説明

電流センサ

【課題】小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを提供すること。
【解決手段】磁化方向が略固定された強磁性固定層及び外部磁界に対して磁化方向が変動するフリー磁性層を含んで構成された複数の磁気検出部(32)と、前記フリー磁性層にバイアス磁界を印加するハードバイアス層を含んで構成された複数の永久磁石部(33)と、が交互に接して配置された磁気抵抗効果素子(12a、12b)を備え、隣接する前記永久磁石部(33)の間隔が20μm〜100μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を用いた電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や太陽電池などの分野では、被測定電流からの誘導磁界を検出して出力する磁気検出素子を備えた電流センサが用いられている。電流センサに使用される磁気検出素子としては、例えば、GMR素子などの磁気抵抗効果素子がある。
【0003】
GMR素子は、例えば、反強磁性層、強磁性固定層、非磁性材料層及びフリー磁性層などを含んで構成される。当該GMR素子において、強磁性固定層は反強磁性層上に接して設けられており、反強磁性層との間で生じる交換結合磁界により磁化方向が一方向に固定されている。フリー磁性層は、強磁性固定層上に非磁性材料層(非磁性中間層)を介して積層されており、外部磁界により磁化方向が変化するようになっている。
【0004】
GMR素子の電気抵抗は、外部磁界の印加によって変化するフリー磁性層の磁化方向と強磁性固定層の磁化方向との関係で変動する。このようなGMR素子を備えた電流センサにおいては、被測定電流による誘導磁界の印加により変動するGMR素子の電気抵抗値に基づき被測定電流の電流値を算出している。電流センサにおいて、磁気ヒステリシスによる特性低下を抑制するため、フリー磁性層にバイアス磁界を印加するためのハードバイアス層を備えたGMR素子を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるGMR素子は、フリー磁性層にハードバイアス層からの磁界が印加されることでフリー磁性層の磁化方向が初期化されるため、磁気ヒステリシスをある程度抑制できる。しかしながら、上述したGMR素子ではフリー磁性層がハードバイアス層上に接して設けられているため、フリー磁性層のハードバイアス層との接触部においてハードバイアス層のバイアス磁界によりフリー磁性層の磁化方向が強く固着されてしまう。その結果、被測定電流からの誘導磁界が作用しても接触部の磁化方向が変化せず、電流センサの検出感度や出力の線形性が低下してしまう。また、磁気ヒステリシスに関しても十分に抑制できるとは言い難い。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電流センサは、磁化方向が略固定された強磁性固定層及び外部磁界に対して磁化方向が変動するフリー磁性層を含んで構成された複数の磁気検出部と、前記フリー磁性層にバイアス磁界を印加するハードバイアス層を含んで構成された複数の永久磁石部と、が交互に接して配置された磁気抵抗効果素子を備え、隣接する前記永久磁石部の間隔が20μm〜100μmであることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、磁気抵抗効果素子において隣接する磁気検出部の間に永久磁石部を設けることになるためフリー磁性層とハードバイアス層との接触部の面積が大きくならずに済み、フリー磁性層の不感領域を十分に小さくできる。これに加えて、隣接する永久磁石部の間隔を20μm〜100μmとすることで、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを実現できる。
【0010】
本発明の電流センサにおいて、前記磁気検出部の幅が0.5μm〜1.5μmであることが好ましい。この構成によれば、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度が高度にバランスされた電流センサを実現できる。
【0011】
本発明の電流センサにおいて、前記フリー磁性層の磁化量が0.6memu/cm〜1.0memu/cmであることが好ましい。この構成によれば、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度が高度にバランスされた電流センサを実現できる。
【0012】
本発明の電流センサにおいて、前記永久磁石部は、隣接する前記磁気検出部を電気的に接続する導電層を含んで構成されたことが好ましい。この構成によれば、隣接する磁気検出部が導電層によって電気的に接続されるため、永久磁石部による電気抵抗の増大、ばらつきなどを抑制できる。これにより、測定精度が高い電流センサを実現できる。
【0013】
本発明の電流センサは、前記磁気抵抗効果素子を含んで構成され、誘導磁界に略比例する電圧差を生じる2つの出力を備える磁界検出ブリッジ回路を具備した磁気比例式電流センサであることが好ましい。フィードバックコイルなどの制御手段がない磁気比例式電流センサにおいては磁気抵抗効果素子の特性が電流センサの特性に直結するため、上述した構成により電流センサの特性を飛躍的に高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係る電流センサを示す模式図である。
【図2】本実施の形態に係る電流センサを示す平面模式図である。
【図3】本実施の形態に係る電流センサに用いられる磁気抵抗効果素子の平面模式図である。
【図4】本実施の形態に係る電流センサに用いられる磁気抵抗効果素子の積層構造を示す断面模式図である。
【図5】磁気抵抗効果素子において隣接する永久磁石部の間隔と磁気ヒステリシスとの関係を示す特性図である。
【図6】磁気抵抗効果素子において隣接する永久磁石部の間隔と非線形性との関係を示す特性図である。
【図7】磁気抵抗効果素子において隣接する永久磁石部の間隔と電流センサの感度との関係を示す特性図である。
【図8】磁気抵抗効果素子における磁気検出部の幅と磁気ヒステリシスとの関係を示す特性図である。
【図9】磁気抵抗効果素子における磁気検出部の幅と非線形性との関係を示す特性図である。
【図10】磁気抵抗効果素子における磁気検出部の幅と電流センサの感度との関係を示す特性図である。
【図11】磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の磁化量と磁気ヒステリシスとの関係を示す特性図である。
【図12】磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の磁化量と非線形性との関係を示す特性図である。
【図13】磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の磁化量と電流センサの感度との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
磁気抵抗効果素子を備えた電流センサにおいては、ハードバイアス層を設けてフリー磁性層に一軸異方性を付与することで磁気ヒステリシスの低減が可能となる。しかしながら、単にハードバイアス層とフリー磁性層とを配置するだけでは電流センサの諸特性が低下してしまうことがある。
【0017】
本発明者らは、上記電流センサの特性低下が、ハードバイアス層の間隔に起因して生じることを確認し、電流センサにおける磁気ヒステリシス、線形性、検出感度といった特性が、磁気検出パターンの一部を除去して設けられたハードバイアス層の間隔に大きく依存することを発見した。そして、隣接するハードバイアス層の間隔を20μm〜100μmとした場合に、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明の骨子は、フリー磁性層を含んで構成される磁気検出部と、ハードバイアス層を含んで構成される永久磁石部とを交互に配置することで磁気検出パターンを構成し、隣接する永久磁石部の間隔を20μm〜100μmとする点にある。以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1及び図2は、本発明の実施の形態に係る電流センサの一例を示す模式図である。図1及び図2に示される電流センサ1は磁気比例式の電流センサであり、被測定電流Iが流れる導体11の近傍に配設されている。なお、以下では、本発明による効果が特に顕著に表れる磁気比例式の電流センサ1について説明するが、本発明の適用対象はこれに限定されない。例えば、フィードバックコイルによって誘導磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生させ、フィードバックコイルを流れる電流から被測定電流の大きさを算出する磁気平衡式の電流センサに対して本発明を適用しても良い。
【0020】
図1および図2に示される電流センサ1は、導体11に流れる被測定電流Iによる誘導磁界Hを検出する磁界検出ブリッジ回路12を有する。磁界検出ブリッジ回路12は、被測定電流Iからの誘導磁界Hの印加により抵抗値が変化する2つの磁気抵抗効果素子12a、12b、及び誘導磁界Hにより抵抗値が変化しない2つの固定抵抗素子12c、12dにより構成されている。このように磁気抵抗効果素子を有する磁界検出ブリッジ回路12を用いることで、高感度の電流センサ1を実現できる。なお、磁界検出ブリッジ回路12は、4個の素子でなるフルブリッジ回路に限られない。2個の素子でなるハーフブリッジ回路としても良い。また、磁界検出ブリッジ回路12に用いられる磁気抵抗効果素子の数は適宜変更できる。例えば、4個の磁気抵抗効果素子を用いて磁界検出ブリッジ回路12を構成しても良い。
【0021】
磁界検出ブリッジ回路12は、被測定電流Iによる誘導磁界Hに対応する電圧差を生じる2つの出力Out1、Out2を備える。図2に示されるように、磁界検出ブリッジ回路12においては、磁気抵抗効果素子12aと固定抵抗素子12dとの接続点に電源Vddが接続されており、磁気抵抗効果素子12bと固定抵抗素子12cとの接続点にグランドGNDが接続されている。磁気抵抗効果素子12aと固定抵抗素子12cとの接続点には出力Out1が接続されており、磁気抵抗効果素子12bと固定抵抗素子12dとの接続点には出力Out2が接続されている。電流センサ1は、出力Out1及び出力Out2の電圧差を元に、被測定電流Iの電流値を算出する。
【0022】
磁気抵抗効果素子12a、12bは、図2の拡大図に示されるように、略平行に配置された複数の長尺パターンを含むミアンダ状の磁気検出パターンで構成されている。磁気抵抗効果素子12a、12bの感度軸方向は、長尺パターンの長手方向に対して略直交する方向である。このため、磁気抵抗効果素子12a、12bは、被測定電流Iによる誘導磁界Hの向きが長尺パターンの長手方向に対して略直交するよう配置される。磁気抵抗効果素子12a、12bとして、本実施の形態ではGMR(Giant Magneto Resistance)素子を用いる。ただし、TMR(Tunnel Magneto Resistance)素子などを用いても良い。
【0023】
図3は、本実施の形態に係る電流センサ1に用いられる磁気抵抗効果素子12a、12bの構成を示す平面模式図である。図3に示すように、磁気抵抗効果素子12a、12bにおいては、平面形状が略長方形状の複数の長尺パターン31を、当該長尺パターン31の長手方向(X方向)と直交する方向(Y方向)に、所定間隔を設けて略平行に配列させている。図3では、9個の長尺パターン31a〜31iを含む磁気検出パターンを示しているが、長尺パターン31の数はこれに限定されない。
【0024】
各長尺パターン31は、複数の磁気検出部32と、複数の永久磁石部33とを含んで構成されている。磁気検出部32は、長尺パターン31の長手方向において所定の間隔で離間して配置されている。また、隣接する2つの磁気検出部32の間には、1つの永久磁石部33が配設されている。すなわち、長尺パターン31は、磁気検出部32と永久磁石部33とを交互に接続して構成されている。
【0025】
長尺パターン31の配列方向(Y方向)において、最も外側に設けられた長尺パターン31aの一端部側(図3に示す左側端部)の永久磁石部33は、接続端子34aに接続されている。一方、長尺パターン31aの配列方向において、長尺パターン31aから最も離れて設けられた長尺パターン31iの他端部(図3に示す右側端部)の永久磁石部33は、接続端子34bに接続されている。
【0026】
長尺パターン31aの他端部と、この長尺パターン31aに隣接する長尺パターン31bの他端部とは、永久磁石部33によって接続され、長尺パターン31bの一端部と、この長尺パターン31bに隣接する長尺パターン31cの一端部とは永久磁石部33によって接続されている。同様に、長尺パターン31cの他端部と、隣接する長尺パターン31dの他端部とは、永久磁石部33によって接続され、長尺パターン31dの一端部と、隣接する長尺パターン31eの一端部とは永久磁石部33によって接続されている。さらに、長尺パターン31eの他端部と、隣接する長尺パターン31fの他端部とは、永久磁石部33によって接続され、長尺パターン31fの一端部と、隣接する長尺パターン31fの一端部とは永久磁石部33によって接続されている。長尺パターン31gの他端部と、隣接する長尺パターン31hの他端部とは、永久磁石部33によって接続され、長尺パターン31hの一端部と、隣接する長尺パターン31iの一端部とは永久磁石部33によって接続されている。このように、長尺パターン31の両端部の永久磁石部33は、接続端子34a、34bに接続する永久磁石部33を除き、隣接する長尺パターン31同士を接続する屈曲部分を構成しており、これによってミアンダ形状の磁気検出パターンが構成されている。なお、接続端子34a、34bに接続する永久磁石部33の形状に比べて、その他の永久磁石部33の形状は、長尺パターン31同士を共通に接続可能なように、長尺パターン31の配列方向に延在して形成されている。
【0027】
磁気抵抗効果素子12a、12bが有する接続端子34a、34bを通じて電源VddからグランドGNDに電流が流れると、ミアンダ状の磁気検出パターンの電気抵抗値に応じて電圧降下が生じる。ミアンダ状の磁気検出パターンの電気抵抗値は被測定電流Iの誘導磁界Hによって変動するようになっているため、電圧降下も誘導磁界Hの大きさに応じて変動する。接続端子34a、34bの一方は出力Out1、Out2の一方と接続されているため、出力Out1又は出力Out2には、ミアンダ状の磁気検出パターンにおいて生じた電圧降下に対応する電圧値、すなわち、誘導磁界Hの大きさに応じた電圧値が与えられる。出力Out1、Out2は、不図示の演算部と接続されており、出力Out1、Out2の電圧差から被測定電流Iを算出可能になっている。
【0028】
上述した長尺パターン31において、永久磁石部33は間隔D1で配置されている。言い換えれば、複数の磁気検出部32は、いずれも間隔D1と等しい長さL1(X方向の大きさ)で構成されている。間隔D1は、具体的には20μm〜100μmである。このようにすることで、電流センサ1の磁気ヒステリシスを小さく抑え、線形性を高め、検出感度を高めることができる。
【0029】
また、長尺パターン31において、複数の磁気検出部32は、いずれも幅W1(Y方向の大きさ)で構成されている。幅W1は、具体的には0.5μm〜1.5μmである。このようにすることで、電流センサ1の磁気ヒステリシス、線形性、検出感度を高度にバランスさせることができる。
【0030】
図4は、本実施の形態に係る電流センサ1に用いられる磁気抵抗効果素子12a、12bの積層構造を示す断面模式図である。図4では、図3のAA矢視断面に相当する断面を示している。図4に示されるように、磁気検出部32及び永久磁石部33は、不図示のシリコン基板などの基板に形成されたアルミニウム酸化膜41上に設けられている。アルミニウム酸化膜41は、例えば、スパッタリング法などにより形成することができる。各磁気検出部32は、互いに離間するように所定の間隔で設けられており、磁気検出部32の間には永久磁石部33が設けられている。
【0031】
磁気検出部32は、シード層42、第1の強磁性膜43、反平行結合膜44、第2の強磁性膜45、非磁性中間層46、フリー磁性層47、及び保護層48がこの順序で積層されることにより構成されている。磁気検出部32においては、反平行結合膜44を介して第1の強磁性膜43と第2の強磁性膜45とが反強磁性的に結合されており、いわゆるセルフピン止め型の強磁性固定層(SFP層:Synthetic Ferri Pinned層)49が構成されている。このように、磁気抵抗効果素子12a、12bは、強磁性固定層49、非磁性中間層46および軟磁性自由層47を用いたスピンバルブ型の素子である。
【0032】
シード層42は、NiFeCr、Crなどで構成される。なお、不図示の基板とシード層42との間には、例えば、Ta、Hf、Nb、Zr、Ti、Mo、Wのうち少なくとも1つの元素を含む非磁性材料などで構成される下地層を設けても良い。
【0033】
第1の強磁性膜43は、40原子%〜80原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。これは、この組成範囲のCoFe合金が、大きな保磁力を有し、外部磁場に対して磁化を安定に維持できるからである。なお、第1の強磁性膜43は、その成膜中において長尺パターン31の幅方向(Y方向、図3参照)に磁場が印加されることで、誘導磁気異方性が付与される。印加磁場の方向は、例えば、紙面奥側から手前側に向かう方向である。
【0034】
反平行結合膜44は、Ruなどにより構成される。なお、反平行結合膜44は、0.3nm〜0.45nm、または、0.75nm〜0.95nmの厚さで形成することが望ましい。反平行結合膜44をこのような厚さとすることにより、第1の強磁性膜43と第2の強磁性膜45との間に強い反強磁性結合をもたらすことができる。
【0035】
第2の強磁性膜45は、0原子%〜40原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。これは、この組成範囲のCoFe合金が小さな保磁力を有し、第1の強磁性膜43が優先的に磁化する方向に対して反平行方向(180°異なる方向)に磁化し易くなるためである。なお、第2の強磁性膜45は、成膜中に、第1の強磁性膜43の成膜中と同様の磁場(長尺パターン31の幅方向の磁場、例えば、紙面奥側から手前側に向かう方向の磁場)が印加されることにより、誘導磁気異方性が付与される。このような磁場を印加しながら成膜することで、第1の強磁性膜43が印加磁場の方向に優先的に磁化し、第2の強磁性膜45は第1の強磁性膜43の磁化方向とは反平行方向(180°異なる方向)に磁化する。
【0036】
非磁性中間層46は、Cuなどにより構成される。非磁性中間層46の構成は、所望の特性が得られるように適宜変更できる。
【0037】
フリー磁性層47は、CoFe合金、NiFe合金、CoFeNi合金などの磁性材料で構成される。フリー磁性層47は、成膜中に長尺パターン31の長さ方向(X方向、図3参照)に磁場が印加されることで、誘導磁気異方性が付与されたものであることが望ましい。これにより、ストライプ幅方向の外部磁場に対して線形に抵抗変化し、磁気ヒステリシスの小さい磁気抵抗効果素子12a、12bを実現できる。また、フリー磁性層47は、フリー磁性層の厚さやフリー磁性層を構成する磁性材料の選択などにより、磁化量が0.6memu/cm〜1.0memu/cmとなるように構成されている。このようにすることで、電流センサ1の磁気ヒステリシス、線形性、検出感度を高度にバランスさせることができる。
【0038】
保護層48は、Taなどで構成される。保護層48の構成は、所望の特性が得られるように適宜変更できる。
【0039】
なお、磁気検出部32において、第1の強磁性膜43の磁化量(Ms・t)と第2の強磁性膜45の磁化量(Ms・t)は実質的に同じであることが望ましい。第1の強磁性膜43と第2の強磁性膜45との間で磁化量の差が実質的にゼロとなることにより、強磁性固定層49の実効的な異方性磁界が大きくなる。これにより、反強磁性材料を用いなくても、強磁性固定層49の磁化安定性を十分に確保できる。また、第1の強磁性膜43のキュリー温度(Tc)と第2の強磁性膜45のキュリー温度(Tc)とは、実質的に同じであることが望ましい。これにより、高温環境においても第1の強磁性膜43、第2の強磁性膜45の磁化量(Ms・t)の差が実質的にゼロとなり、高い磁化安定性を維持することができる。
【0040】
永久磁石部33は、アルミニウム酸化膜41上に設けられた磁気検出部32の一部をエッチングなどによって除去した領域に設けられている。永久磁石部33は、アルミニウム酸化膜41の表面及び磁気検出部32の側面を覆うように設けられた下地層51と、下地層51上に設けられたハードバイアス層52と、ハードバイアス層52上に設けられた拡散防止層53と、拡散防止層53上に設けられた導電層54とを含んで構成されている。
【0041】
下地層51は、Ta、CrTi合金などにより構成される。下地層51は、ハードバイアス層52と磁気検出部32のフリー磁性層47との間に設けられており、磁気検出部32のフリー磁性層47へのバイアス磁界を適度に低減する。このような下地層51を設けることでハードバイアス層52とフリー磁性層47とが接触しないため、フリー磁性層47の磁化方向の固着が抑制される。これにより、フリー磁性層47の不感領域を十分に小さくでき、磁気ヒステリシスを低減できる。
【0042】
ハードバイアス層52は、磁気検出部32のフリー磁性層47に対してバイアス磁界を印加できるよう、CoPt合金、CoCrPt合金などにより構成される。ハードバイアス層52は、その下面がシード層42の下面より下方に位置し、その上面が保護層48の上面より上方に位置するように設けられており、ハードバイアス層52によってフリー磁性層47の側面領域が覆われるようになっている。このようにすることで、フリー磁性層47の感度軸方向に対して略直交方向からバイアス磁界を印加することが可能となり、磁気ヒステリシスをより効果的に低減できる。
【0043】
拡散防止層53は、ハードバイアス層52を覆うように設けられる。拡散防止層53は、Taなどで構成される。
【0044】
導電層54は、Au、Al、Cu、Cr、Taなどにより構成される。導電層54は、拡散防止層53を覆うように設けられている。また、導電層54は、長尺パターン31の長手方向(X方向)において、磁気検出部32の保護層48と接するように設けられており、永久磁石部33を挟むことにより離間された2つの磁気検出部32を電気的に接続する。このようにすることで、永久磁石部33のハードバイアス層52による寄生抵抗の影響を低減し、電気抵抗値の増大や電気抵抗のばらつきなどを抑制できる。その結果、高い測定精度を実現できる。
【0045】
以上のように、本実施の形態に係る電流センサ1に用いられる磁気抵抗効果素子12a、12bにおいて、隣接する永久磁石部33の間隔D1を20μm〜100μmとすることで、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを実現できる。
【0046】
図5は、磁気抵抗効果素子12a、12bにおいて隣接する永久磁石部33の間隔D1と磁気ヒステリシスとの関係を示す特性図である。図6は、磁気抵抗効果素子12a、12bにおいて隣接する永久磁石部33の間隔D1と非線形性との関係を示す特性図である。図7は、磁気抵抗効果素子12a、12bにおいて隣接する永久磁石部33の間隔D1と電流センサの感度との関係を示す特性図である。図5〜図7に係る特性の測定には、NiFeCr(シード層:4.2nm)/Fe60Co40(第1の強磁性膜:1.9nm)/Ru(反平行結合膜:0.4nm)/Co90Fe10(第2の強磁性膜:2.4nm)/Cu(非磁性中間層:2.2nm)/Co90Fe10(フリー磁性層:1nm)/Ni81.5Fe18.5(フリー磁性層:7nm)/Ta(保護層:10nm)という積層構造の磁気検出部32と、Ta(下地層:1.5nm)/CrTi(下地層:3.5nm)/CoPt(ハードバイアス層:60nm)/Ta(拡散防止層:5nm)/Au(導電層:120nm)/Ta(導電層:5nm)という積層構造の永久磁石部33とでなる磁気抵抗効果素子を用いた。磁気検出部32の幅W1は0.8μmに固定し、フリー磁性層の磁化量は0.68memu/cmに固定した。
【0047】
図5に係る磁気ヒステリシスは、−40mT印加後のゼロ磁場抵抗値をR0−とし、+40mT印加後のゼロ磁場抵抗値をR0+とし、−40mT印加時の抵抗値と+40mT印加時の抵抗値との差をΔRとして、R0−+R0+/ΔR×100(%)で定義して算出した。また、図6に係る非線形性は、−4mTから+4mTまで印加磁場を増加させた場合のR−H曲線とその線形回帰直線との最大の抵抗値差をΔRincとし、+4mTから−4mTまで印加磁場を減少させた場合のR−H曲線とその線形回帰直線との最大の抵抗値差をΔRdecとし、−4mT印加時の抵抗値と+4mT印加時の抵抗値との差をΔRとして、(ΔRinc/ΔR+ΔRdec/ΔR)/2×100(%)により算出した。また、図7に係る電流センサの感度は、−40mT印加後の+1mTでの抵抗値と+40mT印加後の+1mTでの抵抗値との平均値をR+1とし、−40mT印加後の−1mTでの抵抗値と+40mT印加後の−1mTでの抵抗値との平均値をR−1とし、上述したR0−とR0−との平均値をRとして、(R+1−R−1)/R/20で定義して算出した。
【0048】
図5の特性図において、永久磁石部33の間隔D1が20μmの点と、100μmの点とを境に特性図の傾き(近似直線a1、a2、a3の傾き)が変化している。図5から、近似直線a2と特性曲線が略一致する20μm〜100μmの範囲において磁気ヒステリシスが十分に小さくなることが分かる。同様に、図6の特性図において、永久磁石部33の間隔D1が20μmの点と、100μmの点とを境に特性図の傾き(近似直線b1、b2、b3の傾き)が変化している。図6から、近似直線b2と特性曲線が略一致する20μm〜100μmの範囲において非線形性が十分に低くなることが分かる。これは、20μm〜100μmの範囲において線形性が十分に高くなることを意味している。同様に、図7の特性図において、永久磁石部33の間隔D1が20μmの点を境に特性図の傾き(近似直線c1、c2の傾き)が変化している。図7から、近似直線c2と特性曲線が略一致する20μm〜において感度が十分に高くなることが分かる。
【0049】
このように、永久磁石部33の間隔D1を20μm〜100μmとすることで、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサが実現できる。
【0050】
図8は、磁気抵抗効果素子における磁気検出部32の幅W1と磁気ヒステリシスとの関係を示す特性図である。図9は、磁気抵抗効果素子における磁気検出部32の幅W1と非線形性との関係を示す特性図である。図10は、磁気抵抗効果素子における磁気検出部32の幅W1と電流センサの感度との関係を示す特性図である。図8〜図10に係る特性の測定には、NiFeCr(シード層:4.2nm)/Fe60Co40(第1の強磁性膜:1.9nm)/Ru(反平行結合膜:0.4nm)/Co90Fe10(第2の強磁性膜:2.4nm)/Cu(非磁性中間層:2.2nm)/Co90Fe10(フリー磁性層:1nm)/Ni81.5Fe18.5(フリー磁性層:7nm)/Ta(保護層:10nm)という積層構造の磁気検出部32と、Ta(下地層:1.5nm)/CrTi(下地層:3.5nm)/CoPt(ハードバイアス層:60nm)/Ta(拡散防止層:5nm)/Au(導電層:120nm)/Ta(導電層:5nm)という積層構造の永久磁石部33とでなる磁気抵抗効果素子を用いた。隣接する永久磁石部33の間隔D1は60μmに固定し、フリー磁性層の磁化量は0.68memu/cmに固定した。各特性の算出方法は、図5〜図7に係る場合と同様とした。
【0051】
図8の特性図において、磁気検出部32の幅W1が1.5μmの点を境に特性図の傾き(近似直線d1、d2の傾き)が変化している。図8から、近似直線d1と特性曲線が略一致する〜1.5μmにおいて磁気ヒステリシスが十分に小さくなることが分かる。同様に、図9の特性図において、磁気検出部32の幅W1が1.5μmの点を境に特性図の傾き(近似直線e1、e2の傾き)が変化している。図9から、近似直線e1と特性曲線が略一致する〜1.5μmにおいて非線形性が十分に低くなることが分かる。これは、〜1.5μmにおいて線形性が十分に高くなることを意味している。また、図10の特性図において、磁気検出部32の幅W1が0.6μmの点を境に特性図の傾き(近似直線f1、f2の傾き)が変化している。図10から、近似直線f2と特性曲線が略一致する0.6μm〜において感度が高くなることが分かる。
【0052】
このように、磁気検出部32の幅W1を0.6μm〜1.5μmとすることで、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度が高度にバランスされた電流センサを実現できる。
【0053】
図11は、磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の磁化量(Ms・t)と磁気ヒステリシスとの関係を示す特性図である。図12は、磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の磁化量と非線形性との関係を示す特性図である。図13は、磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層の磁化量と電流センサの感度との関係を示す特性図である。図11〜図13に係る特性の測定には、NiFeCr(シード層:4.2nm)/Fe60Co40(第1の強磁性膜:1.9nm)/Ru(反平行結合膜:0.4nm)/Co90Fe10(第2の強磁性膜:2.4nm)/Cu(非磁性中間層:2.2nm)/Co90Fe10(フリー磁性層:1nm)/Ni81.5Fe18.5(フリー磁性層:xnm)/Ta(保護層:10nm)という積層構造の磁気検出部32と、Ta(下地層:1.5nm)/CrTi(下地層:3.5nm)/CoPt(ハードバイアス層:60nm)/Ta(拡散防止層:5nm)/Au(導電層:120nm)/Ta(導電層:5nm)という積層構造の永久磁石部33とでなる磁気抵抗効果素子を用いた。フリー磁性層の磁化量は、フリー磁性層であるNi81.5Fe18.5層の膜厚を変更することで調節した。測定点に対応するNi81.5Fe18.5層の膜厚を図11〜図13中に示す。隣接する永久磁石部33の間隔D1は60μmに固定し、磁気検出部32の幅W1は0.8μmに固定した。各特性の算出方法は、図5〜図7に係る場合と同様とした。
【0054】
図11の特性図において、フリー磁性層の磁化量が0.6memu/cmの点を境に特性図の傾き(近似直線g1、g2の傾き)が変化している。図11から、近似直線g2と特性曲線が略一致する0.6memu/cm〜において磁気ヒステリシスが十分に小さくなることが分かる。同様に、図12の特性図において、フリー磁性層の磁化量が0.6memu/cmの点を境に特性図の傾き(近似直線h1、h2の傾き)が変化している。図12から、近似直線h2と特性曲線が略一致する0.6memu/cm〜において非線形性が十分に低くなることが分かる。これは、0.6memu/cm〜において線形性が十分に高くなることを意味している。また、図13の特性図において、フリー磁性層の磁化量が1.0memu/cmを超えると、十分な感度が得られなくなっている。すなわち、図13から、〜1.0memu/cmにおいて感度が高くなることが分かる。
【0055】
このように、フリー磁性層の磁化量を0.6memu/cm〜1.0memu/cmとすることで、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度が高度にバランスされた電流センサを実現できる。
【0056】
以上のように本発明では、電流センサに用いられる磁気抵抗効果素子において、隣接する永久磁石部の間隔を20μm〜100μmとすることで、小さい磁気ヒステリシス、高い線形性、及び高い検出感度を併せ持つ電流センサを実現できる。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。例えば、各長尺パターンは、複数の永久磁石部と複数の磁気検出部とが所定の間隔で離間するように配置される形態に限定されない。各長尺パターンが、長さが20μm〜100μmの一つの磁気検出部と、その両端の永久磁石部とで構成されていても良い。また、上記実施の形態における材料、各素子の接続関係、厚さ、大きさ、製法などは適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明は、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば、電気自動車のモータ駆動用の電流の大きさを検出する電流センサに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 電流センサ
11 導体
12 磁界検出ブリッジ回路
12a、12b 磁気抵抗効果素子
12c、12d 固定抵抗素子
31 長尺パターン
32 磁気検出部
33 永久磁石部
34a、34b 接続端子
41 アルミニウム酸化膜
42 シード層
43 第1の強磁性膜
44 反平行結合膜
45 第2の強磁性膜
46 非磁性中間層
47 フリー磁性層
48 保護層
49 強磁性固定層
51 下地層
52 ハードバイアス層
53 拡散防止層
54 導電層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が略固定された強磁性固定層及び外部磁界に対して磁化方向が変動するフリー磁性層を含んで構成された複数の磁気検出部と、前記フリー磁性層にバイアス磁界を印加するハードバイアス層を含んで構成された複数の永久磁石部と、が交互に接して配置された磁気抵抗効果素子を備え、隣接する前記永久磁石部の間隔が20μm〜100μmであることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記磁気検出部の幅が0.5μm〜1.5μmであることを特徴とする請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記フリー磁性層の磁化量が0.6memu/cm〜1.0memu/cmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記永久磁石部は、隣接する前記磁気検出部を電気的に接続する導電層を含んで構成されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子を含んで構成され、誘導磁界に略比例する電圧差を生じる2つの出力を備える磁界検出ブリッジ回路を具備した磁気比例式電流センサであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電流センサ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−55281(P2013−55281A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193709(P2011−193709)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(310014322)アルプス・グリーンデバイス株式会社 (47)
【Fターム(参考)】