCp、Cnは、スイッチング回路群(インバータ主回路4)のスイッチング動作の影響による入力電流の脈動を抑制するために挿入されている。そのため、このコンデンサCp、Cnは、平滑化コンデンサと呼ばれることがある。
【0024】
2個のコンデンサCp、Cnの接続点が中性点Npに相当する。2個のコンデンサCp、Cnの容量は等しいため、インバータ主回路4が動作していない状態では、中性点Npの電位は、バッテリ9の電圧の半分である。他方、インバータ主回路4の出力側からみると、中性点Npの電位は、インバータ主回路4が出力する交流電圧における平均電圧に相当する。
【0025】
電力調整回路3が、コンデンサCp、Cnとバッテリ9の間に接続されている。電力調整回路3の入力端がバッテリ9に接続されており、3個の出力端が正極線10a、負極線10b、及び、中性点Npに接続されている。より詳しくは、電力調整回路3は、2個のスイッチング回路SwaとSwb、及び、リアクトルLで構成されている。スイッチング回路Swa、Swbはともに、インバータ主回路4内のスイッチング回路と構成は同じであり、IGBTとダイオードの逆並列回路で構成されている。2個のスイッチング回路SwaとSwbは、バッテリ9の正極線10aと負極線10bの間に直列に接続されている。2個のスイッチング回路SwaとSwbの接続点MpがリアクトルLの一端に接続しており、そのリアクトルLの他端が中性点Npに接続している。
【0026】
電力調整回路3は、インバータ主回路4の3相出力のうち1相に不具合が生じ、残り2相でモータを駆動する際にモータ駆動効率が低下することを防止する。その機能を説明する。コントローラ2は、インバータ主回路4のいずれかのスイッチング回路が故障し、UVW3相のうち1相に不具合が発生すると、不具合が発生したインバータ出力に接続されているモータ線の接続先を中性点に切り換え、残りの正常な2相で交流電力をモータ6に供給し、モータ6を駆動する。正常な2相は切り換えられたリレーを介して中性点と繋がるから、正常な2相に流れる交流電力の影響で中性点の電位が変動する。逆に、電流の下流側である中性点の電位が変化すると、モータ6に流れる交流電流の波形が乱れるのでモータの駆動効率が低下する。そこで、電力調整回路3が中性点の電位を一定に保持するように動作し、モータの駆動率の低下を防止する。
【0027】
電力調整回路3は、コンデンサCpとCnのそれぞれの両端電圧の差に応じて動作する。また、電力調整回路3はコントローラ2によって制御される。電力調整回路3の動作を概説する。なお、コンデンサCpの両端電圧を「Vcp」で表し、コンデンサCnの両端電圧を「Vcn」と表す。図示を省略しているが、コンデンサCpの両端電圧Vcpを計測する電圧センサとコンデンサCnの両端電圧Vcnを計測する電圧センサが備えられており、それら電圧センサのデータもコントローラ2に送られる。例えば、Vcp>Vcnの場合、コントローラ2は、図1の上側のスイッチング回路SwaをONにする(下側のスイッチング回路SwbはOFFに維持する)。そうすると、第1コンデンサCpに蓄えられた電荷がスイッチング回路Swaを通じて流れ、リアクトルLに電気エネルギが蓄積される。コントローラ2が上側のスイッチング回路SwaをOFFに切り換えると、下側スイッチング回路Swbに挿入された還流ダイオードの働きにより、リアクトルLに蓄積された電気エネルギは、第2コンデンサCnへと移る。コントローラ2は、スイッチング回路SwaのON時間を調整することで、第1コンデンサCpから第2コンデンサCnへ移す電荷量を調整できる。こうして、第1コンデンサCpの電荷が第2コンデンサCnに移動し、電圧差が是正される。即ち、コンデンサCpに蓄えられた容量とCnに蓄えられた容量のアンバランスが解消し、2個のコンデンサの分圧VcpとVcnがほぼ等しく保たれる。Vcp<Vcnの場合も同様である。なお、2個のコンデンサの分圧VcpとVcnは完全に等しくなくともよく、電力調整回路3は、電圧差|Vcp−Vcn|を所定の電圧差許容範囲Vthに維持できればよい。即ち、電圧調整回路3は、電圧差|Vcp−Vcn|が予め定められた電圧差許容範囲Vthを超えた場合に、その電圧差を電圧差許容範囲Vthに戻すように動作する。電圧差許容範囲Vthは、コンデンサの容量や、電圧差の大きさに対するモータの出力低下の程度など、個々の車両システムの特性に応じて予め定めればよい。
【0028】
次に、交流電力を発生するインバータ主回路4のスイッチング回路に故障が発生した場合の処理を詳しく説明する。図2に、いずれかのスイッチング回路に故障が発生した場合にコントローラ2が実行する処理のフローチャート図を示す。なお、故障の検知は、例えば、モータの回転数の脈動や、電流センサ13のセンサデータから検知することができる。コントローラ2は、モータ回転数の脈動幅(振幅)が所定の振幅上限値を超えた場合、あるいは、UVW3相のいずれかの相(アーム)に流れる電流が所定の電流範囲を外れた場合に、故障が発生したと判断する。あるいは、各スイッチング回路に故障検知器(具体的には例えば温度センサ)が備えられていてもよい。
【0029】
コントローラ2は、スイッチング回路群のいずれかのスイッチング回路に故障を検知すると(3相のうちの1相が制御不能となると)、リレー回路5の3個のリレーのうち、制御不能の相のリレーを切り換え、その相のモータ線を中性点Npに接続する(S2)。次にコントローラ2は、正常な残り2つの相を使ってモータを駆動する(S3)。なお、3相のうちの2相でモータを駆動する制御については、例えば、特開2004−120883号公報(特許文献1)、特開2008−067429号公報、あるいは特開2004−028007号公報などに開示された方法を採用すればよいので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0030】
コントローラ2は、車両が停止するまで、2相によるモータ制御を行う(S4:NO)。コントローラ2は、第1コンデンサCpの両端電圧Vcpと第2コンデンサCnの両端電圧Vcnの電圧差dV=|Vcp−Vcn|が所定の電圧差許容範囲Vth内であるか否かを監視する(S5)。電圧差dVが電圧差許容範囲Vthであれば、コントローラ2は、そのまま2相でのモータ制御を続行する(S5:YES、S3)。他方、電圧差dVが電圧差許容範囲Vthを外れている場合、コントローラ2は、電力調整回路3を駆動し、電圧差dVを小さくする(S5:NO、S6)。電力調整回路の動作については前述したとおりである。
【0031】
電力調整回路3の働きによって、電圧差dVが電圧差許容範囲Vthに収まれば、コントローラ2は、2相でのモータ制御を続行する(S7:YES、S3)。他方、電力調整回路3によっても電圧差dVが電圧差許容範囲Vthに収まらない場合、コントローラ2は、インバータの出力(正常な2相の出力電流の大きさ)を制限する(S8)。インバータの出力を制限すれば、中性点Npの電位の変動も小さくなり、電圧差dVが小さくなるからである。
【0032】
以上の処理により、インバータ100は、3相のうちの1相が制御不能になっても、正常な2相の出力によりモータ6を駆動し続けることができる。3相のうちの2相でモータを駆動するので本来のトルクを出力することはできないが、車両をゆっくり走行する程度のトルクは出力することができる。低速であっても車両を動かすことができれば、安全な場所まで移動できる。インバータ100は、電力調整回路3の働きにより、2相でモータを駆動する際、中性点の電位変動を抑制し、モータを可能な限り効率良く駆動することができる。
【0033】
車両の走行中、即ち、モータ6が車軸側から駆動されていると、逆起電力が発生し、モータ線14に逆起電力による交流電流(誘導電流)が流れる。このとき、上アームのスイッチング回路(図1のSw1、Sw3、Sw5のいずれか)が短絡故障(スイッチング回路がONのまま動かなくなった状態)を起こした場合は、バッテリ9からも電流が流れるので、故障した相には大きな電流が流れることになる。そのため、モータの回転中にリレー回路5を切り換えると、切り換えたリレーが損傷する虞がある。例えば大電流が流れている最中にリレーを切り換えるとアークが発生し、接点が焼け付く可能性がある。損傷を避けるために容量の大きいリレーを採用するとコストが嵩む。次に、リレー切換時に流れる電流を抑制する技術について説明する。
【0034】
図3に、大きな電流が流れていないタイミングでリレーを切り換える処理のフローチャート図を示す。図3の処理は、図2の処理に先だって実行される。
【0035】
スイッチング回路群のいずれかに故障が発見されると、コントローラ2は、まずインバータ主回路4を停止する(S12)。即ち、全てのスイッチング回路をOFFにする。ここで、故障した相に電流が流れれば、その故障は短絡故障(故障したスイッチング回路がONのまま動かなくなった状態)であることが判明する。他方、故障した相に電流が流れなければ、その故障は開放故障(故障したスイッチング回路がOFFのまま動かなくなった状態)であることが判明する。コントローラ2は、電流センサ13によって各相の電流をモニタし、故障のタイプを判別する(S13)。故障が開放故障の場合は、リレー回路5に大電流が流れる虞がないので、直ちに故障した相のモータ線の接続先を中性点Npに切り換えるようにリレー回路5を制御する。即ち、開放故障の場合は図2のステップS2へ移行する(S13:開放故障)。以後の処理は前述したとおりである。
【0036】
他方、故障が短絡故障の場合、コントローラ2は、モータ回転数(即ち車速)が所定の回転数閾値以下になるまで待機する(S14)。これは、逆起電力に起因する交流電流(誘導電流)の周波数が所定の値以下となるまで待つためである。交流電流の周波数が高いと、大電流が流れていないタイミングでリレーを作動させる際のそのタイミングの精度が低くなるからである。
【0037】
モータ回転数が回転数閾値以下となったら、コントローラ2はインバータ主回路4の全てのスイッチング回路(Sw1〜Sw6)をONにする(S15)。全てのスイッチング回路をONにする理由を説明する。図4は、U相の上アームのスイッチング回路(図1のSw1)が短絡故障を起こし、他のスイッチング回路が開放されているとき(スイッチング回路OFF)に逆起電力に起因して各相に流れる交流電流の波形である。U相上アームにはバッテリ9からの電流が加わるため電流値が大きくなる。図4の例の場合、150[A]がバッテリ9の寄与であり、±75[A]の交流成分が逆起電力による電流(誘導電流)である。他方、V相、W相は、U相とは反対に直流成分が負側にシフトする。図4の例の場合、U相を切り換えるリレー5a(図1参照)に最大200[A]以上の電流が流れる可能性がある。
【0038】
インバータ主回路4の全てのスイッチング回路をONに切り換えると、各相に流れる電流波形は図5の通りとなる。全ての相の電流が平均化され、電流値ゼロを中心に正負に振れる交流電流となる。このように全てのスイッチング回路をONにするだけで、短絡故障した相に流れる電流を抑制することができる。本実施例のインバータは、リレー切換時に流れる電流をさらに小さくする。
【0039】
一般にリレーは電磁コイルに電流を流し、接点を駆動する。そのため、リレーに切換信号を出力してから実際にリレーが作動するまで遅延時間Trdが存在する。リレーの機械的特性とコイルを駆動する電圧の大きさが既知であれば、遅延時間Trdも特定できる。コントローラ2は、予め定められた遅延時間Trdを記憶している。
【0040】
図3に戻り説明を続ける。コントローラ2は、逆起電力に起因する交流電流の周波数と位相を特定する(S16)。それらは、電流センサ13(図1参照)のセンサデータから得られる。図6(A)に、特定したU相の電流波形の一例を示す。なお、図6(B)は、リレー切換信号の出力タイミングTsを示しており、図6(C)は、実際にリレーが動作するタイミングTxを示している。図5にて示したように、全てのスイッチング回路をONにしたので、U相を流れる交流電流もゼロを中心として正負に振れる正弦波となる。コントローラ2は、電流センサ13のセンサデータから、ゼロクロス点Zxを検知し、電流の周波数fと位相(ゼロクロス点Zxのタイミング)を特定する。
【0041】
この正弦波のゼロクロス点Zxにてリレー5aを切り換えることができれば、流れる電流がゼロ(あるいは微小)のときにリレーを切り換えることができる。そこで、コントローラ2は、ゼロクロス点ZxとなるタイミングTxでリレー5aが作動するように、タイミングTxよりも遅延時間Trdだけ先行する時刻Tsでリレー切換信号を出力する。より具体的には、コントローラ2は、特定した電流の周波数fから、遅延時間Trdに相当する電流位相Ph(=2π×Trd/f)を算出する。コントローラ2は、ゼロクロス点Zxから位相(2π−Ph)を経過した時点をリレー切換タイミングとして決定する(S17)。コントローラ2は、電流センサ13のセンサデータからゼロクロス点Zxを検知し、ゼロクロス点Zxから位相(2π−Ph)経過したタイミング(即ちリレー切換タイミングTs)でリレー切換信号を出力する(S18、図6(B))。そうすると、リレー5aは遅延時間Trd(位相はPh)だけ遅れて動作するから、次のゼロクロス点Zx(タイミングTx)でリレー5aは切り換わる。即ち、リレー5aが切り換わるタイミングでは流れる電流はほぼゼロとなる。リレーを切り換えた後は、図3のステップ3へと移行すればよい。なお、リレー切換タイミングTsは、別言すれば、ゼロクロスタイミングから時間(1/f−Trd)経過後に相当する。
【0042】
例えばモータが6000[rpm]で回転していると、電流周波数fは100[Hz]となり、その周期は10[msec]となる。従ってリレー切換タイミングを1[msec]のオーダーで特定できなければ効果は小さい。遅延時間Trdは、リレーを駆動する電圧(励磁電圧)に依存し、励磁電圧は回路全体の電圧事情に依存する。そこで、より正確にリレー切換タイミングを特定するためには、遅延時間Trd、即ち、励磁電圧の大きさをリアルタイムで特定できるのがよい。図3の処理の改良として、励磁電圧をリアルタイムに計測し、その結果に基づいてリレー切換タイミングを特定する処理を図7に示す。
【0043】
図7の処理は、図3の処理のステップS16とS17の間にステップS21とS22を加えたものである。コントローラ2は、リレー回路5に備えられた電圧センサ12のセンサデータに基づいて、励磁電圧Vexを計測する(S21)。励磁電圧Vexと遅延時間Trdの間には、特定の関係がある。図8にその一例を示す。傾向として、励磁電圧Vexが大きいほど遅延時間は小さい。この関係は予め特定することができるので、図8のグラフ(あるいはグラフに相当する関係式)をコントローラ2は予め記憶している。コントローラ2は、計測された励磁電圧Vexと図8の関係から、遅延時間Trdをリアルタイムに特定する(S22)。遅延時間Trdが特定されれば、後は前述したステップS17、S18の処理に従ってリレー切換信号を出力する。図7の処理によれば、図3の処理よりも、電流のゼロクロス点により近いタイミングでリレーを切り換えることができる。
【0044】
図3あるいは図7の処理を備えるインバータ100は、故障した相のリレーを切り換える際にリレーに流れる電流が小さい。従ってインバータ100は、リレー回路5が損傷する可能性が小さいという利点を有する。
【0045】
実施例のインバータ100についての留意点を述べる。実施例のモータ6は、PWM駆動タイプであり、インバータ100が出力するモータ駆動信号はPWM信号であった。モータはPWM駆動タイプに限られない。例えば、PAM駆動タイプや他の駆動タイプであってもよい。また、実施例のインバータ100は、1モータの電気自動車用の装置であった。本明細書が開示する技術は、車輪を駆動するモータとエンジンを備えるハイブリッド車に適用することも好適である。また、図1に示した電力調整回路3の回路構成は一例であり、電力回路構成として他の回路構成も取り得ることに留意されたい。
【0046】
実施例では、いくつかのフローチャートを説明した。フローチャートにおける処理の順番は、本明細書が開示する技術的思想を超えない範囲で変更してもよい。例えば、図3のフローチャートでは、インバータの主回路を停止した後に(S12)、故障のタイプを判別する(S13)。そのような処理の順番に代えて、故障のタイプを判別した後にインバータの主回路を停止してもよい。なお、その場合は、故障のタイプが開放故障と短絡故障のいずれであってもインバータ主回路を停止するように図3のフローチャートは修正されることに留意されたい。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2:コントローラ
3:電力調整回路
4:インバータ主回路(スイッチング回路群)
5:リレー回路
5a、5b、5c:リレー
6:モータ
9:バッテリ
10a:正極線
10b:負極線
12:電圧センサ
13:電流センサ
14:モータ線
15:回転数センサ
100:インバータ
Cp:第1コンデンサ
Cn:第2コンデンサ
L:リアクトル
Np:中性点
Sw:スイッチング回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの直流電力を交流電力に変換して車輪駆動用モータに供給するインバータであり、
3相の交流電流を出力するスイッチング回路群の入力側にて正極線と負極線の間に直列に接続されている第1及び第2コンデンサと、
モータから出ているUVW3相の各モータ線の接続先を切り換えるリレーであり、各モータ線の接続先を、個別に、インバータの対応する出力端から第1及び第2コンデンサの間の接続点(中性点)へ切り換えるリレーと、
前記スイッチング回路群のいずれかが故障した場合に、モータのUVW3相の各モータ線のうち故障したスイッチング回路に接続されているモータ線の接続先を前記中性点へ切り換えるように前記リレーを制御するとともに、2相でモータを駆動するための駆動信号を故障していないスイッチング回路に与えるコントローラと、
入力端がバッテリに接続されているとともに、3個の出力端が正極線、負極線、及び、前記中性点に接続されており、第1コンデンサ両端電圧と第2コンデンサ両端電圧との電圧差が予め定められた電圧差許容範囲を超えた場合に、当該電圧差を前記電圧差許容範囲に戻すように動作する電力調整回路と、
を備えることを特徴とする電気自動車用インバータ。
【請求項2】
コントローラは、
スイッチング回路の故障が開放故障の場合は直ちにリレー切換信号を出力し、
短絡故障の場合は、故障していないスイッチング回路の全てをON状態に保持した後、短絡故障したスイッチング回路に流れる電流を計測し、実際にリレーが切り換わるタイミングが前記電流のゼロクロスタイミングに一致するようにリレー切換信号を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用インバータ。
【請求項3】
リレーを駆動する電圧を計測する電圧センサをさらに備え、
コントローラは、
電圧センサによって計測された電圧に基づいて、リレー切換信号出力から実際にリレーが切り換わるまでの遅延時間を特定し、
特定した遅延時間に基づいて、実際にリレーが切り換わるタイミングが前記ゼロクロスタイミングに一致するようにリレー切換信号を出力することを特徴とする請求項2に記載の電気自動車用インバータ。
【請求項4】
前記電力調整回路は、
バッテリの正極をスイッチング回路群の正極線に接続するとともにバッテリの負極をスイッチング回路群の負極線に接続し、
正極線と負極線の間に2個のスイッチング回路が直列に接続され、
2個のスイッチング回路の中間点を、前記中性点に接続する、
構成を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気自動車用インバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−110839(P2013−110839A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253546(P2011−253546)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】