説明

電磁波照射成形用のゴム型及び電磁波照射成形方法

【課題】ゴム型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う場合に、キャビティの内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物を積極的に加熱することができ、成形する樹脂成形品の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる電磁波照射成形用のゴム型及び電磁波照射成形方法を提供すること。
【解決手段】電磁波照射成形用のゴム型2は、ゴム材料からなり、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して、キャビティ22内に充填する熱可塑性樹脂組成物6Aを加熱成形するために用いる。ゴム型2は、キャビティ22の内壁面221に赤外線吸収性能を有する表面層25を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を照射してキャビティ内に充填する熱可塑性樹脂を加熱成形するために用いるゴム型及び電磁波照射成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いて所定形状の樹脂成形品を得る方法としては、一般的には、射出成形、ブロー成形、押出成形、プレス成形等の種々の成形方法がある。
これに対し、特に特許文献1においては、ゴム製の成形型を用いて、熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を真空注型法により成形する際に、成形型に対して熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる樹脂成形方法が開示されている。この樹脂成形方法においては、成形型のキャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する際に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射し、成形型を構成するゴムと熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム製の成形型に比べて、熱可塑性樹脂を積極的に加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶融した熱可塑性樹脂をゴム型に充填する際には、この溶融状態の熱可塑性樹脂がゴム型のキャビティにおける内壁面付近において冷却され、その粘度が高くなってしまうことがある。この場合、熱可塑性樹脂の流動性が低下し、表面精度のよい樹脂成形品を得ることが困難になることがある。これに対して、電磁波の照射強度を上げると、ゴム型の劣化が早まり、その可能な使用回数が少なくなる、又は成形する樹脂成形品の表面精度が低下する等の問題が生じることがあった。また、同様に、電磁波の照射時間を長くすると、成形する樹脂成形品の劣化が促進されることもあった。
また、上記熱可塑性樹脂の流動性低下の問題は、特に、成形する樹脂成形品が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂自体の粘度が高い場合等に、顕著になる傾向がある。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、ゴム型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う場合に、キャビティの内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物を積極的に加熱することができ、成形する樹脂成形品の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる電磁波照射成形用のゴム型及び電磁波照射成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ゴム材料からなり、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して、キャビティ内に充填する熱可塑性樹脂組成物を加熱成形するために用いるゴム型であって、
該ゴム型は、上記キャビティの内壁面に赤外線吸収性能を有する表面層を有していることを特徴とする電磁波照射成形用のゴム型にある(請求項1)。
【0007】
第2の発明は、上記電磁波照射成形用のゴム型を用いて、樹脂成形品を成形する方法であって、
上記キャビティ内に粒子状態の熱可塑性樹脂組成物を配置する配置工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内における上記熱可塑性樹脂組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射し、該熱可塑性樹脂組成物を加熱して溶融させる加熱工程と、
上記キャビティにおいて残された未充填の空洞部分に、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を充填する充填工程と、
上記キャビティ内の熱可塑性樹脂組成物を冷却して樹脂成形品を得る冷却工程とを含むことを特徴とする電磁波照射成形方法にある(請求項3)。
【0008】
第3の発明は、上記電磁波照射成形方法によって得られたことを特徴とする樹脂成形品
にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明においては、ゴム型を介してキャビティ内における熱可塑性樹脂組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射する。このとき、ゴム型を構成するゴム材料と熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂組成物を選択的に加熱することができる(熱可塑性樹脂組成物の加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型の温度上昇を抑制して、熱可塑性樹脂組成物を溶融させることができる。
【0010】
そして、本発明のゴム型は、そのキャビティの内壁面に赤外線吸収性能を有する表面層を有していることにより、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を表面層に積極的に吸収させることができる。これにより、キャビティの内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物を積極的に加熱することができ、この内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物の粘度上昇を防ぎ、その流動性の低下を抑制することができる。そのため、ゴム型によって成形する樹脂成形品の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0011】
第2の発明においては、まず、配置工程として、ゴム型のキャビティ内に、粒子状態の熱可塑性樹脂組成物を配置する。このとき、この熱可塑性樹脂組成物は、キャビティのほぼ全体に充填することができ、またキャビティの一部に充填することもできる。
次いで、加熱工程として、ゴム型を介してキャビティ内における熱可塑性樹脂組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射する。このとき、上記第1の発明と同様に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波をゴム型の表面層に積極的に吸収させることができる。これにより、キャビティの内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物を積極的に加熱することができ、この内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物の粘度上昇を防ぎ、その流動性の低下を抑制することができる。
【0012】
次いで、充填工程として、粒子状態の熱可塑性樹脂組成物が溶融することによってキャビティ内に残された未充填の空洞部分に、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を充填する。このとき、加熱工程の前にゴム型のキャビティ内において粒子状態の熱可塑性樹脂組成物が存在していた部分、ゴム型のキャビティ内の鉛直方向下側に位置する部分、あるいはゴム型のキャビティの表面等には、粒子状態の熱可塑性樹脂組成物が充填されている。そして、キャビティ内に新たに充填する溶融状態の熱可塑性樹脂組成物の充填量を少なくすることができる。
【0013】
これにより、充填圧力をあまり高くすることなくキャビティの全体へ熱可塑性樹脂組成物を充填することができ、ゴム型の変形及び開きを効果的に抑制することができる。そのため、ゴム型における分割面(パーティング面)からの樹脂漏れを防止することができ、冷却工程によって樹脂成形品を得たときには、この樹脂成形品の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
なお、配置工程において用いる粒子状態の熱可塑性樹脂組成物と充填工程において用いる溶融状態の熱可塑性樹脂組成物とには、同一の熱可塑性樹脂組成物を用いることができ、異なる熱可塑性樹脂組成物を用いることもできる。また、異なる熱可塑性樹脂組成物を用いる場合には、機械的強度を高くするため、相溶性の高い熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
第3の発明の樹脂成形品は、電磁波照射成形方法によって得られたものであり、外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における、電磁波照射成形方法における配置工程を行った状態を示す説明図。
【図2】実施例における、電磁波照射成形方法における真空工程及び加熱工程を行う状態を示す説明図。
【図3】実施例における、電磁波照射成形方法における充填工程を行った状態を示す説明図。
【図4】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについての光の透過率を示すグラフ。
【図5】実施例において、小形樹脂粒子と大形樹脂粒子とをゴム型のキャビティ内に充填する状態を示す説明図。
【図6】実施例において、大形樹脂粒子のみをゴム型のキャビティ内に充填する状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した本発明の電磁波照射成形用のゴム型及び電磁波照射成形方法における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波により、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる理由としては、以下のように考える。
すなわち、ゴム型の表面に照射された0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波は、ゴム型に吸収される割合に比べて、ゴム型を透過して熱可塑性樹脂に吸収される割合が多いと考える。そのため、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波による光のエネルギーが熱可塑性樹脂に優先的に吸収されて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができると考える。
【0017】
また、上記ゴム型を介して上記熱可塑性樹脂組成物に照射する電磁波としては、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波だけでなく、これ以外の領域の電磁波も含まれていてもよい。この場合において、ゴム型を介して熱可塑性樹脂に照射する電磁波は、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を、これ以外の領域の電磁波よりも多く含むことが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂の加熱に、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を用いる理由は、この波長の領域の電磁波は、ゴム型を透過し易い性質を有する一方、熱可塑性樹脂に吸収され易い性質を有するためである。
【0018】
また、上記電磁波は、0.78〜2μmの波長領域に強度のピークを有していることが好ましい。この場合には、電磁波発生源として、出射する電磁波の波長に所定の分布特性を有するハロゲンヒータ、赤外線ランプ等を用いることができる。
上記ゴム型は、ゴム材料としての透明又は半透明のシリコーンゴムから形成することができる。このシリコーンゴムの硬度は、JIS−A規格測定において25〜80とすることができる。
【0019】
上記粒子状態の熱可塑性樹脂組成物(樹脂粒子)は、機械的粉砕法(常温、冷凍粉砕、湿式粉砕、ジェット粉砕)、噴霧法(乾燥、凝固)、強制乳化法(溶融乳化、溶液乳化)、懸濁重合法、乳化重合法等の種々の方法によって作り出すことができる。
例えば、上記樹脂粒子としては、押出機によって得た熱可塑性樹脂のペレットを冷凍粉砕して作り出したものを用いることができる。冷凍粉砕によれば、種々の粒径の樹脂粒子を作り出すことができる。また、樹脂粒子としては、押出機の先端に細口径のダイスを取り付けて、いわゆる水中カット方式で作り出したものを用いることもできる。この押出水中カット方式によれば、0.5mm程度の樹脂粒子を簡単かつ安価に作り出すことができる。
また、樹脂粒子は、必要に応じて、分級、ふるい分け等を行って得ることもできる。
【0020】
上記熱可塑性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂としては、0.78〜2μmの波長領域の電磁波を吸収し、加熱が促進されるものを用いることができる。
熱可塑性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する重合体を含むものであれば、特に限定されず、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン樹脂)等のゴム強化スチレン系樹脂、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、イミド系樹脂、ケトン系樹脂、スルホン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、感光性樹脂、液晶ポリマー、生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記熱可塑性樹脂のうち、成形品の成形に好適なものとして、ゴム強化スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリカーボネート樹脂のアロイ、ゴム強化スチレン系樹脂及びポリカーボネート樹脂のアロイ、ゴム強化スチレン系樹脂及びポリエステル系樹脂のアロイ等が挙げられる。
【0022】
また、第1の発明において、上記表面層は、赤外線吸収剤を含有する液体を塗布することによって得られ、該赤外線吸収剤の塗布量が0.01〜100g/m2であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、赤外線吸収剤の塗布量が適切であり、上記キャビティの内壁面付近における熱可塑性樹脂組成物を積極的に加熱する効果を容易に得ることができる。
表面層は、赤外線吸収剤を含有する液体を塗布した後、乾燥させて形成することができる。表面層は、ゴム型を使用する複数回に亘って形成状態を維持できるようにすることができ、また、樹脂成形品の成形を1回又は複数回行った後に再びキャビティの内壁面に形成することもできる。
【0023】
上記赤外線吸収剤を含有する液体の塗布は、赤外線吸収剤を溶解した溶液、赤外線吸収剤を分散した懸濁液、赤外線吸収剤を乳化した乳化液等の塗布によって行うことができる。また、赤外線吸収剤を含有する液体は、赤外線吸収性能を有する種々の塗料とすることができる。
また、上記表面層は、赤外線吸収剤を含有する樹脂のフィルムをキャビティの内壁面に貼着することによって形成することもできる。
【0024】
また、上記赤外線吸収剤としては、0.78〜2μmの近赤外線の波長領域を含む電磁波を吸収する種々のものを用いることができる。
赤外線吸収剤としては、無機系赤外線吸収剤又は有機系赤外線吸収剤のいずれを用いることもできる。無機系赤外線吸収剤としては、金属粒子、カーボンブラック、酸化錫、酸化亜鉛、酸化銅等の金属酸化物、アンチモンドープ酸化錫、インジウムドープ酸化錫、In、Ga、Al及びSbよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有する酸化亜鉛等の金属錯体化合物などが挙げられる。
有機系赤外線吸収剤としては、アントラキノン系色素、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アゾメチン系色素、アゾ系色素、ポリアゾ系色素、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、インドシアニン系色素、ナフトキノン系色素、インドールフェノール系色素、トリアリルメタン系色素、金属錯体系色素、ジチオールニッケル錯体系色素、アゾコバルト錯体系色素、スクワリリウム系色素などが挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の電磁波照射成形用のゴム型及び電磁波照射成形方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の電磁波照射成形用のゴム型2は、図1〜図3に示すごとく、ゴム材料からなり、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して、キャビティ22内に充填する熱可塑性樹脂組成物6Aを加熱成形するために用いる。このゴム型2は、キャビティ22の内壁面221に赤外線吸収性能を有する表面層25を有している。
【0026】
以下に、本例の電磁波照射成形用のゴム型2及び電磁波照射成形方法につき、図1〜図4を参照して詳説する。
本例においては、熱可塑性樹脂組成物6A、6Bとして、非晶性樹脂であると共にゴム強化スチレン系樹脂であるABS樹脂を用いる。
また、本例のゴム型2は、透明又は半透明のシリコーンゴムからなる。このゴム型2は、成形する樹脂成形品60のマスターモデル(手作りの現物等)を液状のシリコーンゴム内に配置し、このシリコーンゴムを硬化させ、硬化後のシリコーンゴムを切り開いて、このシリコーンゴムからマスターモデルを取り出すことによって作製することができる。
【0027】
また、図1に示すごとく、本例のゴム型2は、1つの分割面20を形成して2つの分割型部21を組み合わせて形成した。これに対し、ゴム型2は、成形する樹脂成形品60の形状が複雑な場合は、3つ以上の分割型部21を組み合わせて形成することもできる。なお、成形時においては、複数の分割型部21は、型開きを防止する手段によって、組み合わせた状態を保持する。また、分割面20は、不規則な波形状等に形成することにより、分割型部21同士の位置合わせを容易に行うことができる。
【0028】
本例の電磁波照射成形方法においては、成形装置1を用いて、ゴム型2への熱可塑性樹脂の射出成形を行う。図1〜図3に示すごとく、成形装置1は、以下の圧力容器3、真空ポンプ31、注入シリンダー52、射出シリンダー53、電磁波発生手段4、フィルター43を有している。
圧力容器3は、ゴム型2を収容するよう構成してあり、この圧力容器3に接続した真空ポンプ31によって真空状態を形成するよう構成してある。注入シリンダー52は、ゴム型2に形成した注入部23を介してキャビティ22内へ、粒子状態の熱可塑性樹脂組成物6Aを注入するよう構成してある。射出シリンダー53は、ゴム型2に形成した注入部23を介してキャビティ22内へ、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物6Bを所定の圧力で射出するよう構成してある。本例においては、射出シリンダー53からゴム型2内へ射出する溶融状態の熱可塑性樹脂組成物6Bの圧力は、0.5〜5MPaとする。
【0029】
電磁波発生手段4は、電磁波(光)の発生源41と、この発生源41による電磁波をゴム型2の方向へ導くリフレクタ(反射板)42とを有している。本例の電磁波発生手段4としては、近赤外線領域内の約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いる。この近赤外線ハロゲンヒータは、0.78〜4μmの波長領域を含む電磁波を出射するよう構成されている。本例のフィルター43は、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させる石英ガラスである。
なお、図2、図3において、電磁波発生手段4から出射する電磁波を矢印Xで示す。
【0030】
また、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波(光)に対する吸光度(特定の波長の光に対する吸収強度を示す尺度)は、熱可塑性樹脂として用いるABS樹脂の方が、ゴム製のゴム型2として用いるシリコーンゴムよりも大きくなっている。なお、吸光度は、例えば、島津製作所製UV3100を用いて測定することができる。
【0031】
図4は、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについて、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、各シリコーンゴムにおける光の透過率を示すグラフである。同図において、各シリコーンゴムは、200〜2200(nm)の間の波長の光を透過させることがわかる。そのため、この波長の領域である近赤外線(0.78〜2μmの波長領域の光)をシリコーンゴム製のゴム型2の表面に照射すると、当該近赤外線の多くを、ゴム型2を透過させて熱可塑性樹脂に吸収させることができる。そして、ゴム型2に比べて熱可塑性樹脂を選択的に加熱できることがわかる。
【0032】
本例のゴム型2のキャビティ22の内壁面221における表面層25は、赤外線吸収剤を含有する塗料を塗布し、乾燥させることによって、溶媒を蒸発させて得られたものである。本例の表面層25における赤外線吸収剤の塗布量は0.01〜100g/m2である。
なお、表面層25は、赤外線吸収剤を含有する樹脂のフィルムをキャビティ22の内壁面221に貼着することによって形成することもできる。また、ゴム型2自体(ゴム型2を作製する際に用いるゴム材料)に赤外線吸収剤を含有させることも考えられる。しかし、この方法によると、ゴム型2自体の温度上昇を促進することになる。そのため、ゴム型2のキャビティ22の内壁面221に赤外線吸収剤を含有する表面層25を形成することが好ましい。
【0033】
次に、上記成形装置1を用いて樹脂成形品60を製造する方法につき詳説する。
本例の電磁波照射成形方法においては、ゴム型2に熱可塑性樹脂を充填して樹脂成形品60を成形するに当たり、粒子状態の熱可塑性樹脂組成物6Aと、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物6Bとを用いる。本例においては、熱可塑性樹脂組成物6Aと熱可塑性樹脂組成物6Bとには、組成が互いに異なるABS樹脂を用いる。
また、粒子状態の熱可塑性樹脂組成物6Aには、粒子径が1〜100μmの小形樹脂粒子62を0.1〜20質量%含有し、残部が小形樹脂粒子62よりも大きく、粒子径が200〜3000μmの大形樹脂粒子61からなるものを用いる。
【0034】
樹脂成形品60を成形するに当たっては、まず、図1に示すごとく、配置工程として、開いた状態のゴム型2に対し、分割型部21におけるキャビティ22の内壁面221に、粒子径が1〜100μmの小形樹脂粒子62を振り掛けて配置する。次いで、注入シリンダー52を、閉じた状態のゴム型2の注入部23にセットし、ゴム型2のキャビティ22内に、粒子径が200〜3000μmの大形樹脂粒子61を投入する。このとき、キャビティ22内に投入する熱可塑性樹脂組成物6Aの含有比率は、大形樹脂粒子61が80〜99.9質量%となり、小形樹脂粒子62が0.1〜20質量%となるようにする。そして、キャビティ22のほぼ全体に、熱可塑性樹脂組成物6Aを配置(充填)する。
【0035】
小形樹脂粒子62をキャビティ22の内壁面221に振り掛けたときには、この小形樹脂粒子62の多くは、キャビティ22の内壁面221に付着する。ここで、本例のゴム型2はシリコーンゴムから形成されており、小形樹脂粒子62は、その粒子径が1〜100μmであることによって、シリコーンゴムからなるキャビティ22の内壁面221に効果的に付着させることができる。
【0036】
また、大形樹脂粒子61をキャビティ22内に投入するときには、キャビティ22の内壁面221には小形樹脂粒子62が付着した状態にある。これにより、大形樹脂粒子61は、キャビティ22内における小形樹脂粒子62の内側を通過(落下)させることができる。そのため、キャビティ22内への熱可塑性樹脂組成物6Aの充填を円滑に行うことができる。なお、小形樹脂粒子62及び大形樹脂粒子61は、その自重によって充填する以外にも、振動又は気流を加えて充填することもできる。
【0037】
次いで、図2に示すごとく、真空工程として、真空ポンプ31によって圧力容器3内の真空引きを行い、ゴム型2のキャビティ22において残された空間を真空状態にする。
次いで、同図に示すごとく、加熱工程として、電磁波発生手段4から出射させた0.78〜4μmの波長領域を含む電磁波をフィルター43を透過させ、フィルター43を透過させた後の透過電磁波を、ゴム型2を介してキャビティ22内における熱可塑性樹脂組成物6Aに照射する。このとき、ゴム型2を構成するゴム材料と熱可塑性樹脂組成物6Aを構成する熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム型2に比べて、熱可塑性樹脂組成物6Aを選択的に加熱することができる(熱可塑性樹脂組成物6Aの加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型2の温度上昇を抑制して、熱可塑性樹脂組成物6Aを溶融させることができる。そして、キャビティ22内には、熱可塑性樹脂組成物6Aが溶融することによって、新たに熱可塑性樹脂組成物6Bを充填するための未充填の空洞部分220が形成される。
【0038】
また、真空工程及び加熱工程を行う際には、分割型部21が向き合う方向(分割面20に垂直な方向)にキャビティ22が縮小するようゴム型2が変形する。そして、加熱工程を行った後のキャビティ22の状態は、成形の条件によって様々な状態となる。特に、熱可塑性樹脂組成物6Aの流動性があまり良くない場合には、溶融した熱可塑性樹脂組成物6Aがキャビティ22の下方へ沈下し難く、キャビティ22の中心部分に多数の気泡ができた泡おこし状態として未充填の空洞部分220が形成される。
【0039】
そして、本例のゴム型2は、そのキャビティ22の内壁面221に赤外線吸収性能を有する表面層25を有していることにより、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を表面層25に積極的に吸収させることができる。これにより、キャビティ22の内壁面221付近における熱可塑性樹脂組成物6Aを積極的に加熱することができ、この内壁面221付近における熱可塑性樹脂組成物6Aの粘度上昇を防ぎ、その流動性の低下を抑制することができる。そのため、ゴム型2によって成形する樹脂成形品60の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0040】
次いで、図3に示すごとく、充填工程として、射出シリンダー53をゴム型2の注入部23にセットし、キャビティ22における未充填の空洞部分220に、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物6Bを0.1〜5MPaの射出圧力で充填する。また、本例の充填工程においては、ゴム型2を介する熱可塑性樹脂組成物6A及び熱可塑性樹脂組成物6Bへの上記透過電磁波の照射を継続し、キャビティ22内の熱可塑性樹脂組成物6A及び熱可塑性樹脂組成物6Bを加熱する。
【0041】
上記溶融状態の熱可塑性樹脂組成物6Bを充填するとき、ゴム型2のキャビティ22の内壁面221(ゴムの表面)に位置する部分には、粒子状態から溶融させた熱可塑性樹脂組成物6Aが充填されている。そのため、熱可塑性樹脂組成物6Bは、熱可塑性樹脂組成物6Aとほとんど分離する状態で未充填の空洞部分220を埋めることができる。これにより、極めて簡単な方法によって、熱可塑性樹脂組成物6Aと熱可塑性樹脂組成物6Bとからなる樹脂成形品60を成形することができる。
そして、成形する樹脂成形品60において、熱可塑性樹脂組成物6Aによって外側層を形成し、熱可塑性樹脂組成物6Bによって中心層を形成することができる。外側層を構成する熱可塑性樹脂組成物6Aと、中心層を構成する熱可塑性樹脂組成物6Bとの物性の違いにより、樹脂成形品60に要求される様々な特性を満たすことができる。
【0042】
また、キャビティ22内に熱可塑性樹脂組成物6Aが充填されていることにより、新たに充填する溶融状態の熱可塑性樹脂組成物6Bの充填量を少なくすることができる。これにより、充填圧力(射出圧力)をあまり高くすることなくキャビティ22の全体へ熱可塑性樹脂組成物6A、6Bを充填することができ、ゴム型2の変形及び開きを効果的に抑制することができる。そのため、ゴム型2における分割面(パーティング面)20からの樹脂漏れを防止することができ、冷却工程を行って樹脂成形品60を得たときには、この樹脂成形品60の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0043】
ところで、従来の表面層25を有しないゴム型2においては、熱可塑性樹脂組成物6A、6Bの昇温に時間がかかる、電磁波の照射強度を強くすることによって成形する樹脂成形品60及びゴム型2に熱劣化が生じる等の問題があった。これに対し、上記ゴム型2におけるキャビティ22の内壁面221に赤外線吸収剤を含有する表面層25を形成したことにより、これらの問題を改善し、成形時間の短縮、樹脂成形品60及びゴム型2の劣化の緩和等を図ることができる。
【0044】
それ故、本例の電磁波照射成形方法によれば、ゴム型2を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う場合に、キャビティ22の内壁面221付近における熱可塑性樹脂組成物6Aを積極的に加熱することができ、形状、表面精度等の品質を向上させて、要求される様々な特性を満たすことができる樹脂成形品60を簡単な方法によって成形することができる。
また、樹脂成形品60の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させる効果は、成形する樹脂成形品60が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂の粘度が高い場合等に特に顕著に発揮することができる。
【0045】
また、本例の電磁波照射成形方法においては、ゴム型2のキャビティ22における内壁面221に赤外線吸収剤を含有する表面層25を形成することにより、熱可塑性樹脂組成物6Aには、赤外線吸収剤等の成分は含有させていない。そのため、この成分の含有によって成形する樹脂成形品60が若干変色する等の不具合を生じることが防止される。
【0046】
(効果のシミュレーション)
図5、図6には、ゴム型2のキャビティ22内に熱可塑性樹脂粒子61、62を充填する状態を拡大して示す。図5は、大形樹脂粒子61及び小形樹脂粒子62をキャビティ22内に充填する場合を示し、図6は、大形樹脂粒子61のみをキャビティ22内に充填する場合を示す。
図6に示すごとく、キャビティ22内に大形樹脂粒子61のみを充填しようとすると、大形樹脂粒子61がキャビティ22の内壁面221に付着し、大形樹脂粒子61の内側をさらに別の大形樹脂粒子61が通過(落下)(矢印Tで示す。)することが困難であると考えられる。
【0047】
これに対し、図5に示すごとく、キャビティ22内に小形樹脂粒子62を充填した後に、大形樹脂粒子61を充填する場合には、小形樹脂粒子62が効果的にキャビティ22の内壁面221に付着し、大形樹脂粒子61が、キャビティ22の内壁面221にほとんど付着することなく、小形樹脂粒子62の内側を通過(落下)(矢印Tで示す。)すると考える。これにより、大形樹脂粒子61及び小形樹脂粒子62を含有する第1熱可塑性樹脂組成物6Aによれば、キャビティ22のほぼ全体を効果的に充填することができると考える。
【0048】
(評価試験)
本評価試験においては、上記赤外線吸収剤を含有する表面層25を形成したゴム型2(発明品)と、この表面層25を形成していないゴム型2(比較品)とについて、熱可塑性樹脂組成物6AとしてのABS樹脂が溶融するまでに要した時間(本評価試験では260℃に到達した時間(分))を測定した。
本評価試験に用いるABS樹脂は、テクノポリマー社製「テクノABS330」(MFR=42g/10min、220℃、98.0N)を用いた。また、表面層25を形成する赤外線吸収剤は、BASF社製「LumogenIR1050」を濃度28〜32質量%となる溶液として用いた。また、赤外線吸収剤を含有する溶液を筆(正文堂社製「ポスター筆1号」)でゴム型2におけるキャビティ22の内壁面221に均一に塗り、10分間乾燥させた後、約10〜50μmの表面層25の塗膜を形成した。
【0049】
また、本評価試験においては、シリコーンゴムからなるゴム型2のキャビティ22を、長さ80mm×幅55mm×厚み2.5mmの大きさの直方形状に形成し、ハロゲンヒータによって加熱して、ABS樹脂が常温から260℃になるまでに要した時間(溶融時間)を測定した。
また、本評価試験に用いるABS樹脂は、成形した熱可塑性樹脂のペレットを凍結粉砕し、篩い分けをして重量平均粒子径が100μm以下の小形樹脂粒子62と、重量平均粒子径が450μmの大形樹脂粒子61とした。
【0050】
上記溶融時間の測定を行った結果、表面層25を有するゴム型2である発明品については、8分であったのに対し、表面層25を有しないゴム型2である比較品については、32分であった。この結果より、ゴム型2のキャビティ22における内壁面221に赤外線吸収剤を含有する表面層25を形成することにより、成形する熱可塑性樹脂組成物6Aを溶融させるためにかかる時間を大幅に短縮できることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
1 成形装置
2 ゴム型
21 分割型部
22 キャビティ
220 未充填の空洞部分
25 表面層
3 圧力容器
4 電磁波発生手段
6A 熱可塑性樹脂組成物
61 大形樹脂粒子
62 小形樹脂粒子
6B 熱可塑性樹脂組成物
60 樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料からなり、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して、キャビティ内に充填する熱可塑性樹脂組成物を加熱成形するために用いるゴム型であって、
該ゴム型は、上記キャビティの内壁面に赤外線吸収性能を有する表面層を有していることを特徴とする電磁波照射成形用のゴム型。
【請求項2】
請求項1において、上記表面層は、赤外線吸収剤を含有する液体を塗布することによって得られ、該赤外線吸収剤の塗布量が0.01〜100g/m2であることを特徴とする電磁波照射成形用のゴム型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁波照射成形用のゴム型を用いて、樹脂成形品を成形する方法であって、
上記キャビティ内に粒子状態の熱可塑性樹脂組成物を配置する配置工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内における上記熱可塑性樹脂組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射し、該熱可塑性樹脂組成物を加熱して溶融させる加熱工程と、
上記キャビティにおいて残された未充填の空洞部分に、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を充填する充填工程と、
上記キャビティ内の熱可塑性樹脂組成物を冷却して樹脂成形品を得る冷却工程とを含むことを特徴とする電磁波照射成形方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁波照射成形方法によって得られたことを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−269541(P2010−269541A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124361(P2009−124361)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(594014638)日本レックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】